二次創作小説(新・総合)
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- AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡【完結】
- 日時: 2021/08/11 22:27
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ADnZqv8N)
どうもです、灯焔です。
自作品でも表明しました通り、逃走中のゲームパート以外の場面をこちらに連載いたします。
コネクトワールドの住人達がどんな運命を辿っていくのか。物語の終末まで、どうぞお楽しみください。
※注意※
・登場するキャラクターは全て履修済みの作品からの出典です。かつ基本的な性格、口調等は原作準拠を心掛けております。が、表記上分かり易くする為キャラ崩壊にならない程度の改変を入れております。
・原作の設定が薄いキャラクター等、一部の登場人物に関しては自作設定を盛り込んでおります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
・誤字、脱字、展開の強引さ等ございますが、温かい目でお見守りの方をよろしくお願いいたします。
・今までのお話を振り返りたい方は、『逃走中#CR』の過去作をご覧ください。
・コメント等はいつでもお待ちしておりますが、出来るだけ『場面の切り替わりがいい』ところでの投稿のご協力をよろしくお願いいたします。
また、明らかに筋違いのコメントや中身のないもの、悪意のあるもの、宣伝のみのコメントだとこちらが判断した場合、返信をしないことがありますのであらかじめご了承をよろしくお願いいたします。
<目次>
【新訳・むらくもものがたり】 完結済
>>1-2 >>3-4 >>5-6 >>7 >>8 >>9-13 >>19-20 >>23-27
【龍神が願う光の世】 完結済
>>31 >>34-36 >>39-41 >>42-43 >>47-56 >>59-64
【異世界封神戦争】 完結済
>>67-69 >>70-72 >>73-75 >>76-78 >>79-81 >>82-83 >>86 >>87 >>88-90 >>93-98
<コメント返信>
>>14-16 >>17-18 >>21-22 >>28-30
>>32-33 >>37-38 >>44-46 >>57-58 >>65-66
>>84-85 >>91-92 >>99-100
- #CR10-6 -2 ( No.77 )
- 日時: 2021/07/12 22:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
扉の向こうには、廊下が1本長く続いていました。壁が白と黒で目に悪い。そして―――2人は、この場に入った瞬間言われようのない懐かしさを覚えました。
……まるで『希望ヶ峰学園』のような造りだ。しかし、あの場から続いている気持ち悪さは止まっていません。そもそも今ある希望ヶ峰学園の配色はこんなにどぎつい色ではありません。
長く続く廊下を歩きながら、天海くんは石丸くんに気になったことを話しました。
「石丸君。もしかしなくてもこの空間、モノクマが創り出したものですよね。なら…道中、あいつが襲い掛かってきたりはしないんでしょうか」
『ふーむ…。確かにそれも気になるが、道は一本。この先に邪悪な気配を感じる。そもそも、あの熊は積極的にお前達を襲うような奴なのか?』
「いや…。仲間内でいたぶるのを見る方が性に合っていると僕は思うぞ。……とにもかくにも、僕達には進む選択肢しか残されていないのだ。進むしかあるまい」
「わざわざこの場所に罪木さん達がいることを教えるような奴ですし、邪魔はしないと思いますが…。そう、ですよね。急がなければ」
そんな会話を繰り返していると、目線の先に1つの扉が見えました。近くにあるプレートには『保健室』と書かれています。
保健室…。いかにも罪木さんがいそうな場所です。中にいるならば早く助けませんと。
「『保健室』…。中に罪木くんがいるのだろうか」
「入ってみなければ分かりません。行きましょう」
モノクマの言葉通りに受け取ると、罪木は何かをされて様子がおかしくなっている可能性が高い。もしかしたら扉を開けた瞬間に襲ってくる可能性もあります。
とにもかくにも、この先に進みたければ保健室に入る以外の道は残されてなさそうです。石丸くんは改めて三日月宗近をぎゅっと握りしめ、天海くんに遠くに離れないようにいった後、保健室の扉を開けたのでした。
―――最初に感じたのはつん、というアルコールの匂い。あぁ、保健室なのだなと一同は思う。
ですが…明らかに様子がおかしい人物が1人、椅子に座っていました。その人物は扉が開いた音に気付いたのかこちらに顔を向けます。正体は察した通り、罪木さんでした。
しかし…彼らがいつも見ている内気な彼女ではない。その顔は何かに恍惚しているような表情でした。
「つ、罪木くん…?」
「あれあれあれぇ?どうしたんですかぁ?そんなに驚いた顔をしてぇ…。びっくりしたのはお互い様なんですからぁ、そんなにオーバーリアクションしなくてもいいじゃありませんかぁ」
「ど、どうしちゃったんですか罪木さん?!」
『ふむ…』
彼女の目の焦点が合っていない。はぁはぁと息を荒げ、まるで危ない薬に手を出してしまったかのように2人と一振には見えました。
完全に何かがおかしい彼女に勇気を出して『どうしたんだ』と問いかけても、彼女は『そんなに警戒する必要はありませぇん』としらばっくれるばかり。話は平行線を辿ります。
「えへへぇ、やっと思い出せたんですよぉ。『あの人』のこと…今の今までずっと…思い出せないように記憶を弄られていたんですねぇ。お二人もそうなんでしょう?だから、そんなに思いつめた表情をしているんですよねぇ?!」
「………!」
「『思い出せた』…。罪木さんも俺達と同じようにモノクマに『記憶』を蘇らせられた、とか?」
『その可能性が高いな。……主も最悪こんな風になっていたということか…』
「一緒にしないでくれたまえ?!だが…いくら記憶を取り戻したとはいえ、このまま彼女を放置しておくわけにも…」
原作のネタバレになるのでそれ以上はおやめください。
罪木さんに痛いところを突かれ、思わず先程の映像が脳裏にフラッシュバックする石丸くん。三日月がいたからこそ、事態は好転へと傾いているのでしょうが…。
その様子を見ていた三日月が、『主と同じような状況なら、自分にも治せるかもしれない』と彼に伝え始めました。
『主。俺には主達に何が起きたのかを知ることはできない。だが…思い出さなくていい記憶まであの熊は弄ったように俺には思える。……そうか。主と同じ状態なら…!』
「三日月くん?」
『あの裁判場のような場で言ったことを覚えているか、主。―――蜜柑殿も俺に触れさせることで元には戻らないだろうか?
