二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡【完結】
日時: 2021/08/11 22:27
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ADnZqv8N)

どうもです、灯焔です。
自作品でも表明しました通り、逃走中のゲームパート以外の場面をこちらに連載いたします。
コネクトワールドの住人達がどんな運命を辿っていくのか。物語の終末まで、どうぞお楽しみください。



※注意※
 ・登場するキャラクターは全て履修済みの作品からの出典です。かつ基本的な性格、口調等は原作準拠を心掛けております。が、表記上分かり易くする為キャラ崩壊にならない程度の改変を入れております。
 ・原作の設定が薄いキャラクター等、一部の登場人物に関しては自作設定を盛り込んでおります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
 ・誤字、脱字、展開の強引さ等ございますが、温かい目でお見守りの方をよろしくお願いいたします。
 ・今までのお話を振り返りたい方は、『逃走中#CR』の過去作をご覧ください。
 ・コメント等はいつでもお待ちしておりますが、出来るだけ『場面の切り替わりがいい』ところでの投稿のご協力をよろしくお願いいたします。
  また、明らかに筋違いのコメントや中身のないもの、悪意のあるもの、宣伝のみのコメントだとこちらが判断した場合、返信をしないことがありますのであらかじめご了承をよろしくお願いいたします。



<目次>
【新訳・むらくもものがたり】 完結済
 >>1-2 >>3-4 >>5-6 >>7 >>8 >>9-13 >>19-20 >>23-27

【龍神が願う光の世】 完結済
 >>31 >>34-36 >>39-41 >>42-43 >>47-56 >>59-64

【異世界封神戦争】 完結済
 >>67-69 >>70-72 >>73-75 >>76-78 >>79-81 >>82-83 >>86 >>87 >>88-90 >>93-98

<コメント返信>
 >>14-16 >>17-18 >>21-22 >>28-30
 >>32-33 >>37-38 >>44-46 >>57-58 >>65-66
 >>84-85 >>91-92 >>99-100

#CR10-1 ( No.67 )
日時: 2021/07/02 22:42
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

~本部 メインサーバ~



サクヤ「ヘラ様。ゼウス様と連絡は取れますでしょうか?」

ヘラ「いいえ…。繋がりませんわ。何かあったのでしょうか…」



 ヘラから『門』が開かれた連絡を受けた一同は、早速天界へと乗り込む準備を始めていました。現在は一部の面子のみがメインサーバへと残っており、各々戦支度を整えているようですね。
 そんな中、ヘラはゼウスと現状について話し合おうと連絡を取っていたようなのですが―――繋がらない。浮気性のゼウスでも、ヘラは正妻です。彼女の連絡を無視するなんてことは絶対にしないと思うのですが…。サクヤは念の為、ゼウスが『門』の調査に向かった後彼から連絡は来たか尋ねました。しかし、ヘラは首を横に振るばかり。何かあったと考えるのが自然でしょう。



サクヤ「そうですか…。ゼウス様に何かあったのでしょうか」

ヘラ「……まさか、青龍殿。貴方ゼウス様があの邪神に『負けた』とでも仰いますの?!ゼウス様はこの世界全ての天界を治める全知全能の神です。いくらこの世界の守護神と呼ばれる貴方といえど、その発言は許せませんわね!」

サクヤ「いえ、別にそのような用途で発言したわけでは…」

ヘラ「言い訳ご無用!!ゼウス様を侮辱した罪、その身体で償いなさい!!」



 どうやらサクヤが質問したことが癪に障ったようで、ヘラはお冠。この女神、結構短気なんですかね。ヘラはサクヤの胸倉に掴みかかろうとしましたが、寸のところでパシリと大きな腕に掴まれました。目線の先を見てみると、顔には出していませんが明らかに不機嫌な大典太の姿が。



大典太「…………」

三日月『今はそんなことで怒っている場合ではないぞ女神殿。俺達には時間が無いのだ。青龍殿を殴っている暇があったら連絡を続けてくれ』

ヘラ「……フンっ!ゼウス様と繋がったら貴方のその言葉、そっくりそのままゼウス様に申し伝えますからね!」

サクヤ「光世さん。三日月さん。助かりました…」

大典太「……あんたも少しは抵抗する気力を見せてくれ主。……肝が冷えてかなわん」

サクヤ「短気でも上位の神ですので、手を出したらそれこそ離反になってしまうのです…」



 大典太の気迫と三日月の言葉で我に返ったヘラは、捨て台詞のような言葉を吐きつつもゼウスと連絡をとることに集中を始めました。最初からそうすればいいものを。この世界のオリュンポス十二神って曲者揃いなんですねぇ。
 ―――しかし、中々連絡は繋がらないらしく。心配になったのか、クルークがぼそりと口にします。



クルーク「でも…。空の上の神様達と連絡が取れないとすると…。どのタイミングで天界に向かえばいいか判断できないから困りますよね」

数珠丸「結果はまだ芳しくないようですし、まだ時間がかかるものだと思った方がいいでしょうね」

大包平「……ええいまどろっこしい!今すぐ天界に向かい直接要件を聞けばいいだけの話ではないのか!」

ごくそつ「それができりゃもうここ発ってるって大包平く~ん。きょひょ!」

サクヤ「さて。まだ時間がありそうですし…。今のうちに我々が出来ることは…」



 未だに焦る表情のヘラをちらりと見やり、サクヤがそう口にしたと同時でした。メインサーバのテーブルの近くから、真っすぐ手を挙げる人物が1人。
 目が覚めるようなオレンジ色の髪の毛の少年―――翔陽が『はい』とサクヤに見えるように手を挙げていたのです。翔陽に話すよう伝えると、彼は真っすぐこちらをみてこう言ったのでした。



翔陽「あの!おれ達全員が天界に向かう訳じゃないのは最初に聞きました。改めてそれについて確認を今のうちにした方がいいんじゃないかなと思って」

アクラル「確かにな。向こうに行ってから確認じゃあ遅すぎる。ヘラがジジイと連絡取ってくれてる間に、俺達の役割分担を確認しようぜ」

サクヤ「成程…。では、改めて今回の作戦についての確認を行いましょう」



 翔陽曰く、『ヘラが連絡を取るのに時間がかかるのなら、今のうちに確認できることはしておこう』とのこと。アクラルもその言葉に乗っかり、役割分担を改めて確認しようと提言してきました。
 サクヤは彼の言葉を受け、一度メインサーバにいる全員を集め役割の確認を始めたのでした。



サクヤ「今回は世界の存続がかかった総力戦です。天界に向かう、と立候補してくれた方については連れていくつもりでおります」

ベレス「流石に戦える人達を全員空の上に連れて行ってしまうと、ここの守りが薄くなってしまうからね。『門』から現れ出でたものは地上にも襲い掛かるということだから…。一部の戦える人達と、戦闘出来ない人達は全員本部の護衛をするんだったね」

MZD「下手すりゃ命落とすかもしれねぇからな、今回の戦い。だから、ミミニャミはジルクと一緒にここで留守番です。ジャックは連れていくけど、ジルクがいるから大丈夫だよな?」

ミミ「ちょっと!わたし達一緒に行くって最初から言ってるよね?!足手まといにならない自身ならあるんだからー!」

ニャミ「MZDのきかんぼう!あたし達戦えないけど避けるの得意だって分かってる筈でしょ?!」

ジャック「オイ。今回は遊びで行くんじゃねーんだぞ。分かってんのかよ。相手は邪神だぞ邪神!」

ニャミ「ふーんだ!邪神なんかよりもっと強い人達あたし達知ってるもん!それに、さっきも言ったけどMZDの度重なる無茶振りのお陰で回避力だけには自信があるからねあたし達。足手まといになるつもりは更々ないよ」



 なんと、ミミニャミはMZD達についていくと豪語していました。今回は命を落とす危険があるかもしれないから絶対に連れていけないと彼女達を本部の護衛に回そうとしていたのですが、本人達から却下されたようで…。いくら否定の言葉を述べられても、彼女達の気持ちが揺らぐことはありません。『絶対に足手まといにならない』と頑なにここに残る選択肢を口にはしませんでした。
 流石のMZDも、今回ばかりは彼女達の意見を貫き通すわけにはいきません。ミミとニャミはポップンにとって大事な要。パーティに必要不可欠な存在です。そんな彼女達を自分のミスで大けがをさせたり、最悪命を落としてしまったなんてことになってしまったら…。MZDにはそんな『最悪の展開』が見えてでもいるのでしょうか。彼女達の気持ちを受けても、首を縦に振ることはありませんでした。
 堂々巡りが続くミミニャミとMZD。ヴィルヘルムも言葉に詰まり、どう彼女達を説得すればいいか分かりませんでした。
 ……そんな折、ジルクファイドが覚悟を決めたようにこう口にしたのです。



