複雑・ファジー小説
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- 大江戸那刃手明拳流血風録
- 日時： 2023/11/04 18:13
- 名前： 梶原明生 （ID: gV64xmvp）
・・・幕末期。豊後日鷹藩出身の忍侍の家柄に生まれた小助は、１６歳の時、師匠の言いつけで薩摩島津藩を訪れるために名刀「国光」と共に商船に乗った。が、しかし、その船が難破して沈み、別の僚船に助けられた小助は記憶喪失のまま、南のとある島国にたどり着いた。その国の名は「琉球王国」。国光だけが所持品となった小助を不憫に思った客の一人、「宮城一鉄」に絆されて、宮城家の居候となるが、直にそこが「那刃手明拳流」と言う「無手」による一撃必殺の空手拳法流派宗家と知る。宮城一鉄の父、「宮城正順」総師範もまた、小助のただならぬ身体能力と人柄に気付き、一鉄と共に「那刃手明拳流」の修行をさせることとなる。三年後、誰よりも早く宗家の奥義を体得し、一鉄をも凌ぐ腕前となるが、「ナイチャーのもん」と言う回りの意識と、彼の気持ちを尊重し、身を引いて再び海を渡る旅に出る。宮城家の印可を貰い、「宮城小助」と名乗って幕末期の大江戸へと向かうのであった。・・・梶原明生初の時代活劇談。剣ではなく拳で、チャンバラでなく無手の「空手」で大江戸を暴れ尽くす血風録。ご期待ください。
- Re: 大江戸那刃手明拳流血風録 ( No.72 )
- 日時： 2024/05/27 22:58
- 名前： 梶原明生 （ID: UsiAj/c1）
・・・ドローンカメラでそれを見てまた怒りに燃える小助。大野介は感心する。「ほう、あんな小さなからくり物でこんな何百里先の物事を見るこつできるとは恐れ入ったばい。」ほくそ笑む特殊作戦隊員。「では、大野介さん、小助さん。我々は1か月後の1500に城山で現れます。それを過ぎたら小助さん、現代には戻れないと覚悟してください。本当のご両親に会いたいでしょうし。」「はい。」特殊作戦群の隊員はまた水面の如き門を通って現代へ帰って行った。「では父上。」「うむ、小助。参ろう。」二人が向かったのは久しい所。直心影流男谷道場である。今は祝言を挙げてまもない新婚の松野師範とお妙が跡を継いでいた。男谷忠朝は外務大臣に昇進。大臣屋敷に妻子と暮らしていたが、今日はたまたま道場に顔を出していた。最早勝利祝いに花咲いているためか、忍びの気配は微塵もない。逆にそれは小助達に好都合だった。「松野殿、男谷殿、久しゅうございます。宮城、いえ、藤崎小助、父大野介にございます。」松野が最初に応対する。「おーっこれは小助殿、ご無事であったか。さ、早う上りなされ。」松野が促すと、そこにはかつて恋したお妙の姿があった。無論、燕尾服の忠朝も。「いやーっこれは小助殿。良かった。ワシはてっきり討ち死にしたやと思って気が気でなかった。いや、無事でなにより。」「小助殿。ご無事で。」目が潤むお妙に、複雑な気持ちになる松野。しかしそれを吹き飛ばす客人がまだいた。「驚くのはまだ早いぞ皆の衆。」「や、柳生厳週様。」「何小助、柳生とな。」驚く藤崎親子の前にもう一つのサプライズが。「小助、五年ぶりかのう。」「い、一鉄お前。」何と、那刃手明拳流宮城道場総師範、宮城一鉄すらも来ていたのだ。手を取り合う二人。「ワシはお前が死んだ何ぞ信じてはおらなんだ。お前がここにいたと噂に聞いてな。松野殿にお世話になり申していた。お主に会える気がしてな。明日には経つつもりだったが、良かった。」「忝いのう一鉄。」かつての旧交を暖め合うも、小助達にとってそれどころではない。彼等に事情を話す小助。「渡しに船とはこのことよ。あいつらめ、すっかり勝った気でいて、このワシにも警戒心がない。無理もなかろう、お主らがまさか160年後の未来に召喚されていたなど、露も知りまいて。ワシも奴ら光照会には反吐が出る思いであった。仇討ちもさることながら、奴ら光照会は日本を植民地化しようと、日本人奴隷化計画まで立てておる。許されざる考えじゃ。」「まさにその通りで。」「うむ、小助殿、この私が手引いたす。三日後、クリスマスパーチーなる催しがある故サイラス・ゴーンや橘玄蕃達が一同に集まる。一網打尽にできる千載一遇の好機じゃ。なーに、警察も抜け忍衆も、士族残党一派がやったと思うであろう。」こうして小助、大野介、一鉄、柳生厳週の四人は当日の計画と支度を始めた。・・・続く。
