二次創作小説(新・総合)

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フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜
日時: 2022/11/15 22:17
名前: イナ (ID: 8GPKKkoN)


注意!!!
読むのが最初の方へ
ページが増えています。このままだといきなり1話のあと6話になるので、最後のページに移動してから読み始めてください。



※これは《ソードアート・オンライン フェイタル・バレット》の二次創作です。
イツキと主人公を恋愛でくっつけるつもりです。苦手な方はUターンお願い致します。
原作を知らない方はちょっとお楽しみづらいと思います。原作をプレイしてからがおすすめです。
どんとこい!というかたはどうぞ。


「―――また、行くんだね。あの“仮想世界”に。」

《ガンゲイル・オンライン》、略して、《GGO》。それは、フルダイブ型のVRMMOである。
フルダイブ型VRMMOの祖、《ソード・アート・オンライン》、《SAO》。
私は、そのデスゲームに閉じ込められたプレイヤーの中で、生き残って帰ってきた、《SAO帰還者サバイバー》である。
《SAO》から帰還して以来、私はVRMMOとは距離をおいていたが。

『ねえ、《GGO》って知ってる?』

私、神名かみな 凛世りせは、幼馴染の高峰たかみね 紅葉もみじの一言によって、ログインすることになった。
幼い頃に紅葉が引っ越してから、疎遠になっていた私達。その紅葉から、毎日のようにVRで会えるから、と誘われたVRMMO。行かないわけにはいかないだろう。大好きな紅葉の誘いとあらば。
ベッドに寝転がって、アミュスフィアを被る。
さあ、行こう。
“仮想世界”…………もう一つの現実に。

「―――リンク・スタート」

コンソールが真っ白な視界に映る。
【ユーザーネームを設定してください。尚、後から変更はできません】
迷いなく、私はユーザーネームを【Linose】……【リノセ】にした。
どんなアカウントでも、私は大抵、ユーザーネームを【リノセ】にしている。
最初にゲームをしようとした時、ユーザーネームが思いつかなくて悩んでたら、紅葉が提案してくれたユーザーネームである。気に入っているのだ。
―――でも、《SAO》では違った。
あの時、【リノセ】にしたくなかった理由があり、《SAO》では【リナ】にしていた。
凛世のりと、神名のなを反対に読んで、リナ。それが、あそこでの私だった。
でも、もういいんだ。私は【リノセ】。

コンソールがアバター設定に切り替わった。
普通の人なら誰?ってほど変えるところだけど、私は《SAO》以来、自分を偽るのはやめにしていた。とは言っても、現実とちょっとは変えるけど。
黒髪を白銀の髪に変え、褐色の瞳を紺色にする。おろしていた髪を編み込んで後ろに持っていった髪型にした。
とまあ、こんな感じで私のアバターを設定した。顔と体型はそのままね。
…まあ、《GGO》に《SAO帰還者サバイバー》がいたらバレるかもしれないけど…そこはまあ大丈夫でしょ。私は、PKギルドを片っ端から潰してただけだし。まあ、キリトがまだ血盟騎士団にいない頃、血盟騎士団の一軍にいたりはしたけれども。名前は違うからセーフだセーフ。
ああ、そういえば…《SAO》といえば…懐かしいな。

     
―――霧散むさん

それが、《SAO》時代に私につけられていた肩書だった。
それについてはまた今度。…もうすぐ、SBCグロッケンに着く。
足が地面に付く感覚がした。
ゆっくり、目を開く。
手のひらを見て、手を閉じたり開いたりした後、ぐっと握りしめた。
帰ってきたんだ。ここに。
「―――ただいま。…“仮想世界”。」

「お待たせっ。」
前方から声をかけられた。
「イベントの参加登録が混んでて、参っちゃった。」
ピンクの髪に、ピンクの目。見るからに元気っ子っぽい見た目の少女。
その声は、ついこの前聞いた、あの大好きな幼馴染のものだった。
「問題なくログインできたみたいね。待った?」
返事のために急いでユーザーネームを確認すると、少女の上に【Kureha】と表示されているのがわかった。
―――クレハ。紅葉の別の読みだね。
紅葉らしいと思いつつ、「待ってないよ、今来たとこ。」と答えた。
「ふふ、そう。…あんた、またその名前なわけ?あたしは使ってくれてるから嬉しいけど、別に全部それ使ってとは言ってないわよ?」
クレハは、私の表示を見てそう言った。
「気に入ってるの。」
《GGO》のあれこれを教えてもらいながら、私達は総督府に向かった。
戦闘についても戦闘の前に大体教えてもらい、イベントの目玉、“ArFA system tipe-x"についても聞いた。
久しぶりのVRMMO…ワクワクする。
「あ!イツキさんだ!」
転送ポート近くにできている人だかりの中心を見て、クレハが言った。
「知ってるの?」
あの人、《GGO》では珍しいイケメンアバターじゃん。
「知ってるっていうもんじゃないわよ!イツキさんはトッププレイヤーの一員なのよ!イツキさん率いるスコードロン《アルファルド》は強くて有名よ!」
「…すこーど…?」
「スコードロン。ギルドみたいなものね。」
「あー、なるほど。」
イツキさんは、すごいらしい。トッププレイヤーなんだから、まあそうだろうけど。すごいスコードロンのリーダーでもあったんだね。
「やあ、君たちも大会に参加するの?」
「え?」
なんか、この人話しかけてきたよ⁉大丈夫なの、あの取り巻き達に恨まれたりしません?
「はい!」
クレハ気にしてないし。
「クレハくんだよね。噂は聞いているよ。」
「へっ?」
おー…。トッププレイヤーだもんなあ…。クレハは準トッププレイヤーだから、クレハくらいの情報は持っておかないと地位を保てないよねえ…。
「複数のスコードロンを渡り歩いてるんだろ。クレバーな戦況分析が頼りになるって評判いいよね。」
「あ、ありがとうございます!」
うわー、クレハが敬語だとなんか新鮮というか、違和感というか…。
トッププレイヤーの威厳ってものかね。
「そこの君は…初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」
「あ、はい。私はリノセ!よろしくです!」
「リノセ、ゲームはめちゃくちゃ上手いけど、《GGO》は初めてなんです。」
「へえ、ログイン初日にイベントに参加するとは、冒険好きなんだね。そういうの、嫌いじゃないな。」
うーん。冒険好き、というよりは、取り敢えずやってみよー!タイプの気がする。
「銃の戦いは、レベルやステータスが全てではない。面白い戦いを―――期待しているよ。それじゃあ、失礼。」
そう言って、イツキさんは去っていった。
「イツキさんはすごいけど、私だってもうすぐでトッププレイヤー入りの腕前なんだから、そう簡単に負けないわ!」
クレハはやる気が燃えまくっている様子。
「ふふ、流石。」
クレハ、ゲーム好きだもんなあ。
「さあ、行くわよ。準備ができたらあの転送ポートに入ってね。会場に転送されるから。」
―――始めよう。
私の物語を。

大会開始後、20分くらい。
「リノセ、相変わらず飲み込みが早いわね。上達が著しいわ!」
ロケランでエネミーを蹂躙しながらクレハが言った。
「うん!クレハのおかげだよ!」
私も、ニコニコしながらエネミーの頭をぶち抜いて言った。
うん、もうこれリアルだったら犯罪者予備軍の光景だね。
あ、銃を扱ってる時点で犯罪者か。
リロードして、どんどん進んでいく。
そうしたら、今回は運が悪いのか、起きて欲しくないことが起きた。
「おや、君たち。」
「……イツキさん。」
一番…いや、二番?くらいに会いたくなかったよ。なんで会っちゃうかな。
…まあ、それでも一応、持ち前のリアルラックが発動してくれたようで、その先にいたネームドエネミーを倒すことで見逃してくれることになった。ラッキー。
「いくわよ、リノセ!」
「うん!」
そのネームドエネミーは、そんなにレベルが高くなく、私達2人だったら余裕だった。
うーん…ニュービーが思うことじゃないかもしれないけど、ちょっとこのネームド弱い。
私、《SAO》時代は血盟騎士団の一軍にも入ってたし。オレンジギルド潰しまくってたし。まあ、PKは一回しかしてないけど。それでも、ちょっとパターンがわかりやすすぎ。
「…終わったわね。」
「うん。意外と早かったね?」
「ええ。」
呆気なく倒してしまったと苦笑していると、後ろから、イツキさんが拍手をしてきた。
「見事だ。」
本当に見事だったかなあ。すぐ倒れちゃったし。
「約束通り、君たちは見逃そう。この先は分かれ道だから、君たちが選んで進むといい。」
え?それはいくらなんでも譲り過ぎじゃないかな。
「いいんですか?」
「生憎、僕は運がなくてね。この間、《無冠の女王》にレアアイテムを奪われたばかりなんだ。だから君たちが選ぶといい。」
僕が選んでもどうせ外れるし。という副音声が聞こえた気がした。
「そういうことなら、わかりました!」
クレハが了承したので、まあいいということにしておくけど、後で後悔しても知らないよ。
「じゃあリノセ、あんたが選んでね。」
「うん。私のリアルラックを見せてあげないと。」
そして私は、なんとなく左にした。なんとなく、これ大事。

道の先は、小さな部屋だった。
奥に、ハイテクそうな機械が並んでいる。
「こういうのを操作したりすると、何かしら先に進めたりするのよ。」
クレハが機械をポチポチ。
「…え?」
すると、床が光り出した。出ようにも、半透明の壁のせいで出れない。
「クレハ―――!」
「落ち着いて!ワープポータルよ!すぐ追いかけるから動かないでー!」
そして、私の視界は切り替わった。

