複雑・ファジー小説
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- 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲
- 日時: 2013/06/04 05:36
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: woIwgEBx)
- 参照: http://ameblo.jp/10039552/
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第9章開始!
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目次
最新章へ! >>97-105
本日更新分! >>105
キャラ紹介製作>>37 (4/4更新
(31ページから行間に改行入れてみました。まだ読みにくければご指摘ください)
序章 当ページ下部
キャラクター紹介 >>37
キャラクター紹介:姫沙希社 >>76
第1章 ノア >>01-04
第2章 影ニキヲツケロ >>05-10
第3章 雷光は穿つ >>11-17
第4章 強敵 >>20-24
第5章 触らぬ神も祟る者 >>25-36
第6章 姫沙希社 >>38-51
第7章 ささやかな試み >>52-75
第8章 平穏の中に >>77-96
第9章 魔族再来 >>97-105
----------------------
ごあいさつ。
どうもはじめまして、たろす@と申します。
とりあえず覗くだけ覗いて頂ければ幸いと思います。
基本的には王道ファンタジーですが、いかんせんスプラッターな描写が多数ありますのでそこだけ先にお断りさせて頂きたいと思います。
えー、もうひとつ。
誤字脱字には一応気を付けてるんですが発見したら一報いただけるととてもうれしいです;;
それでは、長い長いレクイエムの序曲が始まります。
---------------
序章:今宵も仄かな闇の中から。
部屋は暗かった。
それは明かりがどうのこうのと言う事でも、時刻がどうのこうのと言う事でもない。
勿論の事春の夜更けという事実が無関係とは言わないが、何か超自然的な質量をもった闇がそこにはある様な気にさせる。
まるでこの世の最後の輝きだとでも言いたげに、小さなライトスタンドの僅かな明かりが広い室内を異様に寂しく、哀しく照らしている。
光量を抑えてあるのか、やはり人工の光では照らしきれない闇がるのか、隅の方は闇に覆われていてよくわからないのだが、それでも一目でわかることがある。
その部屋は余程の豪邸か高級ホテルの一室であろうということだ。
ライトスタンドの置かれた机は小さいが豪奢な装飾が施された黒檀。
その机の上にあるパソコンは今春発売の最新型であった。
毎日時間をかけて洗ってあるか、使い捨てにしているのであろう、汚れどころか皺一つ見当たらないシーツのかけられたベッドはキングサイズである。
そんなベッドの上に打ち捨てられているのは読みかけどころか、買ったはいいが開いてすらいないと思われる雑誌や小説だ。
そのほかにも壁に掛けられた巨大な液晶テレビ。
同じぐらい巨大なソファー。
そしてその向かいに置かれているのは大理石のコレクションテーブル。
壁際には個人の部屋に置くにはあまりにも大きな冷蔵庫があり、肩を並べるように絵物語を模した装飾の施された食器棚が置かれている。
中に入っているのはグラスばかりだ。
上段にはワイングラス、中段にはウィスキーグラス。
どれ一つとっても数十年、数百年の重みを感じる匠の技が作りだした逸品であることが容易にうかがえる。
そして下段には名だたる銘酒が所狭しと並べられている。
向かいの壁に置かれているのは叶わぬ恋の物語を一面に描いた置時計だ。
動いてはいないが、コレクターならばそれこそ財産の全てを投げ出してでも手に入れたい逸品であろう。
しかし、全ては幻だ。
