ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

逆十字の聖魔戦争
日時: 2017/04/30 01:07
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

吸血鬼、人間の血を飲む怪物と呼ばれる生き物。耳が尖っており、吸血鬼かどうかはすぐ見分けられるが人間はごくまれに耳が尖っているものを産む。その人間は迫害され、捨てられ、最終的に魔術師になるケースが多い。

魔術師、元人間や吸血鬼など、様々な種族が魔力をもち不死身になった生き物をまとめてそう呼ぶ。元人間、と言うのは魔力をもった際に人間の記憶を忘れる為。吸血鬼はそうならない。他に精霊族や人狼族など色々な種族がいる。

聖戦士、神と人間によってつくられた通常の人間より遥かに強力な術を手に入れた吸血鬼と魔術師を消す為だけに存在する部隊。


ーーーーーーーーーー
初めまして!そーれんかです。去年から妄想してたやつを小説書く練習がてら書こうかなと思ってます。語彙力のない中学生なので至らぬ点が多いだろうとは思いますがアドバイス等宜しくお願いします_(:3」∠)_
追記
宗教に対する批判的なセリフがありますが、決して実在する宗教を批判する意図で作った訳ではありません。そこはご理解頂けると幸いです。グロテスクな所も少なからず登場します。苦手な方はお控え下さいm(*_ _)m
登場人物を移動させました。そして題名もはっきり決まったので変更しましたヾ(:3ヾ∠)_

登場人物
>>66 異端側
>>67 聖戦士側

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.102 )
日時: 2017/06/07 04:16
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)


PM 14:35
現在地 教会より数百メートル離れた地点

「ねぇ、隠者」
ヴィシャは大あくびをし、くるくると回っている。盛り上がった土や大きな石など引っかかりそうなものが道路に沢山あるのによくもまあ引っかかって転けないな、とヒューイは後ろについていきながら思う。
「...何?」
「隠者って目がみえないっていってるのになにもひっかかったりしないよね、実はみえてたりするの?」
ヒューイとスレイは直球で聞くのか、と少しだけ引くが隠者はあまり驚く様子も無く、ぱちぱちと瞬きをする。
「.....見えてないと言えば嘘になるし...見えてると言っても嘘になるわ...けど...どちらかと言えば見えてない...かしらね…」
「ふーん、そっか」
それだけで納得するのか、と二人は内心つっこむ。
しばらく歩いた先に、四人は風に揺れるカフェの看板を見つけた。
「.......カフェ.....」
隠者はぼそっと呟き、ヴィシャは目を輝かせる。
「わたしいきたーい。おかねはだすからさ、みんないこうよー」
「スレイも行きたい!」
ヒューイは真顔で三人についていく。
私、カフェに行ったことないや。
そんな事を思いながら。




ドアを開ければチリンチリンとなる鈴の音、コーヒーの苦い匂い、軽快な音楽で四人を出迎える。
「いらっしゃいませ、あちらのお席へどうぞ!」
店員が指す方に行き、席に腰掛ける。ヒューイはキョロキョロと辺りを見回し、興奮したような表情になっていた。
「どうしたのヒューイちゃん?」
ひょこっとスレイはヒューイの顔をのぞき込む。
「い、いや、今迄こういう所来たことがなくって...」
「きたことないの?とりあえずこれみてなにがたべたいかきめればいいよ!」
ヴィシャがテーブルの端に置いてあったメニューを手に取り、ヒューイに渡す。
メニューを開けば、美味しそうな写真がいくつも貼ってある。ヒューイは目に星が入ったかのようにキラキラと輝かせ、頬を赤らめる。
「ふっふーん、ヴィシャがおごってあげるからなんでもたのんでいいよ!」
腕を組み、ふんぞり返る。
「.....ヴィシャ...言ったわね...?」
「えっ隠者...えっ...」
隠者は口元を緩ませ、ヴィシャは凍りつく。





