二次創作小説(新・総合)

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AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡【完結】
日時: 2021/08/11 22:27
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ADnZqv8N)

どうもです、灯焔です。
自作品でも表明しました通り、逃走中のゲームパート以外の場面をこちらに連載いたします。
コネクトワールドの住人達がどんな運命を辿っていくのか。物語の終末まで、どうぞお楽しみください。



※注意※
 ・登場するキャラクターは全て履修済みの作品からの出典です。かつ基本的な性格、口調等は原作準拠を心掛けております。が、表記上分かり易くする為キャラ崩壊にならない程度の改変を入れております。
 ・原作の設定が薄いキャラクター等、一部の登場人物に関しては自作設定を盛り込んでおります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
 ・誤字、脱字、展開の強引さ等ございますが、温かい目でお見守りの方をよろしくお願いいたします。
 ・今までのお話を振り返りたい方は、『逃走中#CR』の過去作をご覧ください。
 ・コメント等はいつでもお待ちしておりますが、出来るだけ『場面の切り替わりがいい』ところでの投稿のご協力をよろしくお願いいたします。
  また、明らかに筋違いのコメントや中身のないもの、悪意のあるもの、宣伝のみのコメントだとこちらが判断した場合、返信をしないことがありますのであらかじめご了承をよろしくお願いいたします。



<目次>
【新訳・むらくもものがたり】 完結済
 >>1-2 >>3-4 >>5-6 >>7 >>8 >>9-13 >>19-20 >>23-27

【龍神が願う光の世】 完結済
 >>31 >>34-36 >>39-41 >>42-43 >>47-56 >>59-64

【異世界封神戦争】 完結済
 >>67-69 >>70-72 >>73-75 >>76-78 >>79-81 >>82-83 >>86 >>87 >>88-90 >>93-98

<コメント返信>
 >>14-16 >>17-18 >>21-22 >>28-30
 >>32-33 >>37-38 >>44-46 >>57-58 >>65-66
 >>84-85 >>91-92 >>99-100

#CR09-8 光り輝くそれは、未来か ( No.47 )
日時: 2021/04/19 22:48
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

~???~



 大典太がこの檻に閉じ込められて暫く経った頃、ふとソハヤが何かを思い浮かべたように目を見開きます。その表情の変わりように少し驚く大典太でしたが、何か悪いことをしでかすという訳ではなさそうにも思えました。様子を見るように黙ってじっと彼を見続けていると、ソハヤはこんなことを彼に言い始めたのでした。



ソハヤ「なぁ兄弟。腹減ってねえか?」

大典太「……藪から棒にどうした」

ソハヤ「いやー、ここに来てから随分と時間経ったし、刀剣男士だって腹は減る。だって本丸に厨があるんだからな!料理はあんまりしたことねぇけど、兄弟の為なら腕を振るうぜ。何か作ってやろうか?」

大典太「…………」

ソハヤ「腹、減ってないのか?」

大典太「……よもつへぐい…」

ソハヤ「そんな黄泉の国みたいな言葉並べるなって兄弟~!!」



 この世界が『幻』だと薄々勘付いていた大典太、思わずソハヤの好意に『ヨモツヘグイ』と返してしまいます。ヨモツヘグイとは、『あの世のものを食べると、この世に戻れなくなる』ということを指し示している言葉です。例え生きている人間でも、死の国の食べ物を口にしてしまえば帰れなくなる。それは付喪神も一緒だと感じていたのでしょう。
 その言葉に分かりやすくショックを受けるソハヤ。しかし……彼は意外にも『ここは死の世界じゃねえ』と返しては来ませんでした。



ソハヤ「まぁ、分からんでもないけどな。兄弟の『ヨモツヘグイ』って言葉」

大典太「……さっき口にした言葉と何か関係があるのか?」

ソハヤ「あぁそうだよ。さっき『この本丸は変だ』って言ったよな?そう口にしたら妙に納得できてさ。すっと頭の中に入ってくるというか。この部屋…っつーか、本丸の霊力もなんか悪いものに思えてきて…。今までそんなことは無かったのにな」

大典太「……大方、主の術やらなんやらで認知できないようにされていたんじゃないか。あくまであんた達の主は姿の見えていないそいつ。主命を果たす立場である以上、逆らうことは出来ないだろう」

ソハヤ「そう考えるのが自然なのかもなー…。もしかしたら、俺が気にしていないだけで霊力の高い刀剣とか、『神剣』って言われてる刀剣は既に何か感じ取っているのかもしれねぇな」

大典太「……誰も入ってこないから確かめようがないがな」

ソハヤ「つーか、下手に真実探りに動いたら本体ぽっきり折られるかもしれねぇからな…。気付いてないフリして調べるしかないのかもな」

大典太「……ふふ。そうだな」

ソハヤ「あっ。兄弟やっと笑った!いやー、そんなに優しく笑うんだな!もっと豪快に笑えばいいのによ!」

大典太「……どうせ俺が笑っても周りが引くだけだ…」

ソハヤ「そんなことはねぇって!兄弟は図体デカいんだから絶対迫力あるぜ!俺が保証する!」



 割と見当はずれのグーサインを出され大典太は狼狽えました。どうやら本気で大典太が大笑い出来る刀剣男士だと信じているようです、このポジティブ系写し刀。しかし、先程ソハヤが口にした言葉『ソハヤの他にももしかしたら霊力が高い刀であれば、この本丸の霊力が『邪気』だということに気付いているかもしれない』ということには同意をしました。……そうであれば、事情を察知してもらえれば協力してくれるかもしれません。―――この部屋に『来れば』の話ですが。
 そうしてしばらく話を進めていると……ふと、出入り口にひょこっと小さな影が目に入りました。思わずその影を目で追ってみると、どうやらソハヤの方を向いているようでした。影はスタスタとこの部屋に入って、彼の近くで立ち止まります。その刀剣男士はふわふわした桃色の髪の毛をした、可愛らしい少年の姿をしていました。



「ソハヤさん。主君がお呼びですのですぐに向かってほしい、とのことです」

ソハヤ「おう、ありがとな秋田。悪いな兄弟、主に呼ばれちまったんじゃあ仕方ねぇ。ちょっくらこの部屋空けるわ」

大典太「あ、あぁ…」

ソハヤ「帰りに厨でなんか食えそうなもの持ってきてやるよ!あ、ヨモツヘグイとかじゃねぇからな!」

大典太「……よもつへぐいのことは、悪かった」

ソハヤ「いやいや気にしてねぇから!落ち込むなって!腹が減ったら兄弟もっと落ち込むだろ?なくても俺が何か作って持ってきてやるから心配するな!そんじゃ、すぐ戻るから待ってろよ兄弟!」



 『秋田』と呼ばれたその少年は、ソハヤが主に呼ばれていると伝言を届けに来たようでした。流石のソハヤでも主に呼ばれているならば行かなければならない。彼は自分の太刀を再び腰にかけ、大典太の方を振り向いて元気よく手を振りながらこの部屋を去ったのでした。
 思わず小さく手を振り返す彼。―――ここまで好意的にしてくれる兄弟刀に、彼は『よもつへぐい』と口にしてしまったことを少し後悔していたのでした。

 ソハヤが部屋からいなくなって少しした後、今度は秋田が自分の目の前に正座で座ってきました。同じ刀剣男士とはいえ、自分より随分と図体の小さい身体。思わず後ずさる大典太でしたが、目の前の少年はそれを臆せずこちらに口を開いてきます。



秋田「あの…もしかして、あなたが大典太光世さんですか?」

大典太「……そう、だが。近づかない方がいい…。あんたみたいな小さいのが近付けばきっと怪我をする…」

秋田「ソハヤさんの時は普通に喋ってたと思います!僕も刀剣男士の一振なのですから、大丈夫です!」

大典太「(あの時はあいつの場の流れに完全に飲まれてただけなんだがな…)
    ……あんたもだが、ソハヤノツルキも太陽みたいな奴だ、と思っただけだ…」

秋田「えっ?太陽?『おひさま』のことですか?確かにソハヤさんはみんなを元気づけてくれますよね!確かにおひさまみたいです!でも、僕もおひさまみたいだと言われるなんて…なんだか照れるなぁ」



 ふわふわした笑顔で話してくる目の前の少年の着ている服に、大典太は見覚えがありました。記憶を辿って行きついた先は―――前田でした。前田も、彼と同じような服装を着用していた。そこで大典太は気付きました。彼も前田と同じ『藤四郎』なのではないかと。
 そう思った彼は、少しだけ秋田に近付き疑問を投げかけてみるのでした。



