複雑・ファジー小説

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ついそう【完結】
日時: 2013/01/30 16:51
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
参照: https://



+目次+
8月25日>>1
1>>2 2>>3 3>>4 4>>5 5>>7 6>>9 7>>10 8>>11 9>>12 10>>13 11>>14 12>>15 13>>16 14>>17 15>>18 16>>19 17>>20 18>>21 19>>22 20>>23 21>>24 22>>25 23>>26 24>>27 25>>28 26>>29 27>>30 28>>31 29>>32 30>>33 31>>34 32>>35 33>>36 34>>37 35>>38 36>>39 37>>40 38>>41 39>>42 40>>43 41>>44 42>>45 43>>46 44>>47 45>>48 46>>49 47>>50 48>>51 49>>52 50>>53 51>>54 52>>55 53>>56 54>>57 55>>58 56>>59 57>>60 58>>61 59>>62 60>>63 61>>64 62>>65 63>>66 END>>67

CAST>>68
あとがき>>69

Re: ついそう ( No.65 )
日時: 2013/01/28 18:07
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



+62+


夏の日に、関本友作は街を歩く少女に恋をした。
一目ぼれだった。
彼女を追い求めた。毎日彼女を見つめ続けた。彼女以外を考えることはできなかった。
でも関本友作は知っていた。彼女に恋人がいることを知っていた。
だから迷った。
自分に道がないことを理解して居た。でも諦める事なんかできるはずも無かった。自分の未来を捨てきる事なんかできるはずもなかった。
自分に未来はあると信じた。
だから自分で未来をつかみに行った。

恋人を監禁した。
殺すつもりで監禁をした。暗い自分の部屋で監禁をした。和室の柱に彼を縛りつけた。
彼は怯えた。関本友作を彼が知っているはずも無かった。彼女も関本友作のことを知るはずもなかった。
関本友作は怯える彼を毎日いたぶった。恐怖を与えた。
優越を感じることができた。自分が彼女の中で一番だと思うことができた。自分の未来は確定したと思った。

そして完成させた。
武器を不法に売っている連中のことを耳に入れた。浦河聖。彼女から一丁の拳銃を購入した。
そして撃った。
躊躇う事もなく自分のしていることが正しいと信じ続けた。彼女と自分の未来の為だった。
彼は死んだ。呆気なく死んだ。彼女の隣を呆気なくあけ渡した。

坂本秋は関本友作に殺された。

優越感。幸福。
その感情は人を殺めて手に入れたものだった。

破壊された頭蓋骨と痙攣する筋肉と、最後まで自分をゴミのような視線で見続けた眼球。

銃声。

それが自分を離してくれなかった。
解放してくれなかった。自分の中で響き続けている。
坂本秋を打ち殺した時の感覚。引き金の軽さ。振動で腕が震えたこと。空薬莢の落ちる甲高い音。
それが鼓膜からあふれてくる。
涙が止まらなかった。
何時でも誰かが自分を責めている気がした。
何時でも誰かが自分を狙っているような気がした。
自分は犯罪者だという現実しか見ることができなかった。

恋人を殺してしまった。
それをひどく後悔した。
彼女に謝りに行こうと思った。そして自殺をしようと思った。それなら許してくれると思った。

ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
でも貴女が好きだったんです。
貴女が好きすぎて我慢できなかったんです。
見てほしかったんです。知ってほしかったんです。
後悔をしています。銃声が響いているんです。忘れさせてくれないんです。あの感覚が解放してくれないんです。
だから許してください。
消えるから。だから、許してください。

許してくれなかった。

彼女はマンションのベランダから飛び降りていた。
死んでいた。

誰に謝ればいいのかわからなくなってしまった。

ごめんなさい。
誰に謝れば許してくれますか。
どうすればこの音から解放されますか。

なんで死んだんですか。
なんで許してくれないんですか。

逃げ込んだ。現実から逃げようとした。
そうして逃げ込んだ先の空が綺麗だった。
あの日のように暑かった。
いつの間にか夏になっていた。
坂本秋を殺したのが何時なのかもう思い出せなくなって居た。
空が綺麗だった。
本当に綺麗だった。

