ダーク・ファンタジー小説

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逆十字の聖魔戦争
日時: 2017/04/30 01:07
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

吸血鬼、人間の血を飲む怪物と呼ばれる生き物。耳が尖っており、吸血鬼かどうかはすぐ見分けられるが人間はごくまれに耳が尖っているものを産む。その人間は迫害され、捨てられ、最終的に魔術師になるケースが多い。

魔術師、元人間や吸血鬼など、様々な種族が魔力をもち不死身になった生き物をまとめてそう呼ぶ。元人間、と言うのは魔力をもった際に人間の記憶を忘れる為。吸血鬼はそうならない。他に精霊族や人狼族など色々な種族がいる。

聖戦士、神と人間によってつくられた通常の人間より遥かに強力な術を手に入れた吸血鬼と魔術師を消す為だけに存在する部隊。


ーーーーーーーーーー
初めまして!そーれんかです。去年から妄想してたやつを小説書く練習がてら書こうかなと思ってます。語彙力のない中学生なので至らぬ点が多いだろうとは思いますがアドバイス等宜しくお願いします_(:3」∠)_
追記
宗教に対する批判的なセリフがありますが、決して実在する宗教を批判する意図で作った訳ではありません。そこはご理解頂けると幸いです。グロテスクな所も少なからず登場します。苦手な方はお控え下さいm(*_ _)m
登場人物を移動させました。そして題名もはっきり決まったので変更しましたヾ(:3ヾ∠)_

登場人物
>>66 異端側
>>67 聖戦士側

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.107 )
日時: 2017/06/12 02:52
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

「.....帰れとは言われたものの、スオ...道わかる?」「...分かるわけないじゃん。お姉さんが分からないなら私もわからないよ」
二人はジンリンの屋敷からそう離れていない場所で寝転がっている。屋敷内にいてもよかったのだが、どことなく不気味でこのように心地よい風が吹く場所へと移動した。
「ここの景色いいと思うんだけど、お姉さんはどう思う?」「どう思うって...私は...うーん」
ミサは遠くに海と山が良いバランスで混ざった美しい景色を見ても何も思わないのか、感想を出すのに困っていた。
「だって...血と骨で出来ているじゃない...スオってこういうの見て綺麗って思えるの?」

数秒の沈黙。

「お姉さん?何言ってるの?こんな青々とした海に血と骨なんて見えないよ?」
スオが沈黙を破り、海の方を指さす。それでもミサは何を言っているのかわからないと言った感じで首を傾ける。
「え...ずっとそうだったじゃない、ここに来た時から...こんな感じだったんじゃないの?私はもう慣れたけど...」
ミサは嘘をついている様子もなく、スオは頭がこんがらがる。どっちかが幻覚を見ているのか。
「.....うーん、お姉さんがどう見えているのか知らないけど...変なの...」
ミサは少し先の飛び出た崖の方に座り込み考え込む。ミサもぼんやりとそっちに行こうとすると、強烈な寒気が背筋を凍らせる。

見渡す限りの霊、霊、霊、霊、霊、霊

全て悪霊、新たな死者を待ちわびている。

あのままスオがそこにいればきっとあの霊に引き込まれてしまう。ミサは震える足を少しずつ前に出し、手を伸ばす。
「スオ!!」
ミサが崖の方に足を踏み入れた。




急に崖にヒビが入り、ガラガラと音を立てて崩れだす。
「え...」
一瞬二人は何が起こったのか分からなかった。下も見えないほどの深い深い谷底。
「お...姉さ...」
スオはそのまま気を失ったのか目を閉じ、ミサはスオの手を握ろうとする。


もう少し、もう少しだから...



