複雑・ファジー小説
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- Gray Wolf
- 日時: 2011/05/19 17:52
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』
ただひたすらに雫を降らす闇の雲。
その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。
その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。
その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。
女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。
もう、死んでいる。
視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。
何故。
何故なんだ。
何故こんなにも冷たい。
何故死んだ。
何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。
少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。
「ちくしょお‥‥‥」
はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。
《作者コメント》 4月7日
Gray Wolf、引越ししました! イエーイ!!
これからはここ、複雑・ファジーで描いていきたいと思います!!
《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。
《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様からキャラ紹介を参考にキャラ画像を募集し続けます。
・作者の描いたキャラクター達 >>13
キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>12
キャラクター紹介・二 >>57
グレウル用語集
基本用語 >>14
魔術用語 >>15
《目次》
〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>5
【第2章:姫守りし騎士】 >>43
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.36 )
- 日時: 2011/04/07 19:07
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
高台の上から龍は飛び上がり、ジェット機の比ではないスピードでユーリへ突っ込む。
ユーリは足場にしていた岩壁から跳躍し、宙へ浮き上がる。
それと同時に、龍は巨腕を叩きつけ、ユーリの居た岩壁をを粉々に砕いた。
第 2 7 話
化 け 物
人 間
上空に舞う砂煙の中からユーリが落ちてきた。
突起した岩壁は多数あったので、先ほど居た所の真下にあった場所にまた着地する。
だが、その真上に突き刺さった龍の腕が下がってくる。
岩を削り、脅威の爪が振り下ろされる。
その瞬間に突起を飛び移り、崖を降りるために人工的に作られたと思われる坂道へ逃げ込んだ。
その後、ユーリの後方20mから爆発があったのは言うまでもない。
右へ左へジグザグになっている坂を律儀に下りる暇もなく、そのまま下の坂へ一気に飛び降りた。
地面への着地の瞬間、足に僅かな痺れを感じたが、頭上から近づく大きな存在を感じ、その場から全速力で離れる。
拳や足だけで対等に戦い合える状況ではない事を理解していたユーリは大太刀を鞘から抜き出す。
鋭利な刃は太陽の光を反射させ、抜く際に小さく高い音が響いた。
白い柄を握り締め、正面に龍の姿が見えるように向きを変える。
互いに殺気を放ち合い、小さく近づきながら—————————————
森の奥を走るレン達には遥か遠くから砂煙が舞い上がるのが見えた。
所々から多くの鳥が飛び上がり、ガーディアンと行動するレン達もその光景を注目する。
「おわっ!? 何だ今の爆発!!?」
