二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.47 )
- 日時: 2023/08/04 17:22
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
「マスター…大丈夫ですか?」
クレハとの決闘の後。
ひどく悲しそうな顔になったクレハは、ツェリスカやイツキの慰めも虚しく全員のフレンド登録を削除して姿を消した。現実のメールアドレスにメールすることもだめと言われ、私はクレハとの関係を完全に絶たれてしまった。
「そんな悲しそうな顔をしないで。いつかきっと、クレハちゃんは戻ってくるわ。」
「…マスター、私はなぜクレハがあんな顔をしていたのかわかりません。《GGO》は、銃を撃って楽しい世界です。ガンマニアでも戦闘好きでも下手っぴでもいいはずなのに。クレハは、違うんでしょうか…」
レイは泣きそうな声になってうつむいた。
「レイちゃん。人には大切なものはいっぱいあるの。地位とか、名誉とか…ただ楽しむだけじゃ得られないものだってたくさんあるのよ。」
「人の大切なもの…そうなんですね。」
「あなたならわかるわよね。あの子が何を目指し、求めているのか。」
クレハが《GGO》を始めた理由、私は前なんとなくわかった。
必死に戦うところとか、強くなるために努力するところとか。
「お姉さんを、どこかで超えたいと思っている。」
「私もそう思うわ。だから、ゲームがどうこうの問題ではないの。今はそっとしておいてあげて。待っていれば、きっと戻ってきてくれるわ。」
そして、ツェリスカは私の手を握る。
「そういうわけで、私もスコードロンを脱退させてもらうわ〜。」
「まったく話が繋がってないよ。どういうわけ?」
「元々、《SBCフリューゲル》をクリアするまではと思っていたの。いろいろと調べたいことも出てきたから、一時的にね。」
調べたいこと。現実リアルでは社会人らしいし、やっぱり忙しいんだろうか。
多分、それだけじゃないのだろう。
「…戻ってくる?」
「ええ。私の用事が早く終わるのを祈っておいて。」
「…うん。」
「ごめんなさいね。でも、忘れないで。私のパートナーはいつでもあなた。あなたのパートナーも私なんだからね。」
ツェリスカはそう言って、私のホームを出て行った。
「―――まさか、ツェリスカまでスコードロンを脱退するとは…。人はいつも突然いなくなるものだね。追いかけないのかい?探すのなら手伝うよ。」
次にホームにやってきたのはイツキだった。
私は力なく首を振る。
「ううん。…連れ戻しはしないよ。」
「…賢明な判断だね。実は、僕もスコードロンを脱退することにしたんだ。」
「イツキまでですか⁉」
「パイソンくんたちが戻ってこいとうるさくてね。すまない。でも、僕はフレンド登録を削除したりしない。きみになにかあったら、すぐに駆けつける。それだけは、約束するよ。」
「そんな…!」
「…わかった。」
「なにかあったら言ってくれ。じゃあ、失礼するよ。」
ショッピングモールで見た背中と、去っていくイツキの背中が重なった。
―――行かないで。
また、言えない。
なんで言えないんだろう。まだ躊躇っているのかな。いや、そんなはずない。香住が応援してくれたじゃない。
じゃあ、なんで?
ここでスコードロンを脱退することは、少ししかたがないから?
元々彼は《アルファルド》のリーダーだった。メンバーからすればいい迷惑だろう。
引き止めないほうが、《アルファルド》のため―――
ピロリン!
最近は思考の途中でメールが来ることが多いな。
《すまない。今すぐ集まってくれ。緊急だ。》
切羽詰まった様子がうかがえるメールに、私たちは沈む気持ちをぐっと堪えてキリトたちの部屋に向かった。
「…クレハさんだけでなく、ツェリスカさんやイツキさんまでスコードロンを抜けちゃうなんて…」
「ツェリスカさんたちは用事があるみたいじゃない。偶然のタイミングを気にしないほうがいいわ。」
「ああ。…だけど、今日の話は少し今のきみには話しづらいな。…すまないけど、俺もしばらくパーティーに参加できなくなる。メッセとかは気軽に飛ばしてほしい。だけど、この前話した死銃について、本格的に調査しなければいけなくなったんだ。」
死銃…
私の、私たちの目の前でゼクシードの命を奪ってみせた、一人の謎のプレイヤー。
でも、知っている。
あれは《SAO》のラフィン・コフィンのメンバー、ザザ。赤眼のザザ。
「…何があったの?」
「直接な関係はないかもしれないんだが…今から機密情報を話すから、絶対に秘密にしてほしい。…ナーヴギアが二台盗まれたらしいんだ。」
「!!」
ナーヴギアが?なんで?そして、どうやって?
「え⁉嘘でしょ。厳重に管理されてるんじゃないの⁉」
「ああ、その通りだ。簡単に持ち出せるようなものじゃない。だから、今、警察が必死になって探しているところなんだ。」
でも、それは死銃のものじゃないはずだよね?
まあ、それだったら本格的に調査は当たり前だろうけど。
「ゼクシードはアミュスフィアを着用してたんだよね。」
「ああ。だからわからないが、時間がない。この世界で開催される《BoB》…《バレット・オブ・バレッツ》に病院でモニタリングさながら参加することになったよ。そこで別アカウントに切り替えて、《BoB》で俺の別アカウントを有名にした後、わざと死銃に狙われるようになるつもりだ。そのときに死銃のアバター名も明らかになるしな。」
キリトが、囮になるってことか。
だからしばらく無理だって言ったんだね。
「…手伝うよ。」
「今回参加するのは俺だけだ。絶対に参加しないでくれ。」
「イツキやクレハたちはどうする?」
「見つけたら無理に連れ戻さないで、それだけを伝えればいいんじゃないですか?」
「そうだな、それでいこう。」
だいたい状況は把握した。
キリトもキリトで大変だなあ。高校生なのにね。
「今のきみには申し訳ないけど、でも、きみならいい答えを出せるんじゃないかと思う。無責任だけどな。終わったら、またみんなで狩りに行こう!」
「うん、ありがとう。私は大丈夫だから、キリトこそ気をつけて。」
「ああ。」
すると、後ろからシノンがトントンと肩を叩いてきた。
声を潜めてそっと耳打ちしてくる。
「ねえ、ちょっとこっちに来て。」
すみっこのスペースに移動して、誰にも聞こえないような声でこそこそ話す。
「どうしたの?」
「悪いんだけど、私も今日はパーティーに入れないから。」
「え?」
「あの男…死銃は私が倒す。」
低い声で告げたシノンの瞳は至って真面目だ。
本当に、行くつもりなのだ。自分に命の危険があるのだとしても。
「!…じゃあ、出るんだね。」
「ええ。秘密にしてくれるわよね?」
「……うん。健闘を祈ってる。キリトと二人で、生き残って帰ってきて。」
「わかってるわ。ありがとう。」
だいぶ仲間が減ったなあ…。
まあでも、いい機会か。この機会にレベルをいっぱい上げよう。上げて、みんなをびっくりさせよう。
それでいい。大丈夫。
『きみならいい答えを出せるんじゃないかと思うんだ。』
いい答え…。
正直、気持ちは沈んでいる。クレハの悩みに気付けなかった私、イツキにあのことを言えなかった私、そしてみんなに心配をかけてしまった私…。だめなところばかりだ。
でも、前を向かなきゃいけないんだよね。レイが心配するし。
いつまでもうつむいたままじゃいられない。香住にだって背中を押してもらったんだから。
「よし、レイ。戻ろっか。」
「はい!」
レイも、答えが出たようだった。
成長したなあ…。流石かわいいレイ。
そうして、私たちはホームに戻ったのだった。
「―――マスター!強くなるためにクエストを取っておいたんです!一緒に行きませんか?行って、強くなって、帰ってきたクレハたちを驚かせましょう…!」
「うん、ありがとう。二人でもできそう?」
「はい、多分大丈夫だと思います!」
「じゃあ、行こっか。」
「は―――」
ピロリン!
最近遮るメッセージの音多いなあ。みんなタイミング見計らってるのかな?
「メッセージですね。差出人は……《Death Gun》⁉マスター、死銃とフレンドだったんですか⁉」
「そんなわけないって!とにかく見てみよう。」
私は急いでメッセージを開く。
そこには、簡潔な文章が記されていた。
《リノセ―――偽りの英雄よ。
貴様の栄誉は僅かな幸運で手に入れたもの。この世界では通用しない紛い物だ。
家に招待状を送ってある。指示に従い、ログアウトして決戦の地へ赴け。
貴様の動向は常に見張っている。
もし他人に情報を漏洩させたり、従わなかったりしたときには―――
貴様の行動と選択による代償を、貴様の大切な者に贖ってもらう。
―――死銃》
大切な、者。
キリトやクレハ、ツェリスカ、アスナ、ユーハ……そして、イツキ。他にも、いっぱいいる。
大切な者を傷つけさせるのは、だめ。許せない。許さない。
みんなが傷つくよりだったら…私が行かなきゃ。
ああ、キリトやシノンってこういう気持ちだったんだ。
「大変です!キリトたちに相談しましょう!」
「だめ!……大切な者が危険に晒されたりしたら…」
「…マスターがだめと言うなら、私はできません。でも、お願いします!行くなら戦力をしっかり整えて、しっかり準備してください!そして、私のもとに帰ってきてください。絶対ですよ?約束、破っちゃだめですからね!」
レイは私の手を握り、必死な瞳で訴えかけてくる。
初めての、レイの主張。レイが私に強く願った最初の願い。
―――生きて帰ってきて、と。
「もちろんだよ。さ、行こうか。クエスト用意してくれたんでしょ?」
「はい。行きましょう!」
私はレイに微笑みかけ、二人で最難関と言われるダンジョン…
《SBCグロッケン地下ダンジョン》に向かった。
―――私の《決意》は固まった。
私は、クレハもツェリスカもイツキも、全員、みんな守る。
みんな守って、みんなでまた笑う。
絶対に誰一人失わないし、失わせやしない。
「…待ってて、みんな」
またみんなに「おかえり」って言ってもらえるように、頑張るから。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.48 )
- 日時: 2023/08/06 11:53
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
クエストを終えてログアウトして、ベッドから起き上がる。
招待状…そんなもの届いたっけ?
