複雑・ファジー小説
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- Gray Wolf
- 日時: 2011/05/19 17:52
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』
ただひたすらに雫を降らす闇の雲。
その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。
その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。
その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。
女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。
もう、死んでいる。
視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。
何故。
何故なんだ。
何故こんなにも冷たい。
何故死んだ。
何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。
少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。
「ちくしょお‥‥‥」
はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。
《作者コメント》 4月7日
Gray Wolf、引越ししました! イエーイ!!
これからはここ、複雑・ファジーで描いていきたいと思います!!
《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。
《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様からキャラ紹介を参考にキャラ画像を募集し続けます。
・作者の描いたキャラクター達 >>13
キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>12
キャラクター紹介・二 >>57
グレウル用語集
基本用語 >>14
魔術用語 >>15
《目次》
〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>5
【第2章:姫守りし騎士】 >>43
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.21 )
- 日時: 2011/04/07 18:59
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第 襲
13
話 撃
フェルトシティはロートスシティよりか人も店も多い。
流石は都会、と言った所か。
ただ数だけではない。 種類や、同じ類の店でも名前が違う。
人、建物、人、建物。
次々と映る景色を見、途中で若く、可愛らしい女性も見かけた。
早速声をかけようと思ったが、もう奥まで進む人と人の間に映るシエラを見て止めた。
すぐさま人混みを手で体で掻き分け、進んで行くと同時に確信が浮かぶ。
シエラは歩いていない。
どうやら立ち止まっている様子で、しかもその周りの人たちはシエラを避けるように通る。
否、シエラではない。 シエラの前に位置する男達を避けているのだ。
「ねえ〜君〜。 ちょっと俺達と遊ばない? 優しく扱うからさ」
「いえ、こ、困ります」
声を震わせ、僅数センチまで近づく褐色の肌の男に言う。
ロートスシティではこんな大胆な事は全く無かった。
確かに今まで何度か告白された事はあった。 だが、ここまで大胆に、恥ずかしげも無くせまって来る者等はあったことすらない。
初めての出来事に体が震える。
だが、このまま為すがままに流されまいと抵抗する自分がいた。