そんな空に、一輪花が咲いた。

大きな花だった。

大きな音を出して散った。

まるで、まるで。
まるで。
まるで、あの日の銃声のように。

『パァァァ———————ン』

許してください。

呟いても誰も許してくれないことを知っていた。

だから消した。

その音にすべてをゆだねて目を閉じた。

土の中にゆっくりと埋まっていくように意識が沈んだ。
気持ちがよかった。

本当に気持ちがよかった。

ずっとこのままでいたい。

誰も俺を、僕を、起こさないで。

Re: ついそう ( No.66 )
日時: 2013/01/30 16:24
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



+63+


婚約をしたんだ。
彼女は可愛らしい笑顔でそう報告をしてくれた。小さく拍手を送るとその頬を赤らめるのだ。
彼女のそんな表情が大好きだった。昔から見てきた顔だった。喧嘩もしたし、嫌いにもなった。でも、最後には仲直りをしていつもの大好きな彼女に戻っていた。

荻野目三春にとって妹はただ一人の味方だった。
その味方に、大好きな人ができたのは何時のことだっただろうか。それからは妹と妹の婚約者である坂本秋と何度も食事をしたりした。
二人は荻野目三春の支えだった。光だった。社会というものが信じられなくなってしまって孤立してからは彼らとかかわることで自分の世界を保つことができていた。

自分を今まで支えてくれていた妹に最愛の人ができた。自分を守ってくれていた妹を守ってくれる人が出来た。
嬉しかった。
二人の結婚式を見たら死のうと思った。自分は邪魔になると思ったから。だから消えようと思った。
きっとそのことを言ったのなら二人は止めてくれるだろう。

お姉ちゃん、三春さん。
何言ってるの。何言ってるんですか。

みんなで一緒に居ましょうよ。

そんな声が聞こえてきた。
でも幸せだった。だからよかった。
なら、自立をするよ。誰にも支えられないでも生きていけるようになるよ。私は一人にならないとだめなんだから。
頑張るよ、私頑張る。
だから幸せになって。幸せにならないと許さないから。

坂本秋が誘拐された。

警察からの連絡だった。久しぶりにみんなでご飯を食べに行く予定を立てていた。結婚式のことを話す予定だった。

妹は涙を流していた。
支える術を知らなかった。彼女が薬指の指輪を撫でている姿をただ見ている事しかできなかった。
笑顔が消えた。
笑おうとした。できなかった。

坂本秋が死んだ。

銃で撃ち殺された。妹の目から光が消えた。
どうやったら彼女を元に戻せるかなんて考えることもできなかった。自分には彼女をもとに戻すことなんかできない。

なんでと彼女は言わなかった。
現実を見ようとする目を塞いであげたかった。
犯人は分かっていた。でも逃亡を続けていた。

捕まるよ。
でも戻って来ないでしょう。お姉ちゃん、でも、彼は戻ってこないよ。だからもう良いんだ。

そして彼女は笑った。そんな笑顔は見たくなかった。自分の目をつぶしたくなるような笑顔だった。

そして荻野目三春は久しぶりに一人きりで外出をした。ただの買い物だったけれどそれは大きな一歩だった。
ケーキを買いに行った。結婚式をするから。
ケーキを片手に家に帰ろうとした時、携帯に一通のメールが届いた。

『お姉ちゃん さようなら ありがとう ごめんなさい』

部屋の窓が開いていた。駐車場が赤くなっていた。

妹が自殺をした。

音が消えた。何もかもが消えた。
妹は自分を支えてくれた。外に出ることが人と話すことが怖くなった自分を導いてくれた妹を守れなかった。
幸せになってよ。なんでなれないの。
涙が出なかった。紅い液体の中の白い手の指にはまっているシルバーリングを見下ろした。
意味が分からなかった。何も聞こえなかった。

結婚式を挙げよう。
自立をしよう。
幸せになろう。

一緒にケーキを食べよう。

ちいさな願いじゃないのか。それすら叶わないの。
なんで。
全部。

全部、アイツのせいだ。
アイツのせいで。

絶対に許さない。

殺してやる。

Re: ついそう ( No.67 )
日時: 2013/01/30 16:52
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


+ついそう+


そろそろ、願いが叶う。坂本秋を、妹を殺した人間を殺す。
そいつは記憶喪失だった。許せなかった。あんなことをしておいて知らないと言いやがる。だから泳がせてやった。思い出すまで待ってやった。そして今思い出した。

