複雑・ファジー小説

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鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲
日時: 2013/06/04 05:36
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: woIwgEBx)
参照: http://ameblo.jp/10039552/

[お知らせ!]
第9章開始!


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  目次
最新章へ!  >>97-105
本日更新分! >>105
キャラ紹介製作>>37 (4/4更新
(31ページから行間に改行入れてみました。まだ読みにくければご指摘ください)

序章 当ページ下部
   キャラクター紹介 >>37
キャラクター紹介:姫沙希社 >>76

第1章 ノア         >>01-04
第2章 影ニキヲツケロ  >>05-10
第3章 雷光は穿つ    >>11-17
第4章 強敵        >>20-24
第5章 触らぬ神も祟る者 >>25-36
第6章 姫沙希社     >>38-51
第7章 ささやかな試み  >>52-75
第8章 平穏の中に    >>77-96
第9章 魔族再来     >>97-105
----------------------
ごあいさつ。

どうもはじめまして、たろす@と申します。
とりあえず覗くだけ覗いて頂ければ幸いと思います。

基本的には王道ファンタジーですが、いかんせんスプラッターな描写が多数ありますのでそこだけ先にお断りさせて頂きたいと思います。

えー、もうひとつ。
誤字脱字には一応気を付けてるんですが発見したら一報いただけるととてもうれしいです;;

それでは、長い長いレクイエムの序曲が始まります。

---------------

序章:今宵も仄かな闇の中から。


部屋は暗かった。
それは明かりがどうのこうのと言う事でも、時刻がどうのこうのと言う事でもない。
勿論の事春の夜更けという事実が無関係とは言わないが、何か超自然的な質量をもった闇がそこにはある様な気にさせる。
まるでこの世の最後の輝きだとでも言いたげに、小さなライトスタンドの僅かな明かりが広い室内を異様に寂しく、哀しく照らしている。
光量を抑えてあるのか、やはり人工の光では照らしきれない闇がるのか、隅の方は闇に覆われていてよくわからないのだが、それでも一目でわかることがある。
その部屋は余程の豪邸か高級ホテルの一室であろうということだ。
ライトスタンドの置かれた机は小さいが豪奢な装飾が施された黒檀。
その机の上にあるパソコンは今春発売の最新型であった。
毎日時間をかけて洗ってあるか、使い捨てにしているのであろう、汚れどころか皺一つ見当たらないシーツのかけられたベッドはキングサイズである。
そんなベッドの上に打ち捨てられているのは読みかけどころか、買ったはいいが開いてすらいないと思われる雑誌や小説だ。
そのほかにも壁に掛けられた巨大な液晶テレビ。
同じぐらい巨大なソファー。
そしてその向かいに置かれているのは大理石のコレクションテーブル。
壁際には個人の部屋に置くにはあまりにも大きな冷蔵庫があり、肩を並べるように絵物語を模した装飾の施された食器棚が置かれている。
中に入っているのはグラスばかりだ。
上段にはワイングラス、中段にはウィスキーグラス。
どれ一つとっても数十年、数百年の重みを感じる匠の技が作りだした逸品であることが容易にうかがえる。
そして下段には名だたる銘酒が所狭しと並べられている。
向かいの壁に置かれているのは叶わぬ恋の物語を一面に描いた置時計だ。
動いてはいないが、コレクターならばそれこそ財産の全てを投げ出してでも手に入れたい逸品であろう。
しかし、全ては幻だ。
なぜならば、その部屋の主はそんな豪奢な備品に全く興味を示していないのだから。
分厚いカーテンが覆う窓際に、それだけは後ほど運び込まれたことが伺える小さな椅子とテーブルが置かれていた。
椅子とテーブルはアルミ製の安ものであったが、贅を尽くした部屋の備品にも勝る輝きがあった。
その椅子に腰かけているのは部屋の主なのだが、その姿を一目見ればこの部屋に何の興味もわかなくなるであろう。
それほどまでに主は美しかった。
長く艶やかな輝きを放つ黒髪と閉じられた切れ長の目元を覆う睫毛の哀愁。
すっきりと伸びた鼻梁の線、憂いを湛えた薄い唇。
肌は透き通る程白く、キメ細やかであった。
仄かな明かりに染まったその姿は、まさに神に愛された天上の細工師による至極の作品の様でさえある。
ふと、切れ長の目が開かれた。
大きな黒目には大きな意志を感じ取れる。
中性的な顔立ちではあるが男だ。
彼の名は姫沙希乃亜(きさき のあ)。
ゆっくりと彼は立ち上がり、分厚いカーテンを開けた。
夜更けにも輝く夜の街並みの明かりが、彼の目にはどう映るのか。
しばらく眺めた後、彼はまた窓辺の椅子に腰かけた。
今宵も誰ぞ彼を訪ねてくる者があるだろう。

