複雑・ファジー小説
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- 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ!
- 日時: 2020/09/14 01:49
- 名前: 牟川 (ID: 5yzH1Xyu)
知っている人は知っている牟川です!
小説カキコに戻ってきました。
・主人公サイドに立ったあらすじ
とある司祭のせいで、勇者ユミのパーティーメンバーに任命されてしまったカルロ。こんなくだらない旅に付き合っていられるものかと思うものの、渋々、勇者ユミの旅に同行するのであった。
そして、魔王軍による数々の嫌がらせを受けながらも、私用を優先するため旅を中断させたりする。
だが、次第にカルロも勇者ユミに対して愛着を持つようになるのであった。
・魔王軍のスパイサイドに立ったあらすじ
少し前に、魔王討伐に赴いた勇者が魔王軍のスパイに嵌められて捕まったというニュースは記憶に新しい。
そこで魔王討伐を掲げる【教会】は新たに、ユミと言う少女を勇者に任命したのであった。
魔王軍のスパイたちも、前の勇者を嵌めたように、今回も勇者ユミを嵌めようと画策するが、主人公カルロによって幾度も防がれてしまう。
幾度もなく妨害に遭う魔王軍のスパイたち。次第にこれら数々の妨害が、カルロの仕業であると確信するものの、そもそもカルロという人物が一体何者なのかという疑問も持つようになるのであった。
尚、それぞれ別タイトルで『小説家になろう』や、『エブリスタ』でも投稿しています。
最後に……
この小説は、次第に謎が深まりつつ、ちょっとずつ解明されていくように書いています。
主人公カルロ(偽名)の生い立ちなども、最初はよくわからないことでしょうが、ちょっとずつ判っていくように書いていきます。
最初は、なんかテキトウにぶらぶらしている奴が勇者パーティの一員になったものだと思って読んでみてください!
第9話あたりから、ちょっとずつおかしな物語になっていきます!
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.64 )
- 日時: 2020/12/11 17:39
- 名前: 牟川 (ID: taU2X.e0)
第60話 ブルレッド、旅に同行する
翌朝。
私はブルレッド君と宿屋前で合流し、傭兵団と軽く打ち合わせをするため、彼らの宿泊している宿屋へと向かった。そして、打ち合わせが終わり、また私の泊る宿屋に戻って来たのである。
しばらく宿屋の食堂で待っていると、ユミやダヴィドもやって来た。
私は2人に、すべき報告をする。
「2人とも。突然だが新たな旅の仲間を紹介することになった。こちらの者たちだ」
私がそう言って、ブルレッド君に自己紹介を促した。
「皆さん。私はアリバナシティ大聖堂に司祭であるブルレッドと申します。偶然プランツシティに来ていたところカルロさんに出会いまして、マリーアさんが攫われたと聞きましてね。私も是非ご協力したいと思いまして、よろしければ同行することを許していただきたいのです」
ブルレッド君は昨日言った通り、勇者ユミのパーティに入るようである。
もちろん私としては嬉しい限りだが。
「そうですか。ブルレッド殿、自分は大歓迎です」
まず、ダヴィドは賛成に回った。まあ、先日のお菓子の袋の中身が効いているのだろう。
「司祭様もマリーアを一緒に探してくれるの? じゃあお願いいたしますね。ブルレッドさん! 」
ユミも賛成のようである。
これで、ブルレッド君は無事このパーティに入ったのであった。
「それと皆さん。お気づきかと思いますが、後ろに立っている彼らは、ファイア傭兵団です。今回【教会】……具体的に言うとプランツシティ聖堂としてもマリーアさん誘拐の事態を重く見ました。そこで傭兵団を雇うことになったのです」
全く以てテキトウな嘘だが、何とか誤魔化せるだろう。
「では団長さんご挨拶を」
ブルレッド君が団長に挨拶を促した。
「やあ。俺はブルレッドの旦那に雇われたファイア傭兵団の団長だ。よろしくな」
団長はそう言って、ユミとダヴィドとそれぞれ握手したのである。
