複雑・ファジー小説
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- 太陽の下に隠れた傍観者【刺されると痛い。】
- 日時: 2014/08/24 13:17
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: fE.voQXi)
はじめまして、こんにちは。私は、紗倉 悠里(さくら ゆうり)と申します。凰から、改名致しました。
はい、ちゃんとしたものさえ書けない駄作者です。
そして、そんな私の小説が二作とも完結したのは、皆様の励ましのコメントや感想のおかげです。その節は、誠にありがとうございました。
さて、本題に入りますね。
今回は、罪と輪廻シリーズ第三弾であるこの作品を連載開始することにいたしました。
※第一弾&第二弾と共通するところがあると思いますので、わからないところは、遠慮なくコメントでお聞きください。また、感想もお待ちしております。誤字脱字などもあれば、ご一報くださいませ。すぐに修正点いたします。
注意
※私が嫌いな人はご閲覧はご遠慮ください。
※超絶グロいです。人を刺したい系の人とかいます。苦手な方はご遠慮ください。(多分、エロは少ないと思いますが、含まれます)
<目次>
ご挨拶 >>1
登場人物紹介 >>2
プロローグ >>3
【本編】
《第一章》
第一話 >>7-9
第二話 >>10-12
第三話 >>13-15
第四話 >>18-19 >>22
第五話 >>23-24
第六話 >>31 >>35
第七話 >>36-38
第八話 >>39-41
第九話 >>42 >>45
第十話 >>46-48
第十一話 >>49-51
第十二話 >>52-54
《第二章》
第十三話 >>55-56
第十四話 >>57 >>62 >>67
第十五話 >>68-70
第十六話 >>73 >>76-77
第十七話 >>81-83
第十八話 >>84-85
第十九話 >>86-88
第二十話
わちや様作 白野 歩(二十歳時代) >>66
<お客様>
美玉様( 第一弾、第二弾とお読みくださっている常連さん)
風死様( 雑談板でお馴染みの神小説家様です!)
はる様(『王国騎士訓練学園物語ッ!』の作者さまですっ)
環乃様(リク・依頼板の方であったことのある方です)
緋色様( オリキャラ「御子斗 御琴」をくださった方です! )
夕陽様( リク板の方でオリキャラ質問をやっている方です)
狐様( リク板の方で知り合った方です!)
わちや様( 白野歩のイラストを描いてくださった方です!)
Orfevre様( 総合掲示板の方で知り合った方です!)
ウッキー様( 小説を見る力が凄くて、とても丁寧な方です!)
【罪と輪廻シリーズの解説 (友人の説より)】
「些細な嘘から始まった」から始まる四つの小説のこと。
一弾は「些細な嘘から始まった」 (シリアスダーク)。
二弾は「必要のなかった少年と世間に忘れられた少女」(複雑・ファジー)。
三弾は「太陽の下に隠れた傍観者」(複雑・ファジー)。
四弾は、只今推敲中。
特徴の一つは、色を関係付けていること。キャラクターの名前や物の名前のモチーフなどは色が関係している。 一弾では「青」、二弾では「赤」三弾では「濁色」がモチーフにされている。ほかにも、色を関係付けてあるところがたくさんある。
もう一つの特徴は、物語となる中心の道具。 今は、「ボタン」と「スマートフォン」がでてきている。
どれもあまりに突飛な私の想像で作られた上、未来的な物語であるために、元となる時代は2050年とという想像し難い年代となっている。(といっても、もう2013年。そろそろ、この設定も厳しいかもしれない。by.作者)
この頃は、“狂った子供”や“傍観者”などの異名も登場している。
(最早、意味がわからないようなことになってきているが、多分問題ない。だいじょーぶ。by.作者)
<記念日>
11/28
連載開始!
12/8
参照100越え!
12/24
参照200越え!
12/30
参照300越え!
1/7
参照400越え!
1/14
参照500越え!
1/19
参照600越え!
1/26
参照700越え!
2/5
参照800越え!
2/23
参照900越え!
3/10
参照1000越え!!
