二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.77 )
- 日時: 2024/11/20 21:00
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
「ネフィラは、なんでここに?」
「ウチ?もちろんフィールド攻略よ、ここは戦い甲斐があるしなあ」
「うん、たしかに」
戦い甲斐があるのはまあわかる。
だけどさっきの視線が気になりすぎていらない疑いまでかけてしまいそうだ。
「にしても嬉しいわあ、あの有名な、リアルラック持ちのトッププレイヤーに会えるなんてなあ」
「そりゃどうも」
「リアルラックといえば、それがアファシス?かわいいなあ~ウチも欲しいで~」
ネフィラはどんどん話を進めていく。
なんというか、コミュ強なんだろうなあ……。
ペースへの乗せ方が絶妙に上手い。
「そうや、折角やしフレンド登録せん?」
「え?」
「仲良うしたいと思うとったんやで」
「いいの?ありがとう」
ぐいぐいくるネフィラににこにこと笑顔を返しながら、私はネフィラにフレンド申請を送ったのだった。
****
「……うーん、ここもだめか……」
ネフィラと一旦別れたあと、私たちはダンジョンを探しがてらフィールドを探索していた。
だが、どこも入れない。赤い障壁が私たちを阻むのだ。
「条件が満たせてないのかな…。」
「1回帰るか?アルゴに聞いてみるとか」
アカが言ってきたが、私は少し考えてから首を振った。
「1回、アファシスレプリカに話を聞いてみよう」
近くにいたレプリカに声をかけると、レプリカは私に向き直った。
「なんでしょうか?」
「私たち、このあたりを探索しに来たんだけど、ダンジョンに入れなくて。何か知ってる?」
すると、その子は途端に顔を曇らせた。
うーん、だめそう。
「……すみません、外部の方に機密事項を漏らすわけには」
「機密事項」
ふうん、と私は頷いた。
まあ、話して貰えないところまでは想定内だ。
さて、と私はハヅキを振り返った。
「ハヅキ」
「ん?なんだ?」
「ちょっと来て」
アファシスレプリカ。
彼らはアファシスの試作品、よって『アファシス』であって《アファシス》ではない。
だから雪原のダンジョンではハヅキじゃだめだった。
そして今度はハヅキの番なのだ。
ハヅキでなければいけない。
なぜならば《アファシス》は正規品であって、試作品ではないのだから。
「ダンジョンに入れないんだけど何か知らないかって、聞いてみてくれる?」
「わかった。なあ、ダンジョンに入れないんだが、なんか知ってるか?」
ハヅキを見ると、その子は表情を一変、にこやかな笑顔で応対を始めた。
「こんにちは、わかりました。パーティのみなさんにダンジョンへのライセンスを付与します。」
…わお、予想していたとはいえ、こんなにガラッと変わるものなんだね。
感心している間にも、二人の間で話は進んでいく。びっくりするほどするすると。
そして、私たちは無事ダンジョンに入ることが出来たのだった。
「あ、あの、リノセさん、いったいどうして…!?」
カンナが困惑して聞いてきた。
まあそうなるのも無理は無い。何も言ってなかったし。
でも、確信を得てから話したかったのだ。
「ハヅキはアファシスじゃない」
「え!?」
「……!?」
「マザーコンピュータから話を聞いてきたの。『彼ら』の中でも特に成功していたとされる個体は、そのままアファシスとして使っていることもあったって」
《ホワイトグラウンド》にいるレプリカたちは、《アファシス》としてはダウンスペックだから実用とはいかなかったけどここで活用されている、「準成功個体」。
そしてハヅキのように、レプリカの中でも「正規品」に匹敵するスペックを持った個体が、「レプリカ」の認識のまま、正規品の型番を与えられて、ハヅキとカンナが会ったあそこに配置されたわけだ。
その諸々を説明すると、ハヅキとカンナは目を見開いた。
「俺、レプリカだったのか…」
「す、すごいよ、ハヅキ!」
カンナは目を輝かせてハヅキに飛びついた。
「……すごいのか?俺…」
「すごいよ!し、試作段階でも、すっごく優秀だったってことだし……!!」
既にカンナとハヅキはとても強い絆を結んでいるようだ。
困惑はしてたけど、やっぱり伝えても大丈夫だったか。これならもうちょっと早めに伝えてもよかったかも?
とにかく一安心。
「それじゃあ、攻略を始めよう!」
****
そして、ダンジョン攻略が終わったあと。
引き続きダンジョン攻略とフィールド探索に勤しむアカやハヅキたちと別れ、私とイツキ、レイはとあるスコードロンのホームにやってきた。
「やあ、リノセちゃん」
「あ、りs…じゃなくて、リノセ!いらっしゃい!」
「こんにちは、フレイヤ、サザカ」
そう、ここは《GGO》での香住と漣くんのスコードロン。
現実で平日毎日会ってるのに、《GGO》で会うのは久しぶりってだけで何だかしばらく会っていなかったような気持ちになる。
「今日は僕たちに話があるんだっけ?」
「そうそう、だーいじなお話」
香住には優しいけど、漣くんは利益に貪欲というか、とても強かというか、とにかく隙のない人物だ。
だから今回の「お話」はそんな漣くん…いや、サザカも受け入れたくなるようなイイ話を持ってきた。
にっこり笑った私からそれを感じ取ったのか、満足そうにサザカは別室に案内してくれたのだった。
「紅茶しかないけど、どうぞ」
「《GGO》で紅茶出せるだけで十分だよ、ありがとう」
遠慮なく紅茶を1口。
これ、アールグレイティーかな。この紅茶には始めたばかりの頃からいっぱい思い出が詰まってるんだよね。
「…レイ、この紅茶なんて言うんだっけ」
「あーぐるれいてぃーです!」
隣でイツキがぷっと笑った。
私はなんとかそれを抑えるのに成功する。
いやだって、懐かしくて、嬉しくて、かわいくて。
「アールグレイティーね」
「?どこか違いましたか?」
「ルとグが逆」
「はっ!?」
レイは衝撃を受けたらしく目を見開いた。
あーかわいい。癒される…。
「さてと、コメディはこのくらいにして」
私は、サザカとフレイヤを一瞥すると、コンソールを操作して、2人にとあるメッセージを見せた。
『宣戦を布告する』
そう、送られてきたあのメッセージ。
「宣戦布告?あんた、こんなの送られてきたの?」
「うん。まあ、いろいろ恨みは買ってそうだし」
《GGO》において悔しさと恨みは紙一重、というか悔しさが恨みになりやすい。
その矛先として私は巨大な的もいいところだろう。
「知り合いに調べてもらったら、相手結構な人数らしいんだよね。だから、サザカとフレイヤにも力を貸してほしい」
「僕たちだけでいいのかな?」
「うん。少数精鋭で行きたいし、私たちのスコードロンも人が増えたからね」
それにこの前、ユーハから新しい情報が届いた。
どうやら肩書き持ちのめっちゃ強い人たちも数人相手側に参戦するみたいなのだ。
それ相手じゃあ半端な実力の人は足枷になりかねない。
『最も警戒すべきは有能な敵ではなく無能な味方』