しかし、足を一歩引いた瞬間に逃がさないよう強くその男が自分の右腕を握る。
「ほらほら、大丈夫だよ。 俺達こう見えても紳士だからさ、早く行こうって‥‥‥」
腕を引くと更に力が強まってくる。
その握力は痛みだけでなく恐怖も伴い、シエラは思わず涙目になる。
が—————————
「俺の彼女に手ぇ出さないでくんない。 失せろよ」
その言葉が聞こえたのは腕に掛かっていた握力が無くなった直後。
自分を握っていた手は無くなり、その腕は逆にユーリに掴まれている。
男は苛立ちながらその手を払いのけ、半歩後ろへ下がった。
「あ? なんだてめえ!! あんま舐めてっとひでぇぞコラァ!!!!!」
「だからこの娘の彼氏だって言ってるんだけどねぇ」
おどけた調子でユーリは言う。
彼を男達は携帯していたナイフを構え、取り囲む。
その殺気丸出しな睨みや体勢を見、溜息をつく。
そして腰を低くし、拳に全神経を集中するように構えた。
よし、これ終わらせて昼でも食うか——————
『緊急事態発生!!! 緊急事態発生!!! フェルトシティから南西方向にキメラの反応あり!!! 市民の皆さんは警察の指示に従い、速やかに非難を——————————』
街中のスピーカーから非常アナウンスが伝えられる。
「やべっ。 いくぞてめえら!!」
恐らくあの男がリーダーなのだろうか。
指示を出し、逃げ去っていく褐色の男を見つめながら他愛もない事を思う。
そのアナウンスが終了した数秒後にポーチの携帯が振動と共にコール音を発した。
腰に携えたポーチの蓋を開け、漆黒の携帯電話を取り出す。
「はい、もしもし。 皆さん御存知ユーリ・ディライバルですよー」
「‥‥‥アナウンスは聞いたか」
「…聞きましたが?」
(何だこいつ昔通りノリが悪いな)
電話越しにいるレインに静かに文句を言う。
しかしそれ程緊急事態なのだろう。 直ぐに真面目に顔を軽く強張らせる。
「それでも言った通り、南西部にキメラが襲撃している。 遊撃隊だからって自分勝手な行動は許さないからね」
はいはい。
その言葉を最後にユーリは電話を切る。
「‥‥‥行くの?」
「ああ。 シエラは戻る?」
ユーリは横目でシエラを見つめた。
その顔は沈んでいて、どうするべきかを悩んでいる。
だが、ふとシエラは自分の脳裏に言葉が浮かんだのを感じた。
———————いい? シエラ。
もし自分が誰かに何かしたい!!って思う時が来たら
その気持ち、大切にしてね。
大事なのは自分がどうしたいか、どうありたいか。
それでダメだったら反省すればいい———————————
「———————行きたい」
その目に迷いはない。
その目に恐怖はない。
ユーリはその姿を、一人の女性の幻と照らし合わせ、微笑む。
「そ。 なら、行きますか!!!!!」
第
1
3
話
襲 撃
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.22 )
- 日時: 2011/04/07 19:00
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
V
S
1 4 キ
メ
ラ
話
避難所へ一斉に逃げ込んでいく住民とは逆方向にユーリとシエラは走る。
最初は飽きれかえるほどビルが連なっていたというのに、徐々に数を減らしていく。
アスファルトの地面も、今は土のものとなっていた。
自分達と逆方向に走っていた人は少なくなり、やがて零同然となった。
更にその奥へすすむと、また人影が見える。
だがそれは逃げているわけではなく、統一された青を基調とした軍服を着ている者しかいない。
周りにいるのは射撃訓練している者や、銃を柔らかそうな布で拭いている者など。
シエラは自分達の存在が浮いてしまっているのではと恐怖に捉われ、ユーリの背中を壁のようにして隠れていた。
「来たね‥‥‥」
各大隊長に指示を出していたレインは後ろに近づいていたユーリに気がつくと、話を中断して振り向き、体ごと向かい合わせた。
ユーリはああ、と呟き、遥か遠くへ見つめる。
その彼方の向こうには、無数のキメラの大群がこちらへゆっくり歩いてくるのが見えた。
