二次創作小説(新・総合)
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- AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡【完結】
- 日時: 2021/08/11 22:27
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ADnZqv8N)
どうもです、灯焔です。
自作品でも表明しました通り、逃走中のゲームパート以外の場面をこちらに連載いたします。
コネクトワールドの住人達がどんな運命を辿っていくのか。物語の終末まで、どうぞお楽しみください。
※注意※
・登場するキャラクターは全て履修済みの作品からの出典です。かつ基本的な性格、口調等は原作準拠を心掛けております。が、表記上分かり易くする為キャラ崩壊にならない程度の改変を入れております。
・原作の設定が薄いキャラクター等、一部の登場人物に関しては自作設定を盛り込んでおります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
・誤字、脱字、展開の強引さ等ございますが、温かい目でお見守りの方をよろしくお願いいたします。
・今までのお話を振り返りたい方は、『逃走中#CR』の過去作をご覧ください。
・コメント等はいつでもお待ちしておりますが、出来るだけ『場面の切り替わりがいい』ところでの投稿のご協力をよろしくお願いいたします。
また、明らかに筋違いのコメントや中身のないもの、悪意のあるもの、宣伝のみのコメントだとこちらが判断した場合、返信をしないことがありますのであらかじめご了承をよろしくお願いいたします。
<目次>
【新訳・むらくもものがたり】 完結済
>>1-2 >>3-4 >>5-6 >>7 >>8 >>9-13 >>19-20 >>23-27
【龍神が願う光の世】 完結済
>>31 >>34-36 >>39-41 >>42-43 >>47-56 >>59-64
【異世界封神戦争】 完結済
>>67-69 >>70-72 >>73-75 >>76-78 >>79-81 >>82-83 >>86 >>87 >>88-90 >>93-98
<コメント返信>
>>14-16 >>17-18 >>21-22 >>28-30
>>32-33 >>37-38 >>44-46 >>57-58 >>65-66
>>84-85 >>91-92 >>99-100
- Re: AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡 ( No.92 )
- 日時: 2021/07/27 22:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
どうもです。灯焔です。
連日の暑さでしおしおになっておりますが、本日から最後の後日談編に参ります。
サクヤ達の物語がどう『新しい物語』に繋がっていくのか。その顛末をどうかお見守りください。
>>柊 様
どうもです。コメントありがとうございます。
折角協力できたのに。いや、協力したからこそ見限られたんでしょうね。そもそもが蔵を任される前から彼には後がなかったようなものですから。
そして、タナトスが音無町の職員だということが語られました。人間時代のMZDを知っていた、けれども彼を助ける勇気が出なかった…。そのことを悔いた気持ちと、彼に降り注いだ数々の不幸をメフィストに利用され、道化師になってしまったという訳です。
神々 マジ ギルティ。
蔵の中の刀剣達を回収しようとしたところ、都合が悪く建物が崩れ始めました。刀の回収を優先して崩壊に巻き込まれたら意味がありませんからね。
で、蔵から出てきたところでサクヤと合流。大包平は光世さんと鬼丸さんが死闘を繰り広げていたの知らないですもんね、仕方ない仕方ない。
光世さんの手入が始まりますが、レア5太刀の手入には時間がかかります。流石は加賀百万石の刀です。安くねえ。クルークのファインプレーにより光世さんの手入はすぐに終わりました。光世さん、感謝できる子。いい子。
門の崩壊も確認したところで神殿に戻ることにしました。みんなで来たのですからみんなで行かなくては、ね。
仲間達と合流。天下五剣もようやく四振が顕現をし会うことが出来ました。童子切も早いところ見つけ出したいところですが…。この太刀『だけ』蔵の中になかったんですよね…。
ヘラからの衝撃の発言。ゼウスが一人でアンラの元へと向かってしまいました。彼女の案内でゼウスを追うサクヤ達。
そして、アンラとゼウスの一騎打ち。ラストスパートが見えてきたという感じです。なんだかんだ言って家族が大事ですからね、あの最高神。
アンラの軍勢を蹴散らしながらゼウスの元まで急ぐサクヤ達。しかし今の人数でも『多勢に無勢』というもの。本懐を叩かなければ騒動は収束しないと考えたのでしょう。鬼丸さんと協力し、光世さんはサクヤと共にゼウスの元まで向かおうとします。
その途中、サクヤは不思議な幻を見ます。自分が守るべき世界が『虚無』に呑み込まれていく光景。光でも闇でも、正義でも悪でもない。全ての先にあるのは『無』。どっかで誰かが言っていたと思いますが、今は置いておきましょう。
空気を読まない陰気な天下五剣により担がれたサクヤはゼウスの元へ全力疾走。走る速度は遅くとも、反応速度はある方だと思います。だって刀剣男士ですし。
魔物を蹴散らしたどり着いた先にいたのは……。なんと、アンラを倒したゼウスでした。様子がおかしいですが。表向きはいつものおちゃらけたスケベ爺ですがどこか変。
合流したアクラルと鬼丸さんも同じような違和感を感じます。が、ここで口にしたら主が斬られると鬼丸さんの言葉を光世さんが封じました。
嫌な予感が拭えないまま刀剣の回収に向かった彼女達ですが、一体彼はどうしちゃったのでしょうか。予想が当たっていても当たっていなくても、どうか最後まで物語をお楽しみください。
本日より最後の節の更新に入ります。どうか最後までお見守りの方をよろしくお願い申し上げます。
- #CR10-12 ( No.93 )
- 日時: 2021/07/27 22:13
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
