BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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ゆり二次・創作短編集【GL・百合】(更新終了)
日時: 2017/05/09 18:32
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: MbxSjGAk)

参照、ありがとうございます。あるまです。

BLではなくGLです。百合作品というやつです。

2013年10月から2017年5月まで書いてきた、好きなアニメの二次創作です。

いちおう作者の本気度はそれなりに高いはずなので、お暇でしたら見てやってください。

よろしくお願いします!


___目次___
『ゆるゆり』 千夏×あかり >>01
『ひだまりスケッチ』 なずな×乃梨 >>03
『ゆゆ式』 ゆい×ゆず子×ゆかり >>11
『スイートプリキュア』 響×奏 >>13
『キルミーベイベー』 やすな×ソーニャ >>18
『らき☆すた』 かがみ×こなた >>21
『のんのんびより』 蛍×小鞠 >>24 >>25
『恋愛ラボ』 夏緒×莉子 >>31
『ヤマノススメ』あおい×ひなた >>37 >>38
『中二病でも恋がしたい!』丹生谷×凸守 >>41 >>42
『ご注文はうさぎですか?』チノ×ココア >>49 >>50
『咲-Saki-』咲×衣 >>53 >>54 >>55 >>56 >>57
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65
『生徒会役員共』アリア×シノ >>69 >>73 >>76
『あいまいみー』愛×ミイ >>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>90
『ドキドキ!プリキュア』レジーナ×マナ(まこぴー?)>>96 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
『ラブライブ!』花陽×? >>109 >>110 >>111 >>112>>113-114 >>115-116>>117>>118>>119 >>120-121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127 >>128 >>129

Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新6月3日) ( No.57 )
日時: 2014/06/06 19:13
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   『咲-Saki-』咲×衣 C1/1



