二次創作小説(新・総合)
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- AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡【完結】
- 日時: 2021/08/11 22:27
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ADnZqv8N)
どうもです、灯焔です。
自作品でも表明しました通り、逃走中のゲームパート以外の場面をこちらに連載いたします。
コネクトワールドの住人達がどんな運命を辿っていくのか。物語の終末まで、どうぞお楽しみください。
※注意※
・登場するキャラクターは全て履修済みの作品からの出典です。かつ基本的な性格、口調等は原作準拠を心掛けております。が、表記上分かり易くする為キャラ崩壊にならない程度の改変を入れております。
・原作の設定が薄いキャラクター等、一部の登場人物に関しては自作設定を盛り込んでおります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
・誤字、脱字、展開の強引さ等ございますが、温かい目でお見守りの方をよろしくお願いいたします。
・今までのお話を振り返りたい方は、『逃走中#CR』の過去作をご覧ください。
・コメント等はいつでもお待ちしておりますが、出来るだけ『場面の切り替わりがいい』ところでの投稿のご協力をよろしくお願いいたします。
また、明らかに筋違いのコメントや中身のないもの、悪意のあるもの、宣伝のみのコメントだとこちらが判断した場合、返信をしないことがありますのであらかじめご了承をよろしくお願いいたします。
<目次>
【新訳・むらくもものがたり】 完結済
>>1-2 >>3-4 >>5-6 >>7 >>8 >>9-13 >>19-20 >>23-27
【龍神が願う光の世】 完結済
>>31 >>34-36 >>39-41 >>42-43 >>47-56 >>59-64
【異世界封神戦争】 完結済
>>67-69 >>70-72 >>73-75 >>76-78 >>79-81 >>82-83 >>86 >>87 >>88-90 >>93-98
<コメント返信>
>>14-16 >>17-18 >>21-22 >>28-30
>>32-33 >>37-38 >>44-46 >>57-58 >>65-66
>>84-85 >>91-92 >>99-100
- #CR08-9 不思議な九つの音 ( No.7 )
- 日時: 2021/03/20 22:14
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
双方本格的に動き始めた中、異世界のミミとニャミはMZDを連れて、無人となった自宅に戻ってきました。
そこには、『あの男』がこの街を変えてしまった『代償』があったのでした。
------------------------
~音無町 少年の自宅前~
『……うん。感じるよ。『あのひと』が代償にしたものはここにある』
『あのひとはMZD諸共この世界を壊すつもりだ。そんなことされたら、あたし達の世界も一緒に壊れちゃう。約束破るじゃん。だったら……こっちから動くしかないよね』
「…………」
異世界の少女達は、少年の自宅の前で何もない空を見ていました。それに続くように、少年も空を見ます。ただただ広がる、雲一つない青空。こんな状況でなかったら、どんなに清々しい気持ちで眺められたでしょうか。
少女達の表情は、覚悟に満ちていました。もう何者にも従わない。自分達が願いを叶えるのだと。いま地面に立っている世界が消えて無くなっても―――。自分達の世界を救う為に。
少女達は先程校庭で放った『永久』を、2人でゆっくりと広げていきます。重苦しい闇は、次第に透明になり空へと溶けました。それと同時に、少年の家の付近に『巨大な紫のハート』が現れます。
『あった。やっぱりここだったんだね…。あれが『あのひと』の心臓なんだね』
『街を過去のものに上書きしちゃうのは、『世界を造り替えるのと同じ。……過去に誰かから教えてもらったような気がしたんだけど、何故か覚えてた。他のことは全部忘れちゃったのに。
―――誰から教えてもらったんだっけ?』
『そんなことはどうでもいいよ。今のわたし達に必要なのはMZDだけ。MZDさえいれば、わたし達の世界は元通りになる。また、みんなでポップンパーティも出来るよ!……みんなって、誰だっけ。顔も、名前も、思い出せないな』
『あのひと』の心臓。強大な魔法を使うには、それ相応の『代償』が必要。……彼女達の会話から考えるに、恐らくメフィストの心臓なのでしょう。それを見つめながら、ぶつぶつと少女達は会話を続けます。
心臓を見つけられたのも、誰かから知恵を教えてもらったから。でも、それが誰なのかを忘れてしまった。MZDさえ自分の世界の神様にしてしまえば、またポップンパーティが出来る。……誰の顔も思い出せないけれど。
―――忘れてはいけない思い出まで、彼女達の中からはすっかりと消え失せてしまっていました。残っているのは、ただ『自分達の世界を取り戻したい』、その執着心だけ。
『きっと、世界さえ元通りになれば思い出せるよ。だって、神様もいるんだし。あたし達にはとっても強い力があるんだし』
『……そうだね。思い出せなくても、新しく作っていけばいいか。それじゃあ―――行こうか。ニャミちゃん』
『行こう。ミミちゃん』
2人はいまだにぽかんとしながら空を見つめている少年の手を引き、家の中へと入っていきます。その足はゆっくりと彼の自室『だった』場所へ。幼い頃、炎で燃え尽きたあの部屋へ。彼女達はその部屋に先に入り、大きな窓を2人で一気に開けます。
その目の前には、先程露わになった『心臓』が。そして―――。再び、少年の手を握ります。
『さぁ、行こう。わたし達の世界を取り戻す為に』
『さぁ、目覚めよう。あたし達のポップンを取り戻す為に』
『―――しばらくの間、おやすみなさい。次に目覚める時は―――。楽しい音楽で満ちていますように』
そんな言葉をつぶやきながら、3人は吸い込まれるように『心臓』の中へと消えていったのでした。
~音無町~
大包平「主!右だ!右から弾が来る!」
ごくそつ「きょひょ~~~!!!旋回するから捕まってぇ~~~!!!」
莉愛「荒々しい運転ね…」
ニャミ「荒々しいどころじゃないんですけど~~~?!」
一方。ごくそつくんの車に飛び乗り、メフィストの猛攻から逃げているミミニャミ達。随分と変わった形の車だとは思っていましたが、まさか戦闘用だったとは。現在は後方にある広めの板に大包平が乗って、車へと向かってくる魔法を彼が切り崩しながら逃げている状態です。
ごくそつくんが器用に運転をコントロールしながら、大包平が迫ってくる魔弾を切り伏せる。主と刀の連係プレイのお陰で、何とか全員無事に逃げ続けているのでした。そんな中、大包平がふと思っていたことをごくそつくんに口にします。
大包平「主。少し気になったことがあるんだが、聞いてもらってもいいだろうか」
ごくそつ「なになに~?きみの意見は結構的を得ていることが多いからねぇ!言って~?」
大包平「魔弾を切り伏せてはいるんだが…。『斬った感触がない』。気色悪い程にな。政府で顕現していた頃は、訓練と称して幻想の敵とも戦ったことはあるが―――。その時はしっかりと斬った感触があったんだ」
莉愛「斬った感触…。―――あっ。もしかしたら…メフィストは『街を上書きする魔法』の代償に、自分の心臓を捧げたんじゃないかしら。だから、斬っている感触がないのかも」
ジャック「『心臓』をだぁ?!なんでそんな、自分の命を」
ニャミ「うーん…。多分、それくらい犠牲にしないと使えない魔法だったんだと思うよ。メフィスト、そういうところは他の人の命や魔法を使いそうな性格しているし。自分の心臓を代償にしないと使えない、それくらいとんでもない魔法を使ったってことだよね?」
莉愛「……恐らくは。街を造り替えるってことは、すなわち『世界を造り替える』のと同じこと。普通は神様がすることよ。―――彼の心臓だけじゃない。入れ替えるだけの魔力を、もしかしたら他の魔族からも奪い取っていたのかもしれないわ」
ジャック「ちっ…。なんなんだよ。そこまでして自分の野望の方が大事なのかよ…」
