二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.62 )
- 日時: 2024/02/15 06:14
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
もうすぐ冬休みという11月。
とうとう、《帝星学園交流》がやってきた。
そういえば、薔薇島 恵美理ってなんか聞いたことあるなあと思ったから、ゆきに聞いてみたんだけど。
☆★☆★
「ゆき、薔薇島 恵美理って知ってる?」
そう問うと、ゆきはあっさりと答えた。
「薔薇島?ああ、あの超お金持ち一家かな。」
「……あー、うん、それ。」
超お金持ちな見た目してるよね、と頷く。
優雅で美しい人だった。
「帝星学園に通ってるお嬢様だったかな?大手家電メーカーの社長が家主だったはずだよ。僕も彼女の父とはよく取引をするよ。お得意様だからね。」
あれ?ゆきの裏の仕事って教育関係では?いや、ファンクラブ会員さんが言ってた「証券」も間違いではないらしいし…いくつ掛け持ちしてるんだろう。神社大丈夫…?
……無理してないよね?
「たしかあの一家は、大手家電メーカーの社長だからって同類のレクトCEOと仲が良かったはずだよ。競争相手ではあるけど、ライバルであり友人って関係らしい。」
「レクトCEOってまさか…アスナのパパ?」
「そう。」
「なるほど、そうなんだ…。」
でも、これじゃあ私との接点はわかんないなあ…。いつあの名前を見たんだろう?
「ああ、そうそう。」
「ん?」
「薔薇島 恵美理、だったかな?彼女はきみと同じ幼稚園のはずだよ。」
「え?」
ニコッ、と笑ってゆきは言った。
「きみは、昔は帝星学園付属の幼稚園にいただろう?」
「…覚えてない、小学生時代が強烈すぎて」
帝星学園附属幼稚園?そんなところにいたの?
ほんとに覚えてない。
「っていうか、なんでゆきは知ってるの?」
「そりゃあ、きみのことは何でも知りたいからね。」
調べましたってか。まあゆきらしいか。ゆきなら別にいい。
「幼稚園を卒園したあとはきみの親がお嬢様学校だと息苦しいだろうからって公立に移したらしいけど」
「そっか、だから私ちょっとだけ友達が少なかったんだ」
幼稚園で一緒だった!っていう人がいなかったんだもんね。
ということで、薔薇島 恵美理さんの既視感の謎は解決だね。
「ありがと、ゆき。わかった」
「そうかい?それはよかった」
優しく微笑んでゆきが頭を撫でてキス―――あああああー!!何思い出してるんだ!
はい!回想!終わり!
☆★☆★
…というわけで。
ぜんっぜん覚えていなかった私は、薔薇島さんへの反応で少々困りそうである。
ゆきに言われはしたものの、幼稚園時代は全く覚えていない。
…思い出そうとすればうっすらとは浮かんでくるけれど。
薔薇島さんは私のこと覚えてたのかなあ。覚えてたから会議の日に話しかけてきたのかな?
幼稚園の卒園アルバムどこに置いたっけなあ…。
はあ、と小さくため息を吐いた。
『では、中央光星高等学校の出し物です!』
いつの間にか結構進んでいたらしい交流会。
薔薇島さんのスピーチはとっくに終わり、ついにこちら側の出し物を披露することに。
チラ、と香住を見るとバチッと目が合った。
大丈夫?という視線を送ると、グッと親指を立てられる。
なぜだろう、香住に親指立てられても全く安心できないのは。
『帝星学園の皆様、こんにちは。出し物グループです!』
香住がマイク越しに言うと、1、2年のみんなが帝星学園の生徒たちの前にテーブルを並べる。
そして、その上には―――鍋?
『今回は、安い材料たっぷりで庶民の味方!カレー鍋です!』
えっ。
びっくりしていると、私たちの前にも鍋が並べられる。
…庶民特有の出し物ってそういうこと?確かにカレー鍋は庶民特有…かもしれない。
っていうか、お金持ちって普段何を食べてるんだろう?
見てみると、帝星学園の生徒たちは「なんだそれ」という顔をしていた。
その中で、あからさまに輝く目をしているのが2人。
啓治と…薔薇島さん?
啓治は庶民の味を知ってるしカレー好きだからわかるけど、あれ?
薔薇島さん……落ち着いて見えるけど、目がものすごく輝いている。というかまばたきしてない。大丈夫そう?
「……カレー鍋」
あ、呟いた。
食べたそうだなあ。
今まで私と少し違うように感じていた薔薇島さんに、急に親近感が湧いてしまった。
…結局、薔薇島さんは猛スピードでカレー鍋を感触した。
手持ちのハンカチで「ごちそうさまでした」と口を拭く。
……あのハンカチ、バラの刺繍がしてある。そういえば、髪留めとか色々、バラの模様だらけだ。
好きなのかな、バラ。好きなんだろうな。薔薇島だし。
それと同じくらい、カレー鍋も好きそうだな。チラチラ鍋見てる。
でも、おかわりはしずらそうだ。
「……。」
私は、そっと立ち上がった。
「薔薇島さん」
「あっ、はい?」
私は、薔薇島さんの前にそっと、手を付けていないカレー鍋を置いた。
お金持ちから見て、手を付けていないとはいえカレー鍋をあげることは失礼に見えるのだろうか。
でも食べたそうだからいいよね。せっかくの交流会なんだから、こういうときくらい庶民の味を楽しんでほしい。
「私、今日ちょっと食欲がなくて。まだ手を付けていないので、私の分も食べていただけませんか?」
「よろしいのですか…じゃなくて、よろしくてよ。体調は大丈夫ですの?」
「はい、少し休めば治ると思います。ありがとうございます。」
今よろしいのですかって言いかけたね。なかなかかわいいじゃないか。
ふっと微笑んでから、私は自分の席に戻った。
…もしかしたら、というかもう確実だけど、薔薇島さんは羨ましいのかもしれない。「普通」が。
この前も思ったが、超お金持ちのお嬢様という肩書の背景に制限は多い。
お嬢様教育や自由にできない身分の息苦しさの中、帝星学園トップだという彼女は、一体今までどれだけの重圧を背負ってきたのだろう。
そんな彼女が、ちょっと不自由があっても比較的自由に生きられる「普通」に羨望を感じるのは当然かもしれない。
そして同時に、私たちは彼女たち「富豪」に羨望を抱く。玉の輿したいなあとか、偶然にも株で大儲けしないかなあ、とか。
結局、私たちの根本は同じ人間。お金があろうとなかろうと、お互いにないものねだりなのだろう。
薔薇島さんも私も。香住も漣くんも、ゆきも紅葉も、みんな。
「よ、よかったんですか?凛世さん」
「ん?」
しばらくみんなを眺めていると、恐る恐る八重子ちゃんが話しかけてくる。
イザナギの件が片付いてから、彼女は少し私に打ち解けてくれた。
今日も隣で交流会を一緒に楽しんでくれている。
そんな彼女は、私が具合が悪いわけではないのを知っていたのだ。
「せっかくのカレー鍋…。学校で食べる機会も少ないですし…凛世さんさっきまですごくワクワクしてたじゃいですか。……あっ、思い違いだったら、ご、ごめんなさい、ウザいかもしれないですけど…」
「ワクワクしてたの、バレてたか。なんだか恥ずかしいね」
私はてへへと舌を出した。
学校でみんなとカレー鍋……すごーく憧れだったから、企画を聞いたときにめっちゃいいじゃん!ってワクワクしてたんだけどね。
「いいんだよ、これは私たちからのおもてなしなんだから」
帝星学園をもてなしているんだし、こういうときは積極的にサービスしたい。
あとはまあ、薔薇島さんを覚えていなかった謝罪も込めて、ね。
「そうですか。……凛世さんらしいです」
そう言って、八重子ちゃんはにっこり笑った。
うっ、何だこの天使の微笑みは。ずっと笑ってたら絶対モテてたのに。
そして、八重子ちゃんは自分の器に視線を落とす。
「じゃあ……えと…っ……わ、私のを一口……どうぞ」
「いいの⁉」
八重子ちゃんは、私にカレー鍋が入ったスプーンを突きつけてきた。
「私からの…お、おもてなしです。はい、あーん」
何だこれは。
八重子ちゃん、さては天然だな?最初に会ったときのビクビクしてたのはどこに行ったんだ。
心を許したらふわふわするタイプなのか?
