複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲
- 日時: 2013/06/04 05:36
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: woIwgEBx)
- 参照: http://ameblo.jp/10039552/
[お知らせ!]
第9章開始!
--------------------
目次
最新章へ! >>97-105
本日更新分! >>105
キャラ紹介製作>>37 (4/4更新
(31ページから行間に改行入れてみました。まだ読みにくければご指摘ください)
序章 当ページ下部
キャラクター紹介 >>37
キャラクター紹介:姫沙希社 >>76
第1章 ノア >>01-04
第2章 影ニキヲツケロ >>05-10
第3章 雷光は穿つ >>11-17
第4章 強敵 >>20-24
第5章 触らぬ神も祟る者 >>25-36
第6章 姫沙希社 >>38-51
第7章 ささやかな試み >>52-75
第8章 平穏の中に >>77-96
第9章 魔族再来 >>97-105
----------------------
ごあいさつ。
どうもはじめまして、たろす@と申します。
とりあえず覗くだけ覗いて頂ければ幸いと思います。
基本的には王道ファンタジーですが、いかんせんスプラッターな描写が多数ありますのでそこだけ先にお断りさせて頂きたいと思います。
えー、もうひとつ。
誤字脱字には一応気を付けてるんですが発見したら一報いただけるととてもうれしいです;;
それでは、長い長いレクイエムの序曲が始まります。
---------------
序章:今宵も仄かな闇の中から。
部屋は暗かった。
それは明かりがどうのこうのと言う事でも、時刻がどうのこうのと言う事でもない。
勿論の事春の夜更けという事実が無関係とは言わないが、何か超自然的な質量をもった闇がそこにはある様な気にさせる。
まるでこの世の最後の輝きだとでも言いたげに、小さなライトスタンドの僅かな明かりが広い室内を異様に寂しく、哀しく照らしている。
光量を抑えてあるのか、やはり人工の光では照らしきれない闇がるのか、隅の方は闇に覆われていてよくわからないのだが、それでも一目でわかることがある。
その部屋は余程の豪邸か高級ホテルの一室であろうということだ。
ライトスタンドの置かれた机は小さいが豪奢な装飾が施された黒檀。
その机の上にあるパソコンは今春発売の最新型であった。
毎日時間をかけて洗ってあるか、使い捨てにしているのであろう、汚れどころか皺一つ見当たらないシーツのかけられたベッドはキングサイズである。
そんなベッドの上に打ち捨てられているのは読みかけどころか、買ったはいいが開いてすらいないと思われる雑誌や小説だ。
そのほかにも壁に掛けられた巨大な液晶テレビ。
同じぐらい巨大なソファー。
そしてその向かいに置かれているのは大理石のコレクションテーブル。
壁際には個人の部屋に置くにはあまりにも大きな冷蔵庫があり、肩を並べるように絵物語を模した装飾の施された食器棚が置かれている。
中に入っているのはグラスばかりだ。
上段にはワイングラス、中段にはウィスキーグラス。
どれ一つとっても数十年、数百年の重みを感じる匠の技が作りだした逸品であることが容易にうかがえる。
そして下段には名だたる銘酒が所狭しと並べられている。
向かいの壁に置かれているのは叶わぬ恋の物語を一面に描いた置時計だ。
動いてはいないが、コレクターならばそれこそ財産の全てを投げ出してでも手に入れたい逸品であろう。
しかし、全ては幻だ。
なぜならば、その部屋の主はそんな豪奢な備品に全く興味を示していないのだから。
分厚いカーテンが覆う窓際に、それだけは後ほど運び込まれたことが伺える小さな椅子とテーブルが置かれていた。
椅子とテーブルはアルミ製の安ものであったが、贅を尽くした部屋の備品にも勝る輝きがあった。
その椅子に腰かけているのは部屋の主なのだが、その姿を一目見ればこの部屋に何の興味もわかなくなるであろう。
それほどまでに主は美しかった。
長く艶やかな輝きを放つ黒髪と閉じられた切れ長の目元を覆う睫毛の哀愁。
すっきりと伸びた鼻梁の線、憂いを湛えた薄い唇。
肌は透き通る程白く、キメ細やかであった。