「さて私からも」
「傭兵団を雇うということは、とてもお金かかるはず。【教会】の人たちに感謝しないとね! 」
と、ユミが言った。
相変わらず【教会】に対して性善説的立場のようだ。
何だか【教会】が褒められのを聞いていて良い気持ちがしない。
「いやあのね。資金は私が提供したんだよ」
ああ、言ってしまった……。
本当に私は駄目だな。こういうところが。ついついこのようにチラッとと言ってしまうのだ。
これでブルレッド君たちの演技も無駄にしてしまった。後でブルレッド君に謝っておかないと。
「カルロがお金をだしたの? ってことはもしかしてカルロってお金持ちなんだ」
ユミがそう言った。
まあ、単に金持ちだと思われる程度なら良いか。
「まあな。投機で儲けたんだよ。今回は魔王を討伐するためにプランツシティ聖堂に寄付させてもらった」
と、おかけでちょうど良い言い訳が言えた。
結果オーライだな。
そういえば、思い出してみると四天王レミリア率いる軍団によるプランツ攻撃を予想して西ムーシ商会に武器を買い占めを注文していたのだったな。
どうやらプランツ侵攻は現実のものになったようである。
「なるほど……それでカルロ殿はあんなに……」
ダヴィドがそう言った。
先日のお菓子の袋の中身のことだろう。
「あ、あんたたち! 」
不意に男がそう言ってこちらへ駆け寄ってきたのであった。
宿屋の主人のようだ。
「あんたたち、こんな紙が置いてあったのだが心当たりはないか? 」
宿屋の主人はそう言ってその紙を見せてきた。
その紙には『マリーアを返してほしければ、今日中にプランツ西部セルテンの町の町長の邸宅まで来い』と書かれている。特に目につくのは≪今日中に≫という文言だ。たった僅かな文言であるが、これだけで面倒なことになりそうな予感がする。
しかも、よりにもよって四天王レミリア率いる軍団が攻撃しようとしている町にまで来いと指示されるとはな。
いや……既に陥ちているかもしれない。
私は小声でブルレッド君に訊ねることにした。
「もうセルテンの町は落ちたのかな? 」
「存じ上げません。ですがあの手紙には≪町長の邸宅に来い≫と書かれております。そうなりますと既に町を占領し、そして町長宅を接収した可能性は高いです」
「そうか」
なるほど。
仮にセルテンの町が陥ちているなら、それはつまり、魔王軍の勢力下にある町まで来いということになる。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.65 )
- 日時: 2020/12/15 18:43
- 名前: 牟川 (ID: ha1mk1Ar)
≪とある女≫第61話 とある女の旅
(とある女視点)
ある日のことである。
小作人をやっている私の家に、とある天使が突然やって来きたのだ。その天使の輪っかは白色であった。
そして言ったのだ。
――― まもなく邪悪なる皇帝が【魔王領】に戻って来る ―――
と。
それから、その天使は小さな杖と短剣、さらに封筒を置いて行くと、どこかへ去ったのであった。
私はその小さな杖を見た。これは魔法を発動するときに使う杖の1つであることが判った。
杖が無くても魔法は発動できるが、例えば火炎系魔法を放つときなど、自身の手に傷を作らないようにしたいのであれば、杖を準備しておくべきだろう。
次に私は短剣も拾った。
妙に先端がとがっている。まるで誰かの首に突き刺せと言わんばかりに。
「もう弟が死んでから5年も経つのか」
私は短剣を見つめながら、そう呟いた。
弟は勇者だった。しかし邪悪なる皇帝に殺されたのだ。私は絶対に邪悪なる皇帝を許すことはできない。殺せるものから殺してやりたい。
この手で。
そして私は封筒を拾い、中身を確認すると手紙と金貨30枚が入っていた。
手紙については、殴り書きなのか、とても字が汚い。
―――
恐らく1カ月以内に邪悪なる皇帝が魔王の都にやって来る。
お前が奴を殺すのだ。
そのための武器と、旅費を用意した。
尚、魔王の都に到着したら≪ホテル コスモス≫の302号室を訊ねてくれ。そこで詳細を話す。
以上だ
―――
なるほど。
この手紙は誰が書いたか知らないけど、復讐のおぜん立てをしてくれるってわけね。であるならば、この手に乗らないことはない。