その姿を見つめ、ユーリの見ていた方向へ自分も見ると、レインは言う。
「恐らくまだ200mといったところだろう。 だがこのままでは街に侵攻し、被害が拡大されるだけだ。 だから———————」
「————ここで全員ブッ飛ばせ、ってんだろ?」
図星だったようで、レインはコクリと頷いた。
そして天空へ指を指し、ユーリは疑問に思いながら上を見上げた。
先程から聞こえていた音の正体であろうヘリコプターが地上近くで浮遊している。
レインはその直後にズボンのポケットから一枚の写真を取り出し、ユーリに見せた。
「‥‥‥空中の偵察隊に上から取って、送ってもらった写真だ。 これから見て分かるよう、恐らく2〜300のキメラがいる」
ユーリは不満そうなやる気のない声を漏らし、虎のような二足歩行のキメラを見る。
だが、すぐに真面目な顔でまた本物のキメラの大群を睨み付けた。
数十秒か経った後、レインの胸ポケットから電子音が聞こえる。
それを発する通信機を取り出し、中心の赤いボタンを押した。
「どうした。 何かあったのか」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!!!!!』
「なんだ!!? どうした!!!」
レインの言葉を聞きながら、ユーリはまだ大群を見続ける。
その大群が暴れていることに気づき、更にレインと通信機の奥の人物の会話に耳を傾けた。
「——————相手が予想外に強すぎます!!!! このままでは‥‥‥うわ!!? うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
通信機を右手に持ちながら、一人の兵士がまたキメラに食われる。
一人の兵士が機関銃から銃弾を一斉放射した。
脅えているのか、手元が狂って照準が固定しない。
どんなに銃弾が当たり、どんなに貫通してもまったく死ぬ様子が見受けられないのだ。 脅えて当然だろう。
100発連射の機関銃を使い、全弾放射したというのにまだ死なない。
次の弾倉を装弾しようとあわててポーチを探るが、その間にキメラの爪が襲い掛かった。
その様子を見て、岩陰で震えてしゃがみ、自分が殺されないことをいのる。
だがそれも虚しく、一匹のキメラがその姿を目にしてしまった。
それに気づいた軍人は脅えてライフルを取り出すが、銃弾など入っていない。
苛立ちながらライフルを投げつけ、見事頭に命中させるがそれで死ぬはずがなかった。
腰を抜かし、腕の力だけでずり下がったが、それよりも早くキメラが近づいてくる。
自分の死を確信し、キメラの振り上げる爪に合わせる様に断末魔の叫び声を上げる。
だが、それは決して死に際にはならなかった。
横から飛び込んできたユーリが右の拳に神経を集中させ、頭を殴りつけた。
その衝撃に耐えられず、思わずキメラは怯む。
その倒れるキメラを見つめ、ユーリは鞘にしまった刀を肩に担ぐ。
後ろにはサーベルを構え、固い表情になるレインまでいた。
「ったく。 接近戦の訓練ぐらいさせとけよ。 死んじまってんじゃねーか」
「そうだね‥‥‥。 これからそうさせるよ。 だが今はそんな時じゃないだろう?」
「はっ! しょうがねえ!! いっちょ仕事しますか!」
V S
キ メ ラ
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.23 )
- 日時: 2011/04/07 19:00
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
1 侵
5 入
話
「おらあっ!!! もういっちょ!!!!」
ユーリが先の殴りで怯んだキメラの腹に跳び蹴りを与える。
その威力は凄まじく、自分の1,5倍はあるその巨体を軽く中に浮かせ、転倒させる程であった。
横から来た虎型のキメラにも空中で回転蹴りを2発連続で与える。
思わずよろめき、腰を沈ませたそれに、下から上方に掛けての殴りを与えた。
低い呻き声を漏らし、力なく自分に倒れていくキメラを横に避け、更に多数のキメラの元へと走った。
