二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.11 )
- 日時: 2022/11/16 22:48
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
※実際の《SAO》の設定にはない設定もございます。ご注意ください。
これは《ソードアート・オンラインフェイタル・バレット》の二次創作です。
私は、帰宅してから、とある人と電話しながら家事をしていた。
『全く、変なやつにばっか好かれるなんて、可愛そうな生態してるわね、凛世。』
「あはは、こんな生態ならいっそ生態から作り直したいね。」
『諦めなさい。あんた、あっちでも変なやつにばっか目をつけられてたでしょ。あの茅場晶彦もその一人だし。―――《SAO》の世界で。』
「……まあね。《SAO》時代からだし、諦めなきゃいけないのかもねえ…。」
『まあ、またトラブルに首突っ込むなら手を貸すわ。いつでも。私はあなたの味方よ、凛世。』
「ありがとね。―――唯葉。」
相手は、唯一《SAO帰還者》の中で現実の私と交流している…瀬良 唯葉。裏の情報屋をやっているらしく、情報収集には長けている。
そのため、トラブルに巻き込まれた(突っ込んだ)ときは情報をもらって、その代わりに色んなお願いを聞いたりしている。
今日は単純に、お友達トークみたいな感じだね。そんなライトな内容じゃないけど。
私は、《霧散》と呼ばれていた《SAO》時代…。《SAO》の中でただ一人だけ、とあるスキルを持っていた。
―――霧剣斬
このスキルは3種あって、
霧剣斬:舞華、霧剣斬:三枝、、霧剣斬:千神
の3つだ。
舞華が一番威力が低く、千神が一番高い。特に、千神は片手剣ソードスキルにも関わらず、35連撃という脅威の手数である。
これが…私だけ、使えたのだ。
私は、この前…。シュピーゲルをPKした日、キリトたちとバーサーカーを討伐しに行く準備のときに見つけて、これらをセットしておいた。
いざというときのために。
今まで霧剣斬を見てこなかったからあったのは知らなかった。
ううん、違う、思うべきは…………なんで《GGO》にあるか、だけど。
この3つ、とあるバフが使用者に付与される仕組みだった。
―――『弾丸一発一発に、極めて強い貫通力が付与される。』
貫通力…まあ、攻撃力が結構増加する、と考えていいのだけれど。
それなら、そうかけばいいではないか。
そう、私が言いたいのは、この文は、私に何かを伝えようとしているのではないかと思うのだ。
今まで、一回も霧剣斬を見ていないし。霧剣斬の噂も聞かないし。
多分、このスキルが一覧にあるのは、多くはないはずだ。私含んで、片手で数えるくらいのはず。
もしかしたら、私だけ、という可能性だって十分ある。
とにかく、私に何かを伝えるために、霧剣斬があるのではないか、と思うのだ。
それが何かは、わからないけど……。
「……行くか。」
考えるより、早く《GGO》に行ったほうがいいよね。
《GGO》で冒険を進めれば、それが何なのかもわかるかもしれないし…。
私はそう思ってベッドに寝転がり、アミュスフィアを被った。
「―――リンク・スタート」
「マスター!おかえりなさい!」
「ただいま、レイ。」
「今日はどうしますか?《忘却の森》攻略、レベリング、クエスト消化、狩りなどいろいろありますが…」
「んー。どうしよっか?」
考えていると、プシュー、とホームが開いた。
そして、入り口からクレハとキリトが入ってくる。
「お、クレハ、キリト。やほー。」
「クレハ、キリト。こんにちは。」
「やっほー。ちょうどインしたみたいね。キリトさんたちから、とある集団戦クエストに誘われてるのよ。リノセとレイちゃんもどう?」
「メンバーは今の所、俺、アスナ、リズ、シノン、エギル、クライン、クレハ、リーファ、シリカってところかな。」
どうやら、集団戦をやれるようだ。
「ほんと?ちょうど、何やろうか悩んでたところなの。じゃあ、行こうかな。」
「―――僕も参加していいかい?」
頷くと、扉から新たなお客さんが。
イツキだ。
「あ、イツキ。こんにちは。」
「こんにちは、イツキ。」
「イツキさん!いつの間に…」
「いいぜ!スナイパー3人は心強いしな!頼りにしてるぜ!」
「ああ、任せてくれ。」
イツキも集団戦に参加するみたい。
集団戦かあ…久しぶり?なのかな?うん。
もしかしたら、《SAO》のボス以来かもしれないなあ。懐かしいというか、なんというか。
ワクワクはしてるけど、集団戦には悪い思い出しか無いからか、妙に気合入れちゃう。
集団戦ってやっぱり、誰も死んでほしくなくて…。
私は、次々とHPが尽きていくのが嫌でも目に入る集団戦が嫌だった。
まあ、これも血盟騎士団を抜けた理由のひとつなんだけどね…。
まあいいや。今は準備準備!
「リノセ、外さないでいてくれてるんだね。」
「え、あ。うん…。これ、付けてるとすごく落ち着くの。」
イツキは、ラフィン・コフィンに似たシュピーゲルと会話をして震えてたときに貰ったピアスを指さした。私は、頭をかきながらも頷く。
「それに、なんか……外したくないなあ、と…。」
「ごほっ」
「っえ?大丈夫、イツキ…?」
「………ごっほ…なんでもないよ。」
本音を言ってみると、イツキは盛大にむせた。大丈夫だろうか、と本気で心配になるくらいにむせた。肺が口から出てきそうなくらいむせた。
「……なんか、変なこと言った?」
「いいや…。言ってないから、安心するといい。大丈夫だ。」
「そう?ならいいけど…。」
変なイツキ。まあ、無事ならいい…のかな、多分。
「よーし、じゃあ、行こっか!」
「おう!」
「はい!」
「ああ。」
―――そして、私達は、集団戦に出発した。
「―――標的発見。クレハからだいたい5000メートルくらいかな。」
『了解、こっちからも確認できたわ。そっちはどう?キリトさん。』
『俺もOKだ。』
『じゃあ、スナイパー三銃士!ぶっ放せ!』
「スナイパー三銃士って…まあ、あながち間違ってはいないけど。じゃあ、行くよ?」
「ぶっ放そう。」
「やっちゃいましょ?」
「せーの!」
ドン!と一斉に弾丸を放った。
3つの炸裂弾は敵の前衛当たりを軒並み消していき、それによってヘイトがこっちに向いた。
「やったよ、ヘイト取りと攻撃お願い、突撃!」
『『『了解!』』』
私は、クレハ、キリト、リーファの支援を中心に行う。スコープを覗き、時々指示し、そして援助。
「―――ッ、クレハ!」
『っ⁉ありがとう、助かったわ!』
「気をつけて!」
背後を取られて、背後から斬られそうになっていたクレハ。背後を取っていたエネミーを咄嗟に頭抜撃した。その後、クレハは後退。HPを回復して、今度はもっと慎重に攻撃し始めた。
「クレハちゃん、今!」
「はいっ。」
いつの間にかアスナと背中を合わせている。その動きは阿吽の呼吸…クレハも、もう十分トッププレイヤーだろう。
でも、心なしか、クレハは焦っているようにも見えた。だがまあ、2度も同じ間違いは起こさないように用心していた。
―――クレハ。クレハは、きっと、今でも、お姉ちゃんのことで……
思考に入ろうとして、いけないと頭を振った。
そして、その思考を振り払うようにスコープを覗く。
後でカウンセリングが必要だね、クレハ。
そう思いつつ、私はまた、弾丸を放った。
―――「お疲れ様!無事終われてよかったわー!」
アスナがそう言ってリロードした。
「ああ。ほんと、イツキやクレハ、リノセやアファシスが参加してくれなかったら危なかったよ。」
「こっちとしてもいい稼ぎになったし、いつでも大歓迎ってもんだよ!」
「そうね。いい運動だったわ。」
「はい!グッドゲームン?でした!」
「アファシス、それはグッドゲーム、だよ。」
「あれ?」
また、いつものように笑い、私達はSBCグロッケンに帰還した。
「―――リノセ。ちょっといいかな。」
「ん、どうしたの、イツキ?」
レイとクレハと談笑していると、イツキと肩を叩かれた。
「アファシス、クレハくん。リノセを借りていいかい?」
にっこり…と効果音が付きそうなくらいのにこやかな笑顔で、イツキは2人に訊いた。
「あ、どーぞどーぞ!」
「はい、どーぞどーぞ!」
2人は、揃いってぶんぶんと首を縦に振った。
