二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.37 )
- 日時: 2023/07/20 19:04
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
それから|本気《マジ》モードになった私は、爆速で《ロストゲート》に入るためのカードキーを集め始めた。
「マスター、アルゴからメールです。リエーブルについての新しい情報が入ったそうですよ。」
「いくら?」
「あ、えーと、いち…じゅー…ひゃく…せん…まん……300万クレジットです!」
高っ。でもまあ、Tipe-zの情報ならそれくらいが妥当な気もするしなあ。しょうがない。
最近3億クレジットいったばかりなんだけど。早速2億に下がるのか。
「買う。」
「わかりました。クレジットを送付して了承の返信をしておきます。」
「お願いね、レイ。ありがとう。」
「はい!」
最後のダンジョンの宝箱からカードキーを回収して、私たちはそのまま総督府ロビーまで転移した。
ツェリスカのもとに走り寄る。
「カードキー回収終わりました。」
「ありがとう。アルゴから情報は届いたかしら?」
「うん。フリューゲルに、最新型…つまり、リエーブルのアファシスコンテナがあったって話。」
「そう、ありがとう。」
「そっちはどう?」
ツェリスカは苦しそうに顔をしかめる。
「難航しています。攻め込まれるのも時間の問題です。真面目に取り合っていないプレイヤーが多いようです。」
「だろうね…よし、急ごう!」
「はい!」
「ええ。」
そこからはあっという間だった。剣を惜しまず使い、ウェポンアーツもどんどん使い、久しぶりに本気を出した私は世界がゆっくりに見えるほど集中していた。
数々のトラップやエネミーを片付け、気づけばボスエリア。
「マスター、すごい集中力です…!」
「ありがとう、レイ。でも時間はあんまりない。」
「そうね、急いで入りましょう。」
リエーブルは、ボスエリアにいた。
ボスの目の前に立って、ふふふとほくそ笑んでいる。
「追いついたわよ、リエーブル!」
ツェリスカが珍しく叫んだ。
「たいへーん!見つかっちゃったー!はい、これで満足ですか?」
ウッザ…。わざと引っかかっておびき寄せられてあげたとは言え、ここまで苛つくとは…。
運営め、Tipe-zの煽り力高めに設定したな。苦情メール出してやる。
「リエーブル!今すぐ計画を中止しなさい!」
「中止しろと言ってはいわかりましたと言うと思ったら頭お花畑がすぎますよ。ツェ・リ・ス・カ・さん!昔のあなた、かわいかったでしょーっ!」
「あなた…!」
私はツェリスカを制して冷静に問いかけた。
「ふーん…やっぱり、そうか。」
「…なんですか?」
「ロストゲートに何しに来たんだろうと思って来たんだけど。やっぱりエネミー調達だったわけだね。リエーブルはエネミーを使役できる。《魔窟》周りにエネミーが大量にいたのもそのせいでしょ?全く、めんどくさかったよ、あれ」
リエーブルはしたたかに私を睨みつける。
「はあ、本当にあなたは厄介な人です。では、あなたは私がわざとプレイヤーに情報を掴ませた理由もわかっていますね?」
「私たちをここにおびき寄せるため。」
「ピンポンピンポーン!せーかいでーすっ!」
そしてリエーブルがそう言って投げキッスをしてきたときだった。
「デイジーちゃん、今よ!」
「はい!データ解凍、送信を開始します」
リエーブルの後ろに回ったデイジーが、リエーブルにデータを送りまくる。最初に集めた素材を情報化してデイジーがリエーブルに大量に送り込んでいるのだ。
デイジーは、フィールドに出ない。つまり、フィールドで戦闘することに必要なステータスの代わりに情報解析などに特化しているのだと、ツェリスカが自慢していた。
つまり、大量のデータをアファシスに送ることによっての…
「まさか…処理落ち?旧型が…」
「ピンポンピンポーン。」
でも、多分、リエーブルは奥の手を残している。だからこれでやられるとは思っていないけど…。
というか、私がここに来たのは、リエーブルが使おうとしているエネミーの特徴と戦い方を把握しておくためなんだから、成功しなくても目標は達成できる。
すると予想通り、リエーブルがなにか呟こうとする。
「デイジー、離れてっ!」
「ッ!」
「リミッター…《解除》。」
ぶわっ!と風が吹き荒れた。
リエーブルの体が輝く。
リミッターって、まさか…!