大典太「……あんた。『秋田』と言ったな。俺が間違っていたら別にいいんだが…『藤四郎』兄弟の一振か?」

秋田「そうです!初対面なのによく分かりましたね!……僕の他にも藤四郎兄弟に会ったことがあるんですか?―――なんか、僕達のことを知ら無さそうな口ぶりでしたので…」

大典太「……前田以外は会ったことも無い。もしかしたら政府で見たかもしれんが、そこまでは覚えていない…」

秋田「大典太さんは政府刀だったんですね、びっくりです。……実は、僕。あなたがここに来てからずっと、大典太さんとお話してみたかったんです。でも、ずっとお一振で体育座りしてたので、近付けなくて…」

大典太「……それは、すまなかったというか…。俺と話しても何も得になることはないと思うんだが」

秋田「そんなことはありません!僕、元の主の下でもあまり外に出たことが無くて。この本丸も、不思議なんです。主君に『お散歩したい』と申し出ても、本丸の中しか許可をしてくれませんし…。だから、外の世界にずっと憧れを持っていたんです」

大典太「……そう、だったのか。俺と一緒だったんだな…」

秋田「そうなんですか?では、お近づきの印に握手をしましょう!」



 そう言われ、檻の中にずい、と伸びてくる小さな手。傷付けたくない本能がふっと身体を遠ざけます。しかし、その手が引っ込むことはありません。目の前の少年は、にこにことこちらに好意的な笑顔を向けてきています。
 せっかく伸ばしてくれた手を振り払うのは失礼だ。そんなことが過ぎった大典太は、恐る恐る彼に自分の右手を近づけます。そして―――。壊さないように、優しく彼の手をぎゅ、と握ります。



 ―――その時でした。
































『………っ?』

大典太「(兄弟の時もそうだ…。なんなん、だ?)」



 ―――ソハヤの時と同じ。秋田の霊気もどこか変わったように大典太には感じられました。
 当の秋田は驚いた表情のまま固まっています。まるで今まで何かを封じられていたのを思い出したかのように…。しかし、頭の整理が追いつかず表情が動いていないのだと大典太は予測していました。
 頃合いを見て、大典太は秋田に優しく声をかけます。



大典太「……おい。大丈夫か」

秋田「……あっ!あの、すみません。急に固まってしまって…」

大典太「……いや。あんたが固まっていたから気になっただけだ。気にするな…」

秋田「大典太さんって、怖い人かと思っていたんですけど…優しいんですね!」

大典太「……さて、どうだろう」

秋田「そういえば。大典太さんって、外の世界にいたことがあるんですよね?もしよければ、そのお話を聞かせてください!僕、外の世界を沢山冒険するのが夢なんです!」



 唐突に秋田の口からそんな言葉がぽろっと零れ落ちました。外に出たと言えば、姫の病気を癒す為に蔵から出されたくらいだ……と思いかけましたが、コネクトワールドでの思い出なら少しは話せるかもしれないと彼は思っていました。
 屈託のない純粋な瞳。政府や蔵で人間に酷い目にあわされ、コネクトワールドで優しさに触れた彼には眩しすぎました。



大典太「……足利家でも、前田家でも戦に使われたという話はなかったから出来ない。そもそも何かを『斬った』記憶なんて……死体を斬ったくらいだ。だが……。あんたが望むのであれば、その『先』の話なら出来る」

秋田「本当ですか!外の世界って、どんな感じなんですか?!」

大典太「外は…眩しい。あんたみたいな明るい連中が沢山いるよ。太陽の光、風の音、揺蕩う水の波紋……『美しい』と思えるものが沢山ある。あんたにとっては、その1つ1つがきっと『大切な思い出』になるんだろうな」

秋田「おひさまの光…。浴びたことが無いです。僕、浴びてみたい。風も感じてみたい。水の音も、沢山の体験をしてみたいです」

大典太「……だが。眩しい、楽しいことだけじゃない。外には辛く、悲しい思い出も沢山ある。あんたが想像しているよりずっと…。きっと、外に出たらあんたはそんな思いをするかもしれない」

秋田「それでも構いません。大典太さんの言う『辛い』も『悲しい』も、僕にとっては大切な思い出の1つになる筈ですから!」

大典太「……そうだな。あんたがその気持ちを忘れないでいる限り……『心が死なない』限りは、きっと大丈夫だろうな」



 そう言った瞬間、大典太の脳裏にサクヤの姿が思い浮かびました。最後に悲しい顔をさせてしまった、『守る』と改めて誓った主の姿を。……あの後、自分を心配しているのだろうか。仮に彼女が気にしていなかったとしても、本部の連中があくせく自分を探しているに違いない。
 ―――彼女は無事なのだろうか。大典太の脳裏に、そんな言葉が続けて浮かびます。



大典太「……主は、大丈夫だろうか。俺のせいで傷ついたりしていないだろうか…」

秋田「へ?大典太さん……お仕えになっている主君がいるのですか?」



 大典太のその言葉に、きょとんとした顔をする秋田。そんな彼に、大典太は優しい顔をしてこう返したのでした。



大典太「……あぁ。とても優しい、純粋な心を持っている。凛とした主だよ。俺なんかが近侍でいるには勿体ないくらいだ…」

秋田「そうなんですか…。とっても素敵な主君にお仕えしているんですね、大典太さん!」



 大典太があまりにも優しい口調で言葉を零すので、思わず秋田も笑顔になってそんなことを返します。その場には穏やかな空気が流れていました。ずっと、この優しい時間が続けばいいのに。大典太はそう思ってしまっていました。



 ―――しかし。その『優しい時間』は唐突に終わりを迎えるのでした。





『秋田。主からの主命だ。この部屋から今すぐに立ち去るように、と』









 秋田ではない、無機質な声。思わず二振が振り返ってみると、そこには白いローブをすっぽりと被った複数の男性が立っていました。自分と同じような霊力を感じる為、恐らく彼らも『刀剣男士』なのでしょうが―――。顔はローブですっぽりと覆われ、誰なのかを確認することは出来ません。余談ですが、『山姥切国広』でも『山姥切長義』でもありません。
 秋田は誰か薄々感じ取っていたようですが、後ろの大典太を守る為に口を噤んでいました。きっと……どんな刀剣男士であろうが、優しい彼は心を痛めてしまうだろうから。



秋田「……どうしても、ですか?」

『あぁ。主命だからな。ここから立ち去らない場合、反逆の罪とみなしお前を処罰することになる』

大典太「……俺ならともかく、仲間内の刀剣男士に向かって『処罰』とはな…」

『貴様にはまだ分からんだろうが、それくらい厳しい本丸なのだ。ここは。秋田、分かったらこの部屋から出て、大人しく粟田口の部屋に戻っていろ』

秋田「…………」

大典太「……秋田。俺のことはいい。あんたが傷つく方が俺は辛い」

秋田「……わかり、ました。戻ります…」

『良い子だ。後で一期が菓子を持っていくと言っていたから待っていると良い』



 秋田は少しでも抵抗したいらしく、ちらりと大典太の方を見やります。しかし、大典太は『俺のことはいいから、自分の身を守ることを最優先にしろ』と優しく諭してきました。彼らの口調からして、大典太に用事があるのは明確。しかし、自分が抵抗することで大典太にも影響が出るのなら…と、秋田は自分の部屋に戻ることを承諾したのでした。
 心配そうに大典太をもう一度見ますが、彼は『心配するな』と優しい視線を彼に送り続けていました。そうしていなければ、きっと秋田はここに残るだろうから。秋田は寂しそうに、そのまま部屋を後にします。



秋田「大典太さん。また来ます。絶対、来ますから!」

大典太「……あぁ」



 そのまま秋田の足音が聞こえなくなるのを聞いた後、大典太は白いローブの刀剣男士に向き合います。先程とは違う、睨みを聞かせた目で。ローブの下の顔が誰かは分かりませんでしたが、関わると碌なことにならない。それだけは理解していました。
 刀剣男士達はその瞳に何も反応を見せず、ただ立っているだけ。



