二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.67 )
- 日時: 2024/09/04 11:38
- 名前: 水城イナ (ID: S9m9GTYE)
人はいつか死ぬ。
それは笑っても泣いても縋っても、不変の真理だ。
物語によくある寿命が書いてある灯篭だとか蝋燭だとか、それがあろうとなかろうと、いつかは死んでしまう。
そう―――いつかは死ぬ。
トラックに轢かれて、病気に侵されて、もしかしたら誰かに刺され、突き飛ばされ、息を阻まれ。
もしくは、NPCやプレイヤーに、HPバーを削られて。
(―――私は、人を殺した)
この世界はフルダイブ型VRMMORPG《ソードアート・オンライン》。もう1つの現実であり、誰かが簡単にいなくなってしまう場所。
誰かを、簡単に殺せてしまう場所。
私が、人を殺した場所。
(表では、ただ私が戦いに勝っただけ)
だけど、現実では彼は死んだはず。
彼は人々をたくさん殺していた。私が殺さなければ、もっとたくさんの人が犠牲になっただろう。
だけど、だからといって私の行動が正しかったわけが無い。
私は、罪を背負ってしまった。
「……はあ」
私は自分自身に呆れてため息をついた。
もうずっと、1ヶ月は同じことを考えている。
うじうじするのもいい加減にしないと。
そのとき。
コンコン、と部屋の扉がノックされる音が響いた。
「どうぞ」
そう言うと、躊躇いがちにゆっくりと扉が開く。
「こんな時間にごめん。お邪魔だったかな?」
「…サヤト、大丈夫だよ。まだ起きるつもりだったから」
サヤト。
プレイヤー名は《Sayato》だけれど、本名が「さやと」ではないことをこの前教えてくれた。
流石に本名までは聞かなかったけれど。
彼はとてもイケメンで、カリスマ性に溢れてて、人気もあって紳士な人だ。
武器は両手剣。性格と戦い方のギャップも人気だ。
そんな彼は、血盟騎士団での私のパートナーだった。
「どうしたの?急に」
そう首を傾げると、サヤトはいつものように部屋についている椅子に座った。
そして、ベッドに座る私を真っ直ぐに見る。
「やっぱり元気ないね、今日」
「……え」
サヤトは苦笑交じりに言った。
「今日、また1人仲間が死んじゃったからかな。……あれから、ずっと浮かない顔してるよ、リナ」
「…そう?」
困ったな。
私はまたサヤトに気を遣われてしまった。
私が人殺しだということは誰にも話せない、だから私は明確な理由をサヤトに話せない。
だからこそあまり悟らせたくなかったのに、いつもサヤトは悟ってしまう。
「……リナ」
「…………なに?」
「少なくとも、僕は。何があってもリナの味方だよ」
「なんで?」
サヤトはいきなりそれを告げると微笑んだ。
「知っているから。リナが、僕が信用するに値する、素敵な女性だって」
サヤトはとても人格者だった。というよりお人好しというか、なんというか。
私でも結構甘い自覚はあるのに、私よりももっと。
そして、鋭さも、私よりもっとある人。
「……困ったな」
私は今度は声に出して、それからようやく笑った。
「これじゃあ……」
これじゃあ、サヤトを置いて行くのは辛そうだ。
私は、もうすぐ血盟騎士団を抜ける予定だった。
人を殺した私が、みんなと素知らぬ顔してまた仲良くしながら戦うなんて、いけないことだって。
私はもう、この場に相応しくないって。
そう思ったから。
きっとサヤトも、真実を聞いたら味方じゃなくなる―――
ううん。そんなこともうわかってる。
サヤトは私の味方でいてくれるだろう。
でも、だから辛い。
サヤトは、PKの相棒だなんて場所にいるべきじゃない。
味方でいてくれるのはわかってる、でも―――
「リナ」
「!」
「……急に、いなくなったりしないよね」
「……っ」
やっぱり、サヤトは勘がいい。
「……しないよ、」
ごめんね、サヤト。
私は。
「攻略、一緒にがんばろうね、サヤト」
私は、嘘つきで人殺しの、最低な人だから。
やっぱり私は、この場から離れないといけない。
****
「―――……」
ぱち、と目を覚ます。
もう冬だというのに、私はぐっしょりと寝汗をかいていた。
「悪夢……ではない、か」
でも、楽しい夢でもなかった。
あの決断をしたのは辛かった。もちろん他にも辛い時はあったけれど。
…………そういえば。
口調に雰囲気に、顔、髪型、髪色に目の周り。
「……ゆきに、似てる?」
夢を見て、鮮明に思い出した。
サヤトは、ゆきに似ている。
……ゆきって兄弟いるのかな?それとも他人の空似?
そもそも、ゆきって自分のことあんまり話さないしなあ。
でも、いきなり兄弟いる?とか、その兄弟《SAO》にいた?とか聞けるわけないし。
何より、あのあと暫くしてサヤト及び血盟騎士団から縁を切った私はサヤトが無事に生還できたかを知らない。
もしあのあと……あのあと死んでしまったなら、聞いたときにゆきを傷つけてしまうかもしれない。
ゆきは傷つけたくないし。
……そして悩んだ結果、私はやっぱり話してくれるまで待つことに決めたのだった。
まあ、私は集中するときはスパッと集中するタイプなので、いざクエスト開始ってなったらこのことを忘れてしまったのだけど。
私は思ったより、それを早く思い出すことになるのだった。
****
「―――おひさ、唯葉。元気してた?」
「ええ、お陰様で。凛世も元気そうね」
大型クエストも間近に迫るという日の、夜。
とある店の個室に通され席に座った私は、先にそこで待っていた人物に声をかけた。
唯葉は私が調査してほしいことを秘密裏に調べてくれたり、色んなことに手を回してくれたりする。
その代わりに私は彼女にご飯を奢ったり彼女のお願い・・・を聞いたりするのだけど、まあそれは置いといて。
「今回の調査報告の前に。あんた、また厄介事に巻き込まれたわねとだけ言っておくわ」
「うーん、なるほど。そんな気はしてたけども」
「特に2つ目―――サトライザーってプレイヤーについては、結構手を焼いたわ」
……サトライザー。
私に「Your soul will be so sweet, Linose」とかなんとか言い放った男。
ただならぬ雰囲気と隙のない立ち姿、その他諸々があまりにも異質すぎるから、デスゲーム前のイツキじゃないけど流石に調べざるを得なかったというか。
言い訳をせずに言うと単に私が嫌な予感を感じているだけである。
「彼は近々ある《B.o.B》に参加するらしいわ」
「えっ」
「彼が参加申請をするところを目撃した人がいるの。そこから辛うじて掴んだ情報よ」
それだけじゃなくて、と唯葉は眉を顰める。
「サトライザーは、《GGO》サーバーが外国と分割になる前の《B.o.B》にも出場していて、そのときに優勝しているわ」
「うぇぇ」
覚悟というか、予想はしていたけれど、改めて聞くと厄介すぎるなあ。
「しかもその戦い方が、ナイフ1本で挑んで体術で撃破、相手の武器を奪って使ってまた体術、の繰り返し」
「うーん、なるほど」
《GGO》において、他人の銃や剣も使えるには使える。
だが、他人の銃はリロードができないのだ。
だから残弾を使い切れば捨てるしかなくなる。
そんな舐めプレイで優勝していたなんて。
「それから、ここからが重要なんだけど」
唯葉は、乗り出して私との距離を縮めた。
いくら盗聴防止のための裏社会適応店とはいえ、最大限の注意を払いたいようだ。
「彼、外国人よね」
「うん」
「複雑なデータログから身元を辿るのは無理だったから、録画から顔と声を取って、それと英語文法とか単語とかの言動、あと彼が使っている体術から推測するに、彼は」
―――アメリカの、軍人だと。
「……っ!?」
なんでそんな人が、私を狙うのか。
ああ、いや、それはたぶん……魂の甘さだとかそこらへんのあれこれなんだろうけど。
なぜここにいて、彼の目的はどういうもので、それから。
『これでようやく《アンダーワールド》への道筋は整った。《アリス》―――ようやく、きみに会える。』
あの発言。
思い出すだけで怖気がする。
まだ全容はまったくわからない。だけど。
「次の《B.o.B》は波乱ね、リノセちゃん」
「……そうだね、ユーハ」
私は、静かにため息をついた。
「ところで、調査の1つ目なんだけれど」
「うん」
「《ザ・シード》とそれに連なる《SAO》のデータを覗いてみたけど、目につく変化はなかった。だけど、一つだけ」
「何かあった?」
「データが、どこかに―――おそらくは《GGO》に流出した形跡があったわ。そして、《GGO》データに干渉したみたいに、《SAO》データに《ザ・シード》が干渉した痕跡も。極わずかなデータで、何度も見返さないと見つけられないようなものだったけど」
「………」
やっぱりそうか。
じゃあ、いやもうわかってたことだけど、私たちが聞いた、もういないはずのアカツキの声もただの幻聴ではなく―――ん?
