二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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  ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転完了】
日時: 2013/04/04 01:11
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342

※ (紙ほか)での更新は終了いたしました。
  (映像)で、『  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ』として更新を続けておりますので
  上記参照よりお越しくださいませ。




【 目次 】      >>512
【 重要なお知らせ 】 >>707




 漆千音です。元Chessです。祝・改名一周年((詳しくは >>496



 これは『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』の小説バージョンです。
バージョンですが現在おりじなるわーるど全開です。
ゲーム内で腑に落ちなかった点を自分なりに修正しているうちにややこしくなって
結果ゲーム以上に腑に落ちない点が出てきているかもしれず——小説書きの才能ください←

 過去に間違えて「まもりぶと」って書いちゃって「守り太」とかに変換された守られたくねぇ的な
考えをしたのは後世まで残してやろう。((黙


裏話      >>574
裏話そのに   >>601




【 ヒストリー 】

  2010
8/30 更新開始
9/30 参照100突破に喜ぶ
11/15 十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
11/16 参照200突破に万歳する
12/7 参照300突破にガッツポーズする
12/13 ようやく返信100突破に浮かれる
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
1/27 参照600突破に調子に乗る
3/24 参照1000突破に踊る
3/25 返信300突破・サイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 返信500突破・サイドストーリー【 夢 】
8/11 teximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 フレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 目次編集。これで字数を500くらい減らしたぜ
    サイドストーリー【 僧侶 】
    時間についての説明をアップ >>639
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 サブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
10/30 >>3 メイン登場人物に編集しました。ネタバレはなし。
   &過去の自分の超絶関係ない話を削除。返信数にずれが生じていますがあしからず。
11/4 >>676 『未世界』の説明を掲載。
11/7 四人の超綿密設定掲載。初3000字越え。
12/8 漆千音&十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。未だ時々間違える。
12/9 レヴェリーさん初コメありがたや((←
12/16 重要なお知らせ掲載。詳しくは >>707 へ。

 2013
1/14 移転開始ー。ようやく編集終わった。
1/24 >>727 ⅩⅤ章登場人物紹介チェルスのみ編集。
1/25 >>590 ようやくサイストⅢの編集。マイレナの代わりにアーヴェイを関わらせてみた。
4/3  (映像)への移転終了! 今後の更新はあちらになります。(お知らせ参照)




 今までありがとうございました!
 今後もよろしくお願いいたします。

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Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.468 )
日時: 2011/09/04 21:59
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)

 駆け出したマルヴィナやキルガ、セリアスを、シェナはその背中を見ることとなっていた。
明らかに、駆け出すタイミングが遅かったのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
 行きたくない。走れない。でも、行かなければならない。

 そう、まだ、知られてはならない。

「ガナン? 何でこうもタイミングよく来るんだよ」
 セリアスがマルヴィナを追いながら悪態をつく。
「分からない」キルガが答えた。「もしかしたら、奴らも果実を探しているのかも——あっ!?」
 キルガの叫びに、マルヴィナが反応する。走る彼女が、誰かとぶつかりそうになったのだ——実際、
マルヴィナが反応した時には見事にぶつかったのだが。
「・・・また来たか・・・」
 マルヴィナの微妙な災難、である。


 マルヴィナはマルヴィナで。
その誰かとぶつかった時に見失ったガナンの気配に悪態をつきたい気持ちに陥りながらも、倒れた誰かに手を貸した。
「ごめん。大丈夫か?」
 誰か、青年は—それはあの族長の息子ナムジンだった—、差し出された手を素直に受け、礼を言いながら立ち上がる。
「あぁ、ありがとう。こちらこそ、不注意だった」
 答えを聞いて、マルヴィナは目をしばたたかせた。
ナムジンはその意味を察したのか、少し笑う。
「僕は族長の息子ナムジン。民族を治める立場である者、またはその一族は、
世界標準の言葉に合わせるのがしきたりなんだ」
「あぁ・・・そうなんだ。わたしはマルヴィナ、つい先ほどここを訪れた旅人だ。・・・」
 答えには納得しだが、何故かまだ拭えない違和感がある。何だ? 違う、今の答えじゃない。気になっているのは。
「ところで君たちは、族長に会いに来たんじゃないのかい? 父上は頑固なお人だ、
あなたたちだけで行けば追い返されるかもしれない」
 ちょうど僕も行くところだったんだ、歩きながらナムジンはそう言った。
要するに、問答無用でついて来い、ということだろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 唖然とするマルヴィナに、キルガがガナンは? と確認するように目配せする。マルヴィナはかぶりを振った。
そうか、と肩をすくめ・・・とりあえずついて行くかと、ナムジンの後ろを追う一行だった。