そのとき、「ピンポーン」とインターホンが鳴った。
「お届け物です」
―――これは…
私は、自室で箱を開いて目を丸くした。
ああ…ああ、そういうことか。
あれは、あのメールは死銃なんかじゃなかったんだ。
確信はできてないけど、これは多分…。
これが私のせいで導いた結果なら、私は逃げちゃいけないし、責任を取らないといけない。
「―――ナーヴギア…」
黒いヘルメット型のそれに記してある「Nerve Gear」の文字の下には、小さくペンで「It's mine」とある。
これは、私が《SAO》時代に使っていたナーヴギアだ。
イッツマイン、つまり、これは私のものだ、と。手に入れたときは相当嬉しかったから、勢いのままに書いた文字。
これは、本当に命をかけた戦いだ。
甘い考えは許されない世界がこの先にある。
でも、私は行く。
ちゅーっとエネルギー飲料を飲んでから、そっとサメのぬいぐるみを撫でて、ベッドに横たわって私の横に置いておく。
―――行ってくるね。サメくん。置きたら一番にぎゅってするからね。
「リンクスタート」
ふわっと降り立ったのは、《GGO》のようで、そうではない空間。
ここは…どこだ?
「えっ⁉」
聞き慣れた声が聞こえて横を見ると、そこにはレイもいた。
「マスター…ここはどこなんでしょうか?ここが決戦の地、なんでしょうか…?」
「そうみたいだけど……」
大方、私の《GGO》でのキャラクターデータを別のVR空間に引っ張ってきたらレイも来ちゃったって感じなんだろうな。
一応確認してみるが、予想通り、ログインボタンは消滅していた。
すると、後ろから声が聞こえてくる。
「んなっ!なんであんたがここにいんのよ!」
クレハだった。
クレハ!会いたかった!じゃなくて。なんでクレハがここに…。会う場所がここならむしろ一生会わなくてもよかったよ!
「まさか、あんたもデス………なんでもないわ。」
なんでもないことないでしょうよ。聞いてたからね、私。
「今、死銃って言ったよね。」
「言ってないわよ!言ってないったら言ってない!それより、あんたの顔なんか見たくないの!今すぐログアウトしなさい!さっさとしなさい!」
…クレハ。
その必死さ、バレバレだよ。クレハも脅されてきたんでしょ。
優しいところはやっぱり、昔からずっと変わってなかったんだよね。
「無理よ。ログアウトボタンがなくなっていたわ〜。」
「ツェリスカさん⁉」
ツェリスカまで…。嘘でしょ?ツェリスカもなの⁉
「まさか、みんな…」
「―――死銃からの脅迫メールをもらったのかな。」
そして、この流れなら来るだろうと思っていた。
どうしても、さっきからずっと、会いたかった。
―――イツキ。
「イツキさん!」
みんなの話を聞くと、やっぱりみんな等しく死銃からの脅迫を受けていたそうだ。
クレハは死銃を捕まえるため、ツェリスカは《ザスカー》の一員として。
そして、私含めたみんな、大切な者を守るために。
そのために、命をかけてここにやってきたというわけだ。
「あたしが様子を見るわ。みんなはどこかへ隠れて!お願い。」
「だめよ。私が行きます。私にはみんなを守る義務があるから。私が守ってみせる。」
「…素晴らしい責任感だね。」
「安心しなさい、イツキ。あなたも、私が守ります。あなたも愛すべき《GGO》プレイヤーですから。…一応。システム的には。」
イツキの扱いがぞんざいだな。
それでも、ツェリスカやクレハだって、きっと私と同じ気持ちだ。
―――みんなを守りたいんだよね。
「みなさん、私はアンドロイドなので壊れません!だから私が行きます!……だめですか?」
「無理よ。悪いけど、レイちゃんでは刃が立たなすぎるわ。」
「ええ。あんたはご主人さまをしっかり守んなさい。まずはあたしが行くから。」
「いいえ、私が―――」
「だめ。」
私の真面目な声音に全員が私を見た。
私は口元に薄く笑みを浮かべる。
なんか、私一人でなんとかしようとしていたのが馬鹿みたいだ。
「みんなで帰ろう。」
みんなで戦えば、きっと大丈夫。
いや、死銃デスガンじゃないの知ってるけどね?
でも、このメンバーならいけるって思える。
「やれやれ、うちのリーダーは厳しいオーダーを出すね。」
「でも、あんたが言うとできる気がするわ!」
「はい…はい!帰りましょう、みんなで!」
ログアウトする前にお守りもセットしたし。
士気は十分だし。
みんながついてるし。
大丈夫だ。
「行こう!」
「「「おー!」」」
中心のワープゲートから戦場に移った。
ヒュンッという電子音とともに、ポップした巨大なエネミーが視界に入る。
「!」
「グアアアアアァァ!!」
ほらね、やっぱり。
死銃じゃない。あいつって一気に何人もは流石に相手しないと思うし。
「ねえ、あいつはどこ行ったの⁉」
「わかんないけど、とりあえず倒さなきゃ!レイ、攻撃はしなくていいから、回復最優先!一人でもHPがゼロになれば…」
大きな体のボスを見上げる。
「その瞬間に死ぬ!」
誰も死なせない。全員で帰ってみせる。
その気合いの意味も込めて、私は静かにFetal Bulletを構えた。
胸の宝石のようなところが恐らく弱点。敵の一挙一動に注意しながら、削りまくる!
