ダーク・ファンタジー小説
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- 逆十字の聖魔戦争
- 日時: 2017/04/30 01:07
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
吸血鬼、人間の血を飲む怪物と呼ばれる生き物。耳が尖っており、吸血鬼かどうかはすぐ見分けられるが人間はごくまれに耳が尖っているものを産む。その人間は迫害され、捨てられ、最終的に魔術師になるケースが多い。
魔術師、元人間や吸血鬼など、様々な種族が魔力をもち不死身になった生き物をまとめてそう呼ぶ。元人間、と言うのは魔力をもった際に人間の記憶を忘れる為。吸血鬼はそうならない。他に精霊族や人狼族など色々な種族がいる。
聖戦士、神と人間によってつくられた通常の人間より遥かに強力な術を手に入れた吸血鬼と魔術師を消す為だけに存在する部隊。
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初めまして!そーれんかです。去年から妄想してたやつを小説書く練習がてら書こうかなと思ってます。語彙力のない中学生なので至らぬ点が多いだろうとは思いますがアドバイス等宜しくお願いします_(:3」∠)_
追記
宗教に対する批判的なセリフがありますが、決して実在する宗教を批判する意図で作った訳ではありません。そこはご理解頂けると幸いです。グロテスクな所も少なからず登場します。苦手な方はお控え下さいm(*_ _)m
登場人物を移動させました。そして題名もはっきり決まったので変更しましたヾ(:3ヾ∠)_
登場人物
>>66 異端側
>>67 聖戦士側
- Re: 紅の吸血鬼と黒の魔術師と白の聖戦士 ( No.46 )
- 日時: 2017/02/20 02:21
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
四大魔術師が死した後、生きている魔術師から自動的に一人、屋敷をつくる能力と四大魔術師の称号が与えられる。チキの父が死した後に四大魔術師の称号を受け継いだのはルナテ。だがルナテはその称号を受け継いだ後に行方がわからなくなってしまっていた。
"お前達と関わる気は無い"
そんな言葉を残して。
ーーーーー
「あれ?師匠、煙草吸ってたっけ?」
ルアイリがひょこっとバルコニーに顔を出す。真っ暗な空にぽつんと紅い月だけが浮かんでいた。
「何、昔の残りだ。それよりお前寝てるんじゃなかったのか?」
「師匠が寝るって言ったんじゃな〜い?私はちょっと夜風にあたりたくて起きただけよ〜?」
「じゃあ俺もそういうことにしといてくれ。あんなに人数が増えてちゃ寝れやしない」
アピクは古い煙草の火を消し、柵に寄りかかってため息をつく。
「師匠は別の部屋だから死鬼くんのイビキはそこまで聞こえないはずなんだけどな〜?」
紅影死鬼のイビキは凄まじいもので、どんなに爆睡していた人でも飛び起きるくらい煩かった。
「...にしても、蝙蝠が飛び交わない夜空ってのも久しぶりね〜"ロジスタ"くんのマジック、結構面白かったな〜」
「ロジスタねぇ...久しぶりにその名前聞いた。最近はチキの父親としか言ってなかったしな」
地上からかなり離れた位置にあるバルコニーの為、絶え間なくびゅうびゅうと音をたてて風が吹いている。
「...弱いんだな。死んだ弟子の名前を言わないようにして、思い出したくなくて、逃げて」
「師匠...」
「俺はあいつら聖戦士達を殺すことでしか復讐できない。この復讐だって自己満足だよ。あいつがどんな事を望んでるのか俺は分からない。本当はバカむ...チキが安心して暮らせるような空間を創って欲しかったって思ってるかもしれない」
いつになく沈んだ声でアピクは淡々と話す。ルアイリはかける言葉も見つからず、ただじっと聞いているだけだった。
「チキは聖戦士達に復讐するって言っていた...だから甘えてるんだろうな。チキの思いがあいつの思いとは限らないのに」
「...師匠...師匠のバ〜カ!ア〜ホ!まぬけ〜!ハゲるわよ!」
「!?」
ルアイリはびしっとアピクに指をさし、べーっと舌を出す。アピクは突然叫んだルアイリに驚き、目を丸くする。
「師匠は師匠なの!ロジスタくんが思ってた事が分かったらその通りにするの!?例えばロジスタくんが聖戦士達に滅ぼされろって思ってたら大人しく滅ぼされるの!?...いや、ロジスタくんはそんなこと言わないけど.....師匠は師匠の気持ちに正直でいいの...師匠は弱くなんかないし...」
「...」
アピクはふっと笑う。
「はいはい。お前の言いたい事は分かったよ。ハゲるは余計だがな」
「師匠...!ふふふ...私が死ぬ時は泣いてよね?ふふふふ...師匠の笑い顔見たら泣き顔も見たくなった...ふふふふふ...」
「.......」
