複雑・ファジー小説

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ついそう【完結】
日時: 2013/01/30 16:51
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
参照: https://



+目次+
8月25日>>1
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CAST>>68
あとがき>>69

Re: ついそう ( No.30 )
日時: 2012/11/16 21:54
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



+27+


聖さんの目は、まるで僕を試すかのような色をしている。僕はそんな目で僕を見る聖さんが、怖くてたまらなかった。口元は緩んで、笑っているのに。なぜか、汗が滴ってくるのを感じる。
バーテン服の男の店員は、僕らに関わるのは面倒だといわんばかりに、無表情で聖さんのグラスに酒を注ぐ。
僕は唾を飲み込んで、聖さんを見つめる。舐められるのは、嫌だから。情けない奴だって思われたくないから。
僕の表情を見て、聖さんが満足そうに髪を耳に掛けた。
長い睫は多分、つけ睫だと思う。黒染めしているかと思うくらいの黒い髪。ゆるく波を打つそれに、思わず見とれそうになる。

「聖さんは、僕を知っているんですか」

聖さんは信用できるのか。僕に都合の良い言葉を吐いてくれるのか。三春と違って。
僕は、嫌な奴だ。三春を信用したり、しなかったり。罵ったり、優しくしてみたり。そんな僕に、きっと三春はもう呆れていると思う。だから、もう三春のもとには帰れない。帰りたくない。帰ったところで、三春のあの言葉は消えない。
僕が、悪いことをしたかもしれないだって?ふざけるな。そんなはずは無い。そんなはずはないから、大丈夫だよって。言わなきゃいけないんだよ。三春はそうやって言わなきゃいけなかったのに。それなのに、僕を不安にさせるような言葉を言って。僕が、僕がもしも壊れちゃったらどうするつもりなの。
僕は、僕しか信用できないんだよ。三春も、信用したいのに。僕だって、三春のことは嫌いじゃないかもって思えてきたのに。それなのに、酷いよ。僕の期待を、裏切るなんて。最低。最低。
僕も、三春も。
最低な人間。

「知っているよ。前の君のことも」

聖さんは、そういってやっぱり柔らかく笑う。
三春の顔がちらつく。でも、聖さんの方がよっぽど信用できそうだ。だって、前の僕を知っているって言ってくれた。美人だし。僕に嘘はつかなそうだ。優しそうだし。
うん。
僕、この人についていくのが良いかもしれない。そうしようかな。

今度はゆっくりと酒を飲んでいく聖さん。それを見ていると、僕も飲みたくなってきた。飲めるかどうかは知らないけど。
ちょっとだけ、飲んでみようかな。

「僕が、記憶を失った原因とかは、分かりますか」

それが重要だった。
僕は、今の状況から抜け出したい。そう思っていると思う。記憶を取り戻すために、なんで記憶を失ったかを知らなくちゃいけない。手っ取り早いと思うから。
記憶を取り戻すために三春と散策をするはずだった。それももうできないかもしれない。
聖さんも、僕を知っている。なら、僕が行ったことがある場所も知っているはずだ。
聖さんに紹介して貰おうかな。

「……まあ、大体見当はつくかな」

Re: ついそう ( No.31 )
日時: 2012/11/17 17:59
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



+28+


「ほ、本当ですか!?」

確証はなかった。だけど、聖さんは僕の望んだ答えを出してくれた。嬉しかった。
三春は、僕が行方不明だったって言った。つまり、聖さんはなんで僕が行方不明だったのかということを知っているということになる。
行方不明だった間に僕の記憶が無くなったと見て、間違いないだろうから。
きっと、逃げ出したくなるようなことがあったのだろう。それか、誰かに誘拐されたか。誘拐されたか、逃げた先で、何かあった。それで、僕の記憶は消えた。消されたか、自分で消したか。
どれだ。答えはどれだ。僕の記憶はどこだ。
そして、三春は本当に、僕と婚約をした恋人なのだろうか。
僕のしていたはずの婚約指輪は、一体どこにいったんだ。

聖さんは喜んでいる僕の姿を見て、なんだか満足そうに笑う。
大人っぽいのに、無邪気に笑うこともできる人だ。

「……秋くんは本当に記憶がないんだね」

それなのに、まるで悲しそうにした目を作る。
煙草の煙で肺を汚しながら、僕をやっぱり疑うような目で見るんだ。僕が記憶喪失じゃないって、どこかで思っていたんだ。そして今やっと、確信したんだ。信じてくれてなかったんだ。そこがショックで仕方がない。
でも、嘆いてなんかいられない。だって僕には、聖さんに聞かなくちゃいけないことがあるから。

