複雑・ファジー小説
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- 太陽の下に隠れた傍観者【刺されると痛い。】
- 日時: 2014/08/24 13:17
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: fE.voQXi)
はじめまして、こんにちは。私は、紗倉 悠里(さくら ゆうり)と申します。凰から、改名致しました。
はい、ちゃんとしたものさえ書けない駄作者です。
そして、そんな私の小説が二作とも完結したのは、皆様の励ましのコメントや感想のおかげです。その節は、誠にありがとうございました。
さて、本題に入りますね。
今回は、罪と輪廻シリーズ第三弾であるこの作品を連載開始することにいたしました。
※第一弾&第二弾と共通するところがあると思いますので、わからないところは、遠慮なくコメントでお聞きください。また、感想もお待ちしております。誤字脱字などもあれば、ご一報くださいませ。すぐに修正点いたします。
注意
※私が嫌いな人はご閲覧はご遠慮ください。
※超絶グロいです。人を刺したい系の人とかいます。苦手な方はご遠慮ください。(多分、エロは少ないと思いますが、含まれます)
<目次>
ご挨拶 >>1
登場人物紹介 >>2
プロローグ >>3
【本編】
《第一章》
第一話 >>7-9
第二話 >>10-12
第三話 >>13-15
第四話 >>18-19 >>22
第五話 >>23-24
第六話 >>31 >>35
第七話 >>36-38
第八話 >>39-41
第九話 >>42 >>45
第十話 >>46-48
第十一話 >>49-51
第十二話 >>52-54
《第二章》
第十三話 >>55-56
第十四話 >>57 >>62 >>67
第十五話 >>68-70
第十六話 >>73 >>76-77
第十七話 >>81-83
第十八話 >>84-85
第十九話 >>86-88
第二十話
わちや様作 白野 歩(二十歳時代) >>66
<お客様>
美玉様( 第一弾、第二弾とお読みくださっている常連さん)
風死様( 雑談板でお馴染みの神小説家様です!)
はる様(『王国騎士訓練学園物語ッ!』の作者さまですっ)
環乃様(リク・依頼板の方であったことのある方です)
緋色様( オリキャラ「御子斗 御琴」をくださった方です! )
夕陽様( リク板の方でオリキャラ質問をやっている方です)
狐様( リク板の方で知り合った方です!)
わちや様( 白野歩のイラストを描いてくださった方です!)
Orfevre様( 総合掲示板の方で知り合った方です!)
ウッキー様( 小説を見る力が凄くて、とても丁寧な方です!)
【罪と輪廻シリーズの解説 (友人の説より)】
「些細な嘘から始まった」から始まる四つの小説のこと。
一弾は「些細な嘘から始まった」 (シリアスダーク)。
二弾は「必要のなかった少年と世間に忘れられた少女」(複雑・ファジー)。
三弾は「太陽の下に隠れた傍観者」(複雑・ファジー)。
四弾は、只今推敲中。
特徴の一つは、色を関係付けていること。キャラクターの名前や物の名前のモチーフなどは色が関係している。 一弾では「青」、二弾では「赤」三弾では「濁色」がモチーフにされている。ほかにも、色を関係付けてあるところがたくさんある。
もう一つの特徴は、物語となる中心の道具。 今は、「ボタン」と「スマートフォン」がでてきている。
どれもあまりに突飛な私の想像で作られた上、未来的な物語であるために、元となる時代は2050年とという想像し難い年代となっている。(といっても、もう2013年。そろそろ、この設定も厳しいかもしれない。by.作者)
この頃は、“狂った子供”や“傍観者”などの異名も登場している。
(最早、意味がわからないようなことになってきているが、多分問題ない。だいじょーぶ。by.作者)
<記念日>
11/28
連載開始!
12/8
参照100越え!
12/24
参照200越え!
12/30
参照300越え!
1/7
参照400越え!
1/14
参照500越え!
1/19
参照600越え!
1/26
参照700越え!
2/5
参照800越え!
2/23
参照900越え!
3/10
参照1000越え!!
(記念SS >>80)
3/25
参照1100越え!