ニャミ「あれ?でも、メフィストの心臓がないなら―――。いくら大包平さんが頑張っても倒せないよね?」
ごくそつ「そこに気付いちゃう?ニャミちゃ~ん。そうなんだよね~。ぼくたちからは今メフィストの姿は見えていないし、仮に見つけられたとしても~?心臓がないからきれな~い!八方ふさがりだね!きょひょ!」
ニャミ「笑ってる場合じゃないでしょ!!うう、あいつを何とかしないとMZDもこの街も元に戻らないのに~~~!!!」
そう。現在メフィストはミミニャミ達から姿を消して、こちらに魔法を撃ってきていました。さらに、彼女達も『メフィストが代償に心臓を捧げている』ことに気付きました。つまり、メフィストの身体をいくら切っても、心臓がない為倒すことが出来ないことになります。
いくら大包平が強い刀でも、倒せない相手に延々と刀を振り続けるのは無謀というものです。自分達がとんでもないことに気付いてしまったと分かっても、ごくそつくんはけらけらと笑うだけ。そんな彼についニャミもつっこみます。
莉愛「メフィストの心臓を見つけて、直接叩くしかなさそうだけれど…」
ニャミ「でも…。そんな簡単に見つかるかな?壊されたら不味いものなんだし、あたし達が想像つかないところに隠してそうだけど…」
ジャック「―――ん?おい、あれを見ろ」
ニャミ「え?どうしたの?」
ジャック「神の家の付近だろあれ。なんか浮かんでる」
ふと、ジャックが目を凝らしながらある一点を指さしました。その場所を身を乗り出してよーく見てみるニャミ。そこには……。確かに、『紫色の巨大なハート』が浮かんでいるのが見て取れました。
―――紫色のハート。その言葉を聞いた莉愛がはっとした表情で口を開きます。
莉愛「あれ、もしかして……。『メフィストの心臓』なんじゃ…」
ニャミ「な、な、ななな、なんですと~~~?!あの紫色のハートが?!確かに遠目から見てもドクンドクン言ってるし、不気味で気持ち悪いけど…。なんであんな分かりやすい場所に…」
莉愛「―――もしかしたら、異世界のあなた達が動き出したのかもしれないわ。メフィストが自分達を助ける理由が無くなった。彼は利用価値が無くなったら、仲間や部下でもすぐに切り捨てる奴よ。
……彼女達が独断で動き出していてもおかしくない」
ごくそつ「なるほどね~」
大包平「―――莉愛、と言ったか。その言葉、俺は信じるぞ。何せ今しがたはっきりとした『根拠』をこの目で見たのだからな!!」
ミミニャミ一同も、メフィストの浮かんでいる心臓を発見!分かりやすい表情で驚きを見せるニャミ。そんな彼女に冷静に莉愛は自分の意見を述べます。それに続いて大包平も『賛同する』と言葉を続けました。
どうやら彼が『信じる』に至る根拠があるらしいのですが……。
大包平「あの心臓が現れた瞬間、攻撃が緩まった。恐らく―――敵にとっても心臓を晒されることはまずいことなのだろう。あの兎と猫の少女が動き出したことは想定外だったと俺は踏んでいる」
ジャック「じゃあ、あの紫の心臓を破壊すれば……!」
莉愛「魔法の『代償』が消え失せるから、街にかかっている上書きの魔法も解ける。―――元に、戻る筈よ」
ニャミ「よーし!それなら早速MZDの家に……ってミミちゃん!ミミちゃん!しゃんとして!しっかりしてってば!!」
ミミ「で、でも……」
ニャミ「でもじゃない!自分の握っているペンダントをよく見て!!」
確かに、大包平の指示と車への衝撃が明らかに減っていました。ということは。心臓が視認できるようになったのは彼にとっても想定外。メフィストの心臓そのもので間違いないのでしょう。―――叩くべきところが、見えてまいりましたね。
早速そこまで車を飛ばすよう頼みかけたニャミでしたが、唐突にミミに声をかけます。そこで、やっと彼女は泣きはらしていた顔を上げながらぼそぼそと『なに…?』と呟きました。未だショックが抜けていないのでしょう。
しかし、そんなことはお構いなし。自分の手に変化が起こっていることを伝えます。恐る恐るそこを見てみると―――。なんと、ミミの両手が光っていました。
ミミ「……えっ?えっ、な、何ーーー?!」
ニャミ「ミミちゃん、確か車に乗る時にヴィルさんのペンダント持ってきてたよね?」
ミミ「うん。置いてったらまずいと思ったから……。で、でも、なんで、何で光ってるのーーー?!」
ごくそつ「―――う~~~ん。光ってるだけじゃないみたいだね~~~???」
両手に握っていたのは、ひびの入ったヴィルヘルムのペンダントでした。ゆっくりと開いてみると、淡い、温かい光がペンダントから放たれていました。そして―――それを見た瞬間、ミミとニャミの脳裏に懐かしい思い出が蘇ります。
14回目のポップンパーティ。テーマは『ディスコ』。懐かしくもどこか新しい、近未来的な宴だった。……そう。『彼』と出会ったのも14回目だった。色んな目に合ったけれど、だからこそ今の関係があるのだと。彼女達は思い出を噛みしめながら、そんなことを思いました。
はっとして周りを見ると、脳裏に浮かんでいたパーティの光景は消えていました。何だったのだろうと不思議に思っていると、ごくそつくんが目の前を見て口走ります。
ごくそつ「まるで道しるべみたいに光が続いてるねぇ。行先は―――」
大包平「少年の家、だな。あの道しるべの通りに進めば、危害なく目的地に辿り着けるということか?」
ミミ「……うん。きっと、そう。多分この光は、わたし達が今まで経験してきた『ポップンミュージック』の思い出そのものなんだよ。みんなが、みんなの思いが、力を貸してくれてる。そんな気がするんだ」
ニャミ「もしかしたら、あの光を辿って行けば―――。MZDにも思い出してもらうことが出来るかもしれない。今までのポップンを。これからのポップンを。だから……」
ごくそつ「言われなくても分かってるよ~~~。あの光、ぼくたちが通って来た『ポップン』そのものだもんね」
まるで自分達を導いてくれているように、光は少年の家へと続いていました。この光は『ポップン』の全ての思い出が詰まっている。この道を辿ることで、過去に縛られているMZDを救い、そしてポップンの『未来』へと繋げることが出来るかもしれない……。道に伸びる一本の光を見て、彼女達はそう思ったのでした。
ごくそつ「―――それじゃあ。ミミちゃんとニャミちゃんの案に乗ってみよっか~~~。全速力でとばすけどぉ~~~???大包平く~ん。あのクソ道化師の攻撃はどうなってるんだ~い?きょひょ!」
大包平「頻度は減ってきているが、なくなった訳ではない。―――言わずとも分かる。あの家にたどり着くまで、この車には弾1つぶつけさせやせん。
俺を誰だと思っている。俺は池田輝政に見いだされた『刀剣の横綱』だぞ!!」
ごくそつ「さっすがぼくの刀!!よ~~~し、それじゃあ全速力で目的地まで走っちゃうよ~~~ん!!!!!きょひょひょひょひょひょ~~~~~!!!」
目的地はただ1つ!それが分かったのならばやることは1つ。希望を胸に、車は全速力で少年の家までの道を進んでいったのでした。
―――ポップンの未来を守る為。そして、これからの未来を創っていく為に……。
- #CR08-10 少年は夢から覚める ( No.8 )
- 日時: 2021/03/21 23:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
暗闇の中で、少年は遂に大切なことを思い出す。そして、暗い暗い記憶の海の底から、這い出す。
そこで見つけた、『彼がやるべきこと』とは―――。
------------------------
―――ここは、どこなのだろう。
何も見えない。暗い暗い、海の底のようだ。でも、不思議と息は苦しくない。
そもそも、自分に何が起こったのかも定かではない。何故自分がここにいるのかも分からない。
『長い、長い夢を見ているような気がする』
暗闇の中でそう思う。そう。これはきっと夢なのだ。
そうでなければ、自分がこんな穏やかな闇の中にいるなんてありえないのだから。
少しずつ、少しずつ。糸を手繰り寄せていくように記憶を辿っていく。
最初に脳裏に浮かんできたのは、雲の上の世界だった。ああ、あれは確か―――。自分がトラックに轢かれて、痛い思いをした後目覚めた時に見た光景だ。幼い自分の前で、優しそうなお爺さんが自分の頭を撫でていた。『可哀想に。こんな小さい子が神々に狙われていたとは』。自分に向かって、お爺さんはそう言っていた。