仄かな明かりに染まったその姿は、まさに神に愛された天上の細工師による至極の作品の様でさえある。
ふと、切れ長の目が開かれた。
大きな黒目には大きな意志を感じ取れる。
中性的な顔立ちではあるが男だ。
彼の名は姫沙希乃亜(きさき のあ)。
ゆっくりと彼は立ち上がり、分厚いカーテンを開けた。
夜更けにも輝く夜の街並みの明かりが、彼の目にはどう映るのか。
しばらく眺めた後、彼はまた窓辺の椅子に腰かけた。
今宵も誰ぞ彼を訪ねてくる者があるだろう。
------------------------------
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(長くなってきたので目次作りました。 ( No.17 )
- 日時: 2012/02/11 11:50
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
三章:6話
しかし、やはり通常では経験しきれない事もある。
次の獣の動きは正にソレであった。
まさか為す術もなく倒れた獣が、空中で受け身の体勢を取ろうとは。
そしてソイツは着地と同時に頭突きを放った。
とっさに腕を交差させ防ぐも、数メートル飛ばされた。
しかし、この男もなんたる運動神経か。
数メートル飛ばされたにも関わらず、姿勢はほぼ崩れていなかった。
そんな気沼に対して、獣は火炎弾を放った。
さすがの気沼も表情が硬直する。
「"魔光弾"!!」
乃亜の声が響いた。
乃亜の魔光弾は高速で飛ぶ火炎弾をしっかりと打ち落とした。
気沼の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「気沼!前だ!」
乃亜の怒声、強烈な風圧。
獣は爆炎の中をまたも瞬速の体当たりで突っ切って来たのだ。
そしてそいつの右腕が、気沼を襲ったのだった。
大降りの一撃。
気沼の頭部に振り抜かれた一撃を、彼は左腕で防いだ。
激痛が走った。
苦悶の表情を浮かべるが、彼の思考が行き着いた先は、腕の負傷のことではなかった。
アレを使わなきゃ、確実に死ぬ。"
一瞬の閃きであった。
しかし彼の脳裏に浮かんだ"アレ"を、彼は姫沙希社の実験室、それも特別な実験空間でしか使ったことがなかった。
「気沼センパイ!!」
瞳の叫びが聞こえる。
しかし、猶予の時間は無かった。
閃きのまま、本能に従って彼は吹き飛ばされそうになる上体を必死に押さえつけた。
そして右腕で突いた。
獣の心臓を。
パチパチと小気味よく電気質な何かが弾けるような音が響いた。
見れば気沼の腕は紫電の光に包まれ、ソイツの心臓を貫いている。
彼の右腕は、心臓どころか獣の背まで突き抜けていた。
「使えたか、"雷華"が。」
乃亜の声が静かに流れた。
その乃亜の表情は不思議と微笑んでいた。
それはとても親友が死の危機に瀕していた現場を見ている表情ではなかった。
気沼は答えずに、突き抜けた右腕を一気に引き抜いた。
「ああ、自信は無かったけどな。」
気沼の表情も、不思議と穏やかであった。
気沼だけが悟ったのだ。
乃亜が助けに入らなかったのは、全て気沼の為だと。
この命の危険の掛かった一瞬こそが、気沼に"雷華"の使用を決心させる唯一の場であったと。
急所を一撃で突かれたソイツは、痙攣しながら大量の血を撒き散らせて絶命した。
「あーあー、出来れば生け捕りにと言ったのに。」
そんな呑気な事を言いながら帰って来たのは、全身ボロボロになった八城である。
まさに満身創痍としか表現のしようがない男は、とても場違いな緊張感の欠けた表情をしていた。
「それよりも、この人見てくださいよ!!」
なにが"それよりも"なのかはよく分からないが、瞳が3人を呼んだ。
例の、獣の抱えていた少女の傍らで。
「おいおいまさか、工藤 要か!?」
その少女を見て、気沼が叫んだ。
「やっぱりセンパイもそう思いますか?」
瞳の思い当たった人物と、気沼の思い当たった人物はどうやら同じであったらしい。
八城もしげしげと見つめたあと、「本人みたいですね」と言った。
勿論の事ながら、乃亜はまるで関心を示さない。
助けた者が誰であれ、この青年にはさして変わりないのだ。
例えソレが"今最も人気のあるマルチタレント"だったとしてもだ。
獣が連れ去ろうとしていた者とは、あろうことか戦後最高の人気を誇るマルチタレント"工藤 要"だったのだ。
しかし、その理由は?