(記念SS >>80)
3/25
参照1100越え!
4/30
参照1200越え!
5/27
参照1300越え!
7/31
参照1400越え!
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照400越えありがとう!】 ( No.49 )
- 日時: 2014/01/13 22:56
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: m9NLROFC)
【第十一話】<窃盗犯は身近> -“傍観者”-
「え、知らないよ? なくなっちゃったの? それ、大変! 私もそっちに向かおうか?」
そう言う梅子の声は、なんだか焦りを含んでいる。
——やっぱりか。
俺は、確信した。と、同時に少しの失望感を覚えた。
「いや、いい。……お前は、家にいろ」
俺は、試作品を置いておいたはずのテーブルに乗っていたメモを見ながら、そう吐き捨てた。
そして、強制的に電話を切る。彼女も言いたいことはあったのだろうが、もう俺は彼女の声を聞きたくなかった。
俺が試作品がないことに気づいたのは、時雨とこの部屋に入り込んだ時だ。本来ならば、この部屋の中心のテーブルに、試作品は置いてあるはずだった。しかし、そこにあったのは試作品ではない。ただのメモであった。
俺は、心の中では慌てていた。まるで、蟻が砂糖と塩を間違えて女王蟻に塩を献上してしまった時くらいに。
しかし、ここには時雨がいる。恥ずかしい姿などは見せられるはずがない。
ふぅ、と深呼吸する。そして、試作品がないことに気づいてあたふたしている時雨を横目に、メモを掴んだ。
そして、ざっと目を通す。
『ぼうかんしゃ さまへ。
ちるどれん の おともだち の おともだち から おねがい が あった から 、 しさくひん 、とったよ 。とりかえし に なんか こない で ね 。
せいぎ の ひーろー みずたまり より。』
なぜか、単語が一つ一つ区切られている上に、平仮名ばかりだ。とても読みにくい。せめて、平仮名と片仮名くらいは使い分けて欲しいものだ。
とりあえず、読みにくいメモは置いておくとしよう。
俺は、こいつ——水田真理——を知っていた。確か、“狂った子供”がよく話していた女の子だったと思う。「ボクと真理は悪友なんだぞっ」なんて、俺によく自慢してきていたから覚えている。
しかし、“狂った子供”の友達の友達とは誰のことだろうか。“狂った子供”の友達と言われると、水田真理の他にも四人ほどいたはずだ。しかし、彼女達は自分の欲しいものがあれば自分で取りにくるような奴ばかりだ。人頼みなんて、考えられない。
なら、“狂った子供”の友達は一人に絞られる。……玲子だ。勿論、玲子とは時雨の妻だ。他の人間ではない。
次に、玲子の友達と言えば……? 沢山の人間の顔が頭の中に広がる。
その中で、この計画を知っていそうな人間を絞る。すると、そんな人間も、一人しかいなかった。
認めたくはないが……絞られたのは俺の妻だった。そう、梅子だ。
そんなわけはない。梅子の訳がないだろう。あいつはいい奴だ、そんなことは考えてなんかいない。
そんな、薄い希望を胸に抱きながら、俺は梅子に電話をかけた。
しかし、電話をかけた後に、俺の元に残ったのは、軽い失望感だけだった。
彼女は、水田真理を利用して、この試作品を奪ったのだろう。
それにしても、水田真理を利用するとは、彼女にしては賢明だ。
水田真理を使えば、もし暴露ても自分に直接害がかかる事はないのだ。なぜなら、水田真理を含む窃盗団は、捕まっても絶対に依頼主の名前は吐かないから。
今の時代、依頼主の名前を吐かないからと言って拷問を受ける事はない。だから、彼女達はぎゅっと口を結んでいるのだ。
そして、彼女達は、巧みな技を使って牢屋を抜け出す。今までに、彼女達が抜け出せなかった牢屋などない。どれほどセキュリティを丈夫にしても、牢屋に入って二日めには抜け出されてしまう。
ついでに付け加えるならば、隠れるのも上手い。殆ど、警察に見つかる事なんてなかった。だから、どれほど厳しい罪がかけられ、指名手配されたとしても捕まらないのだ。