アピクは気持ちが悪いという念を込めた目でルアイリを見る。
「あら〜?そこは"俺が守ってやる"とかじゃないの〜?」
「.....お前最近ジンリンに影響されてきてないか?勘弁してくれよ...」
「うふふ〜どうかしらね〜?」
「ジンリンみたいなやつは一人でいいから...」
アピクは疲れた表情になり、床に大の字になって寝転がる。
「師匠」
「なんだよ...」
「師匠はずっと私の師匠で、家族で、恋人よね〜?」
満面の笑みでルアイリは言い、アピクはぶっと吹き出す。
「最後はどういう意味なのか理解不能なんだが...絶対ジンリンに何か吹き込まれたな...あぁもうだからあいつは!」
「あら〜?家族は否定しないの〜?」
ルアイリはニヤニヤ笑いながら袖で口を抑える。
「...お前は俺の弟子になった時点で家族だから否定はしない」
「.....」
ボッと火がついたようにルアイリは顔を赤くする。
「も...もう師匠ったら〜!ジンリンちゃんの言った通りだわ!師匠は恥ずかしいセリフを平然と言うって...!」
「.......寝る」
アピクはすくっと立ち上がりさっさとバルコニーを後にした。
「...ふふっ。師匠ったら.....家族か。そんなのも、私が魔術師になる前にはいたのかしら〜?」
ルアイリの声は強い風と闇夜にかき消されていった。
- Re: 紅の吸血鬼と黒の魔術師と白の聖戦士 ( No.47 )
- 日時: 2017/02/21 02:21
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
「...今回は人狼の魔術師を倒したら追撃せずに徹底する......」
「余計な怪我はしたくないからね。ですが人狼も結構強いですよ。...花などはちぎったりしないでくださいね」
月星隠者達は慎重に魔黒屋敷に近づいていく。一歩一歩確実に。
「ヴィシャ、我達はこっちだ。寝ないでついてきてちょうだいよ?」
「すぅ...すぅ...」
「寝るな!」
ネメシスはべしっとヴィシャの頭を叩き起こす。ヴィシャは無理やり起こされ不機嫌な顔になっていたが無視して進んでいく。
「うぅ...僕は吸血鬼達の気を引きつけるんですかぁ...?怖いのに...」
「聖人さん、スレイ達がいるよ!本当に危険になったら合流すれば...」
スレイは聖人を勇気づける。スレイの服の周りには小さな爆弾が沢山ぶら下がっていた。
「ス、スレイさん...!そ、その爆弾少しの衝撃で爆発したりしませんよね...?」
「これのこと?大丈夫、ピンを抜かない限り爆発しないよ!」
「な、ならよかった...」
ある程度進むと月星隠者が手を出し歩きを止める。
「シッ...精霊と人狼は音に敏感...」
「....くれぐれも死ぬようなことはないようにしてくださいね。死体はいつ見ても見慣れないものですから...」
ーーーーー
「もう胡蝶蘭ちゃんったら〜!」
ルアイリは花壇で花と会話をしている。ピンク色の胡蝶蘭が美しく咲いていた。
「師匠にあげたいわ〜...うふふ」
"ふふっ、あなたの師匠が起きたらもう渡しても大丈夫よ?私は今一番美しく咲いているからね"
「そうね〜、花言葉はあえて内緒にしておこうかしら〜?」
"お好きになさいな"
「うふふ...あら?折角お話している時に来るとは非常識ね〜」
"花咲・毒霧華"
禍々しい色の華から花粉のような毒霧が放たれる。
だが再興天使の盾に花粉は全て弾かれてしまう。
「.....早く切り上げるつもり...だから...早めに終わらせる...」
"眼殺聖暗"
突如ルアイリの視界が真っ暗になり、不快感を覚える。それもそのはずこの闇は元々存在する純粋な闇ではなく聖戦士達によってつくりだされた"光の闇"だから。
「っ...見えないのは厄介ね〜...」
「...案外あっさりいった...ここから...再興天使...」
「ふぅ。私は敵味方関係なく死体を見るのはあまり好きではないのですが...これも神の為、神判を受けてください」
"最終判決・聖光"
ーーーーーーーーーー
「...あふ。お前達は元気だな…俺はもう寝たいんだが...」
アピクは壁に寄りかかりあくびをする。
「そ、そ、そんな風に眠たがってられるのも!い、今のうちですからね!」
足をがくがくさせながらも聖人は強がった喋り方をする。
「...他の奴らは寝てるんだから静かにしろよ...ふぁ...あふ...」
"黒の杖"
真っ黒な杖が小さな魔法陣からすっと出てくる。杖の一部は何かの顔のような形をしていて気味が悪かった。
「それで...今日は誰が俺の魔術の実験体になってくれる?」
笑いながらアピクは古い煙草を取り出し火をつけた。
- Re: 紅の吸血鬼と黒の魔術師と白の聖戦士 ( No.48 )
- 日時: 2017/02/22 15:03
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
師匠、空が紅いよ
夜は暗いはずなのに
なんでかしら?
