ダーク・ファンタジー小説

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Wild but Safe! 危険だが安全!
日時: 2013/07/16 19:15
名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)

きらめく水底にそれを見つけたとき、何かとても素晴らしいものかと思った。
思わず体が反応して、落ちているものに飛びついてしまう癖が出て、泉に飛び込んだ。
心臓が激しく跳ね動き、酸素を余計に消費していく。
ただ僕はぎゅっと口を結んで酸素がなくなって行くの我慢して深くもぐり続けた。
水深が深くなるにつれて水中に差し込む太陽の光がカーテンのようにひるがえる。
僕がオーロラを知っていたなら、きっとオーロラだと思ったことだろう。
だがあいにく僕にはオーロラなど、どこか遠くのことについての知識は全くない。
あるとしたら床の磨き方や、窓の拭き方、いずれも奴隷として雇われて必要なことしか僕は知らない。
だから必死に深い底にもぐって、拾い上げたそれが何なのか、僕はまだ知らない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Wild but Safe! 目次

第一部 『 Wild but Safe 』

前編:>>001-018
中編:>>019-055
後編:>>056-77
Cast:>>78

第二部 『 Lunatic but Stability 』

前編:
中編:
後編:

第三部 『 Separat but Resumpt 』

前編:
中編:
後編:

流血表現有
部の最後にCastが乗ります

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.33 )
日時: 2013/05/03 20:05
名前: 哩 (ID: MhL4TUn6)

「夜になったら帰れなくなっちゃうよ」
えぇー、アリスト今日はずっと家に居てよ、とトルテが服の裾を引っ張って請うが女将さんがそんなトルテを優しくたしなめる。
ゆっくりと鷲づかみにしたチュニックから指を引き剥がしながら、そっと耳打ちする。
「明日にはきっと司祭様が悪魔祓いを成功させるから、そうしたらアリストと一日中遊んでも良いわ。だから今日はもうアリストを帰らせてあげなさい。このままとどまらせていたら親方さんにアリストが叱られてしまうわ」
言われて、しぶしぶトルテがチュニックを離した。
アリストはトルテの小さな頭を撫でてまた明日ね、とつぶやいて外に飛び出した。
時計はもう、両の針とも重力に身を任せて真下を指している。

森の中を走っていると、闇が力を取り戻して消えていく太陽の断片を山の向こうに押しやっている。
そしてかすかに残る光を喰らうようにあたりにのさばり、魔の手をアリストに伸ばしているように見える。
だが捕まる寸前、アリストは館の前に転がり出た。
館の扉付近に設置されているランプは煌々と光を投げかけている。
ちっと舌打ちするように、闇が手を引いていき、アリストは光の中に影をつれて飛び込んだ。
そして扉を勢いよく開けると、後ろ手に鍵をきちんとかけた。

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.34 )
日時: 2013/05/03 20:40
名前: 哩 (ID: MhL4TUn6)

館の中は光であふれていた。
そろそろとすすんで行くと、親方が居間に居て、アリストがやってくると鋭い眼光を放った。
そして口を開く前に、アリストの足元に分厚い真っ白の手紙を投げつける。
椅子に座っている親方を目をぱちくりして見ていたアリストは足元の手紙をゆっくりかがんで拾い上げた。
手紙は手触りの良い古風な羊皮紙で出来ており、金色の蝋で封を閉じられていたようだが今は開けられている。
宛先はマクバーレン。つまり親方宛だ。差出人は教会の司祭様。今現在祓魔に励んでいる司祭様からだ。
「読んでみろ」
言われて、アリストは恐る恐る三つ折になった純白の手紙を広げてその文字に目を通した。
筆記体の流れる文字は読みにくかったが、アリストは黙読する。

『 マクバーレン殿へ
  
  此度、書記を投函したわけは、あなたに仕える奴隷の子に用があるからです。
  昨夜、あたなと仲のよろしいエルオス財閥の店主エルオス殿が悪魔に憑かれました。
  わたくしは苦労してその悪魔から一人の名前を聞き出しました。
  正しくはある箱の持ち主について、の情報です。
  エルオスが憑かれた理由はある箱を手にしたからということ。
  その箱をエルオスに譲った人物こそ、あなたの奴隷の子なのです。
  メイドから話を聞くと、間違いがないとのこと。
  詳しく事情を聞くために、ここに神に許されし権限において、あなたとあなたの奴隷とを召喚諮問します。
  すぐに教会へ来たれよ。これは神の命令である。

  最高司祭 フォーテュン・フォン・ジロア
 
                                                』


読み終えて顔を上げると、マクバーレン親方は怖い顔のまま、支度をしろとうなった。

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.35 )
日時: 2013/05/03 21:08
名前: 哩 (ID: MhL4TUn6)

馬車は館の傍につけていたようで、親方が表に出るとすぐに玄関の前にやってきた。
アリストは鍵をかけて、親方を振り返る。
礼服に身を包んだ親方はすでに馬車に乗り込んでおり、黒い扉の隙間からこちらをにらんで早く来いといっているのがわかる。
アリストは慌てて馬車に乗り込むと、おそるおそる親方の傍に腰を下ろした。
黒塗りの馬車は、内装は赤かった。
赤い革張りの椅子は初めてで、むしろ馬車に乗ることなど一生涯無かったのでアリストはその乗り心地のよさに感激していた。
教会への召喚諮問の件が無ければアリストは大感激できただろう。