私は少し迷ってから、女の子だしいいかと思って、ありがたくいただいた。
「んー!うまっ」
「ふふ、ですよね」
すると、一瞬だけ、眼鏡越しに純粋な茶色の瞳が翳りを帯びた。
まるで楽しさからふっと我に返ったような、そんな八重子ちゃんを無言で見やる。
八重子ちゃんは、一拍置いてから寂しそうに口を開いた。
「あの……う、うっとおしいかもしれないんですけど…言ってもいいですか?」
「どうぞ?」
「私……転校する前も……り、凛世さんくらい…仲良くしてくれた人が、いたんですけど」
「?」
「あの…わかってると思うんですけど……私、どもっちゃうし…引っ込み思案だし…友達、あんまり作れなくて」
八重子ちゃんは、自分の白のカチューシャをなぞった。
無意識なのだろうか、彼女はよくカチューシャに触れる。
「私…か、変わりたいんですけど………。凛世さんに相談するのも、見当違いだって、わかってるんですけど…」
八重子ちゃんは私をじっと見つめた。
「あのっ……どうしたら、私…変われると、思い…ますか…?」
対して、私はニコッと軽く笑う。
「大丈夫。多分だけど、《GGO》で一緒に楽しんでいれば変われるよ」
「え?」
「レイもイツキも、クレハもツェリスカも、キリトもアスナもシノンもみんな、明るくて活気があっていい人たちでしょ?すぐ仲良くなれるよ」
「……」
「それに、変わりたいと思っているのなら少しずつ変わっていけるし。まあ、私は今も十分魅力的だと思うけど」
「凛世さん…」
さっきだって頑張って私に話しかけてきてくれたし。話しかけられることがほとんどの八重子ちゃんにとってはだいぶハードルが高かったんじゃないだろうか。
「そういうことは急がなくていいんだよ。まだ私たち若いんだし」
そう言ってはにかんで見せると、八重子ちゃんはようやく安堵したような表情を見せてくれた。
「は、はい。ありがとうございます」
―――ゆくゆくは、私にタメ口で話してくれると嬉しいな。
私は、そんな本音を心の中にしまって、彼女から視線を外した。
さて、視線を外した先にいたのは。
「…あ」
「……」
ゆきだった。
そういえば来るって言ってたっけ。
ゆきはとても優しい顔をしていた。こんなところで愛しいものを見るような目をしないでほしい。照れてしまう。
そう、自惚れとは思えないほどドロドロに甘い、そんな目をしていた。
―――会場の喧騒が遠い。ここには沢山の人がいるのに、まるで私たちしかいないような、そんな気さえする。
ふ、とゆきが微笑んだのが見えた。
私は、ゆきのこの微笑んだ顔が、一番好きだ。
「凛世?どうかした?」
それもつかの間、視界いっぱいに三角巾をつけた香住が映る。
眼の前にずいっと出てきたらしい。気づかなかった。
「ちょ、びっくりさせないでよ。…何にもないよ」
「本当に?なんかボーッと見てたみたいだけど。カレー鍋もうすぐなくなるけどいいの?」
「それはいいんだよ。ありがとう」
特定の対象を見つめてたのはバレてるわけね。
誰を、何を見てるのかバレなくてよかった。
とは言っても、香住はゆきのことは知ってるし、からかわれるかどうかの違いなんだけど。
からかわれたらこっちだって漣くんネタでからかい返して…だめだ、惚気けられるだけだし。
私は親友には勝てないらしい、口では。《GGO》では負けないけど。
「……」
チラッともう一度ゆきを見てみれば、ゆきは隣の来賓客に話しかけられていた。
少し寂しく思ってしまうが、今までゆきが見てきていたことに気づいていなかった私が言えることじゃない。
…次は気づこう。
それに、この《帝星学園交流会》が終わったら《GGO》で待ち合わせしている。
…楽しみだな。
そう思いながら、私は再び香住たちの会話に意識を向けた。
次へ続く
進み遅くてほんとごめんなさい。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.63 )
- 日時: 2024/04/14 22:27
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
「っあー…疲れた」
私は、廊下を歩きながら肩をほぐしていた。
《帝星学園交流会》が終わり、今からゆきと待ち合わせたところに向かうのだが。
『わたくしたちは、本校の学食カフェテリア体験をご用意いたしました』
帝星学園の出し物……申し訳ないけど、すっごく緊張した。
家と思ってリラックスしてくださいませとかできるわけない。そもそも家にガラス天板のテーブルはないのだから。
まあでも、正直言って、今回カフェテリアで食べた「なんとかチーズとなんとかのテリーヌ 〜なんとかソースがけ〜」はとても美味しかった。ゆきが連れて行ってくれる高級料理店くらい美味しかった。
………思えば、高級料理自体はそこそこ食べてるんだよね、ゆきとはよくご飯食べるし。
でも、ゆきは私のことをよくわかっているから、毎回個室で、私とゆきしかいない空間だから、緊張することは……ない………ないよね?