ジルク「神。頼みがある。ミミとニャミは俺が守る。だから…彼女達の気持ち、受け止めてやってほしい」

MZD「どういうこと?危険な戦いに巻き込ませたくないから言ってるんだけど」

ジルク「きっと、天界にはジェイドやジェダイトがいる。ミミとニャミはそのことを気にしているんだろう。『話がしたい』。俺にはそう思っているのが伝わっている」

ヴィル「……確かに、彼奴等が天界で待ち伏せている可能性は無い話ではない。MZD、ラピストリア学園で対峙した時―――彼奴は『バックアップがいる』ような発言をしていたのだったな?
    で、あれば。利用する、協力し合っている。どちらにせよ…ジェイドとジェダイトは雲の上にいるのだろうな」

ミミ「うん。わたし達、それが心残りで。せっかくラピストリアでの事件が解決したのに、ジェイドくんはまたラピスの力に吞まれちゃって…。助けてあげたいんだよね。一度は友達になったんだもん。―――心配なんだよ。だから話がしたいんだ!」

ニャミ「お願い!危険だと思ったらすぐに隠れるし…。MZDの邪魔は絶対にしない。だから!」

MZD「……はぁ。わーったよ。お前らと一度こうなるとキリが無いからな。今回はオレが折れてやる。だけど…絶対に無茶だけはすんなよ。自分に危険が降り注ぎそうになったら、オレのこと見捨ててでも隠れろ。いいな」

ミミ「その言葉は聞き捨てならないけど…分かった。絶対に無茶しないって約束する」

サクヤ「話は纏まったようですね」

クルーク「なんか、今のミミさんとニャミさん…。アミティが無理なことを押し通そうとする時にそっくりだったなぁ」

MZD「まぁ、その意見は分からんでもないかな?ミミニャミって結構アミティとタイプ似てる気がすんだよねオレ」

赤葦「では、話の続きに入りたいと思います。木兎さん、大事な話をしてるんですから起きてください。えーと…。拠点に残り本部の守護と、天界との連絡を担当するのが―――」



 ミミニャミとMZDの話もまとまったみたいですね。赤葦がサクヤの言葉を引継ぎ、てきぱきと人員の再確認を行っています。流石は突っ走り気味な主将を抑える副主将。
 えーと。話を聞いたところによると…。天界に行くメンバーと残るメンバー。このような感じになっているみたいですね。
 拠点に残るメンバーが、排球部全員、ムラクモ13班、松野兄弟、ファイアーエムブレムの英雄達全員、BEMANI支部と連絡をとる人達、マリオ、カービィ、ルキナと連絡係として前田。それ以外は天界へ向かうようです。



アカギ「拠点に残る奴らは各支部と連携して…地上に降りてきた邪気の対処に同時に頼む…。あれは…一般の人間には少し浴びただけでも相当な悪影響を及ぼすものだ…」

マルス「分かった。必ず守り通してみせるよ」



 再確認が進む中…。天界へ自ら向かうことを決めた超高校級の生徒達は話をしていました。自分達はサクヤ達のように戦闘が出来るわけではない。出来ると言っても、東条や刀剣を握っている石丸に頼るしかない。
 それでも―――彼らには行かなければならない理由がありました。



天海「多分。いると思うんです。モノクマが…。彼と、決着をつけなければなりません」

石丸「本当に良かったのかい?三日月くんの為に、僕は絶対に行かなければならなかったが…君達までついて来る必要は無かったのだぞ?」

東条「何を言っているのよ。ここまで来たのだから、乗り掛かった舟。最後まで付き合うつもりよ。それがメイドとして、私に出来ることだもの」

罪木「連れないことを言わないでくださいよぉ石丸さん。私達だってやる時はやるんです」

田中「俺様の魔力の高まりを感じないか石丸よ。今…俺様は研ぎ澄まされている。今すぐにでもあの熊の人形を引きちぎれるくらいにはな!!フハハハハハ!!!」

石丸「そう言って君達が引き下がらないから、僕が折れたんだったな…」

三日月『主も無茶をするものだ。もっと堅苦しく『危険なことをせず学校で待っていたまえ!!』とでも言うかと思っていたぞ』

石丸「僕を何だと思っているのかね君は?!」

天海「でも、今の言い方なんだか石丸君にそっくりでした」



 あらら。どうやら希望ヶ峰学園の生徒達はモノクマに会いに行く為に志願したようです。確かにジルクの件にモノクマは関わっていますからね。邪神にも顔を出していてもおかしくはありません。


 ―――別の場所では、不安そうに俯くクレアをグレンが優しく宥めていました。こちらも、天界に向かうことを決めた面子です。



ルーファス「グレンさん。僕が思うに…恐らく。天界に貴方の求める記憶の手がかりがあると踏んでいます。きっと貴方にとって辛い記憶だとは思いますが…」

グレン「分かっている。それでも、私自身だということは変わらない。どんな自分でも…受け入れてみせる。今の私には…素晴らしい友がいるのだから」

チタ「ダイジョブだってチャンクレ!チャングレがキオク取り戻したら、また一緒にノリテツでもなんでもやればいいっしょ!チャンクレとチャングレがランデブーにフォーユーゴナオンなのもオレ待ってるんで!そこんとこシクヨロ!」

クレア「チタさん!からかわないでください!不安なのは事実ですけど…向かい合わなければならない問題なんです。背中を向けてはいられません。私も精一杯お手伝いします。だから…グレンさん。必ず記憶を取り戻しましょう!」

シェリル「わたしも頑張るぞー!おー!……ところでしゃちょーさん。『ランデブーでフォーユーゴナオン』ってなに?」

ルーファス「君は突っ込まなくていい問題だから!それ!」



 天界にグレンの記憶の手がかりがある。ルーファスはそう予測を立てていました。恐らく―――彼にとって、辛い選択を強いられることになるだろうとも。しかし、グレンはそれすら乗り越えると言ってのけました。仲間がいるから。自分は一人ではないのだから、と。そう口にして。


 そして。ヘラを待つサクヤ達の近くでは、刀剣男士達が『蔵』のことについて話をしていました。



大包平「大典太光世。刀剣達は天界にある『蔵』に格納されているのは確かなのだな?」

大典太「……あぁ。複数の刀剣男士が同じことを言っていた。間違いないさ」

大包平「ならば俺達がやるべきことは単純だ。天界に向かい、蔵を破壊し刀剣男士を救出する。きっと同派の刀も俺の助けを待ちわびていることだろう!」

アカギ「蔵の方には…俺も同行する。本当は…サクヤが行った方がいいんだろうけれど…。気になるんだろ…?鬼丸のこと…」

サクヤ「申し訳ありません。光世さんの願いを果たすのが最優先だと思いまして」

数珠丸「相手方も『蔵』に鬼丸殿は近付けさせないと思うのです。邪気が回ってもし自我を失っているとしたならば…。彼の暴走でそれが壊されてしまっては意味がありませんからね。
    ―――大丈夫です。主には私がついていきます」

大典太「……すまんな。俺も…兄弟を助けたいんだが…」

大包平「貴様のやるべきことは『鬼丸国綱と話をすること』だろう!それを忘れるなよ大典太光世。この俺が力を貸すと言っているのだから、素直にそれに従え!」

ごくそつ「たったひとりで蔵に向かう訳ないし。ちゃんと罠も用意していくし。心配しなくていいよでんくん。ぼくたちにまかせて!きょひょひょ~!」



 刀剣達が捕らわれている蔵を破壊する。それとは別に、大典太は鬼丸と話をする。各々やることは決まり切っていたようです。あの状態の鬼丸と本当に話すことが出来るのかは分かりませんが…。
 ―――その様子を見ていたクルークも、サクヤに意を決したように言ったのでした。



クルーク「サクヤさん。ボクも…アカギさん達についていこうと思います」

サクヤ「クルークくん…」

数珠丸「私達に?確かに貴方の霊力…貴方がたの世界の言葉にすると『魔力』でしたか。徐々に高まってはいますが…」

クルーク「この世界で目覚めて…いろんなことを知れた。魔導学校に通っているだけじゃ絶対に学べなかったことを、ボクは学ぶことができました。だから、そのお礼を少しでもしたいんです。
     ……それに。天界に行きたい理由はもう一つあるんです」

アクラル「その『もう一つの理由』ってなんだよー。随分と勿体ぶるじゃねーか」

クルーク「ボクが持ってるこの本の話です。この前まで…メフィストが消滅してしまうまではこの本、うんともすんとも動かなかったんです。でも…最近、『チカラ』を感じる。もしかしたら、天界にいったらその理由が分かるんじゃないかと思って」

サクヤ「(『本の力』…。クルークくんの持っている本は確か『封印のきろく』という書物だった筈。歴史書には邪悪な魂が封じられているとか記載してありましたが…。彼はそのことを言っているのでしょうか)」

大典太「……その、本からか。まぁ、確かに微かに霊力のようなものは感じるが…。……クルーク。あんた、本の中の『そいつ』が大事なのか?」

クルーク「それは…その…」



 クルーク、本のことを大典太に聞かれ言葉が詰まっています。どう答えたらいいんだろう。数珠丸も何かに気付いたようにこちらを見ている為、大典太と同じ気持ちを抱いているのでしょう。
 彼が答えに悩んでいたその時でした。ヘラがサクヤを慌てて呼ぶ声が聞こえたのは。



