ダーク・ファンタジー小説
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- 逆十字の聖魔戦争
- 日時: 2017/04/30 01:07
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
吸血鬼、人間の血を飲む怪物と呼ばれる生き物。耳が尖っており、吸血鬼かどうかはすぐ見分けられるが人間はごくまれに耳が尖っているものを産む。その人間は迫害され、捨てられ、最終的に魔術師になるケースが多い。
魔術師、元人間や吸血鬼など、様々な種族が魔力をもち不死身になった生き物をまとめてそう呼ぶ。元人間、と言うのは魔力をもった際に人間の記憶を忘れる為。吸血鬼はそうならない。他に精霊族や人狼族など色々な種族がいる。
聖戦士、神と人間によってつくられた通常の人間より遥かに強力な術を手に入れた吸血鬼と魔術師を消す為だけに存在する部隊。
ーーーーーーーーーー
初めまして!そーれんかです。去年から妄想してたやつを小説書く練習がてら書こうかなと思ってます。語彙力のない中学生なので至らぬ点が多いだろうとは思いますがアドバイス等宜しくお願いします_(:3」∠)_
追記
宗教に対する批判的なセリフがありますが、決して実在する宗教を批判する意図で作った訳ではありません。そこはご理解頂けると幸いです。グロテスクな所も少なからず登場します。苦手な方はお控え下さいm(*_ _)m
登場人物を移動させました。そして題名もはっきり決まったので変更しましたヾ(:3ヾ∠)_
登場人物
>>66 異端側
>>67 聖戦士側
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.87 )
- 日時: 2017/05/17 03:27
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
主に仕えて、主を親として見てきた。本物の親の顔すら記憶にないのだから、主達が本物の親になってくれるって。そう思って生きてきた。でも、いくら覚えていなくても本物になんかなれない。もし主がクローンであったとしてもそれは本物に限りなく近い偽物。まぁ、それくらい少し考えれば分かることなんだろうけども。
「〜〜〜、どうしたの?」
ジンリンは笑顔で腰を抜かして震えているミサとスオに手を差し伸べる。だが二人にはその笑顔がどうしようもなく恐ろしく思えた。
「〜〜〜。ねぇ、二人は私の事をどう思ってた?四大魔術師の中ではまともな方だとか?」
「え...ま...まともな方...だと...」
スオはミサの胸に埋まり体を一層震わせる。ミサは震えるスオを抱きしめ、自身も震える体を必死に落ち着かせようとしている。
「〜〜〜。そっか、じゃあもう一個...というより注意してほしい事かな?」
ジンリンは椅子から立ち、目線をミサ達に合わせるようにしてしゃがみこむ。
「...二人共しっかり私の眼を見て話を聞いてくれる?」
ミサの肩を掴み、スオは横顔でそっとジンリンの方を見る。
にっこりと瞳が少しも見えない笑顔で話し始める。
「〜〜〜...魔術師は特に信じちゃいけないのよ?こんな屋敷に不用意に立ち入ったりもね。チキちゃんみたいな吸血鬼に仕えていたとしても、主が今この場にいなければどんな事だって出来ちゃうんだから」
ジンリンはカッと眼を見開く。何時もの綺麗な深緑色の瞳ではなく言葉で言い表せない濁った色をしていた。そしてその瞳に刻まれている魔法陣が紅く光り出す。
「二人共まだ不死になっただけの"もどき"なのよ。心も体も未熟。だからその分改造しやすいのよ」
「かいぞ...ッ!?」
「あら?今言わなかったかしら?魔術師を信じてはいけないって。主がいなければ何でもできるって!」
ジンリンは黒い羽根を生やし、狂気に顔を歪ませる。
「っ!スオ、立ちなさい!」「う、うん...!」
ミサはスオの手を引き、逃げようと走り出す。ジンリンは追いかけずにそのまま走る様を見ていた。
".....もう少し何とかならなかったの?"
