ダーク・ファンタジー小説

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Wild but Safe! 危険だが安全!
日時: 2013/07/16 19:15
名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)

きらめく水底にそれを見つけたとき、何かとても素晴らしいものかと思った。
思わず体が反応して、落ちているものに飛びついてしまう癖が出て、泉に飛び込んだ。
心臓が激しく跳ね動き、酸素を余計に消費していく。
ただ僕はぎゅっと口を結んで酸素がなくなって行くの我慢して深くもぐり続けた。
水深が深くなるにつれて水中に差し込む太陽の光がカーテンのようにひるがえる。
僕がオーロラを知っていたなら、きっとオーロラだと思ったことだろう。
だがあいにく僕にはオーロラなど、どこか遠くのことについての知識は全くない。
あるとしたら床の磨き方や、窓の拭き方、いずれも奴隷として雇われて必要なことしか僕は知らない。
だから必死に深い底にもぐって、拾い上げたそれが何なのか、僕はまだ知らない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Wild but Safe! 目次

第一部 『 Wild but Safe 』

前編:>>001-018
中編:>>019-055
後編:>>056-77
Cast:>>78

第二部 『 Lunatic but Stability 』

前編:
中編:
後編:

第三部 『 Separat but Resumpt 』

前編:
中編:
後編:

流血表現有
部の最後にCastが乗ります

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.63 )
日時: 2013/06/05 18:49
名前: 哩 (ID: 9KPhlV9z)

「どうします、ベレス?フラロウスでも呼びますか?」
と、ふいにグラーシャがアリストに向かってしゃべりかけた。
アリストは振り返り、眉を寄せて不審げにグラーシャを見つめ、言った。
「僕の名前はアリスト—」
「—フラロウスを呼ぶと、この街のエクソシストは残らず死ぬがな」
と、自分の声にはもるように胸元から声が響き出てきた。
ビックリして胸元を見下ろすが、そこには何もない。
見かねたブエルが優しく教えてくれた。
「あなたの体の中に、今は私たち72柱が宿っているの。もちろんこの私ブエルの本尊も、今はあなたの中に存在している」
だがアリストは理解が追いつかず、ブエルを指差しながらもごもごとつぶやいた。
「でも、ブエルは・・・ちゃんとここに居るし触れるし・・・」
ブエルは小首を傾げ、目元に笑みを溜めながら微笑み、首を振った。
「お線香と同じよ。今ここに居る私は煙。煙の私は殺されても死なない。だけど、煙の元である線香を破壊されれば、煙は出なくなる。つまり私の本体である線香はあなたなのよ」
線香?と首を傾げたアリストに、グラーシャが熱心にしゃべりかけ続ける。

「・・・別にエクソシストが焼き殺されようが、僕は構わないです。子ヤギを逃がさなければ僕達も死んでしまいますからね。外に逃げてもエクソシスト共が居ますし、いっそ殺してしまった方が—」
物騒なことを言うグラーシャに、アリストが顔をしかめて言い返す。
「や、やめろ!聖職者さんたちは悪くない、殺すなんて!」
フラロウスが誰でなんなのかは良くわからないが、この場に呼ぶと聖職者はすべて殺されてしまうらしい。
拳を握って叫ぶが、グラーシャはアリストを完全無視でベレスと会話を続ける。
「だがこれ以上炎に建造物が耐えられそうもない。逃げる途中で子ヤギが建物崩壊による圧死や、煙に巻かれて死なれては困るからな—・・・」

しばらく悩んでいたベレスは、巻き上がる炎の轟音と三人の悪魔のあせるような視線でようやく、決めたようだった。
「そうだ、ハジェンティをつかわそう」

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.64 )
日時: 2013/06/06 20:55
名前: 哩 (ID: 9KPhlV9z)

「ハジェ—」—ンティ?と、つぶやいたアリストの言葉は強烈な光線にさえぎられた。
ベリトやグラーシャ、ブエルが現れたときのような光が指輪から放たれ、即座にアリストの足元に円形の輪が現れた。今回はその輪がはっきりと見ることが出来る。
淡く褐色に輝くその輪は魔方陣と呼ばれるものだが、学のないアリストはなんなのかわからないで居た。
二重の輪の中に、意味のわからない記号や地上絵のような紋様が浮かび上がる地獄の扉だとアリストは考えていたのである。