「アファシスに設けられている制御システム…本来アファシスを守るためのそれを意図的に外すことができる。それも…きみの、マザーコンピュータから与えられた権限なんだね。」
「その通りです。せっかく情報を送り返して処理落ちブーメランさせてやろうと思ったのに、残念です。」
「……やっぱり、無理なのね」
ツェリスカは悔しそうに歯噛みした。ここでリエーブルを止められなかった…賭けに失敗したことにずいぶん悔しさを感じているようだ。
「では、あなたたちにはこの子を差し上げます。この子は弱いので、ダイジョーブですよ!ではまた、忌まわしきグロッケンの外でお会いしましょーうっ!」
「待ちなさい!」
ツェリスカの制止を聞かずにリエーブルは転移していってしまった。
まもなく、今まで動いていなかった後ろのボスエネミーが動き始める。
「ああ、こいつか…。」
「知っているのですか?」
「うん、まあね。ピトとMとレンとフカとクレハで冒険してたときに倒して…スナイパーライフルに弱かったような気がする。」
「じゃあ!」
「大丈夫、すぐ終わらせる。」
そう言って、私は炸裂弾を込めた。
《SBCグロッケン》が壊されても、翌日には多分直ってるだろう。わかってる。だけど…絶対、私が守ってみせる。
せっかく、グロッケン全体のスペシャル防衛イベントが起きてるんだから、クリアしないわけにはいかないんだよ!
「行くよっ!」
「はい!」
倒し終わった後、休む暇もなく防衛の最前線へ向かった。
「クレハ!みんな!」
「リノセ!どうだった?」
「だめ。でも、なんとかしてみせる。もうリエーブル来ると思う。」
「こっちはだいぶギリギリだ!他の3方もキツイって!」
「わかった…!」
思わず舌打ち。思ったより状況が悪い。私が4人いるわけじゃないからなあ。せめて、せめてイツキがいれば…《アルファルド》を動かしてくれるかもしれないのに…!
いや。今は集中しなきゃ。
そして、ゴゴゴゴゴと音を立てて、さっき倒したばかりのエネミーの強化版が出てきた。その上には…
「…リエーブル。」
「嘘、あれが…⁉」
「みなさーんっ、こーんにっちはー!」
テーマパークさながらのリエーブルに思わず返事しそうになる。
「あれれー?声が小さいですよぉ〜??もう一度っ!こーんにっちはー!」
うーん、ここが戦場じゃなかったら子どもたちに大人気のキャストだったかもね、リエーブル。
でも、大型戦闘機に乗ってそれ言ってもシュールなだけだよ。
「うふふっ!私ってば優しいから、他の場所にも同じ子を置いてきてあげました!どうです?かわいいでしょー!!」
「趣味が剛さんみたいで笑えるんだけど…」
思わずクスクスと笑ってしまった。
戦闘機を「かわいい」と言って愛でる光景を私は幾度となく見てきた。
ああ、でも、ちょっと違うか。
とにかく、これはなんとかしないとね。
「さあ…崩壊の始まりですっ!」
深呼吸をして構える。
Defense Battleが、開幕した。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.38 )
- 日時: 2023/07/20 19:11
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
「きゃははははははっ!さあ、どんどんいきますよっ!」
狂ったように笑うリエーブル。
それにも気を配りながらベヒーモスのお顔をぶち抜き続ける。
『―――私は、《特別》なんです。AfasysTipe-zである。そして、それをマスターが認めてくれた。だから、私は成し遂げるんです。マザーコンピュータから課せられし使命を…他の旧型たちが達成できなかった目的を。そう、マスターの《特別》は最強なんです。』
心から浮かべた自信の笑み。リエーブルの顔に浮かぶそれをじっと見て、私はそのセリフを思い出した。
戦いの直前に、言っていたものだ。
リエーブルにはマスターがいる。それも、高いプレイヤースキルの持ち主が。
でも、普通のプレイヤーなら、《グロッケン破壊》なんて阻止しようとするはず。もしくは、馬鹿にするか。
多分、リエーブルはそれを受けて憤慨して仕掛ける、という予定で運営が生み出したアンドロイドのはずだ。
だが、リエーブルの話からすると、リエーブルのマスターが本人と計画を肯定した―――
つまり、予想外の行動によって、「リエーブル」に組み込まれたプログラム《グロッケン崩壊》が大袈裟になった…?