ヘラ「ゼウス様と連絡が繋がりました。しかし―――のんびり作戦会議をしている暇はありませんわ」

サクヤ「神殿で、何かあったのですね?」

ヘラ「えぇ。随分と焦っておられましたわ。即刻向かいましょう」

ニア「急ぎの用事…。それとも…既に十二神の誰かがやられている、とか…」

ヘラ「縁起のないことを言わないでくださいまし!さ、行きますわよ。わたくしが案内致します。外に天界に向かう為の船を用意しております」

サクヤ「分かりました。準備が出来た方からヘラ様について行ってください。―――クルークくん。お話の続きは、ゼウス様に会ってからでいいでしょうか?」

クルーク「は、はい…」

大典太「……世界にとって『邪悪』だと感じているものでも、あんたにとっては『邪悪ではない』。―――その心を忘れなければ、必ずあんたの気持ちに応えてくれるさ」

クルーク「………?」



 話が中途半端に切られ、首を傾げるクルーク。大典太、クルークの本の中にいる『そいつ』の気配に気付いている上…自分と同じような目に遭って来たと、もしかしたら悟って同情しているのかもしれません。
 立ち止まってるクルークの背中を勢いよくアクラルが叩き、彼は現実へと引き戻されました。既に大体の面子がメインサーバからいなくなっています。

 遅くならないうちに自分達も急ごうと足を向けると、背後から見送る声が。



マルス「どうか、気を付けて。きみたちの帰る場所は、必ずぼく達が守り通すから」

カラ松「無事世界の平和を守ったら、みんなで美味い飯を食おう!酒だって沢山飲むぞ!……そうだよな、大典太さん!」

大典太「……あぁ。そうだな」

前田「僕達も出来ることをします。だから―――必ず、生きて戻ってきてください。僕はいつまでも、どこででも待っておりますから。主君、大典太さん…。共に、この世界の平和を、守りましょう!」

サクヤ「前田くん。一番辛いお仕事を押し付けてしまったようで申し訳ありませんが…。私達は必ず戻ってきます。その時まで…待っていてください」




 背中に暖かい言葉を受けながら、1人と一振、そして残っていたメンバーは舟へと向かって歩いて行ったのでした。

#CR10-2 ( No.68 )
日時: 2021/07/03 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

~天界 オリュンポス大神殿~



 ヘラの舟に乗って、天界へとたどり着いた一同。しかし…その光景は、想像していたものよりもずっとおぞましいものに変化していました。
 青空が広がるはずの場所はおどろおどろしい紫色に変わってしまっており、建物を支える筈の柱は根元から折れていたり、ヒビが入ってしまっているものもあります。それは確実に、天界で何かあったことを物語っていました。
 普段であれば、天使の可愛らしい歌声も聞こえてきそうなものですが…。それも、ない。既にアンラの軍勢が侵攻してしまい、避難をしたのか。それとも―――。ゼウスがいるであろう大神殿も誰かの襲撃があったのかずさんな姿に変わり果てており、その光景を見たヘラは絶望したように項垂れたのでした。



ヘラ「そんな…ゼウス様…!」

クレア「私、天使とか神様が住まう世界なので…もっと清らかで、綺麗な場所だと思ってました。これがこんな怖い場所だったなんて…」

アシッド「普段ならば君の言う通り、とても美しい世界だ。だが―――これは、思った以上に浸食が速い。空までをも邪気が覆いつくすだなんてな…」

サクヤ「ヘラ様。ゼウス様と連絡が取れたということは、まだゼウス様は生きていらっしゃいます。中に入りましょう」

ヘラ「慰めはいりませんわ!ただの言葉のあやです!」



 サクヤの言葉でヘラは我に返り、彼女にそっぽを向いたまま神殿の中へと入って行ってしまいました。サクヤ達も彼女の後を追い、大神殿の門を潜ります。
 コツ、コツと響く足音の他には何も聞こえません。この厳かな土地で口走っても良いものなのだろうか。その場にいた誰もがそう思い、沈黙を貫いていました。
 しばらく歩いていると、大広間のような場所に辿り着きます。その奥に、玉座に座った老人とそれを守る様に立っている女性の姿が。どうやら目的地に到着したようですね。

 ニアを除く四神はゼウスにゆっくりと近付いた後彼に一礼。それを見ていた一部の面子も彼女達に続きゼウスに頭を下げたのでした。



ヘラ「ゼウス様。四神のご一行様を連れて参りました」

ゼウス「ヘラ、よくやってくれた。主は下がって休みなさい。よく来てくれたのう。本来であれば盛大に歓迎する手はずなのじゃが…」

サクヤ「そういう状況でないのは充分承知しております。それに…ゼウス様。この争いの跡は一体…」

アクラル「大神殿もボロボロじゃねーか。何があったんだよジジイ」

アテナ「貴様…!最高神であるゼウス様に『ジジイ』とは何たる物言い…!」

ゼウス「よい。昔からじゃ。もう気にしておらぬ。お主らも知っておる通り、『門』が開かれた影響でアンラ・マンユの軍勢がこの天界を侵攻し始めた。そのせいで、この神殿がある地域以外がアンラの軍勢に占拠されてしまったのじゃ」

アシッド「それにしては…随分と急速に侵攻が進んでいるように見えるのだが。この大神殿も形として残っているだけで、既に襲撃を受けた後だと考えた方がいいのだろうな」

三日月『淀んだ霊気がこの場を纏っているのもそのせいだという可能性が高いな。……早急に邪神を何とかせねば、地上に影響が出るのも時間の問題だ』

ゼウス「ああ。だからこそ、お主らの手を借りたかった。協力感謝するぞ、四神よ」

アカギ「…俺達は…俺達の明日を取り戻す為に戦うだけだから…。別にお前達の為じゃない…」

ゼウス「それでよい。……では早速だが本題に入るが、いいかのう?」



 アクラルとアカギ、オリュンポスの十二神に何か棘のある物言いを続けています。この二柱、過去に何かあったんですかね。数珠丸も心配そうに様子を窺っています。
 あまり雑談をしている時間もないとゼウスが本題に入ろうと口に出しました。サクヤはそれに静かに頷き、彼の『頼み』を聞くことにしたのでした。



ゼウス「お主らも知っておる通り、この天界に現れ出でた『門』を何とかせねば、世界は邪神の手中に収まってしまう。それを阻止する為―――『門』を生成しておる『核』を全て破壊しようと思っておる」

ミミ「『核』? 全て、ってことは…。1つだけじゃないんだね」

アテナ「あぁ。我々が調べたところによると、天界に生成されている『核』は4つ。全てアンラの軍勢が守っていると思った方がいいだろう。その『核』を媒体にアンラの世界のエネルギーを生成し、『門』を創り上げているのだ」

クルーク「魔力を練り合わせて何か物を作る時と同じようなやり方なんだね」

MZD「使う力がちょっと違うだけで、やり方はそうそう変わんないからね。クルークに星の魔法をオレがレクチャーできるのも、それが大いに関係してるってワケ」

クルーク「へぇ…。また1つ勉強になったよ」

アテナ「話を戻すぞ。青龍殿ご一行には、この『核』を探し出して全て破壊することを頼みたい。あいにくだが、我々の所在が知られてしまっており…。直接探しに向かえない状況にいるのだ」

ニア「あら…。そんな大層な役を我々に任せてしまっていいのです、か? ……あぁ。地上のいのちなどどうでもいいと。オリュンポスの神々はそうお考えなのですわね…?」

アテナ「そんなことは誰も言っていないだろう! これだから邪神とは話したくなかったんだ…!」

ゼウス「落ち着け、アテナ。確かにお主の言う通りじゃ玄武よ。彼奴等の作戦の『要』とも呼べるものの破壊を頼むなど、『いのちを捨ててくれ』と捉えられるのも仕方のない話じゃ。しかし―――こればかりは、お主らに頼むしか無いのじゃ。
    アテナも申した通り、我々の所在は既に知れておる。儂等が直接叩きに行けば、確実につぶしに来るじゃろう。……じゃから、お主らに頼むのじゃよ」

ニア「成程…。では、例えの話になりますけれど…。『門』を直接叩こうとした場合、どうなるのです? この場には短気な殿方もいらっしゃいます、わ? 回り道をするより、最短距離で物事を解決した方がいいとお考えの方もいらっしゃることでしょう」

大包平「ぐ…!」

ごくそつ「こころ読まれちゃってるね。きょひょ!」

ゼウス「出来るなら既にそうしておるわい。『核』が残ったまま門に触れた場合―――。門の強烈な邪気がその身体を蝕む。お陰で、現にヘルメスが悪夢に囚われたままじゃよ」

罪木「もう被害者が出ちゃってるんですかぁ?! しかも、その口ぶりからして…」

石丸「悪夢に囚われている『ヘルメス』という人は…神様。しかも『オリュンポス十二神』と呼ばれる存在だぞ」

MZD「オリュンポスの連中でもぶっ倒れる代物には流石に手を出せないわな。大人しく『核』を壊すしかないってか」



 どうやら『門』に既にふれて倒れてしまったオリュンポスの神がいるようです。実力のある神が触れただけで悪夢を見るという邪気。門を直接破壊することは避けた方が無難ですね。
 それじゃあ、とアクラルが続けざまに口にします。