「!」
ボスのHPが半分を切ったとき、ボスは口にエネルギーを溜め始めた。
「―――ッ⁉」
全身にぞくりと鳥肌が立つ。
「全員、あいつの口元に集中攻撃!絶対に次の攻撃を撃たせちゃだめだ!」
「了解!」
オートリロードのメモリーチップの恩恵もあり、私はほぼ連射の速度で撃っていく。
すると、ボスは怯んでエネルギーを消散させた。
よし、オッケー。
「削り切るよ!」
「はい!いっけー!」
「はあああっ!」
全員が必死に攻撃していく。
HPがなくなれば死ぬ。どうやっても。どう足掻いても。
だから、私は勝つ。
自己暗示のように、何度も自分に言い聞かせた。
勝つんだ。削りきれ。
―――生きろ、リナ。
「グアアアアァァッッ!!」
「よっしゃ!」
みんなのHPは6割。ボスの体力を削り切った。
「勝ったわ!みんな無事で!」
「みなさん、今回復します!」
レイとツェリスカがスキルで一生懸命回復してくれる。
「今の、死銃じゃないわよね…?」
「いや、逆にそうだったら怖いよ。いつの間にNPCになったんだって話。」
「そうね〜。イタズラにしては手が込みすぎているし。」
「あの、帰る方法も探さないといけません…!」
うーんと唸っていると、レイからノイズ混じりの可愛い声が聞こえてきた。
「アファ……さ………ア……さん…!」
「?今のは何でしょうか…?」
「アファシ……ん…アファシスさん!」
「ユイ!」
それを聞いて、イツキは無言で眉をひそめる。
「回線を……解放…………」
「わかりました!」
「アファシスさん!ようやく繋がりました!みなさん無事ですか?」
「はい!でもログアウトできなくて…帰れないんです!」
「それは当然です。今みなさんがいるのは、《GGO》ではありませんから。」
うん、そうだろうね。
《GGO》だったらすぐに見つかって、はいおしまい!だからね。
どうやってナーヴギアの回線操作をしたのかは知らないけどさ。
「《GGO》ではない…まさか、ナーヴギアに仕掛けがあるんですか⁉」
「ナーヴギア?なぜそんなものを…!え?パパ?…はい、わかりました。パパ、準備OKです!」
まさか。
流石はユイちゃん。《GGO》からキリトをそのままコンバートさせるなんてお手の物。
さっきまで戦場だったここに、すぐ現れた。
「キリトさん!」
「キリトくん!」
「キリト…」
「よう、みんな。いったい何があったんだ?アファシスも《GGO》から消えていたみたいだし…」
「それが……」
キリトと私たちは情報を交換し合った。
どうやら、キリトは《BoB》で名を売ろうとしたところ死銃と鉢合わせ、そのままシノンと倒してしまったようだ。なんとびっくり。
それを伝えにログインしたらレイが《GGO》から消えていたから、レイやストレア、プレミアが一生懸命探してくれたそうだ。
「でも、いったい何のために…」
クレハがそう呟いたときだった。
「―――それは僕が説明したほうがいいだろうね。どうせすぐにバレてしまうだろうし。」
感情が読み取れない笑顔を貼り付けたイツキが言った。
ゆっくりと、私たちはイツキを振り返る。
キリトはイツキを睨みつけた。
「…イツキ?どういうことだ?」
「ここはデスゲームエリア。《GGO》とは似て非なる世界さ。クレハくん、ツェリスカくん、そしてリノセは、ナーヴギアを装着してここに来た。来なければ大切な者を殺すと脅されてね。」
イツキがゆっくりと奥に歩いていき、奥のもう一つの円形の中央に立って指を鳴らす。
すると、2つ目の円形のところがゴゴゴゴゴゴと音を立てて動き、下から壁が出てくる。
そのまま円形は円柱となり、その頂上にイツキは立って私たちを見下ろした。
「そのナーヴギアには仕掛けがあってね。ログインするとここに転送される仕組みなんだ。ま、詳しくはパイソンくんに聞いてくれ。僕はプログラミングには詳しくないし、実は、長話はあまり好きじゃないんだ。」
私は真っ直ぐイツキを見上げて見つめる。
イツキと目が合い、いつものように微笑んできた。
「…やっぱり、そうだったんだね」
やっぱりこれは、私が起こした問題。
私が解決すべきで、同時に私しか解決できない問題だ。
「クレハくんやツェリスカくんが来るのは想定外だったけれど、きみだけは、絶対に来ると思っていたよ。……そう。きみが英雄になったように、僕も魔王になったんだ。さあ、迫りくる敵に立ち向かうんだ。魔王を倒さないと、物語は終わらないよ…?」
空間が歪み、そこにできたブラックホールから、さっき倒したはずのボスが出てきた。
うーん…なるほどね。この世界…私たちのために作られたこのVR空間…デスゲームのGM権限は恐らくパイソン。つまり、パイソンはどこかから見ていて、イツキの望む通りにエネミーを出しているわけだ。
イツキがいる足場が長くなって上に上ったのもパイソンがやったんだろう。
まず、これを倒さないとお話にならない。
ふう、と息を吐いてもう一度倒そうとした…
そのとき。
「リノセ!」
「クレハ!」
「ツェリスカ!」
「レイちゃん!」
「待たせたな、助けに来たぜぃ!」
《GGO》にいたはずのアスナ、リズベット、エギル、リーファ、クライン…ううん、いっぱい。みんなが来た。
ちゃっかりバザルト・ジョーもいるし。まあ、戦力が多いのは助かるけど。
キリトはボスエネミーを殺気を込めて睨みながら叫ぶ。
「きみたちが本当にナーヴギアを被っているのなら、一瞬の油断が命取りになる!ここは、真の戦場だ!」
「ええ!絶対に生きて帰るわ!」
「ここまで来たら、何でも、何度でも倒してみせるわ〜。《無冠の女王》の名が伊達ではないこと、見せてあげる!」
キリトたちは構える。そこにはシノンもいた。
すぐに、みんな駆けつけてくれたんだ。
じゃあ、私も応えないとね。
「…シノン、あいつの弱点は胸の青い宝石。スナイパー、一人に任せていい?」
「いいけど、あなた…」
「私はソードでやる」
ガン&ソードに手を切り替え、ガンは腰のホルスターにしまっておく。
これは、お守りだからね。
そして、キリト、ユウキ、リーファに並んだ。
「行けるな、リノセ?」
「もちろん。絶対勝つ」
「ああ、その意気だ!」
「行くよっ!」
「「「応!!」」」
英雄?魔王?どうでもいい。
私はそんなの気にしない。なんなら、私だって悪女でいい。魔女でいい。悪魔でいい。なんでもいい。
私は、イツキと一緒にいたいだけなんだ。それを、今回こそ伝える。伝えてみせる。
そう決めたんだ。
―――貫け、リナ。
私は、力いっぱい地面を蹴った。
「―――た、倒したーッ!」
「もう、出てこないよね…?」
「流石にもうないんじゃないかしら……」
レイの回復にお礼を言いつつ、私たちは円柱の前に移動し、イツキを見る。
「ふっ、はははは!まさかアレを倒すとはね!…見事だ。リノセ、きみは英雄だ。銃を手に困難を切り開き、英雄の名を確固たるものにした。きみはは絆で結ばれた仲間たちとともに奇跡を起こし、凶悪なドラゴンを倒し、そして魔王すら滅ぼすだろう。……ずるいなあ、英雄御一行は。僕にだって仲間がいてもいいじゃないか。」
それは、心からの慟哭だった。
そう。イツキの心はそれだよね。さっきまで笑っていたけれど。
「イツキ!銃を捨てなさい!まだ遅くないから、罪を償うのよ!」
「イツキ!投降しろ!諦めて降りてくるんだ!」
「なんでこんなことしたの⁉あたしたち、仲間じゃなかったの⁉」
必死に叫ぶツェリスカとキリト、そしてクレハ。
私は何も言わず、じっとイツキを見つめる。
イツキの目は、冷たい。
諦め、悲しみ、喪失感……そんな感情が詰まった、けれどいつもと変わらない、赤色のグラフィックアイ。
私は何度、あの瞳を見つめただろう。
…いつから、その瞳に淡い感情を持ち始めたんだっけ。
あの日は熱に濡れていた瞳も、今や深海の如き冷たさの赤。
…私の、せいだよね?
イツキはそんなことを考える私を見つめ返しながら、力なく首を横に振った。
「クレハ、ツェリスカ、そしてもう一人の英雄…キリト。僕は、きみたちのようには強くない。」
「違う!イツキさんは間違ってる!あたしたちは最初から強いんじゃない!強くなるんでしょっ。」
クレハ…。
思わず私は目を丸くしてクレハを見た。
クレハは、わかってくれたんだ。あのこと。
『全く、あんた、なんでこんなとこ来たのよ…』
『それはお互い様でしょ?』
『あたしは…!あたしは…何やってんだろうね。お姉ちゃんの影でいるのが嫌だった。この世界ならみんな、お姉ちゃんの妹じゃなくて、クレハとして見てくれた。あたしはそれが嬉しかったの。だから、あんたの影になんてなりたくないし、なにより…っ。』
『クレハ…』
『あんたにだけは、絶対に死んでほしくないのっ…!』
『それも、お互い様だよ。』
『………。あたしたち、案外似た者同士だったのね。…………ごめんね、リノセ。…ありがと。』
何か吹っ切れた様子で叫び続けるみんなを見て、胸が苦しくなる。
私のせいで、みんな命の危険に晒されたっていうのに。
「イツキ!」
「イツキさん!」
「諦めろ、イツキ!」
「……ごめん。」
イツキは小さく謝って自嘲の笑みを溢した。
そして、銃を構える。その銃の先は―――私。
「リノセッ⁉」
慌ててみんなが私を守ろうと動いた、そのとき。
私は《UFG》で円柱に上り、ズザザザと足でブレーキをかけて体勢を立て直す。
「なっ」
一瞬イツキは驚いていたが、すぐにまた構え直す。
私とイツキがお互いに向かって銃を構えたのは同時だった。
緊張した空気が満ちる。
その中で、イツキは私の銃を見て目を見開いた。
「その銃は…!」
ガン&ソードにセットしておいていた、私のお守り。
…イツキからもらった銃。イツキとの絆の証。
「ずっと持っていてくれたんだね…。はー…ははっ、魔王の企みは大失敗だ…」
イツキは銃を構えたまま天を仰ぐ。
その顔には哀情が漂っており、私の胸を更に苦しくさせる。
「僕は、きみと二人で命がけで戦って証明するつもりだった。僕ときみの絆を。きみには僕しかいないことを。」
もうとっくにイツキしかいないよ。絆なんて、私とイツキが一番わかってる。
だけど、一番わかってなかった。
イツキ、ごめんね。こんなに不甲斐ない私で。
「本当なら今頃、仲間に見捨てられて人間不信に陥ったきみを、僕だけのものにしていたはずなのに―――!」
銃を改めて構え直したイツキ。私はそのまま構え続ける。
思わず顔が悲しく歪んでしまった。
「…僕のしたことを怒っているのかい?」
「………違うよ」
「だよね、きみはそういう人だ」
愛おしそうに見てくる視線。
欲しそうな瞳。
そして、諦めの哀愁。
「…なぜ撃たないんだい?魔王を倒すのは英雄の役目だろう…?」
イツキがそう言ったとき、私はすっと銃を降ろした。
腕が疲れたとか、そういうことじゃない。
「リノセ⁉」
「マスターッ⁉」
見守っていたみんなも慌てる。
そんな中、驚くイツキに私はしっかりと言った。
「撃たない。…ううん、撃てないよ。」
ゆっくり踏み出し、ゆっくりイツキに近付いてゆく。
イツキは銃を構えたままだが、多分イツキは私を撃てない。撃たない。
「英雄…うん、フリューゲルを救った私は確かに《英雄》かもしれない。ううん、そうなんだろうね。でもね、イツキ。イツキは魔王なんかじゃないよ。」
「…」
「あの日、私が怖がって躊躇ってしまったから。あの日、私が勇気を出せなかったから、今私たちは戦っている。すべての根源は私なんだから。」
そう。私が言えなかったせい。
イツキは、「どういう、ことだい…?」と呟いて銃を下ろす。
「それにさ、いいじゃない。魔王と英雄が仲良くしても。二人は敵対しなきゃいけないって運命なんてないんだから。いや…あったとしても……」
そんな、運命は。
「私がそんなのぶち壊す。」
なんでここまで言うか、イツキは知らないよね。
私は銃をしまって最後の一歩を踏み出し、イツキに抱きついた。
「ッ」
「……好きだよ」
そっと囁いた。
その瞬間、ガチャッと銃がイツキの手から滑り落ち、シュンッと収納された。
「う、嘘だ…今、なんて?」
「好きだよ。イツキが好きだよって言ったの。」
何回も言うのは恥ずかしい。とても恥ずかしい。もう、今日以外言わないんだからね。
「………ッ」
「…イツキが、男として好きだよ。イツキも雪嗣さんも、どっちも。」
イツキが息を呑む音が間近で聞こえ、私は羞恥心に耐えられず、イツキの肩に顔を埋めた。
「…リノセ…ッ…信じてもいいのかい…?僕は、僕は…ッ」
「信じて。私もきみを信じる。きみを、イツキというプレイヤーを。雪嗣さんという人間を。」
そっと、イツキの手が私の背中に回った。
「本当に?魔王と一緒にいていいのかい?」
「だから、魔王じゃないって。それに……」
私は、目から出る鼻水を無視しながら言葉を紡ぐ。
もう怖がらない。伝わって欲しい。もう、伝えることを躊躇ったりしないように。
「それに、イツキと離れるくらいなら、英雄だってやめていいもん」
その一言で、イツキに私の気持ちが伝わったようで、イツキはぎゅっと私を抱きしめ返した。
「ごめんよ、リノセ。………ありがとう。」
「ごめんね、イツキ、ありがとう。」
「僕も…好きだよ。」
ぎゅっと抱きしめ合ったまま、感情を噛みしめる。
……言えた。言えたよ。
―――よくやった、リナ。
……さっきから聞こえる、この声は誰のだろう?