幻影は呆れた様子で見る。ジンリンはクスクスと笑いだし、幻影の方に振り向く。
「〜〜〜、あら?私は嘘はつかないし、こういうのはオブラートに包まずズバッと言った方がいいのよ。双子の話はあの子達の事だし」
"いや...そうじゃあなくてね、あの部屋に連れて行きたいのなら素直に連れていけばいいのにって。左のドアに行ってたらアウトだったじゃない"
「ウフフ、その時はその時よ。それに私はわるーい魔術師だからね。そうでなきゃあんな顔できないでしょ?」
ジンリンは幻影に向かって少しはにかんでみせた。
ーーー
ただひたすらに屋敷内を走り回った。息も絶え絶えになりながら二人がたどり着いた場所のすぐ横に地下へと続く階段があった。
「ど、どっちに行く?」「お姉さん、ここの扉開いてる...内側から鍵がかけられるみたいだからこっちの方がいいんじゃないかな...」
二人はギィ、と扉を押し中に入る。入った途端に電気がついた。あたりを見渡す限り武器や何かを入れているケース、たくさんのものが置かれていた。しかも埃っぽい臭いに血液、そして謎の液体が混ざった臭いが胃を直接かき回されているような感じで気分が悪くなる。植物の良い香りとは一変、ここだけ機械質で別世界にいるような感じがした。
「...スオ、何か盗っていこう」「えぇ!?何言ってるの!?」「ここにいたってその内来るんだから...抵抗しなきゃ」
ミサは手当り次第に部屋を調べていく。スオは少しオロオロしながらもミサと一緒に調べていく。
「これ!」「.....!」
ミサとスオは同時に武器を引き抜く。引き抜いた武器の箇所には名前らしきプレートがつけられていた。
ミサが引き抜いた赤く熱を帯びる剣と盾の名前は
"鳳剣盾ライヤーズ"
スオが引き抜いた黒く光る短剣の名前は
"鏡剣闇の鎮魂歌"
だった。
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.88 )
- 日時: 2017/05/18 03:19
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
700hit超えありがとうございます(*^^*)毎度毎度閲覧感謝です
ーーー
汝はその力を手にするか?
安心するが良い
きっと守りたいものを守れる
ただし..........な。
「...スオ、聞こえた?」「うん。守りたいもの...かぁ。最後のあたりは聞き取れなかったけど...」
二人はそれぞれ手に取った武器をきゅっと握る。
「運命...なのかな」「うん...チキに出会った時と似た感じがする」
「うんうん!運命!でもおにごっこはまだ終わってないんだよ?」
ニコニコと笑いながら鍵をかけたはずの扉を開けゆっくりと近づいてくる。
「〜〜〜?フフ、その二つの武器をどう使いこなしてみせるのか見たいわぁー」
わざとゆっくり話し、より二人の恐怖を引き立たせる。
「あぁ安心して?チキちゃんに見せられないような姿になるまで痛めつけたりはしないから」
"精霊樹の茨"
ゴゴゴゴと地面から音が鳴ったかと思えばボコっと穴を開けてミサ達の数倍もある巨大な茨が数本姿を現す。
「試験よ。精神攻撃なんて卑怯な真似はしない。今から使う魔術は全て肉体攻撃。恐れずに攻撃してくるといいわ!!」
ジンリンはそう言い終えると次々と魔術を唱え始める。周りには無数の魔法陣が現れ一発種のようなもので攻撃したと思えば消えていく。それでもかなりの数で弾幕のようにバシバシと連撃される。
「そうだ、盾...!」
そう思った瞬間に脳に言葉が流れ込んできた。
「アイドゥーサ...オルタ...ヒューマン...」
流れてきた言葉をそのまま口に出すとほのかに暖かった盾が急激に熱くなる。焦って手から離そうとするも握った腕が動かず熱さによる痛みで思わず泣き叫んでしまう。
「ジ、ジンリンさん!!ちょっと待ってください!!」
スオは焦ってミサの方へ駆け寄る。ジンリンは手を止めるが、厳しい表情を崩さなかった。