- Re: 大江戸那刃手明拳流血風録 ( No.73 )
- 日時： 2024/06/04 13:51
- 名前： 梶原明生 （ID: mkDNkcIb）
・・・一鉄は靫（サイ）に磨きをかけ、那刃手明拳流の道着と黒帯を見にまとう。厳週は柳生家伝来の胴太抜刀に磨きをかけ、懐紙を口に挟んで刀を掌で回し、磨き具合と美しさを両方見る。大野介は苦無を研ぎ石で研ぎ、分銅鎖を懐に入れた。そして。・・・小助は同じく那刃手明拳流道着と青帯を身にまとい、丈を手にした。半次郎から渡されたタスキを頭に巻き、決意新たに西南に向かって頭を下げた。「中村様、増田様、一朗太殿、皆さん。必ずや仇討ちいたします。」「小助、そろそろ行こうか。」一鉄が声をかける。「ああ。」一方その頃、抜け忍衆達は新しく連れてこられた娘御達を品定めしていた。牢屋に入れられたが、その隣の牢屋に年端も行かぬ娘御の無惨な死骸が。「ハハハ、お前ら日本の娘御は煮るなり焼くなり伴天連に売り飛ばすなり好きにしていいのさ。ハハハっ」啜り泣く娘御達。「後でたっぷりゴーンさんと楽しんでやるから待ってな。」「俺は待たないがな。」聞こえた声の主は小助だった。「な、野郎どっから入って来た。」刀で振りかぶるところを抑え受け。掌底を顔面に叩きつけ、親指で目を潰す。前蹴りで肝臓を抉り蹴り留め。もう一人が忍者刀で刺してくるところを一鉄が靫を絡めて刺す。手裏剣は厳週が絡め落とし、抜け忍達を次々に叩っ斬る。「ヒェー、さすがは柳生新陰流。忍びもこの様とは。」一鉄が感心するが。大野介が後に続く。「一鉄殿、感心しちょん場合じゃないばい。本陣はまだ先。」「わかってますよ。」「小助。娘御達を。」「承知。さぁ、娘御さん方。この道を真っ直ぐに行ったら俺達の忍び衆が待っている。助けてもらいなさい。」「ありがとうございます。」多くの娘御が逃げ走る。厳週が刀を懐紙て拭いて納刀する。「さて、これで足枷はなくなった。後はゴーンと橘の配下のみ。」四人総出で歩き出す。そのゴーンは橘と赤ワインを飲み交わしていた。「ミスター橘。これで大久保共々日本を我が光照会、インビジブルの植民地にできるな。」「左様で。徳川幕府の馬鹿げた士族至上主義など、戯けた思想なんぞおさらば。抜け忍衆以下、外様大名は常に冷や飯扱いであった。これからは西洋支配の時代。」「ドントマインド。心配ない。ミスター橘達は特権階級として残してやる。・・・かつて我々の東洋人奴隷化計画は織田信長の治世から活発になった。先ずは西国九州からキリスト宣教師のスパイを送り、甘言と神を出汁に使い宣撫工作。やがてはアフリカ東南アジアのごとく、日本も植民地化しようとした矢先に豊臣秀吉に徳川家康、井伊直政め。ワシらのご先祖の策略を見破りおって。特に裏柳生に上忍共め、アフリカや東南アジアのように植民地支配できない工作活動しおって。だがその恨みつらみも雪がれよう。士族はなくなった。後は大久保が我々の要求を拒否せぬ限り、日本人は奴隷化できる。」・・・続く。
- Re: 大江戸那刃手明拳流血風録 ( No.74 )
- 日時： 2024/06/06 19:18
- 名前： 梶原明生 （ID: Yry.8Fde）
・・・「我々西洋擁護派の時代が来ますな。」「ザッツライト。ハハハッ」「ハハハハハハっ。」 「笑える悪行も今夜限りよっ。」一斉に驚くゴーンと橘とその配下達。「何奴っ。」洋館のドアを開け放つとそこには小助の姿が。「それは琉球唐手の衣装。もしや貴様は・・・」橘が当たりをつけてきた。「如何にも。」「曲者め」最早橘等に聞くまでもなく成敗しようとしたのだが、護衛二人は丈撃と蹴り技の餌食になる。「那刃手明拳流空手、免許皆伝にして藤崎家忍術免許皆伝、藤崎小助。」「同じく、宮城道場総師範、宮城一鉄。」会場のもう一つの扉を黒色火薬で吹き飛ばす大野介。「藤崎家侍忍衆頭首、藤崎大野介。いざ参った。」「柳生新陰流総師範、柳生厳週。義を見て助太刀いたす。」