私を見上げて震えている。
優越感がする。胸を満たしているのは幸福だ。
これで終わる。あの日から生き続けている腐った自分が死んでくれる。
私たちから幸せを奪ったこの男。妹に恋をして、そして恋人である坂本秋を殺した。最低な行為をした。
そして彼女の姉であるこの私に縋ってきた。笑うのが大変だった。触られるたびに鳥肌が立った。抱き寄せられると振り払いたくなった。

耐えた。耐え続けた。

コイツは私のことを味方だと信じ続けてきた。
私は嘘をついてきた。謝る気なんか無い。こいつは私に謝らないといけない。私から何もかもを奪った。

坂本秋のように殺してあげよう。
最後の最後まで絶望を与えてやる。

許さない。
死んだって許さない。

『三春は、僕のこと好きだよね?』

吐いてしまった。
そんなことがあるはずが無いじゃないか。殺したいほど憎い。殺すほど憎い。
あれだけのことをしておいて忘れて、私にすり寄ってきて。
吐き気がするんだ。
腹の中に何もなくなるくらいまで吐いた。
それを介抱してくるこいつの腕すらも叩き落としたかった。

私は何時だってこいつを殺すことしか考えていなかったのだ。
それなのにこいつは。

私のことを。
私は。

「……三春」

「呼ぶな!!」

叫んでやっても目の前の男、関本友作は動じなかった。
なんでか私をゴミを見るような目で見上げてくる。
ゴミはお前だ。
このことで私が汚れるのかもしれない。そんなの覚悟の上だ。私は汚れていい。だからこの思いを早く捨ててしまいたい。

もう一度会いたいよ。
妹のウエディングドレスが見たかったよ。
二人の子供が見たかったよ。

何もかも駄目になったんだ。
こいつのせいで。

「……聞いて」

謝るつもりなら要らなかった。謝ったってあの二人は帰ってこない。
こいつは私が殺す。
浦河聖は私が関本友作を殺したら自分にも被害が及ぶと思っていたようだがそんなことは無い。
浦河聖も殺すつもりだった。関本友作に銃が及ばなかったなら、こんなことにはならなかったのだから。

私を見上げてくる関本友作の目がうるさい。

「約束した。記憶を取り戻したらまたやり直すって」

「何、言っているの」

本当に何を言っているんだこいつは。
確かにこいつは私のことを信じていたみたいだ。嘘の仮面をかぶった私に縋ってきた。
私がこいつに向けてきたものはただの殺意だと今知ったはずなのに。

「一緒に居てくれて、ありがとう。……好きだよ」

引き金を引いた。
甲高い乾いた音と、関本友作だったもの、そして浦河聖の血の匂いだけが漂っている。
自分の呼吸が妙なリズムを刻んで居た。

何を言ったんだ関本友作は。

私はその場にへたり込んだ。
何もかもが終わった。燻っていたものを解放した。
これで終わりだった。終わるはずだった。でも終わってくれない。
一向に世界は終わってくれない。

側で誰かが私を見ている気がする。私を探している気がする。誰かが私の事を狙っている気がする。

銃を握りしめた。胸に抱え込んだ。
涙が止まらなかった。誰も幸せなんかなれなかった。何も残らなかった。
私は一人ぼっちだったんだ。

私もまた、夏に咲く花の音で全て忘れることができるんだろうか。

目を閉じた。
でも鼓膜が拾う音だけは私を責めた。
責め続けた。

きっと誰も許してくれないのだ。


+END+

Re: ついそう【完結】 ( No.68 )
日時: 2013/04/15 20:50
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)


+CAST+


関本友作♂ SEKIMOTO YUUSAKU

荻野目三春♀ OGINOME MIHARU

浦河聖♀ URAKAWA HIJIRI

坂本秋♂ SAKAMOTO AKI

三春の妹♀ ???





ついそう=追想&追走


Re: ついそう【完結】 ( No.69 )
日時: 2013/01/30 17:01
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



+あとがき+


こんにちは揶揄菟唖です。
さてとついそう、ついに完結しました。
今回のテーマは拳銃と音っていう感じだったんですけど相変わらずぶれまくりです。
タイトルの意味は追想でなんか思いを追いかける、そして追走でその人の後を追いかけるってのを掛けました。
最後の最後まで報われない感じでした。
人殺しってよくないってことですね、はーい。

相変わらず最後は駆け足になってしまいましたが、お付き合いしていただいてありがとうございました。
私はまだ生きています!!


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