アクラル「じゃあよ。アンラを直接叩けねーのか? ここ襲ってきたんだろうがよ」

アテナ「それも出来るなら既に我々がしている。アンラ・マンユにも『核』が関わる結界のようなものが神殿を覆っていて近付くことが出来ないのだ」

ニャミ「結界、かぁ…。前にメフィストがプレロマでエクラさんを攫った時、同じようなことをしてたような」

ヴィル「同じ…いや、それよりも強い結界だと考えた方がいい。プレロマの時も投げ入れた物が闇に覆われて焼かれたのだろう?」

ジャック「ミミのハンカチがな」

ミミ「一瞬で消えちゃったからちゃんと覚えてるよ」

ヴィル「―――ならば、近づかない方が得策だろう。確実に被害を被るのは我々の方だ」

ゼウス「理解してくれて何よりじゃ。……じゃから、我らが邪神の拠点へ向かえる方法は1つ。『核』を探し出し全て破壊し、『門』の生成エネルギーを断つことなのじゃ。『核』さえ消滅してしまえば、『門』も一緒に消滅する。邪神の世界からの侵攻も止まるはずじゃ」

サクヤ「と、なると。これからは手分けをして『核』を探し出すのが当分の我々の目的ということになりますね」



 天界のどこかにある『核』を4つ全て破壊する。そうすることによって、『門』のエネルギーを断ち消滅させることが出来る。それすなわちアンラの軍勢の侵攻を止める手立てに繋がるわけですね。
 ゼウスの説明を受け、早速サクヤは4つの『核』を探知する為一同にこれからのことを伝えようとしました。





 その、瞬間でした。
















『あぁ もうそんなところまで来ていたのか。随分とせっかちなのだな』
















 突如神殿内を悪い気が駆け巡りました。魔力の探知が得意な人物はすぐに気付きます。これが『アンラのもの』であるということに。
 一部の面子に頭を下げてしゃがむように指示する最中、それを皮切りにトラブルは次々に彼らを襲うのでした。



ゼウス「この気配…まさか」

アテナ「もう嗅ぎつかれたのか……なっ!!」



 混乱している一同をあざ笑うかのように、唐突に神殿内にいる全ての視界が塞がれます。これも全てアンラの仕業なのでしょう。突如暗闇が覆いかぶさり、混乱が更に強まります。
 そんな彼らの様子をあざ笑うかのように、『声』は彼らの脳内に降りかかるのです。



『こちらから向かう手間が省けたというものだから、まぁいいだろう。


 ―――『核』を壊したいのだろう? 出来るか試してやろう。貴様らにも『話をしたい』奴がいるだろうからなぁ?』

アクラル「おい、それってどういう意味―――ぐぁっ?!」



 アクラルがそう叫んだ瞬間、ぱっと視界が明るくなるのがサクヤには分かりました。しかし―――皆の無事を確かめようと周りを見ても……誰もいない。声を確認した筈の自分の双子の兄ですらいない。隣に佇む自らの近侍以外の仲間が、その場から綺麗さっぱりと消えてしまっていたのでした。



大典太「……主。大丈夫か」

サクヤ「私は大丈夫です…が。皆さんが…」

ゼウス「貴様……。彼らに何をしたのじゃ!!」

『貴様らが籠城し、我らへの対策を練っている間―――少々天界を『細工』させてもらってな。こいつらで『テスト』とやらをしようと思ったまでだ。『核』を無事壊せたらこの場所に戻ってこれる。それだけの話だ』

サクヤ「……いのちを何だと思っているのですか…!」

『『死』と『悪』を司る我の前でそれを言うか。……守護神らしい物言いだが、まずは仲間の心配をしたほうがいいのではないか?
 覚悟をもってしてこの場に現れた餞として―――せめて、あいつらの『希望』を叶えてから死の道を渡らせてやろう』



 苦虫をかみつぶしたように表情を歪めるサクヤをも見下すようにアンラはそう言い放ち、次の瞬間には悪い気は全て無くなっていました。アンラの気配が消えたのは言うまでもありません。
 その場に残されたヘラとゼウス、アテナは早速話し合いを始めるのでした。



ヘラ「なんだったんですの…?」

ゼウス「まずいのう。『核』を探す手間は省けたが―――。これは『罠』じゃ。アンラの気配を探知出来なかった儂の失態じゃ。かれらの行方は儂が探そう」

大典太「……主。俺達も朱雀達を探す手伝いくらいは―――……ッ」

サクヤ「光世さん…?」

大典太「……いる。鬼丸が、近くに…いる」



 早速消えてしまった人々を探そうと躍起になるゼウス達の後を追おうと大典太が口にしようとした瞬間―――。懐かしい、それでいて触れたくないような冷たい霊力を大典太は感じました。
 ―――鬼丸が、近くにいる。一番近くで過ごしていた大典太にはすぐ分かりました。……しかし、それと同時に下がる目尻。感じる霊力はわずかでも、それが『生気を纏っていない』ことに彼は悲しさを覚えていました。
 鬼丸がいるとサクヤに伝えた瞬間、消えた筈のあの『声』が再び脳内に響いて来るのでした。



『あぁ。言い忘れていた。貴様らには丁重にもてなしをするよう我が『近侍』に話を通してある。大神殿から出て右手にある道を進め。
 ―――貴様の望むものが待って居よう。大典太光世』

サクヤ「また、声が…!」

『せいぜい我を楽しませてから滅びを迎えるのだな。……天下五剣もろとも、闇に沈むその時を…』



 その声を最後に、アンラは完全に姿を隠してしまいました。彼女の話し方から、その道の先に鬼丸国綱がいるのであろうということは既に確信付いていました。
 サクヤはその言葉に『即時、向かいましょう。ゼウス様には私が話をします』と大典太に伝えようとしましたが…。その途中で彼の言葉に遮られます。



大典太「……主。俺単独で行かせてほしい。あんたを巻き込みたくない」

サクヤ「しかし…!」

大典太「……心配してくれるのは分かる。だが―――恐らく、道なりに進んだら…鬼丸との戦いは避けられない。どちらかが折れることも考えなくてはならない。
    ―――そんな場所に、あんたを留めたくない」

サクヤ「…………」

大典太「……それに。あんたが今気にするべきは俺じゃない。どこかに消えた連中の方が今は大事だ。あんたはあの最高神と一緒に朱雀達を探してくれ。頼む…」



 それでも、と引き下がらないサクヤ。まるで大典太が一振で犠牲になるとでも聞こえていたのでしょうか。どんなに客観的に理由を述べても、大典太を一振で連れていきたくないと首を縦には振りませんでした。
 そんな様子を見ていたのでしょう。そっとサクヤの肩を優しく叩く老人が背後から近付いてきていたことに、彼女は気付いていませんでした。



ゼウス「…青龍よ。主らの会話から大体の事情は察した。―――じゃが、主はこの場に残れ。儂とて、連れてきた連中を全て完璧に察知はできぬ」

サクヤ「…………」

ゼウス「主が信じねば誰がこの刀を信じるというのじゃ。―――共に未来を見守っていくと、決めたのじゃろう」

大典太「……あんた。俺達が契約したこと…」

ゼウス「知らぬわけが無かろう。―――友を救える機会は、これを逃せば二度とないと思え。お主は…友を救いに行くのじゃ。天下五剣よ」



 ゼウスはそう言い残した後、後ろで待っていたヘラとアテナを連れて大広間の奥の部屋へと姿を消しました。ゼウスの言葉も分かってはいるが、大典太を一振向かわせたくない。しばらく無言を貫いていた彼女でしたが―――遂に、腹を括ったように大典太に『あるもの』を手渡しました。
 それは、掌にすっぽりと覆ってしまえるほどに小さい『黒と青の四葉のクローバー』の形をしていました。



大典太「……主。これは」

サクヤ「お守りです。万が一がありますけれども…。光世さん。使い方は貴方に任せます。共に鬼丸さんを救いに向かえないことは歯がゆく思います。ですが……せめてもの加護を、貴方にと思ったのです」

大典太「……そう、か。そう、なのか…」

サクヤ「あんな去り方が最期など、私は認めたくありません。それに…約束したのでしょう?『完全に邪気を祓って、酒を共に飲む』と。
    光世さん。近侍だからと言って、自分の我儘を封じ込める必要はないのですよ」

