ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ロンリー・ジャッジーロ 4−2
- 日時: 2011/07/31 16:02
- 名前: こたつとみかん (ID: DNzgYQrN)
- 参照: ココに来て一年経った、かな?
起きている間はずっと寝ていたい。だけど書き続ける。それがなによりも好きだから。
こんにちは。新年明けましておめでとうございます。
最近ポケモンの白を購入しました。ミジュマル超可愛い^^
ではでは、この小説が貴方の享楽となりますように。
こたつとみかんでした。
序章 前>>3 後>>4
第一章 ①>>8 ②>>10 ③>>12 ④>>16 >>17
第二章 ①>>21 >>22 ②>>25 ③>>26 ④>>33 >>34 ⑤>>40 >>41 ⑥>>44 >>45 ⑦>>46 >>47 ⑧>>51 >>52 ⑨>>62 >>63 >>64
第三章 ①>>73 >>74 ②>>77 >>78 ③>>82 >>83 ④>>84 >>85 ⑤>>86 >>87 ⑥>>90 >>91 ⑦>>94 >>95 ⑧>>96 >>97 ⑨>>100 >>101 >>102 ⑩>>103 >>104 ⑪>>105 ⑫>>106 ⑬>>107
第四章 ①>>112 ②>>113
キャラ名鑑 その一>>18 その二>>68 その三>>72
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- Re: ロンリー・ジャッジーロ 募集開始 ( No.109 )
- 日時: 2010/12/24 14:15
- 名前: 秋華 ◆gYINaOL2aE (ID: SmzuliUF)
こんにちわ。コメントを読ませて頂き、すぐに飛んで参りました。いそいそと読ませて頂いたところ……何というか、衝撃でした。世界がファンタジーなのにもかかわらずしっかりとしていて、あと描写が細かいですね!場面が目に浮かぶようです。表現力が豊かですね、尊敬します!そしてアイリスさんがカッコイイ!
これから応援します!頑張ってください!
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 募集開始 ( No.110 )
- 日時: 2010/12/24 16:17
- 名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
こんにちは、ロンリー・ジャッジーロを久しぶりに見たので馳せ参じました。元SHAKUSYAです。
今回は何やらお困りというか募集をかけていらっしゃる様子なので、今まで小説を見てくださった恩返しのつもりで幾つか応募します。
汎用性のない魔導も多いかと思いますが、良ければ使ってやってくださいませ。
カッコ内の言葉は魔導を強化するための追加詠唱みたいなものなので、「長いな〜」と思ったときは取り外しちゃっても構いません。
=募集用紙=
魔導名:
氷針舞(ひばりのまい)
属性魔力(ひとつのみ):
水
詠唱:
(我、水を統べる精霊の名の下に於いて、汝に命ず。)宙舞いし微なる刃よ、我の命に従い、集いて空を舞い、この者を切り裂け。(命の要、此処に終える)
効果:
対象に対する著しい切り裂き効果及び貫通力、または甚だしい痛み。
<詳細>
空気中の微細な水蒸気に干渉して無数の氷の針を作り出し、それらを一点に収斂させて、術者の任意の方向へ一直線に飛ばす魔導。