何、何かあったの、2人とも?心配なんだけど?と思って頭にはてなを浮かべる。
だってしょうがないじゃん。わかんないんだもんっ。
そう思った直後、イツキに手を引っ張られた。
「こっち。」
「ちょ、イツキ、どこに―――」
「しーっ、抜け出すんだよ。展望台に行こう。」
「ぬっ、抜け出すっ…!」
私は、なんか悪いコみたいな「抜け出す」というワードに目を輝かせ、あっさりと頷いた。
まさか、「本当に悪い人みたいなイメージの言葉で釣れるとは…流石クレハくん、幼馴染のことはよくわかってる」とイツキが呟いてたなんて、思いもしなかった。
2人で、コソコソと見えないところまで移動し、そこから悪戯に笑って駆け出す。
大分離れた後、みんなが「あれ?2人は?」「おかしいな、そんなに遠くにはいかないと思ったんだけど」などと言っているのが聞こえ、ちょっと笑みが零れた。
「ふーっ、着いたー。」
「そうだね。一気に走ってきたから、ちょっと疲れたな…。」
2人で、一回伸びてベンチに座った。
「……ねえ、イツキ。」
「なんだい?」
静かになった空気の中、私の中で漂う不安を取り除きたくて、私はイツキに話しかけた。
ただ、拒絶が怖くて、前を向いたまま、髪で目を隠しながら話し始めた。
「………シュピーゲル…私の、怖かった人に似てた…って言ったよね。」
「…そうだね。」
「私………っ…私…!」
言えばよいのだろうか。言って良いのだろうか。ああ、言いたいのかもしれない。でも、私の問題に、イツキを巻き込みたくない。巻き込みたくないんだよ。
私の《SAO》でのことは、イツキには関係ない…だから…。
ううん、でも…。たまにしか会えない唯葉じゃなくて、もっと気軽に会える、心の拠り所…相談相手みたいな、上手く説明できないけど…。イツキには、私を知っていて欲しかった。
でもっ…。
私の中の悪魔と天使が論争を繰り広げる。最早、どっちがあくまでどっちが天使なのかすらもわからなくて、どれが本当の私が思うことなのかもわからなくて、迷って、迷って、あの頃の恐怖が襲ってきそうになって、怖くて、震えて―――
「リノセ。」
「…ッ………イツキッ…」
そんな私を、イツキはそっと、でも力強く、それでいて優しく、抱きしめてくれた。
「僕はここにいる。ここは《GGO》だ。僕はいつも君のそばにいる。大丈夫。」
一定のリズムで背中を叩いてくれる暖かい手。諭すように囁いてくれる声。
ああ、この安心できる感覚。今まで、どこかで思っていた不安と恐怖が、じわじわと安心に侵食されてなくなっていく安らぎ…。
これが、一緒にいる心地よさ、ってものなのかな。
そして同時に―――
顔が熱くて、心臓がうるさい。
これは、一体何だ…?と思いながら、離れたくないという本能のまま、そっとイツキの服の袖を握った。
「―――ごめんね、またお邪魔しちゃって。」
「いやいや、僕が勝手に連れてきたんだし、気にしないで。」
その後、私は、またイツキのホームに来ていた。
今度はココア付き。
「ん…美味しいよ、ありがとう。」
「それは良かった。」
2人で苦笑して、そっとソファに座った。
隣同士で、でも少し近い距離。そっと、ココアの入るコップに力を込める。
イツキと一緒だと、こんなにも自分を出せる。
これが何かはわからないけど…そう、私はイツキと一緒にいたくて。
だけど、どこか恥ずかしくて。
「イツキ。」
「ん?」
「私がどんな人でも、私から離れないでくれる?」
「勿論さ。誓うよ。」
だから、だからこそ、イツキには知ってもらいたい。
それが、私の出した結論だった。
「私は…
―――《SAO帰還者》なんだ。」
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.12 )
- 日時: 2022/11/20 19:24
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
「―――私は、《SAO帰還者》なんだ。」
その言葉に、イツキはすこし目を見開いた。
でも、すぐ戻して、私を見つめた。
「私は、そこで狂っているPK集団―――ラフィン・コフィンを見た。その人達に似てて…。だから、怖かった。あの時が戻ってきたみたいで。」
私は震える手をギュッと握りしめた。
泣いちゃダメだ。我慢、我慢。ここは《GGO》なんだから。
が、その手は優しくイツキに解かれる。
「我慢するな」とイツキ言った瞬間、固く結んだ口の力が抜け、ふにゃりと涙腺が歪んだ。
「………っう…っ、怖かった…!」
「……リノセ。」
イツキは、そのまま、何も言わずに背中を撫でてくれた。
「…っひっく…はあ、ありがと、イツキ。もう大丈夫。続き、話すね。」
「…いいのかい?」
「うん。話そうとしたの私だしね。」
すう……はあ……と、深呼吸した。大丈夫、イツキならきっと受け入れてくれる。
「あのね―――」
ピロリン、ピロリン、ピロリン!
「……?」
メールの受信音が、立て続けに3回鳴った。
流石に3回はスルーするわけにはいかなくて、イツキに言って確認する。
メールは、レイ、クレハ、キリトの3人からだった。
試しに、レイからのメールを開く。
『マスター!大丈夫ですか⁉
イツキとどこかへ行ってから帰ってこないのでみんな心配しています!』
クレハとキリトのメールも、同じ内容だった。
「……あー」
「ぷっ、君のアファシスたちらしいメールだね。いいよ、今日はアファシスたちのところに戻ってあげて。話は、また今度聞くとしよう。」
「…いいの?」
私は、恐る恐るイツキを見上げる。
イツキは、優しい笑顔で頷いて、私を柔らかく撫でた。
「勿論さ。また、ゆっくり話せるときに。」
ね?と首を傾けたイツキに、私は涙ぐんで頷いた。
そして、イツキに今度続きを話す約束をして、私は、レイたちのもとに向かった。
「……《SAO帰還者》だとしても…僕は、離さないよ…君を。」
イツキがそう呟いていたなど、知ることはなく。
―――「おはよう、凛世!」
「おはよう、香住。」
数日後、現実にて。私は、学校に登校していた。
「はあ……テスト結果なんて学校ごと燃えちゃえばいいのに…」
香住がボソリと呟いた。
そう、昨日はテストだった。まあ、それに関わらず、テスト前日はいつもどおり《GGO》にダイブしていたリノセこと凛世ですけど。はい。
まあ、今回は中々手応えあったから許してほしいね、ティーチャー様。
「学校ごと燃えちゃったら私達の私物も燃えると思わない?」
「はっ!そうだったわ…それだと損ね…。」
じゃあ私物は燃やさない火を…などと馬鹿げたことをブツブツ言っている香住とともに教室に入る。
そこには、張り詰めた空気のみんながいた。
「…?どうしたの、みんな?」
「……学習委員長はいつも成績いいから関係ねぇんだろうけどよ…!」
クラスメイトの一人が泣きそうな顔で私を見た。
「俺、補修になったら、冬休み、パーリナイできねーじゃん!」
「いや、そんな思考してるから補修になるんでしょ…」
そうだよ!ちゃんと英語とか勉強しないと!とか私の隣でほざく前回英語40点の香住さん。
香住は香住で解答欄にスペイン語書くだけじゃなくてちゃんと英語もできるようにしてほしいものだ。
「全く…この中で、私に教えてもらいたい教科ある人いる?」
「「「はい!!」」」
「わお…」
一気に7人ほどが手を挙げたが、流石に無理があるのではないか。
そもそも、何で10位くらいの頭いい子も手挙げてんのさ。
「順位が70位より上の人は却下でーす」
「えー」
「えー、じゃないでしょ!見てた?7人同時にできるわけないでしょ。」
制限したことで、3人に減った。これくらいならできそう。
「あ、凛世。私、71位。」
「………………香住……………」
我が親友よ、勉強してくれ。
「―――いやー、超わかりやすかった!流石学校一と言われる凛世様ですはい!」
放課後勉強会の後。
私達は、勉強会メンバーのみんなと下校していた。
「いや、今日は数学だけでしょ?あんた、英語もやばかったよね?下心丸見え。」
「う、バレた…!お願いします!」
「…いいけど。」
「いやったーー!」
呑気にガッツポーズをする一同。これから私は手加減すること無くスパルタでやっていこうと心のなかで高笑いしているというのに、大した余裕だ。もっとしごいていいってことかな…?