やっと、ようやく握れた。

絶対に離さない。

一度離しかけたその手を

二度と離したりはしないから。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.108 )
日時: 2017/06/18 02:48
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

1秒たりとも忘れたことは無い。

目の前で殺された妹の事。

1秒たりとも忘れたことは無い。

それを笑って食う男。

1秒たりとも忘れたことは無い。

妹の人形で物語を創ったこと、また、その時僕は壊れ始めた事。

1秒だけでもいいから忘れたい。

それにずっと縛られ続ける僕の事。

ずっと忘れていたい。

こんな世界の事。

ずっと覚えておきたい。

今いる仲間達の事。


ーーー

「...ん?」
すぅっと黒く滲んでいた所が消えていく。傷も一瞬にして癒える。今までのはなんなんだったんだ、と皆一斉にため息をつく。
「ハハハ、治ったからまぁ一件落着かな?」
四頁は取り替えたばかりの包帯をほどく。捨てようとゴミ箱の方に持っていくと、既に捨てた包帯に染みついていた黒い液体も全て消え、元の真っ白な包帯に戻っていた。
「...わかんないことだらけですの。ですが一つだけ確実なのは、あの四頁と七頁を攻撃した奴は消えたってことですの」

五頁は異端に対して″死んだ″とはあまり言わない。
魔力覚醒した時点で人間として死んだ、と考えているようで。
五頁にとっては人間達の言う霊のようなものと同じかもしれない。

あれ、そしたら自分達も″死ぬ″なんて言わないんじゃ。

まぁこの世界矛盾ばかりだ、小さな矛盾くらいどうってことないよね。

「さーて、リーベちゃんの親探しに行こうか」
ぐいっと伸びをし、ぷはぁと息をつく。
「身体は大丈夫なんですの?少しくらい休んでも...」
「アハハ、僕は大丈夫だよ。リーベちゃんも早く親に会いたいだろうし。...誘拐犯なんて思われたくないのもあるけどさ...通行人から変な目で見られまくったんだよ...」
そりゃそんな変な服着てたらな、と七頁が言おうとするのを三頁が口を塞ぎ止める。曰く、服を馬鹿にされるのが一番嫌のようで、表には出さなくとも裏でこっそり泣いている姿を見た事があるとの事。
あんな能天気で馬鹿そうな性格をしていながら、結構繊細なんだな。と変な笑いがこみ上げる。
「で、探すあてはあるのか?」
「ない」

即答。

「...教会くらいしかないだろ」
三頁が冷静につっこむ。
「アハハ、出かけてなきゃいいけどね。所でリーベちゃん、親の名前は?」
「お母さんはアイルって名前!お母さんはね、お仕事終わったらぬいぐるみ買ってくれるって言ったんだよ!」
無垢な笑顔。
その笑顔は見る者の心を締めつける。
なんて純粋で残酷なんだろうか。
可哀想だというより、ただただやりきれなかった。
「でもね、お母さんに言ってやるんだよ。ぬいぐるみよりもお母さんと遊びたいってね!」

小さな少女の大きな願い。

四頁は少し悲しげな笑顔でリーベを軽く抱きしめる。

「一頁、お願いがあるんだけど」

被って見えたんだよ、僕の妹にそっくりで。小さな子供程、大きな夢を持つ...ってね。

大体は叶わずに消えていったけどさ。


あ、これは冗談とかそんなのじゃないからね?


ー教会1Fー
聖戦士達がくつろぎ、一般人の話を聞いたり、子供と遊ぶ公園のような場所。ここにいれば血なまぐさい光景を一時的に忘れることが出来る、憩いの場。
「.....やだ、冗談キツイなぁ」
「いいえ、冗談なんていいませんよ」
四頁と質問などに答える役割を持った修道女が話す。憩いの場であるはずなのにここの周りだけピリピリとした空気が漂っていた。
「もう一回聞いていいかな。アイルって聖戦士がどこにいるか知らない?」
「貴方様もしつこいですね。聖騎士以上ならまだしも、ただの聖戦士なのでしょう?聖戦士に地位なんてあってないようなものですよ、むしろ一般人より低い。ただの使い捨てです。ですから失踪しようが病にかかろうが知った事ではありません」
修道女は表情を一切変えずに淡々と口を動かす。
「...アハハ、六頁より毒舌だな君。いや、組織ぐるみで狂ってる...かな。君達異端より穢いんじゃない?」
「異端より?ご冗談を。異端以上に穢れた存在なんてありませんよ」
「アハハ、確かにそうだろうけど...君達はここにいる″駒″をどう思う?」
少しずつ

