二次創作小説(新・総合)
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- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
- 日時: 2022/11/15 22:17
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。
※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。
「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」
《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。
『ねえ、《GGO》って知ってる?』
私、神名 凛世は、幼馴染の高峰 紅葉の一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。
「―――リンク・スタート」
コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。
コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。
―――霧散
それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」
「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。
大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。
道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。
着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。
【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】
なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。
「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。
次へ続く
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.6 )
- 日時: 2022/11/12 11:25
- 名前: 謎の女剣士 ◆7W9NT64xD6 (ID: b.1Ikr33)
こんにちは。
それ、多分ですが恋かと思います。
キリト、頼りになりますね。
アスナも回復能力抜群ですし、他の皆も頼りになりますね。
しかし、一部の様子は浮かないみたいだけど。
リノセを横抱き…。
この辺から、キュンとしますね。
しかし、大事なクエストの最中ですから。
今は、気を引き締めて行きましょう。
また来ますね、それでは。
- Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.7 )
- 日時: 2022/11/12 11:45
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
感想ありがとうございます!私も横抱きのシーンはお気に入りです!!!
イツキは結構重い方になってほしいという私の願望の元、自身では理解できない何かに従って独占欲を発動していきます。
リノセも気がないわけではない…ので、このときリノセはどうなっているのか、これから書いていきたいと思います。お楽しみに。
また、リアルのリノセを少し修正いたしました。ご確認ください。
シュピーゲルにも気に入られたらどうなるかな?という疑問もあったので、シュピーゲルにシノンとともに執着され、多分イツキもリノセに執着し…ああ、なんて引き寄せやすいリノセ。
次はその後のリノセ視点とリアル編です。この下に投稿する予定です。
お楽しみに!
イナ
- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜5 ( No.8 )
- 日時: 2022/11/14 19:04
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
※今回の話では、実際には存在しないコンテンツが出てきます。ご注意ください。
また、これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作になります。
正直、会うのには抵抗があった。
多分、あの頃を思い出すのだろう。
オレンジギルド潰しの一環で死闘を繰り広げた、《SAO》のことを。
それを考えている間、イツキはシュピーゲルに帰ってもらおうと頑張ってくれていた。
「ごめんよ。今は僕とティータイム中なんだ。邪魔しないでくれるかな?」
「ははっ。大丈夫だよ。ちょっとしか掛からないからさ。リノセを貸してくれよ。」
「それはできないね。今、いいところなんだ。また別のときに来てくれ。」
イツキに任せっきりにするわけにもいかないので、私はイツキの影に隠れて言った。
「ごめんなさい、また今度でいい?」
怖かった。その、雰囲気が。
「おや?席を外せないのか?…じゃあ、まあ。今日はお暇するよ。またね、リノセ。」
「えっと…ごめんなさいね。」
「またね」と言えないのは、会わなきゃいけなくても会いたくないからだろうか。
あの日のことが脳を支配して、怖い、という感情が胸を駆け回る。
ラフィン・コフィンと対峙したときに感じた狂気と殺気。もうあの世界にいるわけではないというのに、あのときに戻ったように鮮明に思い出せる、人を殺した感触。
私が、《SAO》内で初めて殺したのが―――ラフィン・コフィンだった。
シュピーゲルがラフィン・コフィンだとは限らないけれど…似ていた。
あの、“瞳”が。
「アファシス、マスターを借りるよ」
「えっ、あっ、はい!」
「え?…っ、きゃあっ」
突然、張り詰めた雰囲気のイツキにお姫様抱っこされた。
間近なイツキの顔に緊張して、顔がボンッと赤くなる。
―――ッ、な、何だ、これ。
心臓がドキドキして、顔が熱くて、なんか…なんか…ああ!もう!
恥ずかしい…!
「はああ!」とかカッコつけといて弾丸がかすりもしなかったときより百倍恥ずかしい。
この感情…何なの…。
そうして、いつの間にか、イツキの腕の中にいたことで、震えは収まっていた。
「ふう…落ち着いたかい?」
「あ、ありがとう、イツキ。それで、ここは…《アルファルド》じゃないよね?ちょっと似てるけど…」
「ああ、ここは、僕のホームだよ。」
「あ、ちょっと用事を―――」
「だめだ。」
イツキのホームと知って、やけに気恥ずかしくなり、帰ろうとしたが、イツキに捕まった。
「っちょ、イツキ…」
この体勢、すごく恥ずかしい。
さっき逃げようとしたせいでイツキに捕まったわけだが、それがイツキに肩を抱かれている状況で、おまけに両手もイツキのSTRが高いたくましい手に抑えられている、なんともいらないお買い得状況なわけで。…うん。いらない………よね?