それが正しいならば…
もしかして、リエーブルのマスターは意図的にこれを起こした?そんなことがあるのだろうか。
目的は?利益は?思い当たるプレイヤーは?
普通のアファシスではなくリエーブルを活用した理由…エネミー使役?リミッター解放?…コピー生成?
エネミー使役は自分の敵であることに変わりはないし、使役しても賞金とかないし。
リミッター解放はリエーブルのリミッターを解放する。これにメリットはない。
だとすると、残るはコピー生成。
これはプレイヤーデータを盗んでコピーを作って……ん?
「まさか…」
プレイヤーの能力を知るため…?
だとしたら…黒幕は、もっと面倒な人なのでは?
「ちぇっ。面倒事が多すぎて忙しいってば。」
明日は祝日だけど、明後日は金曜日、雪嗣さんが学校に迎えに来る日。
生活リズムは壊したくない。
今は午後4時、まだ間に合う。
…出し惜しみしてる場合じゃないね。
「貫けっ!」
ウェポンアーツの多段ヒットで一応はHPバーが削りきれた。
でも、リエーブルは、リミッター解放が残っている。終わったとは考えにくい。
「やった!」
「嘘…嘘、嘘!なんで…!わたし、が…負けるなんて…」
「渾身の演技だね、リエーブル。」
「…あーあ、騙されませんでしたか、つまんない。じゃあ、この先もわかりますね?」
そして、瞳の奥が怪しく光る。
「リミッター…《解放》」
ぶわわっ!と風が吹いた。
そう、さっきもあった、リミッター解除。
予想外の第二形態に、クレハやキリトはびっくりだ。
「え、リミッターって…」
「そんなことまで…!」
そして、ガチャリと音を立てて、ベヒーモスが復活した。
…うん、ですよね〜。
『おい、エネミーが凶暴になったぞ!』
『やばいわよ、あと少ししか持たないわ!なんとかTipe-zちゃんを止めて!』
クラインとリズベットの苦情を耳に、私は表情を引き締めた。
タイムリミットは近付いている。ケリをつけなきゃ一気に《SBCグロッケン》が戦場化してしまうだろう。
この世界に慣れていないアリスやユージオが休める場所、私たちの大切な場所…
それを壊させるわけにはいかない。
「これは…だいぶ厳しいんじゃないですかね?」
「それでも、大丈夫。」
クレハが呼んだ、ピトフーイ、M、レン、フカ次郎がいる。
ツェリスカが呼んだ、ダイン、銃士X、闇風がいる。
戦ってくれている、みんながいる。
「…ふーん…人間が大好きな救世主登場!のキラキラシーンですか。おめでたいですね。」
リエーブルが退屈そうに言った。
「でも、それは一時しのぎに過ぎません。」
そして、不敵に笑う。
「リミッター…」
っ、まさか、まだ次が…
「―――全解放」
リエーブルがまとうオーラの色と雰囲気が変わった。もっと奇抜な見た目になった。
…あれ、ちょっと苛立ってきたからかな、心の中でディスっちゃってる。冷静に、冷静に。
「これでも、まだ大丈夫だと言えますか?」
「そうだね。大丈夫、ではないね。」
リエーブルは愉しそうに嗤った。うふ、と。心底、嬉しそうに。
そりゃそうか。面倒くさい相手が勝てないかもしれないと言ってきた瞬間だもの。
「―――でも、勝つよ。諦めない。」
途端に、醜く歪む。
面白くないですね、と呟いたリエーブル。
うん。面白くなくていい。もう私、本気だからさ。
「何を―――」
「そう、君は諦めない。」
何かを叫ぼうとしたリエーブルと私の間を遮るように現れた、大きな背中。
なぜかずっと会いたかった、ここ数ヶ月間ずっとそばにいた背中。
「イツキ!」
そして、耳元に歓喜の声が溢れる。
『うおー!《アルファルド》のやつらが来たぜ!これならいけそうだ!サンキュー!』
『こっちも《アルファルド》が到着したわ!さあ、反撃開始よ!』
よかった、来てくれたんだ!
