二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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東方刃暁録-sword morn record -
日時: 2014/04/07 18:51
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=27262

こんにちは、初めましての方は初めまして、黄昏。です
 昔東方小説を書いていたので、久々に書こうかと思
います。

文章力は無いのでお見苦しいとは思いますがよろしくお願いします。

第二作目アドレス貼っておきますのででそちらの方もよろしくです。

参照量が少ないのが悩みですw

作品紹介で、多重に投稿してしまいました。
誠に申し訳ございません…

神様(お客様)—————————————————
ニコ・ロビンさん

河童さん

時雨 誠さん
————————————————————————

 
では登場人物—
 
暁(あかつき) 
 
平安時代に作られたであろう妖刀の付喪神

目次
異変前編
>>1 >>2 >>3 >>4 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45 >>46 >>47 >>48
蓬莱人編
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
異変編
>>55 >>56 >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>72 >>73 >>74 >>75 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80 >>82 >>83 >>84 >>85
宴会編
>>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91 >>92
執事編
>>93 >>94 >>95 >>96 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104 >>105 >>106 >>107 >>108 >>109 >>110 >>111 >>112 >>113 >>114
終盤編
>>115 >>116 >>117 >>118 >>119 >>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127
閑話コーナー(完結)
>>128 >>129 >>130 >>132
あとがき>>133

一気読み専用>>1-

それでは、どうぞ———

プロローグ
 
私の名は暁。

名字は無い

そして———人間ではない。

『付喪神』

いわゆる唐傘お化けの様な物だ。

物に宿り、魂を得る。

兎に角呪いなどの感情が籠っておれば物に魂が宿るのだ。

此処しばらく『安泰』というのは少なかった。

『陰陽師』という輩がいたのだ。

戦いについては知っていた。

損所そこらの陰陽師や妖怪には負けない強さは持っていた。

否、年月が流れるたびに襲撃は増える。

場所を流離う日々、

此処にもそう長くは居られない。

此処に来てもう6年となる。

長居してしまったが、もう怪しまれるころであろう。

私に善くしてくれた人々に礼を言い、

また、流離う。

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Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.121 )
日時: 2014/04/03 08:57
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