「凛世…イケナイ顔してる。」
「おっと…うふふ。」
「今更笑っても無駄よ…!もっとキツくしてやろうって顔に出てたわよ!」
香住にはわかったらしいがもう遅い。私は決めたもんねー。
「そういえば、凛世はテストどうだったの?」
香住の言葉に、一同がギュンッと首をこちらに向けて私を凝視する。そんなに知りたいのか。
「…国語97点、社会100点、数学98点、理科100点、英語100点、合計495点。一位。」
そこまで言うと、一同はうげーと唸ってズザザザザーと後退った。
「いや、何で香住まで後退ってんの。訊いたの香住でしょ。」
それにこんなのちょっと頑張ればいけるし。みんなもできるんだけどなあ…。
それを言ったら、
「そんな思考してるから後退るんだよ。」
と、ご丁寧に私を真似て香住が言ってきた。
解せない。
とまあ、愉快な仲間たちとともに、その日の現実での多忙な時間帯は幕を閉じた。
さて、《GGO》に行こう。
仲間が待ってる。
「リンク・スタート」
「あ、マスター!おかえりなさい!」
「ただいま、レイ。お留守番ありがとね。」
レイをよしよしと撫でて、少し雑談していると、ホームの扉が開いた。
「リノセいるー?あっ、いた、リノセ。やっほー。」
クレハだ。
「クレハ!やっほー!」
「クレハ、こんにちは。」
どうやら、キリト・アスナ・クレハ・私の4人でクエストに行きたいと、前々からレイに頼んでいたらしく。ちょうど他の2人も空いてるみたいだから、行こうという話だった。
「わかった。レイ、お菓子とか買っててもいいから、グロッケンでみんなといてくれる?」
「はい!了解です!」
「迷子にならないようにね?あと、危ない人に気をつけて。騙されないように―――」
「あーはいはい。行くわよリノセ!」
「わかったって。引っ張らないで。いってきまーす!」
「お気をつけてー!」
ブンブンと手をふるレイに「わかってるー!」と返事し、私達は駆け出した。
「クレハ、いいよー!」
「わかってるわ!」
クレハと、エネミー軍隊を倒し終えた。
それを見て、キリトたちが言う。
「相変わらず、2人のコンビネーションは流石だなあ…」
「そうね。とても息ぴったり!」
アスナもキリトに乗っかって私達を褒めるが、私とクレハは、顔を見合わせて首を傾げた。
「そう?そんなことじゃないと思うけど…。ねえ、クレハ?」
「ええ。そんな、キリトさんたちが褒めるようなものではないわ。」
そういう私達に、2人は首を横に振る。
「いいや、すごいことだよ。これ、俺とアスナがやろうとしても難しいだろうしな。」
「ほんと、そうだよね。2人にしかできないことだよ。」
「そうですか?えへへ…」
2人に褒められて、クレハは嬉しそう。喜ぶ姿がかわいい。
そんなクレハを見て微笑んでいると、キリトが言った。
「やっぱり、2人が昔馴染みだからか?」
「え?」
確かに、私とクレハ…凛世である私と紅葉であるクレハは昔馴染みだ。
昔、家が隣で、よく遊んだ。
「んー…そうなのかね?」
「うーん…ちょっと自覚ないわね…まあでも、確かに、リノセの考えることはだいたい分かるわ。あの頃と全く変わってないし。」
「そうかなー?変わってないかな?…私も、クレハがやりたいこと、わかるけど…」
なんか実感がないね、と2人で苦笑してこの話を終わらせ、次の狩りポイントに向かう。
「―――ッ⁉」
そのとき、僅かな視線を感じた。
これは…殺意?敵意?いや…狂気…。
…シュピーゲルっぽい…?
え、やばくない?ちょっと離れないほうがいいかも…。それに、今イツキいないし…。
視線の方向を見ると、高い場所に立つ、細身の影を見つけた。
っ…やっぱり!
「…?どうしたの、リノセ?」
「ん?そんなに慌ててどうした?」
「どうかしたの?リノセちゃん…」
3人が心配してくる。
「ごめん、ちょっと怖い人見つけて。色んな意味で怖い人を。」
私が見ていた方向に目を凝らしたキリトは、彼を見つけたのか、ハッとした。
「…シュピーゲル…!」
小さく呟いたその言葉は、私にしか聞こえないだろう。
「なるほど、リノセ、理解した!一旦戻るぞ!」
「えっ⁉」
「ごめんね、後で説明する!」
クエストはクリアしてたし、狩りしてただけだし、ぶっちゃけもう戻っても良かったのだ。
急いで、私達はSBCグロッケンに帰還した。
「んー…。まだ来てない…」
イツキは、まだログインしていないようだ。
というか、前から、イツキを隙あらば気にしている気がする。
イツキのことを考えると頬が熱くなるし、心臓も早くなるし…イツキのときだけ病気みたいになるって、なんか嫌だ。うーん…でも、なんか不快じゃないんだよね。
わからない。
「あ、マスター!おかえりなさい!」
レイが、お菓子を持ってホームに帰ってきた。
「お菓子を買って来ました!ティータイムにしませんか?」
「うん、しようか。」
不安に駆られているままではだめだと思い、私は気分転換にかわいいレイとティータイムにすることにした。
ピロリン!
すると、一通のメールが。
キリトからだ。
『事情は大体理解した。厄介な奴に目をつけられたな。
困ったときはいつでも言ってくれ。すぐに駆けつける。』
お礼のメールを送ってから、私達はティータイムを開始した。
ピロリン!