少しずつ

確かに苛立ちは積もっていく。色んな感情がまぜこぜになった苛立ちは積もって山になった時、爆発する。

「駒、ですか。チェスのようなものでしょうね、相手のキングさえ取ればいくら他の駒が残っていようが無かろうが勝ちなんですから」
修道女はやはり表情を変えること無く簡単な質問に答えるかのように話す。まるで自分が模範解答のある質問をしているかのように思えてくる程に淡々と。
「ハハッ、そっかそっか!こんなにいるんだもん、少し欠けたって別にいいもんね」
「...貴方様は何しにきたんですか?」
無表情だが、その中に嫌悪感が滲み出ている。
「あ、話脱線しまくりだったね、ごめんごめん。僕達はただアイルって人に会いたかっただけなんだけど...こんな人数じゃやっぱり無理だよね?」
「四頁さん」
六頁が呼ぶのと同時に近づく嗚咽。リーベが泣くのを必死に我慢している。もう泣いてしまった方が楽なのでは、なんて野暮な事は言わない。
こういうのは思っても内に閉まってないといけないからね。

「いつもいる場所にいないみたいです。そしてさっき私の事毒舌だなんて言ってませんでした?」

あ、毒舌+地獄耳じゃないか。

「き、きのせいだよやだなぁ...」
じっとりと冷たい疑いの目を向ける。その冷たさは氷に座っていた方が絶対にマシだと思えるくらいだった。
「.....ならいいんですが。アイルさんと同じ枠にいた人から話を聞けば、数分前に一人の時間が欲しいと言ってそれから戻ってきてないそうですよ」
四頁の頬に汗がつたう。
「...危険だね、言っちゃなんだけど自殺でもしてたら困るなぁ...」
「ですね。早めに見つけないと」
修道女は六頁の姿を見て固まっている。まぁ、わからなくもないが。片手片脚が骨になっていて、それでも不自由なく動いている人間なんてそうそういない。
「...何見てるんですか。そんなに変ですか?」
「あ、当たり前でしょう...一体貴方様達はなんなのですか?奇妙な方ばかり...」
修道女の少しだけ表情が歪む。

その質問に、四頁は笑う。

「僕達は君達のはぐれ者。敵は同じでも、君達のやり方に賛同する事はずっとないよ」
「...私達もきっと貴方達に賛同する事は無いでしょう。また協力もしないでしょう」
修道女はそう吐き捨てた。
「それがいいね。それはそうと、君の名前を教えてくれないかい?顔を少し隠してもわかる美人なんてそうそういないよ?」
六頁とリーベが嫌な目を向けるが、修道女はフッと笑い手を伸ばす。
「私はアイスン・ヴァール。何度もお褒めにあずかり光栄ね」
その名前で付近にいた七人全員が凍りつく。
伸ばした手を四頁は振り払い、にっこりと笑った表情を崩さずにアイスンの襟首を掴んだ。
「やっぱり君って顔だけは可愛いよね。性根は異端並に腐りまくってるけどさ」
「腐ってる?聖戦士一人一人に家族だとかそういうものを考えろってのも無茶だと思いますが?私は天涯孤独の身なのでそういうのはわかりませんが、親がいるなら子がいるならそのへんの隅で怯えて過ごしていた方がいいと思いますね」
アイスンは一息に残酷な事を簡単に言い捨てる。
昔っからこいつは苦手だなぁ。
だって本当に他人に対する感情がないんだもん。ゴミみたいに死んでいく聖戦士を見て、使えない奴だなとしか思ってない。一片の哀れみも悲しみもない。

笑えないや

こんな奴がこの教会の一番上だなんてさ。

四頁はアイスンに平手打ちをし、泣きじゃくるリーベを抱えてその場を去った。

アイスンは頬を押さえて笑っていたが。




あぁ、顔に傷が。なんてことでしょう。また殴られてしまいました。

でもこの痛みもまた一興...

