二次創作小説(新・総合)

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フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
日時: 2022/11/15 22:17
名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)


注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。



※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。


「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」

《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者サバイバー》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。

『ねえ、《GGO》って知ってる?』

私、神名かみな 凛世りせは、幼馴染の高峰たかみね 紅葉もみじの一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。

「―――リンク・スタート」

コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。

コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者サバイバー》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。

     
―――霧散むさん

それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」

「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。

大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。

道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。

着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。

【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】

なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。

「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。

次へ続く

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.58 )
日時: 2023/11/07 16:46
名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)

「凛世」
「んー?」

雪嗣さん改め「ゆき」の家にて、私たちはくつろいでいた。

「あ、そうだ、忘れてた。はい」
「ん?」

バッグから小さい紙袋を渡す。
ゆきは首を傾げて中を覗いた。

「マフィンかい?」
「そう。抹茶味。ゆきが好きそうだなーと思って作ってきた」
「手作り⁉」
「うん!美味しくできたと思うよー」

ニコッと笑うと、ゆきは口元を手でおさえた。
耳がほんのり赤い。

「……初めての、手料理」
「て、手料理って…」

ゆきがそんな反応すると、私まで照れてくる。というか、手料理とか意識してなかった。でも、ゆきにあげるなら私が作ったものを食べてほしいなと……思って……。

「……。」
「ありがとう、凛世。大切に、噛み締めて、食べるよ」

感慨深いと言わんばかりの感動した顔でゆきは言った。

「そ、そんな感動的に食べなくても…」
「食べるよ」

ゆきは私に顔を近付けてくる。

「きみはまだ、僕の愛の重さをわかっていないようだね」
「愛って…」

そんな、照れるような言葉を言わないでほしい。
体が熱くなって、嬉しさに酔いしれたくなってしまう。

「愛する人の初めての手料理なんて、僕は写真に取った上で飾っておきたいくらいなのに」
「それは…」
「まあ、凛世が食べてほしいのはわかるからしないけど。」

そう言って、ゆきはふっと笑いながら頬をなでてきた。

「マ、マフィン早く食べよう?」

照れ隠しにそう言うと、ゆきは「んー?」と首を傾げる。

「マフィンも美味しそうだけど、僕は凛世が食べたいな」
「え、ちょ―――」

食べられた。
少し冷たい唇が、私を貪る。

「…ん…っ、は…」
「かわいい。鼻で息するんだよ。」
「で、きない…っ」
「きみならできる。さあ、吸って。」
「ん…っ」

深く重ねられた唇。ゆきの手が私の後頭部を引き寄せ、更に食べようとしてくる。
ついていくのに必死になっているとだんだん息が苦しくなり、本能的に唇を離して口を開け、息を吸う。

「ぁっ…」

すると、するりと熱い舌が入ってきて、また唇が重なった。

「ゆ、ゆきっ…」
「愛してるよ、凛世。」
「わ、たし、もっ…」

ゆきの舌が私のそれに絡まる。
慣れない感覚に背筋がゾクゾクして、頭の中がゆきでいっぱいになる。

「も、無理……」
「ふ、頑張ったね」

崩れ落ちるようにして力が抜けると、ゆきは私を抱きとめてなでてきた。

「かわいい。大好きだよ」
「な、何回言えば気が済むの…」
「無限大数」

久しぶりに聞いたよ、それ。

「凛世は?」

ゆきは本当に意地悪だ。私が言いたいのはなにか、わかってるくせに。
恥ずかしがってるのも、知ってるくせに。
でも。

「教えてくれないのかい?」

こうしてとぼけて、首を傾げる。

「……………。―――…だ、大好き……です」

言って恥ずかしくなって、顔を覆った。
そしてその手はすぐゆきに取り払われる。

「よくできました」

ゆきはそう言って、ちゅっと軽くキスをした。
私はこの人には、敵いそうもない。



「凛世、おはよー」
「おはよう、香住。」

めいっぱいイチャイチャした後の、次の平日。
私たちは、受験期にも関わらず、とある行事のために校内で準備を行っていた。

「にしても、3年になってもやるとは思わなかったわ」
「本当だよね。受験勉強の息抜きっていう名目らしいけど。」
「「帝星学園交流会」」

『帝星学園交流会』…帝星学園とは、私たちが通っている中央光星高等学校の姉妹校だ。うちと同じ進学校で、プラス、多くのお嬢様や御曹司が通う名門学校である。
そことの交流会。私たち庶民ばっかが集まるこの学校と交流なんてしていいのかっていう不安はあるけど。

「……」
「凛世、どうかした?」
「ああ、いや。」

実は、啓治は帝星学園に通っている。特待生なら授業料免除なので、お金の心配はいらないと言っていた。
…デスゲーム事件以降、私たちは会えていない。
だから会いたいと思っているのだ。
あの日のことを、話したくて。
まあでも、香住はデスゲーム事件知らないしね。

…デスゲーム後日、私たちは菊岡さんに会って話をした。
私は唯葉伝てに菊岡さんを知っていたが、実際に会うのは初めてだった。
そこで、私は《SAO》での私を伏せつつデスゲームの話をして…。
でも、キリトやイツキ、クレハたちが揃う中に、啓治…ケイはいなかった。
あっちだって気まずいだろうが、だからってここで関係が終わってしまうのは惜しまれる。
ううん…惜しまれる、じゃない。嫌なんだ。
だから…。

「それにしても、よく立候補したわね、実行委員なんて。あのお嬢様学校に行くなんて並の胆力じゃないわよ。」
「いや、お嬢様学校を王様の謁見室と勘違いしてない?」

実行委員になった。
ミーティングをしに、このあと帝星学園に向かう。
あっちの実行委員の名簿に啓治の名はなかったが、まあ学園の行けばそのうち会えるだろう。交流会で嫌でも同じ空間にいることになるし。

ふと思い出し、私はもう一度、帝星学園の実行委員名簿を手にとって見つめた。

《帝星学園 交流会実行委員長  薔薇島 恵美理》

……。
どっかで聞いたことある名前だなあ…。なんだっけ?
こんなに印象深い名前なら覚えてるはずなんだけど…。
だめだ、思い出せない。
まあ、じきにわかるだろう。今は移動だ、移動。
と、いうわけで。

「いってきまーす」
「気をつけてー、お嬢様みたいになって帰ってくるんじゃないわよー」
「なんないよ!」

迎えの車が来たので校舎を出た。
今回の実行委員メンバーは、生徒会長の杉原ちゃんを始めとした、リーダーをやりがちな面々。
そして校門まで着て―――

「え、うわ」

思わず無表情になってしまった。
……なんだ、この黒塗りリムジン。
前にアスナに会ったけど、アスナだって高そうな車だったけどそれでももうちょっと常識的だったというか。
これはちょっと、いかにもですって感じだ。
この中に乗るってちょっと勇気いるなあ。

『それにしても、よく立候補したわね、実行委員なんて。あのお嬢様学校に行くなんて並の胆力じゃないわよ。』

……案外間違いじゃないのかも。
なんで学校に入るのじゃなくて迎えの車に乗るのに胆力が要るんだ。
すると、助手席から執事が出てきて、目の前のドアを開いた。
そして、中にいた一人の美少女がふわっと降りて一礼する。
制服は、黒いワンピーススタイル。スカート部分は膝下までのプリーツスタイルのロングスカートで、袖とスカートの裾の少し上に金色のラインが二本。
そして、赤い短めのネクタイ。
うひゃー、高価そう。

対して、こちらの制服はと言うと。
ワイシャツに赤と白のボーダーのネクタイ。その上から黄土色のベスト、そして黒地で裾上に金のラインが入ったブレザー。スカートは赤と黒のタータンチェックのプリーツスカート。

