複雑・ファジー小説

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Gray Wolf
日時: 2011/05/19 17:52
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』



ただひたすらに雫を降らす闇の雲。

その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。

その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。

その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。

女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。

もう、死んでいる。


視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。


何故。

何故なんだ。

何故こんなにも冷たい。

何故死んだ。

何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。



少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。







「ちくしょお‥‥‥」









はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。


《作者コメント》 4月7日
Gray Wolf、引越ししました! イエーイ!!
これからはここ、複雑・ファジーで描いていきたいと思います!!



《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。


《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様からキャラ紹介を参考にキャラ画像を募集し続けます。

・作者の描いたキャラクター達 >>13



キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>12
キャラクター紹介・二 >>57


グレウル用語集
基本用語 >>14
魔術用語 >>15

《目次》

〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>5
【第2章:姫守りし騎士】 >>43

Re: Gray Wolf  移りました ( No.46 )
日時: 2011/04/07 19:19
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

   第    3    3    話



          鬼神         九刀流



取り出したのは一本の矛。
その長さは持ち主の身長を祐に越しており、2mはあるだろう。
それを手を軸に乱回転させ、振り回し、背を高くして構える。
ユーリも構え、同時に突っ込んできた。
未だ高く構え続けている。
あれほど長い矛なのだから高く構えないと扱えないのだろう。

そして、振り下ろしてきた。
それを左に避けて様子を見たが重量はそれほど無いことは地面を見てわかった。
後に、こちらの方へ振り回してくる。
それを避ければ、今度は何度も何度も、間髪いれずに打ち込んでくる。
何度か応酬をしている内に、長い柄がユーリの脇腹に当たる。

男はそのまま長い柄を回し、ユーリの体は崩され、横に飛んでいく。
うまく地面に手をつけた後に足をつけ、頭からの直撃は避けた。
男がまた矛を回転させながら突っ込んでくる。
先ほどまで剣術の使い手であった筈の彼は今や槍術を巧みに使っている。
何度も来る斬撃の軌跡を見る限り、かなり訓練されているのだろう。


そうして呑気に観察していた時、斬撃を止め、槍を回転させて振り回す。
左手を上に、右手を下に持ち、ユーリに切っ先を向けるように構える。

矛を前に突き出したと共に、ユーリも横に避けてかわす。
同時に、巨大な風圧がユーリの背中を押した。
矛は自分の横にあるというのに突き出した方向へ風が吹き、結んだ金の長髪は乱れていった。
さほど大したことはないのだが、ただの矛による突きにそんな威力があるとは思えない。

———————こりゃやっぱ‥‥‥

驚きながらも、何かを確信するように近づいてくる矛を見つめる。
刀を構え、再び来る斬撃達に、刃を振って応える。
弄ぶ様に振り回しながらユーリへ次々と打ち込んだ。
跳躍し、突きの構えを取り、空中よりその長い柄に付く刃を直進させる。
足元に飛び込むその軌跡をユーリは後ろに飛んでかわし、深々と突き刺さり、塵を巻き上げさせながら地面に小さなひびをいれる矛を見た。



少し硬い音を出しながら着地した後、地面に全長の4分の1ぐらいはめり込んだそれを抜き出し、手を軸に振り回す。
一つ溜息をついて、呟く。

「鬼神九刀流魔術奥義———————」

ユーリは咄嗟に身構え、全身に力を込めた。
それを無駄と言いたげな、呆れた顔で見つめた。
突然刃に刻まれた紋章が光りだし、炎が灯り始めた。
それを確認すると、長い柄を振り回し始め、徐々にスピードを上げていく。
その乱回転は今までになく荒々しく、刃に灯った炎はまるで鼠花火の様に明るい円を描く。
回転の動作を止め、構えた矛の、持ち主の周りには蛇の如く炎が渦巻いている。


「矛槍炎舞」


巨大な大火は遠くにいるユーリの肌に熱気を与え、汗を出させる。
「行くぞ」
その一言と共に男は走り出す。
劫火を、振り被りながら。

熱気を伝わらせる、巨大な炎を一撃一撃を受け止める。
何発も、十何発も、攻撃を受けた後、例の突きの構えが来た。
炎は矛を中心に半円を描くようにして巻き上がっていた。
そして、緋色の高熱と共に突き出す。