数分後 注文したものが全て届き、ヒューイとスレイは届けられた料理の量に呆然とする。
「.....」
ヴィシャは無言で両手で顔を押さえていた。
「.....そんなに食べるんですね」
思わずヒューイがそうこぼすと、隠者はまた口元を緩ませた。
「...今日は...ヴィシャが奢ってくれるから.....いつもはこんなに食べないわ.....」
そう言って、シロップに浸かったパンケーキを口に運ぶ。
「はぁぁぁぁ...隠者がおおぐらいだったのわすれてた...うぅ...」
ヴィシャは呻きながら注文したミルクと砂糖多めのコーヒーを飲む。
「今度ネメシスさん達と一緒に行けたらいいね!」
スレイは追い打ちをかけたかったのか、はたまた純粋にそう思ったのか。きっと後者の方だろうが、今のヴィシャには追い打ちの言葉にしか聞こえなかった。
「...ネメシスもおおぐらいだからいやだ...天使とせーとならいい.....」
ぐいっとコーヒーを飲み干しカチャンと皿に叩きつけるようにカップを置く。
「.....ご馳走様...」
隠者の食事スピードに目を疑う。食べ残しもなく綺麗になった皿は人の頭一つ分くらいの高さくらいにまで積み重なっていた。
ヒューイはジュースをストローで飲みながら、皿の枚数を数える。1、2、3.....10...15...
ここは食べ放題ではないのだが、と思いつつジュースが無くなったコップをテーブルに置く。
「じ...18...」
ヒューイは引き攣った表情で数え間違いがないかもう一度数え始める。当然、結果は変わらないのだが。
「...皆食べ終わったかしら...?ヴィシャ...伝票よ...」
渡された伝票を見たくなさそうに受け取る。
「...んなっ!?だ、だれ!?甘々ミルククリームパンケーキたのんだの!!隠者!?」
一番値段が高かったのか、汗を流し注文した人物を探すが、隠者は首を横に振る。
その中すっと手を上げたのは、満足気な表情をしているスレイだった。
「美味しかったぁー!ヴィシャさん、ありがとうございます!」
そんな表情をしているスレイにヴィシャは怒るに怒れない。むしろ自分が奢ると言ったから余計に。
「.....しかたないけどさ...うん...かえろっか...せーといじめてやる...」
最後に物騒な事を呟いて、スタスタと会計所に向かう。隠者達は口を拭き、先に外へと出る。
「うぅ...おいしかったからいいけど...たかかったなぁ...」
ふぅとため息をつき、軽くなった財布をポケットにしまう。
「あの、ご馳走様でした」
ペコリとお辞儀をする。
「ヒューイちゃんはもっとちゅーもんしてもよかったのに。ジュースだけってつまんないよー?」
ヴィシャはニコニコと笑う。自分の首を絞めているのに気がついていないのか、と隠者は空を見上げ思う。
「じゃあ、次は」
ヒューイも笑い返し、天使達の待つ教会に戻ろうと皆足を動かし始めた。


ーーーーー
遅くなりましたが800閲覧ありがとうございます(´>ω<`)100レスも超えましたが頑張りますヽ(・∀・)ノ

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.103 )
日時: 2017/06/08 04:20
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

僕は異端になる前の記憶なんて興味無いな。君達は前世の記憶とかあんまり興味無いでしょ?一部の人は興味ありそうだけど...。
別に昔の記憶が知りたいって思うのは構わないよ。自分が満足すればいいし。
僕達は存在してるだけで罪なんだから好きな事やろって気持ちだしね。
僕は例えば...そうだなぁ、好きな人を身体の中に取り込む...とか?あ、気持ち悪かった?ごめんね、僕こんなでも異端だから、昔色々やらかした事が身体に染み付いてんだと思うよ。記憶と身体が覚えてるのは別だからね。