いつまで続くか分からないこのチェスのルールはちょっと特殊。
一つのキングを取るだけじゃない、四つのキングに複数のクイーン。それを全て取らないと終わらない、辛いゲーム。その代わりこちらには尽きる事の無いポーンがある。あら、もうルールめちゃくちゃじゃない。
まぁいいかな。

ゲームは楽しんだ者勝ちよ。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.109 )
日時: 2017/06/18 03:24
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

飴は宝石。

だから俺は飴が好きだった。

恵まれる事の無いこのスラムの街でたまに地面に落ちている袋に包まれた溶けかけの飴。

それが俺にはどうしようもなく美しい宝石に見えた。

空腹を少し満たすし、見ているだけでも綺麗な飴。

赤、白、黄色、ピンク、緑。

宝石に見える事は簡単に食べ物が手に入る今でも変わらない。

飴が詰まった箱は宝石箱。

その宝石は自分だけじゃなく、他人も幸せにする甘い宝石。





「ハハハ、ちょーだい?」
四頁が手を伸ばす。やらない、と即答しベルトに箱を引っかける。
「ケチ...あーあ、嫌な奴には出会うしアイルさんは見つかんないし!笑うに笑えないよ」
泣き疲れ眠ったリーベをおぶり、ボケっと空を見上げる。
「なぁ...あんまり言いたくないんだが」
一頁が口を開く。
「もし...もし親が死んでいたのならこの子はどうするんだ?」

最悪の場合。

答えづらそうな表情をする四頁に、七頁が割って入る。
「その時はその時。別に引き取ってもいいんじゃないか?」
「子供が不機嫌な時は任せろ。五頁みたいな奴でも簡単だから」
二頁は少しワクワクした感じだった。五頁も最初は頷いていたようだったが途中で気がついたらしく顔を真っ赤にする。
「.....二頁...どういう事ですの?」
「ん?五頁ってまだ子供だろ?見た目からして...あれ、じゃあ六頁と七頁は...」
あれ?という表情をした二頁を見て、二人はなんとも言えないような表情になる。
「はい...五頁さんより年下です。えっと、今はあまり背後を見ない方がいいですよ。文句言えない気がするので...」

