BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- ゆり二次・創作短編集【GL・百合】(更新終了)
- 日時: 2017/05/09 18:32
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: MbxSjGAk)
参照、ありがとうございます。あるまです。
BLではなくGLです。百合作品というやつです。
2013年10月から2017年5月まで書いてきた、好きなアニメの二次創作です。
いちおう作者の本気度はそれなりに高いはずなので、お暇でしたら見てやってください。
よろしくお願いします!
___目次___
『ゆるゆり』 千夏×あかり >>01
『ひだまりスケッチ』 なずな×乃梨 >>03
『ゆゆ式』 ゆい×ゆず子×ゆかり >>11
『スイートプリキュア』 響×奏 >>13
『キルミーベイベー』 やすな×ソーニャ >>18
『らき☆すた』 かがみ×こなた >>21
『のんのんびより』 蛍×小鞠 >>24 >>25
『恋愛ラボ』 夏緒×莉子 >>31
『ヤマノススメ』あおい×ひなた >>37 >>38
『中二病でも恋がしたい!』丹生谷×凸守 >>41 >>42
『ご注文はうさぎですか?』チノ×ココア >>49 >>50
『咲-Saki-』咲×衣 >>53 >>54 >>55 >>56 >>57
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65
『生徒会役員共』アリア×シノ >>69 >>73 >>76
『あいまいみー』愛×ミイ >>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>90
『ドキドキ!プリキュア』レジーナ×マナ(まこぴー?)>>96 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
『ラブライブ!』花陽×? >>109 >>110 >>111 >>112>>113-114 >>115-116>>117>>118>>119 >>120-121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127 >>128 >>129
- Love Live 二次 0918UP ( No.122 )
- 日時: 2016/09/18 20:38
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 11
アイスカフェオレを出した後も、私は凛ちゃんのすぐ後ろに立ち続けた。
通行の邪魔にならないように壁際に立って、姿勢を正しくし、両手は前に出して組み合わせる。
メイドらしく、しなければ。私は凛ちゃんのメイドなんだから、今は。
「ちょっと花陽、これ見てみない?」
「ん? なんですかそれ」
にこ先輩がA4サイズの雑誌をテーブルに広げた。
グルメ系か、街の情報誌みたいだけど。
見るとそこには、メイド服姿のことり先輩がうつっていた。
それも「たまたまうつった」なんてものではなくて、グラビア雑誌みたいにしっかりうつっている。
写真の背景が、どっかで見たと思ったら、このお店だ。他にひとが居ないから、開店前の早い時間かもしれない。
そしてページの端っこにはインタビューが載っていて、ことり先輩は「ミナリンスキー」と呼ばれている。
「半年前にこのお店が特集された、秋葉原の情報誌よ」
にこ先輩が言って、雑誌の表紙をちらっと見せてくる。『秋葉原ウォーカー1月号』と、綺麗なロゴで書かれていた。
「すごい。ことり先輩、自分が雑誌に載ったなんて一言も言ってなかったのに」
私はこのお店を——というか、ことり先輩を特集した記事へとページを戻す。
ことり先輩、私たちの知らないところでこんな仕事もしてたんだ。
普段のことり先輩を知らない読者は、この写真のことり先輩を見て、どんな想像をふくらますだろう。
「あたしもこの店のこと調べてるうちに初めて知ったのよ。それで今日ここへ来る前に、神保町で雑誌を見つけてきたの。凛と二人でね」
「え?」
にこ先輩の言葉を聞いた瞬間、私は思わず手を止めて、二人を見る。
「見つけた時は興奮しちゃったよね、にこちゃん」
凛ちゃんがその時のことをリアルに思い出したように笑った。
この『秋葉原ウォーカー1月号』は、二人で神保町の古本屋をいくつかハシゴしてやっと見つけ出したらしい。
炎天下を歩きまわり、凛ちゃんが先に「もうやめよ」と言ったのを、にこ先輩が「もう一軒だけ。あと一軒だけ、思い当たる店があるのよ」と言って無理に引っ張っていったんだとか。
その時は凛ちゃんも不機嫌になったけど、最後の一軒でこの雑誌を本当に見つけちゃったんだとか。
それで二人とも一気にテンションが上がったんだとか。
そういうわけなんだとか。へー。
いわばこの雑誌は二人の「戦利品」で、二人は戦友?
