二次創作小説(新・総合)
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- AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡【完結】
- 日時: 2021/08/11 22:27
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ADnZqv8N)
どうもです、灯焔です。
自作品でも表明しました通り、逃走中のゲームパート以外の場面をこちらに連載いたします。
コネクトワールドの住人達がどんな運命を辿っていくのか。物語の終末まで、どうぞお楽しみください。
※注意※
・登場するキャラクターは全て履修済みの作品からの出典です。かつ基本的な性格、口調等は原作準拠を心掛けております。が、表記上分かり易くする為キャラ崩壊にならない程度の改変を入れております。
・原作の設定が薄いキャラクター等、一部の登場人物に関しては自作設定を盛り込んでおります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
・誤字、脱字、展開の強引さ等ございますが、温かい目でお見守りの方をよろしくお願いいたします。
・今までのお話を振り返りたい方は、『逃走中#CR』の過去作をご覧ください。
・コメント等はいつでもお待ちしておりますが、出来るだけ『場面の切り替わりがいい』ところでの投稿のご協力をよろしくお願いいたします。
また、明らかに筋違いのコメントや中身のないもの、悪意のあるもの、宣伝のみのコメントだとこちらが判断した場合、返信をしないことがありますのであらかじめご了承をよろしくお願いいたします。
<目次>
【新訳・むらくもものがたり】 完結済
>>1-2 >>3-4 >>5-6 >>7 >>8 >>9-13 >>19-20 >>23-27
【龍神が願う光の世】 完結済
>>31 >>34-36 >>39-41 >>42-43 >>47-56 >>59-64
【異世界封神戦争】 完結済
>>67-69 >>70-72 >>73-75 >>76-78 >>79-81 >>82-83 >>86 >>87 >>88-90 >>93-98
<コメント返信>
>>14-16 >>17-18 >>21-22 >>28-30
>>32-33 >>37-38 >>44-46 >>57-58 >>65-66
>>84-85 >>91-92 >>99-100
- Re: AfterBreakTime #CR 記憶の軌跡 ( No.22 )
- 日時: 2021/04/01 22:15
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
どうもです。灯焔です。
世間では本日エイプリルフールでしたね。私はそんなことお構いなしに江戸城を走り抜けていました。またもや光世さんは蔵の奥。貴方これ4回目よ。
>>琴葉姫 様
どうもです。コメントありがとうございます。
事件解決を祝しささやかな宴が始まったことから後日談は開始。カワサキは媒体によって料理の腕前が違いますが、ゲームと小説版は料理上手ですね。逆に料理が下手な設定はアニメ版くらいだったかな?それ程にアニメ版のぶっとんだ設定が染みついちゃってるんですよね…。デデデ大王も、本来は『ゾイ』語尾につけないですし。
今後の心配がさらっと会話の中に出てきたり、しれっと高級ドンペリが出てきたり。『ささやか』とは一体。
一方、サクヤ達は大包平に問いただされていました。まぁ、霊力断ち切られた張本人なので当然と言えば当然。サクヤも光世さんもお互いに傷付けたくないという思いが、行動に遠慮を生んでいました。性格は違うとも、根っこは一緒なんですねこの1人と一振。
そして双子が喧嘩に発展しかけたところで解散となりましたが、いったいどうなってしまうのか…。私も悪い方向に転がらないことを祈りたいものです。
後日談はまだ続きます。サクヤ達を待ち受けている運命は…?
コメントありがとうございます。執筆の励みになります。今後ともよろしくお願いいたします。
- #CR08-15 村雲物語の後話 -3_1 ( No.23 )
- 日時: 2021/04/01 22:16
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
~隠し部屋~
夜もすっかり更け、月が部屋を照らしています。大典太は自分で買い溜めていた酒をお猪口に注ぎ、一気に飲み干します。春の陽気に包まれた月見酒というものは中々に乙なものでしたが、彼の心は晴れやかなものではありませんでした。
事件解決前に前田に言われたこと。そして、事件解決後に三日月に言われたこと。その言葉が彼の頭をぐるぐると駆け回っていたのでした。
大典太「(……一度しっかりと話し合うべきなのは分かる。頭では分かっているんだが…)」
自分はどうするべきなのか。彼女になんと声をかければいいのか。もやもやとした感情が晴れません。
この世界に顕現してから、ずっとサクヤの元で活動してきた。共に過ごした時間は短いものの…彼女が昔と変わらない、純粋な心の持ち主だということは分かっていました。そして…彼女以外の人間の下につくつもりはないということも。
しかし、彼女の気持ちも分かりました。自分と契約することで、感情のコントロールが更に難しいものになり……。実際に運営本部に傷をつけてしまったらどうなるか。彼女はこの世界の『柱』なのだ。自分の我儘で振り回してはいけない。それで―――世界がどうにかなってしまえば、取り返しのつかないことになってしまう。
