二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.82 )
- 日時: 2025/02/28 11:14
- 名前: 水城イナ (ID: p1dlopMr)
お久しぶりです。
pixivに同じものを挙げています。おまけとかもあったりするので是非見てみてください。
ではどうぞ
「……なるほど」
私はイツキから逃げるために訪れたそこで唯葉からのメッセージを確認しお礼の返信をした。
ネフィラは相変わらず掴めない人だ。唯葉が話した情報を信じたのかどうか、これが鍵を握るのに性格面からの予想ができない。
まあそこは策があるから何とかなるとして、次は。
「久しぶり。元気そうだね」
《SBCグロッケン》の最下層。
どこからも道は繋がっておらず、ほとんど人が訪れないような酷い味のカフェの道中を飛び降りると行くことが出来る場所。
その先にあるどこからも見えないところで、その人は待っていた。
そもそもイツキから逃げたのは全部買いを阻止する以外の目的もあってのことだ。万が一にでもこれを見られたらちょっと困る。
それに元々ここには来るつもりだった。本当はレイの分の衣装を見繕ってからの予定だったけど、それが少し早くなっただけ。
「早かったね」
「そっちこそ」
そう返すと、彼は舐め回すように私の全身を見始めた。
別にいつもと何ら変わってないのだけど、何のつもりだろうか。
「《リノセ》……《神名 凛世》、ああいや、仮想現実で現実の話をするのはタブーだったかな。気に触ったならすまないね」
ちっともすまないと思っていなさそうな顔で言い放った彼は、そのまま私のもとに歩み出て、間合いに入る直前で足を止めた。
私は、そんな彼を無表情で見つめながら問いかける。
「で?わざわざ私にメッセージを寄越してまで呼び出した理由は何?―――サトライザー。」
サトライザー。
そう、私の目の前にいるのはあの、リエーブルのマスターの、サトライザーだ。
軍人で、なんか魂が甘そうだとか意味わからないことを言ってきた人、《B.o.B》で超絶舐めプの末に優勝した、サトライザー。
わざわざ「サトライザー」という差出人で私にメッセージを寄越し、ここに呼び出した彼は、いったい何が目的なのか。
大学受験にネフィラやエミリアたちとのあれこれ、反《デファイ・フェイト》勢力たちとの戦い、《B.o.B》だってまだ残っているのに更に追い打ちをかけてくるなんて。
まあ、私が忙しすぎるタイミングをわざと狙ってきたんだろうけど、迷惑すぎる。
「なに、きみに伝えたいことがあってね。『宣戦布告』を受けたんだろう?私も真似をしようと思ったまでだ」
「…………」
『宣戦布告』について漏れているのは別に不思議じゃない。もう既にケイやサザカ、スコードロンメンバーには話したことだ。
問題はそこじゃない。
サトライザーは真似をしてまで、私に何を。
「僕の目的を、知りたいだろう?」
「……何のつもり?」
「この前、きみのもとにジャーナリストが1人、来たはずだが」
ジャーナリスト。
ゆきとデートに行こうとしたときに邪魔してきた記者のことだろう。
やけに怯えていて、私から情報を抜き出すことに命を懸けてますと言わんばかりだった。
「ああ―――あれ、やっぱりサトライザーの仕業だったんだね」
「そうとも」
「脅すことにはそもそも反対だけど、情報収集のために彼を脅すにしても脅し方を考えないと、目的が丸わかりになるくらいに怯えてたよ」
「ああそうだな、だが彼のお陰できみが恋人を持っていることを知った」
「!」
サトライザーは恍惚とした表情で更に私に歩みよる。
もうここは素手で戦う間合いだ。
だけどそれで敵うはずがない。ステータスで勝っていてもプレイヤースキルでは絶対に勝てないのだ。
「きみがどうやってやったのかはわからないが、情報を隠す手腕は見事なものだった」
「……そりゃどーも」
「きみにもっと興味が湧いたよ。きみの魂はきっと、甘いだけではなくて、酸味と苦味が絶妙に混ざった正に絶品の味がするのだろうな」
……気持ち悪。
ああ、だけどそれにしても、サトライザーがそれを話してくれてよかった。
そもそも私は本気でゆきの情報を隠そうとしたわけじゃない。
ある程度隠して、わざと「見つける口」を残しただけだ。
本当に隠したいのなら、別れた噂を流した上でゆきに状況を話してしばらく会わないというところまでやった。
それをやらなかったのは一重に、サトライザーの情報収集能力を測りたかったから。
あの程度の情報が収集できなかったのは単なる偶然か、それとも能力がそれまでなのか。
どっちにしろ、あのとき初めて知ったのなら、それはそういうことだ。サトライザーは私が隠した情報を見抜けなかった。
そして私の情報を抜きに来る、といえばもう1人思い当たる人物がいる。
「でも2人目は人材としてはいい人を選んだと思う。」
そう言うと、サトライザーは鼻で笑ってからにやりと口元を歪めた。
そう、ネフィラ。
彼女の本当の狙いはレイだろうけど、私自身を調べることも依頼されていたはず。
私を調べることは、レイ奪取にもなにか役立つかもしれないし。
「だろう?だが彼女も阻止されてしまったようだね。きみは本当に優秀だ」
「………」
褒められても、まったく嬉しくない。
まったく。
私は、はああああと大きなため息をついて話題をそらす。
「それにしても日本語上手いね。練習したの?」
「そうか?数年前に練習したかいがあった」
へえ、数年前。
じゃあだいぶ前からこんな流暢なんだ。
ますます気味が悪い…というか、今の状態だとなんでも気味が悪いけど。
そう思っていたとき、サトライザーは恍惚とした表情で急に言い放った。
「―――僕は必ず、きみを手に入れる」
「!」
ぞわり。
背中を嫌な予感が走り抜けた。
最初の大会でアスナに狙われたとき、シュピーゲルの視線を感じたとき、それ以上の異常な寒気。
絶対、こいつに捕まっちゃダメだ。
ただそれはここでじゃない。
《GGO》で捕まったって私の魂を味わえるわけが無いのは、おそらく彼が1番知っている。
ということは、彼はいずれ―――
『リノセさんですよね?』
住所はもう割れていると言っていい。
……これは、思ったより悪い状況のようだ。
「最近、日本の軍隊が何か企んでいるらしいな」
「……?」
急に、サトライザーは語り始めた。
日本の軍隊?自衛隊のこと?何か企んでるって?
「我が国に状況を提供せずに秘密裏に、とある強力な兵器を開発しようとしているようだ」
「……秘密裏」
いや、じゃあなんでアメリカの軍人のサトライザーが知ってんの。
って、そうじゃなくて。アメリカと日本の軍や自衛隊は協力関係、というか安保条約で日本が守ってもらう立場になる。
それならば、本来は日本の自衛隊はアメリカの軍に隠し事をするべきでは無い?
だとしても、何故私にそれを言うの?
まさか―――私が、自衛隊にも伝手があるのも知っている?