大典太「……何の用だ。ソハヤノツルキはどうした」

『貴様には関係のないことだ。随分と我々の本丸に肩入れするのだな』

大典太「……あんた達、一体なんなんだ。この本丸で俺をどうしたいんだ」



 大典太は冷静に、あくまでも聞き出す為に目の前の刀剣男士に問う。しかし―――冷たい声で返って来たのは、思いもしない言葉だった。














































『すぐに分かる。主から貴様を『蔵』に封印するよう主命が出たからな』

大典太「な―――!」



 その言葉を聞いた瞬間、目の前の檻がガラガラと崩れ落ちる音がした。もう一振の刀剣男士が、自分を捕えている檻を破壊したのだ。大典太は悟る。『彼らから逃げなければならない』と。
 しかし、大典太は足を封じられており立つことが出来ない。それに気付いた刀剣男士が『あの写し刀も少しは仕事を果たしたか』と零した。



大典太「―――っ……!!」

『あぁ。下手な抵抗はよした方がいいぞ』

大典太「何―――? ………! っ……」




 刀剣男士に腕を掴まれ振りほどこうとしたところ……彼の脳裏にびりり、と強い痛みが。何かで攻撃されたのか。気付いた時にはもう遅かった。視界が真っ暗になり、重い身体は地面へと横たわる。
 意識を失った大典太は足の枷を外され……。刀剣男士達に拘束された。そのまま、本丸の奥へと連れ去られてしまうのだった―――。

#CR09-9 思いの力は道を造る ( No.48 )
日時: 2021/04/20 22:05
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

~運営本部 メインサーバ~



 アカギから『大典太を見つけたから一旦戻る』という連絡を受けたサクヤ達。アイクやエフラム、石丸くんも呼び戻し彼らの帰還を待ちます。先程彼と連絡を行っていた通り、メインサーバのテレビは珍しくついており、エンジンシティのはずれで『ポケモンバトルではない戦闘が起きている』と流れていました。
 メフィスト亡き今でも道化師は動くのか―――。サクヤはその事実に、ただ胸を痛めます。元を辿れば、彼らもメフィストによる被害者だというのに。眉間にしわを寄せる彼女に何か思ったのでしょう。アクラルがツンツンと肩をつついてきました。



アクラル「オーイ。顔が引きつってんぞ。折角光世を助けられるところまで来てるってのに」

サクヤ「そう、なんですが…。今残っている道化師達も、元を辿ればメフィストの傀儡として魂を捻じ曲げられてしまった者達。助けられるならば、彼らもどうか助けたかったのですが…」

三日月『そう思うのは誇り高いことだとは思うが、神とて全てを救える訳ではなかろう?青龍殿のその気持ちが、せめて彼奴等の『真の心』に届いていればいいのだと俺は思うのだがなぁ』

石丸「人間でも、魔族でも、神様でも…。一人ひとりが出来ることには限度がある。何でも救えるとは…残念だが、思わない方がいい」

サクヤ「頭では分かっています。……この悲しく思える気持ちも、光世さん達がくださった大切な贈り物。―――石丸くんの仰る通り、せめて彼らの魂が無事天に昇ることを祈りたいものです」

エフラム「話し中良いか。アカギが帰って来た。すぐ作戦会議を開けるそうだ」

サクヤ「ありがとうございます。お通ししてください」



 そんなことを話し合っている間に、どうやらアカギ達が本部へと到着したようです。すぐに彼らをメインサーバへと通し、大典太救出の為の作戦会議を練ることにしました。
 まずは、念話で軽く聞いた今の大典太の状況と、エンジンシティを覆う『邪気』について明らかにすることにしたのでした。



アカギ「…戻った。光世、エンジンシティのはずれにいた…。変な素材で出来た神棚に、鎖でぐるぐる巻きにして置かれてた…」

数珠丸「『置かれていた』というよりは、『縛られていた』という表現の方が正しいのではないでしょうか。神棚から邪気の力を感じました。恐らく……彼らが知る木材が使われていそうです」

大包平「神棚から出ているのか、大典太光世から出ているのかは知らんがな。神棚から溢れた邪気が街を覆い、ポケモン達の生命力を奪っていることに間違いはなさそうだ」

アクラル「元の素材が分かんねー木材に光世本体がぐるぐる巻きになって縛ってある、ね…。確実に光世の霊力になんかしら仕掛けする為の装置だろ。木材も、『この世界じゃないもの』を使えばいい話だしな」

マルス「それに…。鬼丸殿が言っていたね。『大典太殿に、ベリトが邪気を注いでいる』と。それも一因していそうだ」

サクヤ「成程。ベリトは邪神の力を得ている訳ですか。ならば……『永久』に近い力も使えるのでは? 以前、メフィストが自分の心臓を代償に、過去のトリコロシティをつぎはぎにした上で上書きしたように」

石丸「話を纏めると…。大典太さんは今『邪神が用意した神棚に縛られていて、ベリトに邪気を注がれている状態だ』ということになるのかな?」

三日月『そうだな。それだと―――少し急がねばならんかもしれんぞ主。ここを発つ前に話していた内容を覚えているだろうか?『大典太は、鬼丸の代わりに』捕まってしまったのだと。そう考えると―――。相手は一刻も早く大典太を手中に納めたいはずだ。邪気を注ぐ量も、速度も、鬼丸の比ではない速さで進んでいるのかもしれん』

アイク「その『鬼丸』とかいう剣士…。具体的にどれくらいの期間邪気に侵されていたんだ?」

サクヤ「私が光世さん達三振をご老人から託された時―――。それが、今から150年程前になります。鬼丸さんと童子切さんを奪取した後、アンラは恐らくすぐに邪気を注ぎ始めた筈です。……150年分。光世さんには一気に邪気が注がれていることになります」

エフラム「―――急がないと手遅れになるな」

数珠丸「青龍殿もご存じの通り、現在はずれにて鬼丸殿と道化師が刃を交えております。いくら戦に長けた鬼丸殿とはいえ…未知なる力を持っているであろう道化師にいつまでも対等に渡り合えるとは思えません。
    作戦遂行次第、私達も加勢したいのですが」

大包平「それに…。あの道化師、鬼丸国綱に斬られた声帯が即座に再生していた。逃げる直前に見た。―――俺が加勢すれば別だが、あいつ一振だけではいずれ限界が来るだろう。俺も数珠丸殿に賛成したい」



 大典太を救う為には彼を縛っている『神棚』と、彼に邪気を注いでいる『ベリト』双方を潰さなければならないことを確信した一同。しかし、ベリトは現在鬼丸とタイマンで戦っています。更に…大包平も見ていました。ベリトの傷が『再生』していることを。彼からその言葉を聞いたサクヤは、とある『可能性』を彼らにぶつけるのです。



サクヤ「再生…。道化師とはいえ、生身の身体でそんなことが出来るとは思えません。邪神の力を使い、メフィストの様に『本体』と『分身』を分けている可能性があるかもしれません。恐らく、鬼丸さんが戦っているのは『分身』の方。本体を探し出して叩いて、分身を実体化させねばベリトを完全に倒すことは出来ないでしょう」

ごくそつ「ほ~ん。あのクソ道化師は心臓と身体を別々にしてたけど、つのつのくんと戦ってる奴もおんなじことしてるってことだよねぇ?」

大包平「それは分かった。だが……『本体』とやらの居場所は分かるのか。青龍」



 恐らくベリトもメフィストと同様に、アンラの力を使って自分を2つに分けている。今鬼丸と戦っているのは『分身』の方。だから自我も薄いし、斬りつけてもすぐに傷の修復を始めてしまったわけなのですね。しかし、それが分かったとはいえ。『本体』の居場所を探し当てなければ大典太は救えません。
 大包平の問いに、サクヤは少し考えこう告げます。



サクヤ「恐らく。ベリトの本体は大典太さんの本体が見ている『幻』の向こう……。ベリトが創り出したであろうそこの『核』を担っているものかと思われます。大典太さんの本体に触れることが出来れば、その道は開ける筈」

アクラル「『核』か…。そこに入り込まねーとベリトを潰せねーってことか」

サクヤ「そこで、です。光世さんの邪気を祓う任務―――。私に一任していただけないでしょうか」



 ベリトの本体は大典太の本体の向こう―――。ベリトが創り出している『幻』の核を担っているのではないかとサクヤは推測しました。いくら大典太本体に邪気が注がれても、大典太の心が折れるか、彼の霊力が尽きるかしなければ完全に邪気に染めることは出来ません。現に鬼丸が自我をまだ保っていられる状態なのですからね。
 ベリトの『核』に入り込む危険な任務。それを、なんとサクヤは1人でやらせてほしいとみんなに言ったのでした。その言葉にいの一番に否定の言葉を口にするアクラル。