元は手に届かないようなところにある縄などを切るために開発されたもので、その効果は術者の技量と対象までの距離に比例する(術者の技量が低いと威力は落ち、対象までの距離が短いと威力は上がる)。
しかしながら、鋭い氷の針を一点に収束させた後猛スピードで飛ばすためにかなりの貫通力を持ち、全くのずぶの素人が使ってもスチール缶二個に穴が貫通する。そのため、肌に当たると拷問級の激痛が走り、対象が戦意喪失してしまうことも。ある意味攻撃力の高い魔導である。
ただし、氷の針自体は繊細且つ微細で熱に弱く、炎の属性を持つ魔導とは徹底的に相性が合わない。また、夏場に高威力のものを発動するのは難しい。
もう一つ。
同じくカッコ内は強化詠唱。
魔導名:
封呪陣(まじないふうじのじん)
属性魔力(ひとつのみ):
闇
詠唱:
(我、地の果てに巣食いし混沌の王侯の下に於いて、汝に命ず。)地の果て、我の後ろにただ佇む静かなる力よ、我の命に従い、聖なる昏き王の名に応じ、今その力を汝の望むまで散し、掌中に在りし者を封ぜよ。(命の要、此処に終える。)
効果:
一定範囲内(常に円形陣)にいる者全員の力を強制的に封じる(無論術者を除く)。
ただし、詠唱の仕方を変える(詠唱の言葉を変える)ことにより、ある任意対象の力のみを封じたり、陣の形を変えたりすることが可能。
<詳細>
他人の魔力回路に干渉し、その魔力の流れを一時的に断絶させてしまうことで、魔導の発動を根本から止めてしまう魔導。(ニコの擬似催眠術と同じような効果と言えば分かり易いかも)
闇属性を持つ人間の内、『反攻撃系』もしくは『抗魔導系』、『強化系』の効果を持つ人間にのみ扱える(本小説で言えば、『身体強化』の効果を持つアイリスは理論上使える)。
とある国の司祭が悪魔祓いをした際、祓われた悪魔が己が上級の悪魔であることを証明するために司祭に教えた魔導とされ、発動の際に必要なプロセスは複雑且つ難解。故にこの魔導が扱えるのは全世界でも数十人と非常に少なく、ほんの一瞬でも扱える人間は英雄もしくは悪魔扱いされることもしばしば。
魔導の範囲は術者の闇属性の含有率にほぼ比例しており(闇属性二%につき約一メートル)、また持続時間は術者の魔力容量の二乗に比例する(大体の術者は十メートルの範囲に対し五秒使うと危険とされるが、元から魔力量の多い精霊などは半径百メートル以上に対し一分間使用しても平然としている)。
使いこなすことが出来れば非常に有用になりうる可能性を秘めているだが、如何せん持続時間が短い上に術者が限定されるため、一部の精霊・人間を除き汎用性は殆どない。
……。
な、何だかものすごく長くなってしまった上にどっちも汎用性がない!! (封呪陣に至っては特殊すぎて汎用性ゼロという醜態……あああああああああ)
もうただただ恐縮です……orz
こんなでも使っていただけたら、私は泣いて喜びます。
それでは、本小説の更なる繁栄と向上、心より応援しています。
失礼しました!
- Re: ロンリー・ジャッジーロ 募集開始 ( No.111 )
- 日時: 2010/12/24 18:53
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: nsrOqY/c)
- 参照: 三章おわったぁぁあぁ!
>>109 秋華さま
うれしいお言葉、感激です!
長ったらしい文章を読んでくださるのは本当にうれしい限りです。
もっと秋華さまを楽しませられる小説を書いていこうと思うので、ただただ温かい目で見守ってください。
もう一度、コメント有難うございます!
こたつとみかんでした。
>>110 LA.Bustleさま、もといSHAKUSYAさま
コメント&魔導投下有難うございます!