「頭、撫でてくれるか?」
「うん」


咲の手が衣の頭に乗せられると、衣はまた「きゃうんっ」とそり返る。

ここぞという勝負時で、底知れない威圧感とともに雀卓に牌を叩きつける、あの咲の手——。

間近で見ているだけでもゾクゾクっとしたのに、その手が今は頭へダイレクトに乗せられている。


「天江さん、こんな感じでいいの?」

咲が頭をなでなでする度に、快感の電流が全身を駆け巡る。

「いッ、いいのだッ! あっ……へ……へ……ほ、ほれから、天江れなくって……衣って呼ぶのらぁ……」

「うん、分かったよ。衣ちゃん」

囁いて、咲は衣の頭のてっぺん、つむじのあたりにチュッと口づけする。

濡れた衣の頭にくちびるをひっつけて、頭皮のあぶらまで味わう勢いで吸いつく。

「はにゃにゃ……なんだか気持ち良くて、ボーっとするのだ……熱い……身体が熱い……」

右手で頭を撫でながら、空いた左手で衣の耳をにぎにぎしてやる。

「ら……らめろ……耳まで弄られたら……あ……さ、さきぃッ!」

気がつくと衣の視界はコーヒーカップで夢中になり過ぎた後のようにグルグル回っていて——。

膝がガクガクしてきたかと思うと立つ力を失い、顔の半分までお湯に沈んでいく。

「み、宮永さん! 衣ちゃんが変ですよ!」
「え? わー、ちょっと、衣ちゃん!」

咲と和は、衣の身体を抱きかかえる。

ちょうど見計らったように、チカチカッと天井が光り、浴場の照明も元通りになった。

「あ、停電、直ったみたいですね」

和が衣の身体を支えながら言う。

「と、とにかく衣ちゃんを外に出さないと。溺れちゃう〜」

二人は衣を浴槽の外へ運ぼうとするが、ぐったりした人間の身体は思った以上に重いものだ。

「うぅ、手がすべっちゃって……どうしよう」

楽しい時間が一転し、嫌な予感がしてきた。その時——。


「清澄の二人とも、ありがとうございます」


誰かの手が、差し伸べられる。


「衣を迎えに来ました」


パジャマ姿の少女が、そこに居た。






助けに入ってくれたのは、龍門淵の国広一(くにひろはじめ)だった。

寝間着姿なので髪は下ろしているし、リボンも付けていないし、おまけに顔のタトゥーもシールをはがしているから、一見すると誰なのか分からなかった。


一は衣を脱衣所まで運んでその場に寝かせると、自分のパジャマがずぶ濡れなのもかまわらずに、衣をウチワでパタパタする。

「全く。ただジュースを買いに行っただけにしては帰りが遅いから、心配になって探してみればこんなことに……」

こっそり部屋を抜け出したはずの衣だが、一には気づかれていたらしい。

そもそも一には、透華や衣が夜中に目覚めてしまうようなことがあれば、どんな小さな物音であれ自分も起きるという自信があった。


「ごめんなさい国広さん。衣ちゃんは自分もお風呂に行くところだって言ってたんですけど、ひとりで出歩いてる時点でわたしたちも変だと思うべきでした」

和が申し訳ない顔をして言う。

「いえいえ、そちらに責任はないんです。それより、のぼせるくらい楽しんじゃう衣が見られて、ボクもちょっぴり嬉しいです」

本当に嬉しそうな一を見て、咲と和が安心すると、

「んん…………ハジメ。どうしたのだ」

衣が気づいた。

「迎えに来たんだよ。ダメじゃないか、衣。お風呂に行くなら、ボクにも声をかけてくれよ」

「なんでいちいち声をかけなくちゃいけないんだ。衣はひとりで行けるぞ! 子供じゃないんだ!」

衣が怒って立ち上がると、たった一枚だけかけてあったタオルもひらりと落ちた。

「うん、分かったよ。でも水分も取らないでお風呂へ行くのは良くなかったね」

一はニコッと笑うと、二本のジュースを衣の前に差し出した。

「ここへ来る途中で買ってきたよ。ストレートティーと、イチゴオレ。衣はどっちにする?」

もう答えが分かっていて、和と咲はくすくす笑ってしまう。

「決まっているではないか!」

笑顔になって衣は、片方のジュースを指さすと言った。

「イチゴがいい!」






(おわり)











Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新6月6日) ( No.58 )
日時: 2014/06/09 20:36
名前: 千早 (ID: ZMpE7sfz)

はい^^
咲の小説を読ませてもらいました
衣ちゃんのかわいさが出ていて良かったです
本編の雰囲気も出ていて良かったです^^
また萌えてしまいました(笑い
そして無理なリクエストに答えていただいてありがとうございました
そうなのですね、原作の方を今度読んでみますね

いえいえ、こちらこそよい小説をありがとうございましたm(  )m
話を変えますが小説の作風を変えるのって結構難しいんですね
結構苦労しています…

Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新6月6日) ( No.59 )
日時: 2014/06/12 19:19
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

ありがとうございます!!

衣は見た目も声(福原香織さん)もストライクでした(^^
うまく再現できていたようで良かったです。

原作を読み込んでいくうちに、私は龍門淵の透華と一がイイな〜と思って自分の二次創作にも登場させてみました。
本当にキャラはすごく魅力的な作品だと思います。

少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
リクエストをいただいて、こっちも作るのに張りがありました(^^
創作でする苦労は楽しいので。ほんとに。


小説の作風を変えるっていうのは、今まで書いてきたようなのと違った雰囲気のを書きたいってことですかね?

答えとしてまとが外れてたらアレなんですが。
モデルにしたい作風のものを見つけてそれを真似るのが早いかと思われます。

でも好きで書いているうちに自分独自の作風が出ていたらそれは素敵な個性だと思います(^^

なんか色々語っちゃいそうですが。
この辺で笑

Re: 【GL・百合】二次創作短編集(最終更新6月6日) ( No.60 )
日時: 2014/07/02 19:26
名前: あるゴマ(あるま&ゴマ猫) (ID: Ba9T.ag9)

   『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 A1/3


___【解説】___
伏見つかさのライトノベルが原作。
2010年秋と、2013年春にアニメ化している。
原作は13年6月に完結したが、今回はそれより少し前の話と思って書いている。
そして何より今回はゴマ猫さんとの共作である。
普段はコメディ・ライトの方で書かれている方なのだが、いやほんと、ゲストに来てくれて感謝感激アメなんとやらです。