「〜〜〜...でもそれを選んだんだから簡単に手放すなんて言わない事ね。それ位の痛みで泣いてちゃあ大切なものを守るなんて無理」
そう冷たく言い放ち再び詠唱を再開する。
「はーっ...はーっ...」
ふらふらと立ち上がり剣を握る。涙を拭い爛れた腕の痛みを必死に耐えまた流れてきた言葉を呟く。どんどん熱は上がりスオが近くにいるのもやっとなくらいになる。
"術式完成・炎星夢盾"
地面にめり込ませそう叫ぶと盾に埋め込まれていた紅い宝石から炎が勢いよく吹き出してくる。その炎はミサとスオの周りを包み全ての攻撃を炭に変えていく。
「やれば出来るじゃない。さ、スオちゃんもよ?」
「う...。私はどうなるんだろ...」
スオにも言葉が流れてきていた。その言葉を思い出しつつ呟いていく。
「ダーウィル...スレーブ...アゾット...」
そう呟くと背筋が凍りつくような冷たさの手に触られる。氷、いやもしかすればそれ以下の冷たさかもしれない。それも一つや二つではなく、無数の手が。恐ろしくて振り向けず、呟き続けている為どんどんその手は増える。最初こそ触れるくらいだったが増えていくと引っ張られるような感じになっていく。
「!!」
手を振りほどき短剣を力強く握りしめる。柄に埋め込まれた黒い宝玉が妖しく光った。
"術式完成・愚か者への鎮魂歌"
短剣の刃は真黒なオーラに包まれ長剣のようにその範囲を広くする。
巨大な茨を容易く断ち切りそこから生みでたブラックホールのようなものに吸い込まれていく。
「...よし。そろそろ終わりましょうか?お疲れ様、合格よ」
ジンリンはにっこりと笑い魔法陣を全て消す。ミサはまだ警戒を解かずに近づくジンリンに対してスオを守るように盾を向ける。
「あ、さっきああ言ったばっかりだから無理もないかぁ...。ま、ここでやれることは全てやり終えたし、手当てでもするといいよー」
ジンリンはくるっと周り部屋を後にする。スオは腕を押さえているミサを抱え自室へと戻る。
スオは気がついていた。いや、もしかしたらミサも気がついているもかもしれなかったが。ジンリンがあれだけの攻撃をしていながら擦るくらいしかしなかったのか。きっと...
ミサは自室に戻るなりベッドへと倒れ込みそのまま眠ってしまう。スオは呆れながらも爛れた腕に包帯を巻き姉の頭を撫でる。しばらくポーッとしているとドアがノックされる。
「起きてる?」
「あ、ジンリンさん...」
「ウフフ、ごめんね。ちょっとやりすぎちゃったかしら?」
ジンリンはクッキーと紅茶をテーブルに置く。スオはクッキーを頬張り紅茶を一口飲む。
「あの...ジンリンさん、ありがとうございます」
「んむ?何のことかしらー?」
ジンリンは知らぬふりをしてクッキーを食べ続ける。少し頬を赤らめているのがスオには見え、ふふっと笑った。
「それじゃあ、ミサちゃんが起きたら最終試験ね」
紅茶をくいっと飲み干し、満面の笑みでそう言い放った。
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.89 )
- 日時: 2017/05/19 02:50
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
「死鬼さん」
チキは黒い姿のまま死鬼を呼び止める。数発攻撃が当たったネメシスは膝をついて咳き込んでいた。
「何?」
「その、案があって...」
チキは耳打ちをし何かを呟く。死鬼はそれはいいと言わんばかりの表情でぽんと手のひらを叩く。
「んじゃあよろしくね、チキちゃん!」
死鬼はチキとハイタッチをした後、屋敷の方へと走っていった。驚いた聖戦士達は追いかけようとするもチキに遮られる。
「目の前の敵を追え。見えぬ敵を先に追うな!!」
ネメシスはそう叫び足に力を入れ立ち上がる。荒い息をしながらも幼体化しないのでまだ力は残っているのだろう、とチキは突き刺した槍を引き抜く。
「貴方達が私達を追い続けるなら、私はいくらでも貴方達を殺し続ける。いくらでも堕ちてやる!私達が存在しているだけで罪なら...その罪をもっと深くしてやる!!」