「もしかして、さっきの化け物でしょうか‥‥‥」
推測するように顎の下に手をつけるレフィ。
その言葉に第28警護班の班長を務めるマラ・ロイスが特徴的な金髪のロングヘアーを揺らし、声を上げる。
「そうだった!! あの変な化け物何!!!? 龍みたいな姿して!!!」
マラの半ば逆上した言い方に、答えるのを躊躇ったが、今までのことを話した。
「そんな‥‥‥」
マラだけではない。 他のガーディアンも皆動揺している。
言葉を失いそうになるが、彼女は状況を冷静に判断し、口を開いた。
「…確かに、戦闘知能に長けたものを足し合わせれば魔術を使うことも可能でしょうね‥‥‥」
「はい。 リナータはあのキメラを大量に生み出し、ヴェルゲンズへ攻め込むそうです。 しかし、同時に獲物を狩る本能も強すぎた所為か、操り主の指示さえ聞かないのです」
話しながら、白衣の老人が無残に圧死された事を思い出す。
だが、気分がよくなることでは決してなく、すぐに頭の中から消した。
爆発が起きたであろう場所にはようやく近づく。
だが、その時後ろから寒気を感じさせるほどの気配も近づくのが分かった。
振り返れば、10、20、それ以上は数えられないほどのキメラがこちらに接近してくる。
種類は個々によって違うが、それでも脅威になる動物が合わさっているのが分かる。
ようやく此処まできたのに、足止めされてはユーリが危ない。
「レフィ! それから貴方達!!! 先に行きなさい! ここは私たちでやっておくわ!!!」
マラは振り向き、稲妻の絵が中心に描かれた魔方陣の刻み込まれた手袋をつけ、そこから綺麗に角度をつけて曲がる閃光を発した。
その閃光は次々とキメラを貫き、体中に電気を走らせる。
他のガーディアンも次々銃を取り出し、加勢していく。
こちらも加勢すればいいのか、黙って行ったほうがいいのか。
その二つに迷うレンとシエラを掴んで、レフィは向かったほうへまた進み始めた。
森を抜けるとそこには崖。
いきなり出てきて止まれないためにレンは落ちそうになったが、レフィの助けで心配はなくなった。
が、もう一つの問題はその向こう。
例の龍が大きな腕を振り回し、それを寸前で避け、防いでいるのはユーリ。
状況的に、どう見ても苦戦しているとしか思えない。
レンがユーリの名を叫び、その声はユーリの耳に届く。
「ん‥‥‥お前らっ! 来たんだったら早く手伝ってくれ!! こんな野郎俺一人じゃ骨が折れるどころの騒ぎじゃ‥‥‥ねえっとぉ!!!」
レン達の方を向く間に、龍による爪の一撃が落ちる。
それをかわし、落ち着いたところで炎牙斬を放つ。
しかし、抜刀状態の炎牙斬ですら容易に手の平で防ぎ、その手の平でユーリを襲う。
言われるまでもなく助けたいのだが、降りるための坂は崩れており、降りることが出来ない。
リスク無しに慎重に降りる間にユーリが殺されるかもしれない。
この状況をどう対処するかを考えていたレンとレフィに、今度はシエラが二人の前に出た。
傍らには幻獣のコンク。
レンとレフィの手を掴み、シエラはその小さな体を掴む。
そして凄まじい強風を発生させ、3人を掴んだまま空中を飛んだ。
ユーリと龍の交戦しているところの近くまでスピードを上げながら突き進んでいく。
シエラは耐えていたが、レンは悲鳴を上げ、レフィは最早言葉ですらない。
そして地面へ激突する寸前で高速の風は消え、ゆっくりと3人を下ろす。
コンクは虚空へ去り、少し落ち着いたところでレフィが立ち上がる。
「ち、ちちちょっと!!! やるならやるって言いなさいよ!!!!」
だが堅苦しい口調の変化に違和感を覚えた二人は叱り言葉をよそにレフィを見る。
それに気づいたレフィは慌てて平静を取り戻し、一つ咳払いをする。
その光景にを見、龍が左腕を振りかぶり、照準を定めていた。
3人のうち、シエラとレフィだけがすぐに気づき、その場から背を向けて逃げる。
直後に気づいたレンは慌てながら剣を取り出し、後ろへ大きく飛んで避けた。
しかし振り下ろした一発目の次に隙なく二発目を繰り出す。
下から上に振り上げた腕はレンの体を捉え、軽く吹き飛ばす。
地上から大きく離れ身動きの取れない状態で空中を浮遊するレンに狙いを定め、右腕を引く。
地上では重力と摩擦力を使って受け止められるが、空中ではそれは出来ない。
動きもとれず、構えを直す事も出来ず、重力に逆らえずに落ちていく。
このままでは着地する間もなく龍の一撃によって息の根を止められるであろう。