聖さんは、どうして僕のことを知っているのか。
聖さんは、どこまで知っているのか。

「はい。教えてください。聖さんと僕は、一体どんな関係だったんですか? 僕は、なんで記憶を失ってしまったんですか?」

聖さんが、二杯目の酒を飲み干す。だけど、三杯目を店員が注ぐことは、無かった。
聖さんは、カウンター席から立ち上がった。そして、僕に近寄ってくる。
僕も思わず、立ち上がってしまう。少しだけ低い目線。だけど威圧感がある。聖さんは、僕の目の前まで来ていた。

そして、腰のあたりに手を伸ばして。

「残念ながら、秋くん。それは、知っちゃいけないことなんだよねぇ」

「……え……?」

顎に、何か添えられた。冷たくて、硬いもの。
聖さんの煙草を咥えた赤い唇が、下がっている。さっきとは違う暗くて厳しい顔で。

聖さんが持っている物は。
僕に突きつけている物は。
拳銃、だ。拳銃。
なんで、聖さんがこんな物を。
途端に、胃の中の物がせりあがって来る。口の中に酸っぱいような味が広がる。胃液だ。僕は急いでそれを吐き出さず、飲み込む。引かない。唾液とともに、胃液があふれて来る。吐いてしまえば、楽になる。でも、それはできない。
汗がこめかみ辺りから伝ってきた。鼻で呼吸が出来ない。苦しい。

店員に視線で助けを求めようとしても、店員はこっちを見ようともしなかった。

まるで、僕と聖さんの世界だけが見放されたかのように、凍りついていた。

Re: ついそう ( No.32 )
日時: 2012/11/22 17:09
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



+29+


止まらない。止まらない。僕の額に突きつけられている物体から、目が離せない。
拳銃。
普通の人なら、所持が禁止されている、違法なもの。
圧倒的な存在感と、発している冷気。
そのすべてが、僕の心臓を締めつけて、離してくれない。

僕は、ごくりと唾を飲み込むことも出来ない。どんどんと口内に溜まって行く唾液が、口角から溢れそうだ。
口が震える。
そんな僕を、聖さんはじっと見つめていた。
僕を、ずっと。
まるで、責めているかのような目で。蔑むかのような、目で。
泣きたくて、仕方がない。でも、目が乾いているせいか全く涙は出てこない。

自分自身の存在全てを否定するかのような視線に、死にたくなる。
僕は、なんで生きているんだろうか。こんな目で見られて、こんな記憶の無い状態で。まだのうのうと生きていて。死んだ方が楽だ。死んだ方が良い。
死ねない。
だけど、死ねないよ。
三春。三春が待っていてくれる。僕を待ってくれているだろうから。
三春は、僕を見捨てたりなんか、しない。絶対、しない。
三春は、僕の味方だ。味方だった。
それを僕は捨ててきてしまった。なんてバカなことをしたのだろう。
とにかく、三春のところに戻りたい。
もう、我儘なんて言わない。逃げたりなんかしない。
だから、帰りたい。三春のもとに。暖かい三春のもとに。
ここは寒すぎる。
寒すぎて、痛いくらいだ。

「……本当に、記憶が無いみたいだから」

聖さんの側から、離れたい。聖さんがなんでこんなことをしているのか、分からない。
僕が邪魔なんだ。そうに違いない。
僕が邪魔だから、消そうとしている。僕は、消えた方が良いって。聖さんにとって、記憶がない僕は、ただの邪魔ものなんだって。
そう言っているんだ。
さっきまで、あんなに優しかったのに。味方だと思ったのに。違ったんだ。
僕を、騙したんだ。
僕が不安なのを、良いことに。
僕の寂しさに、僕の空白に、浸った。
それを利用した。

最低。最低。

「最っっ低だよっ!!」

躊躇うことは無い。だってこの人は、僕に向かってこんな危険な物を向けているんだから。

聖さんのお腹に、拳を叩きこむ。
だが、聖さんが半歩身を引く方が、やや早かった。
僕の拳は完璧には聖さんには当たらなかった。

でも、怯ませるのには十分だ。
相手は敵で最低で最悪でも、一応女性。
それ以上は手を出さずに、僕は酒場を飛び出した。

振り返ることなく、走り続けた。

Re: ついそう ( No.33 )
日時: 2012/11/30 21:41
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/



+30+


「逃げちゃいましたね」

完全な傍観者を気取っていた店員が、コップを置いてにやりと笑う。
そして、あたしのグラスに酒を注ぐ。
あたしは乱暴に椅子に戻って、酒を煽る。
音を立てて机に置き、拳銃を腰に戻す。

「あんな餓鬼逃がすなんて」

あたしらしくない。
追おうと思えば終えたはずだ。撃とうと思えば簡単に撃てたはずだ。それをしなかった。なんでだろう。
なぜか、あたしはそれを躊躇った。
あの餓鬼を撃つ事を躊躇った。撃てなかった。引き金が引けなかった。
このあたしが。
有り得ない。雨でも降るんじゃ無いかな。