わからない。思い出せない。だけど、ずっと聞きたかった、懐かしい声―――
《ふふふ、ははは、ふはははははは!!》
そんな高笑いが、この空間に響いた。
あー…そうだった。忘れてた。ここにはパイソンがいたんだった。そう、真のラスボスは…
《見事でしたよ、リノセさん。》
―――GMゲーム‥‥ゲームマスター……!
「パイソンくん…」
円柱がどんどん下がり、元の高さに戻る。イツキが私を守るように立ち、みんなも駆け寄ってくる。
《いい余興でした。それにしても…英雄にたぶらかされるなど…随分とまあ攻略しやすい魔王ですね、イツキさん…?》
そんな声とともに、天からパイソンが降ってきた。
…待て待て、安心しすぎていつもの楽観調に戻ってる。真剣に真剣に。
ごほん。
二回目のボスエネミーが出てきたときのような空間の歪みから静かに降りてきて、空中の透明な床に立ったパイソン。その目は、サーバーダウンを起こしたあの日のイツキよりずっと絶望と狂気にまみれている。
《まあ、想定内ですけどね。では、今までお世話になったので、あなたたちにはこれを差し上げます》
パチンッとパイソンが指を鳴らすと、私の体はまるでなにかにのしかかられているような圧に押され、地面に倒れる。
「リノセ!……パイソン、今すぐ解け」
《言ったでしょう?これを差し上げます……と。》
もう一度現れたブラックホールから、巨大なエネミー…いや、モンスターが現れる。
大きな体に鋭利な鱗、感情のない虹色の瞳、3つの頭。
「なんで、あいつが…」
思わず口に出す。
《おや……?なぜリノセさんは知っているんですかね?》
「知ってるも何も、私が倒したからね……」
なんで知ってるんだろう。私が倒したのは確実。それは断言できる。
でも、倒した記憶がないし、見たこともない。だけど、頭は知ってるって言ってる。
そう、こいつは、私の頭が主張するに―――
「……《ソードアート・オンライン》の階層ボス、《ザ・サーマリウム・ドラゴン》」
「なんだって⁉」
「《SAO》って、リノセ、もしかして……」
驚くみんなの声も、ずいぶん遠い。
そんな私の頭には、とある男性の声だけがずっと響いていた。
―――リナ。
―――リナ、思い出せ。
思い出せない。
あいつは、誰だ。
思い出せない。
どうやって倒せばいい?
思い出せない。
私に語りかけてくるあなたは、誰?
《まあいいでしょう。正解です、その通り。ですが、あなたはGM権限に逆らえません。先に抹消してしまいましょうか》
その言葉とともにクイッとパイソンが指を動かすと、私の体はふわっと浮かび上がり、ドラゴンの口に吸い込まれていく。
「やめろ!リノセ―――っ!!」
私の視界は真っ暗になり、すべての感覚がなくなった。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.49 )
- 日時: 2023/08/07 16:00
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
―――真っ暗だ。
ふわふわするし、なにも見えない。
あれから私はどうなったんだろう。
ドラゴンの口に吸い込まれる前に視界が暗くなった気がする。ということは、ここは死後の世界とかじゃない。
じゃあ、どこだろう?
ううん、私はこの世界を知っている。来た記憶なんかないし、初めてなんじゃないかとも思う。
だけど、ドラゴンを見たときと同じ。
私はこの世界を知っている。一度来たんだろう。
そして、きっと忘れてしまったのだ。
―――いくつかの記憶とともに。
今まで、私の中にぽっかり空いた記憶の穴を気にしないようにしてきた。
本当に、私はキリトやアスナたちと《SAO》で接点がなかったのか。
私が血盟騎士団に入った理由。そして、脱退した理由。
私がただ一人PKした人は誰だったのか。
そして、私に語りかけてくる「声」は誰のものなのか。
思い出さなきゃいけない。
《ザ・サーマリウム・ドラゴン》が出てきたのも、きっとそういうことだ。
そろそろ、進まなきゃいけない。
本来の私を取り戻して、守らないといけない。
クレハや、ツェリスカや……イツキを。
ねえ、そうでしょ。本当の私。
忘れている記憶を掘り起こせ。何としても思い出せ。
《霧散》リナ、きみには何があって、何で苦しんで、どうしたのか。
教えて。
ズキンと頭が痛む。心に悲しみと恐怖が渦巻き、心臓が掴まれたように疼く。
頭の中に拒絶感と嫌悪感が溢れて、記憶を思い出すことを拒否しようとする。
でも、それでも私は逃げるわけにはいかない。
前の私なら逃げただろう。また苦しむなら思い出さないほうがいいって。
でも、私は変わったんだ。
成長して涙ながら夢を追い続ける啓治。
一生懸命もがいて強くなろうとする紅葉…クレハ。
辛い秘密を抱えながら逃げずに向き合うツェリスカ。
そして自身の醜いところも美しいところも全て見せてくれて、そして私を受け入れてくれた―――イツキ。
みんながいるから、私は何でも乗り越えられるって言い切れる。
―――そうだ、そうだぞ、リナ。お前ならできる。
―――辛かったら、その荷物を分けてもいい。
―――逃げずに進め、リナ。生きて、愛する奴を守りきれ。
―――お前は、お前は………
頭に響く声が、ものすごく懐かしい。
激しい痛みが頭を襲うが、私はそんなものに怯まず考える。
そうだ、私は、私は……
目の前がチカチカして、吐き気がし、頭に映像が流れ込む。
…そうだ、私は…
―――お前は…俺の愛弟子なんだから。
エシュリオの師匠なんだから。
「思い出した…」
思い出した。
あの日、私たちに何があったのか。
「リナ」
「ッ」
後ろから聞こえた声に振り返る。
ウルフカットの茶髪。腰に携えた片手剣。優しい微笑み。
私がゲーマーとなったきっかけの、私の師匠―――《SAO》プレイヤー、エシュリオ。
「エシュリオ!」
「ようリナ。感動の再会がこんなところなんてな。」
「エシュリオ…、会いたかった」
「おいおい、俺はいつでもお前の中にいるんだぜ?お前、俺の声聞こえてたろ?」
確かに、聞こえていた。
記憶を忘れていた私に、ずっと語りかけてくれていた。
「《SAO》でHPが尽きて俺は死んだ。だけど、お前の中にいる《エシュリオ》はずっと生きてる。」
「……ッ、ぐすっ」
「よく頑張ったな。よく逃げずに思い出した。今のお前ならGMゲームマスターにだって勝てる。」
「え…?」
どうやって?