私は早速旅を始めることにした。
ここ【パレテナ王国】から魔王の都まではちょうど1カ月程度である。
「せっかく大金をいただいたわけだし、急行馬車も遠慮なく使おうかしらね」
それに片道切符の旅に違いない。
成功しようと失敗しようと、私は死ぬことになるだろう。貯金もすべて使ってしまうことにした。
数日後。
私は旅を始めた。これでこの小さな農村ともお別れとなる。もう一生この農村を観ることはない。
決して生まれ故郷というわけでもないが、少しな悲しい気持ちになった。
まずは出来るだけ早く、王都パレテナタウンを目指す。
そこまで行かなければ、馬車すら走っていないのだ。
この村から王都パレテナタウンまでは、徒歩でおおよそ12時間程度と言われている。今は朝の4時なので、頑張れば今日の夕方には王都パレテナタウンにつくだろう。
休憩も度々入れて、歩くこと18時間。
ようやく王都パレテナタウンの城門前に到着したのであった。時刻は22時を既に回っている。
私は、城門で王都に入境するための手続きをするため、担当しているであろう兵士に駆け寄った。
以前チラッと聞いた話では、王都パレテナタウンの入境手続きは24時間体制で行われているはずである。何でも貧乏な【パレテナ王国】では資金調達のため、王都パレテナタウンに入境するための税をとっており、さらに夜間は5倍もの入境税をかけていると言うのだ。
「おや? 夜に女1人で旅しているということは、そういうことか。幾ら払えばいい」
私が駆け寄ると、その兵士は下品にもそう言った。
しかも職務中だと言うのに。
「勘違いしないでもらえる? 確か昼間の入境税の5倍支払えば良いのよね。おまけして6倍の額で支払ってあげるから、早く手続きしてちょうだい」
こういう下半身の欲に忠実な男は嫌で仕方ないが、少しは得をさせてあげないと暴発する。だから6倍の額を支払うと言ったのである。
「チッ。なんだよ。まあ良い。じゃあ昼間の6倍分、支払ってもらおうじゃないか」
その兵士がそう言うと、私は確かに6倍の額を支払った。
5倍の額を超える部分は、この兵士の懐にいくのは当然だ。
「これで良いかしら? 」
「ああ。とっとと入れ」
そして私は城門を入ったのであった。
これで無事、王都パレテナタウンに辿り着くことができたのである。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.66 )
- 日時: 2020/12/22 15:36
- 名前: 牟川 (ID: w32H.V4h)
≪とある兵士≫第62話 プランツ王国軍のとある兵士
(とある兵士視点)
僕は、セルテンの町を警備する兵士を務めている。
その仕事内容は、町内のパトロールや、逮捕後の罪人を王都プランツシティまで連行すること、そして特に重要なのが国境監視である。
セルテンの町から200メートルも進めば、そこはもう【魔王領】なのだ。
いつ魔王軍が攻めてくるかは判らない。だから、この仕事はとても重要なのだ。
とはいえ、国境には一体何があるのかといえば【魔王領】側に城壁が築かれているだけであり、【プランツ王国】側には何もない。
個人的には砦のの1つや2つ、欲を言えば国境は長いのだから【プランツ王国】側にも城壁を築いてほしいものである。
「しかし退屈だな。お前もそう思うだろ。この見張りがいかに重要だと言っても、ずっと立ったままあ城壁の入口を見張るなんて」
と、僕の相棒であるレームという男が言った。
基本的に国境監視は2人で行うことになっている。どこで監視をするかといえば、セルテンの町には大きな時計塔が建っているので、その屋上から監視をするわけである。
「そういうなよ。入口から魔王軍が姿を現したら大惨事なんだぞ? そうなった時に僕たちができるのは素早く入口から魔王軍が出て来たことを確認し、そして素早くこの鐘を鳴らし住民に知らせることだ。どうせ町の兵士たちでは太刀打ちできないだろうし」
魔王軍が攻めて来ればひとたまりもないことくらい、判っている。
何せこの町にいる兵士の数は120名程度だからだ。仮にこの町を攻め落とすのであれば、向こうはそれを上回る数の兵力を余裕で引き連れて来れるだろう。