大典太「(……俺の我儘で、主を振り回してはいけない。意見するのは間違っていることだ…)」
サクヤが主になることを頑なに拒否している以上、自分が意見することは間違っていることだと気持ちを押さえつけていました。そして、当のサクヤはというと。
彼は心配そうな目つきで、閉ざされた襖を見つめます。その向こうに、当の主はいるのですが…。アクラルとアシッドに言われたことが余程堪えたのか、片付けが終わってからずっと襖の向こうで引きこもっています。かつての自分の状況と似ているな、と思う大典太。あの時は自分の意思ではなく、持ち主の意向で封じられていたんですが。
大典太「(……蔵に仕舞われていた時の俺と同じだな…)」
サクヤは自分の力で、他の世界を壊してしまったことを後悔していた。そして、それを繰り返さない為に―――。ずっと、ずっと長い間。全ての感情を兄に託し、自分を律し今まで過ごしてきた。もし、自分が彼女の刀になりその箍が外れてしまうのであれば…。その後は、考えられなかった。
だが…そう思う一方で、自分の考え方を少し変えてくれたのもサクヤなのだと大典太は思っていた。顕現した当初は、自分の霊力で他人を殺してしまわないか…そして、政府で受けた仕打ちもあり『恐怖』が感情を支配していた。それを解いてくれたのも…紛れもないサクヤ本人だった。だからこそ、今自分はここにいるのだと確信する。ならば。今の彼女を支えられるのは。支えなくてはいけないのは誰なのか。
大典太は覚悟を決め、閉じられた襖へとそっと近づいて行ったのでした。
大典太「……主。大典太光世だ。―――その。調子はどう、だろうか…」
襖を軽く叩き、向こうにいるサクヤの反応を見ます。しかし、向こうからは何も聞こえてきません。無視しているのか、それとも眠ってしまっているのか…。気配はする為、何か彼女の身に起きたという可能性はいの一番に消していました。
……このまま突っ立っていても何も解決しない。そう考えた大典太は、深く深呼吸をした後『入るぞ』とだけ伝え、静かに襖を開けてみることにしました。封印の魔法が使われていることもなく、戸はすんなりと開きます。
その向こうでは、サクヤが部屋の隅に縮こまって震えていました。いつもならば絶対に見せない彼女の表情に胸が痛む大典太でしたが、ここで怯んでは本題に入れません。拳に力を入れ、開いていた襖を静かに閉めて彼女の元へと近付きます。
大典太「……主。勝手に入って悪かった。だが…あんたの反応が無かったから心配だった」
サクヤ「―――反応が遅れたのは申し訳ありません。でも…あんなことがあった後なのですから、放っておけば良かったのでは?」
大典太「……あんたは。俺が顕現したばかりの頃。世界の何もかもに恐怖していた俺を見て放置したか?……したのであれば、今俺はここにはいない。同じことを俺はしただけだ」
サクヤ「…………」
立場がまるで逆転している、と大典太は思っていました。最初は自分が縮こまっていたのに、今は守るべき主であるサクヤがふるふると縮こまって小さくなっていました。
一応会話は出来る状態だ、と判断した彼はそのまま本題へと静かに入ります。
大典太「―――主。話があって来た。……俺を、あんたの刀にしてほしい。『本来の契約』を…してくれないか」
サクヤ「何度も言っているでしょう。それは出来ないことなのです。……もしかして大典太さん、あの部屋で言われたことを気にしているのですか?」
大典太「……気にしていないと言えば、嘘になる」
彼が『本来の契約をしてほしい』と頼むも、サクヤは即座に首を横に振り拒否しました。そして、私室で言われたことを気にして契約を迫っているのかと続けます。自分の霊力が後々世界に影響することであれば、彼も少しは気にしていました。ですが……本題はそっちではありません。
あくまでも自分の気持ちを伝えた上で契約をしてほしい。そう思っていた大典太はぼそぼそと口を開きます。
大典太「……今の俺がいるのは、あんたが手を差し伸べてくれたからだ。あの時、顕現した時に見たのがあんたでなければ―――。きっと、こんな考えを持つこともなかったんだろう。
俺は、あんたに助けてもらった恩を返したい。―――俺達は道具だ。だが…意思のある付喪神でもある。俺は、あんたを近侍として支えたい。これは俺自身の気持ちだ。……おこがましいことであるとは分かっているが、言わなければならなかった。あんた以外の主命を果たす気は更々ない」
サクヤ「―――兄貴にも言われました。『大典太さんの気持ちを考えろ』と。あの場から帰ってきてからずっと考えました。考えて、考えて、考え抜きました。でも…分からないんです。考えても、答えが見えてこないのです。
貴方が何故そこまでして私の刀になろうとしているのか。私の下についても、いずれは自らが傷付くだけだというのに」
大典太「…………。……方々が『俺と主は似ている』と言っていた。最初はその意味が分からなかった。だが―――今なら、少し分かる気がする。俺も、あんたも。自分の力で他の『いのち』を奪ってしまうことに怯えている。
……今だってそうだ。完全に俺の霊力が周りに馴染んだとは思えない。きっと、鳥は俺の肩に止まらず目の前で地面に落ちるんだろう。だが……お互いの痛みが分かるからこそ、分け合うことは出来るんじゃないのか?」
サクヤ「―――この、苦しみを?恐れを? 大典太さんが自らの霊力に怯えるのは分かります。ですが……私のそれは貴方が思っている以上なんです。最悪、この世界そのものを壊しかねない力…。そんな力を、気持ちを、貴方に分け与えられると思いますか? 答えは見えています。貴方の刀身が根元からぽきりと折れる未来を。前田くんの刃が粉々になって崩れ落ちる様を。
