BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- ゆり二次・創作短編集【GL・百合】(更新終了)
- 日時: 2017/05/09 18:32
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: MbxSjGAk)
参照、ありがとうございます。あるまです。
BLではなくGLです。百合作品というやつです。
2013年10月から2017年5月まで書いてきた、好きなアニメの二次創作です。
いちおう作者の本気度はそれなりに高いはずなので、お暇でしたら見てやってください。
よろしくお願いします!
___目次___
『ゆるゆり』 千夏×あかり >>01
『ひだまりスケッチ』 なずな×乃梨 >>03
『ゆゆ式』 ゆい×ゆず子×ゆかり >>11
『スイートプリキュア』 響×奏 >>13
『キルミーベイベー』 やすな×ソーニャ >>18
『らき☆すた』 かがみ×こなた >>21
『のんのんびより』 蛍×小鞠 >>24 >>25
『恋愛ラボ』 夏緒×莉子 >>31
『ヤマノススメ』あおい×ひなた >>37 >>38
『中二病でも恋がしたい!』丹生谷×凸守 >>41 >>42
『ご注文はうさぎですか?』チノ×ココア >>49 >>50
『咲-Saki-』咲×衣 >>53 >>54 >>55 >>56 >>57
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65
『生徒会役員共』アリア×シノ >>69 >>73 >>76
『あいまいみー』愛×ミイ >>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>90
『ドキドキ!プリキュア』レジーナ×マナ(まこぴー?)>>96 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
『ラブライブ!』花陽×? >>109 >>110 >>111 >>112>>113-114 >>115-116>>117>>118>>119 >>120-121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127 >>128 >>129
- 0430UP、ラブライブ二次(凛とラーメン) ( No.117 )
- 日時: 2016/04/30 20:17
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 7
私は、白いご飯を「魔法のパートナーです」って、ちょっと恥ずかしい表現をしたけれど。
そのご飯が、私と凛ちゃんをつなぎとめてくれたことがある。
だから「魔法」なんだ。
私たちは音乃木坂の中学校を卒業するとそのまま高校に進学した。
凛ちゃんとは幼稚園の頃から一緒で、高校生になってもずっと一緒でいられると思っていた。
だけど——。
「高校デビューだにゃー!」
四月のある日、授業が終わると凛ちゃんはそう言って席から立ち上がった。
目的地は、ラーメン屋さん。
凛ちゃんにとっては放課後にラーメンを食べに行くという「外食の自由」が高校生になった証だったらしい。
「かよちん、また明日ね!」
学校を出てまだそんなに歩いていないのに、凛ちゃんはラーメン屋が見えると楽しそうにそっちへ行ってしまう。
凛ちゃんは堂々とノレンをくぐって男性客の中に混じっていき、肩をぶつけ合うようにして丸椅子に座る。
私は店の外で、ノレンの下に見える凛ちゃんのお腹から下だけしばらく見ていたけど、ずっとそうしているわけにもいかないので独りで帰った。
「今度は遠征だにゃー!」
凛ちゃんは秋葉原や神田だけでは飽き足らず、そのうち総武線に乗って水道橋や飯田橋のお店まで行くようになった。
後日、私は思い切ってついていくことにした。
すると、凛ちゃんは神田の手近なお店を選んでくれた。
地元の有名なお店でその日も行列ができていたのだけれど、私にとっては知ってはいても毎回ただ素通りするだけのお店だった。
——かよちん、近所の民家が迷惑するからお店の外では私語厳禁だよ。