"魔界"の生物が人間界に居ること自体が有り得ない現象だ。
そして、その生物が人拐いをしている。
やはり、人為的な何かを感じずにはおれない。
そんな当惑した一行にかかる声があった。
「おいおいおいおい。遅いからまさかと思って来てみたら、ホントにその"まさか"かよ。」
呆れた様な感心した様な、何とも形容しがたい口調の若い男の声が聞こえた。
一行が振り向く。
その男は、乃亜にさえ気配を悟らせなかったのである。
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(長くなってきたので目次作りました。 ( No.18 )
- 日時: 2012/02/11 12:59
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
- 参照: 黒白物語……。スランプだorz殺楽は楽しく書けるのに
雷華が使えるようになりたいと心底思った柚子です、どうもw
たろす殿は情景描写が得意のようで、羨ましい限りです(・ω・`)
最後に出てきた「男」が気になります!
だんだん面白みが増してきているので読み応えがあって楽しいですw
でわっ、失礼しました!
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(長くなってきたので目次作りました。 ( No.19 )
- 日時: 2012/02/11 21:40
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
>>柚子様
再びおいで頂きありがとうございます!
雷華術には他にも色んな使い方があるんですよー
沢山出てくる予定なのでお楽しみに!
情景描写・・・うーん(何
でも会話の間にワンクッション入れる事は心がけてますw
個人的に会話ばかりの小説では物足りないので。
最後に出て来た彼は・・・・おっと、
続きは本編でw
ちょっと忙しくて柚子様のページへお邪魔させて頂けていないのですが、後日必ず顔出しますので;;
またお待ちしております(゜レ゜)
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(長くなってきたので目次作りました。 ( No.20 )
- 日時: 2012/02/12 13:23
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
四章:強敵
「あーあー、やっぱりな。オレは反対だったんだよ、新人や獣に人攫いを任せるなんて。おまけに回収役が人間なんて。成功する訳がない。」
ぶつぶつとぼやくその男は、まだ肌寒い季節の夜だというのに茶色いタンクトップに、薄手のスキニー姿であった。
これまた茶色い短髪がツンツンと晴れた夜空に向かって背伸びしている。
年の頃は二十歳そこそこであろうか。
どこか間の抜けた表情といい、面倒くさそうな口調や、いまいち状況とマッチしていないぼやきがどことなく八城と被る。
しかし、八城の場合は完全に緊張感が欠落しているが、この男の場合はどこか深い部分での余裕、自信のような響きであった。
「お前等は回収役じゃなさそうだな。お前等が始末したのか?」
始末した、とは勿論先ほどの獣の事であろう。
ツンツン頭をかき回しながら問う姿も、どこか面倒くさそうだ。
それとなく誘拐されそうになった少女に目を向けたところからすると、やはりこの一連の事件の関係者。
それも、実行犯よりも上の立場の人間なのだろうか。
「黙ったまんまじゃわかんねーよ。オレは恭(きょう)。魔族だ。」
男は面倒くさそうな表情を崩さずに言った。
"魔族"であると。
乃亜と気沼が動いた。
「お、ようやく話す気になったか。」
恭と名乗る男も軽い口調で言いつつ、腕をブンブン回している。
「話すことはない。聞くことはあるがな。」
乃亜の静かな声に気沼が凍り付いた。
そして恭も。
「っく。」
瞳が苦悶する。
乃亜の魔力である。
感じるのだ、魔族や、また魔力の扱いに長けた人間の大多数は魔力を視認できる。