それでも、まさか俺の物が盗られるとは。
いくら依頼されたといえど、水田真理にとっては、友人の家に不法侵入するのだ。少しは躊躇ったりはしないのか。
まぁ、躊躇ったりしていたら、窃盗なんてできないだろうけどな。
ちなみに、水田真理は高校一年である。俺の息子と同い年だ。
しかし、年齢で言えばの事である。彼女は高校になんて通っていない。
今もどこかで、なにかを奪っているのだろう。
できれば、正しい道を歩んで欲しいものだ。高校に入る年になっても、あんなメモしか書けない彼女には、少しばかり同情してしまう所がある。それはやはり、俺に子供がいるからなのだろうか、それも彼女と同い年の。
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照400越えありがとう!】 ( No.50 )
- 日時: 2014/01/14 18:40
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: 0exqyz.j)
それにしても、彼女の名前は面白いと思う。
噂によれば、彼女が所属している窃盗団の人たちは、皆面白い名前がついているらしい。俺が知っているのは、「水田真理」だけだが、他の四名にはどんな名前がついているのか、少し好奇心が湧いてしまう。
それほど、水田真理という名前は、俺の好奇心をそそるだけには充分だったのだ。
彼女の名前を平仮名にしてみると、「みずたまり」。彼女には失礼ながら、この名前を聞くと、俺は、あの雨上がりの水溜りを連想してしまう。いや、本当は名前で遊んではいけない。それは分かっている。でも、つい連想してしまうのだ。
実際、このメモには名前が平仮名で書かれている。その上、メモの模様は水玉だ。彼女が自分の名前を強調しているとしか思えない。
俺は、暫くそんなことを考えながらメモを右手に持っていた。……筈なのだが、いつの間にか何らかの感情が入ってしまったのか、メモが拳に握り締められていた。慌てて取り出してみるも、ぐしゃぐしゃになっていた。
俺は、ふぅとため息をつくと、それをゴミ箱に投げ入れようとする。しかし、丸められたメモは綺麗にゴミ箱には入らずに、ゴミ箱の淵に当たって跳ね返った。
こんな時にいつも思うんだけども、これ投げて一発で入る人ってすごいよな。尊敬するよ。
「あ、あのー、どうしましょうか、“傍観者”! 試作品がこの水溜りって人に盗られてしまいましたっ」
時雨が焦ったような口振りでそう言った。とりあえず、俺はお決まりのお返事「黙れ」を返しておく。
あーあ、こいつ、水田真理を水溜りと勘違いしている。こいつがみずたまりと発音した時のアクセントは、水溜りのソレだった。
「水溜りが物を盗るわけなかろーが」
俺は、ぽつりとつぶやいた。
時雨は、それに敏感に反応する。
「え、いや、でも、書いてありましたよっ! 『せいぎのひーろー みずたまり より』って」
「知ってるよ、読んだからな」
「だったらなんで——」
「お前はバカか」
「ちっ、違いますよ! だって……っ」
「お前、水溜りが物を盗ると思うのか?」
「お、思いませんけど……でもっ」
「それ、水田真理。正真正銘、人間だぞ」
「へ……?」
俺が水田真理と言うと、時雨は唖然として、俺を見つめた。そして、なにか言いたそうに口をパクパクさせている。まるで酸欠の魚のようで、とても滑稽だ。
「え、あの……水田真理って、あの窃盗団の?」
「あぁ、それ以外に誰がいる」
「いや、同姓同名の方がいらっしゃると思いますけど」
「あぁ? なんか文句あんのか?」
「いえ、何でもないです」
時雨は、えぇーっ、と驚いたような顔をしている。そして、直ぐにしかめっ面をして、その後に苦笑をした。
なんなんだ、こいつ。気持ち悪りぃ。百面相なら、他所でやってくれよ。
「なんだ、お前。知り合いか?」
俺は、彼の反応を見て、思った事を口に出してみる。しかし、時雨はそれには答えなかった。
一人苦笑しながら、部屋を歩き回る。そして、窓やドアを興味深そうに見ている。
「あの、“傍観者”。ここって、完全に密室じゃないですか……?」
