二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.52 )
- 日時: 2023/10/01 13:05
- 名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)
「マスター…転送ポートの前に来て何をするつもりなんですか…?」
レイが不思議そうに聞いてきた。
「ふふふ。秘密だよ。」
「あんた、またいけないこと企んでる?」
「違う違う。」
「あら〜。あくどい顔ね〜。」
「おおかた、僕らの反応を楽しみにしてるってところだろう。」
相変わらずイツキにはバレるなあ。
てへっと舌を出して「バレたか」と言いつつ、到着した「彼」に手を振る。
「おーい!ここだよー!」
「ああ、いた。こんにちは。…えっと、リノセちゃん。」
プレイヤー名はサザカ……漣くんだ。
漣くんはとある自由型スコードロン《シャングリラ》のリーダーだ。
そして今日は、香住が自分のアミュスフィアでダイブする初の《GGO》。こうして、私と漣くんが迎えに来たわけだ。
「…誰だい、リノセ?」
イツキがにっこり笑った。
「私のクラスメイト。親友の彼氏だよ。」
「ああ、そういうことか。」
親友の彼氏、だけで何をするつもりかはだいたいわかったようで、イツキは私の隣で転送ポートに視線を映した。
そしてまもなく転送ポートが光って…
シュンッ。
無機質な音とともに、初期装備のニュービーが姿を現した。
なめらかな茶髪は普段と違って赤髪になり、お団子ヘアにまとめられている。
懐かしい服だなあ。この服でこの世界に来て、わくわくしたっけ。それで、クレハに話しかけられた。
ふふ、思い出す。
香住のプレイヤー名は、フレイヤ。
「来た来た。どう?すごいでしょ!」
「すごいわ!…けど、あんた現実リアルと全く変わってないのね。」
「え、ああ、うん。なんかみんなにバレる。」
「そりゃそうよ。」
あたしみたいにちゃんと変えないと!と言う香住こそあまり変わっていない。
漣くんに「目がいい」とか「顔が好き」とか言われたから変えたくなかったってとこだろうけど。
私はクレハ、レイ、ツェリスカを振り返ってにっこり笑った。
「この人は私の親友なの。ここではフレイヤって名乗るみたい。みんな仲良くしてね。」
「フレイヤ、よろしくです!」
レイがニコニコしてあいさつした。うん、かわいい。
「よろしく、名前は?」
「あ、えと、Afasystem A290-00です。型番では呼びにくいですよね。是非レイと呼んでください。」
「アファ……え?」
「Afasystem。私はマスターのアンドロイドなんですよ!」
「へえ!よろしく、レイちゃん!」
クレハはというと、したたかに香住…じゃなくてフレイヤを睨みつけていた。
どうしたんだろうと思って見ていると、クレハはフレイヤに向かってチッと舌打ちして眉をひそめた。
珍しい。クレハが舌打ちだなんて。
すると、パッと目が笑ってないにこにこ顔に変わって話しかけた。
「どうも、フレイヤさん。あたしはクレハ。リノセとは な・か・よ・し・の・む・か・し・な・じ・み・なんですー!」
仲良しの昔なじみ、やけに強調するなあ。
そしてフレイヤもそれを聞いて笑みじゃない笑みを浮かべる。
「あら〜。それはそれは。し・ん・ゆ・う・として、是非お話を聞きたいですねー!」
香住らしくない。いつも夏に5日放って置いたドーナツくらいサバサバしてるのに、今日は混ぜたての納豆だ。
首を傾げていると、私の腰に腕がまわり、引き寄せられた。
「気にしなくていいんだよ。どっちがどう親しくても、リノセはもう僕のリノセなんだから。」
「……っ……うー………」
じゃあ、イツキは私のイツキでいい?