凛ちゃんは慣れた風で、私を連れて行列に加わるとそれっきり黙ってしまった。
油っこいぬくぬくした匂いが外までしていて、建物の脇には赤いビールケースが積まれていた。
いざ席に着いてみても狭いし、混んでるしで、凛ちゃんから「何にする?」と聞かれても「凛ちゃんと同じのでいい」としか言えなかった。
肩をちぢめるようにして待つうちに、ラーメンが届いた。
すると凛ちゃんは、楽しそうにこう言った。
「ラーメンはさー、まず『お顔』から見たくなるよね」
「お顔?」
横を見ると、凛ちゃんはどんぶりの縁にそっと両手を添えて、ラーメンの盛り付けをただジッと眺めている。
「食べる前に、いつもこうして眺めるんだー。店によって表情が違うもんね」
「……なるほど」
そう言われて私もじっくり見てみたけれど、とんこつラーメンのスープがミルクみたいに白くてきらきらしていたのを今でも思い出せる。
ラーメンは一口食べた瞬間から、とっても美味しかった。
「ここはトッピングが無料なんだよ」
凛ちゃんがカウンターテーブルに置いてあるワカメやコーンをどんどん足していって、私のどんぶりにまで入れてくる。
ラーメンの中へお箸を入れる度に味が変わっていく。
「かよちん、替玉を一緒に頼む?」
凛ちゃんがお財布から百円玉を出して私に聞く。店内に貼り付けられた『替玉百円』の意味がやっと分かってきた。
「どうしたのかよちん。まだ食べられるでしょ」
「えっと……私は」
確かにまだ食べられなくはないけれど、足りないのは麺じゃない気がしていた。
その足りない何かに気づいたのは、私より凛ちゃんの方が先だった。
「そうだ、ご飯がないよね。かよちん、半ライスも百円だよ」
「ライス? ラーメンに?」
「うん。これが普通に合うんだにゃ」
凛ちゃんの提案で、色彩あざやかだったラーメンの横に、真っ白なご飯が顔をそろえた。
「合うでしょ」
「うん」
ラーメンを一口、ご飯を一口。それからレンゲでスープを飲んで。
「ラーメンまで好きにさせるんだから、かよちんにとってご飯は魔法のパートナーだにゃ」
「魔法の、パートナー?」
「にゃはは。今の表現はやっぱり恥ずかしいから、忘れて」
それからはお互い食べることに集中した。
二人でひたすら黙って麺をすする時間がとても貴重に思えた。
店を出ると私は制服の袖のにおいばかり嗅いでしまった。
でも今は凛ちゃんも同じにおいがしているんだ。
そう思うと満たされた気分だった。
(つづく)
- 0808UP ラブライブ二次 ( No.118 )
- 日時: 2016/08/09 01:16
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 8
「花陽ちゃん、30分だけ休憩入って」
「はい」
「15時になったら穂乃果ちゃんが休憩終わるから、それと交代ね。ごめんね遅くなっちゃって」
ことり先輩に言われて私は静かな休憩室に入った。
無機質な長机にひじを置いて、ふーっと溜息をつく。
お店が繁盛していただけにこれまで休憩する暇がなかった。
私のバイトデビューから、やっと5時間が経過したわけだ。
店は10時開店。お客さんが入ってからの対応は開店前に練習したとおりだけど、いざお客さんを目の前にすると緊張しちゃってうまくできなかった。
言葉はなめらかに出てこないでメニューの名前もうまく言えなかったり、確認のもれがあって一度はオーダーを取ったお客さんのところへまた戻らなければならなかったり。
海未先輩も似たようなものだったけれど。
そんな中で穂乃果先輩だけは初めからうまくできていた。機械的に注文を取るだけじゃなくて、一言や二言だけでもお客さんと会話をしてみたりして、上機嫌のお客さんから制服の可愛いことを誉められたりもしていた。
しかし穂乃果先輩は厨房でミスするんだ。
水の入ったコップをトレーに載せて運ばせれば、とりあえず引っくり返してこぼす。
そばに居た海未先輩に、頭からドバッとかけてしまった。
プラスチック製のコップが床に転がって、穂乃果先輩の目の前には、水をかぶった海未先輩。
「……お客さんでなくてよかった」
半笑いの穂乃果先輩が、言った。
「よくないです!」
海未先輩が怒り出した。まあ、当たり前だけど。
「あなたは水があれば誰かにかけずにはいられないんですか」