「・・・あいつ」
 だが、後ろで呟いたのは、セリアスだ。
「・・・・・・何者なんだ?」
 マルヴィナの前を歩く、ナムジンを見て。






 族長の包はやはりというかなんというか、なんだか圧倒されるような雰囲気を醸し出していた。
従者らしき遊牧民に珍しげな視線を送られ、四人はナムジンに言われるがまま中に入る——

 その時、再び、マルヴィナの中の邪悪を察知する何かが、危険信号を出した。

 いる。いる——近くに、この近くに。いや——


 ————中に?



「父上、お呼びでしょうか」
 ナムジンの声が聞こえる。が、そちらに集中できない。
この中にいるのは? キルガがいる、セリアスがいる、シェナがいる。
ナムジンが喋っている。
族長らしき厳つい顔つきの男が叱咤する。
それをなだめる、薄紫の法衣を纏った妖しい美人。
入り口に立つ、二人の従者——

 いる。この中に、ガナン帝国の者がいる——!




 マルヴィナが意識を完全に取り戻したのは、そのしばらくの後である。
族長とキルガが話している。どうやら相手は不機嫌なようだ。追い出したがっているのが見える。
「話すことはそれだけか」
 屈強な男、族長ラボルチュは低く重く、そう言った(マルヴィナに言わせれば唸った)。
どうやらキルガは果実の情報を聞き出してくれていたらしい。
駄目か、とキルガが諦め、呆けた顔つきのマルヴィナを見て、行こう、と声をかける、



 その一瞬前、












 ——住民の叫び声が、響いた。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.469 )
日時: 2011/09/12 21:42
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)

 顔をあげたのは、族長と隣の女以外の全員だった。
状況は例によって、住民たちが説明してくれる。

 [また]魔物が出た。



 彼らは、そう言った。

「また出たか、不届きものめ」ラボルチュは慌てず騒がず、同じいたずらを繰り返した子供をたしなめるような口調で
そう言った。「ナムジンよ、分かっているな。今度こそ魔物を斃し、族長の息子として見事手柄をたてよ!」
 だがナムジンは、オタオタし、見事手柄どころか見事震えていると言った方が正しい。
マルヴィナは少し眉をひそめる。“情けない”とか、“弱腰”だとか、そんなこと思っているわけじゃない。
ただ思っているのは、

 ———“何故”?



 遂に情けない悲鳴を上げ、机の下に隠れたナムジンに舌打ちし、ラボルチュは腰をあげる。
「何と不甲斐ない男よ。やはりこのオレがぶった斬ってくるしかなさそうだな」
 危険なやつだなぁ、とセリアスはこっそり思った。見てくれこそ闘匠ロウ・アドネスや
海賊クラウンに似ているものの、さすがにこういうタイプはシェナも好きにはなれないだろう、という感じである。
というかすでにシェナの眉が寄っている。
 ともかく、そのラボルチュが立ち上がり、立てかけられた槍に歩き出そうとする寸前、
「お待ちを、ラボルチュ様」声をかけたのは例の横の女である。
「・・・何だ、シャルマナ」
「あなたにもしものことがあれば誰がこの集落を導くのじゃ?」高飛車に、シャルマナと呼ばれた女は言う。
 その間にも、外では魔物を追っているのだろう、遊牧民たちの気合と空回りの声が聞こえる。
「奴の狙うは、ラボルチュ様でありましょう。——そうじゃ、お主ら。少しは腕がたつと見える。
代わりにこの集落を救ってはくれまいか?」
 明らかに、響きのよい言葉を使うことによってその気にさせようとしているのが分かる。
何かを企んでいる、四人はほぼ同時にそう思った。

 断るべきか。それとも——



「分かった」



 マルヴィナが、そう語った。

「・・・マルヴィナ?」
 何かを探るような、何かを見つけたような。そんな目。そんな、表情だった。
「ホホホ・・・それでは行ってたもれ」
 マルヴィナはその言葉の返答としてひと睨みし、颯爽と包を出る。