―――あぁ、そうだった。あのお爺さんに、神様にしてもらったんだった。『もう、自分のような悲しい人間を増やしてはいけない』そんな思いを胸に。神様になった後は、人々が手を取り合って歩める、音が溢れた楽しい世界にしようと決めて。
―――次に脳裏に浮かんできたのは、今広がっている暗闇とは正反対の『真っ白な世界』だった。少し離れたところで、ふよふよと何かが浮かんでいる。しくしくと、泣いているようにも見える。あぁ……もしかして。この子も自分とと同じ『ひとりぼっち』なのかな?だったら、ひとりぼっち同士で相棒になろう。そして……『ふたり』で、音の溢れる楽しい世界を造ろう。
自分の影を介して、その『ひとりぼっち』を救った。神様としての第一歩を、自分はちゃんと踏めただろうか。
次に脳裏に浮かんできたのは、賑やかな宴が広がっている光景。沢山の『いのち』が1つの場所に集まって、音楽を奏でていた。その誰もが、笑顔だった。そうだ。自分は―――『こんな楽しい世界』を造る為に神様をしてるんだ。
その中で、自分を最初に救ってくれた大切な人との再会も出来た。沢山の出会いも、沢山の別れも。沢山、沢山経験した。ひとりじゃなくて、『みんな』で未来を造っていこう。神様として生きていた自分に、新しい目標が出来たんだっけ。
その後も、数多の風景や思い出が脳裏に浮かんでは消えていく。ポップンワールドが『混ぜられる』なんて不可思議な現象に巻き込まれて、これまた不思議な『別の神様』と出会ったこと。面白そうだから、と手を貸し始めた宴が成功して、沢山の人たちを笑顔に出来たこと。そして―――自分に巣食う『呪い』も、受け入れて生きると選択したこと。
そのどれもが、大事な『思い出』だった。彼を形作る全てだった。
―――最後に脳裏に流れ込んできたのは。自分と隣で笑ってくれたうさぎと猫の少女。彼女達が悲しんでいる光景だった。自分の名前を呼んでいる。悲しそうに呼んでいる。
そこで、少年は気付く。
『(また、あいつらに悲しい思いをさせたのかな)』
自分が守らなきゃいけないのに、その自分が窮地に陥って彼女達をあんな表情にさせているなんて。今まで、何を忘れていたんだろう。とても、とても大事なことだ。
―――目を、覚まさなくては。目覚めなくては。彼女達だけではない。自分を助けてくれたあの道化師も。その部下も。きっと、みんなが大変な目にあっている。
『目覚めなくては』
―――少年は、小さく呟いた。そして……ゆっくりと、ゆっくりと目を開けた。
~???~
MZD「こ……こ、は……」
ぼんやりとした頭を覚醒させ、MZDは起き上がります。まず自分がしっかりあるかを確認する為に、掌を確認。健康的な、肌色の小さな手でした。次に、頬を両手で触ってみます。サングラスは本部に置いてきたままなので裸眼ですが、自分の頬に掌が当たっているのが分かります。―――しっかりと、『自分』はいる。
次に確認すべきことは……。身体をゆっくり起こし、辺りを見回します。そこに広がっていたのは―――。まるで遊園地のような、不思議の国のような。そんな場所の入口で倒れていたのでした。
MZD「ここに居続けたら、またきっと記憶が薄れてしまう。だから―――どうにかしてここを出ないと…」
そう決断し出口を探そうと動き始めたと同時でした。自分の背後で、聞き覚えのある悲しい声が聞こえてきます。
『MZD!あなたが行くべきはそっちじゃない!こっちに戻ってきて!』
『そうだよ!そっちに行っても暗闇しかない。あたし達と一緒に、こっちに帰ってきて!』
MZD「…………」
MZDには既に分かっていました。背後から聞こえてきているのは、自分の知っているミミとニャミではない。全てを思い出した今、もうその手は通用しませんでした。
彼はゆっくりと彼女達に向き合い、しっかりと目を見ます。そこでやっと、少女達が『既にMZDを自分の世界には連れていけない』ことを悟ったのでした。―――その、赤と緑のオッドアイを見て。
MZD「―――『オレ』をそっちに連れて行ってどうするつもりだったの?」
『……お、『オレ』? まさか―――全部思い出して……』
『―――嘘だ嘘だ、ここはあたし達が造った『不思議の国』なんだよ?!全部あたし達の思い通り。MZDの記憶だって戻らないはずなのに…!!』
MZD「寸のところで思い出せたんだよ。忘れちゃいけない、大事な大事な思い出。―――っ」
まっすぐと見つめる目に、遂に彼女達の膝が崩れ落ちます。『もう、駄目だ』と悟ったのでしょう。
『不思議の国』―――。そういえば、現のお話になりますがかつて計画倒れしたポップンの作品が過去にあったような。その作品のモチーフが『不思議の国』だったような。―――もしかしたら、彼女達が造ってしまった世界は……。
項垂れる少女達を見ていたMZDの脳裏に、唐突に自分のものではない記憶が流れ込んできます。
―――彼女達が『禁忌』に触れたことの悲しみ。そして、彼女達を人ならざる者にしてしまったこと、彼女達を救えなかったことの『後悔』。……MZDはすぐに悟りました。この記憶と感情は、目の前の彼女達がいた世界の『MZD』のものなのだと。
……異世界の自分は、ポップンミュージックの世界が蘇ることは望んでいなかった。ただ、彼女達が手を出してしまった危険な力に呑まれるのを憂いていた。そして……彼女達を助けてほしいと、そう願っていた。
MZD「……そっか。お前さん達、自分の世界の『ポップン』を、守ろうとしてただけなんだな」
『うう、ううう……』
MZD「この世界は不思議なところでな?『存在の共存』は出来ない代わりに、何故か『記憶の共存』ってのが出来る状態にある。だから―――今、お前さん達の世界のオレがどう思っていたのか。しっかりと伝わって来たよ。
―――『異世界のオレ』は、自分の世界が蘇ることなんか望んじゃあいない。届いたのは……ただ、お前さん達を心配する感情だけだったよ」
そう言って、彼はゆっくりと彼女達に歩み寄ります。そして―――『いままで辛かったな。守ってやれなくてごめんな』と、彼女達の頭をぽんぽんと優しく撫でたのでした。左手はミミ。右手はニャミ。自分の知っている存在とよく似た、ただ『選択を間違えてしまった』純粋な彼女達を。優しく抱きとめたのでした。
やっと感じられた暖かな温もり。それを感じて、彼女達も大切なことを思い出したように……ぽろぽろと涙を流し、『ごめんなさい、ごめんなさい』とひたすらに零していました。
―――しばらく経った後。泣きたいだけ泣いたのか、目の前の少女達の涙はすっかり止まっていました。それを見計らって、MZDは優しく自分の気持ちを口にします。
MZD「お前さん達の気持ちはよーく分かった。どの世界線のミミニャミも『ポップンを愛している』ことには違いない。……でもな?オレにも守る世界ってものがある。守らなきゃいけない奴らがいる。だから…一緒には行けない」
『うん…』
『ようやくわかったよ。あたし達は、MZDの思いまで忘れてとんでもないことをしでかしちゃったんだって』
MZD「まさか異世界では『永久』を別の人間が使えるようになってるとは思わなかったけどねー。作った本人ですら取り扱いには充分注意している力なのに、それを別の存在が簡単に使ったら……。コントロール出来ずに被害が甚大になる。そりゃ大騒ぎになるよな…。
……で、もう1つ問題なのは。ミミニャミをこの世界に縛ってるのが『お前さん達の悲しみ』だってこと。負の感情を利用して、メフィストがこの世界に魂を手繰り寄せ、縛ったんだろうな」
『そうだよ。わたし達はあのひとに『叶えたい願いがあるのなら、自分に手を貸せ』って。そう言われて、この世界に来た。
……利用されたことが分かって、じゃあ逆に利用してやろうって思って…。あのひとの心臓に、不思議の国を造ったんだ』
MZD「メフィストぶっ潰すのも必要だけど…。お前さん達の悲しみを解消しないことには、ここから出られないってワケか。成程ね」
この不思議の国は目の前のミミニャミが創り出したもの。そして、彼女達の言葉からここが『メフィストの心臓の中』だということがはっきりと分かりました。
抜け出す為には『メフィストの撃破』そして、『この世界を創り出しているミミニャミの気持ちの解消』の2つが必要です。撃破は自分には出来ないので周りに頼るとして、自分に出来ることといえば……。
MZD「―――お前さん達。ちょいと手を貸してくれない?」
『いいけど…。何を手伝えばいいの?』
MZD「この世界のミミニャミに、オレの居場所を伝えたいんだけど―――。異世界だとはいえ、『永久』はこの世の理をひっくり返すとんでもない魔法だ。だから、ここから放ち続ければ届くんじゃないかなって思ってさ」