私はあのデスゲーム世界にいる一人のプレイヤーであるだけであって、GMの強大な権限には逆らえないはず。
勝てるって言うならもちろん勝ちたいけど、そんなことできるはずがない。
「それは私が教えよう」
そんな言葉とともに歩み寄ってきたのは、赤い鎧を身に着ける団長―――
「…ヒースクリフ」
「やあ、また会えたね。ここはVR空間の狭間、インターネットに残された私の意識が作り出した電子世界さ。」
「じゃあ、今のヒースクリフはネット上に存在する電子意識なわけ?」
「そういうことだ。」
何でもありだな、ヒースクリフって。
流石VRの父、茅場晶彦。
「きみ、もう《霧剣斬》のソードスキルは獲得しただろう?」
「したけど…あれってまさか」
「私とエシュリオくんからのプレゼントだ。もちろん、きみだけのスキルだよ。」
「あれに、こんな一文なかったか?《弾丸一発に、極めて強い貫通力が付与される。》」
「あー…」
確かにあった。
あのときは攻撃力強くなるだけじゃね?とか思ったけど、二人からのプレゼントだったってことは…。
「もうわかっただろう?きみはきっと勝てる。」
「うん、ありがとね。」
「さっさと片付けて、ラブラブな彼とイチャイチャしてろよ。」
「なっ、見てたの⁉」
「そりゃそうだろ。俺はお前の中の俺なんだから」
エシュリオもエシュリオで何でもありだな。
でも…見守ってくれるってことだよね。
恥ずかしいけど。
「…うん。やっと叶ったんだから。今死ぬわけにはいかないし、死なせるわけにもいかないよね。」
「ああ、その通りだ。」
「その気持ちでいけば勝てるよ、きみなら。」
私の体がキラキラと光の粒子を帯びていく。
もう、時間切れのようだ。
「本当にありがとう。エシュリオ、ヒースクリフ。またね。」
「ああ、またな。」
「また会おう。いつか必ず。」
暗闇だったそこに、輝かしい光が現れる。
《僕は………あ………き……》
微かに、イツキの声が聞こえる。
「さあ、行け、リナ。いいや、リノセ。」
「行くといい。きみたちの未来を掴むために。」
―――運命を、貫け!
そんな声を聞きながら、私は光に向かって手を伸ばした。
****
「やめろ!リノセ―――っ!!」
最愛の女性に手を伸ばす。
だが、届きはしない。当たり前だ。
死なせない。絶対に死なせない。やっと気持ちが繋がったんだ。
なのにここで失うなんて―――なんとしてでも、阻止してみせる。
彼女は即死回避のチップがついたアクセサリーがある。意識があれば回復はできるはず。
「パイソン、今すぐそのドラゴンを消してリノセを戻せ。」
《無理なお願いですねぇ。僕の目的は彼女をイツキさんから離れさせることです。ここで彼女が死ねば万々歳なんですよ》
凶悪な笑みを浮かべたパイソンは、コンソールを操作しながらさも当然のように答えた。
僕はパイソン以上の権限を持っているわけじゃない。持っていたらツェリスカくんの知識を借りてなんとかできただろうが、今はできない。
考えろ、今の僕には何ができる?
《ついでに優しい僕は忠告してあげますよ。イツキさんが僕の要求を呑まないのであれば、ここにいる全員に死んでいただきます。まあ、元々他のギャラリー 一同も邪魔でしたし。いい機会です》
成り行きを見守っていたキリトくんたちが顔を青くさせる。
ちっ、つくづく面倒なことになった。僕の失態だ。
《ですが、わかりますね?イツキさん、あなたがスコードロンの名前をアルファルドにした理由。うみへび座の孤独な2等星、アルファルド。あなたが自分を孤独な人間だとおっしゃったのではありませんか》
確かにそうだった。
僕はあの頃、孤独を感じていた。自分を美しく見せるために偽り続け、誰も受け入れてくれない自分に嫌悪感を抱き、全ての人を信じなかった。
そうだ。今だって簡単に人間を信用することはできないし、僕は美しくいたいし、僕を受け入れない人間だってこの空間にいる。…少なくとも一人は。
でも、そうじゃない。
僕はリノセがこの世界に来てから変わったんだ。
やっと僕は誰かを愛するということを知れた。
リノセの存在こそが僕の光で、孤高でいなくてもよくなった理由。
重いかもしれない。でも、リノセはきっと快く受け入れてくれる。
「僕は確かに孤独だった。だけど、リノセがいるだけで、そのときだけは孤高な存在じゃなくてよくなる。だから僕は彼女を愛しているんだ。いいや、愛す理由なんて数えられるものじゃない。そんな愛しい人を僕から奪わせやしないよ、」
面白くなさそうなパイソンを見上げる。
いつGM権限で攻撃されてもおかしくない。だけど、僕は決して負けない。
《…わかりました、死にたいようですね》
パイソンは狂気に塗れた瞳で冷たく僕を見据える。
《では、殺して差し上げます》
そう言ってパチンと指を鳴らすと、《ザ・サーマリウム・ドラゴン》とやらはゆっくり動き出した。
「イツキ!」
「大丈夫だ。」
不敵な笑みを浮かべるが、策など思いついていない。弱点は見当たらないし、そもそもあれは《SAO》産らしいから、銃は効かないだろう。となると頼りは光剣を使う人たちだが…
グアッとドラゴンが大きい前足を振り上げ、栗色の爪をギラつかせる。
《死ねぇぇぇぇ!》
ギリッを歯を食いしばった、そのとき。
「霧剣斬ッ―――」
鋭い声が僕らの耳に響く。
この声は―――帰ってきてくれると信じながらも必死に僕が姿を探していた、愛する人の声―――
「虚無葬送ッ!」
雷のような轟音がドラゴンを貫いたと思うと、パァンッ!とエネミーを倒した音が響き、大きいドラゴンが一瞬で消え失せ、データホログラムの星の欠片のようなものに変わる。
その量からそれは霧のようにも見え、その霧の中央には一人の女性が立っていた。
艷やかな黒髪に、漆黒の剣。身長も髪質もすべて、僕が愛する《神名 凛世》だった。
身にまとうもの以外は。
「……凛世?」
僕がそう言うと、凛世は少しだけ振り返った。
その美しく黒い瞳から、一筋の涙が流れ、やがてぽたっと落ちた。
そしてすぐ背後で、キリトくんたちが目を丸くし、何かを呟き始めた。
「……リナ……リナだ」
「なんで俺たちは忘れてたんだ……そうだ、そっくりじゃないか」
リナ?どういうことだ?
「強制的に記憶を消されてたんだよ、みんな」
彼女の口からこぼれ落ちた言葉に眉をひそめる。
意味がわからない。意図が汲めない。
凛世は、そのまま呆然とするパイソンを見上げた。
「―――私はリノセ。そして…《SAO》で《霧散》リナと呼ばれていた、《SAO帰還者》なんだよ」
そう言ってニヤリと笑う凛世は、いつもの明るい彼女だった。
そうか……《SAO》…やっぱり、きみはそこから来たんだね。
《ザ・サーマリウム・ドラゴン》を見破った時点でそうだとは思っていた。
《霧散》という肩書を持っていたということは、きみはそこでも強かったのか。
今の剣技は、その《霧散》時代に使っていたものなのだろう。
「…かわいいよ、リノセ…」
「!」
でも、きっと彼女も僕と同じ想いだ。
昔の自分は自分の中に生きている。だけど、もう変わった。
今の自分は今の自分だって。
変わったっていうのは、もちろんいい方向でだ。
「イツキっ………」
もう一粒、涙が落ちた。
僕はリノセに優しく微笑みかけ、頷く。
リノセはそれを見て頷き返し涙を拭くと、パイソンに向き直る。
「パイソン。もう私はあなたには負けないよ。」
その言葉はどこか含みを感じさせる言葉だった。
パイソンはその挑戦状ともとれる言葉に青筋を立てる。
《ほう……言うじゃないですか。ではみなさんの前で披露するとよろしいでしょう。倒してみせてください。僕の手札の数々を!》
パイソンの言い方で、僕たちに手を出させるつもりはないのを知った僕は、地面を蹴って飛び出した。
そして、透明の壁で空間が隔てられる直前にリノセに合流するのに成功する。
「イツキ!」
「一人で戦わせるわけにはいかないからね。一人より二人、そうだろう?」
「……、うん!」
僕とリノセは背中を合わせて立った。