……流出?
「その流出の内容はわかったの?」
「データを覗いたログを残さないために詳しくは見れなかったけど、死亡者のバックログから、おそらく3人分の全てのデータが」
「え」
待って、3人?
アカツキだけじゃないってこと?
それじゃあ、亡くなった人の声を聞いた人が他にもいるかもってことだよね?
……うわあ。
…だけど、これで声だけじゃないことがわかった。
《GGO》にユナだけじゃなくら彼らもいるのなら、ちゃんと見つけないと。
「ねえ唯葉、もう菊岡さんの依頼は唯葉がやらない?」
「嫌よ、私はあなたを介して実際は私がやることになるとしてもあの男には近付きたくないの」
唯葉はひらりと手を振って乗り出していた身を戻す。
それに従って私も姿勢を正すと、唯葉はやっとコーラに口をつけて笑った。
「そうだ、おまけでいい情報をあげるわ、凛世」
「なに?」
「あの菊岡 誠二郎とかいう男は総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二別室とかいう漢字の多い部署に勤めているらしいけど本当は」
「え、違うの?」
「菊岡二佐」
その呼び方に私はげんなりと顔を歪めた。
「自衛官らしいわよ、彼」
「……っすぅー……」
私は息を吸う。
落ち着け、私。一旦頭を整理しよう。
「……え、私軍事関係者に好かれてるっぽい?」
「関わると面倒そうだから会いたくないのよ。調査だけなら別にいいけど、変なことまでやらされそうだし」
グサッと刺された気分になった。
ユナ探しとか状況報告とかまあいろいろ、変なことやらされてるし。
「頑張ってちょうだいな、恋人くんと」
唯葉は、くすくすと笑ってコーラのグラスを揺らし、涼し気な氷の音を響かせてからそれを飲んだ。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.68 )
- 日時: 2024/09/13 11:05
- 名前: 水城イナ (ID: qlQjtvRq)
夜の集合に向けて、私とイツキは準備のためにショップを訪れていた。
「そういえば、きみの剣―――フィリルについて、ホームページが公式発表したのは知っているかな?」
イツキがそう切り出した。
私はうんと頷く。
「私が初めてゲットしたからって名前を付けたフィリルだけど、《GGO》でもちょっとしかない《名前無し》……ファントムだったんだね」
「頑張って隠しダンジョンを何十回も周回したかいがあったよね。」
《名前無し》、ファントム―――
よくゲームでは《ネームド》モンスターが強敵だったりするが、これは、人間側の《SBCグロッケン》とアンドロイド側の《SBCフリューゲル》が戦争する前に喪われた、幻の武器とされている。
喪われたから『名前』がつけられていない、だから《名前無し》……。
「にしても、ファントム…亡霊、か。言い得て妙だね。失われたはずの幻の武器が、なぜ世界に残っていたのか…。」
「そこらへんはまだ何も明かされてないよね。うーん…リエーブルに聞いてみたらわかったりしないかな」
リエーブル、《SBCグロッケン》を滅ぼそうとしたアファシスtype-Z。今は修理のために眠っているけど、ユイちゃん曰くもうすぐ目覚めるらしい。
……また滅ぼそうとしないといいけど。
ともかく。
亡霊ファントムと聞いて、最近思い浮かぶことがある。
―――大型クエストのダンジョンに、幽霊が出るんだって。
リズベットの言葉を思い出せば、アスナの鮮烈な悲鳴も聞こえてくるようだが、まあ、それは置いといて。
偶然だとしても、これに関係があるのかは確かめておきたい。
とはいえ、《ファントム》自体は《ザ・シード》の干渉以前に公式の仕様なのだから、杞憂だとは思うけど。
そこまで考えていると。
「あっ、リノセ!」
そんな声が聞こえて、私は振り返った。
そこには―――
「クレハ!レンにフカ、ピトフーイにエムまで!」
「ひっさしぶりぃー、リノセちゃーん」
クレハも大型クエストに誘ったのだが、『先約があって!』とのことで不参加らしかった。
なるほど、レンたちと探索に行く予定だったのか。
「ちょーどよかった!これからあたしたち、ホワイトフロンティアの探索に行くとこなんだけど、一緒に来ない?」
「!」
イツキと顔を見合わせる。
ユナ探しに出かけないとね、という話をさっきしていたところだった。
「うん、行く!」
「よっしゃ!」
そうこなくっちゃ、とピトフーイが私の腕を掴んでゲートを指さす。
「よーし、じゃあ早速ホワイトフロンティアに―――」
「っちょ、ピトさん!待った!」
行こう!というピトフーイの言葉をさえぎって、フカが止めた。
「なによ、どうしたわけ?」
眉を顰めるピトフーイ。レンやエムも首を傾げている。
対して、フカが前方を指さした。
なにかあるのかな?