安心感が溢れて気が抜けそうになったが、すぐに持ち直した。
「さあリエーブル。これで私は《大丈夫》な状態になったよ。」
ニヤッと笑って、私はイツキの隣に立った。
頼もしい鼻笑いが隣から聞こえる。
「最終決戦だ。」
イツキが隣にいる戦いは、とても安定感と自信があった。
サポートし、サポートし合う。お互いのやりたいことが、手に取るようにわかる。
そして―――ずっとともに過ごしたいと感じる、安心できる存在。
この気持ちはなんだろう、とふと思ったとき、頭に浮かんだ一文字が、すとんと心に落ちてきた。
―――恋
ああ、そうか。
なんで今まで気付かなかったんだろう。
抱き上げられたときの羞恥と照れも、背中を任せ合って戦うことの喜びも、ともにいたいと願う本能も。
ずっと、私はイツキが好きだからなんだ。
なんて、こんなときに思うなんて、私ってどうかしてる。
自然と頬が緩んだ。
私って今、幸せだ。
そのとき、《UFG》が静かに光った。
『―――刮目せよ。貴様のアファシスが与えたこの武器の真髄をとくと見よ。』
そんな声が聞こえた。
私はこの《UFG》の光と謎の声を信じて、《UFG》を構える。
パシュンッ、といつもの水鉄砲のような音が響いた。
変化のない、音。だけど。
「なっ⁉」
すさまじい威力だったらしい。
ベヒーモスは、後ろに向かって大きく倒れ、仰向けになっていた。
間抜けにも、仰向けになった状態でタイヤをコロコロさせている。
おかげで、弱点が丸出しだ。
「今だよ!」
「了解っ!」
その瞬間、ベヒーモスのHPが溶けるように減っていった。
パリーン!とガラスが割れるような音が鳴った。
目の前に大量に飛び散るデータソースの欠片を、呆然と見つめる。
今まで何度も見てきた、エネミーを倒したときのエフェクト。
あれ……こんなに、輝いてたっけ。
「……終わった」
巨大な機械は、もういなかった。
「ああ…あああああ…ああああああ……嘘だ、違う!負けない!マスターの《特別》は負けたりしない!」
リエーブルは頭をおさえて唸る。
必死な、心からの慟哭に聞こえた。
これは多分…いや絶対、嘘じゃない。
「リエーブル、認めて。きみは負けたんだよ。」
「リエーブル!もうやめましょう!」
「ああああああ……私…私…わたしわたしわたしワタシ…」
リエーブルがおかしくなり始めた。
AIが崩壊しようとしているのかもしれない。リミッターを解放なんてしたから。
「デイジーちゃん!リエーブルを停止させて!」
「承知しました。Afasystemプログラムに介入、自動修復モードに移行させます。」
デイジーが《ロストゲート》と同じようなエフェクトを出して介入した後、リエーブルは時が止まったように、唸っていた姿勢のままピタッと止まった。
「終わった…のでしょうか。リエーブルは…」
「自動修復モードに移行しました。時間はかかりますが、回復は間違いないでしょう」
デイジーの気遣った言葉に、レイは目を輝かせた。
「ほ、ホントですか…!よかったです…!」
今日も変わらぬかわいさに、私は完全に気が抜けた。
「はあ…疲れた。」
「ははっ、おつかれ。頑張ったね」
「あ、そうだ。イツキ、来てくれてありがとう。すごく嬉しかった。」
「いいんだよ。きみが呼んでる気がしただけだ。」
…これ、なんか心が通じ合ってるね的な感じで恥ずかしい。
そんなことないとわかったいるけれども。