ねぇ、僕の好きな人って誰だと思う?
正解はーーー




「ねぇアピク、その林檎食べていーいー?」
死鬼はソファに寝転がる。そして返答を聞く前に籠に入った林檎を手に取り一口齧る。
「聞くなら返答を待てよ...」
呆れつつももう慣れたかのような喋り方でアピクはワインをグラスに注ぐ。トクトクと注がれていく赤いワインをチキはじっと見つめていた。
「.....なんだバカ娘」
「な、何でもない...」
顔を背けるチキを見てアピクは見下すように笑い、グラスをチキの近くに置く。
「兄様のバカ!!私がお酒飲めないの知ってる癖にー!!!」
「何言ってんだか。お前が飲めないのって...」
「それ以上は言わないで!!バカ兄様ぁぁぁ!!!」
チキは顔を真っ赤にし、慌ててアピクの口を塞ぐ。その拍子にグラスが倒れ、チキとアピクの服に盛大にかかってしまう。
「.......バカ娘...この落とし前をどうつける?」
チキは大汗をかき、視線を必死に逸らす。
「はぁ...酔いが覚めた。おい糞野郎、バカ娘の服着替えさせとけよ。ソファなんかに色が移ったらたまったもんじゃない」
そう言ってポケットから取り出した煙草に火をつける。
「んむ?もう行くの?もう少しゆっくりしてけばいいのにー」
ゴロゴロと寝転がり次々と林檎を食べていく死鬼を見て、アピクは幾分かの苛立ちを覚える。
「ここは俺の屋敷だっていうことを忘れてんじゃないだろうな。くつろぎすぎなんだよ!」
死鬼は靴を脱ぎ、三個目の林檎をかじる。
「今迄あんまり来てなかったしいいじゃんいいじゃん。それと僕あんまり林檎好きじゃないんだよね、梨の方が好き」
「じゃあ食うな!!」
そうつっこんで、アピクは部屋を後にした。
「はーぁ。チキちゃん、着替えてきていいよー。僕覗いたりなんてしないから」
死鬼がパチンと指を鳴らすと、どこからか服が飛び出てくる。最後の言葉で一気に不信感が募るが、その服を手に取りチキも別室に移動した。
しんとなった部屋で一人、死鬼はしゃくしゃくと林檎を食べ続ける。

...マスター、コハルのいない世界はそんなに変わらない。どこかで既に死んでいていつしか本当の別れが来ることが分かっていたからか。それでも何か穴がポッカリと空いたような感覚がずっと続いている。
今迄沢山の死を見てきても、こんな感覚は初めてだった。

林檎を全て口に入れ、ぴょこんとへたを口から出す。

でも、こんな気分も悪くない。好きな人をこの身に取り入れられない事が、こんなにも虚無になるなんて。でも、この穴はどうしようか。空きっぱなしの穴ってのも嫌だしね。

まぁ当然だろうけど埋めちゃえばいいんだよね。
さて...時が来たら穴を埋めようか。
その時まで我慢我慢っと。いやぁ、僕ってば昔は結構な女たらしだったんだろうなぁ。
ま、そんな昔のことはどうでもいっか。


「死鬼さん?」
チキがボーッとしていた死鬼の顔を覗き込む。
「あ、着替えたの?似合ってるー!」
林檎を飲みこみ、身体を起こす。
少しヒラヒラした白いスカートにぴっちりとなっている赤い服、全体的に色はシンプルにまとまった感じだった。...色は。
「あ、あの...上がピチピチ...」
「ごめんごめん。わざとサイズ小さめにしてたんだよ」
たははと笑いながらパチンと再び指を鳴らしサイズを一回り大きくする。
「わざとってなんですかわざとって...」
チキはまた不信感を募らせるが、当の本人には全く悪意がない。
「あはは、そんな変に思わないでよー」
「じゃあ変に思われるような事しないでくださいよ!」
とチキは頬を膨らます。ヘラヘラとした態度はいつもの事だ。

けれど少しだけ違和感を覚えた。笑顔に影がある。きっとコハルさんの事でだろう、とチキは一歩死鬼に近づく。
「...死鬼さん、あの...その...私でいいなら愚痴とかこぼしてもいいんですよ!私力とか受け取ってばかりだから...何か返したくて...」
死鬼はポカンとした表情になる。数秒の間の後急にチキを抱き締める。
「そんな事言われるとは思わなかったなー...それだけでも嬉しいんだけど、ちょっと欲張っちゃおうかな」

どんどん締める力を強くする。

「んー...なんて言えばいいかな」

爪を立て、骨まで折ってしまいそうな勢いで締めつけていく。

「ち、ちょっと死鬼さん痛っ...」

最初の内は何とも思っていなかったチキもだんだんと苦悶の表情になっていく。

「うん!決めた」
死鬼は満面の笑みで魔法陣からナイフのようなものを取り出す。

「とりあえず...少しだけ頂戴?」




僕がまともな答え出すわけないでしょ?
なんたって僕は異端だからね!

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.104 )
日時: 2017/06/09 03:45
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

...けどね、まだ熟してない。林檎だって苺だって、真っ赤に熟れた方が美味しいでしょ?