二頁は基本的にデリカシーがない。
それ故かよく誰かを怒らせる。誰か...大体は五頁だが。本人には自覚がないからたちが悪い。

他の三人も微妙な表情をしていた。
「二頁...あれだけ言っているのにわからないですのね...う...うっ...」
ぼろぼろと大粒の涙をこぼし、わっと一頁にしがみつく。
「はいはい...二頁...いや、いい...」
もう諦めたと言わんばかりにため息をついた。二頁は頭の上にハテナマークが沢山出ているかもしれないくらいに状況がよく飲み込めてなかったが。
「アハハ...ん、あれってこの前一緒に戦った二人じゃない?」
四頁が指差す先にはヒューイとスレイとほか二人が喋りながら歩いていた。
「本当ですね、また見かけるとは思いませんでした。世界は狭いものです」
いや同じ地域にいる以上会うことはあるでしょ、と内心突っ込む。
六頁にはなんか怖くて突っ込めない。
相手もこちらに気がついたのか、スレイが駆け寄ってくる。
「あの、この前の人達ですよねっ!また会えましたぁ!」
満面の笑みで挨拶をする。
「お久しぶりです」
ヒューイも簡単な挨拶をし、ぺこりとお辞儀をした。
「久しいですのね」
五頁はさっきまで泣いていたのが嘘のように挨拶を返す。少し目が腫れていたが二人はあんまり言わない方がいいな、と他の二頁を除く五人の表情を見て察した。
「.......人身の部隊...」
隠者が呟く。
「ん、君は...あ、″月煌部隊″の月星隠者だっけ?」
「お前なんで知ってるんだ?」
一頁が見えない目を丸くして四頁に聞く。
「え、僕ってほらこの部隊唯一の社交的存在じゃない?こういう事は知ってるよ」
得意気に答える。確かに間違っていない。四頁が居なければただのひきこもり集団と思われてもしょうがないくらいに他の六人は話が上手ではなかった。ああいう社交的な性格に、少し憧れる。
「私もあなたたちのことしってるー、人間だけど人間じゃないひとのあつまりでしょー?」
ヴィシャは無邪気な子供のように指を指して質問をする。四頁は嫌な顔をすることなく笑顔で答える。
「せいかーい!僕達そういう奴らだから、あんまり関わらない方がいいかもよー?」
「えー、でもスレイわかってるよ?いい人達ってこと!」
「アハハ。じゃあそのいい人から一つ忠告を」
四頁は笑顔を戻し、真面目な表情で四人に話しかける。
「この教会の上層部には気をつけてね。君達ならあまり関わらないだろうけど上は正真正銘の屑だよ。出来る事ならアジトの場所を移した方がいい、本当に人間をゲームの駒としか思っていないからね」
「.....上層部には私も会ったことがない...ただ...今の状況を見ていたら大体わかるわ...忠告をありがとう...」
隠者は目を開き、フッと口元を緩ませる。
「アハハ、礼にはおよばないよ。君達とがっちり手を組む事は出来ないけどこんな事くらいなら出来るから」
「.....そう。でも...いつか...お礼はするわよ...」
そう言って二つの部隊は別れを告げる。

はぐれ者同士。

本来なら手を繋いでいたかもしれない。

けれど繋ぐことは無い。

人身の部隊は最後に自身の″死″を望み、月煌部隊は最後も自身の″生″を望むから。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.110 )
日時: 2017/06/21 02:53
名前: そーれんか ◆2VcP.GZKgI (ID: qESkNdgF)

トリップ付けてみました。ついてるか...な...?そして900閲覧ありがとうございますヽ(*´∀`)ノウレシイデス
ーーーーーーーーーーー

本当は目を瞑るだけにしておこうと思ったけど、寝ちゃった。
うーん、睡魔ってのには抗えないや。

寝るのは嫌い。嫌な夢を見るから。


今みたいな夢をね。



魔術師になって間もない頃であろう時の夢。
普通の景色に普通の空気。どこを見回しても普通としか言えない、そんな平凡な街。

隣の街はあんなに派手だというのにここときたら。
隣街の影響故、年頃の子は派手になりたがる。真っ赤なドレスを着てみたり、夜遊びに行ったり。

夜はぽつぽつと街灯が光るだけの平凡な街は、少年少女の暇な遊び場。そして僕のような旅人を見つけては、ひょこひょこと近寄ってくる。

「ねぇ、お兄さんって旅人でしょ?私達と一緒に朝まで遊びましょうよ」

大人っぽい...なんて事は当然なく、ただ構ってほしい子供だという感じだった。上目遣いをしていても、口紅を塗っていても、派手な服を着ていても。子供のあどけなさは抜けきれてなかった。

「いいよ、何する?」
「そうねぇ...私達と隠れんぼ!」

あ、この子絶対派手になりきれないタイプだ。
そう思いながら腕を引かれるがままに暗めの路地へと歩いていく。

「じゃあ旅人さんが鬼ね!ここの路地は入り組んでるから、そう簡単には見つからないわよ!もし見つける事が出来たら、皆なんでも言う事を聞いてあげる!」
リーダー気質の少女はびしっと指をさす。後ろにいる二人の少年少女は似合わぬ真っ黒なサングラスをかけ、変に髪を固めている。
そのままの方が絶対可愛いのにね。
「十数えたら探しに来なさい!制限時間は三十分!よーい、ドン!」
「おわ、いきなり始まっちゃったや。じゃあ、一、二、三...」
どんどん少女達は見えなくなる。