まだこちらの体に届かないはずなのに。
だがそれは何故なのか、納得した。
突きの一撃と同時に炎は火柱となり、ユーリへ迫る。
逃げようとしても無駄。 既に体が包まれていた。
しかし、それでも足掻くか、息を止め、腹に力をいれ、焼かれない思いで耐え続ける。




纏っていた炎は火柱と共に消え去った。
火柱に巻き込まれたビルの側面は焦げ、そこには座り込むように倒れているユーリがいる。
だが、未だに頭の前に左腕を持っていっていることから、息がある。
それどころか、スッと立ち上がり、大きく息をついた。
驚きの感情は形となり、顔に、そしてのどから口へと出る。
「貴様…何故‥‥‥」
「わりぃな。 ちょいと特別なコートでよ、これぐらいで済んだのは良かったぜ」
ユーリは余裕そうに笑みを浮かべ、自分のコートを見る。
右袖は元々無いとして、左袖の半分はボロボロになり、足のすねまで長かった裾も、今はビリビリに引き裂かれたようになっている。


仕方ない。


そう一言男は言った。
その瞬間、男の周りから次々と棒のような物が空間から現れ、それをどんどん取り出し上空へ飛ばしていく。
更に、持っていた矛も、地面に合った巨剣も小刀も、勝手に上空へ上がっていく。
出てきた五つを含め、残りの三つを足した八つの物体は宙で静止し、そして散り散りに離れていく。
それらは地面に突き刺さり、その内例の巨剣が男の目の前に突き刺さる。


大剣でも、細身の剣でもない中間の大きさといった鋸状の刃を持つ
崩鋸刀

小さく、30cm程しかない小刀
薄鋭刀

長い柄を持つ矛
矛槍刀

上下逆の湾曲した刃を持つ鎌
絶傷刀

刃が無い、柄と鍔だけの刀の形をした
夢幻刀

弧に刃の付く、大型の弓
弓狙刀

東方特有の、黒い縁に刃の取り付かれた赤い大盾
硬純刀

銃身に小さく刃をつけたオートマチックの拳銃
銃連刀


それぞれの「八本の刀」を男、ユーリの前後左右にばら撒く様に地面に突き刺されている。
「この鬼神九刀が八本を取り出さなければならない程の強敵は、久し振りだ」
地面から、崩鋸刀と呼ばれし巨刀を抜き出し、切っ先を遠くにいるユーリに向ける。
「名を、名乗り合おうか。 お互いに。 俺は、ルリ・ミナゲツ」
変わらない姿勢。
変わらない口調。
変わっている瞳。
実力を認めた者の瞳が、自分を見つめる。

嬉しくないわけではない。 この気分は。

フッと笑い、口を開く。
「ユーリ・ディライバル」
「そうか。 なら、行くぞ。 ユーリ・ディライバル!!!!!!」

両者、共に駆け出し、獅子の本能を曝け出す様に咆哮し、刀を振り被る。
上から下へと縦に、右から左へと横に、彼らはその刃を込み上げた感情を纏わせ、ぶつけ合い、響かせた。






  鬼

  神

  九
                  終
  刀

  流

Re: Gray Wolf  移りました ( No.47 )
日時: 2011/04/07 19:20
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

  第  3  4  話  鬼  の  如  き

               の

               剣

               士


鈍い音、鋭い音。
数多の音が入り混じり、それとともに二人の少年は互いの剣を交わす。
一人は長き直刀を持つ金髪の少年。 一人は八本の刀を持つ黒髪の少年。
しかし、

鎌、矛、盾、弓、銃、中には刃をもたない柄だけの刀。

どう見ても刀とは言えない形状を持つものもあるどころか、そういった物が半数を超えているが、それでも刀。
八本の刀を扱う剣士など信じられないが、それでも剣士。 否、“それこそが彼にとって剣士なのだ”
その中でも一際大きな———と言っても大剣と言うには余り大きくなく、かといって細身でもない、鋸の様な片刃の剣、
“崩鋸刀”を黒髪の少年は構えている。