4/30
参照1200越え!
5/27
参照1300越え!
7/31
参照1400越え!
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.14 )
- 日時: 2014/07/02 21:50
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: I.inwBVK)
あぁ、また変なことを思い出してしまった。
ま、そんなことは置いておこう。とりあえずは、目の前の二人のことだ。
これだけ笑われると、腹が立つのは、きっと僕だけではないだろう。怒らなくとも、不快には思うはず。
「なんだ。人を笑うとはいい度胸だな」
そういって脅してみる。
だけど、逆効果らしい。またまた二人は爆笑。なんか、流石に嫌だぞ、これは。ボクを笑うなんて、さっきの大男よりもたちが悪い。
「ははははっ、お前さ、すごくね? 名前知らない人に、そんな言葉遣いするか!?」
真人じゃない方のやつが、そう言って笑った。
は? いや、知ってようが知らまいが関係ないだろうが。全人類平等に、ボクに偉そうにするやつは許さない。ボクに逆らうのは許さない。
しかし、例外は除く。“傍観者”と、“規律”、“無秩序”だけは例外だ。
——彼らは、ボクよりも強い存在だから。
「うるさいな。さっさと名前をいえ」
ボクは、もう一度険しい顔で聞いてみた。これで言わなかったら、後ろにいる時雨の静止も聞かずに、こいつらを黄泉の国に送ることになろう。
「ははははっ!! 俺は、白野 夜人だ。白いの白に、野原の野、白夜の夜、人間の人 な」
真人じゃない方のやつが、丁寧に説明してくれた。
——しろの よると。うん、悪くない名前だ。
ボクは、そんな感じの名前は、好きだったりするのだ。なによりも、夜人の名前は、少しロマンチックな気がするのは、彼の名前から雪の降る夜を連想してしまったのは、ボクだけなのだろうか。そして、白野という名前である男を思い出してしまったのは……。
「俺は赤崎 真人だ。よろしくな。それで……お前は?」
もう一人は、めんどくさそうに自己紹介をした。なんと適当。夜人とのこの違い、笑ってしまう。
でも、一番後ろに「人」がつく者同士、仲がよさそうだ。性格が違っても仲良くできるのは、いいことだ。多分。(別に、皮肉なんかじゃないぞ、笑われて怒っているとかじゃないぞっ!!)
「ボクか? なんで、ボクの名前を知る必要があるのかい?」
ぷっ、くく……。笑う声が聞こえた。それは、段々大きくなっていく。
そして、爆笑。
なんで笑われたのだろうか。ボクは、思ったことを言ったまでなのに。
だって、そうだろう? ボクの名前を知っても、こいつらは何に利用するのか。それがはっきりしない。だから、ボクが教える必要性は0だ。
「いや、お前が聞いてきたんだから、お前も教えろよっ、はははははははっ、笑いとまんねぇっ、ははっ」
夜人は、目尻を指でぬぐいながら笑っていた。涙がでるまでなんて、どんなに笑ってんだよ。まるで、ネットでよく使用される「w」が、彼の周りに浮かんでいそうだ。
さて、それはいいとして。ボクの名前か……。これは困ったぞ。
「ボクは……“狂った子供”だ」
少し躊躇したが、仕方なくそう答えた。
さっき、この名前は嫌いだと言ったが、これしか言えない。何故なら、ずーっと隠し通してきた名前を、こんなところでバラすにはいかないからね。あの事件を起こしてから、ずっと隠しているのだから。一文字たりとも、周辺に漏らさずに。……といっても、あの事件を知っている人間なんて、もう殆ど居ないんだろうけどね。だから、この件については、殆どボクの小さなプライドってところかな。
「え? もしかして、お前厨二病だったりするわけっ!?」
そんな、ボクの複雑な心情も知らずに、私に同情の表情を向ける奴は、勿論夜人である。
は・ら・た・つーっっ!!!!