………緊張するかしないかはともかく、ゆきと2人きりだと気が楽なのだ。
「さてと」
終わったことだしいいか、と思考を打ち切ってスマホを見る。
来賓に学校で「あ、ゆき!やっほー!」なんて言ったら職員室直行間違いなしなので、今日はとある場所で待ち合わせすることになっている。
最初はゆきが「きみの家に迎えに行くよ。僕が車で連れて行くから」と言っていたが、デスゲーム後のゆきとのキスをやはりご近所に見られていたらしく、デスゲーム数日後に複数のおばさんから質問攻めに遭ったので、待ち合わせをお願いした。
そういうわけで、今回は少し着飾ってから行くとしよう。
「……やばい、大丈夫かなこれ」
私は、玄関の前で立ち止まって呟いた。
今はもう秋なのでロングスカートに薄めのセーターなのだが、今日は試しに《GGO》での私みたいに髪を後ろで1つに編み込んで、耳に秋っぽいピアスをつけてみた。
…着飾るって言ったって、どういうふうに変えればいいのかよくわかんなかったから、とりあえずこれで。
でもいざ出発ってところで不安になってきた。私今大丈夫だろうか。
「あれ、凛世、これから出かけるのか?」
そこに、お兄ちゃんがやってきた。
…お兄ちゃんは、帰ってきてからはまた家で暮らし始めた。
バイトを入れながら、少しずつ勉強と体のリハビリを行っている。
「うん、そう。ゆきとこれからデート」
「デートかぁ、いい響きだなぁ…。ああ、あんなに小さかった凛世がもう人妻に」
「ひひひ人妻じゃないよ!何を言って」
「くっ、ははっ。いやいや、あまりに幸せそうな顔をするからつい」
そして、こうしてからかってくる。
お兄ちゃんは、ポンポンと私の頭を撫でてから微笑んだ。
「まあでも、狭井 凛世と呼ぶ練習をしておくよ」
「…………狭井、凛世」
思わず復唱してしまった。
狭井 凛世、なんて魅力的な響きだろう。
……やめよう、これ以上続けるとゆきに会う前から真っ赤になってしまう。
「っていうか、お兄ちゃんはいないの?彼女とか」
「いないよ、俺は1人かわいい妹がいれば十分だ」
言ってから、しまったと思った。
お兄ちゃんは、もしかしたら事故の前にそういう人がいたかもしれないから。
いや、彼女の話は聞いてないから、好きな人、とか。
いないとは言ったけど、もしそうなら全部私のせい―――
「凛世」
お兄ちゃんが、私の考えを見透かしたように言った。
「俺にとって1番はかわいい妹の凛世だ。これは事故の前も後も変わってない。本当だよ」
「…お兄ちゃん」
私、結構考え読まれないタイプなんだけどなあ。
どうも、ゆきとお兄ちゃんには見破られてしまう。
やっぱりこの2人には敵わないわけね。
「ありがとう。今はそういうことにしとく」
「なんだよ、そういうことって」
いつか、お兄ちゃんにもしっかりともう一度青春をして欲しい。
私はゆきと恋をできて幸せだから、お兄ちゃんも味わって欲しい。
そうして、私のせいで眠って過ごしたぶん、笑顔を積み重ねて欲しい。
そのために―――頑張らなきゃね、もっと。
でもまあ、まずはデートだ。
「いってらっしゃい、楽しんで来いよ」
「うん、ありがとう。行ってきます」
そうして、私はお兄ちゃんに見送られて家を出た。
……お兄ちゃんには、まだ話していないことがある。ゆきにもだ。
そう、お父さんとお母さんの話をしていない。
2人とも私を気遣って触れないでいてくれているのかもしれないが、記憶喪失状態のお母さんは今、旧姓の「西谷」を名乗りながら普通に生活している。バレるのは時間の問題だろう。
…そう、いつかは話さなければいけないこと。
2人に甘えているばかりではなく、いい加減この件も―――…。
「あの、すみません」
いきなり声をかけられ、思わず足を止める。
考え事してて近付いてるのに気付かなかった…。気をつけないと。
そう思いながら振り返る。
そこには、高そうなカメラを持っている、記者のような見た目のおじさんが立っていた。
「なんでしょうか?」
すごーく、すごーく嫌な予感がするけれど、だからって今逃げるわけにはいかず渋々聞く。
「ああ、やっぱりそうだ!」
「?」
「《GGO》のプレイヤー、リノセさんでいらっしゃいますね?」
「!」
「あの実は、僕ジャーナリストで。前々からリノセさんの現実という題材で記事を作りたいと思っていたんです。取材させてくれませんか?」
ぞわっ、と肌が粟立った。
なんでだろう。いつも《MMOトゥデイ》とかの取材にだって応じてきたのに。
まあ、鳥肌なんか立たなくても、現実リアルの取材はお断りなんだけど。
「……すみませんが、できません」
「お願いします、そう言わずに」
「ほんとに、嫌なんです」
じゃあまた、と歩きだそうとすると、パシッと腕を掴まれた。
「ちょっ」
「来てください、お願いします。やっと見つけたんです」
「だから嫌です。本人が嫌がる記事を無理矢理載せるのがジャーナリストなんですか?」
「それは、その…違いますが…」
犯罪を犯したならともかく、そうじゃないのに嫌な記事を載せられたくはない。
「離してください。」
「……できません、来てもらわないと困るんです」
ジャーナリストさんは、焦った様子で私の腕を掴む手に力を込める。
私は情報屋の唯葉と友達だし、裏の世界ともまあまあ縁があるし、なにより護身術も学んでいるのでこの手を振り払うのは容易い。
だが、そうして「ジャーナリストに無差別暴行!」なんて記事を作られたらたまったものじゃない。
さてどうしようか。
というか、この人の目的は取材じゃないよね、絶対。
それだったらまず名乗って、断ったら別の取材の提案とか、もっと冷静な反応を取るだろうし。
…じゃあ何?「私狙い」の何か?
『You soul will be so sweet, Linose.』
不意に、リエーブル事件の最後にそう言ったサトライザーを思い出した。
…まさか、ね。
何も言わない私を従う意として受け取ったのか、「こっちです」と歩きだそうとするジャーナリスト。
しょうがない、振り払うか…と思った、そのとき。
「だめだよ」
「!」
「嫌がってるじゃないか、よくないよ」
ジャーナリストさんの手を強めに握って私の腕から離させたゆきが、ジャーナリストさんにニコっと笑う。
うわ…。怖。目が笑ってない。
「ひっ!」
ほらほら、この人もめっちゃ怖がってる。
「この人は僕の恋人でね。これ以上やるつもりなら僕の権力を使って社会から抹消するけど?」
「や、やめますやめます!お、おおおお許しっ」
「………」
僕の権力…。
何者なんですか、ゆき。
私が微笑んだまま無言になっている間に、ジャーナリストさんは尻尾を巻いて逃げていった。
「助かった。ありがとう、ゆき。」
「いいけど、こういうことが嫌だから僕が迎えに行くって言ったんだよ?」
「うっ」
「次回から、僕が、家まで、迎えに行くね?」
「え、や、でも」
「行くね?」
にっこりと笑った笑顔が間近に迫る。
「………わかった」
その笑顔に、私は負けてしまった。
「それにしても、あの男は誰だい?ナンパってわけではなさそうだけど」
「うーん、ジャーナリストって言ってた。けど、明らかに記事を書きたいだけじゃなくて……」
「…誰かに『連れてこい』と言われているみたいだった?」
「そう、それ」
焦っていたのも、ジャーナリストです、で自己紹介を済ませたのもそれならば納得がいく。
でも……いや、そんなわけない、かな?
私を狙う理由がない…いやサトライザーがいたか。
でもそれはゲーム上のことだし。
…だが、《GGO》と現実リアルの見た目は少ししか変えていない。
記事を作ろうが作らまいが、私の情報はもう既に流れているだろう。
サトライザーが私を狙っていたとして、サトライザーが現実リアルでも接触してきてもおかしくない…。
…考えすぎかな。
考えすぎだといいなあ…。
こういうときに限って、考えすぎじゃないんだよなあ。
「そういえば、明日が大型アップデートだね」
「そうだね、菊岡から頼まれた面倒事の開始日だ」
「そんな、あからさまに嫌そうな顔をしなくても」
「するさ、折角きみと楽しく攻略できると思ったのに、菊岡に邪魔をされた」
ゆきは、私の頬に手を添えて、少し不満そうな顔で言った。
な、なんか、ゆきのこんな顔、久しぶりに見たかも。
いつも笑って素顔を隠しているゆきの、私だけに見せる、気の抜けた顔……。
って、いやいや、何考えて!!