ふと、時雨は振り返ると、俺に話しかけた。
確かに、そうだ。俺は、周りを見回す。
部屋にある二つある窓は、完全に鍵が閉められている。資料が貼られている壁には、通気口はあるものの、水田真理が資料を一枚ずつ剥がして、わざわざ通気口から出て行く可能性は低い。
よって、ここは密室になるわけだ。
「すごいですよっ、水田真理はどうやってこの密室から出たんでしょうか!?」
どうやら、彼は、水田真理と面識があるわけではなく、ただこの馬鹿らしいミステリーに興味が湧いただけらしい。
時雨が、少し興奮気味でそう言う。そして、俺の方に身を乗り出したばかりに、俺の大切な資料を踏んでしまった。いや、踏みやがった。彼は、まだ心の制御は完璧にはできないらしい(彼が踏んだ資料は、ここにある資料の中で、「ウイルス伝染専用機 as-1」に次いで二番目に大切なものだ。後で、きっちりとお仕置きしようじゃないか)。
そう思いながら、俺は彼の言葉を聞いて微笑んだ。そして、口を開く。
「お前はバカか」
それを聞いた時雨が、首を傾げた。
どうやら、時雨は本当に"この事実"に気づいていないらしい。
「へ? な、何故ですか?」
時雨は、目をパチクリさせる(とはいっても、ずっと笑顔のポーカーフェースは変わっていない)。
俺は、態とらしく、大きなため息を吐いた。そして、時雨の顔をしっかりと見た。
「このドアに鍵はついてないだろーが」
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照500越えありがとう!】 ( No.51 )
- 日時: 2014/01/16 21:18
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: nnuqNgn3)
そう言って、俺は、自分の後ろのドアを指差した。そこは勿論、さっき通った、あのボロいドアである。
実は、このドアは、予算が足りなかった為に、鍵をつけていなかったのだ。ただ、鍵をつけてあるかのように見せる為に、鍵穴だけはつけている。しなし、ちょっとしたフェイクだから、ドアノブを捻れば、普通にドアは開く(ちなみに、この鍵穴に合う鍵はない。それに鍵穴を造ったのは俺だから、このフェイクに関する費用は殆ど掛かっていない)。
俺が考えるに、水田真理は、何らかの手段であのパスワード入力が必要なドアを潜り抜け、その後は普通にドアを開けて、ウイルス伝染専用機 as-1 を手にいれると、また引き返して行ったのだろう。そう仮定すると、辻褄が合う。
パスワード入力は……多分、“狂った子供”だろうか。“狂った子供”にはパスワードは教えていないが、あいつなら多分何かの方法で俺からパスワードを盗み取れるはずだ。
だって、俺が造った万能人間だからな。すっごく迷惑ではあるものの、これくらいの能力がないようでは困ってしまう。
俺がこの仮説を説明すると、時雨は納得したような口振りで「そうですね」とは言ったものの、トーンは低い。不思議に思って彼の方を見てみると、いつもの笑顔のままで、顎に手を当てていた。きっと、まだ、この密室ミステリーを実証できる証拠でも考えているのだろう。
フンッ、無駄な努力だな。そんなことに力を費やすのならば、その勉強にしか使えない頭の改良に力を費やしてほしい。
俺が知っている時雨は、とても頭がいい。彼がなろうと思えば、裁判官にでも医者にでもなれるだろう。しかし、彼は普通のサラリーマンである(これこそ、「宝の持ち腐れ」だとは思うのだが、彼がサラリーマンになりたいと強く願っていたものだから、将来について、俺は干渉していない)。
しかし、勉強以外は全くダメだ。ダメダメだ。
料理、掃除などの家事はなにも出来ない。結局、掃除などは全て玲子に任せているらしい。自分で掃除くらいは出来るだろう、と思うのだが、玲子曰く「あの人が掃除なんてしたら、逆に汚くなるのよー!」らしい。それほど酷いのだろうか。
それが本当ならば、是非、時雨にはいつもお世話になっている玲子に土下座をしてもらいたい。サラリーマンは得意だろう、スライディング土下座?