見ると、そこには―――
「えっ!」
「あれって……!」
「セブーン!セブンセブン、セブーン!!」
そこにいたのは、小柄なかわいい女の子の姿と、隣には赤髪の背が少し高い女の子。
セブン……その姿は見たことがある。
なんだったか。バーチャルライブとかMMOトゥデイとか、そこら辺だと思うんだけど。
隣の女の子もなんか見たことあるような……。
「あっ!フカ!」
そして、セブンと呼ばれた女の子もこちらに気づき、嬉しそうに顔を輝かせた。
「フカじゃない!あなたもこのゲームで遊んでいたのね!」
「そうだよ!セブンこそ、《GGO》に来てたんだな!」
ふむ。
さっきも親しそうに手を振っていたし、フカとセブンはお友達のようだ。
私はにっこり笑ってセブンに話しかけた。
「はじめまして。私はリノセだよ」
「リノセね、初めまして!まだ《GGO》に来たばかりだから、いろいろ教えて貰えると嬉しいわ!」
私が隣の女の子に目を移すと、その子もにっこり笑ってくれた。
「私はレイン。よろしくね、リノセ!」
「レインね。よろしく!」
イツキだ、よろしく。と隣でイツキが興味無さそうな自己紹介をする。
さっきから黙っているのは、このメンバーでイツキと親しい人が私とクレハしかいないからだろうか。
「セブンはなんでここに来たの?」
私はさりげなく聞き出そうとした。
思い出したのだ。《セブン》のことを。
彼女の声は確かに聞いたことがある。見た目も、全く同じであるわけじゃないけど、判断には苦しまない。
彼女はアイドルだろう。
だからこそ、私には少し引っかかったのだ。
もしかしたら、ユナに関係あるかも―――と。
そして、それを裏付けるような返答が私に提示された。
「えっと、探している人がいるの!《GGO》にいるらしくて」
「―――……」
やっぱり。
…結局、セブンとレインは私たちと一緒に雪原探索に行くことになった。
寒そうだから、ということでセブンとレインが装備を新しく作るのに便乗して、私たちも装備を一新してみた。
イツキは今までのコートと同種だけどもっと高性能のコート。今回はフードがついているタイプらしい。
私はオフショルダーの、白と黒を基調としたロングワンピースだ。
黒いタンクトップのトップスと黒いミニスカートの上に白いコートを被せたようなデザインで、手には黒いグローブを付けている。
今まで《GGO》では黒ずくめの衣装ばかりだったから、なんだか新鮮だ。
思えば、《SAO》の頃も黒だったような。
私って案外、黒が好きなのかもしれない。
ともかく、装備を一新して。
そうしてみんなで出発した。
「なっ……なんだここ!さむっ……」
「うっわ…思いっきり吹雪いてるわ…」
フカがぶるぶると震えて自分の体を抱き込む。
たしかにここはものすごく寒い。吹雪が吹き荒れていて、寒さもギリギリ耐えられるという絶妙な塩梅だ。
ゲームにしては、そういうシステムにするのは珍しい。
レンも、思った以上の寒さに無言でフカに近寄った。
人で暖を取るつもりらしい。
ピトフーイはそんなレンで暖を取っているが、まあそれは置いといて。
「あーっと…ねえ、イツキ?」
「んー?なんだい?」
すぐ後ろ、具体的には後頭部のあたりから聞こえる声に、私は赤面した。
「イツキは、あの、何をしていらっしゃるの?」
「ピトフーイやレンと同じだよ。暖を取ってる」
「いや、でもさ、同じって言っても、趣向が」
イツキは、後ろから私に腕を回し、私の頭に軽く頭を乗せ、バックハグの形で抱きついてきている。
明らかに、微笑ましいピトフーイたちとは趣向が違う。
その瞬間。
―――近い……
ピタッ、と。
イツキと私の動きが止まった。
…………え?
今のって…。
「リノセ?」
いち早く我に返ったイツキが、私の顔を覗き込む。
「あっ、ううん、なんでもない」
『その流出の内容はわかったの?』
『データを覗いたログを残さないために詳しくは見れなかったけど、死亡者のバックログから、おそらく3人分の全てのデータが』
アカの兄、《SAO》で死んだアカツキ。
そして、私の血盟騎士団時代の相棒、サヤト。
…もしかしたら、ううん、やっぱり彼らが―――
……だとしたら、あと1人はいったい…?
「!」
ぎゅっ、と。
イツキが私をいっそう強く抱き締めた。
イツキを見ると、その表情は一変していた。
イツキの顔に、影が差している。
表情が抜け落ちて、ルージュのグラフィックアイに、何かが宿る。
「―――やすつぐ……」
「……」
そんな4文字が、ぽろりとイツキの口から溢れ出たけど。
私は、何も聞き返せなかった。
****
吹雪エリアは思ったよりずっと広かった。
そもそも、銃の世界において視界を奪うようなフィールドは珍しいし、体感温度が自由自在のゲームにおいて寒くするというのも変な話だ。
そこらへんの理由を考えてはみたけど結局わからず、私とイツキは時間となって、キリトたちと合流するべくホームに戻って行った。
「マスターっ!ただいまです!」
「あ、レイ!もう里帰りはいいの?」
「はい!とっても楽しかったです!」
ホームにはレイがいた。
キリトたちも既に集まっていて、アスナはさっきからずっとキリトにひっきりなしに話しかけている。
空元気なのがまるわかりだ。
「…アスナ、最後にもう一回聞くけど、大丈夫?」
「ひゃあっ!?」
後ろから話しかけると、それだけでアスナは飛び上がった。
よっぽど怖いんだろうなあ、と苦笑いが零れてしまう。
「ああ、り、リノセ!大丈夫よ!お、お化けくらい!」
「今僕はアスナくんの思わぬ動揺ぶりに驚きを隠せないよ」
「…イツキさん……表情と言葉が、合って、ない…」
ニコニコしながらアスナに言ったイツキに、小さくカンナが突っ込む。
ハヅキはカンナの後ろで笑いをこらえていた。
「まあまあ、なんかあったら『愛しのキリトくん』が守ってくれるから安心しろよ、アスナ」
ふっとアカがトドメを指した。
そうして、それまで青い顔をしていたアスナは真っ赤となり。
「もう!からかわないで!」
と叫ぶのであった。
****
「なんてことをするんですか!」
「すみません…」
「あーあ……怒られてる」
その後、《気象エネルギー研究所跡》を訪れた私たちは、リズベットたちが掴んでくれた情報をもとに幽霊を探してみた、けど。
いたのは、ただの幽霊のフリをしたプレイヤーだった。
幽霊のフリをしたプレイヤーいわく、『お姉さんみたいに怖がってくれる人がいるから堪らないんだよねー』だそうで。
それを聞くなりアスナはとっても怒り出した。
お疲れ様というか、自業自得というか。
「あああの、アスナさん、それくらいに…して、あげても…」
「……そうね、こほん」
ナイス、ヤエ!
ヤエに宥められたアスナは、軽く咳払いをしてから幽霊のフリをしたプレイヤーに向き直った。
「二度と!こんなことはしないでください」
「はい!!」
相当怖かったのか、幽霊のフリをしたプレイヤーは背筋を伸ばして威勢よく返事をした。
まったく、紛らわしいことはしないでほしいよね。
―――と、いうことで。
「やっぱりこの部屋に行き着くのか…」
キリトががっかりしたような声を出した。
今のところ収穫はない。行く手を塞ぐ扉はもちろん開かない。
いやはや、どうするべきか。
「この扉を開けないことには進めないし…」
うーんと考えを巡らせた、そのとき。
「!」
こつ、こつ、と。
ふと、足音を耳にして振り返る。
イツキも気付いたようで、無言でその方向を見た。
「…イツキ?マスター?どうかしましたか?」
レイが不思議そうに首を傾げる。
…そして。
「相変わらず仲良しだな、お前たちは」
「―――っ!」
来た。
待っていたよ、きみが来るのを。
「エイジ…!」
キリトが複雑そうに名前を呼ぶ。
ふん、と言葉にならない返事を返し、その男―――かつて《SAO》で戦い好きな人を亡くし、オーディナルスケールで活躍したプレイヤー、エイジは不機嫌そうに私たちを一瞥した。
「エイジが、なんでここに…!?」
アスナも言外に驚きつつも、キリトはエイジに問いかける。
その声に含まれるのが好意だけでないことがレイにもわかったようで、レイはちらりとキリトを見る。
「僕だって来たくて来たわけじゃないが、探している人が《GGO》にいると聞いたら、来ないわけにはいかないだろう」
…よかった。噂はちゃんと、エイジの耳に届いたみたいだ。
唯葉に噂を流してもらうように頼んだのだ。
《GGO》の新しいフィールドにユナがいる、と。
エイジは、それはもうユナの噂に関しては1番よく知っているだろうから、来てくれると思っていた。
「…ところで」
エイジは私に向き直った。
「リノセだよ、エイジ」
「…そうか」
ちょっと詰まったところを見ると、やっぱり《リナ》を思い出したのか。
1回記憶の枷を外せば、他のプレイヤーの記憶も戻るのかもしれない。
「じゃあ、リノセ。あの女性のアファシスは、きみのだろう?」
「そうだよ」
「一緒に攻略するのを許して欲しい。攻略には、アファシスが必要なようなんだ」
…アファシスが?