凛ちゃんが楽しそうに「さすがだにゃー、にこちゃん」と言うと、にこ先輩は「ふん。まあね」と得意気になる。
そんな二人の会話も、一枚の扉を隔てたように遠くに聞こえていた。
神田の古本屋街って、すごく近くだし、前から興味はあったけど、私みたいなのが一人で行く勇気はなかったんだ。
そこへ今日、二人で行ってたなんて。羨ましい。
私なんて朝からずっとこの狭い店内で働いてたのに。
「グラビアを飾っているのはことり一人で、文章もことりの単独インタビューみたいになってるわ」
にこ先輩が言う。
確かに、従業員の女の子なら他にもたくさん居ただろうに、雑誌で取り上げられているのはことり先輩だけだ。
「んー……どうやら、メイドさんの総選挙をやって、ことりが首位になったらしいわね」
にこ先輩が記事を読みながら説明した。
首位になったことり先輩だから、こうして単独で特集してもらってるんだ。
「えーっと、第一回キュアメイド喫茶総選挙、3位がマーチャン」
「マーチャンって?」
「ここのメイドさんでしょ。今日は居ないみたいだけど。そのマーチャンが3位で56票」
「うん」
「2位がリナタンで60票、1位がミナリンスキーで1019票。投票の総数は1165票だって」
にこ先輩はインタビュー記事に目を通しながら、その重要な所だけ淡々と私たちに話してくれた。
インタビュアーがことり先輩の人気っぷりを誉めると、ことり先輩は「大したことしてないです」と、自分の頑張りを否定する。
ことり先輩は言う。
『一番になんか興味なかったんですけど』
『ある朝、店長から、一位おめでとうって言われて、初めて知ったんです。それまでほんとに気づかなくて』
『でも一つ思ったんです。そういえば最近、お店のメイドさんたちがピリピリしていたり、そわそわしてたなって。もしかするとみんな、総選挙の結果を気にしてたのかな? って』
にこ先輩が淡々と読み上げる。
記事の終わりには従業員の女の子全員の集合写真が掲載されていた。ことり先輩を真ん中に置いて。
「まあ、さすがはことりってところね。飛び抜けて可愛いのは確かよ」
にこ先輩が言う。
確かに他の女の子もみんな顔は綺麗だし、精一杯の笑顔でうつっているのだけれど。
なんというか、それだけなんだ。言っちゃ悪いけど。
そんな、ミナリンスキーのすごさに改めて気づかされる記事だった。
(つづく)
- 「ゆり二次」0310UP ( No.123 )
- 日時: 2017/03/11 00:49
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: 8rukhG7e)
『ラブライブ!』花陽×? 12
凛ちゃんとにこ先輩の注文した飲物がすっかりなくなって、仕方ないから二人とも最初に出されたお水をちびりちびり飲み始めた頃、
「お客さま」
声をかけてきたのは海未先輩だった。
「そろそろ、一時間になるのですが」
えッ? もう?