『…………。MZD。『永久』が使えるの?』
MZD「…………」
猫の少女にそう言われハッとします。今までヴィルヘルムと協力して使ったことは幾度もあれど、単独で『永久』を使ったことはありませんでした。―――ですが、今は悠長なことは言ってられません。彼女達の『永久』を借りなければ、自分がここにいることは伝わりません。
MZDは少し考えた後、自分の服の中を覗き見ます。―――それを見て確信しました。『使える』と。
MZD「……呪縛は幸い消されなかったな。なら、使えると思う。お前さん達の持ってる『永久』の力、少しオレに分けてくれない?―――この世の理を覆す力なら、奇跡だって起きると思うんだよね」
『―――わかった。あなたには酷いことしちゃったし、断る理由もないよ。助けてくれるつもりなんでしょ?あたし達も…』
MZD「当ったり前じゃん。オレは『ポップンワールド』を創り出した音の神様なんだぜ~?迷える子羊が救いを求めていたら、手を差し伸べてあげるのがポリシー、ってね」
『……何それ!おかしなこと言うなぁ』
MZD「―――やぁーっと笑った。異世界の存在でもさ。ミミニャミは笑ってた方がオレも安心すんだよね」
『…………』
その言葉を聞いて決意が固まったのでしょう。2人はMZDに手を出すように頼み、彼の掌に禍々しい闇を創り出します。それが、自分達の世界で得た『永久』の一部だと。それに触れた瞬間、確かにいわれのない不快感に襲われるMZD。恐らく彼女達は、それに呑まれて『大切なこと』まで忘れてしまったのだとすぐに察しました。
―――『闇』を手の中に包み、自分の中に閉じ込める彼。それと同時に身体中が拒否反応を示します。神の力が『永久』を追い出そうと反発しているのでしょう。ポーカーフェイスで耐えてはいるものの、明らかに苦しそうな表情をする彼に、分けた側の少女達も心配そうに顔を歪ませます。
『大丈夫…?』
MZD「これくらい…どうってことないよ。今まで味わってきた苦しみに比べれば……。―――『永久』。オレの居場所を……この場所の外へ。あいつらに届くように……」
目を瞑りながら、両手を前に出し黒い光を飛ばし続けるMZD。思考が徐々に『永久』に呑み込まれていきます。ですが、外で動いている人達に自分の居場所を分かってもらえるなら。この事件を解決に導けるのなら。なんだってやってやろうと。今の彼はその気持ちでいっぱいでした。
MZD「届け……届いてくれ……ッ!!」
後ろで座り込んでいる少女達も、ひたすらに彼の無事を祈ります。
さぁ。全ての決着をつける為―――。勇気を出して一歩前に進みましょう。きっと未来は、明るいですよ。
- #CR08-11 その霊力、雷の如し ( No.9 )
- 日時: 2021/03/22 22:26
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
ごくそつくんが光の道を全速力で辿る中、道を切り開く為大包平は大典太に『とある頼み』をするのですが…。
如何に強い霊力でも、正しく使わねば危険な力であることは変わりません。―――どういう意味かって?それは物語を紐解いていくうちに分かっていくことでしょう。
------------------------
~メインサーバ~
ミミ『と、いうことで。これからわたし達、MZDの家に向かってあの紫色のハートをぶっ壊したいと思います!』
サクヤ「そうですか…。しかし、あのメフィストの中には亡霊のミミニャミさんとえむぜさんがいます。そんな状態で壊していいものかどうか」
ごくそつ『普通はそう思うよねぇ~。でもねぇ~、なんか音無町に『ポップンパーティ』の記憶っぽいものがごろっごろ転がってるの。きょひょ!今光を辿ってそれ拾いながら進んでるんだけどさ、光を辿れば辿るほど力が強くなってるんだよねぇ~!』
アクラル「ポップンの記憶…。エムゼが零したかなんかしたものなのかはしんねーけど、それがあればあいつに対抗できる。そう思ってるってわけだよな?」
ニャミ『うん!この光、あたしやミミちゃん、MZDだけじゃない。『今まで出会った、全てのポップンパーティの参加者』の思い出を感じるんだ。だから―――もし全部集めることが出来たら、あいつにだって負けないと思うんだ!』
サクヤ「……成程。音無町だけではない。沢山のポップンの記憶が今1つに集まろうというわけですか。分かりました。その場は皆さんにお任せします。何かご入用があれば連絡をください」
メインサーバでは、音無町にて車で爆速中のごくそつくん達と連絡を取っていました。ヴィルヘルムのペンダントが淡く光っていること。そして、町中に光が漂っていること。今はその光を辿りながらMZDの家―――『メフィストの心臓』を目指していることを話しました。
それを聞いたサクヤは少し考えた後、そんな奇跡が起きているということは、『彼女達に何か追い風が吹いてきている』と判断。その場は彼女達に任せると決断し、自分達は入用の時だけ手助けすることを伝えたのでした。
一旦通信が切れた後、アシッドが何かを見据えたようにサクヤに話しかけてきます。
アシッド「メフィストも、自分の心臓が丸見えになってしまった以上なりふり構っていられないということだね。この拠点に手出しをする余裕はないだろう」
サクヤ「では、警備に当てていた方々を呼び戻しましょう。音無町の方で何かイレギュラーが起きても、すぐに対処できるように体制を整えますよ。前田くん、全館放送を使って皆様をここに呼んでいただけますか?」
前田「かしこまりました。すぐに連絡いたします!」
メフィストの余裕が無くなっている以上、本部への襲撃はもうないだろうと判断したサクヤ。前田に口添えをして、警備に当たっていた面子をメインサーバに呼び戻すよう頼みました。
前田がすぐに部屋の脇にある放送室へ向かうのを見送った直後、サクヤもモニターに向き合います。
大典太「……光。確かに町中に散らばっている。あれの1つ1つが、あいつらの大切な『思い』そのものなのか」
サクヤ「少なくとも、ポップンの世界に関しては……。誰か1人が支配するのではなく。皆で手を取り合って歩んでいく未来が実現できていたようですね。改めてそう感じます」
大典太「……思い、か。…………」
サクヤ「大典太さん、どうかしたのですか?」
大典太「……いや、なんでもない」
ぼそぼそと小さく言葉を漏らす大典太を不思議そうに見つめるサクヤ。ポップンの世界は『思い』を伝え合い、皆で手を取り合って未来を作っている。その言葉を聞き、彼はどこか後ろめたい気持ちを抱いていたのでした。
自分は『サクヤの刀』ではない。しかし―――彼女の近侍として、皆を騙し欺いている。募りに募った罪悪感と、主への申し訳なさが頂点に達しそうになっていたのです。
そんなことを思いつめている間にも、前田が館内放送を終えて戻ってきました。既にこちらに向かっている足音が聞こえている為、そう時間もかからず全員が揃いそうですね。
前田は大典太の表情で何を考えるか察し、サクヤに聞こえないように耳打ちをしてきます。
前田「大典太さん。主君とのことについて考えていたのですか?」
大典太「……そう、だな。俺は……主に思いを伝えず、皆をずっと騙し欺き続けるのだろうか。画面の中で必死に戦っている連中を見ていたら、そう思って……。そうしたら、なんだか罪悪感がでかくなってきてな」
前田「―――大典太さんは優しい方ですから、主君の刀として主命を果たしたい思いをずっとひた隠しにしてきたのでしょう。僕は大典太さんではありませんが、その気持ちは分かります。
……どうでしょう。この事件が解決した後。主君にそのことをお話してみては?」
大典太「……何故、そう思うんだ。拒絶されるのが分かっているのに何故…」
前田「アシッド殿が主君に仰られた言葉。きっと、主君の中でも葛藤がある筈です。そのタイミングだからこそ、主君と大典太さんでしっかり話し合う必要がある、と僕は思うのです。
―――お二人の気持ちがすれ違ったまま、未来に進んでほしくない。僕はそう思っています」
大典太「…………」
どうやら前田、アシッドの言葉がどうにも引っかかっていたようで。サクヤの気持ちも、大典太の気持ちもよく分かっていたからこその言葉。だから、2人で話し合ってほしいと。思いを伝えてほしいと、そう思っていました。
ですが―――。やはり、大典太にまだその覚悟は、出来ていませんでした。主の悲しむ顔が、簡単に思い浮かんでしまうから……。