そう聞きたかったけど、聞けなかった。流石にこの人数の中では言えない。
…あとで、ちゃんと言いたいな。
ふたりきりのときだけデレるなんて、私も物語にあるあるな人になったものだ、とぼんやり考えた。
「さ、フレイヤ。フレイヤはもちろんサザカのほうに行くんだろうから、そろそろバイバイかな。」
「え、もう?というか、サザカのほうってどういうこと?」
「僕とリノセちゃんはそれぞれ違うスコードロンのリーダーなんだ。あ、スコードロンはギルドだよ。」
「なるほどね〜。それだったらサザカのほうね、確かに。」
そして、サザカは挑発するような笑みになった。
「悪いねリノセちゃん。仲いいのに。これで《デファイ・フェイト》に追いついちゃったりしたらごめんね?」
「やだなあ〜。そんな心配してたの?その心労減らしてあげるよ。」
今度は私たちがバチバチと火花を散らす。
お互いスコードロンのリーダーとして譲れないところがあるのだ。
そして、一瞬だけにらみ合い、同時に鼻で笑って視線の戦いは終わった。
「おーい!そろそろ時間だぜ!」
後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り向くと、声をかけてきたキリトのまわりにみんながいた。
まさか、この話の中でスコードロンメンバーが揃うとはね。
「じゃあ、私たちは行くよ。またね、ふたりとも。」
私たちは不敵な笑顔で去っていった。
―――《デファイ・フェイト》…《GGO》トップのスコードロン。
リーダー リノセ
メンバー
レイ、イツキ、クレハ、ツェリスカ、キリト、アスナ、シノン、リーファ、シリカ、リズベット、ユイ、ストレア、フィリア、レイン、ユウキ、エギル、クライン、アリス、ユージオ
「アリスとユージオはどう?この世界には慣れた?」
「はい。馴染めてきています。ああ、この前美味しそうな《あいす》を売っている店がありました。今度ご紹介します。」
「うんうん。すっかり楽しめてるよ。きみのおかげだね!」
―――あのあと、イツキ、クレハ、ツェリスカはみんな揃ってスコードロンに復帰した。
パイソンもいなくなった今、《アルファルド》の運営はどうなったのかと聞けば、メンバーたちとちゃんと話をつけてきたと言っていた。
どう話をつけてどうなったのかは聞かないでおこうと瞬時に思ったから詳細はわからない。
イツキのことだからうまい感じにまとめていることだろう。
さて、今日は募集していた《デファイ・フェイト》の新メンバーとの顔合わせだ。
募集したら一応設定していた定員の5倍ちょっとくらいに膨れ上がったので、少人数の顔合わせを何回かに分けている。
気分は面接官だけど、顔合わせだからほぼ全員合格のつもりだ。
部屋には3人座っていた。
一番右はおどおどした女の子。
薄桜色の腰までのポニーテールで黄緑の瞳。たすき掛けし、右腕だけ袖を切り落とした梅重色の羽織りに、赤のノースリーブの着物、ミニスカート並みに短い紺色の行灯袴といった、《GGO》では珍しい和装をしている。
ただ、ゲームの世界に合わせて、たすき掛けは紐ではなくベルトでしているなど、近未来風にアレンジされており、ところどころ桜の文様が入っている。
また、頭には白の鉢金を巻き、ポニーテールは赤いリボンで括ってある。
着物の下にはタートルネックの黒インナー。右腕には紺色のアームカバーと灰色の肘当てとアームプロテクター、両手には焦げ茶のシューティンググローブ。
腰元にはフォトンソードを携行する帯刀ベルトと拳銃用のヒップホルスターとマガジンポーチ。
左足だけ黒のニーソックス、両膝に灰色のニーパッド。両足に焦げ茶のG.I.ブーツを装備している。
また予備弾薬や回復アイテム等を入れたショルダーバッグを肩に掛けている。
このコスチュームは《残影の荒野》の隠しエリア《桜平原》でゲットできるコスチュームだ。ただ、《GGO》は近未来がテーマで洋風が多いから和風はそんなに人気がないからこのコスチュームはなかなか見ない。
