ダーク・ファンタジー小説

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Wild but Safe! 危険だが安全!
日時: 2013/07/16 19:15
名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)

きらめく水底にそれを見つけたとき、何かとても素晴らしいものかと思った。
思わず体が反応して、落ちているものに飛びついてしまう癖が出て、泉に飛び込んだ。
心臓が激しく跳ね動き、酸素を余計に消費していく。
ただ僕はぎゅっと口を結んで酸素がなくなって行くの我慢して深くもぐり続けた。
水深が深くなるにつれて水中に差し込む太陽の光がカーテンのようにひるがえる。
僕がオーロラを知っていたなら、きっとオーロラだと思ったことだろう。
だがあいにく僕にはオーロラなど、どこか遠くのことについての知識は全くない。
あるとしたら床の磨き方や、窓の拭き方、いずれも奴隷として雇われて必要なことしか僕は知らない。
だから必死に深い底にもぐって、拾い上げたそれが何なのか、僕はまだ知らない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Wild but Safe! 目次

第一部 『 Wild but Safe 』

前編:>>001-018
中編:>>019-055
後編:>>056-77
Cast:>>78

第二部 『 Lunatic but Stability 』

前編:
中編:
後編:

第三部 『 Separat but Resumpt 』

前編:
中編:
後編:

流血表現有
部の最後にCastが乗ります

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.8 )
日時: 2013/04/19 19:43
名前: 哩 (ID: 8.g3rq.8)

「あぁ・・・マクバーレンさんのところの使いね」
店の奥の事務に行くと、メガネをかけた社長秘書のような冷酷そうな女性が迎えてくれた。
黒縁メガネのふちを人差し指でくいと持ち上げ、女性はひらりとドレスの裾をなびかせてついてくるよう言った。
バスケットの中身がカタカタ音を立てて、アリストは必死に飛び跳ねるように女性の後をついていく。
枯葉のような色のドレスの女性は足が速く、ハイヒールがこつこつと鋭い音を立てている。
よくもあんな不安定な靴であれほど早く歩けるものだ。

最深部に向かっているのだろうか、階段を数回上がり、人気が少ない廊下を進んでいくとでんとした大柄な扉が出てくる。
皮製だろうか?防音機能がついた酷く分厚いその扉には呼び鈴がついていて、紐を引くと凛玲な音をベルが奏でる。
「入れ。マクバーレンの奴隷っ子だろう?」
「失礼いたします」
きぃっときしんだその扉を軽々と開けた女性は、アリストの背中をついと押して、部屋の中に押し込んだ。
背を押されてよろけそうになり、数歩進む間に、背後で扉が閉まった。
「良く来たな、奴隷っ子。今日は何を持ってきてくれたんだろうね?」
ぶはぁっと葉巻の煙を吐き出しながら、まだ三十代前半の男がやけに装飾品を身にまとった豪奢な身体をソファにうずめながら聞いた。
短く刈り込まれた金髪に、指に嫌というほどつけた指輪。
指の関節が曲がらないほどに指輪がきらめいてまぶしい。
アリストはその姿を見てウッと顔をしかめる。
煙だ。煙はキライだ。蒸気機関車じゃあるまいし、なぜわざわざあんなくさい煙を吸ってはくんだろうか?
と、その表情を見て店の主人は大きく笑った。
そして窓を開けると、ぽいと葉巻を捨て、大きな窓を全開にした。
くるりくるりと煙を撒き散らしながら葉巻が落下していく。
葉巻だって高価なものなのに。あんな軽がると捨てられるほど金があるくせに、なぜ人をだますの?
「悪いね、忘れていたよ。マクバーレンにも言われてたのに。俺の大事な奴隷に嫌な煙の匂いをしみこませるなとな」
アリストはこのときばかりは親方主人に感謝した。
豪遊する主人だが、唯一葉巻はやらない。


じろじろと店の主人がアリストのことを眺め回す。
いつもそうだ。毎回ここへ訪れるたび、品定めのように見られる。
「愛玩用の奴隷なら、もっとマシな服を着せてやればいいものを」
アリストは少しむっとして睨み返す。
この深い緑色の襟付きチュニックは気に入っていたし、だいたい金持ちがするような派手な衣装は好きになれない。
「僕は愛玩用の奴隷じゃない。犬や猫なんかじゃない。ちゃんとこうやって親方主人の命令にそって働いてる人間だ」
言い返すと、店の主人はけたたましい声で笑った。
人の笑い声というよりは、霊長類が上げる金切り声の様である。
「奴隷の身分が何を言っている。お前は愛玩用だろうが。観賞用といっても良い。そのかわいらしい顔と、華奢な体がなかったら、今頃ボロ雑巾のように扱われていただろうよ」
フンッと鼻を鳴らした店の主人は、アリストにさっさと賄賂を渡すよう促した。


Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.9 )
日時: 2013/04/20 22:25
名前: 哩 (ID: xsmL59lL)

バスケットをごそごそとかき回すと、いらただしげに店主人はアリストからそれをひったくった。
「この中身はすべて私宛のものだろうが。さっさと渡せば良いものを」
そう嫌な笑みを浮かべながら、バスケットを眺めこむ。
そして、ん?と顔をしかめた。
「違います!僕のものが中に入ってるんだ!」
アリストは慌ててソファから身を乗り出し、バスケットを取り戻そうと手を伸ばす。
だが店主人はアリストの細い身体を軽々と押しのけ、中身を膝の上にぶちまけた。

ばらばらと装飾品ケースが転がり落ちる。中にはふたが開き、宝石やら指輪がはみ出しているものも在る。
輝かしい宝石類に混じって1つ異質な物体が、銅色の輝きを放つ。
それこそアリストの大切な宝物であり、何か良くわからないものであり、店主人の興味を引いたものである。
「何だコレは?」
店主人が指輪で飾られたその指を銅色の箱にのばす。
アリストは我慢ならず箱を先にひったくろうとして、またもや店主人に押しのけられた。
「コレがお前のもの?」
「そうだ、あんたのじゃない!」
必死になって叫ぶと、店主人は高笑いをした。
笑い終わると、片手に箱を持ってしげしげと眺め、小首を傾げて言う。
「では聞こうか?コレは一体なんだ?持ち主ならわかってるだろうが」
ソファに押し付けられたアリストは唇をかんで店主人をにらみつけた。
知らないのだ、その箱が何物なのか。
ただその箱が売れるかもしれないと思って、バスケットに入れたのだ。
その箱が売れた暁には、奴隷から抜け出せるかもしれない。
なのに・・・
「どうだ?わからないのか?お前のものなのに?」
店主人は再び高笑いすると、アリストに意地悪そうに微笑みかけた。
そして立ちあがると、膝の上に散らばっていた宝石たちを蹴散らし、高慢気味に言った。
「その宝石とコレは交換だ。それら全てやろう。なんなら衣服も飾り立てる装飾品もやろう」

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.10 )
日時: 2013/04/20 22:41
名前: 哩 (ID: xsmL59lL)

「え・・・?これ、ぜんぶ?」
店主人の言っていることが良くわからなくて、のろのろと鸚鵡返しすると、店主人は扉の方へ行き、呼び鈴を引いた。
すぐさま若い娘達がやってきて、店主人の前にひざまずいた。
「エリオス様、御呼びでしょうか」
三人そろって合唱のように言った娘達に、エリオスという名前の店主人はアリストを指差して命令を下す。
「その者をすぐさま貴族のように飾り立てよ。そしてこれらの宝石類を身に付けさせ、すぐさま追い出せ!」
はい、と娘三人はお辞儀をして答え、あっけに取られて床に座り込むアリストを引きずるように立たせた。
そこでハッと我に帰ったアリストは、物憂げに湖の底に眠っていた銅色の箱を見つめた。
何かもの寂しげに銅色の箱は光を受けて、エリオスの手の中に在る。
返せ、と叫ぼうとしたが口を閉じた。
もともと売るためにアレをもってきたのだ。未知数の物品よりも、完全に高価だとわかる宝石をえる方が良いのではないか?
アリストは大人しく部屋を出て行った。

娘三人とアリストが出て行くと、エリオスはふっと笑った。
「金などもてあそぶほどにある。・・・コレは一体何なんだろうな?」
きらりと銅色の箱が、なにやら凶悪な微笑を浮かべたように感じて、エリオスは笑みを消した。

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.11 )
日時: 2013/04/20 23:01
名前: 哩 (ID: xsmL59lL)