「もう、今度は何…って!これ…」
「え?どのような内容だったんですか、マスター?」
送られてきたのは、運営からのメール。
『アップデートのお知らせ』と題してあった。
「遂に来たな…。大型アップデート。」
「はい…。やっとお家に帰れます…!」
嬉しそうなレイ。私達は、《忘却の森》に現れたらしいSBCフリューゲルに向かうことにした。
「お母さんが、『おやつは一人』って言ってました!」
そんなことを笑顔で言い放つレイ。
「レイちゃん…おやつは一人、じゃなくて、一つ…じゃないの?」
「あれ?でも…確かに一人と言われたような…?」
「え、なにそれ怖いわ。マザーコンピュータって、人くいなの?違うわよね?」
「違います!」
レイの間違いはいつもお茶目だけど…うーん…本当におやつなのかな?例えば―――
「おやつ、じゃなくて、お友達…なんじゃないの?そっちを間違えてたってことじゃない?」
こういうことなのかな。
「えっ…。あ。そうでした!おやつは一人、ではなく、お友達は一人、でした!危なかったです…。もう少しで、お母さんに怒られるところでした。流石マスターです!」
「うふふ。レイ、可愛い。」
「出た、マスターバカ…」
クレハが呆れたように見てきてるけど、気の所為気の所為。
ここまで考えて、私は別のことに意識を向けた。
あれから、イツキと2人で話す機会は取れていなかった。肝心なタイミングで邪魔が入ってくるのだ。最近はキリトたちといることも多いし、シュピーゲルにおびえていることをキリトが知ってからは、キリトとアスナが何かと気にしてくれるようになって、イツキと私、レイの3人だけの時間も減った。
何より、お互い現実が忙しいのだ。
今この場にイツキはいるが、目があったら微笑み合うだけで、特にあの話はすることはない。まあそれは、イツキが気遣ってくれているところもある。
まあ…SBCフリューゲルの件が落ち着いたらゆっくり話すときが来ると思うが…。
今考えてもしょうがない、と思考を打ち切り、レイと《忘却の森》に向かった。
イツキ、今何しているかなあ…などと、乙女的な思考になっていることには、気付かなかった。
「やりましたね、マスター!入る権利を獲得できました!これでお母さんに会うことができます!」
「そうだね、レイ。でもその前に、みんなも心配してるだろうし、一旦戻ろっか。」
「そうでした…。まずはクレハたちへの報告が先ですね!帰りましょう、マスター!」
今まで長かった…と、少し思い出す。
出会って、2人でレベル上げして、ツェリスカと会って、同じTipe-xのデイジーとも会って…ちょっと悩んで、ぶつかって、悲しんで、仲直りして、背中を任せることを覚えて、強くなって…。
会ったときはいつもあわあわしていた私のアファシスであるレイは、もうこんなにも頼りがいがある。
いい世界だ、と思った。
「―――あら、リノセじゃないの。」
「あれ?」
そんな帰り道、会ったのは―――
「SBCフリューゲルの試験に行って来たのね?」
「お二人共、お疲れさまでした。」
―――ツェリスカだった。
次へ続く
遅くなりました(汗)
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.13 )
- 日時: 2022/11/27 08:28
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
「ありがと、無事に資格を獲得できたよ。心配してくれたんだよね、ありがとう。ツェリスカたちのおかげだよ。」
「ええ、大丈夫…だけど…それをはっきりと言えるあなたが羨ましいわ〜。」
「…?」
羨ましい、と言われましても。ただ思ったことを口に出しただけと言いますか…。
そういう意味で首を傾げるも、「うふふ、わからなくてもいいのよ〜」とか言われたので気にしないことにする。ツェリスカは、あまり掘り下げられたくないようだ。
「…ツェリスカはフリューゲル攻略?」
「ええ、まあ。ああでも、あなたがここに向かったと聞いたから、ちょっと心配で見に来たのよ。そしたらもう資格取ったって言うから、安心したわ〜。」
「そっか、ありがとね?」
「ええ。」
やっぱり、ツェリスカは優しいな…そう思いながら、真剣な目になったツェリスカの目を見つめ返す。ツェリスカがこういう目のときは、大体頼み事をするときだ。
「ところで…あなたに、提案があるの。」
「なあに?」
ツェリスカが言ったのは、驚きの提案だった。
「私の相棒になってくれないかしら?最初はリアルラックがいいだけのニュービーさんかと思っていたけれど…あなたは見違えるほど強くなったわ。だから、私と一緒にプレイしないかしら?」
そうか…。相棒、ね。
うん…嬉しい。嬉しいよ、嬉しいんだ。誘われて。
でも…承諾すれば、必然的に、イツキやクレハ、キリト達といる時間が減ると思うのだ。
今まで関わることはそこそこあったとはいえ…承諾してから、その機会がたくさんあるとは思えない。
「…仲間になら、喜んでなるよ。」
私の出した結論は、こうだった。
「うふふ…やっぱりそう言われると思ったわ。わかった。あなたの仲間になることにするわ〜。これからよろしくね〜。」
「ありがとう。よろしくね、ツェリスカ。」
そうして、私達はツェリスカも連れて、キリトたちの部屋に戻っていったのだった。
「…リノセ…君は…本当の強さだけではなく、人を引き付ける力も…」
影に隠れて、そう呟いていたシュピーゲルに、気付くはずもなく。
「―――ただいまー!」
「お、お邪魔します!」
ツェリスカとデイジーを連れて、私達は戻ってきた。
「リノセ、レイちゃん!おかえりなさい!」
「その様子だと、無事資格を獲得できたみたいね!おめでとう!」
「ありがとう、クレハ、みんな。取ってきたよ!」
「はい!マスターは、とても強いので、あっさりと試練を突破しました…!」
レイったら、もう〜!褒め方もかわいいんだから〜!と、レイをナデナデしながら、クレハから聞こえたような「出た、マスターバカ」という言葉を聞き流す。
「そして!もう一つ、良いお知らせ。新しい仲間が増えたよ!」
じゃーん!とレイと2人でツェリスカ&デイジーをみんなに見せる。
「ツェリスカとデイジーだよ!」
「こんにちは〜。お邪魔するわね。」
「こんにちは。」
「ツェ、ツェリスカさんっ⁉」
相変わらず優雅なツェリスカ。《無冠の女王》の登場に、一同は驚愕の表情を浮かべた。
………例外が一人、嫌悪感を丸出しにした人がいたけど。
「あら、腹黒男もいたのね〜。気付かなかったわ。」
「ツェリスカくんか……。気付かないのならずっと気付かなくてよかったんだよ?」
「うふふ…優しいわね。」
なんだかバチバチと花火が飛び交っている気がするのはおそらく気の所為だろう。というか、そんな2人を見て「イツキとツェリスカは仲良しなんですね!」と笑うレイに優しく現状を教えるクレハを横目で見ながら、私は2人を窘めた。
「本当に…君は、色んな人を引き付けるよね。良くも悪くも。」
「あはは、おっしゃる通りです…。」
シュピーゲルみたいにね…。
それを見たクレハは、独り言のように言葉を落とした。
「さ……。あたしも、Tipe-Aレンタルして資格を獲得しちゃいましょ。」
それに、レイが首を傾げた。
「え…?マスターはもう獲得したので、パーティで入れますよ…?」
「まあ、そうだけど、そうじゃなくて。リノセがいないと入れないってことじゃない。私は私で資格をゲットしたいのよ。」
「…?そうなのですか。」
レイは、いまいちクレハの気持ちを理解できないようだ。
まあ、私もクレハだったら同じような気持ちになるだろう。私がいなくても入れるようにする、っていうのは大事なことだしね。
首を傾げるレイに、キリトが訊いた。
「なあ、アファシス。スコードロンに資格保持者がいる場合、そのスコードロンメンバーは自由にフリューゲルに入れたりしないか?」
「あ、はい。マスターのお友達なら大丈夫です!」
その答えに、一同は苦笑い。
「お友達…ちょっとアバウトね。」
「そうだな………。そのお友達の定義が何かによる…よな。」
うーん、それを聞いて首を傾げてはてなマークを浮かべるレイもかわいい。
けど、もうちょっとお勉強した方がよさそうだね…?
かわいいけど。
「マスターバカがまたかわいいとか思ってる顔してるわ…。」
クレハ、何で考えていることがわかるんだ…⁉エスパーなのか⁉そんなにわかりやすかったかな…。
考え込んでいると、デイジーが一歩出て発言した。
「お話中申し訳ございません。資格についてですが、資格保持者のスコードロンメンバーなら、保持者がパーティにいなくてもフリューゲルに入ることが可能です。」
そう言ってニコリと微笑んだデイジーに、ツェリスカが「あら、うふふ〜。流石デイジーちゃん…!」と恍惚とした表情で呟いたツェリスカ。
クレハの「あ、ここにもマスターバカが…」という声がした気がするのは空耳…だろう。うん。
「デイジーが言ったなら安心だな!」
そんなことを言い放ったクラインに、「酷いです…」と言ってむうと頬を膨らませるレイ。
微笑ましいなあとみんなを見ていると、キリトが言う。
「そうか。ならリノセ、君がスコードロンを作ればいいんじゃないか?」
「えっ?」
キリトは、どこかに所属するの、あんまり好きじゃない筈…。どういう風の吹き回しだ?