「あのー…」
「なんだい?」
「離してくれませんか?イツキ。」
「その前に、話してくれるかな?」
「あ、離してくれるの?」
「そっちの“はなす”じゃないことくらい、わかっているだろう?」
「…うー…」
どうやら、イツキは、私が怯えていることに対して疑問を抱いているらしい。否、正しくは―――
一緒に抱えようとしてくれている、かな。
自意識が過剰なだけだろうか。でも、最近、なんとなくイツキのやろうとしていることがわかる気がするんだ。
今のイツキは、私に精一杯寄り添おうとしてくれているんだろうなって。
普段、イツキは《アルファルド》のみんなやファンのみんなとの約束をすっぽかして私と攻略しがちだけど、彼等をちゃんと気にかけてあげられている、根は優しい人だ。
そう。だからこそ―――私は、イツキに話すのに抵抗がある。
だから、ごめんね。
ちょっと、ごまかすね。
「……昔会った怖い人に、似てるんだよ。シュピーゲルの狂気が。」
「ああ、あいつ…確かに狂っているように見えたよね…そうか…」
イツキは、少し苛立ったような瞳で虚空を睨み、やがてすっと目を閉じると、私を見て優しく微笑んだ。
「いいかい?今日から、君は、基本誰かと一緒にいるんだ。アファシスでもいい。キリトくんたちとでもいい。取り敢えず、極力一人は避けて。どんなときでも。」
「う、うん……?」
「そして…僕からは、これを。」
「え…これは…何、ピアス?綺麗…」
イツキがストレージから具現化して私に差し出してきたのは、一対のピアス。黒と青のクリスタルが複雑に絡まっていて、それを白い、小さい結晶が飾っている、というところだろうか。
それを手に取ると、少しだけ、心が落ち着いた気がした。
「つけてあげるよ。」
「あ、ありがとう。」
シャラ、という音とともに、私の耳に少しの重みが加わった。
「…【メモリーズ・ピアス】だそうだ。僕はいつでも君のそばにいる。このピアスに誓ってね。それを、このピアスで思い出してくれ。」
「…うん。」
悔しいけど、本当に嬉しい。地味に好みなのもまた…。ああ、何だ、まただよ、このドキドキ。
わからない。この感情は、知らない。
「できることがこれくらいしかなくて、本当に済まない。」
「ううん。…これだけでも、とっても嬉しい。勇気出たよ、ありがとう。」
「そうかい?無理はしないんだよ。」
「うん。ありがとね、イツキ。」
「ああ。」
イツキの手が、私の耳に触れて、ちょっとくすぐったい。
何故か―――もう、シュピーゲルのことは、頭のどこかにポイッと投げ捨てていた。
「怖かったかい?」
「あ、うん…。思い出したの、怖かったことを。」
「そうか…おいで、こっち」
「ん?…って、きゃっ」
イツキが何かを思いついたようで、手招きをしてきた。イツキに近寄ると、また抱き上げられる。
だから、これ、何なの!!!何故にお姫様抱っこ⁉
あうー…と心のなかで唸りながら、恥ずかしくて顔を手で覆う。
耳まで真っ赤なことに気がついたのか、耳元で、イツキのくすっ、と笑う声が聞こえた。
「さあ、ここだ。」
「え、ここって…」
私は、私を降ろしたイツキの袖を掴みながら言った。
「―――ベランダ…?」
ベランダって、有料コンテンツじゃなかったか?しかも、イツキの部屋って高い場所にあるんだ…だから…
「綺麗…!」
視界いっぱいに広がった夜景。総督府、メインストリート、商店街…様々な場所の明かりが鋼鉄を照らして、幻想的な風景をつくっていた。
「落ち着くだろ?」
「うん…!ありがとう、イツキ。今日は助かった。」
「いいや。また来るといい。怖くなったら、いつでも呼んでくれ。」
「ん。」
さっきまで恐怖で冷たくなり、震えていた指先が、暖かくなって震えも止まっていた。
「今度こっちのホームにも遊びに来てよ。今日のお礼になんかご馳走するから。」
「そうかい?ありがとう。じゃあ、今度お邪魔するとしよう。」
「「じゃあ、また。」」
レイにログアウトする旨をメッセージで伝えると、私はログアウトボタンを押しつつ、イツキに手を降った。
イツキは柔らかく微笑みながら、手を振り返してくれた。
数日後。
「おはよー、凛世ちゃんっ。」
「おはよう!」
「おはようございます、神名先輩!」
「おはよう!」
「あ、おはよう神名さん。」
「おはようございます。」
現実にて。高校3年である私は、ニコニコしながら校門をくぐった。
VRでもこっちでも、身長155センチと低身長な私は、よくお馬鹿さんと間違えられやすいが、これでも学習委員長で、学年の成績はいつもトップだ。…握力が乏しいのがコンプレックスだけど。
歌も家事も得意。……ああ、なのに何故、握力は13しかないの…!!
これでも体育は成績いいほうなのに。
握力のせいで…体力テストのハンドボール投げ、11メートルしか飛ばなかったんだから!!
などと心のなかでプンスカと怒りながら、靴を履き替える。
「おはよ、凛世。」
「ん、おはよう、香住。」
すると、高1からの親友の飯田 香住が登校して来た。この前、スペインのホームステイから帰ってきたばかり。
香住は、私達のクラス3-2の会長である彼氏にお互いゾッコンで、毎日惚気話ばかり。
まあだけど、それも悪くないよね。
香住の彼氏は、漣 聖夜。陸上部で、風紀委員だ。
香住も風紀委員だけど、お互い、何でも一緒になりたくて漣くんと香住で約束してたんだと。
まあお熱い。近くで見てるこっちが暑くなるね。
まあ、熱い…といえば、
私もこの前体が火照ったりはして…
『僕はいつでも君のそばに―――』
わあああああ!何思い出してんの私!バカバカ!