うーん、あっちのほうがお嬢様っぽいけど、流石姉妹校、色の系統は似ている。

さて、もう一度、車から降りてきたその子を見やる。
栗毛のウェーブパーマの長髪で長さは腰ぐらい。瞳は鳶色とびいろ、つまり赤黒い茶褐色。右目に泣きぼくろ。身長は私よりやや高め。身体のスタイルはリーファくらいかな。

その子は、私たちを一瞥して、優しくにこりと微笑んだ。

「初めまして。私は帝星学園側の実行委員長、そして帝星学園生徒会長の 薔薇島 恵美理ですわ。以後お見知り置きを。我が校で会議が開かれるということですので、お迎えに上がりましたわ。」

…ですわ?
あれ?ここって中世ヨーロッパですか?お城のある王国だったっけ?王国喫茶再び?
…いやいやいや。
なんか、お金持ちと庶民の差を見せつけられてる気がするなあ…。
実は素が超チンピラでしたみたいな感じだったらもっと親しみやすいんだけど。
いや、これはこれでいいんだけど、ちょっとびっくりというか。
まあ…お嬢様業界―――なんだそれ、と少し思った―――では、これが普通なんだろうなあ。
杉原ちゃんは、一瞬狼狽えた後、小さく咳払いをして微笑んだ。

「ご丁寧にありがとうございます。私は 中央光星高等学校側 の実行委員長、そして中央光星生徒会長の 杉原 あずさです。車での送迎までさせてしまって申し訳ありません。この度はよろしくお願いいたします。」

いつになく丁寧だ。
そりゃそうだよね。ですわとか言われたら、こうするしかないよね。

「では、参りましょうか。どうぞお乗りください。」

そして、ついに高そうな黒塗りリムジンに入るときが来たのだった。


「到着いたしましたわ。ようこそ、帝星学園へ。口調などは気を使う必要はございません。どうぞリラックスなさって。」
「ありがとうございます。」

黙って、「こちらです」と案内していく薔薇島さんを見ながら歩いていく。
………。
はああああ……。今までで一番リラックスしにくい車だった。
いや、席はふかふかだったし、揺れもほとんどなくて快適だった。問題は空気感だ。
慣れない。キラキラしすぎて失明しそうだった。
本当に中世ヨーロッパにタイムスリップしたかと。いや、その時代にリムジンないけどさ。
とにかく、緊張したー…。
………そういえば。
いつぞや、剛さんの友達の親戚がお金持ちで、そのパーティーに剛さんと招待されたことがあったが。
私はともかく、剛さんなんか「おしとやか」の「お」の字どころか自衛隊なので散々緊張した挙げ句、挨拶してすぐ帰った。
でも今回はそうはいかない。中央光星の恥ずかしくない対応をするために、胸を張って歩かなければ。

「こちらが、今回使用する会議室Ⅲですわ。お入りになってくださいませ。」


Ⅲ?え、3つ目?ⅠとⅡもあるの?えー…。
流石お金持ち。でもいつそんなに使うんだろうね。
さて。
案内されたのは、ふかふかそうな椅子と高級そうな円卓のある大きな部屋だった。
そこには帝星学園側の実行委員がずらっと並んでおり、美形揃いのお嬢様や御曹司ばかりでうわぁ、と声を漏らしたくなる。
でもそうか、客人が来るまで立って待っている親切さ。
流石は名門お嬢様学校。

「どうぞ、皆様おかけください」

薔薇島さんの一言で、ようやく彼らが座り、私たちも座る。

「では会議を始めましょうか。」

そう言って、薔薇島さんは完璧に整えられたおしとやかな笑みを浮かべた。
多分今まで以上最も胆力が必要な会議が、始まろうとしていた。

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.59 )
日時: 2023/11/17 21:49
名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)

どうも、亀更新の女王ことイナです。遅くなりました。

「では、会議が終了いたしましたので、我が帝星学園をご案内いたしますわ。」

薔薇島さんはそう言って微笑んだ。
会議は1時間程度で終了し、今日の議題は完璧に議決することができた。
会議は2時間半の予定だったのでまあ、帝星と光星のメンバーが優秀だったということだろう。
残った時間は、早く終わったので帰宅して《GGO》―――とはいかず、学校案内らしい。
実行委員になった理由は八割が啓治と話すためだから別にいいんだけど。

「人数が人数ですので、いくつかに分かれましょうか。」

薔薇島さんは、にこりと笑った。



「神名 凛世さん、でしたでしょうか。」
「あ、はい…そうですけど」

グループ分けのところで、薔薇島さんに話しかけられた。
ふう…よかった、凛世様なんて呼ばれなくて。
様の敬称つけられたらどうしようかと思った。
…それにしても―――
うん、近くで見てみると、やっぱり。
どっかで会ったことあるような気がするなあ…。

「よければ、私と杉原 梓さんと学園をまわりませんか?」
「願ってもいないことです。どうぞよろしくお願いします。」

そう、願ってもいないこと。
帝星学園交流会…ああいや、帝星学園にとっては光星高等学校交流会のために、両校の生徒は今の時間は準備作業を行っている。
当然、啓治もいるはず。
だから、光星高校には八重子ちゃんや香住だって残っている。そういえば八重子ちゃん大丈夫かな。
クラスにあんまり馴染めてないみたいだったし。
…まあとにかく、これは啓治を探すチャンスだ。
学園を回っている間に様子を見れるといいけど。

「では、参りましょうか」

薔薇島さんは、ふわりと微笑んで優雅に歩き始めた。
…どこまでも洗練されたお嬢様だ。
とても厳しく教育されたのだろう。良くも悪くも、お嬢様とかはそういうイメージが付いてしまっている節がある。
お金持ち側も、それを裏切って期待や信用を落とすのは嫌だろうし、教育が厳しくなるのも当然なのかもしれない。

「…大変なんだなあ」

みんなお金持ちに憧れるけど…。
実際は、お金持ちは庶民に憧れているのかもしれない。
ただの憶測だけどね。
もしかしたら「下々しもじもの生活なんて嫌ですわっ!庶民とは違うのですわよおほほほほほ!」とか言ってるかもだし。

「ここが体育館です。そちらの学校で出す出し物の準備をしております。」
「出し物…」
「はい。」

そういえば、八重子ちゃんと香住と漣くんと、ついでに香住の消しゴムを踏んだサヌキくんは出し物チームだっけ。庶民特有の出し物なんだよって自慢された気がする。
帝星学園側はどうするんだろうなぁ。

「ああ、資材チームが資材を運んできたようですね、一回左側に寄りましょうか」
「資材チーム…?」

あれれ?もしかして出し物に資材使うのかな?豪華だったりする?庶民特有じゃ釣り合わない?
冷や汗が背中を伝うのを感じながら、左側によって資材チームを通す。
―――すると。

「……っ、凛世…⁉」
「!!」

聞き慣れた、だけどいつもより緊張と驚愕と切なさが混じっている、低い声が聞こえてきた。

「啓治!」

大きいダンボールを持った啓治だった。
…よかった、会えた。学校に来てるってことは、操られた後遺症とかは残っていないみたいだ。

「啓治、会いたかった」
「…っ」

啓治は辛そうに息を呑む。

「体は大丈夫?どこかおかしくなったりしてない?」
「あら、凛世さん、お知り合いですの?」
「はい、親友です」
「では、少しお話しても大丈夫ですわ。坂本さん、よろしいですか?」
「ああ、それは………もちろん、です」