アクラル「核を叩くっつても、サクヤ1人で行く必要はねーだろ!いつも通り、みんなでつっこみゃいいだけの話だ」

サクヤ「兄貴。先程光世さんは『神棚に拘束されていた』と仰られていましたよね?恐らく―――ベリトは『光世さんの霊力を削ぎ、心を殺す』ことと、『光世さんに邪気を注ぐ』ことを同時に行っている筈。それに、あの神棚のサイズでは『核』への道を開けるのはどう頑張っても1人分が限界です。
    ですから。私が責任をもって行って参ります」

大包平「……それで、大典太光世共々道化師の闇に呑まれればどうなる。貴様は世界の『核』の1つなのだぞ。貴様が消えたことによる障害は計り知れないことくらい俺も分かる」

サクヤ「―――今までの私ならばそう答えたでしょう。しかし……今はもう違う。私も光世さんを助けたいのです。彼と共に、未来を造りたい。平和な世界を守りたい。
    今だけは、自分の感情に素直になってもいいと、彼らが教えてくれたのだから」

数珠丸「……成程。もし青龍殿が無理をしてそう仰っているならば止めましたが―――。どうやらそうではないようですね。……大典太殿と『本来の契約』を果たす決意が出来た、という解釈でいいでしょうか?」

サクヤ「好きに受け取っていただいて構いません。それに…事は一刻を争います。恐らく…。鬼丸さんにも時間は残されていないはずです」

三日月『なんにせよ、青龍殿の覚悟が決まったことはよーく分かった。ならば、俺からも託すとしよう。本来ならば主と共に現場に向かい、鬼丸を援護すべきなのではあるが…』

石丸「大丈夫だ。アクラルさんが行きたそうにしているから、僕達がメインサーバを守ることになりそうだぞ!」

アクラル「なっ… なんで分かりやがる?!」

アカギ「…顔に書いてんだよお前…分かりやすすぎ…」

大包平「数珠丸殿がそう仰るならば…後は俺も言うまい。だが、行くならば必ず大典太光世と共に戻ってこい。あの闇の中でくたばるなど、俺が許さん」

サクヤ「ありがとうございます。―――負ける時のことは考えておりません。必ず光世さんと共に戻ってまいります」



 サクヤ、今回に限っては理論より感情を優先したいそうで。大典太を助けられるところまで来ているのに、世界の為に見捨てられないと。彼女がベリトの闇に吞まれてしまった場合、きっとコネクトワールドは崩壊を迎えることでしょう…。サクヤにはその選択肢を潰す覚悟を決めていました。『必ず戻ってくる』と。そう言い切りました。
 メインサーバにいた一同も彼女の熱意に賛同し、メインサーバに残る面子とはずれに再度向かう面子を話し合って決めたのでした。



サクヤ「前田くん。本部のことを任せてしまう形になって申し訳ありませんが…。ユウリさんとカブさんにも被害が降りかかる可能性がございます。貴方はここに残り、皆さんと一緒にお2人の護衛をお願いいたします」

前田「はい。本部のことは僕とマルス王子、石丸殿と三日月殿、アイク殿とエフラム殿にお任せください!必ず主命を果たしてみせます。
   ―――主君。必ず。必ずです。大典太さんと一緒に戻ってきてくださいね」

サクヤ「はい。前田くんに悲しい顔もさせられませんから」

前田「では、約束の指切りげんまんをしましょう!クルーク殿に教えてもらったのです」



 前田はそう言ってサクヤの目の前に小指を差し出してきました。彼からは『必ず約束を守るということの証明』だと、指切りを教えてもらったそうなのですが。どこかずれているような気がしますが、今は気にしないことにしておきましょう。
 サクヤは自分の小指も出し、前田のものに重ねます。





『ゆびきりげんまん』

『うそついたら はりせんぼんのます』





『ゆびきった!』





 必ず大典太と話をする。そして、彼と共に戻ってくる。もう一度彼と、本部で笑える日常を過ごす為に。サクヤはそんな思いを胸に、前田と指切りをしました。
 既にエンジンシティに再訪する面子はメインサーバから去っており、残っているのはサクヤだけになっていました。 



サクヤ「それでは……行って参ります」



 彼女は振り向いて一礼した後、メインサーバを去って行ったのでした。



ユウリ「大丈夫なんですかね、みんな…。心配だなぁ」

カブ「なぁに、大丈夫さ。彼らの心には熱い炎が燃えている。ぼくにはそう見える。
   ―――必ず、やり遂げてくれるはずだよ。ぼく達はそれを祈って、ここで待たせてもらおう」




 去って行った入口を見ながら、ユウリとカブはそんな会話をしていたんだとか。

#CR09-10 呪いの本丸と刀剣男士 ( No.49 )
日時: 2021/04/21 22:20
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

~??? 粟田口の部屋~



秋田「いち兄、まだかなぁ…。『ここで待ってれば来る』ってさっきの人達は言ってたけど…」



 秋田は、先程白いローブを被った刀剣男士達に言われ、大人しく粟田口の短刀が使っている部屋に戻っていました。ご存じの通り、粟田口の短刀はこの本丸の最大派閥。それ故、秋田が寝泊りしている部屋は一番大きいものが宛がわれていました。
 しかし、現在はもぬけの殻。みんなどこかに行ってしまっているのか、秋田だけが広い畳の部屋の中にぽつんと座っていたのでした。いつまでたっても短刀一振すら来ないこの状況に、彼は少し恐怖を覚えていました。



秋田「誰も来ないなぁ…。みんな、どこへ行っちゃったんだろう…。それに…あの白い布の人達、様子がおかしかった。一体何の用事であの部屋に来たんだろう」



 先程大典太が捕らわれていた部屋にやってきた白フードの刀剣男士達。秋田は彼らについて気にしていました。霊力で誰かは薄々勘付いていましたが、『嫌な予感』が拭えないのは変わっていませんでした。あの後この部屋に黙って戻ってきてしまったが、大典太は大丈夫なのだろうか。自分が身代わりになって、とんでもない目にあってはいないだろうか。
 1つ心配を始めると、また1つ、また1つと心配の種は増え続け秋田の頭の中をぐるぐると駆け巡ります。



秋田「うーん…。いち兄も来そうにないし…。こっそり大典太さんの様子を見に行ってみよう。見るだけなら…他の人達も許してくれるよね?」



 そう決めた秋田はすっと立ち上がり、辺りを見回して誰もいないことを確認。こっそりと大典太が捕らわれていた部屋へ戻る為、自分達の部屋を抜け出したのでした。












 ―――自分が普段過ごしている本丸なのに、どこか不気味な雰囲気を秋田は感じます。まるで、お化け屋敷のような。周りの刀剣男士がみんなお化けのように、足がないのではないかといわれのない恐怖を薄々感じていました。それを表すように、彼が歩いている本丸は不思議なほどに静か。秋田が歩く足音の他には何も聞こえてきません。
 怖い気持ちを抑え込み、少しずつ目的地へと歩いていく秋田。その途中で……彼は『とんでもないもの』を見つけてしまうのです。



秋田「―――あっ……!」







































ソハヤ「クッソ…。やっぱり主には敵わねーってか…。思った以上に直撃の被害でかすぎる…」



 秋田が見つけたのは―――。戦装束の所々が破け、傷を負っているソハヤノツルキの姿でした。確かソハヤは自分が主の元へ行くように呼んだはず。なのにどうして傷付いているんだろう。色々な思惑が頭の中を駆け巡りますが、まずはソハヤの無事を確かめなくてはなりません。
 彼はすぐソハヤの元に駆け寄り、声を掛けます。



秋田「ソハヤさん!大丈夫ですか?!何があったんですか?!」

ソハヤ「……秋田、か。お前から話しかけてくれるなんて珍しいじゃねぇか」

秋田「そんなことを今言っている場合ですか!どうしたんですかその傷…!」



 ソハヤはあっけらかんとした表情で秋田に顔を向けますが、傷が響くのか時折痛そうな表情を表に出しています。それに慌てた秋田は『どうしてこんなことになった』と思わず問いかけます。すると、彼は秋田の目を見て真っすぐこう答えました。



ソハヤ「お前に呼ばれて主の部屋に行ったんだよ。そしたら…主に直接攻撃されてさ。受け流す余裕もなかったから直に喰らっちまって…。主、俺を始末しようとしてた。どこからか白い布を被った刀剣男士も連れてきてさ。
    逃げてる途中でお前と鉢合ったってとこか」