"血醒月光・原罪"
チキが槍を空に掲げた瞬間、気候が変わることのないこの屋敷周辺に赤雲が現れ赤い雨を降らす。時折雷も落ち、聖戦士達はパニック状態に陥ってしまう。
「っ黙れ異端が!これ以上...これ以上私の部下を殺すなぁぁぁぁ!!」
雨で濡れた顔を拭いネメシスはチキの方へ飛びかかる。
"キネサス"
「殺して殺されて!!もう沢山なんだよ!!さっさとくたばれ!」
「何故こっちが一方的にやられなきゃいけないの!?大人しく殺られる奴なんていないわ!人間ってそんなに偉いわけ!?」
ネメシスの連撃にチキは槍で攻撃を防ぐ。一発一発がかなり重く、徐々に衝撃で手が痺れてくる。
「黙れ!偉い偉くないじゃない、人間の道を外れたから問題なんだ!道を外れ正しき道を歩んでいる人間を巻き込み外れさせようとするのがな!!」
「っ...!でも.....やっぱり、いい。時間は稼げた」
チキは一気に間合いを取るとにやりと笑った。
突然死鬼が聖戦士達の背後にずっと現れ、パチンと指を鳴らす。
"多重方陣・毀れた世界に喝采を"
「はー、一時はどうなるかと思ったけどちゃっと発動してくれたみたいでよかった...」
そう言うと死鬼はバタンとその場に倒れる。何も起こる様子はなく聖戦士達は捕らえようと死鬼の方へ近寄ろうとする。
"ーーー"
謎の声が死鬼の方から聞こえる。少し離れたネメシスの方にも聞こえたようで攻撃の手を止める。チキは槍を力強く握り、ゴクリと生唾を飲んだ。
"ーーーー、ーーー、ーーーーー"
死鬼は目を瞑ったままムクリと起き上がり、こう叫んだ。
"紅き影に触れる時、如何なるものも消え去るだろう。例え紅き存在とされる鬼ですらも"
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.90 )
- 日時: 2017/05/20 04:14
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
ーーー贖え
幾つもの魔法陣から槍のように鋭く尖ったものが見境なく放たれる。その尖ったものに貫かれた聖戦士達の血で桃色の桜はすぐに赤く染まっていった。
「.....!!」
かなりいた聖戦士も、今は指折りで数えることが出来るくらい死滅している。どこを見ても赤、紅、朱。気が狂いそうになる。ネメシスは呆然と立ち尽くし、手で口を押さえる。チキは追い打ちをかけず、その姿をじっと見ていた。
「...神様.....」
涙を一粒こぼし、歯をギリッとならす。
「神様!!あなたは私達を救ってはくださらないのですか!!どうして...どうして見捨てるんですか!」
怒りと悲しみが混じりあった声で思いきり天にむかって叫ぶ。そして力なく座り込み、子供のようにしゃくりあげている。
「どうか泣かないで。全ての敵はあなたがとるのよ?」
"神風"
眩い光があたりを包み込んだ。赤い雨は止み、桜の色は桃色へと戻る。大きな羽を広げた天使はふわりと地面に降り立つ。
「.....ソフィア...」
「ほら、立って?敵はまだいるの。ここで泣いてちゃ呆気なく終わっちゃうのよ」
ソフィアはネメシスの手を引き、手に持った杖をカランとならす。
「異端よ、知らぬ者と戦い殺されるのは癪でしょう。自己紹介をしてあげます、私は十聖騎士の一人、天使族のソフィア・ミネルバ。ソフィアとお呼びなさい」
ネメシスに対する態度と一変してチキ達には少し傲慢な態度で自己紹介をする。
「それにしても...タイミングがよかったみたいですね。一匹弱ってるみたいで」
ソフィアは死鬼の方を見、にっこりと笑う。
「ゲホッ...ごめんねチキちゃん、僕の体力が持たなかったや...今回足引っ張ってばっかりだなぁ僕」
死鬼は胸元を押さえ、苦しそうに息をしている。ガクガクと震え、その場に倒れ込んでしまう。
チキは駆け寄ろうとするもソフィアとネメシスに遮られる。
「駄目ですよ、目の前の敵を見逃しては!」