大典太「……我儘なんて言ったつもりはないんだが…。感謝する、主」

サクヤ「―――ご武運を。光世さん」




 サクヤのその力強い言葉を胸に、大典太は貰ったお守りを潰さない様優しく握りしめた後、懐にしまったのでした。そして『……行ってくる』と静かに彼女に告げた後、一振大神殿を後にしたのでした。
 彼女は大典太の去るその大きな背中を見えなくなるまで見送った後、彼が鬼丸と共に無事に戻ってこれるように、と小さく祈りました。そして―――どこかへ消え去った仲間も救う為、ゼウスの後を追って大広間の奥へと姿を消したのでした。

#CR10-3 ( No.69 )
日時: 2021/07/04 22:32
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

~天界 オリュンポス神殿入口~



「(……右、だったな)」



 アンラの言葉に導かれるよう、大典太は鬼丸を探す為に神殿を後にしました。確かに微かに感じる鬼丸の気配は右の道に続いているようです。その霊力を頼りに道なりに進みました。
 ―――一振で行くとはアンラに唆される前から決めていたことでした。サクヤが一緒に来たことで、彼女に今の鬼丸の凶刃が届いてしまえば…。最悪、彼女が消滅しかねません。大典太はそのことを分かっていました。サクヤが消えたことによる世界の消滅。それだけは避けなければなりませんでした。



「……主には申し訳ないことをしたと思っている。だが…あの時言ったことは本心だ。―――鬼丸の気配は道を進むごとに強まっている。恐らく……あいつは……」



 そうぼそぼそと独り言を言いつつ、彼は霊力を辿り続けます。しかし―――強まる霊力の中に、うっすらと『この世のものとは思えない』邪気が混ざるのを彼は感じ逃しませんでした。
 それは、道を進めば進むほど強まる。それに比例し、鬼丸の霊力が徐々に薄まっている。……鬼丸は本当にそこにいるのだろうか?ふと、大典太の心の中にそんな思いが生まれます。



「……いや、まだ決め込むのは早い。減ってはいるが鬼丸の霊力だ。―――この先に、きっと…」



 もし会えたとしても、既に彼の自我は無くなっているかもしれない。話すら出来ないかもしれない。しかし―――彼を、助けないといけない。くすぶった小さな思いを振り払い、再び歩き出す大典太。
 ―――道なりに進んでいると、ふと目の前に鳥居のようなものが見えました。辿って来た霊力はそこで途切れています。…恐らく、この先にその霊力が続いているのでしょう。



「……立ち止まっている暇もない、か」



 そう、ぽつりと呟いた彼は―――静かに鳥居をくぐったのでした。













~???~





 目を閉じていた大典太の髪を、そよそよと優しい風が凪ぐ。思わず目を開けてみると―――。そこは、『空の上』ではありませんでした。
 目の前に広がるのはどこかの屋敷の中庭のような場所。聞こえてきていた音はそよ風に木々がなびく音。目の前には透明に透き通った小さな池があり、それを彩る桜色の木々には小さな鳥がいくつか留まっています。
 大典太はそこに不思議な心地よさを覚えていました。まるで―――サクヤと前田と共に過ごしているあの『隠し部屋』のように。



「…………」



 大典太が歩いたと同時に、地面に敷かれた砂利の音が耳に入ってきます。優しい風が小さな桜の花を大典太の元まで運びます。彼の掌に落ちたと同時に、花弁は散った。
 その瞬間……。探していた『霊力』が強まるのを彼は感じていました。近くに―――いや、目に見える範囲に『鬼丸国綱』がいる。
 思わず中庭を見回し―――遂に見つけました。桜が散る中に、目的の刀を。しかし……『彼』を纏っている霊力は既に鬼丸のものではないことに、同時に気付いてしまったのです。それでもこちらに気付いてもらう為、更に近付いて口を開く大典太。



「……鬼丸」



 ぼそりと口から漏れ出した低い、小さな声。それに気づいたのか、ゆっくりと後ろを向いていた『それ』がこちらに向き直りました。
 ……その姿に大典太は心が痛むのを感じました。何せ目の前で見た鬼丸国綱は、あの時エンジンシティで去っていた時とは―――まるで別人のように変わり果ててしまっていたのですから。
 元々透き通る様に白かった肌はまるで病人のように青白く変わってしまっており、鮮やかな赤い目にも光が灯っておらず、虚ろな表情でこちらを見ています。



「……俺はあんたと戦いに来たんじゃない。話をしに来ただけなんだ」
「…………」



 出来るだけ感情を刺激しない様言葉を選んで話しかけるも、今の鬼丸にそれが届く気配はありませんでした。彼はその表情のまま、自分の太刀に手をかけ、引き抜きます。―――そして、その切っ先を……。大典太の方向に向けるのでした。
 まるで『戦え。そうでなければ殺す』と言っているかのように。



「……やはり駄目か。三日月のように口が達者な訳でも、数珠丸のように話し方が上手い訳でもないからな…」



 ため息を一つ零しながら自分の太刀に手をかけ、引き抜いた大典太。出来ればそうするのは避けたかった。しかし…相手が刀を抜いている以上、こちらが引けば確実に首をとられる。そう判断しての行動でした。
 戦う気があるのだと判断した鬼丸は、そのまま構えを取ります。いつか過去で手合わせをした時に見た、あの時と同じ構え。―――大典太はそれを見て、また心がちくりと痛んだのでした。



「(骸に成り果てても、あんたは戦をするのか。……あんたは口々に『鬼を探す』と言っていたな。―――あんた自身が鬼になってどうする、鬼丸。……あんたは鬼じゃないだろ)」



 そう思いながら、大典太も相手の攻撃に備えます。そして…ふと、彼がエンジンシティを去る時に言った言葉が頭に浮かびました。
 『大典太か鬼丸、どちらかの首が落ちることになるだろう』。彼はそう言った。だけど―――。彼を助けなければ、三日月達と平和な未来を過ごしていけない。一緒に酒を呑む約束も果たすことが出来ない。



「(絶対にさせるものか。俺の首も、鬼丸の首も落とさせん。……考えろ。何か、あいつを助ける方法を―――!)」



 大典太に向かって飛び掛かって来た鬼丸の凶刃に自身の太刀を構えながら、大典太はそう思ったのでした。
 ―――こうして、天下五剣同士の死闘が幕を開けたのでした。














~オリュンポス神殿 奥の部屋~



「ふーむ、成程のう。アンラの言葉通り、『核』が近い場所に各々飛ばされているようじゃ」
「『核』は全部で4つ…。つまり、4か所に散らばって飛ばされたと考えた方がいいですわね」



 一方、散らばった仲間達を捜索していたサクヤ達。何とか仲間たちの居場所を見つけることが出来ていました。4つの『核』ごとに数人が飛ばされているみたいです。
 本来ならば自分が助けに行くべきではありますが、一振で出ていってしまった大典太のこともあります。サクヤは思う様に動くことが出来ませんでした。



「我々が助太刀したくとも、邪神側の妨害が強すぎて…。それに、光世さんのこともあります。ここを動けないのが歯がゆいです」
「そう言うな、青龍よ。心配することはない。お主の信じた仲間なのじゃろう?」



 悔しい気持ちを代弁するようにぎゅっと拳を握るサクヤ。そんな彼女にゼウスは優しく語りかけます。彼女が感情を得たことで、『悔しい』という気持ちが表に少しずつ出てきていることも。仲間を大切に思っている証拠です。
 サクヤが悩んでいたことも、本部のみんなが覚悟を決めてここまでついてきたことも。全て彼にはお見通しでした。



「この場に来る時も、相当な覚悟を聞いたのじゃろう?お主が信じず誰が信じるのじゃ」
「それは、そうですが…」
「それともなんじゃ?お主の仲間はお主に守られるほど弱いのか?」
「違います!私よりも強い方ばかりです。だからこそ心配なのです。強大な力を消す為に、自らを犠牲にしてしまわれないかと」
「仮にも、消滅すれば世界の危機にに瀕する神も来ているのでしょう?……その心配は野暮だと思いますわ、わたくし」
「そう、ですね…」




 自分が動けない以上、飛ばされた仲間の帰還を信じるしかない。
 サクヤはせめてもの思いで、仲間が誰も欠けず、無事に戻ってくることを祈ったのでした。

#CR10-4 -1 ( No.70 )
日時: 2021/07/05 22:20
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

~???~



「うぅ~~~ん……?」



 最後に見た景色は少し崩壊しつつも威厳が残る神殿だったはずだ。そう記憶を思い起こしながらミミとニャミは目を覚ましました。しかし、今見ている景色は違います。
 かつて自分達が訪れたことがある場所。だけど―――どこか歪んでいる場所。ぼんやりとした頭が覚醒すると同時に、見えた景色にそういう思いを抱きました。そして。



「ミミちゃんミミちゃん、大変だ!ジャックとジルクさんが倒れてる!」
「えぇーっ?!どこ?!どこどこ?!」



 『ジャックとジルクファイドが倒れている』ニャミの声で頭が完全に覚醒したミミは、思わずきょろきょろと辺りを見回します。そして―――すぐそばの廊下に2人が倒れているのを発見しました。
 すぐに2人に駆け寄り、慌てて起こしにかかりました。