~本部 メインサーバ~
「主君……!」
天界に向かっていた仲間とゼウスの協力もあり、素早く蔵の下敷きになった刀剣達の回収を終わらせたサクヤ達。早速本部に帰還しメインサーバに顔を覗かせてみると、涙目になった前田にぎゅうと抱きしめられたのでした。
大典太と鬼丸も顔を出しており、前田の行動に各々反応を見せていました。
「本当に…本当に心配しましたっ…!」
「前田くん。こんなになるまで…。心配させて申し訳ありません」
「顕現が解かれていないのだから主が無事なのは当たり前だろう。何故号泣している」
「……そういうあんたも鼻が赤いぞ鬼丸。ついでに涙目になっているな…」
「うるさい」
「……ところで、本部で何かあったのか。前田がここまで泣くのは初めて見た」
流石は天下五剣一感情に揺さぶられやすい刀剣。前田の涙が移った様子で鬼丸は涙目になり鼻を赤くしていました。軽くあしらいつつも前田に何があったのかを問う大典太。
泣きじゃくる彼の代わりに答えたのは一緒に付き添っていたマルスでした。
「泣いてしまうのも仕方がないよ。……アンラの軍勢は本部にまで届いてきててね。その牙が一瞬にして全て消えたんだ。天界で何かあったと思うのが普通だろう?前田殿は気が気ではなかったみたいでね」
「成程、そういうことだったのですね。アンラの軍勢が消えたのは、ゼウス様がアンラを消滅させてしまったからなのですよ」
「えっ?ということは…アンラを無事倒すことが出来た、ということなのですよね?」
「……そう、だな。無事に刀剣達も回収して手入中だ。邪気が深く入り込んでいるから回復には時間もかかりそうだが…邪気を与えている存在が消滅した以上、完全に手入が終われば闇から解放されるだろう」
「皆さん…無事で、良かったです。それに…鬼丸さんも主君に主命を果たすことに決めたのですね」
「他に行くところもないからな」
「僕…僕…本当に不安でっ…ぐすっ…!!」
「泣くなっ…移るだろうがっ……!!」
「……今日くらいいいんじゃないか。不安が全て取り除かれた訳ではないとはいえ…やっと、やっと手に入れた自由なんだからな…」
安心からか前田は更に大声で泣き出してしまいました。その涙は鬼丸にも移ってしまったようで、望まぬ涙をボロボロと零しています。そんな彼を再び軽くあしらいつつ、取り戻した平和に踏み出せるのだと大典太は嬉しそうに口にしました。
珍しく微笑む大典太を見た鬼丸は、鼻をすすりながら『ありがとう』と小さな声でお礼を告げたのでした。
再会を喜んでいると、メインサーバに三日月、数珠丸、大包平がやってきました。サクヤ達を先に行かせ自分達が手入場に刀剣を入れていたのでしょうね。
石丸くんとごくそつくんは各々休憩に入っており、アカギはアクラルと共に本部に邪気が残っていないかの確認に走っています。
「おお、邪魔だったか。出直そう」
「出直さなくていい。寧ろここにいろ。そうでなければ涙が止まらん」
「何があったか分からんが、みっともないぞ鬼丸国綱!」
「うるさい。斬られたいようだな」
「……別に出直さなくてもいい。刀剣の手入の準備が終わったんだろう?」
「はい。全振入れ終わりました。後は時間が全て解決してくれることでしょう」
「ありがとうございます。本来であれば私がやらなければならないことを頼んでしまい…」
「はっはっは、良いのだ。折角再び顕現を果たせたのだからなぁ。今まで世話になりっぱなしだった分、主にも青龍殿にも礼をせねばと思っていたところだ。これくらいお安い御用だな」
「本当に長い戦いでした。これで…刀剣達も元の生活に戻ることが……。元の本丸に返すのでしょうか?」
「どうだろうな。回復が終わった刀剣を顕現させて話を聞かねばならんが、邪神に強奪されて長い時が経っている。更に時の政府も放置と来たものだ。……帰る場所が無い刀剣もあるやもしれん」
「そのお話は回復してからに致しましょう。今は―――皆さんもゆっくり休むべきです。世界の平和を取り戻したのですから」
「今日は祝いの日だな!」
三振がやって来た目的は、刀剣の手入の準備が終わったことを知らせることでした。しかし、問題は回復した後。幻の本丸でソハヤが言っていたことを纏めると、手入している全振が『どこかの本丸にいた』刀剣とのこと。どの時代からアンラに強奪されたかは聞いてみなければなりませんが、刀剣によってはその本丸がない可能性もありますもんね。
話を聞くにも回復にはまだまだ時間もかかる。そのことを考えるのは刀剣が回復してからでいい、とサクヤは告げました。
そんな彼らの元に更にメインサーバに足音が増えました。陽気な足取りでやって来たのはマリオ。どうやら彼らに何かを伝えに来たようですね。
またいたずらか、と顔をしかめるサクヤでしたがどうやらそうではないらしく。問いかけると、彼は笑顔でこう返したのでした。
「あのさ!支部のみんながごぞって夜に本部の併設会場でパーティしようって!サクヤさんさえ良ければ準備を進めようって話になって確認しに来たんだ!」
「パーティ、ですか…。そういえば最近出来てませんでしたし…。平和を取り戻した記念に宴を開くのもありかもしれませんね。……勿論、貴方達のいたずらは抜きで、ですよ?」
「そんなことしないよ~!大包平さんに誓ってそんなことしない!やっちゃったら怒られちゃうからね!」
「ん?大包平が怒るのか?」
「ふさわしくない行動を止めているだけだ。怒ってなどいない」
「(彼、彼らのストッパーの役割を果たしてるのか…)」
「久しぶりの宴です。僕も賛成です!」
「ヤッフー!それじゃ支部のみんなに伝えて準備してくるから君達はゆっくり休んでなよー!じゃあねー!」
あらあら。支部総勢でパーティをやろうとのお誘いとは。これは大きな宴になりそうですねぇ。マリオの心の奥底を先読みし釘を刺すものの、大包平がいる限りは危惧していたことにはならなさそうとしり安心するサクヤでした。そのままパーティの開催許可を出すと、マリオは陽気な足取りでメインサーバを去って行きました。
それと同時に、念話でヴィルヘルムから連絡が来ます。
『支部を跨いでのパーティ。ならば豪勢な料理を用意せねばな。サクヤ、楽しみにしておけよ』
「わざわざご連絡ありがとうございます。……あ。それなら少々頼みたいことがあるのですが…」
『? 聞かせてみろ。―――和食?すまぬがまだ勉強中でな…。カラ松殿とノア殿に頼んでみよう。あぁ。あぁ。分かった。では失礼する』
「……主?宴に参加しないのか?」