とは言ったもので、みんな「無能」だとは言わないけれど、私のかつての姿みたいに育ちきっていない人たちを入れるわけにはいかないのだ。
だから今回は、サザカとフレイヤだけで。
「で、こっちに利益は?」
サザカは当然というように微笑んで言った。ちなみにフレイヤは「抜け目ないうちの彼氏かっこいい…」と真面目に考えていない。そのうち絶対それを漣くんに逆手に取られるだろう。頑張ってくれ。
そして私はにっこりと微笑んだ。
とあるものをストレージから出してみせる。
「そういえば私たち、最近は専ら《ホワイトグラウンド》の攻略に勤しんでるんだけど」
「…っ!それは……!!」
「そのダンジョンにはそれはもうレアアイテムがいっぱいで…この剣とか、最高レアリティなんだよね」
チラ、と私はサザカを見た。
そう、手に持っているのは光剣。サザカが前から欲しがっていたもののレジェンダリーウェポンだ。
「う、嘘だ。《ホワイトグラウンド》のダンジョンに入る方法は解明されてなかったはず…」
「正規法じゃないけど、入れたからいいの」
レプリカを見つけた人だけが入れる、なんてことはあるはずがない。
だから正規の攻略法は別にあるはず。だけど私たちは入ることが出来た。多分、今回私たちがダンジョンに入った手段はショートカットバージョンだろう。
「一緒に戦うなら、共闘の練習が必要だから一緒にダンジョンに潜ってもらいたいんだよねー」
チラ、ともう1回サザカを見る。
サザカは、口角を上げた。
「乗った」
****
「ふー、ダンジョン攻略完了!これで何個目だっけ?」
「5個目。《ホワイトグラウンド》探索も終盤だな」
アカが笑った。
ここの敵は手応えがあって戦うのがとっても楽しい。だからみんな、私も含めて上機嫌だ。
「ヤエはどう?イツキとのスナイパーもずいぶん板に付いてきたね」
「は、はい!みなさんのサポート、やりがいがあって楽しいです!」
「よかった、カンナはどう?」
「あ、あの……僕、前衛ですけど……ハヅキとの、連携とか……リノセさんも、ぼ、僕のやりたいこと、やらせてくれるので、その……楽しい、です……!」
「そう?それは何より」
最初はぎこちなかった2人も、もうずいぶんと打ち解けた。
それが何よりも嬉しい。私は「みんなとお友達」とまではいかなくとも、仲間とはいつだって気楽でいたい。
「ちょ、凛世、じゃない、リノセ!」
「ん?どうかした?」
フレイヤが腕に飛びついてきた。
首を傾げると、フレイヤはいつぞやにクラスメイトに愛用の消しゴムを踏まれたときのような気迫で迫ってくる。
「あんた、ゲーム上手いのは知ってたけど、どうやったらそんなに強くなるわけ?連携とかすっごいじゃない!」
「嬉しいなあ、ありがとう」
「ありがとうってもう、なんか毒気が抜けるわ……」
でもそうじゃない、とフレイヤは弱々しく首を振る。
「でもそうよね、あんたって好きなことには全力よね」
「!」
「どうせ何時間も《GGO》に篭ってたんでしょ?なんか春からやけに早く帰ると思ったら」
「フレイヤ……」
私は、《幸運の白星》だ。
確かに運がいい。
そして私は、多くのプレイヤーに「《GGO》1の天才」とも言われる。
確かに、才能の面も大きいかもしれない。
でも、私なりに努力は積んできたのだ。
《SAO》だって必死に生き延びてきた。最初は私も下手くそだったし。
英雄、確かにそう。
私は《SBCフリューゲル》の危機を救った英雄であり、《SBCグロッケン》の危機を救った英雄の1人でもある。それは事実だ。
でも、私は私を見て欲しかった。
『男性が多いスコードロンだとマスコット扱いされちゃうから、スコードロンには長居しないようにしてるの』
『わかる。実力以外で評価されるのって、あまり好きではないわ』
キリトたちと出会った頃に聞いた、クレハとシノンの言葉。
それと同じだ。
《英雄》ではなく、《リノセ》として見て欲しかった。
「……ありがとう、フレイヤ」
その言葉、私にはひどく刺さる。
流石は私の親友だ。
「さて、じゃあここらへんで解散しよっか。銃弾の補充もしたいし」
「さんせーい。俺1回寝るわ」
「ねえエイジ!エイジ!この前連れてってくれたカフェ、どこだっけ!」
「まずは《SBCグロッケン》に帰るぞ、ユナ」
みんなで伸びをする。
適度な休息は攻略のコツ、なんて《ホワイトフロンティア》で三徹した私の言うことじゃないけど。
でも攻略のためだけの解散ってわけじゃない。私たちにはあんまり時間がないから、一つ一つの行動に複数の目的を持たなきゃいけないし。だから、今回の解散にはもう1つ目的がある。
夜9時半時……もうすぐ約束の時間だ。
「じゃあ、明日の放課後にまた」
「ああ。お疲れ様」
「……お、お疲れ様です……!」
「おつかれー」
「みなさん、お疲れ様でした!」
レイとイツキと3人で一足先にグロッケンに帰る。
そして、私とイツキはレイを労ってチーズタルトをご馳走してから、目配せをしてログアウトするのだった。
『《マギナ》?』
『そう。名前と姿を変えながら、VR空間内でデジタルドラッグを売りさばいたり、まあ、他にも色々とやっている闇ブローカーなんだ。他の例はセンシティブすぎるから自粛しとくけど、ほんとにもう、いろいろでね』
菊岡さんの依頼は、特定のVR空間に《マギナ》を誘き寄せて欲しいとのことだった。
簡単に言ってくれるけど、それには《マギナ》からの信用が不可欠だ。
だから《GGO》で知り合うだけじゃなくて、ちゃんと現実リアルで接触しなきゃね。
「それにしても、本当に行くのかい?」
家まで迎えに来たゆきが、不満そうに眉を顰める。
そんなゆきはスマートカジュアルではあるが優雅な服だ。私もフレアスカートの紺色ロングワンピース。フォーマルでエレガントを目標に服を選んだ。
というのも。
「何言ってるの。普通は女性同伴なんだよ?それにゆきが行くなら行くに決まってるじゃん。ゆきは私の彼氏なんだから」
「……それはかわいいけど、僕としてはきみを見せたくないんだよ。それにきみがあんなところに行くだなんて、考えるだけでも嫌なんだよ。きみに惚れる人が出てきたらどうするんだい?」
ゆきは、私の編み込みの髪を掬って口付けると、私を心底心配そうに見つめた。
「―――ナイトクラブなんて」
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.78 )
- 日時: 2024/11/23 20:21
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
「会員証を」
ガードマンの言葉に従って、私たちは金色のカードを提示する。
それを確認したガードマンは、一歩下がって礼をすると、扉を開けてくれた。
「ようこそ、今夜もお楽しみくださいませ」
「どーも」
じゃあ行こうか、と微笑むゆきに頷き返して、ガードマンの横を通り過ぎる。
よかった、問題なく通れた。抜け目は無かったはずだけど、後ろめたいことがあるとやっぱりドキドキするなあ。
煌びやかな光とともにたくさんの人たちが楽しんでいるここ、ナイトクラブ。