とても魔導の発想に困っていたところ、女神を得たような思いでした^^
むしろ、使わせていただく私のほうこそよろしいのですか? という感じです。このようなとてもよい魔導を私なんかのために…。
ともあれ、ありがたく頂戴いたします。
お互い頑張っていきましょう。
こたみかでした。
- Re: ソリトゥーディネ・ジャッジーロ 4−1 ( No.112 )
- 日時: 2011/01/11 20:56
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: GLKB1AEG)
- 参照: 地元の有り得ない積雪量に驚いた。
第四章『魔書館の司書』①
午前八時、窓から差し込む朝の光を受けて目が覚める。
春先の陽気は快く、そのままうとうと二度寝へと洒落込みたくなるような気持ちよさだ。——ああ、もう少しだけ……。そんな思いがベッドの中の銀髪の少女——アイリス・フーリー・テンペスタの脳内を満たしていた。窓の外から聞こえる小鳥たちのさえずりをバックグラウンドミュージックに、再び意識を眠りへと誘おうとするとき、
「はい、そこまでー。戻ってきてアイリ」
すでに起床していた気弱そうな少女——ニーベル・ティー・サンゴルドがアイリスの掛け布団を引っぺがすことによって、現実に意識を強制的に戻された。
アイリスが眠たそうに目をこすりながら上体を起こす。まだ意識が覚醒し切れていない彼女をニーベルは叱りつけた。
「駄目だよ。二度寝なんかしちゃったら、お昼まで起きて来ないんだから。今日はリースちゃんとマリアちゃんのところに行くんだよね? だったら尚更起きなきゃ」
——そう、だった……。先日関わった、大きな鞄を持った小柄な少女——リース・エルナート・ペルーペスから頼まれたこと、「家を探してほしい」という要望を元にそのあてである知人を訪ねる予定が今日にはあった。
知人の名前はマリア・エル・アマリア。ヴィ・シュヌール中央地区で王立図書館の司書をしている女性だ。司書と言えば聞こえはいいが、誰も利用することもない廃れた図書館に住み着き、勝手に管理しているだけであるため、厳密には司書ではなくただの居候だ。ただ何の酔狂かそこにある本を読破し、場所も記憶していることから彼女を知る者は彼女を“司書”と呼ぶ。
彼女の特徴としては、身体的には肩に掛かる程度の薄い金色の髪の毛、燃えるような真紅の瞳が目立っている。精神的には基本的に無感動であることが特徴らしい。しかし、小さな子供に対してはまるで別人のような笑顔を見せるというのもそれのひとつだ。
そして何より、国内有数の“神鬼導”を使用する人間であることが有名だ。どこで覚えたのか、誰に教わったのかは本人が頑なに言うことをしないので未だに謎らしい。
そういう人物であったことを虚ろな目をしたまま思い返していると、こつんと杖で頭を小突かれた。軽く叩かれたくらいでも、意識を現に戻すのには十分な衝撃だ。——おかげで、目が覚めた。
「ほら、顔を洗って早く朝ごはん食べよ? リースちゃんはもう食べてるよ」
ニーベルが笑顔でそう言い、部屋を去ってゆく。
「んん……」
アイリスは大きく伸びをして全身に血を廻らせ、意識を確実なものへと持っていった
居間へ出ると、リースが黙々と朝ごはんにかぶりついていた。その頬は冬に備える小動物のように膨れていて、一目見たアイリスは思わず吹き出してしまった。
声を聞き、アイリスの存在に気がついたリースは自分の様子とアイリスの反応を交互に眺め、やがて理解すると彼女は顔を茹で上がった蛸のように赤く染めてあたふたと忙しく手を動かし始める。すると不意に彼女の動きが止まり、何事かとアイリスは思うと、リースの顔が見る見るうちに青ざめていくのを目で確認した。
——危ない。アイリスは即座に行動に移した。
アイリスは身近にあったグラスを手に取り、保存庫の中にある水をそれに流し込んでリースに手渡した。無駄のない動きのおかげでリースは九死に一生を得たようで、それを口の中に注ぎ込んで喉に詰まらせていたものを苦労して飲み込み、それから大きく息を吐いて呼吸を整える。荒い呼吸が、彼女の危機がどんなものであったかを悟らせた。