「凛世?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事。」
「ふうん?」
香住は、不思議そうに首を傾げた。
危なかったあ…。
「授業始めるぞー」
「起立、礼ー」
「「「お願いしまーす」」」
そして、今日も、いつもと変わらない一日が始まった。
「神名。教科書の2行目から朗読。」
「はい。"Hey, this locker isn't your locker, is it, Mike?" Iris told me so."Yes. This is―――」
「―――ねえ、凛世。」
放課後。
「何?」
「今日の英語、アイリスとマイクの会話のところ、ちょっと教えてよ。」
「いいよ。家来る?」
「行くー。」
変わらない一日…それは、放課後も。
最近は《GGO》やってるから、宿題や家事諸々が終わったらすぐダイブするつもりだったけど、ちょっと遅らせようかな。香住がわからないなら。
「お邪魔しまーす…ふう、相変わらず寂しいこと。テディベアの一匹や二匹くらい置きなさいよ。」
「いや、あんま変わんなくない…?というか、寂しさが増す気がするんだけど…?」
私の部屋に案内し、飲み物となけなしのお菓子を出す。
早速教科書とプリントを開いた香住と一緒に、私は勉強会を始めた。
「―――いやー、ありがとね!いつもなら一時間半かかるやつが30分で終わったよ!」
「香住…スペイン語ばっかりじゃなくて英語も勉強しよっか…」
英語を勉強してるのにスペイン語しか出てこない香住への教授を30分で終えた私は、すでにもう、げっそりだった。お礼に家事を手伝ってもらって、10分ほどでそれも終わったので、香住が行きたいと言っていたカフェでお茶中だ。
「にしても、あんたはいっつも髪型変わんないねー。降ろしてるだけじゃなくてもっとほかも試せばいいのに。」
「試してるよ?……ゲームの中で。」
「あれでしょ?《GGO》だっけ?それでもワンパターンなんじゃないの?い・い・ん・ちょ・う!」
「いや、髪型に学習委員長は関係ないでしょ…」
香住はまあ…色々と愉快な性格なので、呆れた声を出しつつも実は、こんな会話が楽しかったりする。じゃないと3年も一緒にいないしね。
「あ、見て、凛世。あそこに、すっごいイケメンがいるよ!まあ、聖夜には劣るけどっ。」
「はいはい、ごちそうさま。……で?ああ、あれ?うん、イケメンだねー。」
「なんですか、その棒読みは。まるで興味ないじゃんっ。折角あたしがいいイケメン見つけてあげたって言うのにさー。ちょっとは凛世も恋愛しなよっ。」
「って言われましてもねえ。」
香住が突然指さしたのは、私達から若干離れた席におじさんと座る一人の若そうな男の人。
どっちもスーツなあたり、2人とも社会人で、仕事の帰り…みたいな感じなんだろうけど…その場所がこういうちょっとしたカフェだとなんというか…シュールだ。
それに、今の私には現実のイケメンでキャッキャしてる余裕はないのだ。勘弁してくれ。
「香住だって、漣くんにしか興味ないくせに。」
「そりゃ勿論ねー?だってあたしの彼氏だよ?最高カッコいい我が彼氏だよ?」
「ふふふ、そうだね。」
ほら、すぐ惚気話するんだから。ラブラブだねえ…まあ、冷めてるカップル見てるより断然楽しいけどね。
「で?どうなのよ。」
「え?」
「《GGO》でなんかそういう恋愛とか起きてないわけ??」
「はっ⁉」
れ、れれれ蓮愛?はす如きにそんな愛はない…じゃなくて、こっちのれんあいじゃなくて、恋愛⁉
「あるわけないって!そもそも《GGO》はガンゲーだよ。」
「あー。その反応はあるやつだっ。」
「こらリア充。恋愛の先輩だからってなんでも自由に判断しないの。」
「ちぇー、ケチ。」
ぶすっとふぐのように頬をふくらませる香住。なんか可愛い。
くすくすと笑っていると、後ろから肩を叩かれた。
ん?何だろ?
振り返ると、さっき話題に上がっていたイケメンが真後ろにいた。
「―――ッ」
その顔が、一瞬知っている誰かに重なった気がした。
「これ。もしかして君のかな?」
「え、あ…私のです。ありがとうございます。」
その手には、さっきまで私のポケットにあったはずのティッシュが。
慌てて受け取り、ポケットにしまった。
……声…なんか…聞き覚えがあるような…?誰だ…。最近、よく聞いてるような…でも、わかんないなあ。気の所為かもな?
「……凛世…。」
「へっ、何?」
イケメンがニコッと笑って「よかった、じゃあ僕は失礼するよ」と自席へ戻っていった後、香住は私を真剣な面持ちで見つめた。
「あんた、少女漫画の主人公みたいだよ!!」
「…は?」
ああ、ちょっと色々考え事してて忘れてた。
香住って。こういう人だったよね…。
次へ続く
- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜6 ( No.9 )
- 日時: 2022/11/15 20:29
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
※これは、《ソードアート・オンラインフェイタル・バレット》の二次創作です。
そのため、ほんらいのSAOFBには存在しない物も出てきます。ご注意ください。
なんでもこい!という方はどうぞ。
香住と別れ、帰った後。
私は、急いでベッドに転がり込んだ。
「―――リンク・スタート」
目を開くと、一番にレイがお迎えしてくれた。
「あ、おかえりなさい、マスター!お待ちしていました!」
「ただいま、レイ。」
レイは、私を見るなり目をキラキラさせて詰め寄ってくる。
「あの!」
―――「ん、美味しい…」
「本当ですね!とても美味しいですっ。あむっ。」
レイは、私がいない間にアスナがお裾分けしてくれたチーズタルトをおやつにティータイムにしましょう、ということで目をキラキラさせていたようだ。
なんというか、好きなものがブレないところまで似てる、と他人事のように感じてしまう。
「でも、このチーズ、カフェのものより黄色なのでもっと好きです!」
「いや、関係なくない…?」
あれ、なんかこの会話、なんか似ているような…なんだろう?