なんなんだよ、こいつは! こっちのことも知らずに。そりゃ、聞いていないんだから知らないのは当たり前なんだけど。いや、聞いても教えないけども。
それと……、厨二病ってなんだ。今度、調べてみようか。“傍観者”に頼んで。
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.15 )
- 日時: 2013/12/26 22:04
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: a0p/ia.h)
「そ、そんな訳がないだろう。ボクは、厨二病なんかではない」
とりあえず、冷静に。厨二病は知らないが、知ったかぶりでなんとか誤魔化そう。
きっと、ボクの顔は、複雑な表情だろう。だが、仕方ない。夜人になにか失言してしまったら、ボクの何かが終わってしまうだろう。色々、別の意味で。いや、どんな意味なのかはよく分からないけど。それは……アレだ、アレ。察しろ。
「へぇー。で、本当の名前は?」
今まで、夜人の横で笑っているだけだった真人が、そう聞いてきた。
その声には、笑いとからかいが含まれていて、少し腹が立ったが、夜人よりかはマシだ。
しかし、彼のいった言葉——本当の名前。
その響きは嫌いだ。まるで、ボクが偽名を使っているみたいに聞こえるから。
ボクは偽名を使っているわけではない。ただ、ボクを形容している言葉を名前として利用しているだけである。ボクが、周りから「狂った子供」とみられたのだから、私はそれを名前にするのだ。
ボクは、いつも思う。
名前というモノは、とても自由だ。といっても、“天使”と書いて、エンジェルと読むとか、“樹羅羅”とかいて、キララと読むような、キラキラネームや当て字の名前のことを言っているのではない。それの、存在意義のことを言っているのだ。
これは、かなり分かりにくい表現をしている、と自分でも思った。ボクは、そんなに難しいことを聞くのは嫌いではない。でも、難しいことを話すのは好きではない。
しかし、現実にあることを正確に伝えるのも、その人の技だ。もし、目の前にある現実が伝え難いものだとしても。
だから、それを簡単に説明できることもボクのスキルの一つとなるわけだ。ということで、説明してみたいと思う。
名前の存在意義のことを、簡単に例えるならば、まずそ
こに一人の人がいたとしよう。その人を仮に『Aさん』とする。そのAさんは、スポットライトが当てられている間は常にAさんとなる。その人の名前が本当はBさんだとしても、Aさんという名前で過ごさなければいけないのだ。言い換えれば、誰も見ていない場所ではBさんになっている。
……ここで、名前の存在意義が有耶無耶になる。
皆の前では確かにAさんだが、裏ではBさんになるわけなのだ。
その人の名前はどちらが正しいのか。そういわれると、誰も答えることができない。なぜなら、私たちからはAさんなのだから。
では、そのAさんが『私はBです』と言ったとしよう。ほら、また、新しい名前がでてきた。
え? なに? さっきも、Bは出てきたじゃないかって?
やはり、あなたの頭の中でも名前が有耶無耶になっている。
ボクは、先ほどまでAさんは、裏ではBさんだと言った。Bだとは言っていない。
あなたは、おかしいと思っただろう。だって、人が自分の名前にさんやちゃん、君を付けるはずがないのだから。
しかし、この話の中では、人間の常識とも言える「自分の名前にさんやちゃん、君は付けない」というモノは必要ない。ボクは、その常識がこの話に適用されるとは一言も言っていないからだ。
つまり、ボクがAさんと言った時点で、その人の名前はAさんなのだ。Aではない。だから、他人から呼ばれる時はAさん“さん”になるべきだろう。Aさん、だと呼び捨てになるわけだ。
それと同様に、AさんはBさんである。Bではない。ボクはAさん、Bさんと言ったはずなのに、いつの間にか人の頭の中ではA、Bと処理される。
これは、とても面白い話だ。この話には、名前の必要性がない。だって、AさんがAとされるのに、最早明確な名前なんて必要ないだろう。その人が、太郎だろうが花子だろうが、話は変わらない。
以上の説明から、ボクには名前の存在意義は、ないように感じられる。
名前なんてなくても、その人のことは示すことができるのだ。例えば、名前とは認識されない番号の羅列とかでも。