着いたのは、開けた場所。戦うために広くなっているのだろうか。
「………あ。」
部屋を見回すと、なにかカプセルのようなものを見つけた。
「これは…」
よく見ようとして近づく。
すると。
「―――っ」
後ろから狙われている気がしてバッと振り返り、後ろに飛び退く。
その予感は的中したようで、さっきまで私がいたところには弾丸が舞っていた。
近くのカプセルを掴んで体勢を立て直す。

【プレイヤーの接触を確認。プレイヤー認証開始…ユーザーネーム、Linose。マスター登録 完了。】

なんか聞こえてきた気がした機械音声を無視し、思考する。
やっぱり誰かいるようだ。
となると、これはタッグ制だから、もうひとりいるはず。そう思ってキョロキョロすると、私めがけて突っ込んでくる見知った人物が見えた。
キリト⁉まさか、この《GGO》にもいたの…⁉ガンゲーだから来ないと思ってたのに。まあ、誰かが気分転換に誘ったんだろうけど。ってことは、ペア相手はアスナ?
うっわ、最悪!
そう思っていると、カプセルから人が出てきた。
青みがかった銀髪の女の子で、顔は整っている。その着ている服は、まるでアファシスの―――
観察していると、その子がドサッと崩れ落ちた。
「えっ?」
もうすぐそこまでキリトは迫っているし、ハンドガンで攻撃してもどうせ弾丸を斬られるだろうし、斬られなくてもキリトをダウンさせることは難しい。
私は無理でも、この子だけは守らなきゃ!
そう考える前に、もう私の体は女の子を守っていた。
「マスター…?」
「―――っ!」
その女の子が何かを呟くと、キリトは急ブレーキをかけて目の前で止まった。
「…?」
何この状況?
よくわからずにキリトを見上げると、どこからか足音が聞こえた。
「…っ!ちょっと待ちなさい!」
クレハだ。
照準をキリトに合わせてそう言う。
「あなたこそ、銃を降ろして。」
そして、そんなクレハの背後を取ったアスナ。
やっぱり、アスナだったんだね、私を撃とうとしたのは。
一人で納得していると、キリトが何故か光剣をしまった。
「やめよう。もう俺たちは、君たちと戦うつもりはないんだ。残念だけど、間に合わなかったからな。」
「間に合わなかった?何を言っているの?」
クレハが、私の気持ちを代弁する。
「既にそこのアファシスは、彼女をマスターと認めたようなんだ。」
………あ、もしかして。
アファシスの服みたいなものを着ているなーと思ったら、この子アファシスだったの?
というか、マスターと認めた…私を?
あー…そういえば、マスター登録がなんとかって聞こえたような気がしなくもない。
うん、聞こえたね。
あちゃー。

「ええええ⁉」
この子がアファシス⁉と驚いて近づいてきたクレハ。
「ねっ、マスターは誰?」
「マスターユーザーネームは【Linose】です。現在、システムを50%起動中。暫くお待ち下さい。」
どうやら、さっきカプセルに触れてしまったことで、私がマスター登録されてしまったようだ。やっちゃった。……いや、私だってアファシスのマスターになる、ということに対して興味がなかったといえば嘘になるが。クレハのお手伝いのために来たので、私がマスターとなることは、今回は諦めようと思っていたのだ。
―――だが。
「あんたのものはあたしのもの!ってことで許してあげるわ。」
クレハは、からかい気味の口調で言って、許してくれた。
やっぱ、私はクレハがいないとだめだね。
私は改めてそう思った。
クレハに嫌われたらどうしよう、大丈夫だと思うけど万が一…と、さっきまでずっと考えていたからだ。
だから、クレハ。自分を嫌わないで。
クレハもいなくなったら、私―――
ううん。今はそんな事考えずに楽しまなきゃ。クレハが誘ってくれたんだから。
「私はクレハ。よろしくです!」
「リノセ。クレハの幼馴染です!」
「俺はキリト。よろしくな、リノセ、クレハ!」
「アスナよ。ふたりとも、よろしくね。」
自己紹介を交わした後、2人は優勝を目指して去っていった。
きっと優勝できるだろう。あの《SAO》をクリアした2人ならば。
私はその前に最前線から離脱しちゃったわけだし、今はリナじゃないし、2人にバレなくて当然というか、半分嬉しくて半分寂しい。
誰も私の《SAO》時代を知らないから、気付いてほしかったのかもしれない―――
「メインシステム、80…90…100%起動、システムチェック、オールグリーン。起動完了しました。」
アファシスの、そんな機械的な声で私ははっと我に返った。
「マ、マスター!私に名前をつけてくださいっ。」
「あれ?なんか元気になった?」
「えっと…ごめんなさい、そういう仕様なんです。tipe-xにはそれぞれ人格が設定されていて、私はそれに沿った性格なんです。」
「あ、そうなんだ。すごいね、アファシスって。」
じゃあ、このアファシスはこういう人格なんだね。
「名前、つけてあげなさいよ。これからずっと連れ歩くんだから。」
「うん。」
名前…どうしようかな。
この子、すごく綺麗だよね…綺麗…キレイ…レイ。レイ…いいじゃん。
「レイ。君はレイだよ。」
「レイ...!登録完了です。えへへ、素敵な名前をありがとうございます、マスター。」
アファシス改め、レイは嬉しそうに笑った。
「…リノセ、あんた中々センスあるじゃん。あのときはずっっと悩んでたっていうのに。」
クレハが呆れたように言った。まあ、いいでしょ。成長したってことで。
「えと、マスター。名前のお礼です。どうぞ。」
レイは、私に見たことのない銃を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
受け取って訊いてみると、レイはニコッとして答えた。
「《アルティメットファイバーガン》です。長いので、《UFG》って呼んでください。」
《UFG》……何かレアそう。
また、大きな波乱の予感がした。

次へ続く

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.72 )
日時: 2024/10/17 10:12
名前: 水城イナ (ID: gYh1ADSg)

サヤトが、ゆっくりと立ち上がる。
どう動けばいいかわからない私に対して、サヤトは遠慮なく歩み寄ってきた。

「リナ」
「……っごめんね」

私は瞳が潤むのを感じた。
またか。また涙が出るのか。
くっそ、VRの感情探知はこれだから厄介だ。
そう心の中で悪態をつきながら、私は続ける。

「私は……《SAO》で、人を……殺したから」
「……」
「だから、サヤトの相棒には相応しくないって…私が隣にいる資格ないって、思って」
「……リナ」
「だから……サヤトの前から―――……」
「リナ!」

サヤトは私に勢いよく抱きついてきた。
言葉を遮るようなその行動に、思わず驚いて呆けてしまう。

「馬鹿リナ」
「……」
「相棒に相応しくないのかは僕が決める。きみに隣にいる資格があるかどうかは僕が決める。それはきみ1人で判断することじゃない」

サヤトは饒舌に語った。
どれほど想いを積み重ねて《SAO》を過ごしたか、思い知らされる。

「僕は、きみが1人殺した程度で離れて欲しいなんて思わない。だってきみの行動には意味があって、想いがあって、無駄なことなんてあるはずがないんだから」
「……!」
「話して欲しかった。そうすれば僕も背負ったのに。そうして、2人で攻略できたのに―――」
「―――ごめんね、サヤト」

私はついに涙を零した。
今まで堪えていたというわけじゃないけど、溢れるそれをもう止められはしなかった。

「……ありがとう」
「…………泰嗣」

後ろから、イツキの声が聞こえた。
そしてベリっと私たちを剥がして、私を背後から抱きしめる。

「そろそろいいかな。感動の再会とはいえ、双子の兄に恋人を抱きしめられるのは嫌なんだけど」
「……っ」

イツキの吐息が思ったより近い。
突然の接近に、文字通り息を呑む。

「やっと会えたと思ったら双子の弟に相棒を取られている兄の気持ちも考えてくれないかい?」
「それは可哀想だ、でも残念。僕は彼女を離すわけにはいかなくてね」
「問題ないよ、それなら僕が奪い返すまでだからね」
「何をやっても無駄さ。彼女の恋人はこの僕だ」

……な、なんか変な方向に話がズレているような!?
どうすべきかたっぷり30秒考えつつ待ってみたが、外れた路線の話は一向に終わらない。
なんてこった。

「ゔゔんっ」
「!」

私が咳払いをすると、ようやく2人は止まってくれた。

「私ちょっと、アカツキのところ行ってくる」

そう言いながらイツキの腕から抜け出して、2人を振り返る。
2人は私のほうをなんとも言えない表情で見つめていた。
そんな顔されてもなあ。目の前で反応に困る喧嘩をするほうが悪い。

「……喧嘩はダメだよ?」

私はそう釘をさして、後ろ髪を惹かれつつも、アカツキたちのもとに急いだ。


****


「アカツキ!」
「ようリナ、久しぶりだな」
「……よかった、記憶戻ったみたいだね」
「お陰様で」

アカツキはニッと笑ってくれた。
アカツキの近くには当然アカがいたが、アカはとても気まずそうだ。

元々、アカ―――妹のほうの、生きているアカは兄の、《SAO》で死んでしまったアカツキを尊敬している。
今の彼女がアカツキというプレイヤーネームなのも、顔が《SAO》のアカツキと酷似しているのも、そのリスペクトからだ。
そして多分。
……自分が彼に庇われて生きているということを、忘れないように。