大典太が幻の世界だったとはいえ、他の刀剣男士の邪気を祓ったことは俺も話を聞いている。―――さっきも言った通り、普通の刀剣男士ならば絶対に出来ない芸当だ。……主の気持ちを落ち着かせたように、一か八か、やってみようと思ってな』
「なるほど…。確かに俺も石丸君も、この空間にいてもなんらおかしくならないのは三日月さんの霊力のお陰っぽそうですからね」
「やってみる価値はある、か…」
罪木さんを救う為、自分の本体を彼女に触れさせてほしいと三日月は言いました。先程天海くんにやったように。彼らとは違い、罪木さんはモノクマに記憶を弄られてから少々時間が経ちすぎている気はするものの…。可能性が1ミリでもあるのならやってみるのは悪い選択肢ではないと思いますよね。
石丸くんは彼の言葉を最後まで聞いた後、静かに罪木さんの近くに陣取りました。
「あれぇ?どうしたんですかぁ?怖い顔をしていますよぉ?」
「あまり女性に手荒な真似はしたくないのだが…すまない罪木くん。お手を拝借するぞ!」
「わざわざ言葉にするあたりが石丸君らしいですよね」
『『れでぃふぁーすと』という奴だな。はっはっは』
出来るだけ乱暴にしないように優しく罪木の手を取って、三日月宗近に近付けます。当の罪木さんは抵抗するでもなく、ただ彼のされるがまま。
……彼女の指先が三日月宗近の本体に触れたその時でした。罪木さんの身体から紫色の靄が発生しました。その靄は次第にバチバチと光を放った後消えてしまいました。
石丸くんはその光景に固まりましたが、三日月の声で我に返りました。罪木さんがどうなったか慌てて確認すると、彼女はぼんやりと何もない空間を見つめていたのでした。
「……はわわ?私は一体何を…」
「だっ 大丈夫か罪木くん!気分が悪いなど不調があったら言いたまえよ!」
「い、石丸さん?私は何を……」
そこまで言ったところで罪木さん、固まる。石丸くんが自分の腕を掴んでいたことに気付いたからです。
そのままぱちくりと何回か瞬きをした後。
『……ひゃぁあぁあぁ~~~~~~~?!?!?!!?!?!』
女子高生とは思えない悲鳴を響かせたのでした…。
石丸くんも悲鳴の原因が自分にあるとやっと気づき、ぎょっとしながら手を離したのでした。
「し、失礼したッ!」
「わ、わだじのぜいでいじまるざんがふげづになっでじまいまじだぁ~…ゆるじでぇ~…」
「不潔になっていないから泣くんじゃない!そもそも先に腕を掴んだのは僕なのだからな!正気を失っていたとはいえ、君に勝手に触れてしまったことは今もすまないと思っている」
『緊急事態なのだから別にいいだろう。結果的に蜜柑殿も元通りになったようだしなぁ』
「確かに…。先程まで感じていた不気味な印象がすっかり消えましたね」
「どういうことですか?」
未だに泣き続ける罪木さんを宥めつつ、この空間の正体と自分達に何が起こったのかをかいつまんで説明。すると、彼女はしばらく首を傾げていた後小さく首を縦に振り、『そういうことでしたかぁ』と漏らしたのでした。
「石丸さん達と再会してからなんだか頭がぽわぽわしてたのはそれが原因だったんですねぇ。ご迷惑をおかけして申し訳ございませぇん…」
「いやいや、罪木さんが気にすることじゃないんで。悪いのは俺達をここに閉じ込めたモノクマ、ひいては邪神です」
「そうだな!罪木くんもこうして無事だったのだし、後は田中くんと東条くんを見つけ出すだけだ」
『もしかしたら既に熊の渦中に落ちているやもしれん。気を付けて進むのだぞ主』
ふと閉ざされていた扉の方を見てみると、いつのまにか開いていました。その先に進め、ということなのでしょうか。
この先に残りの2人がいる。そう確信した一同は、先に進むことにしたのでした。
再び不気味な雰囲気が纏う廊下を歩いていると……向こうから足音が聞こえてくるのが分かりました。
しかもかなりの速度。……何かから逃げているのでしょうか?警戒しながら歩みを進めていると、遠目にこちらに全速力で走ってくる女性の姿が見えました。
『どけぇぇぇぇぇ!!!!!』
「……あれって、東条さんではないですか?」
「って、こっちに向かって走って来てますよ?!」
「逃してしまえば大変なことになりかねん!捕まえるぞ!」
なんと、女性の正体は東条さん。何かから逃げているような、焦燥した表情でこちらに向かって駆けていました。いつもの気品あふれる彼女はどこに行ってしまったのでしょう。
しかし、このまま彼女を逃がしてしまえば何が起こるか分かりません。最悪彼女が死んでしまう恐れも…。何とかして止めなくてはなりませんが、相手は『超高校級のメイド』。正気を失っているとはいえ、3人がかりで止められるかは分かりません。
「走ってくる方向を予測して左右両方から腕を掴みましょう。罪木さん、もう片方お願いできますか?」
「はい、分かりましたぁ!石丸さんは三日月さんを手放せませんから…。東条さんを抑えた瞬間に、東条さんにも本体を触れさせてあげてくださぁい」
「了解した。本来ならば捕まえる役目を僕がやらねばならんのだろうが…すまないな罪木くん」
「いいえ!お役に立てて嬉しいですぅ!」
『……呑気にお喋りをしている場合ではないみたいだぞ。もう数刻でここを通り抜けるだろう』
廊下にあった物に身を潜め、東条さんを待ち伏せる3人。そのままタイミングを見計らい―――。罪木さんと天海くんが両腕を掴みました!避けられるかと一瞬思いましたが、思考が通常の状態ではなかった為上手くいったのでしょう。
その隙を狙い、天海くんに手助けをしてもらう形で東条さんに三日月宗近を触れさせます。すると、先程の罪木さんと同じように紫色の靄が身体から出た後、ぱちぱちと光を放って消えてしまいました。
東条さんはというと…腕をだらりと落とした後、はっとした表情をして周りを見ています。どうやら正気を取り戻したみたいですね。
「…恥ずかしい姿を見られてしまったようね。メイドがまさか助けられるなんて…」
「無事でよかったですよぉ…!ふぇ~ん!!」
「東条さん。どうして逃げていたんですか?あの先にモノクマが…?」
「いえ、違うわ。確かにモノクマに何かをされたのは覚えているわ。でも…逃げていたのは彼ではないの。『沢山の人』から逃げていたわ」
「『沢山の人』だと?」
「……そこまでは思い出せるんだけど…。駄目ね、頭がもやもやとしててはっきりと思い出すことが出来ないのよ」
『それでいい。無理に思い出せないのならそのままでもいいではないか。―――思い出したことで、悪い方向に転がってしまうのならば猶更、な』
「三日月くん…」
『さーて。残りは眼蛇夢殿だけだったか。斬美殿、この廊下の先に熊がいたのだな?』
「そうね。この先も一本道。一番奥の扉に―――モノクマと、田中君が閉じ込められているはずよ」
「だったら早く行きましょうよぉ!もしかしたら四天王さんも一緒に酷い目に遭っているかもしれません…!」
東条さんの言っていることが分からない?とりあえずV3をやりましょう。話はそれからだ。
まぁそんなことはさておき、残りは田中くんただ1人。東条さんの話によると、モノクマも一緒にいるようですね。……遂に、終わりが見えてきたというところですかね。