……そうなる未来が分かっているからこそ、私は貴方と契約できないと言っているのです。分かってください!」
お互いの話は堂々巡り。腹を割って話しても、話は平行線を辿ります。いくら『自分が主の全てを支える』と伝えても、彼女は『貴方が消える未来が見えているからそれは出来ない』の返答の繰り返し。
そんな状態でアクラルに『お前は自分から逃げている』と言われてしまっては―――。頭が混乱してしまってもおかしくはありません。
サクヤ「私は…私は…大典太さんも、前田くんも、壊したくないのです。分かってくださいよ…!!」
大典太「……そうやって、あんたはこれからも苦しみを一人で背負っていくのか。感情が生まれ出している今、その苦しみは徐々に大きくなっている…。それは、あんたにも分かっている筈だ。
……俺が言うのもおこがましいとは思うが。何故他人を頼らない。何故他人に助けを求めない。自分が一番苦しい時に、どうしてあんたはすぐ自分の殻に閉じこもるんだ……っ!」
思考回路がショートしているのか、ぽろぽろと言葉が途切れ途切れになっているサクヤ。そんな彼女の腕を強くつかみ、『助けを求めてほしい』と訴える大典太。
しかし……その言葉が彼女に届くはずもなく。返ってくる言葉は同じでした。
『―――貴方を傷付けたくないから 言っているんですッ!!!』
大典太が掴んでいた左腕を強くほどき、そのまま反射で大典太を振り払ってしまいます。
―――そして、彼女はすぐにその行動を後悔することになってしまうのです。
サクヤ「おお、でんたさん。それ……!」
大典太「…………」
サクヤに指摘され、思わず自分の頬を触る大典太。無いはずの湿り気と、ぴりりとした痛みがありました。『それ』を掬い取り、指先を確認する彼。指先には、赤いものがついていました。
それは、紛れもない自身の血液でした。サクヤが神の力で大典太を振り払った時に、頬を傷付けてしまったのでしょう。
サクヤ「……ほら、言ったではないですか。私は、貴方を傷付ける」
大典太「……主、それはちが―――」
サクヤ「何が違うんですか!!!貴方も見たでしょう?!実際に怪我までしているのに……!!それでも『私は誰かを傷つけない』とでも仰いますか?!
―――出て行ってください」
大典太「ある『出て行ってください!!!』 …………」
そのまま、サクヤに襖の向こうまで押し戻されてしまいました。強く襖を閉められ、今度こそ封印をかけられてしまいます。すぐに開けようとするも、いくら彼の打撃力でも開けることが出来ません。
―――あぁ。駄目だった。どうせ自分じゃ説得できないとは分かっていたが。説得が失敗したことよりも……初めて彼女が自分に見せた『拒絶』。その事実に、彼は酷くショックを受けていたのでした。彼は何も考えられないまま、指先についた自分の血液を見ることしか出来なかったのでした。
- #CR08-15 村雲物語の後話 -3_2 ( No.24 )
- 日時: 2021/04/01 22:22
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
再び閉じられた襖。それはただの1枚の壁なのに、今の大典太にとっては到底越えられないものだと感じていました。
頬についたほんの小さな切り傷が、今は彼の心を引き裂くほどの痛みを引き起こしていました。既に傷は塞がり血は止まっていましたが、一度ついてしまった『心の傷』が癒えることはありませんでした。気分を紛らわそうと無理に酒を注ぎ一気に飲み干すも、その苦しみは消えず、彼の中でジンジンと痛みを強めていたのでした。
大典太「(……主に、届かなかった。本当に主は一人で抱えていくつもり、なんだな…。分かっていなかったのは、俺の方だ)」
大典太は何も悪くないはずなのに、自分が彼女を傷付けてしまったと悩んでいます。元々陰気な性格になってしまったこともあり、一度マイナスな方向に思い込んだら中々払拭できない。
―――彼は静かに瞳を閉ざし、蔵の中で五振で暮らしていた時のことを思い出します。
大典太「(……時の蔵にいた時も、鬼丸と些細なことでよく衝突していたな。だが、双方くだらないことだと分かっていた。だから、周りも止めなかった。だが―――今は、違う)」
どこか輝かしい雰囲気を纏っていた三日月や数珠丸の空気について行こうとするも、中々馴染めなかった自分。放っておけばいいのに、鬼丸は話しかけてきてくれた。その言葉は少なく荒いものではあったが、それが逆に彼をよく知ろうと思うきっかけになった。
なのにどうして。どうして自分には出来ないのだろう。主の心でさえ、救うことが出来ない刀など―――。
『……いないほうが、いいのかもしれない』
しんと静まり返った部屋の中でぽつりと零れたその言葉は、空気に溶けて消えてしまったのでした。
サクヤと大典太の気持ちがすれ違った夜もさらに更け、そよそよと風の音だけが部屋に聞こえてきます。前田は今日も友のところへ泊まりに向かっているのでしょう。あんな状態にしてしまったサクヤに『寝よう』などと言える筈もなく。彼は、自分がいる部屋に残っていた布団を敷き眠っていたのですが…。
ふと、彼は静かに目を開けます。そこに見えるのは暗闇だけ。蔵の中にいたからなのか、他の太刀よりは夜目が利きそうなものですがそんなことはなく。ただ、ぼうっと暗い天井を見上げていました。
大典太「(……きっと、俺がここに居続けても主を傷付けるだけだ。主は自分の感情に怯えている。そんな状態で……俺が、傍にいる資格などあるのか?
