複雑・ファジー小説

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Gray Wolf
日時: 2011/05/19 17:52
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』



ただひたすらに雫を降らす闇の雲。

その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。

その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。

その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。

女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。

もう、死んでいる。


視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。


何故。

何故なんだ。

何故こんなにも冷たい。

何故死んだ。

何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。



少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。







「ちくしょお‥‥‥」









はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。


《作者コメント》 4月7日
Gray Wolf、引越ししました! イエーイ!!
これからはここ、複雑・ファジーで描いていきたいと思います!!



《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。


《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様からキャラ紹介を参考にキャラ画像を募集し続けます。

・作者の描いたキャラクター達 >>13



キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>12
キャラクター紹介・二 >>57


グレウル用語集
基本用語 >>14
魔術用語 >>15

《目次》

〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>5
【第2章:姫守りし騎士】 >>43

Re: Gray Wolf  移りました ( No.51 )
日時: 2011/04/07 19:22
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

この前の騒動から3日経ち、怪我を負ったユーリとレン。
レンは肋骨一本ひびが入った感覚がしたが、あまりの衝撃にどうやら他の骨にも影響が出たらしい。
とりあえず、2週間以上は安静が必要ではあるが、そのレンに今のレフィを抑えつけるのは酷な話だ。
ユーリもまた、切り傷も深く、致命傷でなかったものの、出血も酷く、放って置けば命に関わる程の物だった。
勿論それも一命を取り留め、無事ではあった。
そして、シエラやレフィ、そして一応歩きだけなら出来るレンは、合鍵を借り、ユーリの家に見舞いに来ている。
それは良いのだが————————


「来ねえな。 連絡」
「うん‥‥‥」
ユーリは部屋の隅にある電話を見つめて言い、シエラが同調する。


————————

南区中心街サウスセントラルへ護送され、取調べを受けたユーリ。
と言っても、その手の事は日常茶飯事であり、いつも諸注意だけで釈放されている。
それは、ユーリのやっている事はほぼ正当防衛というか、公共的に利益なので、それについては軍も咎められない。
キメラがいるこの世で、あまり厳しく銃刀法を定める事もできない。
また、ユーリの所業については、上層部は懐広く受け入れているため、後ろ盾があるわけである。

「‥‥‥全く」
腕組みをして、取調室に入るレイン。
彼の視界の真ん中には、チョコパフェはのほほんと食べているユーリ。 既に病院での治療は終わらせている。
2回目の取調べで、「極東の国じゃ取調べに『カツ丼』を出すのが常識なんだよ!!」と冗談混じりで言った所、まだ彼についてよく知らない新人が『Katsudon』とやらの代わりにパフェを出してしまったらしい。
以来、彼が取調べを受ける際はギャグという事でパフェを出している。
———————南方軍(ウチ)は本当に大丈夫か?
毎度の事ながら、心配してしまう。
ユーリの向かい側、机越しにある椅子に座り、向き合う。
「さて、君と戦っていた彼だけど‥‥‥」
「ああ、そうそう。 あいつどうしたんだ?」
スプーンをレインに向け、口元にクリームをつけているのも気にせず言う。
「‥‥‥釈放された」
「何ぃ!?」
変わらない口調で普通のように言ったレインの言葉に、ユーリは驚く。
それから口元のクリームを舌で舐めとって、彼の話を聞く。
「どうやら彼の追いかけた者達はマフィアらしい。 どうやら、裏切った仲間を殺そうとしたところを止めたそうだが、そしたら今度は彼の方を襲ったそうだ」
ふーん、といまいち納得が難しい様にユーリは返事をする。
しかし、同時にあることに思い至った。
———————すると、シエラ達は?
「それと、シエラさんとロートスシティ担当のガーディアンだが‥‥‥」
丁度良いタイミングでその話になるとは思わなかったのか、ユーリは思わず声が出そうになる。
「一応追いかけているうちに発砲された様だけど、大丈夫、上手く避けて当たらなかったらしい」
発砲された、と言う言葉に酷く敏感に反応したユーリの様子を見て、大丈夫と付け加える。
「しかし、どうやら逃がされてしまったようだ。 今後の捜索は我々が担当しよう」
軽く握り締めた拳を胸の中心に当て、自信を持った口調で答える。



