BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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ゆり二次・創作短編集【GL・百合】(更新終了)
日時: 2017/05/09 18:32
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: MbxSjGAk)

参照、ありがとうございます。あるまです。

BLではなくGLです。百合作品というやつです。

2013年10月から2017年5月まで書いてきた、好きなアニメの二次創作です。

いちおう作者の本気度はそれなりに高いはずなので、お暇でしたら見てやってください。

よろしくお願いします!


___目次___
『ゆるゆり』 千夏×あかり >>01
『ひだまりスケッチ』 なずな×乃梨 >>03
『ゆゆ式』 ゆい×ゆず子×ゆかり >>11
『スイートプリキュア』 響×奏 >>13
『キルミーベイベー』 やすな×ソーニャ >>18
『らき☆すた』 かがみ×こなた >>21
『のんのんびより』 蛍×小鞠 >>24 >>25
『恋愛ラボ』 夏緒×莉子 >>31
『ヤマノススメ』あおい×ひなた >>37 >>38
『中二病でも恋がしたい!』丹生谷×凸守 >>41 >>42
『ご注文はうさぎですか?』チノ×ココア >>49 >>50
『咲-Saki-』咲×衣 >>53 >>54 >>55 >>56 >>57
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65
『生徒会役員共』アリア×シノ >>69 >>73 >>76
『あいまいみー』愛×ミイ >>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>90
『ドキドキ!プリキュア』レジーナ×マナ(まこぴー?)>>96 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
『ラブライブ!』花陽×? >>109 >>110 >>111 >>112>>113-114 >>115-116>>117>>118>>119 >>120-121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127 >>128 >>129

ラブライブ二次0327UP ( No.112 )
日時: 2016/03/28 01:32
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 4