ぶるぶるっと頭を振って思考を打ち切る。
そして、私はゆきの手に私の手を重ねながら笑った。
「じゃあ、またデートしよう。現実リアルでも、《GGO》でも。あと、お揃いのものも買って、それから、全部終わったあとに2人っきりで新フィールドを冒険しよう。」
「…そうだね」
ゆきが、幸せそうに微笑んだ。
やっぱり、不満そうな顔よりもこういう顔が好きだ。
「さあ、行こう。今日をずっと楽しみにしてたんだ」
「私も!」
「それと、言い忘れてたけど」
「?」
ゆきは、私の耳にちゅっと唇を落とすと、そのまま低くて甘い声で囁いてきた。
「その格好…リノセの現実リアルバージョンかな?とってもかわいいよ。似合ってる」
「…っ!!」
ぶわっ、と顔が熱くなる。
それを愛おしそうに、愉しそうに見てくすっと笑ったゆきは。
「本当はドロドロになるまでキスしたいけど、今は我慢するよ」
と言ってから私の手を取って指を絡めた。
「真っ赤な凛世、かわいい。大好きだよ」
「…う、ゆき…そんなこと、ここで言われると…」
街中なのに。
というか、折角近所のおばさん達に見られないように待ち合わせを頼んだのに、意味がなくなってしまった。
…ゆきと結ばれた時点でそこは覚悟するべきだったけどさ。
「ははっ、かわい……さ、気を取り直して行こうか、君と行きたいところがいっぱいあるんだ。」
そう口では言うけど、きっと私が行きたそうな所を選んでいるのだろう、そしてそれを言わない優しさ。
いつもそうだ。
…今度、なにかお返ししよう。
普段私が幸せを貰っている分、ゆきにも沢山味わってもらうのだ。
愛する相手といる幸せを。
そう思いながら、私はゆきと繋ぐ手を少し強く握った。
「…失敗したようだな」
そこには、氷のような表情を浮かべる男がいた。
不機嫌のように見え、また悲しいようにも寂しいようにも見えて感情が読み取れない。
その男に鋭い視線を向けられたジャーナリストは、「ひっ」と細く怯えた声を漏らしてから頭を下げた。
「す、すみません!見知らぬイケメ…いえ、謎の男に邪魔をされて…」
「…男?」
無表情の男は、ピクッと反応した。
「はい、神名凛世の恋人らしく…」
「…恋人」
男は、初めて顔を歪ませた。
その顔には、愉悦と歓喜が滲んでいる。
「…そうか、恋人…恋…そう、だよな」
そして、さらにニィッと口の端を引き上げた。
「もういい、お前は行け」
「えっ、はっ、はいぃぃ!」
ジャーナリストが出ていったあと、後ろにいた別の男にジャーナリストの口封じを命じてから、またその男は笑った。
今度は豪快に、激しく、まるで熱烈に愛を告げるように。
「ああ…神名凛世よ、愛しい光リノセよ、君はいつも私を楽しませる」
あの女性は、自分と会う時はいつも一人だった。
それに、あの女性を自分の情報網でわざわざ調べても恋人がいる情報は手に入らなかった。
それはすなわち、君が私の情報収集の可能性を警戒していたということ、恋人とやらは相当大事らしい。
その恋人とやらに興味は無いので何をするつもりもないが、ああ、面白い。
どうやらあの女性は明るくて強いだけのお花畑ではないようだ。
「アリシア…私は見つけたよ、本当に欲しい魂を、絶対に奪いたいものを」
その男は、高らかに笑っていた。
次に続く
更新頻度遅すぎてごめんなさい。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.64 )
- 日時: 2024/07/21 07:50
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
お久しぶりです。
ぼちぼち更新再開したいと思います。
ルビの場所は目をつぶってください。
エミリアはライザ様よりご提供いただきました。
「リノセ!」
「…はい」
「始めるわよ―――」
ドドンッと効果音がつきそうな仁王立ちのクレハが、私とレイの前に立つ。
私たちは学校のようにピシッと背を正して椅子に座っていた。
「有名プレイヤー講義!」
なんでこんなことに―――まあ、私が有名ランカーを知らなすぎるせいなんだけど―――と考えながら、私はクレハに耳を傾ける。
有名プレイヤー講義なんてものを受けることになったきっかけは、数日前―――
「あ、見てリノセ」
クレハとレイと3人で消費アイテムの買い出しを終え、センターストリートを歩いているときのこと。
クレハがふと立ち止まって誰かを指さした。
「ほら、あの《薔薇将軍》がいるわ」
1番初めに思ったのは、誰それ…という簡潔な疑問だった。
だって普段有名ランカーとか気にしてないし。
私は別にランキングを意識してるわけじゃなかったから、そういうのはチェックしてなかったんだよね。
「……リノセ?」
「……」
「レイちゃんまで黙り込んで…もしかして、2人とも」
クレハは、今までにないくらいのジト目になった。
「知らないわね?そういうの」
…とまあ、私の不真面目さがバレてしまったわけだ。
「まずはこの前見た、《薔薇将軍》…プレイヤーネームはエミリアよ」
ピッ、とモニタにその人の姿が映る。
「な、なんだかよく笑ってそうな人ですね?」
レイが首を傾げながら言う。
否定はしない、よく笑っていそうだ。ただし高笑い。
一言で言うと、悪役っぽいなあ、とか。
マゼンタのウェーブパーマの腰ぐらいの髪。左右の揉み上げは縦ロールに巻いていて、瞳は吊り目の紫。右目近くに泣きぼくろ。唇には赤い口紅を塗っている。
露出の高い赤と黒と金の軍服を着ており、左肩にはルビーのブローチ付きのワインレッドの肩マントを羽織っていて、軍の将校のモチーフのようだ。
癖が強い、という言葉は呑み込んでおいて、更に2つ名の由来を聞いてみる。
「その人の武器は一応スナイパーライフルなんだけど、あんたのフェイタル・バレットとはちょっと違って、連射重視のやつなの。勿論サプレッサーつければ遠距離射撃もできるけど、武器としてはあんまり向いてないかな。」
言うには、彼女の必殺技が《魔弾の射手》らしい。
デア・フライシュッツ自体は知っている。
ドイツで「百発百中」と言われた魔弾だ。
そのスナイパーライフルはそれをモチーフにしているそうな。
「…ふーん…」
相手に、銃に手をかける隙を与えないほどの圧倒的な瞬殺ぶりからプレイヤースキルが伺えるが、活動自体はそんなに派手なわけではないようだ。
かつてのツェリスカを思い出す。
彼女も―――エミリアも、なにかの事情でなにかを隠しているのだろうか?