———————

「————————とか何とか言ってやがったくせに」
ハァ、と溜息を一つ。

「私がシエラに助けられた、っていうのも納得できませんし‥‥‥」
低い声で呟きながら落ち込むレフィ。
追いかける最中にシエラに追い越されたり、銃から発砲される瞬間に抱えられて建物の陰まで一瞬で連れて行かれたりしたあの時の光景が蘇る。
正式で本格的な訓練を積んだガーディアンが、一般人に護られたのでは世話ないだろう。
「え? そんなに運動神経あったの? 知らなかった‥‥‥」
レンが驚き、その言葉を口にする。
シエラがその回答に困ると、ユーリがその代弁をする。
「ああ、シエラはな、護身術を一応会得してんだよ」
俺直伝のな、とつけたし、微笑を浮かべる。
その最後の言葉にだけ耳が反応したレフィは、段々彼の話に耳を傾け始める。
「シエラは小さい頃から俺と一緒に行動してたし、俺が一度この街出て、戻ってきた15歳の時から17までの2年間、頼まれて教えてやったんだよ」
だからシエラは運動神経がよく、体育は得意教科でもある。
それに、誕生日の時に襲われたキメラから長時間逃げ続けられたのもそれ故。
自分の隣にいる人が段々赤い炎に包まれ始めるのを感じたのはレンだけである。


「シエラ。 あそこの左の本棚の‥‥‥上から2番目、左から4番目の赤い背表紙の本、取ってくれないか?」
「え、あ、うん」
ユーリが指差した方向を辿り、見つめながらその場所に行く。
彼の本棚は色々な本が積まれている。 魔術学、漫画、漫画雑誌、好きな俳優や、グラビアアイドルの写真集。
シエラはその中から指示された通りの本を取り、また戻って行く。
そして、それをユーリに渡す。

「何だそれ?」
「‥‥‥キシンキュウトウリュウ、それはもしかしてあの鬼神九刀流かと思ってな」
覗き込むレンの質問には直接的に答えず、パラパラとページをめくる。


その本の題名には「Yaduki Asana」と書かれていた。



     3


     日  後


     終

Re: Gray Wolf  移りました ( No.52 )
日時: 2011/04/07 19:22
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

「キシンキュウトウリュウ?」
言葉の意味が分からず、シエラは片言のようにユーリの言葉を繰り返す。
「なんだそりゃ」
続いて、レン。 肩を竦めて本を捲り続けるユーリを見る。

そして、彼はあるページで捲る動作を止め、微笑を浮かべる。
「あった」

   話   8   3   第

         鬼   神   九   刀   流

           の   の   の   の   れ


そこにはそう書いてある。
「あ、阿修羅の九本の刀?」
ヴェルゲンズ語で書いてあったそれをそのままシエラは読み上げた。
余りに物騒な名前に、少し言うのを躊躇ったが。
だが、ユーリの答えは少し違う。
「意味はそうだが‥‥‥正確には『阿修羅九刀』って呼ばれてる」
「ア、アシュラキュウトウ?」
またもや訳の分からない発音で訳の分からない単語を言われ、更に困惑した。
それを余所に置き、ユーリは更に補足する。
「またの名を『鬼神九刀』とも言うけどな」


シエラもレフィも訳が分からず、混乱ともいえる表情を浮かべている。
レンは何か引っ掛かるのか、慌てる様子も無くただ落ち着いている。
「鬼神九刀流はこの国の言葉で『鬼の神の九の刀の流れ』っていう。 まあ、これは日天でいう剣術流儀だよ」
「剣術流儀、ですか?」
レフィが繰り返して言う事に特に意味は無い。
が、ユーリは「そ」と親指を立てた。

日天とは東の国の中でも、文化の個性が強い国の一つ。
国土面積は他の国に比べて非常に小さい島国だが、世界規模で言えば技術的にかなり発達している。
料理をはじめ、様々な観点の文化において世界中からの人気は高い。
あまり聞かないのだが、ユーリの持つ直刀、『狼将刃』も日天の技術で作られた物だという。

日天は1000年も前から『〜流』という剣術流儀が多く存在し、『鬼神九刀流』もその一つ。


「結構日天に詳しいんだな。 まさか日天語も知ってたりするのか?」
レンが素直な驚きの感想を述べる。
腕組みしてて素直に言うのは少しおかしいが。
だがそうならユーリの「狼将刃」や「炎牙斬」と言う名前にも納得がいく。
そして期待通りの答えと、少しの補足をする。
「ん、まあな。 魔術について調べる内に賢者達の故郷を訪れて、現地調査しようと思ってな。 退魔秘術だって、わざわざ中国まで行ったんだぜ。 日天だって—————」
そこでユーリは一呼吸置く。
焦らす様に、ゆっくりと。
「空間術を調べる過程で、な」