周りに次々とエネミーが湧いていく。どれもボス格で、二人で倒すには時間がかかりそうだ。
―――それでも。僕たちは勝つ。
「準備はいいかい?」
「もちろん。イツキは?」
「僕も大丈夫だ。」
「じゃあ、行くよ!」
「ああ!」
もう、僕たちは迷わない。
ともに微笑み、僕たちは戦い始めた。
****
―――霧剣斬は、本当は4つある。
記憶を消していたことで4つ目を忘れていたんだ。
《霧剣斬・虚無葬送》
攻撃力に特化したソードスキルで、すべてを無に返す攻撃力を誇る。
…みんなを騙すようなことになっちゃって、正直とても申し訳ない。
だけど、きっとみんななら私といてくれる。
ボスたちの相手をしている中でもそんなことを考えられるなんて、ずいぶん慣れたものだ。
本当は受けて立つべきじゃないのかもしれない。
霧剣斬を使った後の弾丸一発には特別な力がある。それを使えばなんとかなるだろう。
でも、パイソンに完全に勝つには実力を理解してもらわないと。
大丈夫、HPは守ってみせる。
…エシュリオとの出会いは私が命の危機に瀕しているときだった。
彼は、まるで兎を食らう獅子のように、私を襲っていたモンスターを片付け、私に手を差し伸べたのだ。
それが始まりだった。
私は生きていくために全ての恥を捨ててエシュリオに教えを乞うた。
エシュリオは「お前には才能を感じる」とか言って、快く引き受けてくれた。
そこからは早かった。
私はどんどんエシュリオの教えを吸収し、強くなり、私と戦ったモンスターは霧のように散っていくからと《霧散》と呼ばれ、隠しスキルを次々と獲得し、オリジナルスキル《霧剣斬》まで取得、血盟騎士団一軍に入団した。エシュリオとともに。
でも、とある日の攻略で…エシュリオは、血盟騎士団に紛れ込んでいた《ラフィン・コフィン》に殺された。
それが、《ザ・サーマリウム・ドラゴン》がいた階層ボスの部屋だったのだ。
それには理由があった。
まだ《SAO》がただのゲームだった頃、他ゲームのPvPがお気に入りだったエシュリオはこの先起こるデスゲーム化も知らずにPKギルドに入った。
だがその後すぐにこのゲームがデスゲームとわかり、彼はすぐに脱退したそうだ。
だが、ラフィン・コフィンの間では、彼は《裏切り者》と呼ばれ、いつも狙われていた…そうだ。
《ザ・サーマリウム・ドラゴン》が強かったこともあり、彼は私に後を託して死んでいった。
蘇生する方法をなんとか探した。だけど…
だけど、無理だった。
そして私はその後、エシュリオを殺した《ジョニー・ブラック》を……殺した。
それでも私が生きてこれたのは、唯葉…ハユの存在だ。
彼女は茅場晶彦の実妹だ。だが、両親が離婚したことによって離れ離れになってしまったそうだ。
自身も精神的に追い詰められながらも彼女を助けたことにより、私は瀬良 唯葉…ハユという友達を得た。
唯葉が茅場晶彦に紹介してくれて、私は彼の秘密を守るという条件で《SAO》データと唯葉以外の《SAO》プレイヤーの記憶から私とエシュリオを消してもらった。
そして私自身もエシュリオに関係する全てを都合よく忘れたということだ。
《わかりませんねぇ》
パイソンが不機嫌そうに声をかけてくる。
《あなたはただの高校生、《帰還者学校》には通っていません。そうですね?》
「そうだけど?それがなにか?」
《なぜです?ナーヴギアは回収されたのでしょう?それならサバイバーだとバレませんか?》
うん、そこは疑問点だろう。
確かに私は《SAO帰還者》だ。
「…とある人に協力を頼んで、その人に回収担当に渡してもらったんだ。…まさか、あのとき私が被っていたナーヴギアをまた被ることになるなんてね」
パァン、と5体目のボスが消える。
イツキもちょうど5体目を倒し終えた。
これで10体。
《!……あなたのナーヴギアでしたか》
「うん。そうだよ」
「It's mine」……はしゃいだ私の汚い字。
それは一生忘れることはないだろう。
《…お見事です。そろそろ切り札を出すしかないようですね》
「…切り札…これで最後?」
《ええ、最終手段ですよ。》
パチンと指を鳴らすパイソン。
すると、目の前に一人、現れた。身長が高い、金髪の男性。
NPCじゃない。プレイヤーだ。
俯いているが、私はその人を見たことがあった。
「…ケイ……?」
ケイ。やっと啓治だと気付けた、ケイ。
ここで何をしているのか。
《僕とシュピーゲルさんと彼は利害が一致したので手を組んだんです。彼の意識は奪わせてもらいました。今彼は相手を殺すことしかできない木偶の坊ですよ。》
意識を…奪った?
どういうこと?操ってるってこと?それとも、思考力を奪ったってこと?
今のケイは…敵対しかできないの?
《とは言っても、そのままではあまりに弱いので彼に染み付いた反射はそのままですけど。でもご安心ください。ケイと呼ばれても止まることはありませんから。ねえ、ケイ?》
ギンッとケイの目が赤くなって顔が上がった。
無表情。いつもの啓治、いつものケイ…どちらでもない、人形のような表情。
「……利害関係?」
イツキが鋭くパイソンを睨む。
その眼光はさながら獲物を逃さんとする鷹のようだが、それを受けてもパイソンは笑みしか浮かべない。
《はい。彼とは《GGO》内で会ったのですが、どうもリノセさんに恋愛感情を抱いているようでして。その関係で、リノセさんとあなたを引き離したかったそうです。僕だってあなたたちを引き離したかったのでWin-Winでした。シュピーゲルさんもそうです。》
シュピーゲル…
いつも孤高がなんだとか言っていたけど、こんなことにまで手を出すとは思わなかった。
《シュピーゲルさんにはキリトさんたちの足止めを頼んでいましたが、役立たずでしたね。》
え?仮にも利害関係の仲間だよね?なのに冷たっ。
かわいそうな2人。いや、的に同情するのはよくないのかもしれないけど……ああ、でも。
私の親友を傷付けたってことで、いいよね?
目を閉じて深呼吸し、目をカッと開く。
―――本気であいつ許さない。
その前にケイをなんとかしないと。
「リノセ、その目は…」
「目?」
クレハが恐る恐る聞いてくるが、残念ながら私に自分の瞳は見えない。鏡ないし。
まあ、今はいいか。
「…イツキ。ケイは私がなんとかする。イツキはここから出る方法を探して」
「………きみ、浮気はだめだからね」
イツキは少し不機嫌そうだ。
告白とかするとでも思っているのだろうか。私はイツキ一筋なのに。とりあえず機嫌直したいな。
「…勝ったらあとで、ご褒美。」
アイスとか作ってあげようかな。それとも唐揚げ?アップルパイ?
すると、イツキは瞳孔が開いた目でまじまじと私を見つめた。
そして、はははっと笑う。
「言質、取ったよ。」
「はーい。」
私とイツキは同時に行動に移した。
私たちが戦っている間にもクレハたちはパイソンに攻撃を仕掛けているが、何も効いてない。
そりゃそうか。
私がやるしかない。
剣に切り替えたケイと剣を交える。
「…宇宙船装甲板エストック…」
見覚えがある剣だ。前フィールドで見かけたときに死銃デスガンも使ってた。
これは知ってる。クリティカルが出づらい代わりに攻撃力は少し高く、筋力があれば扱いやすい剣だ。
レイピアみたいな感じ。
「……ねえ。きみの夢はどこにいったの」
私はゆっくり語りかける。
あのときの、医者になる覚悟を決めた啓治に戻ってくれるように。
あのときの、仲間を引き連れて《GGO》を楽しんでいたケイに戻ってくれるように。
「夢のために生きていくんじゃなかったの?」
ケイの動きが一瞬鈍くなった。
私は攻撃を入れることなく言葉を紡ぐ。
「そのためにきみは独特な美学を持ってたんじゃないの?ねぇ、くよくよしないで戻ってきてよ!」
《惑わされてはなりません。攻撃しなさい》
ケイの乱れはその言葉で強制的に直された。
チッと舌打ちをする。
…あともうちょっとだったのに。
…でも、啓治だってことはわかった。あとは…!