『必ず全員で帰る』。そんなことを思いながら、4人と一振はひたすら奥に続いている廊下を進んでいったのでした。
―――またしばらく進んでいると、行き止まりが見えてきます。そこには校長室のような豪華なデザインの扉がありました。恐らくこの奥に、モノクマと田中くんが…。
徐々に迫りくる恐怖に思わず罪木さんは東条さんのスカートの裾を掴んでしまいます。そんな彼女を宥めながら先に進んでいった後―――その『行き止まり』に辿り着きました。
「この奥に、田中君が…。2人のように変なことをされていなければいいのだが」
「モノクマも一緒にいるのなら、助けてから問いただせばいいですよ。行きましょう」
「そうだな。―――行くぞ」
意を決して重厚な扉を開く。この先に何があっても必ず仲間を助け、一緒に帰ると。そう胸に誓って。
扉の先にあったのは―――。
けだるそうに校長室の椅子に座ったモノクマと、ちゅうちゅうとハムスターに心配されながら床に倒れている田中くんの姿でした。
- #CR10-6 -3 ( No.78 )
- 日時: 2021/07/13 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
「田中さぁん?!」
田中くんを見つけた一同が慌てて彼の名前を呼んでいる中、モノクマは退屈そうにその様子を見ていました。もしかして、他の2人とは違って直接殺されてしまったのではないか…。室内が賑やかになっても起き上がらない彼の姿を見て、ふと石丸くんはそう思ったそうな。
耐えられなかったのか『モノクマがやったんですか?!』と珍しく感情を荒げて言葉をぶつける天海くんに、モノクマは返します。『そうだけど半分不正解かな~』と。
「あーあ、遅かったじゃないか。コイツ、抵抗した挙句意識失って倒れちゃったんだよ」
「田中君はあのお2人のようになっていない…?!」
「うん。強靭なメンタルでボクびっくりしちゃった。身体が拒否反応を示したんじゃない?だから気絶しちゃったんだよ」
「た、田中さぁん!」
「意識を失っているからって、これ以上好き勝手はさせないわよ」
罪木さんと東条さんがすかさず彼の前に陣取ります。これ以上彼を傷付けることは許さない、そう言葉も添えて。
自分達もそうされたからなんでしょうね。最後まで抵抗した彼に、自分達のように他人に迷惑をかけてほしくなかったのでしょう。
その様子を見ていたモノクマ。そもそも辿り着いた時から田中くんには興味が薄かった様子。気絶した時点で興が冷めたんですかね。彼女達の行動にもつんとした表情でこう言葉を返します。
「やだなぁ、抵抗しないヤツには何もしないって。そもそもボクがそのつもりなら、田中クンはもう既にこの場にはいない筈だからね!うぷぷぷぷ…」
「2人共。田中くんのことを頼む。―――やはりモノクマを何とかせねばここからは出られないようだな」
「はい。どっちにしろこの部屋がこの空間の最奥。何とか脱出の手立てを見つけねばなりません」
「はぁ~あ。正義の味方気取りですか~?どいつもこいつもやんなっちゃうよ全く。さーて。そろそろ本題に移っちゃいますかね!」
モノクマはそんなことを告げると、ぴょいとその場から立ち上がり石丸くんの元に近付いてきました。しかし、目線の先は彼ではなく―――彼の持っている刀。三日月宗近でした。
そして…彼は石丸くんにとんでもない提案をしてきたのです。
「石丸クン。交換条件しよっか!」
「交換条件…だと?」
「うん。オマエラ、ここから出たいんでしょ?だったら出してあげる。でもタダでは出してやらない。ボクからの条件を呑んでくれるなら、ね」
「交換条件…。もしかして、この場で俺達を殺し合わせたり…」
「何考えてんだよ。そんなことしないって!全く同じネタを2つの小説で跨ぐわけないだろ!」
「君は何を言っているんだ…?」
「コホン。これ以上オマエラに勘違いさせるのも面倒だし、ボクからの交換条件。オマエラがここから脱出するかわりに……」
モノクマからの条件は『石丸達をここから出してあげるから、ボクの条件を呑んでくれ』というものでした。彼の反応からして物騒なことを強要するようではないみたいですが…。いや、物騒な方は別で既にやってますからね。ダンガンロンパF2、是非見てください。
ダイマはこれくらいにして、これ以上話を引き延ばすのも面倒だとモノクマはその『交換条件』を口にしたのでした。
『石丸クン。その手に持っている『三日月宗近』、ボクに渡してくれるかな?』
「………何?!」
モノクマは刀を指さしそう言います。その刀を寄越せば、石丸くん達を全員ここから出してやると。しかし…彼の考えに乗ってはならないと頭の中で分かっていました。渡したとして、三日月が碌な目に遭わないのが目に見えて分かっていたからです。
石丸くんははっきりと口にします。『嫌だ。渡さない』と。三日月を握る手を強めながら。
「断る。三日月くんを渡すわけにはいかない」
「……はぁ~。刀のままだから放置したボクがバカだったよ。分かってるんだよ石丸クン。オマエラみたいなただの人間が、全員こんな空間の中で正気を保っていられる理由。オマエが今握っている刀のせいなんだよね?
いくらオマエラの邪魔や精神の汚染を進めようったって、全部コイツが間に入って邪魔して妨害してくんの。イラつくったらありゃしない!」
「全部分かってたんですか~?!」
「まるっと全部お見通しなのです!それに…聞いたよ?天下五剣、見つかっていない一振以外。オマエ以外は全振顕現を果たしてるんでしょ?ねぇねぇ。なんで一振だけ顕現出来ないのかなぁ?
まぁ、もしボクに渡してくれたらそれも解決するよ!顕現させてあげるしね!」
三日月をターゲットに定めたモノクマは、彼が未だに顕現出来ない理由を告げます。彼の心の傷を抉るように。自分のイラつきを全て三日月にぶつけるかの如く。
それでも石丸クンは固く刀を握りしめ、渡す姿勢は見せません。彼が『自分を守る』と言ってくれたのだから、危機が迫った時には自分が彼の背中を守る。そう、誓いを立てていました。
堂々巡りが続き、モノクマはついにイライラが頂点に達します。『聞き分けのないヤツだ!』と彼のことを言い飛ばしたのでした。
『…………』
「知ってるんだよボク。こいつが顕現できていない理由。『人間を未だに信じ切れていない』んでしょ?いくら石丸クン達のことを信用してるって言葉で伝えたって、それが形にならなきゃ意味がないよね~!
オマエラ天下五剣が時の政府から受けた仕打ちは身に染みている訳だ。そう簡単に払拭できるわけないよね~!だってトラウマモンの傷だもんね~!」
「それでも…それでも、だ。お前にそう言われる筋合いはないぞモノクマ!!三日月くん達には未来を選ぶ権利がある。三日月くんだけじゃない。大典太さん。数珠丸さん。鬼丸さんとも会って、話をして、僕はそう結論付けた。それは誰にも邪魔できないものだ。
お前が勝手に決めつけていい代物ではない!!三日月くんが僕達を信じてくれると言ってくれたのだから、僕はそれを信じると決めたのだ。それは何がどうあれ変わらない!