苛烈にして激情。

表面にそれを押し出しながらも、頭の中で咲夜は至極冷静だった。

「(何にしても理由が薄すぎる)」

それが何度も先の会話を反芻した咲夜が出した結論だった。

正しく理解する(納得しないが)ならば、暁は幻想郷を出ていきたいらしい。

だとすれば、なぜ今自分(咲夜)を切ろうとしたのか。

その理由が薄すぎるのだ。

暁が一人でいる場面などいくらでもある。

それこそ早朝部屋から出ていく暁にも気付けていないのだから、そのタイミングで抜け出せばこれは必要ない。

気付けば追うだろうが、博霊大結界を越えてしまえば追うこともできない。

その中でこのタイミング。

更に言えば、咲夜を切る理由がない。

別の理由があるとしか思えないのだ。

それも相談もしないほどの理由が。

「(みんな自分勝手ね)」

咲夜は心の中で言った。

永琳も暁を追い出そうとした時そうであったし、輝夜も異変時マヨヒガに行くのにほぼ独断。

そして今回の暁である。

出ていきたいと言った暁を引き止める自分が、自分勝手な我が儘を押し通そうとしていることを理解しながらも咲夜はそう思った。

だからこの言葉は批判ではなく同族愛好だったかもしれない。

ただ今は。

自らの日常を続けるために。

自らの自分勝手を以て。

暁の自分勝手を叩き潰す。

「(とりあえず一発殴って理由はそれからでいい)」

ここで負ければ、その先に後悔があるのは目に見えていた。

とにかく暁を止めなければ。

冷静に分析していた部分を弾幕用に切り替えていく。

一片の敵意も害意もなく、ただひたすらに日常を守るために。

咲夜はその初撃、三本の太刀筋を避けることなく避けたのだった。






暁はまばたきの間に三度、刀を振るった。

無論、それで被弾させられるとは考えていない。

だから、咲夜が弾幕を抜いてきたのはいい。

だが、避ける素振りすらないのはどういうことか。

暁の見た光景は明らかに被弾した咲夜が無傷で抜けてきた、というものだった。

驚愕の間もなく右手を振りかぶる咲夜を見た暁は、四太刀目の斬撃を踏み込みのタイミングで叩き込む。

しかし——

暁「ぬぅ」

咲夜は既に斬撃の安置にあった。

それはまるで瞬間移動のように。

鞘走りを終えた刀はどう足掻いたところで咲夜を捉える軌道には至らない。

逆に咲夜の右手は正確に暁の心臓を捉えた。

詰まる呼吸と止まる世界。

それは被弾を余儀なくされる隙。

刀の付喪神として、ほぼ人間を再現しているがゆえに生まれた隙だった。

咲夜は一度目を瞑り



——傷魂「ソウルスカルプチュア」



一手目となるスペルを発動した。

頭を思い切り殴り付けたような衝撃が暁を襲う。

一瞬断絶しそうになる意識を気合いで繋ぎ止め、竹林の竹を一本掴み体勢立て直し、視線を上げた。

その作業の終わりと咲夜がスペルを唱えるのと同時。

「おいおい……」

思わず暁が声を洩らす。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.122 )
日時: 2014/04/03 08:59
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