「いくよ!せーの、最初はグー!」
《え?》
「は?」
「へ?」
クレハたちとパイソンは間抜けた声を出す。
「じゃんけんぽい!」
啓治が長年で染み付いた反射をもとに動いているのなら、これは間違いないはず。
じゃんけんで啓治が反射で出したのは、予想通りグー。
啓治は慌ててじゃんけんするとグーを出すくせがあるのだ。
「あっち向いてホイ!」
そしてこれも、反射だったら必ず上を向くだろう。
結果は当たり、私は戦場に似合わないじゃんけんとああっち向いてホイに勝利することができた。
「ほら。私勝ったから言うこと聞いてよ。戻ってきて………啓治。」
私は、ケイの目がだんだん元のものに戻っていくのを確認する。
やがてケイは力が抜けたようにぺたんと座り込み、気絶してしまった。
そのタイミングで、キリトたちと私たちを隔てていた壁がパリンと砕け散る。
《面白くありません。とてもつまらない。不愉快です》
パイソンはゆっくりと地面に降り立った。
イツキを見ると、微笑んで頷く。どうやらやってくれたらしい。
《イツキさんがどうやって壁を消したか知りませんが、ちょうどいいでしょう。あなたは、僕直々に殺して差し上げます!》
どうやら、このときが来たようだ。
私が念じると、姿がどんどん変わっていき、《リノセ》に戻る。
手にした銃[[rb:AMRFetalBullet > フェイタル・バレット]]を構える。
おもむろにプロスティのハンドガンを構えたパイソン。
私たちの間に緊張感が流れる。
―――『弾丸一発に、極めて強い貫通力が付与される。』
それは、エシュリオとヒースクリフからのプレゼント。
―――運命を、貫け。
そういうメッセージが籠もった、プレゼント。
FetalBullet運命の弾丸にこの貫通力が付与されればそれは…《運命を貫く弾丸》だ。
この弾ならきっと、GMに逆らえないという運命さえも貫いてくれる。
いけ、私の弾丸。
貫け、リノセ―――
バンッ!と聞き慣れた音が聞こえる。
そしてこの場に、ドサッという声が響いた。
倒れたのは、パイソン。
「な、なぜ……」
かすれた声でパイソンは言う。
「私、そう簡単に負けてあげないよ。」
「言ったろう、パイソン。きみに。いつだったかは忘れたけどね。」
イツキは、私に並んでパイソンを見下ろした。
「きみに彼女は超えられない、と。」
パイソンは、涙をぼたぼた流して地面を拳で叩く。
「くそぉ……くそ、くそおおおおっ!」
そしてまもなく、あのドラゴンと同じように、パイソンも霧のように消えた。
……終わった。
戦いが、終わった。
「リノセッ!」
「リノセ!」
「マスターーーーーーーーーッ!」
クレハ、ツェリスカ、レイが駆け寄ってきて一斉に抱きついてくる。
「あ、あんだ……ぐすっ、じんぱい、さぜるんじゃ、だいわよ〜!」
あんた、心配させるんじゃないわよ、かな。あはは、たしかにちょっとヒヤヒヤさせちゃったかも。
「よかった…あなたが無事でよかった……!」
ツェリスカはひたすら頭を撫でくりまわしてくる。恥ずかしい。
「マスター……う、ぐすっ、いなくなっちゃうのかと、思いましたぁ…ぐすっ」
ああ、かわいいレイ。ごめんね、心配させちゃって。
いきなり消えちゃっただろうから、不安になっちゃったかな。
「ありがとう。私は大丈夫だよ。」
私はにっこり微笑んだ。
「まったく…想いがかなった日くらい恋人を慮ってはくれないのかい、きみたち?」
「こじらせすぎたあなたに配慮する気はないわ〜。」
ツェリスカのイツキへのツンツン度が上がった気がする。
気が抜けた私は、あははっと笑い始めた。
「リノセ?」
「いや、安心しちゃって……あははははっ」
「くっ、はははははっ」
「うふふふっ!」
やがて、その笑いはみんなへ伝染していった。
すると、地面がガン!と揺れる。
突如訪れたそれに、私たちはまた身構える羽目になった。
何度びっくりすればいいんだ、今日は。
《……重大違反を確認……GM権限を停止します。まもなく本システムは全機能を緊急停止します。プレイヤーの皆さんはすみやかにログアウトしてください。繰り返します。まもなく本システムは―――》
「……なんだ、びっくりさせないでよ」
そうだ。そうだった。《ザ・シード》にはGM権限を超えるものがある。
VRの秩序を守るための《カーディナルシステム》、そして更にその上の…電子データの《茅場晶彦》。
まあ今回は《茅場晶彦》の力を借りたわけだけど。それは流石に秘密だ。
でも、これでようやく帰れる。
キラキラと光の粒子になっていく体を見ながら、安心感に包まれた。そして、思いつく。
「ねえ、帰ったら生存確認のために集まろうよ。近い人だけでいいからさ」
「いいんじゃない?」
「じゃあ教えるね、私の住所。」
……ふむふむ。キリトとかはちょっと遠いのか。まあ、そこらへんは顔を合わせるのは次の《GGO》でかな。
まあでも取り敢えず、よかった。これでやっと一息つける。
「リノセ」
クレハたちをベリベリ引き剥がしたイツキは私の頬に手を添える。
「僕を受け入れてくれてありがとう。そばにいてくれてありがとう。……好きだよ」
「…うん、私も。こちらこそありがとね。」
イツキは愛おしそうに私を見つめた後、ゆっくり顔を近づけてきた。
察した私は目をつぶる。
遠くでレイが「はっ!」と言っている気配がしたが、気にならない。
だって、私だってしたかった。
―――そして、ゆっくり唇が重なった。
その瞬間、この世界は崩壊した。
茅場晶彦とカーディナルシステムによる修正が入ったのだった。
―――『おめでとう。実に見事な勝利だった。改めておめでとう。勇敢なる者たちよ』
そんな声が響く中、私は真っ白になった視界で思う。
…これでよかったんだよね、エシュリオ。
私、ちゃんと守れたよ。エシュリオのおかげ。
―――お前の努力の結果だよ。よくやった。
そう言ってくれた気がした。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.50 )
- 日時: 2023/08/07 16:15
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
ナーヴギアの色ガラス越しに見慣れた天井がやってきてホッとした。
目覚めなかったらどうしようと思った。
隣にサメくんはまだいた。約束通りまずぎゅっと抱きしめて、ベッドから降りる。
―――世界は夜を迎えていた。
寒くないようにカーディガンを羽織って外に出る。
…今まで、長かったなあ。
クレハに誘われて《GGO》に来て、イツキを見つけて、レイに出会った。
キリトに殺されそうになって、仲間になって、レベル上げをした。
武器をスナイパーライフルに決めて、イツキに教えてもらった。
シュピーゲルに会って、お姫様抱っこされて、雪嗣さんと会って、友達になった。
スコードロン作って、啓治と会って、イツキと大会で勝って、文化祭を楽しんで、リエーブル騒動を駆け抜けて、恋心を自覚した。
死銃デスガン事件が起きて、みんなを守るように戦って―――
始めたときは春だったのに、もう冬になろうとしている。
濃い高校生活だったな、と終わってないのに思う。
だって濃すぎた。
今までの人生に比べればほんの少しでしかないのに、今までで一番大切。
ごめんねエシュリオ。
そして、《SBCフリューゲル》攻略後にリノセの名が広まってからは学校の何人かにリノセだということがバレた。
いや、元々隠してはいないけれど。
そこからいろいろ学校での騒動をおさめたりして大変だったけど、いい思い出だ。
私、頑張って生きてるよ、お兄ちゃん。
私、頑張って守ったよ、剛さん。
私…胸張って生きてるよ、お母さん。
私…誇り持って生きてるよ、お父さん。
きっと、これでいい。
自分の信じた道を進んでいい。
そうでしょ、エシュリオ。…ヒースクリフ。
「凛世」
まず到着したのは…雪嗣さん。
雪嗣さんは私のところまで駆け寄ってくるなり抱きしめてきた。
「わっ」
「はあ……よかった。早くきみと会いたかった。」
包み込んでくれる温かい雪嗣さんにすり寄る。
…安心する。
「凛世、好きだよ」
「ちょ、雪嗣さん。ここ、外!恥ずかしい…」
「まだ《凛世》には言ってないと思って。ほら、凛世も。」
ね?ととろけるような瞳で見つめられたら断れない。
「……一回だけだからね。」
私は、背伸びをして30センチ背が高い雪嗣さんの耳に唇を寄せる。
恥ずかしい言葉だから、万が一他の人がいても聞かれないように。
「……好き」
そして、無事蒸し上がった。
この二文字、相手が雪嗣さんだとハードル高すぎる…。
寒い11月の夜のはずなのに、熱いよ。
背伸びをやめて改めて胸に顔を埋める私に、雪嗣さんは上から色気たっぷりの声で言ってくる。
「顔上げて」
ちゅっ。
パチパチ、と目を瞬く。
今、雪嗣さんと目が合ってる。すごいドアップ。あ、肌綺麗。触ったらすべすべだろうな。
じゃなくて!