三日月くんが人間を信じることが出来るようになるその日まで。僕は彼を手放すことは絶対にしない。
三日月くんをお前などに渡すものか!!!」
石丸クンは屈しません。三日月に出会ったあの日から。自分を信じると、『主』と言ってくれたあの時から。彼の苦しみも一緒に背負っていく覚悟を決めていました。
そんな彼にはモノクマの言葉なんて屁でもありません。声高々にそう叫ぶ石丸クンに、思い通りにいかないのかモノクマは更にイライラ。地団太を踏み始めました。
「カッチーン!石丸クンはもっと素直で優秀な子だと思っていましたよ全く!なら交渉決裂だ。オマエラはここで死になさい!」
「天海くん。僕から離れてくれ。嫌な予感がする―――!」
「石丸君!」
モノクマは懐からボタンを取り出しました。あっ、これはやばいやつや。
身の危険を感じた石丸くんは天海くんをその場から無理やり突き飛ばします。そうでなければ彼が巻き込まれると判断した上での行動でした。
その行動にも腹を立てたモノクマ。『勇気と無謀は違うんだよ石丸クン!それを後悔しながら死ぬことだね!』そう告げながら、ボタンを高々と天に掲げました。
そして。
『出でよ、グングニルの槍―――』
「石丸さぁん!!!」
ポチッ。軽快に響いたその音と同時に、どこからともなく槍が青年を貫かんと飛んだ。
「(すまない。すまない、三日月くん…。僕は…こんなところで死ぬのか―――!)」
少女が叫ぶも、届かない。槍の迫る速度は驚異的であり、青年は避けることができない。あの時友を無理やりこの場からどかしたことは正解だったのか、そんなことを頭に思い浮かべながら彼は目を伏せた。
青年から―――いや、正確には彼の持っている刀から。眩い光が放たれた。
何が起こっているのだろう。思わず腕で目を覆う青年。それと同時に小さく聞こえてくる声。
『すまんなぁ主。俺が顕現出来ていなかった理由―――。今ようやく理解が出来た。俺には『覚悟が足りなかった』。ただそれだけのことだったのだ』
「(誰の、声だ…?)」
誰だ。自分に話しかけてくるのは誰だ。それと同時に鳴り響く金属の音。
そうだ。自分は槍に貫かれていなければおかしいはず。なのに…痛くもなんともない。もしかしてこれは走馬灯?
眩しさがゆっくりと和らいだ頃。青年―――石丸清多夏は目を開けた。目の前には―――。
『主。遅くなってすまんな。―――天下五剣が一振、三日月宗近。この地で主の主命を果たす。やっとその決意が固まった』
平安貴族のような装束を身に纏った、気品あふれる美しい男性が刀を持って立っていた。
「な、な、何が起こってるんですか?!これは夢なんですかぁ?!夢でも酷いことされちゃうんですかぁ?許して、許して許して許してよぉ…!」
「落ち着いて罪木さん。大丈夫よ、夢じゃない。足もちゃんとあるわ」
急に現れた貴族のような男性に夢なのかと自分の頬を叩き始めた罪木さん。そんな彼女を宥めている東条さんを尻目に、石丸くんは改めて唐突に現れた男性の方を見ます。男性の足元には、彼が刀で弾いたであろう槍が全て床に落ちています。
当のモノクマは三日月が顕現出来たことにただただ驚いていました。
「本当に…三日月くん、なのか?」
「そうだぞ主。俺が『三日月宗近』。随分と大変な思いをさせてしまってすまんな」
「なんで…オマエ…顕現しないんじゃ…!」
「ふむ。主達の記憶を弄ったのはお前で間違いなさそうだな」
「僕は信じていたぞ三日月くん!やはり刀に違わぬ美しさだな!」
「はっはっは。もっと褒めてくれてもいいのだぞ…と言いたいところだが、お喋りはここまでにしておいたほうが良いだろうな。何せ目の前に『核』があるのだからなぁ。
主。すまぬが蘭太郎殿と共に蜜柑殿のところで待っていてはくれないか」
「あ、あぁ。分かった。僕がここにいても君の足を引っ張ってしまうことになるからな!」
モノクマが動けていない間に、三日月は石丸くんと天海くんを罪木さん達がいる場所まで避難させました。そして―――改めてモノクマに刀を向けます。どうやら彼、この空間を創り出している正体にも勘付いている様子。いつもの『じじいの勘』なんですかね。
そして、やっと我に返ったモノクマは三日月の言葉を『見当違いだ』と突っぱねます。
「ボク自体が『核』だって?面白いこと言ってくれるね!何か証拠でもあるの~?」
「お前の中に、この空間と同じ…いや、それよりも『濃い』邪気が詰まっている。つまり、お前がこの空間を創り出しているということに他ならない証拠になるのだ。
確かに今まで顕現出来なかったのは…お前の言う通りだ。人間を信じ切れていなかった。この世界で『生きていく』覚悟が足りなかった。それに…主達の言葉で気付くことが出来た。だから、この世界に顕現を果たせた、という訳だ」
「石丸さんの純粋なお心が、刀剣男士さんの過去に抱いてしまった冷たい気持ちを溶かしたんですねぇ。うふふ…!」
「よく分からんが…三日月くんが無事顕現出来て僕も嬉しく思うぞ!」
「フン!余裕面していられるもの今のうちだからね!すぐオマエラを絶望に染めてやるよ。出でよ、グングニルの槍―――!」
三日月が顕現したことに納得のいっていないモノクマ。すぐに刀に戻してやると再びボタンを押し、四方八方から槍を召喚します。彼に迫る多数の槍―――でしたが。先程全て床に叩き落した三日月には造作もないことだったようで。
「給料分は働くとするか。……俺も天下五剣なのでなぁ。甘く見られてもらっても困る」
そう、余裕たっぷりな感想まで漏らして片っ端から床に槍を落としていく三日月。モノクマも対抗して次々と槍を召喚しますが、先を全て読まれているのか全て弾き飛ばされてしまいました。
三日月は優雅な動きでモノクマに近付き、彼をまっすぐ見つめます。
「お遊びはここまでだな。そろそろ…終わりにするか」
その言葉と同時に―――。
ぬいぐるみは、真っ二つに割かれたのでした。
『天下五剣』と呼ばれる通りの強さ。それを、生徒達は思い知ったのでした。
モノクマだったものは斬られたところから紫色の靄が現れ、消えてしまいました。残ったのは人形の残骸だけ。やはり三日月の言った通り、モノクマ自体が『核』だったということで間違いないのでしょうね。
それは辺りを覆う淀んだ空気が祓われたことで、石丸くん達も気付くことが出来ました。
「あら。ちょっと気分が良くなったみたい」
「悪い空気が無くなったからですかね?……今回ばかりは本当に死ぬかと思いましたけれど」
「うぅ……」
「はっ!田中くん、大丈夫かね田中くん!!」
「石丸さぁん!そんなに大きく揺らすと死んじゃいますからやめてくださぁい!」
「最初にやったやり取りと同じことを主はしているな」
「それだけ必死なんでしょうけれど、あの時は一瞬三途の川が見えました」
田中くん泡吹きかけてるのでそろそろやめてあげてくださーい。罪木さんに指摘され、はっとして身体を離す石丸くん。手加減を学びましょう。