そんなことを頭の中で考えながら、俺はゴミ箱に歩み寄る。可哀想にゴミ箱の近くに投げられているメモ用紙だった丸い物を拾い上げると、ちゃんとゴミ箱に入れておいた。
そして、ウイルス伝染専用機 as-1 もない事だし、そろそろ時雨を追い出すことにした。ウイルス伝染専用機 as-1 の取り返しは、一人になってから考えよう。
だって、こいつがいると、色々うざったいのだ。それに、煩い。
俺は、こういうタイプの人間は、気分転換としては仲良く出来るが、ずっと一緒に居たいとは思えない。だから、もうこれ以上こいつと一緒に居るのは面倒だ。
シッシッ、と子犬を扱うように部屋を追い出す。「ええー、それはないですよーっ、“傍観者”!」と、時雨は部屋に残ろうとするが、俺は容赦無く彼の首根っこを掴むと、廊下に放り投げた(成人男性を片手で持ってはいけないと後悔したのは、この直後だった。腕が痛い、痛すぎる)。
「うぅー、酷すぎますっ!」
「るせぇよ、時雨」
俺は、時雨の頭を、ぺちっと力の入らない片手で軽く叩いた(勿論、力が入らないのは痛いからだ。あぁ、なんで片手でこんな奴を持ったんだろう……痛すぎる)
時雨は、暫く恨めしそうに俺を見つめていたが、俺がなにを言っても効かないと分かると、渋々帰って行った。
ふぅ。
俺は、大きくため息をついた。そして、“狂った子供”の居る部屋に歩いて行く。つまり、寝室へと向かった。別に、“狂った子供”を解放しにいくわけではない。ただ単に、寝る為だ。
そして、寝室のドアに手をかけた時。
中から話し声が聞こえた。
それは、“狂った子供”と……もう一人の声は聴いたことがないものだ。おどおどして、弱々しい声。
なんだか気になってしまい、柄にもなく聞き耳を立ててしまった。
「どうしたんだ? 別に、成功したのだろう、依頼」
「そーらしい、だけど……返品してって言われたんだって……」
“返品”? なんのことだろうか。
【第十一話 END】
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照500越えありがとう】 ( No.52 )
- 日時: 2014/01/16 21:51
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: a0tKrw1x)
【第十二話】<残された悪夢> -“狂った子供”-
目が覚めると、ボクは寝室に居た。ベッドの上で座っていた。
いつも、そうだった。目が覚めると、寝室に居る。
ボクは、寝室以外の所で目覚めたことがことがなかった。そして、目覚めた後は、記憶が消えていることが多かった。今回だって、今日の朝ご飯は言えるし、高校を出たところまでは憶えてる。けど、その後はなにしていたのか、全く思い出せない。
——きっと、家に帰ってすぐに寝てしまったんだ。それを“傍観者”が見つけて、寝室まで運んでくれたんだ——
ボクは、そう思った。
それ以外の疑問は全部邪念として振り払う。
他のことは考えちゃいけない。“傍観者”を疑うなんて、悪い事。そう、悪い事だから疑ったらいけない。例え、ボクの目の前にある事実が、どれだけ怪しくても。
覚醒した直後、まだ意識がぼんやりしている時。
いきなり誰かが、最初から開いていた窓から、寝室に入り込んできた。紫色の三つ編みを靡かせながら。
実は、この寝室の窓は、全部開けられていた。夏でも、冬でも開けられていた。この窓に鍵が掛けられているところを、ボクは見た事がない。だから、人が入る事ができたってことだ(ちなみに、ここは一階。窓から入るのは、容易なこと)。
「あの……これ」
そんな紫色の侵入者は、部屋に入ってくるなり、ボクに黒いスマートフォンを押し付けた。そして、小さく声を出した。
ボクを見上げるその女の子に、ボクは見憶えがあった。