 さて、大騒ぎの遊牧民たちは。
「そっちに行っただ———!!」
「行かせるな——!!」
「道をふさぐだよ——!」
 つい先ほどまで使っていたのだろう、鍬やら鎌やら何かもうその辺にあるようなものとしか言いようのないものまで
手に持ち、足に持ち(?)、わやわや叫んでいる。絶対誰か楽しんでいるだろ、とキルガが呟いた。
見方によれば滅茶苦茶危険なスポーツである。
 ともかく、遊牧民たちが道をふさぐために移動してくれたおかげで、四人にもその噂の“魔物”が目に映るようになった。

「茶色の毛並みに、猿めいた動き、極めつけに、人を小馬鹿にしたような笑い方。マンドリルね。あれ」
 本来なら、ダーマ神殿やツォの浜があるアユルダーマ島に生息するはずのマンドリルである。
それは説明したシェナ以外三人にも分かったが。
「人を小馬鹿にしたって・・・」
「した[ような]ね。間違ってないじゃない」
「まぁ、合っているとも言い難いけれどね」
 こんな時にもやはりのんびり話してしまう。出会った頃、まだお互いの戦闘能力をあまり知れていなかった頃。
あの時は、相手が何をするのか、自分がどうすべきなのかが分からなくて、魔物と仲間と自分、
全てに気を配らねばならなかったというのに。今は分かる。決して誰も動かない。誰も討伐しに行こうなどとは思わない。

 何故なら。

「何やってるだ!」
「逃がしただ」
「分かっとるわい!」
 説明癖でもあんのかしら、とシェナ。
遊牧民たちの間を器用にすり抜けたマンドリルは、そのまま四人のいる方向、即ち族長の包目掛けて走り寄る。
もちろん、誰も動かないし、武器すら手にしない。
 マルヴィナは突進するマンドリルを見る——目が、合った。マンドリルの動きが止まる。
「・・・駄目だよ、そんなんじゃ」
 マルヴィナは、諭すように、ゆっくりと呟くように語った。
遊牧民の、誰にも聞こえない声で。
「先にお前がやられてしまう。あんただけじゃ、[あいつ]に返り討ちにあうだけだ」
 どれくらい、見つめあっただろうか。マンドリルは体勢を低くする。邪魔するなら容赦しない、そう言うように。
だが——その瞳は、マルヴィナの眼は、静かで、有無を言わさぬそれだった。

「・・・ぐぎっ」

 マンドリルは、声を荒げる。が——それだけで、後、集落の外へ駆けて行ってしまった。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.470 )
日時: 2011/09/21 18:31
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)

 なかなかやりおるわと、何処か苦々しげにラボルチュは言った。
シャルマナは口元を覆う薄布の下で、妖しく笑う。
「見どころのある戦士が紛れ込んできたではありませぬか。あ奴らは利用価値がありそうじゃ」
「なんだと?」族長は意味が分からず、尋ねる。
「奴らに、ナムジンさまの手助けをさせるのです」さも当然のことのように、シャルマナは言う。
 机を、否、正確にはその下を見る。未だがくがく震え続けるナムジンの姿があった。
「・・・奴らを使い、魔獣討伐を手伝わせるのです。もちろん、止めはナムジン様に」
「成程」ラボルチュは溜め息をつく。「だが、どうやって言い包めるのだ」
「そういえば、奴らは“黄金の果実”とやらを探し求めている様子。成功した暁には
それを探すことに協力するとでも言っておけばよいのです」
「そうか」ラボルチュは頷く。確かにあの四人は—内一人、黒髪(正確には闇髪)の女はどこか呆けていたような気がするが—
真っ先に珍しい果実を見なかったかと聞いてきた。

 使えるかもしれぬ——

 ラボルチュは満足げに頷いた。
しかしまぁ、よくそんなことが思いついたものだ。
なんだか最近、そう思うことが増えてきたような気がする。
 ・・・自分の意見を、言ったことはあっただろうか?
・・・忘れてしまったような気がする。



 マルヴィナたちが包に戻った時。
「うあああ、放せ、た、助けてくれシャルマナ——!?」
 ・・・ちょうど、二人の男にがっちり羽交い絞めにされ外に連れ出されるナムジンとすれ違う。
「・・・何か大変そうだな」
「新手の誘拐かしら。中で族長が案外ぐるぐる巻きにされていたり」
 そろってボケてみるキルガとシェナに苦笑して、セリアスは一応訂正しておく。
「二人とも従者だよな。ついに実力行使に出たってところか」
 これから魔物討伐に向かうであろうナムジンと従者を今は無視し、四人は包に入る。
「・・・さっきと違う」
 マルヴィナのその呟きは、幕を上げる音に紛れて、誰にも聞こえなかった。