啓治は足元にダンボールを置いた。
気まずそうにキョロキョロと視線を彷徨わせている。

「啓治」
「……凛世」
「ごめんね」
「…え」

啓治は目を見張った。
突然誤ったから驚いているのだろう。

「な、んで凛世が謝って…」
「啓治を、守りきれなかった」

私がシュピーゲルの剣について手をこまねいていたから啓治は操られてしまった。
すべての根源は私だ。

「菊岡さんには会った?」
「あ、ああ……事情聴取をされた」
「後遺症とかは?」
「…ない」
「そっか、よかった」

啓治は、気まずそうに目をそらす。
薔薇島さんと杉原ちゃんは静かに黙って聞いてくれている。

「……なんで」
「ん?」

啓治は、うつむきながら言った。

「なんで、凛世は…俺を、気にしてくれるんだよ」
「なんでって…」
「俺は、凛世を傷つけた!気持ちを抑えきれなくなって、あんなやつの手を取っちまった…なのに」
「……」
「なのに、なんで…」

啓治は泣きそうな顔で目をうるませる。
…ごめんね。本当にごめんね、啓治。

「…啓治、この前私の学校に私に会いに来たことがあったよね」
「…ああ」
「あのとき啓治が言ったんだよ、私と啓治は親友だって」
「…ッ」
「私が、親友を心配しないわけがない。ましてや、あんなことで見限るはずがない」
「!!」

啓治はバッと顔を上げた。
その拍子に、彼の左目から涙が溢れる。

「嬉しかったんだよ、あのとき。啓治が私を想ってくれてたんだって。そもそもああいうことになったのは私のせいなんだし」
「凛世のせいじゃない!」

啓治は首を振った。

「ありがと、でもね。私のせいなんだ、どう考えても」
「…凛世」
「とにかくね、啓治。私はあんなことで啓治と縁を切りたくない。啓治と親友でいたい」
「っ、嬉しいけど嬉しくない」

振っているようなセリフだからだろうか。
申し訳ないけどこれは真実だ。それに、私はもうすでにゆきの恋人だし。浮気するわけには。

「……凛世、だけど俺…」
「どうしても啓治が自分を責めるっていうのなら、頼みがある」
「なんだ、何でも言ってくれ」
「また《GGO》で会おう。それで、《デファイ・フェイト》と《ハンターズ・キャッスル》で助け合う関係になってほしい」
「!」
「いいね?」
「…、わかった、それでいいのなら」

啓治は右目からも涙をこぼすと、軽く笑った。

「―――ありがとう、凛世。」
「うん。」

優しく笑って手を差し出せば、啓治もはにかんで手を取り、握手をした。

「お待たせしました。」
「いえいえ、では参りましょう。こちらです」

薔薇島さんと杉原ちゃんは何も聞いてこなかった。
…さて、本来の目的はもう達成したから、これからは交流会の方に集中しようっと。
今まで集中してないって言ったら嘘になるけど、安心したから心置きなく活動ができるよね。
帰ったら真っ先に《GGO》行かなきゃね。
そう思いながら、私たちは体育館に向かった。



「―――ふう、ただいまー」

部屋に荷物を置き、制服から着替える。
あの後、時間になったら例のリムジンに乗って学校に帰り、そこで解散して帰ってきた。
エネルギー飲料を軽く飲んでからサメくんを撫でて、ベッドに座る。

「さて、じゃあ早速行きますか」

私は、ベッドサイドテーブルに鎮座するアミュスフィアを取って着用し、ベッドに横になった。

「リンク・スタート」


シュン、という無機質な音とともに、ドアの開閉音も聞こえた。

「あ、マスター、おかえりなさい!」
「あ……リノセさん、こんにちは」

私のログインと同時に入ってきたのは、カンナだった。

「あ、こんにちは、カンナ。」
「あの……えと、その、む、難しいクエストがあって…厚かましくて…すみません、手伝ってほしくて…」
「難しいクエスト!」

私は目を輝かせた。
とても魅惑的な響きだ。

「どんとこい!誘ってくれてありがとう、すぐ行こう!」
「あ…ありがとう、ございます…」
「行きましょう、行きましょう!」

レイもにこにこして拳を掲げた。



「はー…なるほどねぇ……」

遠くに仁王立ちする巨大ロボエネミー3体を遠くから見る。

「あれを突破しなきゃいけないのね。あれは一人じゃ難しいよ」
「は、はい……付き合わせてしまって…すいません…」
「ダイジョブ、ダイジョブ!さ、行こっか!」

私は、攻撃力上昇のバフだけかけて構えた。

「カンナはサウンドデッド2だったよね?」
「は、はい」

確か、サウンドデッド2はサプレッサーとか音を抑制する機構とかで、敵に与えるヘイトは少ないが、弾速は遅くて低下力。あと、フルオート射撃ができたはず。
なら、カンナにヘイトが向くのはよろしくない。
したがって…
私は、武器をFetalBulletから剣のフィリルへと変えた。

「ふたりとも。」
「はい!」
「は、はい」

私は軽く屈伸をしながら作戦を伝える。

「私がヘイトを取るから、カンナはあそこの高台から撃ちまくって。レイはいつも通り回復とサポートをお願い。」
「わかりました!」
「が、頑張り…ます」

じゃ、行くよ!と、言って、私たちは走り出した。

―――最近私たちが始めた《アルヴヘイム・オンライン》…《ALO》に銃など存在しなかった。あると言えば槍と弓と剣、その他諸々。
イツキ、クレハ、ツェリスカの3人はとても苦戦していた。イツキとかは割と早く馴染んだけど、今まで積み上げてきた銃のプレイヤースキルが使えないというのを体感した3人は、それはとても練習していたものだ。
今は3人とも、すごく上手くなっている。
その中で、私は改めて剣の腕を磨いた。
《GGO》でも剣は使っているとは言え、それでも頻度は少なく、また《SAO解放》からのブランクによって腕は正直なまっていた。
《SAO》で必死に生きようとしていたあの頃の初心に返る、その大事さを実感したものだ。
だから、今は少しだけ剣の勘は戻ってきている。
大丈夫。ソードのスキルロールはタンクっていうわけじゃないけど、私なら大丈夫。

「せっ!」

《UFG》で高度を取りつつ、背中の弱点に向かってヴォーパル・ストライクを繰り出す。
そうして3体のロボットは起動した。
…そういえば、《忘却の神殿》にも3体こいつらが出てくるところがあったなあ。
まあ、それよりこの3体のほうが圧倒的にレベル高いんだけど。
でも、挙動とコツはもうおさえている。

「あ、ぶなっ」

ビームを飛び退くことで避けて、壁を蹴ってから霧剣斬・千神でHPを削る。

「ッチ、なかなか硬いな…」

いつも対物ライフルばかり使っているからHPを削る感覚が鈍っているのかもしれない。
でも、明らかにHPの減りが少ない気がする。

「カンナ!これってどういうクエスト⁉」

攻撃しながら問うた。

「えと、この先のダンジョンの最下層にある宝箱の中身回収です!」

カンナの返答を元に考察する。
ダンジョンか。倒さずにスルーするべき敵、っていうのも考えたけど、そういうわけじゃなさそうだ。
強制撤退イベント、はもう嫌だよ、私。

「ん?あれ…?」

私は奥にいてずっとビームを放ってくるロボットの機体の色が少し濃いことがわかった。

「カンナ、レイ!奥のちょっと色濃いやつがきっとリーダーだ!まずはあれを狙って!」
「なんと!」

レイの驚く声とともに私のHPが回復する。

「わかりました!」
「りょ、了解ですっ…」

きっとあれが司令塔なんだ。
そして、《魔窟》にいたマカイ兄弟みたいに、あれを倒さないと、おそらく別個体は蘇生される。
やってることはプレイヤーと一緒って言えばそうなんだけど、あれは相当ウザかった。