「―――賑やかな宴もいいですが…。お二振とも。『約束』を忘れてはいませんよね?」
「約束?……あぁ。『酒を飲む』ことか。いつでもできるだろそんなこと」
「まぁまぁ。静かにお食事とお酒を楽しむのも一興、ですよ。夜は隠し部屋に来てください」
「……ふふ。たまには、良いかもな。静かな夜の風を受けながら酒を嗜む、というのも…」
ヴィルヘルムにこっそりと『とある頼み事』をしながらも、サクヤは二振を宥めます。
しかし…こんなに楽し気な空気なのに。彼女の心の底は浮かばれませんでした。ゼウスに感じた違和感。そして、一瞬見たあの『幻』が脳裏から離れることはありませんでした。
~本部併設 パーティ会場~
『かんぱーーい!!』
―――夜。本部併設のパーティ会場には多くの参加者が詰め寄り大盛り上がりでした。ミミ達が久しぶりにバンド演奏を披露したり、ダンスが得意な面子が踊りを披露してくれたりと最高の空気を醸し出していました。
テーブルの一角では美味しそうにジュースを飲むアミティとパンをかじるシグ。そして、本を見つめるクルークの姿がありました。
「うーん、このジュースおいし~っ!ご飯も美味しいし、楽しい音楽もあるし『ばっちぐー』だねっ!」
「パン ふわふわ うまいぞー」
「ねぇクルークー!本ばっかり見てないでご飯たべよーよー!クルークの分無くなっちゃうよー!」
「うるさいなぁ。今は一人にしてくれっての」
楽しそうなアミティとシグに反し、クルークは浮かばれない顔で静かに本を見つめていました。アミティが話しかけても素っ気ない返事を返します。
気になったのか、シグが本をじーっと見つめています。それに気づいたクルークが後ずさりして尻餅をついたものの、シグは気にせず彼に話しかけてきました。
「めがね その本 どうかしたのか」
「……キミに言ったってしょうがない話だろ?これはボクの問題なんだ、キミはパーティを楽しむといいよ」
「でもでもー、クルーク凄く悩んでそうだったよ?あたし、悩んでるクルーク見てると悲しくなってくるよ…」
「……ハァ。そうだね、キミ達はそういう奴らだったよ。…また、反応が無くなったんだよ。あの場所でのあれは一体何だったんだってくらいに。本部に戻ってきたらうんともすんとも言わなくなっちゃった」
メフィストはもういないのに。神様にも事情を話して彼がかけた封印を解いてもらった。それなのにどうして出てきてくれないのだろう。クルークは不安でした。天界で自分を守ってそのまま消えてしまったのだろうか。だから何も感じないのか。
―――そんな彼らの元にアクラルがやってきます。暑苦しい声が間近で聞こえるまで、彼の思考は本に吞まれてしまっていました。
「おーい。おーい。クルーク、クルーク」
「うきゃあっ?!ってなんだ、アクラルさんですか…」
「そんなあからさまに驚くなっての。えーと…レムレス…だっけ?会場で会って話をしたらオメーらに会いてーってさ。お菓子を配りに来たんだと」
「れ、レムレスだってぇ?!」
「お菓子くれるのー?!やったぁー!」
「さようなら」
「帰っちゃ駄目だよシグー!お菓子貰おうよー!」
レムレスがこの会場に来ておりアミティ達を探していることを伝えに来たようですね。案の定クルークは目を光らせており、お菓子が貰えると知り喜んでいるアミティ。彼らとは打って変わって会場を出ようとするシグ。あぁ、シグはレムレス苦手ですからね…。
そんな彼をアミティが捕まえた為逃げられない。『うへー』諦めたようにそう呟いた彼らに呆れつつ、アクラルはクルークにサクヤの居場所を聞きました。
「サクヤさんの居場所ですか?そういえばパーティが始まってからは見てないなぁ」
「あー、見てねーか。アミティとシグも見てねーよな?」
「あのおっきなバンドマンみたいな護衛付けてる女の人だよね?うん、見てないよ!」
「ここにいたら 目立つ それがないから いないと思う」
「バンドマンって…」
V系バンドマンでベース弾いてそうな護衛という感想はさておき、3人共サクヤの居場所は知らなさそうです。恐らく大典太も会場にはいない。
どうして探しているのかを聞いてみると、彼は目尻を下げてこう返してきました。
「そうか。急に聞いてワリーな。パーティから始まってしばらく経ったが、全く姿を見せてねー。どっかに雲隠れでもしたみたいに気配すら消してやがんだよ。どこかで道草食ってなきゃいいんだけどな…」
「近侍の刀剣男士さんと一緒なんですよね?なら、大丈夫じゃないですか?」
「光世のことも鬼丸のことも、前田のことも信用してるからそう心配しちゃいねーんだが…。ほら、お兄ちゃん心ってヤツ」
「ボク、兄弟いないのでよく分からないんですけど…」
「オメーが心配してるそのマモノに抱いてる気持ちと一緒だよ。そういえば分かんだろ?」
「あ…」
「心配しなくとも眠ってるだけだよ。オメーを守る為に力を使い過ぎただけなんだろ」
「そっか…。眠ってるだけか…。なら、いつかは起きてくれるのかな」
「そう遠くねー未来に起きると思うぜ。ま、煩くお小言言われるとは思うけどな。なんとなく」
「甘んじて受けようと思います…」
マモノに関しては心配ないと安心させたところでレムレスの声が聞こえてきました。耳に入った瞬間、目の色を変えてクルークは我先にと飛び出していきました。
その様子を見ながら、アクラルは『クルークに関しては大丈夫だな』と静かに納得したのでした。……しかし。アクラルにもまた、不安要素が胸の内に渦巻いていました。
「……これで『事件解決』か。本当にそうだといいんだが…。あのジジイの違和感。薄れねーどころか濃くなってる気がするんだが…うーん…」
そう言ってアクラルは遠目にゼウスとヘラの方向を向きました。見た感じおかしなところはありませんでしたが、アクラルが抱く違和感は少しずつ強いものになっていました。恐らくサクヤも同じ気持ちを抱いている筈。
そこまで考えて、彼は首を横に振ります。折角楽しんでいるのに水を刺してはいけない。……彼はそれ以上考えるのをやめ、パーティを楽しむ為に気持ちを切り替えるのでした。
- #CR10-13 ( No.94 )
- 日時: 2021/07/28 22:44
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
~隠し部屋~
「主君…。本当によろしいのですか?僕達が顔を見せないことで逆に心配させたりは…」