「だ、大丈夫?」
身を心配されたリースは恥ずかしいのかどうなのか、目を合わせられないままアイリスに答える。
「ウチは……大丈夫ですぅ。……ごめんなさい」
「や、謝る必要はないって言うか……」
未だ二人の間はギクシャクとしたもので、決して打ち解けているものではなかった。しかし、それはお互いを警戒、または嫌悪しているからでではない。
アイリスは気を許さない限りフレンドリーに接することの出来ない性質、百歩譲った言い方をすれば極度の人見知りということだ。対するリースは他人に迷惑を掛けることを恥と思う考え方で、不本意とはいえ今に至るまでさまざまなトラブルにアイリスを巻き込んでしまい、彼女が自分に悪い感情を抱いているのではないかと思って恐縮してしまっているのだ。
アイリスはリースの隣の椅子を引き、そこに自分の腰を落ち着ける。それからニーベルが用意してくれている朝食をちびりちびりと食べ始めた。
——沈黙が痛いし……。早く戻ってきてニーベル……! リースには感づかせないように平静を装っているが、内心はこのように相当焦っていた。——誰か、誰か、誰か、誰か。誰でも良いからこの空気をどうにかして……。
アイリスの願いも空しくそれから数十分、チクタクという時計の秒針が進む音以外聞こえない空間のなか、二人は黙々と朝食を食べ続けていた。
「何で、助けてくれるんですかぁ……?」
真っ黒な画用紙に一滴落とされた白色のインクのように、唐突にリースが口を開いた。その
質問にアイリスは困惑する。どう対応していいのか判らないでいるのだ。
「何でって言われても、」
「私とアイリスさんは初対面のはずですぅ。本来、私から頼んだのでこういうことは言っちゃいけないのは判っていますけど、ここは無法の国なんですよぉ? 今思い返したら、こんなこと思っちゃって……」
アイリスの返答を待たずにリースは自分の意見を述べた。自らの行動を省みて、この国の常識では真っ先に疑問に思われることだ。
その問いかけにアイリスは言葉を詰まらせたが、やがて顔を上げて口を開く。このときお互いの顔は見ておらず、まっすぐ前を向いていた。
「私だって、昨日が何もない日常だったら絶対にリースを助けてないと思うよ」
「だったら」
「でも、」
アイリスがリースの言葉を遮断して続ける。
「結局私は君を助けて、今も私は君を手伝おうとしてる。それだけでいいんじゃないかな? 物事が良い方向へ進んでいれば、理由なんていらないよ」
そのとき、窓から入ってきた強い風が二人のいる空間を勢いよく通り抜けた。食器は鳴り、家具は揺れ、お互いの髪の毛はそれによって乱れる。数秒間、時は進んでいたが、二人にとっては楽譜に記された休符のような間であった。
「そう、ですねぇ……」
しばらくして、リースが口を開く。声そのものは小さかったが、それに込められている感情ははっきりと判るほど明るいものだった。
「ありがとうございますぅ。何かウチ、変なこと言ってましたねぇ。……ごめんなさい、無かったことにしてください」
そう言って彼女は照れ笑いする。妥協に似てはいるが、彼女は自分の中で答えを出して前向きにことを進めようとしている。——やっと笑ってくれた。これ以上何か言うのは野暮かな。話題、変えようか。
「よし、じゃあそろそろ行こう。善は急げって言うしね」
「あ、閃きました!」
リースが素っ頓狂な声をあげた。明らかに会話がかみ合っていない。
アイリスが怪訝な、そして呆れた表情で彼女を見る。
「な、何が……?」
「アイリスさん、女性と男性で話し方が違うですぅ!」
「うん、行こう?」
「じゃあこれ、ヴィルくんから受け取った高周波斧だよ」
出掛け間際、ニーベルがそう言ってアイリスに手渡した。