「その相手が海未ちゃんでよかったよ」
「だからよくないですって! これではまるでオトリです、私は」
海未先輩のアゴから水がしたたり落ちた。左足と右足の間には水溜まりができてきている。
それでも今は仕事中。お店が優先ということで、
「海未ちゃん、お願い。今はゆるしてあげて」
という、ことり先輩の一言でどうにかおさまった。
——はずだったのだけれど。
水の次はパスタだった。
どういう意味かというと、さっきは水の入ったコップをトレーごと引っくり返した穂乃果先輩が、今度はお皿に盛られたパスタを丸ごと一人前こぼしたということである。
穂乃果先輩のにぎっていた平たいお皿から、パスタの部分だけがフリスビーのようにすべって飛んでいくのを私は見た。
お皿が平たいとはいってもスープではないのだし、まさかこぼすとは思わなかった。
でも海未先輩は予測していたようで、パスタがお皿から離脱した瞬間には身をかわしていた。海未先輩の立っていた位置に、飛んできたパスタが落ちた。
「びっくりしたぁ」
穂乃果先輩がまたしても半笑いで、言う。
「ミートソースのスパゲティがこんなにすべるとは知らなかったよ」
「すべりませんけど。でもあなたは特別だからこうなることもあろうかと思っていましたよ」
海未先輩は、このお店のパスタはゆであがった後でバターをからめるから、パスタはバターの油でつるつるしている。だから平たいお皿に盛るとすべってこぼすこともある、という。
なるほどね。
うん。読めないです、そこまで。
「さすがは海未ちゃんだね」
穂乃果先輩が誉めた。
「さすがじゃなくて、気をつけてください。お水とは違うんだから、さっきみたいに頭からかぶっていたらどうなっていたか」
そこへことり先輩が掃除の道具を持ってやって来た。危機感ゼロの笑顔を浮かべながら、
「私も昔やったよ。パスタってすべるんだよね」
と言う。
「すべりませんって、こんなに」
ことり先輩は穂乃果先輩に同意を示していたが、今度は海未先輩の目を見る。
「私の時はカルボナーラだったよ、海未ちゃん」
「料理名はどうでもいいですわ! もう一度言いますけど熱々ですよ。ゆでた麺の破壊力とか考えたことあります?」
海未先輩がにじり寄る。穂乃果先輩は少し後ずさりして言った。
「確かに。海未ちゃんがオトリになってくれなきゃどうなっていたか」
「なりませんよ、オトリには」
「海未ちゃん……パスタ好きじゃないの?」
「好きですけど頭からかぶるほど好きではありません」
二人のやり取りを見て、またしてもことり先輩が、
「海未ちゃん、お願い!」
お祈りする時のように両手を組み合わせて海未先輩を見つめるが、
「嫌です」
今度ばかりは海未先輩も拒否した。
「まだ何をお願いするかは言ってないよ」
「オトリになってくれってことでしょ? っていうか、なんでお皿やコップを引っくり返すひとと、それを受け止めるひとが最低一人はいる前提なんですか。そもそも穂乃果が気をつければそれで済む話しじゃないですか」
海未先輩がここまで言うと、ことり先輩はポケーッとした表情で黙り込んだ。
ちょっとの間を置いてから、海未先輩の話しを理解したようで、急に冷静になり、
「だってさ。穂乃果ちゃん」
ボソッと、隣の穂乃果先輩に言う。
「じゃー仕方ないね」
穂乃果先輩が言った。
ふざけるのはもうおしまい、というように、その後はきちんと掃除をして、みんな自分の仕事へと戻った。
(つづく)
- 0814UP ( No.119 )
- 日時: 2016/08/14 14:22
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 9
厨房では「困ったちゃん」な穂乃果先輩だけど、お客さんには既に人気だ。
お客さんに紅茶を配膳する時には、カップやティーポットと一緒に、角砂糖の入った器も一緒に持っていって、
「砂糖はおいくつですか、ご主人さま」
と聞くのだけれど。
その時のお客さんの顔が、なんとも嬉しそうなのだ。
穂乃果先輩が落ち着いた動作でゆっくりと角砂糖を紅茶の中へ溶かし込んでいくのを、みんな嬉しそうに見ている。それも、男女関係なく。
そのうち「こっちも角砂糖、お願いします」と声がかかる。他の席からもだ。