「……なあ、優斗」
「―――……」

アカツキは、彼の妹を、その名で呼んだ。
1度だけ、私は2人の現実リアルの話を聞いたことがある。
そのときに、2人の名前を教えてもらった。
優斗は男の子のような振る舞いをする彼女の名前であり、《SAO》時代のプレイヤーネーム「ユト」のもと。

「何気まずそうにしてんだよ。久しぶりの再会だろ?」

アカツキはそう笑いかけるけれど、アカは浮かない顔を変えずに目を逸らす。

「……だって、俺のせいで、兄貴は……」
「お前のせいじゃねーよ、ばーか」

ピンッ、とアカツキは彼女の額を弾いた。
突然のそれに、アカはぱちぱちと目を瞬かせる。

「お前を庇ったのは俺の意思だ。俺を殺したのはNPCだ。デスゲームを作ったのは茅場晶彦だ。違うか?」
「それは、違わない、けど……でも」
「お前を恨むくらいなら庇ってないし、優斗が大切だから庇った。俺は、優斗に心底幸せになって欲しいと思ってる」

アカツキはすべてお見通しのようだった。
アカが自分のことを恨んでるんじゃないかと思っていることも、自分がアカツキを殺してしまったと思っていることも、ずっとそのことで悩んでいることも。

「なあ優斗、俺は死んだけど、優斗やリナが覚えている限り、俺の存在は消えない。俺の存在は死なない」
「……っ」
「だから幸せになってくれ。優斗が俺のことを根に持つなら、俺のためにも、お前が」
「…………兄貴……!」

アカは涙を絞るようにアカツキの胸に縋り付く。
ずっと溜めていた罪悪感と後悔と、悲しみを吐き出すように。
そして、アカツキはそれを微笑みながら受け入れた。

「俺の献身を無駄にしてくれるな、優斗」
「……兄貴がそんなに言うなら、仕方ないな…っ」

アカは泣き笑いを零しながら吐き捨てた。
何かが吹っ切れたらしい、とてもすっきりした顔で。

「ありがとう、兄貴……!」
「ああ」

アカとアカツキは、より一層強く抱き締め合った。
……よかった。アカのトラウマは吹っ切れたようだ。
すぐに何かが変わるわけじゃないだろうけど、それでも。
彼女の中では、これは大きな救いとなるだろう。

「リナ」

ひとしきり抱き合ったあと、アカツキはアカから離れて、私に向かって手を広げた。

「……アカツキ」

私も、瞳が潤むのを感じながら応じて抱きつく。

「会いたかった」
「ああ、俺も。っつっても、別に離れてた間の記憶があるわけじゃねーけど」

それでも、離れてたらそう思ったはずだから、とアカツキは笑った。

「……また会えて、よかった」

《SAO》が―――世界がデスゲームに変わったばかりの頃を一緒に過ごした仲間たち。
そのメンバーが思いがけなく揃った感動の再会に、私は泣きそうだった。


****


さて、《気象エネルギー研究所跡》から出ると、ピロン、という音とともについに、報酬の《夜の女王》が渡された。

「マスター、早速見てみましょう!」
「うん。どれどれ……」

コンソールを操作して詳細を確認する。
そこには―――

《使用したキャラクターの状態を記録する。》

……とだけ。
見た目は星が詰まった夜空のような正八面体だ。
数は3つ。
…………どうやら、記念品であって戦闘系ではないらしい。
はあ、とみんなで肩を落としていると。

「っ、サチ!」

キリトが悲愴に染まった声を上げる。

「……キリト」

さっき記憶を思い出したらしくキリトと微笑みあっていたサチと、それから。

「あ、兄貴!」
「アカツキ……」

アカツキの姿が、消え始めている。
体の節々が星屑へと変わり、《ホワイトフロンティア》の綺麗な空へ飛んでいく。
びっくりするほどサヤトは何も起きていない。イツキがきみも帰ったらどうなんだいと言わんばかりの視線を彼に向けるも、サヤトは知らんふりだ。

「サチ、どうしたんだ!?また何か……」
「ううん。違うの、キリト」

サチは、キリトに語りかけるようにゆっくりと首を振った。

「わたしは《SAO》で死んじゃったから。本来わたしはいちゃいけない存在だって、思い出した」
「サチ、でも……!」

アカツキは何も言わない。おおかた、サチの言う通りなんだろう。
ということは、サヤトは《SAO》では死ななかったのだ、やっぱり。
3人はきっと、《SAO》や未来への後悔や未練が強く残っていたから選ばれた。それだけなのだ。
……とにかく。2人をこのままにはしておけないよね。

「ねえ、2人とも」

私は3つある夜空の結晶のうちの2つを取り出して、消えゆく2人に話しかけた。

「もうここは《SAO》じゃないよ。ここは《GGO》で、みんなはサヤトと3人で蘇った。キリトも私もアカも、みんな消えて欲しくないと思ってる。」
「リナ……」
「それだけじゃ、引き止める理由にはならない?」

夜の結晶を差し出す相手は、アカとキリト。
あとは2人に任せたい。

「……俺は」

キリトは、自分の思いを整理するように呟いた。

「サチにまた会いたい。あの日助けられなかったから、今、今日、また失いたくない」
「兄貴、俺も。兄貴といたい」

アカも頷く。

「……わかった」

それに頷き返したのは、アカツキだった。
体が消えゆく中で、アカが差し出した夜の結晶に、データを記録する。

「俺ももっとリナやユトといたい。消えたくない」

そして、サチも。

「キリトがそう言ってくれるのなら……もちろん」

優しく笑って、記録した。
これでひとまずは一安心だ。
この情報を具現化してくれそうな宛もあるし、そのうちまた会えるだろう。

「……またね、アカツキ」
「ああ、またな、リナ」
「サチさんも。そのうち絶対に、また」
「うん。ありがとうございます」

もうキリトも、さっきほど辛そうな顔はしていなかった。
大丈夫。この世界で2人はまた生きるのだ。
ユナと同じように―――

きらきらきら、と《ホワイトフロンティア》の夜空に2人分の星屑が消えていく。
あの日目の前で壊れたものと同じ星屑、だけどこれはあのときとは違う星屑。
私たちの救いの象徴の欠片。
ならば、私たちはもう悲しむ必要は無い。
まだ見ぬ希望、2人とまた会えるときを目指して、進むしかないのだ。


****


さて。

一段落した私たちは、エイジに、付き合ってくれたお礼として人探しを手伝うことを申し出た。
キリトが、拒もうとするエイジをいいからと丸め込んでいる間に、クレハに連絡をとってみる。

「……うん、わかった。ありがとう。じゃあ、また」
『ちゃんと寝なさいよ?食べなさいよ?』
「ふふ、はーい。」

通話を終えて、ふうと一息。

「どうだった?」

聞いてきたイツキに、静かに首を横に振る。

「さっき、どっかに行っちゃったって。多分エラーが酷くなってきたんだと思う」
「……そうか」
「行った方向から推測するに多分、新ダンジョンの《アイシクルプリズン》に向かったんだと思う」

実は、《夜の女王》クエストは、これで終わりじゃない。
これは公式発表されていたことだけれど、《気象エネルギー研究所跡》のなんやかんやを経たあと、また別の場所に繋がっている《アイシクルプリズン》に行く。まあ、《アイシクルプリズン》以降の道のりは完全にアフタークエストというか、ついでみたいなものなので、今の段階でも終わりでいいんだけど。
ともかく、《アイシクルプリズン》の先の《フロンティア》に行くには、事前に《気象エネルギー研究所跡》でのなんやかんやをやっている必要があるというわけだ。

「問題はどう切り出すか、だよね……」
「そうだね。一から説明するわけにはいかないし」

エイジの探している人を知っているところはともかく、菊岡さんからの依頼まで説明することになりかねない。そうしたらだいぶ面倒だし、バイト代が減給になる可能性もある。それは避けたい。

「……誘導するか」
「だね。面倒だけど、それが1番確実そうだ」

面倒な仕事もあと少し。
私たちは気合を入れ直し、みんなのもとへと急いだ。


****


「よかったのかよ、ヒースクリフ?」
「何がかな?」
「《夜の結晶》だよ。本当は一つだけの報酬なのに、無理矢理複製して3つにだなんて」
「いいんだ。既に2人が使って一つだけに戻ったことだし。そうすればユイにもわからないだろう」

そこは、どこかの電子空間。
電子意識となったヒースクリフとエシュリオは話していた。

「リナへのご褒美だと思えばいい。最近はずいぶん頑張っているようだしね」
「《ザ・シード》……俺たちからの干渉の件か?それはまあ、そうだよな」

エシュリオは遠くに見えるリノセたちを見遣り、目を細めた。

「……あと、少し」

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.73 )
日時: 2024/10/23 21:31
名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)



「―――」

弾をリロードして、ふう、と息を吐く。
エイジも剣だったから私はようやく前衛を離脱してメインウェポンであるスナイパーに戻ってきたわけだけど。
それ自体は問題ないし、楽しいし、嬉しい。
そこじゃなくて、《アイシクル・プリズン》が思ったより面倒なのだ。
仕様もだし、広いし、敵思ったより強いし。
ヒューマノイド系統のアンドロイドの立ち回り方が上手くなっている気がする。
単純にあっちのエイムもいいし。