『テディベアの一匹や二匹くらい置きなさいよ。』
『いや、あんま変わんなくない…?』
そうか……。現実での私と香住に似ているんだ。…ふふっ、だから居心地が良かったのかも。それに、レイもなんだかんだ言って香住と同じくらい優しいし。ユーモアがあるし。
私の記憶に基づいて成長してるのかなあ。わかんないけど、《GGO》ってすごいね…。
良い世界だ。
「……ん、この紅茶、いつもと違うね?」
「あ、気づきましたか?えっと…何でしたっけ。あーぐるれいてぃー…?」
「…ふふ、アールグレイティーのことだね?」
「あ、それです!アスナが作り方を教えてくれました。」
アールグレイティーは有名だから知ってるけど…あーぐるれいてぃーって…かわいい。
アールグレイティーは、ベルガモットの表皮から抽出した香油を中国系茶葉に吹き付けたフレーバーティーだそうだ。アスナが言ってたんだと。
「《GGO》にこんな優雅な要素があったなんて知りませんでした…」
「そうだね。チーズタルトを作れるっていうのも知らなかったし…。」
2人で驚いていると、ホームのドアがプシューと開いた。
「ん?」
「やあ、リノセ。今はティータイムかい?」
「あ、イツキ。やっほー。そうだよ。」
今までの流れを掻い摘んで説明すると、イツキはそうかと言って頷いた。
「そのティータイムの後でいいんだが…もうすぐSBCフリューゲルのアップデートだろう?そろそろ忘却の森を開放したほうがいいんじゃないかと思ってね。」
「あー、なるほど。確かに。わかった、この後行こう。ついてきてくれる?」
「勿論さ。」
本当に、色々考えてくれるなあ、イツキは。
イツキとレイと3人で集まるのは…シュピーゲルの件以来か…。あれからレイはイツキのホームに行った後のことは訊いてこないし、シュピーゲルも姿を見せてこないし。
ちょっと落ち着いてる感じなんだけど…。
まあ、今日はイツキがいるし…安心かな。
そう結論づけ、私達はアールグレイティーの続きを飲み始めた。
「あ、イツキもチーズタルトと、あーぐる…何でしたっけ?」
「アールグレイティー。イツキもどう?」
「いいのかい?じゃあ、お言葉に甘えて、もらおうかな。」
こんな会話をしながら。
「イツキッ、今!」
「了解。」
「レイ、ぶっ飛ばしちゃえ!!」
「はい、ぶっ飛ばします!」
笑顔でぶっ飛ばします!と言いながら銃を連射するレイは、こんな状況でもかわいい。似たようなことをクレハに言ったら、「全く、親バカと言うか、マスターバカなんだから…」と意味わからないことを呟いてやれやれと首を力なく降っていた。
首を傾げたら、「あんたにはわかんなくていいの」と言われた。解せぬ。
まあとにかく、レイはいつでも可愛い。これテストに出ます、どっかのテストに。多分。
「ふう…これで、廃道のダンジョンに入れるようになったはずだよね。」
「うん。この前地下鉄道施設跡Bは攻略したし、今、ミョルニルを倒したからね。解放されたはずだよ。」
「そっか、よかった。じゃあ、もう行っちゃおっか。」
「そうしよう。」
「はい!マスター!」
取得弾薬数増加で、弾を買わなくても、戦いで弾を補充できるようになってからは、格段に攻略効率が上がった。
とてもありがたい。
私のAMRブレイクスルー4++は、取得弾薬数増加、爆風攻撃力増加、装弾数増加、対機械攻撃力増加、対生物攻撃力増加、対人形攻撃力増加、射程増加の、レアリティがとても高い、こだわった一品。
この愛銃、有能すぎ。
まあ、これをおすすめしてくれたのはイツキなんだけどね。
そんなこんなで、どんどんダンジョンを進んでいき―――
「ゴッズペット、討伐完了ー!」
「やりましたね、マスター!」
フィールドボスを討伐し、忘却の森にたどり着いた。
「いやー、ゴッズペットだよ、ゴッズペット。神のペットだってよ?すごくない?」
「はい…!神様に嫌われちゃいそうです…!」
「まあ、その神が、『倒してください!』ってことで用意されたのがあいつだったんだけどね。」
「え、そうなんですか⁉じゃあ、嫌われませんか、マスター⁉」
「うん。嫌われないよ、大丈夫!」
「よかったあ…」
相変わらず、レイの純粋さには癒やされるよ。
「取り敢えず、疲れたし、そろそろSBCグロッケンに戻ろっか。君の幼馴染もログインしてきたみたいだし。」
「え?あ、ホントだ。クレハログインしてる。…そうだね、戻ろっか。」
そうして、私達は、ファストトラベルポイントを登録してから、SBCグロッケンに帰還したのだった。
数日後、現実にて。
「おはよう、香住。」
「おは凛世ー。」
「何、『おはりせー』って。」
「ん?おはよう凛世、の省略形。語呂いいでしょ。」
「おはようぐらい言えばいいじゃん。」
いつもどおり、香住と軽口を叩きながら登校した。
「そういえばさ、聖夜がさ―――」
こうして、今日も、いつもと変わりない日常が始まった。
……始まりは、いつもと変わりなかった。
始まりは。
この前のカフェで、一人で音楽を聴きながら、大学受験対策の赤本に取り組んでいると。
「……んー?これは…」
超難問!と題されたページの一番最後が解けない。他は解けたのに。これだけ。
「………あー、わっかんないっ。」
なんじゃこりゃー、と呟いて軽く頭を掻く。その拍子に、答えを書いていたルーズリーフがバサリと落ちた。
「あ。」
「はい、落ちたよ。」
「え?」
そして、すぐさま拾われるそれ。
見ると、この間ティッシュを拾ってくれたお兄さんだった。
「あれ?前もここで会ったよね?」
「はい。また落とし物を拾っていただいて…ありがとうございます。」
なんというか、2回も同じ場所で同じ人に落とし物を拾ってもらって申し訳ないと言うか面白いと言うか。なんか縁で繋がってたりするのかね。そういうのあんま信じないけど。
「いやいや。これもなにかの縁かもね。まあ、そういうの信じたこと無いけど。」
「あ、私も今、全く同じこと考えてました…!ふふふ…」
「ははっ、そうなのかい?不思議だね。」
そう言って、お兄さんはくすりと笑った。
………やっぱ誰かと似てるなあ。誰だっけ?