そして、対策を練る間に龍のキメラはその右腕に全神経を集中させて突き出した。
化 け 物
人 間
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.37 )
- 日時: 2011/04/07 19:07
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
構える龍。 逃げ場のないレン。
ガードも出来ないこの無防備の状態で腕の一撃を受ければ、恐らく死ぬことは確定であろう。
何とかして体勢を立て直そうとしたが、空中で落ちる風圧でそれが出来ない。
龍は引いた右腕に力を溜め、咆哮を轟かせた。
第 2
風 土 術
8 話
その龍の真後ろに、全速力で走るユーリ。
長い尾に飛び掛り、掴み、よじ登る。
尾の根元へ行き、、背中の上を走り、左肩に到達した。
そこから更に前へ跳躍し、龍の頭の横を通り過ぎた。
飛び込むような状態で刀に覇気を集中させ、刃から炎を噴出させる。
そして横たわったその体を左へ回転させ、その勢いを乗せて真横に炎牙斬を放つ。
キメラが右腕を前に勢い良く突き出したと同時に、目の前を紅い三日月が通り過ぎた。
思い通り腕の真ん中へ直撃し、斬りおとした、とまではいかないが、それでもかなりの一撃だと思う。
出した右腕の軌道は逸れ、レンから見て左側へ放たれた。
その風圧により結局は吹き飛んだが、おかげで体勢は整われ、うまく着地する。
直後に空中で体を回転させていたユーリが左の手の平と右膝を地面につけ、立ち上がった、
「お前な‥‥‥出てきて早々殺されかけるって…アホだろ」
「なっ‥‥‥お前が早く来いって頼んだんだろ!!!」
馬鹿にするように声を低くしたユーリにレンが声を荒げる。
「まあ確かにその通りだけど‥‥なっ!!」
瞬間、背後から火球が飛んでくる。
二人は避け、更に飛んできた火球の群れは走るユーリに向かう。
龍の周囲を走り回りながら火球をかわすが、絶え間なく攻撃するために反撃が出来ない。
——————これじゃあ、やられる一方だな
——————あんま試してねえけどやってみるか
埒が空かないと判断したユーリは走りを止め、龍を正面に刀を構える。
そして、飛んできた火球を真っ直ぐ見つめ、剣を振った。
が、振り切ったわけではなく、刃を正面に向けるように剣を立てただけである。
「シルドフラッド!!!!!」
叫び声ともいえる大声を上げ、刃から水が漏れ、噴射される。
それは壁の様に平たく伸び、向かってくる火球を抑えこんだ。
抑えこまれた火球は消え、そこから真っ直ぐ進み始める。
だが、キメラは咆哮と共に両翼を大きく振り、ユーリの体を吹き飛ばした。
うまく地面に足を接させることは出来たが、攻撃が止んだだけで攻め込むことは出来ないという事が判断できる。
龍は横を向き、レン、シエラ、レフィがいるところにも突風を巻き起こそうと両翼を後ろに引く。
————————風‥‥‥
レフィは左手に持つナイフを前に出す。
吹いてきた風にレンとシエラはずり下がったが、レフィは踏ん張り続け、左手のナイフを未だ前へ出し続ける。
刻み込まれた魔方陣が光りだし、吹いた風は段々止んだ。
そのナイフを振りかぶり、振り下ろすと小さな竜巻が高速に空気を貫き、龍の頭へ直撃した。
巨大な図体を大きく飛ばし、それに三人は驚く。
中でも驚いたのはユーリ。
————————風土術!!
風土術というのは魔術分野の一つ。
普通の魔術とは違い、自然エネルギーを取り込んで発動する。
自然エネルギーとは、風、水流、氷点下の冷気、炎、地震など、理によって起こる物が持つエネルギーの事である。
その取り込んだ自然エネルギーを溜め込み、放出するのが風土術である。
勿論、そのエネルギーを通すための通り道は行使者の覇気を必要とするが、その覇気の量は全体の一割にも満たない。
今まで、彼女が魔方陣を刻んでいるにもかかわらず、右手のナイフからしか魔術を発生させていなかった。
それは発生させなかったのではなく、出来なかったからだ。
自然エネルギーがなければ、風土術は発生できない。 その為、風土術だけしか使えない魔術師は不便極まりない。
彼女の魔方陣を良く見たことはないが、恐らく炎、水、地、風、雷を示す五つの絵を五つの円の中に描き込み、それらを更に大きな円で繋げているのだろう。
風土術の陣の特徴である。
ユーリは怯む龍へ一気に突っ込む。