好きと自覚してしまった今は…もう、気付いていないふりなんてできないからなあ。
歯止めが効かないようなことにならないようにしないと。
「さあ…帰ろっか、みんな。」
私は、戦ってくれた戦友がいるほうに振り返った。
「《SBCグロッケン》へ。」
「はい!」
「おー!」
「ああ!」
そして、目まぐるしい戦いと、「エネミーアファシス」騒動は、こうして幕を閉じたのだった。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.39 )
- 日時: 2023/07/20 19:01
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
後日、私はユイちゃんに頼まれてリエーブル専用の修復カプセルを直し、リエーブルの治療を手伝った。
あとは目覚めるのを待つのみ。
そして……
ユイちゃんが先に帰った中、一人残った私。
その空間に、もう一人現れた。
「きみが、リノセか。」
「…きみが、リエーブルのマスターさんだね。」
金髪の、細身の男。
ガシッとした体で隙がない。眼光は鋭く、菊岡さんに似た雰囲気を感じる。
「せっかくの計画を見事崩れさせてくれたね。」
「わざわざお礼言いに来たわけ?律儀だね。」
この人は見たことがある。シノンと過去の《BoB》のデータを見たときにいた。
―――サトライザー
体術と先読みの力で、コンバットナイフのみでも優勝を掴んだ謎の男。
でも、私はあの体術は見たことがある。あれは、軍人特有の体術なのだ。
…だから、サトライザーはプロ…かもしれない。
本物の軍だからプレイヤースキルが高い、という考え方もできる。
プロ対アマチュアじゃあ力の差が開きすぎるからね。
「だがまあ、《不思議の国アンダーワールド》へのデータはほぼ整った。《A.L.I.C.E》…ようやく会える。」
「…アリス?アンダーワールド?」
不思議の国のアリスのこと?なにそれ?
「じきにわかるさ。」
サトライザーは私に近づき、ポンと肩に手を置いて囁いてきた。
「You soul will be so sweet,Linose.」
―――きみの魂はきっと甘いだろう、リノセ。
これほど悪寒がしたのは、初めてだった。
「マスター!おかえりなさい!」
「ただいま、レイ。おまたせー」
「パーティーの準備はもう出来てるぜ!」
キリトたちの部屋に着くと、そこはもうパーティー会場になっていた。
食べ物がたくさん並んでいる。
…うん、最近パーティー多いな。この前もやったんだよね〜。
楽しいからいいけど。
「お疲れ。最後のアレ、すごかったね?」
イツキが声をかけてきた。
「うん。何だったんだろうね?」
あの男のような声と謎の光、そして本来あれほどの威力はないはずの《UFG》…あれは何?
《UFG》をくれたレイ本人も、何がなんだかわからないそうだ。
声の通り、あれが《UFG》の真髄なら…またあの威力を出せる?なにかの条件で?
これはまた忙しくなるな…。
そう思いつつ、楽しみでもあった。
まだ、やることは山積みだ。
次は…
「レイ。明日は《SBCフリューゲル》攻略再開しよう。はやくお母さんに会えるといいね。」
「はいっ!」
誰よりも早く、誰よりも速く。
ベランダから見下ろした鋼鉄の夜景を見ながら、私は決意した。
《機駆の馭者編》完結
次から本編に戻ります!