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Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(もう一つの試みが・・・。 ( No.72 )
日時: 2012/04/12 02:11
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
参照: 謎が謎を呼ぶ時、人はそれを偉大なるものと認識する。



七章:14話


内線電話で事情を話すと、累は社長室ではなく議事堂での協議を提案した。

「それで、アンザイ主任。工藤要は?」

累の声は依然として平静であった。
工藤要の発狂も、アンザイの催眠が破れたことも彼にとっては取るに足らない出来事なのだろうか。
もっとも相手は内戦終結の英雄だ。
常人の観点からではどうしてもずれる。

「鎮静剤を投与後、24時間の監視体制で医療部が隔離しております。」

アンザイ医師の方も慣れっこなのか、平然と処置を告げた。
対して累はしばしの沈黙の後、

「八城をけて来なさい。彼とは別途通信で協議に参加してもらおう。」

とだけ告げた。
確かに理にかなっている。
武装強化が施された彼ならば一人でも工藤要に対処可能であろう。
彼女の人格で意識を取り戻したとしても彼ならば協議に応じながら彼女の相手もできるはずである。
指名を受けたサイボーグはそんな累の言葉を聞いて、ため息交じりに頷いた。

「また貧乏くじですか。まあ、社長の指示じゃ仕方ありませんね。」


そんな八城のささやかな反抗と諦めの声に、当人と乃亜の除いた全員が苦笑を浮かべる
そんな中で気沼が先頭を切った。
珍しく乃亜が先頭を渋るように動かなかったのだ。
乃亜、八城を除いた六人が退出すると、今まで壁を睨んでいた乃亜の視線が八城に移った。
厳しい視線を送るものの、特に何を言うわけでもない黒衣の美影身に向けて八城はいつもの愛想笑いを向けている。

「どうしました?」

声、口調も変わらない。
他人が見れば何とも可笑しな図であろう。
数秒の静寂の後、乃亜の唇は軋む様に言葉を絞った。

「昨夜の一件、偶然だと思うか?」

乃亜にしてはいつになく悩みを窺わせる声だった。
この男にも苦悩など存在するのか。
その問いに八城が応える前に乃亜が続けた。

「俺は常々思っていたのだ。この国、この町、あの学校。この世界に存在するどの国よりも早く、どの町よりも大きく再興した。
そんなことは疑問に値しないと思っていた。そして昨日気付いた。俺と気沼の出会い、睦月瞳との繋がり、工藤要の本質。
この国には、そしてこの町には魔術的な才能の持ち主が多すぎはしないか?それだけじゃない。
この町の、この会社の周辺には。あの学校もそうだ。工藤要もそうだ。気沼とて変わりない。
そこで俺はある事実に気付いた。これだけの繋がりを偶然と位置付けるには一抹の疑念が生じる。
ならば人為的と取る方が正しかろう。そこでだ、これだけの規模で物事を形作れる者など存在し得るのか。
考えるまでもない。一人を除いては不可能だろう。姫沙希累を除いてはな。戦時中に何があった?
お前は何だ?姫沙希累とは何者だ?奴の意図するものは?お前が知らぬはずはなかろう。」

まさに怨嗟の様な声であった。
世界の理さえをも捻じ曲げてしまいそうな凄絶極まりない声、口調は、八城の表情さえをもいつになく真剣にさせた。
しかし、なんという問いか。
確かに姫沙希累という存在の大きさには謎が含まれる。
それにしても、実の父親に対する疑問の持ち方にしては異常と思われた。
自分の父とは何者か。
この世界、この国、この町を形作る者なのか。
彼の推理では眼前の男はその答えを知っているはずであった。
そんな乃亜に応えるかのように珍しく真剣なため息をつくと、八城は口を開いた。

「姫沙希くん。あなたの考えはわかります。しかし、私にはその情報にアクセスする権限はありません。
時が来れば社長から、姫沙希累からお話があるでしょう。彼はそういう人間です。」