キリトは、私をまっすぐ見て続ける。
「その、俺はあんまり何かに入るっていうのはしないんだけどさ。」
うん、そうだよね。と心の中で同調した。
「君のなら入ってもいいと思うんだ。君なら、きっと最高のスコードロンにできる。」
「……。」
キリト…が、《SAO》での“リナ”を思い出さないまま私をこんなに信用してくれているのは、正直嬉しかった。まあ、私が隠し事しているということに対して罪悪感はあるけれど。
そう思っていると、みんなも賛同してきた。
「いいね!賛成。」
「面白そうですねっ。いいと思います。」
アスナやシリカに続き、イツキも。
「いいんじゃないかな。そうしたら、僕も入らせてもらいたいな。」
「え、《アルファルド》は?」
「言ったろう?僕は飾りみたいなものなんだ。」
まあ…。そう、なんだろうけど。《アルファルド》は、みんなイツキを慕っている子たちであるわけで。そんなに簡単に離れていいものなのか、と少し思った。でも、私といようとしてくれてる…?のは、大分嬉しい。
というか、パイソンさんがまた来そうなんだが。この前挨拶という名の苦情申し立てにパイソンさんがなんとご丁寧にホームまで来て私に色々言ってきたんだけど。まあ、その後強引にカフェに連れてって新作らしいちょっと見た目不味そうなお菓子の毒見役をさせたら、「なるほど、よくわかりました。」とか早口で言って爆速で帰っていったから大丈夫だとは思うけど。
―――…イツキがいいなら、いっか。
いける気がするし。どうしよ…と考えていると、少し引っかかることが思い当たった。
「クレハ。」
クレハが、どう思っているか。
ここまでこれたのはクレハのおかげだ。紅葉のおかげだ。だから、ちょっと躊躇いがある。
あと…。クレハの…紅葉のお姉ちゃんのことに重ねて、思い詰めちゃうんじゃないかって。
そうなるなら、私はスコードロンを作りたくないから。
「え、何よ。ここは《GGO》よ?私情を挟む場じゃないし、それにあたしが反対したらあんた、作んないなんて言うんでしょ?だから…」
クレハは、少し空元気を感じさせる声音で、挑戦状を出してきた。
「―――《GGO》のやり方で決めるわよ。勝負しましょ、リノセ!」
結局、私、クレハ、シノン、キリト、ユウキの5人で勝った人がリーダー、ということになった。
私達よりもユウキとかの方が乗り気でちょっと笑えるが、ここは気を引き締めるべきだ。
ううん、違う……。
楽しむべき、だよね。
折角、ランキング常連のクレハやキリト達と戦えるんだもん。楽しまなきゃだめだよね。
そう、弓道と同じ。自分が楽しみたいから。ユウキたちも多分そうだと思う。
勿論、自己中ってわけじゃなくて、あくまで考え方として、だけど。
とにかく…あまり、気負わずにいこう。
バフを掛け、高台の下に地雷を数発仕掛けた後、光歪曲迷彩を施して静かに高台をとる。
炸裂弾を準備し、合図を待った。
「3…2…1…始め!」
その合図と共に、まずは何もせずに観察。
シノンは私の反対側の狙撃ポイントの下。
ユウキとキリトは、私を探しながらシノンとクレハに攻撃をしかけるようだ。
「ふう…」
私は、そっとスコープを覗き…シノンに照準をあわせる。
漁夫の利みたいで心苦しいけど、経験上…というか、スナイパーをやってきた上で、スナイパーって面倒くさい相手だなあと身にしみたからね。
「っ⁉」
そして、シノンに攻撃しているキリトも巻き込んで炸裂弾。2人は怯む。
その間に、クレハとユウキに電磁スタン弾を撃ち込んでスタンさせ、シノンとキリトに炸裂弾の一つレベルが下がった方を撃ち込み、ダウンさせた。
よし、取り敢えずは2人。
もう起き上がったユウキとクレハのタゲが集まるも、ユウキはあまり攻撃が来ない。
クレハとは最後に戦いたいので、私は勢いよく飛び上がり―――
「すう…」
2人が私の動きを追っている間に、宙返りしながら、ユウキに連続で3発。
「…!」
装弾数上げててよかった、と呟くのと同時に、私はクレハの正面に着地、ユウキはダウンした。
カチャッと、私に狙いを定めたクレハ。私は、静かにスナイパーライフルを降ろした。
「…何のつもり?」
「…後ろ。」
「えっ?」
既に体力が黄色ゲージだったクレハ。
私が最初に仕掛けておいた地雷が発動し、一気に3つの地雷がクレハを襲った。
「ッ⁉」
クレハのHPをことごとく削ったソレは、やがてクレハのHPバーの色をなくし…クレハはダウン。
「―――そこまで。勝者…リノセ。」
そのアナウンスとともに、ダウンしたクレハを映す私の視界は、キリトたちの部屋に切り替わった。
「―――ナイスファイト、だったね、リノセ。格好良かったよ。」
第一に、イツキがそう発した。なんとなく、ちょっと嬉しくなる。
ありがと、と笑みを零した。
「ああ。君の強さには驚いたよ。俺たちの負けだ。」
キリトが続く。
それに、クレハが寂しそうな顔をして頷いた。
「ええ。私達の負け。スコードロンのリーダーはあんたよ!おめでとうっ。」
「「「おめでとー!!」」」
「マスター!おめでとうございます!」
すぐ終わってしまったけれど…あの短い時間が、とても楽しかった。
だからこそ…。その戦いを制した今、私は責任持ってリーダーをしたい。そう、心から感じた。
「ありがとう!これからもよろしく!」
私は、みんなに笑顔で言った。
その後、私は新たなスコードロン《デファイ・フェイト》を立ち上げた。
デファイ・フェイト…運命に抗う。
本当は、運命を貫く…にしたかったんだけど、生憎、“貫く”の英語がイマイチだったから妥協点かな。
スコードロンの方針は自由。可能性を秘めたほうが面白うそうだし、縛るのは好きじゃないから。
方針、という名の操るための法律みたいなものだからね、スコードロンの方針っていうのは。多分。
…とまあ、こんな感じで、夜に、スコードロン結成記念パーティーを行うことになったのだった。
「―――クレハ。」
そして私とクレハは。
「………リノセ…。」
展望台で、2人きりで話そうとしていた。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.14 )
- 日時: 2022/12/04 12:03
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
「クレハ。……ズバッと訊くけど。」
「……ええ。」
私は、クレハを真っ直ぐに見据えた。
「まだ、引きずってるの。」
「……………そうよ。」
クレハの、《GGO》に来た理由。まあ、オールドサウスを開放したあたりからわかってたことなんだけど、それは…。
―――紅葉のお姉ちゃんをどこかで超え、認めてもらいたかったから
クレハには…ううん、紅葉には、お姉ちゃんがいる。
文武両道、才色兼備、容姿端麗、性格も完璧でモッテモテなお姉ちゃんが。
その妹に生まれた紅葉。