しばらく様子を見ていた後、ゆっくりと彼の眼が開いたのでした。
「地獄への門が開いた気がしたが…ここは…。現世なのか…」
「現世よ。お帰りなさい田中君」
「いやいや乗らなくて大丈夫ですから!……あの、ご気分は大丈夫でしょうか?」
「モノクマにこの部屋に閉じ込められてからの記憶が奪われているようだ。俺様は一体ここで何を…」
混乱している田中くんに、天海くんが一部始終を説明。自分がモノクマの誘惑に打ち勝ったのだと解釈した田中くんは唐突に笑い始めたのでした。
「フ……フハハハハ!!あの邪悪な人形よ。この俺様の魔力には敵わなかったということだな!!」
「何はともあれ、田中くんに変な影響が出ていなくてよかったぞ」
「あぁ、本当に…だな。5人共。俺がこうしてお前達の元に顕現できたのも…皆のお陰だと思っている。本当にありがとうな」
「い、いえいえ!私じゃなくて!石丸さんと、三日月さんが『覚悟』を決めたから顕現出来たんですよぉ!」
「そうだぞ三日月くん!君が顕現出来たのは、君の意思が固まったからだ。それ以外の何者でもないさ」
5人に改めてお礼を言う三日月に、皆はそんな風に返したのでした。何はともあれ三日月も顕現出来たことですし、これで戦力もアップ。早く数珠丸達と合流したいところです。
―――そんな戦いの余興に浸っていたその時でした。ピッ、ピッ、と、何かを刻む音が部屋中に響き始めました。音の方向は―――人形の残骸がある場所。ま、まさか。
「モノクマの残骸から聞こえているみたいね。もしかして…爆弾か何かを仕込んでいるんじゃないのかしら」
「に、逃げないと巻き込まれてしまいますぅ~~~~~!!!」
「あのア熊め…!この俺様に置き土産を残していくとはな!」
「そんなことを言っている場合か!アラームを刻む速度が速くなっているぞ!」
「爆発が近い、ということなんでしょうね…。急いでこの部屋から出ましょう!」
この部屋にいたら爆発に巻き込まれてしまいます!急いで脱出しないと、と扉に向かって走り始める5人と一振。その間にも音を刻む感覚は短くなっていきます。
何とか扉まで辿り着き、素早く部屋の外に出て扉を固く閉めた瞬間でした。
―――扉の向こうから、轟音と共に部屋が木っ端微塵に爆発してしまいます。
爆風は扉の近くにいた石丸くん達も遅い、彼らは一緒に吹き飛ばされてしまいました。
「主。手を」
「あぁ。離すものか!」
風の勢いと耳に響く音で、意識を失ってしまった生徒達。
しかし―――石丸くんと三日月が固く繋いだ手は、決して離れはしないのでした。
- #CR10-7 -1 ( No.79 )
- 日時: 2021/07/14 22:04
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
~???~
「―――ッ!!」
ガキン、と刀がぶつかる音が響く。大典太と鬼丸が戦いを繰り広げていた。お互いに戦装束はかなり破けており、肌がむき出しになった箇所には所々に生傷がついている。
鍔迫り合いの後の鬼丸の一撃を避けられず、大典太の頬には刀による傷が付いた。かつてのベリトと同じように、鬼丸は疲れた表情すら見せていない。傷があるのにも関わらず、大典太の首を取らんと傷口が開くのも気にせず攻撃を仕掛けてきていた。
「(……いつもの鬼丸の戦い方じゃない。当然か…。完全に邪気に吞まれてしまっているんだからな…)」
いつもの鬼丸の戦い方ではなかった。全身から放たれる力強い一撃ではない。腕力に身を任せた、技量もへったくれもない正に『獣』のような戦法―――。正味、大典太は守りに徹するのが精一杯だった。
しかし、彼の今の戦いは単調そのもの。彼の隙を突こうと思えば突ける。ただ…鬼丸はその一撃一撃で大典太の首を跳ね飛ばそうとしている。その為、一瞬でも気を抜けば首が持っていかれることを大典太は確信していた。
攻撃を受け流し、自分への身体の負担を減らす。そうせねば、鬼丸を助ける前に自分が倒れてしまう。そう感じていたからだった。
攻撃方法が単調なのなら、手に持っている刀を落としてしまえば戦力は落ちる。大典太はそう考えていた。鬼丸の攻撃の隙を狙い、蹴りを入れようとするも―――。
「……ふっ!」
『…………』
「―――! 駄目か…」
鬼丸とてその動きを読んでいないわけではなかった。大典太が自分の刀を持つ腕を狙っていることには気付いており、その足を掴んで勢いのまま大典太を斬り裂こうとしていた。
寸のところで鬼丸の腕を回避し、何とか体制を整える大典太。彼も遠慮せず鬼丸を斬ればいいのだが……そうできない理由があった。
「(……やはり、駄目か。正面から刀を落とそうとしても逆に掴まれる。腕力はあいつの方が上。体制を崩されたら一気に持っていかれるな…)」
何とか持ち直し、太刀を握り直す大典太。息もまばらで、鬼丸に付けられた数々の傷と時間経過による疲労で体力も底をつきそうだった。
彼が鬼丸を傷付けない理由はただ1つ。『彼を傷付けたくない』という本能からだった。そして―――もう1つ。彼が腹の底で考えている『とある策』には、鬼丸がある程度体力を残していることが絶対条件だと考えていたからだ。その為に、鬼丸の刀を彼の手から落とす必要があった。
「(……鬼丸のどちらかの手を掴めればいいんだが…両手で刀を持っているからな。どうにかして体制を崩さねば手は離れない。―――それに…)」
それに。このままでは自分の方が先に折れてしまうかもしれない、という可能性を示唆していた。鬼丸から受けた攻撃が相当身体に響いていた。双方負ったダメージは同じくらいなのに、『痛覚』まで封じられてしまったのか表情1つ動いていない。
―――彼が捉えているのはただ1つ。大典太の首だった。
「(……折れるかもしれん。恐らく主のお守りで一度は破壊を免れるんだろうが…。このお守りは……)」
ふと、サクヤから預かったお守りを見る。小さいながらも彼女の相当な霊力を感じた。何を思って彼女はあんな台詞を言いながら自分に託したのだろう。自分で考えている使い方で、主は怒らないだろうか?時折そんな考えが頭の中でよぎる。
―――だが、そうせねば鬼丸は助からない。サクヤから託されたお陰で考えついた『唯一の方法』。それを実践する為に、自分が先に折れるわけにはいかなかった。
「(……来る)」
鬼丸の方向を見やる。考える隙も作ってくれないのか。彼は一瞬のうちに距離を狭め、刀を振るってきた。何とか受け止め弾き飛ばすが、彼の速度について行く体力がもう底を付きかけていた。
何とか肩で息をするが、いつまでこれが持つか分からない。鬼丸の方も流石に身体が悲鳴を上げているようで、起き上がるのにも時間がかかっているようだった。
……それでも彼の表情は氷のように動かない。大典太はまたちくりと心が痛んだ。
「……鬼丸」
「…………」
彼が体制を崩している今ならば。一撃を与えれば倒れるかもしれない。大典太はふとそんなことが脳裏に浮かんだ。しかし、彼は首を横に振った。