「一部の方には事情をお話しているので大丈夫ですよ。それに…私も皆さんにお話したいことがありましたから。タイミング的にも丁度良いかと思いまして」
「……まぁ、あの会場にいれば少なくともあんたは色んな奴に絡まれてただろうからな…。良かったんじゃないか、鬼丸」
「静かに酒も飲めない場など勘弁だな」
サクヤの部屋の奥。隠し部屋では現在和食を取り囲んでサクヤとその刀達が小さな宴を楽しんでいました。
鬼丸から以前預かった酒瓶が一緒に置いてあり、いつの間にか買って置いてあったお猪口で呑んでいます。相変わらずの飲みっぷりを見た鬼丸は大典太に突っ込みます。『高い酒だ』と。
ちなみに食事は事情を聴いた料理上手男子と東条さんが用意してくれたもの。衣がサクサクの天ぷらや山菜の炊き込みご飯、柔らかな湯気を発している茶碗蒸しや吸い物…等、どれも美味しそうですね。
「高い酒だと前に言っただろ。そう量を呑まれるとすぐに無くなるじゃないか」
「……今日くらいは好きに吞ませてくれ。やっと約束が果たせたんだからな…」
「そうは言いましても、大典太さんはいつもと飲みっぷりが何も変わっていないではありませんか。いつものハイペースです」
「…………。……いつもよりは、量も速度も落としてる…」
「どこがだ。おれには蔵で呑んでいた時と何も変わらないように見えるがな」
酒のことで軽口を叩き合う太刀二振を優しく見守りながらも、サクヤは目の前にある焼き魚に手を付けました。丁度いい塩梅で焼き上がっているのか、身は弾力があり噛めば噛むほどに旨味が口の中に広がります。
今までこんなに美味しい和食を食べていただろうか。ふとそう思った彼女の顔に笑みが浮かびます。
「ふむ。焼き魚も刺身も美味ですね。和食というものはやはり柔らかい味わいです」
「……おい、あんた」
ふと、大典太に呼ばれます。彼の方に顔を向けると、サクヤの顔をまじまじと見つめられました。まるで珍しいものを見たかのように。突拍子もない行動を取った彼にサクヤは首を傾げどうしかしたのかと問いかけます。
大典太はそのまま彼女の表情を見つめながらも、新たな発見をしたかのように小さく頷きこう答えたのでした。
「……あんたの近侍をするようになってから暫く経つが…あんたのその美味そうに飯にありつく表情は初めて見た。そんなに美味いのか」
「はっ。確かに言われてみれば主君、とっても美味しそうにお食事されていますよね!確かにこの和食、いつも以上に美味しいので顔が綻んでしまうのは僕も分かります!」
「私は…そのような表情をしていたのですか。美味しいと、顔で示して…」
「あぁ。緩んでいるな。あの場にいた時よりも」
表情について感想を言われたサクヤ。思わず片手をぺたりと頬にくっつけてみます。しかし、顔は別に熱いわけではない。その理由を考えて、考えて―――彼女は1つの『推論』に辿り着きました。
以前の自分ならば全力で拒否していたであろうその『表情』。もしかしたら…味覚にも影響が出ていたのかもしれない、と。
「今まで感情を受け入れてなかったこともあるかもしれません。確かに思い出してみれば…『美味しい』という気持ちも捨て去っていたように思います」
「えぇっ?!ということは、あの甘く美味しいパフェも主君には美味しく感じなかったのですか?!」
「はい。そう考えてみれば腑に落ちます。こんなに食事が楽しいものだと気付けたのは―――自分を受け入れることが出来たからなのでしょうね」
「……やはり、あんたは自分らしくいたほうが良かったということだな。……なら。行けるんじゃないか。酒」
「え」
「そういや花火大会の時に言っていたな。『自分は酒が飲めない』と。もし感情を抑えつけていたが故のものであれば飲めるな、確かに」
酔ってるんだか酔ってないんだか、大典太と鬼丸は急に意気投合したように酒瓶とサクヤの空のコップを持ち酒を注ぎ始めました。
それと同時に酒の強い香りが鼻をつつきます。この香りは……!お酒特有のツンとした香りに思わずしかめっ面をしてしまうサクヤ。どうやら酒に弱いのは元々だった様子。
「駄目です。絶対に駄目」
「……何故だ」
「お酒だけは絶対に駄目なんです…お願いします、注ぐのをやめてください…」
「……酒が駄目なのは元々か。残念だな…。あんたとゆっくり酒を嗜みたかったんだが…。……あぁ、そうか。どうせ俺と呑むのは黴臭くて遠慮したいか…」
「なんでそこで陰気になる大典太。主は根本的に酒が駄目なんだろ。だったら注ぐ必要はないな」
必死に酒を拒否するサクヤを見て、酒が駄目なのは感情が抑えられていたせいではなく『元々だ』と察した二振。しょんぼりする大典太と納得して諦めた鬼丸を説得しながらも、彼らの手を酒瓶から遠ざけました。
大典太は酔っている素振りは見せていませんが、鬼丸の頬はほんのり赤い。後者に関しては酔いやすいんでしょうね。
酒瓶から手が離れたところで、サクヤは別の話題を口にしました。
「そういえば、なのですが」
「……どうした主。気になることでもあるのか」
「ないと言えば嘘になります。光世さんと鬼丸さんにはお話したと思いますが…。ゼウス様のことです」
「ゼウス様…。最高神に関して何か引っかかるものがあるのですか?」
「……そのことか。確かに俺も未だに違和感を感じている」
「こんなに長続きするなら、あいつ自体に何かある可能性を考えた方がいいのかもしれないな。戦いの地で唐突に斬るべき『鬼』が消えたことにも関係していそうだ。あまりにもあっさりしすぎている」
サクヤが口にしたのは、天界にいた時から感じていたゼウスへの違和感でした。
いくら美味しい料理や美しい景色を楽しんでも薄れることのない強い違和感。本当にこれで良かったのか。そう口にすると、折角箸が進んでいた食事の手も止まってしまいます。
大典太や鬼丸もそのことを気にしており、彼女の言葉に自分の考えを返しました。前田は首を傾げていましたが、サクヤからの話を聞いて何となく理解をし、自分なりの考えを口にします。
「確かに最高神が戦闘したからあっさりと倒せた、と言えば通じるのでしょうが…。主君のお話を聞いていると、どこか僕も納得できません」
「アンラを倒した後、ゼウス様と少しお話をさせていただきました。しかし…彼に悪寒を感じたのは神として歩んできて初めての現象です。彼は威厳がありますが―――慈悲深い神です。それは光世さんも分かっていらっしゃる筈です」
「……実際に会ったのはあの女神について行ってからが初めて、だが…。音無町の時も影ながら協力してくれた最高神だ。慈悲深い奴なのは俺でも分かる」