秋田「主君に…攻撃されたんですか…?!」

ソハヤ「あぁ。『お前は真実を知りすぎた、だからもうこの本丸にいる必要はない』ってさ。俺が抱いた嫌な予感…やっぱり、主に関係していることだった。俺はギリギリそれに気付けたことを主に悟られちまったんだな…」

秋田「あの。あの。意味が分かりません。その怪我で喋りにくいとは思うんですけど…。順を追って説明してくれませんか?」



 秋田はソハヤの言葉に混乱していました。使えるべきである主君に攻撃されたこと。自分に『出ていけ』と言った白い布を被った刀剣男士が他にもいたこと。そして―――彼らが今ソハヤを追っているということ。
 ソハヤは『知ってはならない真実を知った』から始末されそうになっていたと話していましたが―――。そのどれもが秋田には信じられないものでした。今まで仕えてきた主君とソハヤの言葉、どちらを信じればいいのか…。それを見極める為に、彼は無理を承知でソハヤに事の顛末を聞くことにしたのです。
 彼は秋田のその言葉に一瞬顔をしかめます。しかし……秋田の表情は真剣そのものでした。隠しても彼はきっと聞き出すまで帰らないだろう。そう思ったソハヤは腹を括り、秋田に『真実』を話す決意をしたのでした。



ソハヤ「いいか秋田。よく聞いてくれ。この本丸は……いや、ここは『本丸なんかじゃねえ』。兄弟以外の奴ら全員、あいつに本体をぶん取られてる。ここは……俺達が『俺達でなくなるように』造られた、幻の空間なんだ。ここにいればいるほど…俺達は、俺達でいることを忘れちまう」

秋田「えっ…?僕達が、『僕達で無くなる為に』造られた場所…?」

ソハヤ「あぁ。主から直接聞いた。つーか、問い詰めた。そしたら……拍手をされた後にそう言われたんだよ。俺達の本体は全部『天界』って所の蔵に仕舞われているらしい。管理してる部下が数振落とした、とか言ってたが…」

秋田「僕達は…自分で自分じゃ無くなったら、あの白い布を被った刀剣男士さん達みたいになっちゃうんですか…?」

ソハヤ「あぁ。自分が何者かも分からなくなった刀剣男士なんだってよ。それくらい……主の悪い霊気が巡っちまったんだって」

秋田「僕達もそうなるのかなぁ…」

ソハヤ「そう…だったかもしれねぇ。けど、兄弟が来てから…兄弟に腕を掴まれてから、なんだか俺の中を巡ってる悪い霊力が少し祓われたっぽくてさ。俺もこの本丸がおかしいことに気付けたんだ。
    ―――なぁ。その質問をぶつけてくるってことは…秋田もそうなんじゃねぇのか?」



 そう言われた秋田は大典太と握手をした時のことを思い出します。確かに、大典太と手を繋いだ時……不思議な気持ちになったことを自覚していました。そこからでした。この本丸が怖くなったのは。
 秋田が正直にそのことを話すと、ソハヤは納得したように頷いてくれたのでした。



ソハヤ「秋田。さっきも言った通り、兄弟以外の本体は天界にある。だから…俺達はここから出られない。でも、兄弟は別だ。天界に俺達が『ある』こと知らなかったみたいだし…。兄弟の本体だけは、兄弟だけはここから出られるんじゃねえかって考えて。あいつらに追われながらも、そう考えてた」

秋田「そう、なんですか…。そうだ、僕大典太さんのいる部屋に行きたくてここを通ってたんです。大典太さん…部屋にいるか分かりませんけど…。ソハヤさん、一緒に行ってくれませんか?傷、直してからでいいですけど…」

ソハヤ「俺も確認してぇところではあるけど…。秋田、自分の部屋に戻れって『白い布の刀剣男士』に言われたんだよな?だったら…兄弟に直接手を出しやがった可能性が高い。例えば……兄弟の自我ををいの一番に無くす為に『特別な処置をする』選択をした、とか」

秋田「…………。とりあえず、あの部屋に行ってみましょう!大典太さんがいなくても、主君の部屋とは離れています。時間は稼げるはずです!」



 ソハヤから真実を聞いた秋田。意外にも冷静に受け取っていました。自分達が今いるこの場所は『幻』であること。そして―――大典太以外は『ここから出られないであろう』ということ。せめて大典太はここから出そうと、逃げながら模索していたようです。
 そして、秋田に放った言葉から『既に大典太はあの部屋にいないのではないか』と推測を立てるソハヤ。とりあえず大典太を探さねば目的は果たせない。秋田は、彼がいないか確かめる為に大典太の捕らえられていた部屋に行こうとソハヤに進言しました。彼の傷も応急処置しなければなりませんからね。
 ソハヤもそれを承諾し、秋田に支えられながら大典太のいた部屋に向かおうと足を進めた、その時でした。
































『その必要はない』





 背後から、無機質な声。驚く秋田に、眉間にしわを寄せるソハヤ。『見つかった』と。顔はそう物語っていました。
 二振が振り向くと、そこには白い布を深く被った刀剣男士が立っていた。一振ではない。後ろにずらずらと並んでいる為、軽く五、六振―――。一部隊分はいるのではないかとソハヤは判断した。



『逃げる必要はない。主から主命があった。貴様らをこれより、反逆の罪で破壊する』

ソハヤ「『破壊』ねぇ。秋田が真実に気付いてたのも察知済みってか。短刀にも容赦ねぇなあ」

『太刀であろうが短刀であろうが関係ない。我々は主命に基づき、貴様らを破壊するまで」

秋田「破壊って…。なんでそんなことが平気で言えるんでしょうか…」

ソハヤ「色んな意味で時間遡行軍と同じような存在になっちまった、ってことなのかな。けど、そう簡単にやられるわけにはいかねえんだよ」



 秋田を守るようにソハヤは太刀を抜刀し、向かってくる刀剣男士達に向かって構えました。その反応を見ても刀剣男士は無反応。その無機質さが、逆に二振の恐怖を煽ります。
 後ろで短刀を取り出そうとした秋田に、ソハヤはこっそり後ろ手でチャリチャリ、と秋田に『とあるもの』を手渡しました。秋田が手を開いてそれを見てみると、鍵のような形状をしていました。不思議そうにそれを見つける秋田に、こっそりとソハヤは告げます。



ソハヤ「それ、蔵の鍵だ。審神者部屋からくすねてきた。こいつらを俺が相手している間に、秋田はその鍵を持って奥の蔵まで行ってくれ。誰もいない場所で自我を無くすなら、兄弟なら蔵の中が一番効果あるだろうと思うからよ」

秋田「蔵…。いくつもありますけど、それ全部の鍵を持って来たんですか?」

ソハヤ「あぁ。流石にどの蔵に閉じ込められているのかは分かんねぇからな。それに―――『この世界のものじゃない霊力』を微かに感じるんだよ。もしかしたら……何か干渉があったのかもしれねぇ。もし、他の奴らと鉢合ったら……一緒に兄弟を助けてほしい」

秋田「ソハヤさんはどうするんですか?」

ソハヤ「俺?こいつら何とかしたらすぐ追いかけるからよ。だから―――その隙に」



 ソハヤが秋田に渡したのは蔵の鍵。大典太が閉じ込められているなら恐らくそこだろうと予測してくすねてきたものでした。秋田はソハヤからその説明を軽く受けた後、再びじっと鍵を見つめます。
 その間にも二振ににじりよる刀剣男士達。既に刀を抜いており、動き出したら戦闘に巻き込まれることは必須です。



ソハヤ「頼む、秋田。いまこの本丸で信用できるのお前しかいねぇんだよ」

秋田「…………。―――分かりました。ソハヤさん、絶対来てくださいね!」

ソハヤ「おうよ。絶対行ってやる。だから―――迷わず行けっ!!!」



 目の前の太陽のような写し刀は、そう言った後何かを取り出して刀剣男士達に投げつけました。『それ』は地面に落ちた後、大きな音を立てて煙を湧き上がらせました。驚く秋田でしたが、すぐに気付きます。『鶴丸国永』がいたずらで作ったおもちゃの煙玉だと。
 刀剣男士達の動きが止まっている間に、残りの力を振り絞って煙の中に歩いていくソハヤ。その背中を見守りながら―――秋田も鍵をぎゅっと握りしめ蔵の方向まで走って行ったのでした。

























ソハヤ「……『反逆』かぁ。一体どっち側の言葉なんだろうなぁ?」




 そう言葉を残し、写し刀は『真実』を守る為剣を振るうのでした。

#CR09-11 鬼は道を切り開く ( No.50 )
日時: 2021/04/23 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: UruhQZnK)