四人揃ったところで小助が叫ぶ。「傀儡政権を打ち立て、士族を葬り、数多くの罪なき人々の命を虫けらのように弄んだその悪行は断じて許せぬ。天に代わって我らが討つっ。」怒り狂うゴーンと橘。「シャラップッゴーヘブンッ・・ミスター橘。」「はっ、出会えー出会えーっ曲者じゃ、斬り捨てい。」別室から次々配下の者が現れる。「さて、もうひと暴れ致すかのう。」厳週が刀をゆっくり抜いたかと思ったら、二，三人を既に斬り捨てていた。それを皮切りに一斉に小助、大野介、一鉄が動く。西洋人は卑怯にも短筒とサーベルのダブル攻撃。抜け忍衆を撃つもお構いなし。「ガッデム」「貴様、味方すらも。」怒りに駆られた小助は飛び足刀蹴りをお見舞いし、短筒を抑えて脇にいた二人の短筒も半月蹴りと内受けで叩き落とし、丈で目と喉を突く。厳週は小柄を、大野介は車手裏剣をお見舞いして短筒男を撃退し、刀で斬り捨てる。後はサーベルと刀との一騎打ち。次々と叩きのめし、斬り捨てる。小助は丈が激しい戦いで真っ二つに折れ、フィリピン武術「カリ」のような格好で次々凪倒す。それすら失うと今度は懐に隠し持っていたヌンチャクで応戦する。空手の極意「武器なくば体で戦え。拳なくば足で戦え、足なくば歯で戦え、歯なくば頭で戦え。」を地でいくような戦いになった。やがて配下の数が足りなくなると、危険を感じたゴーンが奥の物置から物騒な物を取り出した。台車付きマシンガンである。かつて騎馬兵戦の常識を変えたのはこの「マシンガン」の登場が原因とまで言われていた。しかし今の時代のように小型化できず。まだ台車に乗せて運ばなければならない不便な機関銃であった。「ガッデム、ジャップ。これは躱しきれんだろっ。」ハンドルを回して弾を連発するゴーン。左右に走って弾を躱す小助達。厳週が悪態つく。「ふんっそんな物に頼りおって。」橘が叫ぶ。「何を言うか柳生厳週。貴様は陛下近衛兵御用達の剣術指南役になっておきながら政府に盾突く気か。」「戯け。ワシは陛下に忠誠は誓ったが、お主等悪の枢軸に忠誠を誓った覚えはない。」「くっ、おのれ。」・・・続く。
- Re: 大江戸那刃手明拳流血風録 ( No.75 )
- 日時： 2024/06/09 18:03
- 名前： 梶原明生 （ID: CWUfn4LZ）
・・・彼もまた短筒を撃ってくる。素早く走って的を絞られないよう動く四人。「ガッデムッ」ゴーンのマシンガンが弾詰まりを起こした。「そんな機械ばかりに西洋人は頼るから。・・・」小助が飛び上がり、足刀蹴りでゴーンに飛んでくる。「オウ、ファック・・・」「ヤーーーーッ」渾身の蹴り技がゴーンを絶命させた。橘を睨む小助。厳週、一鉄、大野介も彼を取り囲む。「ま、待った。いいだろう。お主らよくやった。貴様らを近衛兵、いや、政府要人に取り立ててやろう。金ならいくらでもやる。どうじゃ。」一鉄と顔を見合わせる小助。「いいだろう。では後日改めて伺う。五万円用意してもらおう。」四人共背中を見せて立ち去ろうとした刹那、隠し持っていたピストールで四人を撃とうとしたのだが。「ギャーーーッ」小助が素早く振り返り際車手裏剣を投げていた。「バーンッ」天井に一発放っただけで倒れ込む橘。「お前ら悪党はすぐこの手に引っかかる。ヤーーーーっ。」気合い一閃。小助の足刀蹴りが橘を貫く。厳週が語る。「これで終わり申したのう、皆の衆。」「今気がついたんですが、柳生様は斯様な討ち入りに参加致しても宜しかったのですか。」「何を今更。小助殿らしくない。案ずるまでもない。証人は皆あの世じゃ。此奴らが幽霊となり、明治警察に漏らせばまた別じゃがのう。」笑い合う三人。しかし直ぐに大野介が血相を変えて膝を突く。「父上、如何なされた。はっ・・・」忍び装束故気付かなかったが、抑えた背中には血がどっぷり流れていた。「そんな、父上、直ぐに医者に・・・」「案ずるでない小助。ワシはもうダメばい。助からん。」「そんな父上。」「狼狽えるな小助。いいか、よく聞け。どの道こうなることは覚悟しておった。それは忍び故にな。ワシの亡骸はここに置いてゆけ。いかに日鷹郡代の殿様に仕えた上忍とは言え、所詮は陰の士族。写真とやらにも映ってはおらぬ。さすればただの士族崩れの浪人一人が乱心して斬り殺したと、政府も警察も片付けるであろう。そ、その方が都合がよかばい。さ、行け。行くのじゃ。彦馬には西南の役にて討ち死にしたと伝えろ。藤崎家の家督はお前が継げと。そ、それから・・・忍びにならずとも良い。あ、新しい仕事でも始めろと・・・」「父上、父上。」「生きるのじゃぞ、小助。・・・」そう言い残し、息絶える大野介。誰もが悲しみに暮れた。「如何した小助殿。もうすぐ警察官も駆けつけよう。親父殿の意思を無にする気か。」「小助。」厳週、一鉄は彼の肩を掴み促した。「さらば、我が父上。」・・・続く。