夏の夜明けは早い。まだ六時前だったのに、外が明るくて二度寝ができなかった。


それでもゆっくり支度をしていたら、けっこうぎりぎりの時間になってしまった。

小学生の頃から毎日通っている近所の道を、今日は仕事へ行くために歩く。

今日も朝から三十度近かった。暑い。


「あー、かよちん。どこ行くのー」

「凛ちゃん」


たまたま出会ったのは、同級生の凛ちゃんだった。


カラフルな袖なしTシャツのサイズはちょっと大きめで、下着なのか何なのか、細い肩ヒモが首のまわりに見えていた。


凛ちゃんは季節を楽しむように「今日も暑いねー」と、当たり前のことを感情込めて言う。


「凛ちゃんこそ、どこ行くの」

「んー、私はただコンビニにアイスとカップラーメン買いに行くだけだよ」

凛ちゃんはそれより私の目的が気になるらしく、「で、かよちんはどこ行くにゃ」と、目でとらえて放さない。


私は自信なさげにバイトのことを話した。

あくまでも穂乃果先輩に巻き込まれてそうなっただけ、というように。


「えー、それってかよちんがメイドさんってことー? 行く行く! 午後行くにゃ」

「い、いいよ恥ずかしいから……」

「ううん。行くしかないにゃ。どうせ暇だし」


凛ちゃんはがんばる私を想像しているかもしれない。

でも今の私が想像するのは、凛ちゃんとだらだら過ごす一日だ。

冷房の効いた部屋で、凛ちゃんと一緒に冷たいフローリングの上に寝そべったり、部屋ににおいが充満するのも構わずにカップラーメンを食べたり。

昨日、穂乃果先輩が何も言い出さなければ、あるいはことり先輩が誘ってこなければ、今日は全く違った一日になったかもしれないのに。


「かよちん、表情が良くないよ」

凛ちゃんが心配そうに私を見ていた。

「そ、そうかな」

「うん。困り顔のかよちんじゃ、ダメだよ」

そうか。今の私は「困り顔」になっていたのか。

凛ちゃんのことを思っていたらそんな表情になっていたわけだけど。

目の前の凛ちゃんはそんなこと、知らないよね。

「メイドさんに変身したら、表情だって変えないとね。凛の勇気と元気を、かよちんにあげるにゃ」

凛ちゃんは自分の胸に手を当てた。

そして「はい」と、その手を私の胸にポンと置く。

私はなんて言っていいか分からずに黙り込んだ。でも胸はドキドキしていた。

一瞬の間を置いて、凛ちゃんが苦笑いして言う。

「えへへ。夏休みでだらけちゃって、ちっとも使ってない勇気と元気だにゃ。かよちん、代わりに育ててあげて」

凛ちゃんからの、応援メッセージ。

「……録画しないと」

「え?」

「録画するから、応援メッセージちょうだい! 私に!」

私はスマホを取り出した。起動時の暗証番号をブラインドタッチで入力し、カメラモードにして凛ちゃんに向ける。

凛ちゃんは「あはは何それ」と笑っていたが私が本気だと分かると笑うのをやめ、ポーズや表情を気にしはじめる。

私は震えそうになる手を、もう片方の手でおさえた。


「んー、なんて言ったらいいかにゃ」


凛ちゃんが髪をいじりながら言った。コンビニに行くだけだった凛ちゃんは、寝癖もほとんどそのままだった。

私はいつだったか、凛ちゃんにこんな決めセリフがあったのを思い出して言った。

「あれやってよ、『勇気りんりん、あなたの凛です!』ってやつ」

「そんなのあったかにゃー?」

「え?」

そっか。流行らなかったから本人も忘れちゃってるのか。


やっぱり「にOこにこにー!」には勝てないか。

脳内で、あのツインテールの先輩のかん高い「にOこにこにー!」の動画が再生される。

終わったと思ったら、すぐに最初からリピートされる。

ウインドウごと閉てしまおう。左クリックで。これで安心。


「かよちん!」


凛ちゃんがハキハキと喋り出す。


私はまばたきを止めて、スマホの画面で凛ちゃんをとらえ続ける。


「今日の終わりには、万世橋から夕暮れでも眺めながら、今日の楽しかったことを私に話して聞かせてね。それまで凛の勇気と元気をあずけておいてあげる!」


凛ちゃんが片目を閉じてカメラをのぞき込み、ポーズを決める。


風が吹いて、植木鉢のたくさん並んだ民家の方から緑の匂いがした。


私がそのまま録画し続けていると、凛ちゃんは静寂を破るように猫のポーズで「にゃ」と付け足した。



「やっぱり恥ずかしいから今のなしぃ!」



凛ちゃんが手を横に振る。

私はくるっと振り向いて「保存」のボタンを押した。

まばたきを忘れていた目を、パチパチとさせて潤す。

凛ちゃんがすぐ背後に迫ってきてスマホの画面をのぞき込もうとするが、私は距離を取って、


「いただきました」


にやける口を、スマホで隠しながら言う。

「んもー、誰にも見せないでよ?」

語尾の「でよ?」と同時に首をかしげる凛ちゃんに対し、私はなおもスマホで口元を隠しながら、

「もう時間ですし。失礼します」

機械的に言葉を発していた。口は隠しても、目がにやけていたかもしれない。


じゃね、と手を振ると凛ちゃんが「行ってらっしゃい」と返すから、私も「行ってきます」と言い直した。



(つづく)



LL二次0405更新分 ( No.113 )
日時: 2016/04/06 00:24
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 5‐1