次に、男の子…に見える、女の子。
微妙に長めの髪で、黒から赤のグラデーションが掛かっている。目は暗めの赤の吊り目。
黒を基調とした胸元下までの短い半袖コート。体にピッタリとした長袖の白いタートルネック。
ぴったりとした黒のズボンで、裾はブーツの中に入っている。腰回りにガンホルダーをつけていて、横に1つずつ、背中側に2つの計4つのハンドガンが見えるが、この前売られていた飾り銃つきガンホルダーと同じものなのでそれは全て飾りなのだろう。
靴は、膝下5センチくらいの黒ブーツ。かかとはあるが1センチほどの物。
…ものすごく、以前見ていた姿だ。
まあ、理由はいろいろあるんだけど。私は一瞬で正体がわかってしまった。
これも理由はいろいろある。
………やっと、会えた。
一番左は、これまたおどおどした……女の子にちょっと似た、男の子。
髪は前髪が眉下、後ろは若干刈り上げているが、全体的にはねており長めの印象を受ける。色は、紺色より少し薄めの色。
目はジト目と普通目の中間くらい。色は紺色。
マゼラン・ブルー色のパーカーを着ていて、長袖。ただ袖部分が手袋になっており、中指から親指までをカバーするようになっている。前のファスナーは胸元上辺りまでしか閉めていない。丈は骨盤より若干下。パーカーの両胸元にポケットがあり、左に横から見た赤い金魚が1匹優雅に泳いでいるのが描かれている。
パーカーの中は、黒のノースリーブのタックネックになっている。
ズボンは全体的に膨らんでいて、丈は足首まである。色はパーカーよりも少しあせた色だが、後ろは同じ色になっている。
また、右の側面に5匹の金魚が下から上に泳ぐように上から描かれている。
金魚がよほど好きなのだろうか。金魚はたしか、《砂に覆われた孤島》オアシスの底から行ける《泉の都》エリアのテーマだったはず。でも、これもなかなか見ない。
今回はこの三人。
まずは自己紹介からかな。
「まず、はじめまして?がほとんどだと思う。はじめまして。私はリーダーのリノセ。こっちが…」
「イツキだ。よろしく。」
「キリトだ。まあ、よろしくな!」
アスナやレイ、クレハたちは別室からモニターで見ている。
あんまり人が多いと緊張するかと思って。
「自己紹介をお願い。」
「あっ、はい、えと、私はヤエ、です。」
「…アカツキ…。知ってる?知らないならそれで良い。アカと呼んでくれ」
「あ、あ…ぼ、僕は…カンナです…女みたいですよね…すいません…」
…どいつもこいつも個性的だ。
男みたいな女がいたり、女みたいな男がいたり、片方はそれを自分で謝ったり。
まあ、私たちのいる場所は暖かいって信じてるから、これもきっと一緒にいればいい方向に固まっていくと思うけど。
「じゃあ、ヤエ。あなたの武器は?」
「えと、《花霞》と《ザンオウG》、です」
《ザンオウG》?応募内容には初心者って書いてあったのに、何故上級者向けの武器を…。
あ、そうか、もしかして…。
「このフォトンソードはだ、騙されて買わされたんです……もうクーリングオフが効かないんですよ……」
やっぱり。レイが引っかかりかけてたアレだ。
そういうのまだいるからなあ。困るよね、ホント。
「スナイパーライフルを花霞にした理由は?」
たしか、花霞は反動が大きい代わりに、初期版のわりにティアマトMk2ほどの圧倒的な威力を誇る。
二脚の取り外しや改造の自由度から、一部のプレイヤー層には絶大な人気がある。
そして《ザンオウG》は重くて扱いにくいが、威力とクリティカル率はそこそこ高く、少し威力に性能が偏ったアタッカー型のフォトンソード。
といっても流石はGシリーズ。エストックや実剣よりは性能は平均的で、ある程度のプレイヤースキルがあれば確実に戦力になりうる。