~エンジンシティのはずれ~



『―――ふっ!!』

『―――ぁッ!!』



 鋼と鋼がぶつかる音がその場に響きます。サクヤ達が再びエンジンシティへと向かっていた頃、その場に一振残っていた鬼丸はベリトと死闘を続けていました。
 鬼丸も少々傷を負って服が破けている箇所はありますがまだまだ軽傷。流石天下五剣と言ったところでしょうか。しかし、問題はベリトの方でした。服は確実に鬼丸が斬って破けた跡があるのに、彼の身体には何一つ傷がついていません。いや、『ついていない』のではない。『斬った傍から再生している』のだ。
 いくらベリトを斬ってもその場で傷の再生を繰り返す為、流石の鬼丸も若干息が上がっていました。つばぜり合いから飛びのき、息を整えながら次の攻め手を考えます。



鬼丸「(厄介だな。いくら急所を斬ってもすぐに再生しやがる。正に『鬼』か)」



 鬼。別の社会現象起こした例のアレっぽく聞こえてきますが今は置いておきましょう。どうやら今までの内に致命傷になりそうなところも斬ったらしいのですが、ベリトはそれすらも再生してピンピンしています。やはり『本体』をどうにかしないとこいつにもダメージを与えられない、ということなのでしょうね。
 ベリトの分身は我を忘れ、ただメフィストへのうわ言を口からぽろぽろと零します。



ベリト「メフィストさま…。メフィストさまのお役に立たなくては…。僕達は誇り高き道化師なのだから、メフィストさまがいなければ全てが終わってしまう…」

鬼丸「(分身だからなのかは知らんが、自我がどんどん薄れているな。屍…には例えづらいが。だが…… ―――っ!)」



 ベリトを見つつ、そんなことを考える鬼丸。しかし、彼の理性にもタイムリミットが近付いていました。ベリトの猛攻を全て受ける決意をしてからしばらく経ちましたが、鬼丸の視界に黒い靄がかかっています。アンラに注がれている『邪気』。それが、鬼丸の理性を覆いつくそうとしているのです。
 一度はプレロマで完全なる包囲を免れましたが、今は彼女達を頼ることも出来ません。せめて、こいつをのして彼らから離れるまでは理性を保とう。その気力だけでなんとか抑えつけていたのでした。
 視界に入ってくる靄を首を横に振って払い、太刀を構え直します。



鬼丸「(このまま斬り続けても…あいつは崩れない。あいつらと協力しなければこいつは倒せないのは分かっているが…おれの『心』が壊れるか。どちらが先だ)」



 まるで踊り狂うようにはずれを移動するベリト。少しでも動きを止めようと再び鬼丸は刀を振りかざし走り始めました。身体の勢いに任せ振り下ろそうとしたその時。
 ―――『彼の真後ろ』から気配が。……太刀の一撃が来る。彼はそう判断し、低姿勢になります。それと、同時に。











『雑魚相手に何を手こずっている鬼丸国綱ッ!!!』











 優美で、力強い一閃。気配に気づいて低姿勢を取らなければ、自分も斬られていただろうと思う程の威力のそれは、まっすぐベリトに飛んでいき動きを止めました。彼は既に『避ける』ことも忘れてしまったようで、ただゾンビのように傷を再生させながらこちらを睨みつけるのみ。
 鬼丸が姿勢を正したと同時に、一閃を放った張本人が現れました。



大包平「随分と息が上がっているではないか。やはり俺が残った方が貴様にとって良かったようだな!」

鬼丸「ちっ。邪魔しやがって」

アクラル「そう言う割には随分と息上がってんじゃねーか。無理は禁物だぜ鬼丸」

アカギ「光世を助ける術…。なんとかひねり出した…。鬼丸があいつ倒せない理由…はっきりしたから…」

鬼丸「煩い。おまえ達に心配されるほどおれは柔じゃない」



 大包平の言葉と共に、エンジンシティに戻った一同が顔を覗かせました。その中に、決意を胸にしたサクヤもいます。鬼丸は彼女の瞳を見て『覚悟を決めたのか』とどことない安堵感を覚えたのだとか。
 煩い、と突き放しながらもどことなく嬉しそうな鬼丸。そんな表情を覗かせながら、彼はベリトに向き直ります。



数珠丸「鬼丸殿。貴方もご存じでいらっしゃるとは思いますが…。かの魂は『分身体』。いくら傷を付けてもすぐに再生し、こちらの刃は通りません。断ち切らねばならない『本体』は、あの神棚の中の世界。大典太殿が捕らえられている世界の『核』として存在しています」

鬼丸「つまり。大典太を助けた後に『核』を潰してから戻る必要があるのか」

ごくそつ「そういうことだねぇ。ま、でんくんのことはサクヤに任せてぼくたちはあのきもちわるいのの攻撃ひきつけちゃおうよ。サクヤがでんくんを助けてる間に神棚ぶっ壊されたら元も子もないし」

アクラル「サクヤ。こいつは俺達がひきつける。その隙に神棚まで向かってくれ。お前なら―――あの『幻』に入れるはずだ」

サクヤ「承知しました。体力勝負となりそうですが…。どうにか持ちこたえてください」

大包平「誰にものを言っている。傷が再生するとはいえこの人数。相手は単独だぞ。倒す必要がないのならば特別注意する必要もないだろう」



 サクヤを大典太の元まで向かわせるため、各々戦闘態勢をとる一同。サクヤはそれに感謝し、最短距離で神棚まで走っていきました。
 ―――しかし。神棚に何かされたら困るのはベリトも同じ。自我が薄まってもそれは分かるのか、攻撃の照準をサクヤに向けます。






ベリト『なんで邪魔ばっかりするんだよぉ……!!邪魔するなよぉぉぉ!!!』






 サクヤに向かって放たれた光線。なんとしても神棚に触れられる前に始末しなければなりませんでした。しかし―――。



アカギ「…お前の相手はこっちだ道化師…。悪いけど、俺達にも『やらなきゃならないこと』ってのがあるから…」



 光線はアカギの蹴りで氷の塊と化し、地面へボトボトと落ちていきます。ベリトは邪魔するなと言わんばかりに次々攻撃を繰り出しますが、サクヤ以外の面子が各々対処し攻撃は彼女に指一本触れることはありませんでした。
 その隙に、サクヤは大典太の元―――。正確には『大典太光世が封じられている神棚』にまで到着しました。



サクヤ「話には聞いていましたが…。この世のものではない材質を使っている。私でもギリギリ対抗できるかどうか、ですね」

数珠丸「青龍殿!時間的な猶予はあまりないものと思ってください。必ず大典太殿を連れて、戻ってきてください。それまでこの屍は我々が何とか抑えておきます」

鬼丸「……ここまで来たんだ。大典太と腹を割って話せ。おまえにも、あいつにも、それが必要だ。―――行ってこい」



 神棚の前を陣取るように数珠丸と鬼丸が立ち、小さな声でサクヤに声を掛けます。彼女はそんな二振に深く一度頷き、神棚の方を向き直りました。
 目の前には大典太光世が鎖で封じられている。『鬼丸国綱の代わりをする』には程遠い、お粗末な仕舞い方だ。サクヤはそう思いました。……気持ちを落ち着かせたサクヤは意を決して神棚の蓋に触れ、ぱかりと開きます。触っただけでも分かるかなりの量の邪気。普通の者ならば、それだけで精神を汚染されていたでしょうね。
 そして―――露わになった『大典太光世』に静かに触れながら祈ります。



サクヤ「(光世さんのいる場所まで……。―――私を お導きください)」



 彼女の祈りが天に届くかのように、身体は淡い光を放ちながら消えてしまいました。これで、サクヤも『あの本丸』へと突入したことになるのでしょうね。
 後ろで光った気配を感じ、数珠丸は鬼丸に語りかけます。