まだ朝の九時——。

早い時間の秋葉原は気持ちいい。

空気もまだ綺麗な感じがするし。昼過ぎにはここがひとでいっぱいになるだなんて信じられない。


駅を出てすぐ見えるビルに備えつけられた巨大なモニターには、A-RISEのMVが流れていた。

やっぱりかっこいい。

私の今日の活動はスクールアイドルとは違うけれど、がんばろう。


せまい路地に入っていったところにある雑居ビルの二階が私の働くお店だ。

急な階段をのぼっていくと「キュアメイド喫茶」の扉がある。

古いビルだけどお店の中は新しくていかにもリフォームしたばかりという感じだった。かるーくアロマ的な匂いがする。

真っ白な壁には従業員らしいメイドさんたちの写真が貼り付けられていて、その中に私はミナリンスキーを見つけた。

やっぱりことり先輩が一番かわいい。


「おはよ、花陽ちゃん」


と思ったら本人が目の前に居た。

「おはようございます」

「慣れない仕事をすることになるけど、昨日はちゃんと眠れた?」

「え、ええ……大丈夫です」

そう言われて、自分が寝不足なのを思い出した。


確か、嫌な夢を見て目が覚めてしまったような気がするけれど。


私は見た夢の内容を忘れてしまう方だ。なんだか悪い夢を見たというのは覚えてるけど、その夢の内容が思い出せない。


まあ、忘れてしまうのは、忘れた方が楽だからかもしれない。


「今日は三人が来てくれて助かるよ。うちは多い時で八人くらいメイドさんが居たんだよ」

ことり先輩が話すのを聞きながら店の奥へと歩いていく。

「休憩室のすみっこがカーテンで仕切られてるからそこで着替えて」

ムダに重い扉を開けると「海未ちゃんメイド服似合ってるよ」「恥ずかしいからやめて」と、二人の声が聞こえてきた。


「穂乃果先輩、来てたんですね!」


私が大きな声を出すので、みんながこっちを向く。

「良かった……」

私がいちいち嬉しそうに言うと、穂乃果先輩は、

「来てるけど、なんで?」

と当たり前の反応をする。

「ふふ。穂乃果、遅刻するのが当たり前みたいに思われてませんか?」

海未先輩が笑うと、穂乃果先輩は「なにそれー」とむくれて私を肘でつついてきた。


「アハハハハハハ」


なぜか笑ってしまうほど嬉しい。

穂乃果先輩が遅刻しないで来てくれただけなのに、心から安心する自分が居た。


LL二次0405UP分 ( No.114 )
日時: 2016/04/06 00:25
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 5‐2



「じゃあ一人ひとり、自己PRの動画を撮るよー」

ことり先輩がいつの間にかビデオカメラを片手に構え、液晶モニターをカパッと開く。

「それぞれ一分程度の自己紹介をしてもらって、その映像を一日に何度かお店の画面で流すからね」

自己紹介——つまり、あのカメラの前で独りで喋れってことだ。

私はスクールアイドルまでしているくせに、いまだに人前で喋ることとか苦手だ。

どうしよう。ちょっと不安。

「じゃあ花陽ちゃんからやってみよっか」

「ええッ? そそんな。私なんか。私なんか」

手をパタパタ振って遠慮する私を見て穂乃果先輩が、

「花陽ちゃんは緊張してるみたいだから、私からいこうか」

と提案する。

私も「そうして」と目で訴えた。

しかし、

「んーとね」

ことり先輩は穂乃果先輩と私を見比べてから言った。

「大丈夫。花陽ちゃん、やってみな」

変わることはないようだ。

言われたからにはやるしかない。


「えっと……えっと」

やるしかない。そう意識するほど。

「…………………」

何をしゃべればいいか、余計に分からなくなってくる。

どうしよう。沈黙を作っちゃダメだよぉ。

やっぱり穂乃果先輩に代わって欲しかった。


「焦らないで、花陽ちゃん」


録画中の動画にことり先輩の声が入った。


「難しく考えないで。普段の七割まで出せれば、もう大丈夫だよ」


そう言うことり先輩は決して私をテストするような目で見ていなくて。


私ができるまで、ただ待ってくれているみたいだった。


「は、はじめまして……カヨといいます」

私はつぶやきながら、チラ、チラとカメラの方を見る。

「得意科目は日本史と家庭科で、学校で飼っているアルパカの世話もしています」

なんとなく学校での自分の紹介から入っちゃったけど、長くなり過ぎるかな。

ちなみにカヨというのは私がお店で使う名前で。

「ハナヨ」よりカヨの方が愛称っぽくていい、ということだった。

穂乃果先輩と海未先輩は普通にカタカナにして「ホノカ」「ウミ」ということになった。

あれ? それでことり先輩は「ミナリンスキー」?