「あ!少し削りやすいです!」

どうやら正解だったようだ。
攻撃を避けつつ司令塔への攻撃を続けると、みるみるHPが減っていく。
よかった、強制撤退イベントじゃなくて。

「あ、危ない!」

ドンッ、とカンナの銃弾が、私の頭上に迫った機械の拳を弾き飛ばした。

「ナイスプレイ!ありがとう!」
「い、いえ…」

カンナは少し照れくさそうだった。

―――カンナは一応《デファイ・フェイト》に入っているが、それが本当に望んでいたことかといえば、そうではない気がしていた。
なんというか…一線おかれている気がしたのだ。昔のイツキみたいに。
そう、まるで昔の彼。
だれも信用していなかった頃の、イツキみたい。
厚かましくてすいません、僕なんかいても邪魔だと思います。
そんなことをカンナはよく言う。
つまるところは、きっと、彼は信用していないのだ。私たちが、そんなことを全然思っていないこと。
―――信じてくれるようになればいいなと思う、いつか。
カンナが《デファイ・フェイト》にわざわざ入ったのも、どこかでそれを望んでのことなのかもしれないし。

何より、信用のない薄っぺらい関係なんて、嫌だから。

そうこう考えながらも激闘を続けていると、いつの間にか戦いは終わっていた。

「ナイスファイト!」
「はい!」
「……」

……戦いやすかった、すごく。
さっきのナイスプレイもそうだけど、カンナのサウンドデッドを使った戦法は合理的でかつヘイトを取る側にも配慮の行き届いた戦い方だった。
基本ソロだって言ってたけど、本人なりに人と関わろうとしてきた結果なのかもしれない。

「強いね、カンナ」
「あ、ありがとうございます……。でも、リノセさんたちのほうがよっぽど…」
「ふふ、謙虚だね。…さあ、じゃあ次はダンジョンかな?行こっか。」
「…はいっ」

―――カンナは、少し活気づいた顔で、頷いた。


次へ続く

衣装案、どしどしお願いします!

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.60 )
日時: 2023/12/12 22:40
名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)

遅くなりました。
IDとかいろいろ違いますが別の端末から投稿しているだけです。


「…リノセさん、そういえば…そちらはNPCですよね?もしかして…」
「ああ、カンナに紹介してなかったっけ」

ダンジョンの中、私たちは一度立ち止まった。

「こっちはレイ。Afasys Tipe-xだよ」
「こんにちは、レイです。AfasystemA290-00という型番ですが、どうぞレイと呼んでください。」
「アファシス、いいですよね…あ、いや変な意味は全くないです…すいません…」

カンナは少し居心地が悪そうに目をそらした。
…ふむ。まあ、奪いたいという意味ではないとわかってるんだけどね。

「じゃ、自己紹介も終わったことだし、行きますか!」
「はい!」
「は、はい」

そして、私たちはまたダンジョンを進み出した。
…そういえば、どこかにまたアファシスTipe-xのカプセルがあるダンジョンが出現したらしい。
でも、今回のクエストは最奥のトレジャーボックス回収だって言ってたよね。
……探してみる価値はあるか。
私はフィリアでも連れてくればよかったかな、と今更ながら後悔した。
だってきっと、カンナは、アファシスなら信じられる。
レイみたいに親身で優しくてサポートしようとする、不器用なアファシスなら。



「なんで」

しばらくして、中間地点を過ぎたあたりの頃。
カンナは不意に言ってきた。

「……なんで、リノセさんたちは……その、そんなに…僕に、親身なんですか」
「え?」
「…僕は…僕は」

カンナは辛そうに目をそらした。
なんでもありません、と言うかと思ったが、言わない。きっと意を決して聞いてきたのだろう。

「大切な仲間だからだよ」
「……え」
「あと仲良くなりたいから?」

それだけだよ、と笑うと、カンナは泣きそうになった。

「……僕、なんかと……親しくなってもっ」
「私が誰と親しくなろうとしようが自由でしょ?」
「え、あ、でも…僕は…えっと…その…居ても邪魔だと…思います…」
「カンナ」

私はカンナの手を取って、上着に描かれている金魚を指さした。

「カンナ、金魚好きだよね」
「え?は、はい…」
「なんで?」
「え、えーと………まあ、金魚に罪はない、ので…。あの、なんと…なく…?」
「そっか」

私はニコッと笑ってカンナの腕を離した。

「私もなんとなく、カンナと親しくなろうと思っただけだよ。居て邪魔だとか邪魔じゃないとか、そういうんじゃなくて。だから気にしないで。」
「…リノセさん」
「カンナ、もうきみは《デファイ・フェイト》、私の大切な『仲間』だから。」
「はい、マスターの言うとおりです!」

レイも満面の笑みでうんうんと頷いた。

「カンナ、マスターがいないときでも、何かあれば言ってください!私はマスターだけでなく、皆さんをサポートするAIですから!」
「は、はい…!」

はー、やっぱレイかわいい。健気。天使。優しい。かわいい。
現実リアルにお持ち帰りしたーい。
とまあ、無謀な望みを頭の隅に抱きながら、私は2人に笑いかけた。

「よっしゃ、じゃあ続き行こうか!」
「はい!」
「は、はい!」


****


僕は、さっき、一体何を言ってしまったのだろうか。
アファシスいいですよねとか、なんで親しくなろうとするんですかとか、思い返してみれば失礼極まりない。
普段コミュニケーションを取ることがあまりにも少なすぎて、人と会話するときの発言に対する吟味能力が低下しているのかもしれない。
いや、そんなもの最初から、誰にも求められていなかったのだ。
誰も僕と話そうなんて思っていなかっただろうし、僕がコミュ障だったってあの人たちはきっと気にしない。
でもそれにしたって、さっきのはちょっと―――…
ちら、と敵陣ど真ん中に突っ込んでエネミーを蹴散らしている《リーダー》を見る。
…うん、もうわかってる。
あの人は、僕がどんなに失礼な発言をしたって怒らない。
あの人は―――

『私もなんとなく、カンナと親しくなろうと思っただけだよ。居て邪魔だとか邪魔じゃないとか、そういうんじゃなくて。だから気にしないで。』

『カンナ、もうきみは《デファイ・フェイト》、私の大切な『仲間』だから。』

僕がアファシスいいですよね、と言ったのは、もしかして。
…いや、まさか。そんなわけはない。
アファシスはレアアイテムだ。1000万クレジットを投げ売ってでもゲットしようとする人だっている。
僕がアファシスをいいと思うのなんて、世間一般的評価に流された結果にすぎない。
僕は、何も間違ってない。

「カンナ!」
「ッ!」

ガキン、という音とともに背後に迫っていたらしい剣持ちのエネミー、ヒューマノイド・ヘビーが吹き飛び、ピューッと変な音を立てて砕け散る。
―――しまった、ぼーっとしていた。

「すすす、すいません!」
「大丈夫!お返しだよ!」
「……え」

ああ、ここに入る前…リノセさんをサポートしたときのことだろうか。
そんなこと、気にしなくていいのに。僕が勝手にしたこと―――
って、そうか。…きっと、リノセさんは僕と同じことを思っているのか…。
……いや……僕と一緒にされるなんて、嫌かな。

「!カンナ、ちょっとこっち来て」
「?はい…」

急に、リノセさんは手招きしてきた。

「ここ」

そして、何やら壁に張り付いて耳を壁につけている。

「うん、機械の音がする。やっぱりこの先に部屋あるね」
「え!」
「あれ、ここ出っ張ってるね。ボタンかな?レイ!こっち!」
「はい、今行きます!」

なんて目ざといんだ、とまた失礼な考えが浮かんでしまった。
僕は全く気づかなかった。
機械の音はおろか、リノセさんが指さした場所にボタンがあるかどうかすらわからない。