「……思ったより時間がかかってるなあ」

誘導が成功してよかった。
そうでなければ間に合わなかっただろう。
今だって、計算上はギリギリのラインだ。

「急がなきゃ」

……出し惜しみしている暇は無いな。

「イツキ、ヤエ」
「はっ、はい!」
「この先50メートルに大型砲台4つ確認。炸裂弾で殲滅しよう」
「了解」

3人で砲台を倒してからみんなの周りにいる敵を撃ち、指示し、サポートし……ああ、そうだ。これだ。
頭がどんどん最適化されていくのを感じる。徹夜の影響だろうか。どうでもいい。
三徹目とかもはや気にすることでは無い。時間が無いのだから徹夜くらいしてやる。
そう意気込んで、またトリガーを引く。

『……リノセ、お前だいぶキてんな』

アカが通信機越しにそう言った。

「……そう見える?」
『ああ。俺知ってる。お前の調子がすこぶるいいのは大体、機嫌が極端にいいか悪いか、もしくは頭が限界かどっちかだろ』
「なんで知ってるのさ……」

言ってから、《SAO》でアカツキとユトと何回か連続徹夜したことがあったと思い出す。
だめだ、戦いに関しては最適化されてるけど、それ以外の事柄についての今の私は馬鹿だ。

『とりあえず寝てこいよ。俺たちがファストトラベルでいけるとこまでいったくらいで起きてくればいい』
『それはその……えと……僕も、賛成です』

意外にも、アカに同意したのはカンナだった。

『さっきからリノセさん勢いがすご過ぎて………あの、心配で……め、迷惑だったらすみません』
『そ、そうですよ。私も賛成です』

ヤエも乗っかった。まさか3人に言われると思わず、私は一瞬何も言えなくなってしまった。
ドンッ、と敵を撃ち抜いてから、改めて、私はふっと微笑んで答える。

「ありがとう。……でも、やっぱやめとく」
『……リノセ、大丈夫なのか?もう三日三晩飲まず食わずだろう』

キリトの心配する声が続いて聞こえた。
この人はいったい何を言っているんだろう。自分だっていざ必要になったら遠慮なくするくせに。

『キリトくんがそれ言う……?』

アスナが私の心を代弁した。

『にしても、キリトくんの言う通りよ。少し休んだら?』
『マスターたちの言う通りだ。リノセに倒れられては困るしな』
『マスター、やっぱり休みませんか?わたしとっても心配です……!』

アスナに続きハヅキやレイも言ってくる。
みんな戦いながらも私を気遣ってくれているようだ。

『リノセは三日三晩休んでいないのか?それはまずい。アファシスが必要になる場面もおそらくもうないだろうから、アファシスも一緒に休んでくるといい』

エイジさえも。
みんなが優しくて、なんだかほんわかしてくる。
でも答えは変わらない。

「その気持ちは嬉しいけど、続けるよ」

最後の敵を殲滅してから、私は立ち上がる。
眠くない。大丈夫。まだ深夜テンションいける。

「……だろうね」

隣でイツキが笑った。その傍らには武器を持っていないので見学中のサヤトが、やれやれと肩を竦めている。

「そうなるとは思っていたよ。……なるべく早く終わらせよう。早くリノセを寝かさないと」
「そういうイツキも同じだけどね?」
「なんのことだか」

くすっと笑った。
イツキの、そういうところが私は好きだ。

「っていうか今更なんだけどさ。ちゃっかりサヤトは残ってるってことは、サヤトは《SAO》では死ななかったんだね」

まあ、イツキから2年前に目の前で死んだって言われたときから、《SAO》ではとりあえず生き延びたんだってことは知ってたけど。
こうしてみると、やっとそれを実感できて安心した。
……なんて、サチやアカツキが帰還できなかった中でよくないかな。こういうこと思うの。
でもやっぱり、相棒の生存を願うのくらい許されるはずだ。
…死んじゃったけどね。

「そうだよ。でもリナの件で《SAO》に未練さながらの想いは残っていたからね。僕が出てきたのはたぶんそのせいだ」
「そ、うなんだ……」

私のせいで会えたと言うべきだろうか。
そもそも私がサヤトがそんな想いを残すきっかけさえ作らなければ今も会えてたような気がしなくもない、ような……?
なんか複雑だ。

「まあ、いっか」

次の部屋に続くギミックを解除しつつ、私は笑った。

「会えて、解決したんだし。過去のことをどうこう考えてもしょうがないよね」

そう、だからもういいんだ。
サヤトだって許してくれたことだし。罪悪感はこれから一緒に《GGO》で解決していけばいいのだ。


****


「……いなかったな」
「いなかったね」

結論、《アイシクル・プリズン》にはユナはいなかった。
だけど、違う。ここにはまだ先がある。

「《アイシクル・プリズン》を出てみよう、みんな」
「え?」
「この先は、公式が言ってた新フィールドに続く道だろうから。ユナはたぶん、そこにいる」

ユナも、少なからず《ザ・シード》やクエストの影響を受けているはずだ。
本人にその自覚がなくとも足がここに向く可能性は否定できない。
そして、ハイレベルエネミーばかりであろうそのフィールドでユナが歌おうものなら、ユナにエネミーが引き寄せられる。
このゲームのNBCは《SBCグロッケン》の技術っていう設定のもとに蘇るけれど、今エラーを抱えていて、更に《SBCグロッケン》に行ったことがないはずのユナは、もしかしたら―――

「…………」

同じことを考えたのか、エイジの顔が曇っていく。
そう、事態は思っているより深刻だ。
そして、バッと私を見る。

「行こう。まだ間に合うはずだ!!」

頷きながら走り出す。
目指すは新フィールド。
ユナを守って、この一件を丸く収めなければ。



……歌だ。
歌が聞こえる。

《アイシクル・プリズン》を抜けた先は、やはり《ホワイト・フロンティア》ではなかった。
そこは《ホワイト・フロンティア》を見下ろせる空中要塞。名前は……時間がないから見ていないけれど。

そしてユナの歌が聞こえてくるのはこの先。
おそらくは、新フィールドへの門を守っているであろうボスのエリアだ。

「……だから、早く行きたいところなんだけどねえ」

ユナの歌は予想通りエネミーを引き寄せるようだ。
ボスエリアに向かってエネミーが歩き出している。

「なんとかして足止めしつつボスエリアに向かわないと」
「でもこの量……エイジとキリトとリノセとアファシス、イツキとサヤトが抜けるとして、あと5人は欲しいわ」

アスナが顔を顰めながら言った。
そうなんだよ、ほんとどうするべきか……!
そう思った、そのとき。

「あっらー?なんか困ってるみたいね?」
「―――……この声は」
「ピト!」

急いで振り返る。
そこには、吹雪エリアでレアアイテム探しをしていたはずのみんなの姿。

「なんでここに……!?」
「なんでもなにも、あのエリアレア物が少なかったのよ!それで更なる収穫をめざしてここに来てたってワケ!」
「いい加減もうよくないか……?」

笑顔のピトと呆れ顔のエムが答えた。

「あんた、また寝てないんじゃないの?なんか食べた?絶対何もしてないでしょ。自分を大切にしなさい!」

クレハが私をビシッと指さす。

「まあまあクレハさんや。そうプンプンなさんなって」
「で、でも流石に心配だよ。」

フカとレンも相変わらずのご様子。
……あれ?この人たち、ちょうど5人では?

「お願いみんな!このエネミーたち頼める!?」
「えっ」

ピトが目を見開いた。
まさかそう来るとは思っていなかったのだろうか。
引き受けて貰えないのかな?なんか心配。

「いいのー!?ちょうど鬱憤晴らす相手が欲しかったのよー!」

そんな心配も杞憂に終わり、語尾にハートがつきそうな勢いで頷いたピトは、早速両手に銃を持った。
なんかアカが「大丈夫なのか?こいつ……」とダークマターでも見るような目でピトを見ているけど、まあ気のせいだろう。気持ちはわからんでもないけどきっと大丈夫だ。きっと。
ピトたちが来てくれたならもう安心。
私たちは頷き合い、その場を離脱した。

「ユナ……!」

エイジが彼女の名前を呼ぶ。
彼女の歌は、未だ途切れず雪原に響き続けていた。


****


「ユナ!」

ボスエリアに着いてみれば、ユナはボスエリアの端、建物の先端で歌っていた。
今にも蜘蛛型のボスエネミーが襲いかからんというところだ。

「っと!」

急いで私がエネミーの頭を撃つと、ギリギリのタイミングでボスのヘイトが私に向いた。

「あっぶな……」

にしても、ユナはやっぱり調子が悪そうだ。
かなり具合が悪そう。歌声は綺麗だけど、それでも……。

「……レイ。レイはユナとサヤトを守ってて」
「は、はい!わかりました!」
「手っ取り早く終わらせよう」

AMR Fetal Bulletを構え戦闘用意をする。
エンジョイとかもう関係ない。
これはゲームであっても遊びではないのだから。

「せっ!」

キリトが、エイジと連携してボスに切り込んでいく。
相手は機械、撃ってみたところ脚はあまり入らない。
やっぱり頭にある細長いライトの部分が弱点になるらしいが。
如何せん弱点が小さい上にこいつ、なんかぐるぐる回って攻撃してくる。厄介。
これが幼児みたいにゆっくり回りながら「うわ~」ってかわいく来るならいいんだけど、まあそういうわけにもいかず。だめだ。そんなことするはずないのに考えちゃう。やっぱり私の頭は限界らしい。

……それにしても、回転を止めたいと思っても、炸裂弾でも怯んでくれない。
回転中は怯まないのかな?
…そういえば、大型機械と戦うときに思い出されることといえば。

『刮目せよ。貴様のアファシスが与えたこの武器の真髄をとくと見よ』

…《UFG》の謎の真髄だ。
リエーブルのときも、イザナギの件のときもこれが助けてくれた。
ええい、一か八か!私がダウンしたらレイに復活させてもらえばいい話!
よし。