一方レインも負けてはいない。
その細身のサーベルを振り回し、キメラの硬い皮膚を切り裂いていく。
左手に持ったオートマチックの拳銃を前方に、乾いた音を響かせ撃つ。
右腕から電流が走る様に感じる貫通した痛みに躊躇し、その隙に目の前の少年に切り落とされた。
右に避けつつ斬り払い、下に下がった右の巨腕を伝って頭を脳ごと斬ったユーリは裂いた頭を踏み台にジャンプし、レインの真後ろに着地する。
既に抜刀した直刀を構え、レインに背中を預けるかの如く背を向け、意識を視界に広がる同じ姿のキメラたちに集中させた。
「ちっ。 こんなんじゃあ埒開かねえぞ。 どーする?」
「ああ。 僕も正直ここまで体力持ってかれるとは思わなかった」
「こりゃ早々に兵士に指示煽いだ方がいんじゃねーの? 師団長のくせに指示出すより先に飛び出しちゃうもんだから‥‥‥」
ユーリは溜息を混じらせ、下に俯いて呟いた。
彼の言葉に何を苛立ったのか、レインは険しい横顔でユーリを見る。
「どういうことだい? そもそも君がいきなり突っ込んで行ったからだろう?」
む、とその言葉にユーリも敏感に反応した。
「あのな、俺は遊撃隊なんだよ。 そもそもそれを言ったのお前だろ?」
「まだ作戦も開始していないのに突っ込む遊撃隊はいないよ。 もう少し考えて言うことだね」
「ほうほう。 味方がやられてんのに見捨てる奴かお前は? 酷いねー」
お互いに背中を向け合いながら言い争いをする彼らに痺れを切らしたか、キメラ達が一斉に襲い掛かる。
その周りの状況に逃さず理解した二人は構えなおし、互いに逆方向に突っ込んだ。
司令塔であるレインをなくし、行動ができないと思われていた第14師団はその実、普通のように街へと歩いてくるキメラを撃ち殺していた。
各大隊長が指示を出し、兵士達がそれに従っている。
ガトリング砲を8つ構え、合計何百発の銃弾を送り込んでいる。
だが、それほどの銃火器を使ってもギリギリ倒せるといった状況だ。
何十匹もおり、硬い皮膚に覆われている上、普通の動物の構造なら急所である部位を貫通しても中々死なない。
これ以上増えてしまったら対処しきれないと防壁に隠れて観察しているシエラは不安になる。
だが現実はこうも厳しいものか。
こちらの様子に気づいた他のキメラ達が大勢でこちらへ走って迫ってくる。
その光景に開いた口が塞がらない兵士達は慌てて銃弾を運び、撃ち放つ作業を早める。
だが、その数はたかだか八丁のガトリング砲で抑えるには無理がありすぎた。
これ以上は無駄だと判断した大隊長3人は兵士全員に指示を送り、その場に武器を置いて潔く逃げる。
後10秒判断が遅れていたらひき殺されていたことだろう。
置いていた八丁の機関銃は粉々に破壊され、それに目もくれず街へ走る。
その事態にいち早く気づいていたユーリはキメラ達の大群の横で刀を構え、炎を噴出させる。
周りを紅く照らし、目に見えない靄を出す刀はやがてユーリの斬り降ろしによって炎牙斬と化す。
横に薙いで放った紅い斬撃は高速で群れの中へ突っ込む。
小さな爆発が起こり、多数のキメラを大きく吹っ飛ばした。
だが、それでも半分には程遠いほどまだ大量に残っている。
キメラ達は一瞬こちらを睨み付けたが、すぐに街のほうへと全速力で駆ける。
普通の人間では追いつけないほどの速度で。
「逃げられちまったか‥‥‥」
ユーリは舌打ちをしながら街の中へ消えていくキメラの群れを見つめた。
「————————ここに居る兵士全員分かっている通り、キメラ達が街へ侵入した!!! 恐らくあのペースだと住民の避難所まで持って一時間だろう! その間に全て掃討する!!!!」
ユーリは隅でレインが話している作戦を聞く。
まあ、俺は関係ないんだけどな———————
少し微笑んでしばらくすると、どうやら作戦の確認は終わったようで、兵士が街の中まで走っていった。
それを見、自分も行こうとシエラを呼ぶ。
こちらへ駆け寄り、深刻そうな顔を俯かせている。
「さ、とっとと行こうぜ。 あいつ等に遅れると仕事がなくなる」