このお店では、入って一時間が経つと帰らなければいけない。
「なんか、あっという間な気がするにゃ」
凛ちゃんは物足りなさそうな顔をするけれど、にこ先輩はスマホを開いて時計を見ると「じゃ、仕方ないわね」と冷静だ。
引きとめるわけにもいかず、私はにこ先輩がやや強引に凛ちゃんを席から連れ去っていってしまうのを見るだけだった。
「テーブルの片づけはやっておきますから、カヨはレジへ行ってくれますか」
気づくと、レジには会計待ちのお客さん。
さらに入口付近には、これから入店待ちのお客さん。
いつの間にこんなに。さすが、有名なお店だ。
誰かが帰れば、誰かが入ってくる。仕事はつきない。
凛ちゃんたちが帰ったあとも私はここでお客さんをもてなし続けないといけないんだ。
「お待たせしました。伝票、おあずかりします」
お客さんから渡された注文票には、入店時刻と一緒に、帰る予定の時刻も書かれていて、私はそれをちらっと見た。
まだ14時50分——。
仕事の終わりは6時という約束だから、あと3時間もここに居ないといけないのか。
「412円のおつりです」
今日、何度目になるか分からない、同じ動作の繰り返し……のはずだった。
おつりとレシートを渡されたお客さんが、言いにくそうに申し出た。
312円しか渡してない。100円足りない。
私、おつりを間違えるミスをしてしまいました。
「申しわけございませんッ」
ここに来て、人生で初めての土下座——。
というわけではないけれど、深く頭を下げる。それを、
「ここはもういいから、カヨちゃん。ウミちゃんの方を手伝ってあげて」
ミナリンスキーがとめた。
そして私は気付く。
周りの視線もあるし、店員に頭を下げられたところで、お客さんも困ってしまう。
ここはさらっと謝って流すくらいがちょうどよかったんだ。
そしてその「周りの視線」の中に、凛ちゃんとにこ先輩が居た。
見られた……最悪。
にこ先輩はただ冷静にこの状況を見ているだけだったけれど、凛ちゃんは心配そうに私の方を見ていた。
いいわけしたくてもする時間がない。ミナリンスキーがテキパキとレジの処理をして、私は追い出されるようにホールの方へ行く。
なんていう失態……。
(つづく)
- ゆり二次0315UP ( No.124 )
- 日時: 2017/03/16 01:14
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: TjNkg5uO)
『ラブライブ!』花陽×? 13
時刻は15時30分——。
「あーあ……」
私はつまらなそうな溜息と一緒に休憩室から出てきた。
おつりを間違えるというミスの直後に休憩時間。
思い出すだけでも恥ずかしい。
たまたま凛ちゃんにもその現場を見られてしまうし、最悪だ。
胸がいっぱいで、持ってきたお弁当の味も覚えてない。
このままでは変な気持ちを引きずったままホールに出ることになってしまう。
もう、自分で自分をなぐさめてやるしかないじゃないか。こうなったら。
「……凛ちゃん」
キッチンのすみっこの、流し台のかげにかがみ込んで、スマホを開く。
スマホの「アルバム」の中に隠されている、凛ちゃん専用フォルダ。
制作、私。
たまに眠れない夜なんかがあると、お布団をかぶって、その中で凛ちゃんの画像ばかり見ていた。
もう夜も遅いのに。明日も学校なのに。何やってるんだ自分って思いながら。
それでついに、凛ちゃん専用のフォルダまで作ってしまった。
凛ちゃんの実物にはほとんど毎日会っているけれど、こうして画像の凛ちゃんと一対一になってみると、また別のドキドキがある。
制服姿の凛ちゃん。ダンスの練習着の時の凛ちゃん。
それから、いつだったか、勇気を出して撮影ボタンを押した、凛ちゃんの寝顔。この画像を手に入れた瞬間は、天に感謝したい気持ちだった。
と思ったら、今度は凛ちゃんの鼻のアップの写真が出てきた。少し下からのぞいた構図の、やたら即物的で、顔のパーツの一部にすぎない、凛ちゃんの鼻のアップ。
まあ、寝顔を撮る時に間違えて撮影ボタンを押した写真なんだけど、ピントは合ってるし、あとで独りで見ていたら消すのがもったいなくなってしまって、これはこれでいけるというか、まあ、こういう画像もあるからそのうち隠しファイルみたいにして専用フォルダまで作ってしまったんだった。
「……そこに居るのは、カヨちゃん?」