「なんちゃって。びっくりしたぁ?」
ぱっと手を離し、変わらぬヘラヘラした態度でナイフのようなものを振り回す。
「...は?」
チキは呆然とした。ナイフもよく見れば刃の部分がプラスチックで出来ており、カシャカシャと引っ込むタイプのおもちゃだった。
「あははははは!顔真っ赤!びっくりした??したよねー!」
死鬼は腹を抱えジタバタと大笑いをする。チキにふつふつと怒りがこみ上げてくる。血管が切れてぴゅうぴゅうと血が出そうなくらいに。気がつけば右手を力強く握りしめていた。
「...すみません死鬼さん、一回だけ殴らせてください」
それなりに力のついた拳で思いきり死鬼を殴る。頬が真っ赤になり、涙目になったのを確認する。

あぁ、ものすごくスッキリした。

チキは自身に花でも咲かせるかのような笑顔で死鬼を見る。

「いったたた...うぅ、酷いよチキちゃん!少しからかっただけじゃんかー!」
「からかい方がおかしいんですよ!なんですか頂戴って!!本当に怖かったんですからね!?」
怖かった、とチキに言われ死鬼はへたりとその場に座り込み顔を俯かせる。少し言いすぎたかな?と少し言葉に詰まりながら触れようとした。
「...うん、わかった!」
唐突に死鬼は顔を上げ、チキはビクッと身体を後ろに仰け反らせる。
「チキちゃんは優しすぎるんだよ。だって僕をなんにも疑ってないじゃん!」
影のない笑顔でチキを掴む。
「僕言ったよね?もう嘘はつかないって、だからそれまでの僕は嘘で塗り固められてたんだよ!それでもチキちゃんは僕に変わらず接してくれる!」
空を仰ぐように顔を上げ、笑顔を崩さずに口を動かす。ただしその笑顔は狂気に満ちているが。
「チキちゃんは優しい!それ故に異端という境遇にいればその優しさの手を差し伸べる!!」
「死...死鬼さ...」
「けどねチキちゃん!その優しさは身を滅ぼす事になる!素性も知らぬ僕に優しさの手を差し伸べたせいで!君は自分の身体を削る事になる!!」
今までにない狂い方でチキの身体を凍りつかせる。
「な...じゃあ...なんで協力してくれ...」
「協力?.....あぁ、術とかそんなの?残念!それは僕の趣味だよ。協力するなんて誰が言ったの?」
歯がカチカチと音を立てるほど震えているのがわかる。肩を握られているだけなのに全身が鎖で締め付けられたように動かない。
「レイシャとロジスタに愛されて育ったから分かんなかったんだろうけど、僕達は目的が違うからね。ただ同じ敵だから、ただ選ばれた四人だから会話を介し戦っているだけ!何も協力してるわけじゃない!」
「っ...!」
とうとう声すら出なくなる。
「きっと昔の僕は凄くおかしかっただったんだろうね、こんな事でしか楽しいと思えないや!恐怖や絶望に侵された顔が!たまらなく好きだよ!!」
ハアハアと息遣いを荒くし死鬼は肩を外すくらいの力で恐怖を与える。チキは恐怖をねじ伏せるようにして声を出す。
「...死鬼さんのバカ...!どうしようもないバカですね!!」

"血醒月光・槍雨"

「うぇ!?こんな所で新技使っちゃうの!?」
死鬼は驚き肩から手を離す。その隙にチキは間合いを取り、槍の雨を死鬼目掛けて降らす。砂煙が舞い上がり、視界が一気に悪くなる。
とりあえず、一本でも刺さってるといいのだが。
「...うん、いいんじゃない?所で誰に向けたの?」
その期待は瞬時に裏切られる。
隣に当然のようにして座っている。チキは固まり死鬼はけたけたと笑う。
「あはは、僕を甘く見てもらっては困るなぁ。僕これでも強いんだぞー?」
「.....!!」
「さーて、僕眠たくなったから寝ようかなー!...あ、これだけは言っとこ」
死鬼は思い出したかのようにチキの方を向く。さっきの影はないが狂った笑みではなく、影があっても普段の笑みで話しかける。
「僕ね、協力するとは言っていないから今言おうかな?チキちゃん、君に暫く協力するよ。暫くがどれだけかは内緒だけど。後...変な事言ってごめんね?けど僕の身体に染みついた性格なんてのは記憶なくなっても消えないから、許してとは言わないよ」
死鬼はそう言い終えると大あくびをし、ソファに寝転がり目を閉じる。
チキは複雑な心境でその場に立っていた。