俺は―――ここに、いない方がいい)」
大典太は潜り込んでいた布団から這い出し、のそのそと暗闇の中着替え始めました。そして……物音を立てないように、刀置き場にある自分の『本体』を持ち出し、穴から消えてしまいました。早く、いなくなってしまいたかった。これ以上主を傷付けたくない。『大典太さんを傷付けたくない』サクヤの言葉が脳裏に蘇ります。それは、自分も同じ。だったら、今の自分に出来ることは―――。
彼は無言のまま、よろよろと戸を潜りその場から消えるように立ち去ってしまったのでした。
~運営本部 エントランス~
前田「つい夢中になって話しすぎてしまいました。流石に今日も泊まっていくわけには参りませんし、早いところ戻りませんと」
一方。薄暗いエントランスを前田は早歩きで進んでいました。流石に連日他人の世話になることは避けたかったのか、目的地へと真っすぐ進んでいきます。それ程夜の会話が楽しいということなのでしょうが。彼の発していた言葉から、サクヤと大典太に起こった出来事に関しては知る由もなさそうです。
そのまましばらく進んでいると、目の前に大きな影が。見知った気配を察し、前田はその『気配』に近付き声をかけました。
前田「大典太さん。こんな夜分にどうかされたのですか?眠れないのでしょうか」
大典太「……! 前田、か。……まぁ、そんなところだ」
前田「それにしては戦装束を身に着けていらっしゃいますし…。こんな時間に討伐依頼など受けておりませんよね?」
まさか前田と鉢合うことになるとは思っておらず、取り繕った言葉で誤魔化す大典太。しかし、短刀である彼には通用しませんでした。彼が長襦袢ではなく戦装束を着ていること。そして……大典太光世の『本体』を何故か彼が持っていたこと。
このことから、彼は大典太が何か取り返しのつかないことをしようとしているのではないかと思い至りました。例えば……この本部を、出ていこうとしているとか。そう思った彼は、大典太に詰め寄ります。
前田「あの。僕の考えが間違っていたのであれば、それでいいのですが…。もしかして大典太さん…。本部を、出ていかれてしまうのですか?」
大典太「…………」
前田「沈黙は…肯定と、取りますよ。事件が解決した後、大包平さんに話があると伝言は確かに伝えましたが。それが関係しているのでしょうか。……主君と、何かあったのですか?」
大典太「……あんたには関係ない。あんたを巻き込みたくない」
前田「関係あります!僕だって大典太さんと同じく『主君の刀』なのですから!」
大典太「……違うよ、前田。主の刀はあんただけだろ」
前田「何を仰っているのですか?! あんなに主君のことを、大典太さんのことを、お互い支え合って今まで来たではありませんか!それなのに何故今になって―――
どんな契約でも、大典太さんが主君の刀であることに変わりはないんですよ?!」
大典太「……主に、本来の契約について話を持ち掛けた。それと…『あんたの苦しみを、一緒に背負っていくことは出来ないか』とも言った。―――出しゃばったことをした。その結果…主に、拒絶されたよ」
前田「…………」
流石に前田に感情を露わにすることは出来なかったのか、大典太はぽつり、ぽつりと静かに今まで起こったことを説明しました。ただ押し寄せる事実に言葉を失う前田。
そして―――主をこれ以上傷付けない為にも、自分はいない方がいい。そう結論付け本部を去ることを彼に伝えたのでした。
大典太「……俺がこのままここに居続けても、主に…。いや、世界に影響が出ることは免れない。主だけじゃない。ここにいる連中もいずれ傷付けることになる。―――蔵にいた時と同じになってしまう。
俺は今動けるんだ。なら……あの鳥と同じことは繰り返したくない。俺は……ここに、いない方がいい」
前田「今すぐに、ではないのでしょう?!ならば、僕達がついています!大典太さんはあの時とは違うんです。ひとりぼっちじゃないんです!だから『前田。あんたには悪いが…もう、決めたことなんだ』 大典太、さん…」
彼は優しく前田の肩に手を置き、彼を諭すように頭を撫でたのでした。暗闇で―――いや、彼は短刀。夜目に長けています。今はその能力で、大典太の表情が分かってしまうことに酷く後悔をしていました。
大典太は……泣いていました。口ではあんなことを言っていても、自分を諭す為に頭に手を置いてくれていても。主の刀でいたい。その思いが強いのでしょう。それが、涙に現れていたのでした。こんな大典太など見たくなかったのに。見るなら嬉し涙で見たかったのに。
その顔を見てしまった前田は、最早言葉が出てきませんでした。彼にかけようとしていたものが全て、喉につかえて上手く出せません。
大典太「前田」
前田「……なんで」
大典太「主は……とても優しく、とても純粋だ。だから、人一倍傷付きやすい。他人を失うのを恐れているんだ。だから―――あんたが守ってやってくれ。主の刀であるあんたが」
前田「……おかしい、ですよ。大典太さん…!」