妙に背伸びした子供達。

今この時期が一番美味しいね。

ま、リーダーっ子は一番最後...最初は誰にしようかな、僕は美味しいものは最後に食べる主義なんだ。嫌いな野菜は最初にね。

「はい、一人目!」
一人目は少年。少しやんちゃそうで、泥んこになって帰ってきそうな、そんな少年。
「げぇっ...はやっ!うー...見つかったもんはしょうがねぇ、ほら!なんか言う事聞くから言ってみろ!」

可哀想に。僕に出会ったが運の尽き...かな?

胸元のポケットからナイフを取り出す。

「これが僕のお願い。じっとしておいてね?」

恐怖の表情をする間もなく、少年は地面に崩れ落ちる。

あ、でも食べるのは一人じゃないから少しだけでいいかな。悠長にしてる時間もないしね。



生でも大丈夫だよね、きっと。






「はい、二人目!」
二人目は少女。この子が一番子供っぽさが抜けていない。化粧をしていても隠しきれないそばかす。この子は化粧を取れば三つ編みが良く似合う田舎っ子なんだろうなぁ。なんて、偏見混じりだね。
「きゃっ!びっくりしたぁ...もう見つかっちゃったのね、じゃあなんでもいうこと聞くから言ってごらんなさい!」
「...じゃあ、目を瞑ってくれる?すぐ終わるから、ね?」
そう言って少女の目を瞑らせる。少し不安そうな表情をしている。
すぐ終わるよ。

胸元を一突き。

目を瞑らせても、やっぱり最期は開くんだね。

なんか学んだようで学んでないなぁ。

そんな事を思いながら肉塊を口に運ぶ。

「三人...あれ?二人固まってるの?」
おや、どうしたんだい?そんなに身を寄せあって。隠れんぼは固まっちゃ駄目なんだよ。
二人は予想以上の速さで見つけられたことに驚いて目を丸くするが、すぐに仁王立ちをする。
「...ふん、他の二人は手こずったようね、さぁ何かいいなさい!ったく、タリア兄ちゃんがノロマだからいけないのよ!」
「僕のせいなの!?」
兄妹か。だから顔が似てるんだね。
「そうだねぇ...お兄さんはそこに行ってくれる?」
少年はしぶしぶと少し離れた全く光のない真っ暗な場所に移動する。

"無名の肖像画"

「えっ!?」
兄妹は声を揃えて驚く。少年の手と足に魔法陣から出てきた鎖がジャラリと音を立てて縛りついた。

「あっ、自己紹介がまだだったね。僕は......うーん、何にしよ?そうだ...夜に忍び寄る"紅"い"影"、それは"死"を連れてくる"鬼"...紅影死鬼。なんちゃって!かっこつけすぎて逆にダサいかな?」

兄妹は腰を抜かす。妹の方はとうとう泣き出してしまった。
「折角化粧したのに、涙で変になっちゃうよ。大丈夫、痛くしないから!」
死鬼は笑顔で刃にべっとりと血がついたナイフを取り出す。少年はそれを見て大方察したのであろう、ガタガタと震えだす。震えながらも必死に妹の方に手を伸ばす。

無理無理、届かないよ。鎖のせいもあるけど...

「僕は旅人だけど...魔術師なんだ!わかるでしょ?異端って奴。だからあんまり夜遊びはするもんじゃないよ?僕みたいな奴に捕まって死んじゃうからさ」
そう言って、少女の胸元を一突き。
そして瞬きする間に少女の姿はなくなっていた。
死鬼はペロりと指先を舐める。

「...あは...はは...」

あ、壊れたかな?笑い出してる。

「大丈夫、君は食べないよ?どうしても食べられたければ...いつまでも追っかけてくるんだな」
魔術を解き、耳元でそう囁く。聞こえているのかいないのか、少年は笑い続けていたが。
「僕はいつでも歓迎するよ!じゃあね、タリア兄ちゃん?」







目をゆっくり開ける。あー、記憶曖昧だったのに夢で見ると鮮明になるもんなんだなぁ。
何時間経っただろうか?時計の方を向く。
うわ、一時間...