「だからこそ住民たちに早く知らせて、直ぐにこの町から逃げてもらわなければならない」
「重要な仕事だってことくらいは判ってんだよ。だけど実際、退屈だろ? 退屈かどうかの話をしてんだよこっちは」
相棒の、この物言いには呆れてしまう。
まあ彼はこんな奴だが、腕は立つのは確かだ。戦闘になればこのセルテンの町にいる兵士の中では彼が最も頼りにされるはずであろう。それに珍しく魔法も使えるらしい。
何ならいっそのこと王宮魔法士にでもなれば良いのにと思ったりもする。
「悪かったよ。確かに退屈だよね。でも退屈ってことは、とりあえずまだ平和ってことだから良いことかな? 」
城壁の入口から魔王軍が出て来れば、それどころではない。
恐らく焦りや恐怖心と言ったものが頭を支配するはずだ。まあ、彼自身が言うには、彼は戦闘になると興奮してしまうらしいがな……。
「ところで、あの城壁がつい数年前に建てられたのは知っているよな? だが何故建てられたかは皆知らないわけだ。だが俺は大体の予想はつくんだよ」
あの城壁か。
確かに、築かれたのはつい数年前だ。あのとてつもなく長い城壁は着工から半年程度で完成したと記憶している。
【魔王領】の力はやはりとてつもない。
「やっぱり国境の防衛のためかな? 」
国境に城壁を築く理由は大体そんなものだろう。
「まあ、普通は国境の防衛が妥当だろうな。だがあの城壁を築いたのは帝政時代だ。当時から俺はここで国境を見張っていたが、多かったんだよ。プランツに逃げてくる奴らがな」
そうか。
あの城壁が築かれたのは帝政時代だったか。あの時代は色々な意味で懐かしかった。歩哨線がこの町からよく見えたものである。
歩哨線を見た僕は、何だか監視の強い国なのだと感じていた。
兵士が等間隔に突っ立っているあの姿はそれほど印象に残っているのだ。
「皇帝の支配がそれほど過酷なものだったのかな? 」
「さあな。だが逃げてきた奴らと話す機会が度々あって、大体は軍に召集されるのが嫌で逃げて来た連中だ。まあ【プランツ王国】に逃げてくる奴は要は召集逃れが多かったんだよ。毎日1か月ほど続いてたところ、あの城壁の建設が始まったわけだ」
「逃げられないようにするためにあの城壁を築いたと? 」
流石にそれはないと思うが。
まあ、逃げて来た人たちも、あの歩哨線をどうやって潜り抜けて来たのかが判らないが。
「俺はそう思っている。デカい壁があれば逃げることは難しくなるからな」
そして……。
「確かにあんなに高いと梯子が無い限りあの入口から……っておい! 魔王軍が出て来たぞ。あれは商人じゃない」
突然、城壁の入口から魔王軍らしき集団が溢れるように出てきたのである。厳密な国境線はどこなのか不明ではあるが、間違いなく【プランツ王国】領内に侵入している奴らもいる。
プランツと【魔王領】を行き来する商人もいるのだが、服装からしてどう考えても魔王軍だろう。それに所々に魔王軍の軍旗を掲げて移動する者もいる。
僕は必死に鐘を鳴らした。
「まさかこんな話をしているときに出てくるとは」
彼もこの展開には驚いているようだ。興奮しているようにはまだ見えない。
そして鐘を数回鳴らしていると、セルテンの町から一斉に矢が飛んでいった。
「一斉攻撃が始まったか。まあ意味はないだろうがな」
彼はそう言う。
こういう事態に備えて予め訓練していたので、他の兵士たちも素早く行動できているようだ。鐘がなればまずは当直の兵士たちが直ちに持ち場に着き、そして一斉に矢を放つ訓練を定期的に行っている。そして非番であったり休みである兵士たちも次第に集まることだろう。
とはいえ、総数で120名程度。
「全くだ。敵は魔法で攻撃を防いでいて、全くもって意味ないね」
「ああ。やはり魔法がものを言う。単なる物理攻撃じゃ威力に限度があるからな。さて、早いところ塔から降りるぞ。敵はまずこの塔を遠距離から攻撃するはずだ」
「わかった」
僕は彼に従うことにした。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.67 )
- 日時: 2020/12/25 13:44
- 名前: 牟川 (ID: qpE3t3oj)
第63話 魔王軍四天王レミリア
ここは【魔王領】の最東部である。