「だ、大丈夫?!死んでないよね?!おーいってば!!」
「……激しく揺らされるほうが死にそうなんだっての。大丈夫だよ俺もジルクも。お前らより丈夫なんだから」
「あっ、起きた。話す元気があるなら大丈夫だね!」
「ここで起きたのはお前達だけなのか?神や幽玄紳士は…」
「MZDもヴィルさんも見てないよ。ここにいるのはあたし達だけ」



 揺らし方が揺らし方なので思わずジャックは『酔う』と一言しかめっ面。ジルクもすぐに起き上がり、お互いの無事を確認します。しっかり動けるなら心配いりませんね。
 そして……姿の見えないボス2人の話をし始めました。片手間に世界をぶっ壊せる2人のことです。そう簡単に消える筈がないとは思いますが。
 心配した矢先、話題の中心にいた2人の声がすぐそばに聞こえてきたのでした。



「おー。起きたか。全員無事ってとこ?」
「何が無事なもの、か。訳の分からん幻の空間に閉じ込められているんだぞ」
「MZD!ヴィルさん!今までどこに行ってたのよー!心配したじゃん!」
「心配しなくともお前らが気絶している間にぐるっと回り偵察してたのー。オレが神様なこと忘れてませんかお前さん達?」
「神でも心配なもんは心配なんですー!もうっ!そう言われるなんて心外だよっ!」
「それにしても…『幻の空間』って、どういうことなんだ?」
「言葉通りの意味だ。この空間―――。見た目はラピストリア学園に似ているが、実際はただ私達を惑わす幻の空間。大方あの邪神の罠にでも引っかかったのだろうな」
「んだよそれ…。まだ近くに誰かいないのか?」



 ヴィルヘルムの発した『ラピストリア学園』という言葉でミミとニャミはハッとします。確かに見た目は似ている、と。起きた時にぼんやり感じていた懐かしさはきっとこれなのだと。
 ですが、彼は即座に『幻の空間』だと言い切りました。アンラが自分達を罠に嵌める為に用意した空間だとも。もしこの場にボス2人が一緒に飛ばされていなければ、この空間を『ラピストリア学園』だと勘違いしたまま彷徨っていたかもしれません。
 ―――そんな彼女達に近付く影がもう2つ。気配を察し構える一部でしたが、それも杞憂に終わりました。



「あら…。私と戦いたいのですか…?私、ポップンバトルはあまり上手くありません、の。いえ…それとも、邪神の力を発揮しても…?」
「おー?やんのかー?やんのかー?やるんだったら信仰しろー」
「戦いませんし信仰しません。信仰するならクソアニメに帰れ」
「ニアさん!旧支配者さん…で、いいんだっけ?」
「うふふ…。また随分と厄介な場所に閉じ込められてしまいましたわ、ね…?本来ならば私が閉じ込める立場ですのに…」
「不穏なことを言わないでくれ…」
「あの邪神、大方オレ達分散させて各個撃破するつもりだったようだなー!まさか神が3体とやべー魔導師1体一緒の場所に飛ばしちまったみたいだけどなー!」
「そんな明るく言う台詞じゃないだろ」
「完全に舐められている。気に喰わん。早いところここから脱出してあの邪神を滅ぼさねばな」
「ちょっとちょっと、勝手にお怒りになるのは勝手だけど飛ばされたからにはやることがあるでしょ?」
「やること?」
「さてミミ、ニャミ。ここで問題です。オレ達がここで目覚める前にアンラはなんて言ってたか覚えてるかな?」



 やって来たのはニアと旧支配者でした。信仰するならクソアニメのコントでやってくれ。
 相変わらずマイペースなやり取りに空気を持っていかれそうになる一同でしたが、寸のところで踏みとどまり本題に戻します。恐らくこの場所に飛ばされてきているのはこれで全員。そのことから、バラバラの場所に飛ばして潰す魂胆ではないかと旧支配者は推測しました。
 完全に下に見られ、舐められていると怒りをあらわにするヴィルヘルム。これは戻った時に大変なことになりそうな予感。……そんな彼をやんわりと止めた後、MZDはミミとニャミにアンラに何を言われたかを思い出すよう諭しました。
 そう。何を言われたか。彼女達はMZDの言葉通り、記憶を頭の中で整理します。そして……1つの『答え』に辿り着きました。



「『『核』を壊したいのだろう? 出来るか試してやろう。貴様らにも『話をしたい』奴がいるからなあ』って言ってたね。あれ?ってことは……」
「もしかしてこの近くに『核』があるってこと?」
「そう。アンラがわざわざそんなことを言ってまで『核』から遠ざかった場所にオレ達を飛ばすわけがない。確実にオレ達が歩ける範囲に『核』はあるってことだ」
「―――あっ!それなら。相手はこっちのこと完全に下に見てるんだし、『核』なんて壊せないって思ってるはずだよ!その裏を突けばいいんだよ!わたし達がその『核』を見つけて壊しちゃえばいいんだ!」
「幻とはいえラピストリア学園なんだし、怪しい部屋を探っていけば見つかるんじゃない?」
「脱出経路はどうするんだよ。いつまでもここにいるわけにはいかないだろ」
「一緒に探せばいいだけの話だろう。ミミ、ニャミ。怪しい場所と言ったら―――君達はどこを思い浮かべる?」



 幻のラピストリア学園。この場所に『核』があるのだと答えが纏まりました。ならば怪しい場所を探せば見つかる筈。そう思ったヴィルヘルムがミミとニャミに尋ねました。
 ラピストリア学園で怪しい場所といえば―――。6回目の時にもあった、あそこしかありませんよね。



「理事長室が怪しいと思う!」
「6回目の逃走中の時も理事長室でドンパチしてたし、最後ジェイドくんが意味深な言葉残していなくなっちゃったし…。理事長室に行けば何かわかるかも!」
「ならば…早いところ目的地への移動を開始しましょう。この地に長居は禁物。悪影響は免れません、わ」
「悪い気がひしめいてるもんなー。元凶をさっさと潰して戻ろうぜ!ついでに竹○房も破壊して!」



 竹○房は破壊しないでくださーい。……そういえばその会社、本社が解体されたとかされないとか売ったとかそういう話を耳にしましたが…本当なんですかね?
 それはともかく。邪神の力がこの場を巡っている以上、長居は禁物だと忠告するニア。ならとっとと要件を済ませるしかない、と一同は急いで理事長室への道を走り始めたのでした。



















~幻のラピストリア学園 理事長室~



「…彼ら、本当にこっちに来そうだね。くすくす…あの時酷い目に遭わされた分やり返さなくちゃ…♪」
「これが『核』―――。本当にラピストリアの形をしているのだな」
「元々は実態を持たないとか言ってたからね…。この場所に適合する形にでも変わったんじゃない?」



 そう呑気に話を続けているのはジェイドとジェダイト。ミミ達の予測通り、理事長室で何かを企んでいるようですね。そして…ジェイドの手に収まっている小さな宝石。それがあの『門』を生成している『核』でした。
 6回目の時に『バックアップがいる』と話していましたが、そのバックアップはやはり邪神だということがここではっきりしましたね。



「ねぇジェダイト。あの子供の言うこと本当だったね。『会いたい奴にあわせてやる』って」
「あの者を信頼してはいない…が、お前をもう一度『神』と呼べるような存在に昇華したのは他でもないあいつだ。今は―――要望を聞くしかないだろう」
「そうだけど。あいつらも知ってると思うよ。この空間のどこかに『核』があるってことを。……ま、どこにあるか教えてあげるかはあいつらの頼み方次第だけどね…くすくす♪」



 あーあー。明らかに見下してるわ。まぁ6回目、散々煮え湯を飲まされてた2人。表面上は穏やかに話していても内なる怒りが物凄そうです。
 ―――その矢先でした。ジェダイトが何者かが近づいて来る気配を感じます。



「ジェイド。誰かがこちらに近付いているようだ」
「へぇ…。お早いご到着じゃないか。くすくす…♪」



 くすくすと笑みを浮かべながらも、『核』を持っていない手は血が滲み出そうな程強く握られていました。
 それと同時でした。バン、と力強い音と共に扉が開かれ、『会いたかった』人物がここに辿り着くのは。






















『ジェイドくん!!!』
「やはりお前達…邪神と手を組んでいたのか!」



 やってきたミミニャミ一同を目の当たりにしても表情を崩さないジェイド。微笑みを保ったままジルクの言葉にこう返します。



「心外だなぁ?言っただろう?彼らとは手を組んでるんじゃなくて、『利害の一致』で共に行動しているだけなんだって。
 くすくす…お前らもつくづくアホだよねぇ。わざわざ僕に殺されにくるなんてさ」
「ジェイドくん。『核』を渡して。このままじゃわたし達もあなたも大変なことになっちゃうの!」
「ジェイドくんだって死にたくないでしょ?!元の無邪気なジェイドくんに戻ってよ!」
「『核』?あぁ、大方あの全知全能の神に『壊せ』って言われでもしたんでしょ?MZDに聞かれたなら隠し通そうとしたけど……君達になら特別に教えてあげようかな」



