ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

Wild but Safe! 危険だが安全!
日時: 2013/07/16 19:15
名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)

きらめく水底にそれを見つけたとき、何かとても素晴らしいものかと思った。
思わず体が反応して、落ちているものに飛びついてしまう癖が出て、泉に飛び込んだ。
心臓が激しく跳ね動き、酸素を余計に消費していく。
ただ僕はぎゅっと口を結んで酸素がなくなって行くの我慢して深くもぐり続けた。
水深が深くなるにつれて水中に差し込む太陽の光がカーテンのようにひるがえる。
僕がオーロラを知っていたなら、きっとオーロラだと思ったことだろう。
だがあいにく僕にはオーロラなど、どこか遠くのことについての知識は全くない。
あるとしたら床の磨き方や、窓の拭き方、いずれも奴隷として雇われて必要なことしか僕は知らない。
だから必死に深い底にもぐって、拾い上げたそれが何なのか、僕はまだ知らない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Wild but Safe! 目次

第一部 『 Wild but Safe 』

前編:>>001-018
中編:>>019-055
後編:>>056-77
Cast:>>78

第二部 『 Lunatic but Stability 』

前編:
中編:
後編:

第三部 『 Separat but Resumpt 』

前編:
中編:
後編:

流血表現有
部の最後にCastが乗ります

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.1 )
日時: 2013/04/10 15:22
名前: 哩 (ID: 8.g3rq.8)

 
第一部 『 Wild but Safe 』


「おい!アリスト・・・アリストはどこだ?」
晴れやかな日差しの下、親方主人の怒鳴り声が良く響き渡る。
やけにイライラとしてせわしなくあたりに首をめぐらせている。
奴隷のアリストを探しているのだが、その姿は親方主人の屋敷にも数個在る納屋にもおらず、孤立したように街より少し離れたこの屋敷の何処にも見えない。

「まったく、何処に行ったんだ・・・」
丁度言いつけたい用事があったのだが、と親方主人は困ったような顔をしてひげのない顎をなでた。
年齢は中年の部類に入るが、年の割りにふけては見えない。
それは今まで苦労が1つもなかったからであり、金にも何もかも困ったことがないからだろう。

ほしいものは先祖の残した膨大な遺産で買い集め、広い屋敷と金貸し家業で遺産は増えるばかり。
血を吸うノミのように、逆にほしいものが自分に向かってたかり集まってくるのだ。
遊郭の女共は血に飢えた猛獣の如く財産を絞り上げようとわんさか集まってくる。
親方主人は、たかり集まる連中を尽きることのない遺産で身の回りにはべらせる毎日だ。
そこで遊びに忙しい自分の代わりに仕事や雑用で奴隷のアリストをこき使っているのである。

「全くアイツはどこにいるんだ、もうすぐ取り立てに行かんといけないのに」
だが唯一アリストに任せない仕事は、金貸しの金の取り立てである。
金が絡む仕事はすべて自分でやっている。
街の住人に金を貸し、こってり金を搾り取るので遺産は破滅しそうにない。
そのまま遊びにその金を費やすためでもあるが、アリストに金を持たせれば逃亡される恐れがあるのだ。
奴隷ならば誰でも買い取れるだけの金はあるが、親方主人はアリストを手放す気はさらさら無かった。

「もしかしたら、アイツは湖畔にでも行っているのか・・・?」
親方主人は苦労の無いが故、しわのない顔を少ししかめて湖畔に続く林の中を歩いていった。



Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.2 )
日時: 2013/04/10 15:24
名前: 哩 (ID: 8.g3rq.8)

その頃、親方主人に行方を捜されていた貧しい奴隷のアリストはというと、やはり湖畔の傍に腰掛けていた。
ゆったりとたゆめく湖畔は豊かな針葉樹に囲まれて、白い雲がいくつか浮かぶ空の下、非常に美しい。
川のせせらぎと鳥のさえずりも、耳に心地良い。

そのほとりで、若草色の草の上に腰掛けているアリストは、ゆったりとした、瞳と同じ色の深緑色のチュニック、皮製の半ズボンとぼろぼろの茶色の革靴を身に着けている。
それと、金色に輝く滑らかでさわり心地の良い長い金髪をゆったりと束ね、右耳の下で黒いリボンで結んでいる。
それはアリストが腰掛けると地面にたわむほど長い。
だがどんなに伸びようが、その輝きは色あせず、まばゆく光っている。
長い睫毛も、優しげに弧を描く下がり眉もどれも金色だった。

ここは親方主人の館より少し行った所にある静かなところ。
あたりに針葉樹が立ち並び、騒がしい街のように沈黙を破るものはいない。
親方主人の命令三昧に疲れたとき、アリストは良くここで休憩をするのだ。

生まれて物心着くころからずっと奴隷として暮らしてきた。
奴隷市場で買い取ったと親方主人に言われているので、きっと両親は奴隷だったか、借金に負われてわが子を売った貧しい人であろう。
今ではすっかり奴隷家業が染込んで、床磨きや窓掃除はお手の物。
十五年前の両親のことは、考えてももう他人のような気がしてならない。
思い出す記憶もひとつもないのだから、寂しいとわきあがる感情もない。
もの寂しいと思ったことも、不思議なことに一度も無かった。

「あれは・・・—?」
と、いつものように泉の水面を眺めていると、太陽の光を反射してきらめくものとはほかに、何か別のきらめきが水底でチラついていた。
鼓動が高鳴った。
チュニックの下の、胸が高鳴り、心臓がわくわくと飛び跳ねる。
もしかしたら、宝物かもしれない。
それがお金に変えることが出来たら、いつか奴隷の暮らしをやめられるかもしれない。

体操座りをしていた腕を解き、すっくと立ち上がる。
血液が鼓動の高鳴りと共に血管に激流の如く流れ込み、耳と頬が熱くなる。
革靴を脱ぎ捨てて、心の思うままに静かな湖畔に飛び込んだ。

ずっと保ってきた静寂を破ったのは、自分自身だった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。