「じゃあいくよ、戦闘準備。」
「はい!」

そして、リノセさんの指が壁を押した、その時。
プシューッ、とドアが開く音がして、広めの部屋に繋がった。
奥にはワープゲートもある。

「突撃!」
「はい!」

そして、また戦闘が始まった。


「さあ、終わった。ワープゲートが開いたから、カンナが先に行ってよ。」
「ぼ、僕がですか⁉」
「うん。エネミーはいないと思うよ。トレジャーボックスか、あるいは…」

そこまで言って、リノセさんは僕の背中を押した。

「じゃ、いってらっしゃい!」
「あ、ちょっと―――」

シュン、と無機質な音がして、次の瞬間にはもう僕の視界にリノセさんやレイはいなかった。

「………ここは……」

リノセさんが言った通り、ワープしてきても、ワープゲートを降りてもエネミーは湧いてこない。
広い空間に僕が一人、僕の足音しか聞こえない。
いや……一人、ではない…?
空間の一番奥、小さい階段を上がったところに鎮座する、人が1人入るくらいの大きさの、カプセル。
あれは、もしかして―――
ゆっくり上って、そっと触れた。
ピンッ、と金属をつついたような音がした。

《プレイヤーを確認。プレイヤー認証開始…プレイヤーネーム、Kanna。マスター登録 完了。》

「えっ、あっ」

そして、僕が慌てている間に、そのカプセルは開いていく。
ふわ、と出てきて浮かび上がってきたのは、臙脂色の髪の男のアファシス。

「ア……ファ、シス……」

そして彼は目を閉じたまま降り立って、やっと目を開けた。
美しい深紅の瞳が僕を映す。

「AfasystemA290-12、起動開始。」


****


「おかえり、カンナ。」
「た、ただいまです……」
「マスター、この人たちがマスターの仲間か?」
「う、うん、そうだよ。」
「!!!Tipe-xですね!」

ワープゲートから帰ってきたカンナは、予想通りアファシスTipe-xを連れていた。
やっぱり、この空間が、私がアファシスの空間に行く前のワープゲートの部屋に似てると思ったんだよね。

「私はリノセ。こっちは私のアファシスのレイ。きみは?」
「俺はハヅキ。よろしくな、リノセ、姉貴!」
「姉貴⁉」
「だってA290-00だろ?俺はA290-12だから!な!」
「な、なるほど!」

レイはぽんと手を叩いた。
そして、カンナを見ると見たことのないピアスをつけていた。
きっとプレゼント機能を使ったのだ。金魚の形の飾りがついている。
……きっと、これでカンナは誰かを信用できる。

―――そこから、ハヅキを加えた4人のパーティでクエストを再開した。



「へーえ!Tipe-x!よろしくね、ハヅキ!」
「おう!よろしくな!」

キリトたちの部屋にて、爽やか系らしいハヅキは歯を見せてニカッと笑った。

「すごいわね〜、《デファイ・フェイト》にあの超レアのアファシスを持つプレイヤーが3人!」

そう言いながら、ツェリスカはデイジーを撫でた。

…ハヅキの初期ステータスは、カンナのレベルとスタイルに合わせて、カンナの5つほどレベルが下になっていた。スキルロールとスタイルはタンク。
まあ、レイの場合は私のレベルが1だったからレイも1だっただけで、これが正常なのだ。
そして、アファシスをゲットしたカンナは、なんとなく嬉しそうだった。


「こ、こんにちは…っ」
「あ、いらっしゃーい!」

そこに、ヤエがやってきた。

「あれ?ど、どうしたんですか?」
「カンナがTipe-xを手に入れたんだよ」
「え!そうなんですか⁉」

ヤエが驚いて、奥のアファシスを見やった。

「あ、あの男の子ですか?」
「そう。名前はハヅキ。」

すると、ハヅキはヤエに気付いて笑いかけてきた。

「よう!俺はハヅキ。あんた、名前は?」
「あ、えと、ヤエです…!」
「ヤエだな!よろしく、ヤエ!」
「よろしくお願いします…っ」

ヤエは少し複雑そうな表情でぺこりとお辞儀した。
…ヤエも、少し引っ込み思案というか、先生にもそう言われてたし…人付き合いが苦手なんだろうな…。
よし。

「ヤエ!ちょっと付き合って!」
「え、は、はいっ⁉」

ヤエはびくっと震えて慌てて準備し始めた。
そしてレイにも声をかける。

「レイー、あのクエストいくよー」
「もしかしてアレですか⁉」
「うん、あれ!」

ヤエと行きたいと思って前々から取っておいたスペシャルクエストだ。
私とヤエ、どっちも威力が高いスナイパーライフルにソードだから、ちょっと似てると思って。

「お、俺も行く!」
「だーめ。私とレイとヤエだけで行ってくるから!」

キリトたちも来ようとしたが、そう言って唇に人差し指をあてがうと、キリトたちは残念そうに笑った。

「いってきまーす!」


「あ、あのリノセさん、あれとは…?」

道中、《残影の荒野》を駆けていると、ヤエが聞いてきた。

「ヤエ、そのコスチュームは《残影の荒野》の隠しエリア《桜平原》でゲットしたやつだよね?」
「え、そ、そうですけど…。」
「この前レイと《桜平原》探索してたら隠しクエストのNPC見つけてね。ヤエとやりたいなーって思って取っておいたんだよ」
「私と?」
「うん」

ヤエに頷いて、アイテム《桜の花びら》を使って《桜平原》への門を開いた。


―――《桜平原》は桜が咲いた、春の京都のようなエリア。
《残影の荒野》に似つかわしくない常春のエリアだ。
そのエリアの中央にある大きな日本の城。
そこの最上階に、「その人」はいた。

「ヨミちゃん」
「あっ、リノセさん!」

ヨミ、と名乗るNPC。
彼女はこのクエストのキーパーソンであり、クエスト発生前は《桜平原》の街エリアで団子屋を営んでいる。
彼女がたまに行く買い出しのとき、ごく低確率でエネミーに襲われる。それで助けてクエスト発生、というわけだ。
自分を助けてくれた強いあなたに頼みたい、と言ってヨミちゃんは言ってきた。
それは、とあるネームドエネミーの討伐。

『そのエネミーの名は《荒ぶる神イザナギ》。妻を亡くした上その妻と離婚することになってしまい、理性を失ってしまった神様です』


次へ続く

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.61 )
日時: 2024/01/13 19:51
名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)

返信60個目&いつの間にかPV2000越えてました。めっちゃびっくりしました。
いつもありがとうございます!まぢ感謝。
これからもこのシリーズをよろしくお願いいたします。


「リノセさん、このかたは…?」
ヤエが聞いてきた。

「この子はヨミちゃん。クエストNPCだよ。エネミー《荒ぶる背理神イザナギ》討伐を依頼してくれる。」
「イ、イザナギ…?それって確か、古事記に出てくる…」
「妻を亡くし離婚することになった、つまり黄泉の国に行ってイザナミに会いに行ったけど姿を見てしまって逃げ出してきた……その後のイザナギみたい。」

レイはわけがわからず首を傾げているが、まあ仕方ないだろう。そりゃそうだ。
この《GGO》に古事記なんてないんだもんね。

「いらっしゃったということは……ついに、討ちに向かってくださるのですね」
「うん。」
「わかりました。」

ヨミちゃんは、すっくと立ち上がった。

「…少し、渡したいものがございます。こちらへ」

ヨミが案内したのはどこか異質な雰囲気の部屋だった。
薄暗くて不気味、だがどこかゆきの家のような…そう、夜の神社のようなところ。
そこにあるタンスの引き出しから何かを取り出した彼女は、何かを手渡してきた。

「これはなんですか?」
「…切符です、とある列車の。戻りの列車はありませんが、そこの食べ物さえ食べなければ、あなたたちは戻れるはずです。どうしても彼を倒せなかったとき、逃げる方法としてお使いください。」

なるほど、それは4つに別れたペラペラとした紙で、切符と言われたらたしかにそう見える。
だが、「切符」の下の行き先はかすれて見えない。
土…?いや、白…?
まあとにかく、緊急脱出用のアイテムをもらったということで。