カヨ、ホノカ、ウミ、ミナリンスキー。

一人だけ、ロシア人だか宇宙人だか分からない名前になっちゃってるけど。

まあいいや。


「じ、実はこういうお仕事は初めてで……」

私は続けた。

「えっと……他の子たちみたいにうまくできるか不安で、もしかしたら、もしかしたらすぐクビになっちゃうんじゃないかって」

カメラの向こうで、穂乃果先輩と海未先輩が心配そうな顔をしているのに気づいた。

いけない。ちょっとネガティブになっちゃった。

穂乃果先輩が手を口の横にかざして、口パクで何か言っている。

助言をしてくれているのだろうけれど、なんて言っているんだろう。

その口の動きから、「ぴーあーる」つまり「PR!」と言っていることが分かった。

その瞬間、

「お店のPRもお願いね、カヨちゃん」

ことり先輩が普通に声に出して言った。「えッ! 喋っていいの?」と驚く穂乃果先輩だが、ことり先輩はそれには応えず、

「お客さんを想定して」

と指示を出す。

「ご、ごめんなさい……」

って、謝ることなんかないか。もっとポジティブにならないと。


よし。PRね。

このお店の良さなら、言いたいことがある。


「みなさん、このお店のメニューはご覧になりましたよね? カヨのおススメは、ずばり『ライス』です」

ここへ初めて来たのは今朝のことだけれど、既に私は目をひかれていた。

このお店には、「ライス」の単品がある。それも税込200円で、決して高いお値段ではない。

「メイドカフェっていうと、ご飯モノにしてもオムライスとか、カレーライスあたりが思い浮かぶんですけれども」

私はカメラの前で、考える仕草をする。


頭の中にイメージされるのは、子供っぽい絵に描かれた、山のような形をしたオムライスに、カレーライス。


だがそれ以上に大きな存在感を放つ、ホカホカの白いご飯。


その隣に置きたいのは、メイドカフェとは思えないほど豊富で本格的な、ここの料理。


「ここにはハンバーグだけで数種類もあります。他にもオカズになりそうな料理がいっぱいあって、迷うくらいなんです」

さっき、テーブル脇にあったメニューにザッと目を通したのだった。

ほんの斜め読みだったけれど。あれを思い出して喋る。

「どんな料理にも合う白いご飯は、カヨにとって魔法のパートナーです。みなさんもぜひおかわりしてみてください。そして二度でも三度でもご来店してください」


そこで言葉は終わった。

できるだけ嬉しそうに微笑んで、軽く首をかしげてみせる。

お店の宣伝を意識していたつもりが、いつの間にか自分がしたいことを率直に口に出すだけになっちゃったかな。


「……ハイ! OKだよ、花陽ちゃん」

ことり先輩が撮影の姿勢をやめて、満足そうに言ってくれた。

「ほんとですか? そんなにうまくいったとは思えないんですけど」

「うんん。お店のPRにしては、これ以上なかったんじゃないかな」

私にとってはちょっと意外な反応だった。

しかし海未先輩までもが誉めてくれる。

「花陽本人が、自分も本当にそれを好きでおススメしてるというのが伝わってきました。お客さんと同じ目線になれた時、宣伝の効果は非常に大きくなるものだと思います」

「あ、ありがとうございます」

なんだか変に評論家みたいな喋り方だけど、とりあえず良かったってことだろう。

「すごいよ花陽ちゃんは!」

穂乃果先輩も言ってくれる。

「お店のメニューをもう覚えちゃってるんだね。ゆっくり見てる暇なんてなかったはずなのに。すごい記憶力だよ!」

「そ、それは……」

素直には喜べないことだった。

だって、食いしん坊みたいだもの。

私、普段はべつに記憶力がいいなんてことないし。

「食いしん坊万歳じゃないですか」

「は?」

海未先輩がまるで私の心を読んだかのように言うので、私は「は?」としか言いようがなかった。

「魔法のパートナーという例えも、良かったですよ」

「あ、あれはですね……」

スルーされることなく、こうして誉められると逆に恥ずかしい。


さすが海未さんは作詞もしてるひとだから、耳に残っちゃったか。


白いご飯は魔法のパートナー。


実はこのフレーズの誕生には、凛ちゃんとのエピソードが関係しているのだけれど、それはまた、別のお話だ。



(つづく)