そんな話、聞いてなかったけど…。
「エイジ!」
「お前は黙っていろ。今僕はリノセと話をしている」
キリトが堪らないというふうに口を挟むも、エイジに言われ口を噤む。
何があったのかは詳しく知らないけど、キリトとエイジの間には軋轢があるらしい。
「…わかった、いいよ、もちろん」
「感謝する」
とはいえまあ、私はオーディナルスケールに関わっていないので、私は比較的関わりやすいらしい。
エイジは、そっと頬を緩めた。
「アファシス。あの扉の前に、立って欲しい」
エイジはそう指示する。
まさか、と思いつつ、私のほうを見たレイに頷き返した。
「こ、こうですか…?」
レイが言われた通り扉の前に立った、そのとき。
「―――……」
扉は開いた。
これ、アファシスで開く仕組みだったんだ。
…でも待って、アファシスなら前回もハヅキがいたのに。
でも、前回みんなで扉の前で思案を重ねている間も、扉は開かなかった。
アファシスの性別の問題は、ジェンダーレスの考えが広まった世の中だと考えにくい。
だとすれば、有り得るのは。
私は、こっそりとハヅキを見やった。
ハヅキは「エフェクトすごいなあ」と呟くカンナに笑いかけている。
その笑顔から悪意は感じない。単純な好意だけ。
―――ハヅキは、アファシスではない…?
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.69 )
- 日時: 2024/10/05 21:03
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
一瞬浮かびかけた仮説を、私は首を横に振ってかき消した。
よくないよね、こういうの。ハヅキに敵意はなさそうだし。仲間のアファシスを疑いたくない。
一段落して、まだ気になったら、リエーブルが目覚めたときに聞けばいい。
気を取り直して、みんなで進み始める。
みんなはハヅキのことは気にしていないみたいだったけど、1人だけ。
さっきから、やっぱりイツキに元気がない。
「イツキ」
私は、戦いが一息ついたところで声をかけた。
「どうかしたのかい?」
イツキは、いつものような柔らかい微笑みで私を見る。
でも、いつものような余裕さは滲んでいない。
「……あの声を、気にしてるの?」
確信したことがある。
私が血盟騎士団だったときの相棒、サヤトはやはり、イツキの―――いや、ゆきの、知り合いだったのだ。
否。
きっと、家族だったのだ。
年齢的には同い年くらいだけど、イツキが呟いた四文字。
―――やすつぐ
それはきっと、サヤトの本名なのだ。
狭井 やすつぐ、頭をとって、女子みたいな名前になっちゃうから「と」をつけてサヤト、彼なら考えそうなことだし。
雪嗣とやすつぐ、いかにも家族っぽい。
「……きみにも、やっぱり聞こえてたんだね」
イツキは困ったように笑った。
他のみんなは回復や雑談をしている。レイが秘蔵のチーズタルトを出して休憩にしようとしているのを横目で見てから、イツキは切り出した。
「…前、僕のエネミーアファシスが出たろう?」
「…うん」
「そこで、きみは僕の昔の姿を見た」
「……うん」
イツキの過去。過ぎ去った姿。
生き生きと笑い、人と関わることを好んでいた、最初期の彼。
イツキは、もう変わったと言っていた。
「僕が変わったのは、さっきの声の人物が―――突然、死んでしまったからだった」
「え……っ」
「彼は自殺した。僕の制止も聞かず、哂いながら、自分を恨めと言いながら」
『きみは、明るくて光に満ちた世界を見てきたんだろうね。でも、僕の見る世界は違うんだ。』
ふと、あのときを思い出した。
私が、「間違えた」日。デスゲームのきっかけを作った、あの日。
私は、イツキの今までの苦悩や悲しみを、垣間見たような気がした。
気がしただけだ。私は何も知らない。
『世界はもっとずっと冷たい。願いは届かず、想いは裏切られる。色さえない虚ろな世界で、僕は生きている。』
サヤト―――やすつぐは、ゆきの制止を聞かなかった。ゆきの願いは届かなかった。死なないで欲しいという想いは、裏切られたのだ。
「彼の名は狭井 泰嗣。《SAO帰還者》であり、僕の双子の兄だ」
****
サヤトが死んだ。
前衛として敵を切り裂きながら、私はずっと、その事を考えていた。
サヤトが死んだ?なんで?《SAO》は無事に切り抜けたようだけど…自殺?
なんで現実で自殺を選んだの?目覚めた後に何かあったの?
―――……私の、せい?
…まさかね。
彼に何があったのか、私はゆきに聞けない。
ゆきは彼の死で変わった。ゆきの心の傷は深いはずだ。
さっきも思ったことだけど、ゆきの傷口を抉るような真似はしたくない。
「………」
パアン、と目の前の敵が砕け散る。
その星屑の欠片が、私がサヤトや血盟騎士団から離れることを決意した日に死んでしまった仲間を彷彿とさせた。
その星屑は、いつの間にか10体以上にも及び、霧のように私を取り囲む。
―――きみはたしかに《霧散》だけど、それ以前に僕の強力な相棒だろう?
また、サヤトの声が聞こえた。
そうだ、いつかこんなことを言われたことがあったっけ。
―――だから、気負わなくていい。
はらり、と一滴、なにかが霧と混ざって頬から落ちていく。
ああ、そうだった。イツキも言っていた。仮想世界で感情は隠せないって。
涙、か。
「……」
私に、そんなもの流す資格が果たしてあるだろうか。
『僕は……きみとなら…………』
『……急に、いなくなったりしないよね』
私は、イツキも、サヤトも。
『…みんな、イツキが大好きだよ』
『……しないよ。一緒に、攻略頑張ろうね、サヤト』
2人の願いを、想いを。どっちも裏切ってしまったのだ。
****
本当の幽霊がいるかもしれないということで、エイジを加えた9人で先を進んでみてはいたものの。
そんなものは見つからないまま、2個目の大きな扉に辿り着いた。
「…開かないね」
「開かないな」
「開かないわね…」
「開かないです…」
またしても、開かない。
レイが前に立ってみてもだめ。さりげなくハヅキが立つように誘導してみてもだめだった。
じゃあ、どうすればいいんだろう…?
「まあでも、今まで幽霊は出てこなかったね」
「……結局、幽霊は関係なかったみたいね」
私の言葉を受けて、アスナがほっとため息をついた。
よほど今まで怖かったのだろう、と苦笑いが零れそうになった、そのとき。
「あのー…」
「きゃああああ!?」
そんな声とともに、誰かがアスナに声をかける。
「―――……」
ああ、そういうことか。
やっぱり、幽霊はいたんだ。
現れたのは、3人。
見知らぬ女の子と、それから。
「…っ、兄貴……!?」
アカのお兄ちゃん、アカツキと。
「…………泰嗣…」
イツキのお兄ちゃん、サヤトだ。
「サチ……!?」
キリトが、女の子の元に駆け寄っていく。
その声は余りにも悲嘆で、悲愴で、暗鬱だ。
どうやら、あの子…サチは、キリトの知り合いらしい。
「サチ、なんでここに…」
心配そうにキリトがサチの顔を覗き込む。
だが、サチは対照的に後ずさった。
……どうかしたのかな?