- Re: 大江戸那刃手明拳流血風録 ( No.76 )
- 日時： 2024/06/12 22:21
- 名前： 梶原明生 （ID: Id9gihKa）
・・・彼等が立ち去った後にようやく警察官が大挙入ってきた。「こ、これは一体・・・」サイラス・ゴーン始め、橘玄蕃一味は全て絶命していた。翌日、帝都新聞はこの事を大大的に報じた。「政府要人宅に士族浪人討ち入り。死者数七人。」明らかに数が少ないのだが、政府の信用失墜回避と影の支配層だったために、闇に葬ったのだ。しかし、これに驚愕したのは意外にも大久保利通であった。闇の支配から解放されたどころではない。ヨーロッパ光照会からの説明と責任追求が始まった上に、守られていたはずの自分がいつ触発された士族崩れに暗殺されるかわからなくなったからだ。男谷忠朝はと言うと、大袈裟に嘆いて見せていた。「こんなことが、ああ、なんと悲しきことよ。」外務省にて高官達は誰も疑う者はいなかった。数日後。男谷道場にて、いつもの面々が顔を合わせていた。そればかりか、千葉佐那子に仲沢琴まで。琴が口火を切る。「どうしても行かれるか小助殿。」「はい。もはやこの帝都江戸に留まる理由はありませんので。」「うむ。琴葉、いやお鈴は達者であろうな。」「はい。風の便りにやや子が産まれたとのこと。」「おお、やや子がか。見て見たかったのう。」郷愁の表情に胸が熱くなる小助。佐奈子が何かを手渡す。「これを持ちなさい。和漢薬で産後の肥立ちにいい薬故。」「これは有難い。皆様にはお世話になり申した。藤崎小助。一生涯この御恩忘れません。」皆、涙を堪えているのがよく分かる。忠朝が最後を締める。「うむ。こちらもじゃ。後の日本は任せなさい。光照会のいいようにはさせん。」「はい。それではみなさん。さらば。」お妙は最後まで声を掛けられず、ただ小袖を掴み、手を振る以外なかった。歩き出す小助達。父の遺髪を胸に一路九州を目指した。「あれ、柳生様。もうお別れで。」「うむ、ワシも九州に今一度参りたいところじゃが、近衛兵師範としての役職があるでのう。小助殿、一鉄殿、今生の別れじゃが、柳生新陰流、160年後も不滅ぞ。ハハハハハハッ」高笑いしつつ高楊枝を咥えて袖に手を入れて豪快に歩き去る厳週。「ど、どうしてそれを。まさか。・・・」「さぁてのう。ハハハハハハッ。」黒い紋付着物が見えなくなるほど離れていった。小助は頭を下げていた。それから数週間。忍び道を通って日鷹を訪れた。彦馬は琴葉に嗜められた後、西郷家にいられなくなって藤崎家に舞い戻っていたのだ。「兄者、兄者ではないか。」「小助、よく無事で。立派になって。」母絹江も玄関に出ていた。「すまぬ兄者。俺は兄者の心内も知らず、兄者が功名心のため西郷様に着いたのかと。無事で何より。」「彦馬、何言うか。よかばいよかばい。わかってくれただけで。」「兄者・・・で、そちらの御人は。」「おお、こちらは私の命の恩人。沖縄琉球国の宮城一鉄殿じゃ。琉球那刃手明拳流総師範でもある。」「こ、これはこれは。兄がお世話になり申した。」「いやいや、礼には及ばんて。それより小助。」目配せする一鉄。「うむ。母上。よくお聞きください。」父の遺髪を懐から出しながら語る小助。「あなた。・・・」「父上・・・」涙に暮れる彦馬と絹江。そして、小助は約定通り、彦馬に遺言を伝える。「はい、兄上。しかと承りました。」しっかりした覚悟ある顔つきで彦馬は答えた。・・・「やり残したこと」終わり。 次回「日本の未来へ。」に続く。
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