「じゃあ行ってくるね、ヨミちゃん。」
「はい、ご武運を、皆様。」

ヨミちゃんに見送られ、私たちはそこを出発した。

「マスター、その切符、4枚ありますね?」
「そうだね。…一枚余る?」
「はい、余った分ってもらってもいいんでしょうか…?」

もしかして隠しエリアから行ける新たな隠しエリアとかかな。
そうだったらめっちゃ嬉しいんだけど…。
それにしても変だな。

「クエスト報酬の一部とかでしょうか…。」

ヤエも頭を悩ませるが、まあ今考えても仕方がない。

「パパッと済ませて解決しよっか!」
「はい!」
「は、はい!」




「着いた、あれがイザナギだよ」
「あれが…」
「な、なんだか怖いかたです…。」

確かにそれは、荒ぶる神だった。
イザナギじゃなくて、乱暴な神スサノオじゃないかと思ってしまうほどの。
髪はボサボサで目に光は宿っておらず、怪獣のような声で「ウガオオオオオッ」っと吠えている。

「レベルいくつだろう?あれ」
「レベル……えーっと…。」
「マスター、私…目が悪くなったみたいです。あんな数ありえません!」

嘘でしょ、と現実逃避したくなる。
私たちは強い。トッププレイヤー集団だ。
だからレベル上げも武器やアクセサリーの厳選もして…そのついででレベルも上がった。
もう最大レベルの300まで上げたんだけど。

「なんなの、レベル390って…。」

キリ悪いとかそういう問題じゃなく、純粋に高すぎる。
レベル390のボスエネミーって聞いたことないし。
どうやらエネミーのレベル上限は300ではないらしい。いや、イザナギが特別なのかな?
どうでもいいけど、レベルはどうでもよくないな。

「とりあえず情報収集だよね。最初はいつも通り戦ってみようか。私がソードでヘイト取るからヤエはフォローよろしく。レイ、いつもより回復重視でお願い」
「は、はい!かしこまりました!」

さーて、どのくらい削れるかなー…。



「うわ、硬っ⁉」

霧剣斬・千神でも少ししか削れない。
虚無葬送でもいいダメージにはならなそうだ。
なら…。

ドンッ、と千神のあとにFetal Bulletを撃ってみる。
すると、思ったより削れた。
やっぱり、貫く効果は効きやすいらしい。
だけど、この戦法じゃあ日が暮れてしまいそうだ。

「切符って……、こんなに強いから…渡されたんでしょうか、きゃっ⁉」

ヤエの真横をイザナギの舌がビシッと通る。
間一髪だったようだ。よく避けたな、さすがの反射神経だ。顔合わせのときにキリトが褒めるだけある。

「これじゃジリ貧だ!」
「で、でもどうすれば…⁉」

考えろ、考えろ。強制撤退イベントではないはずだ、それだったらもっと理不尽なはず。
ヨミは特に条件は出さなかったし、無事に送り出してくれて、イザナギを倒してくれって…。
……………イザナギ?
イザナギなんだよね、これ。
なら…イザナミは、どこ?
そこまで考えて、目の前にイザナギが放った目からビームが迫っているのに気づいた。
やばっ、考え事に夢中で気づかなかった。目からビームって何でもありじゃん!
だめだ、やられる―――

「リノセさんっ!」
「っ!」

ヤエのフォローで危機を脱した。
急所に当たったことで一時的にひるんだイザナギは「グゥオ…ッ」と唸る。

「ありがと、ヤエ!」
「いえっ、その………なにか思いつきましたか⁉」

ヤエが必死に戦いながら問うてきた。
レイはヤエと私の回復に専念していて大変そうだ。
早く結論を出さないと。

「いや…妻と離婚して暴れてるってことでしょ?なら、イザナミと再婚すれば問題ないんじゃないかなって」
「え?」
「イザナミはイザナギとの離婚を反対してたって古事記には書いてたし、イザナギが暴れているってことはやっぱりイザナミが好きなんだよね?」
「え、あー……えと、そうかも…?」
「イザナミとまた一緒に暮らせるようにすれば戻るんじゃない?」
「で、でもどうやって!」

そこなんだよなあ…。
イザナミは黄泉の国にいるし……黄泉?

「!!」

私はハッとした。
そうか、そういうことか!

「ヨミちゃんだ!」
「えっ⁉」
「イザナミは黄泉の国にいるんでしょ⁉さっきの切符は土でも白でもなく、黄泉の国行きなんだよ!戻りがないっていうのも、食べ物を食べなきゃ戻れるっていうのもそういうことだ!」

思えば、ヨミちゃんは肌がやけに青白かった。
イザナギを怖がってるのかなあとか思ってたけど、きっと黄泉の国の住人だからだ。
そして、イザナギを討伐すれば―――イザナギが死ねば、彼は黄泉の国へ行くと。そう思ったのかもしれない。
だから彼女は討伐を頼んだのだ。

「で、でも結局どうすれば…!」
「切符使おう、切符!」

つまりは、倒さなくても、黄泉の国に無理矢理連れて行って食べ物を食べさせればいいわけだ。
めっちゃ回りくどいじゃん、何このクエスト…!

「レイ、ヤエ!10秒だけお願い!」
「はい!」
「わかりました!」

そう言って、コンソールを開く。
アイテム欄を開いて―――あった、「古びた切符」。
使う枚数を4枚にして、使う人を選択する画面で。
ああ、やっぱり。
表示されたのは、私たち3人とイザナギ。
私は、迷いなく全員を指定して《使用》を選択した。

「わ!」
「えっ、何…⁉」

パアッ、と視界が白く染まる。
イザナギも攻撃をやめて狼狽えた。
次の瞬間―――

「な、なにここ…⁉」

そこは黄泉の国だった。
どちらかというと明治や大正といった雰囲気だが、やっぱり少し薄暗く、神社っぽい。
そして―――空がない。

「そういえば…」

ヤエが呟いた。

「黄泉の国は地下だって……聞いたことが、あります」
「じゃあ、本当に…」
「ここが、黄泉の国、なんですか…⁉」

そのとき。
ドシンッ、という音とともに地面が揺れた。
あっ、イザナギがいたんだった!早く食べさせないと!

「レイ、ヤエ、どっかに木の実とかない⁉」
「木、木の実⁉」
「さ、探してきますっ!」

レイとヤエが走り出した。
さて…私は時間稼ぎかな…。黄泉の国の住人が一人でも犠牲になったらクエスト失敗、っていうのもなきにしもあらずだし。
でも、私一人じゃちょっとキツイかも。
必死に、避けて反撃を繰り返していると、私は思い出した。
そういえば、SBCグロッケンを守ったとき…。

『刮目せよ。我の真髄をとくと見よ。』

って、《UFG》が光って助かったんだっけ。
っ、一か八かやってみるしかない!
私は、《UFG》を構えた。

「お願い《UFG》!もう一度、あの奇跡をお願いします!」

叫ぶと、答えるように手元の光線銃が光を帯びる。
よし、いける!