馬車が街に入ると、揺れでわかった。
館から森へと続く道はがたごとと少し揺れる。
だが街に入ると、タイル張りのため、揺れが規則的になる。
と、鐘の音が不気味に響くのも聞こえてきた。
思わず耳をふさぎそうになるが、こうなったのもあの箱を湖から引き上げた自分が悪いのだ。
ぎゅっと膝の上に両の手を握りあわせて耐えた。

それから数分後。鐘の音が耳元で聞こえるほど大きくなったとき、馬車が止まった。
馬使いが馬車の扉を開けて、親方に着きましたと頭を下げているのが見える。
親方は重々しく頷くと、馬使いに料金を押し付けるように払い、アリストのほうを振り向かずに教会を見つめた。
それは馬車を降りて親方の隣に並べばわかる。
白く穢れなき教会の扉の前に、司教と修道女が立ち並び、こちらを見つめていたのだ。
聖職者のくせに飢えた獣のような目つきをしており、それらの視線はす
べて奴隷の子、アリストに集中していた。

「教会召喚諮問、お待ちしておりました」
そのうちの一人、修道女が笑みも浮かべずに扉を開けると、けらけらと笑う声が響いてくる。
「さっそく来たねぇ」
笑い声はエルオスの声。だが“しゃべっているのは”彼に取り憑いた悪魔である。
「さぁ、こっちへおいで」
悪魔の呼ぶ声に、アリストは総毛だって真っ青になったが、修道女達がアリストの腕を取って教会の中に引きずり込んでいく。
叫び声を上げようとすると、ぱっとふさがれてしまった。
もう逃げられないとばかりに、アリストの背後で扉がぱたりと閉じた。

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.36 )
日時: 2013/05/06 19:32
名前: 哩 (ID: NZUH8ARt)

教会の中には町中の聖職者が待機しており、皆そろって礼拝服に身を包み、十字架を胸元にたらしている。
アリストが恐怖に目を見開いて教会の中につれてこられると、聖職者達は一斉に手を組み合わせて祈りをささげ始めた。
まるでアリストの哀れな魂を慰める鎮魂歌の様である。
これから一体何が始まる?そう思ってあたりに首をめぐらせていると、親方が一人の修道女から十字架を手渡されるのが見えた。
気づけば辺りに居る人々は皆十字架を下げている。
下げていないのはアリストだけ。

どんどん教会の奥に連れ込まれていくと、左右に並ぶ石の壁に何か鋭利なもので切り裂かれたような爪あとがいくつも見えてくる。
そして赤い血痕がぱっと花を咲かせているように点々と付着している。
誰か怪我をしたらしい。重症ではないらしいが、もしかしたらエルオスをここに連れてくる最中にメイドか聖職者の誰かがやられたのだろう。
壁を眺めていると、前後左右にアリストを取り囲むように連れ立っていた修道女たちが足を止めた。
顔を左右に振って彼女たちの体の奥をのぞくと、純白の扉が見えた。
魔除けの石造、ガーゴイルの醜い顔が掘り込まれておりきっとここが祓魔の部屋なのだろう。
修道女が静々と、だが額には汗を浮かべてその扉を開ける。
修道女とその後ろに居た親方が身震いするのがわかる。
その扉に切り取られた空間は、逆光のため良く見えないが、二人いるのがわかる。
アリスト自身は青ざめて後ずさりしそうになるが、修道女達が押さえ込み、突き飛ばすようにその扉の方へ押しやるのでいやいやと首を振って何とか逃げ出そうとする。
だが、にゅっとその光の中から手が伸びてきて、アリストの襟元をつかむとぐいっとものすごい力で部屋に引き込んだ。
そしてむなしく、再び背後で扉が重々しく閉じた。

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.37 )
日時: 2013/05/06 19:57
名前: 哩 (ID: NZUH8ARt)

光の中に連れ込まれたアリストは、まぶしさのあまり両手で顔を覆った。
一体何が起こった?
状況把握は今は聴覚を頼るしか出来ない。
耳をそばだてると、かちゃんと鎖のような音が聞こえ、何かうごめこうと努力している音が聞こえる。
「へぇ、その子供が今回の仔山羊?」
エリオスの声が聞こえる。悪魔に取り憑かれているので、初対面のようなしゃべり方だ。
と、襟首をつかんでいた大きな手が解けるのを感じた。
「黙っていろ」
うなるように返答するのは年老いた声。司祭様だ。
どうやら司祭様が襟首をつかんでこの部屋に引き釣り込んだらしい。

なにやら水の音がして、不服そうにまた鎖の音がする。
「やめろよ、聖水なんて意味ないんだから。顔が水だらけになるだろ、こっちは縛られてぬぐえないんだぜ?」
エリオス憑き悪魔が言って初めて、アリストは両手の隙間から部屋を覗き見た。
光のあふれる部屋は思ったより広くなく、机がでんと部屋の真ん中を割っている。
アリストが居るのは司祭様の傍で、出口付近だ。
だが悪魔はその机の反対側に居た。
しかもなるほど、悪魔の言うとおりその身体は厳重に鎖で椅子に縛り付けられている。
それでも怖かったが、司祭様が傍にいるので恐怖は幾分かやわらいだ。


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