   ***



   1

俺の名前は高坂京介。

テストも終わり、夏休みに入ろうとしていたある日、事件は起きた。

これは俺の周りで起きた、妹とその友達の小さな物語だ。
聞いても楽しいかどうかはわからないが、付き合ってくれたら幸いだ。

話しは数週間前にさかのぼる。



 ————



その日の朝、俺は妹に起こされた。


俺の妹、高坂桐乃——。

今さら説明不要かもしれないが、ティーン誌などでモデル活動をやっていたり、陸上部のエースだったり、学力テストで県五位だったりする。

俺は、そんなすごいやつの「お兄ちゃん」に当たるのだ。


「京介、起きなさ〜い」

妹が、俺を優しく起こしてくれている。

「ほら、起きなさいよ〜」

俺は「んん……」と返事にならない返事をし、寝返りをうって抵抗してみせる。

すると妹は、

「起きろ……」

少しかがんで“テーブルクロス引き”でもするかのように、ベッドのシーツを両手でガシッとつかみ、

「つっってんだろうがぁぁァァァァア!」

大声で叫びながら、俺をベッドから引きずりおろした。

ドスン! と、それなりに痛そうな音を立てて背中から床に落ちる俺。


「いつつつつ……何しやがんだよ」

「ふん。優しく言葉で起こしてあげようと思ったけど、暴力に訴えた方が早く済むってことに途中で気づいたわ」

見上げれば——っていうか、寝転がったままの俺の目線は床すれすれの位置にあるんだが。

160センチくらい先に、不機嫌な表情で俺を真っ直ぐ見下ろす妹の顔があった。


「あのさ……」

「なによ?」

「今日って、海の日だよな。つまり学校は休みのはずなんだが……どう
してこんなに朝早くに起こされなきゃいけないんだ?」

理由が分かるまで俺は起きる気力もなく、身体をダラけさせて横になっていた。

桐乃だって普段着も普段着——いつものように薄手のTシャツにショートパンツというかっこうで、モデルらしい美脚は惜しげもなく露出されている。

「もう! 忘れてたの? お父さんとお母さんは今日から長期の旅行へ出発するのよ? 支度もできて、今は玄関に居るわ。見送りだけでもしてあげなさいよ」

「……ああ、そっか。そうだったな。分かったよ、起きるから。それにしてもお前、今日が休日でよかったな」

俺は目をこすってから、もう一度正面を見る。

仰向けに寝転がっているため、さっきから桐乃の足先が、俺の髪の毛に触れそうなほどの距離にあるのだった。

「どういう意味よ?」

「いや、まあな……これが平日だったら、制服のスカートの中が丸見えになっちゃうだろ」


グシャッ!