ーーーーー
ある国の森の奥深く、人狼や精霊はそこで生活していました。皆優しくて、皆仲良しでした。
ですがある日人狼の少女が魔力に覚醒してしまいます。人間なら迫害し、殺されるか記憶がなく、何故気味悪がられているのか分からないまま人間の世界を出ていくしか選択肢はありません。
けれど人間と違ってそれでも他の人狼達は記憶のない少女を愛しました。
だから聖戦士達がこの森を見つけこの森に住む人狼達を殺しこの森を焼き払っても皆で少女を守り抜きました。
少女は独りぼっちになりました。
少女は荒れた大地に墓をつくりました。そしてその墓に寄りかかり数十年泣いては寝る、起きては泣くことを繰り返しました。
自分ではどうしても死ねない身体になってしまった少女は一歩も動くことなくポロポロと泣くことだけしていました。
ある日荒れた大地に二つの影が見えました。
人間の姿をした男達でした。一人は眠たそうな目をしていて、一人は陽気な子供っぽい人でした。聞けば人間の姿をした男の人は魔力に覚醒した"魔術師"らしいのです。陽気な魔術師が"私達についてこないか"と言いました。
でも少女は拒否しました。自分のせいでまたあなた達が死んでしまうのではないかと。
魔術師は笑いました。眠たそうな魔術師が"自分の身は自分で守るから死んだら自分の責任だ"と言いました。陽気な魔術師は"この墓にいる仲間達は君を守る為に命をかけたんだからこんな所で聖戦士達に殺されると顔向けできないんじゃない?"とも言いました。
少女は泣きました。悲しいわけじゃありません。嬉しいから泣きました。魔術師は驚いていました。
"名前をつけなきゃね"陽気な魔術師が言いました。"私はルリがいいな。あそこに瑠璃の花が咲いていたんだ"眠たそうな魔術師は不満気な顔をしています。"アイリス..."ボソッと眠たそうな魔術師が呟きます。魔術師は喧嘩になりました。
少女はピンと思いつきました"ルリとアイリスをあわせてルアイリってどうかな?"
魔術師は納得しました。
"...私はルアイリ。よろしくね、師匠!"
ーーーーーーーーーー
熱い。ルアイリは腹部に目をやる。
「...あら?」
「ふふ...討伐数+1になるかな!」
ネメシスの手が腹部を貫通していた。色白の手はルアイリの血で真っ赤に染まっている。
ようやく視界がいつもの場所に戻る。花壇の花は見るも無残に散ってしまっていた。
「ネメシス様!花は荒らさないでって言ってたでしょう!」
「あっははごめんごめん。だってここの花壇広いんだもん」
「.....終わらせましょう。聖人達が心配.....」
"歌弦の月"
「っ...ゲホッ...花が...」
ルアイリは痛みと花がぐちゃぐちゃにされた悲しみで涙を流す。
「...ゲホッゲホッ...大丈夫...大丈夫なの...」
"花咲・桜花"
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...おかしい。ジンリンも死鬼もチキとメイド達も飛び起きているのにルアイリだけが来ない。
「おい糞野郎、ルアイリは?」
「えっ...?部屋にもいなかったけど...」
アピクの顔が引き攣る。
「〜〜〜!アピク!花壇よ花壇!そこにいるかもしれないわ!」
「兄様、ここはジンリンさんと死鬼さんがいるし何とかなるから!兄様の弟子でしょう!?」
「...わかった」
アピクは花壇へと走り出す。それを合図にして死鬼達が魔術を使い出す。
"五芒星・火炎紅弾"
"精霊樹・大老の陽"
"血醒月光"
"護身術・ナイフの舞"
"蒼の刃"
「ひぃぃぃ!魔術師には逃げられるし攻撃はやまないし!ぎゃっ!」
「でも魔術師があんな早く勘づくのは予想外だよ...大丈夫かなぁ」
「後は月星隠者さんたちが上手くやってくれればいいんだけど...」
攻撃を辛うじて避ける。止まらない攻撃に体力がどんどん削られ息が荒くなっていく。
「聖人くん、ヒューイちゃん、爆弾投げるから下がってて!」