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.40 )
- 日時: 2023/07/15 11:51
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
ザザザァ…と静かに波を動かす海。
リエーブル騒動の翌日の木曜日、祝日。
一人だけの砂浜にて、私は「あの日」のことを考えていた。
今日は「あの日」と「あの日」から丁度8年と5年。
毎年、この日にはあのときのことを思い出す。
涙が枯れるかと思った、あの日のことを。
****
―――《SAO》が生まれる2,3年前。私は、小学4年生だった。
お兄ちゃん、お母さん、お父さんと一緒に、幸せに暮らしていた。そう、失うのが怖いほどの幸せ。
その日、私達は家族みんなでドライブをしていた。私が、行きたいと言ったから。
そのとき。
「きゃああっ」
「うわああっ」
ガッシャアアアンと音が響き、体を強い衝撃が包む。
ガラスが身を裂く中、ぐしゃぐしゃの車と一緒に視界に入ってきたのは、赤い鮮血と大型トラック。
衝突事故…理解するのに時間はそんなにかからなかった。
高速道路だから、スピードは両方出ていた筈だ。そうなると、ダメージは高い。
咄嗟にそう思い、横を見る。
さっきから体を包む、ぬくもり。私を守ろうと抱き込んでくれていた、お兄ちゃん。
「お兄ちゃんっ…⁉」
「り、せ……大丈夫、か…?」
「私はいいよ、お兄ちゃんが…っ」
「凛世が、いいなら………俺は、死なな、い…から…」
「お兄ちゃん、やだよ、やだよ…」
「凛世…大丈夫、だ。………救急車、呼んで………」
それを最後に、お兄ちゃんの意識は途切れた。
助けを求めようと前の席に視線を移すと。
「お父さんっ…お母さんっ…」
傷が少なかった私以外、みんな、気絶していた。
「っん…」
目を覚ますと、そこは病院だった。
救急車を呼んだ後、私はショックで気絶してしまったらしい。
よく救急車を呼んでくれたね、と医者や看護師は私に微笑んだ。
でも、現実味がわかない。夢かと思いたくなる。
私のせいでみんなが血まみれになった事実を、信じたくなかった。
「…凛世ちゃん。あのね。」
そんな私に告げられた事実は、あまりに私にとって残酷だった。
父親は死亡、兄は昏睡状態、母親はさっき意識が戻ったらしい。
「…お父さんっ…お兄ちゃんっ…」
泣き伏せた。それはもう。下唇を噛みまくって、血が沢山出た。手を握りしめて爪が手に食い込んだ。
私がドライブしようなんか言わなければ。お出かけしようなんて言わなければ、こんなことにはならなかった。
「私のせいだっ…」
やっと落ち着いてお母さんの病室に行ってみる。
ノックして入ると、お母さんはニコッと笑った。
「あら、可愛い子ね。お名前は?」
お母さんは…記憶が、なかった。
良くも悪くも、理解力には自身があった私。記憶がない。私の記憶なんて、これっぽっちも残ってない。それを理解して、頭の中の家族の思い出が―――
モノクロになって、ガラガラと、崩れていった。
「私は紗雪っていうんだ。あなたは?」
「……っあのね!私、凛世っていうの!……よろしく、ねっ……………さゆき、さん。」
「よろしくね、凛世ちゃん。」
―――その後、家族を失った私は、唯一の親戚である戦闘マニアの元自衛隊の人の家に預けられた。
「俺は剛。よろしくな!」
「よろしくお願いします、剛さん。」
剛さんは優しかった。
私に、まるで本物の家族のように愛を与えてくれた。
「俺たちは、ここをこう!バシュッとやって、ここをひゅっとして戦うんだ。あと、相手が次、次の次、そのまた次に何をするかを考えるんだぜ。」
サトライザーの体術がわかったのは、剛さんが教えてくれたからだった。
泣きまくる私に、彼は言った。
「お前たちの家族が必死で凛世を守った意味を作ってやれ。前向きに生きろ。目で見て、耳で聞いて、心で感じたことを大切に生きろ。それが償うってことだ」
その言葉に、どれだけ私が救われたか。
今こうして立っているのも、この言葉あってこそだ。
そして、剛さんはいつも私のことを考えて明るく接してくれた。
だから、幸せだったのに―――
そう、死んでしまった。