なぜならば、その部屋の主はそんな豪奢な備品に全く興味を示していないのだから。
分厚いカーテンが覆う窓際に、それだけは後ほど運び込まれたことが伺える小さな椅子とテーブルが置かれていた。
椅子とテーブルはアルミ製の安ものであったが、贅を尽くした部屋の備品にも勝る輝きがあった。
その椅子に腰かけているのは部屋の主なのだが、その姿を一目見ればこの部屋に何の興味もわかなくなるであろう。
それほどまでに主は美しかった。
長く艶やかな輝きを放つ黒髪と閉じられた切れ長の目元を覆う睫毛の哀愁。
すっきりと伸びた鼻梁の線、憂いを湛えた薄い唇。
肌は透き通る程白く、キメ細やかであった。
仄かな明かりに染まったその姿は、まさに神に愛された天上の細工師による至極の作品の様でさえある。
ふと、切れ長の目が開かれた。
大きな黒目には大きな意志を感じ取れる。
中性的な顔立ちではあるが男だ。
彼の名は姫沙希乃亜(きさき のあ)。
ゆっくりと彼は立ち上がり、分厚いカーテンを開けた。
夜更けにも輝く夜の街並みの明かりが、彼の目にはどう映るのか。
しばらく眺めた後、彼はまた窓辺の椅子に腰かけた。
今宵も誰ぞ彼を訪ねてくる者があるだろう。
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- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(本日はブーストバフ ( No.22 )
- 日時: 2012/02/13 18:31
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: ギターの弦が切れるほど哀しい事はないと思う(何
四章:3話
「まだやりますか?」
やはり問いかけるその声には、緊張感というものが欠落している。
驕る様な調子も、恭を嘲笑する様な様子もない。
「クソっ!!」
それだけ叫ぶと世界が変わった。
炎の円域が爆炎に没した。
「んなっ!」
恭の声が聞こえる。
八城も驚きの表情を見せたのがわかった。
炎域の炎が火柱となって夜空を染める。
紅蓮の業火は数分、衰えを見せなかった。
「なぁ乃亜。ちょっとやりすぎたんじゃねーか?」
呑気な気沼の声が聞こえる。
傍らには、黒衣の炎魔が居た。
黒いコートは炎の紅さえも弾くかの様に暗い。
「八城なら無事だろう。」
その炎魔は閻魔の如き言葉だけを残して、踵を返した。
屠る相手に感慨などは持ち合わせない。
屠った相手に感情など必要ない。
それがこの男である。
そんな乃亜に特にコメントも反応も見せないのも、気沼ぐらいのものだろう。
八城ならばここで不要な小言がでる。
あの八城と言う男は意外と良識がある。
良識はあっても、常識はずれな行動を補いきれないのが珠に傷だ。
「とりあえず、消火するぞ?」
そう言って、両手を地面にあてがう。
まったく重心を変えぬ直立状態から地面に両手のひらが着くのだから驚異的な柔軟性だ。
そして、腕を紫電の光が覆う。
「攻流"剛・雷華"!!」
声と共に、雷撃がアスファルトを粉砕する。
いや、爆砕と言った方が正しい。
これが消火か。
魔術的効果の範囲が円周ならば、その効果空間の地盤。
今で言う地面を粉砕してしまえば効果は消える。
永続魔術に対する効果的な対処法だ。
「さてと、八城は。」
そう呟いた時、凄まじい音と共に気沼の鼻先を何かが掠めた。
破砕された地面に立つのは、恭であった。
全身を覆う黒い文様は、魔族の証明か。
回し蹴りの体勢で静止していたところを見ると、鼻先を飛んでいったのは八城だろうか。
何かの激突音が聞こえる。
それに続いて、ガラガラと建物の倒壊する音が聞こえる。
先ほどのオフィスビルであろう。
乃亜が内部を破壊したうえに、八城の激突でビルの倒壊がおきたのだ。
しかし、気沼は八城の安否を確かめることができなかった。
今、背中を見せれば確実に殺られる。
「景気いいな、おい。」
そう言った気沼に、恭は何の感情も籠らない目を向けていた。
