複雑・ファジー小説
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- Gray Wolf
- 日時: 2011/05/19 17:52
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』
ただひたすらに雫を降らす闇の雲。
その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。
その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。
その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。
女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。
もう、死んでいる。
視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。
何故。
何故なんだ。
何故こんなにも冷たい。
何故死んだ。
何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。
少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。
「ちくしょお‥‥‥」
はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。
《作者コメント》 4月7日
Gray Wolf、引越ししました! イエーイ!!
これからはここ、複雑・ファジーで描いていきたいと思います!!
《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。
《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様からキャラ紹介を参考にキャラ画像を募集し続けます。
・作者の描いたキャラクター達 >>13
キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>12
キャラクター紹介・二 >>57
グレウル用語集
基本用語 >>14
魔術用語 >>15
《目次》
〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>5
【第2章:姫守りし騎士】 >>43
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.6 )
- 日時: 2011/04/07 18:48
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
2 も う 一 人
話
ロートスシティ設立ハイスクール中等部——————
チャイムの音が校舎中に響き、6限目の終わりを告げる。
そして直ぐに起きたわずかな沈黙の後に各教室内はざわめいた。
帰り前のホームルームも終わり、それぞれの生徒は帰宅の準備をする
「シーエラちゃん! 帰ろ!」
「え? あ、リンちゃん。 うん」
自分の頭に手を置き、軽く撫で、後ろからする声の正体にシエラは反応する。
茶色い髪で、白い上着に水色のTシャツ。
紺色のデニムを履いている。
活発で懐っこく接するその少女は天真爛漫とも言うべき笑顔を見せ、シエラに強く抱きつく。
いつもの事ながら、あまりに突然来るそれは、シエラの口から悲鳴の声を漏らす。
重心をこちらへ掛けてきたものだから思わず体勢を崩しそうになるが、何とか持ち堪えた。
帰り道、日はまだ西のかなたには沈まず、街中を照らし続けている。
「あ、そうそう」
リンは携帯電話をいじりながらシエラに話しかける。
指の動きからしてメールでも打っているのだろうか。
気になったが、無断で見るわけにも行かず、だからといってわざわざ「見せて」と言ってまで見る必要性も無いので止める。
「明日の日曜日にね、クラスで遊園地行こうだって。 来れる人で来てって話だけど…行く?」
今度は画面を閉じ、振り向いて話しかける。
少し間を空けて考えたが、何もないだろうと悟ると、声に出しながら頷く。
それを聞いて嬉しかったのか、また笑いながら抱きついてきた。
流石に街中なので、これは抵抗したが、離れそうにない。
街の人達は普通に通り過ぎていたが、時々見る人がいて、羞恥心を煽らせる。
周りの人からどんな風に見えているのだろうか。
それを考ええるだけで恥ずかしくなり、顔の表面が熱く感じた。