「僕が命じられたのは、そこで開発されるであろう真正AI―――《A.L.I.C.E》」
「!」
『だがまあ、《不思議の国》へのデータはほぼ整った。《A.L.I.C.E》…ようやく会える。』
《A.L.I.C.E》……アリス。
リエーブルを修理用カプセルに入れたあと会ったとき、サトライザーは確かに言っていた。
あのときから既に知っていた?でも言い方から察するにまだ行動は起こしていないはず……。
「……何が言いたいの?」
「楽しいゲームにご招待するんだ」
「…」
「《アンダーワールド》にはきみが選ばれる。勘だがきっとそうだ。絶対に」
さっきのように、サトライザーがうっそりと笑った。
ずっと無感情だった彼に感情を出して欲しいなとは思っていたけど、こんな形で見せられても嬉しくない。
「作戦開始は来年の春か梅雨だ。そのときにきみを手に入れよう。僕のすべてを賭けて」
ああ、このセリフまじでイツキに言われたかった。
サトライザーに言われたって何もときめかない。寒気する。本当にやめて欲しい。
だから。
「……やれるものならやってみなよ」
私は全力で歯向かってやる。
逃げはしない。真っ向から反抗して叩きのめした方が効果的だ。
「……楽しみだ」
サトライザーは私から1歩離れ、2歩離れ、やがて踵を返す。
「…………」
私は、ずっとその背中を見つめていた。
****
「…………」
とりあえず私は展望台にファストトラベルした。
ちょっと最近いろいろなことが交差しすぎてぐちゃぐちゃだから、頭を整理しないと。
まず、サトライザーからゲームのお誘いを受けた。なんか挑発しちゃった気がするけど、サトライザーは言っても聞かないタイプだろうから言おうが言わまいが変わらなかっただろう。
来年の春か初夏になると言っていたけど、住所知られているしなんか魂食べてきそうだし普通に怖い。
次に、反《デファイ・フェイト》勢力からの宣戦布告。
決戦の日が着々と近付いてきている。
まあもう既に協力申請は済んだわけだし、あとはみんなと遊んでいれば勝手にみんなで上手くなって、結果的に解決しそうな問題ではある。
ただ相手が相手であるだけに、油断は禁物だ。
あと、ネフィラの件。
唯葉に話をしてもらったけど、正直このあとどう動いてくるかは見当がつかない。
唯葉は彼女に、「凛世の兄を騙した《マギナ》への復讐とデジタルドラッグの廃絶」を目的にしていると言ってくれた。
それをネフィラが信じたなら、もうすぐ、もう一度接触してくる頃合だ。
そうだな、「《マギナ》の件で、彼女を捕まえてくれてありがとう」とかで。
それから私がデジタルドラッグを根絶やしにする手伝いをして恩を売るくらいかな。
彼女にとって、デジタルドラッグの廃絶はあまり痛手にならない。
ネフィラの収入の大部分は別の取引だ。たぶん、それよりは私を助けることで得られる利益の方が大きいはず。
資金援助についてはサトライザーも関与を認めていたし、ネフィラが資金面で心配する必要がないのは頭が痛い話だ。
そして《B.o.B》。
そこではアファシスのレイは同伴できないわけだし、私も自己回復の手段を持たないと。
そもそもその大会の前には共通テストが…あー明日模試だー……めんどくさい……。
あと、エミリアとタイガー。
エミリアはなんかまた来る的なことを言ってたし、タイガーとイツキとこのあと探索に行くけど、次はツェリスカを連れて行かないと。
それにあの2人、地味になにか引っかかるんだよね…。
私に対して何かを思っているというか、私に誰かを重ねているというか。
……首、突っ込むのよくないかな。
「……まあ、それは今言ってても仕方がないか」
私はうーんと伸びをして、《SBCグロッケン》を見下ろす。
《GGO》。私が愛する世界。
ここで私がやりたいことは、まだまだ山積みだ。
『俺が、《GGO》にコンバートするため』
……そうだ、エシュリオが《GGO》に来る理由も探さないと。
まったく、なんでこんな忙しいかな。
でも不思議と嫌な気はしないのだ。
それはきっと私がやりたいと思っているから。
私が本当に望んでいるから。
今、生きてこの世界に立っていられること。
それがこんなにも嬉しい。
「よし、頑張るぞー!」
私はそう意気込んで展望台を出る。
レイはもう衣装決めたかな。私も買わないと…。
いや、イツキがまだいるかもしれないし、今のうちにグロッケン探検でも進めてみようかなあ。
そんなことを思いながら、私は足を進めるのだった。
次へ続く
そのうち一気に5話分更新とかしようかな……。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.83 )
- 日時: 2025/03/12 20:09
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
No.83《ファントムの真髄》
ピコン、とメッセージの受信を告げる音がした。
確認してみると、イツキからだ。
『一緒に攻略に行くんだろう?いつ集合にする?』
……そうだった。
すっかり忘れてた。だってサトライザーのインパクトが強すぎて。
『もう出れるよ。今どこ?』
『きみのアファシスのところ。彼女、きみにもらったお小遣いでウキウキと自分の衣装を買っていたよ』
『喜んでた?それはよかった。今行くね』
イツキから服の話は出なかった。今回は勘弁してくれるらしい。
現実もこの調子で自重して欲しいものだが、そうはいかないだろう。
ともかく。
用事も終わったことだし、みんなの元に戻るとしますか。
私はそう思って走り出した。
****
「おまたせー」
みんなのところに戻るついでに消耗品を買ってから向かうと、そこにはもうみんな揃っていた。
ツェリスカがいたらもう誘っちゃおうと思ったけど、今は残念ながらログインしていないようだ。
「マスター!私、衣装を買いました!」
「いいやつあったみたいでよかった。クリスマス楽しみだなあ」
「はい!」
レイはとても嬉しそうだ。
こんなに喜ぶなら、いつも衣装を……よくないよくない。
衣装は自重して、お高めのチーズタルトあたりにしておこう。あと、アールグレイティーの茶葉でも。
「タイガーとイツキはさっきぶり。」
「おう!」
「リノセはどこに行っていたんだい?」
うっ。やっぱり聞いてきた……。
それは聞かれると思ってた。
いつもイツキには隠し事は出来ないんだけど、今日は隠し通したい。
サトライザーの意図はまだわからない。自衛隊が絡んでるっぽいし、共通テスト明けには菊岡さんに確認しておかなきゃいけない。
菊岡さんに確認する前には話してもいいかもしれないけど、まだそのときじゃない。
そう、ぐるぐると思った結果。
「ヤボヨウダヨ?」
「突然のカタコト」
緊張が表に出たのか、カタコトの6文字とともにタイガーに突っ込まれる羽目になってしまった。
うう、イツキ相手だと上手くいかない。隠し事なんて無理だ…。
「あとで、話、聞こうか」
にっこりとイツキが笑った。
いやにっこりなんかじゃない。目が笑ってない。これは逃げられないなあ……。
「……はい」
ということで、私は無事思っていたことを実行できずにバレることになったのであった。
****
《ホワイトグラウンド》についてから、私たちはくまなくそこを探索し尽くした。
そう、し尽くした。
アファシスレプリカから得られる情報はあらかた抜き取ったつもりだ。
公式から発表されている情報も見た。
手は尽くしたのだ。
そうして出した結論。
残るダンジョンは、あと2つ。
「やっぱり、そうだよね……」
「マスター?どうかしたんですか?」
レイが首を傾げて言った。
「いや……やっぱり《ホワイトグラウンド》は《砂に覆われた孤島》とか《オールドサウス》に似てるなって」
「そうだね」
イツキが我が意を得たり、というふうに頷いた。
同じことを考えていたようだ。
「このフィールドはもう探し尽くしたけど、《忘却の森》とか《ホワイトフロンティア》みたいなストーリー性がない。レプリカがいるから判断に時間がかかったけど、《ホワイトグラウンド》の設定上矛盾してないだけで、フィールドの特徴だと言っちゃえばそれで終わりなんだよね」
予想するに、あと2つのダンジョンのうちの片方は次のフィールドへのエリアボスダンジョンで、もう片方は次のフィールドへの伏線があるダンジョンだろう。
だからここは次のフィールドのためのレベリングエリア。
そういう意味で、《砂に覆われた孤島》や《オールドサウス》に似ているのだ。
「えっと……じゃあ、ここは通り過ぎてもいいってことですか?」
「そゆこと」
レイに頷き返し、計画を立てる。
このまま一足先にどっちも行っちゃいたいところだけど、流石にクレハやキリトたちに何も言わずに進めるのは憚られる。
それにやることを増やすだけだ。
ただでさえ今いっぱいいっぱいなのに、更にやることが増えるのは勘弁だ。キリのいい今で止めておきたい。
とはいえ、伏線は気になるところだ。
「よし、エリアボスがいないほうにしよう。それでいい?」
「了解」
「はい!」
イツキとレイが頷いてくれた。
そんな中、何も言わない人が1人。
「…………」
「タイガー?どうかした?」
「ん?いや?なんでも?」
いや嘘つけ。
そんなわけない。私の方見て考え込んでたくせに。
何かあったのかな。いや……なにか思ったのかな?