ただ、腕を突き出し、手のひらを向ける。
「魔光弾!」
先ほどの恭ではない、明らかな戦闘態勢である。
声と共に強力な魔力が込められた発光球体が飛翔した。
「"闇魔光弾(エレメントブラスト)"!」
重なるように低い声が聞こえた。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲- ( No.23 )
- 日時: 2012/02/13 23:27
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: ブースト終了。今日はもう無理;;
四章:4話
どこか間の抜けたような爆発音が気沼を包んだ。
いや、乃亜の放った魔光弾が気沼を包んだのである。
そこに恭の魔光弾がぶつかったのだろう。
爆発は明らかに小規模であった。
「まさか属性弾(エレメントブラスト)が使えるなんてな。属性付加はかなり難しいんだが。」
属性。
恭の言うエレメントとは、人間、魔族、その他あらゆる生き物が各々生まれつきもつ魔力の属性である。
一般に、火、水、風、地、雷、氷の六属性があるとされるが、鍛錬さえすれば、ある程度のレベルまでは各属性を習得可能であると言われている。
「それにその属性。地の付加かと思ったが、闇の付加か。」
恭は感嘆にも似た声で言った。
闇。
それは修練や鍛錬では習得不可能な、特殊な天性の属性である。
他に、闇と対を成す光の属性が確認されているが、どちらも非常に希少な属性である。
「先に言っておく。オレは全ての属性付加が可能だ、ある程度だがな。」
乃亜が言った。
そして恭を見た。
「こいつはほんとにすごいな。」
恭はたじろいた。
恭は非常に力のある魔族である。
その恭が声を聞き、目を見ただけで竦んだのだ。
「気沼、しばらくそこに居ろ。」
乃亜は気沼を包んだ暗黒を解かずに言った。
どうやら拘束的なモノではなく、包み込み、護りの加護を与えるものであるようだ。
そして走った。
まさに風を撒くと言うに相応しい速度である。
「ふん!!」
恭は小振りな棒打ちでカウンターを合わせた。
小柄、高速な乃亜に対して、大振りな一撃は不利ととったのだろう。
連続する乃亜の高速連打に、少なからず恭は押されていた。
暫く一方的な乃亜の連打が続き、
「おい、ナメてんのか?」
押され気味な恭が、ふと呟いた。
そのまま乃亜の脾腹に矛槍の柄を打ち込む。
渾身の棒打ちであった。
そんな一撃を受けてなお、乃亜はくるりと空中で受身をとった。
「まさかおい。オレを素手で倒せるとでも思ってんのか?」
恭の声は呆れていた。
その理由は非常に簡単であった。
恭の仄光る矛槍に対して、乃亜は素手であった。
高速体術。
それだけである。
あの八城を苦戦させ、気沼を竦ませた男に対して、乃亜は一切の鉄を纏わない素手で挑んでいた。
その上、一進一退の攻防を演じているのだから驚きである。
「おいおい、頼むよ。剣でも槍でも、斧でもなんでも抜いてくれ。」
恭の顔は真、困った顔をしていた。
あまりにも不憫な表情である。
とても、八城や気沼が苦戦した男とは思えなかった。
対して、乃亜はまったくの無表情。
屠る相手には、何の感慨も持てぬ男である。
「わかった。オレも素手でやろう。」
返事を待たずに、恭は矛槍を手放そうとするが、それを許さぬ声が響いた。
「待て、俺も本気でやろう。」
乃亜が口を開いたのである。
声と共に雰囲気が変わった。
先ほどまでは微塵も感じられなかった殺気、いや鬼気とでも呼ぶべき空気が醸し出されたのである。
そして、そんな乃亜の体にも、魔族の証明とでも言うべき黒い文様が浮き出た。
「あ、やっぱり人間じゃないのか。しかし、その空気の抑えようから見るとハーフか?」
恭は言った。
乃亜は人間ではないと。
今まで固唾を飲んで見守っていた瞳が、悲鳴じみた声をあげた。
これで合点がいく。
八城が、瞳の問いに、「近からず、されど遠からず」と答えた意味が。
その問いに答えず、乃亜が一歩進んだ。
距離は数メートル。
またも空気が変わった。