翌日———————
ユーリはあくびをしながらベットから起き上がる。
直ぐ近くにあった長方形の木製テーブルには魔術に関する本が散乱していた。
もう一度あくびをしながら頭を指でかき、傍にあったブーツを履いてテーブルまで近づいた。
(昨日疲れて眠ったんだっけ‥‥‥)
半分目を開けた状態で書物を見つめると、めんどくせと呟き、手に取る。
関連した書物をそれぞれ分けて積み重ね、やがて疑問が浮かぶ。
あれ、と呟いてまだ散乱している書物の山をもう一度かき回した。
ない、ない、ない、ない、ない。
何処にもない。
確かに昨日はあった筈の物がない。
召喚術についての記述がしてある本が無い。
あれ、とまた呟いてユーリは手を頭に回す。
ロートスシティ遊園地——————
あれ、とシエラが呟いた。
バッグの中に見慣れない本が入っている。
赤く、背表紙にはヴェルゲンズ語で「召喚術」と書いてある。
「どうしたのー? シエラちゃん、もう行くよー?」
リンの呼ぶ声が聞こえる。
顔を上げるとリンやクラスメートがいた。
大半は既に歩いていたが、リンと後3人がこっちを向いて呼んでいた。
特にリンは満面の笑みで手を振り、早く早くと急かしている。 クラスメートとこうして遊ぶのが嬉しいのか、それともただ単にシエラと遊びたいだけか。
どちらにせよ、直ぐに行かないと怒るだろう。
シエラは乱暴にファスナーを閉め、向かった。
その時、昨日の出来事をまるでフラッシュバックの如く、鮮明に思い出し始める。
——————
日も西の向こうの山へ落ち始め、昼の時間も終わりを告げ始めている。
「ユーリ? もう帰るね」
「ええ? そんな時間? もうちょっと居てもいいのに‥‥‥送ってこっか?」
「ううん。 大丈夫。 そんなに暗くはないから」
ドアを開けながら言うシエラにソファーに腰掛けていたユーリは答える。
心配されるのは悪いことではなかったが、迷惑をかけるわけにはいくまいと思い、断る。
その時、シエラは気付かずに持っていた本を無意識にバッグの中にしまった。
——————
(あ、あの時だ)
シエラは走りながら昨日起こったことを思い出した。
だがもう遊園地にいるのだから、返すのは遊んだ後でも良いと思い、直ぐに頭の中から姿を消す。
も う 一 人 終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.7 )
- 日時: 2011/04/07 18:48
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
3 騒 動
話
ユーリは頭をかきながら辺りを見回す。
心当たりのある場所は全てさがした。
無いとすれば、それは人によるものだと頭の中で推理し始める。
とは言っても、家に上がる程の知り合いなどかなり限られる。
ユーリは取り合えずシエラについて記憶の中を探った。
こないだ飯を作りに来てくれて、昨日何か遊びに来て—————
溜息をついた。
多分その時だ。
あの時自分の本棚から何か取り出していたし、それを間違って持っていくのもおかしくない。
ユーリはいつものロングコートを羽織り、ベットの傍に立てかけてあった刀を手に取る。
それを腰のベルトについていた紐に装着し、ドアの方角へと歩いた。
つい先程、ローラーコースターで恐ろしい目にあっていたシエラは、気力の無い顔で歩く。
レールの上で走る車に振り回され、重心が安定せず、若干ふらふらした様子だった。
「おーつかれーっ!! どう? 楽しかった?」
「‥‥‥恐かった」
向かった方向にあったベンチで、白いソフトクリームを舐めているリンと話す。
脳で判断するのも追いつけない、あの容赦ない、隙の無い恐ろしさを作った人は異端だろう。
だが、矛盾にもそれで若干楽しんでいる自分も居る。
この後は特に何もない。 恐らくまあまた何処かのアトラクションで楽しむだろう。
それからは他愛も無い話をしながら、一緒に遊ぶ————筈だった——————
ユーリはシエラの家の前まで来て、インターホンを鳴らした。
聞き慣れた電子音の後に女の子の声が聞こえ、数秒後にはドアが開いた。
シエラに良く似ているが、肩までしか伸びていない髪や、シエラよりか幼い雰囲気を漂わせているなど、違いはあった。
「やっほ、アリスちゃん」
「あ、ユーリさん。 どうしたんですか?」
見る者を和ませるシエラに似た笑顔と、彼女より少し高い声。
自分の近くまで来て、少しだけ照れるが、終に本題を述べ始めた。
——————————
事情を聞き、納得したアリスは軽く頷いてから口を開く。
「それなら、お姉ちゃんは今留守なんで、部屋に行って来るのでどういうのか教えてください」