「マスター?どうしたんですか?」
レイが心配そうに顔を覗き込んでくる。
いけないいけない、ここらへんの詮索はマナー違反だ。
関わることになったら考えることにしよう。
「さあどんどんいくわよ、次は―――」
それよりも、私の不真面目さがこんなところで返ってくるとは…。
決して思いもしなかった授業は、まだまだ終わりそうにない。
《幸運の白星》―――
その2つ名を聞いて分からない人はいな―――いや、いた。
リノセとそのアファシス、レイ。
クレハはその2つ名の主を知っていながらあえて教えなかった。
なぜなら、《幸運の白星》…その2つ名の主は、他でもないリノセだからだ。
伝えなくともまあ、そのうち知ることになるよね―――
そう思っていたクレハ。
それが意外とすぐであることを、彼女は知らなかった。
その日の夜。
明日からの大型アップデート後の新フィールドクエストをより早くクリアするため6時間の仮眠をとって夜10時にダイブしていた。
それはイツキやキリトたちも一緒で、似た者同士だなあと思ってしまう。
「新フィールドってどんなところかな?」
「アップデートしてからのお楽しみになっているからね。荒野に砂漠、廃墟街に森ときたら…僕は雪原か宇宙かな」
「あー、どっちもいい!」
「そういえば、マップの全体図にまだ空いているところが2箇所くらいあるよな」
このゲームの考察スコードロンが《デファイ・フェイト》くらいメンバーがいる気持ちがわかった気がする。
考察、なかなかおもしろい。
というか、それもトップ勢の醍醐味でもあるからわかっていたつもりだけど。
まだこの世界はわからないことだらけだから、いろいろ考えるのがとっても楽しい。
「マスター、幸せそうですね?」
「ふふ、そう見える?」
「はい!マスターが幸せで、私も幸せです!」
はあ、私のアファシスは相変わらず可愛いなあ。
そう思って撫でくりまわす。
「……おいイツキ、アファシスにすら嫉妬の目を向けるんじゃない」
「…いや、僕、あの手に頭を撫でられたことがあったっけと思って」
「…」
「きみも思ったことないかい?そういうこと」
「…黙秘で」
そんな会話があったことは、知る由もなく。
「そういえばこの前、グロッケンを探検してたら―――」
新しい話題に移ろうとした、そのときだ。
「見つけましたわ、《幸運の白星》!!」
そんなよくわからないセリフとともに、悪役令嬢のような見た目の女の軍将が目の前に飛び込んできたのは。
あれは……えーっと……そう!
「ローゼン・ゲネロールケーキ!」
「誰がロールですか!」
「レイ、ゲネまで合ってるのに……惜しい」
「勝手にロールケーキにしないでくださいませ!」
あー、じゃなくて!そっちじゃなくて!!
「ぷらちなすたー?」
レイが不思議そうに首を傾げる。
「プラチナスター?」
私も同じように首を傾げた。
そんな中、気まずそうについっと目をそらすクレハ。
………あーっと……?
「クレハ?もしかして…」
「はああー……」
クレハは額にぺちっと手のひらを打ちつける。
「そもそもよ。賞金ランキングも何もかもトップになったあんたにだけ2つ名がないわけがないじゃない。」
「たしかに」
「なのにあんたたち、そういうのにまったく興味ないんだものね」
だって興味ないし……。
でも、情報収集を怠っていると、他のトッププレイヤーたちを軽蔑していると取られかねない。
情報収集も頑張らなきゃな……。
「ちょっと!わたくしのこと馬鹿にしてますの?」
「いやいやいや!そんなことないよ、《薔薇将軍》のエミリアさん」
「……ふん」
エミリアは、ツンとした表情のまま私をキッとにらみつける。
「自分の2つ名も知らないなんて、トッププレイヤーとしての気品に欠けますわよ」
「そうだよね……情報収集を心がけるよ」
「……あなたとこうして戦うために何日もグロッケンを歩き回って探しましたのに、あなたはすぐにフィールドに出てしまうですもの、時間がかかりましたわ」
あー、やっと見つけましたわって言ってたっけ。
っていうか、それならこの前見かけたときに話しかけておけばよかった。
「情報収集も兼ねてのグロッケン散策は基本中の基本ですわよ」
「耳が痛いなあ、忠告ありがとう」
「……ふん」
あれ?なんかますます不機嫌そう?
反応がお気に召さなかったのだろうか。
んーまあ、いいか。
「と、とにかく!《幸運の白星》リノセ!わたくしと―――」
ごくり、と唾を飲む。
「勝負なさいっ!!」
****
グロッケン内、PvPスペース。
バフをかけた私は、フェイタル・バレット…ではなく。
サブウェポンの剣、フィリルを手にした。
『その人の武器は一応スナイパーライフルなんだけど、あんたのフェイタル・バレットとはちょっと違って、連射重視のやつなの。勿論サプレッサーつければ遠距離射撃もできるけど、武器としてはあんまり向いてないかな。』
連射重視、銃に手をかける隙すら与えない必殺技。
そんな相手にアンチマテリアルライフルは向いてない。
『予測線を予測する』
勝つ方法は1つ。
私に当たる弾を―――斬る。
……それにしても、スナイパーの立ち位置で戦うことは、あのデスゲーム以来少なくなった。
霧剣斬の虚無葬送を思い出したから剣での戦いもより強くなれたし、スナイパーはヤエもだいぶ上手くなってきて、ちょっと少ない前衛に需要が傾きつつあるからだ。
スナイパーはイツキと練習した大好きな立ち位置…寂しいけれど、これはしょうがないことだ。
《PvP開始10秒前、9、8……》
……さてと。
じゃあ、頑張りますか。
《3、2、1…GAME START》
バッと飛び出した。
反対側から同じくエミリアの姿が見て取れる。既に銃を持っていて、私をしっかり捉えていた。
「喰らいなさいな!」
駆ける私と私にかかる20個の弾道予測線。
ふむ、なるほど。いきなりこれされたら、避けようとしてもたしかに間に合わないかもね。周りにも散らばってるんだもん。
これが彼女の戦い方の真骨頂なのか―――だけど。
「ほっ!」
「っ、な!?」
《UFG》にて大体を避けつつ、当たりそうな弾を斬り落とした。
ふう……っ、よし、なんとかなった!
「はっ!!」
ぐっと顔を顰めながら追撃してくるエミリアに、更に近づく。
そのとき。
私は嫌な気配を感じ取ってその場から飛び退いた。
その瞬間、その場に炸裂弾が着弾し爆発する。
私がタッグバトルトーナメントで使ったものと同じような、近づいたら弾丸が発動するタイプのガジェットだ。
「っ、ふう……」
「今のを避けるんですのね。流石ですわ」
「まあね。これでも勘は鍛えたほうだか、らっ!」
そしてまた走り出す。
今度は地面にも気をつけながら進まないと。
「ほっ!!」
また数発の弾丸を斬り裂く。すると、エミリアが不機嫌そうに顔を歪めた。
「Du freche Frau!Bewegen Sie sich nicht!」
(生意気な女め!動くんじゃありませんわ!)
「……」
エミリア、絶対私がドイツ語わかること知らないよね。
「Ich werde auf keinen Fall aufhören, wenn mir gesagt wird, dass ich aufhören soll?」(止まれと言われて、止まるわけが無いでしょう?)