光線が去り、あたりが再び静まると、輪の中心に位置するアリストから少し離れたところに大きな影がぬっと身を起こした。
「っ・・・!!」
それを目撃して、緑の目を皿のように見開きながら、アリストは全身の毛を逆立てて硬直してしまった。
それもそのはずだろう、今まで出てきた悪魔は姿かたちは人の物だった。だが、今回出現してきたハジェンティはというと・・・。
「わしに何を望む」
ゆったりと温和そうな年寄りめいた声で語りかけてくる悪魔は、上半身は声の通りたっぷりひげを蓄えた老人。だが下半身は牛だったのだ。
つまり、キメラである。ギリシア神話でとある小島の地下迷宮に囚われていた半人半牛のキメラが、今目の前にその巨体を横たえていた。

「う、あ・・・わぁ?!」そろそろと後ずさりしたアリストは、気絶して伸びている親方の頭に躓いて後ろ向きに転んだ。
脳に振動が渡ったことがよかったのだろう、親方がハッと目を覚ました。
「親方!」
目覚めた親方にすがりついたアリストだったが、親方がものすごい叫び声を上げて立ち上がるので、固い大理石の床にしりもちをついた。
「バケモノ!何てことだ、コレは夢か?」
立ち上がった親方はきょとんとこちらを眺める四人の悪魔の内、ピンポイントでキメラのハジェンティに指を突きつけて叫んだ。
突きつけられた指先は恐怖で震えており、目は怖いくらいに見開かれ充血していた。
「ミロス島の人食いのバケモノがなぜここに居る!アレは神話じゃなかったのかよ、わけがわからん!神よ、加護を!」
いうなり、胸元の十字架を引っつかみ、もう片方の腕でアリストの華奢な腕を引っ張った。
そして決死の覚悟で走り出した。
「逃げるぞアリスト!」

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.65 )
日時: 2013/06/11 15:23
名前: 哩 (ID: b9u1LFxD)

マクバーレン親方とアリストのことを、驚くことに悪魔は誰一人として引き留める気はないらしい。
あっさりと4人の間を通過した二人は扉から出ていく。

「ハジェンティ、お前の錬金術で子ヤギを生きたまま脱出させろ」
べレスが去りゆくアリストの体の中から命令すると、牛と人のキメラの彼はゆったりうなづき、軽くあたりを見回した。
そしてそっと屈んで人差し指で大理石の床を柔らかくなでると、突如変化が訪れる。
教会の床を覆い尽くす大理石のタイルがまるで生き物のように鼓動し、巨大な手の形に盛り上がった。
ハジェンティが指先を大理石から離し、大理石でできた手を見つめ、自分の手を扉の方へ動かした。
ハジェンティの手と連動して動く大理石の手は彼の手と同じように動き、三人の悪魔に見守られながら、アリストとマクバーレンの背中を追いかけて扉を突き破り、破壊しながら進んでいく。

「親方…僕は」
親方に手を引かれて長い廊下を走るアリストは、ためらいがちにしゃべった。
廊下には二人の靴音が響き渡り、透明なガラス窓からは赤々とうねる炎の姿が時折ちらついているのが見える。
火を見て親方は驚愕の表情を浮かべていたが、窓際に見える聖職者たちが薪をくべる様子を見て何も言わない。

「僕はどうなるんですか?」
中心部から離れれば離れるほど教会の外で火を炊く聖職者の叫び声や祈りが聞こえてくる。
僕はいったいどうなるんだろう。やっぱり教会の外に無事に出られても、悪魔の憑代として殺されるんだろうか…?
そんなことを思いながら親方の返事がないところを見ると、死ぬ運命にあるらしい。

「悪魔は今祓魔の部屋にいる。お前の体から抜け出したから、もうお前が殺されることはないだろ…」
親方の言葉に、アリストは言い返す。
「でも外にいる人たちにはなんていうの?僕を殺そうとして教会に火を放ってるんだよ!」
「うるさい黙れ!悪魔どもは司祭様の体をのっとった、と言えばいいだろうが!」
叫ぶなり走る速度を上げたマクバーレン親方。アリストはついていくのに必死で黙り込んで足を懸命に動かした。

あと少しで出口というときに、アリストは妙な気配を感じて頭上を見上げた。
「親方っ上!!」
とっさに叫んだ時には、炎に舐められて限界を迎えた石造りの教会の天井が崩落した直後だった。
スローモーションが世界を支配する。親方が上を見上げて何か叫ぶが、理解できない。
アリストの瞳に映りこむのは、次第に迫ってくる巨大な石の屋根と、崩れた天井の隙間から見える星の輝く夜空だった。
あぁ、時よ留まれーそう心の中でつぶやき、悲惨な自分の未来を見ないように目を覆った.