数珠丸「……鬼丸殿。青龍殿はきっとやってくれます。帰還を信じて、我々に出来ることをしましょう」

鬼丸「言われなくても分かっている。あいつは…そんな柔な奴じゃない。あの大典太の心を動かしたんだぞ。そんな奴に出来ないと思うはずないだろ」

数珠丸「―――そうでしたね。大典太殿の『盟友』が仰るならば冥利に尽きるでしょう。……鬼丸殿。邪気の方は大丈夫なのですか。理性は……いつくらいまで持ちますか」

鬼丸「……正直、自分でも予測できないところまで迫ってきている。だが……あいつが戻ってくるまでは理性で抑えておく。おまえ達を襲うことはしない」

数珠丸「―――分かりました。しかし…。くれぐれもご無理はなさらぬ様」



 鬼丸の邪気…。数珠丸も感じ取っていたようで。彼の理性はいつまで持つのでしょうか。それも心配です。




























~呪いの本丸~



サクヤ「ここは…」



 地面の感触を覚え、目を開けるサクヤ。そこに広がっていたのは『豪華な門』でした。まるで、日本有数の貴族が所有していそうな大きなお屋敷の門。門は外壁と繋がっており、その中に『本丸』らしき城がちょこっと見えています。
 そして……この『門』自体から強大な邪気を感じる。この本丸自体がアンラやベリトの『邪気』だということに気付くのに、そう時間はかかりませんでした。



サクヤ「成程。アンラの邪気でこの空間を創り出し、『核』をベリト本体に任せたのですね。光世さんだけではない……『刀剣男士』自体を完全な自分の手駒にする為に。刀剣男士の皆様も気付かないうちに邪気を注いで…『心』でも壊して人形にしようとでも思ったのでしょうかね」



 大典太だけを閉じ込めるにはあまりにも広すぎる。つまり、『他の刀剣男士』もいるのではないかと推測したサクヤ。実際その通りなのですが、今救出出来るのはあくまでも本体が『目の前にある』大典太だけ。道中味方になってくれそうな男士を見つけても、今は助けることは出来ない事実に心が痛みます。
 彼以外の刀剣男士を助けるには、まず本体を見つけそこに注がれている邪気を祓わなくてはなりません。どこにあるか分からない以上、まずはそこを特定する必要がありますからね。



サクヤ「考えていても仕方がない。今は光世さんを救う……私が為すべきことをこなしましょう。恐らく…門を開いた瞬間、私の存在はこの空間の全てに認知されるはず。それに反応して、光世さんが何かアクションを起こしてくださればいいのですが…。
    いや、彼が意識を保っていられない程の拷問を受けている可能性だってある。『たられば』の想像はやめましょう」




 サクヤは意を決して、門に手をかけ力を込めます。鍵はかかっていないのか、扉は大きさに反例して軽く開いてしまいます。中に漂う、門の外よりも強い邪気。耐えられるだろうか。サクヤは一瞬迷いましたが、そんなことを考えている時間も余裕もありません。
 彼女は一つ深呼吸をした後、本丸の中へと静かに入って行ったのでした。

#CR09-12 幻を断ち切れ! ( No.51 )
日時: 2021/04/24 22:29
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: UruhQZnK)

 呪いの本丸へと突入したサクヤ。入口で感じた通り、禍々しい邪気が敷地内に漂っています。こんなところに刀剣男士を長い間放置していたら…。彼らの精神が汚染されてしまうのは目に見えていました。
 それは大典太も同じ。それに、彼は他の個体よりも異常に霊力の高い刀剣男士…。彼が邪気に完全に呑まれてしまうのも時間の問題。急がなければ、と心に刻み、サクヤは進みます。



サクヤ「光世さんの霊力は…随分と奥の方にある。既に閉所に閉じ込められたのでしょうか。それに―――この邪気。やはりアンラとベリトのもので間違いない。メフィストが倒れてからも、残った道化師達を手先で脅すか操るか何かして動かしていたのでしょう」



 ―――異世界の神の考えることは分からない。静かに目を閉じてサクヤはそう考えていました。今まで力に怯え、欲に溺れた同族は嫌なほど見てきましたが…。アンラのやり口は、そのどれとも違う『異端』なものに感じました。ただこの世界を滅ぼしたいのか。この世界を手中に納めたいのか。それとも…何か別の意図があるのか。
 どんな理由にせよ、この場所に長居は出来ない。サクヤはそう悟り、早めに大典太の居場所を突き止めることを誓ったのでした。





 本丸は最初から『誰もいない』かのように静まり返っています。大方自分がここに突入したことを受け、どこかに隠れているのだろうと察しました。外がすぐ見えるように縁の部分を歩きつつ、本丸の奥を目指します。
 進むにつれ、大典太の霊力が強まっていくのを感じました。自分でも恐れている程の強さ。だからこそこうして察知が出来ているのだとサクヤは彼に感謝し、無言で歩みを続けていました。―――その時でした。






















 ―――壁にもたれかかっている刀剣男士を発見したのは。



 その青年は大典太と同じような材質、デザインの戦装束を身に付けていました。そこでサクヤは勘付きます。もしかしたら彼が大典太の『兄弟刀』なのではないかと。まさか彼と戦闘して倒してしまった…?そこまで考えて、サクヤは首を横に振ります。大典太の霊力は青年のいる場所よりももっと奥から感じる。つまり、ここに彼はいない。
 兄弟刀であろう刀剣男士は肩で息をしていた為、気を失っている訳ではなさそうでした。サクヤは放っておけず、青年の元まで駆け寄ります。



サクヤ「大丈夫ですか?!」

ソハヤ「…………?」



 サクヤの声に、かすれていた目が開けられる。白い布の刀剣男士達の戦力を何とか削ぎ、秋田のところまで行こうとしていた途中で意識を失いかけていたことをソハヤは自覚しました。そりゃそうです。一振で五、六振―――普通の本丸であれば『一部隊』分の刀剣男士と戦を繰り広げていたのですから。装束が破け見えている皮膚には痛々しい傷が生々しく残っています。
 ソハヤはサクヤを見て察しました。―――彼女から微かに『あの』大典太の霊力を感じたのです。そして確信しました。彼女が大典太の『主』なのではないかと。



ソハヤ「……あぁ。そっか。あんたが兄弟の…」

サクヤ「『主』と思っていらっしゃるなら…半分正解で半分不正解です。そんなことよりも、です。まずは傷の手当てを致しましょう。といっても、人間にやるようなやり方で刀剣男士の傷を治したことが無いのでなんともいえないのですが…」

ソハヤ「そのことなら問題ねぇと思うけどよ…。ここ、『本丸』ですらねぇしな」

サクヤ「―――貴方からその言葉が出てくるとは思いませんでした。てっきり刀剣男士の皆様は皆、自覚せず心を壊しているものと思っていましたので…」

ソハヤ「実際そうなんだよなぁ。―――俺も兄弟と話すまではそうだったしな」

サクヤ「光世さんとお話されたのですか。―――怪我の処置をしながらでいい。お話を聞かせてはもらえませんか」



 ソハヤがこの場所の真実に気付いているような言動をしたことにサクヤは驚いていました。大典太はともかく、彼は『地上に落ちていた刀剣』ではないはずです。実際、大典太と交流するまでは彼も『一員』だったのですし。
 とりあえず彼の怪我の応急処置をする為、近くの空いている部屋へとソハヤを連れていきました。











サクヤ「…………」

ソハヤ「―――あー。そういやこの部屋に纏めてたんだっけか。わりぃな」



 連れて行った…のは良いのですが。入った部屋で見たものは、白い布を被った刀剣男士達。倒れているのが5、6人いることから彼らがソハヤと戦っていた男士達なのでしょう。意識を失っているのか、彼らが動く様子はありません。そして……不気味なほどに、サクヤは彼らから『個』を感じることが出来ませんでした。
 出来るだけ縁側に近い場所にソハヤを座らせ、忍ばせていた包帯で怪我をしている場所を巻き始めました。



サクヤ「そういえば…貴方も『三池』の刀なのですか?」

ソハヤ「おう。そうだぜ。『ソハヤノツルキ ウツスナリ』…。坂上宝剣の写しだ。―――あんたも知ってる通り、大典太光世とは兄弟だな」

サクヤ「成程。どことなく光世さんと霊力が似ている感じがしていたのはそれが理由だったのですね。……あの刀剣男士も、元は自我を持った個体だったのでしょうか」

ソハヤ「言葉通りだよ。全員片づけた後にこっそり布の中覗いてみたんだが―――。俺の知ってる刀剣男士も何振かいた。……みんな、自分を忘れちまったんだ」

サクヤ「…………」



 ソハヤの手当てを続けながら、サクヤは目で倒れている刀剣男士を見やります。彼らも自分が望んでこうなったのではない。自分達の知らないうちに『自分を忘れていく』―――。何故そんな恐ろしいことを考えついてしまうのか。もし関わったのがあの邪神でなければ……彼らも、きっと彼ららしい刀生を送れていた筈だったのに。言いようのない虚しさがサクヤを包みます。
 ―――そんな表情が顔に出ていたのか、ソハヤは心配そうにサクヤを覗き込みました。