また、大きく、鋭い音が響いた。
「ぐっ‥‥‥ぉおおああああ!!!!!」
重さを力にする崩鋸刀。 その威力はいくらユーリでも受け止めても強い衝撃が走った。
押し返すのも精一杯。
だが、幾つもの修羅場を潜り抜けてきたレンでさえ、受け止められず、肋骨にひびを入れられたと言うのに、力で押し返すというのはかなりの芸当と言えよう。
もちろん持ち主のルリは意外とは思ったが、先程も受け止められた故に驚きは小さかった。
そうしてユーリは彼から距離をとり、構えを更に固める。
が、それも意味なし。 彼が巨剣を投げつけたからである。
いきなりで驚いたが、縦方向に回転しながら飛んでくるそれを横に飛び、かわす。
ユーリのいた場所の後ろにあった壁の一部は砕け、崩鋸刀が突き刺さっている。
あれ程の重力を持つあれをあのスピードで此処まで投げるとは見かけによらず相当な腕力だ。

それよりも気になるのは彼がその次にとった刀。
刀と言うよりどう見ても鎌なのだが、断じて刀。
彼が絶傷刀と呼ぶ、正真正銘の刀。
左手で取ったそれを右手に持ち替え、クルクルと振り回し、弄ぶ。
双方に上下向きが逆の湾曲した刃が取り付いた鎌で、柄の部分に魔方陣のような紋章が刻まれている。
それを構え、ユーリの許へ駆けて行った。


その刀に少なからず違和感を感じているユーリは刀で受け止めようとせず、完全に体を動かして回避する。
来る斬撃を避け、かわし、逃げる。
決して受け止めようとはしない。 何故なら、斬撃が余りにも危険すぎるから—————
斬る際の空気を裂く音が余りにも鋭く、高く、まるで強い耳鳴りの音—————
それにその次来た斬撃をかわした際、それは彼の後ろにあった木を切った。
しかし、完全に切れ、倒れた。
切ったのだから倒れるのは当然だが、幹の半分までしか刃は通っていないはず。
なのに完全に切り倒された。


やはり、相当な切れ味——————


これを刀で受け止めたら真っ二つにされるだろう。
そうされれば確実に負けるどころか殺される。 そういうわけにはいかない。
絶傷刀の恐ろしさが分かってしまった今、距離を縮めて近接戦闘に持ち込むには危険すぎる。
ユーリはまたも距離をとり、刀を振り被って覇気を込め始めた。
だがそれよりも先に彼の放つ攻撃、否、魔術の方が早かった。
それこそ、

鬼神九刀流

魔術奥義

“絶傷絶命”—————!

何もないところにその刀を振り、その瞬間に幾つもの突風、あの刀の切れ味を乗せた突風が吹き荒れ、ユーリに襲う。
しかし、いくら見えない風と言えど、所詮は覇気で作り出したただの魔術に過ぎない。
相手が完全な自然物ならともかく、覇気によって作り出されたなら、同じ覇気の持ち主、つまり魔術師には“感覚の目”で見破られる。
ユーリもその例外ではなく—————その風は彼にとって“見えて”いた。
すかさず宙返りしながら後ろにとび、多々なる風を掠りもせずかわした。
ユーリのいたそのコンクリート製の地面には綺麗に切った跡が残っている。
普通ならどんな切れ味の刃物でも削り跡が出るはずにもかかわらず、削り取られた模様は無く、本当に切れていた。

ルリはまた絶傷刀を構え、ユーリにまた走り出す。
その途中の道に突き刺さっていた矛、つまるところ、矛槍刀を抜き、左手に持つ。
そして、右手に合った絶傷刀は宙へ投げ、その瞬間に彼は走る事をやめ、静止した。
「‥‥‥何の真似だ?」
勝負の最中に敵前で突撃を止めるなど不自然以外の何者でもない。
ユーリは未だ警戒しながらルリを見つめる。
そして、矛槍刀を両手に持ち、構え、神経を研ぎ澄ませた。
「いや、折角だから鬼神九刀流・乱舞奥義も見せておこうと思ってな」
不敵に微笑むその口角に、逆にユーリの方が彼から殺気を感じたが、同時に宙にあった絶傷刀がルリの目前まで来た。
その時、彼はその矛を突き出す。