そう疑問に思ったが、お兄さんが話しかけてきたことですぐに忘れた。
「名前は何ていうの?」
「神名 凛世です。あなたは?」
「狭井 雪嗣だよ。よろしくね、凛世ちゃん。」
「はい。よろしくお願いしますね、狭井さん。」
にこりと微笑みあった。
なんか、この前会ったばかりの気がしないからか、私のことをすぐに行ってしまった。まあでも、この人がもし悪い人だったら唯葉に相談すればいいか。そう思い、私は狭井さんに訊いた。
「狭井さんは、どうしてここに?」
「ああ、この間は仕事の打ち上げに。今は、別の人と仕事の打ち上げに来てるんだ。」
「あ、お疲れ様です…?で、いいのかな。うん。」
狭井さんは、チラッと席が一つ開いているテーブルを見た。
そこには、一人、ちょっと太り気味のキャリアウーマンがいて、こちら…というより、私を睨んでいるのが見える。
「……彼女さん、ですか?」
半分冗談のつもりでこそっと訊くと、狭井さんも小声で「まさか。ただの同僚さ。あっちが誘ってきたんだ。」と言っていたずらに笑った。
「…っふ、そうでしたか。」
その顔につられて、私も少し笑った。
「君は、さっきは何を?」
「ああ、私も高3なので、受験勉強をしているんですけど。最後の1問だけ解けなくて。そこでちょっとモヤモヤしてたところです。」
「そうだったのか。」
それを聞くなり、狭井さんは私の向かいの席に腰を降ろした。
「……?えっと…狭井さん?」
「雪嗣」
「え?」
「僕のことは雪嗣と呼んでくれると嬉しいな。」
「雪嗣…さん?」
「あはは、で、なんだい?」
当たり前のように私の向かいで会話している狭…雪嗣さんに、私は首をこてんと傾けて訊いた。
「雪嗣さんのお席はあちらなのでは?」
「わからないんだろう?これでも要領はいいほうなんだ。教えてあげるよ。」
そう言って、雪嗣さんは、私が星マークをつけていた最後の問題を読み始めた。
そして、さっきまで雪嗣さんと一緒にいたキャリアウーマンさんの圧がすごい。消えろ!と怨念の声が聞こえる気がする。
あ、ごめんなさい、怨念だと死んだことになっちゃうね。
まあとにかく、ケンカはできるとはいえ、武力で解決しよう!みたいな脳筋ではないのだ、私は。普通に人を殺せそうな勢いの目の睨みでかけられている圧は嫌だ。私でも嫌だ。だから…
最後まで、雪嗣さんを止めることを諦めるわけにはいかん!
「あのっ、雪嗣さん。さっきから、一緒に来られたあの方の圧がすごいんですって。」
「心配ないよ。彼女には僕から言っておくから。ここ、教えてあげるから、安心して解くといい。」
「……はーい…」
反論する気などなかった。
「安心して解くといい」と雪嗣さんが言った瞬間、雪嗣さんの瞳が鋭く細められ、何かが危険なようなオーラ的なものを感じてからは。
本人も教えてくれるそうだし、ここはお言葉に甘えるとしよう。
そう思い、雪嗣さんの説明に耳を傾けて、私は驚いた。
雪嗣さんの教え方はとても上手だったのだ。簡潔でいてわかりやすい。要領がいいどころじゃなくてこれは…いや、この先は考えないでおこう。と、心のなかで感嘆の息が漏れまくりであった。
「あー、スッキリしたー!ありがとうございました!」
「いやいや。大丈夫さ。よかったよ、解けて。」
「…雪嗣さんは、なんでこの前会ったばかりの私にこんなにしてくれるんですか?」
不思議に思ったことをど直球で訊くと、彼は、はは、と軽く笑って答えてきた。
「んー、君といると楽しいから、かな。君と会ったときに感じたんだけどさ、楽しいな、って。久しぶりにワクワクしたんだ。だから、僕は君と一緒にいたいなって。」
「そ、そうですか…。それは…どうも?なのかな?」
なんでそう真剣にこんな赤面するようなことをサラッと言ってのけるのだろうかこの人は。
赤面するような、というかもう顔が熱いんだけど。こういう人なのか?こういうことをなんでも無いって思ってる罪な男なのか⁉
なんか恥ずかしいな。
「…と、いうことで。これからも仲良くしてくれると嬉しいな。」
寂し気に、されど獰猛な光を湛えながら、雪嗣さんは笑った。
「…わかりました。じゃあ、雪嗣さんと私は、今日からお友達ですね。」
その瞳が誰かに似ている気がして、また、私は断ることができなかった。
それから、連絡先を交換した私達は、プライベートでもよく会うようになった。
まあ、周りの視線がすごいことこの上ないが、それを忘れるほど、毎回楽しませてくれるので、私も雪嗣さんとの時間が楽しみの一つになりつつあった。
「―――あ、凛世さんじゃないの。」
「え?」
それから1,2周間が過ぎた、土曜日。一人で、香住への誕生日プレゼントを買い終えて満足気にアイスを頬張っていると、私はとある人に再会した。
―――イツキ Said―――
今日、僕は《GGO》にて、リノセの部屋に向かっていた。
最近、僕がリノセにゾッコン…執着しているのは、鈍感なリノセと純粋で“そういう感情”を理解していないアファシス以外のメンバー全員が気付いていることだが。
今日は何しようか、と考える暇もなく、リノセがログインしていることを確認してリノセのホームに向かっているのはいつものことだ。
僕がリノセのホームに入ると、リノセは真っ先に振り返ってきた。