「えーっと…。 こんぐらいのサイズで、赤いやつで、『召喚術』って書いてある物」
ユーリは手でA4サイズぐらいの長方形を描き、アリスに教える。
分かりました、と一言言うと、振り返ってドアの方へ行き、強い音と共にドアが閉まる。
大きな爆発音と、それに反応する人々の悲鳴が、シエラ達を驚かす。
入り口方面に黙々と煙が上がっており、上空へ上がってやがて消え去る。
サイレンの音が耳を劈き、避難アナウンスが遊園地中で響いた。
『ロートスパークで不審人物が大勢発見されました! 園内の人々は管理人の指示に従って避難してください! 繰り返します————————』
アナウンスの途中から管理人と思わしき人物が多数こちらへやってくる。
だが、彼らは悲鳴と共に血を吹きながら横に倒れていった。
スーツを着た男達が遠くからライフルであろうその長銃を構えて次々と撃っている。
それに恐れをなしたシエラたちは、叫び声を上げながら別々の方角へと逃げていく。
背後からは多数の銃声、怒鳴り声、悲鳴が順番もタイミングもバラバラに響き続けていた。
「すいません‥‥‥」
「やっぱか‥‥‥」
ユーリは頭をかいて溜息をついた。
今日何度この仕草をしただろう。
ユーリはアリスにお礼を言うとウエストポーチから携帯を取り出す。
今すぐ電話してシエラが何処へいるか訊くか——————
その瞬間だった。
突然持っていた携帯が鳴り出す。
画面を開いていたから丁度良いが、それどころではない。
「あー、はいもしもし? なんでござんしょう」
ユーリは少しイラついた声で電話の奥にいる人物に話しかける。 恐らくその態度は電話越しでも分かるだろう。
だがその奥の人物は気づいていながら、変わらない口調、早さ、大きさで言う。
『あ、ユーリ。 大至急向かって欲しい所がある』
「なんだよ。 早く言ってくれ」
段々イラつきを増してきたユーリは思わず強い口調で言った。
若干聞こえるノイズ混じりで、若い声の主は説明しだす。
『実は我が軍の中将、君も見たことがあるライド中将がロートスパークにプライベートで行っている』
「あーそれで?」
『彼狙いのテロリストがロートスパークに襲撃したという報告が入った。 直ぐに向かってくれないか』
「‥‥‥了解了解。 報酬は覚悟しとけ」
ユーリは最後に舌打ちをして、電話を切る。
訂正。
こっちの方が余程大事だ。
あーあ、と嘆きながら
ユーリは凄まじいスピードでレンガの地面を駆けた。
騒 動
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.8 )
- 日時: 2011/04/07 18:49
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
4 召 喚 術
話
ロートスパークは最近改装工事を始めた所為で、あちこちに鉄骨や材木などが置かれている。
遊園地の雰囲気を壊す物にはなるが、この時だけは身を隠すにはもってこいの場所であった。
だが、いつまでも安心というわけにもいかない。 いつまたさっきの男たちが来るか分からないのだから。
とはいえ出て行ったら見つかる危険性は更に高まる。
ユーリに迷惑を掛けるわけには行かない今、頼れるのは警察しかいない。
シエラは携帯をバッグから取り出すと画面を開く。
しかしそこに移ったのは黒光りする液晶に写った左右反転の自分の顔であった。
どのボタンを押しても何も音が出てこない。
バッグにしまい、ファスナー閉める音とともに諦めの感情が生まれてくる。
だが、一つシエラの頭に引っ掛かった物があった。
もう一度バッグの口を全開にし、探り始める。
そして取り出したのは一冊の赤い本であった。
—————————ねえユーリ。 召喚術って‥‥‥何?」
シエラはソファーに座りながらベッドで寝ているユーリに話しかける。
少し眠たいのか、目が半開きの状態でこっちを見る。
「‥‥‥あぁ。 召喚術っていうのはね…————————
シエラは傍にあった手頃なサイズの、横から見たらほぼひし形であろう石を手に取った。
石を右手に、本を左手にそれぞれ持つと、円を描き始める。
本に書かれている内容は説明が少し難しかったが、シエラには何とか理解できる。
姿、能力、エネルギー、それぞれはこういう風に描くと、本に書かれいた。
その説明通りに様々な絵や記号、文字をスラスラ書いていく。
まず自らが望む姿を中心に描く。
次に、その周りに円になるようその姿の主の能力を書き込んでいく。
そして、それを行使するのに必要な覇気エネルギーの計算公式をバランスの取れるよう書き込む。
これが出来なければ発動することなど無駄だ。