...僕ってば、屑だなぁ。あんな綺麗な異端いないのに。むしろ人間の方が汚れてんじゃない?そう言えばロジスタから言付け頼まれてたな、なんだっけ。まぁいっか。死人に口無し!
またあの顔が見たいなぁ。絶望と恐怖に支配されちゃった顔。次はあれかな、ーーー時かな?あ、ーーする前かもしれない。でもチキちゃんはもう僕を信用しないかも。うーん、困るなぁ。ま、″優しさ″にかけてみようかな。

そうすれば、熟れるまで待つ事が出来るから。

おっと、僕の本性が見え隠れ...隠れてないか。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.105 )
日時: 2017/06/10 11:51
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

この世はつまらない事だらけ。
いや、もしかすれば一度死に吸血鬼として生き返ったせいでとてもつまらなく見えるだけかもしれない。
死ぬ前はあんなに輝いていた世界も今は少しも輝かない。だから少しでも輝かないかと、やりたい事をやった。人を殺め魔術を創り...とにかくやりたい放題さ。私を生き返らせたと言っていた奴なんてすぐに死んじゃったよ、何も遺さずにね。
それでも世界は輝かない。死で輝く事はないということを知ったのはつい最近、この戦争に参加したから。

まぁ、変な話だよね。

戦争となる原因が今迄参加していなかったんだから。







ガシャン

また水晶玉の割れる音。机からコロコロと転がり落ちて割れる水晶玉たちは、元の姿に戻ることなく破片となって地に伏せる。
「そろそろ中間地点かな。大体素を出してきてる」
ルナテは煙草を口にくわえ火をつける。そしてまた一つ、水晶玉は音を立てて破片となる。
「問題は混血児だな。まだ中途半端だよ。ねぇノウラ?」
『!!...え、えぇ。そうね...』
明らかに挙動不審になるノウラを見て、ルナテは口元を歪ませる。
「せいぜい私の期待を裏切らないようにしてくれるかい?変わりはいるけど見つけるのが面倒くさいんだから」
『で...でも、もう...私は...』
ノウラは暗い顔で俯く。ずっと好きだった人にああいう事を言われれば簡単に立ち直る事は難しい。涙をこぼし、マフラーで涙を拭う。
「そっか...折角直したのにな。君のご飯美味しかったよ」
ルナテはノウラの頭を撫で、耳元でそう囁く。
『え?それって...』
「もう眠っていいよ、起きなくていい」
そう言って首元の糸を切る。魔力で出来たその糸はルナテの指に溶け込みするすると引っ張られていく。
「そうだねぇ、ノウラ。君にちょっとした言葉でも贈ろうかな

″愛に歪められた心というモノは否定という器に入れられると簡単に壊れる″

なんてね。今まで御苦労様、もう少し使いたかったな」
糸が全てルナテの中に戻されると、ノウラは塵になって消えていく。最期の表情は唯々悲しみに満ちていた。
「はぁ。予想外だったな、心なんてあったのか...いや、ノウラの場合ちょっと違ったかな」
煙草を捨て、また水晶玉を割る。その水晶玉は破片になることなく塵となって消えていく。この水晶玉が何を意味するのか、それはルナテにしか分からない。

コンコンと扉をノックする音、そしてカチャリ、とドアを開けクトは顔を覗かせる。
「...おか.....く...さ...ん」
あぁ″お客さん″か、と一瞬だけ考えた後、入れと促す。
「なーんだ。意外と早く来たんだね」
じっと睨むように目線を逸らさずアピクは部屋に入る。
「嫌だな、そんなに睨まないでくれるかい?君が知りたいって思ってるんじゃないか」
「黙れ」
そう言うと同時にアピクはルナテを押し倒し馬乗りになって首を絞めようと手をかける。
「...思ってる事とやってる事が矛盾してるんじゃないか?君は魔術が使えない原因が今一番知りたいんじゃないのかい?」
「...っやっぱりお前か」
首から手を離すが馬乗りの状態から動かない。
「私以外に誰がいると思う?あの精霊?あの混血児?それとも...フフッ」
高笑いをし、神経を逆なでする。アピクは歯軋りをして床を殴りつける。
「キャハハハハハ!!君は混血児に入れ込みすぎだよ!そんなだから脆くなってってる、私は前の君の方が好きだったよ?」
ルナテは上半身だけを起こし、顔を近づける。煙草よりきつい血の臭いが鼻を刺激した。
「殺戮と実験を好む君はどこにいったんだい?今じゃ自分の過去と混血児に囚われて。面白味のない」
「...!」
「私の暇が潰れるかは君達がどんな行動を起こすかにもよるんだよ。何か起こしてくれないか?例えば...アンナを殺してしまうとか」