次の瞬間には、桐乃の足が俺の眉間を踏みつけていた。






「それじゃ二週間、うちのことを頼んだぞ」

玄関にはトランクを脇に置く親父と母親。

そして寝起きで髪ボサボサな俺と、きっちりした妹。

親父たちの旅行先はヨーロッパらしい。
お袋にとっては子供が手間のかからない年齢になったら親父と二人で行きたいっていう夢があったんだとか。

「洗濯とか、ご飯の支度とか……ちょっと心配だけど、桐乃ならもう大丈夫よね」

お袋が桐乃へ目を向けると、妹は笑顔になって、

「うん。兄貴も居るし、大丈夫よ。だから思い切り楽しんできて!」

と、お袋を安心させてやった。

「うむ。まあ、俺達が居ないからといって、羽目を外し過ぎないようにな」

親父はいつものように口を真一文字にしめたまま、俺を見た。

相変わらずガンコ親父を演じているが、お袋と二人で本当は嬉しいはずだ。

「羽目を外すな」っていうのも俺じゃなくて桐乃の方に言いたいんだろう。
年頃の娘を近くで見ておけないっていうのは親として不安だろうからな。

分かるぜ、その気持ち。

「心配ないよ、お父さん。あたし、いい子にしてるから」

だが、桐乃の笑顔に親父の不安も解消されていくようだった。

だから俺も、

「うちのことは心配しないでさ、楽しんできてくれよ」

と言ってやった。


「「行ってらっしゃ〜い!」」

玄関先で親を見送る、俺たち二人の声がそろった。

迎えに来たタクシーの走る音が遠くに消え、高坂家には俺と桐乃の二人だけになる。

親父よ。桐乃が心配だって気持ち、ほんとに分かるぜ。

だってこいつ、両親の前ではずっと笑顔を崩さないのに、半笑いになった顔を時々俺に見せていたんだぜ。さっきから。

そしてよく見ると、桐乃の手にはUSBのワイヤレスマウスがにぎられていた。



(つづく)


Re: 【GL・百合】二次創作短編集 ( No.61 )
日時: 2014/07/04 17:48
名前: あるゴマ(あるま&ゴマ猫) (ID: Ba9T.ag9)

   『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 A2/3



   2

ふう。親父たちもとうとう行ったか。

二週間後に帰ってきて「やっぱり子供たちだけにしておけん」なんて言われないよう、健全な生活を守らないとな。
ただでさえ明後日から夏休みなんだし。


「さて桐乃。これから二週間よろしくな。なあに、家事だって分担すればそんなに大変じゃな……」

「ゲームざんまいだぁぁぁぁぁぁァァァァァァア!!」

耳をつんざくような雄叫びが聞こえたかと思うと、俺のすぐ真横で、妹が両手でガッツポーズを決めていた。


しかも、片手にマウスをにぎったまま。


「ゲーム三昧ってお前、いい子にしてるんじゃなかったのかよ」

「あんなの口先だけに決まってるじゃない! 親が旅行に行っちゃえばもうこっちのものよ。明日だけ学校行けば夏休みだし、ゲームやりまくるしかないわ!」

ったく。桐乃は夜遊びとかするようなタイプじゃないから安心だと思ったけど。
インドアならインドアで、いけない子になっちゃう道順は存在するんだな。

「朝からやけにテンション高いから変だと思ってたけど、さてはお前、徹夜したな?」

「そうよ。昨晩はあやかちゃんが寝かせてなんかくれなかったわ」

あやかちゃんってのは、どうせ今ハマってるゲームのヒロインの名前だろう。

非行に走る子には、大抵の場合、その子に悪影響を与えた友達が居たりするんだが。

こいつの場合、二次元の中の友達が元凶だったわけか。

いや、この場合は「恋人」なのか? まあいいや。

「大体よ、家事はどうするんだ?」

「あんたやってよ。家に居るんだから」

「お前がさっき母さんに言ってた『兄貴も居るし』って分担の意味じゃなかったのかよ。っていうかさ、お前だって家に居るじゃん?」

「でも忙しいのよ。ご飯なんて、宅配ピザを頼めばいいじゃない」

「たっけーんだよ。お袋には一日3000円って言われてるんだ」

「仕方ないわねー。それぐらいのお金、あたしが出すわよ。時間っていうのはね、お金で買うものよ?」

……何を言っているんだこいつは。

自分で金を稼げるようになったやつが調子こいて言うようなセリフを……。

うん、まあ、確かに桐乃は自分でお金を稼いでいるけどさ!