 宿屋の中で、セリアスは今度は憤慨していた。
「触ると火傷しそうね」
 シェナはそう言って、皮袋の中身を全て出し、裏返して干した。
「まぁ、確かに・・・果実をいいように使われているからな」
 キルガは残りの食料と財布の事情を確認しつつ答えた。
 先ほど、四人が戻ってきたいなや、今度は族長はナムジンの手助けを要求してきた。
魔物討伐。止めはナムジンに刺させること。報酬は、女神の果実探し。
 ナムジンは明日早朝、集落を出、北の『狩人の包』へ向かうらしい。
それまではゆっくり休むようにと、用意されたのがこの宿屋であった。
「果実はこの集落付近には落ちてこなかったと判断していいと思うわ。適当にこの依頼、断った方がいいんじゃないかしら」
「いい」シェナの発言を、マルヴィナが即答で拒否した。
 シェナは目をしばたたかせ、どうしたの? と尋ねる。
さっきからマルヴィナの口数が少ないように思えたのである。
「・・・わたしは」
 マルヴィナは、呟く。
「・・・・・わたしは、果実がここにあったと思っている」
 その発言に、シェナと、不機嫌だったセリアスが同時に短い驚愕の声をあげる。
「マルヴィナもか」キルガも続く。「実は僕も、薄々そうじゃないかと感じていたんだ」
「・・・根拠は?」まさかの賛成意見に、つい尋ねる。
「「勘」」
「・・・何完璧にハモってんのよ」
 マルヴィナはシェナのツッコミに苦笑しつつ、そうとしか言えない、と曖昧に答えた。
 あきらめたように肩をすくめ、セリアスは仰向けになり、シェナはキルガの作業を手伝い始める。
その手を止め、シェナは「まさか」と一言言った。
「・・・ナムジンが果実を喰らった可能性がある——とか、言い出さないわよね?」
「え?」キルガが顔をあげ、呆けた表情を作る。
違うの? と首を傾げるシェナ。
「だって、そう思っているから、マルヴィナ、あんなこと言ったんじゃないの?」
「どんなこと?」
「だから、さっき言っていたじゃない」
 族長の包を出る前に、マルヴィナが彼らに向けて言った言葉——


『父親なら、もっとナムジンのことを見てあげるといいよ。理解してやるんじゃなくてね』


——「あれって、そういう意味で言ったんじゃないの?」
「あぁ」マルヴィナは理解したように、だが首を振る。
「違うよ。単純に、ナムジンの実力のことを話しただけだ」
「そう。ちょっち残念」
「残念て・・・何を期待していたんだ・・・?」
 セリアスの呟きに、緊張気味だった空間が少しだけ緩む。
少しだけ笑った後、マルヴィナは微笑んだまま「とにかく」そう言う。
「明日、はっきりさせられるところをはっきりさせよう。まずはそれからだな」
「了解」キルガがいい、セリアスも頷き、シェナは笑った。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.471 )
日時: 2011/09/25 17:18
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)

 マルヴィナは同日、深夜になりかけたその頃に一度宿を出た。
もちろん、アイリスの言う『もう一人の同胞』——マラミアを探すためだ。
草原の民たちの習慣は規則正しいらしく、この時間に外をうろつくものなどはいない。
だから、人気のないこの場所でその人物を探すのは簡単だろうと思っていた、が、しばらく歩き回って探してみても、
一向に見つからないのである。
(・・・っかしいなぁ。確かに、ここのはずなのに・・・)
 本当に、何者なのだろう。どうして、わたしのことを知っている?
でも、やはり——自分の存在の方が、分からない。



 わたしは一体何なんだ?