ずっと、それを1人で嘆いていた。
『何で、お姉ちゃんの妹なんだろう…』
これを盗み聞きしたのは、いつだったか。
お姉ちゃんはできたのに、紅葉はできなかった…それを突きつけられた時だったと思う。
勿論、紅葉の両親も、お姉ちゃんも、悪い心があって比べたんじゃない。実のことを言うと、紅葉の家族は、単に基準、目標として掲げているだけなのだ。別に、お姉ちゃんを超えろ、超えなきゃだめだ、と思っているわけではない。
そして、紅葉は、そうだろうと思っている。悪気はないんだと。
でも、わかりきってない。両親の、本当の気持ちを。本当の願いを。
私だって、本当の心の奥底までわかるエスパーなんかじゃないから、本当の心なんかわからない。
だけど、1つだけ、わかることがあるのだ。
紅葉のお姉ちゃんは、最も大切な力が欠けているのだ。
“自分とは違う”人の気持ちを考える力が。
例えば、2×2が4だと瞬時に理解できたAさんがいるとしよう。
そのAさんは、全く理解できないBさんの気持ちがわかるだろうか。
こうだろうな、とは思えるだろう。そう、思うだけだ。
本当にわからない人に不快無きように接するには、思うだけではなく、自分がその状況下にあったとき、どうしたいか、どうしてほしいか考えることが大切だ。
紅葉のお姉ちゃんには、その力が足りていない。
つまり、悪く言えば、紅葉の気持ちを知ったかぶりしている、ということだ。
私が言えたことじゃないし、私が首を突っ込んでいいことじゃない。
だけど、紅葉が…クレハが、これからも、私のそばで笑っていてほしいから。
手助けは、するつもりだ。《GGO》に誘ってくれた恩返し。
首を突っ込んじゃだめなら、手を突っ込んで背中を押せばいいんじゃない?みたいな。
「…別に、クレハがどう思うかはクレハの自由だけどさ。」
私は、にぱっと笑ってクレハを見た。
「そろそろ、訴えでもしていいんじゃないの。」
いいんだよ、紅葉の気持ちを伝えても。
「…リノセ。」
それにさ、と私は続けた。
「祝いの席ぐらい、ちゃんと騒ぎながらクレハに祝ってもらわないと困るんだよっ。」
クレハの分の焼肉食べちゃうよ⁉と言うと、クレハはぶはっと吹き出した。
「焼肉ぐらいあげるわよ…!」
お腹を抱えて笑うクレハを見て、私は満面の笑顔になった。
「じゃあ、リノセ!」
「「「スコードロン結成、おめでとう!!」」」
みんなで乾杯!と叫んだ声がキリトたちの部屋に響いた。
スコードロン結成記念パーティー。みんなでお祝いだ。
…私の、というのがちょっとむず痒いが。
《デファイ・フェイト》…私のスコードロンを、パーティー前に作って、みんなが加入した。
そして、本格的にSBCフリューゲルの攻略が始まった。
イツキとも話せてないし、フリューゲル攻略一番を目指さなきゃいけないし、現実では、もうすぐ文化祭だ。忙しくなってきた。
その中で、私は、やりたいことを見つけていけるだろうか。
ううん…見つけよう。見つけられる。みんなとなら。
「マスター!おめでとうございます!」
レイが、マカロンが溢れるほど入った籠を持って来た。
「ご褒美の…えっと…何だっけ?マカロニ…?です!どうぞ!」
うーん、惜しい。一文字違う。
「マカロン、ね。ありがとう、レイ。嬉しいよ。」
マカロンは、実は私のお気に入りのお菓子だ。大好き。
一番上にあった、チョコ味のマカロンを手に取って、早速一口。
「んー…あー、うま。」
《GGO》はガンゲーなんですよね?なのに、こんなに食べ物のクオリティーが高いだなんて…実際に食べるまでは、そんなこと思いもしなかったよね。
うん。やっぱり、来れてよかった。
そう思い、また一口、マカロンを頬張った。
パーティーもそろそろ終わりという頃。
私は、イツキと、キリトたちの部屋のベランダで話していた。
「どうしたんだい?君は主役だろう?」
「んー?ちょっと暑いしね。それに、イツキともうだいぶ話してなかったから寂しくなっちゃって。」
「…ッ…はあー…。君は、またそうやってすぐ…」
「?」
口元を手で覆って下を向くイツキ。首を傾げていると、イツキは急に顔を上げて、口元を覆っていた手をそのまま伸ばしてきた。
「可愛いことを言うね。」
「ッ⁉」
「改めて、スコードロン結成、おめでとう。君といるといつも楽しいよ。これからもよろしく。」
かっ…可愛い?え…待って、待って。
私、何でこんなに…
「あっ、ありがと!」
私は、火照った顔を見せたくなくて、真っ赤な耳を必死に髪で隠して顔をそらした。
隣でクスクスって聞こえる。恥ずかしい。
そして、ポンポンと頭を優しく撫でられた。
あ…これ、気持ちいい。凄くドキドキするけど…なんか…心地いいような。
何なんだろう、これ。
なんだか、凄く“好き”だな…。
あれ?今、私、何を思って―――
「ん?どうしたんだい、リノセ?」
顔を覗き込んできたイツキ。
変なことを考えた後にソレは大変驚き、私は顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を横に振った。
「なんでもございません!」
まあ、その後、クスクスと笑われたのは、言わずもがなである。
✦✧✦
あたしには、大好きな親友がいる。
「もう、香住。授業始まるよ!おーきーて!」
大好きな、そして世話焼きで、明るくて、別け隔てなく接する、影でモテている親友が。
その名も、神名 凛世。
まあ、あたしはこうしてその大好きな親友を無視して夢の世界という天国へ旅立とうとしているわけだが。
「あ、香住!漣くんが呼んでる!」
「え、聖夜⁉」
「はい起きたー」
まあ、こうして馬鹿なあたしは、いっっっっっつも凛世に引っかかるのである。
凛世は、モテモテである。自覚はないみたいだけど。
頭良くて、運動もできて、他人思いで、優しくて、別け隔てなくて、でもちょっと抜けてる。
親しみやすいし、裏表もないから、みんなに好かれている存在だ。
まあ、その分、汚男にも狙われやすいから、そこはあたしと聖夜がひっそりと、多数排除。ひっそりと、多数。ここ大事。そして、それのなんと多いこと。給料をいただきたいくらいだ。
そもそも、いつも一緒にいるあたし達。凛世の目から逃れながら排除することは難しいことこの上ない。
でも、やりたくなる。凛世の魅力にしっかりと魅了されている証拠だろう。
そんな凛世が、最近、恋をしている気がする。
理由は、女の勘…というのもあるが、最近の凛世は、聖夜に惚れたばかりの頃のあたしと似ている。
時々黙り込んでは赤くなり、時々口籠り、自分に対しての恋愛の話をしたがらなくなる。
ああ、初々しいねえ…と、我ながら婆さんのような思考に陥ってしまった。
そう言えば、この前、凛世が、あのカフェで会ったイケメンと楽しそうに歩いている姿を見かけた。
すっっっごく楽しそうだったが…その人とだろうか?
うーん、でも、《GGO》っていうゲームもハマってるらしいし…どっち?