地平線の向こうまで続く城壁……即ち【プランツ王国】との国境沿いに魔王軍四天王レミリアが率いる部隊の野営地があった。
「レミリア様。先遣隊は攻撃準備が整いました」
そう言ってレミリアのいる天幕の前にやって来たのは、先遣隊の伝令兵だ。
「わかったわ。まずは先遣隊だけでセルテンの町を落としなさい」
「かしこまりました。隊長に伝えます」
伝令兵はそう言って、レミリアの天幕を後にした。
「やはり予定を変更するのですか? 」
と、今度は≪レミリア三騎≫のアルムがそう訊ねた。
「当初は先遣隊は設けずに【プランツ王国】に進攻するつもりだったけど、先日言ったように今回はあえて魔法電話を使った訓練も兼ねているわ。だからまずは先遣隊にセルテンの町を陥してもらい、その後は【プランツ王国】の主力とも正面から当たってもらうつもりよ」
今回レミリアが設けた先遣隊の数は300名程度である。この先遣隊だけで、セルテンの町を陥とすのは容易であるというのが、レミリアの見解なのだ。
「ですがセルテンの町を陥した後、プランツ王国軍の主力が王都内に引きこもる可能性もあるかと……。確かその魔法電話を使う場面として想定しているのは野戦でしたよね? 」
アルムの言うとおり、プランツ王国軍が王都内に引きこもる可能性は大いにあるとレミリアも思っていた。
しかし彼女はそれも想定し既に情報収集を行った他、心理戦に持ち込もうと考えたのである。
「まずは先遣隊だけにやらせるのは、プランツ側に油断させるためよ。先遣隊の数は300程度。流石にプランツの総兵力はそれを上回るだろうから、打って出て魔王軍を叩き潰そうと考えるはず」
「そういう作戦なのですか。ですが、プランツ国王や兵士長たちが慎重な性格であれば出てこない可能性もありますよ。それに300人程度でセルテンの町を陥としたとなれば、相手はますます警戒するでしょう」
アルムとしては魔王軍の質はとても高く、所謂≪教会騎士団国家≫の兵士たちは基本的に質が低いと思っているのだ。
それ故に、≪教会騎士団国家≫の基本戦術は防御に徹するはずであると彼は思っている節がある。
「問題ないと思うわ。まずセルテンの町に駐留しているプランツ王国軍の兵士は120名程度。一般的に攻撃側は防御側の3倍の兵力が必要だと言われているけど、先遣隊の数は3倍未満2倍以上。セルテンの町にいる兵士より、ちょっと魔王軍の質が高かったと思われる程度よ」
「そうでしょうかね? 」
「それに私が収集した情報では、プランツ王国軍の兵士長たちは血気盛んで蛮勇みたいな人ばかりらしいわ」
「ば、蛮勇みたいな連中が兵士長の職を占めているのですか? 」
蛮勇は決して勇気と同義ではない。
何も考えず危険なところに行くただの馬鹿だ。もちろん蛮勇的な行動によって≪結果的に≫都合の良い状況になることもあるにはあるが。
「そうらしいわ。そのほかディアナの息のかかった兵士長もいるし、さらに≪とっておき≫も【プランツ王国】の中枢にいるみたいだから、プランツ王国軍を王都から誘き出すための方法はいくらでもあるわけ」
「なるほど。ディアナの奴、相変わらず手際が良いですね」
アルムは察した。
ディアナが積極的に動いているなら、もう自分は何も心配しなくても良いやと。
因みにディアナは当初、はユミがプランツ王国軍の旗頭にされないように、とある兵士長に接触し魔王軍側に引き入れたのである。
そのため、ディアナと接触したその兵士長はユミがプランツ王国軍の旗頭にならないように色々と工作していた。ところが、その兵士長は今となっては、プランツ王国軍を王都から誘き出すためにも動いているのだ。
尚、今レミリアが言った≪とっておき≫のほうは、また別の理由で魔王軍に関わるようになったのだが……。
「さて、私は少し仮眠をとらせてもらうわ。セルテンの町が陥ちたら起こしてちょうだい」
レミリアは、地面にただ藁を敷いただけの寝床で横になり、そう言ったのである。
横になったレミリアを見たアルムは……
「かしこまりました」
と言って、レミリアの天幕を後にしたのであった。
- Re: 何で私が、魔王討伐に参加しなければならないのだ! ( No.68 )
- 日時: 2020/12/29 18:25