おかしい。そう伝えても、最早彼には伝わりません。大典太は乗せていた手を静かにどけた後、テーブルに置いてあった本体を手に取り、そのまま黙って玄関から去ってしまったのでした。
止めなければならない。頭ではそう分かっていましたが、彼の覚悟をとした涙を見てしまった前田は動くことが出来ませんでした。残るのは、本部を包む暗闇と静寂だけ。
「―――違う」
誰もいなくなったその場所で、前田は口を開きます。
前田「違う。大典太さんの本心は違うではないですか…!貴方が、貴方がいたからこそ…。主君の感情が生まれたきっかけは大典太さん、貴方なのに……!貴方でなければならないのに…!」
そう零すも、届くものは誰にもいない。前田の呻きは、更けていく暗闇の中に消えていったのでした。
- #CR08-15 村雲物語の後話 -4_1 ( No.25 )
- 日時: 2021/04/02 22:22
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
運営本部が小さくなっていく。しかし、彼は振り向かずただ歩き続けていました。立ち止まったらきっと戻ってしまう。そう思い、当てもなくひたすら暗闇が続く道を彷徨っていました。
傍から見れば『身長190cmの大男が、片手に刀を持って彷徨っている』というとんでもない状況ですが、そんなことを考えていられる余裕が彼にはありません。無心のまま、彼は歩き続けます。
前田と話していた時の気迫はどこへやら。何も発さず、ただ彼はひたすら進むのみ。そよそよと吹きつける風も気持ちいいものには思えませんでした。
彼が本部を後にしてどれくらい経ったでしょう。真上に上がっていた月も徐々に移動を続けています。そんな月を、雲が覆い始めていました。……あぁ、これは一雨来そうだな。
しかし、彼にはそんなことは関係ありません。次第にぽつり、ぽつりと雫が降り始めます。最初は乾いた地面を潤す程度のものだったそれが、次第に強まり男の髪や衣服をも濡らしていきます。―――それでも、彼は無心で歩き続けていました。
しばらく歩きたったところで、一筋の光を男は見ます。それは建物の中から漏れているのでしょうか。どこか、街に辿り着いたのだと男は察しました。暗闇でも分かる、どこか懐かしい気配―――。自分は、ここに以前来たことがあった。……いつ、だっただろう?
とりあえず屋根のある場所に入って雨風を凌ごうと動き出そうとした彼の耳に。何者かのうめき声が聞こえてきました。
「(数は…。1匹じゃない。纏まって動いているのか)」
ワオーン、という声は一つだけではなく、連続して耳に入ってきています。そして、その声は徐々に近付いてきている。……男はすぐに悟りました。『自分が標的だ』と。
雨に濡れた重い髪を少しかき分け、周りを確認します。……予想通り、彼の周りには6体程の狼の魔物が自分を取り囲んでいました。獲物と認識しているのか、そのどれもがぐるぐると喉を鳴らしています。
「(大方俺のことを喰うつもりなんだが……こんなでかいだけの奴を喰っても美味くないんだがな)」
それに、自分は人間ではない。喰っても鋼の味がするだけだ。……こんな自分を喰う魔物の方が可哀想だとでも思ったのか、男は手に持っていた自分の『本体』の鞘から刀身を抜きます。抜身の刃から見える自らの深紅の目……。それは、あの時優しく諭した陰気な天下五剣の目ではありませんでした。
それは。自らを狙う獲物を刈る『化け物』の目。
「……哀れなものだ。魔物とはいえ、こんな天気の日に俺と鉢合ってしまうなんてな」
どっしりと濡れた黒髪の奥にある目は、鋭く『獲物』を捕らえていました。彼が動き出した。その瞬間。
ぴしゃり。男の背後に、稲妻が鳴り響いた。
「……俺は 雷の日が一番調子がいい」
ぼそりと呟いた男の姿はそこには既になかった。向かってきた魔物の首を素手で掴み、引きちぎる。他の刀剣にも到底出来ないであろう所業を、この男はやってのける。首を引きちぎられてもなお彼に嚙みつかんと言わんばかりに襲ってくる魔物に、自らの刀身を突き刺した。
背後から迫ってくる他の魔物の気配も見逃してはいなかった。右足で蹴り上げ、勢いで引き抜いた刀身を持ち直し目の前の魔物の首を切り裂く。動かなくなった魔物を付近に投げ捨て、『化け物』は残りの魔物を狩りに向かう。その、繰り返し。
殴って、蹴って、斬って。
引きちぎって、斬って、突き刺して。
斬って。斬って。斬って。斬って。斬って。
斬った。
雨が強まる中、男を取り囲んでいた魔物の断末魔が鳴り響く。そして、すぐに訪れる沈黙。男は気が立っていたのか肩で息をしながら、魔物の残骸を投げ捨てた。
しかし、男の殺気は収まっていなかった。あの雷と共に、霊力も異常に高まっていた。もう周りに倒すべき敵はいないのに。男は『獲物』を求めてその瞳を黒髪から覗かせていた。
『……大典太さん?』
背後から呼ぶ、声。誰だ。自分の名を呼ぶのは誰だ。男は思わず抜身の刀身を相手に振りかざす。小さく『ひえっ』と言った声は聞こえたが、逃げるそぶりは見せていない。