「香住?授業終わったよ?」
それを延々と考えている間に、授業は終わってしまった。
あ………ノート取ってなかった。
「凛世ー。行くわよ?」
「ん。行こっか。」
そんなある日、凛世と校舎を出ると、校門に、我が校の女子生徒の人だかりができているのを見つけた。全員、聖夜を見るあたしみたいな、熱い視線を送っている。
あ、今自覚あるんだ、って思った人、表に出なさいよ。
…ごほん、それで、凛世をグイグイ引っ張って近づいてみると、中心に、同い年くらいのイケメン男子が見えた。そして、急に凛世の腕がスルリとあたしの手から抜ける。
「えっ、凛世?」
「ちょっと用事思い出した!」
「待ちなさい!」
走り出そうとする凛世をむんずと掴んで止める。こういうときの馬鹿力ってありがたい。
わーわーと騒いでいる間に、中心にいたイケメンはこちらに気づき、ずんずんと進んできた。
「おい凛世、まさか逃げようなんざ、思ってねえよな?」
「逃げようとしてるってわかったなら気遣ってくれるとありがたいよ?」
「残念だったな、そんなに俺は優しくねえ。」
「わかってますよーだ。」
凛世がこんなにツンとしているのは、警戒していない証拠だ。
こいつ…誰?凛世の相手、は…このイケメンじゃなさそうだけど…。
「誰よ、凛世?」
訊くと、凛世は面倒そうに答えた。
「はあ…こいつは、私の小・中学校での友達。まあ、何ていうか…。」
「親友って素直に言えよ、馬鹿野郎。」
「私を馬鹿と言うとは、学んでないね。」
ふむ。親友君のほうは、だいぶ凛世にゾッコンのようだ。
「たまーに会って話とかするんだけど…珍しいね、ここまで来るなんて。どしたの。」
面倒そうな顔して、ちゃんと話す気はあるようだ。
「まーな。ちょい気が向いただけだ。」
「ふうん…じゃあまあ。そゆことで香住。今日はじゃーねー」
どうやら、凛世はイケメン男子について何か思ったのか、面倒そうな顔から一転、いつもの世話焼きの顔に戻ってイケメン男子のもとに歩いていく。
「えっ、あ…いいわけ、あんた?」
「え?」
そんな凛世に、あたしは、心配になりつつ凛世に囁いた。
「相手に勘違いされても知らないわよ?」
「なっ…!」
その意味がわかった凛世は、「ああー…」と逡巡した後、考えるのをやめたのか、「まあ、なんとかなる。」と言って頷いた。
「全く。いくら私が聖女みたいな優しさだからといって、学校まで来るのはやめてよ、啓治。勘違いされんじゃん。」
そして、そう注意した。注意されたケイジくんは、小さく「そんためにやってんだろうが」と呟いていたが、案の定、凛世には聞こえず。
「わかったわかった、覚えてたら気をつける」
と曖昧な返事をして、さっさと凛世を連れて去っていった。
ケイジくんではない、別の誰かに想いを寄せているであろう凛世。凛世にゾッコンなケイジくん。そして、凛世が想いを寄せている誰か…。
これは完全に女の勘だけど、絶対波瀾になるわね。
恋の先輩のあたしが助けてあげないと…。
そう決意した。
そして、一緒に帰る相手がいなくなったので、足早にあたしの彼氏の聖夜のもとに向かったのだった。
✦✧✦
坂本 啓治、それが俺の名だ。
そして…目の前で俺と軽口を叩き合っている可愛い女が、俺の好きな相手、神名 凛世。
俺が不器用すぎて同じ高校に通うことができなかったが、なんとか再会して学校を聞き出し、連絡先も交換することができた。
だが、最近忙しくて会いに行けていなかったし、ちょっと凛世に相談したいことがあったから、いっそ迎えに行こうと思って、凛世の通う学校に来たわけだ。
―――案の定、モテてんなあ。
小・中学校のときも、凛世は密かにモテていた。
バックから目をギラギラさせて凛世を見る奴らが大勢いたし。告白するつもりで呼び出そうとする男子を排除してきたのは、他でもない、俺だ。
まあ、中2あたりからあいつは学校に2年弱来なかったし、高校も違うが…。
とにかく、恋人は作ってなかったようだ。何より何より。
そして今も、モテているのは変わらずで。しかも、あんときと同じく、無自覚。
いい加減、自分の魅力にくらい、気付けよ。
気付かないところもいいけど。
心の中でそう語り合いながら、凛世の世話焼きな一面が健在なところに危うく撫でそうになる。
そんな、俺を魅了する凛世だが、やっぱり、凛世は飄々としていた。
むしろ、違うところに気持ちがいってそうな…。
そんな気がした。
わかんねえ。今、凛世の気持ちが誰に向いてんのかはわかんねえ。
ただ、俺に向いてないのは確かだ。
おい凛世。こっち振り向けって。
そういえば…と、最近はダイブしていないVRMMO《GGO》を思い出す。
確か、そこに番狂わせの新人がトップ入りしたとかなんとか…。
凛世は根っからのゲーム好きだ。そこにいるかもしれねえ。
そう思い、俺は、《GGO》に近々またダイブすることを心に誓った。
次へ続く
次は、凛世Sideです。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.15 )
- 日時: 2022/12/04 22:47
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
200回も見てくださり、ありがとうございます!これからもよろしくおねがいします。
そして、前回の啓治Sideを少し修正いたしました。
「啓治は、相談をしにきた」という点です。
では、続きどうぞ↓(GO)
「凛世ー。行くわよ?」
「ん。行こっか。」
ある日の学校の帰り。私と香住は、いつものように校舎から出た。
今日は、何をするんだっけ。家事と、宿題して、《GGO》にそのままインしよっかな。
そう思っていた時。
「……?」
校門に、目をハートにした女子生徒たちが群がっているのを見つけた。どうせ他校のイケメンでしょ。私には関係ない。
そう思って迂回しようとするも…
「ちょっ、香住!」
香住が私をグイグイ、グイグイ。
面倒…《GGO》に行く時間があ…。まあ、いいや。どうせイケメン見たら香住も満足…って…
私は、即座に香住の腕から抜け出した。
理由はただ一つ。女子軍団の中心が、我が小・中学校での親友だったからだ。
ここじゃ騒ぎ起きるでしょうが…そういうのを私が苦手でわざと来たな、啓治!
啓治は、まあ…。ちょっと面倒くさいけど、面白い親友だ。最近は会ってなかったから会いに来てくれたんだろうけど、流石にここはやめて欲しかった。と言ってもやるのが啓治だけど。
「えっ、凛世?」
「ちょっと用事思い出した!」
「待ちなさい!」
そして、こういうときだけ発揮される、香住の馬鹿力。何故だ。
わーわーと香住から逃げ出そうとしていると、啓治に気付かれてしまった。
「おい凛世、まさか逃げようなんざ、思ってねえよな?」
「逃げようとしてるってわかったなら気遣ってくれるとありがたいよ?」
「残念だったな、そんなに俺は優しくねえ。」
「わかってますよーだ。」
優しかったらまず、ここまで来てないでしょーね。わかってますよ。
ああ…更に《GGO》の時間が減っていく…。
「誰よ、凛世?」
まだ私の肩を掴んでいる香住が訊いてきた。
「はあ…こいつは、私の小・中学校での友達。まあ、何ていうか…。」
親友…って言ったら女子軍団が怖い気がして言葉を濁した。
「親友って素直に言えよ、馬鹿野郎。」
すると、余計な一言で罵ってくる啓治。
ふんっ、私は学年一位だから馬鹿じゃないもん。
というか、啓治は一応私の下である。頭はいいほうだけど一応私より下である。
「私を馬鹿と言うとは、学んでないね。」
まあ、実際は勉強してるだろうけど。
ともかく…嫌がらせもあるだろうが、啓治は滅多にここまで迎えに来ない。
ってことは…。
「たまーに会って話とかするんだけど…珍しいね、ここまで来るなんて。どしたの。」
なんかあったってこと…ですよね?親友の私にはわかる。
「まーな。ちょい気が向いただけだ。」
「ふうん…じゃあまあ。そゆことで香住。今日はじゃーねー」
何かあったんなら、聞かないわけにはいかないしなあ。
そう思って啓治のもとに歩いていく私に、香住が言ってきた。
「えっ、あ…いいわけ、あんた?」
「え?」
「相手に勘違いされても知らないわよ?」
「なっ…!」
相手…。流石香住、わかるんだ。
なんとなくだけど、私が誰かに惹かれてる…?ってこと。
ああ、誰なのかはわからないし、本当に惹かれてるのかは不明だけど。
でも、確かに。勘違いはされたくない。
だけど、私情を挟んで啓治の相談に乗らないわけにも…。
ああーもう!いいや、なんとかなるっ。
「全く。いくら私が聖女みたいな優しさだからといって、学校まで来るのはやめてよ、啓治。勘違いされんじゃん。」
今後これが起こらないように、冗談を交えつつ釘を刺すと。