死鬼は身体を起こし、欠伸をする。
チキはテーブルに突っ伏して寝ていた。
「...ん?ワインがこぼれてる?」
テーブルの方をよく見ると、倒れた瓶から少しのワインが床に滴り落ちている。

ははぁ...さては呑んだな。

チキの手には底にワインが少し残ったグラス、そして何より眠っているチキの顔が赤かった。
風邪引くよ、とため息をつき近くにあった毛布をかける。

まーだアピクは帰ってこないのか。ま、いっか。
死鬼は魔扉をつくり、不敵な笑みを見せる。

さて、夢も見た事だし久々に食べに行こうかな?

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.111 )
日時: 2017/06/27 02:51
名前: そーれんか ◆2VcP.GZKgI (ID: qESkNdgF)

「どこに行くんですか?」
背後からの少し幼い声。
「ぎゃあああ!?チ、チキちゃん起きてたの...?」
死鬼は飛び上がり、チキはムッとした表情を見せる。
「何ですか、私を化物みたいに...あ、化物でしたね」
声質は幼いままでも、中身はかなり成長している。短期間でこんなに成長するもんなんだなぁ、と死鬼はポリポリと頬を掻く。
「うーん...別に着いてきてもいいけど、ここ誰も居なくなっちゃうから留守番頼みたいんだけど...って言うか留守番して僕がアピクに殴られる」
チキは数秒考えた後、ふうと息をつき首を縦に振る。
「ミサとスオの帰りを待たないといけないし、そうします。あんまり無茶しないでくださいね」
「うんうん。そう時間はかからないと思うから、よろしくね!」
そう言って魔扉を閉じる。

優しいよなぁ、チキちゃんは。
さっき僕が本気で食べようとしたのに、もう普通に接してる。
あれ、ただ単に忘れっぽいだけなのかな?まぁ、完全に忘れ去ることなんて無理だから記憶の片隅にはちゃんと残ってるんだろうけど。
そんなもん。ちょっと無理をすれば消えたはずの記憶ですら少しずつ戻ってくる。

世界の九割は曖昧なんだろうなぁ。
うーん、難しい!


足を地面につける。
扉の出口は決まって暗い路地。だってこんな禍々しい扉が街のど真ん中で現れたら皆怯えるに決まってるじゃん。
怪しまれたら終わり。至って普通の旅人のように見せないと。

"絡繰仮面"

マスターに教わった魔術。ただ見た目を変える、それだけ。僕はこの魔術、結構重宝してる。本当の顔が分からないから噂が広まっても心配する事はないからね。

さて...今日は誰にしようかな。



大きな教会。そこだけが目立つ町。ここの教会はそれなりに大きいし…中心部に近いのかな?
そう思いながら町を歩く。

結構平和そうなんだよね、市場で笑顔を絶やさず物を売る女だとか、木陰で逢い引...おっと、見なかったことにしよう。

まぁこんな町にも柄の悪い人達は居るもので。小さな酒場にはガブガブと酒を飲む肥えた男や煙草を吸う目つきの悪い娘。一体ここはいつから時が止まってるんだ?と思わせるくらいには古臭い光景が広がっていた。

酒場にいる輩は大体不味いから無視だね。

僕は年頃の子が好きだなぁ、丁度いいし。

修道士も苦手。味気ない。

「ちょっとそこの旅人サン、こっちに来てよ」
建物の影から手招きをする三人の少年。年頃の子はやっちゃうんだよなぁ、小遣い稼ぎに旅人を脅しちゃうってやつ。丁度いい、この子達にしよう。

「悪い事は言わない、ちょっとばかしお金置いてってよ」
「くれないってなら、痛い目に遭ってもらうよ?」
「にしし...子供だからって侮るなよ?」
まずはこの子達を慢心させないと。
怖がって逃げるふりをして、わざと路地奥へと誘い込もう。
「ひ、ひぇぇ...僕、お金なんてないよー!」
わざとジャラっと小銭の合わさる音を鳴らす。

あはっ、今の我ながら名演技じゃない?