無理に発動しようとすれば、覇気を無駄に消費して、己の体力が無くなるばかり。
そうして出来たサークルには、中心部にキツネの姿が描かれた物となった。
手をかけようとしたが、少し止まる。
これで助かる保障はない上、そもそも発動するのかどうかも分からない。
たかが魔術を発動できるか否か、という問題なのに、失敗したら今までの足掻きは全て無駄。
それに恐れをなしていた。
そのシエラに容赦なく次の問題が発生した。
突然低い声が近くから聞こえたのだ。
用心しながら鉄骨の影から覗き込むと、例のスーツ姿の男が5人、あたりで色んなところを走り回っている。
「くそっ! おい、人質共は何処に行きやがった!!」
「一応出口は見張らせてある。 今大体200人は集まったが‥‥‥それでも足りんな」
「ちっ! もしかしたらここに誰か居るかも知れねえ。 もうちょい探そうぜ」
まずい、来ちゃう———————
モヒカン頭の男がこちらの方角へ歩いてきた。
まだ気付かれてはいないが、恐らく見つかるだろう。
コツ
コツ
コツ
コツ
段々と靴底の固い音が大きくなってきた。
否、近くから聞こえてきたのだ。
逃げようとしたがもう遅い。
数段に積み上げられた鉄骨の角から人影が現れた。
その正体は言うまでもないだろう。
シエラはとっさに相手が気付くより先にアスファルトに書かれた円に手を置く。
「っ!!! オイ!! ここにガキが一人———————」
視力をおかしくさせるような眩い蒼い光。
その直後に、こちらに気付いた男の声がかき消されるほどの風音が突き抜けた。
———————召喚術っていうのはね‥‥‥正式名称『幻獣召喚使役術』。 名の通り自分が構想した架空の動物を呼び出して、使役させる術さ」
その風は、砂埃を舞わせ、シエラの目に刺激を与える。
思わず涙目になって視界がかすみ、やっと見えたと思えば、男は上空へと舞い上げられている。
そして代わりに自分の目の前に映ったのは、宙で掛けた腰を浮かせ、尻尾を左右に振り回している、赤い瞳の緑色の狐であった。
召
喚
術
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.9 )
- 日時: 2011/04/07 18:49
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
反
第
撃
5
の
話
機
その出来事に思わず我が目を疑った。
突然前方から突風が吹き荒れたため目を開けられず、開いたときには男は宙を飛び、回りながら落ちた。
その原因となる物といえば、この得体の知れない獣としかいえない。
緑色の体毛。 良く見れば耳の毛がはねている。
赤い瞳。
浮いた小柄な身体。
見るからに狐か何かだろう。
もしかして私が出した—————?
シエラは自らが描いた魔方陣に目をやる。
だが、その暇は無く、シエラは再び前を見た。
すでにこちらの前方で険しい表情を見せながら銃を構えている男の姿がある。
その姿に恐怖を覚えたが、宙に浮く狐がシエラの手を取り、上空へと飛んだ。
小さく悲鳴を上げながら、シエラは緑の狐に手を引っ張られる。
自分が空を飛んでいる。
子どもなら好奇心にあふれ、夢を見るだろう。
だが実際は、ここまで高く飛んでもしも落ちたらという恐怖感が心を支配する。
だが、段々慣れてくることで冷静にもなれた。
どうやらこの狐が宙に浮いていたのは小さなつむじ風がやっていたことらしい。
実際空を飛んでいるのもその竜巻によって自分を吹き飛ばしている物なのである。
しかし、それほど高くは無く、下からは男が銃弾を撃っている。
こちら側がかなりのスピードなので追いつかれることは無いが、普通に届く距離。
狐は空いていた右の前足を振り上げ、それを振り戻した瞬間に巨大な竜巻が出来上がる。
それを男達に向けて飛ばし、轟音を立てて突進してくる。
避けられる程度のスピードでもなく、見事に命中し、4人の男を大きく吹っ飛ばした。
ついた先にあったのは大きな広場。
ゆっくりと地上へ足を着け、手を放す。
改めて自分の重力を感じ、思わず尻餅をついたが、やがて慣れ、何とか立ち上がることが出来た。
スカートについた埃を払い、回りの状況を確認すると、遠くに人影が見える。
自分と同じ逃げてきた人だろうかと思い声をかけようとしたが違った。
オールバックの白髪。
同じくスーツを着、ゆっくりとこちらへ近づくその動作はシエラに膨大な恐怖感を与える。
しかし、恐怖するのはそれだけではない。
右手に持っていたのは紛れも無い巨大な“斧”だった。
その顔は今までのスーツとは比べ物にならない、眉間にしわが集中して出来ている。
逃げようとしても身体が動かない。