空間術——————
初代行使者、つまり伝えた賢者は『ヤヅキ・アサナ』
空間術は、生体反応の無い物体、生物でないものを閉次元に閉じ込めたり、操る事ができる術。


ここまでが空間術。
ユーリはどんなに勉強が嫌いでも、魔術だけは興味を持っていた。
そこで彼は、現地調査を行っている内に、あることが判明したのだった。
日天歴史上で一時最強の剣士と呼ばれた者である。
これの何が魔術に関係あるのかといえば、それは名前。

  『朝奈 夜月』

日天はフルネームを苗字・下の名の順番で呼ぶ。
だから外国で言えば『夜月 朝奈』、『ヤヅキ・アサナ』
しかも、その者の使う剣技は『鬼神九刀流』と呼ばれていた。

この点を全て線として繋げばこうであった。
朝奈夜月は賢者にして最強を称した剣士。
夜月は姿を暗ましたらしく、消息は不明となったらしい。
年表で言えば、賢者ヤヅキ・アサナが登場したのはその直後。
歴史学者も同一人物と見て間違いないという。

「うーん。 まあ、大体は分かったけどよ。 それがどうしたって話だよな」
必死に考え込んだレンはとうとうその答えをだす。
ユーリははあ、と溜息をつき、呆れた顔で彼を見つめた。
「お前なぁ‥‥‥。 あいつが言ってたろ、『鬼神九刀流』って。 もしあいつの使うのがそれなら、鬼神九刀流は空間術の応用編じゃねえかってな」
「は?」
レンは声を上げて解せず、という顔を浮かべている。
シエラとレフィも同じだった。
「俺に言わせりゃあ、鬼神九刀流自体が空間術の研究成果だっつー事だよ」


三人の理解を待たず、ユーリは右のページを一枚捲る。
その見開きには、ルリが使っていたあの刀が絵として描かれていた。

阿修羅九刀にはそれぞれに固有利点がある。
それは一つに絞られて作られた物。
まずは、

崩鋸刀
固有利点は「重さ」
相当な腕力が無ければ持ち上げられないが、それから出る破壊力は凄まじい。

薄鋭刀
固有利点は「軽さ」
余りに軽く、故に速く、柔軟な斬撃を生み出せる。
だが、軽さ故に攻撃も弾かれ易い。

絶傷刀
固有利点は「切れ味」
その切れ味は比喩を超えて厚いダイヤモンドでも切り裂く程。
それだけに、扱いはかなり難しい。

矛槍刀
固有利点は「貫通力」
同じく、比喩を超えて厚いダイヤモンドを貫き壊す、絶対の矛。

硬純刀
固有利点は「防御力」
盾その物の防御力と、持ち主への防御力が高い、どんなものも受け止める絶対の盾。
なお、絶傷刀と矛槍刀を照らし合わせると、相当なスピードで連続して攻撃を受ければ硬純刀の方が耐え切れないが、そうでないならどんなに攻撃を受けても壊れない。

弓狙刀
固有利点は「射撃範囲」
これによって打たれた矢は100mを超えても勢いを保つ。

夢幻刀
固有利点は「変則性」
氷点下百何度の冷気で小さな氷の刃を無限に作り続ける。
それによって受け太刀もせず、鞭の様な変則性を持つ。

銃連刀
固有利点は「速さ」
放たれた弾丸はライフルを超えたスピードを持つ。
威力もライフル並なので、簡単には防げない。


「と…まあ、こんな感じか」
長々と説明され、大体は分かった。
別に刀の詳細等知らなくても問題は無いが、これからの説明で必要な知識なら、知っておくに越した事は無い。
だが、一つ解せない事があった。
「なぁ、阿修羅九刀って言ったくせになんで八本しかないんだ? それなら阿修羅八刀でもいいんじゃ‥‥‥」
ピンポーン
そんな簡単な音によってレンの言葉は止められる。
少し苛立ちを覚えながらも、ユーリはベッドから降り、刀を手に取った。
「大丈夫? でも、誰だろう‥‥‥」
シエラの声も気にもせず、玄関の扉まで近づいた。
緊張という言葉だけで表せるこの沈黙の状況、ユーリは迷わず扉を引いた。



瞬間、ユーリの首に鋭利を持つ物体、否、刀が飛んできた。








      鬼の神の九の刀の流れ

          終


Re: Gray Wolf  移りました ( No.53 )
日時: 2011/04/07 19:23
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