「ひぅッ」
ことり先輩の声がして、びくっとして立ち上がった。
流し台のかげに隠れるようにしていた私だけど、目の前に広がる光景は先ほどまで自分の居た仕事場だった。
「すみません。休憩時間、もう終わってました」
「うんん。それはべつに大丈夫なんだけど、カヨちゃん落ち込んでないかなーって思っちゃって」
「そ、それは……」
正直なところ、18時の終了まで失敗なしでいけるか不安な気持ちだ。
それと、ことり先輩には悪いけれど、同じことの繰り返しでイヤになってきている自分がいる。
アルバイトとかいって……始める前は、何か新鮮だなとか、お小遣い増えて欲しい物が買えるなって思って、わくわくもしたけど。
なんだか、今は投げやりになってしまいそう。
そんな私にことり先輩は言った。
「さっきは凛ちゃんがお客さんとして来てたけど、カヨちゃんは凛ちゃんを十分におもてなししてあげることができたかな?」
「えっと、それは……」
凛ちゃんはなぜか苦手なコーヒーばかり頼んでくるし、私が砂糖を入れてあげたら今度は入れ過ぎで飲めないほど甘くなっちゃうし。
あれで凛ちゃんが喜んでくれたかは分からない。
でも、結果はそうだけど、凛ちゃんをおもてなししてあげようっていう気持ちは本当だったはずだ。
私が心の中で思っていると、
「さっきのカヨちゃんは、十分に熱心だったと思うよ」
意外にも、ことり先輩はほめてくれた。
「そ、そうですかね……」
「うん。たまに失敗したとしても、あの熱心さと、ひたむきさは、立派なメイドさんだよ。まあ、凛ちゃんにかかりっきり過ぎだった気がしないでもないけど」
「あぅ……」
確かに。凛ちゃんにだけ気を配っていたかも。
「ただね、凛ちゃんの前で立派なメイドでいられたのなら、他のお客さんの前でもできるはずだよ」
さっきは凛ちゃんが相手だからって、もてなす方の私も楽しかったけど。
あれと同じように、他のお客さんにもしようってこと?
人生初のアルバイトをしている私にとって、凛ちゃんが来てくれたあの時間が、今日のピークだった気がしていた。
どういう流れで仕事するかっていうのは、ひと通り聞いてやってみたし、それで午後になって凛ちゃんが来てくれた。
私がメイドで、凛ちゃんがご主人さま。
私にとって特別な時間だったのはそこまでで、凛ちゃんが居なくなったら、あとはただ同じことをくり返すだけ。
そう思っていたところで、おつりを間違えるというミス。
「くッ……」
悔しさに、下くちびるをかむ。そして私は言う。
「分かった気がします。私におもてなしされた凛ちゃんも、おつりを間違えられたお客さんも、今日ここへ来てくれた大事なお客さんの一人だったっていうこと」
「にこちゃんは?」
「にこ先輩もです。忘れてないので大丈夫です」
私が言うと、ことり先輩はちらっとホールの方を見る。さっきよりはお客さんも減っていた。
「じゃあ、お仕事、再開しようか」
「はいッ」
こうして、気持ちの切り替えはできた。
けど。
大事なことを思い出した。
しまった。せっかくのシチュエーションだったのに、さっきは凛ちゃんのことを一度も「ご主人さま」って呼んでない。
あれでは、私はただメイド服を着ていただけで、二人の関係はいつも通りでしかなかったじゃないか。
「くッ……」
悔しさに下くちびるをかんだ。
もう一回。
もう一回だけやらせてって、凛ちゃんに言いたい。
(つづく)
- ゆり二次0323up ( No.125 )
- 日時: 2017/03/24 16:24
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: IGWEqUps)
『ラブライブ!』花陽×? 14
店内に設置された液晶に、海未先輩の自己紹介動画が流れている。
私たちが開店前に撮影したものだ。
映像の中で海未先輩は自己紹介をしつつ、お店のメニューも宣伝している。
その海未先輩の表情や喋り方が、今と全然違う。たった数時間前の映像なのに。
今の海未先輩は、もっと「活き活きした」感じがするし、それに、なんというか、かわいい。そのかわいさが、朝に比べると、ずっと自然な感じなんだ。
海未先輩って、私ほどではないにしろ恥ずかしがりやで、あんまりかわいい衣装とか着て人前に出るのは苦手なタイプって思ってた。
それなのに、どうしてこんなに頑張るんだろうって、思わなくもない。