渡されたそれは修理前と形状が異なっており、ただ鈍重そうだった外見がやや細身に、そして短くなっている。全体的な形としては、上から下まであまり目立った凹凸がないシンプルなもので、斧といわれるとつい首を捻りたくなるような形だった。しかもそれには刃と呼ばれる部分がなく、打撃にしか利用できそうになかった。その外見どおり持ってみると、以前に比べて軽くとても扱いやすく感じたが、鈍重さを利用して戦うのが当たり前だったアイリスにとってはやや不安を感じた。
その表情を読み取ったニーベルは、待ってましたと言わんばかりに強気な表情で笑みを作る。擬声語を加えるなら、「ふんッ」という猛々しい鼻息が似合いそうな表情だ。言っておくとこの表情を見れたリースは、例えるなら道端でたまたま数十年に一度しか咲かない花を見つけることが出来たくらいに幸運であった。普段強気なアイリスが弱気になるとたまにこうなるが、アイリス自信が弱気になることは今までほとんどない。
「そう思ってヴィルくんがメモをくれました」
「それってベルが思わなくてももらってたんじゃない?」
「……うん」
——あ、目を逸らした。
咳払いをして、再びニーベルがメモの内容を言い始めた。
「ええと、『“高周波斧ドライヴ式改良機”もとい、“神狼の鋭爪(フェンリル・ピック)”の使用法及び注意事項』」
段落が下がったのか、ニーベルは瞳をやや下へ下げて続ける。
「『“神狼の鋭爪”は以前の高周波斧の素材を元に、先日破壊した例の魔物の部品を加え、その上から土(タイタン)の魔力を込めて鋳造した魔力の概念武装である。これの概念は硬度となっており、重量に関わらずダイヤモンド以上のそれとなる。形状こそは貧弱だが、それは持ち運びの際に出来るだけコンパクトになるように考慮されていることを予め述べておく』」
「……確かに、動くとき便利かも」
「『戦闘時は柄の先を捻ることで折りたたまれている刀身がスイッチする仕組みとなっている。注意してほしいのは、下手に触るといとも容易く指が切り落とされるのが必至な切れ味であり、切り替える際は厳重な注意を払ってほしい』」
ニーベルが一息つく。
「『“神狼の鋭爪”の特異な点としては武装自体に魔力回路に類似したものが通っており、魔力を表面に乗せることしか出来なかったものが、内側に魔力を込めることが可能となった。それによる効果の例としては、量を調節することによってそれの重量を自在に操作できるようになるのがひとつ。多く込めれば重くなり、少なくすれば通常の重量に戻る仕組みだ』」
「す、凄いですぅ……」
「『加えて、蓄積した魔力の放出も可能であり、“神狼の鋭爪”が高周波の振動を起こしたときに発動する。高周波発生装置は以前と変わらないので安心してほしい。——最後になるが、それを安易に人を殺める道具としないでほしい。あと、修理の際はいつでもこのヴィルバーによろしくっス!』……だって」
「へえ……いい加減な奴かと思ってたけど、案外気を使ってくれたんだな。……愛の力ってすばらしい、ね」
アイリスにとっては他愛のない台詞であったに違いない。ニーベルも当事者だったので意味を理解していることだろう。だが、そのことを知るよしもないリースは彼女の言葉に絶句した。
「え……? アイリスさん……、まさか……?」
その反応にアイリスは彼女以上の驚きを見せた。怒りか羞恥か、おそらく前者が強いだろうと頬を朱に染め、リースに対して反論する。声も裏返るほどの動揺ぶりだ。
「ちがっ、その、違うから! ほら、あれ! あのドレスっぽい服を着てた朱雀門の店員! あの娘との関係っ!」
「えっ? するってことは、同姓の方との……?」
「違うったらぁ——————!」
- Re: ソリトゥーディネ・ジャッジーロ 4−2 ( No.113 )
- 日時: 2011/01/19 20:02
- 名前: こたつとみかん ◆KgP8oz7Dk2 (ID: EUHPG/g9)
- 参照: 地元の有り得ない積雪量に驚いた。
第四章『魔書館の司書』②
ヴィ・シュヌール中央地区。午前中ということもあり、あまり人通りの少ない道をアイリスとリースは並んで歩いていた。今朝のことで打ち解け始めた二人は会話をしながら例の図書館へと向かっているが、会話の内容はアイリスの誤解についての説明とリースの質問とのやり取りが主である。