「ディライバル‥‥‥」
間違いない。
ドアの前の傍にある表札に記された『Diriball』と言う文字を見て呟く。
右手に大きな、しかし大剣程ではない中程の大きさの刀を持ち。
聞きなれた声が聞こえ、刀を握る手の握力は更に増す。
そして、開け放たれたドアの隙間へ切っ先を——————

    第

    3
          訪  問  の  剣  士
    9

    話


ガンッ


大きく高い、鋭い音が鳴り響く。
それは、鋸状の刀と直刀が交差しあった際に出たものだった。
「な‥‥‥」
驚いたときにはもう遅い。 金髪の男は自分の目の前まで来て首に鋭利な物体を突きつけている。
斬るつもりだったら確実に死んでいる。
そう理解し、右腕に込めた力を緩め、刀を降ろす。




「「‥‥‥」」
居た堪れない。
彼ことルリ・ミナゲツはそんな事を考えていた。
成り行きとは言え、一度は狙った命と机を挟んで、ソファーに座り合う。
向かい側に座っているのは黒髪の短髪の男、レン。
ルリが「名前は何だ」と訊き、レン・ウォンと単語だけ言い、黙り込んでしまった。
決して怒っている訳ではなく、どちらも行動を探っている。
そう考えていると、後ろからティーセットを持ったユーリがやってきた。
「砂糖とミルクは好き放題入れろよー‥‥‥っと」
ポットが二つ、容器が一つ、カップが三つ乗っているトレーをテーブルに置き、レンの隣に座る。
そして置いた本人が逸早くカップを取り、紅茶を入れて砂糖をさじ二杯半程入れた。
二杯半も入れるなど何処まで甘党なのか。

それはともかくとし、本題はルリの事。
ルリも酷い怪我を負っていたし、お互い様である。
故にこの状況はどうするか。
最悪、また戦闘モードになりかねない。
ユーリは砂糖入れすぎの紅茶を優雅とは程遠い飲み方で飲んでいる。
ルリは変わらない表情。
レンは顔に出るほど深く用心していた。
シエラとレフィは取り合えず外に出てもらっている。

この息苦しい空気の中、ルリがついに立ち上がった。
それを過剰に反応したレンは声に出るほど驚愕したが、ユーリは全く動揺しない。
ただ、立ち上がった彼を見据えているだけだった。
そして、ルリは口を開く。


「そちらの意図も察さず、また理由を聞かずに攻撃した事を深くお詫びしたい。 すまなかった」


脇に置いていた剣を握り締めようとしていたレンはそこで呆気に取られる。
まさか謝られるとは。
今まで黙り込んでいたユーリもティーカップをテーブルに置き、急に姿勢を正した。
「‥‥‥俺の方こそ、そっちの事情も知らずに邪魔して悪かったな。 次からはちゃんと考えるぜ」
え?
ルリが謝り、ユーリが謝り、レンだけが残され。

———————これ俺もやるの!!?

「あ、う、え‥‥‥」
流れ的にやるしかない。 ここでやらなかったら空気読めない奴の肩書きが背負われてしまうとレンはしどろもどろする。
しかしどうする。 自分はただ単に加勢してすぐに戦闘不能にされただけなのに謝る内容が全く無い。
(ええい、ヤケだ!!!!!!)
「それでは早速本題に入りたいのだが‥‥‥」

ガタンッ

立ち上がって謝ろうとしたのに、話が切り替わられる。
テーブルに倒れ込み、それをユーリが呆れた目で見る。
「何やってんだ‥‥‥」
「いや、もういい‥‥‥」
ユーリの質問に答えず、涙目になって座りなおす。




ルリは懐から、一枚の写真を取り出し、それを二人に見せる。
そこには、俗に言う浴衣姿の少女。
肩に掛かる位の黒髪だが、レフィ程真っ直ぐではなく、ふわふわしたイメージがある。
横から振り向き様の状態で、満面の笑みを浮かべる顔の近くでピースを作っている。
「こいつを見たことがないか? この姿で歩いている奴を‥‥‥」
浴衣と言うのは日天の民族衣装で、このヴェルゲンズでは珍しいどころか国違いすぎる。
だから、この姿で歩いていて分からない筈がない。
と、いうか———————

「そういうのは警察に頼めよ‥‥‥」

正論。
こんな姿なら様々なところに配置されている警察に頼めば見つけ易い。
だが—————
「警察じゃ駄目だ。 あまり表の人間に探させるのは危険すぎる‥‥‥」
「「は?」」
ユーリとレンの疑問声が見事に重なる。
しかしそれどころではなく、理解し難い。