「ん?」
その手には、アファシスが淹れたと思われる紅茶と、チーズタルトが乗ったフォーク。
「やあ、リノセ。今はティータイムかい?」
「あ、イツキ。やっほー。そうだよ。」
リノセは、アスナにアファシスがもらったらしいチーズタルトを食べていることを教えてくれた。
「そのティータイムの後でいいんだが…もうすぐSBCフリューゲルのアップデートだろう?そろそろ忘却の森を開放したほうがいいんじゃないかと思ってね。」
「あー、なるほど。確かに。わかった、この後行こう。ついてきてくれる?」
「勿論さ。」
すんなりと、リノセと一緒にいるための理由を受け入れてくれるリノセ。
本当に、君はお人好しだな。
そう思いながらも、安心する自分もいた。
「あ、イツキもチーズタルトと、あーぐる…何でしたっけ?」
「アールグレイティー。イツキもどう?」
「いいのかい?じゃあ、お言葉に甘えて、もらおうかな。」
今日も間違えるアファシスに訂正を加え、リノセは持っていたチーズタルトをそのまま差し出してきた。
チーズタルト、好きな味だと思うけど、一応味見。そう言って差し出してくるリノセ。
僕は心のなかで笑いつつ、そのままチーズタルトを口に含んだ。
甘いのは好きではないけど、今回は、とても美味しく感じた。
「―――おつかれ、イツキ!」
「お疲れ様。ナイスファイトだったね。」
うん!と言いながらキラキラと笑顔を振りまいて、リノセは頷いた。
SBCグロッケン、リノセの部屋。
この前の御礼にと言われて、今度は苦めのビターチョコケーキをいただくときに、ついでに乾杯した。
「今日はありがとね、イツキ!」
「いやいや。力になれてよかったよ。」
アファシスがクレハと相談があるとかなんとかで席を外している今は、2人きりだ。
「もうすぐアップデートだね!楽しみだなあ…!レイのお母さんでしょ?会ってみたいなあ…。」
「そうだね…。一体、どんなものが来るのか楽しみだ。」
2人で談笑しながらケーキを食べる。
すると、リノセの口元にケーキのクリームが付いているのが見えた。
僕は徐に手を伸ばしてそれを取り―――本能的になんとなく、ただそうしたいと思うがままに、それを口に入れた。
「クリーム、ついてたよ」
「…ッ」
すると、リノセは、ケーキの上に乗るいちごのように顔を赤くして視線を暴れさせ、口をパクパクし、可愛くわたわたした。
「………ッ⁉」
その瞬間…また、胸から何かがあふれる感覚がして、同時に…その何かの正体に気付いた。
「……ん、どうしたの、イツキ?」
「いいや。なんでも。」
慌てて平静を装い、笑いかけた。
―――思いもしなかった。
僕が、君を好きになるなんて。
君を、君だけを、欲するなんて。
―――イツキ Said End―――
- フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜7 ( No.10 )
- 日時: 2022/11/17 18:03
- 名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)
※これは《ソードアート・オンラインフェイタル・バレット》の二次創作です。
そのため、実際にSAOFBには出てこないものもございます、ご注意ください。
この話はだいぶリアル編が多くなると思います。許して下さーい
「あ、凛世さんじゃないの。」
「え?」
土曜日の今日。私は、とある人と再会した。
「……っ師匠…⁉」
その人は、私の師匠。今はもう卒業した弓道の道場の講師である。
背が高く、美人で、大人っぽくて、美女の鑑みたいな存在。私の憧れ。
もともと、弓道は大人っぽさに憧れて始めたんだけど。身長があまり伸びないまま卒業しちゃって。
「ちょうどよかった!ちょっと頼まれてくれないかしら⁉実は…」
「―――うわあ…本当、何も変わっていませんね…。」
「そうでしょ?ええ、変えてないの。思う存分見ていって。それと、今日の、頼むわよ?」
「はい、任せてくださいねっ。」
師匠から頼まれたのは、次のようなことだ。
今日、とあるお偉いさんが、この道場に何年ぶりかに来るそうだ。その、この道場への補助金を賭けてね。もし向上が見込めそうだ、ここは無駄ではない、とそのお偉いさんが感じたなら、補助金が出るそうだ。今、ここは弓や矢の調達・的の修復にお金をかけていて、他の設備に費用があまり出せず困っているので、補助金はどうしても欲しいそうだ。
でも、今日は殆どの生徒はお休みだし、いる生徒の中から選ぶにしても適任が一人二人しかいないそうだ。お偉いさん側からは3人を要求されているらしい。
で、卒業生としてならなんとかなるでしょ、ということで、私が来たのだ。
「あー!凛世さん!お久しぶりです!」
すると、袴姿の女の子に声をかけられた。
黒髪ミディアムで、それをひとつ結びしている、元気っ子系の女の子。私の後輩だった子だ。
名前は英莉。
「え、マジ⁉凛世さん来てんの⁉」
そう言いながら襖を開けてこっちに来たのは、またしても私の後輩だった、ツンツン黒髪の男の子。
名前は裕介。
「わー!本物だ!久しぶりっす!」
反応がオーバーなのは相変わらずのご様子で。