「……というと、店員さん——アイビーさんとヴィルバーさんの関係という意味で言ってたんですかぁ」
「最初からそう言ってるはずだけど」
ようやく納得してもらえて安堵したいアイリスだが、それよりもそこにたどり着くまでの苦労にうんざりして、ため息のほうが先に出てしまっていた。
そうやり取りしている間に気づかず、いつの間にか目的地に到着してしまっていたようだ。——会話で時を忘れるなんていつぶりかな。しかも、ベル以外となんて初めてだよ。アイリスは改めて、このような交友関係も悪くないと自分を省みていた。——変に壁を作っていた自分が馬鹿みたいだ。
「着いたよ。ここが例の王立図書館、君の新しい家になるところ」
「あ、はい! ありがとうございましたっ!」
ここで別れて家に戻るのも選択肢だが、どうせなら挨拶がてらよっていこうと彼女は思い、一緒に中へ入ろうと扉に近づこうとしたとき——、
不意に、轟音が耳元を高速で通り過ぎていった。
その音はばごんっ、と大きく破裂するようなもので、無意識に耳を塞ごうとするほど耳障りだった。それに加え、音と共に実体のある物体も通っていったのを確認した。若干聞き覚えのあるような声もあったような気がしたのは、このときはまだ気にしていなかった。
「小癪なぁっ……!」
通り過ぎた物体が起き上がり、吹き飛んだことを悔やんでその手に持っている武装を構えなおした。曇りひとつとない美しい刀身——神刀だ。これだけでも判断材料として十分だったが、ダメ押しのように物体がもつ清潔感のある黒色の短髪も目に入る。
「黒峰……?」
昨日アイリスの家で夕飯を食べていった黒峰が何故かここにいた。アイリスは疑問に思って彼に声を掛けるが聞こえていないようで、武装を構えて再び図書館内へと消えていった。普段の様子なら苦笑のひとつでもありそうだが、今回は勝手が違うようで、心なしか黒峰がその神刀に殺意を乗せていることを感じ取りアイリスも目の色を変えた。——普通じゃない。彼女は真相を確かめるべく追うように図書館に走っていった。
「ど、どうしたんですかぁアイリスさん!」
図書館の中心の、少し開けたところに男は立っていた。
殺気を刃に込め、命を貪ろうとするかのごとく黒峰は袈裟にその刃を男へ振り下ろす。
奔らせる、と言った方が良いかもしれない。それだけ彼の放つ斬撃は鋭利だった。ごおっ、といった豪の力を感じさせる音でもなく、ひゅんっ、といった疾風のような音でもない。形容することが困難なもので、ただ対象を例外なく斬り捨てると確信させられる音を神刀が奏でていた。
切っ先と刃が捕らえるは男の右首筋。奔るそれは一切の狂いや振動もなくそこへ向かってゆく——が、
「ふッ」
男は力を入れるために小さく息を吹き、自らの首筋を裂こうとするそれに立ち向かうべく左手に逆手で持っていたものを振り上げた。
それは特に目立つところが何もない、ただ黒い金属の棍棒のようなものだった。
火花が散るほどの衝撃によって発生した耳障りな金属音が一帯を包む。
黒峰の放った斬撃は男が持ち上げたそれ——武器であろうものによって防がれる。
何よりも切れ味を特化させて造られた神刀を防ぐほどの硬度、それは男の武器であろうものが十中八九魔力と共に鋳造された金属で造られた武器——概念武装であることを物語っていた。
跳ね飛ばされて仰け反ってしまいそうな状況の中、黒峰は即座に判断して衝撃から数秒使えそうにない右手に握られている神刀をなんとか手放し、自由な左手でもう一度男に斬り込んだ。
男もただ突っ立っているはずがない。彼は黒峰の斬撃が来る位置にあわせるように自分の武器を振るう。
数回、十数回と火花を散らし合わせた後、男は初めて自分から黒峰に向かって棍棒を振るった。リズムを狂わされ一瞬戸惑った黒峰の頭部が砕け散ろうとした——が、
「羅ァあ……!」
彼はそれをも計算どおりと言うようにそれを見切り、その打撃に潜るようにスェーイングして回避した。
潜り込んだ先には相手の隙だらけな脇腹があった。黒峰はそれを見逃すはずもなく、横に神刀を奔らせる。