邪気というのはそんなにも自我を無くすのか。感覚まで無くすのか。戦いを躊躇する心まで失ってしまうのか。虚ろな目をこちらに向ける鬼丸にそんな感想を抱く大典太。
「……そんな悲しい目をするな鬼丸。約束しただろう。あんたの邪気を完全に祓って、一緒に酒を呑むんだろう」
「…………」
「……今のあんたにどうせ声が届かないことなんて、最初から分かっている。だが…俺はあんたとの約束を反故になんてしたくない。―――この傷じゃ、あんたを助けても俺が無事でいられるかどうか分からんからな。
仮に俺が折れたとしても…あんたが主の近侍になって支えてやればいい。同じ刀派の前田だっているんだからな…」
「…………」
自虐のようにそんなことを小さく呟く大典太。心にも思っていないことを。自分で自分にそう言葉にするものの、口をついてするすると出た、思っていることとは反対の言葉は続いていく。
刀を杖替わりにして立ち上がろうとしている鬼丸には伝わらない。だから、自虐。そう、思っていたのだが―――。大典太の耳は聞き逃さなかった。
『……ふざ、けるな……。なにが、『俺が折れる』だ……―――うっ……!!』
「……鬼丸……?!」
明らかに自分に向けられた言葉。ハッとして鬼丸の方を向いてみると、彼は先程までと同じ虚ろな目をこちらに向けていた。一体何だったんだ…?大典太はそう思うが、先程の小さく耳に入って来た声は明らかに鬼丸のものだった。
―――もしかしたら。自分の考えに確信が持てた大典太は、その場で静かに懐からお守りを出した。そして……彼の攻撃に備え構えを取ったのだった。
「―――来い。鬼丸国綱!」
『―――ッ!!!』
目の前の『鬼』が、刀の首を刎ねんと突進してくる。彼はそれでも動かなかった。―――鬼の腕が、刀の首を捉えたその瞬間―――。
彼は、動いた。
「………はっ!!」
「―――!!」
一瞬の隙だった。それを狙って、大典太は力強く腕に向かって力強い蹴りを繰り出した。刀で防いでくると思っていた『鬼』は、その行動をまともに受けてしまい体制が崩れてしまう。
両手で掴んでいた刀の片方が離れ、片手が空く。大典太はその状態を狙っていた。
「(……今しかない。逃せばもう…!)」
大典太は意を決し、鬼丸の腕を掴んだ。そして―――その空いた手に、サクヤから貰ったお守りを握らせたのだった。
鬼丸もその大典太の行動の隙を読んでいなかった訳ではない。彼の攻撃を避けようと、大典太の身体に刃を沈みこませる。
『…………!!』
「ぐ、ぅっ……!おに、まるッ……!……今、助けてやる、から―――!」
沈み込んだ箇所から痛みが襲う。灰色の戦装束が血で染まっていく。それでも大典太は残りの力を振り絞って鬼丸の首元に刀を持ち上げる。動くほどに刀は奥まで刺さり、痛みが強まる。
当の『鬼』も逃げようと刀を引き抜こうとするが、その腕を大典太が抑えていた。
「……おに、まる。一瞬で、いっ、しゅんで。終わらせる、から―――」
太刀が深々と刺さっても関係なかった。きっと自分が刀を振ったら、折れるかもしれない。大典太はそんなことを思っていた。
それでも、折れるわけにはいかない。サクヤと『世界を見守っていく』と誓い合った約束。鬼丸と共に酒を呑む約束。どちらも叶えると誓ったから。
大典太は残りの力を振り絞り―――。
『……―――っ――!!』
『鬼』の首を、刎ねた。やってしまった。腕に力が入らない。ぽろぽろと涙が零れる。自分はこうにも泣き虫だっただろうか。ふと、そんなことを思い浮かべる。
霞み始めた視界にはっきりと鬼丸の顔が見えた。地面に落ちていく。自分が斬ったのだから当然だ。それなのに。それなのに。何故―――。
落ちていく鬼丸の表情が、穏やかなものに見えたのだろうか。なぜあいつは口角を上げていたのか。
考える間も虚しく、深々と刺さった鬼丸の太刀の傷が疼く。想像以上に深かったようだ。痛みと意識の混濁に大典太の視界も考えも呑み込まれ―――。
そのまま、彼は意識を失ってしまうのだった。
- #CR10-7 -2 ( No.80 )
- 日時: 2021/07/15 22:08
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
『この五振は危険すぎる。『天下五剣』が各本丸で力を発揮できればと思ったのだが…。やはり霊力の調整が難しいな』
『研究を重ねていけば霊力の調整も容易くなるとは思うが、まさかこの五振…。一振一振が『世界を壊す程の』霊力を秘めて鍛刀されてしまうとはな…』
―――ここは、どこだろうか。重苦しい意識を無理やり覚ますと、目の前に見えていたのは研究室のような場所だった。確か…先程まで友と死闘を繰り広げていたはずだ。その時に負った傷が原因で、意識を失ってしまったことまでは覚えている。
しかし…。この場所には見覚えがあった。確か『時の政府』その場所だった筈だ。自分達五振を勝手に鍛刀し、人間の都合で監禁したあの悲しい思い出が詰まっている場所。
そんなところに何故意識が浮上しているのだろう。―――あぁ、走馬灯なのか。見回しても自分の手すら見えないのも、目線が明らかに低いのも。
ガラスの向こうで研究員らしき人間が話をしている。どうやらこれは、『彼ら』が鍛刀されて少し経った後の記憶のようだ。声を聞いていると、彼らの話の内容が頭の中に入って来た。
『やはり『外なる神』に協力を仰いだのは失敗だったのだな。歴史に名を残す五振だったから、それくらい強い力を持つ存在でなければ鍛刀できないと思っていたのだが…。少々考えすぎていた』
『しかし、彼の力がなければ天下五剣の鍛刀の方法は分からないままだったのだぞ?!上からは早く成果を出せと言われているし、今から霊力の調整をしても期限に間に合いそうにない。良くて三日月の鍛刀許可しか各本丸に出せんぞ…!』
―――彼らは『外なる神』と言った。その言葉を聞いた瞬間、彼の心の中にストンととある考えが落ちた。何故五振が『時の狭間』に捨てられた際、都合よく老人が拾ってくれたのか。何故彼が五振を顕現出来たのか。考えが合点した。
……あの、老人は。自分達を救ってくれた、老人は―――。それと同時に、何故自分達が異常な程の霊力を内に秘めているのか、にも納得がいった。
「(……『外なる神』。そうか。そうだったのか…。俺が…俺達が異常に霊力を得ていたのは…)」
『とにかく。この五振はどうするんだ?この霊力だと、政府自体が破壊されかねんぞ』
『上には何とか理由を付けて説明するに決まってんだろ。鍛刀した奴はどっか行っちまっていなくなってるし、時の政府にこの五振を刀解出来る奴は誰一人いない。このまま霊力を政府の動力エネルギーにして封じ続けるしかないだろ』
『俺達のせいじゃないってのにさ…。はぁ~あ。これ…誰が責任を取るんだよ…』
その言葉を最後に、また意識が重くなる。大方研究員が自分達の霊力を再度吸い始めたのだろう。これから何度も、何度も。時の狭間に捨てられるまで―――。自分達は苦しみ続けていくのだろう。