それとも、何か知っているのかな。
首を突っ込んじゃダメかな。だめだよね……。せめてもうちょっと仲良くなってからじゃないと。
それに彼は何か……。
うーん……?なんだろう?なんか感じるんだよなあ。
キリトとアスナに狙われたときのチリチリした感じとも違う、エミリアやパイソンからの殺気とも違う……同情?とも違う……。
「……ま、今わかることでもない、か」
私は小さく呟くと、よし、と気合を入れて伸びをした。
「じゃあ行こうか、ダンジョン!」
****
「……ふう」
やっと最後の敵を倒しきった私たちは、それぞれ疲労の色を滲ませながらため息をついた。
これでボス討伐完了、と。随分とやりがいのあるダンジョンだった。
「プレイヤースキルで補えるとはいえ、だいぶエネミーの数もレベルも増えてきたな」
タイガーの言葉に頷くが、そういうタイガーはそんなに疲れていなさそうだ。
彼のエイムはとても正確だった。銃の扱いも相手の間合いも全て把握した上で的確に撃ってみせる。
まるでそう、プロだ。
「……」
やっぱり、何か…。
まあいいか。
「にしても、エネミーが異常な強さな気がします……」
レイが肩を落としながらボヤいた。
たしかにそんな気がする。他のダンジョンだって、楽々とはいかないまでもスムーズに進めたのに、80レベルくらい上の敵に仕掛けている気分だ。
「次のフィールドへの伏線が本当なら、何かすごい謎が得られるのかもね」
ワクワクしながらそう言うと、イツキが頷いた。
「さあ、奥に別の部屋があるみたいだ。見てみようか」
謎っていうのはやっぱりワクワクする。
《GGO》はストーリー性が低いゲームではあるけど、それでも設定はしっかりしているから謎解きのしがいがあるし。
さて、どんな秘密が埋まっているのやら。
そう思って扉の前に立つと。
『認証……《ファントム》を確認、キーロック解除……完了。続いてシステム起動……アップデート準備開始。……50%……』
「え?」
カチッ、という音がしたと思うと、扉が開いた。
……待って、《ファントム》って言った?
それって確か……。
『私が初めてゲットしたからって名前を付けたフィリルだけど、《GGO》でもちょっとしかない《ファントム》だったんだね』
『頑張って隠しダンジョンを何十回も周回したかいがあったよね。』
《ファントム》―――
よくゲームではネームドモンスターが強敵だったりするが、これは、人間側の《SBCグロッケン》とアンドロイド側の《SBCフリューゲル》が戦争する前に喪われた、幻の武器とされている。
喪われたから『名前』がつけられていない、だから《ファントム》……。
『にしても、ファントム…亡霊、か。言い得て妙だね。失われたはずの幻の武器が、なぜ世界に残っていたのか…。』
『そこらへんはまだ何も明かされてないよね。うーん…リエーブルに聞いてみたらわかったりしないかな』
《気象エネルギー研究所跡》を攻略するときくらいにイツキとそう話した記憶がある。
結局「幽霊」には全く関係してなかったけど、ここで出てくるとは。
私の剣、フィリルは対戦で失われたロストテクノロジー。
まさか、次のフィールドでは《ファントム》が関わってくるのかな?
「何なんだろうな?」
「とりあえず入ってみようか。」
タイガーとイツキに促され、みんなで部屋に入ったタイミングで、またどこからか声が聞こえた。
『80%……100%。アップデート準備完了、オールグリーン。続いて技術認証……完了。正式技術を確認、型番0000-23。技術記録の表示、転送を開始します』
とりあえず何を言っているかはわからないけど、型番というのはフィリルの型番だろうか。ロストテクノロジーってだけで、喪われる前は量産されていたわけだし。
そんなことを考えていると、いろいろな機械が並んでいるその部屋の奥にあったコンソールに、何かが表示される。
「!これって―――」
「これ、マスターの剣ですね……」
みんなで覗き込むと、そこには私の剣が映っていた。それと、誰かの顔も。
えっと、なになに……『開発者』?
もしかしてこれ、開発記録?
そういえば『技術記録』ってさっき言っていたような……。
「おい、ここ」
タイガーがとある場所を指さした。
「『真髄解放』について……?」
そこには、次のようなことが書いてあった。
『武器種ごとに設定された条件を満たした場合、その武器の真髄を発揮することが出来る。その真髄もまた武器種によって異なるが、一般武器の何倍もの効果を誇る。
ただ真髄はあまりにも強大故に武器の損壊を早める可能性があるため、使用条件を設定した。』
「真髄……力が強すぎて条件下での使用に絞らないと壊れやすくなる……なるほどね」
イツキが考え込みながら呟く。
真髄……真髄……それってどこかで……。
『―――刮目せよ。貴様のアファシスが与えたこの武器の真髄をとくと見よ。』
「っ、そういうことか……!!」
「えっ、何か分かったんですか?」
「たぶんね。まだ確実じゃないけど」
でもたぶんわかった。
ずっと気になっていたんだ。
リエーブル戦のベヒーモス、それからヤエとのクエストでのイザナギ。
そのときに発動した《UFG》の『真髄』、それはこのことだったのだ、きっと。
つまり、この《GGO》に1つしか存在しない光学武器、《UFG》。
きっとこれも、《ファントム》……!!
「くぅー!こんな要素あるのかよ!ますます欲しいな、《ファントム》!」
「そうだね、絶対に手に入れないと!」
タイガーとイツキが意気込んだ。
私も負けていられな……その前にやることがいっぱいあるんだった。そっちが先かな。
「さあ、攻略も終わったことだし、もうちょっと資料と部屋の中を探ってから帰ろっか。」
「はい!」
そう言って伸びをする。
これでようやく1つ目、解決だ。
解決どころか謎が増えたような気がしなくもないけど、入れてないみたいだし、ここでちょっと止めても問題ないだろう。
そうして、私たちは帰っていったのだった。
が。
どうしてこうなった。
「あ、あのー……イツキさーん?」
「ん?どうしたんだい?」
「どうしたんだい?じゃなくて。いったい何を……」
《GGO》での拠点、《SBCグロッケン》。
そこにある《ホーム》、ここはその中のイツキの部屋。
攻略から帰ったあと、「さあリノセ、話を聞くよ」と目が笑っていない笑顔の圧力でぐいぐいと引っ張られてきた私は、イツキのホームに入るなり、いきなり壁ドンをされたのである。
いや違うな。絶賛壁ドンされ中である。
本当に、まじで、やめて欲しい。
嫌じゃない。ボロが出ちゃうから。
照れて、照れすぎて口からいらないことまではみ出してしまうから、だめなのだ。
「……かわいい。もう照れてるんだね」
すり、とイツキの手が私の熱い頬を撫でる。
う、と私の口から焦ったような声がこぼれると、イツキはよりいっそう愛おしそうに微笑んで私の顎を捕まえた。
「それで?聞かせてもらおうか」
「……っ」
「きみはいったい、何をしようとしているのかな?」
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.84 )
- 日時: 2025/03/19 08:27
- 名前: 水城イナ (ID: IkQo2inh)
No.84 《約束》
「それで?聞かせてもらおうか」
「……っ」
「きみはいったい、何をしようとしているのかな?」
イツキに顎を掴まれて。行く手は腕に阻まれて。
目を逸らそうとしても、イツキの顔あたりを目がうろついて、結局彼の赤い瞳に戻ってしまう。
「ただあの衣装を買うところに僕がいない方がいいだけならいい。だけどきみは、僕が聞いたときにそう言わなかった。衣装を買うから着いてこないで、そう言えばよかったのに」
イツキは私の中全てを見透かそうとするみたいに言った。
本当に見透かされそうだ。しかも私はこんなタイミングで照れている。
もはや照れて焦るのを狙われているとしか思えない。
「つまりきみには、衣装以外に主とした目的があったんだろう?それもアファシスまで離してから行くような」
……たしかに、あの状況を利用した節はある。イツキが来そう、ヤエたちもいる、その状況であればレイが私を探しにきてしまうのは避けられるからだ。
あの会話は、私だけの秘密がよかった。
隠し通すことは出来ないだろうとは思っていたけど―――まさか、ここまで早いなんて。
そんなに表に出てたかなあ……。
「…私は……」
「うん」
「その、サトライザーから呼び出されて」
「サトライザー?《B.o.B》で優勝した?」
「うん。それでちょっと、お話を」
お話、か。と、イツキは私を見下ろしながら呟いた。
イツキは彼のことをどれくらい知っているのだろう。
彼の性格とかやったことを知らないのなら、 次参加するらしいからちょっと牽制された、とでも言っておけばいいんだけど。
もし彼のことを知っているなら、もう隠せない……。
そう思っていると。
「……まだ何か、隠しているのかい?」
「!」
私の何かを感じ取ったらしいイツキが、目を眇めた。
図星すぎて何も言えない私に対し、イツキは次の手段に出る。
「!?」
ちゅ、と耳に唇が落ちる。
わざと音を出して口付けられ、体が大きくはねた。
え、嘘でしょ、今それする……!?