二振が話し合っている間にも、ぞろぞろとメインサーバの人数は増えていき、現在集まれる人数は全員集まりました。そして、音無町で今起こっていることを説明後、各々待機することになったのでした。
―――20分程待機していたその時でした。念話でしょうか。賑やかな大声がメインサーバ中に響きます。
三日月『あなや。大包平、そんなに大声を出さぬともこちらには聞こえているぞ~。あぁ、じじいの鼓膜は弱弱しいからなぁ。はっはっは』
大包平『軽口を叩くなじじい!!!貴様はまだ完全に顕現していない癖に出来もしないことを言うな!―――違う、貴様と駄弁りに念話を飛ばしたのではない。
大典太光世!!聞こえているんだろう、応答しろ!』
大典太「……喧しいぞ。部屋中に響いて耳が痛い。……何の用だよ」
大包平『フン。貴様にはそれくらいしないと声が届きそうになかったものでな!!時間も惜しいので本題に入るぞ。貴様らも分かっているとは思うが、あの紫色の心臓…。あれを破壊すれば我々の勝利だ。現在は主の運転により、光を辿って現在は家の前にいる。
―――が。そこで問題が起きた。あの道化師、あろうことか入口に霊力で障壁を貼ってな。道が塞がれて先に進めないのだ』
石丸「道が塞がれ先に進めない…。そう簡単に自分の心臓までは辿りつけさせたくないようだな」
大包平『あれを破壊する前に少年を引っ張り出さねばなるまい。その為には、兎と猫の少女をあの中に連れていき、突入する必要がある。
彼女達の影響を少しでも減らす為、闇を少しでも祓っておきたい』
サクヤ「確かに、あの心臓の中は『闇』そのもの…。ミミニャミさんが生身で突入して、無事で帰って来られる保証はありませんね」
大典太「……あんたの言いたいことは分かった。それで、俺は何をすればいい」
現在、ミミニャミ達はMZDの家の前まで辿り着いていました。光を全て辿った為少し遠回りになってしまいましたが、『心臓』に対抗できる力は充分に溜まっていました。しかし、メフィストがそう簡単に自分の心臓への道を開くわけがありません。
先回りしていたのか、家を取り囲むように障壁が貼られ中に入れません。メフィストの心臓の中にいるMZDを助ける為には、彼の部屋から心臓の中に突入する必要があるのですが―――。家に入れなくては、部屋へも行けませんからね。
大典太が要件を訪ねると、大包平はそのままのテンションで言葉を続けました。
大包平『俺の霊力では流石に負担が多すぎる。天下五剣の力を借りるなど本来ならば断固嫌だが、今はそう言ってられる状況ではない。
―――大典太光世。俺に霊力を貸せ。貴様のその無駄に大量にある霊力の力を借りれば、入口の闇を祓えるだろう』
前田「メフィストの心臓―――。本陣の近くですからね。こちらも強い霊力をぶつけて相殺しなければ前に進めない、ということなのですね」
大典太「……純粋な神より、妖に性質が近い俺達の方が相殺できる可能性が高いのか。―――承知した。すぐに霊力を送る。大包平。あんたの刀を掲げろ」
大包平『言われなくともそうしている!!』
神の力を借りるより、同じ刀剣男士の霊力の方が相性がいいのでしょう。大包平一振ではメフィストの闇を祓うことは出来ない為、大典太の霊力を借りてこの場を切り開こうを考えていました。え?何故三日月ではないのか?……三日月は完全に顕現できていない為、石丸の協力が無ければ霊力を送ることが出来ません。彼の負担を考えたのでしょう。
大典太はすぐに趣旨を理解し、自分の腰に携えていた刀を目の前に掲げ精神を集中させます。―――すると、大包平から感嘆の言葉が。
大包平『―――なんだこれは。貴様、普通の大典太光世にしては霊力が多すぎないか?まぁ、今は寧ろ助かるんだが』
大典太「……政府曰く、俺達は『失敗作』らしいからな。―――あんたが驚くのも無理はない」
石丸「『失敗作』……」
三日月『そう落ち込むな主。霊力が多すぎても、建物を破壊したり、自我が保てず他の刀剣男士を傷つけてしまっては本末転倒だろう?俺達はそれをコントロールする為に作られた、いわば『実験台』という奴なのだ。気にするでない」
石丸「それはそう、だが…。君達の意思を無視して、道具のように扱う政府には好感が持てないと思ってな」
大典太「……それは違う。紛れもなく俺達は『道具』だよ…」
前田「大典太さん…」
そういえば、彼が顕現し三日月が目覚めた辺りでそんなことを言っていましたね。『俺達』と言っていたことから、政府によって鍛刀された五振は霊力が高すぎた故『失敗作』と言われていたようです。その辺についても今後、分かってくることがあるかもしれませんね。
大包平には順調に霊力が届いているようで、彼の刀身が少しずつ輝きを見せているのが周りの反応から見て取れました。
大包平『もう少しだ。もう少しであの闇を斬れるだけの霊力が溜まる―――!』
このままなら行ける―――!誰しもがそう思った、その時でした。
大典太「―――っ?!」
サクヤ「?!」
それは、唐突でした。バチリ、という音と共に大典太に電流が走ります。何が起こったか理解できていない大典太をよそに、三日月は何かを悟ったように声のトーンを落としました。大包平も急に霊力の援助が途切れたのか、焦ったような大きな声でこちらに口を出してきます。
大包平『どういうことだ大典太光世!!貴様、青龍と契約をしていたのではなかったのか!!』
大典太「…………!!」
大包平『何をしている!!このままでは闇が―――。……貴様、まさか『本来の契約をしていない』のでは『大包平。今は問い詰めている暇はないぞ。俺が代理をしよう』』
『本来の契約をしていないのではないか』。大包平が発したその言葉に、全てを理解する大典太。―――霊力の援助は、『主命を果たす』刀でなければ行えない。頭が真っ白になり、大包平の言葉も頭に入ってきません。
大包平の声が怒号に変わっていく寸前でした。三日月が彼の言葉を遮り、自分が代理で霊力を送ると提案してきました。彼はすぐに石丸に刀を掲げてほしいと頼みます。
石丸「これを、掲げればいいのかい?―――僕で大丈夫なのか?」
三日月『主は生身の人間だからな。多少、身体がふわふわとした感触にはなるだろう。だが、主は『質実剛健』が『もっとー』なのだろう?大丈夫、主と俺ならばな』
石丸「そ、そうか。よく分からんが、活路を開けるのならば喜んで協力するぞ!大包平さん、受け取ってくれ!」
石丸が三日月宗近を掲げると、大包平の刀が再び光り輝きます。そして―――1分程経った頃、彼から『もう充分だ。貴様の主を解いてやれじじい』という言葉が響いてきたのでした。
それと同時にぐったりと椅子にもたれかかる彼。罪木が心配そうに駆け寄ります。
罪木「はわわぁ?!だ、大丈夫ですか石丸さぁ~ん?!」
石丸「は、ははは…。少し、疲れただけだ…。座って休めば、大丈夫さ」
三日月『普通は俺が刀を掲げるべきところを、その役目を主に押し付けてしまった形だからな。神の力を身体を通じて送る行為。生身の人間には負担が多い。―――よく頑張ったな主』
大包平は既に念話を切っており、現地での事態解決に向けて集中しているのでしょう。ぐったりとした表情で机に屈服する石丸を、三日月はいたわるように見ていました。
―――その後。大典太に小さく声をかけ、こんなことを告げるのでした。
三日月『……大典太。大丈夫か』
大典太「…………」
三日月『その表情が崩れない、ということは…。余程知られたくなかったように見えるなぁ。―――恐らく、この事態が収まった後。大包平が問い詰めにくるのは間違いない。後で話をしよう』
大典太「…………」
大典太の表情は固まっていました。今まで隠し通していたものが、こんなにもあっさりと崩れ去るとは。これで、主との主従関係も終わりなのか。いくら腕の震えを止めようとも、拳を握りしめても。それが止まることはありませんでした。
―――三日月も薄々悟っていたのかもしれません。『大典太に、近い将来大きな決断を下す場面が来る』ことを。恐怖で打ちひしがれる彼を見ながら、三日月は小さくため息をついたのでした。
- #CR08-12 繋がりの先には何がある ( No.10 )
- 日時: 2021/03/23 22:15
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
全てに決着をつける為、MZDの家へと乗り込む一同。
不安と恐れが付きまといますが、みんなの力を背負った今ならば大丈夫。さぁ、MZDを救いに行きましょう!