そんなことを思いながら、『かれら』は再び眠りについた。
『……おい。起きろ』
……呼び声が 聞こえる。
誰だ。暗闇から声をかけているのは一体…。
『……いつまで陰気に寝ている。さっさと起きろ』
あぁ。この、声は―――。
「…………」
ゆっくりと重い瞼が持ち上がっていき、光が大典太の視界を照らしました。自分を覗き込むように見ていたのは―――。
「随分と目を覚まさなかったな。まぁ、その傷ならば無理もないが」
「……おに、まる。―――よか、った……」
眉間にしわを寄せながら自分のことを見ている鬼丸国綱でした。ボロボロの大典太とは違い、鬼丸は傷一つついていません。彼から感じる元々の霊力で、大典太は彼が『元に戻ったのだ』ということを理解することが出来ました。鬼丸の中に巣食う邪気は、もう既にありません。
そのことが分かり、安心して思わず顔が緩む大典太。そんな彼の表情に、鬼丸は更に眉間にしわを寄せたのでした。そのまま彼の胸元に割れたクローバーを投げつけます。
―――サクヤが大典太に渡した、あのお守りを。真っ二つに割れており、既にサクヤの霊力は感じられなくなっていました。
「これはなんだ」
「……お守り、だが。あんた、見て分からなかったのか?」
「それは分かる。元々はあの青龍がおまえにやったものだろう。何故おれに使った」
「…………」
「確かにおれは言った。『次に会う時、おれかおまえの首が落ちる』と。本気でそう思っていたからな。そして、邪神の邪気に完全に呑み込まれて意識を失い…次に目覚めたらどうだ。おまえが血塗れで、服もボロボロで倒れてるじゃないか。一瞬完全におまえを折ってしまったのかと肝が冷えたがな」
「ふふ…。あんた、感情移入するのは人間に対してだけじゃなかったんだな…」
「煩い。さっさと理由を言え。何故おれにこれを使った」
鬼丸は自分にお守りを使われたのが不服のようで、大典太に理由を問うていました。確かに元々サクヤは大典太に対してお守りを渡していましたが、その時に『使い方は任せる』と言っていました。
……もしかしたら、大典太は彼女の考えをその時から汲み取っていたのかもしれません。そうでなければあんな言葉は口から出てきませんから。
大典太は一度息を整え、小さな声で鬼丸に使った理由を話したのでした。
「……あんたを一度破壊して、主のお守りで回復させればいい。そうすれば、『邪気を纏った鬼丸』は消滅することになるかと考えたんだ。……あんたを助けたかったからな」
「チッ。そんなことだろうとは思っていたが。随分な賭けに出やがって…。それでおまえが折れていたらどうするつもりだったんだ」
「……折れたら折れたでそれまでだよ。あんたにでも主の近侍を引き継いでもらおうかと考えていた」
「ふざけるな。そんな経緯で近侍になるなど、おれは真っ平御免だ。おまえが決めたならおまえが果たせ」
「……だが、結果的に良かった。あんたも俺も、生きてる」
安らかな声でそんなことをのたまう大典太に、思わずため息を深くついてしまう鬼丸。薄く息はあった為折れてはいないことは分かったが、危篤状態なのは事実。うわ言のように時折うなされていた大典太を見て、正直鬼丸は気が気じゃありませんでした。
その心配を返せと。言葉の代わりに彼はまた、深くため息をついたのでした。
「―――近侍は真っ平御免だが…。おれにも『やりたいこと』が出来そうだからな」
「……鬼を追うこと以外興味がないあんたにしては…珍しい言葉だ……ぐぅっ…。おい、傷を抉るな…」
「余計なことを言うな。……すぐに分かる。おまえの主が近付いてきているんだからな」
「……主」
「おまえの主の為にも、だ。今後一切自分の身を削ることはするな。酒が不味くなる」
「…………。あんたがどんな選択をしたとしても、俺は否定しない。あんたが決めたことなんだからな、鬼丸…。やっと、やっと…。あんたが手にした自由だ。だから……」
「それ以上戯言をのたまうならば、おまえのこの傷をもっと深いものにしてやろうか」
「……ふふ。それは、勘弁だな……」
あの時と同じ。蔵で穏やかに暮らしていた時と同じ…。彼らはやっと、その日常を取り戻す一歩を踏み出しました。
なおも変わらず反省していなさそうな大典太の顔を見て、鬼丸はまた舌打ちを小さく鳴らしたのでした。
- #CR10-7 -3 ( No.81 )
- 日時: 2021/07/16 22:03
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
二振が他愛のない話を続けていると、自分達の名を呼ぶ声が向こうから聞こえてきました。鬼丸の言った通り、サクヤがこちらに近付いてきているのでしょう。しかし、彼女はゼウスに付き従って仲間達の捜索に協力していたはず。一体何故ここに?大典太はぼやける頭でそう考えていました。
全速力で走って来たのか、肩で息をするサクヤ。ボロボロになりながらも意識を持つ大典太と、いつか感じたあの時の鬼丸を見た彼女は安堵からへたりこんでしまったのでした。
「……主。どうしてここに」
「光世さんの本体が割れかけていたので、ゼウス様に許可をいただいて貴方の力を辿ってここまで来たのです。……心配なさらずとも、核のうち3つは既に飛ばされた方々が破壊してくれたことを確認しております」
「……そうか。良かった…」
「正直気が気ではありませんでした。どちらかが折れてしまうのではないかとずっと頭の中で考えがぐるぐると巡っていたのです。―――だから、本当に……」
「………?」
サクヤは何とも言えない表情で優しく大典太と鬼丸を抱きしめます。近侍である彼はともかく、鬼丸は自分が抱きしめられるきらいなど分からない為『なんでおれまで』と不貞腐れていました。
それもそうでしょう。鬼丸も助ける為にここまで行動していたんですから。二振とも無事で再会出来たら彼女がそういう行動をするのは当たり前です。
珍しくサクヤが涙を流していることに気付いた大典太は、震えながらも彼女の涙をそっと指で掬ったのでした。
「……泣かないでくれ主。俺も、鬼丸も。こうして生きてる。―――無事だ」
「何が『無事』だ。おれは何ともなくともおまえがボロボロじゃないか」
「折れてないだけマシだろう。……まぁ、それもそうか」
「そう、そうです。泣いている場合ではありませんでした。ここに来たのは光世さん達に会いたかったこともあるのですが…貴方に伝えなければならないことがあるからなのです」
「……伝えたい、こと?」
サクヤは自分の和服の袖で顔をぐいぐいと拭いた後、真面目な顔になって彼らに告げました。それは何かと大典太が問うと、彼女は目尻を下げて小さく口を開いたのでした。
「……光世さん。ご自分でも分かっていらっしゃると思いますが、今の貴方は刀剣破壊寸前のところまで来ています。このまま戦闘沙汰になってしまえば、確実に貴方は折れるでしょう。ですから…一刻も早く手入れをしなければなりません」