しかし、今回の変化は雰囲気ではない。
明らかに、周囲が暗くなった。
街灯の明かりに照らされている繁華街の通りは、先ほどまで別段暗いわけではなかった。
しかし、勝てないのだ。
物理的な光源では、乃亜の闇の魔力には。
「普通じゃねーな。それに、似た感じの魔力、知ってるぜ。」
周囲一帯に重くのしかかる魔力。
確かに、恭の言うとおりで異常である。
しかし、恭の表情に先ほどまでの感嘆や驚愕の表情は見られなかった。
今は抜かりなし。
今の恭もまた、この強大な敵を前にして、闘志を燃やしているのである。
不完全燃焼であってはならない。
それは人間、動物、また魔族も同じである。
強大な敵と相対する時、全力で戦うことが誉(ほま)れなのである。
しかし、この異常な圧力に似た魔力の持ち主を知っている。
それは誰でどういったことなのか。
その問いが解ける前に、乃亜が動いた。
空気を焼くような速度で接近。
「はぁ!」
乃亜には珍しい気合の声。
先ほどよりも更に早い高速体術。
瞬速の右ストレートであった。
空気中の気体が科学変化を起こしそうな速度である。
しかし、全力の恭は難なく左手で受ける。
魔族の魔力は人間とは比較にならない程の量と質を有す。
それを体中に巡らせた結果がこれである。
もちろんのこと、乃亜や気沼が格闘時に使用している技術もこれである。
圧倒的な速度をもってしても、恭には通用しないのか。
「こいつは早いな。」
それだけだ。
彼は基本的に、相手の長所を褒めるようだ。
しかし、その裏には相手の得意とする動きやパターンをしっかりと分析している事実が伴う。
そんな恭の対抗策は、圧倒的な魔力を全身に巡らせ硬化することであった。
物理的な威力が質量かける速度ならば、それ以上の強度を維持すれば、物理的な攻撃は無意味である。
その時、乃亜が微笑んだ。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲- ( No.24 )
- 日時: 2012/02/14 18:06
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: 主人公最強フラグがどうにもならない件について
四章:5話
「砕け散れ。"破砕(バニッシュ)"!!」
声と共に、大地が咆哮した。
「んな!」
驚きの声と共に恭が吹き飛ぶ。
破砕された大地がもたらすエネルギー、物理的な攻撃に見えるが、魔術とはその効果形状がどうであれ、
物理的なエネルギーと共に魔力的なエネルギーが付加される。
木っ端微塵にされたアスファルト、それほどのエネルギーが大地を伝って両足にぶつかったのだ。
そんな恭が受身を取り、着地した姿を見ると、さすがの乃亜も多少感心したような表情を見せた。
「体術中に魔術が使えるなんてな、こんな人間が居るなんて本当に驚いたぜ!」
着地した恭が叫びながら疾った。
大振りな横薙ぎと共に、旋風が舞った。
飛び退く乃亜だが、恭の起こした旋風もまた、魔術であった。
恭の声もまた、無関係な言葉が魔術発動の要になっていた。
大振りの一撃は高速な乃亜ならば容易く回避可能な攻撃ではあるが、後方に回避すれば続く風の刃に裂かれる運命であった。
現に乃亜のコートはズタズタに裂けていた。
鮮血も舞っている。
これが恭という術者である。
物理と魔術の一体化、これが理想的な攻撃の形である。
しかし、非常に精神集中の要る魔術の発動を動きながら、
それも乃亜の様な強者との戦闘中に可能にするのには、一体どれほどの鍛錬が必要なのか。
「お前もなかなかやるな。炎、風、それに八城が受けた一撃には雷の付加があった。」
裂けたコートから鮮血を滴らせた乃亜が言った。
その姿はまさに、地に降りた蒼白の悪鬼の様である。
しかしこの男が他人に賞賛の言葉を投げかけるなど、なかなか見れる光景ではない。
恭も察してか、苦笑気味にうなずいた。
戦いの中で育まれるもの。
他者を理解し、競い磨き合う精神。
東方の島国に切磋琢磨という言葉があるというが、まさにこのことではないか。