何故警察では駄目なのか。

表の人間では駄目とはどういうことか。


ユーリはただ写真の中の少女を見つめた。
こんな可愛らしい娘の何が違うのか、それを探す様に。





    訪             剣

             の

        問              士



             終


Re: Gray Wolf  移りました ( No.54 )
日時: 2011/04/07 19:23
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


     第 4 0 話

               捜  索  依  頼
 

「聞けばお前は何でも屋、だそうだな?」
紅茶を飲んだ後にでたルリの疑問に、ユーリはああ、と呟く。
それを聞いて安心したのか、彼は胸を撫で下ろす様な態度を取った。
「そうか‥‥‥なら‥‥こいつの捜索を頼む」
まあ予想はしていたけれど、やっぱり溜息が出る。

————————面倒事がまたやって来る‥‥‥

しかし、頼まれた以上は仕方が無い。
ユーリはまず自分にある疑問を解消するべく、ルリに訊いた。
「一つ聞きたいんだけど」
「何だ?」
キョトンとするルリ。
「この子は何だ? マフィアの要人の娘か何かなのか?」
「いや全く違う」
即答された。
しかし、それなら警察に頼めば良いというのに。
「何で警察じゃあ駄目なんだ?」
ユーリは砂糖が多い紅茶を飲みながら次の質問をする。
だが、それは答えてくれない。
すっかり口を閉ざしてしまっている。


「まあ良いけどよ。 別に法に触ろうがそんな大事にならない事なら一応協力するぜ?」
もの凄く危ないことを平然と言ってのけた。
しかし、街で騒ぎを起こして国軍に連れて行かれる位の人物がユーリなのだから、それ位はお手の物だろう。
そんな彼が軍で偉い地位にある陸軍大佐と友好的(?)な仲を築いているのだから皮肉である。

ユーリが引き受けてくれることを知って、ルリはスッと立ち上がる。
「それじゃあ俺はまた探す。 10日後に此処に来て事を報告する。 もしそいつを見つけたらその写真を見せて俺の知り合いだと証明させて、この街に滞在させておけ。 あとそれからそいつの名前はユナ・カナザワだ」
「おいちょっと待て」
さっさと話を進めて帰っていこうとするルリに、ユーリは言葉で引き止めた。
黒いポニーテールを揺らしながら振り向き、それを確かめてから彼は部屋の隅に移動し、携帯をとった。
「これで連絡した方が早いだろ?」
‥‥‥
「ゆ、浴衣姿はいつもだからすぐに分かると思う」
「待て待て待て」
あからさまに言葉が震えている。
早々に立ち去ろうとしたルリを、今度は肩を掴んで引き止める。
しかし、それを払い、彼はドアノブに手をかけた。
「そ、それじゃ」
ドアを開け、ルリは前に居るシエラとレフィを一瞥する。
シエラの方は少し脅えていたが。
そのまますぐに階段を降りて行った。
ユーリもドアから出て行って、上からいそいそと歩くルリを見る。
「あいつ———————」



———————まさかケータイが使えないとか?



有り得そうな気がする。


ユーリは女子2人を連れて部屋に戻った。
それからタンスの引き出しからいつも通りの紙紐を取り出し、その場で後ろ髪を結ぶ。
長い金髪は上に結ばれ、短い毛が幾つか残るも、ポニーテールの様になった。
そして、ベッドに背中から飛び込み、寝転がる。
それを見たレンは、一人考えた。
———————さてはルリの影響受けたな
いつもは下に結んでいるのに。


「あーあ。 疲れちまったよ」
「本当に探すのか? なんか色々と怪しい気がするんだが」
ベッドで右へ左へゴロゴロと転がるユーリに、レンは恐る恐る訊く。
いや勿論当たり前なのだが、少し引き止まっても良いのではとも思う。
すると、ユーリはまた起き上がって本棚へ歩む。
「当然だ。 頼まれた以上仕方がねぇしな」
それに、と言いながら上から本を探す。
しかし結局どういうわけか一番下にある雑誌を手に取った。 それも、グラビアモデルの
「あんな可愛い娘なんだ。 助けなきゃ可愛そうだろ?」
またベッドに飛び込み、今度は座り込む。
そしてパラパラとめくり、何事もないようにしていた。
———————それが本音か、このエロオヤジ
女2人が居るというのに。
彼を見て、レフィは頬を膨らませるが、シエラは別段変わった様子はない。
恐らく彼女が居る前でもあれを常に読んでいたんだろう。
教育上問題過ぎる。