「……なんで、私の名前を知ってるの?」
「え…っ」
「………」
『その流出の内容はわかったの?』
『データを覗いたログを残さないために詳しくは見れなかったけど、死亡者のバックログから、おそらく3人分の全てのデータが』
3人分。人数は一致している。
そして、サチは知らないけど、アカツキもサヤトも、《SAO》当時の姿と変わらない。
つまりは、流出した3人分の《SAO》データはアカツキたちで間違いない、けど。
「……どういうことだ?キリトとそいつは、知り合いなんじゃないのか?」
アカは、なにかに怯えているのか、アカツキに話しかけようとしない。
自分のことがわからないかもしれないと、そういう恐怖なんだろう。
…結局、彼らには《SAO》の記憶がなかった。
現実世界の記憶はあったから、アカのことを「妹の優斗の別の姿だ」とか、イツキのことを「弟の雪嗣がイメチェンした」とか、そういう風に紹介したらわかってくれた。
でも、《SAO》で出会った私やキリトのことは、サチも、アカやサヤトも、覚えていなかった。
「…っ………」
さっきから、アカは何かをずっと考え込んでいる。
アカツキに《SAO》の記憶は無い。
アカツキはアカを庇って死んだ。
アカは、そのことできっと悩んでいるのだろう。
自分が殺したも同義なのに、知らないからってこのまま接してもいいのだろうか、と言ったところか。
…わかるよ、その気持ち。
「へえ?雪嗣の恋人、リノセって言うんだ。僕は泰嗣。サヤトって呼んでくれると嬉しいな。よろしくね?」
「…はあ、よろしくお願いします」
…私も、どう接していいか分からない。
記憶がないとしても、私はサヤトを裏切った。
黙って血盟騎士団を辞し、勝手にいなくなったのだ。
「それにしても雪嗣、なんだかかっこいいね。ここはたしか、姿と名前を変えてる世界なんだっけ?」
「……イツキと呼んでくれと言ったと思うけど」
「いいじゃないか、きみの名前が好きなんだ」
イツキが顔を顰める。
これが昔のイツキなら受け入れたのかもしれないけど、今のイツキは嫌そうだ。
今のサヤトは知らないけど、このあとのサヤトを自殺する。
だからイツキは裏切られたくなくて、届かない絶望を味わいたくなくて、サヤトと関わろうとしないのかもしれない。
わからないけど、でも、イツキはそうである気がした。
「あの、マスター」
険悪そうな2人を遠くから見る私に、レイが話しかけてきた。
私は内心ホッとしながらレイを振り返る。
「どうかした?」
「もうすぐ、クレハたちとの約束の時間です」
そうだった、クレハたちと合流する時間だ。
……ってことは、もう朝?
うわ、徹夜しちゃったのか。
まだ頭は冴えているけど、深夜テンションというやつだろうか。
まあいいや、行かないと。
「…時間だね。僕とリノセは離脱するよ」
イツキと踵を返す。
向かうはみんなが待っているであろう、グロッケンのワープゲートだ。
「あ、ああ…」
キリトが歯切れ悪く言った、そのとき。
「雪嗣?行くのかい?」
感情の読めない声が、イツキを呼び止めた。
「行くよ。他の人としている約束があるんだ」
「そうか……。」
…本来なら、幽霊の状況把握のために、私とイツキは2手に分かれるべきではある。
片方は約束を果たしに、片方は菊岡さんの依頼のために幽霊を観察する必要があるから。
…でも。
「ごめんなさい、サヤト」
私は、1歩前に出てイツキの手を隠れて握る。
驚いたようにイツキが私を見る気配がしたけど、私は気にせず続けた。
「私とイツキは恋人だって言ったでしょ?心細いのはわかるけど、久しぶりのデートなの」
もちろんデートではない。
これから約束の場所に行くだけだ。デートどころか極寒の吹雪の中に飛び込んでいくのだから穏やかじゃない。
だけど誤魔化せはしたらしく、サヤトはハッとした後、「これは失礼」と言って1歩退いた。
―――任務よりもイツキの心の方がずっと大事だ。
ゲームで、散っていく星屑の欠片を見た私とは違う。
ゆきは実際に人が死ぬさまを見た。
それの心の傷は計り知れない。
…今は、無理して傍にいるべきじゃない。
とまあ、そんなこんなで私たちはグロッケンに戻って行った。
アカツキと妹のアカのことも気になったけれど、そっちは取り敢えず大丈夫そうだ。
アカはアカツキに対して気まずそうだったけど、アカツキは気さくだがらアカの緊張も解してくれるはずだ。
「マ、マスター」
「ん?」
「デートなんですよね?私がいていいんですか?」
レイがオロオロしながら聞いてきた。
その顔はとても戸惑った顔で、どうすればいいのかわからないと言わんばかりだ。
「……ぷっ」
「…くくく」
私とイツキは笑いを抑えきれず肩を震わせた。
「流石だよ、レイ…。そうだ、そうだったね…!」
「レイ、あれはあの場を切り抜けるための嘘なんだよ。だからクレハくんたちとの約束なのは間違いない」
本当にレイったら、純粋だなあ。
レイならこの場面は嘘をつかずに頭を下げるか、イツキに二手に分かれるよう頼んでいるところだろう。
優しくて純粋で素直ないい子だから。
「…そ、そうだったんですか…!!」
レイはびっくりしてから、ほっと胸を撫で下ろした。
「よかったです…!マスターをサポートする私が、マスターの予定を間違えたのかと思っていました…!」
「間違ってないよ。ありがとう」
くすくすと笑って、ワープゲートに視線を向ける。
既にそこにはみんなが集まっていた。
…さっきから、なーんか胸騒ぎがするんだよなあ。
寝不足や何も食べてない影響なだけならいいけど、と思いながら、私はクレハたちに「おーい!」と声をかけた。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.70 )
- 日時: 2024/10/05 21:12
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意、今日二回目の投稿です。
1回目を見てないよーって方はそちらを見てからでお願いします。
あと今回は残酷描写があります。ご注意ください。
それでもよろしければどうぞ!