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.66 )
日時: 2013/06/12 16:43
名前: 哩 (ID: 96w0qmMc)

硬いものにぶつかって、岩が破壊される音が続いた後、ぱらぱらと小さな砕けた石が床に転がる音が響いた。
アリストは目を覆った手を解いてみた。死ぬにしてはあまりにも痛みがなさすぎたし、身体に叩きつけるような衝撃が無いなどおかしい。

瞳を開いてみれば、目の前は曇り空のような色の滑らかな岩で覆われている。
なんだこれは、と指でその表面を撫でてみると大理石らしい。その大理石が包み込むようにアリストを閉じ込めていた。
「僕は死んだの?」
四方を眺めれば、薄暗い中にかすかに光が見える。足元には親方が伏せており、まだ事態が飲み込めていない様子だった。
「チューリップの中に閉じ込められてるみたいだ」
アリストは二人を覆う灰色の滑らかな石にふれて回った。まるでチューリップの花弁の中に閉じ込められてしまった様である。
と、その灰色の石がかすかに振動し、てっぺんから花が開くように開いて空が見えた。

澄んだ空気が辺りを包んでいる。見上げると美しい教会の残骸から、夜空が覗いている。教会はずたぼろで、もう火を噴く廃墟と化していた。
「おい、あそこ——!」
呆然と教会を眺めていたら突如声が聞こえてくる。ハッと身構えると、聖職者達がどっと押し寄せてきた。
と、アリストとマクバーレンを包み込んでいた手の形をした大理石は砂が崩れるように形をくずした。聖職者達の目に触れるのを恐れたかのようである。
「いたぞ!生きている!」
聖職者達は松明を掲げてアリストに突進してきたが、伏せていたマクバーレンが立ち上がり、聖職者達の前に立ちふさがった。
聖職者達が恨めしげにマクバーレンのことを見つめたが、親方は一歩も引かずに両手を広げて吹聴した。
「やめろ、悪魔どもは司祭様の身体に乗り移り、そして司祭様はあの火事で焼け死んだ!悪魔はもう居ない!」
その言葉で真っ赤な炎に照らされて鬼のような形相をしていた聖職者達は表情を和らげた。
皆顔を見合わせて松明を放り投げてうれしさに抱き合って涙を流すものも居た。
「我々は救われたのだ!」

「愚か者が!我々は救われてなどおらんのだ!!」
歓喜した聖職者達を罵倒するように、老人の声が雷のように空気をふるわせた。

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.67 )
日時: 2013/06/25 22:55
名前: 哩 (ID: 0WXvDdTM)

「お母さん、昨日の夜何があったの?」
トルテは窓の外から見える光景に信じられないという響きを乗せて母親に尋ねた。
だが彼女の母親は答えようとせず、カウンターの傍で掃除をしている。
こちらに背を向けているので表情は見て取れない。
「ねぇ、何があったの?どうして教会が燃えちゃってるの?昨日までちゃんとあったのに、今もうぼろぼろだよ」
しつこく聞いても彼女の母親は何も答えなかった。
「お母さんなんで何も言わないの?さっきの殉教者様が来たときからずっと黙りっぱなしだよ!」
母親はなおも黙り込み、トルテはついに諦めて店の外を眺めた。
数分前、トルテと母のいるケーキ屋の戸を叩いたのは燃え尽きた教会の殉教者。
それが母親になにやら言い、それから母親はずっと黙ったままだ。
「いいよもう、アリストに聞くから。早くアリスと来ないかなぁ」
トルテは膨れたまま窓の外に顔を向けたので、その背後で母親がびくりと身を震わせたのを知る事はなかった。

ぽたんぽたんと水滴が滴る音がやけに響いている。
ここはかび臭く、冷たい場所。
光がわずかに差し、薄暗い中をねずみが鳴き合う声がする。
ここは牢獄、地下牢獄だ。教会の真下に位置するこの牢獄は神にそむく背信者を閉じ込めるためのもの。地下は焼ける事はなく、綺麗に残っていた。
そこにアリストとマクバーレンは投獄されていた。
罪状は悪魔のよりしろをかばったこと。
二人には教会から死刑が宣告されており、明日の早朝にアリストには火刑、マクバーレンには断頭刑が科せられる事になった。

教会はアリストが悪魔の力で燃やしたと、そしてマクバーレンは悪魔を庇護し、神にそむいた罪により死刑宣告されたことを、今朝の殉教者は告げまわっていたのである。


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