鬼神九刀流・乱舞奥義其の五——————



    身傷膨大



高い貫通力を持つ矛槍刀。
それによって切れ味の鋭い絶傷刀を飛ばし、その切れ味に貫通力を乗せる。
そうしたらその威力はどうなるのだろう——————
それを受けて、無事で済むのか。
答えは“否”。


「ぐおおおああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ユーリはその攻撃を受けてしまい、飛んできた絶傷刀と共に後ろのビルの側面まで吹き飛ぶ。
絶傷刀はビルに突き刺さり、ユーリもまた、ビルに体を叩きつけられた。
そして、遠くで見据えている彼は言う。


「鬼神九刀流の力を見誤るなよ」





       き   如   の   鬼   の   剣   士



                   終


Re: Gray Wolf  移りました ( No.48 )
日時: 2011/04/07 19:21
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

   第
         
   3
             ギリギリセーフ
   5

   話


「お前は、俺が鬼神九刀流と初めて口にした時、挙動不審だった」
巻き上がる煙を遠くから見ていた剣士、ルリはそう言った。
左手を上げ、前に出し、手の平を開く。
「何かこの流派について知っているようだが、知っているだけで対応できていない」
——————まあたかが剣一本で此処まで互角とは褒めてやるがな
フッと微笑し、左手のフィンガーレスグローブ、つまりは指の露出した手袋に刻まれた紋章を輝かせ、ビルに突き刺さった鎌も、それに共鳴するようにもう一つあった紋章を輝かせた。

そして、まるで何かに操られるが如く、それは回転しながら浮遊し、移動し、最終的にその柄が彼の手中に納まった。
受け取ったそれを地面に向かって振り、コンクリート製のそれは深く切り裂かれた。
スパンという、擬声語では表しきれないほどの鋭い音を立てて。
「三つの顔、三対の腕、三対の足。 時には攻防一体に、時には堅く守り、時には、激しい猛攻を。 鬼の神が如く怒涛に、敵を容赦なく斬る。 それが、」
低く、しかし大きく、彼は言いながら矛槍刀を持ったその右手を上げる。

「鬼神九刀流」

ヒュンッと渾身の力を込め、その刀を投げた。
流石の貫通力に未だに巻き上がった煙が刀を中心に大きな穴を開けた。
そして、その中を突き抜け、彼に——————



何も起こらない。
あの矛槍刀の威力なら、ビルの側面で爆発が起きるはずなのに、何も起こらない。
「妙な話はもう終わりかい?」
煙は徐々に晴れ、終にユーリの姿が見える。
胸元に突き刺さりかけた矛を、左手で受け止めて。
「ふう〜。 後0,1秒応急処置が遅れてたら完っ全に貫通してたね。 ギリギリセーフ。 いくら突きの威力が高くても、柄にまでその影響は出ないからなあ」
——————応急処置?
見れば彼の右肩には脇までかけて包帯が巻かれている。
純白のそれは、傷口を沿ったように少し赤く染まってはいるが。
——————まさか、それをあの短時間でやり遂げたのか‥‥‥!?
とはいってもそれしかない。
乱舞奥義、身傷膨大を受けるまで巻いてはいなかったのだから。
きっと腰の右側についているポーチから取り出したのだろうが、手早い作業だ。
彼は右手の指だけが出た手袋に刻まれた左手のと同じ紋章を光らせ、矛槍刀もまた、二つあるうちの一つの陣を光らせて、ユーリの手の平から擦り抜けた。
そして、今度はルリの許に行かず、彼の近くにあった地面に突き刺さった。
左手の絶傷刀も、ルリに投げられ、地面へ突き刺さる。
最も、余りの切れ味に地面を滑るようにして突き刺さったのだが。
次に今度は両の陣を輝かせ、それに共鳴して光った弓と脇差が共に独りでに動いて彼の手中に収まる。
右手に持つ小刀、「薄鋭刀」は柄と刃の間、はばきに施された紋章を光らせ、同時に振ったそれは空を切ったが、その瞬間に薄く平たい水流がユーリの眼前まで飛んでくる。
反射的に右にかわし、その先を目で追うと、花壇の草花が無残にもプッツン、と切れている。