みんな、砂糖を追加したいがためだけに穂乃果先輩を呼んでいる。明らかに、穂乃果先輩に入れてもらいたいみたいだ。
「今日は紅茶がよく売れるねー」
キッチンとホールの中間に立って、ことり先輩が言った。
なので隣に居た私も、
「そうですねー」
と、やや気の抜けた返事をしつつ、顔を横に向けたら、
「はッ…………」
思わず息を飲んでしまった。
海未先輩がキッチンの内側からすごい形相で穂乃果先輩の方を見ている。
でき上がった料理をホールへ渡すためのステンレス製の台が上と下で二段になっているのだけれど、そのすき間から穂乃果先輩を、というか、穂乃果先輩と楽しそうに喋っているお客さんを見ていた。
「紅茶の追加オーダーがいっぱい入ったよ」
穂乃果先輩がニコニコしながら帰ってきた。そして、角砂糖の器が空っぽになったのを見せながら、
「えへへへ……『角砂糖の女の子』って言われちゃった」
と、照れてみせる。
いいな。そういうあだ名なら、私も呼ばれてみたいかも。
注文をたくさん取ってきた穂乃果先輩を、ことり先輩は誉めた。私も素直に「すごい人気ですね、先輩」と声をかける。
「あははは、二人ともありがとう。この調子で頑張るね。……あれ? 海未ちゃん、どうしたの? 怖い顔して」
穂乃果先輩が、じーっと不満げに自分を見つめる海未先輩の視線に気づいた。
「さすが穂乃果。お客さんと仲良くなるの早いですね」
「なーに言ってるの。海未ちゃんだってできるよ」
「いいえ」
海未先輩は否定し、背中を向けてつぶやいた。
「ここはライブと違って、お客さんが近過ぎて……」
「近くて何が悪いの」
「え?」
いつの間にか、海未先輩の背中に、穂乃果先輩がぴったり寄り添っている。海未先輩のうなじに吐息がかかりそうなぐらいに。
「ちょっと穂乃果……近いです」
海未先輩が離れようとすると、穂乃果先輩がぴったり歩を合わせてくる。
「海未ちゃんはこんなに可愛いんだもの。こんな可愛い海未ちゃんを間近で見られるなんて、今日のお客さんは幸せだよ」
「ちょっ……いい加減なこと言わないでください」
海未先輩が顔をそむける。
それでも相変わらず、二人の身体は密着したままだ。
「ね、花陽ちゃんもそう思うでしょ」
穂乃果先輩が私に振ってくるので、「うんうん!」と激しく同意しておく。
確かに、ライブっていうのはお客さんとの距離が決まっているものだ。
舞台と席の間には、しっかり隔たりがあるし。
海未先輩でも舞台上で歌って踊ることは、なぜかできている。
それに比べると、今日はお客さんとの距離が近いわけだ。
まあ、今の二人は近過ぎだけど。
「もう……離れてくださいって」
もがく海未先輩の両ひじを、穂乃果先輩ががっちりおさえている。
「海未ちゃんは可愛い」
「それもやめてください」
「海未ちゃんが認めるまで、誉めるのをやめない」
穂乃果先輩は「海未ちゃんは可愛い」と言いながら今度は頭をなではじめる。
「あー、もう。分かりました。私は可愛いってことでいいです」
くすぐられるのも限界、というように海未先輩が言うと、穂乃果先輩はやっと身体を離して、
「なんか投げやりだね」
取っ組み合いの後で、ちょっとバテ気味に言う。
「私は可愛いです! これでいい?」
海未先輩は開き直ったように、今度ははっきりと穂乃果先輩の目を見て言った。
「ただし、私に言わせればあなたの方が絶対可愛いですよ、穂乃果!」
時間が止まった。
子供みたいにじゃれていた穂乃果先輩が、急に胸を打たれたような表情をして、海未先輩を見つめている。
なんと言っていいのか分からず、しばらく穂乃果先輩は唇の間から綺麗な白い歯だけをのぞかせていたが、
「……と、とりあえず……ありがとう」
震える声で言って、落ち着きなく目をパチクリさせる。
力で海未先輩を押さえつけていた穂乃果先輩が、急に女の子になったみたい。
「も、もちろん」
海未先輩は二人だけの空間に耐えられなくなったのか、今度は私やことり先輩の方を見て言った。
「ことりも同じくらい可愛いですし、花陽も同じくらい可愛いです。私に言わせれば」
一人だけ抜きん出た穂乃果先輩が、私とことり先輩の同列に直された。
そうやって修正してこの場はおさまったみたいだ。
でもちょっぴり残念だったりして。
(つづく)