ほんのりとした薄紫色の髪の毛は、緩い三つ編みに纏められている。とても眠たそうにしていて、垂れ目なのが可愛らしい。身長がボクと同じくらいだが、ボクよりも幾分か大人なオーラを放っているのがちょっと羨ましい。
そして、ここまでは可愛い普通の女の子なんだけど、一つだけ、彼女ならではの変わったところがある。
それは……彼女がいつも人形を持ち歩いていることだ。
今日も、彼女は人形を持っていた。しかし、ドレスを着た西洋人形を持ち歩いていることが多い彼女が、今回は着物姿の日本人形を持ち歩いていた。まぁ、彼女が「私は西洋人形だけを持ち歩く」って感じのことを断言したことはないから、ちょっとしたイメチェンみたいなものだと思う。
「ん? どした、久しぶりじゃないか」
ボクは、心の中では彼女との再会に歓喜していた。しかし、それを表に出さないように冷静を装う。
何故ボクがそれ程歓喜しているかといえば、答えは単純である。彼女はかつての悪友であり、幼馴染であったのだ。
それに、彼女の実家がボクの家(ボクの家は“傍観者{ノーサイド}”の家だったりする)に近かったことから、善友悪友関係なく良く遊んでいた。
ボクの悪友の中では、一番付き合いが長い彼女の名前は、神子斗 御琴という。ちなみに、ボクが小さい頃は、「みこみこちゃん」とニックネームを付けて親しんでいた。
みこと みこと と、同じ読みが二回繰り替えされている彼女の名前は、かなり珍しいものだ。ボクは、とても気に入っている。
そして、もう一つ。彼女は、ボクの名前を知っている。勿論、“狂った子供”でも、高川 葵でもない、本当の名前だ。これを知っているのは、ボクの悪友でも三人しかいない。
しかし、ボクが真名を忘れてからは、彼女はボクの名前を呼ばなくなった。それから暫くして、ボクと彼女は音信不通になった。
それが確か、5年ほど前のこと。つまり、彼女とは5年ぶりの再会になるわけだ。
これで、ボクが歓喜しているわけは分かってもらえたと思う。
「うん、久しぶり。……ねぇ、これ、『のーさいど』さんに……渡してくれる?」
彼女は、ボクから僅かに目を逸らしてそう言った。右手はしっかりと人形を抱いていて、左手は、ボクの胸にスマートフォンを押し付けていた。
これ、と言うのは言わずともこのスマートフォンだと分かった。黒く塗装されたそれは、とても綺麗だが、なぜ“傍観者”にこれを渡さなければならないのだろうか。
それに、彼女の口調からして、傍観者”のことはよく知らないらしい。いや、歩のことは知っている。近所での表向きは「ボクの父親」なのだから(高校では、時雨が父親になっているけれど。なんだか、ボクには父親がたくさんいる気がするな……)。しかし、彼女の前では歩は白野 歩で、“傍観者”になることはなかった。だから当然、“傍観者”という存在は知らないに決まっている。
きっと、誰かから“傍観者”に渡すように言われたのだろう。はて、それは誰だろうか。
- Re: 太陽の下に隠れた傍観者【参照500越えありがとう】 ( No.53 )
- 日時: 2014/01/18 13:57
- 名前: 紗倉 悠里 ◆ExGQrDul2E (ID: I.inwBVK)
考えてはみるものの、誰も思いつかない。
彼女に“傍観者”のことを教え込む奴など、彼女の周りにはいないはずだ。
ボクや時雨達以外に、“傍観者”を知る者と言えば、水田真理が中心の窃盗団しかいない。確かに、この窃盗団に彼女は属しているが、この窃盗団は協力やチームワークは重視していなかった。最小限の関わりしかしていない。
だから、水田真理が彼女に“傍観者”のことを教えたならば、それは窃盗団の中の彼女に対する【依頼】があったということなのだ。水田真理でも、他のものでもない、神子斗 御琴に。
それならば、辻褄が合う。
「なぁ、神子斗。お前の依頼主は誰だ?」
ボクは、この推理が当たっているか、確認するためにそう聞いた。