高圧水流。

そう読んだユーリはルリに焦点を合わせ戻す。
しかし、その瞬間に多数の薄い水鉄砲のような塊がユーリ目掛けて襲う。
これも魔術奥義———————?
そう思いつつも紙一重でかわし続け、確実に攻撃を避ける。
攻撃の嵐が止んだと思えば今度は木の棒が飛んでいた。
否、それは木の棒ではなく、矢。 何処から飛んできたかと思えば当然ルリ。
あの八本の刀剣と同じく、何もない場所から取り出したのだろう。 地面に数十本突き刺し、一本一本小刀を握っていない人差し指と親指で摘む様に抜き取ってそれを左手の弓で撃っている。
最も、弓の形をした刀だが。
今度はそれを一本、二本と避け続け、次の狙撃に備える。
だが、今まで短い間隔で放っていた攻撃が急に止む。
それもその筈。 ルリは弓を下に向け、弧の弓幹に右手を添え、唱える。

「魔術奥義・爆弓狙撃」
添えた右手、ではなく添えられた魔方陣から赤い光の弾が出てきた。
それは徐々に弦と一緒に引いていく右手と共に伸び始め、終には矢も同然の形へ変貌する。
ユーリは盛大に自慢できるほど洞察力は高い。 故に、名前だけで大体の事は理解できる。
空気を貫く音が聞こえたと同時に、しゃがむ様に低く構える。
そして、3秒前までユーリがいた場所は広範囲にわたって爆発し、既に彼は居ず。
爆風によって煙が巻き上げられ、その煙を体で突き抜け、視界を得る。
だが、すぐさま彼の後ろに殺気を感じるのが分かった。
後ろに振り向いた瞬間にもう目の前に男はいた。

右手に鎌を持って。

左から右へ振る構えを取って。

いつの間になど言ってられない。 この距離と刃が当たるまでの最長時間を考えれば、確実に真っ二つになる事間違いなし。
付け加えて、この振り向き様の体勢は、どう考えても即座の移動ができない。
「くんん‥‥‥ぬぉおおお!!!!」
どうせ刀諸共自分も真っ二つにされると言うのに、最後の足掻きとして、彼はその直刀を防御へまわす。
段々耳に耳鳴りのような高く鋭い音が伝わってくる。

鉄の棒から湾曲して出てきた刃は全てを切り裂かんとする切れ味。



その刃はユーリの直刀を———————————








折らなかった。





     ギリギリセーフ          終


Re: Gray Wolf  移りました ( No.49 )
日時: 2011/04/07 19:21
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)


「な‥‥‥!!!」
絶句。 それ以上の言葉はなく。
何しろ絶傷刀はユーリの持つ長刀を折らなかった、否、折れなかったのだから。



 3
  6
   話
               決着は呆気なく


この硬直した雰囲気の中。
いまいち状況を飲み込めずにいながら、否、飲み込めない故にユーリはその隙を突いた。
力任せに剣を押し、鎌を弾く。
それを持った右手は吹き飛ばされ、振り戻す事ができない。
ユーリは左肩を使ってタックルし、それで怯んだ隙に右の拳で胸にアッパー。
そして左足で蹴り上げ、三段攻撃を全て命中させる。 余りの威力にルリは少し吹き飛んだ。

「な‥‥っ、なんだ‥‥‥その、剣はぁ‥‥‥‥‥‥っ!!!」
半ば四つん這いに近い状態でしゃがんでいるルリはユーリに尋ねる。
途切れ途切れ、搾り出されたような低く小さい声だが、それでも十分にユーリの耳に届く。
「んあ? ああ、『狼将刃』か?」
『狼将刃』とはユーリが左手で指差した物——————ユーリの持つ直刀にして長刀の得物だった。
ちなみに絶傷刀の一撃を受けて全く刃こぼれしていない。
「別に訊かれても俺にも分からねえんだけどな。 だってこれ、家の倉庫から勝手に取ったもんだから」
————————そして名前は俺が勝手につけたけど
最後は言おうと思ったが、余り長話になるのも困るので、やっぱり止めた。