「喰らえええええ!」

ドガアアアンッ、と閃光が走った。
そして削れたのは―――いや、やっと四分の一⁉
やっぱり、食べ物を食べさせるのが最適解なのかもしれない。
ちょうどその攻撃でイザナギが大口を開けてのけぞった状態でスタンした、そのとき。

「マスターッ!!」
「リノセさんっ!」
「黄泉の国の八百屋さんがわけてくれましたー!」

大量の果物を抱えた2人が戻ってきた。
っていうか、黄泉の国に八百屋あるんだ。

「いいところに!今だよ、口に放り込んで!」
「はい!」
「え、えいっ!」

ぽーいっ、とヤエの投げた果物が口に入っていった。
レイの投げた果物はSTLが足りないのか、ギリギリ届かずイザナギの耳にぽてっと当たって落ちた。
はぅ、と落ち込むレイがなんともかわいい。

すると。

ゴクリという音と、シャン、という神楽鈴の音が同時に聞こえた。

「!!」
「この音は…?」

イザナギは力なく崩れ落ち、みるみる縮んでいく。
その間に神楽鈴の音は大きくなっていき―――
シャンッ、と一際大きく鳴ったときだった。

「―――イザナギ」

美しくよく通る、そして聞いたことのある声が、した。

「ヨミちゃん!」

そこには、変わり果てた姿のヨミちゃんがいた。
そうだ、黄泉の国のイザナミは醜女と化した、って古事記に書いてあった。
やっぱり、ヨミちゃんがイザナミなのだ。

「イザ、ナミ…」

イザナギの口からこぼれた、どこか切ない声。

「イザナギ、また契りを結びましょう。あなたもこれで黄泉の国の人。一緒に暮らしましょう…?」
「イザナミ…!」

ヨミちゃん、もといイザナミは、イザナギの前にしゃがみ、愛しい伴侶の顔を覗き込んだ。

「ね?わたくし、もう怒っていませんから」

それを眺めながら、私たちはふうっと安堵のため息を付いた。
肩の力が一気に抜けた気分だ。

「やっと終わった…」
「な、なんか…どっと疲れましたね……」
「マスター、お腹が空きました…一個くらい果物食べていいですか?」
「だめだよレイ。我慢して」

はうう、とまたも落ち込むレイ。
心苦しいけど、万が一戻れなくなったら困るので心を鬼にして。

そんな事を話していると、イザナギとイザナミが近づいてきた。

「ありがとうございました、お三方。おかげでわたくしたち、また幸せに暮らせますわ。」
「どういたしまして。」

もう痴話喧嘩はやめてね、という言葉をぐっとこらえて笑った。

「これが報酬です。ついでに、あなたたちを元の国に戻すので―――また来てくださいね。」

食べ物はお出しできませんけどおもてなしします、とイザナミが言うと、私たちの体が光り始める。
…なんかこれ、あの事件の最後みたいな帰り方だな。
イツキと結ばれて、体が光りながら―――って、何思い出してるんだ、なしなし!

「マスター?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫!なんともない!」

ぶんぶん頭を振っているとレイに心配されたが、誤魔化しておいた。
そしてクエスト報酬としてクレジットと、衣装「神加護の衣」のレシピ。そして―――

「どなたかにこれを。感謝の気持ちです」

イザナギが差し出してきた―――剣。
剣についての説明のコンソールが出てきたので、見てみる。

神加護ディユー・ソード
攻撃力に特化した剣。剣身は長いがとても軽く、扱いやすい。神の加護によってクリティカル関係が大幅に増えている。神に感謝された証。装備しているとLUKが5増える。』

とまあ、とてもレアな一品であった。

「これはヤエがもらってよ」
「え!………い、いい…ん、ですか?」
「レイは剣苦手だし、ヤエにいっぱい助けてもらったから。私からも感謝だしね」

はい!受け取ってください!とレイが笑うと、ヤエは顔をほころばせた。

「はい…はい!ありがとうございます……!」

ヤエは最初とは随分変わった。
自信を持ち、必死に戦い、ゲームを楽しんでいる。
ふふ、よかった。
私はレイと話に花を咲かせるヤエを眺めながら微笑んだ。

「さ、疲れたし帰ろっか」
「「はい!」」

そうして、隠しエリアでの騒動は幕を閉じたのだった。

次へ続く

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.62 )
日時: 2024/02/15 06:14
名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)

もうすぐ冬休みという11月。
とうとう、《帝星学園交流》がやってきた。
そういえば、薔薇島 恵美理ってなんか聞いたことあるなあと思ったから、ゆきに聞いてみたんだけど。


☆★☆★

「ゆき、薔薇島 恵美理って知ってる?」

そう問うと、ゆきはあっさりと答えた。

「薔薇島?ああ、あの超お金持ち一家かな。」
「……あー、うん、それ。」

超お金持ちな見た目してるよね、と頷く。
優雅で美しい人だった。

「帝星学園に通ってるお嬢様だったかな?大手家電メーカーの社長が家主だったはずだよ。僕も彼女の父とはよく取引をするよ。お得意様だからね。」

あれ?ゆきの裏の仕事って教育関係では?いや、ファンクラブ会員さんが言ってた「証券」も間違いではないらしいし…いくつ掛け持ちしてるんだろう。神社大丈夫…?
……無理してないよね?

「たしかあの一家は、大手家電メーカーの社長だからって同類のレクトCEOと仲が良かったはずだよ。競争相手ではあるけど、ライバルであり友人って関係らしい。」
「レクトCEOってまさか…アスナのパパ?」
「そう。」
「なるほど、そうなんだ…。」

でも、これじゃあ私との接点はわかんないなあ…。いつあの名前を見たんだろう?

「ああ、そうそう。」
「ん?」
「薔薇島 恵美理、だったかな?彼女はきみと同じ幼稚園のはずだよ。」
「え?」

ニコッ、と笑ってゆきは言った。

「きみは、昔は帝星学園付属の幼稚園にいただろう?」
「…覚えてない、小学生時代が強烈すぎて」

帝星学園附属幼稚園?そんなところにいたの?
ほんとに覚えてない。

「っていうか、なんでゆきは知ってるの?」
「そりゃあ、きみのことは何でも知りたいからね。」

調べましたってか。まあゆきらしいか。ゆきなら別にいい。

「幼稚園を卒園したあとはきみの親がお嬢様学校だと息苦しいだろうからって公立に移したらしいけど」
「そっか、だから私ちょっとだけ友達が少なかったんだ」

幼稚園で一緒だった!っていう人がいなかったんだもんね。
ということで、薔薇島 恵美理さんの既視感の謎は解決だね。

「ありがと、ゆき。わかった」
「そうかい?それはよかった」

優しく微笑んでゆきが頭を撫でてキス―――あああああー!!何思い出してるんだ!
はい!回想!終わり!


☆★☆★


…というわけで。
ぜんっぜん覚えていなかった私は、薔薇島さんへの反応で少々困りそうである。
ゆきに言われはしたものの、幼稚園時代は全く覚えていない。
…思い出そうとすればうっすらとは浮かんでくるけれど。
薔薇島さんは私のこと覚えてたのかなあ。覚えてたから会議の日に話しかけてきたのかな?
幼稚園の卒園アルバムどこに置いたっけなあ…。
はあ、と小さくため息を吐いた。

『では、中央光星高等学校の出し物です!』

いつの間にか結構進んでいたらしい交流会。
薔薇島さんのスピーチはとっくに終わり、ついにこちら側の出し物を披露することに。
チラ、と香住を見るとバチッと目が合った。
大丈夫?という視線を送ると、グッと親指を立てられる。
なぜだろう、香住に親指立てられても全く安心できないのは。

『帝星学園の皆様、こんにちは。出し物グループです!』

香住がマイク越しに言うと、1、2年のみんなが帝星学園の生徒たちの前にテーブルを並べる。
そして、その上には―――鍋?

『今回は、安い材料たっぷりで庶民の味方!カレー鍋です!』

えっ。
びっくりしていると、私たちの前にも鍋が並べられる。
…庶民特有の出し物ってそういうこと?確かにカレー鍋は庶民特有…かもしれない。
っていうか、お金持ちって普段何を食べてるんだろう?
見てみると、帝星学園の生徒たちは「なんだそれ」という顔をしていた。
その中で、あからさまに輝く目をしているのが2人。
啓治と…薔薇島さん?
啓治は庶民の味を知ってるしカレー好きだからわかるけど、あれ?
薔薇島さん……落ち着いて見えるけど、目がものすごく輝いている。というかまばたきしてない。大丈夫そう?