人間は、番号の羅列で示されることを嫌がるが、それと自分の名前が同じようなものであるとは考えもしないのだろう。「自分は、佐藤 花子という名前がある。だから、番号で示される人間とは違うのだ」と。
しかし、その佐藤 花子だってその人を表すための言葉に代わりはない。
だから、その佐藤 花子は別のところではsさんと呼ばれているかもしれないし、No.12345と呼ばれているのかもしれない。
番号で呼ばれることに嫌悪感を感じるのならば、同じくイニシャルにも何かを感じるべきだ。イニシャルは英語だ、つまりは数字と同じような扱いを受けている。にもかかわらず、イニシャルなら良しなのだ。
それはなぜか。それは、ボクが思うに「それが自分の名前を省略したもの」だからだ。さっきの話で例えれば、佐藤 花子は、英語で示された自分の名前の中に「s」と「h」がはいっているから良いのだ。
自分の名前が表されている“気”がするのだ。
それが、番号とは対して変わらないのには気づかずに。
名前なんて、最初から必要とされない。
きっと、人間が、一番初めから番号で呼び合っていえば、番号で呼ばれることが当たり前になっていただろうし。
これと同じように考えると、ボクの本当の名前だって必要ない。
そして、自分の名前を思い出そうとした瞬間、目の前がスパークした。
——あれっ? ボクは、何が言いたかったんだろう。
ふと、そう思った瞬間に、なにかが私の頭の中で、塩をかけられた蛞蝓のようにしゅわしゅわと消えてなくなっていく。
そして、私は今まで話していたことだけを忘れてしまうのだ。いつものように。
彼女は、私を蝕んでいく。最初は、容姿から。それが、口調、性格にまで手を伸ばして——
前には、夜人と真人が微笑んでいた。……はず。
でも、次の瞬間、ボクの目からは天井しか見えなくて。なにかに打ち付けたらしい後頭部に痛みが走った。
【第三話 END】
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.16 )
- 日時: 2013/12/24 10:48
- 名前: はる (ID: JK5a7QPr)
こんにちはー、はるです。
狂った子供(チルドレン)…か、可愛いですね…!
残虐さと見た目の愛らしさのギャップとか。
白野くんと赤崎君の活躍にも期待しています!
更新、頑張ってくださいね!
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.17 )
- 日時: 2013/12/24 19:43
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: OBZwk3oo)
はる様>
はわわわわぁっ! コメント、ありがとうございますっ!
“狂った子供”、可愛いですか? 良かったですー。このサドな娘っ子には可愛い容姿しかなくて……ほとんと無理やりなロリ設定ですw
はいっ、今作では、夜人と真人を目立たせようと思っています。
更新、頑張って行きますね。
今回は、本当にコメントありがとうございました。
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【罪と輪廻シリーズ第三弾 連載開始!】 ( No.18 )
- 日時: 2013/12/28 14:38
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: Mj3lSPuT)
【第四話】<あぁ、またいつものヤツか> -“狂った子供”-
目が覚めると、ボクは真っ白な世界にいた。目にはいるもの、全てが白い。天井、壁、カーテン、そしてボクが横たわるベッド。
その、無垢な白は、とても美しい。
そして、しばらく白を見つめていると、大分意識が覚醒してきた。鼻から入るわずかな刺激臭が、消毒液からくるものだということも分かってきた。
そんな中、ボクはある重大なことに気づいた。
こんなに重大なことにも気づかずにさっきまですやすやと眠っていたボクは、まるで、すぐ近くに警察がいるのに、それに気づいていなくて、捕まってしまった泥棒のよう。
言葉にして表すなら、馬鹿、間抜け、おたんこなす。
なんと……学生にとっての一大イベント、「入学式」たるものを、ボクは保健室で過ごしてしまったのだ!!