唯葉の力も借りてわざわざナイトクラブの会員データを改ざんして会員証を手に入れた私たちは、上手くアクセサリーやメイクで顔を隠しつつも無事に潜入に成功していた。
というのも、ここには顔を隠している人なんていくらでもいるのだ。
にしても、ゆきはともかく、私は《GGO》で顔を変えていないから顔が割れている。
今回私は別の名前で来たけれど、顔で「私」とバレてしまえば都合が悪い。
そうしたら菊岡さんに手を回してもらうとはいえ、それは避けたかった。
だからバレなそうな見た目で入れてよかったよかった。
そして、目的の《マギナ》との約束はもう取り付けてある。
《マギナ》とは予定通り《GGO》で知り合った。
とある人からの紹介だ。その人とは少し前に知り合って、《マギナ》の友人で闇ブローカーを辞めさせたいと言っていた。
まあとにかくそんな感じで《マギナ》を紹介してもらい、その人物が《マギナ》であるという裏も取れたので作戦に移した。
今回、私たちは証拠集めも兼ねて《マギナ》から《GGO》内のデジタルドラッグやら何やらの情報を引き出しつつ「例のもの」の取引を行う。
現実リアルで《GGO》の取引をするのだから実際にものを交換するわけではなく、現金の代わりに「例のもの」が《GGO》のどこにあるのかを教えてもらうだけ。
《マギナ》の人格的にその場所を偽られることは無い。菊岡さんが実際に取引した人から引き出した情報ではそう言っていた。
まあ、偽ったら闇ブローカーとしての信用が地に落ちるだけだからその可能性はゼロに等しいだろう。
ということで。
「……」
無言で「彼女」の隣に座る。
ここはバーだ。しかも裏社会御用達の。
ここを選ぶのは定番だ、《マギナ》がそうくるのは予想済み。
一応ディーラーは菊岡さんに手配してもらった。
「《カナ》と《スノウ》ね」
そう、今回は身元を隠すために《カナ》と《スノウ》という名前にした。
《マギナ》の確認に対して、私は黙って封筒を取り出す。
「約束のお金」
《マギナ》は封筒を受け取って中を覗き込む。
それから約束の金額が入っていると確認したらしく、満足そうに頷いた。
「…例のものは、このアドレスのホームの棚に」
「………」
黙って、差し出されたメモを受け取る。
このアドレスはやっぱり、キリトたちが借りている部屋みたいに、フリーで貸出している自由な部屋のものだ。
…まあ、そう簡単にホームのアドレスなんか教えてくれないか。
じゃあ、仕掛けるしかない。
「どうも。…今回は、お安いのね」
そう言ってみると、《マギナ》はぴくりと身動いた。
「…安い?」
「ええ。捕まった、前の取引相手はもっと高かったの。それに比べたら随分とお安いわ」
……演技として仕方がないとはいえ、恥ずかしいな、この口調……早く終わらせないと。
私はそう思って口角を上げる。
「ねえ、仕入れはどんな風にしているの?参考にしたいわ」
「…………なんの参考?」
《マギナ》は、仕入れのルートを聞き出そうとする私に警戒心を抱いたようだ。
まあそうなるだろう。ここまでは予想通り。
「僕たち、実は仕入れた『もの』を更に別の人に売りつけているんだ」
「…へえ?」
「きみたちだって同じことをしているだろう?僕たちだってこの事業がバレると大変だから、更にワンクッション挟んでるんだ」
「なるほど、だから仕入れのルートが気になる、と…」
ちなみに、この話はゆきのアドリブである。
流石はゆき。上手く話を繋げてくれた。
心の中で感嘆していると、《マギナ》が頷いた。
「教えてあげてもいいわ。でもその代わり、あなたたちの顧客を1人、私に頂戴」
「…ふうん?」
「それでwin-winよ。いいでしょ?」
……なるほどね。
今、私は《マギナ》に「元の取引先はもっと高かった」と言った。
それで取引が成立していたのだから、《マギナ》は「相当金払いのいい顧客だ」と思ったはず。
だから顧客と取引先を交換、ってわけだ。
「…まあいいわ、じゃあ『例のもの』の場所に、『例のもの』と引き換えに顧客と取引するVR空間の詳細を置いておいてあげる」
これで釣れてくれればいいな。
本当はここで信用させて《GGO》で近づくつもりだったんだけど、これで手間が省ける。
「わかった、じゃあそのVR空間で私からもルートの詳細を連絡するわ」
―――釣れた。
成立ね、と微笑むと、私はカウンターにチップを置いてゆきと立ち上がった。
「じゃあまた、《マギナ》」
「本当に鮮やかだったよ、《カナ》」
「そう?よかった。《スノウ》も咄嗟の判断ありがとう。これで面倒な依頼がもう1つ終わる」
****
そして、約束の日、とあるVR空間にて。
「…早かったね、《マギナ》」
私はそう言って微笑んだ。
視線の先には、さっきログインしてきたばかりの《マギナ》。私を見て、隣の《スノウ》を見て、満足そうに頷く。
「いえ。取引先は?」
「仕入れルートを聞かれたくないかと思って。待たせてるよ」
「…そう。なら話は早いわ。取引を始めましょう」
《マギナ》はそう切り出すなり、仕入れルートについての話をし始める。
私やゆきが「物」を仕入れられるくらいには情報を引き出したくて細かく質問すると、本気でその仕入れルートを使うつもりらしいと受け取ったのか、《マギナ》はすべてに答えてくれた。
「……仕入れルートの話は以上よ。今度はあなたの番」
《マギナ》が言った。
うん、たしかに聞ける分は聞いたかな。
じゃあ…。
「どうぞー」
虚空に向かってそう呼びかけると、間を開けずにその人が姿を現した。
「…ねえ、もうちょっといいカッコなかったの?」
「厳しいこと言うなあ。呑気にアバターメイクしてる暇なんかないんだよ」
私にそう返したのは、顔だけが何故か黒髪でこれといった特徴が見られないような完全モブ顔に変わっている菊岡さん。
せめてそのアロハシャツだけでもどうにかならなかったのだろうか。
「いやいやそれにしても、よくやってくれたね、《カナ》に《スノウ》?」
「はいはい、どーも」
菊岡さんは大袈裟に手を広げて見せた。
結構シュールだ。
「…どういうこと?」
「んー?約束はちゃんと果たしてるよ?私たちの《お得意様》、よく仕事を斡旋してくれる、《警察》」
「んなっ!?」
嘘はいっぱいついたけど、約束は果たしてるよ。
私の顧客、つまり取引相手と会わせること。
「じゃ、じゃあ、取引したデジタルドラッグはどうしたのよ!あなただって受け取っていたじゃない…!」
「きみが取引を行っていた証拠品として提出したよ。どうやって入手したとかは、まあそのうち《お得意様》ご自身で揉み消してくれるだろう」
ゆきの発言に、《マギナ》の顔が凍りついた。
コンソールを呼び出すも、ログアウトボタンがない。
「なっ、なんで…!!」
「はいはい、無駄だよ《マギナ》くん、逃げ道なんか無くしているに決まっているじゃないか!」
また演技じみた口調で言った菊岡さんが指を鳴らすと、《マギナ》は何かに縛られたように動けなくなり、倒れ込んだ。
うわあ、痛そ…ってそうか、ここVR空間だから痛覚ないんだっけ。
そんなことを考えていると、彼女は私とゆきを睨みつける。