そう思って《UFG》を取り出す。
するとやはり、《UFG》は光り出した。
…そのうち、これの原理も解明したいものだ。マザーコンピュータにでも聞いてみたらわかるかな?
まあ、それはさておき。

「いっけー!!」

《UFG》の射程に入ったところで、トリガーを引く。
すると。

「―――!!」
「怯んだ!」

回転が止まった。
よっしゃ、いける!
私はフェイタルバレットを持ち直して叫んだ。

「集中攻撃!」
「了解!」
「わかった!!」

狙う。細長いライトの部分を、勝つ可能性を、ユナを守る可能性を。
ウェポンアーツの、強力な弾をこめた。霧剣斬を今使っても怯みに弾が間に合わないから、これしかない。

「いくぞ、エイジ!」
「ああ!」

さっきまで剣呑な雰囲気だったはずの2人が並ぶ。
イツキも狙う。私も撃つ。
レイもユナを体で庇うような体勢のままエネミーを狙う。
サヤトが固唾を飲んで見守る中、ボスのHPは削れていき―――

パアアン!とエネミーが砕け散った。

「……なんとか、なった?」
「…………倒した……」

流石に巨大だったからか、機械の残した欠片はとても多数だった。
そのどれもが、例のごとく雪原の夜空に消えていく。

「ユナ!!!」

ふら、とよろけたユナをエイジが駆け寄って支えた。
レイとサヤトを私たちの傍に手招きながら、後ろから二人を見やる。
まだユナは消えていない。間に合った、はず。

「エイジ……ごめん、わたし、やっぱりエラーが…」
「大丈夫だ」

エイジはコンソールを操作して飴玉のようなものの入った小さな瓶を取り出した。

「オリジナルの記憶のコアだ。これを使えばエラーは治る」
「……っほんと…!?」

ユナはエイジに支えてもらいながら、苦しそうに、でも嬉しそうにはにかんだ。

「わたし、まだエイジと一緒にいれるの…?まだ、歌える…?」
「ああ。きみはこの世界でずっと唯一のユナだ。ずっと、この世界で歌える」
「……!!エイジ、ありがとう…!!」

…エイジは予想通り、解決の手段を持っていた。
これで一件落着、今回の大きなお仕事はおしまいだ。
なんか長かったなあ。3日しか経ってないけど、フリューゲル攻略くらい大変だった気がする。

「もう現実リアルじゃあ日が暮れてるね」
「そうだね。連休潰れちゃったなあ」
「リノセはどっちみち連休をぜんぶ《GGO》に費やすつもりだったろう?」
「バレた?」

くああ、とあくびを零す。
流石にちょっと限界かも、というか、安心感で眠くなってきた。

「そういえばリナ、3徹なんだっけ?先に離脱したらどうだい?」

サヤトが言ってきた。私はそんなに疲れた顔でもしているのだろうか。
まあ合ってるし、そうしようかな。
そう思ってレイに視線を向けると、頷いてくれた。

「わかりました。ログアウトの処理をしますね。クレハたちにもわたしからメッセージを送っておきます」
「ありがとう。じゃあイツキ」
「ああ。僕も失礼するよ」
「レイ、サヤトのことをよろしく。とりあえず拡張したホームのベッド貸していいから、《SBCグロッケン》まで連れて帰ってあげて」
「わかりました!お任せ下さい、マスター!」

ありがとう、とレイを撫でてから、私はもう一度大きなあくびをした。

「じゃあ抜けようか、リノセ」
「うん」

イツキが目を嬉しそうに細めた。
ログアウトすれば私たちはイツキのベッドで並んで寝ているのだから、今更だがなんだか照れてくる。
一緒にゲームをしていただけなのに、なんか…。うーん。
まあ、それはさておき。

「じゃあ」
「はい、お疲れ様でした!おやすみなさい、マスター」
「おやすみ、リナ」

2人に見送られ、私たちはログアウトする。

―――こうして、漸く私たちは一段落したのであった。

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.74 )
日時: 2024/11/07 16:04
名前: 水城イナ (ID: z8eW1f9u)

「―――……」

ぱち、と目を開く。
戻ってきたベッドに寝ている感覚に、私の眠気が存在感を増した。三徹後のベッドほど辛いものは無い。
お腹はすいたけど、このまま食べても食べながら寝そうだ。まったく、困った。
アミュスフィアを外すと、同じようにアミュスフィアを外したゆきと目が合った。
ゆきの整った顔に、濃いクマが刻まれている。
クマのある顔もかっこいいけど、なんか心配になるな。

「凛世」

私のアミュスフィアを奪って、自分のものと一緒にベッドサイドテーブルに置いたゆきは、寝転がったまま私の腰を引き寄せた。

「明日の学校は休もうか」
「え?」
「大丈夫、授業内容が心配だったら僕が教えるよ。学校には僕から連絡しておく。僕は明日は元々休みだし」

ゆきの指が私の目元を撫でる。
そして、ゆきが目を細めて私の目を手で覆ってきた。

「明日は僕が凛世をお世話してあげるよ。ついでに君の兄…凛太郎さんだったっけ。連絡しておく。だからもう眠るといい」

そんなことされると、ますます眠くなる。
いきなり休めと言われても、とか、お世話ってどういうこと、とか、いっぱい思うところはあったけど、三徹目の私は当然起きていられるわけもなく。
強烈な眠気に誘われて、意識を手放したのだった。

****


体の力が抜けて静かな寝息を立て始めた凛世の目から手を離し、目の前の愛しい人の顔を見つめた。

僕の、僕の愛しい凛世。
ようやく手に入れたばかりの、僕の恋人。

やはり凛世は明日学校に行くつもりだったらしい。
連絡しておくとは言ったが、先に休日にするための連絡を手配しておいて正解だった。
そう、連絡なんてとっくに済んでいる。
僕は凛世に無理はして欲しくないんだ。
三徹なんて無茶をした以上、1日くらい休んで欲しかった。

僕はいいんだ。
この前だって、この三連休と明日の休暇を取るために徹夜したばかりだった。
僕は凛世と過ごすためなら徹夜なんていくらでもできる。

とはいえ、僕が不健康な生活を送っていると凛世に心配かけてしまうから、バレない程度に、だけど。

「……それにしてもきみは、人を引き寄せすぎだろう」

ツェリスカくんやキリトくんたちもだけれど、今回の泰嗣やアカツキとやらだってそうだ。
僕は器が狭い男だと知っているけど、器がいくら広くてもこればかりは足りないと思う。
僕は《SAO》にはいなかった、それが今こんなにも悔しい。
あのときナーヴギアを手に入れたのが泰嗣でなく僕だったなら、今頃なにか違ったんだろうか。
なんて、きみの過去に嫉妬してもしかたがないと知っているけれど。
むしろ、凛世の《SAO》時代があったからこその今の僕たちであるということも、わかっている。

『ごめんね、サヤト』
『ちょっと出かけてくるね、と微笑んで。彼女は二度と帰ってこなかった』

『強制的に記憶を消されてたんだよ、みんな』
『でも思い出せない、彼女は、彼女は、なにを』

そう、会話の節々から予想するのは、あまりにも簡単だった。
彼をサヤトと呼び、勝手に離れてごめんと謝る彼女。
彼女をリナと呼び、自分に話して欲しかったと言った彼。
自分の双子の兄を、泰嗣を狂わせたのは間違いなく、凛世だったのだ。

ああ、それが僕は、たまらなく狂おしい。愛おしい。
これは単なる偶然なのか、はたまた何かの糸ででも繋がっていたのか。
運命や宿命など欠片も信じていなかった僕がそんなことを考えてしまうくらいには浮かれている。

凛世に会ったのは今年の初夏あたり、カフェで友人と談笑していた凛世がポケットティッシュを落としたとき。
偶然近くを通り掛かった僕が拾ってみれば、それは凛世のだったわけだ。
2回目は凛世が勉強してルーズリーフを落としたとき、また僕が拾ったこと。
そのときにも、僕や凛世は柄にもなく「運命かも」なんて笑った。

…懐かしいな。ずっと前のことみたいだ。それでいて、ついさっきのことみたいに鮮明に思い出せる。

ともかく。
泰嗣を狂わせたのは凛世だった。結果的に凛世が泰嗣を殺すことになったと言っても過言では無いのかもしれない。全面的に歪んだ性格になった泰嗣が悪いと思うけど。
それが僕にとって、とても嬉しいんだ。
ああ、僕も重症だ、泰嗣くらい、いやそれ以上におかしいのは知っている。
だが気持ちは止められない。
凛世は自ら僕と出逢う未来を選択したのだ。ずっと前から。
僕たちのすべての奥底で、僕と凛世は繋がっていたのだ。

「……凛世」

名前を呟いて、髪を撫でる。
さらさらのそれは、梳くと絹糸のように僕の指の間を通って落ちていった。
さて、流石の僕もそろそろ眠気が限界だ、いくら愛しい人の顔を眺めていたいとはいえ、これ以上起きていれば凛世に心配をかけてしまうだろう。

「……愛してるよ、凛世」

そっと彼女の唇に自分のそれを寄せてから、改めて凛世を腕に抱え込む。
愛する人をこの手に抱きかかえる幸せを噛み締めながら、ゆっくりと、僕は闇の根底へと意識を手放した。