「イ、イツキ、何して」
「何って、キスだよ」
私が戸惑っている間にも、額、鼻頭、頬、首筋、肩、鎖骨……と、どんどん体中にイツキの唇が触れる。
「……っまっ、て」
「ほら、言わないと」
こ、れは……っ!
お腹の奥がむずむずして、焦れったくて、思わず目を閉じる。
ぎゅっと握り込んだ両手を取られ、纏めて頭上に縫い止められた。
「イツキ、この姿勢、恥ずかし……!」
「だめ。言わないとやめてあげないよ」
しかもさっきから、1番欲しいところに唇をくれない。イツキは絶対、わかっててやってる。
「でも」
「……きみが、僕を心配してくれているんだろうというのはわかるよ。 その目を見ていれば、なんとなく」
「うっ」
イツキはその姿勢のままに私の瞳を射抜いた。
私はというと、また図星で言葉を失ってしまう。
ずるい。そんなこと言ってくるなんて。
「話してくれないかい、リノセ。きみが僕を守りたいと思うように、僕だってきみを守りたい」
……ほんと、ずるい。
「守らせてほしい。僕の願いを叶えてくれ」
最後に、コツン、と額を合わせて。
愛しむように言われてはもう、敵わない。
「ずるい」
私はそう言って目を伏せた。
「……話すよ」
「ありがとう」
ちゅ、と軽く唇にキスをしてくれたイツキは、で?と私を見る。
「え、このまま話すの?」
「逃げられるかもしれないだろう?」
よっぽど話して欲しいらしい。
イツキは綺麗な笑顔を浮かべながらまだ私を羞恥から解放しない気でいる。
仕方がない、早く言って早く離してもらおう。
そう腹を括るも、恥ずかしいものは恥ずかしいので、私は早口でまくしたてることにしたのだった。
****
「―――……なるほど」
「ふう……」
結局、私はサトライザーのことはもちろん、ネフィラとの攻防のことまで洗いざらい吐かされてからやっと開放された。
ついでに、『なにか動く時は必ず相談する』と約束までさせられてしまった。本当にイツキは隙がない。
「まったく、きみはいつも無茶をする」
イツキは苦笑いとともに私の頭を撫でた。
心配してくれていたのが伝わる手つきに何も言えず、イツキが淹れてくれたコーヒーをちびちびと飲む。
……美味しい。これお高いやつかな。
「って言っても、きみはいつまでも無茶をやめないんだろうし、協力を申し出ることも約束してくれたことだし」
「…………」
「僕ももちろん協力するよ。今回は約束取り付けた記念に、無料で」
うーん、もしかしたらと思ってたけど。
協力はやっぱり有料らしい。
でもイツキはお金も物にも困ってないはずだけど、何が欲しいんだろう。
………………まさか。
「次回からの報酬はきみからのキス、ってことにしようかな」
「……えええぇ…………」
顔が一気に赤面していくのを感じる。
そんな恥ずかしいこと、私に出来るだろうか。
いや出来る出来ないの問題ならもちろん出来るんだけど、そういうことじゃなく。
そう、とにかく恥ずかしいだけ。
「……わかった」
断らない私も私で重症なんだな、なんて思いながら。
目を逸らして渋々頷いた私を見て、イツキは心底嬉しそうに微笑むのだった。
****
『僕ももちろん協力するよ。』
私が《GGO》を始めた日、私たちを倒さないと約束したイツキが自分のことを『嘘はつくけど約束は破らない主義』と言っていた。
まさにそうだ。それに最近は私がイツキの嘘を見抜けるようになってきた。
これが、私は何よりも嬉しい。
……話がずれた。
そういうわけで、イツキは有言実行なのだ。本当に。
「リノセちゃん、久しぶりやな」
「……久しぶりだっけ?先週会った気がするけど」
「はは、そやった」
ネフィラの声はいつもより小さい。
なんとなく哀しそうな印象を受けるが、それにしてはやけに行動が早いものだ。哀しそうなのが演技なのか、哀しいのを我慢して会いに来たのか、どっちかな。
「……リノセちゃん。《マギナ》、捕まえたって聞いたで。おおきにな」
「いいんだよ。私がやりたくてやったこと。むしろ情報提供ありがとう、ネフィラ」
しおらしいネフィラに、とりあえずそう返す。
これは嘘じゃない。依頼だったとはいえ、依頼を受けたのは私たちの意志だ。情報提供だって確かに有難かった。
「で、今回は何かあったの?」
私は振る舞いがなるべく自然になるように気をつけながら聞く。
この返答次第だ。
「お礼言いに来ただけ」なら失敗、「困ったことがある」なら成功。
「ああ、それがな、また困ったことがあったんよ」
……ああ、よかった。
釣れた。
「どうかした?」
「ウチが今疑われてんよ。《マギナ》にデジタルドラッグを横流ししてた闇ブローカーやないかって」
うん、まあ、そうだろうね。
実際ネフィラ闇ブローカーじゃん、ねえ?
知ってるよ。調べたから。
ああいや、違うか、調べてもらった?