- 名前: 牟川 (ID: 13OvT5q/)
≪とある兵士≫第64話 プランツ王国軍のとある兵士②
(とある兵士視点)
セルテンの町にある時計塔を降りて、外へと出ると我先にセルテンの町から逃げようとする住民たちの光景が目に入った。
「とりあえず兵士長のところへ行くぞ」
「そうしようか」
僕たちは住民たちでごった返す街中を強引に突き進み、兵士長のいる建物へと向かった。そして建物に到着し、中に入ると兵士長が部下たちに向けて大声で叫んでいたのである。
「良いか! 矢が1つも無くなるまで放ち続けるのだ! 敵が魔法で防御して意味がないと思ったとしても攻撃を続けろ。攻撃を続ければまだこちらが健在であることを示すからだ。わかったかぁぁぁぁ! 攻撃を続けろ! 攻撃を続けろぉぉぉぉ! 」
決して逃げようとしないその姿に僕は感激した。
聞くところによると、他国では自分だけ真っ先にと逃げてしまう兵士長もいるらしいのだ。その点、プランツ王国の兵士長たちは勇敢な人たちが勢ぞろいしていてとても頼もしい。
「おっ? お前らか。素早く鐘を鳴らしてくれてありがとう。助かったよ。さてこれをお前たち2人に渡す。至急王都プランツシティまで行きこれを渡すのだ。急げ! 」
僕は手紙を受け取った。
「「はっ! 了解しました」」
兵士長から命令を受けた僕は無意識に、自然と王都プランツシティへ向かおうと走っていた。
この時、少なくとも僕の心の中では、自分だけは戦わなくて助かったと安堵する自分と、皆が戦っているのに何で助かっているのだろうかと思う自分、この2つの感情が対立していたのである。
「今は緊急事態なんだ。誰かの馬車を接収して飛ばすぞ! 」
僕の心の中の状況を一切知らない、相棒のレームがそう言った。
だが彼も、彼の心の中では僕と同じことを思っているのかもしれない。
「そうだな」
そうして、僕たちは目についた馬車を接収した。
その馬車の持ち主は、妊婦と小さな子供を連れていた若旦那だ。
「待ってください! 妻はこのとおり子を身ごもっているのです。それに娘はこんなに小さい。せめて娘と妻だけは一緒に連れて行ってください」
若旦那の叫びに僕は心を痛めた。
だが、馬車の中をスッカラカンにしていかないとスピードがでないのだ。馬がそれに耐えられない。至急王都に知らせるためには仕方のないことだろう。
そして相棒のレームはというと、素早く馬に跨りこう言った。
「ここが【魔王領】に最も近い町なのは当然知っているよな? それにも関わらず妊婦やこんなに小さな子供をこの街に住ませていたお前が悪いんだよ。こんな町までやって来て家族団欒を味わうことよりも、家族の命を優先せべきだったんだよお前は。西ムーシ商会セルテン支店長さんよ! 」
なんだろうか。
彼の言うことは正論だと思う。だけど同時にこの妊婦と小さなお嬢さんだけは助けてやっても良いのではなかろうか。僕はそう思ったのだ。
「せめて奥さんと娘さんだけは……」
「うるさい! 戦闘経験のないヒヨッコは黙ってろ。ほら行くぞ! 」
彼はそう言うと、乱暴に馬を叩き馬車は急発進させた。
それから、馬車を動かしてからしばらくして彼が意味深なことを言う。
「それにしても、お前も運が良いな。俺と一緒に行動していたから、こうやって伝令役を命じられたんだぞ」
と。
「い、一体何が言いたいのだ? 」
当然わけが分からないので、僕はそう相棒のレームに訊いた。
「セルテンの町が襲撃された場合に、俺が伝令役になるのは以前から決まっていたことだ。その俺と一緒に行動していたから、お前も≪ついで≫という立場で伝令役になったんだよ。良かったな」
相棒のレームはそう言ったのである。
まさか相棒のレームは、賄賂とかそういう類の汚職に手を染めているのだろうか?
魔法も使えるはずの彼を、前線から下げることの合理性があるようには思えない。
もちろん戦力の温存のため、伝令役という名目で王都プランツシティに逃がすのだと、そう考えることもできる。しかしそれでも、温存ということであれば最初から彼は王都プランツシティに居れば良い話である。
まあ良い。
今は目の前のことに集中しよう。
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