その声に―――男は。大典太はやっと我に返った。はっとした表情で目の前の人物を見やる。そこには―――。自分を心配そうに見つめる、小さなキノコの亜人が立っていたのだった。
~オオエドストリート 仁兵衛商店~
ジンベエ「いやぁ~、外で豪雨の他にすげぇ音が聞こえてきてたから様子を見に行ったんだが、まさか大典太さんだったとはなあ。街に来てる魔物を倒してくれたんだって?」
大典太「……成り行きだ。魔物も俺を喰おうとしていたからな…。刀の付喪神なんて喰ってもどうせ美味くないだろうに…」
ジンベエ「がっはっは!確かに違いねえ!……でもよ大典太さん。どんな成り行きであれ、あんたのお陰でこの街の平穏は守られたんだ。代表してお礼を言わせてくれ。ありがとうなあ」
大典太「…………」
ジンベエ「それにしてもどこもびしょびしょじゃねえか!ほら、タオルやっから服を脱いで髪を拭きやがれ!」
大典太「……あ、あぁ」
ジンベエに自分の店に連れられた大典太は、あれよあれよと彼の介抱を受けていました。まぁ、元々この街で雨を凌ごうとしていましたし好都合でしたね。申し訳なく思いながらもジンベエの好意に甘えることにした大典太は、素直にタオルを受け取り髪についた雫を取り始めたのでした。
その後、言われるがままに目の前に出された籠に濡れた衣服を全て入れ、用意してもらった着物に着替えます。『店で一番デカい着物を用意したが、サイズが合わなかったら言ってな』と話をされ、素早く袖を通します。特に大きさに問題はなかったようで、すんなりと着替えを終わらせたのでした。
鬱陶しかった重苦しさも多少解消されたのか、椅子に座って気分を落ち着かせています。
ジンベエ「おお!似合ってんじゃねえか。流石は刀剣男士、ってやつか?」
大典太「……特に大きさには問題はない。着替えまで用意してくれるなんてな…。あんたには頭が上がらないな」
ジンベエ「へっ。困っている奴は放っておけないだけさ!」
大典太「……そうか。あの魔物はなんなんだ?前にあんたが話していた…街を襲う魔物、なのか」
ジンベエ「最近なぁ。毎晩魔物が街の近くを襲ってきて困っていたんだよ。退治してくれたのはありがてえんだが…。何か、あったのかい?」
ジンベエの話によると、最近あの手の魔物が街を襲う頻度が増えて困っていたのだといいます。幸い建物は襲われていないようでしたが、丁度いいタイミングで大典太が現れてくれた為助かったとも話していました。
―――それはそれとして、とジンベエが話の本題に入ります。何故こんな時間に、主も連れずに一振でこんなところまで来たのか、と。大典太はその言葉に表情を曇らせるも、ここまで世話を焼いてくれた人物に説明しないわけにもいかず。小さな声で自分が本部から出てきたこと、それに至るまでのいきさつを話したのでした。
ジンベエ「なるほどなあ。サクヤさんとの気持ちがすれ違っちまったんだな…。オイラは神様じゃねえし、亜人とはいえ人間だからそこら辺はよく分かんねえ」
大典太「…………」
ジンベエ「だがな大典太さん。神や刀とはいえ、『感情を持つ奴』なら誰だってそういうことはある。オイラだって街の奴らと意見が割れて喧嘩に発展したことだってあらぁ」
大典太「……どうすればいいか、分からなくなった。だが…あの場にいては、きっと主をまた傷付けてしまう。それは絶対に嫌だったんだ…」
ジンベエ「オイラ、前にも思ったが…。サクヤさんも大典太さんも、周りを考えすぎて自分の気持ちを抑え込んでるんだよ。だから、気持ちがすれ違っちまう。お互いを大切に思っているからこそ、大事にしたいからこそ。自分の気持ちを蔑ろにしちまうんじゃねえかな」
大典太「……俺は、これからどうすればいんだ。あんな状態で主の前に顔を出すわけにはいかない…」
ジンベエ「そうでもねえんじゃねえか?もしサクヤさんが本当に大典太さんを手放そうと考えているなら。既にお前さんは切り捨てられてもおかしくはねえ。でも、サクヤさんはそういう奴じゃねえ。だって。『お前さんを守りたいから近づけさせない』なんて、嫌いな奴が普通いうかい?」
大典太「……それは、そうだが…」
体育座りのまま顔を伏せてしまう大典太。しかし…ジンベエの言葉には妙に説得力がありました。自分はサクヤを大切に思っているからこそ、あの場を出てこんなところまで彷徨ってきた。サクヤが感情を持つことを嫌がり、自分を懐に入れない選択肢を取った気持ちも分かっていました。
―――そんな彼に、ジンベエは続けます。
ジンベエ「大典太さんはどうしたい?」
大典太「俺は……」
ジンベエ「大典太さんとあんな喧嘩しちまったのは、きっと朝本部中に知れ渡るだろう。サクヤさんもきっと一度厳しく怒られんだろうな。
大典太さん。一晩泊めてやっから、朝になったらもう一度話をしてみな。気持ちが落ち着いてきたら見えるもんも変わってくるんじゃねえか?」
大典太「……あんなことを言われたとしても。俺は…主を支えたい。主の刀として、主命を果たしたい。その気持ちは変わることはない」