「わ、私……その、実は、シノンさんが…憧れで……あと、桜が、好きなので……まずは、この花霞から、と……。」
「そうなんだ。」
「あと、わ、私のひいおじいちゃんは九九式で米兵を倒したと聞いているので、きっとこの《花霞》も凄い銃だと思います…!」
とても優しい顔で語ったヤエ。
そう、花霞は九九式銃をモデルにした百式スナイパーライフルだ。
きっと、その武器に決めた思いとしてはそれが大きいのだろう。
「あと、シノンが憧れなんだ?」
「は、はい。もっと強くなってシノンさんの様に対物ライフルが撃てる様になりたいな……」
なるほどね。明確な目標があるのはすごい。
あと、シノンが憧れっていうのはちょっとわかる。
私がスナイパーライフルに決めたのは弓道をやっていたから慣れてた、っていうのもあるけど、単にかっこいいからっていうのもある。
ほら、浪漫砲って言うしね。単発高火力って夢があるから。
かっこいいよね。
「じゃあ、アカの武器は?」
「…メインはSPBNightSkyMK4+ と レイピアエストック。サブはロバストMk4+。」
おー……まあ、そんな感じだろうなとは思ってた。
何より、メインは剣だろうなと思ってたよ。
レイピアエストックは威力が少しだけ弱い代わりに軽くて振りやすく、クリティカル関係も他種より勝る。だが特徴が個性的なために一部の上級者にしか使いこなせず、使っているプレイヤーはごく少数。
ロバストは連射速度はピカイチだが威力自体は同じアサルトライフルのLupusに劣る。ただ、扱いやすさと丈夫さからタンクによく使われている。
SPBNightSkyシリーズは特殊弾を使うハンドガンで、弾速と連射性の高さから、これまた敵を怯ませることに特化している。
全体的にタンク構成。タンクをするならストレアに勝るとも劣らない実力を見せるだろう。
「よく強い武器を集めたね。《GGO》は結構やってるの?」
「まあ、それなりには。リ…リノセがやり始めた一ヶ月前くらいからやってる。」
「へー。じゃあベテランさんだね。」
ベテランの定義によるけど、まあ私より長かったらベテランでいいでしょ。
「カンナの武器は?」
「あ……あの、サ、サウンドデッド2……と、LMG月光3++、です」
うへえ、結構やり込んでるんだなあ。
サウンドデッド2は、私が以前使っていたAMRブレイクスルー4++と同じウェポンランクのレアな代物。
スナイパーライフルにしては珍しいフルオートで、スナイパーライフルながらの高火力ながらしっかりした命中精度で連射し、確実に敵のHPを減らしていく。
重量としてはロバストMk2+ほどの重量で、比較的扱いやすい。
ただ、連射タイプとはいえスナイパーライフルなので近接には弱く、そのバランスを取るための月光なのだろう。
そして、月光はクリティカルヒットダメージとクリティカル率が大きいサブマシンガンの一種だ。
確実に敵を怯ませて落とす戦術を主とした武器で、万が一近付かれたときに敵を怯ませられるような武器を持っているのは有効と言える。
「ありがとう。聞きたいのは以上だよ。あとは―――」
キリトやイツキと立ち上がる。
そしてにっと笑った。
「一緒にフィールドに行こう!」
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.53 )
- 日時: 2023/10/01 15:05
- 名前: siyaruden (ID: BLmVP1GO)
お久しぶりです!
リクエスト板にて色々とキャラのプロフの変更をしていますので確認の方をお願いします
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.54 )
- 日時: 2023/10/07 14:06
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
了解しました!