「まさか…あなたたちを紹介した《彼女》も、最初から…」
「そう、私たちがあなたを捕まえるつもりなのを知っていた」
そう答えると、顔面蒼白だった彼女の顔は、みるみるうちに真っ赤になっていった。
相当怒っているみたい。まあ、そりゃそうか。情報提供してくれた「彼女」のこと、それはもう信用してるみたいだったし。
それでも、裏社会で誰かを信用するにはこの人は見る目が無さすぎる。
「あの女…!私の情報を売ったわね…!嘘つきっ、嘘つきっ、嘘つき!!許さない、許さない……!!!いつか絶対、絶対倍返ししてやるんだからああっ!!」
《マギナ》は、拘束から逃れようと暴れながら叫び続けた。
「ネフィラああああああああああ!!!!!」
****
「イツキ、最近リノセちゃんと仲はどうだ?」
「………」
「なんだよ、睨むなよ」
「馴れ馴れしい。僕のリノセをちゃん付けしないでくれるかい?」
「おいおい、リノセちゃんは気にしてねぇからいいじゃんかよ!」
ここは、《SBCグロッケン》のこぢんまりとしたカフェ。僕らしかいない店の中で、その男は僕の肩に腕を乗せてくる。その男は毎度毎度、リノセにだけじゃなく僕にも馴れ馴れしい。
はあ、と僕は見せつけるように大きなため息をついた。
「相変わらず冷てぇなあ、イツキ。俺とお前の仲じゃねぇか」
「僕はきみとそんなに仲が良かった記憶がないんだけどね」
そう返すと、まじで変わんねぇのな、と彼は肩を竦めた。
「まあいいや、折角会ったんだしゆっくり話そうぜ!」
「とか言って結局狩りに付き合うことになるんだろう?知っているよ」
「ははは!よくわかってんじゃねぇか!そのうちリノセちゃんも混ぜて行きてぇなあ」
「タイガーくん」
「なんだよ、俺はツェリスカ狙いなんだからいいだろうがよー」
その男、プレイヤー名「タイガー」は唇をとがらせた。
例え好いている女性が他にいたとしても、男性をリノセに会わせたくない気持ちをタイガーくんはわかってくれないのだろうか。
リノセと仲良くなってツェリスカに仲繋ぎしてもらう、なんてことはタイガーくんに限っては考えていないだろう、その点だけは信用できるが。
それとこれとは話が違う。
「とにかく駄目だ」
「イツキのケチ野郎。じゃあ狩り行こうぜ!」
「今日は用事があるから1時間だけだよ」
「おう!出発!!」
タイガーくんは拳を突き上げる。
クラインくんにも似た快活さを持つ男だ。
お調子者だが咄嗟の判断が優秀…なんだ、ここまでクラインくんに似ているのか。
世の中不思議なこともあるものだ。
まあ、この潔くて恨めないところは嫌いじゃない。
これからもほどほどに付き合っていこうと考えながら、僕はタイガーくんとそのカフェを出るのだった。
****
「やあ、凛世。今日も可愛いね」
「……あ、ありがとう?」
玄関で出迎えると、ゆきはまず私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「……話す覚悟、したよ」
私はゆきの目を真っ直ぐ見つめた。
そう、話す覚悟をした。
「できた」かはわからない。でもなるべく「できた」に近い状況になるように、努力「した」。
私はふうーっと深呼吸して、告げる。
「事故が起こった日、お父さんとお母さんがどうなったのか」
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.79 )
- 日時: 2024/12/06 07:36
- 名前: 水城イナ (ID: VfitXk9z)
「……凛世」
お兄ちゃんが、私を心配そうに呼んだ。
それが聞こえて、お兄ちゃんが心底心配して私を見つめているのを知っていて、私はお兄ちゃんを見ることが出来ない。
ささくれ1つない整えられた右手の爪をただただ見つめて、意味もなく掌を広げてみて、閉じて、爪の表面を撫でてみて。
涙が零れるみたいに、蛇口から水滴が落ちるみたいに、ぽとん、と、言葉を落とした。
「…事故が起きた日」
「……」
「私は救急車に乗せられてからしばらくして、気絶した」
痛かった。辛かった。でもそれ以上に、みんなが心配だった。
お父さんが血塗れだった。お母さんが返事をしなかった。お兄ちゃんが、私を庇って頭から血を流していた。
それが、その頃の私にとってはあまりにも、あまりにも辛くて。
「それで病室で目が覚めて、すぐにみんなの様子を尋ねたの、そしたら」
『あら、可愛い子ね。お名前は?』
『…凛世ちゃんのパパは、もう起きれないの』
「……っ」
あのときを思い出して、ずくりと胸の奥が痛む。
だめだ、ここで止まったら何も進まない。
『じゃあ、明後日で』
ゆきにせっかくそう言ったのに、約束の『明後日』だった1週間前、私は今日まで引き伸ばしてしまったのだ。
『無理しなくていい。また来週来る』
『…ごめん。ありがとう』
『愛しい凛世のためなら、何度だって』
「凛世」
ゆきの手が、私の手に重なる。
「僕はここにいる」
ほわ、と。
ゆきの肌から、温もりを感じた。
私の冷えた指先が、温まってゆく。
「凛世」
同じように、お兄ちゃんが私の頭を撫でた。
「俺は起きた。もう寝てない。お前は、ひとりじゃない」
私の中の何かが、解けていく。
自分を守るために、ずっと昔から固く閉ざし続けていた、何かが。
「ふ…っ、く、う……」
胸の浅い所から、息が込み上げてきた。ついでに涙も。
まだ、話せてないのに。
「お父さん、は……っ、あの、事故で、死んじゃって……」
「……」
「お母、さん、は……!うっ、……っ」
しゃくりあげる。
これだから、溢れ出すのは困る。
こうやって抑えられなくなると、何も言えない。
「もう…き、おく、が…」
「……記憶?」
「ないの…!わた、し……たちの記憶、ぜんぶ……!!」
「っ!?」
お兄ちゃんの瞳が揺れた。
長くお母さんと過ごしてきたお兄ちゃんは、私よりもずっと傷ついているはずだ。
お兄ちゃんは何を思っているだろう。やっぱり悲しいはず。
しっかりしないと。私が、1人助かった私が――
「きみはいつも聡明だけど、ときどき、とてつもなく馬鹿なときがあるね」
天才と馬鹿は紙一重とはよく言ったものだ、とゆきが軽く息を吐いた。
「っ、ぅ…え……?」
嗚咽と涙が止まらない中で目をこすってゆきを見上げると、ゆきは優しく私の手を取って私の涙を拭ってくれた。
「きみはそれを、たった一人で抱えてきたんだろう?小さい頃からずっと」
「…っ、く……」
「きみはやっと僕たちに話してくれた。もう1人で抱えるわけじゃないんだ。だからきみも隠さなくていい」
なんならどこかにログインしようか、とゆきが悪戯っぽく笑った。
『VR空間では感情を隠せない』、なるほど、それは困る。
「吐き出して欲しいな、凛世。僕たちに。凛世がどう思ったか、どう思っているのか、全部全部、隠さずに」
「~~~っ!!」
やめてよ、お願いだからそんなこと言わないで。
縛り付けて。私の我儘を。私のエゴを。溢れないように、零れないように、閉じ込めて、無視して、我慢して、我慢して。
……そうやって、今まで生きてきたのに。
「さ、びし……かった」