「そうなんだ?」
「んで、ウチの無罪証明のために、本来《マギナ》が使っていたルートを探れ言われてんねん」
「それはまた、無茶ぶりじゃない?」
「そうよなあ」
いやほんとにさ。
《マギナ》捕縛も結構無茶ぶりだったよね。
できたけども、私ナイトクラブに潜入する羽目になったよ。
だからデジタルドラッグルートも結構無茶なんだよなあ。
今回は、私を信用させるためとかでネフィラが企んでるんだろうけど、ネフィラの手伝いがあったって、ネフィラがどういう考えでそれを決めたって、大変なことに変わりは無いわけで。
まあ、今更無茶はダメだとか、もう無茶してる身に言うことじゃないし、イツキとも約束をさせられたということで、さて。
「話はわかったよ。もちろんお手伝いする」
「ほんまか!?おおきにな、リノセちゃん!助かるわぁ」
ネフィラはぱあっと顔を輝かせた。
その顔は演技か、本心か。それは、この一見が解決したらわかることだ。
ネフィラの目的は、おそらく私の気を緩ませること、つまり自分を信用させること。
それは私の情報を抜き出すことに繋がり、その情報はサトライザーが使うのだろう。もちろん、ネフィラも。
『私のマスターは、私を特別だって認めてくれたんです。』
『マスターの特別なアファシスは、こんなところで負けたりしない……!』
リエーブル。
サトライザーの、アファシス。
サトライザーが彼女を目覚めさせたのはおそらく、有名プレイヤーのデータを得るためだった。
思考回路や戦い方、スキル、得意な武器、言動や性格まで高精度で再現した「エネミーアファシス」、それがサトライザーの目的。
だけど、私はリエーブルの握手を拒んで……データを、渡さなかった。
だからサトライザーは、たしかな私のデータが欲しいのではないだろうか。
サトライザーがネフィラと繋がっているとして、そう考えれば辻褄が合う。
……まあ、今どうこうできる話じゃないし。
なるようになる、と思考を打ち切り、私はにこにこしながらネフィラの話を聞くのだった。
****
「マスター?着替え終わりましたか?」
「ああうん、終わった、けど……」
思ったより、丈が……。
今日はクリスマスイブ。
迎えた、クリスマス特別クエストの日だ。
それで、私は自分で買ったクリスマス衣装を来ているわけだけど。
……今更、恥ずかしい。
私の衣装は、王道のサンタさんだ。ただし色は赤と白では無い。紺と白がメインの、いわゆるブラックサンタというやつだ。
オフショルダーの、紺地に白いファーがついたトップスに同じ色のショール、ボトムスはコルセット付きのロングスカート。
《GGO》や《SAO》の衣装だって半ばコスプレみたいなものなのに、なんでこんなにも恥ずかしいんだろう。
気合を入れたら入れた分、羞恥が襲ってくる。
……いやだってほら、せっかく、サンタさんコスプレするんだから。
そりゃあさ、イツキに「かわいい」って言ってもらいたいじゃん。気合い入れるじゃん。
「マスター?どうかしたんですか?」
レイの心配そうな声が聞こえた。
ああ違う。何か問題があるわけじゃないんだよ。いや、問題は大ありだけど!!
……でも、うー、ここで止まってたらいつまでもクリスマスクエストに行けないし。
この姿で戦っていれば、きっと、慣れるはず……。
ええい!女は度胸だ!!
「お、お待たせ!」
更衣室から飛び出すと、やっぱりそこにはレイだけでなく、イツキもクレハもツェリスカも、ついでにバザルト・ジョーもいた。
「なんでここにジョーがいるの……?」
「おいおい、不審者を訝しむように俺を見るなよ。当然俺だってお前たちとクエストをやるんだよ!」
「初耳~……」
ああ、言ってなかったからな!と何故かドヤ顔のジョーを適当に流し、私はみんなを見た。
まず、レイは気に入ったらしい、ミニスカートのワンピース。ベージュ地に茶色のラインが入っていて、頭にはツノのアクセサリー。ブーツには赤いボタンが着いている。トナカイを模しているようだ。
うーん、相変わらず私のレイはなんでも似合う。
クレハは予想通り、赤系のサンタ衣装だ。
クレハいわく、「あたしの髪色ならこれ以外考えられないわよね!」だそう。
クレハが胸を張る理由がよくわかるよ、とっても似合ってる。
クレハは私の衣装の赤バージョンといった感じだ。
双子コーデみたいで嬉しい。
ツェリスカは白い衣装だ。
純白の、ロングフレアスカートに茶色いベルトリボン。
トップスも白地に茶色いボタンに白い手袋、全体的に白という印象だ。
こっちは雪だるまモチーフか。意外だったな、ツェリスカは断然サンタ、って感じかと思ったんだけど。
バザルト・ジョーは……これは……。
「ねえジョー、その衣装……」
「イケてるだろ?クリスマスツリーだ!!」
うん、多分、本人もネタ枠だとはわかっているだろう。
そこは突っ込みすぎると私がツボってしまう可能性が否めないので、これもスルーすることにする。
そしてイツキ。
彼はなんと、私と同じブラックサンタだった。
ただ女性の衣装より機能性が高そうで、かつ男らしさもちゃんと出ている。腰あたりに複数枚であるレザーベルトとか特にそう。
「もしかしてイツキ、私がブラックサンタ選ぶってわかってた?」
「まあね。でもこれを選んだのは、僕がこれを気に入ったからだよ?」
「はいはい。どうせ、『リノセが着そうなものに似ているから』気に入ったんでしょ~?」
ふふ、とイツキは笑ったままに抑えた。
つまりは是、ということらしい。
……なんか、反応に困るな……?私はどういう顔して聞いてればいいのか。
そう思って私は狼狽えてしまった。
すると。
「あら~?うふふ、照れてるの?かわいいわね~、リノセ」
ツェリスカに真っ赤なところを見つかってしまい。
「照れる……?マスター、照れているのですか?」
天然なレイに追い討ちを喰らい。
「戦場とのギャップがすごいわね、わかってたけど」
クレハにからかわれ。
「こりゃ、イツキが黙ってねぇわけだ」
ジョーにも見られた挙句。
「……リノセは僕のだからね」
ぎゅっとイツキに抱きしめられ、更に照れる羽目になったのだった。
それでまたからかわれたのは、もはやイツキの計算としか思えなかった。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.85 )
- 日時: 2025/04/23 07:59
- 名前: 水城イナ (ID: rTNrXcQ7)
No.85《恐怖のクリスマスクエスト 前編》
「そういえば、タイガーは?」
ツェリスカと攻略する機会を用意するという契約の元、今回はタイガーも誘っている。
だから彼もいるはずなのだが、と私は周りを見回した。
「タイガーかい?たしか、クリスマス衣装を買い忘れたと慌てて店に行っていたよ」
答えたのは、イツキだった。
イツキはタイガーと仲がいいらしい。タイガーと会うときは大抵イツキと一緒……うーん、まあ、イツキが、私が他の男性と自分の知らないところで会うのが嫌、という面もあるとこの前タイガーが言っていたが。
ともかく、イツキ本人は否定していたけれど、あの2人は仲がいい。
私たちと何かするときの連絡をイツキにするくらいだし。
タイガーはイツキやクラインと同年代なんだそうだ。
……「タイガー」、かあ。
そういえば剛さんの同僚にも、虎っぽい人がいるって話を聞いたことがあるな。
真面目だけどノリが良くて人気者、とか言ってたっけ。もうあんまり覚えてないや。
それより、タイガーは待ち合わせに間に合うかな?あと15分でクエストが解放されちゃうけど。
「そういえばこの衣装、公式に『是非これを着て攻略を!絶対に!』と発表されていたけれど、攻略に必要、とは書かれていなかったわね~」
ツェリスカが言った。
「たしかに。絶対必要、ってわけじゃないのかも?」
まあでも、そこは安全策を取るしかないよね。
公式おすすめなら、とりあえず害はないだろう。
とまあ、私たちはクリスマスクエストについて話し合ってタイガーを待つのだった。
****
「売り切れてた……」
待ち合わせ時間。
タイガーは、肩を落としてやって来た。
「売り切れ?」
「どこの店ももう、衣装売り切れだって……」
「うわ」
辺境みたいなところの店にしか売ってないとはいえ、《SBCグロッケン》はとても広い。売っているお店は10を超えるはずだ。
どこも売り切れだなんて、ほぼすべての《GGO》プレイヤーが買っているのだろうか。それとも衣装コレクターでもいるのか。
こんな荒廃した世界でクリスマスのファンシーな衣装だなんて滅多にないんだから、コレクターはいそうだが。
それにしたって、こんなに人気になるとは。
「まあたぶん、リノセとかキリトくんとか、仮想世界においての大スターたちが熱中しているゲームだから《GGO》人口が多いんだろうね」
イツキが肩を竦めて「僕が今《GGO》をやっている理由も、半分はそれだし」と付け足す。
《GGO》にいる理由、か……。
まあ、いいや。今はクエスト、クエスト!