「そうか‥‥‥」

ルリは少しよろめきながらも立ち上がり、絶傷刀を構える。
「と、いう事は、生半可なスピードではお前を倒せないわけかっ!!!」
よろめいて倒れたかと思えば、重心を前にして、初速を速めてのダッシュ。
ユーリの懐に向かわんと、彼は走り、絶傷刀を構える。
そして、ユーリから見て右から左に斬撃。
彼はそれを避け、その次に来た左から右の斬撃もかわす。
やはりこの刀では避けられてしまうと確信したルリは、ユーリから距離をとり、その刀を投げつける。
それを剣で弾いたユーリはもう一度彼を見る。
すると、構えていたのは拳銃。
“銃連刀”
銃身に刃がつき、グリップは普通の拳銃より若干ながら銃身と真っ直ぐになっている。
回転式連発銃、すなわち、ダブルアクションのリボルバー。
で、ありながら、オートマチック系の銃のように銃身が広い、奇妙な形。

そして、銃口をユーリに向けトリガーを引く。
乾いた大きな音放たれると同時に先端が尖った金色に近い色をした筒が飛び出す。
次に二発目、三発目、四発目、と撃っていく。
普通の拳銃では出せないスピードでユーリへ向かい、勿論の事、それすらも彼はかわす。



銃弾がユーリの許にやってきたのはこれで20発目。
ここで、ユーリは彼の持つ拳銃————ではなく刀、そしてその扱いを大体分析した。
まず、銃連刀は一般の拳銃と同じで六発が最大装填数。
次に、ハンドガン用マグナム弾でもないのにライフル並みのスピード。 かわすのもやっとのところである。
そして、再装填する時間が非常に短く、隙が少ない。
弾は何もない空間から取り出しているのであろうが、指使いが非常に優れている。
弾倉を開き、なくなった弾を補充し、それを装填する。 この間の時間、長くても3秒。
器用などというレベルではないだろう。
速い上に隙が少ないのでは近づくも何もあった物ではない。
「くっそ‥‥‥」
ユーリはある一つの覚悟を決めて、走り出し、次々撃ってくる銃弾をかわす。
逃げたのではなく、ルリを中心に円を描くように走り出す。
かと思えば、今度は彼に向かって一直線に走り出した。
そして刀を上空に投げ、先程より身軽となった彼は獣のような速さで右往左往しながらルリへと近づく。
瞬間、ある一発がユーリ左肩を掠めた。
呻き声を上げながらも、決してスピードは緩ませず、走り続ける。
「だあああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
狼が咆哮する様に、ユーリは叫び声を上げる。





ルリの、目の前にいた。
誰が? 何が? ユーリが。
いつ? 今。
何処で? ここで。
何故? 近づいたから。
どうやって? 走って。
普通なら答えられる5W1H、すなわち今この現状も、ルリにとっては理解するのに手間取った。
というより理解する暇がない。
ルリは反射で後ろに大きく退け、ユーリの斬撃をかわす。
殺意が1/1も出ているルリと違い、彼は本気で殺すつもりはなく、浅い一撃を放っていた。
故に、胸の傷は致命傷にならず、大きな掠り傷が出来たかのようだった。
ルリは銃連刀を投げ捨て、ユーリを見つめる。
よく見れば、左肩意外にも、その二の腕が貫通されている。
他にも、右頬にも掠り傷、右肩も貫通。
とは言え、未だに剣を振れるというのは腱などの筋が切れていない証拠。
それに、それほどの怪我を負って叫び声も上げないとは相当精神力がある。


————————敵ながらあっぱれ、というやつか
ルリは戦闘中であるにもかかわらず、微笑し、右手を腰の左の部分に持っていく。
そして、急に出てきた柄のような物を握る。 よく見れば、その柄からは薄鋭刀と同じ位の長さの刃が付いている。
更に、握った柄をゆっくり引いたその先は、鍔、そして刃。
その刃を全て引き抜くと、1mを祐に越えた、長い刃渡りだった。
片方には長い刃、片方には短い刃。 双方に刃が取り付いた刀。
「最早これを使わなければならないとは‥‥‥中々恐ろしい奴だ」
それを最後の言葉に、ルリはその長刀を構える。
ユーリもまた、それに応じるように刀を固く握り締めた。
一筋の風が流れ、緊迫感は細い糸の如く張り詰める。