「ああ」
お兄ちゃんが、泣きそうな声で頷いて私を撫でた。
「かなしかった」
「うん」
ゆきが、優しい声で頷いて私の手を握った。
「うけいれたく、なかった」
「ああ」
お兄ちゃんが、鼻をすすりながら私の頬を撫でた。
「……ずっと…………苦しくて」
「うん」
「ずっと、ずっと……」
私のせい、私のせい、私のせい。
剛さんの言葉で救われたとはいえ、それでも。
私があのとき、ドライブに誘わなければと、何度も。
「だれかに、話したかった」
私のせいじゃないと。
私は、みんなを、お父さんを殺したのではないと。
お母さんが私やお兄ちゃんを忘れてしまったのは、私のせいじゃないと。
誰かに言って欲しかった。
私は聖人じゃない。のしかかってくる責任から逃れたかった。
でもそれだけじゃなくて、苦しかった。辛かった。痛かった。
私がみんなを傷つけた事実が、ずっと。
針で背中を刺され続けてるみたいで、お兄ちゃんが庇ってくれた感覚と血の生暖かい感触が蘇ってくるみたいで。
私は、《ジョニー・ブラック》だけじゃない。
お父さんさえも、殺したのだと。
「凛世」
お兄ちゃんが、あの日のように私を抱きしめてくれた。
「ごめんな、あのとき1人にして」
「……っ」
「ずっと眠っててごめん。辛いことを1人で背負わせてごめん。起きてからも、俺は凛世に2人のことを尋ねられなかった」
「お兄ちゃん、でも、それは」
「尋ねなかったのは俺の優しさなんかじゃない。俺がただ単に、怖かっただけだ。俺でさえ昏睡だったんだから、あの2人は無事じゃないってわかってたのに、いや、わかっていたから」
「……」
「だけど尋ねるべきだったんだ。凛世は抱え込む人だから、俺が聞いて、1分でも早く、凛世の背負うものを受け取るべきだった」
お兄ちゃんは涙声になっていく。
肩口が濡れる。私も、お兄ちゃんの肩を濡らす。
「だからごめん。抱え込ませてごめん。あと」
お兄ちゃんは、少し離れてから私の目を真っ直ぐ見た。
その目は既にたくさんの涙を流している。鼻だって赤い。多分、私もそんな感じだろう。
そしてそんな私に、お兄ちゃんは言った。
「あのときからずっと生きててくれて、ありがとう」
ぐしゃっ、と顔がくしゃくしゃに縮まる感覚がした。
ゆきもお兄ちゃんも、いつも欲しい言葉をくれる。
泣きたくなってしまう。閉じ込めてきたのに、吐き出したくなる。
「凛世」
「……」
「凛世のせいじゃない」
「!」
ゆきは、それだけ言って私を抱きしめた。
それ以上は、何も言わなかった。
その沈黙が、今の私にとってはすごく優しくて、あたたかくて。
抱きしめてもらったところから、2人ぶんの気持ちと温もりがじんわりと私の体を溶かしていく。
「……ありがとう」
私は、顔を2人の体に埋めたまま、呟いた。
いつの間にか、嗚咽は収まっている。
私の涙は、穏やかに溢れて、穏やかに消えていく。
「…………もうちょっとだけ、このままで」
今まで抱えてきたものをゆっくり、3分の1。
背中が軽くなった私は、されどまだ思い悩む時があるだろう。
だけど、もう、閉じ込めなくていい。縛らなくていい。
そういうときはまたこんな風に吐き出して、泣いて、収まっていく。
これからは、3人で抱えて生きていく。
****
お盆でもない、というかお盆の真反対の季節である12月の、雪がふわふわと降っている中旬頃。
私とお兄ちゃん、そしてゆきの3人は、お父さんが眠るお墓にやってきた。
積もっていた雪を軽く払って、生花は流石に無理だから造花をさして、3人で手を合わせる。
「……」
「………」
「…………」
お父さんはよく私の頭を撫でる人だった。
私だけじゃなくて、お兄ちゃんの頭も、お母さんの頭も。
男らしい、大きくて角張った手が私の髪をかき混ぜると、私の髪が乱れて、でも、嬉しくて。
私はお父さんの手が大好きだった。ううん、大好き。
勉強を教えてくれる姿。私やお兄ちゃんを叱る姿。車を楽しそうに運転する姿。頼み事をすると嬉しそうにはにかむ姿。
ぜんぶぜんぶ大切で、大好きな思い出だ。
お父さん、私、やっと話せたよ。
お父さんのこと、それから記憶をなくしたお母さんのこと。
お母さんのことだけど、お兄ちゃんとも話して、やっぱり記憶を戻そうとせずにいることにした。
記憶がもし戻ったとして、きっとお母さんは苦しんでしまうから。
……だからごめんね、お父さん。
お母さんはお父さんのことも忘れてるけど、戻さないよ。
でも私が、私たちが、覚えているから。
手を降ろして目を開けると、あとの2人も同じくして手を降ろした。
……よし!もう吹っ切れた!しんみりするのはおしまい!
私はぐぐっと手を上げてのびをした。
冬の冷たい空気と、ついでに冷たい雪をいっぱい吸い込んで、吐く。
「寒いね。もう冬かあ」
「そうだ。この近くにいい雰囲気のカフェがあったんだ。そこでホットコーヒーでもどうだい?」
「いいな。そこに行こう」
「お兄ちゃんコーヒー飲めたっけ?ココアじゃない?」
「今日は飲めるかもしれないだろ」
冷たくなって指先を擦りながら、お墓に背を向ける。
悲しむのはこれでおしまい。
大丈夫、私はもう、ひとりじゃない。
****
「なあベルく~ん、一緒に狩り行かへん?ウチ暇なんやけどー」
《SBCグロッケン》内のとある場所にて。
ネフィラとある男性は、それぞれ微笑みと無表情を湛えながら話していた。
「それは依頼か?」
「ちゃうよ、いいやろ?一緒に狩りくらい」
「俺はただ依頼をこなすだけだ、それ以上の付き合いはしない」
「ベル君、素っ気ないなあ……折角、ネフィラ姉さんが会いに来たのになあ」
「頼んでない」
じゃあ、とネフィラは目付きを変えて彼――ベルと呼ぶ男に向き直った。
「ベル君宛に、依頼が来てるで」
「……依頼?お前伝てで?」
「まあ、ウチにも依頼は来たからなあ。ベル君にはウチから話してくれって。」
ネフィラがメールを「ベル」に転送すると、彼はその内容を直ぐに確認した。
「……ほう」
「興味湧くやろ?もちろんベル君も参加するやんな?」
『リノセ、及び彼女のスコードロン《デファイ・フェイト》との決戦に参加して欲しい。《ウェブスピナー》と呼ばれ畏れられるネフィラと、《白い狩人》と名高いベルに』
「……ああ、もちろん。それが依頼ならば」
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.80 )
- 日時: 2024/12/23 08:55
- 名前: 水城イナ (ID: 5/xKAetg)
「あー、やっと終わったわー」
二学期も終わり、冬期講習と言う名の授業が続く毎日を送る中の、雪の降るとある休日、現実のカフェにて。
香住、漣くん、八重子ちゃん、私の4人で勉強会をしていた。
共通テスト前ということもあり、流石に横道に逸れることなく今日出されていた莫大な宿題を終わらせることが出来た。
「な、なんかあれだね、普通に勉強の計画を立てて勉強するより、この高校の宿題やったほうが、多く勉強しそう……」
「ほんとよ」
香住と八重子ちゃんはぐったりしながらそれぞれの飲み物を飲み干した。