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.55 )
- 日時: 2023/10/07 14:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
一気に3人見るのは大変なので、一人につき一人のマンツーマンで一緒にフィールドに出かけることになった。
私と一緒なのはアカ。
《ロストゲート》で一緒に戦う。
「……アカ。やっぱりきみだよね」
「そうだよ。いつになっても変わんないんだな、お前」
「まあね」
静かにFetal Bulletを構えてエネミーを一掃していく。
アカも次々と剣で敵を薙ぎ払っていて、その戦闘センスは流石と言ったところだ。
「…まだ引きずってるの?」
「引きずってんじゃねぇ!俺は償いたいだけだ!」
「それを引きずってるって言うんだよ」
アカ、きみは私に似てるよ。
エシュリオを失ったときの、お父さんを失ったときの私に似てる。
同じだとは言わない。けど、多分思っていたことは同じ。
「あの人は、きみを恨んでないよ」
「知ってるよ!でも……それでも、全部俺のせいなんだよ…っ」
あのとき目の前で散った星の欠片。
残酷な世界で、いったいいくつの欠片が散っただろう。
そこで心に刻まれた悲愴と恐怖はそう簡単に拭えるものではない。
それは私だってわかっている。
「アカ、ううん、ユト。逃げないで。あのとき、あの人がきみを守ったのは、ユトに幸せになってほしかったからだよ。」
「その名で呼ぶな。」
「呼ぶよ、何度でも。今のきみはアカツキかもしれないけど、アカの中にユトは残ってるんだから。」
「ユトはもう死んでんだよ!ユトの代わりに俺が!アカツキが生きてるだけだ!」
そう、私のかつての仲間―――ユト。
《SAO》で生きた、一人の少女。
彼女は私と「アカツキ」という《SAO》プレイヤーとパーティーを組んでいた。
だが《SAO》がデスゲームになって……その中で必死にもがいていた二年間、730日間のたった一日での出来事で、彼女は自分を責め始めた。
そう、私と似ているのは…。彼女の兄である「アカツキ」は、当時の彼女「ユト」を庇って命を散らしたからだ。
とあるボスに偶然出くわしたときのことだった。
その後彼女は自責の念に駆られて苦しみ、やがて私との関係も断った。
―――これは、4年ぶりの再会なのである。
私も同じ経験をしたのだから、少しはアドバイス…できるのかもしれないが、それは特効薬ではないと私は知っている。私だから知っている。
こういうのは、私のエシュリオのときみたいに本人登場してくれたらいいんだけど、そう簡単にはいかないだろう。
茅場晶彦に頼めばいいのかもしれないけど、それはちょっと違う気もするしなぁ……。
やっぱり、彼女が自分で決めるしかない。
ユト。ううん、アカ。やっぱり、きみは何も変わってない。
何もかも背負うところも、必死に守ろうとするところも。
だって、ほら、今だって私にヘイトが向かないように必死にタゲを取ってる。
きみのロールがタンク寄りだったのも、みう誰も失いたくないから。あの悲劇がもう二度と訪れないように。
今はそれでいい。
キリトたちや私たちといれば、きっと大切なことは見えてくるだろう。
イツキだって優しいし、キリトたちもなんだかんだそういうとこあるからね。
こういうのは、言葉少しかけるだけですぐにわかるような簡単なものじゃない。
それは、知ってるから。
「…アカ、強いね」
「お前もな。……リノセ」
…呼び慣れないな。
互いに違和感を感じつつも、今の名前を呼んでみた。
…そう。この世界ではユトとリナじゃない。アカツキとリノセだから。
アカの言っていたのとはニュアンスが違うけど、確かにもう《SAO》で必死に戦っていた私たちではない。
…それでも、《リナ》と《ユト》は死んでない。
―――そう、私たちが死ぬことはない。
「お疲れ!どうだった?」
「おう、お疲れリノセ。」
戻って、私はイツキとキリトと合流した。
「俺はヤエとフィールドに出たけど、スナイパーとしての実力は結構なものだった。エイムはもう少し鍛えれば十分な戦力になると思う。咄嗟の判断がいいところだな。」