男はそれに反応して脚に力を入れ、高く跳ぶ。その跳躍は黒峰の神刀の軌道を跳び越える程のものだった。渾身の一振りが再び見苦しい空振りへと変わる。
しかし、黒峰の攻撃はそれだけではなかった。彼は男が空中に避けたのを確認すると、咄嗟に神刀を手放し、軽くなった拳を男の無防備な腹に叩き込んだ。
快い破裂音が辺りに広がる。男は先ほどの黒峰のように勢いよく飛ばされ、その背中を図書館の備品である背もたれ付の長いすに打ち付けた。更にその長いすは床に固定されているものではないので、飛ばされている男の勢いに巻き込まれてそれも飛ばされた。
それから大の大人の身長を倍くらい越すほどの高さの本棚に直撃し、ドミノ倒しに巻き込まれて次々と本棚も倒れていく。幾つか巻き込んだ後、やがて止まった。彼と長いすの後ろには、ほかの長いすと本棚による山が出来ていた。
素手の拳でも人は殺せる。それを理解させられる出来事だった。
飛ばされた男はというと痛みに悶えているわけでもなく、自分の背中と腰が長いすに乗っているのをいいことに、脚を組んで頬杖を付いていた。
「続けるかい?」
男が口を利く。戦いの場には似合わない優しい声だった。しかし、その表情は挑発的だ。
「この先は本当の殺し合いになる。健全な青少年にはあまりお勧めは出来ない」
そう言って彼は背もたれに体重を預け、長いすでくつろいだ。
全力の拳をまともに受けたのにも関わらず、彼は余裕な態度だった。見るからにそれはやせ我慢ではなく、本当に効いてないと感じさせるそれである。
「しぶといで御座るな……」
呆れ顔で黒峰がつぶやく。
彼は座っている男を一瞥し、手放して床に転がっている神刀を取りに歩く。そしてそれを逆手に持って振り向きざま、
「なら——、」
神刀の切っ先を男に向けてまっすぐに——投げた。
神刀は直線軌道を描いて男へと向かっていく。もちろんこれで終わりではないと黒峰はそれに続いて駆け出した。
男は迫り来る神刀を目視して確認し、刃が上に向いていることを認識すると即座に片足で蹴り上げた。投げられた神刀は蹴られたことによって、キリモミしながら空中を舞う。
その下をくぐるように男も駆け出す。丸腰状態の黒峰は男にとって絶好の的となっている。男は手に持っている棍棒を横なぎに振るった。
しかしそれも不発に終わる。今度は黒峰が空を舞ったからだ。彼は身体を捻り、振るわれた棍棒さらには男をも飛び越える高い跳躍をした。彼はその動作によって同じく空中にある自身の神刀をキャッチし、着地点である先ほど作られた本棚や長いすの山に降り立つ。
そして黒峰は山から男を見下ろし、神刀を肩に乗せ、楽しそうに笑った。
「その心の臓に刀を突き立てるに他ならない。で、御座るな」
彼はそう言いながら左手の甲を前方に突き出す。
「そいつは面白いな」
男もまた、楽しそうに己の武器を構える。
「斬刻(斬り刻め)、将門(マサカド)……!」
「応えろ、トール……!」
同時に自身の精霊の名を告げた。黒峰は左手の魔力回路が風(ヴァーユ)の色に、男の肩の後ろ——肩甲骨の辺りが雷(インドラ)と土(タイタン)の色に輝く。
男が使う精霊、トールはアース神族の一員。雷の神にして北欧神話最強の戦神。農民階級に信仰された神であり、元来はオーディンと同格以上の地位があった。
スウェーデンにかつて存在していたウプサラの神殿には、トール、オーディン、フレイの3神の像があったが、トールの像は最も大きく、真ん中に置かれていたとされている。 やがて戦士階級の台頭によってオーディンの息子の地位に甘んじた。
北欧だけではなくゲルマン全域で信仰され、地名や男性名に多く痕跡を残す。また、木曜日を意味する古代共通語Thursdayや古代異国語Donnerstagなどはトールに基づく。雷神であることからギリシア神話のゼウスやローマ神話のユーピテルと同一視された。
外見は赤髭の大男。性格は豪胆あるいは乱暴、なぜなら砥石(他の文献では火打石の欠けら)が頭に入っているため。武勇を重んじる好漢であるがその反面少々単純で激しやすく、何かにつけてミョルニルを使っての脅しに出る傾向がある。しかしながら怯える弱者に対して怒りを長く持続させることはない。途方もない大食漢。