その様子に、苦笑した漣くんと私が答える。
「まあ、全校有数のスパルタ高校だからね。今日徹夜せずにカフェの中で宿題を終わらせたのは僕たちくらいじゃないかな」
「受験勉強で徹夜はするなって先生たち言ってるのに、徹夜するボリュームなのは矛盾してるよね」
とはいえ、提出しないと翌日の分の宿題が増えるだけだし、みんな合格したいわけだし、真面目にやってるんだけど。
「はー、それにしてもスッキリしたー!気分転換と休憩しましょ!」
香住がさっさと筆箱にシャーペンを片付けて伸びをした。
「賛成、そうしよう」
「わかった、じゃあ出る?」
「…………」
そう言って八重子ちゃんを見る。
「…………」
反応がない。
「おーい、生きてる?」
「ひゃう!?」
冷えた指先をぴとっと八重子ちゃんの首に当てると、八重子ちゃんはびくうっと飛び上がった。
ぼうっとしていたらしい。熱は出てないみたいだけど、大丈夫かな。
「どうかした?具合悪い?」
「え、あ、あの、違くて……その、楽しかったから」
「え?」
香住がぽかんとして聞き返す。
「楽しかったから、その、すぐ卒業しちゃうのが、勿体なくて」
「……!」
八重子ちゃんは引っ込み思案みたいで、最初はやっぱりクラスに馴染めていなかった。今だって、私たち以外とは気まずそうに話している。八重子ちゃんいわく、少しでもその性格を治したくて《GGO》を始めたらしいし。
でもそんな八重子ちゃんが心からこの時間を楽しんでくれて、この時間が終わることを嘆いてくれた。
……嬉しいな。そう思ってくれてたんだ。
「大丈夫だよ、八重子ちゃん」
私は残りのコーヒーを飲み干して言った。
「大学は離れても、ちゃんと会える」
「!」
「それが仮想世界なんだから。この4人の時間は終わらないよ。『ヤエ』だって段々他のスコードロンメンバーとも楽しそうに話せるようになってきてるし」
「凛世ちゃん……ありがとう」
八重子ちゃんも自分のココアを飲み干して笑った。
そう、仮想世界は離れていても会える場所。
私が《GGO》にダイブしたのも、紅葉に依頼されただけではない、遠く離れた場所にいる紅葉に会いたかったからだ。
仮想世界は人と人とを繋ぐ場所。それぞれがそれぞれの居たい姿で居られて、会いたい人と会える。やりたいことをやれる。
人を、夢を、ひいては世界を繋ぐ場所なのだ。
「次4人で集まる場所は《GGO》にする?」
「いいわね、みんなで狩りとか」
「いいけど、香住はその日の分の宿題をもっとやらなくちゃだね」
「うぐっ」
一気に項垂れた香住が泣きそうになりながら唸る。
それを見てみんなで笑いながら、それぞれの大学でそれぞれの人生を歩む未来に思いを馳せる。
みんなと離れるのは寂しいけれど、それでもみんなとまた《GGO》で会える毎日は、楽しいに違いないと。
****
「―――……」
すとん、と虚空に降り立つ。
そこは、床と壁の区別がないながらも立つことができる不思議な空間。
この世界中真っ白で、色のある私だけが浮いていた。
ふむ。私は《GGO》にダイブしたと思ったんだけどなあ。ここは簡易的なVR空間だろうか。
まあ、おおかたあの2人の仕業だろう。
「エシュリオ?ヒースクリフ?」
そう呼びかけると、背後からこつ、こつと足音が2人分聞こえてきた。
相変わらずいつ来たかがまったくわからない。無駄に電子意識特権を乱用するの本当にずるい。
振り返って2人を見ると、エシュリオが軽く片手をひらひらと挙げた。
「よう、リノセ。久しぶりだな」
「……久しぶり、エシュリオ。元気そうでなにより」
「おう、お陰様でな」
にかっと笑ったエシュリオは、そのまま隣のヒースクリフを見やる。
その視線を受け取って彼も微笑んで言ってきた。
「久しぶりだね。リノセくんの活躍ぶりはいつも見ているよ。まずは、《夜の女王》攻略お疲れ様」
「…………」
なーにがお疲れ様、だ。
怨念を込めてじとっと2人を見つめると、エシュリオはぶはははっと爆笑し始める。
銃を持てないのがこんなにも悲しいことだなんて知らなかった。今猛烈にヘッドショットしたい衝動に駆られている。とりあえず誰か私に銃を恵んで欲しい。
「まあそんな顔するなって、ぶはははっ!!……悪かったよ、世話かけたな……っ、あははははは!!」
「怒るよ?」
私がスッと拳を握ると、エシュリオはやっと笑いを収めてくれた。
ひーひーとまだ余韻が残っているエシュリオを横目に、ヒースクリフが話し始める。
「もうきみは気づいていると思うが、今回きみが気にしていたであろう《ザ・シード》からの干渉は私たちが行った」
「まあ、だろうね」
「《GGO》と直接回線を繋げばもっと早く出来たのだが、あそこにはユイがいるから、《ザ・シード》を隠れ蓑にする必要があったんだ」
なるほどね。それの副作用が《SAO》からのデータ流出、つまり《幽霊》ってわけか。
「あの3人を《幽霊》に選んだのは2人?」
「そうだ。私があの3人を《SAO》から《GGO》に流出させた。どうせ干渉について気にするならば、未練を解消できたほうがいいだろう?」
「……」
私は軽くため息を吐いた。
この2人には永遠に敵わない気がするよ。
「で?そこまでして《GGO》に繋ぐ回線が欲しかった理由は?」
そう聞くと、やっと落ち着いたエシュリオが、真剣な顔で言った。
「俺のためだ」
「エシュリオの?」
「俺が、《GGO》にコンバートするために」
「…………」
まさかとは思ってた、けど。
本当にコンバートする気とは。エシュリオを知ってる《SAO帰還者》が他にいたらどうするつもりなのか。まあ、アカみたいに憧れを模している人もいるし、なんとかなるのかもしれない。
それよりも。
「それはまた、なんで?」
「そりゃ決まってるだろ。リノセとプレイしたいからだよ」
エシュリオはそう言って屈託のない笑顔を浮かべた。
そのためだけに、わざわざ、《ザ・シード・ネクサス》を通して干渉回路を確保した?ヒースクリフと協力して?時間をかけて?ユイにも菊岡さんたちにもバレないように?
「……へぇ」
嘘つけ。
****
「…………」
エシュリオがコンバート、か……。
どうやら、エシュリオは《SAO》データをそのままコンバートして《GGO》に来るつもりのようだ。
サヤトやアカツキたちはNPC扱いだったけど、エシュリオはどうするんだろう。
でもまあ、私と知り合いのていで来るならばプレイヤーの方がいい気がする。
料金はまあ、きっとデータ内通貨でなんとかするか。
……エシュリオがコンバートすることに異論は無い。寧ろ一緒にプレイできることに喜びを感じる。
コンバートはしばらく先になるらしい。まだ回線が不安定な上に、いろいろと準備がまだ必要であるとか。
問題はユイに気づかれないか、か。
まあ、あの二人なら上手くやるだろう。エシュリオとプレイするの楽しみだなあ……!
…にしてもまあ、エシュリオがわざわざ《GGO》にねえ……。本当に私とプレイしたいからだったら嬉しいけどそんなわけないし。
仮想世界か《GGO》になんかあるんだろうな。調べてみようかな……。いや、エシュリオが来てから問い詰める方がいいかな?