「しかし、次が最後だ。」
いつの間にか闘志がうせていた乃亜の目に、再び闘志が戻った。
恭も愛用の矛槍を握りなおす。
先に動いたのは乃亜だ。
またも瞬速の疾走。
数メートルを一瞬で詰める。
しかし、驚くべきは疾走しながらの両手の輝き。
具現召喚である。
握られているのは重厚な装飾の施された二本の短刀であった。
一瞬、驚きの表情を見せるが、恭の反応は早かった。
振りぬかれる左の短刀を柄で受けると、その勢いを殺さずに左の脚を振りぬいた。
しかし乃亜も体術においては恭が認める達人である。
振りぬかれた脚を右の前腕で防ぐと、お互い鍔迫り合いの形になった。
この場合、有利なのは両足が地に着いている乃亜だが、この男たちに常識は通用しなかった。
互いに退かず。
しかし、数瞬のうちに恭が弾く。
空中で受身を取った乃亜だが、着地を待つほど恭は甘くはない。
乃亜に並ぶとも見える速度で距離を詰めながら、矛槍の最大の利点を利かせ、瞬速の突きを繰り出す。
この一撃で勝敗は決するはずであった。
だが乃亜は恭よりも早かった。
なんと、乃亜の脚が空を蹴ると乃亜の体は空中で更に浮いた。
空気も物理的な質量を持つ以上、理論的には不可能ではないのだが、乃亜の場合は足元に魔力を集め、それを足場にしたのであろう。
突きを回避すると同時に、乃亜は恭の背後を取った。
乃亜の決定打である。
であるはずだった。
「もらった!」
声と共に恭が振り返る。
振り返り様、突きの形から渾身の唐竹割りを繰り出す。
渾身の突きを繰り出しながらその力を更に押さえ込んでの連撃。
そしてこれだけの洞察力。
やはり、恭は乃亜さえも及ばぬ実力者であるのか。
扇状に振りかぶられる矛槍。
空気中の酸素をイオンに変えて振り下ろされたその威力はまさに爆砕と呼ぶに相応しいものであった。
乃亜の魔術以上にアスファルトを破壊して、勝敗は決された。
イオンの臭いが空気中に漂うなか、乃亜の敗北を知らせるかの様に気沼を包んだ暗黒球が消えた。
周囲を確認する気沼。
そして愕然と、しなかった。
その様子で察したのか、恭が叫ぶ。
「"光輪(フォトン)"!」
その声で出現した光輪は恭を中心に、半径2メートル程を吹き飛ばした。
恭もろとも。
「どうやって受けた?」
起き上がりながら恭が訊いた。
相手は眼前に舞い降りた黒衣の魔王。
他ならぬ乃亜である。
そして、彼を見とめた瞬間。
愕然と愛用の矛槍を取り落とした。
虚しい音と共に、恭の顔にある表情が浮いた。
満面の笑みである。
眼前に立つ魔王は、白銀の髪に紅蓮の瞳であった。
「こいつは、勝てない訳だ。」
恭の笑みは、潔さに彩られていた。
こんなにも清らかな笑顔が、人間に浮かべられるだろうか。
「終わりだ。」
乃亜が言った。
全く感情の込もらない声で。
もはや、敗者となった恭には何の感慨も持たないのである。
いや、もてないと言った方が正しいだろう。
乃亜もまた魔族の血を持つ男なのだ。
強者にしか興味が持てないのである。
しかし、公言通りにはならなかった。
乃亜が動くよりも早く、恭が跳んだ。
轟音と共に、紅の魔鳥が出現した。
「勝敗はお預けだ。また逢ったら今度こそ、本気で戦おう。」
恭の声だけがひどくこだました。
乃亜の動きを待たずに魔鳥は彼方へと消えていった
唖然とする気沼。
魔鳥と恭が消えた方向へと目を向ける乃亜。
終始圧倒され、呆然と見守った瞳。
ビルに叩き込まれた八城。
「気沼、八城を引っ張り出せ。睦月、とりあえず工藤要を起こせ。」
短く、事務的な言葉が響いた。
この男、無感情な様で恭を取り逃がしたことがかなり悔しい様だ。
気沼だけが察したように、さっさと倒壊したビルに駆けていった。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲- ( No.25 )
- 日時: 2012/02/15 04:54
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: 最強フラグ払拭!