パチュリーから聞いた暁に関する情報は主に二つ。

一つは異変を起こすきっかけとなった戦いにおいて、実戦中にパチュリーが気付いた、人間体は再生能力を除きほぼ人間であるということ。

もう一つはそのことについて自然と浮かぶ疑問を解決するための仮説だ。

曰く、なぜただの人間が弾幕ごっこについてこれるのか。

元来、人間が異変を解決しやすくするための弾幕ごっこではあるが、普通の人間が戦うことを前提としたものではない。

霊夢たちのような特殊な人間が漸く弾幕という枠組みで渡り合えるのだ。

そこにはできるできないの問題ではない、基本スペックの問題が横たわっている。

霊力によってある程度肉体を強化することは可能である。

しかし、反応速度。

脳からの電気信号の時点で経験則ですら超えられぬ、人間の限界がそこにはあった。

その限界を超える術が、霊夢の予知能力じみた勘であり、魔理沙の火力とスピードであり、咲夜の時止めであり、早苗の奇跡であるわけだ。

そして、立てられた仮説が並列思考だった。

単純に一つで処理していたものを二つで処理すれば、速度は二倍になる。

そこで暁は意志の分割を行った。

刀と人間、この二つが戦いに関して自らの経験則を以て状況判断、情報収集、行動決定を同時にかつ高速に処理すること。

これが暁の弾幕についてこれる要因。

刀の方は如何なる法則を以て知覚、処理行動を行っているのかはわからないが、人間体は五感を使った情報収集が行われている。

そして、人間は情報の七割を視覚に頼る。

光波を狂わせてやれば、その事実は仇となる。

暁は刀に戻り、再構成を行えば幻覚を消すことも可能ではあっただろう。

しかし、あえてそれを行うことはなかった。

簡単には行かないか、と咲夜は心の中で思う。

幻覚を消せたとしても、刀だけの間に組み伏せてしまえばほぼ詰みであったからだ。

それを思ったと同時に咲夜のスペル。
 

————奇術「エターナルミーク」


向かって右側から飛び込んできたものを肩口から袈裟切りで両断、ナイフは霞となってかき消えた。

その隙を見て背後のナイフにヒールキックをたたき込む。

その勢いで今度は前に脚を振りぬき鳩尾に正確にえぐり込む。

いつの間にか得た左手の小刀を頭に差し入れる。

ココまで全てナイフ。

右側に確かな隙を突いた、幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」を発動。

確かに当たると思われたそれは、

「!?」

脇腹から射出された刀によって相殺された。

刀から弾き出される確かなインパクト。

暁が地面を蹴る。

向かうのはたった今投げてきた咲夜。

慌てて竹に紛れるように逃げ出すが、そこはすでに射程内。



——憑符「鬼神千手観音」



巨大な武器が咲夜を襲った。

確信と共に巨大化した武器が小さなクレーターを作り出す。

暁 「む——」

そこから現れたのは咲夜ではなくナイフ、身代わりの証明だった。



——傷符「インスクライブレッドソウル」


——喪符「鬼神哀愁歌」



白い満月に似たものを見ながら、咲夜は何百本目かのナイフを投げた。

竹林に身をを隠して不意を打てたが、同じ手は喰わないだろう。

そもそも哀愁歌の中で再構成を行っているであろう暁にもう一度同じことをするのは不可能だ。




刹那、暁が、白い満月を突き破り飛び出してくる。

ナイフを牽制に撃つが、意に介ぜず一刀の基に両断。

スピードすら落とさず射程内まで踏み込む。

「(逆袈裟!)」

咲夜の身体能力は自らのイメージを最適に再現する。

まずは右足で逆袈裟に来ている暁の腕に着地。

それを足場として頭を刈り取るように左足を振り切る。

頭を下げてそれを避けた暁に対し、右足の力のみで上に飛びくるりと一回転。

その勢いを乗せて下げられた頭にカカト落とし。

それに一瞥もくれず、暁はバックステップで距離をとった。

前に流れた暁の髪が咲夜の足と接触し、その場で千切れていった。



——喪符「鬼神哀愁歌」



——幻符「殺人ドール」



咲夜は弾幕の光を盾に哀愁歌との距離を詰める。

一歩前進したところで両腕を上げ顔をガードした。

視界にしなりながら落ちてくる足を捉えたからだ。

恐らく半歩程の差。

距離が近ければ近いほど思考速度がものをいう。

足と腕が接触、ガードの上から咲夜は弾き飛ばされる。

暁が追撃をかける前にスペルカードを宣言した。



——幻術「マイナイフリカージョン」



一帯にナイフを展開し、追撃を拒否する。

暁も墜落したであろう場所に斬撃を飛ばすが、爆発を伴う射撃で相殺。


それを機に咲夜はリカージョンを解除した。

視覚を遮断した奇襲をかけたところで、手痛いカウンターを貰うことは見えていた。

今までやってきたことは逆である。

咲夜がわざと後手に回り後の後をとる戦い方をしていた。

カウンターを食らえば反応すらさせず両断されるだろうことを良く良く理解していた。

虚を突く限り暁についていけることは先のことで証明済み。

ならば全力で追いついていくのみだった。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.123 )
日時: 2014/04/03 09:02
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

次が最後である。

それは二人が何とはなしにわかっていた。

「……」

「……」

目視が可能になった先にいる暁と目が合う。

ゆっくり三秒見つめてから静かに目をつぶった。

自らの言葉を反芻するようにたっぷり時間をかけて目を開け、そっと口から出した。

咲夜 「全力で連れて帰るわ。何処かへなんて行かせないから」

力強かった。

確固たる意思であった。

「……」

暁はそれに答えず、沈黙を返した。

スッと刀を上げ上段の構え。

それを見て咲夜の腰も落ちる。

そして、示しを合わせたように同時に動いた。


——憑符「童子切」


ギロチンのように振り下ろされる鬼切丸を咲夜は見た。

普段は線にしか見えないそれを今は映像として捉えられていた。

咲夜の額前三センチ。

不自然に鬼切丸は止まった。

否、止められた。

他ならぬ咲夜の両腕によって。

「ハアァァァァァア!!!」

気合いの籠もった声と共にそのまま後ろへ放り投げ、暁の間合いを食い潰していく。

暁は刀を手放さず一緒に宙に投げられたのを足場を作り、無理矢理に引き止めた。

一度肩の高さまで持ち上げ、刀を巨大化させたまま素早く幻影将門を発動、同時に刀は振り下ろされた。



——天獄「久遠劫の回廊」



暁のたどり着いた色即是空の多重斬撃とは異なる境地、久遠の檻——自由斬撃。

自身の座標を無視して放たれる斬撃を暁が放てる最大数九。

その九本に関して質を追い求めた末の一枚。

計七十二本の自由斬撃は、その巨大さ故に剣圧のみで破壊を生んだ。

七十二の剣圧は混じり合い溶け合い、中心にいる咲夜を目として強烈な勢力に拡大していく。

それはさながら堅牢。

迷い込んだものを飲み込む、無限に続く走馬灯の回廊。

対して咲夜が用意したのは二百数本にして最後の銀のナイフ。



——銀符「シルバーバウンド」



音が爆ぜた。

これが咲夜の本命。

これまでの身体能力向上など副次的な作用でしかない。

恐らくは、副作用を応用した内気功の爆発的放出現象だと暁は分析した。

同じように咲夜を目として形成された風は堅牢をあばら家にし、自由斬撃すらずらすことに成功した。

できたスキマからスペルを攻略した咲夜に、しかしながら休みを入れる間など一瞬足りともありえない。



——居合「鬼神斬—惨—」



迎え撃つ神速抜刀、概念斬撃を咲夜は気合い避けする覚悟を決めた。

久遠劫の断罪の脱出に重ねられた鬼神斬は止めの構えだと、そう読んだからだ。

スペルを打ち合えば物量として負けることは見えていたし、刀の間合いより、蹴の間合いより内に入れれば、「ソウルスカルプチュア」をぶち込み勝つイメージは既に出来上がっていた。