****


「ん……」

ゆっくりと目を覚ます。
まだ若干眠気は残っているが、起きなければ。
うーでも、起きたくない、でも起きなきゃ、眠い、眠くても、うー、頭が働かない。三徹なんかするからだ。
えーっと、今日は…火曜日で…そうだ、昨日は仕事を終えて……終えて……ゆきと……あれ?
急いで目を開けると、大好きな恋人の眩しい微笑みが目に入った。

「ゆ、ゆき…」
「おはよう、凛世。もう少し寝ててもいいよ。まだ9時だ」
「……くじ?」

9時…?9時って、それは…。
……。

「9時!?」
「どうしたんだい?そんなに驚いて。三徹もしたんだ、まだ早いくらいだ」
「……」

ああ、そうか。今日学校は休めって言われたんだっけ。
お兄ちゃんに連絡はしておいてくれるって言ってたし、甘えて寝てしまったからには今日は休むしかなかろう。

「それにしても、9時か…。流石に起きるよ」
「そうかい?じゃあ、朝ごはんにしようか」
「え、あ、うん?」

見てみれば、ゆきはもう服を着替えていた。
先に起きてシャワーを浴びたのだろうか、髪が若干濡れている。
よくわからないまま差し出された手を取って起きれば、ゆきは私に軽くキスをして微笑んだ。

「今日は一日中凛世と一緒にいられるよ。いろいろするから、覚悟してて」
「い、いろいろ…!?」

含みたっぷりの言い方に警戒しつつ、私は眉を寄せる。
ゆきはいつも無駄に色気が漏れているから、怪しいことを言うのはやめて欲しい。
そして、一番最初に私に提供された「いろいろ」は―――

「何?ゆきってほんと何?何でこんなに何でも上手なの……?」
「そんなに気に入ってくれたなんて嬉しいな。まだあるからおかわりも遠慮なく」

とってもおいしい、ゆきお手製の朝ごはんだった。
メニューは、神社といえば和食のイメージだったけど、洋食だった。
ゆきの部屋に初めて入ったときも、ゆきの部屋が洋風で軽く驚いた。
そのとき言っていた『なんでも和風だけだと不便』っていうのには同意だから今回は驚きはしなかったけど。
いや言いたいのはそれじゃない。

……なんでこうも、ゆきのお手製ご飯は美味しいんだろう。
ゆきは苦手なことはあるんだろうか。《GGO》でも強いし、日々の行動が紳士だし、いつも1枚上手だし、頭いいし……。

「ん?どうかしたのかい?」

私がじっと見ていると、ゆきが小さく微笑んで首を傾げた。

「んー……いや、ゆきのこと支えたいなーって」
「支えたい?」
「そうそう、ゆきってこう、何でもそつなくこなしちゃうけどさ、たぶん苦手なことってあるんだろうなって」

私が朝起きるのが苦手みたいな。握力とボール投げがよくなかったみたいな。
ゆきだっていくらすごくても人間なんだし、苦手なことの一つや二つあるだろう。
それを支えられる人でありたい。

「前にも言ったかも知れないけどほら、私、守ってもらうんじゃなくて、背中を守り合う方が好きなわけだし」

か弱い乙女であるわけでも、純真な女の子であるわけでもないのだ。
完璧な恋人の隣に立つとして、私が完璧な恋人の隠れた苦手な部分をカバーできたらいい。
そして、私のぶんは願わくは、ゆきに。

「だからゆき、もうわかっていると思うけど、改めて」

私はゆきお手製のフレンチトーストを一口、言った。

「隠さなくてもいいよ。隠すなとは言わないけど、絶対、ぜんぶ受け入れるから」

私が朝に弱いことはたぶん、もう知ってるだろうし。
そう言うと、隣に座っていたゆきは急に唇を塞いできた。

「えっ、ん、む」
「……はあ…まったく、僕がせっかく我慢していたのに、凛世がそうやってすぐ理性を壊しにかかってくるから」

それは性急で、あまりにも甘かった。
フレンチトーストと残った生クリームが優しく溶けて、私の口の中で僅かに香る。
それを舐めとるように私の口の中を動き始めたゆきの舌は、少しだけ苦いコーヒーの味がした。

「……ん、ふ」
「………相変わらず息が下手だね、何度も教えたのに」
「そんなの、慣れるわけ……っ、ん」
「そういうところも好きだよ、凛世。愛してる」

いつの間にかゆきの腕は私の腰と頭を捕まえていて、もう逃げられない、逃げようとも思わない、私の中の生クリームとゆきに残っていたブラックコーヒーが混ざっていく。
薄らと目を開くと、同じく目を開けたゆきと目が合った。
現実リアルの彼の瞳は私がよく飲む微糖の缶コーヒーみたいな色をしていて、そんな瞳も私の目から溢れた生理的な涙でぼやけてくる。

「んん……、ゆ、き……っ」
「かわいい、僕の凛世」

どれくらい唇を貪り合っていたのか、ようやく離れたと思うと、ゆきは涙を拭うように私の目元に唇を落とした。

「さあ、ご飯を食べ終わったらシャワーを浴びるといい。それから今日もきみは《GGO》に行くんだろう?」
「さっすがゆき、わかってるね!」

ぷぷっと笑みが零れた。
三徹もしたのにまだ私は懲りないらしい。すぐ行きたくなる。

「もうすぐ《B.o.B》だよね?ゆきは出る?」
「きみが出るなら僕も出ようかな。きみとは1回本気で戦ってみたかったんだ」

戦う?ゆきと?否。
―――イツキと?
どくん、と私の奥が波打つ。
奥底が強く反応して、何かが込み上げてきた。
そんなの、そんなの。

―――……絶対に、楽しいじゃん。

「私も、戦ってみたい」

私の、スナイパーの師匠であるイツキと。
私の、《GGO》初めての敵だったイツキと。
私の、初恋かつ恋人であるイツキと。

「じゃあまずは、選手登録しないとね」
「うん。じゃあすぐシャワー浴びてくる。お風呂借りるね」
「ああ」

急いで席を立つ。
私たちは銃弾飛び交う世界で出会って恋をして、結ばれて。
そうしてもうすぐ銃を向ける。
……デスゲーム空間でも互いに銃は向けた、だけどあのときとは全然状況が違う。

……楽しみだ。

愛する人に銃を向ける恐怖?そんなのない。
だってあそこは仮想現実、銃を向け合うために作られた世界。
それを楽しむために私は―――

そうか。
……やっと答えが出た。

『なんできみは《GGO》を続けているんだい?』

いつかイツキが問うてきたこと。
ずっと考えてきた、その答えが。

「……」

蛇口を捻ってシャワーを浴びながら、私はこれから行くであろう世界へ思いを馳せる。
そして愛する人に私の「答え」を伝えたときのことを想像しながら、私は緩やかに唇で弧を描いた。

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.75 )
日時: 2024/11/14 07:55
名前: 水城イナ (ID: PivAKqVG)

「《B.o.B》楽しみだね!」

私は、《B.o.B》参加登録を終えた面々を振り返りながら言った。
第4回だっけ、第5回だっけ、もう忘れたけれど、とにかく次の《B.o.B》が近い。
そこで参加登録をしたわけだけど、知り合いが思ってたより多いのだ。

「私とイツキだけじゃなく、クレハとツェリスカも《B.o.B》に参加するなんてね」

2人で一緒に参加登録をしに来たらしいクレハとツェリスカと鉢合わせて、え、もしかして参加するの、という流れになったわけだ。
私の言葉を聞いたツェリスカが、苦笑しながら肩を竦めた。

「リノセが参加するなら、戦えるかもと思ったのよ~。普段だって戦うチャンスはいくらでもあるけれど、こういう公式な舞台のほうが張り切ったりするものだし」
「そうね。あたしはほら、自分の今の実力を知りたかったから」
「なるほどねぇ」

イツキだけじゃなく、ツェリスカも私と戦いたいと思ってくれてたんだ。
いや、わかるよ。たしかに、普段戦っていないような強い人たちと戦うってとってもわくわくすることだ。
《ホワイト・フロンティア》での《夜の女王》クエストが終わった今、近づいてきた《B.o.B》に期待を向ける人も少なくない。

「ちなみに、あなたが《B.o.B》に出ると言ったおかげで、想定よりずっと多い参加者が出始めたみたいよ~?」
「え?」

ツェリスカのからかうような口調に思わず目を瞬かせる。

「あら~、本当に知らなかったのね~。リノセが《B.o.B》に出るなんて話を隠そうともせずグロッケンのメインストリートで言っていたから、あなたと戦いたい人が続々とエントリーしてるのよ~」
「わお……」

それは……嬉しいような、大変なような。
それって見つかった瞬間私が蜂の巣になる……?
いや、まあ、やり方を工夫すればいいだけなんだけど。
上手く言葉が紡げずに苦笑いをこぼした、そのとき。

ピロン!と。

私にメッセージが届いた。
フィールドにいる間は、メッセージ管理はレイに任せているが、《SBCグロッケン》にいるときはレイがいないときもあるので、私に通知が来るようにしている。
キリトたちはクエストのお誘いには、《夜の女王》のときみたいに直接会いに来るタイプなので、なんだろうと思って見てみると。

「―――……」

私は静かに顔を強ばらせた。

『お前たち《デファイ・フェイト》に、宣戦を布告する』

……嫌な予感が、する。


****


「なるほどね」

《SBCグロッケン》の住人NPC居住地、プレイヤーは誰も来ないようなところの隅にある店にて。
私は唯葉……いや、ユーハとお茶をしていた。

「秋?夏?忘れたけれど、その頃にあんたの恋人と出て優勝したタッグバトルトーナメントの一回戦相手、リンジとスーレンの所属しているスコードロン……《ヘヴィ・マッサークル》に喧嘩を売られた、と」