武器は稲妻を象徴するミョルニルといわれる槌。雷、天候、農耕などを司り、力はアースガルズのほかのすべての神々を合わせたより強いとされる。フルングニル、スリュム、ゲイルロズといった霜の巨人たちを打ち殺し、神々と人間を巨人から守る要となっており、エッダにも彼の武勇は数多く語られている。一方で姦策や計略に弱い面がみられる。
「開放、在天空風之門。因咎哀世界現在、伴浄化暴嵐救済。吹荒風、吹荒嵐……!(開け、天に在る風の門よ。咎による哀しき世界を今、浄化の暴嵐をもって救おう。吹き荒め風、吹き荒れろ嵐……!)」
黒峰が神刀の先を地面に刺す。すると地面から神刀を中継して、翠色の風(ヴァーユ)の魔力を含んだ風が彼の後方へ一つ一つ形を整えて出来ていく。はじめは数えるほどしかなかったそれが、発動から数秒で一目では数えることの出来ないものとなっていた。
「形を創は神鳴る力、鋼を創は大地の力……」
対する男が発したその言葉。それは詠唱ではなく、どこか自己暗示のようなものであった。
言うと、瞬く間に男の武器である黒塗りの棍棒に紫色の雷(インドラ)の魔力と、金色の土(タイタン)の魔力が纏わりつく。
まず雷(インドラ)の魔力が棍棒の先端を円状に、そして腹の部分を長方形の形へと成る。更にその上から土(タイタン)の魔力がそれらを覆うように雷(インドラ)の魔力ごと棍棒を包んだ。
雷(インドラ)の魔力には形を作り変える性質が、土(タイタン)の魔力には物体の硬度を操作する性質がそれぞれに存在する。魔力には魔導として使うほかに、このような性質のみで使うことも可能なのだ。
これには詠唱や精神集中が要らない他、想像力で自分のみの形質を作ることが出来る。しかもその性能は人智の外。万能ではないが戦略の一つとして申し分のない力を発揮するため、ヴィ・シュヌール国内でもこれを有するものは少なくない。
男がした使い方は雷(インドラ)の魔力で棍棒の形をより攻撃的なものにし、それを崩さぬように土(タイタン)の魔力でコーティングして造られた大剣あるいは大斧だ。
黒峰が放った魔導、“連なる風爪”は四方八方から男を襲う。
それでも、男は笑ったままであった。
「これしきの魔導……。全てこの雷槌(ミョルニル)で粉砕する……!」
男が雷槌で真下を強く叩く。地面をえぐるほどの威力で生み出された衝撃波は、一つひとつが細い連なる風爪を吹き飛ばす。
しかし、それはその程度の数ではない。数十本吹き飛ばしたくらいではその勢いは止まらなかった。
男の右斜め後方より風爪が襲う。彼は逐一に反応して雷槌を振り上げた。そして弾くようにコンパクトに数回振るうが、やがて埒が明かないと判断して後ろに下がって回避した。
風爪はそれを追う。上方向と前斜め左方向から飛んでくるが、男はまず前斜め左方向からくる風爪に雷槌を振り上げて対抗した。それに弾かれるあるいは風圧で風爪は飛ばされ、そしてその動作を利用して上方向に向けて受け流すような姿勢をとる。
そして上方向の風爪を防ぐが、今度は全方向から風爪が飛んできた。雷槌を振るうことでは防げないと判断した男は雷槌を地面に突き立てる。
彼は雷槌から両手に雷(インドラ)の魔力を少し宿らせると、雷槌を中心に円を描くように腕を伸ばして一回転した。そうした動作の中で彼は両手に宿した魔力を空気中に離す。離された魔力は空気に欠片として在ったが、一瞬で泡のような球体となって男を囲んだ。
男は風爪があたる寸前、そのタイミングを見計らって伸ばしていた両腕を交差させ——拳を勢いよく握りこんだ。
「爆ぜろ……!」
その言葉に従うように、魔力の球体は一斉に破裂した。その爆風で彼を取り囲んでいた風爪は全て弾け飛んだ。
「なッ……!」
黒峰が絶句する。
その様子にもお構いなしに男は地面から雷槌を引き抜き、それを肩に担いで黒峰の元へ走り出した。
純粋な殺意を持って。
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