その上先程の狐がいつの間にか消えていなくなっているのだ。
段々と近づく相手の足。
その度に早まっていく自らの心の鼓動。
斬られる、斬られる、斬られる、斬られる———————
また、あの時と同じ光景。
固い音が響き、大きな背中が目の前に現れたその光景。
目に溜まっていた雫が頬を伝って落ちていくのも気付かずに“彼”を見つめる。
————————ユーリ————————————
反
撃
の 機
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.10 )
- 日時: 2011/04/07 18:50
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第 6 話
ヴォルドス・ドライクム
持っていた斧はかなりの巨大さだ。
その重量感は大人一人分より少し小さい岩を斧の形にしたようなものだ。
それを平然と振り回す人間も以上だが、その一撃を片手で受け止める人間も異端である。
ユーリは受け止めた斧を持ち主ごと弾き飛ばす。
刀の鞘を裏手に持った左手を前へ出し身体の姿勢を少し低くする。
後ろに下げた右の拳に力を入れ、身体の向きを右向けにし、鋭い目つきで睨み付ける。
「ほう。 私の一撃を受け止めるどころか弾き返すとは‥‥‥。 中々やるものだな」
ユーリはその台詞の返事か、声に出して笑ってみせる。
「だが‥‥‥今のがフルパワーでないことは小僧も分かっているはず。 その余裕の表情、いつまで続く?」
その通りだ。
あの一撃は大斧を軽々と振り回す筋肉の持ち主が放つ物ではなかった。
それをいくら片手で防ごうと、全力で振ればたとえユーリでも吹き飛ぶのは間違いない。
ユーリは改めて鋭い目つきで睨み付け始めると、一つ間をおいて駆け出す。
地面を強く踏みしめ、蹴り飛ばし、跳躍し、ユーリは左の拳を突き出す。
それを右に避けられ、ユーリは地面から放した右の足を体ごと振り回す。
男は右の腕で押さえ、それを前へ突き出してユーリの身体を吹き飛ばした。
彼は右の手を地面につけ、吹き飛ぶ自分の身体を止め、支えた。
浮いた両足を地面に立ち上がり、鞘の状態で薙ぎ払い、炎牙斬を放つ。
切れ味を持つ三日月の赤い炎は男の下へと直進する。
だが斧を振り下ろし、三日月を真っ二つに割る。
火花が舞い、二つに分かれた炎は虚空へ消え去り、ユーリは舌打ちを見せる。
今度は男から攻撃の態勢で突っ込みだし、ユーリも前へ走り出す。
まだ近づいてもいないのに急にレンガの地面を斬り砕き、そこから大きなかけらを取り出した。
当然ユーリに向かって投げつけるだろう。
ユーリは地面に飛び込む様に跳躍し、腕力で前方へ倒立回転して飛ぶ。
その凄まじい跳躍力は読み通り飛んできた岩より上方へすり抜け、そのまま男に向かって飛び続ける。
空中で前かがみに体勢を戻したユーリは剣を構えて巨漢に斬り込んだ。
だが、腰の位置に斧を低くした男は振り上げ、ユーリの一撃を受け止める。
それどころかユーリよりも勢いのあったそれで、彼の身体を上空へと打ち上げた。
かなりのスピードでユーリは吹き飛ばされ、その方向にあった建物に右の手で支え、ずるずると落ちていく。
あまりの勢いに手は痺れたが、それに傷む表情は出さず、抜刀する。
「なかなかやんな。 丸腰の娘にそんな大げさなもん使うからそれほど強くないと思ってたぜ」
「貴様も若き身でありながら良くこのわしと戦った。 だが次は容赦せぬぞ‥‥‥」
崩れたオールバックの白髪が目に掛かり、それを避けながら男は笑う。
だがその時空一面に響き渡る男の声が聞こえた。
その方角を見ると軍と思しき者達が機関銃を構えてこちらへやってくる。
それに舌打ちした男はポケットから小型の機械を取り出し、いじくった後、後方にあった建物に逃げ込んだ。
斧を使ってよじ登り、上からユーリ、シエラ、軍人を見下ろして高笑いした。
それにタイミングよく、漆黒のヘリコプターがやってきたがそれはユーリたちに対するものではない。
男の頭上へと停止し、開いた扉から太い縄のはしごが下りてきた。
それにしっかりつかまってユーリに振り向くと、低い声を上げて言う。
「小僧!!!! よくこのわしと対等に立ち回りを演じた!!! 次に会う時に決着を付けるぞ!!!!! わしの名はヴォルドス・ドライクム!!!! 貴様の名を言ってみろ!!」
「ユーリ、ユーリ・ディライバルだ!!!!」
ユーリは返事に自分の名を叫び、去っていくヘリを静かに見送った。
ヴォルドス
・
ドライクム
終
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