「っ、あなた……!」
エミリアが目を見開いた。
「ドイツ語、いいよねぇ。銃のデザインとか2つ名とかからもドイツ好きなのは見て取れたけれど」
香住のスペイン好きと同じくらい好きなんだね、きっと。
私は薄く笑ってから剣を構えた。
「はっ!!!」
大きく踏み込む。もうここは剣の間合い。
だけどそれは彼女にとっても近距離であり、今撃たれたら避けきるのは至難の業だろう。
「―――今度こそ、喰らいなさい!!」
それを悟ったのか、再び彼女は、必殺技を放つのだった。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.65 )
- 日時: 2024/07/22 08:12
- 名前: 水城イナ (ID: 7ZQQ1CTj)
再び20個の弾道予測線が私の胸の真ん中に集中する。
このままでは20個の弾丸に撃ち抜かれてゲームオーバーだ。
でもね、エミリア。
「せっ!」
「―――!?」
私は発動した《霧剣斬・三枝》で、連射された弾を一気に斬る。
この剣、フィリルは実剣で攻撃力が高い上、ソードスキルで速度を増幅された状態だ。
そして弾はほぼ間隔をおかずに連射される。だから、私はそれを斬ることができるわけだ。《GGO》でしかできない滅茶苦茶な方法だけど、計算上ギリギリOKで、実際に受けるのは斬れない5発だけ。
これで私の体力はあと半分。
「っく!」
残りのソードスキルによってエミリアの体力は半分よりちょっと少ないところまで削られた。
強い剣とはいえ、やっぱりフェイタル・バレットと比べると殺傷力はないようだ。
エミリアは私が次の攻撃に入る前に飛び退いて距離をとるも、私は回復を許さず追いかける。
「ッチ、もう時間がありませんわ―――」
エミリアはそう呟くと、眩い光を放ち始めた。
神々しいまでのオーラが彼女を包み込む。そんな彼女がもつ《魔弾の射手》もただならぬ圧を発していて……
「っ!!」
……そうだった。必殺技にはさらに奥の手があるものだ。
それを警戒していなかった。
きっとあれはウェポンアーツ…それもあの光は隠しエリアでしかゲットできない特別なウェポンアーツの演出で、たしかそれは……
《10秒だけ、発動武器のメモリーチップの効果を全て適用させる》―――!!
「やっば!!」
「さあ!受けてみなさいな!」
弾道予測線は20……40……60……数え切れない。
もうだいぶ距離を詰めた今、体をねじって障害物を振り返り、《UFG》を使うのだとしても間に合わない。20発ならともかく、オートリロードが適用されて何倍にも膨れ上がった弾数はさすがに虚無葬送でも斬れない。
万策尽きたか……?
…………いや!!!
私はフェイタル・バレットに持ち替えた。
私に、百を超えるスナイパーライフル弾が迫る。
だが。
「見えた!」
「っ!」
私のスキル《ハイパーセンス》。
それは1回だけ、あらゆる攻撃を回避するスキル。
《魔弾の射手》はたしかに正確だ。あのままだったら確実に私はダウンしていた。
だけど正確ゆえに、私は避けられたのだ。
正確は、つまりは散弾せずスコープで狙ったところの通りに弾道を描くということ。スナイパーライフルなのだ、当然だろう。
《ハイパーセンス》はあらゆる攻撃を回避する、つまり1回だけ、《攻撃が当たらない場所まで瞬間移動する》。
1回だけでいい。
正確な弾を1発避ければ、同じところに着弾する全ての弾を避けられる。
「えっ、なんでそこに―――」
《ハイパーセンス》で移動した私はフェイタル・バレットをエミリアの頭に突きつける。
エミリアが体を捻り私を捉える前に、私はフェイタル・バレットの引き金を引いた。
霧剣斬を使ったあとの弾丸は、強い貫通力をもつ。
バンッと大きい発射音が響けば、もうエミリアのHPバーに色はなかった。
『GAME SET―――勝者、プレイヤー名・リノセ』
そんなアナウンスとともに私は着地し、間もなく視界は暗転するのだった。
****
「っ~~相変わらず滅茶苦茶ね、あんたは!」
戻ってきて、一番にクレハは私の肩を叩いた。
「っはは!やっぱりきみは流石だね……!とっても面白い勝負を見させてもらったよ。勝利おめでとう」
イツキも笑う。
「かっこよかったです、マスター!」
「ありがとう」
みんなに笑いかけてから、私は漸く立ち上がったエミリアを見やる。
本人は呆然と言った顔で私を見ていた。
「何……なんなんですの……今のは!あなたはいったい何を……!」
「《切り札》だよ、エミリア。エミリアだって奥の手を持っていたでしょう?」
「……!!……あれが……あなたの、《切り札》ですのね……」
エミリアは一瞬俯いてから、されどすぐに顔を上げて私をキッと睨みつけた。その瞳にはさっきより強い闘志が浮かんでいる。
「わたくしの負けですわ。でも、わたくしは諦めません!」
エミリアはビシッと私を指さした。
「リノセ!この雪辱はいつの日か必ずや晴らしてみせますわ!!」
対する私も、不敵な笑みを浮かべて頷く。
「受けて立つよ。またびっくりさせるんだから」
そうして、エミリアは嵐のように去っていった。
「誰かに似ていると思ったら……どこぞのバザルトくんに似ていたのか」
「そうね。勝負をしかけてきてまた来るって叫ぶとことか」
「ジョーの女の子バージョンです……」
みんながそう呟く。
そこにジョーが現れて、「何?俺がなんだって?」と不思議そうに聞いてきたあと、イツキとクレハに「しつこいって話をしてた」と返され本気で嬉しそうにふんぞり返っていたのは、また別の話である。
****
そしてついに、このときがやってきた。
アップデート、新フィールドの解放である。
残念だが、レイはお母さんであるマザーコンピュータに呼び出されたらしく、《SBCフリューゲル》の戻っているので、とりあえず私、イツキ、キリト、アスナ、カンナ、アカ、ヤエの7人で攻略することになった。
早速移動してみればそこは……
「う……わあっ」
私たちは揃って目を丸くした。
それも当然、そこは、いっぱいの雪原。
そして、空には青空が広がっており、煌々と太陽が輝いている。
それを見て、ヤエが目を見開いた。
「空が……空が、晴れてます!」
思えば、《GGO》はいつも曇天だし、今いないレイは初めての青空かもしれない。来たら相当嬉しがるだろう。
「なるほど、雪原……そういえば、寒い場所では雲ができにくいと聞いたことがあるね」
イツキが納得したように頷く。
そういえばそうだった、と私も頷いた。
「これは期待大きいね!楽しみ…!」
「雪……俺の地元は雪降らないし、初めて見たかも」
アカが呟く。私はえっと目を見開いた。
「本当に?私とゆ…じゃなくて、イツキは雪降る地域にいるから、最近じゃあ雪は結構見なれててさあ」
「そうなのか」
アカが少しだけ驚いたような顔をする横で、ヤエとカンナが戦うのに慣れてきたハヅキと雪合戦をしている。
みんな大はしゃぎだな。かわいい。
足元の雪に触れてみるとひんやり冷たい。空気も雪原らしく澄んでいるが、寒いわけではない。
まあ、寒さを現実リアルと同じにしたら死んじゃうもんね。
死なないのはそれこそいつも厚着ジョーくらいだ。
彼は厚着が好きなのだろうか。寒がりとか?