「あれ?今回はレイちゃんも一緒なのね」
私に気づいたクレハが言った。
「はい!さっきまでキリトたちと…むぐっ」
「じゃあみんな、行こうか!」
私は急いでレイの口を塞いだ。
バレたか…?バレたか…?と思いつつ、チラッとクレハを見る。
「……凛世?」
クレハがにっこにこして私の「本名」を呼ぶ。
うっわ、遅かったか。バレてる…。
「寝た?何か食べた?徹夜よね?夜更かしどころじゃないわよ?寝なさい?何も食べてないわよね?食べなさい?栄養取りなさい?」
「うっ」
「なんならあたしが看病してあげましょうか?あたしが看護学校に通ってるのはもちろん知ってるわよね?」
「ちょ、待っ、知ってるけど、そんな心配する程じゃ」
心配するわよ!と威勢のいい声が私の声をちょんぎった。
オカン顔負けの怒涛の説教が降り注ぐ。
「だいたいあんたは、昔からいっつもいっつも、自分の健康は二の次で没頭することが多すぎなのよ!あんたはもっと自分を大事にしなさい!寝ろ!食べろ!」
「そうだぞ!夜更かしはお肌の敵なんだぞ!」
フカまで便乗する始末。
「まあまあクレハちゃん。ちょっとくらいいいじゃないの、三連休なんだし」
ピトがクレハを窘めた。
私はピトにそのまま視線で助けを求める。
「そうだよ~。細かいことは気にしなさんな」
それにまたフカが便乗した。
クレハは裏切ったなと言わんばかりにフカを半目で見ている。
さっきと言ってることが一致してないよ、フカ。
「フカ次郎くんはいったいどっち側なんだい?」
やれやれと肩を竦めるイツキ。
まったくだ。激しく同意する。
「気にしない方がいいよ。フカは適当なことを言ってるだけだから」
それに、同じく呆れたような様子のレンが応じた。
これはもう達観している様子だ。いつもこんな感じらしい。
「まあ、安心してくれ、クレハくん」
イツキが、私の腰をさりげなく引き寄せた。
突然の行動に驚いて、私はされるがままになってしまう。
「この一件が終わったら、僕がリノセを…凛世を、しっかり見ておくから」
勉強とか違うゲームとかしないように。と、イツキがにっこにこで私を見た。
…実は、今私とイツキは、イツキの部屋のふかふかなキングサイズベッドの上で一緒に《GGO》にダイブしている。
一緒にダイブしたいと言ってきたのは、もしかしなくても長引くと予想してのことだったのだろう。
いつもイツキには一本取られるなあ。
とまあ、そんなこんなで、私たちはセブンとレインと合流しつつ、また吹雪エリアに向かった。
****
それは、まるで詛いだった。
『僕を恨むといいよ、雪嗣』
そんな戯言を言い放って、遥か遠く、車の往来の最中へと落ちていく泰嗣の姿。
『っ待て!泰嗣!泰嗣!!』
手を伸ばす。
届かない。
精一杯願う。
届かない。
無事であるようにと祈る。
届かない。
薄く哂った彼は、大学の屋上から、落ちていく。
風を切って、大の字で、思い残すことは何もないというふうに。
彼の影が小さくなっていって、見えなくなる。
聞こえる悲鳴と、クラクションと、車がぶつかる音。誰かの泣き声。
僕は、しばらく立ち尽くすしか無かった。
……我に返ってから、急いで地上の現場に辿り着いて、血族ですと言って現場を見てみれば。
もう、「彼」だったはずの肉塊は原型を留めておらず、あちこちに血が飛び散っていた。
『……っ!!!』
手を伸ばす。
届かない。
精一杯願う。
もう遅い。
何かを一生懸命祈る。
何も変わらない。
『僕を恨むといいよ、雪嗣』
泰嗣の呪詛が僕の胸の中を渦巻く。
支配する。切り刻む。ばらばらにして、滅ぼしていく。
僕の中のなにかが、確かに崩れて、消える。
……ああ。
想いは届かなかった。
願いは、裏切られてしまった。
泰嗣は事件の1ヶ月ほど前、《SAO》から帰還した。
僕はとても喜んだ。なにしろ双子の片割れで、ずっと心配していたのだ。喜ばないはずがなかった。
その頃は。
だけど、泰嗣は喜ばなかった。
『ただいま』と。
微笑んで、静かに、だけど瞳にたしかな狂気を宿して僕に言った。
それだけだった。
入院中、リハビリが終わった頃に僕が泰嗣のもとを訪れると、泰嗣は僕に唐突に聞いてきた。
『雪嗣。なんで人って、急にいなくなるんだろうね』
『…え?』
『いなくならないって言ってたのに、いなくなってしまうのは何故なんだろう』
《SAO》はデスゲームだ。
急にいなくなることくらいたくさんある、とは思ったけど。
それでも僕は、泰嗣の中に確実に燻っていた何かが、僕に知り得ない闇を抱えている気がして、何も言えなかった。
『彼女はきっと、僕に言えないことがあったんだろうけど、でも』
『……?』
『…僕は、ぜんぶ、受け入れたのに。僕のすべてを奪って、消えていった』
彼女、とか。すべてを奪って、っていうのはどういうことか、とか。
わからなかったけど、聞けなかった。
それから、泰嗣はときどき僕に、同じように問いかけることが多くなった。
でも僕が答えられなくても泰嗣は何も言わなかった。
…もしかしたら、僕の答えは求めていなかったのかもしれない。
『彼女はとても人がよくて強くて人気だから、僕がいなくたってあの世界で生きていける、わかってる』
『泰嗣?』
『それでも、僕が、だめだった』
事件の1週間前。
泰嗣が、そんなことを言ってきた。
『それは、詛いのような笑顔だった』
『…』
『ちょっと出かけてくるね、と微笑んで。彼女は二度と帰ってこなかった』
『!』
『でもやられるような人じゃないのはわかってる、でも思い出せない、彼女は、彼女は、なにを』
そういえば、泰嗣は『彼女』の名を言わなかった。
笑顔はぼんやりと浮かぶのにはっきりと思い出せない。彼女の名前も、声も、顔も、立場も、何もかも、思い出せない。
…そう言っていた。
『彼女は……誰だ』
そう零した泰嗣は、今にも泣きそうな顔をしていた。
そして、事件当日。
退院した泰嗣は、僕が通っていた大学にやってきた。
そして僕に、『話がある』と言い出した。
話をしたいからと呼び出された場所は―――屋上。
『僕は、やっと探してた答えに辿り着いた気がしたんだ』
『そうなのかい?答えって?』
『彼女は僕の前から消えた。僕のすべてを奪って、僕に詛いをかけていった』
泰嗣は哂った。
手を大きく広げて、何かを演じるように。
『きっと彼女は僕に何かを残したかったわけじゃない。だけど、僕の中には確実に何かが残った。それは裏切られた喪失感と、諦観と、それから崩れ落ちた価値観の代わりに築かれた、冷たい世界』
『…どういうことだい?』
この頃の僕は、反吐が出るような綺麗事を言うような人で、泰嗣の言っている意味がわからなくて、ただ疑問で。
だけどそれを予想していたのか、泰嗣は言った。
『僕たちは双子だよね、雪嗣』
『そうだけど……』
『だから、僕の感じたこのすべてを、雪嗣にも分け与えようと思うんだ』
『え…っ』
『1人にしないで欲しいな、雪嗣。双子は分け合うものだと言われてきたろう?』
そして、泰嗣は軽々とフェンスを乗り越えて―――
―――僕を恨むといいよ、雪嗣
きみに喪失感と諦観を分け与えた僕を。
僕が生き残って喜んでいたきみを裏切った僕を。
きみの価値観を崩し、きみにとっての世界を冷たくしてしまった僕を。
泰嗣が落ちていく。
遥か遠く、見えない、届かない、伸ばせない、救えない、助けられない。
僕の中のあらゆる何かが消えていく。
彼の最期の笑顔が頭から離れなくて、最期の言葉が詛いのように僕を蝕んで。
ああ、彼はこんなものをずっと感じていたのだと。
裏切られた喪失感、人々は裏切るものなのだという諦観、それまでの綺麗事ばかりの価値観が崩れ落ち、冷たい世界が築かれていく哀しみ。
…だけど。
きっと泰嗣は、『彼女』のことを恨めなかったのだ。
だって僕も、恨めない。
僕に詛いをかけた泰嗣を。それを引き起こしたはずの『彼女』の存在さえも。
恨むことができたならば、どんなに楽だっただろう。
そう思うのに、恨めないのだ。
…僕は変わった。
変わるしかなかった。変えられた。
でも変わりたくなかったとは思わない。
それが、泰嗣のようにずっと考え込んで僕が得た、僕の答えだった。
****
「ふぃー……!相っ変わらず寒いなあ、ここ」