止めの構えを破られれば必ず動揺ないし、数瞬の揺らぎは見られるはずであり、その間に決着を得ることも可能だという思いもあった。

それを考えれば鬼神斬を気合い避けは部の悪い賭けではなかった。

シルバーバウンドによって牽制されていたされていた暁自身ももその覚悟を支えていた。

咲夜の思考がフル回転を続ける。


一本目を右足を引くだけで避け、胴を薙ぐような二本目を地面に手を着きながら回避。

そのままクラウチングスタートの要領で前へ出る。

絶妙なタイミングで地面を蹴り、前宙の間に三本目を越えた。

加速を続ける咲夜の思考はここで暁までのルートを割り出した。

覚悟をしてから一秒にも満たず、咲夜はそのルートに飛び込むのに躊躇はなかった。

暁までの距離、約十メートル。

自らのイメージに自分を乗せる。


九メートル


イメージにピッタリとはまる感覚が更に咲夜を加速させた。


八メートル


咲夜は進む。

最高のレスポンスを発揮する身体に助けられ、着実に暁との距離を詰めていく。


七メートル


危険故か、頭の中で警報が鳴らされ続けている。

それを精神力で無理矢理無視した。


六メートル


より一層大きく鳴った警報にふと疑問を抱いた。

ルートを見つけたのは一秒足らず。

だが、果たしてそれは正しいことなのか。


五メートル


その考えが、咲夜を救った。

目の前に突然あらわれた暁がその疑問の正当性を証明していた。

「縮地……!」

自らが作り出した剣撃の雨の中を暁は躊躇いもなく飛び込んだ。

それが意味することは避けたのではなく、避けさせられていたということ。

つまり誘導されていた。

鬼神斬は止めではなく、次の一太刀こそ止め。

まだ間に合う、と咲夜はナイフを展開する。

「間に合わない!?」

能力を使った回避を不可能にする、一部の者が持つボムガードを無効化する、ただそれだけの一太刀。

たった半歩避ければ当たらない。

そういうもの。

それを避けることが叶わない。

濃厚な死の気配に、防衛本能として鬼切丸の鞘走りを見た。

しかし、その光景に強化された身体能力はついていかなかった。

咲夜が感じた濃厚な死の予感。

恐怖の余りに気絶するというのはよくある話で、本来より咲夜が身を固くするのも無理はなかった。

一度は咲夜を救った本能が、今度は足を引っ張った形。

そして、輝夜に放ったときとは刃を逆に。

「人鬼『羅生門—滅—』」

鞘走りが終わったと同時にスペルが宣言された。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.124 )
日時: 2014/04/03 09:03
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

真剣白刃取りも考えたが、不可能だ、と切って捨てた。

あれが可能だったのは、巨大化した刀であり、必然的にスピードの減衰があったからだ。

神速を以て振るわれている羅生門を受け止めるなど不可能だろう。

咲夜は目を瞑った。

そこに一切の抵抗意志はなく。

何でこんなことになってしまったのか、と思いながらも暁が来てからのことを思い出していた。

初めてプレゼントを貰ったなど小さなことから、異変のような大きなことまで。

そこまで考えて何となく思ってしまった。

「(暁になら、いいかもしれない)」

そうして、無意識に暁に手を伸ばしていた。



決して届くはずのないその手はゆっくりと伸びていき。



「え?」



——指先が暁に触れた。



目を開ければそこには暁が居た。

髪の僅か一センチ手前、そこに見えない壁があるように微動だもせず鬼切丸が止まっていた。

「…………」

暁に表情はなかったが、咲夜には辛いように見えた。

鬼切丸を無視して暁に一歩近付く。

鬼切丸に髪が触れ、暁がピクリと反応を見せる。

両腕を背中に回して、割れ物に触れるように優しく抱き締めた。

咲夜 「もう、やめない?」

辛いように見えた瞬間に咲夜に自分の気持ちは消えていた。

とにかく、辛いことをなくしてあげたいと、ただそう思ったのだった。

抱き締められながら鬼切丸を振り下ろそうとするが、やはり一センチ手前で動かなくなった。

咲夜 「なにがあったの? 言ってくれないとわからないわよ……?」

戸惑い、迷い、鬼切丸は粒子になり暁にしまわれた。

空いた右手は咲夜の頭に触れようとして、それを止めた。

代わりに両手で肩を押し、咲夜の正面に立った。

そして、ゆっくりと話しだした。

暁 「縁を切ろうとした。文字通りの意味で、な」

縁とは本来見えぬ、実体を持たないものだ。

しかし、暁には羅生門によって物理的に切ることができる。

暁 「首筋から右心房を通りそのまま振り抜く。それだけで縁を切り裂ける」

戻し切り。

突き詰めたその技術は、それだけのことをして縁のみを切り、決して傷を付けぬことを可能にした。

暁 「縁を切るというのはよく聞く話ではあるが、これは生易しいものではない。切れた縁に関する情報の一切を失うことになる。つまりは現在のみならず、過去は無論、未来までもなくす。思い出すことも、すれ違うことも可能性は皆無だ」