気になるから今度聞いてみよう。
とにかく。
「えーっと、たしかホームページによると、《気象エネルギー研究所跡》のダンジョンをまず攻略するんだっけ」
振り返り、入念にホームページを確認しているはずのアスナに確認すると、彼女は笑顔で頷いた。
「そうだよ。ダンジョンに入ったらクエストが始まるんだって」
「アスナは相変わらず用意周到だなあ」
「もう、キリトくんが行き当たりばったりすぎるんだよ!」
キリトと話すときだけアスナがむくれるのはご愛嬌。
微笑ましい目で見てから、イツキの隣に並ぶ。
「もう《GGO》に来たはずのAIユナは、意識とアバター形態がはっきりしたら位置情報が送られてくる手筈になっているんだったかな?」
イツキが雑談のフリをして確認してくるのに、私はゆっくり頷いた。
《オーディナル・スケール》はキリトやアスナもやったことがあるらしいし、やっぱり2人にはなるべくユナを悟らせないままに進めたい。菊岡さんからの依頼がバレるかもしれないし。
菊岡さんがキリトを仲間はずれにしてまで私とイツキに頼んだのは、キリトには悟られたくない何かがあったからだと思ってるし。
だからできるだけ隠したいんだけど、たぶん長くは続かないだろう。
なぜならば―――
「来るだろうね、エイジ」
「ああ、そうだね」
エイジ。
彼が来ればきっと、私たちと鉢合わせるだろう。
そうしたら、ユナの存在もきっと…。
ただ、エイジはユナのエラーの解決方法を持っている可能性が高い。
だから、会ったら会ったで自然に誘導出来ればいいんだけど…。
「………」
「どうしたんだい?」
私は少しだけ複雑な顔で眉根を寄せた。
「エイジはさ、ユナが大好きで、助けたくて、ここに来るわけで」
「うん」
ずっと考えていたこと。
菊岡さんから話を受けていろいろ準備していたときから思っていたこと。
「私はイツキが大好きで、だからこそエイジがどんなにユナが大切か、ほんの1ピースくらいはわかってる…つもり」
「…うん」
実際に好きな人を失ったわけじゃない。
イツキは《SAO》にはいなかったし、デスゲームだって乗り越えた。
だから完全にわかるとは言えない。
だけど、恋人を失うのは、考えるだけでもとっても辛いことだ。
「その気持ちを利用するのはほんのちょっとだけだけど、気が引けるなって。もちろんこれはエイジにも絶好の機会であって、2人がエラーも起こさず過ごせるようになるためにもなるって、わかってるんだけど」
気持ちをちょっとはわかることができるからこそ、私の中では引っかかるのだ。
そう言うと、イツキは私の腰を引き寄せながら私のつむじに唇を落とし、あやすように撫でた。
「本当に、きみは優しい人だ」
イツキが甘くて、少し呆れたような声音を含んだ言葉を落とした。
「そんなきみがたまらなく愛おしいよ」
そう言うイツキだって、相変わらずそういうことところ構わず言うんだね。
とか言いたくなる私もそれを嬉しくて見逃してる私も私なので、そんな言葉は呑み込んでおく。
「大丈夫。そう思っているならエイジもユナも、きっと幸せだろう」
「……そうかな」
「ああ」
みんなの雑談が終わりに近付く気配がする。
そろそろ出発する頃合だろう。イツキとの密談ももう終わってしまう。
私は、イツキと空いている20センチを寂しむように踵を上げるが、唇には届かなかったので、顎に近い首あたりにそっと唇を落とした。
「……っ!」
「ありがと、イツキ。元気出た」
私はにっこり笑ってイツキから離れる。
イツキはというと、滅多にない私からのそれに大層驚いたらしく、首あたりを指でなぞりながら私を凝視していた。
「っはあ……まったく、きみって人は」
暫くしてから、ため息とともに熱い何かを吐き出したイツキは、私の手首を掴んでグッと引き、再び近づいた私の唇を一瞬だけ奪って囁いた。
「終わったら、覚悟してて」
息を呑んだ私に満足したのか、イツキはパッと離れていつものへらっとした笑顔に戻る。
「さあ、そろそろ行こうか」
「ああ!クエスト報酬の《夜の結晶》、楽しみだな!」
「もう、報酬だけはチェックしてるのね」
みんながウキウキと銃を取り出す中、私だけは暫くしゃべることができなかった。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.66 )
- 日時: 2024/08/27 19:54
- 名前: 水城イナ (ID: Vp8UE4E/)
最近、フェイタル・バレット始めた頃のストーリー原稿改稿したいと思っているのですが、パスワードを忘れて一生変えられない。悲しい。
しばらく空きましたがまたやります。
『水城イナ』としてpixivでも活動していますのでぜひ。
「アカ、左」
「ああ、せっ!」
アカの右手の敵を撃ち倒した私と、剣を一閃、左手の敵を倒したアカ。
「ふー……流石にホワイトフロンティアはエネミーのレベルが高いな」
呟いたアカは、ため息をつきながら乱れた前髪を整えた。
「きゅ、急に…たくさん湧いてきたから、びっくりしました……」
カンナも少し疲れたようだ。
「ハヅキくん、大丈夫?」
「おう、回復サンキュ、アスナ」
回復や弾の補充をしながら一休みするみんなを見ながら、私もぐーっと背を伸ばす。
たしかに、流石は新エリア、各エネミーのレベルはとても大きくて戦いがいがある。
さっきなんて強い部類のエネミーであるヒューマノイドたちがいっぱい出てきて流石にほんのちょっと焦った。ほんのちょっと。
「ところで、アカとリノセの連携、すごかったな!」
キリトが笑った。
「なんかリノセちゃんって、誰とでも連携できるイメージあるなあ」
アスナも笑う。
「いやいや流石に、誰とでもは無理だよ。それを言ったら、キリトとアスナだって阿吽の呼吸じゃん。夫婦みたい」
「……」
「まあ、夫婦だからな」
「うわあ、惚気だ」
「リノセが始めたんだろ!」
照れるアスナの横でふんぞり返って答えてきたキリト。
キリトは女の子となら連携できるんじゃ、という嫌味を飲み込んだ私、偉い。
結婚したのだってゲームシステム内だけなのにね。
《GGO》に結婚システムあったら、私だってイツキと結婚するんだけどなあ。
そう思いながらチラリとイツキを見ると、何故かイツキとバチッと目が合った。
イツキはとびきり甘く微笑んで、私の姫毛をすくい取り、それに静かに口付ける。
「え、ちょ、みんな見てるけど」
「欲しそうな顔、してただろう?」
「えー……」
欲しそうな顔してたんだ。
でも、まあ、うん。照れるとすぐ顔に出るタイプなのは否定しないよ。結婚、っていうワードでゆきのタキシード姿を想像して照れてたことも。
「……ふ」
イツキは百面相する私を見て再び微笑んでから、ぽんぽんと私の頭を優しく撫でた。
それはやけに意味ありげだ。
「……おいリナ、じゃなくてリノセ。お前今いくつだ?」
アカが聞いてくる。
「18……あっ」
…………………………。
「はー、お前なあ」
アカが呆れたように肩を竦める。
私、そういえば結婚できるな…!?
「くくっ……リノセ、本当にかわいいね、きみは」
イツキは、抑えきれないというふうにくつくつと笑った。
「うえええ、リノセさんまさかまさかまさか、けけけけけっけっこん……!?」
顔を真っ赤にして照れ始めるヤエ。
「……ヤエ、それで照れる……?」
カンナが、心底不思議そうな目をヤエに向けていたことも頭に入らない。
あーもう、私としたことが…結婚可能年齢であることを忘れていたなんて。
いや忘れててよかったかも。余計にイツキを意識しちゃう。
それをわかってて、尚笑い続けるイツキ。
休憩時間ずっと、私は笑われていたのだった。
「よし、じゃあ移動しようか」
「うし!」
気合を入れて立ち上がるみんな。
私ももう一度伸びをした。
そのとき。
―――あんま頑張りすぎんなよ。お前はいっつも無理するんだから。
そんな声が聞こえて、思わず動きを止める。
みんなは平然としている中、私だけが声を聞いていたのは一目瞭然だった。
嘘でしょ……今の、今の声は。
「……アカツキ……」
****
暫くして、私たちは立ち止まった。
目の前には、凍りついた大きな扉。
ギミックは何もない。敵も出てこない。
扉は、開かない。
「何かギミックを逃したのか…?」
キリトが首を捻る。
「え、でも……隈無く見て回った……はず、ですけど……」
ヤエも首を傾げる。
「まあ、いきなり来たからな。情報が足りないのかもしれない」
アカが肩を竦めた。
私も頷く。
「そうだね、一旦戻ろうか」
―――ユト、リナ。街に戻ったら飯食おうぜ。俺が奢ってやるよ!