あぁぁぁぁああっ、なんということだ。
きっと、ボクの名は学園中に広がって、「入学式に出ない不躾な女」と噂されるのだろう。それに、髪色やあの大男との戦いも混ざって、嫌な人間と嘯かれるのだろうか。
嫌だ。それは、確実に避けたい。……といっても、それを打開できる策も、今のところ思い至らなかった。
それならば、逆に病人らしく保健室で寝ている方がまだ可愛らしいのでは? 元々、可愛いんだからこうやって寝ておけば、「眠り姫」とかいわれて、良い噂が広がったりして……。
そんなことを考えて、ベッドにもう一度横たわった。
今更だが、この保健室のベッドは意外と寝心地がいいものだ。今まで保健室のことは、話しか聞いたことがなかったが、そんな所に、入学当日からお世話になるとは。
横たわってから、目をつぶる。
そして、暫しの静寂。
また、うとうとして眠くなってきた……その時だった。
ガラッとカーテンが大きな音を立てて開いた。
「おい、お前はなに当日から倒れてんだ、アホ」
いきなり、ボクに罵声を浴びせてくる人間が、ボクとなにか関係を人間であることは容易にわかることだ。
そして、そいつがボクと一番大切な関係であるということも、すぐに分かった。
その声は、ボクがよく知っている男の声であったから。
「うるさいな。仕方ないだろう、倒れてしまったのだから。お前こそ、なにをやっているんだ、こんな所で」
ボクは、目を開けて小さく首を上に傾けた。そこに映るのは……もちろん、“傍観者”だった。
タバコの形をしたチョコレートを咥えて、偉そうにボクを見下げている。しかも、口にはからかうような微笑を浮かべて。
「俺? そうだなー、保険医。それより、どう、この白衣。かっこいいだろ?」
“傍観者”は、さらっと話題を変えて、くるりとボクの前で回転してみせた。
……確かに、元よりこいつはイケメンという部類に属している。それも、メガネの似合うクール派だ。だから、白衣が似合うのは言うまでもない。
鼻筋の整った顔立ちはもちろん、細めの黒目や縁なしのメガネはなんとなく大人の色気を漂わせている。これで、普通の女ならばすぐに「キャー、イケメンっ!」なんて騒ぐのだろう。まぁ、イケメンではある。
でも、ボクはこんな野郎には、そんな考えは持たない。
だって、この男はムカつく奴なのだから。どれだけかっこよかろうが、ムカつく奴はただの野郎である。
「そうだな、別にそんなのはどうでもいいんだが……」
「なんだよ、冷たいな。『かっこいいぞ、“傍観者”』とかないのか?」
「ない。断じて、ナイな」
「え、面白くないな。ちょっとドキッとするシーンとか俺にくれないんだ?」
「お前にそんなものを与えるほど、ボクは優しくない」
実は、“傍観者”は先程から表情は全く変えていない。セリフだけ聞けば、かなり感情豊かな奴に見えるだろうが、こいつの表情は変わらない。ただ、口に固定された微笑を浮かべ、チョコレートを咥えたまま、器用に喋っていた。
なぜなら、彼は“研究対象”以外には興味がないのだから。
ボクは、彼の研究対象であるが為に、喋っているが、彼は研究対象以外の人間には見向きもしない。ましてや、『ちょっとドキッとするシーン』なんて、全く彼は欲してなんかいないのだ。ただ、話してみるだけ。研究対象の態度をみる為に。
「そ。まぁ、どーでもいいや。それで、今なんでお前がここにいるか分かる?」
“傍観者”は、だるそうにベッドの端に座り込むと、あの固定された表情をこちらに向けて聞いた。
「あぁ。いつものアレだろう? 自分の名前を思い出そうとすると、気絶する、アレ」
「うん、それだ。ずっといっているだろ、思い出すな、と」
『ずっといっているだろ』。そういった瞬間、“傍観者”の表情が険しくなる。チョコレートを全て噛み砕いて飲み込んでから、口元の笑みを消したその表情は、険しいという形容詞以外には、例えようがない。
「仕方ないだろう。知りたくなるんだから」
「お前が知る必要はない事なんだよ」
「なぜ、ボクは知ってはいけないんだ?」
「言っただろう、必要がないからだよ。必要がないものを研究対象に教える義務なんてない」
「……」
彼の言葉を聞いて沈黙してしまうボク。
どれだけ可愛くて、完璧で、正義であるボクでも、彼には逆らえなかった。どうやっても、勝てなかった。
そして、今回のボクの沈黙は、ボクの惨敗を意味していた。
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