でもなんかそれではいけない気がする。色々と納得いかん。兄として。

「分かったよ。今日の家事は俺がやっとくから。どうせ暇だし」

「ほんと? ありがとー! いひひ、これで今日はほんとにゲーム三昧だわ」

さんざん憎らしいこと言ったあとで「ありがとー!」だ。

笑顔でお礼を言っておけば相手が言うこと聞いちゃうんだから、ずるいよな。

まあ、つい甘くしちゃう俺に原因があるのかもしれないが。



——————



夕方になり、買物から帰った俺は夕飯の支度をしていた。

今夜のメニューはカレーだ。
なんだかんだいって、やっぱこうなるか。

でもカレーは野菜もたくさん取れるし、栄養面では文句あるまい。

その栄養を取るやつはゲームやってるだけだけどな。


「ふぅ……こんなもんか」

料理で良い汗をかいた。完成間近になり、俺は一度部屋に戻る。

桐乃のやつ、本当に部屋から一歩も出てこないで。

冷房の効いた部屋でゲーム三昧か。良い生活だよな。

なんて思いつつ自分の部屋に入ると、ベッドの上で携帯がふるえていた。

「なんだなんだ、着信か。珍しいな。……お、あやせからだ」

電話の相手は、桐乃のモデル仲間であり、同級生の新垣あやせだった。

俺は通話ボタンを押し、受話口に耳を当てる。


「はい、もしも……」

『お兄さん、ご相談があります!』


電話がつながるなり、これだ。

あんまり俺にとって得をする用件でないことは、すぐに察しがついた。

「まあ落ち着けよ。で、どうした?」

『桐乃ったらひどいんです!』

あやせによれば、数日前から桐乃の態度がそっけなかったらしい。

夏休みに入ったらどこへ行こうとか、一緒に何をしようとか——。

そんな話を振る度に桐乃がぜんぜん乗り気でなかったそうだ。

今日も休日なので服でも見に行こうと誘ったが、断わられたという。

「……そういうことだったのか。確かにそれはちょっと冷たいかもな」

『ほんとですよ……。そもそもお兄さん、桐乃って家に居るんですよね? 電話中もそんな感じだったんですけど』

「えっと、まあ、それはだな……」

家に居るのは事実だ。

でもそれを俺の口から言っていいのかどうか。

あやせからすれば、誘いを断わった友達が普通に家に居るのは嫌な気分になるかもしれないけど、あいつなりに事情はあるだろうし。

『…………分かりました。お兄さん、無理には聞きませんよ』

「お、おお。悪いな」

『でも、これだけは教えてください』

あやせは、二秒ほどの沈黙を置いてから言った。

『あやかって、誰ですか』

出た。その名前。

つっても、なんであやせが“あやかちゃん”の名まで知っている?

『さっきも電話中にですね、桐乃が送話口から離した声で「あやかちゅわ〜ん」って言ってるのが聞こえてきたんですよ』

ああ、それはあいつがゲームの画面に向かってしゃべりかけているんだよ。

——と、本当のことを教えてやるわけにもいかず。

「まあ、それはな……期間限定のお友達というか」

『お友達……ですか?』

いや、あれは友達というより「恋人」なんだっけか。そんなことは今はどうでもいい。

「まあ、すぐにあいつも元に戻ると思うから、気長に待ってやってくれないか?」

『本当ですね? 明日になれば、桐乃はまた元に戻っているんですね?』

「気長に待ってくれって俺は言ったんだが」

『明日になれば、桐乃はまた以前のように、わたしのことだけを見てくれるんですね?』

「そこまでは言ってないって。っていうか『だけ』ってことはなかったろ以前も」

『ほんと……あやかって誰なんでしょう。なぜわたしはあやかちゃんじゃないのでしょう。現実って思い通りにいかないから嫌ですよね、お兄さん』

「まあ、落ち着けよ。そして頑張れよ、現実に負けないように」

『だってわたし、お兄さんのこと信じているんですよ……』

ここであやせは、急に泣きつくような声になった。

『お兄さんはカッコよくはないですけど、今までだってわたしを助けてくれたじゃないですか……』

電話なので顔は見えないが、もし目の前に俺が居たら、上目づかいでこう頼まれていただろう。

う……こうなるとさすがに、俺も男として弱くなってしまう。

『明日になったら、桐乃がわたしのことだけを見てくれますように。ますように……』

あやせが独りでぶつぶつ言っている。

こいつ、電話中に願かけを始めちゃったぞ。

『じゃ、明日までに桐乃をお願いしますよ。願かけしたんですから、叶えてくださいね、お兄さん』

「え?」

『うふ。それじゃ!』


こうして電話は切られた。

願かけって俺にだったのかよ。いやいや、そんな力はないから……。



(つづく)



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