「久しぶり。」
「今日の補助金かかったやつ、凛世さんも出てくれるんですか⁉」
どうやら、この2人が今日のお偉いさん試験の他の2人のようだ。
「うん。私の思い出が詰まった道場のためだしね。久しぶりに弓道やりたいし。」
私がそう言って頷くと、2人は両手を挙げて喜んでくれた。
「よっしゃ!また凛世さんとできるんだ!」
「やったー!よし、張り切っちゃおー!」
「え、いつも張り切ってよ…?」
とまあ、愉快なのはお決まりだよね、もう。
私、なんだかんだ言って、愉快なところが好きなのだ。だから、私が行きたいと思うのはいつも、愉快なところ。ここも、暖かい場所だ。
「うわー、凛世さんの袴姿ひっさしぶりに見たー!」
「なんか、そうオーバーに言われると照れくさいんだけど…。」
袴に着替え、黒髪をポニーテールに縛った。久しぶりの袴の感覚に、なんだか、《GGO》にいるときみたいにワクワクする。
「ホントだー!相変わらず似合ってますっ。」
「うふふ、ありがとう。」
でも、ちょっとよく考えてほしい。
2人とも、私より2,3年年下である。にも関わらず、私より身長高いとはどういうことだ。
しかも見るだけなら私が年下に見えるが、会話内容は明らかに私のほうが年齢が上なのである。…いや、間違ってもジェネレーションギャップがどうとかではなく、単純に会話からわかる精神年齢的な話で。つまり、とてもややこしい。
一番の解決策は、私の身長が伸びることなんだけど…なんで伸びてくれないかな。
相変わらず155センチの我が背丈を恨みつつ、なんとも成長している2人に優しく笑顔を送った。
まあ色んな意味で成長してるけど…。逆恨み的なことはしないよ?うん。
「じゃあ、お客様が来るまであともう少しあるし、ちょっと射ってみようかな。」
「「是非!」」
道場の矢を射るところに来て、早速始めた。
勿論、始めるときの礼儀は欠かさずに。
「…すう…」
ギリギリと屋を引っ張り、位置を調整する。
ああ、そうだ。この感じ…懐かしい。
ちょっと風があるな…。うん、ちょっと左にずらしたほうがいいかも。
………今だ。
ヒュッ…と矢が空気を切り、ドスッと的に当たった音がした。
取り敢えず当たりはしたな…と思っていると、「まじかよ⁉すげー!」とか「さっすが!」とか、「わあ、変わんないわね…」とか聞こえてきた。
ん?と思って目を開けて的に目を向けると…
「…ッ⁉」
矢は、的の中央を射っていた。
うわあ……久しぶりだけど、できた………。
できた…久しぶりに…ああ、そうだった。これが中を射る嬉しさか、懐かしいな。
あの頃…
『ししょー!すごく近く射った!』
『え⁉凛世さん、まだ小6よね⁉すごい…』
なんて、ニコニコしていたっけ…。
あの小学校高学年時代の私にとって、ここは唯一ゆっくりできる、大切な場所だった。
だから、ここにいれる理由になる弓道が、好きだったんだよね。
好く理由は最初はちょっとアレだったけど、やってるうちに、あ、これおもろい。ってなってきて、いつの間にか大好きになってた。
懐かしい…ああ、戻ってきたみたいだ、あの頃の楽しさが。いや、今も生活は楽しいし、むしろ今のほうが幸せなのは事実だけど。
卒業してしまった弓道をやれるのが、私にとって予想以上にワクワクすることだったみたい。
「さあ、もうすぐ来る時間よ。準備しましょう。」
「「「わかりました、師匠!」」」
そして、間もなく、そのお偉いさんとやらが到着した。この木の空間に、スーツの匂いが流れ込んでくる。
私達は、お客様が入ってくるなりお辞儀をした。
「今回は、現生徒2名、卒業生1名の弓道をお見せします。」
その言葉と同時に私達は姿勢を正し、まず、英莉が立ち上がる。
お客様は私の死角のところに座っているため、見えない。まあ、それはお客様も同じなわけだけど。
どんな人だろう、という疑問も浮かんだが、今は精神統一が大事なので、目を瞑って深呼吸。
「この子は神崎 英莉と言います。女性生徒のエースです。」
その言葉の後に、ドスッという、的を射る音が聞こえた。
流石は英莉。
真ん中の少し下の部分を射っていた。
ちょっと上に構える必要があったかな。前は更に右にもずれてたけど、今はただちょっと下なだけだし…頑張ってるんだね。
私が感動していると、英莉と交代で裕介が立った。
「この子は東雲 裕介。男子生徒のエースです。」
そして、真剣な目で静かに、裕介は的の少し左を射った。
…裕介も成長したなあ。
裕介は、前まで斜め左下を射っていたのだ。それが、こんなに英莉と同じく、こんなに近づいている。
流石裕介。流石、私の大好きな後輩。
さて…今度は、私の番。
すっと立ち上がり、静かに歩む。
お客様の方向から息を呑むような音が聞こえたが、まあ、どうせ予想に反してちっちゃいからだろう。
まあいい。いつも通りに―――
楽しもう。
「この子は神名 凛世。卒業生トップの腕前の子です。」
いやあ、照れるなあ…という弓道に要らない思考を頭の隅に追いやり、弓を構え、少し調整してから目を閉じた。
風は…さっきよりも弱い…。なら…ここかな。
ドスッ、と音がして、英莉や裕介の「!」という声にならない声も聞こえ、私はゆっくり目を開ける。