「……カレー鍋」

あ、呟いた。
食べたそうだなあ。
今まで私と少し違うように感じていた薔薇島さんに、急に親近感が湧いてしまった。




…結局、薔薇島さんは猛スピードでカレー鍋を感触した。
手持ちのハンカチで「ごちそうさまでした」と口を拭く。
……あのハンカチ、バラの刺繍がしてある。そういえば、髪留めとか色々、バラの模様だらけだ。
好きなのかな、バラ。好きなんだろうな。薔薇島だし。
それと同じくらい、カレー鍋も好きそうだな。チラチラ鍋見てる。
でも、おかわりはしずらそうだ。

「……。」

私は、そっと立ち上がった。

「薔薇島さん」
「あっ、はい?」

私は、薔薇島さんの前にそっと、手を付けていないカレー鍋を置いた。
お金持ちから見て、手を付けていないとはいえカレー鍋をあげることは失礼に見えるのだろうか。
でも食べたそうだからいいよね。せっかくの交流会なんだから、こういうときくらい庶民の味を楽しんでほしい。

「私、今日ちょっと食欲がなくて。まだ手を付けていないので、私の分も食べていただけませんか?」
「よろしいのですか…じゃなくて、よろしくてよ。体調は大丈夫ですの?」
「はい、少し休めば治ると思います。ありがとうございます。」

今よろしいのですかって言いかけたね。なかなかかわいいじゃないか。
ふっと微笑んでから、私は自分の席に戻った。

…もしかしたら、というかもう確実だけど、薔薇島さんは羨ましいのかもしれない。「普通」が。
この前も思ったが、超お金持ちのお嬢様という肩書の背景に制限は多い。
お嬢様教育や自由にできない身分の息苦しさの中、帝星学園トップだという彼女は、一体今までどれだけの重圧を背負ってきたのだろう。
そんな彼女が、ちょっと不自由があっても比較的自由に生きられる「普通」に羨望を感じるのは当然かもしれない。

そして同時に、私たちは彼女たち「富豪」に羨望を抱く。玉の輿したいなあとか、偶然にも株で大儲けしないかなあ、とか。
結局、私たちの根本は同じ人間。お金があろうとなかろうと、お互いにないものねだりなのだろう。
薔薇島さんも私も。香住も漣くんも、ゆきも紅葉も、みんな。

「よ、よかったんですか?凛世さん」
「ん?」

しばらくみんなを眺めていると、恐る恐る八重子ちゃんが話しかけてくる。
イザナギの件が片付いてから、彼女は少し私に打ち解けてくれた。
今日も隣で交流会を一緒に楽しんでくれている。
そんな彼女は、私が具合が悪いわけではないのを知っていたのだ。

「せっかくのカレー鍋…。学校で食べる機会も少ないですし…凛世さんさっきまですごくワクワクしてたじゃいですか。……あっ、思い違いだったら、ご、ごめんなさい、ウザいかもしれないですけど…」
「ワクワクしてたの、バレてたか。なんだか恥ずかしいね」

私はてへへと舌を出した。
学校でみんなとカレー鍋……すごーく憧れだったから、企画を聞いたときにめっちゃいいじゃん!ってワクワクしてたんだけどね。

「いいんだよ、これは私たちからのおもてなしなんだから」

帝星学園をもてなしているんだし、こういうときは積極的にサービスしたい。
あとはまあ、薔薇島さんを覚えていなかった謝罪も込めて、ね。

「そうですか。……凛世さんらしいです」

そう言って、八重子ちゃんはにっこり笑った。
うっ、何だこの天使の微笑みは。ずっと笑ってたら絶対モテてたのに。
そして、八重子ちゃんは自分の器に視線を落とす。

「じゃあ……えと…っ……わ、私のを一口……どうぞ」
「いいの⁉」

八重子ちゃんは、私にカレー鍋が入ったスプーンを突きつけてきた。

「私からの…お、おもてなしです。はい、あーん」

何だこれは。
八重子ちゃん、さては天然だな?最初に会ったときのビクビクしてたのはどこに行ったんだ。
心を許したらふわふわするタイプなのか?
私は少し迷ってから、女の子だしいいかと思って、ありがたくいただいた。

「んー!うまっ」
「ふふ、ですよね」

すると、一瞬だけ、眼鏡越しに純粋な茶色の瞳がかげりを帯びた。
まるで楽しさからふっと我に返ったような、そんな八重子ちゃんを無言で見やる。
八重子ちゃんは、一拍置いてから寂しそうに口を開いた。

「あの……う、うっとおしいかもしれないんですけど…言ってもいいですか?」
「どうぞ?」
「私……転校する前も……り、凛世さんくらい…仲良くしてくれた人が、いたんですけど」
「?」
「あの…わかってると思うんですけど……私、どもっちゃうし…引っ込み思案だし…友達、あんまり作れなくて」

八重子ちゃんは、自分の白のカチューシャをなぞった。
無意識なのだろうか、彼女はよくカチューシャに触れる。

「私…か、変わりたいんですけど………。凛世さんに相談するのも、見当違いだって、わかってるんですけど…」

八重子ちゃんは私をじっと見つめた。

「あのっ……どうしたら、私…変われると、思い…ますか…?」

対して、私はニコッと軽く笑う。

「大丈夫。多分だけど、《GGO》で一緒に楽しんでいれば変われるよ」
「え?」
「レイもイツキも、クレハもツェリスカも、キリトもアスナもシノンもみんな、明るくて活気があっていい人たちでしょ?すぐ仲良くなれるよ」
「……」
「それに、変わりたいと思っているのなら少しずつ変わっていけるし。まあ、私は今も十分魅力的だと思うけど」
「凛世さん…」

さっきだって頑張って私に話しかけてきてくれたし。話しかけられることがほとんどの八重子ちゃんにとってはだいぶハードルが高かったんじゃないだろうか。

「そういうことは急がなくていいんだよ。まだ私たち若いんだし」

そう言ってはにかんで見せると、八重子ちゃんはようやく安堵したような表情を見せてくれた。

「は、はい。ありがとうございます」

―――ゆくゆくは、私にタメ口で話してくれると嬉しいな。
私は、そんな本音を心の中にしまって、彼女から視線を外した。

さて、視線を外した先にいたのは。

「…あ」
「……」

ゆきだった。
そういえば来るって言ってたっけ。
ゆきはとても優しい顔をしていた。こんなところで愛しいものを見るような目をしないでほしい。照れてしまう。
そう、自惚れとは思えないほどドロドロに甘い、そんな目をしていた。
―――会場の喧騒が遠い。ここには沢山の人がいるのに、まるで私たちしかいないような、そんな気さえする。
ふ、とゆきが微笑んだのが見えた。
私は、ゆきのこの微笑んだ顔が、一番好きだ。

「凛世?どうかした?」

それもつかの間、視界いっぱいに三角巾をつけた香住が映る。
眼の前にずいっと出てきたらしい。気づかなかった。

「ちょ、びっくりさせないでよ。…何にもないよ」
「本当に?なんかボーッと見てたみたいだけど。カレー鍋もうすぐなくなるけどいいの?」
「それはいいんだよ。ありがとう」

特定の対象を見つめてたのはバレてるわけね。
誰を、何を見てるのかバレなくてよかった。
とは言っても、香住はゆきのことは知ってるし、からかわれるかどうかの違いなんだけど。
からかわれたらこっちだって漣くんネタでからかい返して…だめだ、惚気けられるだけだし。
私は親友には勝てないらしい、口では。《GGO》では負けないけど。

「……」

チラッともう一度ゆきを見てみれば、ゆきは隣の来賓客に話しかけられていた。
少し寂しく思ってしまうが、今までゆきが見てきていたことに気づいていなかった私が言えることじゃない。
…次は気づこう。
それに、この《帝星学園交流会》が終わったら《GGO》で待ち合わせしている。
…楽しみだな。
そう思いながら、私は再び香住たちの会話に意識を向けた。


次へ続く

進み遅くてほんとごめんなさい。


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