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- 幻想しぃちゃんと儚い僕ら。(最終話)
- 日時： 2009/10/29 10:00
- 名前： 朝崎疾風 （ID: VZEtILIi）
スレッド消えたんでこぴっていきますね。
＝登場人物＝
耀山成瀬
２３歳。マヤマと結婚し、子供も生まれた。滅多に外に出ず、近所付き合いもない。物語が好きで、年の割りには幼い性格をしている。自殺未遂の経験がある。
耀山マヤマ(あかるやままやま)
２３歳。ファッション業界の仕事をしている。音はと椎乃の住んでいた田舎で暮らしている。昔と変わらず軽い性格。
耀山ルトナ(あかるやまるとな)
６歳。成瀬を「成瀬ちゃん」マヤマを「マヤマくん」と呼ぶ。年の割りには賢く理解力があり、椎乃に一度会ってみたいと思い始める。
梅宮亜樹里
２４歳。高校時から美人で、梨螺と同棲している。精神科に通院中。少年院から出てきたときは１８歳だった。
榊原梨螺
２４歳。亜樹里の恋人。近所の居酒屋で働いている。亜樹里に刺された傷が残っている。
三加和奇跡
２４歳。三加和帝都ホテル社長の令嬢の娘で椎乃の従妹。現在は父親が当主となっている。その美貌から、近寄る男性が多い。
桜坂日羅李
２３歳。感情がなく、それで一時期精神が不安定だった。今でも元気で無邪気な「日羅李」と、無表情な「桜坂日羅李」を交互に使い分けている。
早峰修吾
２１歳。椎乃から与えられていた名前は「ナトリ」。今では本名を使うようになった。中性的な整った美人な顔立ちの為、女子から人気がある。大学生。
彩並紫苑
４２歳。刑事として働いている。オトハと椎乃の事件を担当していた。
音色オトハ(おとねおとは)
２４歳。高校も中退し、現在行方不明。両親から虐待を受け、椎乃に目の前で彼らを殺害される。数々のトラウマがある。別名：木霊。
舞曲椎乃
享年１７歳。オトハから「しぃちゃん」と呼ばれていた。動物を惨殺するという性癖があり、１２歳の時にオトハの両親を殺害した。最後はオトハに殺される。
舞曲縁
１７歳。椎乃の母親違いの妹。実兄の歪んだ愛情で、「椎乃」として育てられてきた。顔も整形され、椎乃に似ている。精神を病んでいる。
主題歌 http://www.youtube.com/watch?v=-2zv8eRwXwo
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- Re: 幻想しぃちゃんと儚い僕ら。 ( No.100 )
- 日時： 2009/10/24 14:12
- 名前： 朝崎疾風 （ID: VZEtILIi）
第五章
それでもきっと僕達は
学校が終わり、ルトナが一人で帰っている。友達は別にいらなかった。一人でいる時が落ち着くから。
田んぼのあぜ道を通っていると、ふと何かを思い出して、振り返る。
その向こうは墓地だった。
「……」
好奇心だった。単なる子供の、小さな冒険にしかすぎない。
ルトナはそのまま元の道を戻った。
何かあるわけでもないが、また、あの男に会えるような気がして。
「……」
しかし、居たのは、
「……」
男ではなかった。
いつか、古い空き家で見た少女がじっとルトナを見つめている。
透き通るような白い肌に、大きな瞳を持ち、腰まである黒く長い髪がキレイだ。
「何、してるの？」
ルトナがそう訊ねると、少女は少しぶっきらぼうに、
「散歩」
短く答えた。
「私も、一緒していーい？」
「いいけど」
「おねーちゃん、名前は？」
少女はサラリと、
「椎乃」
そう答えた。
ルトナは少し首をかしげて、
「でも、死んじゃったんでしょ？おねーちゃんは幽霊なの？」
そう聞いた。
「な訳ないでしょ。ボクは生きてるよ」
「ふ〜ん」
ルトナがじっと椎乃と名乗る少女を見て、その白い肌に触れてみた。冷たくて、でも確かに人間の肌。
「何？」
「ホントだ。生きてるね」
ルトナが笑ってそう言い、墓標を見た。前に男が手を合わせていた墓標。
「じゃあ、これは誰のお墓？」
すっと指を指してルトナが訊ねる。椎乃は悲しげにそちらを見て、
「ボクのじゃないね……」
「でも、おねーちゃんは椎乃なんでしょう？」
「うん。……ん？」
椎乃の中で何かが渦巻いた。
どす黒い、闇の塊のような、不快な、それでいてどこか心地のいい……。
「違う……ボクは……？ボク？私？あれ…？」
ぐるぐる渦巻いていく。
自分は誰なんだ？本当の名前は？何で自分は「椎乃」になってるんだ……？？
「違うっ、私は……縁だよ！」
突然叫んだ少女に、ルトナが驚く。
「どっか痛いの？？」