ユーリはそのまま自分が一番好きなモデルの雑誌を読み続け、
シエラは自分の家の様にキッチンから取り出したポットで湯を沸かし。
レフィも近くの椅子に背もたれし、
レンは溜息を付きながら、ソファに座り、また紅茶を飲み始めた。





          捜


        索 終 依


          頼

Re: Gray Wolf  移りました ( No.55 )
日時: 2011/04/07 19:23
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


  第
        1
                  回  想  と  決  心
     4
           話




南東区都市ソルディア
中心都市サウストセントラルの次に付く南東区の大都市であり、人はかなりの多さ。
そこの駅の前にルリはいた。

一週間前、旅の次の目的、西の隣国クリエスへ向かうべく、この街で列車に乗った。
その時は彼の隣に一人の少女がいた。



『ユナ・カナザワ』





『神紗和 優奈』



その少女と、共に——————————



——————————


「瑠璃ぃー? 早く行こうよ」
肩に掛かる長さのふわふわした黒髪を揺らしながら跳ねる様に歩く少女が振り向いて言った。
自分の後ろに居る————————美奈月 瑠璃を。
薄い黄色の上着の下に白いシャツ、上に結んだ長い黒髪と言う容姿の彼は、呆れながら彼女へ付いている。
「そんなに急がなくてもまだ時間はある。 急いだらその分待つんだぞ」
「ええー。 都合良くいかないなぁ」
ぶぅーと頬を膨らませ、彼女は歩むスピードを緩め、そのおかげで歩き続けていた瑠璃も追いついた。
御淑やかなイメージのある和服、浴衣を着こなしてはいるが、それとは対立的に天真爛漫な雰囲気を全身から醸し出している少女、

神紗和 優奈

瑠璃の横へ立ち、楽しそうに歩いた。
「そんなに楽しみなのか?」
「うん! だって瑠璃と一緒に新居を探せるんだもん! 嬉しいに決まってるよ!」
右腕に抱きついた優奈が重心をかけるも、瑠璃はバランスを微塵も崩さない。
—————————新居、か
一応ヴェルゲンズ語は2人とも覚えている。
エゴリス語に続いて使っている国の多いヴェルゲンズ語はヴェルゲンズ近隣国ではほぼ全て使っている。
だから、しばらくの間は言語に困らない。
お金だって、色んなところで用心棒をしていたために十分にありすぎる。

別に日天が悪かったわけではない。
むしろ故郷だけに一番好きな国だ。
だが、危険すぎた。
世界で最も治安の良い国として知られてはいるが、しかし危険人物がいないわけではない。
しかも、それは瑠璃と優奈を狙った。
2人だけを、殺そうとした。
毎日、毎週、毎月、毎年、山、川、村、街、いつでもどこでも殺そうとした。
それはたった一人の女。
見覚えも聞覚えも増してや話した覚えも無い、女。
人間の筈なのに何十体ものキメラを操り、それで瑠璃達を襲わせた、女。
自分達の故郷が巻き添えになるかもしれないその過激な行動から逃れるため、2人は外国へ去った。


だが、甘かった。





無人の列車に乗る最中に、豪雨が降り始め、その時に列車の上からズンという重みのある音がした、
瞬間、巨大な物体が天井を突き破って来た。

その正体は、キメラ。

翼の生えた仁王立ちの獅子。
突き破った天井の穴からも、似た形状のキメラが数匹飛んでいる。
その中の一体に、一つの人影を見た。
よく見えないが、シルエットを見る限り、かなり細い。
それで察しが着いた。
日天に居た時に襲った女であると——————————




それからは複数のキメラを鬼神九刀流を用いて撃破したが、逃げる途中で優奈と逸れてしまった。
連結器具が外れてしまったため、未だ引っ張られていた車両に居た瑠璃と、離された方にいた優奈は別れ、瑠璃だけは無事だった。
だが、途中の駅で降り、線路を辿って、別れた所へ行った。

が、そこには無残に壊された車両と、その原因を探ろうとしているのであろう軍人と警察と、野次馬しかいなく、しかも死者も無いと言う。



ということは、優奈は生きている。






僅かな希望で決心した瑠璃は、また、一から探すべく、目の前にあるソルディア駅へ、足を進めた。








      回


      想


      と           終


      決


      心





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