ジンベエ「なら、ちゃんと真っすぐに伝えてこい。どんなに相手が拒否しても、真摯な気持ちってもんはちゃんと伝わるもんだ。……サクヤさんも、きっと自分と向き合う必要がありそうだからな」
大典太「…………」
前田にはあんなことを言ってしまいましたが、主を支えたい。主の刀として主命を果たしたい。その気持ちが消えたわけではありませんでした。その気持ちは、魔物を倒して『化け物』に成り果てた時も、失うことはありませんでした。
この気持ちも、サクヤと出会ったからこそ生まれたもの。彼はそう感じていました。他の存在ではこんな気持ちにはならなかった。主に、サクヤに仕えたい。彼女と共に、この世界を守っていきたい。今の彼の奥底には、そんな気持ちが芽生えていました。
ジンベエ「……おっと!風呂が沸いたみてえだな。大典太さん、あの豪雨の中魔物を倒していたんだから身体、冷えてんだろ?ちゃんと風呂入って温まって、ゆっくり休んでから帰んな。ささ、ごゆっくり~」
大典太「……感謝する。―――風呂でもう一度、考えてみるよ」
ジンベエ「あぁ。まだ夜は長いんだ。ゆっくり考えを整理しやがれってんだ」
大きな背中に添えられた小さな手が、今は自分の数倍も大きく、頼もしく見えたのでした。そのまま大典太は静かに用意してもらった風呂で温まり、寒い夜を明かすのでした。
- #CR08-15 村雲物語の後話 -4_2 ( No.26 )
- 日時: 2021/04/02 22:28
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
―――翌朝。温かな布団で目を覚ました大典太は、甲斐甲斐しく朝食を用意してくれたジンベエの行為に再び甘え、本部に帰る選択をしたことを彼に話しました。
その言葉を聞いたジンベエは嬉しそうに『お前さんが決めたことなら、どんな選択でもオイラは応援してるぜ。頑張んな!』と、背中を再び押してくれたのでした。そして。自らの本体を手に持ち、戸の前へと歩いていきます。
大典太「……世話になった。何から何まで…本当に」
ジンベエ「気にすんな!魔物退治してくれたお礼ってことで貸し借りはチャラだぜ!それに、大典太さんがちゃんとサクヤさんと仲直りしてくれること、オイラも望んでんだからよ」
大典太「……以前から思っていたが、あんたも相当なお人好しだな…。―――鬼丸の言っていたことが今なら少し分かるかもしれない」
ジンベエ「がっはっはっは!!!その言葉、そっくりそのまま返すぜ大典太さん!気を付けて帰んな。きっとみんな心配してる」
大典太「……さて、どうだろう。―――それではまた。今度は主と一緒に来る」
ジンベエ「おうよ!」
笑顔で手を振るジンベエに丁寧に頭を下げた大典太は、静かに店の戸を開き本部までの帰路に立つのでした。その胸には、もう一度落ち着いて主と話そう。そんな思いを秘めて。
すっかり朝日は空に昇っており、雨もすっかり止んでいます。昨日の暗闇の中の豪雨が何だったんだと言わんばかりに。道端にある水たまりが、その雨の凄さを物語っていました。
大典太は改めて気をしっかり持ち、来た道を静かに戻っていきます。
大典太「(……昨日の今日だ。主はきっと引きこもったままなんだろうな。俺が顔を出さないことに不振がって、騒ぎが大きくなられても困る。……急いで帰ろう)」
そう。本部の面子には早起きして、戦闘の稽古やら朝食の仕込みやら農園の手入れやら、各々行動を起こしている人達もいます。その中には察しの良い連中も含まれている為、もしかしたらサクヤと自分が顔を全く出さないことを不審に思い、本部総出で捜索される羽目になる可能性がありました。
―――確かに無断で出ていったのは事実。だけど、彼の場合は前田にばれています。彼が説明してくれるのではないかと淡い期待を持ちましたが、前田に苦労をかけさせるわけにもいかない。朝の散歩と誤魔化し、気付かれる前に帰った方がいい。
頭の中で結論を出した彼は、歩く速さを上げて本部への道をひた歩いて行ったのでした。
~花森街道~
そのまま何事もなくオオエドストリートを後にした大典太は、花森街道を歩いていました。ここ、コネクトワールドの本部に通じる道の中では『ジョギングコース』『散歩コース』として知られている街道です。気持ちのいい日には運動がてら走る人もいるそうですよ。
そんなことはさておき、本部に戻るにはこの道を通るのが一番手っ取り早く、分かりやすい。そう判断していた大典太はまっすぐ足を進めます。……そんな中、ふと目線の先に誰かの気配を感じました。
大典太「……誰だ?」
目を凝らしてよく見てみるも、ぼやけて誰か視認が出来ません。もう少し近づいてみないと分かりそうにないですね。どっちにしろこの街道に気配があるのは分かり切っているので、歩いていれば分かるだろう。彼はそう判断し、歩みを進めます。
―――少し歩いたところで。大典太の足が止まります。嫌な予感でもしたのでしょうか。その表情は変わっていないように見えましたが、目元が震えているようでした。