「だったら明日にでも話を聞けばいいだろ。あの最高神は一晩ここで過ごすんだ。帰るまでにいくらでも時間がある」
「しかし…」
「主君。話を聞けるタイミングを逃せば知りたいことも永遠に知れない、ということも普通にあります。僕もお話を聞いて納得できないところもありますし…。気になるのならば、行動すべきだと僕は思います」
「―――そう、ですね。確かに皆さんの言う通りかもしれません。…分かりました。明日、お話を伺いに参りましょう」
「……念の為、俺も同行しよう。主に何かあってからでは遅いんでな…」
「だったら、あまり遅くまで宴を繰り広げている場合じゃないな」
天界にいた時は口にするのを言い淀みましたが、本部に戻ってからも違和感が拭えない。ならば本部にいる時に聞いてみればいい、と前田は提案しました。心に残るもやもやの正体が何であれ、いずれ解決せねばならないものであることは事実。ならば、動く決意は早い方がいい。
そう判断したサクヤは、明日話を聞きに行く決意をしました。その為、早速残っている食事に手をつけようとしたその時でした。
『おお、ここが例の『かくしべや』という場所なのだな。確かに霊力が済んでいるな。はっはっは』
『貴様ら…どこにもいないと思いきやこんなところに隠れていたとはな。この俺に隠れてこそこそと…何を企んでいた!言え!!!』
のんびりとした声が木霊してきたのは。
声の方向を振り向いてみると、そこには三日月、数珠丸、大包平の姿がありました。三日月は縁側の木々に感銘を受けており、大包平は大典太と鬼丸に向かって何か宣戦布告をしています。この場ではやめなさい。
当の刀剣達は何が起こったのか理解できておらず固まっている様子。……はっとして我に返った大典太が疑問をぶつけたのでした。
「……この場所は誰にも喋っていない筈なんじゃないのか?」
「数珠丸が『何処で』顕現したか忘れたか?俺はずっと『かくしべや』という場所に来てみたかったのだぞ」
「申し訳ありません…。三日月殿と大包平殿に言い寄られ、つい口が滑ってしまいました」
「そういえば…。数珠丸殿はこの場所で顕現を果たしていたのですからね。知っていて当然です…」
「心配しなくてもいいぞ青龍殿。この場所については俺と大包平、そしてその主達にしか伝わっていないからな。俺の主は口が固い。安心するがよいぞ」
「いや、石丸くんはともかく…ごくそつさんから皆にバラされそうな気配しかしないのですが」
あー。確かに数珠丸、ここで顕現を果たしましたからね。三日月と大包平に言い寄られるのも当然です。静かに過ごしたかった鬼丸は深くため息をつきました。
そんな彼の反応に対抗して鬼丸を指さす大包平。そんな彼に『指を折ってやろうか』と脅迫じみた返しをする鬼丸ですが、それにも屈せず『やれるものならやってみろ』と大包平は自信満々なのでした。
「静かに過ごしたかったんだがな。お陰で台無しだ」
「宴はしんみりと行うものではない!俺達も混ぜろ天下五剣!」
「……はぁ…。どうせ俺が静かに酒を飲める場所なんて蔵しかないんだ」
「光世さん、この場に蔵は存在しませんからね。閉所に閉じこもらないでくださいね。……見つかってしまったからには仕方ありません。皆さんで宴を楽しみましょうかね」
「ならば料理の追加注文をせねばですね!お任せください主君、僕が行って参ります!」
「前田殿。私もお手伝い致しましょう。この人数ですからお一振では無茶というものです」
「お?ここでは和食を食べていたのか。宴の場では洋食ばかりを口にしていたからなぁ。慣れている味も楽しみたいものよ。はっはっは」
賑やかになって来た隠し部屋の雰囲気を感じながら、大典太は深いため息を零しつつも嬉しそうに微笑んだのでした。
そんな楽しい宴は、夜が更けるまで続いたのでした…。
- #CR10-14 ( No.95 )
- 日時: 2021/07/29 22:22
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
翌朝。刀剣男士達が乱雑に敷かれた布団の上に寝ているのを見届けたサクヤは大典太と鬼丸を起こしにかかりました。優しく揺さぶるとゆっくりと開かれる眼。朝に弱いのか、大典太に関しては顔がとっても怖いです。
鬼丸はあの後散々大包平に酒を煽られたらしく、頭を痛そうに抱えていました。
「おはようございます。お二振共。前田くんは…ぐっすり眠っているのでこのままにして差し上げましょう。酔い潰れた太刀の皆様を布団まで運んだのですから」
「あたまが…いたい…」
「……おはよう主。……あんたは随分と吞んでいたからな。頭痛が酷いのは目に見えて分かっていたさ」
「だったら…止めろ…。おれが酒に弱いのはおまえも分かっているだろうが…っ!!」
「……俺は止めたさ。だが止まらなかったんだ。責任を擦り付けるな」
「朝日を浴びればいくらかは目が覚めますよ。ほら、ゼウス様にお話を聞きに行くのでしょう」
早速小競り合いを起こし始めた陰気共にぴしゃりと喝を入れ、ゼウスに会いに行くことを口にしました。そもそもその為に早寝をしようとしていたんですものね。
『顔を洗ってくる』と鬼丸がしかめっ面で洗面所へ。頭をぶつけて怪我をされても困る、という理由で大典太も彼に付き従い部屋を去りました。
そんな様子の彼らを見送りつつ、サクヤは彼らの寝ていた布団の片付けに入ったのでした。
10分後。戦装束に着替えた大典太と鬼丸が戻ってきました。冷たい水を浴びていくらか頭痛が収まったのか、鬼丸はいつもの仏頂面を主に向けています。
その様子を確認した後、サクヤも素早く着替えを済ませ隠し部屋を後にしたのでした。
~本部 エントランス付近 廊下~
「おお!サクヤさん、おはようございます!」
「昨日は大包平くんがお世話になったみたいだねぇ~。きょひょひょ!」
ゼウスの部屋に向かう為廊下を歩いていた1人と二振の前に石丸くんとごくそつくんが現れました。珍しいコンビですが、刀剣男士達が隠し部屋へと向かったこと事情を知っている人物ですね。
2人は自分の刀がお世話になったと彼女に礼をした後、その後彼らがどうなったかを問いかけてきました。酔い潰れて寝ていると答えると、石丸くんはショートしたかのように固まってしまいました。余裕たっぷりの姿しか見ていないから理解が追いつかなかったのでしょうね。
「ありゃりゃ。酒にやられたか~。誰かとどっちが先に潰れるか勝負でもしてた~?」