五章:触らぬ神も祟る者。
「いやー、自力で出ようと思ったんですがね。どうやら駆動系の回線がやられたらしくて、左半身が全く反応してくれないんですよ。」
ガラガラとけたたましい音と共に引っ張りだされる八城の声、口調にはやはり緊張感が欠落していた。
2度も爆炎に没し、2度もビルの倒壊に巻き込まれたにも関わらず、衣類にはほつれ程度しか見当たらない。
姫沙希社の耐火防護繊維なのであろうそれはまさに驚異的な丈夫さであった。
しかし、ズタボロの皮膚や髪は如何ともしがたい。
しかも八城の言葉どおり左半身は脱臼したかのように力なくブラブラとしていた。
「あの、八城さんってまさかロボットなんですか?」
唖然と、しかしおずおずと訊いたのは瞳である。
それもそのはず。
八城のズタボロの体からは、所々金属が覗いていた。
「いえいえ、正式には全自立型電子制御金属代理体です。」
つまるところサイボーグなのである。
どこか筋肉質な殺戮サイボーグが追い掛け回してくる映画を彷彿とさせる状態の八城が笑顔で答えた。
「つまり?」
やはりその姫沙希社での正式名称であろう言葉は瞳には伝わらなかった様だ。
呆れたため息をつく気沼。
かつての大戦、内戦時に活躍した英雄。
姫沙希社の創設者、姫沙希累の最大の発明であろう、電子制御によって金属骨格に生体皮膚細胞を被せたボディーを動かすサイボーグ。
その活動エネルギーは骨格内に搭載されたイオンプラズマ発生装置だという。
各関節の動きで生じる僅かなエネルギーを変換させるこの装置は、各部位に圧倒的なエネルギーを供給し、
人間には不可能な能力を八城に与えているのである。
また各部位には圧縮式の携行具が多数搭載されていることもあり、八城は今までのような異常な戦闘力をたたき出しているのである。
「まぁ、あれだ。兵器開発社の社長である乃亜の親父さんが試験的に作ったサイボーグなんだよ、こいつは。」
さすがに一行の中で一番マトモな人間である気沼がそれとなく伝わりやすい説明をいれる。
「そうなんですか。つまり八城さんは人間ではないんですか?」
瞳もそれとなく納得したのか、更なる質問をぶつける。
対して八城はどことなく苦笑気味に口を開いた。
「元々ベースとなる人間は居たのですがね、戦時中にとある事情で死んでしまったんですよ。
そこを、当時隊を率いていた社長がどうにかこうにかしてくれたわけです。」
酷く重苦しく、長い大戦、内戦を経たこの世界の定め、もしくは代価とでも言うべき内容なのだが、
この八城という男が語ると、どこか間の抜けた話に聞こえる。
それも彼の特徴である気の抜けた声、口調のせいなのだが、今回ばかりは功を奏した様だ。
聞くべきではないことを聞いてしまったかの様な表情で聞いていた瞳も、いつの間にかどこか安心した顔をしていた。
「それで?工藤要はどうなったよ?」
話題を変えたかったのか、口早に気沼が訊いた。
しかし、一行が目を向けた少女は、相変わらず深い混沌の中に居た。
数分後。
工藤要の頬を申し訳なさそうな顔でペシペシと叩く瞳がうれしそうな表情で顔を上げた。
「みなさん!!反応しました!!」
確かに、もぞもぞと動く少女が見える。
その頃には余程精神的に疲れたのか、気沼さえも倒壊したビルの瓦礫に座り込んでいた。
勿論のことだが、乃亜は無言で周囲に目を光らせ、八城は引っ張り出された時のまま、瓦礫の上に放り出されていた。