声に出しながら頷き、更にユーリの傍へ寄った。
やがて街へ走り出し、ユーリはシエラがついて来られるペースに合わせようとする。
その様子を、遠くにあった林から双眼鏡で観察する一人の男の姿が合った—————
侵
入
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.24 )
- 日時: 2011/04/07 19:01
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
1
6
話
殲 滅 戦
既に街の中は無人と化しており、どこを通っても人の声など聞こえない。
小隊だろうか、8人の軍人が銃を構え、ビルによって研ぎ澄まされた風の音しか聞こえない街の中を走っていた。
一人の兵士が建物同士の隙間を見、暗くて見えない事が分かると小隊長に確認の許しをもらおうとする。
「隊長! この裏通りに続く道を確かめてもよろしいでしょうか」
「ん? 確かに暗くて分からないな‥‥‥。 行ってきてくれたまえ」
両手で持っていた銃から右手を放し、手で行くように指示した。
だが行ってみたものの、逃げ遅れた人が隠れたわけでも、キメラがいるわけでもない。
あるのは既に使われていない、蝿に集られたゴミ箱が二つ。
諦めようと思い、表まで背を向けると後ろから爆音が聞こえる。
後ろを振り返った先にはキメラが一匹。
あまりに突然の出来事と、その今にも襲い掛かりそうな雰囲気に脅え、慌てて銃弾を放つ。
だが、ライフルから放たれた銃弾は貫通せず、皮の中へ埋め込まれただけであった。
次の弾を撃とうとした瞬間に目の前まで突進し、振り上げた右前足によって切り裂かれる。
肉を深く抉られた痛みに耐えられず上げた悲鳴が待機していた兵士達の耳にも聞こえ、思わず身構えさせられる。
少しの間で出てきたキメラに恐怖し、腰に携えた小型の機関銃で応戦するがまったく怯む様子がない。
その頑丈な体に躊躇していると、後ろからも殺気という名の気配を感じる。
振り返ってみると、餌に飢えたキメラ達が唾液を垂らし、低い体勢でこちらへ近づいてくる。
余りの絶望感に上げた兵士達の悲鳴が空へと響き、空気へ消えた。
500m先では未だキメラに会っていないユーリとシエラが同じく街の中を走っている。
他で起こっている事など知らないユーリは呑気にも溜息をついた。
「いざ探すとなるとこんなにも見付からねえのかよー。 外にいたときには気持ち悪いほど同じ顔がいたってのによー」
「んー‥‥‥。 もしかしたらこっちに曲がればいるかもしれないよ?」
シエラが大きな十字路の左の道を指差す。
口を開くよりも先にシエラはその指した方向へ曲がる。
「まっさかー。 適当に行ったぐらいでそんな都合よく遭遇するはずが‥‥‥」
左の大通りへ曲がり、進む。
すると、さっきまで言っていた言葉の続きを言うのに戸惑わざるを得ない。
黒い影のような物が幾重にも重なり合い、近づくたびにその正体が明らかになる。
—————————居たやんけえええええええええ!!!!
ユーリはシエラの言った事が本当であることにショックを隠しきれない。
だが、ショックを受けている間もない。
腰に付けた革製の帯から刀の鞘を取り出し、右手で裏手に持つ。
キメラ達がいた場所は十字路だ。
刀の鞘を構え、キメラの大群の中へ突進していく。
シエラはカバンからある一冊の本を取り出した。
ここに来る前ユーリにもらった物で、普通の紙では覇気が通らないらしい。
専用の紙で出来たこの本ならいつでも召喚術が使えるといわれ、もらった物だ。
茶色で複雑な模様がついた分厚いそれの一ページ目を開くと、狐の紋章が描かれた魔方陣が見える。
「コンちゃん!!!」
アネちゃん。 そう呼ばれた瞬間に本の中の魔方陣が光を発する。
その直後に以前ヴォルドスが襲ってきたときに出てきてくれた緑色の狐が姿を現す。
「コンク」 狐の名前にはふさわしいのだろうが、それでも聞く側からは緊張感を薄くする名前だ。
コンクは左の前足から竜巻を噴射し、前方のキメラを風圧で切り裂き、吹き飛ばす。