「あ、おかえりなさい、マスター!!」
今度こそ《GGO》にログインすると、レイが迎えてくれた。
手にはたくさんのチーズタルト。お小遣いでおやつを買ってきたらしい。
「マスター、今日はどうしますか?」
「ちょっと買いたいものがあるからグロッケンに出ようか。そのあとは《ホワイトグラウンド》の残ってた施設に行ってみよう」
「わかりました!」
そう言って、2人でホームを出る。
そういえば明日は模試だったっけ、とか思いながらそれでもログアウトすることなく歩いて行った。
「お!リノセちゃんじゃねーか!よう!」
「あ、タイガー、と」
「リノセ、ログインしていたんだね」
「イツキ。うん。たった今来たところ」
ホームから出たところでちょうど居合わせたのは、イツキとタイガーだった。
タイガー、彼は少し前に知り合ったトッププレイヤーで、クレハが言うには《猛虎》と呼ばれているらしい。こういうのって誰が考えてるんだろ。
それはさておき、今までも何度か一緒にプレイしたが、流石は肩書き持ち、彼はとても強い。
エミリア――ユーザーネームは本当は《ローゼ・エミリア》らしいが本人も「エミリア」と自己紹介している――も、1回決闘したときに思ったけどとてつもない腕だった。
肩書き持ちは他にも何人かいるけど、みんな2人くらいの腕なのかなあ。それならみんなと戦ってみたい。
……まあ、それはともかく。
「2人は今帰ってきたところ?」
「ああ。2人は今から行くところか?」
「ううん、ちょっと買い物にね」
「何を買うんだい?」
「教えなーい」
女の子の秘密、と言うとイツキは大人しく引いてくれた。
そこは流石、紳士だ。女の子と言った瞬間に気を遣ってくれる。
「そうだ、買い物が終わったあと攻略に付き合ってくれる?タイガーも、《ホワイトグラウンド》はもう解放してるでしょ?」
「ああいいぜ、その代わり……な?」
「はいはいわかった、次の機会にツェリスカも連れてくるよ」
「サンキュ、連絡待ってるぜ」
タイガーは強い。更に陽気で優しく快活的だ。
そして、ツェリスカを狙っている。
今のところ軽くあしらわれているみたいだけど、こうして私がタイガーに頼み事をするときはツェリスカと狩りをする機会を提供しているわけだ。
ツェリスカは、面倒ではあるが嫌ではないそうなのでセーフラインと思っている。
さて、と私は2人と別れ、《SBCグロッケン》を下り続けた、NPCすら誰もいないような場所にある、とあるお店にレイとやって来た。
「マスター、ここは……?」
「公式ホームページ……じゃなくてえっと、総督府から発表があったの。12月25日にクリスマス特別クエストがあるらしくて」
「特別クエスト……!!」
「それを受けるには、特別な衣装を着る必要があるらしいから、それを買いに来たの」
まあでもその「特別な衣装」は「特別」であるがために、迷路ばりに入り組んでいる《SBCグロッケン》の辺鄙な場所にあるお店にこそ置いてあるわけで。
クリスマス、といえばそう。
赤い服に赤い帽子、ふかふかのファー。
隣には茶色い衣装にカチューシャ。雪だるまがモチーフの白い衣装もある。
――そう。クリスマス衣装だ。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.81 )
- 日時: 2025/01/15 08:34
- 名前: 水城イナ (ID: yiBoVHCo)
あけおめです。
pixivではもうちょっと先まで投稿してるので、そちらも是非見てください。
更新もうちょっと頑張らないと……。
「マスター!とっても素敵な服がいっぱいですね!!」
「でしょ?はいレイ、まずこれ着てみて」
「え?は、はい!」
私はまずは似合いそうなものを3着ほど取ってレイに渡す。レイは不思議そうな顔をしながらも頷いてくれた。
ふふふ、まさか私がゆきに服屋に連れていかれる度に食らっていた「一緒に来た彼にあれこれ着替えさせられちゃうやつ」をやる側になれるとは!
確かにやる側って楽しいな……。
とか言って、私は「今着たやつ全部で」は流石にやめて欲しいんだけどなあ……。
「マスター!着てみました!どうでしょうか?」
「!!かわいい!すっごくかわいいよ!」
「ありがとうございます、マスター!」
……どうしよう。かわいいな。
ゆきみたいなまとめ買いはしないつもりなんだけど。
これは誤って全部買いしてしまうかも…いやいやだめだ、それで困るのはレイなんだから、自重しないと。
…でもとりあえず、いつものデートのときのゆきが私への愛情を十分に表現してくれているというのは身をもって知った。これは全部買いたくなる。
とまあ、それはさておき。
私は次の服に着替えるように頼み、ほう、と一息ついた。
「……」
私はふむ、と考えてレイがゴソゴソと着替えている試着室を見やる。
レイはアファシス。ArFasystem type-x だ。
リエーブルはそれ以上の権限とスペックを持つtype-Zだけど、彼女の存在は私たち以外誰も知らない。だから、現状ではまだレイたちが最上級レアアイテムってことになっている。
『会いたいと思ってたんよ』
フレンドを疑うのはいけないことなのかもしれない。
でも、私だって伊達に唯葉と付き合ってないし、裏社会にだって縁がある。だから、そういうのはある程度察せるつもりだ。
『ネフィラあああああああああああああ!!!!』
……多分、彼女は。
はあ、とため息を吐いて、私はそこで思考を打ち切った。
すると。
「……あれ?リノセさん?」
そんな声が聞こえて振り返ると、ちょうど店にヤエとカンナとハヅキがいた。
「あ、やっほー。みんなも衣装買いに来たの?」
「は、はい!リノセさんも買いに来てたんですね…!」
ふふふ、と笑ったところで試着室からレイの声が聞こえてきた。
「ヤエたちが来たのですか?こんにちは!」
「よお姉貴!」
「ハヅキもいるのですね!ということはカンナもいるのですか?こんにちは!」
「こ、こんにちは、レイちゃん……!」
試着室から声をかける姿を想像して今日もレイはかわいい、と考えながら、私はさて、と思考を巡らせる。
「イツキの動向はわかる?」
「えーっと……『ショッピングにでも行こうかな』って……」
「…………」
それはまずい。
ヤエたちが来たってことは、勿論イベント用の衣装が必要な件も、イツキは知っているはずだ。私が初めてログインした日、当時準トッププレイヤーだったクレハの戦闘スタイルを暗記しているくらいだ。情報収集くらいしているだろう。
となると、私の行先も秘密にした時点で隠せているかどうかも怪しいな。
……まずい。
このままだとコスプレまでも全部買いコースに突入する!!!!
「マスター!着替え終わりました!!」
「あ、レイ。とってもかわいい。さっきよりちょっと露出が高いね」
「はい!とっても気に入りました!」
気に入ったやつがあってよかった。
そっか、と頷くと、私はレイにお金を渡した。
「……マスター?」
「ごめんねレイ、私急用ができちゃって」
「そうなんですか?」
私はお店のドアを開けながらみんなに言う。
急がないと、イツキが来ちゃう。あれこれお着替えからの今までのやつ全部を《GGO》でもやるのは流石に避けたい!