この睦月瞳と言う少女も、さすがに乃亜、気沼と過ごして来ただけあって、一本強い芯が通っているようだ。
すると、
「すぐ戻る。」
そういい残して乃亜が歩いて行く。
怪訝そうな目を向けた瞳だったが、すぐに八城の声があがった。
「多分、そろそろ目を醒ましますよ。姫沙希くんの性格からして、あまり会話をしたくないんでしょう。」
的確な判断であった。
眠気眼をこすりながら、起き上がった少女のことでもあるのだが、何よりも乃亜の性格からしてこの手の、言ってしまえば喧しい少女との会話など気沼や瞳の方が気が気でないだろう。
現に、八城の言葉を聞いて少なからず二人とも納得の表情を浮かべている。
「さてと、やっぱりお前の修理も含めて会社に向かうか。この調子なら乃亜も向かってるだろ。」
そわそわと周囲を見回している少女を気にしながらも、気沼が先の方針を述べる。
瞳も、小さく頷いた。
「あのさ、あんたら誰?あのデカイ動物は?」
唐突に訊いたのは、先ほどまで周囲を覗っていた少女、工藤要だ。
先にも述べたとおり、彼女は現在他の追随を許さぬマルチタレントだ。
明らかに不信感を丸出しにした声、口調にはさすがの気沼もすぐに反応できない。
「あの、私たち最近ニュースにもなってる、失踪事件の調査をしてたんです。今回の被害者は私と貴女、この人たちが助けてくれたんです。」
瞳が一気に捲くし立てた。
同じ被害者であり、唯一常人である瞳はどこか同情の眼差しである。
そこには、自分自身の非力さを要に重ねているかのようである。
「あー、犯人はあの動物?ソレにしてはだいぶ被害が多いんじゃない?それ、アタシの事務所が入ってたビルでしょ?」
確かに、要の言葉は的を射ていた。
誰がどう見てもこれは動物が暴れたにしては被害甚大であった。
「それにさ、あんたらは、」
「済んだか?」
要の声を、明らかに不機嫌な声が遮った。
乃亜だ。
一瞬にして、気沼と瞳が凍りつく。
要もその声に明らかな恐怖を感じたのか、かなり動揺した様子で振り向く。
「周囲にまだ敵が居る。何人か始末はしたが、気沼だけでは手間だろう。」
乃亜は要に見向きもせずに、八城の目の前まで歩みを進めた。
そのまま彼の左腕をつかみ、引っ張る。
「あのー、姫沙希くん。連れて行ってくれるのは嬉しいんですがね、引きずるのは勘弁してもらえませんか?」
あくまでも笑顔で、そのうえ緊張感のかけらも感じられない声が響いた。
しかし、乃亜は答えない。
答えぬ代りに腕が動いた。
「おいおい。あんまりじゃねぇか?」
そうごちたのは気沼だ。
あろうことか乃亜は八城を放り投げたのだ。
勿論落ちたのは気沼の目の前だ。
どうやら持てと言いたいらしい。
しかし、さすがに長年の付き合いなだけはある。
気沼はため息ひとつで、八城を担いだ。
その時。
「もお!!何なのよ!!あんたらは!!」
今まで呆然とやり取りを見ていた要が遂にキレた。
怒りの目線を乃亜に向ける。
乃亜も振り向く。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.26 )
- 日時: 2012/02/16 20:15
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: 最強フラグ払拭!