あたしはグラスを揺らして、酒の中の光を見つめる。

イライラはしていない。なんでだろうか。
普通は失敗したって思ってイライラするのに。そんな気分じゃない。
あたしは間違っていなかったって、そう思える。思えてしまっている。

「浦河さん、甘くなりました? それとも、アイツに惚れたとか?」

ずかずかとありえないことを聞いて来る店員。
こんな態度の店員は普通、クビになる。

でも、なんでかあたしはコイツのこういう態度が嫌いじゃ無かった。
こういう、表も裏もない感じ。商売のために自分を偽らない感じ。コイツのこういう態度が、あたしは羨ましいのかもしれない。
あたしは商売の関係上、自分を偽ったり、他人を疑わないといけないから。そうしないといけないから。嘘を飲み込むことがあたしの仕事になっているといっても良いくらい。
あたしは、淋しい人間だ。
人を信じることが出来ない。そして、あの少年も。少なくともあたしのところに最初に来た時は、淋しい人間だったはずなのに。
今は違う。
記憶という大きなものを失くしたはずなのに、少年強くなっていた。記憶に変えられない、何か大きなものを手に入れたみたいに。
あたしも、手に入れてみたい。寂しくないの感じを、味わってみたい。何かを手に入れる幸せを、掴んでみたい。
そんなことは叶わないのかもしれないけど。
だけど、望むだけならいいだろう。

「ありえないでしょ。バカにしないでよね」

有り得ない。
あたしはあんな餓鬼は好きになれない。
ああやって、自分を探していく。
それが、自分を殺す事になることも知らずに。
あたしは、何も知らない。あの少年について何も知らない。

だから。
だからこそ、知りたいのだ。
あの少年にどんな事があったのか。
あの少年にこれからどんなことが起きるのか。
そして、どんな結末を迎えるのか。

あたしはそれを見てみたい。
ただそれだけなのかもしれない。

Re: ついそう ( No.34 )
日時: 2012/12/02 14:56
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
参照: http://id24.fm-p.jp/456/yayuua/



+31+


怖かった。走っている最中に、何度も吐きそうになってその場に立ち止った。
呼吸を落ち着かせて、何度も汗を拭いた。

僕は、一体何をしたんだろう。聖さんが僕に何の恨みを持っているんだろう。以前の僕は、一体何をしたって言うんだ。僕が一体何を。
僕は何かいけないことをしたんだろうか。いったい、何をしたんだろうか。

デパートに戻るしか考えられなかった。急いでデパートの中に入って、三春の姿を探す。
なんだか寂しそうにしている三春の背中を見つけて、吐きそうになった。
安心しすぎて。三春の姿を見ただけで、すごく安心した。ほっとした。
急いで駆け寄ると、周りの人が驚いて、そして三春が僕の方を振り返る。
驚いた三春を、抱きしめた。
三春の柔らかくて小さい体を、容赦なく締め付ける。
僕の腕の中で三春は不思議そうにした。
涙が出てきた。止まらなかった。

「ごめん、ごめん、三春。ごめんね、三春。僕には三春だけだ。三春だけだったよ」

涙で声が上手く出なかったけど、何とか今言いたいことは言えた。僕には三春だけだった。
僕は三春の肩に顔を埋める。僕と同じシャンプーの臭いがした。
僕が乾かした髪。

もう三春を疑ったりなんかしたくない。
僕はもう不安になんかなりたくない。僕は最低だ。最低だけど、きっと三春なら僕を信じてくれる。
僕は、怖い。
何もかもが怖い。僕の知らない世界が怖い。

「秋、大丈夫? ごめんね、秋」

何度も頷いた。
もう何でも良い。
三春が居てくれるなら、それで良い。


 + + + +


涙を何度も拭った。
寒い。寒くて溜まらない。息が苦しい。
何度も字を間違えて、書き直した。
震えてうまく書けない。パソコンで書こうと思ったけど、諦めた。
手で書こう。最後くらいは。最後くらいはちゃんと書こう。何回も書き直す。
そうしているうちに、なんだかおかしくなって来て、笑ってしまった。

何やって居るんだろう。
何にも解決しない。何にも動かない。何にも変わらない。
こんな世界、滅んでしまえばいいのに。
こんな世界から、ばいばいしてやるんだ。
だから、誰も止めないで。

ふと、机の隅に置いてある携帯が目に入る。壊すつもりのそれ。

そうだな、お世話になった人にでも、メールを送っておこうか。
自分が生きていた事を、誰かに知っていてもらいたいな。だけど、誰に送ろうかな。誰も居ない。思いつく人が。

ああ、そうだ。
あの人に贈ろう。
さよならって。それで、ありがとう。と、ごめんなさい。

手が震える。画面に涙の粒が落ちる。

さようなら。
さようなら。
皆さん、さようなら。


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