だが、それを解き放たず、緩めさせたのは、自分達を囲む銃口だった。
気がつけば、ユーリとルリは青の制服を着た軍人達に囲まれ、一人一人が持つマシンガンの銃口を向けられている。
そして、その軍人の中から一人の少年が出てきた。

それは、レイン。



「これ以上、この街で騒ぎを起こすのは止めてもらおう。 私達と一緒に来てもらいます」





    終          決  着  は  呆  気  な  く



Re: Gray Wolf  移りました ( No.50 )
日時: 2011/04/07 19:22
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

  第


 3   7        3  日  後


   話



———————止めろ


止めろ、来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな


来ないでくれ


もう—————————



「来るなぁ!!!!!!!!!!!」
ベッドからユーリは飛び起きる。
朝の筈だが、日差しが目に入らない。

当然であろう。 目の前にシエラがいるのだから。
勿論比喩ではなく、10cmもない距離にある。
無表情のまま、動く様子がないが、段々顔が赤く染まり、あわあわと口を開いている。



「きゃああああああああああああ!!!」




「ご、ごめんね。 突然大きな声出しちゃって。 びっくりしちゃったから‥‥‥」
シエラが未だに赤いその顔を隠すようにそっぽを向き、謝る。
「いや、別にいいけどよ」
ベッドに座り続けるユーリもその謝罪を軽く受け止めて許す。
だが、心中では、
(あれってもう少し近づけばキスできたよな‥‥‥。 ちっ、惜しいな)
などと如何わしいにも程があることを考えていた。


「でも何でうなされてたの? 汗びっしょりだし」
シエラに言われて気づく。
額にも、頬にも、タンクトップの服の中にも、汗に塗れており、びしょびしょの状態だった。
ユーリは彼女の指摘に、顔を俯けて、低い声で言う。
「聞きたいか?」
「え? 別に、そんな無理していう事じゃないよ。 ちょっと気になっただけだったし」
「いや、聞いとけ聞いとけ。 こんな事、誰かにぶちまけねえと」
気になっているのに聞くのを躊躇うシエラをユーリは教えようとする。
一呼吸置いて、ユーリはゆっくり口を動かし始めた。

「白い砂浜、夕焼けが水平線に沈みかけた赤い海。 そこで俺は、」


ビキニ姿の美女百人に追いかけられていた


思わず疑問の声を出すシエラ。
まあ、思っても思わなくてもこれは疑問しか出ないのだが。
「そこまでは良いんだ。 ただ、その娘達の顔や体付きが変わり始めて、筋肉の塊みたいなマッチョに一人残らず変わって、俺を追いかけ続けるんだ」


‥‥‥


「あんな悪夢があるもんか‥‥‥!! 多分、いや絶対人生最大の悪夢だ‥‥‥」
「そ、そうなんだ‥‥‥」
(もっと暗い話しかと思ってたけど‥‥‥)
ユーリは頭を抱え、今にも泣きそうな顔で俯く。
だが、先程から左手に感じる温もりに気づいて、自分のそれを見る。
そこには、しっかり握っているシエラの腕があった。
間違いない。 彼女の頭から、首に掛け、肩、二の腕、肘と辿り、その先の物はユーリの腕を握っている。
ユーリの目線によって自分のしてる事に気付いたシエラはまたもや赤面し、何も言えずただ恥ずかしさのあまり冷や汗を出している。
しかしユーリは彼女の手を放さず、右手を添えて包む。
「ちゃんと看ててくれたんだな。 ありがとな」



「‥‥‥‥‥‥」



その時、殺気を感じた。
この殺気は、言うなれば、妬み、嫉妬の炎の如きオーラを纏った———————


「‥‥‥何それ」
レフィ、だった。
と、その隣に彼女を宥めようとするレン。
ユーリ達を見る彼の目は、助けを求める目であった。



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