「逃がすか!」
「あれは絶対金持ってる!」
「馬鹿め!あっちは行き止まりだぁ!」

嬉々として少年達は僕を追いかける。こっちが嬉々としそうだよ。こんなに単純だもん。

「い...行き止まり...ひぃ...」

腰を抜かすふり。少年達もあっという間に追いつき取り囲む。

「...なぁ、なんでこんなナヨナヨがあんなに金持ってんだろ?」
「馬鹿、カモになればなんでもいいんだよ」
「そうだよ。見た目も中身もナヨナヨだから楽なんだし」
......見た目ナヨナヨは流石に傷つく...いや...姿変えててもなんか...こう...。
そして少年は手を出す。
「じゃ、旅人サン。お金出してもらおうか?」
「い...いくらですかぁ...?」
「何言ってんだヨ、全部だ全部」
ちょっと待て、今さっきちょっとだけって言っただろ!
なんて突っ込みそうになる。
笑いだしそうになるのを必死に堪え、演技を続ける。
「全部...?じ、じゃあ!一つだけお願いがあるんです...聞いてくれますか…?」
少年達はどうする?とか話していたが、すぐに答えは出たようで首を縦に振った。
「あ、ありがとう...ございます...はぁ...よかったぁ」

演技はもうおしまい。でも、これからが本番だよ。
死鬼はすくっと立ち上がり、にっこりと笑う。

「暴れないでね、変な所に刺し込むもしれないからさ」

"真紅の楔"

真っ赤な楔が少年達の手首に突き刺さる。少年達は何が起こったかわからなかったのか、小さな声でえ?と連呼している。
「毎回毎回思うんだけどさ、なんでそんな危機感ないのかな?異端が蔓延ってる世界でさ。まぁ年頃だから仕方ないよね!」
ここまで完璧な形勢逆転ってあるかな?
さっきとは一変、怯えた表情で少年達は死鬼を見る。
「お、お金はいらないから...こ、これ外してくれよ...」
「痛い...痛い...」
「うぅ...ひっく...なんでこんな...」
可哀想に。
まーだ状況飲み込めてないのかな。
「お金は全部あげるよ?僕は今お願いを聞いてもらっている立場だもん」
「だっ、だから!お金はいらないから、お願いとかな...し...」
地震が起きたんじゃないかというくらいにガタガタと震えている。
死鬼は普段から見せる笑顔でいるつもりだろうが、他から見ればただ狂気に歪んだ表情そのものだった。
「何言ってるの?お願い事を聞いてあげるって言ったの、君達でしょ?はぁ...僕じれったいのは嫌いなんだ、終わっていい?」
ナイフを取り出す。血がこびりついて取れなくなった刃先をチラつかせ、少年達の恐怖を煽る。
「ごめんね。来世ではこんな風に知らない人を誘っちゃダメだよ?」

笑ってナイフを振り下ろした。

はい、おしまい。

食べてる時思うけど、僕って少しゾンビみたいだよね。生でも食べるし。共通点といえばそれくらいだけど、他から見たらゾンビっぽいんだろうなー。

「ふぅ...帰ろっかな。あんまり留守にしてるとシャレにならないし...」

″ゴミ″は燃やしてしまおう。証拠隠滅?いいえ、ただ土に還って貰おうとしているだけですよ。あ、こんなコンクリートの地面じゃ風に舞うだけか。
ま、いいや。別に僕の知った事じゃない。

火をつけると同時に魔扉を開く。



僕が愛する人を食べるのは心を満たすため。
僕が無差別に人を食べるのは空腹を満たすため。
あーあ、好きな人できないかな。


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