面白そうねといわんばかりのニヤニヤ顔をするユーハ。
彼女はいつも、私が面倒な目にあうとこんな感じだ。
いわく、どういうふうに解決するのか楽しみなだけ、らしいけど、はてさて。
まあそれは置いておくとして、《ヘヴィ・マッサークル》、随分懐かしい名前だ。
あの頃は私の武器もFetal BulletじゃなくてDestroy gateだったんだっけ。
それで出たタッグバトルトーナメントでボコボコにした2人が「リノセとイツキ絶対許さない」と燃え上がって、今に至るわけだ。

「そう。2人はあの戦いをずっと根に持っていたらしくて」
「調べてみたけれど、あの2人、あれ以降、反《デファイ・フェイト》の人たちを集めて連合まで作ってるみたいね」
「まじかあ」

反《デファイ・フェイト》勢力。
なんか国みたいなこと言ってるけど、実際《GGO》……いや《SBCグロッケン》は国みたいなものだろう。
話を戻して、反《デファイ・フェイト》勢力は存在する。
トッププレイヤーが多く集まる私たち《デファイ・フェイト》だけど、だからこそいっぱい敵がいるというものだ。
トッププレイヤーってことは、当然、私たちをキルしたときの賞金はとんでもないことになるわけだし。
更には《SBCフリューゲル》や《夜の女王》攻略も最速だったのだ。
狙われる狙われる。
《B.o.B》然り、この件然り。
この前だって《薔薇将軍ローゼン・ゲネラール》と名高いエミリアと戦ったし。
ということで、狙われること自体は別に今に始まったことでは無いのだ。
……でも。

「連合って、例えば何?」
「PKスコードロンが殆どね。例えばあんたがデスゲーム空間の件のあとに《オールドサウス》で戦った悪質PK集団とか」
「あー、あれ……」

ユーハによると、総勢40人弱にも上るらしい。
……うん、ちょっとキツいな。
しかも、その中には雇われた有名トッププレイヤーもいるようだ。

「はあ……かくなる上は、私たちも人を集めるしか」
「そうね。あ、私はやらないわよ?」
「わかってる。ユーハはあくまで《私寄りだけど一応中立の情報屋》だもんね?」

情報屋ならアルゴもいるんだけど、そっちとはちょっと趣向が違う情報屋であるユーハ、及び唯葉。
いつも頼らせてもらっている。
ありがとう、と礼を言うと、ふんと鼻で笑われた。

「ああそう、前頼まれてた情報だけど―――……」


****


「ってことでさ」

とあるスコードロンホーム、《ハンターホーム》。
そう、ここをホームにするのは、啓治あらためケイがリーダーのスコードロン、《ハンターズ・キャッスル》だ。
そこで、私はケイに言った。

「その戦いで、ケイに来て欲しいんだよね」
「なるほどな。何かあったら力を貸す約束だし、それはわかった。……俺だけでいいのか?」
「うん。あんまり多くても統率が大変だし」

正直言うと、相手と同じ人数用意する必要はないと思っている。
だってそうだ。私たちは《デファイ・フェイト》、トッププレイヤーが集まるスコードロンなのだから。
もう少し人が集まればいいだけだ。

「了解。任せとけ」

ケイはそう言ってはにかんだ。

「ねえ、ケイ」

私はケイに言った。
ケイとも、啓治とも、もうあまり会わなくなってしまった。
啓治が学校に訪ねてきてから、またちょくちょく話すようになっていたのに。
……変わってしまったものは、戻れない。
私とケイの間には、あの日の出来事が濃く残っていく。
でも、ケイとの繋がりは消えて欲しくないから。

「また遊ぼう。《GGO》でも現実リアルでも、さ」

そんな私の心情を読んだのか、ケイは笑って私の背中を叩いた。

「当然だろ!」


****


「ねえ、ゆき」
「なんだい、凛世?」

翌日の祝日、昼。
私はゆきに言った。

「私、なんかすっごく嫌な予感がする」
「僕もだよ」

歓楽街の裏路地に進むと現れる小さな小さな喫茶。
今回菊岡さんに指定された場所はそこだった。

「今まで仕事の依頼だって普通のファミレスとかだったのに、いきなりここなんて」
「見るからに、話しずらいことを話します、という雰囲気だね。菊岡くんももう少し僕たちを労わってもいいと思うんだが」

ゆきははあとため息をついた。
私も、仕方ないと腹を括る。

「……行くか」
「うん」

どうせ、私たちに選択肢など残されていないのだ。

「やあ、早かったね」

菊岡さんの名前を出すと、2階の個室に通された。
そこでジンジャーエール片手に手を振ってきた菊岡さんは、今日も雰囲気に合わないアロハシャツを着ている。

「きみはもう少しTPOを考えた服というものを着たほうがいいと思うよ」
「はは、じゃあこれは正装だよ。折角他の人を気にせずにいられる個室なんだ。気楽で飾らない格好の方が合ってる」
「はあ……」

ゆきは一際大きなため息を見せつけるようについてから席に着いた。私も続いて席に着く。

「じゃあまず、これ。前回の依頼の報酬」

菊岡さんは、私とゆきにそれぞれ分厚い封筒を渡してきた。
確認すると、ちゃんと札束が入っている。
お札の数を確認もせずに封筒の口を閉めると、菊岡さんはおかしそうに笑う。

「金額は、確認しないのかい?」
「減額してあったとして、それはそれで訴えるだけとわかっているでしょう?ついでに菊岡さんが違法なことをしているのもバレちゃいますね。たいへーん」

違法なこと、初めのひとつはゆきの罪を揉み消したこと。
ナーヴギア盗難、デスゲーム作成の主導、その他諸々を問わずにないものにした菊岡さんは、まず刑務所から数年間は出てこられなくなるだろう。
とまあ、挙げていたらキリがないほど菊岡さんはいろんなことをしている。
ゆきの罪は、ゆきと唯葉と私で頑張れば揉み消せないことはないが、菊岡さんのは庇ってあげるほど暇じゃないのだ。

ということで、菊岡さんもそれをわかっているから正しい金額を入れているだろう。

「うーん、やっぱり強かだね、リノセくんも、イツキくんも」

そうして、菊岡さんは冷めきったコーヒーを飲み下した。
私とゆきも用意されていたコーヒーに口をつけてから、菊岡さんに視線を向ける。

「で?本題はなんだい?」
「……」
「ここを指定したってことは、そういうことだろう?」

ゆきがうっそりと笑う。
その笑顔に潜む殺気めいた雰囲気を感じたのか、菊岡さんの背筋が伸びたような気がした。

「せっかちだなあ、まあいいけど。じゃあ話そうか」

菊岡さんは肩をわざとらしく竦めてから私とゆきを交互に見る。
そして云うのだ。

「新しい依頼、《GGO》にいるはずの闇ブローカー、《マギナ》の捜査のことを」

Re: フェイタル・バレット 〜運命を貫く弾丸〜 ( No.76 )
日時: 2024/11/17 14:54
名前: 水城イナ (ID: 8GPKKkoN)

「《マギナ》?」
「そう。名前と姿を変えながら、VR空間内でデジタルドラッグを売りさばいたり、まあ、他にも色々とやっている闇ブローカーなんだ。他の例はセンシティブすぎるから自粛しとくけど、ほんとにもう、いろいろでね」
「はあ」

内容が内容なのに、菊岡さんはアロハシャツの1番上のボタンを片手で外してジンジャーエールを飲み下した。歌でも口ずさむような気軽さにため息が出そうだ。
結局、この人にとって私たちに頼むことは寸暇の出来事でしかないのだろうか。

「彼女は最近やっとしっぽを出した。《GGO》で《マギナ》というプレイヤーネームで活動しているらしい。彼女を、捕まえて欲しいんだ」
「……捕まえる?」
「デスゲーム空間、あったろう?」

菊岡さんの言葉に体を強ばらせる。
この人はまさか、まさか。

「あのとき、ツェリスカくんとクレハくんが被っているのはナーヴギアに見た目を寄せたアミュスフィアだった。つまり、VR空間内において彼女のログインを阻止する方法はあるってことだ」

菊岡さんは、眼鏡の奥で怪しげな光を湛えた瞳をチラつかせた。

「僕たちはあの日のキリトくんたちみたいにコンバートして彼女の《捕縛》をするよ。だからきみたちは、《マギア》を……」

―――彼女を、指定したVR空間に誘き寄せて欲しいんだ。


****


《GGO》はもちろん、《SAO》にも、《ALO》にも、痛覚は存在しない。なぜなら気楽な戦いの場を用意された世界なのだから。
しかし、だからこそVR空間にはいろんな犯罪が溢れかえっている。
だから《GGO》に闇ブローカーとやらがいたとして、今更驚きはしない、が。

「菊岡さん、さては私の勉強を邪魔する気だな?」
「僕も思ったよ。僕の仕事を邪魔する気だって」

年末は忙しいのに、と僕は肩を竦めてみせた。
凛世だって、大学入試は推薦型だけれど、彼女の進学する大学では1月の共通テストも選考に入るのでまだ残っているのだ。

「大学落ちそうだったら訴えようかな」
「ははっ、きみは落ちないと思うけどね」

これは紛れもない本心だ。彼女が落ちるわけが無い。
それには僕が大学に圧力をかけたり菊岡が手を回したりする必要はなく、ただただ、凛世がそうであるから。
まあ億が一落ちそうになったとして、僕が何とかできるから別にいいのだ。
そこまで思考してから、僕は凛世を車に乗せた。