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~音無町 少年の家前~
大包平「……今回ばかりはじじいに感謝せねばな。お陰で、闇を斬れそうだ」
ミミ「本当?!流石は『刀剣の横綱』!伊達に異名がついてる訳じゃないんだね~」
大包平「もっと褒めてくれてもいいぞ。―――一撃で決める。お前達、少し後ろに下がっていろ」
音無町では、車から降りた一同が立ち止まっていました。念話でもあった通り、少年の家は紫色の靄らしきもので覆われています。入ろうとすると靄が絡みつき、結果的に弾き飛ばされてしまう。これを何とかせねば、メフィストの心臓の元まではたどり着けないのでした。
大包平の刀は、自らの霊力と大典太、三日月双方の霊力で高まりを見せ輝かしいばかりに光っています。彼は悟っていました。斬れるのは一度きり。急所を外せば、全員で乗り込むことは不可能だ、と。覚悟を固める為、周りの人達に少し下がっているように命じます。
ごくそつ「靄、といってもどこかに脆いところはある筈だからね~。そこを狙って斬ればきっと活路は見いだせるはず!きょひょ!」
ニャミ「大包平さんが靄を斬ってくれた後は、すぐに玄関から家に入って―――MZDの部屋を目指せばいいんだよね?」
莉愛「えぇ。恐らく、靄が晴れるのは一時的なもの。すぐにあたし達を追って再生するはずだわ。余談は許されない」
ルキナ「靄もすぐに再生を始めるでしょうから…。時間はないと思った方がいいでしょう」
ミミ「絶対に失敗させられないね…」
集中力を高めている大包平の後ろで、今後のことを話し合う一同。メフィストの性格からして、斬ってどうにかなるものを創り出しているはずがない。彼が活路を開いてくれても、それは一時的だと皆分かっていました。だから―――彼の邪魔はせずに、ただ『その時』をじっと待っていました。
―――そして。
大包平『―――そこかぁッ!!!』
大包平の鋭い一閃―――。光を纏った斬撃は、闇に覆われた家をはっきりと映し出す程までになりました。後ろで見ていた一同も流石、と喉まで出かけますが…今はそんなことで時間を使っている暇はありません。
彼が素早く振り向き、ドアの方向を指さします。早く入れ、と無言で圧をかけてきます。一同も各々反応を見せ、急いで少年の家のドアを開き、中へと突入します。しんがりを務めていた大包平が入った瞬間―――。
再び、靄が家の周りを覆い始めました。もう少しタイミングが遅ければ、誰かしら巻き込まれていましたね。
莉愛「…何とか入れたけど、閉じ込められちゃったわね…。ミミとニャミを待っている間、あたし達は部屋の中で待機ってことでいいのかしら?」
ごくそつ「そうだね~。心臓を内側からぶっ壊した後、ミミちゃんとニャミちゃんがどうなるかなんて予想できないし。待ってた方が得策でしょ。きょひょひょ!」
ジャック「流石に家の中にまでは靄は入ってこないか…。が、あいつの魔力自体に手を出したんだ。気付かれるのも時間の問題だろうな」
大包平「ならば、その場で俺が切り伏せて見せよう。道化師よ。俺に殺されるのを名誉に思いながら逝くがいい」
ルキナ「力不足ですが、私もお手伝いいたします!」
ごくそつ「あのねぇ大包平くん?ルキナちゃん?ぼく達が直接対峙できないのは分かってるよねぇ~?心臓無いから斬れないんだよ~?」
ミミ「あっ!あそこに階段がある!そこからまっすぐMZDの部屋まで行けそうだよ!」
ニャミ「いよいよ本丸に突入って感じだね~。……緊張してきた」
ジャック「緊張するもしないも、お前達はその覚悟を背負ってここまで来たんだろ。なら、その『気持ち』を信じろ。お前らは今までずっとそうしてきた。だからこそ、沢山の奴らがお前らを信じて力を貸してくれてるんだよ」
ミミ「……うん。ごくそつくんが辿ってくれたあの光―――。『ポップンを愛する』みんなの気持ち。わたし達はそれをMZDに届けに行って、一緒に帰ってくるよ。だから……みんなも、わたし達を信じて待ってて」
ニャミ「MZDはあんな姿して結構タフだからね!大丈夫。きっと今頃心臓の中で1人で出ようともがいてるんじゃない?」
莉愛「―――そうね。なんだか、貴方達見てたらこっちまで勇気が湧いてきたかも」
大包平「主から話には聞いていたが…。お前達、素直でまっすぐだ。俺はそういった人間の方が好きだがな!」
階段を昇りながら、各々思いを伝え合います。大丈夫。きっと全ては上手くいく。今までこんなにみんなで頑張って来たのだから。辛いことも、悲しいことも共に乗り越えてきた。だから、大丈夫。
昇り切ったと同時に、ネームプレートがかけられた部屋があるのを見つけました。プレートには『ひすい』と書かれています。ひらがなで書かれており、可愛らしいデザインでした。……家が焼け落ちる前の、『本当に幸せだった』頃の記憶。彼の部屋だけは、それが守られていたのでしょう。
ミミとニャミはそんな思いを抱きながら、彼の部屋のドアを開きます。それと同時に眼前に現れる『メフィストの心臓』。窓から飛び移れば、中に入れそうですね。
ニャミ「うわ、でっか。街から見えてた時も大きいなあとは思ってたけど、これ程とはね…」
ミミ「この中に、MZDと異世界のわたし達がいる…。中に入ったらあの子達、襲ってこないかな?」
莉愛「神様がどうなってるかにもよるんじゃないかしら?あの時は逃げるように小学校から去ったけど……あの後、神様も何か思うことだってあったかもしれないし」
ごくそつ「―――いいかい?ここからあの心臓の中に入れるのはミミちゃん、ニャミちゃん。きみたちだけだよ。だから、あのバカ神を何とかするのはきみたち次第だけど…。きょひょひょ!ぼくは信じてるからね~。なんたって『HELL』共を蹴散らしたとんでもない女の子たちなんだもん!」
大包平「な…なんだと…?!お前達、そんなに凄い輩だったのか…?!」
ジャック「まぁ…。神も悪魔も魔族も関係なしに仲良くなってる時点でとんでもないけどな。―――ミミ、ニャミ。上司が庇うくらい情がお前達にあったってことだ。それくらい信頼されてんだお前達は。
―――だから。お前達の思う通りに動いてこい。……ポップンの未来のこと、お前達に託した。頼んだぞ」
ここからは一緒には行けない。だからこそ、この場で思い思いの言葉を口にする一同。その1つ1つが、彼女達の力となり勇気となる。窓の外に広がっている『闇』を目にしても、屈しない1つの支えとなっていました。
彼女達はお互いを見やります。1人じゃない。2人であそこに乗り込むんだから大丈夫。その気持ちを代弁するかのように、お互いに強く頷き合いました。そして……。
ミミ「それじゃ」
ニャミ「行ってくる!」
その言葉だけを残し、2人は勢いよく目の前に広がる『闇』へと飛び込んでいったのでした。
~???~
―――何もない、暗闇の中。うさぎと猫の少女はそこで目を覚ましました。お互いに無事だということを確認した後、周りを見回します。そこにあったのは、沢山のシャボン玉。その中に、『記憶』でしょうか。まるでフィルムのように出来事が動いています。
この中のどれかにMZDはいる―――。そう確信はしていましたが、その数は膨大。しらみつぶしに探していては時間が足りません。そして……絞ろうにも、無数の記憶をどうやって捌けばいいのか。彼女達にはさっぱり見当もつきませんでした。
ニャミ「1つ2つじゃない。これ全部『誰かの記憶』ってことだよね。この中からMZDの記憶を探さないといけないなんて…」
ミミ「1個1個じっくり調べてる時間もないしなぁ…。どうしようか」
ニャミ「どうにかしなきゃならないんだけど、方法も思いつかないからなぁ。どうしたらいいんだろう」
無数に浮かぶ沢山の記憶を見て、項垂れてしまうミミとニャミ。急いでMZDの元へ向かわねばならないのに、この無数の記憶からどうやって探し当てればいいのか。前例もない為、参考に出来そうな経験もありません。