そう言ってスレイは数個の爆弾のピンを引き抜き死鬼達の元に投げる。
一つが爆発すると次々に誘爆する。
「火薬多め...何とかなるかな?」
近くの木が折れそうなくらいの勢いで爆発する。
そして、攻撃が止まる。
「ヒューイちゃん、今!」
- Re: 紅の吸血鬼と黒の魔術師と白の聖戦士 ( No.49 )
- 日時: 2017/02/23 02:34
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
"ミラスドの呪い"
「うへっ!?もう勘づかれた!?」
「まだ仕留めてない!あっちをどうにかして抑えて人狼を仕留めるわ!」
"聖光の盾"
光り輝く盾が全てを受け止め、全てを優しく包み込む。
「師匠...ヘマしちゃった」
「一度にこんな相手するからだバカ。そこでじっとしてろ」
どくどくと腹部から流れる血を手で押さえ、ルアイリは壁に寄りかかる。
「弟子を殺そうとするとは。それでもお前達は神の使いか?」
「ふん、お前だって聖戦士達を何人も殺してきたくせに。お前の屋敷の下に何人眠ってると?それでも我達は神の名のもと異端者を罰しているだけだ。神に見放された、な」
ネメシスがそう言うとアピクは不気味に笑い出す。
「アハハハハ!神に見放された!?寝言は寝て言え!魔力に覚醒するとわかってた神とやらは最初っから俺たちを見てるわけないだろうが!...あぁ面白い寝言を聞いた」
アピクはポケットから小さな杯のようなものを出す。中に液体は入っておらず、空っぽだった。
指先に傷をつけ、血を数滴杯に落とす。
「月星隠者様!ネメシス様!下がって!」
そう再興天使が言い聖光の盾を出現させる。
"モンティルの偽斧 クレヴァリスの偽歯 ノキューラの偽翼 ディスクレイユの証 アバリチアの偽脚 ランニストの偽腕 ビヅルニアの偽身 ティクストールの偽眼 ピーヌミズの偽情"
言い終えるとアピクが笑い、杯を地面に落とす。
"偽塊 完成"
爆発と共にアピクの隣に人の形をした何かが出現する。真っ黒に染めあがった身体に魔術師のみが使う魔術文字が浮かび上がっている。
「意外と覚えてるもんなんだな...大分昔に聞いただけなんだがっと」
"暗夜之心臓" "暗夜之心臓・偽"
無理やり壊すような勢いで闇弾が盾を狙う。
「クソッ!ヴィシャは何してるの!?あっちにもいないんでしょう!?」
「.......」
「っ...ぐ...」
腕にビリビリと伝わる衝撃に再興天使は顔を徐々に歪める。
「はいはーい、ヴィシャちゃんでーす。毘沙門天、やっちゃってー」
「?!」
いきなりアピクの背後に現れたヴィシャは腕をあげクイッと手首を曲げる。
「これでとどめになればいいんだけどなー」
"全武器解放"
「ルアイリ!」
アピクが手を伸ばす。
ルアイリは笑ってアピクの手を叩いた。
「...!」
その瞬間、アピクにはこの世界が全て血の色に染まったように見えた
「...撤退」
月星隠者が銃を空にむかって撃つ。そして森の奥へと消えていった。
「...」
赤く染まった自分の服を見る。
数分するとその赤は花弁となり風に舞う。いつも被っていた帽子を残して。
後から来たチキ達もすぐに状況を察する。アピクは力無く花壇にあるルアイリの帽子の前で座っていた。
「兄様.....」
チキが近寄ろうするとジンリンに止められる。
「〜〜〜。チキちゃん、先に中に入っとこ?怪我の手当もしないといけないからね」
悲しい笑顔でジンリンは言う。死鬼は花壇を見てすらいなかった。
そうしてチキ達は中に入っていく。
「.....結局何も守れないんじゃないか。同胞も...弟子すら守れない...」
ポロポロと涙が頬を伝う。
荒れた花壇を見て、手を伸ばす。
「......俺にもう少し力があったらお前達を守れたんだろうな」
魔術で荒れた花壇を直し、綺麗な花々が咲くようにする。
そしてアピクは壁を殴り、泣き叫んだ。何十年ぶりの涙だろう?もう泣くことはないと思っていた。ロジスタとは訳が違う。目の前で、手を伸ばして、それでも助けられなくて。