「……推測通りだよ。そこにいる角の生えた仏頂面と酒瓶を空にしていた。……まぁ、ほぼ同時に潰れたがな」
「きょひょ!楽しめたみたいで良かったよ~。おーい、石頭くんっ。いつまでフリーズしてんのさ~」
「―――はっ!三日月くんが酔い潰れる姿が想像できなくてな!頭が真っ白になっていた。失礼した!」
「三日月さんもかなりの量を呑んでいましたからね…。最後はゆっくりと眠る様に倒れてしまわれました」
「それは本当に大丈夫なのかね?!」
「大丈夫です。現に寝息を立てて幸せそうに眠っているのを確認してから部屋を出ましたので」
「そ、そうか。それならば良かったぞ」
「……あんたはどういう想像をしてたんだ…。三日月は刀だからあんたが思っているような病には罹らん」
ごくそつくんに頬をつねられやっと我に返った石丸くん。人間の姿を見てしまったからなのか、刀剣男士達にはあるまじき『病』についてあらぬ推測を立てて仕舞っていた様子。彼ら人の姿はしていますが付喪神ですからね。心配しているような急性アルコール中毒にはなりませんからね。多分。
ぐっすり眠っているので昼頃になったら起きてくるだろうと2人に告げ、彼らと別れました。
~本部 エントランス~
「……主。もう起きてきているみたいだな」
「向こうから出てきてくれるとは、探す手間が省けたな」
「てっきりヘラ様とお部屋にいらっしゃると思っていたのですが…。珍しいですね。それに…まだ『違和感』も拭えていません」
「それも話をしたら解決するんじゃないか」
エントランスへと差し掛かった矢先でした。サクヤ達は目的の人物を見つけました。彼はエントランスに飾られている造花を眺めていました。花を見たいなら彼が泊まった部屋の近くにある庭園の方が美しい花が咲き誇っているはず。
珍しいと思いつつ探す手間が省けたと判断したサクヤは、早速目的の人物…『ゼウス』に声をかけたのでした。
「ゼウス様。おはようございます」
「ん?おお。青龍か。おはよう。昨夜は世話になったのう」
「いいえ。よくお眠りになられたのであれば良かったです」
「それで…儂に何か用か?その様子からして、儂を探しに来たのじゃろう」
「えっと…そうですね」
振り向いたゼウスは相も変わらず、という様子でサクヤに話しかけてきました。彼女達が自分を探していたのであろうということも見抜いているのでしょう。
サクヤは心の奥底に渦巻いていた疑問も見抜かれているのではないかと不安になりましたが、その不安に蓋をして彼に話を切り出したのでした。
「ゼウス様。貴方にお聞きしたことがあったのです」
「聞きたいこと、とな。…そうじゃな、儂もお主に申しておかねばならんことがあったのじゃ」
「私に話…ですか?」
「おお。此度の事、改めて礼を言おうと思ってな。本当に感謝している。ありがとう」
「は、はい…」
サクヤが疑問を口に出す前に、ゼウスはお礼がしたいと彼女に頭を下げます。最高神に頭を下げられる神など滅多な経験ではありません。恐れ多いと頭を上げてほしいとサクヤは言いますが、ゼウスは『協力が無ければ邪神を倒すことすらままならなかった』と頭を上げません。
そんな丁寧な彼の行動の奥底にも―――サクヤは『違和感』を拭うことは出来ていませんでした。このやり取りも表面上のもの。彼女はその違和感を悟られないように振る舞うのが精一杯でした。
ゼウスはしばらくした後頭を上げますが―――。その瞬間、ニヤリと口角を上げたのを大典太は見逃していませんでした。
「それで青龍よ。お主の話とはなんじゃ?」
「え…えっと、その…。私の思っていることを正直に話してもよろしいでしょうか?」
「おお、構わんよ」
その声でサクヤと鬼丸も気付きます。ゼウスの声色が『悪意あるもの』に変化してきていることに。鬼丸が咄嗟に太刀を抜きゼウスに刀の先を向けますが、そこで動きが止まってしまいました。
敵がいたならば直接斬ればいい。そう考えていたのでしょうが、思う様に身体が動きません。そんな鬼丸に驚く大典太と、訳を知っているのか複雑な表情になるサクヤ。
その様子を見て、ゼウス……『ではない声』が彼女達の耳に木霊してきたのでした。
『お主……いや、お前の思っていることを当ててやろうか?『青龍』。我に―――『違和感』を感じているな?』
「―――!!」
その声色でサクヤは全てを悟ってしまいました。何故自分が最高神である彼に違和感を持ったのか。何故今の彼から邪気しか感じないのか。
その答えは。―――目の前にいる老人が『ゼウスではない』ことに気付いてしまったから。
「貴方は―――『アンラ・マンユ』―――?!」
『フフ…フフフフ……上手く隠し通せたと思っていたのだがな。やはり気付く者がいたか』
「……なら、あの斬られた邪神は…。―――! 最高神の身体を邪神が乗っ取ったのか―――?!」
「やけに呆気ない幕引きだった原因がようやく分かったな。わざとあの最高神に自らを斬らせ、その身体と力を奪った。だからだ」
『あの少女もとある異界の神の娘の姿を奪ったものだが―――。力を使い過ぎて身体が限界まで来ていたのだ。だから丁度良かった。最高神の身体と力を奪う手立てが思いついたのでな』
「……お前…!」
邪神の名を告げると、ゼウス『だったもの』は悪意ある表情を浮かべます。アンラは『今の』身体に限界が来ていたことを悟っていた。だからこそ、ゼウスが単騎で自分に向かってきた時に少女の姿を捨て、彼の身体と力を奪うことを思いつきわざと斬られたのでしょう。
ゼウスの魂は既にアンラに喰われ、存在していない―――。その事実に直面し、サクヤは言葉を失ってしまいました。
大典太も刀を抜き、構えようとしますが身体が動きません。鬼丸と同様、目の前の邪神に刀を向けることが出来ないのです。
「光世さん。鬼丸さん。今のアンラに攻撃は出来ません」
「……どういうことだ主」
「身体が動かないのと関係があるのか」
「……はい。今アンラが操っている器は『最高神』であるゼウス様のもの。いくら魂が違う存在であれ、ゼウス様は天上の神々を束ねる神の長におわすお方です。我々『神』と呼ばれる存在は、上位の神には逆らえないのです」
「だからか。おれ達がこいつに刃を振ろうとすると思うように動けないのは…!」
ゼウスは天界を統べる神。その身体をアンラが乗っ取ったとなると、今の邪神に立ち向かえる神はいない。更に今の邪神は自らの力とゼウスの力、双方を宿しています。彼女に立ち向かった人間がいたとして、生き残れる確率は0に等しいでしょう。