「じゃあメンバーも揃ったことだし」
ぱん、と1度手を叩き、わたしはみんなに笑いかけた。
自分でも頬が緩んでいる自覚はある。でも特別クエストとなればそうなるのは当然なので許して欲しい。
ということで、私はノリノリで拳を突き上げるのだった。
「クリスマス特別クエストに、レッツゴー!!」
****
「おおー!」
《ホワイトフロンティア》からクエストが行われる大型ダンジョンに入ると、私たちは目の前の光景に目を丸くした。
なんとそこは、巨大な機械が並ぶ工場。
ガシャンガシャンと、絶えず大きな音が鳴り響いている。
パーティメンバーは通信機があるとはいえ、これはコミュニケーションも一苦労だ。
「うわっ、うっるせ!ゲームセンターの3倍はありそうだ」
「……?」
タイガーが顔を顰めた。
慣れればそれほどでもないけど、タイガーは周りよりも被害が大きいらしく、不快感を隠していない。
タイガーと私たちの差は結構開いているように見えて、なんだかそれは。
「もしかして、タイガーだけ音大きく聞こえてたりするのかな…?」
クリスマスコスプレの影響、なのかも……?
「うわー、やっぱりそれか。買い忘れたのは痛いな……」
タイガーがため息を吐いた。
と言っても、流石に害になるほどじゃないようで、仕方ない、とボヤいてからタイガーはぱちんと頬を叩いた。
「行こうぜ。先を越されちゃ困るしな」
「了解!」
「無理はしないのよ~」
「ツェリスカ……!」
タイガーを気遣った――というていで、無理しないで帰れと言った――ツェリスカに感動するタイガーを横目で見ながら私たちは出発した。
ということで、タイガーだけいくつか被害を被りつつ、私たちは進むことにしたのだった。
「シンニュウシャ!シンニュウシャ!」
「えっ、いきなり?」
機械的な声にビックリしてみれば、ミニサンタみたいな形をしたロボットが警鐘を鳴らしている。
それに気づいてか、他のロボットも一気に集まってきて、大型機械を守るような形で集まった。
……そんなに機械が大事なのかな?
ライフルのスコープで機械を覗いてみると、機械にある窓のようなところから、赤と緑のリボンが見えた。
あれは……プレゼントリボン?
「なるほど!この工場、プレゼント工場ってわけか」
「プレゼント工場?なるほどね」
クレハが納得したように頷いた。
「っていうことは、あの機械、壊さないほうがよさそうね」
「うん」
壊せば、修繕のためにもっと多くのロボットが来るだろうし、あとで怖いことになりそうだ。
とりあえず壊さないことにして、あとは。
「……狙われてるの、これ絶対タイガーだよね……」
「…………。」
タイガーがぶるっと震えた。
絶対そうだ。クリスマスコスチューム来てる私たちなんて、あのロボットたちちっとも見てないもん。
衣装着てないだけで、こんなことになるなんてねぇ……。
「だあああああああ!!いいぜやってやらあ!」
結果、タイガーはあまりのイラつきに爆発した。
まあそうなるのも無理はないだろう。
「来いよエネミーども!全員まとめて修理工場送りにしてやるよ!!」
「……はあ、タイガーくんはよく耐えたよ」
珍しくイツキがタイガーを褒めた。
それはそうだ。耳障りな騒音、自分だけを狙うエネミー、何より《SBCグロッケン》中を駆け回ってもどこにもないクリスマスコスチューム。
イラつかないほうがおかしい。
「よし、タイガーのためにもみんな、頑張ろう!」
「おー!」
私たちは、ロボットに向かって飛び出した。
****
「どひゃー、疲れたああ」
敵を殲滅して、進んで、発見されて、殲滅して、進んで。
「見つからないようにする」という選択肢を取ろうと思ったものの、進むためのドアには敵が落とすセキュリティカードが必要だったりして、結局倒すしかなく。
そんなこんなで休憩を挟みつつ戦うこと、4時間。
やっとボスエリアらしきところに到着した。
「うう、流石に敵が多かったです……」
レイも疲労困憊の様子。
イツキもタイガーもツェリスカもクレハも、クリスマスツリーのコスプレをしてノリノリだったはずのジョーですらもう何も言いたくないといった感じだ。
「……どうする?行く?」
ボスがいる空間に繋がるであろうワープポイントを指さすと、みんなブンブンと首を横に振った。
「私たちでさえ何時間もかかるわけだし、少しくらい休んでも問題ないわよ~」
「そ、そうよ!ほら、弾も補給しなきゃいけないし!」
「ツェリスカ、なら俺とカフェなんてどうだ?」
「うふふ~、遠慮しておくわ~」
ここぞとばかりに誘ったタイガーをツェリスカが華麗に躱したところで、私たちは一旦休憩にすることにした。
「マスター、わたし、アスナにお菓子を貰ってきますね!」
「うん、わかった。いってらっしゃい」
イツキとレイと私は私のホームに戻ってきた。
ダージリンティーを淹れてもらうと、レイはお菓子をもらいにキリトたちの部屋へ。
お菓子に関することだとレイは生き返ったみたいになるなあ。チーズタルトはいつまでも食べてたいって言ってるし。
そういえばアンドロイドって胃袋あるんだろうか。エネルギーにはなってそうだけど、いったいどこで消化してるんだ……?
……まあいいや。そこ突っ込んだら負けだろう。
「そういえばイツキ、元旦だけど」
「ああ、たしかリノセが手伝いに来てくれるんだったね」
話しかけると、イツキは忽ち顔を綻ばせた。
そんなに嬉しそうな顔をされると私としては胸のあたりがおかしくて堪らないのだが、それは置いといて。
ゆきは神主である。
ということは年末大忙し。
狭井神社はそんなに大きい神社じゃないからまだいいかもしれないけど、それでも結構大変らしい。
ということで、私がお手伝いすることにした。
受験勉強はまあ、うん。息抜きってことで。
それに、その期間だけは、狭井神社で巫女さんを雇うらしい。
狭井神社の神主さまはイケメンでおられるので、それはもう沢山応募者が集まることだろう。
だから、私は勉強してます、なんてのは嫌なのだ。
「楽しみにしてる。誰かと元旦を過ごせるなんて嬉しいよ」
イツキは微笑んで私に手を伸ばすと、頬をするりと撫でた。
「仕事だけどね」
私が苦笑して言いながらイツキの掌に頬を擦り寄せると、ますます吸い付くように撫でてくれる。
「……好きだよ」
イツキが零した。
あふれてしまった、と言わんばかりに。
「…………うん、私も」
恥ずかしくてまた、「私も」の先を言えなかった、けど。
それで十分だ、とイツキは私の唇に掠めるようなキスを落としたのだった。
****
そして、休憩が終わり、また集まると。
「やっぱり売り切れてた……」
最初のように肩を落としたタイガー。
ツェリスカと一緒に休憩は断られてしまったそうなので、また《SBCグロッケン》を駆け回って衣裳を探していたらしいが、それでも見つからなかったか。
うーん、お気の毒さまだ。
「でもさ、あとはボスだけだし」
「そうだけど、ボスが1番大変な予感がするんだよ」
タイガーは面倒くさそうにボヤいた。
それはそうだ。
今まで散々エネミーに目の敵にされてたんだから、ボスでいきなり平等になりました、なんてことになるわけがない。
「まあまあ、いけるところまでやってみよう」
「そうよ、1人じゃないんだし!」
私とクレハが慰めにもならない言葉をかけると、タイガーは泣きそうになってから頷いた。
そして、ボスエリア。
「……うん、やっぱりそうだよねえ」
私は1人で呟いた。
ボス、それは巨大なサンタさんだ。
《SBCグロッケン地下ダンジョン》のボスエリアにいたロボットをも彷彿とさせる大きさ。色は普通に赤と白だけど、ロボット製サンタさんみたいで、目が煌々と真っ赤なLEDであるところがちょっと怖い。
「サンタさん、なんだか怖いですね……」
レイが眉をひそめながら言った。
「安心してくれアファシスちゃん!本物のサンタはもっと優しそうだぞ」
「え、そうなんですか?」
「と言っても、《GGO》じゃこのサンタさんが本物なんだろうけどなー」
タイガーもやだやだ、というふうに付け足した。
寝る前に本物のサンタさん検索しなきゃ。これ夢に出てきそう。
「さあ、じゃあいっちょやりますか!」
「おー!」
そう言って銃を構え、バフをかける。
さてさて、どんなものかな。
ワクワク、ハラハラしながら戦闘する場所に足を踏み入れると――
「……シンニュウシャ、ダナ」
ビリビリ、とものすごい気迫。
エネミーと違って、殺気めいた威嚇が私たちにまで届いた。
「コスプレなんかじゃ騙されない、ってことか。流石ボス」
イツキの呟きに納得する。
コスプレしてたってプレイヤーはプレイヤーだもんね。
そうなっても無理ない。
ふう、と息を吐く。
そのとき。
「っ、タイガー!避けなさい!」
「!?」
珍しく、ツェリスカがタイガーの名前を叫んだと思ったら。
サンタの目が一際赤く輝いて、勢いをつけるようにサンタが大きく反る。
狙いは、タイガー。
「まさか――!!」
ビーーーーーッ!!と大きな音が響いた。
こんなの、機械があった部屋でも聞いたことないほどの音だ。
そう、目からビーム、ってやつ。
サンタの目からビーム出るとか、怖……。
「タイガー!!」
レイがタイガーの名を呼ぶ。
視界の端にあるパーティメンバーのHPバーのうち、タイガーのもの。
それだけが、著しく消えていく。
「嘘でしょ……」
コスプレしてないとはいえ、タイガーのレベル、なんなら私とイツキよりも上なのに。
挙動はわかりやすかったけど、挙動を見てからじゃギリギリ間に合わないくらい、ビームの発射が早かった。
そんな避けるのが難しい攻撃が……。
「聞いてねぇよ、こんなボス……」
タイガーが、呪詛を吐いてから倒れ伏す。
――ワンパン……!!