 あくまでもジェイドを、ジェダイトを助けたい。ミミとニャミからはその気持ちが一際強く感じられました。元々教えるかは決めていなかった彼でしたが、彼女達のそのまっすぐな言葉に『特別に』教えてあげることにしたようです。
 警戒を緩めない一同に見せつけるように、自分の持っている『ラピス』を見せるジェイド。そして、告げたのでした。このラピスが『核』だと。



「君達が探している『核』はこれさ。このラピストリアの幻影を造っているのもこれだよ」
「つまり、その宝石をぶっ壊せば俺達は元の世界に帰れるってことだな」
「でも、さ。そんな易々と話したとして……簡単にお前達に渡すと思う?」
「……えっ?」



 だから甘いんだよ、と彼はぼそりと口走ります。ジェイドは『核』を浮かせたと思ったらそのまま指パッチンでどこかに消し去ってしまいました。
 そして―――一同に向き直ります。怒りの矛先をぶつけるように。



「こうして穏やかに話している訳だけどもさぁ…。僕、今凄くはらわたが煮えくり返ってるんだよね。―――あの時散々コケにしてくれたこと。忘れてないよ」
「あらそう。洗脳も溶けてない反省もしてない、ってことね。厄介な子供だこと」
「どの口が言う」
「言ってる場合か!『核』さえ壊しちまえばこっちの勝ちなんだ。さっさと片をつけるぞ」
「簡単に行くと思うなよ。ここでお前達を倒し、戦力を削ぐ。それが我々の最優先事項だ」



 そう言うと、ジェダイトはジェイドの前に立ち、戦闘態勢を取りました。それに反応するかのように各々武器や魔力を用意し構える男性陣。ミミとニャミを隠すように槍を構え、MZDはこっそりと彼女達に告げます。



「ミミ。ニャミ。さっきジャックの言った通り、『核』さえ壊しちまえば後はどうとでもなる。お前さん達にはそれを探し出して壊してほしい。重要なこと任せちゃうけど、お前らなら大丈夫だよね?」
「うん。誰に物を言ってんの?このミミちゃんにまっかせなさーい!」
「MZDが悔しがるような活躍しちゃうんだから」
「ふっふー、言うじゃないの。……あいつらはオレ達がひきつける。お前らには絶対に指一本触れさせないから。安心して探しておいで!」



 『核』の破壊。それが自分達の勝つ条件だとMZDは言いました。それをミミニャミに任せたいとも。確かに戦闘をしながら探すのではあまりにも労力がかかりすぎます。なら、戦闘が出来ないミミとニャミに探索を任せて戦うことに集中した方がいいですもんね。
 その言葉を聞いたミミニャミは、絶対に探し出すと彼に約束して彼から少し離れたのでした。



「……何話してるのか知らないけど。煩いんだよお前達。神である僕の前で生意気にそんなことしないでくれるかなぁ?」
「神様は慈悲深い存在なんですけど。勘違いしないでいただけます?」
「あっははははははは!!!!!」



 やはり僕とMZDは相いれない存在だ、そう言ってジェイドは狂ったように笑います。
 そして―――身体半分を鉱物のように変えてしまいました。……かつて、ラピスに浸食されてしまった時のように。
 あいつは本気なのだ。少年はそう悟り、構える槍をぎゅっと握り直します。



「MZDは直々にこの僕が消してあげる。前のように上手くいくとは思わないことだね…♪」
「では、私はあの暗殺上司と部下を相手どればいいのだな?」
「うん。あんな雑魚、ジェダイト1人で充分でしょ」
「『雑魚』だってよクソ上司。……どんだけ力ため込んでるか知らねぇが、腹立つなぁ」
「そうか、『雑魚』か。―――徹底的に滅ぼしてやろう」
「ジルクはオレと一緒にいてねー。ミミニャミに攻撃通しちゃったらやばいし」
「承知した。彼女達の身は俺が守る」



 互いに沈黙の時間が続く。



 ―――それを打ち破ったのは……。鉱物が弾ける小さな音でした。




















「神!前方―――来る!!」
「よーし!お前らー!ミミニャミが探し出してくれるまで足止め開始ぃー!!」




 MZDの号令と共に、戦いの火ぶたが落とされる。
 それと同時に、重要な任務を任された少女達は物陰に身を潜めたのでした。

#CR10-4 -2 ( No.71 )
日時: 2021/07/06 22:24
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

「―――せあっ!!!」
「ふんっ!!!」



 体術の打ち合いを繰り返しているジャックとジェダイト。現役暗殺者であるジャックはともかく、ジェダイトが殴る、蹴るイメージなんてありません。彼を図らずも囮にしながら陰に身を潜め様子を窺っていたヴィルヘルムは、1つ重要なことに気付きます。



「あの子供だけではない。校長の方も邪神から何か力を得ているのか…。厄介だな」



 そう。ジェダイトもまた邪神から力を貰ってラピスの力を増幅させていました。だからジャックの連続攻撃に対応できていたんですね。そのまま観察を続ける中―――彼は『この空間が、ジェイドとジェダイトに有利になる様に魔力が循環している』ことにも気付きました。
 ニアの言った通り、長期戦になればなるほどこちらが不利になる。しかし、何か奇襲をかけなければそうなってしまう可能性が高いのは目に見えていました。



「……あまり気は進まんが、『永久』でこの空間自体を拘束することも視野に入れればならんか…」



 そうぼそりと呟いた瞬間。彼の脳裏に何か光るものが。



「―――! 『拘束』…。そうか。その手がある…!だが、あの子に協力を仰がねばならんな。どうにか私の思いを汲み取って貰えればいいのだが……。
 ふむ。―――ここまで生きてきて 初めて『呪縛』というものに感謝をせねばならんようだな。ククク……」



 そう不敵に笑みを浮かべるヴィルヘルム。どうやら何かいい考えを思いついた様子。上手くいくといいんですが…。おやおや。今まで散々苦しめられて来たものを遂に利用する時が来ようとは。人生何が起こるか分かりませんねぇ。
 そのまま彼は闇に溶け込んで、『準備』に取り掛かるのでした。
















「―――ふっ!!」
「僕の邪魔をするなぁッ!!!」



 一方。理事長室の奥まった方でジェイドとMZD、ジルクファイドが激闘を繰り広げていました。ジェイドの方はMZDに狙いを定めて攻撃しにかかりますが、ジルクファイドが盾になって攻撃を止めています。その行動に彼は憤慨していました。
 そして、攻撃を受け止め続けたからなのでしょうが…。ジルクファイドもとあることに気付いていました。こっそり念話でMZDに連携をします。



『神。あいつ、力が常に上がり続けているぞ』
「この空間がそうしているんでしょうよ。それ止めるには、さっきも言った通りミミニャミが『核』を見つけ出して止めてくれることを祈るしかない」
『そうか…。あいつ、俺じゃなくて神を狙ってる。お前に相当憎悪が募ってるみたいだぞ』
「まぁねぇ。神様になりたかった人間が実際に神様の手でそれ止められてんだもの。くすぶる思いを邪神に利用されるってのもまぁ筋は通ってるよな」
「よそ見をしてる場合かぁッ!!!」



 人のものとは思えないような笑い声を響かせ、ジェイドはジルクファイドの隙を突きMZDに奇襲を仕掛けようとします。しかしそこは古代兵器。そう易々と彼への道を譲る筈がありません。
 ジェイドの鉱石が身体を侵食する速度は徐々に早まっています。早く彼の暴走を止めなくては、彼が完全にラピスに呑まれてしまいます。ジェイド本来の自我も、邪気に呑まれ始めていました。



「……ちょっとまずいな。前はまだ間に合ったけど、今回戦いが長引いちまえばジェイド、ジェダイト2人にも悪影響が及ぶ。―――最悪、2人を助けられなくなる」
『それもアンラの与えた『邪気』のせいなのか?』
「あぁ。強大な力を与える代わりに自我を失わせ駒にする…。そうとう厄介な『毒』だな」
『『毒』…』



 短期決戦を決め込まないとジェイド達も助けられなくなると気付いたMZD。その為には、いち早くミミとニャミに『核』を破壊してもらう必要があるのですが…。
 ―――そんなことを考えている折でした。ジェイドの放った鉱石が、自分の帽子を掠めます。もしそれに気付くのが1秒でも遅ければ―――。彼の一撃をMZDが喰らっていたのは明白です。



「戦っているのにお喋りかい?そういうところが気に入らないんだよ!!」
「あっぶね!うわー、今のはヒヤヒヤしたー」
「すまん。俺も気を取られていた」
「だいじょーぶだいじょーぶ。お前が守ってくれてるから、避けるのに専念出来てるよ。サンキュ」
「だったらその減らず口から鎖してあげよう!!」