「ちょっと・・・なんでこんなもの!」
透き通るソプラノボイスが悲鳴のように更衣室から漏れ出す。
「エリオス様の言いつけで御座います。貴族のように着飾れとのこと」
若い娘三人—アリストよりも年上の女性たちが慣れた手つきでアリストを飾り立てていく。
金の長い髪にくしをいれて、髪飾りの宝石を散らしていく。
チュニックの代わりに深い緑色のゆったりしたドレスを着せられて、アリストは憤慨したように叫んだ。
「何でドレスなんか!」
「婦人が召すものはドレスで御座います。少々黙っていてください」
ガッとさるぐつわをかまされ、アリストは唸る他は何もしゃべれなくなった。

三十分ほど良いように飾られると、鏡の前に突き出された。
見つめ返してくる少女は、とんでもなく愛らしい姿をしていた。
瞳の色と同じ深い緑色の優雅なドレスに身を包み、金の髪には黒いシルクのリボンと鮮やかな色の宝石髪飾りが光っている。
胸元には首輪のように真珠の首飾りがぶら下がり、指には赤い宝石たちがきらきらと輝いている。
足元は黒いそこの低い靴で、アリストは足が痛くてたまらなかった。
なぜ足を痛める靴をわざわざ履くっていうの?
さるぐつわをはずされて、口は利けるようになったが鏡の向こうから見つめ返してくる人物に何もいえない。
そうこうしているうちに、手を引かれて店の外に追い出されてしまった。

「コレはお返しします」
乱暴気味に押し付けられたバスケットの中には今まで着ていた衣服と革靴が入っていた。
そして、今回身に付けられなかった宝石類がどっさりと。
これらを売れば、とんでもない金持ちになれる。
銅色の箱と引き換えに一瞬で巨万の富を築けたのだ。
もう貧しき奴隷のアリストではない。
晴れやかな気持ちがする一方、なぜだか銅色の箱が気になってしょうがなかった。

Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.12 )
日時: 2013/04/22 18:20
名前: 哩 (ID: PoNJOIO3)

道行く人々がこちらを見てくるのをひしひしと感じて、アリストは居心地の悪そうに足元に視線を落とし歩き続けた。
自分が緑色のドレスの幼婦人にみられているだけで恥ずかしいというのに、貴族のようにきらめく装飾を所狭しと身に着けているせいで余計に目立っている。
「あれって…アリスト—?」
「まさか…だってアリスは奴隷で…」飛び交う声が聞こえてきて、恥ずかしさのあまりうつむき続ける。
自分の黒い靴を見つめて、帰り道によっておいでと言われた人々を訪れようかどうか迷っていた。

「—あ、やっぱりアリスだよ!」
幼い声が軽やかに青空に響いて、目の前に少女が躍り出てくる。
その少女は町娘よろしく、薄い生地の軽いドレスに身を包んでいる。
装飾品は一切付けていないが、それがかえってもともとの素材を生かして、生き生きとして見えた。
その少女の名前をアリストはよく知っていた。
街に来ると必ず遊んで!とせがんでくる、妹のようにかわいいかわいい町娘。
「トルテ」
本名はトラロッテというケーキ屋の娘だ。
繁盛している店で、トルテも貧しさに身を投じることはなく、健やかに成長していた。
奴隷というかわいそうな身分をいたわる両親にならって、友達になってくれた。
それは義務ではなく、むしろ自然な関係で成り立ち、今に至っている。

「アリスってやっぱり女の子だったんだ!似合ってるね、すっごくかわいい」
アリストは閉口してしまった。
自分が身に着けているものはむしろトルテが身につけたほうがよっぽど似合っているだろう。
恥ずかしいというより、5歳離れている少女にかわいいなどと言われて、あきれてしまった。
自分からしたら幼い彼女のほうがよっぽどかわいらしい。
「やっぱりってなんだよ…」
ぼやくようにぶっきらぼうに言うと、トルテはん?と小首をこてんと傾げた。
その小動物のような所作がいちいちかわいらしいと、アリストは感じていた。
「だってアリス、いつも男の子みたいな格好してたもん。革靴って女の人は履かないものよ?」
アリストはポカンと口を開けてトルテの足元を見た。
なるほど、確かに彼女は小さいながらブーツを履いていた。
「なんか緊張するね、お兄ちゃんって感じだったのに急にお姉ちゃんになったから!」
トルテはアリストの手を引き、ケーキの試作品を食べようよ!と店に連れて行った。


参照 72(柱) 行きました!


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