「わかったわかった、覚えてたら気をつける」
ボケに突っ込まれないまま、曖昧な返事をされてしまった。
ボケ…突っ込まれないの、ちょっと悲しいな。これから、クラインのボケには突っ込んであげよう。
密かにそう思ったのは秘密である。
「―――で?わざわざ海まで連れてきて、どうしたのさ?」
あの後、私達は海に来た。
海は、私の家に近い。学校の真反対ではあるけれど、それでも啓治の気遣いが伺えた。
「……お袋が、死んだんだよ」
「………あれま。」
啓治のお母さん…確か、癌なんだったっけ。女手1つで啓治を育てて、それで…。
だから啓治は、バイトありの学校に進学して、勉強も頑張って、医者になろうとしてるんだ。
「だから……。間に合わなくて…。」
お母さんに、何一つできなかった、と。
啓治は口は悪いけど、根っこは優しい男の子だ。
余計に気にしちゃう。それが啓治。
だから、私がやっぱり、腕を突っ込んで背中を押さなきゃ。親友として。
「で?啓治はどうしたいのさ。」
「………俺が?」
「死んだ、間に合わなかった。で、やめるの?医者になるの。諦めるの?」
落ち込んだのはわかった。悲しいのもわかった。そう、お母さんに今までお世話になって、救って見せると決意してきた啓治にとっては、とても辛いことだろう。
うん、経験してない私が言えたことじゃない。言っちゃいけない。
だけど、だからといって、落ち込んだままでいい理由にはならない。
「別に、やめてもいいんだよ。新しい夢を探せばいいんだから。まあ、今まで医者になるためにやってきたことは無駄になるけど。」
「…………」
「手伝うよ?諦めんの?医者になる夢を。」
「……………っ」
わかるよ。
啓治は、ここで諦めるような、小さい男じゃないでしょう。
「…………続ける。諦めねえ。俺は…もう、間に合わなかったなんて言わねえように努力する。俺の志した夢だ。諦めるなんて…俺らしくねえ。」
ほら。流石啓治。
私は小さくふっと笑って、背伸びして啓治を撫でた。
「そうでしょ。やっぱり啓治はそういう人だ。」
そして、近くのベンチに座らせた。
「今は、泣きな。」
思いっきり泣いちゃえ。で、終わったら頑張って。
啓治の、志した夢に向かって。
「………っく……ぁっ…」
下を向いてぽたっと雫を零した啓治を見ながら、私は考えた。
―――私は、目標に向かって進めていない。あの時から、何も変わってない。
変わらなきゃ、いけないのに―――
と。
「サンキューな、凛世。長引かせちまって悪ぃ。」
「大丈夫。頑張りなよ。なんかあったら手伝うから。」
「おう。」
「あ、だけど、もう学校まで来るのはナシだよ?後で女子軍団になんて言われるか…」
「ははっ、覚えてたらな。」
「もう…」
……ま、元気になったみたいで良かった。
啓治は大丈夫そうだね。何よりだよ。
私達は解散し、それぞれの家に戻った。送ってくって言われたけど、それは丁寧にお断り。
そうして、啓治の騒動は幕を閉じたのだった。
「―――マスター!おかえりなさい!今日は遅いので心配しました…!」
ホームに来て、私を見たレイは、そう言ってタックルしてきた。
「ぐふっ…ごめんごめん、急用があってさ、ちょっと遅くなっちゃった。」
まあ、啓治…のことは、言えないけど…。心配かけてちょっと悪かったなあ…。
その分、今日はちょっと長めにインしよう。………うん、多分大丈夫。
「よしよし、レイ。みんなは?」
「えっと、はい!イツキとキリト、アスナ、リーファ、クレハがインしています!」
そして、真っ先にイツキに会いに行こうかな…と考える私。
その時、ホームのドアが開いた。
「やあ、今日は遅かったね。」
「あ、イツキ。やほー。ちょっと急用が長引いてね。」
「イツキ、こんにちは!」
イツキが入ってきた。
イツキは、そのまま私の目の前まで歩いてきて、私の目線まで屈んできた。
「…今日は、元気が少しなさそうだね。何かあったのかい?」
「えっ…?」
「マスター、そうなんですか?」
元気がなさそう…?ああ、もしかして、啓治の件で、自分の不甲斐なさを実感したから…。
レイには悟らせなかったんだけど。イツキは、鋭いな。こういうときは鈍くていいのに。
「そんなことないよ。だいじょ―――わっ」
「……大丈夫と言われて、そうかと納得するわけがないだろう」
急に、短くため息をついたイツキに姫抱きにされた。
……わ…顔近っ。体温伝わってくるし。いや、今更ではあるかもしれないけど!でもさ…。
こう………何ていうかさっ…ドキドキ?するじゃんっ⁉
ああもう、わからんっ。とにかく恥ずかしい…!
恥ずかしすぎて死んじゃうって。恥ずか死だよ!
「アファシス、マスターと2人きりで話したいから、少し借りるよ」
「あっ、はい!マスターをよろしくおねがいします…!」
「うん。」
イツキは、そのまま器用にコンソールを操作し、私ごとファストトラベルをした。
シュン…と無機質な音と共にまた訪れてしまった、イツキのホーム。
「えーっと。取り敢えず、私帰りま―――」
「だめだ」
「…ですよねー」
レイの前でお姫様抱っこをされてしまったことに羞恥心が爆発し、イツキの腕から逃れようとするも、逆に腕の力を強められてしまった。
「リノセ。話してくれ。僕だけにでも。」
イツキは、私と目を強引に合わせて、請うような瞳で言ってきた。
「…………ッ…」
「1人で背負う必要なんて、ないだろう。」
イツキの体温に安心して、いつも私は口を開いてしまう。
迷惑だとわかっていても。だめであるとわかっていても。どうしても、頼りたくなってしまう。
いや…違う。こっちを見てほしいのかもしれない。…あは、だめだな。かまってちゃんじゃないの。
…でも、今だけでいいから、今回まででいいから…。
荷物、分けさせて。
「…今日、中学時代の親友と話したの。で、その親友は、すごく、成長してて………。」
「………」
「なのに、私は……全く成長できてないなって。…昔、ちょっと怖いことがあってさ。そのときからもう何年も経ってるのに。成長できてないから…。その…ちょっと、落ち込んでた。」
「…そうか。何年も経ってる…ね。いいと思うけどなあ。」
イツキは、柔らかく微笑んで私を見た。
「そんなに焦らなくても、君にまだ未来はあるだろう。10年経っていようが20年経っていようが、努力しようとしているならいいんじゃないかい?」
「え…?いいの…?」
そうか…。もう、後はないみたいに思って焦ってたけど、焦る必要、ないんだっけね。
そうじゃん、学んだじゃん。弓道でも。例え終わりなき道を踏破せよ、と言われたとしても、焦らずゆっくり歩んでいった者が頂を得る、それが私の先生の教えだ。
忘れてたよ。
大丈夫、私はまだ可能性がある。残されている。
焦らなくていいんだ。
わかっていたようで、わかっていなかったね。なんだかちょっとおもしろい。
「どうしても変わりたいのなら、それは僕が手伝いをしよう。でも…君に、その必要はないだろう?」
「うん。ゆっくり成長していくよ。ありがとう、イツキ。なんか、いつも助けてもらってばっかりだね?」
「そんなことないさ。僕だって、君にもらってばかりだ。」
「そうかなー?」
何かあげた覚えはないんだけどね。でも、まあ…。
これから焦らず、ゆっくり返していけばいいか。
ゆっくり、ね。
そうして、私とイツキは暫く2人で談笑した後、こっそり《忘却の森》に出て2人で狩りをした。
まあその後、ホームに帰ったら、「遅いですぅー!」と抱きつかれて、またもや「ぐふっ」と女子らしからぬ音を出してしまったのは言わずもがな…?なのである。
✦✧✦
―――邪魔だな。
単純に、僕はそう思った。
シノンにリノセ…僕の求める孤高に相応しい強者だ。
僕は、そんな2人が大好きだし、もっと強くなってほしい。
なのに…邪魔だ。
シノンはキリト達。リノセはイツキ達。
それぞれが悪者に狂わされていく…。僕の求める孤高に、素晴らしい人に、なるはずなのに。
遠ざけていく。僕の求める孤高から。奪っていく。大切な部分を。
それに…リノセなんか、厄介だ。
孤高な部分は素晴らしい。強さも申し分ない。なのに…。人を引き付ける力まである。
良くも悪くも、ね。
邪魔だ。イツキが邪魔だ。クレハが邪魔だ。アファシスが邪魔だ。ツェリスカが邪魔だ。
邪魔だ。キリトが邪魔だ。アスナが邪魔だ。ユウキが邪魔だ。ユイが邪魔だ。
ああ、僕の目的を邪魔する奴は…。孤高の強さを持たない奴は…。消す。
そうだろう、兄さん。
そうだろう?
「…っふ…」
僕は小さく笑い、兄さんの待つ部屋へと足を運んだ。
次へ続く
次はまた凛世orリノセsideに戻ります。
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