 そう言うと、ジェイドは自分の腕を刃物のように変形させ、狙いをジルクファイドに変えました。いつまで経っても目の前の障害が消えないのなら、障害を消してからゆっくりと標的をいたぶろう。そう考えたのでしょう。
 しかし、近接戦闘に関してはジルクファイドの方が上。刃物の攻撃も全て受け流してしまいました。―――攻防を続けていた矢先。再びMZDから念話が届きます。



『おーい。聞こえてるジルク。戦闘中申し訳ないけどさ、ちょっとお願い聞いてくれない?』
「お願い…だと?集中を切らせば攻撃を受けてしまう。手身近に頼むぞ」
『分かってるよ。……これから、出来るだけジェイドをジェダイトの方向まで誘導できる?ちょっと考えがあって。協力してほしいんだよね』
「考え?何か策を思いついたのか」
『うん。ついさっきからヴィルが煩い程に呪縛通して何か伝えたがってんだよね。多分考えてることは一緒だから―――ジャックも同じことしてるんだと思う。ジルクもそれに合わせて、動きを変えて誘導してほしい』



 おや。ヴィルヘルムの思いが届いた様子。呪縛ってこんなことにも使えるんですねぇ。
 余談は置いておいて、MZDはジルクファイドに『ジェイドの誘導』を頼みました。MZDへの攻撃がジルクファイドに逸れている今、彼が動けばそれをジェイドが追う。動きを利用して、とある場所まで誘導してほしいと頼みました。
 その言葉にジルクファイドは『MZDに何か策がある』と判断し、頼みを受けることにしたのでした。



『ジャックも動き始めてる。あいつと念話でもいいから連携取って。オレはこれから『準備』すっから』
「分かった。―――くれぐれも気を付けてくれよ。お前が倒れたらポップンが全て消えるんだからな」
『あーもう!それはミミニャミに口酸っぱく言われてるから分かってるよ!それじゃあ…頼んだぜ』



 その言葉を最後に、念話が途切れます。それと同時に背中の羽を展開し、空へと舞い上がるジルクファイド。それを追うように空中へと浮かび上がるジェイド。ラピスに呑まれると浮けるのか…。
 ジャックの様子をちらりと見やった後、彼も『頼み』に応じるように空中を舞い始めたのでした。















 ―――一方。『核』を探しているミミとニャミは、ニア、旧支配者と合流し陰に身を潜めていました。少しだけ顔を乗り出すと、鈍い鋼の音や割れる鉱石の音。魔力が爆発する音。『戦いの音』が耳に入ってきます。
 気付かれないように少しずつ移動を始めました―――が。ふと、ミミは『あ』と声を出しました。



「どうしたのミミちゃん?変な声出しちゃってさ」
「そういえば、『核』ってどのあたりにあるんだろうって思って。目星付けないままこの広い理事長室を探すのはちょっと気が引けるよ~…」
「確かに。隠し場所っぽいところを集中して探さないと、MZD達にも負担をかけちゃうよね」
「まぁ…。彼らを囮にしらみつぶしに探さない選択を取るとは…。流石は勇気のある探索者達ですわ、ね?」
「時が時だったらSAN削ってもいいんだけどな!」
「削るな!クトゥ○フで遊んでんじゃないんだから!」
「あの…ニアさん。そういえば、あなたって『玄武』だけど『邪神』なんだよね?」



 だだっ広い理事長室をヒントもなく『核』を探す。頼まれたとはいえ割と無理難題でした。邪神共が何か言っていますが今は放置しておきましょう。
 しょうもないボケとツッコミを繰り返している矢先、ミミがニアに質問を投げかけます。彼女は黙って首を縦に1回コクリ。そして、『それがどうかしたのか』と口を開きました。



「なら、『核』のありかについて調べることって出来る?だって、この空間を創り出した元凶って元を辿れば邪神なんだし…『核』も邪神の力ってことになるよね?」
「あ、そっか!同じ邪神同士なら分かるかもしれないもんね!出来たらで良いので、どうか探してくれませんかニアさん!」
「あらあら。神遣いが荒いとは音神様にお聞きしておりましたが…本当のようですわ、ね?しかし…私とアンラ・マンユの力は似ているようで違うもの。『邪神』にも様々な存在がいるものです」
「俺とこいつも違う神だからな!」
「そんなぁ~…。じゃあ無理ってこと?」
「いいえ?―――やってみる価値はあるかもしれません、わ。面白そうですし…やってみましょう。それに、これが上手く行けば…今後人間共を『非日常』に堕とす為に色々と使えそうですもの…。
 うふ、うふふ、うふふふ……!!」
「ねぇねぇニャミちゃん、わたし何か変なこと頼んじゃったのかな?行ってはいけない領域に足を踏み込んだような」
「それ以上考えちゃ駄目だよミミちゃん。あたし達のSAN値が削れちゃう」
「SAN値!ピンチ!SAN値!ピンチ!」



 ミミの『ニアの力で『核』のありかを探せないか』という頼みに、最初は首を傾げていた彼女。しかし……自分でも考えつかなかったその新鮮な方法に感服し、結果『やってみる』ことを承諾してくれました。―――その理由が未来でとんでもない犠牲を生みそうな気はしますが、今は考えないでおきましょう。知ってしまったらまずい。
 そう判断したニアは『善は急げ』とばかりに意識を理事長室全体に集中させます。そして―――『アンラの邪気』を辿り始めました。



「あの忌々しい邪神の邪気…3つ…。1つは黒い男に。1つは白い少年に」
「ジェダイトさんとジェイドくんのことかな。やっぱり邪神の影響を受けていたんだ…」
「そしてもう1つ…。―――眩しい。熱い。これは……『人工的な光』。ここが一番邪気が濃いところです、わ」
「邪気が濃い……ってことはおい、ウサギにネコ!もしかして!」
「熱い、眩しい『人工的な光』―――。何かで照らしている…?」



 そう、ニャミは天井を見ました。天井には大きなシャンデリアが中央にぶら下がっており、眩しい程に光を放っています。そこで……彼女は気付きます。
 『核』はそこにあるのではないかと。シャンデリアには無数の宝石がちりばめられています。その中の1つが『核』なのかもしれないと。



「みんな!分かった!『核』のある場所!」
「えっ どこどこ?!」
「シャンデリアだよ!熱くて眩しい人工的な光!あの天井にある奴!」
「……成程。確かに宝石に紛れ込ませれば……普通は気付きませんわ、ね?」
「旧支配者さん!MZDと連絡取りたいんだけど!」
「おう!任せろ!」



 確信が出来たなら後は破壊するだけ。方法をどうするかMZDに相談する為、旧支配者に念話を繋ぐよう頼みました。
 彼はサムズアップをしながら連絡を繋げてくれています。これがクソ顔のあいつでなければとっても頼もしかったのですが。いや今も頼もしいんですが。
 ―――数刻たった後、聞きなれた少年の声が。それに割り込むようにニャミは要件を話しました。



『ちっす』
「MZD!分かった!分かったよ『核』の場所!」
『うんうん、分かった。分かったから一旦落ち着け。―――で?どこだって?』
「シャンデリアの宝石だよ!その中のどれかが『核』だ!」
『ふーん、成程ね? それなら……呪縛で縛った後にシャンデリアを落とせば一気に『核』ごと破壊できそうだな』
「ちょっと。物騒なこと考えてないでしょうね?声がニヤニヤしてるんだけど」
『いや~?我ながらいい考え思いついたと思ってさ。で、旧支配者。あいつらが罠にかかったタイミングでシャンデリアにお前の銃弾ぶっぱなしてほしいんだけど。落ちるまで』
「お?俺でいいのかよ?ここにニアもいるぜ?」
『いーや。ニアの力使うとどっちかに勘付かれて逃げられる可能性がある。ここは物理的に解決した方が良いこともあるのさ』
「あら…。私の力を随分と見くびっておられるのですわ、ね…?」
「そうじゃない、そうじゃない」
「ニアさん、とりあえず背中の触手仕舞おうか。うねうねしてて気持ち悪い!」
「触手は貴方様がたと仲良くしたい、と仰っております、わ…?」
「わたし達は出来れば仲良くしたくないです!!」



 ニャミから『核』の位置を聞いたMZDは、すぐさま旧支配者にある『頼み事』をしました。その内容が、『ジェイドとジェダイトが罠にかかったタイミングでシャンデリアを落としてほしい』というもの。この神……2人相手にするのが面倒になって一気に片を付けようとしてませんかね?
 そんなことはともかく、『終わり』を迎えられるチャンスならば逃さない手はありません。旧支配者は乗り気で『俺様がとどめ指してやるよ!』と頼み事を引き受けてくれたのでした。



「そんじゃ一旦念話切るぞ!」
『はいはーい。オレもジルクに連携するわー。そんじゃ、作戦の成功を願って。頼んだぜ!』




 ぷつり。小さな音と共に念話は切れました。そして、いつでも銃を放てるように旧支配者はどこからかハンカチを取り出し、得物を丁寧に磨き始めたのでした。
 さて。ミミニャミ達は無事に『核』を破壊し、幻のラピストリア学園から脱出することが出来るのでしょうか…。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21