「……っ!!」
やっぱり聞こえた。
今度動きを止めたのは、アカと私。
今のはアカにも聞こえたのだろうか。
アカは、数瞬止まってから振り返る。
そこには、誰もいない。
「……アカ」
「っ、リナ!今……!!」
「…………」
やっぱり、気のせいじゃない。
彼だ。
私たちの仲間。
あのときアカを、ユトを庇って死んだ男。
でも、なんで《GGO》に?
ここは《SAO》でもなければ《SA:O》でもない。
《SAO》データをもとにしてる《SA:O》ならともかく、《GGO》に彼のデータが残っているはずが―――まさか。
『ザ・シードの干渉が増えている?』
《SAO》基盤のVRシステム、《ザ・シード》。
菊岡が言っていた、干渉の影響なのだとしたら。
『空が……空が、晴れてます!』
この青空も、それがもたらした、本来のギミックでないものなのだとしたら。
『ユト、リナ。街に戻ったら飯食おうぜ。俺が奢ってやるよ!』
もしかしたら、彼が―――
「アカ、リノセ、どうした!?」
キリトが心配そうに聞いてくる。
イツキは何も言わないが、きっと心配していることだろう。
「……なんでもない、よ」
確証は無い。だからまだ言えない。
けれど、私の勘が囁くのだった。
きっとこの《ホワイトフロンティア》には、ユナだけではなく、彼もいると。
アカが名を貰った、《SAO》の暁を駆けた……。
アカツキ。
ユトを庇って死んだ、ユトのお兄ちゃん。
****
「さて……まず考えるべきは、あの扉をどうするかだな……」
なんとか、彼の声の件を誤魔化しきって私のホームに集まったあと。
私たちはキリトの言葉とともに早速作戦会議を始めた。
「やっぱり情報収集するべきよね。《SBCフリューゲル》攻略のことを考えると、他フィールドに鍵が散らばっている可能性もあるけど……」
クレハが呟く。
それを聞いて、ツェリスカが首を振った。
「それは考えにくいわ~。今回のクエスト《夜の女王》は《ホワイトフロンティア》を舞台にしているもの~。他のフィールドを出してくるとは思えないわ~」
「そう言われれば、そうかも。」
ツェリスカが言うには、新フィールドおよび大型クエストをみんなで攻略するためにあえて、別のプロジェクトに加わったとか。
その別のプロジェクトが気になるが、《ホワイトフロンティア》と大型クエスト《夜の女王》のほとぼりが冷めた頃に発表するのでまだ秘密らしい。
まだまだ企画があると思うととても嬉しいよね。
しかも、このすぐ後にはなんと、《B.o.B》が待っている。
クレハとツェリスカも参加するらしいし、とっても楽しみだ。
ということで、今回のこのクエストは《B.o.B》の準備のためになるべく早く終わらせたいのだ。
そうしてみんなで考えていると。
「リノセ!……って、あれ?みんなもいるの?」
「こんにちは!あれ?キリトさんたちもいるんですか?」
ドアが開いてやってきたのは、リズベットとシリカ。
とてもわくわくしたような顔だ。
これは、間違いなく何か企んでるね。
「まあいいわ。アスナもいるみたいだし!」
「えっ、私?」
アスナが目を丸くする。
そして直後、過去を強ばらせた。
なるほど、狙いはアスナか。
「ま、まさか……」
「とある噂を聞いたのよ、噂」
ぶるりと震え上がるアスナ。
キリトはなんとも言えない顔で彼女たちを見つめる。
「どんな噂?」
私が尋ねると、リズベットはにやあと笑った。
「それが、夜、例の大型クエストのダンジョンに……」
「……ごくり」
唾を飲むアスナを面白そうに眺めてから、リズベットは言い放つ。
「幽霊が出るんだって!」
「いやああああ!」
アスナが頭を抱えて顔を青くした。
あれ、そういえば。
アスナ、血盟騎士団時代に女性だけで集まって恋バナ―――ではなく、怪談をしようって話になったとき、副団長権限まで使って阻止しようとしてたような。
ははーん。
アスナ、そういうの怖い人なんだ。
これはホラー映画で抱きついてもらってキリトがおいしいやつだ。
ちなみに私はそういうの怖くない人種なのでイツキもといゆきはそういうオイシイ展開は味わえない。
私は背中に守られる人間ではなく、背中を合わせる人間でありたいし。
それはともかく。
「幽霊……?」
「案外、それが答えかもな」
キリトが頷いた。
「え?」
アスナがキリトを見やる。
「あの開かない扉だよ。クエストは《夜の女王》だし、夜に現れるなら関係あるかもしれないだろ」
「……あ、たしかに……う、でも……」
アスナは本当に怖がっている。
なんか、アスナを見てるとだんだん可哀想になってきた。そんなに怖いかな。
「とりあえず夜にまた集合して、その幽霊を調べてみよう。いないならいないでまた調べればいいさ」
「そ、そうね!幽霊が本当にいるとは限らないし!」
半ば自分に言い聞かせるように呟いたアスナは、頭を振ってぎこちなく笑った。
「私も行くわ。攻略はずっと楽しみにしていたし……」
「アスナさん、大丈夫?怖いなら無理しなくても……」
「だ、大丈夫よクレハちゃん!!怖いわけないじゃない!」
「思いっきり虚勢だわ……」
呆れたように肩をすくめるクレハ。
それを眺めながら、私はそっと隣のイツキに言った。
「ねえイツキ、どう思う?」
「幽霊のことかい?」
「そう」
イツキは、あたかも雑談しているような雰囲気を出しながら答えた。
「可能性は半々かな」
「やっぱりそうだよね」
半分は、ただプレイヤーがイタズラして噂を流したり幽霊のフリをしたりしている可能性。
もう半分は、《ザ・シード》の干渉の影響である可能性。
面倒だけど、仕事を引き受けた以上蔑ろにする訳には行かない。
私はイツキと軽く視線を交わし、頷き合い、キリトたちに賛同の意思と夜に集まる提案を示すのだった。
****
それは、雪の降り積る大地。
自分がどうやって来たのかも、ここがどこなのかもわからない。なぜここに立っていたのか、そもそも今まで何をしていたか。
それから自分の焦がれる人を思い出して、それからはっきりと、蘇る記憶。
―――わたし、死んだんだ。
きりきりと胸の奥を削るように、じわじわと体力を削るように、エラーが体を蝕んでいく。
ここに「彼」がいないことだけは、鮮明にわかった。
それからは、ただ歌い彷徨うことしか出来なかった。
自分の奥にはまだ収まらぬ痛みが燻っている。この世界でも、わたしはもう長くない。名前もわからないこの世界でも、わたしは今、体の奥底に残ったエラーで少しずつ削れていく。
そんなことを思っていた、ある日。
「―――っ!」
本当になんとなく、だけど確実な想いを乗せて。
「彼」がやってきた、予感。
「……行かなきゃ」
体を、何かが突き動かす。
逢いたい、逢わなきゃいけない。
エラーを抱える彼女―――ユナを動かすのは、ただただ単純な、されど美しい、恋慕であった。
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