ラブライブ二次0413UP ( No.115 )
日時: 2016/04/14 01:15
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 6−1



「じゃあ次は私だね!」

穂乃果先輩がスッと迷いなく進み出てくる。
ことり先輩がカメラを向けた。


「はじめまして、ホノカといいます。得意科目は……えーっと、そうじゃなくて、好きな科目は音楽です!」

お勉強が苦手な穂乃果先輩は、得意科目を「好きな科目」と替えて言った。

「歌うことが好きです! それと、他に趣味は……」

「他人に水をかけることですか?」

海未先輩が言った。穂乃果先輩は画面の外に向かって「違うでしょどう考えても!」と言い返す。

というか、自己PRといってもこうやって普通に会話していいんだ。

「聞いたところによると、穂乃果の家の前で水をひっかけられた被害者が居るとか」

「あれはわざとじゃなくて、水を撒いてたら少しかけちゃっただけ。ほのかの家はお店をやってるから常に綺麗にしておきたいのと、通りかかるひとが少しでも涼しい気分になってくれればと思って撒いてたの。確かに不注意だったけど……」

穂乃果先輩は「えっとそれからそれから」と言葉をつなぎつつ、続けた。

「好きな食べ物は、いちごです!」

「本当ですか?」

また海未先輩だ。

「ほんとだよ! なんで疑うのさ!」

「ごめんなさい。でもいちごが好きって、アイドルっぽ過ぎて……それに穂乃果は和菓子屋の娘でしょ」

「うんん。あんこなんか飽きたもん」

「みたいですね」

「そこは疑って!」

穂乃果先輩は「もー、さっきから海未ちゃんいじわるだなー」と画面の外へ困った顔を向けて言う。撮影中でなければ海未先輩の肩にでも抱きつきに行っていそうだ。

「穂むらのお菓子に、飽きなんか来ないよ」

穂乃果先輩はカメラを見すえると、大好きな家族の話しでもするみたいに言う。

古くから続く和菓子屋「穂むら」の看板を背負うひとなんだ、と思った。

「あんみつが一番人気のメニューだけど、ほのかが好きなのはおまんじゅうだよ。口に入れた瞬間にホロリと崩れる『穂むら』のおまんじゅうは素朴で優しい味だから、飽きが来ないんだ」