私たちが事故に遭ったその日付…ちょうど2年後。きっかりのときだった。
「う、うぅっ…」
癌による、剛さんの病死。私が中1の5月のことだった。
私は、何もしてあげられなかった。何もできなかった。
何も、できないまま終わってしまった。
今でも考える。あのとき、何かできなかったのかと。
啓治のお母さんも癌で亡くなったと聞いたとき、私はとてつもなく胸が苦しくなった。
きっと、私を重ねてしまったんだろう。
家族もいなかった剛さんの遺産は、剛さんの遺言で、私が相続することになった。
そして、私は密かに裏でお金を稼ぎつつ、溜まり溜まって溢れていた遺産も少しずつ削って一人暮らしを始めた。
そんな中1の11月。私のもとに、一通のメールが届いた。
『驚異の新技術!ナーヴギアでのフルダイブ技術の結晶、《ソードアート・オンライン》…その名も《SAO》!』
いつもメールボックスからはじき出されるはずのセールスメールかと思ったが、私は削除のボタンを押そうとした手をピタッと止めた。
送信主、よくわからないメールアドレス。でも、なぜか拒絶できそうになかった。
私の頭が、「これだ」と言っているのだ。
「―――《SAO》…」
私は、一番下の、「ナーヴギアとカセットの予約はコチラ」と書かれているところをタップしたのだった。
****
目を開く。
鮮明に思い出せたあの日の温もり。あの人の温かさ。
私は、私を助けてくれたみんなにお礼をするために、前を向いて生きると決めたんだ。
「…さて、行かなくちゃね。」
家に帰って、《GGO》に行こう。
みんな、きっと待ってる。
……イツキも、きっと、待ってくれている。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.41 )
- 日時: 2023/07/25 18:27
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
「リンクスタート」
ホームで目を開くと、いつも通りレイがタックルしてきた。
「マスター、おかえりなさい!」
「ただいま。」
「今日は何をしますか?」
「フリューゲルのカードキー集めかな。急がないと。昨日とかは一日潰れちゃったしね。」
「了解しました!」
フレンドのところを確認すると、イツキがいた。
「誰と行きますか?」
…イツキが、好き。
だから、イツキと行きたくなってしまう。
だけど…イツキはきっと迷惑だ。イツキにとって私って、「友達」なんだろうし。
どうすればいいのかな。
きっと、もうすぐ抑えられなくなる。
「…レイ、たまには2人で行こうか」
「はっ!もしやデートですか⁉えへへ、わかりました〜!」
2人で戦場に行くのをレイはデートと認識するのか。
私は少し驚きつつにっこり笑ってレイを準備を始めた。
カードキーはレベル4まで。レベル上げと技術の向上訓練も兼ねて、2人で攻略してみる。
普段からレイは支援系…それも回復重視だから、2人でも戦いやすい。
だから、特に問題は―――
「見ーつけた」
ありました。
偶然、シュピーゲルと居合わせてしまったのだ。
そのシュピーゲルは、見覚えのある男を連れていた。
既視感のある顔で、確か…この前フィールドで会った…【ケイ】、だっけ?
「シュピーゲル、と……ケイ、だっけ。」
「あ、おう」
「きみたちもカードキー集め?」
「そうなんだ。ああ、ちょうどよかった。フリューゲルに新しい隠しダンジョンができたそうなんだ。だいぶ新しい情報だから、まだ間に合う。そこでは最強の武器を手に入れられるらしくてさ。」
「最強?」
「ああ!これでリノセは更に孤高のかっこいいゲーマーになれる…!座標をメールで送っておくね!それじゃ、頑張ってね、リノセ!」
勘違いも甚だしい。なにが「更に孤高のかっこいいゲーマーになれる…!」だ。
孤高はいらない。一番いらない。庶民くさいくらいがちょうどいいんだ。
前から思ってたけど、やっぱりシュピーゲルってこじらせてるよね。多分だけど、よくない方向に。
となると…。
「ケイは…元々真面目な性格らしいし…え、たぶらかされた?」
いやいや、まさかね。そんな、アニメみたいに誘惑に負けて寝返るんじゃあるまいし。
だとしたら…いったいなんで?