「違うっ、そんなんじゃないッ。私は縁だよッ！どうして、どうして？？何で“椎乃”なの？椎乃って誰なのよッッ！！」
少女の顔が恐怖で歪む。墓標を睨み、いきなり手で殴りつけた。
「ッ」
ルトナが呆然とそれを見つめる。
手が切れて血だらけになっても、少女は墓標を叩き続けた。
「どうしてッ！私は縁だよッ！椎乃って誰なの？許さないッ、キライッ！キライだぁぁぁぁあああぁぁぁっ！」
「だ、大丈夫……っ」
ルトナが青ざめた表情でどうしていいか判らずオロオロする。このままにしておくわけにもいかず、その場で狂気で歪んでいく少女を見ていた。
そのとき、
「しぃちゃんじゃ、ないじゃん」
後ろで声がした。
少女は動きを止め、ゆっくりと振り返る。ルトナはすぐ横に立っている青年を見て、
「誰……？」
小さく訊ねた。
「キミは、しぃちゃんじゃなかったんだね」
その青年──、オトハがどこか安心したように微笑んだ。
- Re: 幻想しぃちゃんと儚い僕ら。 ( No.101 )
- 日時： 2009/10/24 23:01
- 名前： シア ◆oQwO6pOV0U （ID: MTGEE0i4）
おぉ、幽霊じゃなかった！←
ゆかりって誰ー(笑)
- Re: 幻想しぃちゃんと儚い僕ら。 ( No.102 )
- 日時： 2009/10/25 09:16
- 名前： 朝崎疾風 （ID: VZEtILIi）
縁の謎はこの後あきらかになります！
- Re: 幻想しぃちゃんと儚い僕ら。 ( No.103 )
- 日時： 2009/10/25 09:48
- 名前： 朝崎疾風 （ID: VZEtILIi）
ナトリが泣きそうな顔で車を運転している。
───アンタは、ホントに優しいよ。
女のような顔を歪ませ、亜樹里の言葉を繰り返し思い出す。
「本当に、優しくなれた？しぃ姉……」
一人で呟いてみる。
返事を返してくれない事は、わかっていた。
───なれたよ。
でも、声が聞こえて驚いて後ろを振り返る。
そこには、誰もいなかった。
涙が出そうになり、慌ててこらえる。彼女の前でしか泣かないと決めていた。
「しぃ姉……」
ナトリにとって、彼女は家族だった。
時々狂乱して、部屋をぐちゃぐちゃにするけれど、彼女は家族であり、姉であり、そして最愛の人だった。
オトハしか見えてないと知ってても、ナトリは彼女が眠っているとき、そっと、薄暗い部屋の中でキスをした。
もう、彼女は帰ってこない。
あの儚げな笑顔と、どこか禁断の扉を開けるような残酷な性格を、一体誰が真似できる？
誰にも、真似る事はできない。
「しぃ姉……」
好き、だった。
ナトリは彼女の事を家族以上に愛していた。
だから、彼女が必死で自分の居場所に置いておいたオトハに尽くす。
それしか、ないから。
「……ッッ」
アパートの自宅に帰り、そこに居るはずのオトハがいないので、ナトリの思考が一瞬停止した。
「オトハ……さん？」
不安げに、風呂場を見る。
そしてホッとした。死体はない。
だとすると、どこに行ったのか。
精神が不安定な彼を外に出したら、何をうるかわからない。
(うかつだった……。ちくしょっ)
「キミは、しぃちゃんじゃなかったんだね」
オトハがどこか安心したように微笑んだ。
ルトナは唖然とオトハを見て、軽く首を傾げる。
「驚いた。ホントにしぃちゃんに似てる。でも、しぃちゃんじゃない。だって、髪の色が全然違う」
椎乃は、ストレスで色素の抜けた明るい髪だった。薄い金色のような、白髪だった。
対して謎の少女は、真っ黒な黒髪。
「キミは、誰なの？」
「私はッ」
少女がそこまで言って、顔を青ざめた。
体がカタカタと震え、足を地につき、嗚咽した。
「げほっ、がっ、ごほごほっ！」
黄色の液体が、大量に吐き出された。
少女は頭を強くふり、
「私は……誰？私？俺？僕？あたし？意味わかんないっ何で、何で？もっとボクは幸せだったのにッ！」
静かにオトハが近づく。
「来るなッッ！！」
少女が叫び、必死で震えをとめようとする。
「ボクは椎乃だよッ！」
「……じゃあ、僕の事わかる？」
「わかるよッ！オトハでしょうッッ！！」
その言葉に、オトハが少しだけ驚き、ルトナがやっと今自分の目の前に立っている青年が誰かわかった。
「でも、キミはしぃちゃんじゃないね」
「違うッ！ボクは椎乃だ！オトハの両親を殺した、椎乃だ！」
「……それなら、どうして僕の両親を殺したの？」
鼻で笑いながら、
「だって！あいつらオトハを苦しめたから、ムカついたんだッ！可哀相なオトハッ！ボクはあの大人が本気でムカついたッ！」
オトハは冷静に、
「やっぱ、キミはしぃちゃんじゃないよ」
「……ッ？」
「だって、しぃちゃんは自分がムカついたって理由で大人を殺したわけじゃない」
先の見えない言葉に、少女が困惑な表情を浮かべる。