固まる1人と二振を前にし、アンラは薄ら笑いを浮かべながら告げました。
『この世界が滅びる原因は1つ。貴様が自らの感情を受け入れたからだ。あのまま大典太光世を否定し、自らを閉ざしたままならばこんなことにはならなかったのになぁ?』
「知ったような口を。私が心を閉ざしていれば、貴方が世界を滅ぼす前にこの世界は終わっていました。それだけは分かります」
「……例え主が俺を突き放したとて、結局はあんたが世界を滅ぼす未来は簡単に想像できるがな。鬼丸と童子切を犠牲にしてでも、だ」
「こいつが大典太を受け入れなければおれはここにはいない。暗闇の中で心が死んでいた」
『まだそんな口が叩けるとはな。流石は四神、そしてそいつに付き従う付喪神といったところか。しかし―――もう遅い』
そう言うと、アンラは不意にサクヤの胸を軽くトン、と押しました。咄嗟の行動に体制を崩し、踏ん張って立ち直ろうとしましたが―――。
「な―――!」
「……主!」
「主!!」
―――踏ん張る先の地面が『ありません』でした。そのまま受け止める床を無くした彼女の身体はアンラの開いた穴に吸い込まれていきます。
その姿を見て満足そうに笑みを浮かべた邪神は、一瞬でその姿を若い人のものに変えました。男とも女ともとれない姿に。まるで『ゼウスはもうこの世にはいない』と彼女達に突きつけるように。
『最高神の力と身体。双方を手に入れた我には誰も敵わぬよ』
落ちていく彼女の手を掴もうとした二振の刀剣男士を、邪神は蹴り飛ばして一緒に穴に突き落としてしまいました。
コネクトワールドから完全に彼女が切り離された。そう判断した邪神は、開いていた穴を無表情で閉じたのでした。
それと同時に。
本部が崩れ始める音を 邪神は聞いた。
世界が壊れ始める音を 邪神は聞いた。
邪神はそのままゆっくりと本部を後にする。目的は果たしたとでもいうように。
『せめてもの餞だ。……貴様がもしこの世界に戻ってこれたのならば―――。『本当の終末』をその目に見せてやろう。―――『生きていれば』の話だが な』
その言葉を残し、世界の崩れ去る様を見届けながら邪神は姿を消してしまったのだった。
- #CR10-15 ( No.96 )
- 日時: 2021/07/30 22:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: aFzuuCER)
~時の狭間~
どこの時間からも切り離された空間。それが『時の狭間』。一説では『ゴミ捨て場』と呼ばれているその場所に青龍は落ちていった。自分が今どこにいるかも分からない。どこを揺蕩っているのかも分からない。感じるのは、自分が守護していた世界から切り離されたことによって、自分の力が徐々に失われていく感覚だけ。
龍神だった頃は当然世界など任されていなかった為、世界から弾かれたことで力を失うということはなかった。しかし、今はそうではない。『世界』と紐づけられている神がそこから切り離されたとなれば。
青龍は悟っていた。自らの消滅を。
「判断が甘かった…!やはりあの時無理にでも違和感のことを話していれば―――」
今更後悔しても遅い。自分のせいで世界は滅びるのだと。理不尽に『世界の融合』に巻き込まれ、不当に自分が守護する世界で過ごすことになったいのち達に申し訳が立たなかった。
折角協力してくれると言ってくれたのに。せめて彼らが不幸せにならない様、守護神として全うしようと決めていたのに。そのいのちが消えてしまう。
4つの柱のうちの1つが消滅するということは、世界が崩れ去ることに他ならない。即ち、巻き込まれた世界も全て滅びるということに繋がる。
頑張って、頑張って、頑張り抜いた成果がこれか。青龍は結局地上のいのちを守れなかったことを悔しく思っていた。
「(力が……。指の感覚も無くなっていく……)」
落ちていく身体とは裏腹に、指の先から神の力が失われていく。それと同時に青龍の意識も徐々に薄れていく。そんな中、彼女はふと頭の中に遺してきた自らの仲間が浮かぶ。―――自らの生をかけても、自分についていくと誓ってくれた刀達のことを。
「光世さんは…鬼丸さんは…無事なんでしょうか…。前田くんは…何かをされていないでしょうか…」
薄れゆく意識の中で、ぽつりぽつりと口を伝うそんな言葉。自分の声が耳に入る度に、彼らを巻き込んでしまったことを恥じた。自分を支えてくれると言ってくれた。だから、自分も精一杯主として彼らを支えよう。そう近侍と誓い合ったのは遠い記憶ではない。
それも……間違いだったのだろうか。結局彼らをこうして不幸に巻き込んでしまうのならば、最初から彼らを別の幸せな道へ導いてやったほうが良かったのではないか。思っても無い考えが薄れた意識の上にふっと浮かぶ。
彼らを巻き込みたくない。心の中に渦巻く思いは強かったが、自分と契約してしまった以上影響は免れない。―――そうなるのなら、いっそのこと。
「……契約なんて しなければ」
ふっと口にしてしまった言葉と共に、涙が零れ落ちる。あぁ、こんなことの為に彼らと契約した訳ではなかったのに。彼らの幸せを奪ってしまう。所詮力を分けたとはいえ、自分は『破壊』を司る龍神なのだと。彼らの幸せを結局壊すのだと。
もはや感覚すらなくなった指先を見たと同時だった。感じない筈なのに、誰かに右の掌を掴まれる感覚がした。
「……そんなこと言うな」
とても低い、だけど落ち着く声色が振ってくる。声の方向に目を向けてみると、そこには離れ離れになった筈の近侍が悲しそうに自分を見ていた。『何故そんなことを口にする』『あんたの苦しみは半分俺が背負うと誓った』そんな表情をして。
それと同時に左の掌にも誰かに掴まれる感覚がした。つい最近契約した、鬼の角を生やした刀だった。
「勝手に死ぬな。―――夢見が悪くなる」
「………つ……さ……。……に……る……ん……」
言葉を発したかったが、喋る体力も残っていない。世界から切り離された影響が自らの全てを蝕んだのだと理解した後に待っていたのは―――。
その思いを最後に、青龍の全てがシャットアウトした。
―――サクヤの意識が閉ざされたと気付くのに時間はかからなかった。急がなければ彼女が完全に消滅してしまう。誰が見てもそう判断が出来るほどに、彼女の容態は深刻になっていた。
手を繋いだのは、自分達の異常な霊力で生命を繋ぎとめる為。しかし、いつまでもそう出来る訳ではない。霊力を送り続けていれば確かに彼女はこの『ゴミ捨て場』で生きていられるが、それも彼らの霊力が尽きるまで。力は有限なのだ。