その威力を横から見ながら、口笛を軽く吹くユーリは蹴り技や殴り等でキメラたちを翻弄していく。
俊敏過ぎるその動きに躊躇し、倒れていくキメラ。
木々が簡単に折れそうな勢いの風圧に、飛ばされていくキメラ。
この二つの脅威がキメラ達を本気にさせ、気づけば遠くで待機していたシエラもろとも囲まれていた。
自分を囲み、自分を集中的に狙ってくるのではという恐怖が襲い掛かり、思わず中心に居たユーリへ詰め寄る。
「ユ‥‥‥ユーリ…!」
「ああ、大丈夫。 囲まれようが何されようが護ってやるぜ。 しっかりコンクに指示だしな」
瞬間にユーリが剣を抜きながら全速力で前方のキメラに斬りかかる。
胴体を左肩から斬りおとし、それに怯んだキメラに蹴りを与える。
次に飛び上がり、倒れるキメラの後ろに居たそれの肩へつかまり、よじ登った。
頭を裂き、後ろへ跳躍して地面へ着地する。 その場所で後ろに待ち構えていたもう一体が鋭い爪を持つ腕を振り下ろした。
それをしゃがんだ状態で跳躍しながら避け、着地した瞬間に突進し、斬りかかる。
ユーリが刀を抜いてからここまでで僅か9秒弱。
これほどまでに早い者はそう居ないだろう。
シエラはコンクに指示を出しながらそれを見て少しユーリを畏敬する。
コンクも負けじと4方向に竜巻を発射し、敵を見事に吹き飛ばした。
———————かくして、このキメラの大群は、二人の少年少女、一匹の狐によって全滅した。
「よしっ!! やったな! これもシエラのお陰だよ。 無理はしなかった?」
刀を肩に担ぐようにし、笑顔でシエラに問うユーリに、彼女は同じく笑顔で答える。
その姿を見て満面の笑みから微笑の表情へ変わる。
だが、その天使のような笑顔が一瞬にして崩壊する。
顔を強張らせ、自分の名前を呼ぶシエラと、後ろから感じる気配に状況が理解できた。
ユーリは剣を構えると同時に振り向き、後ろから切りかかろうとするキメラに返り討ちをしようとした。
が、それは横からやってきた人影によって意味をなくす。
影の正体である一人の男が左手にユーリと同じ片刃の剣を構えて斬る。
傷口から激しく血を噴出させ、その巨体を沈ませたキメラを他所に、その男の行く先を目で追う。
その男はユーリと同じか少し上か位の年で、黒い髪を風になびかせている。
切っ先まで辿ると、面積が広がる刃を持つ妙な剣を左手で肩に担ぎ、こちらを見つめていた。
殲 滅 戦
終
- Re: Gray Wolf 移りました ( No.25 )
- 日時: 2011/04/07 19:02
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第 1 7 話
勧 誘 者
日に照らされ、反射する黒髪と黒い瞳。
カンフー服の上に着た黄色い和風の上着。
下から上にかけて幅が広くなる刃の剣。
その視界の真ん中に入る人物によって斬られたキメラに魂は灯っていない。
ユーリは固い表情でその男に訊く。
「…誰だ、てめえは」
「ん? 俺か? まあお前に用があって来たんだけど‥‥‥」
思わず疑問の言葉を漏らす。
ユーリは語調を強め、更に質問を投げる。
「俺、お前見たいな知り合いいないんだけど。 その俺に何の用だ?」
段々と口調を強めてきたユーリに怖気づいたか、それともただのギャグか、男は半歩後ろに下がる
だが、やがて顔を真面目にし、はっきりと言った。
「俺は、いや“俺達”は、お前みたいな奴を必要としている。 一緒に来てくれない?」
わけが分からない。 単刀直入にも程がある。
表情を崩し、疑問に満ちた顔を浮かべるユーリに気づき、男は軽く謝って説明しだした。
「俺は傭兵団のレン・ウォン(御 蓮)。 ちょいと上の方に頼まれた仕事をやってる」
「‥‥‥仕事だと?」
「ああ。 新しい人材を探してほしい、ってさ。 そんであるときお前を見つけたんだ。 それで—————」
「—————俺を見つけたって訳か」
頭の中で言ったと思った言葉が口の外に漏れた。
「おお! 理解が早いな! その通り、俺はお前を勧誘しようと思った」
レンの話によればユーリの事は街の外で戦っていたときから見ていたらしい。