「しぃちゃんは、僕を“解放”するために、自ら罪を被ってくれたんだよ」
悲しげに微笑みながら、オトハが続ける。
「そして、もうこの世界に生きる事は苦痛だと、僕に死を求めてきた。しぃちゃんが僕を解放してくれたんだから、今度は僕がしぃちゃんを救う番だ。だから、殺したんだよ」
「……何ソレ……。じゃあ、ボクは誰？」
♪
存在を、否定された。
椎乃ではないと。今まで椎乃として生きてきたのに。
彼女は幸せだった。
笑顔の素敵な優しい母親と、時折厳しいが彼女を精一杯愛してくれた父親。
この「縁」という名前をくれたのも、父親だった。
なのに、いつから？
いつから彼女は「椎乃」として生きている？
記憶を、さかのぼる。
どうして、こんな事になったのか。
そうだ、あの日。
「椎乃」が死んだ後、あいつはおかしくなった。
彼女の顔をぐちゃぐちゃにし、母親が事故で死んでから、彼女を「椎乃」と呼ぶようになった。
苦痛だ。
知らない少女の顔で、知らない少女の名前で呼ばれ、知らない少女のクセを教え込まれ、知らない少女でなければ愛せないと言われた事が。
とてつもなく、苦痛だった。
だけど、彼に愛されたいまま、必死で彼女は椎乃を覚えた。
名前を覚え、椎乃がどういう人生を歩んできたかも。
だけど、たった今。
彼女は存在を否定されたのだ。
椎乃が最も愛し、最も憎んでいた男から、
「椎乃ではない」
と。
彼女にとって、椎乃である事が全てだったのに。
い ま か の じょ の な に か が
こ わ れ て し ま っ た 。
- Re: 幻想しぃちゃんと儚い僕ら。 ( No.104 )
- 日時： 2009/10/25 13:11
- 名前： 朝崎疾風 （ID: VZEtILIi）
第六章
罪の花から生まれた子羊
奇跡が荒々しく扉を開け、
「オトハがいないってどーいう訳よッ！」
そこに呆然と立ち尽くしたナトリに大声で訊ねた。
ナトリが動揺したように少し体を震わせ、
「ッ、帰ってきたらいなくなってました」
「どうして？あんなに外を怖がってたのにッ」
ナトリが何か思いついたのか、顔を真っ青にさせて、
「俺の、せいだ……」
「は？」
奇跡がナトリを睨む。
「俺が、奇跡さんからの電話の内容、少し言っちゃったんです……、しぃ姉の事だって」
「それだけ言ったの？」
「はい」
ため息をつき、
「そんな風に変に煽ったら気になるに決まってるじゃないッ！とにかく、今彼は何するかわからないのにっ！その“椎乃”に会ってごらんなさいッ！きっとその子を殺して自分を死ぬわよッ！」
そう言って、急いで携帯を取り出し、
「雨竜？私よ。急いで迎えに来なさい」
雨竜に連絡を取った。
「少し働いてもらうわ。あの子達にもね」
「オトハが……消えた？」
梨螺の声に、亜樹里が持っていたグラスを落とす。
電話の相手は、奇跡だった。
「うん……うん、了解。こっちも捜してみる」
電話を切った梨螺に、亜樹里が
「オトハ……どうしたの？」
「消えたんだとよ。捜せって」
梨螺がジャケットを羽織る。亜樹里もそれに続き、梨螺の服の裾を掴んで、
「ま、さか……じ、自殺したり……ないよ。ね」
「あるわけねぇだろ！！」
梨螺が怒鳴る。
そして、亜樹里を睨み、
「そんな事、絶対にさせないッ！何のために舞曲がいたんだよッ！」
「……っ、梨螺ぁ……」
「メソメソすんな！決めたじゃねーか！」
オトハを、救うと。
歪んだ形で、オトハを苦しめていただけだった。
「うんっ、……うん」
亜樹里がこくこくと頷く。
梨螺が少し笑って、すぐに真剣な顔になり、携帯をあけた。
「……はい、もしもし」
『俺だ、日羅李。梨螺だ』
「わかるよ」
日羅李が冷たい目でテレビの画面を見る。
そして、
「何の用かな」
『オトハがいなくなった。お前の方でも捜してくれねーか』
「……オトハさん、椎乃さんに会ったんですか」
『おいっ！舞曲はもう死んだんだぞッ！』
「いいえ」
日羅李の声が、淡々と告げる。
「あの人は、もう一度椎乃さんを生き返らそうとしたんだよ。私も、最初は歪んでるなって思ったけど、あまりにも“デキ”がいいから、協力したんだよ」
『何の、事だよ……ッ』
「だからね、梨螺。椎乃さんは、生まれ変わったの」
日羅李が時計を見て、視線を落とした。
『おいっ、何か知ってんのかッ！おい──』
一方的に電話を切り、日羅李が携帯を閉じた。
手をポキッと鳴らして、ニコッと笑う。視線をもう一度、テレビの画面に向けた。
そこには、無邪気に笑う幼児が公園で遊んでいる様子が映されていた。
「……縁ちゃん、元気かなぁ」
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