走力を出し切り、出来た隙を逃さないよう、すぐにたどり着かんと走り続ける。
そのユーリに気づいたキメラは左腕を構え、ユーリへと突き出した。
跳躍し、その拳を受け止め、跳び箱の様に扱い、前方へ倒立回転して跳んだ。
飛距離は長く、一秒も経たない内に龍の目の前まで迫った。
口へつかまり、よじ登り、心臓部分と思われる背中まで走る。
刀を構え、背中へ突き刺す。
だが、鎧の様な皮は硬く、全く貫けない。
そして、体を大きく振るキメラに飛ばされ、地面へ落とされた。
うまく地面に着き、構えなおした。
その瞬間に、ユーリに向かって腕を突き出す。
だが、それを剣で受け止め、腕力で巨腕の一撃を防いだ。
あまりに強く振った勢いで、手の平さえつつむ鎧の皮にひびが入り、腕の動きが止まった。
それを見逃さなかったユーリはまたすぐに構えなおし、大きく刀を振る。
斬り、また斬り、ついに皮は破れ、それと共に受けた傷から血が噴射された。
それに当たらないようユーリは後ろへ大きく下がり、様子を見る。
余りの激痛に叫び声を上げ、思わず怯んだ。
龍は羽ばたいて飛び上がり、ユーリへ突進していく。
翼を使って更に速力を上げ、左手を振って、ユーリに当てた。
その勢いは、剣で受け止めても押さえられず、そのまま大きく吹っ飛ぶ。
舌打ちしながら体勢を直したが、目に映ったのは傍にあった岩を掴み、投げる龍の姿。
斜め下に落ちていくユーリより遥かに速く直進し、残り20mのところまで迫る。
その岩をまたユーリは跳び箱の様に扱い、今度は開脚して飛び越える。
その為下に落ちる勢いは弱り、着地しても痛みを感じることはなかった。
だが、何にせよこのままでは龍の怒りは抑えられない。
「厄介だな‥‥‥」
ユーリは切れた口の中に溜まった地面に吐き出し、顔をしかめさせた。
風 土 術
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.38 )
- 日時: 2011/04/07 19:08
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第 2 9
話
一 つ の 策
甲の部分に陣が施された手袋を振り回し、雷が枝分かれに飛んでいく。
音のような速さで宙を走り、次々と貫いた。
だが、一斉に何匹を倒してもまだ出てくる。
マラも、ガーディアンも体力はかなり消費し、疲れきっていた。
その悪戦苦闘とも言える中、後方の遠い場所から連続で爆発が起こる。
近づく敵を倒しながら、その方角を見つめ、マラは静かに彼らの身を案じた。
左にユーリ、右にレン、後ろにレフィ、上空からコンク。
それぞれが自分の魔術を放ち、キメラを攻撃する。
が、その4人がかりでもその攻撃は歯が立たず、逆に翼の羽ばたきによって吹き飛ばされる。
コンクは風の中に消え、4人は地面に横たわる。
ユーリは近くまで走り、飛んできた龍の拳を跳躍して避ける。
着地した腕を足場に肩まで走り、そこからまた大きく跳躍した。
落ちる勢いを利用し、右足を振り回して背中の皮膚を蹴る。
上げた右腕を下にさげ、刃の切っ先もその皮膚に突き立てた。
その衝撃か、背中の皮膚にひびが入り、そこを中心に全体の皮膚へ及び、やがて破壊される。
生の肉が剥き出しになった体に気が付き、龍のキメラは慌ててユーリを振り落とす。
地面に落とされつつも、足の裏で何とか地面に着き、間合いを取って構えなおす。
叫び声を上げ、高く上空に飛び上がる。
大きな体が親指にまで小さくなると、その体は真っ直ぐ地上へ突っ込んだ。
走って逃げられるほどのスピードではなく、炎を纏った左腕を構えた。
4人全員は無事にその一撃を避けたが、また上空に飛び上がり、今度は先ほどよりも大きな火球を手に込めている。
「どうすんだよ! このまんまじゃ今度はただじゃ済みそうにねえぞ!!!」
レンが右肩から流れる血を抑えながら言う。
全員傷だらけでボロボロ。 この状態で勝てるなら奇跡と言えよう。
だが、ユーリは臆する事無く言葉を発した。
「ま、無い訳じゃない。 一つだけならあるけどな‥‥‥」
その言葉に、レンは希望の光が差し込んだように喜び、ユーリに素早く近づいた。
「な、なんだ!!? どういう方法なんだ!? 教えてくれよ!!!!」
「残念ながら、お前にやる仕事はねえよ」
レフィを超えるその冷徹な言葉はレンの心臓を貫き、彼は涙と共にその場に倒れた。
それをよそにユーリはシエラを向き、近づく。