穂乃果先輩は「ぜひ食べて欲しいなー」と頬に手を当てて目を閉じた。

おまんじゅうを食べる自分を想像しているのか、演技に気持ちが入ってきている。

「ほのかが小さい頃から食べてきた味だから、きっとほのかの味がするよ。食べる時は、ほのかのことを思い浮かべて。そうしたら、それがほのかの味だよ。きっと」

穂乃果先輩がうっすらと目を開ける。その目はやや潤んでいて、気持ちの高ぶりを表わすように、頬がほてり始めていた。

穂むらのおまんじゅうは、穂乃果先輩の味。

どんな味だろう。なんとなく、柔らかくて表面がつるつるした丸いものに、歯を立てないようにしてかぶりつくのを想像してしまう。


「今は『穂むら』の宣伝ではないですよ、穂乃果」


海未先輩の声がして、私の想像は中断させられた。

ほんとに、メイドカフェの宣伝をするはずが、いつの間にか「穂むら」の話しになっていた。

「……そうだった。ごめん」

穂乃果先輩は素直に謝って、「んー……」と考える姿勢に入る。が、なかなか言葉が出てこなかった。

海未先輩が言う。

「口に入れた瞬間にホロリと崩れるとか、素朴で優しい味だとか、良い表現を使ってたじゃないですか。さっきは」

「でもそれは『穂むら』のおまんじゅうに使っちゃったよ」

「このお店のメニューのために取っておけばよかったんです……。今は『穂むら』じゃなくて、『キュアメイド喫茶』でしょ」

穂むらから、キュアメイド喫茶へ。

ようやく穂乃果先輩の、そして私の考える内容が軌道修正される。

だがそこへ口を挿んできたのは、ことり先輩だった。

「うんん、『穂むら』を軽く見ちゃいけないよ、ウミちゃん」

「ミナリンスキー……」

海未先輩が「これ以上余計なこと言わないで」と目で訴えるが、ことり先輩はノリノリで穂乃果先輩に話しを振る。

「この前の冬に食べたシベリアサンドがすっごく美味しかったな」

「あー、あれね? 実は去年の冬の限定販売で、もうやる予定はないんだ」

「えー? それはもったいないよ。また売られるんだったら、ぜったい買いに行くもん」

「ほんと? じゃあ今年もやるようにって、うちの親に話してみようかな」

ことり先輩は「えへへ、嬉しい」と笑う。カメラ横のベルトに片手を突っ込んでいちおうは穂乃果先輩を映し続けているが、手ぶれや傾きは半端ないだろう。

「……もういいですかね。しめてもらって」

海未先輩が遠慮しながら言うと、ことり先輩は「あー、ごめんごめん」と言いながら一歩さがって、改めて穂乃果先輩をカメラでとらえる。


「ホノカちゃん、最後に意気込みをどうぞ。お客さんに対して」

「はーい」


穂乃果先輩が前髪を一瞬だけいじって画面のド真ん中に立った。


「宣誓! 私、ホノカは、メイドとしての奉仕の精神にのっとり、できる限りのおもてなしをすることを誓います」

横を向いてうつむき「世界中を幸せに……とまでは言わないけど。与えられた役目に感謝して……」と言ってから一歩、二歩と歩く。

そして決意を秘めた表情でクルッとこっちへ振り向いた。

「今日ここで出会ったひとだけでも、幸せな気分になってもらいたいと思います!」

穂乃果先輩がこう言う時、私はその160センチにも満たない小さな身体から、何か大きなものを感じてしまうのだ。

それは「たまに」とか「時々」ではあるけれど——。

穂乃果先輩がスカートを軽くつまみ上げて、ゆっくりと一回転する。黒い制服の上で真っ白なフリルがところどころで揺れた。

本人も自信を持ってやっているせいなのか、それがやたらと決まっていて、みんなもつい無言のまま見てしまった。

ちょっと前まではことり先輩と一緒にふざけていたはずなのに、決めようと思えば、すぐできてしまうひとなんだ。このひとは。


「さすが……ですね」

穂乃果先輩の作る「絵」に見とれていた海未先輩が、やっと口を開いた。

「最後だけは強引にまとめましたね。途中は『穂むら』のお菓子の話しで脱線ばかりでしたけど」

海未先輩の講評に、ことり先輩が加わる。

「カヨちゃんがご飯モノのPR担当だったとすれば、ホノカちゃんはスイーツ担当だったわけだね」

「どこがです」

「じゃあウミちゃんには、サイドメニューの宣伝を交えながらやってもらおうかな」

「……分かりました」

海未先輩はそう言うと、真剣な表情で軽く深呼吸をした。



(つづく)


ラブライブ二次0418UP ( No.116 )
日時: 2016/04/19 00:54
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)

   「ラブライブ!」花陽×? 6−2

「じゃあウミちゃんには、サイドメニューの宣伝を交えながらやってもらおうかな」

「……分かりました」

海未先輩は真剣な表情で軽く深呼吸をする。頭の中で台本を作り上げているみたいだ。


「はじめまして、ウミと申します。得意科目は現国と世界史。それと小さい頃から弓道などをやっております」


そう言うと海未先輩は、弓を引く振りをして弓道の「型」を演じてみせる。

素人には分からない独特のゆっくりした美しい動作が経験者であることを示していた。

海未先輩が絞った矢を放つと、ジェスチャーだけど向こうにマトがあるつもりらしく、二秒ほどそっちを見つめてから納得の表情をする。的中したみたいだ。

それをただ黙って見ている、穂乃果先輩とことり先輩。

こういうのを大真面目に最後までやってしまうのが海未先輩らしいけど。


「お店のメニューに関しては、私はサイドメニューをみなさんにおススメしたいです」

海未先輩が言うのを聞いて、私はまたメニューを思い出した。


フライドポテト、から揚げ、ほうれん草のソテー、イカのパプリカソース漬け、などなど。


「種類の豊富さはもちろんですが、お値段も250円とたいへんお手頃なので、友達とシェアすればたくさんの味が楽しめますね」

そうかもしれない。
食べて喋って、それで飲物の注文が増えれば、チャリンチャリン。イメージする映像の中で小銭が積み上げられていく。

「まあ、私はまだここでは未熟者で、まごころぐらいしか提供できませんけれども」

ちょっと間を置いて、言う。

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って言いますし、こういう場所でも何か良いことあるだろうと思って、頑張りたいと思います」