赤信号で止まると、僕はちらりと助手席に座る凛世を見た。
彼女は何かを考えるように外の虚空を見ている。太陽光が凛世の頬を照らしている中、彼女は憂いているような雰囲気だ。
ふ、と僕は胸に溜まった感情を静かに吐き出した。
相変わらずかわいい僕の恋人への愛と、凛世の憂いていることを知りたいという心配と、ここでは凛世の憂いている顔も息遣いもすべて僕が独占できるという悦び。
……ああ、やっぱり僕は、凛世が好きなんだ。

「ねえ、ゆき」
「ん?」

凛世は、意外にも話しかけてきた。
その顔は相変わらず少し沈んでいるが、それでもたしかな意思を見て取れる。

「あの、ね、現実リアルで、話したいことがあって」
「うん」

青信号になったので、ぐっとアクセルを踏み込む。
凛世の息遣いが聞こえてきた。ラジオのついていないこの車の中はひどく静かだ。

僕は、僕が狂った元が凛世にあることを伏せた。
泰嗣……否、サヤトも現在は狂気を収め、それに同意している。
けれど、彼女はどうだろうか。
もしかしたら、悟っているんじゃないだろうか。
凛世は頭がいいから。察しがいいから。僕が隠したいことをどんどん暴いていってしまうから。

できるなら、これだけは隠し通したかった。
凛世は知らなくていいのだ。
ただ、僕が知っていればいいこと。僕が、以前から2人は繋がっていたんだと、わかっていればいい。
そう、凛世は、知らなくていい。

「いつだと空いてるかな?日程を決めてあるほうが覚悟ができるから」
「そうだな、早くて明後日」

嘘だ、今日だって明日だって空いている。
でもきっと、きみは「明後日」が1番いいだろう。

「わかった、じゃあ明後日、家で待ってるね」
「ああ」

凛世の家に到着し、車を停める。
シートベルトを手早く外し、僕は軽く凛世の唇を啄むようにして奪った。

「……っ、ん!?」
「凛世」

一瞬身を引いたが、名前を呼ぶと凛世はすぐに僕を受け入れてくれた。
僕はゆっくり凛世の唇を貪る。
溶かすように。凛世の体の緊張ごと、すべてを取り除きたくて。

「愛してるよ、凛世」
「!!」
「だから凛世は何にも心配しなくていい。僕は待っているから」

凛世の顔が、綻んだ。
そう、その顔。
僕は待っているのだ。彼女が、やがてすべてを僕に明かしてくれた上で、その顔で僕を呼んでくれるのを。


****


「くく、くくくっ」

そこは、《GGO》の、名も知れぬ特別な場所。
彼女は、《マギナ》と名乗るプレイヤーからのメッセージを読むなり耐えきれずに笑みをこぼした。

「とんだ野暮天やなぁ、あの女。信頼も約束も綺麗事。そないなもん、あるわけあらへんのに」

その人物は再び零すように笑ってから、続ける。

「利用されたのに気づいとらんみたいやな、ほんまに愚かやわぁ。笑い止まらへんし」

そして彼女は立ち上がり、何処かへと歩き出した。
次の「獲物」を探して、遠くまで。


****


「さて!」

私は、そう言って目の前の広い大地を見た。
いや、大地じゃないかな?機械地?まあ、言い方はどうでもいいか。
そう、ここは《夜の女王》クエストで開放された2つ目の新しいフィールド。

《ホワイトグラウンド》……同じく雪原フィールドだが、機械に寒さ耐性を適用したあと、エラーが出ていないか確認して《ホワイトフロンティア》に移送するための場所という設定だ。
つまりは、隠れた中枢。
当然セキュリティシステムもしっかりしているらしく、《ホワイトフロンティア》よりもエネミーのレベルが高い。
今回のメンバーは私、レイ、イツキ、カンナ、ハヅキ、ヤエ、アカ、エイジ、ユナ。

「景色は《ホワイトフロンティア》に似てるんだね」

ユナが言った。
たしかに、景色は《ホワイトフロンティア》に似ている。
違うとすれば、このフィールドには味方っぽいNPC……見たところアファシスっぽい子たちがいるってこと、かな。

「何で、このフィールドに……アファシスが、いっぱいいるんでしょうか……?」

ヤエが首を傾げるも、全くわからない。
多分ダンジョンを攻略していけばわかるんだろうけど、情報が少ない今では判断は難しいな。

「……違う」

そのとき、エイジが呟いた。

「こいつらは、《アファシス》じゃない」
「……」
「えっ?」

みんなが驚いたようにエイジを見た。
まあ、そうだろう。プレイヤーに味方するNPCのうち、フィールドに出て来られるのはアファシスだけだ。
エネミーアファシスの件こそあったものの、本来はマスター登録がないアファシスのtype-Aやtype-Bだってプレイヤーには敵対しない。

フィールドを自由に動く「彼ら」はアファシスに違いない、そう思うだろう。

「正確には、『アファシス』ではあるけど《アファシス》じゃない、ね」

私はそう付け足した。

「な、何か……知ってるん、ですか?」

カンナの問いかけに、私は頷く。
特に驚いていないイツキとレイには、今回の件に付き合ってもらったからわかるだろう。

「ちょっと気になることがあったから、調べてみたんだ」

行ったのは《魔窟》、それから《SBCフリューゲル》。
《魔窟》ではリエーブルが使っていたアファシス製造機を詳しく調べて見た上で、そこに残っていた記録から仮説を立てて、マザーコンピュータに聞いてみた。

マザーコンピュータは、その「話」を持ちかけると、すんなりと話してくれた。
ただし、話す条件は《ホワイトフロンティア》に行ったことがあるプレイヤーであること。
実は、エイジもマザーコンピュータから話を聞いたらしい。
エイジが「アファシスが必要」と言った扉を開けるために調べたそうだ。

そして、肝心の内容。
結論から言うと―――

「彼らは『アファシス』であって《アファシス》ではない」

そう、彼らは。
そして―――私が気になっていた、ハヅキは。

「《ArFaSyStem replica》」
「……レプリカ?」
「そう。アファシスのAとかBとかできる前に作られた、数少ない試作段階だったアファシス」

そのレプリカにもタイプはあって、アファシステムレプリカのtype-Xがハヅキだったわけだけど。

「それが、この《ホワイトグラウンド》で使われてるみたい」
「そうなんですね……」

ヤエはぐるっと周りを見渡した。
動かずとも5人は確認できる。相当な量いるはずだ。
カンナにはまだ、ハヅキがレプリカであることは言っていない。
レプリカがどんなふうに関わってくるかわからない以上、敵になる可能性も否めないから、カンナを混乱させたくなくて。

「さて、じゃあダンジョンでも探そうか」

私はみんなに笑いかけた。

「この《ホワイトグラウンド》、もしかしたら重要なことがわかるかもね」

……まあ、本当は《ホワイトグラウンド》攻略はもうちょっと後にするつもりだったんだけど。
反《デファイ・フェイト》勢力から宣戦布告を受けて、その決闘?の場所が《ホワイトグラウンド》だったから下見を兼ねて攻略に来たのだ。
フィールドでのマッピングやギミック、エネミー量の把握が戦いを左右することになるし、それは手を抜けない。

菊岡さんからの依頼もぼちぼち進めなきゃいけないし……もう、なんか私はいつも忙しいなあと、嘆息。
でも、ゆきは仕事もあるしもっと忙しいはずだから、私がいろいろ言っていられないよね。

「さてと、じゃあ探索を……って、ん?」
「マスター、どうかしましたか?」

私は視線を感じて斜め右上を見てみた。
そこには少し高い丘があって、ソロのプレイヤーが私たちを……いや、「私ではない誰かを」見つめていた。
その人は体格的に女性アバターのようで、体のラインがはっきりしていてスタイルが良い。でも動きやすそうなスーツや装備はそれに似つかわしくないほどに戦場に適している。

彼女が見ているのは―――レイ?

やがてその人は、私と目が合うと、にっこりと笑って目の前に滑り降りてきた。
その動き方は熟練度が高い。アクティブスキルも相当高いだろう。
見た目は朱色の姫カットボブ。
緑色の三白眼で、赤色のアイシャドウメイクをしている。《GGO》のアバターってお化粧できるんだ……。初めて知った。

口元には蜘蛛の口を模した黒のサイバー風のフェイスマスク。
5色の全身スーツを身に纏っていて、胸元と太股がザックリ大胆に開いてたり、ヘソと背中の部分がシースルーで透けてたり等と露出が高いが防弾仕様の、隙のない衣装だ。
ショルダーホルスターは飾りではなく銃を収めるためのものだろう。
そしてボディスーツの上に白と赤と橙色のパーカーを着て腕まくりしている。
両腕には鼠色のガントレットがあり、両手には朱色のオープンフィンガーグローブ。
腰にはマグパウチやらポーチとかが付いてるベルトをしている。
全体的に蜘蛛を意識したデザインのようで、基本そんなに見た目を気にしない私と対照的だ。

「こんにちは。戦う意思がないみたいで安心したよ。私たちに何か用?」

試しにそう言ってみると、その人は柔和な笑みを浮かべて首を振った。

「リノセちゃんやろ?有名やから、1回話してみたいと思ってたんよ。ウチの名前はネフィラや、宜しゅうな」

ネフィラは手を差し出してきた。
一瞬リエーブルを思い出すが、プレイヤーにその権限はないはず、そう思い直して手を握る。

「よろしく、ネフィラ」


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