「マスター…大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。今回は何もしてこなかったし。行こ。カードキー収集が終わったら、みんなと一緒に紹介してくれたダンジョン行ってみようか。」
「はい。」
私たちは、攻略のスピードを少し上げ始めた。
「―――ふう…カードキー集めはこれでおしまい?」
「はい!セキュリティレベル4のキーまで収集が終了しました!」
「ありがと。じゃあ、一旦休憩しようか。グロッケンのいつものカフェに寄ろう?」
「はい!」
チーズタルト、チーズタルト〜!とウキウキするレイ。
ここまで飽きないとは、流石私のアファシスといったところか。
「おや、リノセ。」
「あ、イツキ。」
いつもの、落ち着く声が聞こえてきた。
鈍感にも、この間恋心を自覚した私は、どんなふうに接していいかわからない。
冷静に。いつもどおりに接すれば、きっと大丈夫。
「何をしていたんだい?」
「んー、カードキー集めをね。久しぶりのレイとデート兼攻略。」
「ああ、なるほどね。」
「楽しかったです!」
「ずるいなあ、僕ともデートしてくれよ」
えっ。
一瞬固まってしまったが、すぐにふたりきりの攻略を望んでいるのだと察した。
「う、うん!勿論いいよっ!」
「むーっ。イツキこそズルいですよ!マスターは私のマスターなのです!」
「それを言ったら、リノセは僕の大切な仲間だろう?」
バチバチと火花を飛ばすイツキとレイ。
私がそんな2人を見ながら苦笑いしていると…
「あらあら〜。なに睨み合ってるの、お二人さん。」
「どーせ、リノセの取り合いとかでしょ。」
「ツェリスカ!」
「クレハ!」
ツェリスカとクレハがやってきた。
レイがぱっと顔を明るくして2人に笑いかける。
イツキはふんっと鼻で笑って私に視線を移し、私の髪を一房掬う。
そしてくるくると弄び始めた。
「腹黒男〜。リノセに構ってもらってばっかりいないで、あいさつくらいしたらどうなの〜。」
「はあ?ふざけるのも大概にしてくれ。」
イツキは味方も多いけど敵も多いなあ。
レイともツェリスカともピリピリしてるなんてね。
まあでも、微笑ましいって言ったらその通りなんだけどね。
「…なんだ、あの男は?」
そんな私の思考は、イツキの怪訝そうな声によって打ち切られた。
イツキの視線を追っていく。
カフェのスクリーンに映る《MMOストリーム》の中継映像だ。
ゼクシードが、自分で唱えたはずの《AGI最強論》を全力否定しているところだった。
そのスクリーンの前に立つ、細身の男。
「ゼクシード!偽りの勝利者よ!貴様の怠惰と傲慢への、真の強者からの裁きを受けるがいい!」
変声機を通したような声でそう叫び、スクリーンに銃を掲げて、撃つ。
すると、ゼクシードは顔を歪めて、「がぁっ…!」と苦しそうに呻き、緊急ログアウトしていった。
「この銃と俺の名は…死銃だ!!」
「―――ッ!!!」
ヒュッと息が詰まる。
あの体、あの目、あの殺気。
知っている。あの人を、私は知っている。
シュピーゲルが怖かったのは、この人に雰囲気が似ていたから。
「なんで、あいつがここに…」
私は、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
「―――ザザ」
知っている。
あの人は、ラフィン・コフィン。
忌まわしき記憶に鮮明に残る、《あの人》の仇…
あ、あれ?
―――《あの人》?
そんな人、いた?
思い出せない。今、私、誰を思い浮かべていたんだっけ―――?
「ッ!」
我に返ってもう一度、《死銃デスガン》がいたところを見やると、そこにはもう、誰もいなかった。
「…《死銃》が、やったのでしょうか…?」
レイが小さく呟く。
「いいえ。ここは《SAO》ではないのよ。それに、あれはあくまで《MMOストリーム》の中継映像。《GGO》ではない別のVR空間の映像を繋げているだけなの!銃弾がスクリーンを超えて別のVR空間に行く⁉そんなこと絶対にありえない!」
ツェリスカは、何度も首を横に振って否定した。
その通りだ。全てのVR空間は、キリトが発信した《ザ・シード》のもと作られているとは言え、茅場晶彦なしではVR空間を繋げることなんてできやしない。理論的にはそうだ。
「じゃあ、今のは…?」
クレハの声はかすれていた。
それもそのはず。緊急ログアウトは本人に命の危険があるときに行われる。
つまり今、私たちは殺人事件の目撃者になったのかもしれないからだ。
「…何のために」
何のために、ザザは彼を害したのか。
そう考える私に、もう《あの人》について考える余裕はなかった。
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