キリトの評価はいい感じ。イツキは、うーんと考えてから口を開いた。
「僕が担当したカンナも実力はよかったよ。…でも少し遠慮深い。迷惑をかけないために頑張っている気がするよ。少し心配だね。…アカはどうだった?」
「ああ…まあ、実力はこっちもオッケー。タンクとしての性能はストレア級だとは思うけど…」
少し、臆病だ。
仲間が傷つくことを恐れていて、つまりはヒーリングまでやろうとする。
そういえば、レイも似たような時期が合った気がする。
マスターを守るのが私の役目、そう言って私を散々庇っていた時期。
あれからは、「背中を任せる」ということを覚えたから、レイはそれをやめた。だけど…
今回は、そういうわけにはいかないか。
カンナについては…うーん…実際見てないからわかんないけど…。
「ま、人の性格に首突っ込むわけにもいかないし、様子見じゃない?」
「そうだな。」
「ああ、じゃあ戻ろうか。みんなが待っているんだろう?」
「うん、帰ろう。」
一回大きくのびて、私たちは歩き出した。
「マスター、おかえりなさい!」
「ただいま、レイ。」
キリトたちの部屋にて、私たちは集まっていた。
顔合わせもだいたい終了し、なにか大きなクエストでもやろうかと話し合うのだ。
そのとき。
ピロリン!と一斉に全員にメールが届いた。
「………これは」
「間違いない、運営からのメールだ」
この一斉に届く届き方、絶対運営からのお知らせだ。
前回はフリューゲル出現の大型アップデートのときに鳴ったっけ。
開いてみると、中身は…
「―――え?アップデート?」
「なになに?……新フィールドを開放する⁉」
アップデートのお知らせだった。
新フィールド開放とともに、新大型クエストも始動するようだ。
……なんというか、忙しいな。
「やるしかないよね、こんなの。」
「ああ、やるしかないな。」
やれやれと肩をすくめると、メラメラ燃えているキリトが頷いた。
「まったく、私が休まるときは来ないのかな?」
「癒やしてあげようか、リノセ?」
「イツキ、近い近い近い」
顔を近付けてきたイツキとの顔の間に手を差し込む。
慣れない。慣れるはずがない。
かっこよすぎて死ぬ。
「なぜだい?」
「み、みんないるって」
「…ふっ、了解」
色っぽく微笑んでイツキは離れた。
その顔は「みんながいないときに楽しもう」と言わんばかりだ。
…いけないスイッチを押した気がするが、そんなの知らん知らん。
頑張れ、後の私。
新フィールド諸々は、来週の連休に開始するようだ。
連休開始、つまり土曜の午前0時から…うん、金曜日の夜は大変だな、私。
帰ったらすぐ寝よう、とひそかに不健康な決意を固めたのだった。
****
翌日、学校にて。
「神名さん、少しいいかしら。」
「はい?」
担任の先生に呼び出され、私は廊下へと出た。
「どうかしましたか?」
「あのね、とても急なんだけど、ウチのクラスに転入生が来たのよ。」
「えっ?」
二学期がもうすぐ終わろうとしている時期。中途半端すぎる。
「もうすぐ冬休みだし、粘ろうとしたらしいんだけど。親がどうしても遠い地方からこっちに来なくちゃいけないみたいで。」
「ああ…なるほど?」
「その子、少し引っ込み思案だから、神名さんに任せたいんだけど、いいかしら?」
「そういうことでしたら、わかりました。」
「ありがとう、助かるわ。」
一礼して教室に戻りながら、この前イツキに「君は断るということを知ったほうがいいよ。」と言われたのを思い出す。
でも、頼まれごとは断れないのが私の性であった。どうしても引き受けてしまう。
諦めてくれイツキ。
ということで。
「香住ー」
「んー?」
「あのさ、ちょっと声のボリュームを落として聞いて欲しいんだけど。」
香住に転校生の件を話すと、香住は何とも言えない顔で「あー」と言ってうんうんと頷いた。
「あんた、また面倒ごと引き受けたわね?」
「面倒ごとって、失礼な…」
転入生に失礼すぎる。
「でも、そうでしょ。初対面のおどおどする人に学校案内やらなにやらするわけでしょ?受験も迫ったこの時期だし、相手の精神だって不安定だろうし。」
「え、あー」
「あんたくらいよ、この時期にいつも通りに明るいの」
香住にギロッとにらまれる。