フカがぶるぶると身体を震わせる。
「こういうフィールドこそお宝の予感!さあ!お宝探し、するわよー!」
「おー!」
ノリノリのピトに乗っかる私たち。
呆れた目で見るエムとクレハも気にせずに探索を……
「おー!」
「っ!!」
急にピトに乗っかってきた、もう1人の声。
それを聞いて、セブンがびくっと震えた。
……この声は、もしや。
急いで振り返ると、そこにはやっぱり―――
「ユナ……!」
「ゆゆゆゆゆゆ!ユナちゃん!?」
セブンが興奮した様子で口元を覆った。
やっぱりセブンの探していた人はユナだったらしい。
「やっほーみんな!元気ー?」
「元気元気ー!!!」
ユナに大興奮のセブンによって、ここはもうライブ会場と化している。
「本当にユナがいたのねぇ」
ピトが驚いたように言った。
まあ、本来ならこの世界はユナが来るような世界観のところじゃないしね。
「ねえユナ、なんであなたがここにいるの?」
その勢いでピトが核心を突くが、ユナはにっこりと笑った。
「まあまあ!そんなことは気にせず!ここすごい吹雪だね!一緒に探検しよう!」
「…………」
まあ、いつの間にかこの世界にいたんだろうし、こういう反応でもおかしくない、か。
まだ大丈夫みたいだけど、彼女にはエラーが残っているはずだ。
できればずっと見ていたいところだが、まあ、叶わないだろう。
「とりあえず、行こうか。ユナも来るよね?」
私がそう聞くと、ユナはうんっと頷いた。
「もちろん!」
しばらくして。
私たちは、はじめとは比べ物にならない吹雪に足を止めた。
「さむさむ……最初が可愛く思えてくるわ……」
クレハがため息をついた。
「雪が深くなってる。吹雪も強いし……絶対この先に何かあるね」
というのも、もううっすらとその「何か」が見えているのだが。
それでも、この吹雪のせいで見えるものも見えなくなっている。厄介な話だ。
「まあ、進んでみるっきゃないわね!」
「おー!頑張ろー!」
やる気満々のピトに、ユナが乗った。
でも最初よりユナの動きが鈍い。
……確実に、彼女の体は蝕まれている。
「……急がないと」
彼女が、壊れてしまう前に。
****
「……なんだ、これ?」
エムが、わけがわからないという風な声を上げた。
「とっても大きなオブジェクトですね……」
レイが、辿り着いた建物の頂上を仰ぎ見ようと仰け反る。
「吹雪の中心はここみたいね……これ、なんなのかしら?」
クレハも不思議そうに首を傾げた。
うーん、普通に考えたら、ここがとっても重要な場所なんだろうけど……。
「あそこに何か書いてあるぜ!」
フカがビシッと建物を指さす。
その先には……ほんとだ、なにか書いてある。えーと……。
《Queen of the Night》?
「直訳すると、《女王オブザ夜》!だな!」
「え、直訳ってそこだけ?」
フカが自信満々に言った直訳に思わず吹き出す。
なんでオブザは訳さないんだ……?
正確には《夜の女王》、これだけ見ると大型クエストの名前と同じだけど……。
「……でも、これだけじゃなんのことかさっぱりだね」
イツキが私の心を代弁して肩を竦める。
そう、今はここで手詰まりだ。はてさて、どうするべきか……。
思考を巡らせた、そのとき。
「マスター、キリトから通信です!」
レイがそう言ってきた。
キリトはめったに通信機能を使わない。もしかして切羽詰まった状況にでもなかったのだろうか。
とりあえず、私は通信を繋げてみる。
「キリト、どうかした?」
『急にすまない、リノセ。サチたちの様子がおかしいんだ。きみの力を貸してほしい』
「―――……」
イツキと顔を見合わせる。
……まさか、本当になにかあったとは。
「わかった、すぐ行く」
『ありがとう。待ってるぜ』
通信はすぐ切られた。
キリトはよっぽど焦っているらしい。
「…………」
アカツキやサヤトにも、当然なにかあったのだろう。
今は、急がなきゃ。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「なんか大変みたいね。こっちはこっちで頑張るから、行ってきなさい」
ピトが言ってくれた。こういうところ、大人だなあっていつも思う。
「リノセ、ちゃんと仮眠は取るのよ?ご飯もきっちり食べなさい?」
「はーい」
クレハの二度目のオカンをありがたく思いつつ、私たちは手を振って転移する。
目指すは、キリトたちが待っているであろうあの扉の前へ。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.71 )
- 日時: 2024/10/10 08:28
- 名前: 水城イナ (ID: Yt9nQPKm)
「キリト!」
私たちが駆け寄ると、キリトたちはほっとした表情を見せた。
そして、すぐそれを引き締めて3人を見やる。
「さっき、急に苦しみ始めて……」
3人は、みんなとても苦しそうにしていた。
胸……とりわけ心臓のあたりをずっと抑えて、息を荒くしている。
「3人とも、大丈夫?」
「……っ」
返答がない。ずっとこの状況だと言うのだから、それは心配になるわけだ。
「皆さん、3人の解析が終了しました!」
いつの間にか来ていたユイちゃんが報告してくれる。
どうやら3人のことを解析してくれていたらしい。
「どうやら3人は、今回のクエストNPCという扱いのようです。ただ……」
「ただ?」
「3人の中に、大きなブラックボックスがあります。何かがエラーを起こしているような……そんな形跡です」
「……何か、って、具体的にはわからない?」
「そうですね……。特定はできませんが、ガラスの破片のようなものが刺さっているように見えます。」
……ガラスの破片?
苦しみ、雪原、女王、破片、心臓……。なにか……知っているような……。
「「雪の女王……」」
呟いたそれが、アスナの声と被った。
「2人とも、何か知っているのか?」
「いや、知ってるっていうか……似てるなって」
雪の女王は、カイとゲルダのお話だ。
悪魔の作った鏡の欠片がカイの心に刺さって、カイの性格が激変してしまう。
そのままカイは雪の女王に攫われる。
ゲルダは、カイを探して雪の女王のもとに辿り着き、カイに刺さった破片を取り除いて優しいカイを取り戻すという話だ。
それを説明すると、イツキは納得したように頷いた。
「なるほど。その話が元になっているとすると、女王を倒したら彼らの破片が取り除かれることになるね」
「問題は、その女王がどこにいるかだけど、それは多分―――」
ダンジョンの、ボス。
それは容易に想像できる。
そして、カイの「性格が豹変していた」部分が、きっと《SAO》での記憶が無いところに繋がるのだ。
「それは……あるかもしれないです、けど……なんか、おかしく、ない……ですか?」
カンナが首を傾げる。
「どういうことだ、マスター?」
ハヅキは目を瞬かせた。
おかしい、か。たしかにそれはそうだ。
「なんで童話が出てきてるんでしょう……?」
そう、そこだ。
「別に、VRMMOのクエストに童話が出るのはよくある話じゃないか」
エイジが反論するも、事前に菊岡さんにとあることを聞かされていた私たちにはわかる。
たしかにエイジは間違っていない。だけど、《GGO》は違うのだ。
「それは、そのゲームが《ザ・シード》のクエストを作るシステムを利用しているからなんだ」
「システム?」
「そう。だけど《GGO》はそれを今まで一度も使っていない」
「た、たしかに、《GGO》のクエストはいつも、その、他と違う雰囲気、のような……」
ヤエが頷いた。
……この違和感は、今に始まったことじゃない。
それこそ、ヤエとクエストに行ったときのイザナギたちだって、本来は出るはずがなかったものだ。
「なのに童話が出てきている、つまりは」
イツキが私を見た。
私は頷いて、続きを引き継ぐ。
「《ザ・シード》が《GGO》に干渉してきてる、んだよね」
証拠は見つけた。
あとはクエストをクリアするだけだ。
でも……。
「……もうすぐ、夜か」
流石に時間が経ってきた。急ぐなら急がなきゃなんだけど。
「相変わらず扉は開かないしなあ……」
ビクともしない、凍りついた扉。
レイでもハヅキでもだめ、プレイヤーは論外、なら、別の方法で空くのだろうか?