- ゆり二次0829UP ( No.120 )
- 日時: 2016/08/29 22:12
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 10A
午後のゴミ出しを頼まれて、私は今、店の外に居る。
店のすぐ裏に出しておけば業者が来た時に回収してくれると、ことり先輩は言っていた。
こんな用事のついででも、ひとりでお店の外に出られるのは良い気分転換になりそうだ。
だって朝の9時からずっとあの店内に居たのだから。外の空気だって吸いたくなる。
指定された場所へ行くと既にゴミ袋の山ができていた。その山のてっぺんを目がけて、自分が持ってきた袋を両手で力いっぱいに放った。
これであとはお店に戻るだけだけど、どうしようか。ゆっくり戻った方が休めていいかなと思ったりして。
そこへ、
「かよちん!」
声をかけられた。
見ると、凛ちゃんが居る。そしてなぜか、にこ先輩も。
凛ちゃんはいつもの動きやすくてカラフルな服装の上に今度は白い薄手のパーカーを羽織っていた。
にこ先輩は下はミニスカートだけど日焼けを気にしてなのか上は長袖で、ちょっと気取った感じのサングラスをしている。
「二人とも、どうしてここに?」
「かよちんのお店を探してたんだよ」
凛ちゃんが嬉しそうに言った。
「午後に行くって言ったでしょ。それでね、にこ先輩なら秋葉原にも詳しいからかよちんのお店がすぐ分かると思って、連れてきたんだ。どうせ暇だろうし」
「あたしが暇なのは今日だけ。たまたまよ」
にこ先輩が訂正して、不機嫌そうに目を細めた。
凛ちゃんは私の制服を見ては、可愛いと言って誉めてくれた。
でも初めて会うのがゴミ出しの瞬間だっていうのは、ちょっと決まりが悪かったかな。
「来てくれてありがとう。じゃあ案内するね」
3人で薄暗い雑居ビルの急な階段をのぼっていく。遠くで建設工事の音がしている。
ビルの二階がどっかの会社の事務所で、三階が私たちのお店。重い扉を一枚開ければ別世界だ。
店内に入ってちょうどいちばん近い席が空いていたので二人をそこに通した。
「あれー? 二人ともどうしたの?」
最初に気づいたのは穂乃果先輩だった。トレーに載せたメニューを運んでいる最中で、忙しそうだ。
「ごめんー。今、にこちゃんの相手してる暇ないんだ。仕事中だから」
「あたしは客よ!」
にこ先輩が遠ざかる穂乃果先輩の背中に向かって叫ぶ。
今度は海未先輩が通りかかったので、私が声をかけた。
「海未先輩! 凛ちゃんとにこ先輩が来てくれましたよ」
だが海未先輩も穂乃果先輩と同じように料理を運んでいる。立ち止まって微笑み、「そうですか。来てくれてありがとうございます」と言ってはくれたけど、他のお客さんのところへ行ってしまった。
「まあ、仕方ない反応よね」
にこ先輩が言う。
ことり先輩の姿も見えないし、なんなんだろう、せっかく凛ちゃんとにこ先輩が来てくれたのに。
そういうことなら、私がぜんぶ対応してやろうじゃないか。凛ちゃんを……凛ちゃんとにこ先輩を、精一杯、おもてなししてやろうじゃないか。
「ドリンクメニューはいかがなさいます、ご主人さま」
「あたしは白ぶどうジュースで」
「凛は……コーヒーでいいにゃ」
「コーヒー? 凛ちゃんが?」
「うん」
「分かった。アイスカフェオレだよね」
「うんん。ブラックコーヒーを、ホットでお願いしますにゃ」
なんと。
ブラックコーヒーなんて、ちっとも甘くないもの。どこが美味しいんだろうって。私たち二人は言い合っていたものなのに。語り合っていたものなのに。その昔。
「……かよちん、どうしたの? 大丈夫?」
「……え?」
見ると凛ちゃんが心配そうな顔をしていた。
「心ここにあらずって表情、してたわよ」
にこ先輩が言う。
いけないいけない。コーヒーを頼んだ凛ちゃんは、もしかすると大人になってしまったのかって、一瞬でも想像したら私の心がどっかへ行ってしまっていた。
私は落ち着きを取り戻し、言う。
「……かしこまりました。ブラックコーヒーですね。やってみましょう」
「定番メニューだにゃ?」
ドリンクは自分で作っていいことになっているので、私は厨房に入って二人分のそれを作る。
凛ちゃんのコーヒーを……凛ちゃんに美味しく飲んでいただくコーヒーを、淹れます!