両手で軽くにぎり拳を作って、カメラを見すえる。


「……これでいいですか?」

照れた顔で首をかしげると、監督のことり先輩が「ハイ、OKだよ!」と満足気に言ってから、コメントを加える。

「要点をしっかりおさえていて、とても良かったよ」

「ありがとうございます」

「『穂むら』について話してないけど大丈夫なの?」

「大丈夫です」

ことり先輩が誉めた通り、海未先輩のPRは確かに三人の中では一番よかったと思う。

まあ、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」っていう表現は微妙な気がするけど。

お客さんは危険な「虎」ですか? って。


「ウ〜ミ〜ちゃ〜ん」

不満そうに声をかけてきたのは、なぜか穂乃果先輩だった。

「な、なんですか。ホノカ」

「もー。ウミちゃんの自己PRなら『メイド服が似合います』って、ぜったい言わなきゃダメだったよ」

「な、なんて?」

顔を赤くする海未先輩に、穂乃果先輩がぶつかりそうな勢いで寄り添った。

「だって、見た目でも性格でも、一番ぴったりなのはウミちゃんじゃないの」

穂乃果先輩は海未先輩の両肩に手を置いて身体を寄せると、カメラの方を見る。

穂乃果先輩が明るい色なら、海未先輩は落ち着いた色、という感じか。

二人が同じ制服を着て並んでいると、絶妙なコントラストが生まれる気がする。

「せっかくこれだけ似合ってるんだからさ。カメラの前で一回転、してみせてよ」

「えッ? さっきホノカがやったみたいなのをですか」

穂乃果先輩は「そうだよ。さ、どうぞ」と自分だけ画面の端に消える。

「え、遠慮しておきます」

海未先輩が強く言って、そっぽを向く。

穂乃果先輩が「そんなこと言わないで、やろうよ」と言っても海未先輩は動かない。

そこへ入ってきたのは、ことり先輩だった。

「ウミちゃん、お願い!」

「え?」

「どうしても必要なの。ことりからもお願い!」

ことり先輩が、切実そうな目で海未先輩を見る。

どうしても必要ってことはないと思うけど。

「わ、分かりました……。お客さんが幸せな気分になってくれるなら……」

そう言って、海未先輩は両足をそろえて直立する。

両手を軽く広げて、一回転。

子供がバレーの真似ごとでもするような、あまり綺麗じゃない、速いだけの一回転。

「……はい。これでいいですよね」

「えー。もっとゆっくり見せて欲しいのにー」

穂乃果先輩が、物足りなそうに言う。

「い、一回転は一回転ですからね。二回やってくれとは、言われてませんよ」

なんというヘリクツ……。

「しょうがないなー。メイド服のウミちゃんの後ろ姿は、あとでこっそり見るしかないってことだね」

「のぞきみたいなことしないでくださいよ」

「立体のウミちゃんは、こっそり見てやるしかないね」

「普段は立体じゃないみたいな言い方しないでください」

二人のやり取りを見て、ことり先輩が笑う。平和な光景だった。


こうして撮られた私たちの動画は、いったい裏にどんな技術者が居たのか、お昼には見易く編集されて店内に流された。二時間に一回くらい。

お客さんにも好印象だったようで、私たちを知ってもらうのに役立った。

あとで穂乃果先輩に聞いた話では、この後の数日間、「穂むら」には常連でない若いお客さんが増えたという。

あの動画を見れば、それは確かに「穂むら」を探したくなるよね。

宣伝する店を間違えてるって言いたかったけれど、穂乃果先輩が嬉しそうだったから、まあいいか。



(つづく)



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