咲夜 「やろうとしたことはわかった。でも、なんでそんなことを?」

咲夜の疑問はそこだ。

何故こんなことをする必要があったのか。


暁「初めの違和感はレミリアの部屋にてお前が来たことだ」

その時、咲夜は危ない気がした、と言った。

しかし、気がしたというのは何故か。

元来感知能力の優れた咲夜であるが故に、暁はそういうものなのだと、その時は気にしなかった。

暁 「永琳との一戦もそうだ。今になってしまえば、疑問を持つべきだった」

あの永琳が咲夜を、招いてしまうようなへまを犯すだろうか?

そんな中、咲夜は暁の下に辿り着けた。

明らかに不測の事態だろう。

暁 「確信を得たのは今朝の話だが。レミリアに一通り話を聞いた」

フランとの一件での余りに確信に満ちた発言。

既にやるべきことを理解した行動。

確かに暁は咲夜とレミリアが必要だと考え、紅魔館に向かっていたが、それは紅魔館に近付けば見つけてもらえると考えていたわけで、森に入る前に会えるとは思ってもみていなかった。

暁 「パチュリーから聞くに、俺を持ち帰った際『持って帰らなければいけない気がした』と言ったらしいな」

こくりと咲夜が頷いた。

確かにそういった感覚を覚えたのだ。

暁 「此処からは暫く意識を失っていたから推論になるが、咲夜が俺を拾った当時、防衛本能として能力を無差別に振りまいていたと考えられる。幸い咲夜のように一次的に効果を発揮するものではない。従って、何の変化も無かったはずだ。しかし、その効果範囲に咲夜が踏み込んだ」





無を有にする程度の能力。





器がなければ発動しない能力。





その器になったもの、咲夜と暁の間に無かったもの。







「運命…ってやつだろうな、それもとびきり強力な。」

紅魔のメイドと地上の刀。

あり得なかった運命。

だからこそ、反転して強力な運命で結ばれることとなった。

多少の強制力を伴うそれをだ。

時に片割れの危険を察知し、時に強い思いを伝える。

まさに以心伝心。

だからこそ、これを知ったとき暁は切らねばならぬと、そう思った。

暁 「思考誘導。心理誘導。それ以外にもこれだけ強力な縁だ。他の細い縁をいくつも引きちぎっただろう」

つまり、未来を変えた。

出会わないはずのものと出会い、出会うはずのものと出会わない。

伝わらないものを伝える。

知らないはずのことを知る。

もし。

もし、今抱いている感情が作られたものだとしたら。

それを知ってしまったなら。

そして、それをなくす手段を持っていたとしたなら。

暁 「斬るべきであろう。それだけの業だ」

暁は断言した。

否定すべき言葉ではない、とでも言うように。

Re: 東方刃暁録-sword morn record - ( No.125 )
日時: 2014/04/02 14:14
名前: 黄昏。 ◆nYYwYkb6HQ (ID: H4NN94uP)

咲夜「違う」

だからこそ、咲夜は否定した。

今なら、レミリアの問いにも胸を張って答えられると、そう思いながら。

咲夜 「私は暁のこと、家族みたいに思う」

家族への親愛。

大好きな兄、そんなところだろうか。

暁 「それは縁のせいだと……」

咲夜 「違う!」

言い切らせず、咲夜は否定する。

そういうことではない、と。

咲夜 「この気持ちは作り物かもしれない。でも、それがどうしたの?」

言い放った。

そんなことなんでもない、と。

咲夜 「作り物かどうかなんてどうでもいい。ただ、今抱いているこの気持ちは本当。だったらそれ以外になにか必要?」

暁は言葉が出なかった。

確かに因縁というような言葉があるように、縁がもたらす感情はプラス方向であるとは限らない。

だが、縁が強制力をもって感情を持たせたことも恐らく事実である。

そのことを理解した上で、こう言っているのだ。

レミリア 「そういう結論にいたると思ってたわ。流石私の咲夜ね」

咲夜 「お嬢様?」

咲夜の後ろから突然現れ、頭をグリグリ撫でながらレミリアが言った。

パチュリー 「全く、考え過ぎなのよ」


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