―――困った。八方塞がりだと思った瞬間、彼女達の耳に『聞き覚えのある音』が聞こえてきました。
ミミ「―――音? ……いや、これ『歌声』かな?」
ニャミ「……ミミちゃん。多分この歌声MZDだよ。多分じゃない。絶対そう!」
それは、まるで自分達に届くように響いているような。そんな感触を彼女達は覚えました。耳を澄ましてもっと歌声をよく聴いてみます。―――同時に『記憶』を見回していると。端の方に1つ。そのシャボン玉の中には『不思議の国』のような風景が広がっていました。歌声は、間違いなくそこから聴こえてきていました。
ミミ「呼んでる。この向こうにMZDがいる」
ニャミ「―――もし間違えてたら後戻りはできないけど…。きっと、大丈夫だよね?」
ミミ「大丈夫!メフィストの執念より、わたし達とMZDの長年の絆の方が強いんだってとこ、見せてやればいいんだよ!」
ニャミ「……そうだね!よーし、決めたなら勢いよく行かなきゃね!」
目の前にある『不思議の国』の記憶に飛び込むことを決意した2人。間違えた場合、後戻りは絶対にできない―――。そう、何となく悟ってはいましたが。ここに飛び込めば間違いなくMZDに会える。そう、確信めいたものが心の中にはありました。
その決断を象徴するように、2人はお互いに手を繋ぎます。
ミミ「行くぞーーー!!!」
ニャミ「突撃ーーー!!!」
少女達は勢いよく、泡の中に飛び込んだのでした。
「あっ あれっ? 地面がないよ?」
「も、もしかして間違えたんじゃ―――」
『う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!』
~不思議の国~
ミミ「い、いってて……。あれ、ちゃんと地面がある。生きてるわたし達」
ニャミ「うん。なんかやわっこいような固いような場所に落ちたけど怪我もなさそうだね。うーん…。不思議の国に無事に来れたってことなのかな?」
地面がないと思って焦ったのも束の間。暖かいものを下敷きにして2人は起き上がりました。お互い無事を改めて確認し、不思議の国に辿り着いたことを確認します。
『良かった』と心の中で思ったと同時に。2人の少女の真下から、苦しそうな声が聞こえてきたのでした。
「あのねぇ…。重いんだけど?」
「―――!!」
聞き覚えのあるその声。急いでその場からどき、声の正体を確認しようと顔を向けました。
MZD「ありゃ。どうしたの泣きそうになって。もしかしてオレがいなくて寂しか……おわぁっ?!」
ミミ「バカっ!バカバカバカバカバカーーーっ!!!」
ニャミ「あたし達がどれだけ心配したと思ってるの?!このバカ神!!!少しは反省しなさいっ!!」
MZD「…………。……そう、だよね。今回ばかりはそうだ。―――ごめん」
ずっとずっと会いたかった『少年』との再会。うさぎと猫の少女は、思わず彼に飛びついていたのでした。
やっと、やっと会えた。その幸福感が、3人の心を満たしていたのでした。
- #CR08-13 no name of color ( No.11 )
- 日時: 2021/03/24 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
遂に再会を果たしたミミニャミとMZD。幸せそうな3人を見て、異世界の少女達はやっと気付いたのです。
自分達がいるべきは『ここではない』と。その時、奇跡は起きるのです。
------------------------
~不思議の国~
『…………』
やっとその手を重ねることが出来た。泣いて喜ぶ自分達と同じ姿をした少女達と、嬉しそうに2人の頭を撫でる少年の姿を見て、不思議の国の少女達はただ呆然としていました。
―――自分達のやろうとしていたことは、彼女達の『笑顔』を奪うことだったんだ。そのことに、ようやく気付いたのです。そして……少女達は、自分達がやってしまったことの重大さに恐怖を抱き始めました。
『ねぇ。もし、あたし達がMZDをここに閉じ込めちゃってたら…。どうなってたんだろう』
『もしかしたら、わたし達ごと破壊されてたのかな』
『あの子達も、あたし達も、どっちも消える未来が待っていた……。あたし達は、とんでもないことをしようとしていたんだ』
ミミ「…………」
恐怖で項垂れる自分と同じ姿をした少女。そんな彼女達に、ミミとニャミは静かに近付きます。そして―――優しい言葉で、彼女達にこう諭したのでした。
ミミ「話は全部聞いたよ。あなた達の世界……『ポップン』が、消えちゃったんだね。だから、自分達の世界のポップンを取り戻して―――また、音のある楽しい世界に戻したかっただけなんだよね?」
『うん。わたし達の世界のMZD…。わたし達を庇って消えちゃった。あの時、あなたの仲間が同じことをしたように。今になって思い出すなんて。―――自分がされて悲しいことは、人にしちゃいけないって知っていたはずだったのに……!』
ニャミ「そっか。キミ達の世界でも…MZDはあたし達と仲が良かったんだね!だから、自分達の身に危険が及んだ時―――。身を呈してキミ達を守った。あたしはそう思う。MZDを失って、辛かったんだね」
『MZDがいなくなったって分かった時、何も考えられなくなった。神様が守れないものにあたし達はどう立ち向かえばいいんだって。ポップンが無くなっちゃうって思ったら、どうもこうもなかったんだよ』
MZD「そういえば…さ。『ポップンが25回目で終わる』って、どういうこと?さっき聞きそびれたし、今聞いちゃうけど。お前さん達の世界では、ポップンパーティは25回目で終わったのか?」
落ち着きを取り戻したのか、ぽつり、ぽつりとゆっくりではありますが思い出したことを少しずつ話し始める異世界のミミとニャミ。恐らく『永久』を少しMZDに放った影響で、封じられていた記憶がほんの少し、元に戻ったのでしょう。
そして、それに続くようにMZDが『ポップンが25回目で終わった』ということについて追及を始めました。この世界では、ポップンパーティは26回目以降も続いている。異世界で少しずつ現実が変わってきているとはいえ、大元が変わることなどあり得ません。
それを聞いた彼女達は、少し考えた後こう答えたのでした。
『わたし達の世界では、元々peaceのパーティで『ポップンは最後』って言われてたんだ。MZDが、言ってたんだ。パーティを楽しんでくれている人が少しずつ減ってきてて…。何とか踏ん張ろうって3人で頑張ってきてたんだけど。―――駄目だった。係の人が申し訳なさそうにわたし達に言ってきたよ。『申し訳ないけれど、ポップンを続けることは出来ない』って』
『それでも、MZDは『最後のパーティ』を忘れられない最高の思い出にしよう、って。テーマを『peace』。あたし達がいつも使っていた言葉にしてくれたんだ。……嬉しかった。あたし達とMZDが歩いてきた道って、こんなに強いものになってたんだって。
噂が広がったのか、本当に沢山の人がパーティに来てくれたよ。―――これがいつまでも続けばいいなぁ、って。ありもしないことを思い浮かべたりもした』
ミミ「…………」
ニャミ「……あたし達が今ポップンを続けていられるのは『奇跡』。そう、なんだね」
MZD「まぁねぇ。世界の情勢って、結構時代で変わるもんだし。どこにどんな需要があるかなんてわかりゃしないのさ。
―――で、その『最後のパーティ』の途中で……。竜に襲われて、世界そのものが終焉を迎えたってワケか」
『うん。そう。その後はあなた達も知ってるとは思うけど……。わたし達は、偶然『永久』っていう力を見つけて、使ってしまった。そのせいで―――。ポップンワールドだけじゃない。わたし達がお世話になっていた世界丸ごと、闇に呑まれちゃったんだ』
『あたし達の選択を間違えたせいで、MZDはいなくなっちゃった。それが悲しくて悲しくて。強い力にすがるしかなかった。どんどん自分が何者なのか分からなくなっても、『MZDを助けたい』。その気持ちだけは残った。……いつからだろう。『助けたい』が『代わりを探さなきゃ』になったのは』