 考えるたびに、平静でいられなくなる。腕が震える。怯えているのだ。
今まで、滅多に怯えなかった自分が——最近、度々何かに恐怖を覚えている。
 自分の存在が怖かった。自分は本当は天使ではないのかもしれない。アイリスと同じ種類なのかもしれない、否、
もしかしたら、魔物であるかもしれないのだ。自分が幾度も葬ってきたものの、仲間かもしれない。
もし、そうだったら。そうだったとき、わたしは——・・・





「・・・・・・・・・・・・は」





 自嘲気味に、短く笑い飛ばした。
そんなはずがない。もしそうだったら、世の中から邪悪とされているものの気配を
こんなに敏感に感じ取れるはずがないじゃないか。
 ・・・そう、もしそうなら、真っ先に自分の邪悪に気付くだろう?
何を怯えているんだ。わたしはわたしじゃないか。

(・・・疲れているな。相当)

 弱気でいるわけにはいかない。マルヴィナはかぶりを振る。目的は明日に回し、宿へ戻ろうと、踵を返しかけた




 その時、




「————————————————————————っ!!?」




 後ろから突如現れた気配に、口を塞がれた。

(・・・・・・・・・っ、く、あぁっ!?)
 触れられるだけで、激しい脱力感に襲われる。
(ま・・・魔物かっ・・・!?)
 振りほどこうにも、身体が消耗しかかって、思うように力が入らない。必死に、後ろのその正体を探る。
が、先に、その声によって、正体を知らされる。
「ほほ・・・そんなに抵抗するでない。ちと、尋ねたいことがあっての」
 高飛車な口調、艶っぽい声色。魔物じゃない。シャルマナだ。マルヴィナは目つきを険しくし、必死に睨みつける。
「大声を出さないことじゃ。・・・わらわとて、考えがあるからの」
 シャルマナの標的がマルヴィナか、あるいは仲間たちに向かっていることが、その口調から分かった。
 口を塞いでいた手が、マルヴィナの首を絞める格好になる。悔しかったが、言うことに従った。
「・・・そなた、黄金の果実を求め、この地に参ったと言うたな。それは何故じゃ?」
「・・・・・・・っ」マルヴィナは唇をかみしめ、努めて冷静に答える。「・・・大事なものだからだ」
 首にかかる力が増した。マルヴィナは声を上げず喘ぐ。
「問いの意味を理解しておらぬのか?
そんな答えを欲しているのではない・・・まだ何か、隠されし秘密があるのであろう」
 やはりそうだ、と思った。シャルマナは、女神の果実の情報を欲している!
マルヴィナは薄れゆく意識の中で、必死に考えを巡らせた。
「その果実を探さねばならぬ理由はなんじゃ?」
 なるべく情報を漏らさず、諦めさせるだけの納得できる情報。それは、一つしかなかった。
「・・・・・あれは」
 マルヴィナは潰れかけた声で言う。
「・・・[手にした者の]身体を、破壊する」
 シャルマナの腕の力が、若干緩いだ。
「己の欲望と邪悪に蝕まれ・・・全てを意思から離してしまうもの」
 間違いではなかった。実際、果実を喰らったものは、皆そうなってきたのだ。
だが、それを知らない者にとっては、脅しの台詞としては大いに有効だった。
 呆けたようにシャルマナの動きが止まる。今なら抜け出せそうだった。だが、マルヴィナは、
もう既に意識が無くなり始めていた。ほとんど足に力が入っていない。
 と、急にその腕が離れる。マルヴィナはそれと同時に、前のめりに倒れた。視界がぼやけている。

 まずい。


 今、気を失うわけには、 いか  な     ———・・・

















 目の前が、暗くなる。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.472 )
日時: 2011/10/11 21:31
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: Xn5/gwB3)

 キルガが戻ってきた。
「・・・どうだったんだ?」
 セリアスが尋ねる。
「あぁ、気を失っているみたいだ。シェナが言うには・・・魔法的な力で、強制的に」
「そっか」
 セリアスは溜め息をついた。


 昨夜、例によって寝つけなかったキルガは、いつものように外の空気を吸いに外へ出たのだった。
そこで驚いたのは、その目の前に、無造作に置いて行かれたように倒れているマルヴィナがいたことだった。
ますます目が覚めてしまったキルガは、容体を確認し、宿へ運んだのであった。
「お姫様抱っこでもしたの?」
「なッ!!?」
 朝、その話をしたシェナにはそう言われたが。