唇に未だ触れている熱は一向に離れようとしない。
角度を変えながら味わうようにキスしてくる雪嗣さんは、照れながら必死についていく私を愛おしそうに見てきていた。
いや……いやいや待って。いきなりだって。心の準備できてないって。
体が溶けそうになって力が抜ける。
「おっと」
それに気付いた雪嗣さんは完璧なタイミングで私を抱き上げた。
「軽いね?」
「…うー……」
近所のおばさんに明日の朝まくし立てられる未来が予知できるよ。
肩に顔を預けてぽつりと呟いた。
「…ばか」
その答えは予想外のものだった。
「………あんまり煽らないでくれるかな。僕は我慢強い人間じゃあないんだが」
「え?」
「襲うよ?」
「…………。」
キャパシティがオーバーした私を見て、雪嗣さんがくすくすと笑った。
「凛世っ」
次に到着したのは紅葉だった。
遠いところなのに急いで来てくれたみたいだ。
「紅葉。……久しぶり。」
「……ええ、そうね。久しぶり、凛世。」
雪嗣さんの腕から降りて紅葉と抱きしめ合う。
…お互い、守れてよかった。
「…紅葉、身長高くない?」
「ふふん!161センチよ!」
えっ。私より6センチも高い、だと⁉
嘘でしょ…。なんでみんな大きいの…⁉
雪嗣さんなんか181センチだし。
「…綺麗になったわね。」
「そっちこそ。かわいくなったね。」
微笑み合い、私たちはもう一度抱きしめ合った。
「あら、ここだったみたいね〜。」
そして、聞き慣れたお姉さんの声。
そこには、キャリアウーマンのツェリスカがいた。
「どうも〜。星山 翠子よ。よろしくね。」
「どうも。高峰 紅葉です。」
「あ、神名 凛世だよ。」
「そういえば、イツキさんのお名前は?」
紅葉が雪嗣さんに目を向ける。
目を合わせないところとかは、イケメンすぎて見れない感じかな。
「僕は狭井 雪嗣。」
「狭井?それって、神社の?」
「よく知ってるね、そう。僕はそこの神主さ」
違う職業もやってるけどね!と心の中で言っておく。
これはあまり知られたくないだろうしね。
「それにしても、現実リアルでもこんなにかわいらしい子だったのね〜、お二人さん。」
「え、えへへ…どうする凛世、かわいいだって」
「お目が高いよ、翠子さん。紅葉はほんとかわいい」
「あら〜。うふふ、羨ましいわ〜。」
紅葉が照れながら私をバシッと叩いた。
そして、車の音が聞こえてくる。
「リノセ!」
お高そうな車に乗って来たのは、一目でわかった。アスナだ。
その車にはレクトのロゴがある。
「ああ……確か、レクトのトップ一族の名字は結城で…令嬢さんが結城明日奈、だったかな。今まで忘れていたけれど」
雪嗣さんが私の隣でつぶやく。
そっか、裏のほうのお仕事だね。レクトとも付き合いがあったんだ、すごい。
「よかった、全員無事みたいね。」
車を降りたアスナがニコッと笑った。
その手にはグループビデオ通話状態のスマホがあり、キリトやリズベットたちが見ているのが見える。
みんなは画面越し、かな。
『あ、もしかしてイツキとツェリスカとクレハとリノセ⁉みんなビジュよすぎない⁉』
リズベットが画面にずいっと近付いて、リズベットの画面全体がピンクの瞳に埋まる。
「そーでしょ⁉雪嗣さんかっこいいでしょ⁉クレハとかちょーかわいいでしょ!」
いやー、みんなわかってるなあ。
特に雪嗣さんとか今でも見惚れちゃうときあるもん、私。
『ゆきつぐさん?』
「僕のことさ。僕と凛世は現実リアルでも付き合いがあるんだよ。」
『イツキよお。お前ぇ、大変だな。頑張れよ。そいつ自覚ねぇみたいだしな』
クラインがうんうんと頷いて自分で納得しているのを半眼で見やる。
「何言ってるの?」
「凛世はわかんなくていいんだよ。」
そう言って雪嗣さんは私をぎゅっと後ろから抱きしめた。
「ひゃっ、ちょっ、みんな見てるって…!」
「ずっと外にいるから肌が冷えているよ。」
あたためてるってか。あったかいし嬉しいけど!あったまる前に死んじゃうよ!
まったく。
でも……
「ふふっ」
「凛世?」
「いや、よかったなって。丸く収まってよかった。」
「………」
「これからもみんなで楽しもうね!」
「ああ。」
「ええ。」
「そうね。」
『おう!』
『ええ!』
『はい!』
みんなで笑った。
私を包むたくましい腕に身を任せながら、私は大きな達成感と安心感に包まれていた。
―――そのとき。
「…凛世?そこにいるのか?」
そんな男の声がした。
私たちは固まる。
だって、そう。何年も聞いてなかった声だから、みんな知らない声。
「う、嘘でしょ……」
私は雪嗣さんの腕から抜け出してみんなの前に出る。
少し痩せた、大きな体。優しい微笑み。あの日私を守った、大きな腕。
なんでここにいるの。なんで目を開けているの。もう大丈夫、なの?
「お兄ちゃんっ……」
「え?」
「凛世、兄がいたのかい?」
「うん。でも、何年も前に…事故で……昏睡して…………」
涙が出る。生きてる。動いてる。しゃべってる。
…お兄ちゃんが、起きたんだ。
お兄ちゃんは、私の目の前に立つと、そっと私の涙を拭った。
「無事でよかった。大きくなったな、凛世。」
「お兄ちゃん……」
「ただいま。」
「っ、おかえり……!もう、いつまで寝てるの……!」
ぎゅっと抱きついた。
優しく頭を撫でてくれるお兄ちゃん。
久しぶりのこの感覚。
このときを…このときを、ずっと待ってた。
「で?そこのイケメンさんは誰だ、凛世?」
お兄ちゃんが聞いてくる。
私は離れて涙をもう一度拭くと、紹介した。
「私のこ、恋人の、…雪嗣さん、です」
「は?」
「どうも。凛世の恋人の狭井 雪嗣だ。よろしく。」
一瞬お兄ちゃんは雪嗣さんを睨んだ気がしたが、すっと睨むのをやめて笑った。
「…凛世はお前にだいぶ助かったんだろうからな。………凛世を、よろしく頼むぞ。」
「!………はい。」
ああ、そうだ。お兄ちゃん、体は事故のときからあまり変わってないけど、雪嗣さんは24歳だから生きてる年数で言えばお兄ちゃんが年上なんだ。
なんか、新鮮。
『結婚挨拶見学しちゃったんだけど、よろしい?』
うっ。
リズベットのからかうような声が聞こえて真っ赤になる。
『おいリズ。それはちょっとマズイ……』
続いてキリトの声。
うーん…結婚挨拶じゃないとは言いたくない。そしてそれをみんな悟ってるから恥ずかしくて困る。
「いいだろう。証人多数ってことで。」
雪嗣さんは気にしていないようだ。というか、それさえ計算に入れている気がする。恐ろしい。
「じゃあ、あたしそろそろ帰らなきゃ。何も言わずに飛び出してきちゃって。今度でしっかり会いましょう。あと、メールも電話もしていいから。…今日はありがとね、凛世。」
紅葉がぎゅっと手を握って言ってくる。
私も無言で頷いた。
……紅葉が生きていて、よかった。
「そうね。《GGO》でまた集合しましょう。いろいろ話したいこともあるでしょうし。」
アスナはそう言って微笑んだ。
「じゃあ、またね。」
「ええ、また。」
みんなが去っていく。ちょっと寂しいけど、また会える。明日でも、明後日でも。
もう大丈夫なんだ。
それに、お兄ちゃんも帰って来た。
「っていうか、お兄ちゃん大丈夫なの?」
「ああ。これからは普通に生活できるだろうってさ。」
「軽っ。」
医者が連絡を寄越すのをわざわざ止めて歩いて来たらしい。
サプライズしたかったとかなんとか。
「…終わったね。」
「ああ、そうだね。」
「…泊まってく?」
「…………さっき我慢強い人間じゃないって、僕言わなかったっけ?」
「お前、まだ手出すのはだめだからな」
「訂正、もう一人いるから大丈夫そうだ」
私は耐えきれずくすっと笑った。
案外合いそう。
「帰ろっか。」
「ああ。」
そうして、私たちも家に入っていった。
「―――マスター、そっちに行きました!」
「了解。イツキ、シノン。準備はいい?」
「ええ。」
「もちろんだ。」
3人で銃を構える。
あと10メートル。3…2…1…
ドンッ!
「うわっ!」
「あそこだ!」
悪質PK集団の数人を撃ち抜くと、そいつらは私たちを狙い始めた。
私たちは高台から手を振りながら降りる。降りがてらクレハがアスナとヘイトを取っているのを見ていた。
…よかった。
そして私はイツキと走り、キリトと合流する。
「よう、おつかれさん。」
「まだ終わってないけどね?」
「はは、そうだな。」
剣に持ち替える。
……あの後《GGO》にログインすると、私の剣のスキル一覧には《霧剣斬・虚無葬送》があった。
もう、ユイちゃんにバレちゃうよ?とか思っても嬉しいから怒れない。
《パパ、イツキさん、リノセさん!もうすぐ転送します!準備してください!》
「りょーかい、ありがと、ユイちゃん」
2人と笑みを交わして位置につく。
《転送します!》
ヒュンッという音とともに、視界が変わる。
突然入れ替わった私たちに狼狽えたPK集団。
「迎え撃て!」
「行くぜ―――ふたりとも!」
「うん!」
「ああ!」
《GGO》の曇った空。
でも今日は、少し晴れていた。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.51 )
- 日時: 2023/08/07 16:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
再臨のプロローグ
「―――え?アップデート?」
「なになに?……新フィールドを開放する⁉」
「まったく、私が休まるときは来ないのかな?」
「癒やしてあげようか、リノセ?」
「イツキ、近い近い近い」
白い雪。晴れた空。
珍しい景色に、彼女らは目を見開く。
「―――え、嘘………なんでいるの…?」
「ごめんな、リナ。それと―――」
さあ、新しい舞台へ。
《二章 雪原の歌姫》
「もっと強くなってシノンさんの様に対物ライフルが撃てる様になりたいな………」
「過去に向き合う為にあんたに近づいただけだ、嫌なら追い出せばいい。リーダーはお前だろ」
彼女は、進み続ける。
「今でも思う、あの時、素直にアインクラッドでくたばっていれば良かったな…って」
「アッハハハハハッ!!愚民共、無様にお逃げなさい!!」
「口を挟むな……これがウチのやり方や」
「大人って汚いもんだぜ…自分達の都合の悪い物はさっさと追い出して、あたかも無かった事にする」
「僕は…えっと…その…居ても邪魔だと…思います…」
彼女は、勝ち続ける。
「―――《A.L.I.C.E》は必ず手に入れる。そして、リノセ。お前も必ず。」
「…やれるものならやってみなよ」
「―――《ザ・シード》の干渉が増えている?」
新たな波乱の幕開けは、近い。