ーールナテを殺したい程怒りが感情を支配していく。こいつにとっては何もかもが暇つぶしの一端に過ぎない。ただ怒りを露わにすればする程ルナテを楽しませているのは間違いない。
「フッ...フフ...ハハハハハ!!ハハハハハハハハ!!」
部屋中にルナテの笑声が響き渡る。
「君には一発殴る事も出来ないのかい?やっぱりつまんないや。私じゃなくて床を殴るなんて。どうだい?死ぬ事なんてないんだからやってみればいいじゃない」
そう笑顔を歪ませるて言うと、アピクは鎌に手をかける。
そして間を置かずにルナテの頭と身体を切り離す。
血の代わりに蝙蝠が吹き出した。小さな頭ではなく身体が全て蝙蝠になり、頭と繋がっていく。
「うん...うん。ほんの少しだけ私の期待を裏切ってくれたね、いい意味でだよ?」
チッと舌打ちをし、イライラの感情を抑え込む。
本当に死ねばどれだけ気が晴れたか。
「...で、魔術が使えないからどうにかしろって事だろう?」
ルナテはテーブルにばらまかれた紙を纏め、一枚アピクに渡す。

″魔繰病″

「それが何の条件で発生するのかもどうやって治療するのかも全て私が知っている、それじゃ私の言いたい事はわかるかい?」
「...何かに協力しろと?」
「そ。実はさっきノウラが消えちゃってね?代わりを探してきて欲しいのさ」
消えちゃった、と他人事のように話しているがあんなのが簡単に消えるはずがない。どうせ棄てたんだろうと思いつつ話を聞く。
「一般人じゃ面白味がない。ただの人間なら酷い願いを持っている者にすることだね、聖戦士なら誰でもいい。そういうのは大抵願いを持っているもんだから」
紙で口元を押さえる。口元が隠れていようがその狂いに狂った笑顔は隠すことが出来ないが。
「さ、知りたきゃ働け。物事には対価がつきものだよ?少しだけ魔術を使えるようにしといたからさ」
アピクはルナテを睨み続けながら魔扉を開く。

「...聖の力が残ってたとすれば今すぐにでもお前を殺したい気分だ」

「フフッ、つまらないけど面白い奴だね君は」

バタンと扉が閉まり、しんとした部屋に戻る。
ギシ、と音のなる椅子に腰掛け、煙草に火をつける。

やはり最高だ。
弱みに漬け込んで使役するというのは。
今まで沢山の人間の弱みを見つけては漬け込んで使役し要らなくなったら棄ててきた。私と関わった人間は存在がもれなく空想のものと化す。
さて...その棄てた人間達は私が死ぬのを地面の下で待ち続けているのだろうね。
けど私はまだ死なないよ、やりたい事は増えていくばかりだから。
冷たい地面の中で永遠にその時を待っているといい。

歪みきってる?...私がこうも歪んだのはこの世界がオカシイからさ。一回死ねば十分なのに誰かさんに生き返らせられたせいでね。

あぁ、この世は面白おかしい事ばっかりだ!

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.106 )
日時: 2017/06/11 02:52
名前: そーれんか (ID: qESkNdgF)

教会のすぐ近く。異端がこんな近くにいるのにガバガバね、と思いながらジンリンはのんびりと屋敷に帰るその途中、見慣れた人影が近くを通り過ぎる。
気がついていないのかしら?