傭兵団に必要な人材を求めていたときについたフェルトシティの近くでキメラが接近している話を聞いて、近くの森に避難していたそうだ。
理由は二つで、一つはキメラと軍の戦いに巻き込まれたくないこと。
もう一つはもしかしたら軍に強い奴が雇われているかもしれない、と思ったからだ。
そして、案の定ユーリが出てきて、キメラを一人で十匹以上を相手にしたのだ。
「どうだ? 仲間になんないか? 今なら入団金無料だぜ?」
遠くに離れているというのにレンは差し伸べるように開いた右手を前に伸ばす。
だが、彼の期待は呆気なく壊された。
「断る」
その一言がレンの上々とした気分を沈ませた。
「え‥‥‥。 何で?」
「ま、確かに俺の性格にはあっているかもな。 でも俺は今の生活で十分満足している。 それだけだ」
そこでレンは何を考えたのか、左手で握ってた剣の柄を更に固く握り締める。
担いでた肩から下ろし、構えの体勢に入ろうとした。
先程まで感じられなかった殺気はユーリにも分かり、思わず身構える。
「そ‥‥‥。 じゃ、仕方ないよな。 一応上の人にもし断ったら力尽くで納得させろって言われてるし‥‥‥‥なっ!!!!」
最後の一文字を言い放ったと同時にレンは前へ走り出す。
ユーリとレンの距離、僅か30m。
レンは剣を左手に、前へと突っ込んだまま。
ユーリは咄嗟に腰から鞘を取り出し、刀をそこにしまった。
そして刀を弄ぶかのように振り回し、右手の裏手に持ち変える。
その後すぐにレンが右から斬撃を与え、ユーリは右手に持った剣の鞘で受けとめる。
その次、
一撃目。 左から剣が来、左手の鉄甲で防ぐ。
二撃目。 上から振り下ろされる。 それを鞘で止めた。
三撃目。 左から来る。 それを一歩後ろに下がってかわす。
四撃目。 右から来た。 鉄甲の手袋を左に振り、受け流す。
五撃目。 下から来た斬撃を後ろに大きく下がって避ける。
これだけの攻撃をたった約1,5秒で行っている。
それほどの速さを持つ武器は大抵、ナイフなどの小型の物か軽量化された武器。
だがそれらは攻撃も軽く、簡単に弾き返せる。
その筈なのにレンが放つ攻撃は相当の威力だった。
「やっぱ気づいた?」
まるでユーリの思考を透視したようにレンは笑いながら訊く。
ユーリはついた膝をもう一度立たせ、また体術の構えに戻す。
「確かに俺の剣は軽い素材で出来ている。 けどな、柳葉刀って知ってるか? こいつがそれなんだが…まあ見た目の通り“遠心力”を利用出来易い。 つまり‥‥‥」
また突っ込みだした。
ユーリも構えに集中し、じきに来る攻撃を静かに待った。
当然、その斬撃の嵐はユーリを襲い、彼もそれに対抗する。
「威力が高い攻撃を隙無く連発することが出来る!!!!!」
斬撃の嵐は更に勢いを強めた。
ユーリもそれに合わせる様に攻撃の速度を増させる。
「ほらほらどうした!! さっさとその剣抜いたほうが良いんじゃねえか? 手加減するつもりか?」
かなり勢いを増した嵐は最早常人では追いつけない。
流石のユーリも、これには耐えられない—————————と思われた。
「確かにパワーの問題では剣抜いたほうがいいかもな」
ユーリの拳、蹴りのスピードが増してくる。
その身軽な体を振り回し、攻撃速度はレンと互角となっていた。
「けど、お前見たいな奴と戦うには相当な攻撃スピードが必要だ」
前に突き出したレンの刀を左に避け、右の拳を突き出す。
その一撃をかわし、後ろに下がった。
そしてユーリは更に攻撃を与えんとレンに接近する。
「だから、体術さえ使えば振りが短い分、際限なく攻撃が出来る!!!」
目の前で再び来たレンの突きをギリギリかわし、右の拳を突き出す。
その鉄拳は顔面まではいかなかったものの、左肩を捉え、後ろに吹っ飛ぶ。
足を強く踏みしめ、その一撃に耐えたレンは殴られた肩を軽く擦った。
ユーリもまた、左頬に出来た血の垂れた小さな傷を手で確認する。
者 誘 勧
終
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