何か手を打たねばならないと、話せるうちに大典太は鬼丸に話しかけた。
「……鬼丸。これからどうするんだ。蹴られて『ゴミ捨て場』に落とされたとはいえ…霊力を奪われなかったのが幸いだったが。このまま主に霊力を注いでもいずれ俺達が限界を迎える方が早い」
「どうする、と言われてもどうにも出来ないのが現状だろ。抵抗の隙すら与えられずに蹴られたんだからな。おれ達に出来ることといえば―――『霊力のほぼ全てを使って、主を別の異世界に飛ばす』くらいしか思いつかん」
「……異世界に飛ばす…。随分な賭けだな。失敗したら俺達共々消滅の道を辿るな」
「それを覚悟で言っている。そもそもこいつに主命を果たすと言ったのは事実だろうが」
「……そうだな。どの道主を救わねば俺達も消える。……主。あんたを死なせるわけにはいかないんでな。―――俺一振じゃ無理だが、あんたと協力すれば…『どこかの異世界』に繋ぐ『門』を造ることは出来そうじゃないか?」
「ほぼすべての霊力を使って『門』を造れば―――。少なくとも主は助かるな。おれ達はまた永い眠りにつくことになるが」
「……あぁ。だが…主さえ助かれば。きっと俺達を起こしてくれる。主はそんな奴だ」
「随分と肩入れしているな。時の蔵にいた時からそうだったがな」
「……暗闇に沈んでいた俺に手を差し伸べてくれたんだ。主が起こしてくれるなら、俺はいくらでも暗闇の中で眠るさ」
「永遠の別れにならなきゃいいがな」
二振で話し合った結果辿り着いた結論は『異世界の門』を二振の霊力で無理やりこじ開けてサクヤをそこの中に飛ばすことだった。時の狭間に揺蕩っている影響で力を失っているのならば、別の異世界に飛ばせば力の消滅は抑えらえれる。飛ばされた後のことについてまで考えている余裕はなく、後は運に頼るしかなかった。
二振の異常な霊力をほぼすべて使うことで『門』が生成できる。元々それは、天界に住まう純粋な神々が行うもの。一介の物に宿る付喪神である自分達には到底無理なことだった。しかし―――彼らは事情が違う。危険な賭けだが、主を助けられるならばその可能性に賭けたい。彼らの決意は固かった。
「……飛ばされる世界の先に、善良な人間がいることを信じる。俺達にはそれしか出来ない」
「良い人間もいれば悪い人間もいる。悪い方に当たってしまったら……もう、目覚めないと覚悟しないとな」
「……あんたこそ卑屈になるなよ…。俺の専売特許を奪うな」
「専売特許などと宣うな。言動が陰気になってきているぞ」
「……ふふ。減らず口を叩けるならいいか。―――行けるか、鬼丸」
「無茶だな。だが…こうでもしなきゃおれ達も主も死ぬ。それだけは分かっている。―――行くぞ、大典太」
サクヤの手を繋いでいない片手を前に出す。そして…彼らはありったけの霊力を放出し始めた。異世界と繋がる為の『門』を生成する為に。一気に霊力が流れていく影響で、意識の混濁も早い。それでもなお、意識を失わないように二振は踏ん張った。ここで自分達が倒れてしまえば、目の前の主を失ってしまう。霊力を使い切って折れてしまっても尚、彼女を助けなければならなかった。
何故ならば。彼らは青龍の刀だからだ。理由はそれだけで十分だった。
意識を集中させた先に、うっすらと扉のようなものが見えた。もう少しだ。彼らはそう判断し扉に向かって更に霊力を放出する。視界に靄がかかり始めても彼らは諦めなかった。せめて、せめて門が完全に生成するまでは持ってくれ。
祈りが成就するように、『門』ははっきりと姿を現した。それと同時に二振の身体の力が抜けていく。巡る霊力が底をつきかけていた。
「……主。しばしの別れだ。次に目覚めた時には…平和な世界を…共……に……」
紡ぎかけた言葉は二振の太刀となって青龍と共に門を潜り、落ちていった。
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―――リカルド共和国・首都エリントンにある国際警察。それが『エリントン国際警察』だ。由緒ある建物の前で、金髪の好青年が背伸びをしていた。
青年はつい最近まで自らの人生を揺るがす大きな事件に巻き込まれていた。心を許せる仲間達と共に事件を解決し、父の背中を追った『警察官』という職業に舞い戻っている。
本日は晴天なり。青年は空を見上げ、一面に広がる青空を見つめていた。
「ふぅ。ひったくり犯の引き渡しも終わったし、そろそろ休憩にするか。そういえば…最近警察署の近くにパンケーキ屋が開店したんだっけ。一度行って食べなきゃって思ってたんだよなぁ!」
この青年は甘いものが好きだった。だからこそこの時を楽しみにしていたのだ。現在はお昼時。パンケーキをランチにしようと青年は意気揚々と同僚に休憩に入ることを伝えた。噂によれば、生地はふわふわで、甘いソースはいくつかの果物を混ぜて作ったオリジナルのものらしい。考えただけでお腹が減る。腹が減ってはなんとやら、と以前仲間の忍者の男性に教えてもらったことわざを思い出し、パンケーキ屋へ足を向け走り始めた。
しかし。歩み出した彼の足はすぐに止まった。
「……あれ?」
刑事の第六感だろうか。近くに人が倒れている気配を感じる。辺りを見回してみても、周りには何も気になる場所はない。しかし…青年はこの気配を放っておける人間ではなかった。
精神を集中させ、近くをよく見てみる。おかしな気配があるのならば、その辺に意識を集中させれば何か手がかりくらいは発見できるはず。……しばらく風景と格闘していた末、彼は警察署の脇に誰かが倒れているのを発見した。
急いで現場に急行し、倒れている人物を確認する。
「……あの、大丈夫ですか?!」
二振の刀が身体を守る様に落ちており、そこに倒れている女性は意識を失っていた。脈を測ってみると弱くではあるがあるのが分かる。衰弱してはいるがまだ生きている。確信した青年はすぐに自分のタブレットに手を付けた。
「―――もしもし、すみません。救急の番号でお間違えないでしょうか。人が倒れているのを発見、更に衰弱している状態なので至急救急車の手配をお願いします。場所は―――」
―――新たな世界での新たな出会い。青龍に待ち受けている『運命』の終着点は一体どこなのだろうか。彼女が守るべき世界は一体どうなってしまったのだろうか。
それを知る者は―――この世界には、誰もいなかった。
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