まあボタンを押すだけなんだけど。ポチッとね。
コーヒー用のサーバーから震動音がして、とぽぽぽ……とコーヒーが出てくる。
私は真っ白でつやつやしたカップに熱々のコーヒーが注がれるのを、じーっと見ていた。
少しでも美味しくなるようにと、念じつつ。
- 0829UP ( No.121 )
- 日時: 2016/08/29 22:20
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: klNaObGQ)
『ラブライブ!』花陽×? 10B
「お待たせいたしました。ブラックコーヒーと、白ぶどうジュースでございます」
「ちょっと。これ、炭酸抜けてないわよね?」
にこ先輩がテーブルにあごを乗せるようにして、出された白ぶどうジュースを見つめる。
冷たいグラスの底から、炭酸の泡がぷかぷかと浮き上がってくる。
「はい。コーヒーより先に入れてしまいましたので」
「炭酸が後でしょ普通! まあいいわ」
にこ先輩はストローを用意すると、軽くくわえる。
「花陽はコーヒーがうまくできたかどうかで、頭いっぱいみたいね」
としゃべるにこ先輩の口元で、くわえたストローが上下に揺れる。
コーヒーを飲んだ凛ちゃんがどんな反応をするのだろう。私とにこ先輩の視線が向けられる中、凛ちゃんがコーヒーを一口すすって、
「やっぱ苦いッ」
辛そうな顔をして飲むのをやめてしまった。
でも私には、それが嬉しかった。
にこ先輩は凛ちゃんが美味しいと言ってくれないのを見て、「ふふ、残念だったわね」と賭けに勝ったように得意げな顔で私の方を見たが、私のにやけた表情を見ると「って、どっちなのよ!」と声をあげる。
「ちょっと花陽。凛はブラックコーヒーなんて飲めないでしょ?」
「みたいですね」
「もー。飲まないんじゃもったいないから、あたしのジュースと交換してあげるわよ、凛」
こうなることを予想していたか、にこ先輩は白ぶどうジュースをまだ飲んでいなかった。
真っ黒なコーヒーとは全然違う、透明で甘い香りのするジュースを凛ちゃんに差し出そうとする。
なので私は、
「ぬぁー、ダメです! ダメダメー!」
それを手でさえぎる。
「一体なんなのよ!」
にこ先輩がびっくりした顔で言った。
「さ、さささささ、砂糖あるから。砂糖!」
「お砂糖?」
凛ちゃんが首をかしげて聞く。
私はトレーに載せてきた秘密兵器——というほどのものではないが、角砂糖を入れる小さな器の、模様だけは高級そうなフタをそっと開けた。
「ほら、凛ちゃん。お砂糖だよ。これ入れれば、コーヒーだって飲めるでしょ」
小さなトングで角砂糖をつまんで、コーヒーの中へと落とす。
「あ、あはは……ありがとう」
それでも凛ちゃんは、あまり喜んでくれない。それどころか、やや困った顔をして固まるだけだった。
「お砂糖……足りないかな? 分かったよ。凛ちゃんでも飲めるように、もっとたくさん入れてあげるね」
「えッ。ちょ、ちょっと待っ……」
私は「甘くなーれ」と言う度に角砂糖をぽちゃんと落としていく。
「甘くなーれ、甘くなーれ、甘くなーれ……」
ぽちゃん、ぽちゃん。いくつもの白い砂のカタマリが、コーヒーの底へと沈んでいく。
「うぅ……もうやめてにゃ、かよちん」
凛ちゃんは、どういうわけか、お仕置きでもされているみたいに辛そうな顔をしていた。
「凛……飲むから。がんばって飲むから、もうそれ以上、入れないで……。お砂糖だけは今は、かんべんしてにゃ」
凛ちゃんはカップを両手で持って、そっと一口すする。
そしてすぐに真下を向いて黙り込んだ。
髪の毛で隠れちゃって表情は見えないけど、細い首のあたりがぷるぷる震えている。
「あま……あま……ッッッッッッ、ほ、ほとんど砂糖だにゃ。砂糖にコーヒーの味がついてるだけだにゃ」
にこ先輩が凛ちゃんからカップを奪って、ギトギトに甘いコーヒーを一口飲み、
「どうするのよ、こんなにしちゃって。誰も飲めないわよ」
責めるような目で私を見る。
「……作り直します。ご主人さま」
「じゃあアイスカフェオレ」
凛ちゃんはすぐに手を上げてこっちを見た。少し涙目で。
(つづく)
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