ソフィアとネメシスが同時に襲いかかってくる。チキは槍で防御しようと力を入れた。
「殺さなければ大丈夫であったな...何、足止めする程度にしたいさ。...何?...そうか。...未練?無いわけ無い。寧ろ有り余ってるさ。だが...わちきがあまりここにいると死鬼が成長出来ないからな。それに、約束は約束であろ?」
"三千大千世界"
チキとソフィア達の少しの感覚に無数の刀が突き刺さる。驚き上を見ると、コハルが団子を食べながら扇子で扇いでいた。
「ほほほ。今世との別れじゃ、目一杯暴れさせてもらおう。愛刀村正よ、ゆくぞ!」
"雪月花"
刀が分裂し、舞いながらソフィア達を狙っていく。
「チキや、死鬼の元へ行って起こしてくるんじゃな。そして言ってくれぬか?花の散る様を目に焼きつけろ、とな」
「コハルさん...」
チキは目に涙をため、死鬼の方へと走り出す。ソフィアは逃がすまいと追いかけようとするが、刀の動きが予測出来ない為、なかなか動けなかった。
「今のお主達の相手はこのわちきじゃ、目の前の敵を見逃してはならぬのだろう?」
「くっ...さっさと地獄へ還りなさい!!」
ーーー
「死鬼さん...死鬼さん!!」
死鬼の身体を激しく揺らす。
「.....チキちゃん?あれ、僕気を失ってた?」
血を拭い、ふらつく身体を無理矢理起こす。明るく振舞っているものの、身体は結構なダメージを負っているのだろう。チキでも分かるほどだった。
「.....チキちゃん、何あれ」
引きつった顔で死鬼はチキに問いかける。コハルの方をさす指は微かに震えていた。
「...その...」
答え辛く目線を思わずそらしてしまう。
「...なんでマスターが戦ってるの?出るなって言ったのに...!」
止めようと死鬼は走ろうとするが身体がついていかないのか、その場に転んでしまう。
「コハルさんが...花の散る様を目に焼きつけろ...って」
二人はただじっとコハルが戦ってる様を見ているしかなかった。
その内重傷を負ったネメシスを抱えソフィアは撤退し、コハルはチキ達の方へと歩いてくる。
「どうじゃ?美しかったであろ?」
「...馬鹿」
か細い声で死鬼はそう言う。コハルは扇子で口元を隠しくすくすと笑う
「死鬼はまだまだ子供じゃのう、そう泣く事も無いだろうに。チキや、貰い泣きはするでないぞ?」
二人の頭を撫で、軽く抱きしめる。
「嘘はすぐバレるぞ。とっくに約束の数を超えていて、死鬼が頼んで迎えを延ばしていた事。嘘はいけないと言わなかったか?」
「.....っ」
死鬼はドキッとし、少し目線を逸らす。
「ほほ。わちきが居なくても大丈夫であろ。お主には仲間がいるではないか」
コハルの背後に扉が現れる。その扉には鬼の絵が描かれていた。
「おや、迎えかえ?はやい...とも言っておられぬな」
「.....マスター」
死鬼は涙を拭い、笑顔をつくった。少し引きつってはいるものの、限りなく自然に近い笑顔で。
「...僕の団子、もう盗まないでね!」
コハルは少し固まっていたが、またすぐに笑い返した。
「ほほほ...死鬼や、お供物は忘れるでないぞ?」
そう言って、扉の中へと消えていった。コハルが消えたすぐに扉も消え、ただシンとした空気が漂うだけ。
死鬼はため息をついた後バタンと地面に倒れ込む。仰向けになり、空を見つめる。
「...僕さ、もう嘘つかないや」
「死鬼さん...」
「だから...自分の気持ちに正直になるかなって。まぁ...今は流石にできないけど」
少し照れくさそうに頬をかく。チキには何だか分からなかったが、応援する他なかった。
「...じゃあ、応援してますね」
チキがそう言うと死鬼は満面の笑みで起き上がる。
「あはっ、嬉しいなぁ。...そろそろアピクの所に戻る?僕もそっちに行こうかなって思ってるんだけど」
「でも死鬼さん身体が...少し休んでからにしませんか?」
「...ん、断ろうと思ったけど今正直になるって言ったばかりだからなぁ。言葉に甘えて休もっかなー!」
二人は屋敷へと戻っていく。コハルが忘れていった愛刀を地に突き刺して。
- Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.91 )
- 日時: 2017/05/22 03:34
- 名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)
ねぇ、生ける屍...ゾンビっているじゃない?ゾンビには知性がないって言うじゃない。まぁ、脳も機能してないからそれもそうよね。でも、脳が別のモノ...だったら話は別よね。
私とあの子は"愛された傀儡"なのよ。
「ハハハ、やっぱり君達の身体は厄介だなぁ。魔術師の数倍速いや」
四頁は張り巡らしていた糸を一気に解く。ノウラやクトの四肢が飛ぼうが瞬く間に修復してしまうからだ。
『褒め言葉として受け取っておくわ。安心して、クトちゃんはまだしも私はそんじょそこらのゾンビと違って噛みついたりはしないから』
ノウラはニコニコとしながら話す。マフラーで隠された首元や二の腕の繋ぎ目、濁った瞳さえ見えなければ人間と変わりないくらいの知性と外見を持っていた。
「ハハッ、あんまり安心できるようなものでもないけど...死んでから異端に加勢するってのは最悪だからそうならないだけマシ...かな?」
四頁はぬいぐるみを抱きしめている少女を抱き抱え、襲いかかってくるクトを避ける。幸い攻撃速度は鈍い為、避けるのは簡単だった。
『もっと安心できるような情報をあげましょうか?私とクトちゃんにそんな感染させて下僕にする能力はないわよ。噛み付けば即死だけど』
「あー...あんまり安心できないねぇ、むしろもっと不安になったかもしれない」
『あら。それはごめんなさい。でもあまり喋ってばかりいて大丈夫?私だって攻撃できるのよ?』
"歪んだ愛の傀儡師"
巨大な手が空から糸を垂らし、その糸にノウラが触れる。糸はノウラに引っ付き、さながら人形の様に動き始める。
「うぇっ、あやとりとか操り人形は僕の専売特許だと思ってたのになぁ」
四頁は珍しく嫌そうな顔をする。よほど自身の特技が他人、しかも異端に使われた事が癪に触ったのだろう。
親指が動けば顔が、人差し指が動けばノウラの腕が、中指が動けば脚が。本当に操り人形のようだった。
『これは私の意志じゃないの、私の魔術の意思なの。だから次の発動する魔術が何かもわからない。逃げておいた方がいいんじゃない?逃す気はないのだけど』
クトは怪物化を解き、ノウラの近くへと飛び移る。ノウラの顔は口が裂け、目が不気味に笑い、ピエロのような表情になる。
それを間近で見ていた少女がヒッと小声で言った後、四頁の胸に顔をうずめた。
「こーんな子供にトラウマ植え付けるなんて酷い奴だなぁ。僕はこんな怖い人形操りたくないし観客として見る気にもならないね」
そう言い放つと少女を抱き抱えたまま通路の方へと走っていく。
"堕ちた女ネクロリア"
″堕ちた女の話をしましょう。
昔ある村にとても美しい女がおりました。その女は誰にでも分け隔てなく接し、村だけでなくその外の街や城にまで女の事が広まっていました。そのお陰で村は貿易が盛んになりました。
ある日の事、女は一人の青年に恋をしました。その青年はある街の出身でよく女に会いに来ていました。ですが村人達は結婚して女がいなくなるのを恐れ、女を監禁しました。
青年や女の噂を聞きつけてやって来た旅人には女は重病で寝込んでいるから会えない、と話しました。早く病が治るように、と旅人達や青年から多額のお金などが送られました。村人達は味を占めます。
女は怨みに恨みながら、自身の行いを思い出し始めます。そして、女はとても素晴らしい事を思いつきました。
それは村を消し去ることです。ある晩に女は油断していた見張りを殺し、鍵を奪って脱出しました。そしてじっくり一人一人殺していきました。ある者は皮膚を削ぎ、ある者は窒息死ギリギリで息をさせ、また窒息死ギリギリまで息を止めさせる。ある者は釘を刺し。気がつけば村は荒廃してしまいました。村が荒廃した噂が流れ、誰も来なくなりました。愛した青年も。復讐を遂げたと同時に愛する人も行方知らずになりました。青年を探しながらも自身を愛し、自身も愛したいと思えるような人を探し続けました。ですが結局...途中で死んでしまいましたとさ。めでたし″