「なあ、シエラ。 お前連続で後どんくらい召喚術使える?」
何を頼むか、自分に出来ることはあるのか、そう期待はしていた。
だが、よりによってこの状況でその頼みをしてくるとは。
「ごめん‥‥‥頑張っても後10秒ぐらいしか出来ないと思う」
気分も沈ませ、顔も沈ませ、無力な自分を呪う。
何故こんなときにユーリの役に立てないのか。
その惨めな思いでいっぱいだった。
大きな手が頭の上に乗った。
その手はユーリのものであり、彼は浮かべた優しい微笑から満面の笑みに変わる。
同時に、シエラの頭を撫でる。
「何謝ってんだ。 まじで2、3秒でも惜しいこの時に10秒もあれば十分十分」
少し唖然としながら、しかしその優しさに見惚れながらユーリを見る。
その笑顔はやがて真面目な凛々しい雰囲気を漂わせる顔をなり、彼は上空を見据える。
「こいつはやるにはちょいとハイリスクだ。 だがこれ以外パッと思いつくもんは他に無い」
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.39 )
- 日時: 2011/04/07 19:08
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
「へへっ。 それじゃ頼むぜ」
ユーリは歩きながら後ろを向き、シエラに言う。
声と共に頷き、シエラは召喚術の本を開く。
それを見ながらユーリは走り出し、速力を段々上げていく。
それと同時にシエラはコンクを召喚し、ユーリを追わせるよう指示した。
命令通りコンクは走るユーリを追い、更に彼を掴んで上空へ飛んだ。
激しい風圧がユーリの肉を軋ませ、目を開けるのも困難だったが、我慢して耐える。
コンクの力を借りて龍のキメラを追う算段通り、背後から近づくことは出来た。
しかし、それに気が付いたキメラは炎の蓄積を止め、ユーリ達から逃げ始める。
追いかけるスピードは圧倒的にこちらが有利だ。
だが、小賢しくもスピードを維持したまま小回りし、追いつくのは困難である。
その中で、終に追いつき、ユーリも思わず微笑を浮かべてしまう。
だが、心臓のある背中の中心部分に辿り着きそうな時に、シエラが呻き始め、同時にコンクも風となって消え去った。
今、ユーリに飛べる方法はない。
今まであった勢いは徐々に衰え始め、体がどんどん離れていこうとする。
しかしユーリの根強い願いが通じたのか、掴もうとする手に尾の先端部分が触れた。
それを逃さず捉え、ユーリは縄のように扱って胴の部分へ急いだ。
四つん這いだった体はやがて二足へと変わり、構えた刀は体の中央へ近づく。
その切っ先で背中を貫き、抜き、斬り払う。
3度続いたその斬撃の後にユーリは跳躍し、それと同時に下に向かって炎牙斬を放つ。
咆哮、否悲鳴を上げながら堕ち、ユーリはその体にしっかりと掴まった。
堕ちる巨大な体。 地面に激突するその寸前でユーリはその体から離れ、地面への衝撃を和らげる。
鞘にしまった刀を肩に担ぎ、血に塗れた龍を見た後、後ろを振り返って歩き出した。
その先にいるのはレン、シエラ、レフィ。
ユーリは息を荒くして地面に座り込むシエラの頭をまた優しく撫でる。
だが、本人はユーリの身を案じ、謝罪する。
「ごめんね‥‥‥私が頑張ってれば大丈夫だったのに…」
「気にすんなって。 何にせよお前がやんなきゃ結局やられてたんだ。 成功したんだから謝んなって」
「そうそう。 お前のお陰で命拾いしたんだぜ! ‥‥‥まあ、俺は何もやってねえけど」
彼らのやり取りを見ながら、レフィはフッと笑う。
「貴方達の実力は十分にわかりました。 特にユーリさん。 貴方の咄嗟の機転や判断力、それを実現させる身体能力がなければ私達の被害はこれくらいではなかったでしょう。 失礼を言ったお詫びと、感謝を申し上げます」
珍しく腰を低くしていったレフィには驚いたが、ユーリは微笑む。
「別に。 でもそれが俺らの実力を認めたって言うんだったら嬉しいぜ。 っつーか‥‥‥何かあいつに似てるんだよなあ‥‥‥」
「? 誰ですか?」
いや別に、と目線を逸らしながらユーリは頭の中でその正体を描いた。
レインの、顔を。
ユーリは歩き出し、レンもシエラもそれに続いて立ち上がる。
その彼らの後姿を見ながら、レフィはまた微笑み、振り返った。
その微笑みにはもう、皮肉に嘲笑うような冷笑ではなく心の底から湧き上がったものだった。