「……そう、か。だが…俺が記憶している限りだと手入が出来るのはあの本部だけだったはずだ。一旦戻るのか?」
「いいえ、そんな時間はありません。それのご相談もさせていただきたいと思い、はせ参じたのです」
サクヤが告げたのは、大典太がこのままだと刀剣破壊してしまう可能性があるということでした。彼女も大典太本体にヒビが入っていたことからも、そうとう危篤な状態だということは分かっていました。……正直、こうして話すことが出来るのは彼女曰く『奇跡』だと。
しかし、天界に手入できる場所などあるのでしょうか?相談しに来たのはいいものの、心当たりが双方思いつかず路頭に迷う1人と一振。そんな彼女達の様子を見て……鬼丸は、何かを決意したようにサクヤに近付きました。
「おい。青龍。少し話がしたい。いいか」
「……どうかなされましたか?あっ…もしかして、手入が出来る場所に心当たりが…!」
「それもあるが、まずはおれの話を聞け。―――ほら」
そんな言葉と共に、鬼丸は自分の近くに置いていた鬼丸国綱本体をサクヤに渡してきました。……おや?これはどういう心づもりなのでしょうか。突拍子もない彼の行動に、サクヤも大典太も困惑しています。
鬼丸はそんな反応も気にせず、自分の本体をぐいぐいとサクヤに押し付けます。
「……本当にどうしたのですか。申してくれなくては…」
「おれを、おまえの刀にしろ。そう言っている」
「……あんた、俺にあんなことを言っておいて…やはり近侍を狙っていたんじゃないか」
「違う。すぐ卑屈な方に考えを向けるな大典太。……おれがこうして立って、おまえ達と話が出来ているのも…おまえ達が死力を尽くしておれを助けようと行動してくれたから、だ。
おれは特定の主を持たない。おれの主がどこにいるのかは分からん。おれを持っていると不幸になるからな。遠ざけていた方がいいのは事実だ。だが…おまえ達には恩義がある。だから、恩を返す。その心づもりでいる」
「鬼丸さん…」
なんと、鬼丸が自分からサクヤの刀にしてくれと言ってきました。鬼丸国綱という刀は、元々特定の主を持たず点々と渡り歩いてきた歴史を持ちます。その逸話から、鬼丸自身も自分が近くにいるとその人物が不幸になると思うようになってしまっていました。
しかし―――自分が今ここにいれるのはサクヤと大典太のお陰。だからこそ、彼女に恩を返したいと考えての行動のようです。
「それに、だ。数珠丸の刀がない。おれがあの本部に乗り込んだ時には帯刀していた。……大方あいつが気になる奴に渡しでもしたんだろ」
「それは、そうですが…」
鬼丸の気持ちは理解していました。ですが…だからこそ、サクヤは迷っていました。自分と契約するということは、『終わりのない世界』の未来を見守っていくということ。他の契約者とは話が違ってきます。
そんな永遠ともいえる契約に、彼を巻き込んでしまっていいのか…。答えが見いだせない彼女に、大典太も事態を察し助け舟を出します。
「……主。俺からも頼む。邪気を完全に祓えたとはいえ、あいつが鬼丸を放置しておくはずがない。きっとこれを断ったら…恐らく、こいつは本部をまた離れる。鬼丸はそういう刀だ」
「当然だ。青龍以外の下に付くつもりはないからな」
「…………。本当に、よろしいのですか?私と契約するということは、終わりのない世界を守っていくということと同義です。解放されることも無く…何千年という未来を見守るということになるのですよ。その覚悟が―――鬼丸さん。貴方にはおありですか?」
「無かったらこんな行動はしない。それに、何千年という未来か。やっと一つの鞘に収まることが出来るということだろ。覚悟は―――もう、とうの昔に出来ている」
「……承知しました。では鬼丸さん、刀を」
鬼丸の言葉を聞き、サクヤは静かに彼から刀を受け取ります。そして―――刀に自分の神の力を込め始めました。鬼丸の太刀が青く、淡い光をしばらく放ち続けた後…光は刀に吸収されました。
静かに目を閉じていたサクヤはしばらく刀を見つめた後、鬼丸国綱本体を腰に帯刀したのでした。これで鬼丸はサクヤの刀になりましたね。これでアンラに再び狙われることも無いでしょう。
「大典太が心を開いた程の主、か。鬼を斬るなら呼べ。……主」
「はい。これからよろしくお願いいたします。鬼丸さん」
「……これで、鬼丸も…。150年、長かったな。本当に…」
「……あぁ。あんな暗闇、もう真っ平御免だ」
そんな穏やかな会話を繰り返していた折、サクヤは大事な話を思い出しました。そうです。大典太の手入をする場所を何とかして見つけ出さねばなりません。大典太本刃は『必要ない』という顔をしていますが。いや、貴方このままだと本当に折れますから。素直に従ってください。
鬼丸に話を振ると、彼は『心当たりがある』と、その場所まで案内してくれることを買って出たのでした。
「この天界に、刀剣が仕舞われている『蔵』がある。その近くに小さくはあるが、手入が出来る場所がある。資材も充分に残っているはずだ」
「『蔵』…。兄弟や秋田が言っていた、あの場所か」
「そういうことだ。時間も惜しい、さっさと向かうぞ」
「ありがとうございます。そうか、蔵があるのなら手入が出来る場所があっても不思議ではありませんよね。迂闊でした…」
ソハヤや秋田が幻の本丸で言っていた『蔵』。その近くに手入が出来る場所があることが分かりました。やや遠い場所ですが、歩いていけない距離ではありません。時間も惜しいと鬼丸は無言で大典太をおぶり、早く行こうと催促をします。
当のおぶられた大典太はなんだか不服そうです。
「……歩けるんだが」
「腹から血を流している奴に言われても説得力がないな。それにおまえ…。今まで肩で息をしていただろ。喋るのも本当は億劫な筈なんだがな」
「……ぅ。ばれて、いたか…。主がいる手前、そういう振る舞いをするのは失礼にあたると思ったんだ…」
「光世さん…。気丈に振る舞わなくても。私は気にしませんから」
「……あんたが気にしなくても…俺が気にする……っ!」
「言った傍からこうだ。黙っておぶられていろ。……本当であれば、おれはここに立ってすらいないんだからな」
どうやら大典太、今までかなり無理をしていたようで。それを鬼丸に看過された瞬間緊張が溶けてしまったのか苦しみ始めました。肩で息をしており言葉もたどたどしく、傷を抑えながら顔を歪めていました。
『すまんな。手を煩わせて』 申し訳なさそうに背中から小さな声が耳に入ってきます。自分に対しては随分と遠慮のないこの刀が、今は随分としおらしい。そんな様子の大典太に、鬼丸はフン、と鼻で笑ったのでした。
「(……やっと、やっと、ですね。本当に良かった)」
軽口を叩き合う二振を後ろで追いかけながら、サクヤはそんなことを思ったそうな。
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