さっきと同様、矢は中心を射っていた。
私達は、その後すぐに補助金の話を始めるであろう師匠とお客様達を気遣って退出するべきなので、3人で礼をして退出していった。
そして、休憩部屋に入るなり。
「いやー、流石ですね、凛世さん!」
「ほんと!あの緊張した空気の中で本来の実力を発揮できるところとか!私、さっきは上手くいったけど、いつもは緊張しちゃって上手くできないんですよ―。」
2人は、これでもかと私を褒めてくれた。
「んー…それは、背負い過ぎだと思うよ?」
「え?」
私は、苦笑して実は、と言った。
「私さ、この道場のために矢を射ったの、今日が初めてなの。いつもは、私が楽しむため…私のために射っているようなものでさ。それに、緊張してる今こそ気を張って…とかずっと考えてたら逆に緊張しちゃうし。そんなのお構いなしに楽しんじゃおう、って思っちゃうけどな、私は。」
それを聞いて、2人は目を見開いた。
「あー…確かに。ちょっとエースってことに臆病になって、ちょっと背負いすぎてましたね…。」
「俺も。エースってだけでまだまだ上はいるのに、なんか生意気でした!」
ありがとうございます!と目をキラキラさせる2人。なんか、そのキラキラがレイに似ている気がして、思わずくすっと笑ってしまった。
全くもう、私の周りには、キラキラしてる人がいっぱい。幸せだな…。
そう思わずにはいられなかった。
暫くして、突然、師匠が襖を開けて休憩部屋に入ってきた。
「凛世さん、ちょっと来て!お客様がお呼びなの!」
「え…?」
「連れて参りました。」
「ああ、ありがとう。」
師匠に返事したその声に聞き覚えがありすぎて、私は目を見開いてお客様を見た。
その姿は、最近よくプライベートでも一緒にお出かけしたり、お茶したりする中のイケメンさんで。
いや…社会人なのは知ってたけど…お偉いさんだなんて聞いてなかったな…。
「―――雪嗣、さん…?」
「やあ、驚いたよ。まさか君が、この道場の卒業生トップだなんてね。」
「あははは、私も。まさか今日来ると聞いたお客様が雪嗣さんだなんて、驚きました。」
そう言うと、師匠は首を傾げた。
「あれ?お友達?」
「はい。お友達です。」
「そうだね、お友達だ。」
ちょっとおちゃらけた言い方に、2人でくすりと笑う。
ああ、雪嗣さんといると、なんだか心地良いな。まるで、《GGO》にいるみたいに。
「だからこそ、君から弓道の話は聞いたことなかったから、とても驚いたよ。」
「いやー、卒業したのは中学校入学のときだったので、ちょっと頭にありませんでした。」
「え、それ仮にも師匠の私の前で言う?」
「あ、今のナシで。」
そう。弓道は、《SAO》に入る前に卒業していた。「もう教えることはないです」なんて言われて。
まあ、その頃は私の家庭が家庭だったから、どうしてもここに長居したくて、めちゃくちゃ練習してたからしょうがなかったんだけど。
卒業を告げられた時は、ちょっと悲しかったなあ…。
「にしても、僕がそういう立場の人と知っても、接し方が変わらないんだね、君は。」
「あれ?変わってほしかったですか?お望みとあらば思いっきり変えますけど。」
「あはは、そのままが一番いいよ。それが嬉しいって話だ。」
「ふふふ、勿論わかってますよ。」
あまりにも仲がいいので、師匠も困惑しまくり。
「ええっと…。凛世さんたちは、どれくらい仲良しなの?」
「ん?ちょくちょくご飯に行く仲…?ですかね?」
「そうだね?」
「そんなに仲良かったのね、凛世さん…。いつの間に、こんな方と…。」
そういえば、雪嗣さんってどんな地位の方なんだろ?お偉いさんとは聞いているけど…。
まあいいや。そのうち訊くことにしよう。
「いつの間にって言っても、今日再会したばかりですよね?まあ、雪嗣さんと会ったのも結構最近ですけど…。」
「そうだね。数週間前だね。だけど、とても馴染んでいるよ。」
「ですね!」
2人でニコニコしていると、師匠は「そ、そう…」と言って少し狼狽えたような顔でパチパチと瞬きをした。
「まあじゃあ、私、そろそろ帰りますね?」
「あら、もう?」
受験勉強も《GGO》もあるし、そろそろ行こうかと思って言うと、師匠は残念そうな顔をした。
「はい。また来てもいいですか?ここ、やっぱり好きで。」
「ええ、勿論。いつでも来るといいわ。あと…来るついでに、生徒のみんなにお見本もお願いしたいわ。」
「あはは、じゃあ、今度からそうしますね。じゃあ、ありがとうございました。」
「こちらこそ。じゃあねー!」
「雪嗣さんも、また会いましょうね。」
「ああ。また一緒に出かけよう。」
「はいっ。じゃあ、失礼します。」
私はそう言って道場から出た。
ああ…楽しかった。
さて…受験勉強と家事と…終わったら《GGO》にダイブしよう。
レイや、イツキや、キリトたちが…みんなが待ってる。
頬をほころばせつつ、私は家に向かって走り出した。
雪嗣さんがそんな姿を熱の籠もった目で見つめてきているなど、知る由もなく。
次へ続く
5話目のイツキSideを少し修正しました。ご確認ください。
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