「ふふっ‥‥‥それでは帰ってマラ班長の手伝いを————————」
耳を劈かせる程の轟きを上げる叫び声。
振り返るユーリ、レン、シエラ。
そして、レフィ。
その先には巨大な牙が連なる巨大な口。
気づいたときにはもう目の前であり、逃げられない。
「え」
一 つ の 策
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.40 )
- 日時: 2011/04/07 19:09
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
龍のキメラがレフィを喰わんと、巨大な口を開け、迫ってくる。
気づいたときにはもう手遅れであり、上下の牙は彼女の体を挟もうとしている。
シエラは声を荒げて彼女の名前を叫び、駆け寄ろうとしたが、追いつかない。
その時、開いた穴が勢いよく閉まろうとした。
第 3 0 話
Fall in “L O V E”
尻餅をつき、腰が抜けたレフィの前にはユーリの後姿。
抜刀した刃を構え、顎の一撃を受け止めている。
そして、その刃から紅蓮の炎が漏れ出て、熱が龍の体の内部から伝わる。
その激痛に呻き、ユーリは眼光を鋭くさせて睨みつけていた。
「こんな可愛い体を噛み砕こうとは‥‥‥」
「いい度胸してるじゃねえかあっ!!!!!」
同時に、斬り払ってできた斬撃から三日月の炎が放出される。
それはキメラの体を真っ二つに割り、断面からは炎が舞い上がっていた。
力を抜いた腕が垂れ下がり、ユーリは深く息をつく。
シエラとレンは彼の下へ行き、レフィはその様子を唖然としてみているだけであった。
5日後となってやっと平和が戻った。
特に事件も起こらず、安心して日常を過ごせる。
が、大きく変わったことが一つあった。
それは日曜日のリナータへ攻め込む作戦が終わり、その翌日のこと。
うまくガーディアン、続いては国軍、傭兵団と手助けをし、何とか作戦は終了した。
後でシエラがただの一般人と分かり、どういうわけかレンとシエラだけにレフィが説教したが。
その後、翌日学校にはシエラは勿論の事、レフィもいる。
彼女はガーディアンの指令で、ロートスシティの警護を担当することとなっていた。
そして、周りの者から不自然に思われぬよう、学生としてシエラの学校に潜伏しているのである。
今日も、明日も、その後も、レフィはこの街の守護に当たるそうだ。
が、様子がおかしい。
2時限目が終わり、休み時間となってシエラは彼女の所へ行ってみた。
顔を見ると、何故か顔が、耳にかけて赤い。
目の前で手を振っているのに、全く反応をせず、目が泳いでいる。
そして、数秒経った後に、彼女は椅子から倒れ、床に叩きつけられた。
騒がしかった教室中は沈黙の空気となった。 シエラも驚き、そこから半歩下がる。
保健室に運ばれ、シエラとリン、他数名の生徒が彼女の身を案じる。
一応起きたが、未だに顔を赤くし、黙り込んでいる。
「どうかしたの? ねえ」
リンがレフィの肩を揺さぶり、彼女もそれに気づく。
「顔赤いよ? 熱でもあるんじゃないの?」
また一人、女子生徒が声をかけた。
黙り込んで赤い顔を更に赤くしたままであり、全く言わない。
だが、何度か声をかけてやっと口を開き、彼女は赤い頬を手で抑えた。
「好きな人が‥‥‥出来ちゃいました‥‥‥♪」
この直後、大きな間が開き、悲鳴にも似た大声が響き渡ったのは言うまでもない。
その後、リンが興味津々で誰だ誰だと喚き始め、名前こそ言わなかった。
が、
「金髪の長髪で金眼で、背が高くて、黒いコートが似合ってて、カッコイイ、男前の方で‥‥‥」
これだけで誰かなど分かるのはただ一人しかいない。
そしてレフィはその者に近づき、耳元で、小声で言った。
「そういうわけで、ちょっと放課後いいわよね?」
それからだ。
レフィがユーリに付きまとうようになったのは。
今はユーリには軽めの敬語で。 シエラ、レン、周りの人には敬語を外し、目上の人には硬く敬語で話している。
ちなみにユーリ本人もレフィが自分に好意を抱いていることは自覚している。
だがそれについて、
「そういうのは嬉しいし、気にすることじゃねえだろ? 歓迎歓迎大歓迎」
と、心から嬉しそうに笑って語っていた。
Fall in “L O V E”
終
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