「ヤエ、カンナ、ハヅキ。レイの衣装選び手伝ってもらっていい?レイは自分の気に入ったやつを買っておいで」
「はい!」
「じゃ、またね!」
びゅん、と風のように。
できる限りのAGIを活用して、私はこの後行こうと思っていた別の場所に急ぐのだった。
****
「……会員証を」
ぴら、とカードを見せれば、ガードマンは1歩下がって礼をして、ゆっくりとドアを開けた。
「どーも」
コツコツとヒールを響かせて中に入る。
まったく、凛世はいつも無茶を言ってくれる。それもギリギリできる範囲の。まったく、人使いが荒い人だ。それでも私の状態とかもちゃんと見て言ってくるあたり、憎めない。
『唯葉、頼みがあるんだけど』
今回凛世が私に頼んできたのは、とある人物の調査だった。
サトライザーほどじゃないけど、この人物もなかなかに情報を掴むのが大変だった。
ナイトクラブのVIPエリアに入ってから一度立ちどまり、ふう、と息をつく。
今日は「彼女」が来るまで待っていなければならない。
彼女が来るのはまだ先だろう。
……凛世に最初に出会ったのは、《SAO》の中。
死にそうになっていた私を、彼女は助けてくれた。
そのとき凛世、否、リナは師匠のエシュリオを失ったばかりで、とてもじゃないけど元気とは言えない様子だった。
だというのに、彼女は強かった。圧倒的な強さ。
私が手こずったモンスターたちを、彼女は一瞬で倒してしまった。
それが最初だ。
それから、しばらく私とリナは一緒に攻略し始めた。
リナに教えて貰って、私も強くなれた。リナは私に教えられる全てを教えてくれた。
リナが、凛世がいたから私は今生きている。
―――最初は、その恩返しのつもりで凛世の頼みを聞いていた。
だけど凛世はいつも報酬をしっかり払ってくれる。たまに焼肉に誘ってくれるし、何より……
『おまえ、《SAO》で死ななかったんだな』
私を、救ってくれた。
「……情報屋」
物思いにふけっていると、私に話しかける人がいた。
女性だ。顔や体のラインはわかりずらいが、おそらく。
『《ネフィラ》っていう《GGO》のプレイヤーなんだけど』
「……何かしら」
「知りたい情報がある。」
そう言った彼女のイントネーションには何となく関西を思わせるものが残っていた。
とても小さな、僅かな差だ。私や凛世じゃないと気づかないだろう。
でも確かに彼女のイントネーションは関西弁だ。間違いない。
「《マギナ》という闇ブローカーのことだ」
「……彼女の何が知りたいのかしら」
ここまでは私と凛世の予想通り。明確に凛世のことは聞いてこない。
問題は次に何を言ってくるかだ。
「彼女の状況、あとは彼女の状況に関わった人物」
「……」
私は、静かに口角を上げる。
予想通りだ。
『たぶん、ネフィラはもう私のことは掴んでるんじゃないかな』
この仕事を頼んできたとき、凛世はそう言っていた。
『……そうなの?』
『正確には私を雇っている人物について、かも。菊岡さんが《神名 凛世》という人物を雇っている、ってとこまでは知っているはず』
『なのに凛世の情報を求めてくるわけ?』
『うん。だって、彼女がわかっているのは、警察の菊岡さんが雇っている《神名 凛世》という人が私かもしれない、ってところまでだからね』
『……なるほど、そこ経由であなたの情報を手に入れようとする、と』
『それが一番目的を悟られずらい手段だと思う』
《SAO》解放あたりから、凛世は裏社会に入り始めた。何をやっているかは詳しく聞いていないが、一体何をしているのだろう。
その気になれば凛世は情報を誰にも分からないように隠してしまえるし、誰もわからないような情報を掴んでしまえるし、誰もできないようなことをしてしまえる。
それでも私に情報を頼むのは、凛世いわく、『細かい情報収集は唯葉のほうが上手い』らしいけど。
『でも1つ疑問が残るんだよね』
『何?』
『唯葉にこうして頼みごとをしているのは、2人くらい私を探った人がいて、その1人がネフィラじゃないかって思ったからなんだけど』
『ええ』
『手順があまりにも面倒なんだよね。自分だけの利益を見たら、私の全てを知ったって情報代に見合うはずがない』
つまり、と一呼吸おいて、凛世は顔を強ばらせて言った。
―――たぶん、彼女の後ろには誰かいる。
莫大な資金を払って、何がなんでも凛世を手に入れようとする誰かが。
『凛世、その人物に心当たりがあるんでしょ?』
『……確実じゃない。それに、《彼》がそこまでする理由がわからないことにはね』
とまあ、そこで話は終わったわけだが。
「情報代は高くつくわよ」
私はそう言ってネフィラを見上げた。
ネフィラはそのまま呟く。
「構わない」
「……そう」
私は頷いてから、壁に預けていた背中を離して姿勢を整え、この先にあるVIPルームを指さした。
「取引は、あそこで」
「……わかった」
ネフィラが誰であろうと、何をしようとどうでもいい。
ただ、私は「凛世寄りの中立な情報屋」として仕事をこなすだけだ。
「……彼女は捕まったわ。裁判も終了。今は刑務所に入ってる」
「何年?」
「15年よ。気の毒だけど、自業自得ね」
それから、と私はスマホを取り出してメモ機能を起動すると、素早く画面をタップして漢字を打ち込む。
「協力したのはこの2人。《神名 凛世》と《狭井 雪嗣》」
「…………」
ここまでは彼女は掴んでいるだろうから、嘘をついてはいけない。この後が正念場だ。
「……2人について、もっと情報を。なんでもいい」
「彼女は《GGO》にアカウントがあるわ。プレイヤー名は《リノセ》。そしてもう片方は《イツキ》。神名 凛世のほうは最近《ALO》のソフトを買ったみたいね。受験生なのに。受験が終わったらやるつもりなのかしら」
「へぇ……」
「それから、彼女、《GGO》には目的があって来たみたい」
「目的?」
ここで私は言葉を止めて、ネフィラを見た。
「あなた、いくら払える?」
「……」
ネフィラは、私のスマホのメモ機能のところに、静かに数字を打ち込んだ。
金額は……いち、じゅう、ひゃく、せん……2000万、か。
これは凛世が昨日寝ぼけてパジャマの上に私服を着てしまった話まで買えてしまう金額だ。
やっぱり、後ろに誰かがいて資金援助を受けているのは間違いなさそうね。
私は頷いて話を続ける。
「探し物よ」
「探し物?」
「彼女の兄が《デジタルドラッグ》の被害にあったそうなの。《マギナ》に引っかかってね」
「……」
「彼女の目的は2つ。《マギナ》を見つけて復讐すること、それからデジタルドラッグの源を見つけて排除することね」
凛世の兄に許可をとって、実際にマギナの犯行履歴を偽造しておいた。
これで実際に、マギナは正体を隠した状態の凛世の兄と取引したことになっている。
既にこれは凛世が菊岡とやらに連絡しておいたらしく、ネフィラの件が終わったら抹消される手筈だ。
《マギナ》は、取り調べでネフィラについて語っていた。
《ネフィラ》と名乗る闇ブローカー、彼女は自分の仲間だったが自分の情報を売ったと。だから自分は捕まったのだと。
凛世いわく、「《マギナ》を止めて欲しいと思っているお友達」として接触してきたそうだ。
それなら今彼女に与えた情報で、ネフィラの行動はある程度予想できる。
もちろんこれを信じた場合、だけど。
……楽しみね。
リノセと彼女は、いったいどんな攻防を見せてくれるのだろう。
私はそう思い、静かに口の端を上げた。
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