MZD「―――うーん。『永久』を普通の人間が使った影響が記憶に出ちゃった、って感じかな。記憶が無くなっても『感情』はそこに残り続ける。それをメフィストに利用されちゃった、ってことか…」
ミミ「異世界のわたし達も、わたし達の世界を滅ぼそうとしていたわけじゃなかったんだ。―――みんな、運命に翻弄された被害者だったんだ」
『ごめんなさい…』
異世界の事実を知って、何とも言えない顔になる2人。冷静に状況を分析し、やはり『感情』を何とかしない限り彼女達を救うことはできない、そうMZDは判断したのでした。
―――やはりメフィストは自分達に協力するつもりなんて端から無かった。それが確実性を富んだものになり、改めて自分達のやらかしたことの重大さを思い知る2人。そんな彼女達に、ニャミは手を差し伸べます。
ニャミ「……キミ達の悲しい気持ちも、全部あたし達が背負っていく。だって同じ『ミミニャミ』なんだもん。だから―――もう、苦しまなくていいんだよ。もう、悲しい思いをしなくていい」
『…………!!』
ニャミのその言葉に、どこか救われたような気持ちになる少女達。それを象徴するように、身体が少しずつ透け始めているのが分かりました。
―――『悲しい』気持ちと決別した。そういうことなのでしょう。もう、彼女達をこの世界に縛り付ける呪いはありません。それと同時に、ミミとニャミの掌から沢山の光が蛍のようにふわふわと浮き始めました。
ミミ「わ、わ、わわわーーー?!」
ニャミ「なにこれ?!なにこれ!!」
光は徐々に音符のような形に変化していき、空に溶け込むように消えていきます。その光が増えていくごとに、音の旋律が少しずつ増えていきます。
彼女達が持ってきた『ポップンミュージックの記憶』が、この忌まわしき世界を浄化しているのでしょうか。沢山の音は楽しい音楽となり―――。不気味な世界を包み込みました。その光が解けた時に広がっていたのは……。
―――沢山の、黄色い花。太陽を象徴する花。ひまわり畑だったのでした。そして。異世界の少女達は、そのひまわり畑の向こうに懐かしい気配を覚えます。
その正体を悟った時―――。少女達の目からは、涙がぽろぽろと流れていました。
MZD「大丈夫。お前さん達が行く道は…向こうだ。もう、苦しまなくていい。―――やっと、会えるな」
『…………!!』
あぁ。そこにいたんだ。もしかして、ずっと見守ってくれていたのかな。MZDに背中を押され、少女達は走り出します。―――沢山の後悔と、沢山の悲しみを捨てて。今、懐かしい『少年』の元へ。
気配の先では、まるで星のように優しく輝いていた少年が……。手を広げて、彼女達を待っていたのでした。
『―――MZD!!!』
『自分達の知っているMZD』に向かって、少女達は抱擁を交わしました。やっと、やっと。長く、苦しく、重い夢から覚めることが出来た。―――だから、泣かないでよ。
折角また会えたのに。会いたかった相手が泣いていたら、意味がないじゃん。3人の泣き笑いはひまわり畑に溶け込むように、まるで夢から目覚めるように。
―――綺麗さっぱりと。ひまわり畑と共に、消えていったのでした。
ニャミ「……無くなっちゃった。ひまわり畑も、不思議の国も…」
MZD「そりゃそうじゃん。あの国を創り出していたのはあのミミニャミなんだから。感情に決着つけて、自分の世界のオレに会えて。心残りはなんもなくなった。だったら消えちゃうでしょ?」
ミミ「まぁね…。―――異世界のわたし達、これから幸せに過ごせるといいね。今まで、ずっとずっと苦しんで来たんだからさ。その分も……あぁっ!!」
MZD「ん?急に大声出してどうしたんだよ」
何もなくなった暗闇の中で、取り残された3人は話をします。MZDから『心残りが無くなった』という言葉を聞き、どこか救われた気持ちになるミミとニャミ…なのでしたが、『消えちゃう』という言葉でミミが大事なことを思い出します。
MZDがさり気に問いかけてみると、彼女は焦ったような表情でこう切り返してきたのでした。
ミミ「そうだ、そうだよ!!大変なの!ヴィルさんがわたし達を庇って……消えちゃって……。そ、その、ど、どうしようMZD~~~!!!」
ニャミ「そうだった!怒涛の展開に忘れかけてた!ヴィルさん消えちゃったんだよ!これからどうしよう~~~!!!」
MZD「とりあえず落ち着けお前ら。―――心配しなくてもヴィルは死んでないよ。身体は無くなったかもしれないけど、無事だとオレは思いますけど?」
ニャミ「なんでそんなことハッキリと言えるの~~~!!!目の前でヴィルさんが『オレの呪縛』 ……えっ?」
思い出したようにヴィルヘルムの安否をどうすればいいのかを問うミミとニャミ。あまりの焦りっぷりに呆れた表情で『彼は死んでない』と返す彼。あっさりと返された為、信じられない表情で問い返すニャミに、彼は言葉を遮るようにこう続けたのでした。
MZD「幸いメフィストのヤツに『呪縛』を消されなかった。―――前に言ったろ?オレとヴィルはオレの呪縛が解かれない限り『この世界に縛られてる』って。だから無事。大丈夫だよ」
ミミ「そ、そうなの……?う、うわ~~~~~!!!そう思ったら今までくよくよしてたの恥ずかしくなってきた~~~!!!」
ニャミ「じゃあ、ヴィルさんは今どこで何をしてるんだろう?」
MZD「さてね。敵味方みーんな騙しやがるくらい大きく動いたんだから、今相当おかんむりだと思うんだよね。―――これ以上は深く突き詰めないのが身の為、かな?」
ミミ「なんで突き詰めちゃ駄目なの?」
MZD「今度こそお前らの無事が保証できなくなるから。―――あいつの本質を知らないメフィストも哀れなもんだねぇ。『あいつの真意』。もしこの世界が選択を間違えた時……。『JOKER』は世界に牙を向くだろうし」
ニャミ「???」
MZD「さて。ヴィルのことはもういいでしょ?オレ達もそろそろこんな不気味な場所からおさらばしないとね。中身が解決しちまったんだから、心臓が砕けて無くなるのも時間の問題だよ」
ミミ「げげっ。もたもたしてたら…」
MZD「取り残されるうえに一緒に粉々になりまーす」
ニャミ「不気味なことをさらっと通さない!!ど、どうすればいいの?!」
そう。問題はまだ残っていました。異世界のミミニャミの問題が解決した為、心臓が魔力を保てなくなりました。つまり。『心臓はもうじき崩れて消える』とMZDはあっさりと言いのけてしまいました。
このまま残っていると、その崩壊に巻き込まれて自分達も一緒に粉々に……。1つ解決したと思ったらまた一難が襲ってくることに憤慨するミミとニャミ。
焦る彼女達を宥め、3人で円を描くように手を繋ぐように指示するMZD。行動を始めたと同時に、暗闇の1つにヒビが入ります。もう、猶予は残されていません。
ミミ「わーーっ?!世界が崩れてきてるーーー?!」
ニャミ「手を!手を繋ごう!それで!手を繋いだらどうすればいいの?!」
MZD「そのまま目を瞑っててくれるか?5秒くらいしたらあっちに戻れると思うから」
ニャミ「そんなあっさり?!でも今はMZDしか頼れないし―――。よ、よーし!」
ミミ「目を瞑ればいいんだよね!」
3人で手を繋ぎます。そして、目を瞑っててほしいと言葉を続けるMZD。恐る恐る、目を閉じます。すると―――。
『う、うわぁぁぁぁぁ?!!』
目を瞑った瞬間。床が抜けて、落下するような感覚に襲われるミミとニャミ。本当にMZDの言うことを信じて良かったのか。今になって不安がよぎる彼女達でしたが、きっと目を開けたら自分達も粉々になってしまう。
今はそう心に強く留め、ひたすら目を瞑って流されるままになっていたのでした。
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