「と・に・か・く。楽な仕事じゃないとは思っときなさい。まあ、あたしも凛世のそばにいるわけだし付き合うけど。」
「ありがと、よろしく。」
まあ、今考えてみればその系統の対応は確かに反応に困るところがあるかもしれないが、それでも仲良くなれればいいなと思う。
もしかしたら転勤族なのかもしれないその子。卒業までの三か月、もしくはそれより短い期間でも、楽しい思い出を作って欲しい。
このメンバーでの高校三年生は、もう二度とやってこないのだから。
「なんかしみじみするね」
「何よ急に」
「だってさ、あの三か月で私たち卒業なんだよ?大学生だよ?このメンバーでこの制服を着て、この教室で授業を受けて、一緒に笑う日はもうすぐ終わるんだよ?」
「…そうね。」
唐突に、漣くんからもらった香住の消しゴムを踏んでしまって地獄を見たクラスメイトの男子を思い出す。
最終的に香住も許して話のネタと化して終わってたし、あれも今となってはいい思い出だ。
「聖夜や凛世との高校生活も終わりかー」
「うん。ってことで、受験勉強頑張んないとね。」
「確かあんたって、あの有名私立大学の推薦もらうんだっけ?」
「そーそー。最近は《GGO》で勉強してる。」
イツキやクレハがいるからわかんないところ教えてもらえるし。
っていうか、今更だけど雪嗣さんってどこの大学卒業したんだろう。めちゃめちゃ頭いいけど。
今度聞いてみよう。
「いいわね…。あたしもそうしようかしら。ゲーム内だと空調いらないのよね。いつも快適」
「そうすれば?漣くんともいつでも会えるし」
「よし行くわ」
苦笑いしながら、漣くんとの《GGO》ライフを妄想する香住を見つめる。
…そうだった。《GGO》があった。
このクラスのほとんどが《GGO》をやっていて…そこで会えるんだった。
縁は切れたりなんかしないだろう。
「…また、《GGO》にお世話になるかも」
小さく呟いた。
「えー、突然だけど。今日からクラスメイトになる転入生がいるので、紹介するわね。」
ホームルームにて。そんな先生の言葉に、案の定みんながざわざわと沸いた。
「突然すぎね?」
「それよりも性別!男子ですか、女子ですか!」
そういえば、性別聞いてなかったな。
まあでも、男子についてをいちいち女子の私に頼んだりはしないか。
「静粛に。入って頂戴」
先生の言葉で入ってきたのは、やっぱり女の子。
黒髪の腰までのロングで2本の三つ編みおさげ。瞳は茶色。眼鏡と白のカチューシャを付けていて、少し居心地が悪そうに視線をさまよわせている。
「わ、私は、山本 弥恵子と言います……」
どもりながら自己紹介した山本さんに、クラスメイトは軽く「よろしくー」とか「はーい」とか返事をしていた。
いじめとかがない優しいクラスなのでよかったが、他のクラスだったら「うわ地味ー」くらい言われていたかもしれない。
あれ、でも眼鏡の下はかわいいかも。
…って、そうじゃなくて。
「…あの子」
前の席の香住にも聞こえない小さな声で呟いた。
…嘘。こんな偶然ある?いや、あるわけないよね?でも、他人の空似じゃないよね?
あれは…。
―――ヤエ?
確か、昨日の顔合わせで《デファイ・フェイト》に来た子。
上級者向けの高額フォトンソードを押し売りされて、「クーリングオフが効かない」と嘆いていた…。
顔も面影があるし、身長も同じだし、なにより…。
声が、同じだ。
知り合いで良かったと安堵するとともに、私は少し困惑した。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.56 )
- 日時: 2023/10/11 22:40
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
リクエスト掲示板にリノセのアンダーワールドでの姿を募集する旨のスレッドを設けました。リノセのアンダーワールドでの制服姿じゃない姿を募集します。
詳細はスレッドにてご確認ください。
また、気に入った場合は別キャラにて採用するかもしれないので、どんどん応募してください。
今のところ締め切りは未定です。
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