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.86 )
- 日時: 2025/04/27 17:42
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
《恐怖のクリスマスクエスト 後編》
「回復します!」
レイがすぐさまAED弾を使ってタイガーを回復させる。
息を吹き返したタイガーは、「やっべ、あんなの聞いてねーよ!」と悪態をつきながらサンタと距離をとる。
サンタのターゲットは全員に向くにしても、衣装がないことによるダメージ増加やヘイト増加はやっぱりあるようだ。
盾がないから《GGO》でパリィはできない。
スタミナ要素がないから普通の回避はいくらでもできるけど、体勢を整える体幹はVITあたりがちょっと関わってくるから、それにはちょっと時間がかかるだろう。
そもそもタイガーにタゲが向かないようにしなければいけない。タイガーがすべての攻撃を避けられるかはわからないけど運次第だし、できたとしてもそれじゃあ正直言って足手まといだ。
……となると。
タゲ取りはジョーとクレハに任せるとして、私たちスナイパー陣は高火力を活かして、相手の怯みを狙わないと。
攻撃を中断させる、それが一番の勝てる可能性だ。
あとはタイガーの瞬発力に賭けるしかない!
タイガーたちに作戦を伝えると、みんな唾を飲んだ。
さすがに高火力すぎる相手だ。今までで1番苦戦する予感しかしないから妥当な反応だろう。
「タイガー、できそう?」
『舐めんなよ、そんなの楽勝だ。さっきはやられちまったけどな』
タイガーが、先程とは打って変わってワクワクしたような声で返答してきた。
『俺はちょっとそこら辺のプレイヤーとは格が違うんだよ!』
「――それは楽しみ」
ノリノリなタイガーに引っ張られた私は、思わずそう返していた。
胸が踊る。こういう強い相手との戦いは、みんなと協力する戦いは、いつだって私を楽しませてくれる。
そう、そうでないとつまらない。そうであってこそ戦いだ。そうであるからこそ、この世界は面白い!
「じゃあいくよ、みんな!」
そう叫んで、愛銃を構える。
輝いた目をしたみんなは、私の言葉に応えて作戦を始めるのだった。
****
「ほっ、と!」
巨大サンタロボからの攻撃を避けて弱点にロケランをぶち込めば、リノセちゃんからの『いいね!』という声が通信機越しに降ってきた。
俺だけクリスマスコスプレをしていないからか、バザルト・ジョーとクレハちゃんが2人がかりでタゲを取っていても時々、俺に攻撃が向くことがあった。
「流石ですね、タイガー!」
レイちゃんがジョーを回復しがてら俺に笑いかける。
「避けたあとの銃の腕、とてもすごいです!」
「サンキュー!」
……銃の腕、か。
そりゃそうだ。何年叩き込まれたと思ってる。
あのときは、それが娯楽に役立つだなんて思っていなかったが。縁っつーのはこれだから不思議だ。
『HPバーが減ってきたね、そろそろ頃合だ』
イツキが呟いた。
たしかに、もうすぐ赤ゲージというところまできている。そういえば地道にHPを減らし続けて、もうだいぶ長く戦っているような気がした。
『そうだね。クレハ、ジョー、アテンションはあと何秒?』
『さっきジョーと同時に発動したからあと1分ね』
『了解、タイガー、スキルの準備は?』
『リキャストあと20秒』
戦う最中にリノセちゃんがイツキと考案したラストスパートについての作戦の準備が整いつつある。
その作戦さえ成功すれば、HPバーが赤くなったときに特別な攻撃が来るとしても喰らわずに削り切れるだろう。
ただ、失敗すればだいたいのメンバーがやられるはずだ。
まだその攻撃が存在すると決まったわけではないが、警戒するに越したことはない。
……正念場は、もうすぐだ。
『わかった、じゃあ1分後に作戦を始めようか、っと!』
いきなりサンタロボがスナイパー陣に向けた目からビームをものともせずにリノセちゃんたちは飛び退いた。
イツキは、あの挙動もタイミングも曖昧な攻撃を、相変わらずの頭脳と瞬発力で難なく見切っている。
リノセちゃんも、初めて戦うところを見たときから思っていたが、やっぱり俺と似た戦い慣れを感じる動きで避けていた。
……いったい何者なんだ、リノセちゃんは。
サンタロボのタゲがクレハちゃんに向かったのを確認してリロードしながら、俺はちらりと彼女を見やる。
イツキとリノセちゃんは、戦場のまわりにある高い囲いのようなものに登って戦っていた。
リノセちゃんが高3の女の子だっていうのは、《GGO》プレイヤーなら、いやそうでなくとも、ネット界隈では有名な話だ。
だからこそみんな思う。
あの身のこなしには、ただ「ゲームが上手い」じゃ片付けられない何かがある。
イツキだってそうだ。
リノセちゃんと、誰にも真似出来ない連携をやってのけるし、リノセちゃんと出会ってからあいつは、格段に上手くなった。
今リノセちゃんに敵うのは、イツキとキリト、ユウキちゃん、あと彼らの知り合いらしい「アリス」や「ユージオ」とやらくらいか。
……俺も戦ってみたい。
共闘もいいが、やっぱり敵として。
「あれ」は受けなかったけど、《B.o.B》には参加登録を済ませている。
戦うのが、今から楽しみだ。
俺はまだまだ先になる日に思いを馳せながら、戦場を駆けるのだった。
****
そして1分後。
みんなの用意が整ったことを確認してから、私は合図を出した。
「じゃあいくよ、作戦開始!」
『『『了解!!』』』
みんなが頷いて、行動を始めた。
まず、クレハのアテンション――タゲ取りが切れる。
その瞬間、タゲがクレハからタイガーに移った。
『おらよっ!!』
タイガーがもう慣れた様子で攻撃を避けがてらスライディングショットを打ち込む。
かれこれ戦い始めてから1時間だ。慣れてくるのも当然のことだった。
タイガーが放った弾は漏れなくすべて、弱点である瞳のLEDに吸い込まれていく。
『いいわね!』
『サンキュー、ツェリスカ!』
ツェリスカの賞賛に嬉しそうにしたタイガーは、されど冷静にその場を飛び退く。
今回のタイガーの仕事はタゲ取り。それをこなした上にダメージを出したんだから、タイガーはファインプレーをしたと言えるだろう。
そしてタイガーがそうしている間にも、私たちはスキルやウェポンアーツを発動する。
今回タイガーがタゲを取ったのは、単純にタイガーが一番狙われやすいからだ。
タイガーからタゲを外すためにはクレハとジョーが同時にアテンションを発動しなければいけなかった。
アテンションで二人の時間が減るよりは、タイガーにタゲ取りしてもらって2人が攻撃スキルを使った方が効率がいいだけの話。
ただこれは短期決戦のみに使える技で、この作戦でHPを削れなきゃ意味がないから今までちまちま削っていたわけだ。
そして。
『3、2、1、発射!!』
レイとタイガー以外の全員が、一気に高火力を瞳に向かってぶっ放す。
そして、一気にサンタロボのHPがミリまで減って、最後
の1発、怯んだ隙にーー
「くたばれええええ!!」
機械の騒音と距離で、さっきまでは通信機からしか声が聞こえていなかったのに、今のタイガーの声は直に聞こえた。
よほどイラついていたのだろうと苦笑しながら、私は立ち上がった。
もう、これでロボは倒せただろう。
タイガーの渾身のロケット弾を受けたサンタロボが、膝をつき、力なく倒れ込む。もう、瞳のLEDはついていない。
周りの機械も、いつの間にか稼働を停止していた。
「終わった…………」
パァァァアン!という音とともに、サンタロボが星屑となって消えた。
手応えのあるエネミーを倒すと、いつもこの音を聞く度に達成感がすごい。
……やっと、倒せた。
さすがに強かった。めっちゃ面白くて、ワクワクして、ドキドキするボスだった!