ソハヤ「あんたが気にするこたねぇ。あいつらに拾われちまったんだから、こうなるのが『運命』だったんだろうよ」

サクヤ「ですが…。生きたまま自分のことを忘れ『人形』のようになるなど…。私には耐えられません」

ソハヤ「……はーん。成程な。そりゃあ兄弟が本気で『支えよう』って思う訳だ。―――俺達の本体。『天界』ってところにあるんだ。天界にある、1つある不気味な蔵。そこに、俺達全振の本体が仕舞われてる」

サクヤ「天界…。どこかにバラバラにして置いてある訳ではないのですね」

ソハヤ「そうでなかったらあいつらだっていねぇからな。この本丸は、その蔵を創り出した『邪神』って奴が生み出した幻の空間だよ。俺達の本体に邪気を注いで、俺達の心を壊す為に作られた、さ」

サクヤ「……本当は、貴方達も一緒に救ってあげられたらいいのですが」

ソハヤ「それは出来ねぇ話だってのは分かってるよ。この空間で脱出できるのは、あんたと繋がってる兄弟だけだ。だから……兄弟には俺みたいになってほしくなかったからさ。―――どうにかして脱出させてやりたくて。俺は主に初めて反抗した」



 そこまで話したところでサクヤは合点が行きました。ソハヤがここまで自我を保っていられるのは、その霊力の強さ、多さもですが『大典太と話し、触れ合ったから』だということに。大典太には他のものの『邪な力』を祓う能力がある。だからこそ、ソハヤにここまで決断させることが出来たのだと。
 そう思いつつ、彼女はソハヤから手を離しました。小さな生傷は残ったままですが、放置すれば致命傷になりそうなところは応急処置が出来たようですね。ソハヤの苦しんでいた表情も多少和らいでいます。



サクヤ「…終わりました。激しく動けばまた傷が開いてしまいますが、歩くくらいなら問題ないかと思われます」

ソハヤ「ありがとよ。……本来なら俺もあんたの敵なんだろうに。情けまでかけてもらってさ」

サクヤ「いいえ。光世さんを助ける行動をとった。それだけで貴方は私の信頼に値する刀剣男士です、ソハヤさん。―――貴方の思いも一緒に光世さんに届けて参りますので、安心してください」

ソハヤ「そうかい。……それじゃ、俺も兄弟と、ここの本丸に閉じ込められた奴らと、あんたの為に動くとするか」



 そういうと、ソハヤは重い身体を持ち上げて立ち上がりました。一瞬だけよろけましたが、そこは歴戦の猛者。すぐにバランスを取って立ち直りました。そして、彼女の方を振り返ってこんなことを告げるのです。



ソハヤ「兄弟はここから奥にある蔵に閉じ込められてる。『秋田藤四郎』っていう刀剣男士に蔵の鍵を渡して先に行くよう伝えてあるんだ。兄弟を探しにここまで来たんだろ?早く行ってやれって」

サクヤ「ありがとうございます。ですが……ソハヤさん、貴方はどこへ」

ソハヤ「ん? ―――ちょーっと、ケジメつけに行くんだよ」



 蔵の鍵を秋田に渡したことをサクヤに伝え、ソハヤはそのままサクヤが立っている方向とは逆に身体を向けます。嫌な予感が胸によぎったサクヤは思わず質問し返してしまいますが、彼は自信を持ったような口調でそう返したのでした。
 『ケジメ』。―――一体誰の為の。何の為の。問うてもはぐらかされて、真意を知ることは出来ませんでした。



ソハヤ「倒れてるあいつらも、元はと言えば俺達と同じ。だったら……こんな場所ぶっ潰して、ちゃんと眠りにつかねぇとな。
    あんた。秋田のこと……頼むぜ」



 ―――写し刀はそんなことを呟き、走ってその場からいなくなってしまったのでした。



サクヤ「…………。三池の刀って、どうしてこうお人好しばかりなのでしょうか」



 サクヤもそんなことを口にしながらも奥の方向を見ます。ソハヤからの情報だと、奥に蔵があり、そこに大典太は閉じ込められている、と。蔵の鍵は『秋田藤四郎』という刀剣男士が持っているのだ、と。
 そうなると、まずは秋田を探さねばなりません。ソハヤを手当した時間で、大典太に邪気が入り込む時間を与えてしまったとも言い換えられますからね。
 『時間がない』。そう捉えた彼女は、身を整え本丸の奥へと移動を始めたのでした。















~呪いの本丸の奥~



 本丸から出て、一本道になっている庭を歩いていたサクヤ。その目線の先に、頑丈な建物が3つ、4つ程見えてきました。屋根が瓦で出来ている倉庫のような建物。まごうことなき『蔵』です。
 蔵は本丸から隠れるように草木に覆われており、普通に探したのでは到底見つけられない場所に建っていました。ソハヤの情報がなければ、もっと時間がかかっていたかもしれません。そして……蔵の前の草むらに隠れている桃色の髪を、彼女は見つけたのです。



サクヤ「この場には似つかわしくない桃色の髪…。もしかして彼が」



 探していた『秋田藤四郎』なのではないかと推測し、近づくサクヤ。どうやら相手方はこちらに気付いていないようなので、静かに近付いた後声をかけます。



サクヤ「……失礼します。少しお伺いしたいことがあるのですが…」

秋田「―――! え、えっと、何の用でしょうか? 僕、かくれんぼしてたんです。粟田口の兄弟と…」

サクヤ「―――誤魔化さなくても大丈夫です。事の顛末はソハヤさんから窺っております」

秋田「あ…。ということは…。あなたが『外部の人』…」

サクヤ「?」

秋田「い、いえ!こちらの話です。ソハヤさんから話を聞いてきたんですよね。鍵は僕が持っています。大典太さんは蔵の中での奥の奥……。一番古い蔵に閉じ込められているみたいです」

サクヤ「いくら光世さんが平安刀だからってそこまでしなくてもいいではありませんか…」

秋田「古い方が邪気も注ぎやすいとか、そんな感じなんじゃないでしょうか? 多分、蔵の中は想像以上に邪な力で溢れています。多分……僕じゃ、耐えきれない」

サクヤ「大丈夫。私が行って光世さんと話をしてきます。その為に来たのですからね」

秋田「……大典太さんの言う通りだ。とっても純粋で、優しい主君なんだなぁ。僕も大典太さんと少しだけお話して、ここで悪い刀剣男士になっちゃ駄目だと思いました。だから―――お願いします。大典太さんを助けるのに協力してください!」

サクヤ「―――お礼を言うのはこちらの方ですよ秋田くん。まさか私に味方してくださる刀剣男士がいるとは思ってませんでしたから。……光世さんのいる蔵まで、案内していただけますか?」

秋田「は、はい。蔵はこっちです!」



 サクヤの純粋な眼差しを見て、大典太が言っていたことがしっかり理解できたと秋田は思っていました。彼女に大切に思われるなんて、大典太さんは幸せ者だなぁ、とも。秋田はそんな暖かい気持ちを覚えたのでした。
 彼に連れられ、立派な蔵を3つほど通り過ぎていきます。そして―――。奥まったところにある古めかしい蔵の前で秋田は立ち止まりました。蔵の外観からでも感じる、アンラの邪気…。思わずサクヤはしかめっ面をしてしまいます。



サクヤ「アンラの力が蔓延している…。光世さんがいたとして、自我を保っているかどうか…」

秋田「自我を失っていても、何度も何度も。声をかければ、きっと大典太さんに届くと思います。それくらい強い絆で、あなた達は繋がっていると…僕は、思うから。
   ―――鍵、開けますね」



 頑丈にかかっている鍵を秋田は器用な手つきで外していきます。カチャカチャとした軽快な音を響かせ、南京錠は封を破られるのでした。
 そして―――彼女に道を譲ります。自分では邪気に耐えられないから、と。



秋田「僕は外で誰かが来ないか見張っています。その間に―――大典太さんを…」

サクヤ「ありがとうございます。……正直、自信はありませんが。光世さん…待っててください。今、向かいます」




 サクヤが扉に力を込めると、ギギギと重苦しい音を響かせて扉は開きます。そこから溢れてくる邪気。確かに秋田ではすぐに倒れてしまう程の強いもの。サクヤですら立っているのが精一杯でした。
 しかし……この中に閉じ込められている大典太はもっと苦しい思いをしている。『彼を助け、自分の気持ちを伝える』。サクヤは覚悟を決め、暗闇の中へと静かに歩いて行ったのでした。


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