しょうがないわねぇ。

「〜〜〜、アーピークー!」
ジンリンはギュっと後ろから抱きつく。
当然アピクは全身鳥肌がたち、声にならない叫びをあげてジンリンの頭を掴む。
「.....この変態が...」
「〜〜〜!貴方に変態と言われるなら本望よ?」
アピクはまるでゴミを見るような哀れな視線をジンリンに向ける。
「〜〜〜!!きゃっ!いいわその視線!今度もっとじっくり向けて頂戴!!...で、何してたの?」
唐突に話を変えるジンリンに少し戸惑うが、アピクはいつもの如くため息をついて視線を教会の広場に移す。聖戦士達が何が広場に集まって話し込んでいる姿がよく見えた。
「何をしようが俺の勝手だろ、なんでお前こそいるんだよ。あのバカメイドは?」
「私?ちょっと喧嘩仲裁して帰る所よ。ミサちゃんとスオちゃんは帰らせてる所。何だかんだ言ってアピクも結構気に入ってるんでしょ?あの三人」
アピクは少し驚き、ジンリンの方を向く。それは図星か、それともバカバカしい方か。何方かと言えば、図星の方に入るのかもしれない。
「...案外あいつらが最後に生き残りそうだしな」
「〜〜〜。じゃあ今やってる事もチキちゃんの為?」
率直に聞かれアピクは思わず吹き出す。こいつ、心でも読めるんじゃないのか?なんて思いながらまたため息をつく。
「...大部分は俺の為だ」
「ふーん。そう」
ジンリンはニヤニヤと笑い、アピクは無理矢理ジンリンから目を逸らすようにして広場の方に目を向ける。


ゴーン ゴーン


教会の鐘の音が辺り一帯に重く響き渡る。二人はこの不快な音を間近で聴き、考えるより先に耳を手で塞いでいた。だが、塞いでいても聴こえるものは聴こえてしまう。ジンリンは滅多に見せぬ涙を浮かべ、苦悶の表情を見せる。
「あ、あ、あーー!!」
まるで頭を中から食い破られるような痛みが二人を襲う。その場を離れようにも思考が完全に停止し、身体も言うことを聞かない。ただしゃがみこんで鐘の音が鳴り止むのを待つしか無かった。

「止ま.....った?」
二分程なり続けた鐘の音がようやく鳴り止む。ポロポロと涙をこぼしていたジンリンは涙を拭い、よろめきながらも立ち上がる。
「あぁ...やっぱりあの音嫌だわ。死んだ方がマシなくらいになってくる」
アピクも口を腕で押さえて立ち上がる。途端に咳をし、少し血が出たのか口元は拭いきれなかった少しの血が伸びていた。
「...あぁ、あんな鐘壊してしまいたいのに触れる手は人間ですら弾かれる。俺達なら跡形もなく消えるだろうな」
はん、と睨みつけるように大きな鐘を見る。

あの鐘は神が造ったとされる。だからいくら神に近い存在だとしても触れる事は不可能。現に触ろうとした者は大抵死ぬか大怪我をして地に落ちる。
神がこの世界を創ったのはいつか、そんな事はどうでもいい。ただ、この世界が狂いはじめたのは何時だろうか。きっとそれは誰にもわからない。神のみぞ知る、だ。

「〜〜〜、アピク!誰か向かってきてるわよ!」
ジンリンの言葉で我に返る。聖戦士の一人が写真を見ながら向かってくる。どうやらまだこちらには気がついていない様だった。

「...リーベ、待っててね。私の愛する娘...今日の戦いが終わったら...新しいぬいぐるみ買ってあげるから」

女の聖戦士は写真にキスをし、胸元のポケットにしまう。

「...運が悪かったな」
アピクは女の首に鎌をかける。
「魔術師...!?二体も...卑怯な...!」
「あら、数で押してるのはいつもどっちかしらね?」
ジンリンにそう言われ反論出来ずに女は下唇を噛む。
「...どうするの?寝かすの?首取るの?」
「別にあいつの元に連れて行けばいいだけだから少し気を失わせるだけでいい」
そ。と素っ気なく返事をし、女の額に指を突き立てる。長い爪が当たった後、女はその場に倒れ込む。
「〜〜〜。寝かせておいたから、起きないうちに運んでおきなさいよ。私はミサちゃん達の所に行くわね、じゃあねアピク。今度蔑んだ目で見てくれる事を期待しておくわ!」
最後は余計だ、と呆れつつ女を抱える。
さっきの言動から察するに娘がいるのだろう。何かが引っかかる。

娘を殺せば、その引っかかりも取れそうだが。

まぁいい。

他人の事なんて関係ない、人間の事なら尚更に。

抱える女の体温がとても暖かくて、冷たくなった自身の身体に染み渡っていき気分が悪かった。

もう温もりなんていらないよ。
どうせすぐ冷めるから。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。