乃亜の魔力は魔族さえ恐れる程の、否魔力とかけ離れた人間さえもを威圧するのだ。
月の輝く晴れた夜の一角を、重く冷たい空気が覆う。
「こいつはスゲーな。アンタ、名前は?」
恭が苦渋に満ちた顔で言った。
これがあの余裕のあった魔族の顔か。
「乃亜。」
答えた、と同時に走った。
空気をも裂く速度で繰り出された拳を恭はすんでのところで回避わした。
乃亜の体躯からは、想像不可能な威力、スピードであった。
しかし、恭も乃亜の想像以上の実力者であった。
続く乃亜の攻撃も、全てが空を切った。
そして、恭の攻撃も。
「ふん!!」
「はぁ!!」
どちらも間をおかずに、渾身の蹴りが舞う。
どちらもが上段蹴りのまま打ち合った。
打ち合ったまま、恭が微笑んだ。
「お前等、人間にしてはわかってんじゃん。やっぱ男はサシでやんねーとな!!」
声と同時に離れる。
「"突風(ストーム)"!!」
恭の声と同時に両掌から凄まじい圧力の風が、文字通りの突風が巻き起こった。
乃亜さえも回避せぬ勢いで。
「っく!!」
回避どころか受け身の態勢さえ取れずに吹き飛ぶ乃亜を物珍しそうな表情で見送って、八城が跳んだ。
予備動作なしで5メートル、肉食獣を思わせる驚異的な跳躍である。
その手にはいつの間にか幅広な直刀が握られている。
いかにもありがちなレトロで装飾的な物ではなく、肉厚で無骨な戦闘品である。
無骨な直刀を、八城は恭の頭上へ拝み打ちに叩きつける。
敵は滅ぼすのみ。
まさに問答無用の一撃である。
しかしまさか、その一撃を恭が防ごうとは。
美しい金属音に一寸遅れ、夜目にも美しい火花が散る。
恭の掲げた両手には、仄かな明かりを放つ白銀の矛槍(ハルバート)が収まっていた。
ほんの数瞬の攻撃の間に、どうしてか恭は矛槍を持っていた。
出現させたと言った方がいい。
文字通り、先ほどまで一切の武器を所持していなかった恭の手に、その白銀の武器は出現した。
それに特に驚きの表情も、感想も漏らさないのは八城ならではと言ったところであろう。
「具現召喚魔術(ぐげんしょうかんまじゅつ)ですか、実は接近戦は苦手なんですけどね。」
やはり、その声音には緊張感というものが欠片も感じられない。
自らの渾身の拝み打ちをいとも容易く受け止められた事など、まるで気にしていない。
どころか、見えてさえいないような声、口調であった。
ちなみに、具現召喚魔術とは実態のある物体を距離を無視して引っ張り出す魔術の一つだ。
非常に高度な魔術であり、習得には数十年を要すと言われる。
「人間が具現召喚魔術を知ってるなんてな、少し感心した。」
しかしこの恭という男はその高度な魔術を使いこなしただけで、ソレを決して傲るような態度はない。
「それはどうも、知っているだけでは意味がないんですがね。」
対して八城の声もどこか似たような、しかし紛れもない倦怠感を感じるような口調で返した。
声に合わせたかの様に、彼方から高速で発光球体が飛来する。
どうやら乃亜も復活した様だ。
宛もなく飛来した球体の発する爆音が戦闘開始の合図であった。
「こっからは本気でいくぜ!!ホントの闘いってのはっ!こーすんだよ!!」
恭が叫ぶ。
そして、この男の声も魔術の発動媒体になっていた様だ。
声と同時に、周囲を紅蓮が囲む。
一対一。
恭があくまでも拘るのは、対等にである。
真意は分からないが、恭は数の劣りが劣勢に直結してしまう様な使い手では無いことだけは確かだ。
「あらまあ、炎のリングで死闘(デスマッチ)ですか。いい趣味してますね。」
これまた明らかな倦怠感を惜しみなく漂わせて、八城は呟いた。
周囲を炎に囲まれた闘い。
状況から見て、その炎は恭が倒れるまで消えることはないだろう。
もしくは、八城が倒れるか。
どちらにしても、必殺の血飛沫で紅蓮を消火するほかはないだろう。
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(topページ改修。 ( No.21 )
- 日時: 2012/02/13 13:04