大典太「……あるじ…?」
口にしてはいけない、その名を。思わず口にしてしまいます。彼女とは昨日の夜、言い合いになって引きこもられた筈なのに。どうして外にいるのだろう。自分がやってしまったことは、何百年も後悔する神だというのに。こうあっさりと姿が見えたことに驚きと不安が渦巻きます。
しかし。大典太はすぐに気付きます。目線の先にいるサクヤは、『サクヤではない』ということに。
大典太「(……違う。あの主は主ではない。『主の姿を模倣している誰か』だ)」
何故そう判断できたのか。目の前のサクヤに『装備していてはいけない』ものがあったから。……サクヤは、普段腰に二振刀を帯刀しています。言わずもがな『大典太光世』と『数珠丸恒次』の二振なのですが…。今、大典太光世の本体は自分が持っている。
もし、今自分が見ているサクヤが本物であれば…。『数珠丸恒次』一振を帯刀していなければならない。それなのに。目の前にいるサクヤは、二振帯刀していた。だから、大典太はすぐに気付いたのです。目の前にいる主が、『本物ではない』ことを。
大典太「(……なら、目の前にいる主は誰なんだ)」
混乱の最中、冷静に状況を分析しようとする大典太。偽物のサクヤの目的は何なのか。何故こんなところに姿を表したのか。……少し頭で整理し、出てきた答えは『関わってはいけない』ということ。
幸い、この道を通らなくても本部に戻る道はいくらでもあります。少々時間はかかってしまうものの、このまままっすぐ進んで面倒ごとに巻き込まれた時のことを考えれば…遠回りをした方がいい。大典太はそう結論を付けました。
歩いてきていた道を旋回し、他の道を通ろうとする大典太。その足を動かし始めたその時。―――サクヤを模した目の前の『影』は、一瞬で自分の目の前に移動してきたのでした。
『酷いではないですか。主である私を無視して別の道を渡ろうとしていたのですか?』
大典太「……主の姿で戯言を言うな。あんたは主じゃない。どれ程精妙に似せても、俺には分かる」
『喧嘩別れした後は『偽物』と言いますか。貴方、そんなに白状な刀でしたっけ』
大典太「……『大典太光世』本体は今俺が持っている。本物の主なら―――。俺の本体を帯刀出来ている筈がない。あんたは誰だ」
『…………』
大典太「……そこをどいてくれ。俺は帰らねばならない」
『……『どけ』と言われ、素直に応じる『邪神』がどこにいる?』
大典太が冷静に言葉を切り返し、『サクヤではない』ことを看破。すると…少しの沈黙の後、目の前の女は口調を崩し大典太を威圧するように言葉を揃えます。それと同時に、『この世のものではない』力が彼を圧迫してきました。
その圧に、思わず眉間にしわが寄る大典太。しかし、耐えられない強さではありません。―――彼は、『失敗作』。霊力が異常に強い天下五剣の一振なのですから。最悪、主の姿を模した『なにか』を斬り捨てて本部に戻る選択肢も考えていました。
『…流石は天下五剣。我の幻想をも見破り、打ち破るとは』
大典太「……あんたと話してる暇なんてないんだが。俺は早く帰りたいんだ…」
『帰る?どこへ。貴様は当に主に拒絶され、見捨てられたではないか。どこへ帰るというのだ』
大典太「……関係ないだろう。あんたが誰だかは知らないが、何故そんなことが言える」
『―――すれ違い程度では貴様の心は折れん、か。鬼丸国綱といい、邪気を注ぎやすい刀だと思ったのだがな』
大典太「鬼丸……?」
鬼丸の名前が出た瞬間、彼の口が止まります。何故、その名を。まさか、まさか。混乱が強まる頭の中、何とか自分なりに答えをひねり出そうとしたのも束の間。
目の前の女の口角がニタリと上がった。
『その力。―――放置しておくには実に惜しい』
「―――っ?!」
一瞬だった。条件反射でその『杖』を掴むも―――。一足遅かった。男の心臓部分に、しっかりとそれは刺さっていた。主の姿をした女は、彼の反応を喜ぶように目を見開いた。そして……何かの呪文を唱えたが最後、男は一瞬で消えた。その場に、黒い靄がかかり始めた本体が落ちる。
女は模倣を解いた。模していた女よりも随分と幼い姿の少女だった。白い長髪をなびかせた、人の姿をした魔物。背中に生えている禍々しく巨大な羽根がそれを表している。
『鬼丸国綱を探してここまで来たが……。とんだ収穫だ。まさか求めていた天下五剣の一振が、主もなく彷徨っているとはな。―――いや、こやつに『主』はいなかったのだったな。まさか『本来の契約』をしない刀がいたとは。……だが、好都合だ。
鬼丸国綱の代わり―――。貴様に担ってもらうぞ』
邪神は刀を拾い、そんなことを呟いた。嬉しい誤算だったのか、その口元は笑みを浮かべている。そのまま、少女は最初からいなかったかのようにその場から姿を消した。
―――沈黙を取り戻した街道のど真ん中。その場には、彼が肌身離さずつけていた…紅梅の耳飾りを残して。
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