花壇の土に涙が染み込んでいった。
- Re: 紅の吸血鬼と黒の魔術師と白の聖戦士 ( No.50 )
- 日時: 2017/02/24 01:16
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
"この世の九割は空想で、一割が非情な現実だ"
ある魔術師が遺した言葉。ルナテの脳にずっとこびりついて離れない言葉。特にこの場所に来ると鮮明に思い出す。
ちゃぷん、ちゃぷん。水の音は心を癒してくれる。だがこんな景色の水音じゃ癒されるどころか余計に心が荒みそうである。
ーー忘却の海
魔術師と吸血鬼達はそう呼んでいる。ここにある水は全て死んだ魔術師や吸血鬼達が遺した記憶で、恨みを抱いたものは黒く、絶望を抱いたものは紫、悲しみを抱いたものは深い蒼色の水となりこの忘却の海へと流れ込む。だがごく稀に幸福のまま死んだ者達もいる。その者達の水の色はない。汚れのない美しい色だ。
「!」
ルナテは新たに流れ込んできた水の色に目を丸くする。
今までに見たことも無い赤黄緑...沢山の色が少しずつ流れてくる。
「あぁ...花咲の狼か。君もここの住民になってしまったのか..."アレ"はさぞかし悲しいだろうな」
ルナテは水が混ざりゆくのを何もせずじっと見ている。
「さて...ちょっとした遊びをしようか」
そう言って地面にあった水晶を手に取り、指を鳴らした。
ーーーーーーーーーー
「兄様...」
数分して戻ってきたアピクにどう声をかけていいか分からずチキは苦悩する。それに二人きりときたもんだからとても気まずい。
目の前で大切な家族がいなくなる辛さはチキもよく知っている。息ができないほど苦しくて、言葉も出ないほど悲しくて、何も手につかないほどの虚無感に襲われる。心にぽっかり大きな穴が空いたようだった。
チキ自身も数日は墓の前で泣き腫らしていた。失った現実に耐えられなくて、どうかそれが嘘であって欲しくて。その悲しみを聖戦士達に向けて紛らわしてるだけに過ぎなかった。
「チキ」
突然アピクに呼ばれ心臓が飛び出そうになる。
暗い顔でこっちに向かうアピクに少し恐怖を感じ目をぎゅっと瞑る。
ぽふっ
頭に何か乗せられる。チキは目を開け頭を触る。
「帽子...?」
ルアイリが被っていた帽子を被せられていた。少し大きなサイズで目元まで隠れそうになるが束ねた髪を帽子の中に入れると丁度いいサイズとなった。
胸元にある逆十字が黒く光り、帽子についている装飾が共鳴しているように光る。
「...」
ぽかんとアピクの方を見る。
「何をそんなに驚くんだ。帽子を被ると死ぬ病気か何かでもかかってるのか?」
いつもの調子でアピクは話す。チキは少し安堵した顔になる。そのチキの顔を見て変な奴とアピクが言う。
「さて...と。ちょっとばかしお返しをしないとな」
椅子から立ち上がり杖を数本、本を数冊地面にばらまく。
"地 火 水 風 雷 絶 黒 闇 暗 運...愚者礼讃!"
魔法陣が浮かび上がりばらまかれた本と杖が一つに固まっていく。
あまりに眩くチキは思わず目を瞑る
"咒法・影杖"
気味の悪い形の杖は常に魔術文字が杖の周りをぐるぐると回っている。
「ち、ちょっと兄様どこいくの!?」
「だから言ったろ。お返しだと」
止めても聞く気は無い事を感じさせる話し方でアピクはそっぽを向き扉を創り出す。
「私も行く!」
「...は?」
あまりに予想外の答えで脱力しカランと杖を落とす。
「どうせ行先はわかってるの。私も行く。足でまといにはならないようにするから!」
アピクにはチキの姿が一瞬ルアイリとロジスタに見え、瞬きをしたあとふうとため息をつく。
「...好きにしろ」
そうしてまたそっぽを向き、扉を創り出す。
"黒魔扉"
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