そういえば昔、真姫ちゃんが海未先輩にポーズや表情のアドバイスをしたことがあった。
カメラを向けてみても、いまいち表情が硬いとか、ポーズのバリエーションが少な過ぎるとか。
真姫ちゃんはちょっときつい言葉でズバズバ指摘するし、海未先輩は表情もポーズもすぐにネタが切れてどうすればいいか分からずカメラの前で固まってしまうし。
そのうちに、真姫ちゃんが「こうしたらいい」とか「こういうのもある」と、海未先輩を自分の思ったように操りはじめた。
「真姫が、私に色々な写真うつりのコツというものを伝授してくれました」
海未先輩が、感謝の意を込めつつ語っていたっけ。
「もっと、上目遣いで、甘えるような目でカメラを見てみなさいとか。私が、甘える相手とは誰なんですかと聞くと、真姫は『例えば年上の優しい男性よ。パパ……じゃなくて、例えば、お兄さんとか』って言うんです。私が、お兄さんなんて居ませんと言うと、真姫は顔を赤くして『イメージでいいのよ、イメージで! 理想像よ、あくまで!』って言います。とりあえず言われるままにやってみたら、『いいわね、その表情よ。じゃあ今度は、自分の親指をそっとくわえてみて』と言うので、やってみたら……」
と、こんな話をする海未先輩は、真剣そのもので、恥ずかしさとか、自信のなさとかはどっかに消えていた。
弓道をしている時の海未先輩と、表情とかは全然違うけど、どちらも「真剣なんだ」って感じがする。そこは一緒だ。
それで今日はキュアメイド喫茶の、メイドのウミ。
穂乃果先輩は別物というか、与えられた役割を最初から楽しんで、しかもそれでうまくいっちゃってるんだけど、そんな穂乃果先輩を横目に見つつ、ちょっと違ったタイプの海未先輩も良い勝負をしてるって気がする。
二人が並んでるのなんて、本当に良い絵になってる。
私は今日の仕事をスクールアイドルの活動に比べたら地味と思っていたかもしれない。
でもそういう気持ちが少しでもお客さんに伝わっていたとしたら、それは嫌だ。
今はキュアメイド喫茶のメイドなんだから、与えられた役割をまっとうしないと。
時刻は17時になっていた。
「花陽ちゃん」
ことり先輩が声をかけてきてくれる。
「もうすぐ終わりだね。この時間までやってみて、今はどう?」
疲れた身体に、先輩の声かけが嬉しい。
私は短く返事をしただけだけど、先輩は私の表情から充分に読み取ったらしく、安心したように微笑む。
私は午前中と同じ、単調な作業を繰り返していただけだ。
でも心構えみたいなものは、だいぶしっかりしてきたと思う。
やってることは同じでも、その一回一回を集中してやってみた。
それで時間の流れも速く感じるようになった。
ただ時間が経つのを待って、終われば帰れるとか、そういう姿勢でいると逆に苦痛であることが分かった……ような気がする。だって、退屈なだけだもの。
なんというか、充実感が今はある。
「何にでも一生懸命で、えらいね花陽ちゃんは。昼頃までに比べて顔つきも変わったよ」
「そう……ですかね」
ことり先輩に顔をのぞきこまれて恥ずかしい。ことり先輩の顔が、今日最高の近さだったかも。今。
昼か……。おつりを間違えるなんて、普通だったらありえないミスまでして。思い出すだけでイヤになる。
自信なさそうにしていたら、ことり先輩が言う。
「おつりの間違えくらいなら、わたしだってやったことあるよ」
「え?」
本当なの? と思って、つい聞き返してしまう。
「うん、本当。あの時は、お金の計算もできないのかって、すごく自分を責めてしまったけど……そういう失敗も経験なのかもしれない」
ことり先輩は、説教くさい雰囲気に耐えられなくなったように「なーんてことを、今では思ったりなんかして」と笑ってごまかした。
先輩でも、失敗してるんだ。
「自分だけじゃない」って思うと、気持ちが急に軽くなる。
もちろん、そういうのに甘えてはいけないんだけど。
さっきまでは同じことの繰り返しって思ってたアルバイトが、実は奥が深かったりして。
日々に対するおどろきは、意外とこんなところにあるのかも。
この場所でしばらくがんばってみたら、私も大きく成長できるのかな。
今よりいろんなことを経験して、苦労して、強い私になれる未来。
残念ながら今度のアルバイトは夏休みだけだから、見ることのできない未来だけど。
「じゃあ、お店のことは今日はもうこれぐらいにして」