 とりあえずマルヴィナをシェナに任せ、彼らは出発を後らせた。
もとから今回の依頼は気の進むものではなかったし、全員一致の意見の結果であった。
そして、セリアスに様子を報告しに戻ってきた——それが今の状況である。
「何かマルヴィナって、狙われやすいよなぁ」
 セリアスがぽつんと言う。「人間にも、魔物にもさ」
「今回は意図的にマルヴィナを狙ったものだろう」キルガも言う。「・・・あまり歓迎されていないようだ」
「・・・悔しいか?」
 セリアスは静かに、そう言った。
キルガは訝しげにそちらを向く。
「好きな奴が、何度も危険な目にあわされている・・・悔しいか?」
「・・・・・・」
 キルガは黙りこむ。数秒考えて——答える。
「悔しくはない」
 目線を上げて、もう一言。
「——許せない」
 セリアスはその反応を聴いて、安心したように笑う。
「・・・でも、この感情は、マルヴィナだけじゃない。誰であっても、許せなかっただろう」
「・・・よし」
 満足げに頷くセリアスを見て、試されたのだろうかと、少しだけ首を傾げた。
「・・・でさ、キルガ」
「ん?」
「いつ告るんだ?」
 いきなりさらりと言われた言葉に、ついキルガは吹き出してしまった。
「なな、何をいきなり——」
「いつなんだ?」
 冗談を——そう続けようとした言葉は、セリアスの再びのその言葉に遮られる。気付いた。冗談ではない。
背を向けられてよくは分からないが、表情は茶化してはいないだろう。真剣に、真面目に言っているのだ。
「・・・い、いつって」
 重い沈黙が辺りを支配する。答えは出てこなかった。
あまりにも長すぎたので、セリアスは長いため息をひとつつくと、口を開いた。
「・・・いつまでも待ってくれると思うなよ。今のままじゃ、マルヴィナ、どんどん遠ざかっていっちまうぜ?」
「・・・ちょっと待て。何でセリアスまで同じことを言う!?」
「ん?」
 セリアスはまさかのそんな反応に振り返った。目が「何のことだ?」と言っている。
「スカリオと大体同じことを言っている・・・」   (>>255参照)
「はぁ!? 俺があの変態野郎と!?」
 最初は思いきり嫌そうな顔をしたセリアスだが、しばらくして、まぁ、仕方ないかと、再び溜め息をついた。
「言われても仕方ないことだしな」
 どうやら原因がやはりキルガにあるかららしい。
「・・・確かに俺だって、今すぐ言って来いなんて言えないけどさ。・・・お前、早く想っていること
伝えなきゃ、マルヴィナはどんどん違う方向を見て行っちまう。あいつは、そう言う奴だ」
 キルガは黙った。今度は、本当に悔しかった。

 ・・・マルヴィナが好き。その気持ちは、本物だ。嘘も偽りもない、どんなことを言われようが変わらない想い。
だが——[それだけ]のような気がしてならないのだ。

 僕は、マルヴィナの、何を知っている?

 スカリオからも、セリアスからも言われた。キルガの気付いていなかった、マルヴィナの性格。
知らなかったこと、だが、傍から見れば分かりやすいこと——それに気付けない自分。
 何故気付けない?
 何故分からない?


 彼女のことを知らなさすぎているのに、好きになって良いのだろうか。


「———————————————————・・・」
 分からない。
人の感情には、鋭い方だと思う。けれど——自分の感情は、何一つ分からない。
そんなのでいいのだろうか。
 このままで、いいのだろうか——






「ふたりともっ!!」





 いきなり、幕がばさりと音を立ててあがる。驚いてそこを見ると、なんと起き上がったマルヴィナが立っていた。
後ろにシェナもいる。どこか呆れたような、安心したような、微妙な表情で。
「ま、マルヴィナ。大丈夫なのか!?」
「問題ない、心配感謝する! それより、」
 あまり感謝していないような口調できっぱり言い切る。どうやら用事の方が格段に重要らしい。
「時間がない。わたしが無駄にしてしまったんだ、取り返さないといけない。今すぐナムジンのところへ行く!」
 今すぐ、の言葉に二人は同時に硬直する。
「・・・ちょっと待て、なんでそんなに」
「待てない。・・・あぁあ、もう結論から言う。わたしたちはハメられたんだ、今すぐここを出てナムジンを追う!」
 今度はシェナまでも硬直した。が、わけが分からないなりにも、三人は急ぎ出立の準備を始めた。
「嫌な予感がするんだ」マルヴィナはうずうずしながら言う。どうやら本当に回復しているらしい。
「気にかけすぎてるだけじゃないの?」シェナは言うが。
「わたしの嫌な予感が外れたことがあるかっ?」
「・・・・・・・ないわね。いいわ、行きながらちゃんと話してよね」
 分かっている。言い切るマルヴィナの、決意するような横顔を見てから、キルガはそっと目を伏せた。


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