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
四章:2話
「まあ、楽しもうや!!」
走る恭。
風を巻く、っという言葉があるが、恭の疾駆は風を貫く勢いであった。
先の八城の跳躍など、子供だまし。
一瞬で5m以上を詰めた速度には、さすがの八城さえも驚嘆の表情を見せた。
しかし、下段の足払いは空を切り、続く矛槍の薙も紙一重で回避する。
それは完全に動きを読まれているかのように。
「なかなか当たんねーな。」
恭の呟きは悔しさよりも感心の念に彩られていた。
自らの実力を過信しているわけではない。
単純に人間と魔族。
この二つの異なる種族の生き物で、いかなる能力においても魔族は圧倒的に優位だからである。
今生物学上の相違点を除いてしまえば確実に八城が勝ることをこの男は理解し、なおかつ感心しているのだ。
「まだやりますか?」
そう問いかける八城は、とても魔族を感心させるほどの実力者とは思えない声、口調であった。
恭がそれに答える前にどこからか怨嗟のごとく。
闇の帝王のごとき呟きが聞こえた。
「八城、済んだか?」
もちろんのことながら乃亜なのだが、先ほどとは気迫が違う。
それどころか、恭が動けなくなるほどの鬼気が漂っている。
「あらまあ、姫沙希くん。相当ご機嫌ななめですね。」
どこか笑いを含んだその声が、場にいたすべての者の金縛りを解いた。
「ふん、すぐに終わる!!」
そう言って、恭は渾身の拝み打ちを叩き付けた。
人間には、回避どころか見とめることさえ不可能な速度であった。
もちろん威力も折り紙つきだ。
気沼が先ほど魔界の生物を打ち上げた拳の数倍に匹敵する魔力を、恭は一撃、一撃に練りこんでいた。
そんなものを生身の人間が受け得るはずもなく、恭の公言通りアスファルトを粉砕し灰燼を巻き上げるこの一撃で勝敗は決した。
はずであった。
輝く矛槍が八城を捕えた一瞬、恭の耳だけが金属を露骨に打ち付けあった様な音を聞いた。
そして。
「これ、普通の人にやったら死にますよ?」
そんな声が聞こえたような気がした。
いや、聞こえた。
恭があからさまに怪訝そうな表情になる。
彼は確かに必殺の気を込めて矛槍を打ち下ろした。
それに、彼の手も確かに攻撃の手応えを伝えている。
奇妙な金属音は、八城の持っていた蛮刀を考えれば別段不思議ではない。
しかし、先ほどの声は明らかに八城の声であった。
緊張感のなさと言い、間の抜けた口調と言い、八城以外には考えられなかった。
やがて段々と灰燼が晴れた路上には、膝までアスファルトに埋まった八城の姿があった。
炎を反射する仄かな紅は恭の矛槍か。
彼の渾身の一撃は、あろうことか八城の左腕、生身の腕に防がれていた。
「金属音?」
にこやかな八城に向かって、恭は怪訝な表情、声で問いかけた。
確かに、恭の問いは的を射っていた。
両手を前に出していた。
右手には真っ二つになった直刀が握られていた。
それを補うかの様に左腕が伸ばされていた。
恭としては聞きたいことは山ほどある。
膝までアスファルトに埋まりながら、なお直立していられる不思議。
これは姿勢を変えれば受けたエネルギーを地面に流すことは不可能ではない。
しかし、それにはエネルギーを最初に受ける体がまずそのエネルギーに耐えられなければならない。
数トンにも及ぶ恭の一撃を、八城のヒョロ長い体が受けえるとは到底思えない。
そして左腕の不思議。
左腕で恭の一撃を防いだことではない。
普通は、直刀で防ぐつもりなら右手の直刀だけを掲げる。
八城もそうだったであろう。
直刀で防げぬものを生身で補う者もいないだろが。
つまるところ八城は、直刀が二つに切り落とされた事に気づいてから、左腕を構えた訳だ。
恭の一撃の速度は風を巻き、空を切る勢い。
コンマ数秒で拝み打ちを繰り出した事でわかるその威力。
やはりソレを生身の体で受けきった八城に、恭は驚きよりも戦慄が走った。
勝てない。
恭は本気で打った。
一切の妥協なく、一切の躊躇いもなかった。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22