ことり先輩が時計を見て言った。
「せっかく穂乃果ちゃん海未ちゃん花陽ちゃんも居るから、一曲歌うよ。みなさんの前で!」
(つづく)
- ゆり二次 0410UP ( No.126 )
- 日時: 2017/04/10 20:27
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: AFVnreeh)
『ラブライブ!』花陽×? 14
「一曲歌うよ、みなさんの前で!」
と言われた十分後——。
私たちは秋葉原の街頭に出ていた。
中央通りぞいに、見慣れたようでめまぐるしく変化していくビルが立ち並んで、遠くには電車の走る高架線が見える。
そんな所で私たちはマイクをもたされて、持ち運べるくらいに軽いスピーカーを左右に置いて、ガードレールを背にして立つ。
衣装はメイド服のまま。
目の前を行きかうのは、とても多くの人々。
今日、秋葉原へ来たみなさん……。
「ことりちゃん」
穂乃果先輩が疑問を口にする。
「みなさんの前で歌うって言ってたけど、それってお店のお客さんじゃなくて」
「そう」
ことり先輩がニコッとして、
「秋葉原のみなさんだよ」
なんとなく答えは分かっていたけど、穂乃果先輩と海未先輩が「えーッ!」とおどろく。
「秋葉原で路上ライブやってるひとって、あんまり見たことないんだけど……」
多くの通行人を前にして、穂乃果先輩がやや不安そうに言う。
「そうですよ。それに」
海未先輩がとても不安そうにして、ことり先輩の無邪気な笑顔を間近に見る。
「許可の問題とか、色々あるのでは……」
「ないよ」
「ありますって絶対」
「大丈夫だよ。アキバはミューズの所有地みたいなものだから」
ことり先輩は当たり前のことのようにさらっと言う。
「どこがです……」
「まー、それはちょっと言い過ぎかもしれないけど、わたしにとってはね、なんていうのかな、『受け容れてもらえる』っていうのを感じる、そういう場所なんだ。秋葉原は」
「あっ……」
そう言われて、穂乃果先輩と海未先輩は、何かに気づいたように無言になった。
私も、同じことを感じていたかもしれない。
今回、事のなりゆきに任せていたら、私はメイド喫茶で働いていた。
私みたいに人前に出るのが苦手っていう子でも、心の内ではそういうことしてみたいって気持ちがあったと思う。
だけど、思い切ってやってみたら本当にうまくいったっていうのは、多分、自分の力だけじゃなくて、それを受け容れてくれる場所があったからこそなんだ。
スクールアイドルの活動もまさにそれ。
私たちが、音乃木坂ではうまくいったこと。
それが、秋葉原ではどうなのだろう。
気がつくと、さっきは忙しげに通り過ぎていくだけだったひとたちの流れが、ゆるやかになっている。
邪魔にならないよう、道の端っこに立ち止まって、私たちを見ているひとたち。
通行人の中から「観客」ができてきている。
同じ年くらいの女の子がほとんどだけど、男の子も少し。
「花陽ちゃん」
周囲のざわめきの中からことり先輩の声がして、振り向いた。
「花陽ちゃんがセンターポジションで、歌い出しも花陽ちゃんだよ」
「で、でも。キュアメイド喫茶で一番人気があるのはことり先輩だし、穂乃果先輩や海未先輩だってお客さんを楽しませていたのに」
「そうやってほめられるなら、花陽ちゃんにだって同じことが当てはまるよ」
微笑むことり先輩の横で、穂乃果先輩と海未先輩も、納得しているようにうなずいて、私を見つめた。
「分かりました。やります」
私はマイクを両手で重ねるようにして持って、目を閉じる。
——今こうしていられることに、感謝している。
ふーっと、深く息をしてから、目を開けた。
そして私は大きな声で喋りはじめた。私たちを見てくれている、お客さんたちの前で。
私たちは、キュアメイド喫茶のメイドであること。
そしてミューズというグループのこと。
喋っているうちにお客さんたちの注目がますます集まってきた。
不思議な感覚に包まれる。
早く歌いたい。
私をセンターにして、先輩三人がそれぞれの位置について、歌の姿勢に入る。
——秋葉原が、私にとってどんな場所なのか。
そんな気持ちを込めて歌います。
曲は「ワンダー・ゾーン」。
(つづく)
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