って言っても、それが一向に見つからないというか―――
「……っ!!」
そのとき、私は既視感のあるロゴを見つけた。
思わず、目を見開く。
それは、そう、英単語が4つ並んだ板。フカが変な訳をした、クエスト名が書かれた―――
「マスター?どうかしましたか?」
レイがそれに気づいて、聞いてきて……。
ようやく見えた糸口に、私は興奮してきてビシッとそれを指出した。
「女王オブザ夜!」
****
私たちは、再び吹雪エリア組に合流した。
つまりは、この巨大オブジェクトをどうにかすれば、きっと扉が開く、と判断したわけだ。
「調子はどう?」
「セブンがオブジェクトを解析してるところだ」
出迎えてくれたエムが、遠くで何やらウィンドウを弄っているセブンを指さす。
そんなこともできるのかと思っていると、ちょうどセブンが顔を上げた。
「ふーっ、解析、終わったわ!」
結構長い間私たちはキリトたちのところにいたんだけど、それでも今終わったんだね。随分頑張ってくれたようだ。
「セブン、どうだった?」
「あ!リノセ!来てたのね」
私が聞くと、セブンはにっこりと笑ってから答える。
「あのオブジェクト、リズムのある音を検知して増幅する機械みたいね」
「リズムのある音……歌か」
「そう」
うわあ、歌えってか。
私は歌手らしいセブンとレインにちらりと視線をやり、その次にちらりとピトを、最後にユナを見た。
まあ、私の出る幕はなさそうだ。
……と、思っていたのだけど。
「じゃあ、急ごう。歌える人はできるだけ歌ったほうがいいんじゃないかい?」
「そうだな。」
「えっ?」
イツキとエムが変な方向に話を進め出した。
「ほら、変に人数を指定していざ、声量が足りませんだと時間がもったいないだろう?」
「それよりは最初から多めのほうがいいだろう」
エムがいつもより饒舌なのはまあ、十中八九「あの人」がああだから、なんだろうけど。
イツキが私を歌わせようとしている……!?
「ちょ、イツキ、何を」
「だって、ユナと歌いたかったんだろう?」
「!」
……気付いてたか。
私の気持ちはいつだって、イツキにはお見通しみたいだ。わかってたことではあるけれど。
ユナは、《SAO》で死んだ。
でも、今は人間のようなAIとして、まだ生きている。
ユナと歌いたかった。そうして、仲間がまだ生きているという実感を得たかったのかもしれない。
「……ありがとう」
私は微笑んでから、ピトの腕に飛びついた。
「ピトももちろん歌うよね?」
「……あんた、私のこと、最初から知ってたわね?」
「そりゃあね。声がまんまじゃん」
「ったく、リノセには敵わないわねぇ」
ピトは、そういいつつも満更でもなさそうに笑い、しょうがないわねと言って伸びをした。どうやら歌ってくれるらしい。
「ユナも。……一緒に、歌ってくれる?」
「うん!歌おう歌おう!」
「セブンとレインも!」
「ええ!ユナちゃんと歌えるなんてとっても嬉しいわ!」
クレハに視線を寄越せば、ぶんぶんと首を横に振られた。クレハは相変わらず恥ずかしがり屋だなあ。
レンとフカも見送り。イツキとエムは当たり前のように観客席、と。
「じゃあ、歌おうか」
オブジェクトの中心に、みんなで立つ。
多分、こんな豪華なメンバーにアマチュアの私が混ざれる機会なんて二度とないだろう。
……楽しまなきゃね。
ここまでくるのは面倒だった……というか、まだ仕事は終わっていないのだけど、それでも、少しは菊岡さんに感謝する気持ちが出てきた気がする。
ユナを失いたくなかったのは、エイジだけじゃない。
もちろんキリトやアスナも、そして私も、セブンも、レインも、みんなみんな。
だから、仕事受けてよかったかも、なんて。
「―――……」
吹雪エリアに、5人分の歌声が響く。
それは吹雪の音すらも超え、美しい旋律は集束し、オブジェクトの頂上へと向かっていく。
「―――……!!」
オブジェクトが回り始める。
眩い光が、雪原を覆う。
その光が、優しく私たちを包み込んで。
―――歌い終わった頃には、吹雪は止んでいた。
****
夜の雪原は、オーロラに包まれていた。
そんな中を駆けたいところだったが、時間が無いので転移ですぐみんなのところへ向かう。
「みんな!」
「リノセ!お疲れ様!」
アスナが私に気づいて声をかける。
私はイツキとレイを連れて扉まで戻ってきた。
ユナと離れないほうがいいんだけど、やっぱりサヤトがいるならイツキはいたほうがいいと思うから。
そして、扉は開いていた。
その先にはワープゲートがある。
気象エネルギー研究所跡の後半へと続くはずだ。
「行こう!」
「ああ!」
ハヅキとレイ、アスナたちがサヤトやアカツキたちを支えながら移動していく。
女王の巣まで、あと少し。
****
『―――しないよ』
苦しい。痛い。冷たい。気持ち悪い。
心臓の奥、体の芯、脳の中心に突き刺さっている何かが、僕を蝕む。
『一緒に攻略頑張ろうね』
彼女は、彼女は、彼女は。
僕は知っているはずなのに、知らない、誰だ、彼女は、知らない、知っている。
『サヤト』
呼ばれた気がして目を開ければ、誰かが、遠くで、大きな何かと戦っているのが見えた。
杖のような巨大な棒を持ち、ドレスのような鋼鉄を纏った女王。
そうだ、あそこにはイツキと名乗っている雪嗣がいて、雪嗣には恋人ができていて―――
『ねえサヤト、このゲームはさ、簡単に人を殺せちゃう、よね』
頭が痛い。呼吸が苦しい。
何かの、誰かの記憶が、声が、痛い。
『茅場晶彦は―――何がしたかったんだろう』
ゲームとは。その名前は誰だ。
なんでそんなに、悲しそうなんだ。
「あと3割!また星が降ってくるから気をつけて!」
誰かの声が、みんなに指示を出す。
僕の前に立った人が、僕を、誰かが守っている。
「……ごめんね、サヤト」
『……ごめんね、サヤト』
声が重なる。
その声の主が、黒い何かを構える音。
「今言っても無駄なのはわかってるけど、でも」
今しか言えないから、と。
「裏切って、ごめん。嘘ついて、ごめん。いなくなって、ごめん。謝っても許されないのも、わかってる」
泣きそうな声だった。
なぜそんなに悲しそうなのか、と、さっきと同じことを考える。
……僕は、その答えを知っている。
だんだん流れ込んできた記憶と想いが、答えをくれた。
――彼女が、優しいからだ。
「……リナ」
「―――っ!!」
ドン!と、一際大きな発砲音が近くで響く。
遅れて、女王が金属音にも似た叫びを上げて、散っていく。
僕の中に居座っていた苦しみが、消えていく。
「……そうだ―――リナだ」
やっと思い出した。
きみがいなくなってしばらくしてから、急にきみのことを思い出せなくなっていた。
だけど、今。思い出した。
「……サヤト」
リナの髪は白く、瞳は水色になっていた。
そうだ、名前と見た目を帰られる世界なんだっけ。
ということはここも、VRなのだろうか。
いや、どうでもいいか。
ようやく会えた。
「リナ。会いたかった」
僕はそう呟いて、微笑んだ。
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