五章:2話
ドクン。
「!」
要の表情が変わる。
ドクン。
「?」
乃亜の表情も変わる。
ドクン。
乃亜の変化に、気沼の顔が強張る。
瞳が、気沼の元に駆け寄った。
ドクン。
世界が変わった。
「八城!」
乃亜の怒声が響いた。その声が先か、後か。
気沼の担いだ八城から、彼を中心に半径1メートル程の淡い青色の膜が出現した。
気沼の顔が驚きの表情を作る前に、大地が咆哮した。
アスファルトが、鋭利な突起となって襲い掛かったのだ。
それは、茨の森のように周囲を飲み込んだ。
「乃亜!無事か!」
気沼の叫び。
「先ほどの位置に生命反応あり。無事です。」
八城の応答。
明らかに場違いな口調に、少なからず苛立ちを感じながら気沼は青い膜を潜り抜けた。
アスファルト色の茨の森は、明らかにアスファルトから生えていた。
しかし、物理的に異常な現象である。
魔術か?
それも異常である。
なぜなら魔術の発動媒体である、音声がないからである。聞こえたのは乃亜の叫びだけだ。
乃亜が無事ということは、その声が魔術障壁の発動媒体だったのであろう。
やはり、いきなり出現した茨の森は、不可解な現象であった。
「八城!」
声と同時に乃亜は魔術障壁を展開させた。
八城のことだ、彼の声で電磁防壁を展開させただろう。
しかし、この灰色の茨は何なのか?
彼の魔術障壁でさえ、反応が間に合わない程の速度で発動、展開したのだ。
なんの前触れも、掛け声もなく、まさに一瞬にして灰色の茨、アスファルトの突起は彼の左肩を貫いた。
「やはり、奴等が狙うだけのことはある。発動媒体がわからんが、あの眼に何かありそうだな。」
そんな呟きを溢しながらも血の滴る肩には目もくれずに、乃亜は障壁を解いた。
同時に左肩をアスファルト色の突起から引き抜く。
さすがの乃亜も多少なりと痛みを覚えたのか、小さな舌打ちが聞こえた。
正直、彼にもこの一連の現象は謎であった。
しかし彼は見たのだ。
彼と目が合った瞬間、工藤要の両目が明らかに自然な発色で左右非対称の色に変わったのを。
古くから特別な存在と言われるものだ。
「おい、工藤要。貴様は何者だ?」
静かな問いかけであった。
しかし、その問いかけには明らかな殺気が含まれていた。
そのうえ明らかな嫌悪感が感じられる。
彼は面倒なのだ。
この少女のことなど、彼はどうでもいいのだ。
ただ、眼前の敵が抱えていただけ。
そもそも彼はこの少女を救うことなど、事象の副産物だったのだ。
「アナタハナニモノ?」
機械的な声が聞こえた。
地の底からの様でも、そっと吹いた風に紛れて聴こえたかのようでもあった。
乃亜の表情が、また変わる。明らかに怪訝な表情だ。
確かに先ほどまでの要の声ではなかった。
と言うよりも、明らかにこの場に居る人間の声ではなかった。
「!」
また世界が変わった。
灰色の茨、アスファルトの突起が一瞬にして切り裂かれたのだ。
一陣の風によって。
無尽に駆け抜けた風は、茨どころかアスファルトまでをも切り裂いた。
「地の次は風か、業火を熾せば火の変化か?」
もはや木っ端と化した灰色の世界から、その声は聴こえた。
その声と共に爆炎が世界を明らめた。
もはや加減などとは程遠い、確実に屠る為の業火であった。
既に彼の中で、工藤要は屠るべき敵なのである。
しかしまた、彼の姿も凄まじいものがある。
彼は先ほどの烈風をいささかも防がなかったのである。
もはや満身創痍どころか、血塗れの姿だ。
コートはもとより、乃亜の特徴でもある真っ白な肌までも紅の筋が無数に走っていた。
「ソノトオリヨ。」
そして、またも先ほどの声が聴こえた。しかし、今回は先ほどとは違った。
明らかに発声点がわかる。要の居た位置を覆うアスファルトの半球体からだ。
どうやら先ほどの乃亜の炎は、ソレで防いだようだ。
しかし乃亜がその声の位置に走る前に、またも世界が変わった。
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