にこにこしながらみんなのもとに降り立つと、みんなも疲れた様子だった。
デスゲームで2回目のボスを倒したときくらい。
「ふう、お疲れ様!」
「タイガー、頑張ったわね~」
「ツェリスカ……!!」
ツェリスカに2回も褒めて貰えてご満悦のタイガー。
さっさと帰って報酬確認して、休憩しようと口を開いた、そのとき。
ガシャ、と静かな空間に機械音が響く。
びくっ、と私たちは盛大に震えた。
疲れきってもう何もしたくない、という雰囲気だったみんなの目が殺気を帯びてぎらりと光る。さっきのサンタロボのごとく。
その先には――一体の、ロボット。
……まさか、まだ終わってない?
タイガーが死んだ目でロケランを構えた。
あと一歩進んだら殺す、とでも言うような雰囲気にみんなの空気が引き締まる。
そのとき。
『アノ、サンタサン知リマセンカ!?』
「ん?」
みんなが首を傾げた。
ロボットが、敵対してこない?
『モウスグプレゼントノ納入期限ナノニ、サンタサンハイッタイドコヘ行ッタンデショウ……』
「プ、レゼント?納入期限?」
……すごく、嫌な予感がする。
そういえば、ここはプレゼント工場で、クリスマス特別クエストのダンジョンで、プレゼントを作る機械は壊さないようにしてて……。
……納入期限。もうすぐ。
でも、サンタは――……
……まさか。
『オ願イシマス!サンタサンガイラッシャラナイノデ、アナタタチニ頼メマセンカ!?』
やっぱり!
『納入期限マデニ、プレゼントヲ作リ終エテ欲シインデス!』
ピコ、と。
『ダンジョンを攻略する』だったはずのクエスト内容が更新されるのが見えた。
『時間内にプレゼントを作り終える』、その下に見えるのは……。
制限時間!?しかも20分!プレゼントはあと40個!?
「だあああ!嫌な予感がすると思ったら!」
私は返事もせずに機械に向かって走った。見るからに電源ボタンですといった感じのボタンを押せば、また騒がしい機械音がし始める。
「急ぐよ!1分で2個の計算だから!」
「おいおいまじかよ……!」
「もうっ、強制だなんて!」
ジョーとクレハが悪態をついた。
ほんとだよ。もうやりたくない……。
なのに、サンタは戦わなきゃいけなかったから強制イベントだし!
レイは困惑しながらもツェリスカに教えてもらい、出てきた箱にプレゼントの中身らしい袋を入れている。
イツキは私と目が合って微笑むくろいにはまだ体力が残っているようだ。
にしてもこんな置き土産があるなんて!
「最悪だあああ」
タイガーの叫びは、おそらくこの場の全員の言葉を代弁したものだった。
そして――
****
「…………疲れた」
結果、こうなった。
ホームの建物の入口から1番近いのは私のホーム、ということでみんなで私のホームになだれ込み。
床に倒れ込んでそう呟いたのは、タイガーとクレハとレイの下敷きになっているジョーだった。
私とイツキとツェリスカは、疲れていてもプライドというものが邪魔をして、結局椅子に座っている。本当は倒れ込みたい。疲れた。
今回は私たちと別チームとしてクエストをする予定だったアスナたちは、さっき私たちの様子を見てげんなりしていた。「……なんかやりたくなくなってきたなあ」なんてリーファが呟いていたけど、やりに行ったかどうかはわからない。
「そういえばリノセ……報酬何……?」
レイの下でぐったりしているクレハが聞いてきた。
そういえば報酬なんてものもあったっけ。すっかり忘れてた、それが目的だったのに。
ふう、とため息をついてから私はコンソールを呼び出した。
アイテム欄を入手順に並べ替えると、1番上には「NEW!」とついている新しいアイテムが。
「……《クリスマスプレゼント》?」
なるほど、クリスマス特別クエストの報酬といえばたしかにプレゼントだろう。
《夜の女王》みたいに特定の記録アイテムとかかな。
いや、でもプレゼントだし……。
早速詳細を見てみると、その説明には。
「『激レア素材5個か大量のクレジットがもらえるようだ』……あ、激レア素材って滅多に手に入らないやつじゃん」
「ほんとか!!」
一番最初に食いついたのはジョーだった。
1番下にいたジョーが動いたことで、残り3人が崩れ落ちて死にそうな呻き声を上げる。
「何だ、何が手に入るんだ!?」
「あら、本当に激レア素材ね」
ラインナップを覗いたツェリスカが驚いたような声を上げた。
普段ならタイガーはここでツェリスカに食いつくところだが、そんなスタミナは残っていないようだ。
「なるほど、これはクリスマスプレゼントだ」
イツキも苦笑した。
ストレージに置いてあったらしいクッキーを1枚食べて、残りの1枚を私の口に運んでくれる。
「ところでリノセ、報酬も確認したことだし、やっぱり行くのかい?」
「ん、わかってんねえイツキ。準備はいい?」
「ああ、消耗品は道中で買ったんだ」
そっか、わかった。と返事して、私は立ち上がった。
喉元過ぎれば熱さを忘れると言うがまさにそれで、疲れたとはいえ私のスタミナは既に全快している。
「……マスター、まさか」
レイが有り得ないという顔で私を見る。
「レイたちは休憩しててよ。この部屋は自由に使っていいし」
「リノセ……イツキまで、まさか」
ツェリスカもレイと同じように異物でも見るような顔になった。
「ちょっと行ってくる」
私とイツキはクリスマスコスプレから普通の服に着替えた。
イツキは私が何も言わなくてもそれをしていた、流石は私の恋人。私の性格よくわかってる。
「クリスマスコスプレをつけてないと難しいなら、難しいバージョンもやっとかないとね」
攻略のときは最初だったから「とりあえず」つけていただけ。終わったらそりゃあ、難しいバージョンもやっとくっしょ。
「嘘でしょ……」
クレハの呆然とした声を受けながら、私たちは部屋の出口に向かう。
「達成報告、楽しみにしててね」
通話は最低限でいけるし、本気出した私たちというのは凄まじいもので。
クレハたちのもとに40個のクリスマスプレゼントを背景にして2人で並んだ写真が送られてきたのは、それからわずか1時間後のことだった。
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