「アハハ...めでたくねぇ!!なんだいこの話?僕聞いたことも見たこともないよ!!」
四頁はそう叫びながら降り注ぐ鋭利な包丁を避け続ける。その包丁は柄も刃も血塗れであり、その話を再現したかのような不気味さを醸し出していた。
『そう...貴方にはわからない。貴方達が絶対に知る事は無かった物語。そしてこれが私が人間に絶望した物語!!』
「んなっ...君の物語だったのかい!?.....ハハッ、その青年は意外と身近にいたりしてね...」
通路を抜け、再び広い場所に出る。この時間帯は人通りも多く、あまり攻撃されると死者が出かねない。ただ後ろを見ると包丁が一寸の幅もなく突き刺さっている。あれを防ぐのはどう考えても無茶に等しかった。
"大糸壁・英霊"
これでしばらくは防ぐしかない。無関係な人達が叫び逃げ惑っている。
どうか、死人を出さないで。糸が千切れる感触を手に味わいながら強く思う。少女を抱いているため片手しか使えないのもかなりのハンデになっている。一部が完全に千切れ、しゃがみこんでいた女性に包丁が当たりそうになる。
「がっ」
ギリギリで庇えたものの腹部に包丁が突き刺さる。服の構造上四頁の腹部には何の布も無い為直に刺さっている。
「ぅ...胸じゃなくて良かった、と思えるだけ幸いかな...にしても直は痛いや、でもこの服気に入っているしなぁ...」
と、どうでもいいことを呟きながら壁を修復する。修復できた後、包丁を引き抜きどくどくと留めなく流れる血を少女を抱えている手で押さえる。
「し...しーちゃん...」
震える声で少女は四頁の傷を見る。
「大丈夫大丈夫。ぬいぐるみは汚さないように持っておきなよ!...ってあれ、僕も結構なトラウマ植え付けちゃったかな?」
そう言っていると、背後から人影がすっと現れる。驚いて振り向くと、見慣れた姿がその場にあった。
「何やってんだノロマ!!心臓を貫かれなかったから良かっただと!?腹部にも大事な臓器は沢山あるんだ!ほら見ろ吐血してる...」
いつになく慌てた様子で三頁はタオルを取り出し止血作業を進める。
「ハハハ...よくここが分かったね、僕迷ってたというのに」
「お前が話聞いてないし地図見ないからいつまで経っても覚えないんだろうが!...一頁と二頁が壁はってるし五頁と六頁が攻撃してるからあんまり心配しなくていいからな」
七頁が少女の擦り傷などに絆創膏を貼っていく。
「にしても四頁が女の子守るなんて見直した」
ぺたぺたと絆創膏を貼りながら七頁は呟く。呟くと言うには大きすぎる声量だが。
「.....七頁って僕の事どう思ってたの?」
「あ、聞こえてたか?よく笑う不真面目なおっさんだなって」
おっさん。それだけが四頁の脳内に反響する。
「おっ...おっ...おっさん...なーんで僕だけおっさん扱いなんだよ!!僕外見はどう見ても二十歳前だろ!!」
「いや...外見はそうだろうけどお前何百年前生まれだよおっさんどころじゃねえだろ」
「いいいよねぇぇぇぇ!君は数十年前に生まれたんでしょーー!?子供じゃー痛だだだだ!!三頁!痛い!!」
三頁は黒い笑顔で四頁の包帯をきつく巻いている。ふいっと七頁の方を向き笑顔を崩さずこう言った。
「年齢の話は厳禁...な?」
「...すみません」
これは流石にいけない、とすぐ判断できる表情だった。
「ハハハ...んじゃま、戦線復帰と致しますか」
四頁は糸を解き、自身の手中に収める。少し傷がズクズクとするが大して気にしていなかった。
『その包丁が...ただの血塗れな包丁だとおもっていたら大間違いよ。効果?私も知らないわね』
五頁と六頁に向かって、歪んだ笑顔でそう言った。
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