答えがもし「水田真理」なら、当たっている。その他の誰かならば、ハズレ。
といっても、もし他の知らない人の名前が出てきたら、それはそれで困ったことになってしまう。
少し期待しながら、彼女の答えを待った。
「言えない。……依頼主は、言えない」
しかし。彼女は、絶対にその名を吐かなかった。
悪友であるボクに対しても、断固として口を一の字に結んでいる。
これは困ってしまった。
でも、彼女が依頼主を吐かないのは、当然の事だ。
だって、もし詐欺グループの金を回収する係りが警察に捕まった時に、そのグループの中心人物の名前を吐く奴がいるだろうか。今みたいに、拷問がなくなった社会で、そんなことを吐く奴はいるまい。
きっと、彼女はそれと同じ心理で、依頼主を言わないのだろう。
ボクは、そのことを知っていた。この窃盗団のメンバーは、一人として依頼主を吐いたことがないことも知っていた。
なのに、聞いてしまった。
「そうか」
「うん。……私は、これが仕事だから」
ボクが頷くと、彼女は少しだけ視線を下に落とした。
やはり、彼女も窃盗という仕事に、少なからず後ろめたい気持ちを持っているのかもしれない。
だって、彼女はこの窃盗団に入る前は、普通の女子中学生だったのだから。ボクの、何の変哲もない幼馴染だったのだから。
あの時の話は長いから、今は話さないことにする。けど、きっとこの話を話すときはくるだろう。その話を話す時が、少しでも後になることをボクは祈ることしかできない。
少し暗くなってしまったけど、話を戻そう。
彼女の仕事は窃盗犯だが、今彼女がやっていることは窃盗ではなかった。ただ、返しにきているだけだ。
「わかった。このスマホ、返しておくよ」
「うん、……よろしく」
ボクは、もう何も聞かずにスマートフォンを受け取った。すると、彼女の悲しそうな顔に、少しだけ笑顔が灯った。
その後で、彼女は仕事が終わったから帰る事にする、と言って窓の方に向かって行った。
その時。ボクはこうつぶやいた。
「どうしたんだ? 別に、成功したんだろう、依頼?」
彼女の肩が僅かに震えた。
どうやら、ボクの言葉の意味が分かったらしい。
こちらを静かに振り返ると、困ったように眉をハの字に曲げた。そして、苦笑する。
「そーらしい、だけど……返品しろって言われたんだって——」
彼女は、そう残すと窓から降りて行った。ボクには、窓から落ちたようにしか見えないが、彼女の事だから路地裏に華麗に着地していることだろう。
さて。ボクはスマートフォンを右手に握ると、振り返って、背後にあるドアと向かい合う。
そして、一言。
「盗み聴きはダメだぞ。“傍観者”」
神子斗と別れる少し前。ボクの後ろの廊下から、誰かが歩いてくる音がした。そして、その音は寝室——ボク達のいた部屋——の前で止まると、近づいてきた。
きっと、“傍観者”がボクを迎えにきたのだ。なら、別になにも考える必要はなかった。部屋に入ってきても、神子斗が相手だったら、“傍観者”もなにかを怪しんだりはしないだろう。
しかし、その足音が止まってからドアが開くことはなかった。
つまり、ドアの向こうの誰かは、この部屋での会話を盗み聴いていることになる。
そして、今この家にいるのは“傍観者”だけだった。ボクの頭の中で終始流れている、この家にある五台の監視カメラから見える映像の中に、“傍観者”以外の人は映っていなかったからだ。
ということは、必然的に、盗み聴いているのは“傍観者”と言う事になる。
頭の中で流れる映像は邪魔なだけだったが、まさかこんなところで効果的に使えるとは。少し驚きだ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
“傍観者”が盗み聴きをするなんて、初耳だ。彼は、そんなことはしない人間だと思っていた。
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