明かりが翳った。
八城の言葉に合わせるように乃亜の魔力が高揚したのだ。

「姫沙希くん。あなたは莫迦ばかじゃない。ここで私を"壊しても"なんの意味もないことぐらいお分かりでしょう。
私の中にあなたの欲しい情報はない。それに、私は殺せません。代謝機能の低下状態からみてあなたは影によるダメージから抜けきっていない。
ここで無駄な魔力を使うのはあなただけでなく、あなたの、そして私の周りの方々にも致命的な問題になりかねません。」

明かりが戻った。
またも八城の声に合わせるように。
八城の声が終わった時、乃亜の表情は暗かった。
そんな表情のまま、乃亜は深いため息とともに踵を返す。

「すまん。」

乃亜が戸を抜けた時、八城はそんな声を聞いた気がした。

Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(謎が謎を呼ぶ・・・。 ( No.73 )
日時: 2012/04/17 06:53
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
参照: 謎が謎を呼ぶ時、人はそれを偉大なるものと認識する。



七章:15話



「遅れた。」

不機嫌顔の乃亜がノックもなく扉を開けると、既に全員が着席して待っていた。
姫沙希累の指定した議事堂とは、会社の行く末を分ける大きな議題を各部門の主任を招いて審議するための特別な部屋であった。
ワンフロアの半分を占める巨大な室内にはこれまた巨大な丸テーブルが据えられていた。
丸テーブル自体に区切りは存在しないが、各所にはめ込まれた液晶画面で大まかな着席位置はわかる。
どことなく厳粛な空気を漂わせる部屋ではあるが、乃亜はそんのもの存在しないかのごとく無愛想にイスを引いて座った。位置的には累と向かい合う位置である。
親しみを込めた累の眼差しは、乃亜の不躾な行動を見ても変わることはなかった。
入口から向かって左に姫沙希社の社員が並び、右側には気沼と瞳がそれぞれ座っている。
中央にはどこから引っ張り出してきたのか、旧式の電波通信装置が置かれていた。
それで八城は参加するのであろう。

「乃亜、だいぶ辛そうだがきみも通信参加にするか?」

八城の言葉通りならば、乃亜の体は未だに瞳の影によって受けたダメージが回復しきっていないはずだ。
それを踏まえて累が問う。本来これは感謝すべきところなのだろうが、
乃亜と累を除いた全ての人間が気まずそうな顔をした理由は言うまでもない。

「何の冗談だ?」

相変わらずの不機嫌顔で乃亜が返した。
元から抑揚の少ない声な上に、不機嫌が重なってか鋼のような言葉の刃であった。
それに対してエンドウがほれ見ろと言わんばかりの視線を投げかけるも、累はにこやかに手元に設置された機械類のボタンを押すだけにとどまった。
そうして累の表情が改まるが、それを遮るようにノックの音が聞こえた。
累が応えると、女性社員がコーヒーを運んできた。
先ほど累が押したボタンの効果であろうか。
テキパキと全員の前にカップを並べると、速やかに退出する。
姫沙希社の社員教育はまさに完璧と言えた。
普段は皆無と言っていい仕事でも、きちんと対応できる人間が揃っているようだ。

「それでは、協議に入ろう。まずは何からいくか?工藤要の現状と今後かな?」

社員達が退出したのを見送って言った累の声は問いかけと言うよりも宣言に近い。
彼の決定した方針が覆ることなど存在し得るのか。
一同が頷くと、累は満足げにエビナを促した。

「そうですね、解析結果から言いますと非常に危険です。アンザイ主任の報告も含めて考えますと彼女の潜在意識が表に出ている間は無差別に攻撃している節が見えます。
魔力に反応して攻撃しているのであれば八城さんは攻撃対象外のはずですからね。そしてもう一つ興味深い点は、潜在意識に人格が存在している点です。
多重人格とまではいきませんが、それに通じるレベルの人格が存在することが見て取れます。画面をご覧ください。
八城さんと工藤要の戦闘の一部始終です。明らかに彼女とは別の意思をもった人格が喋っているのがわかります。」

エビナの声に合わせて手元の画面に映像が映し出された。
八城の目線なのであろう映像には、アスファルト色の半球体とそれにめり込んだ肘から先が映し出されていた。
そして声が聞こえる。
暫く映像は流れ、またも工藤要の声が聞こえる。
丁度鋭利な氷塊を持って向かってくる場面だ。
音声が小さいので字幕表示も映し出されているのだが、そんなことは目に入らない。
誰の眼に見ても、工藤要には明らかに殺戮さつりくの意思があることが伺えるのだ。
その狂気を宿した鋭利な氷塊が振りかぶられる前に、映像は途切れた。


Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(参照300だなんて・・・ ( No.74 )
日時: 2012/04/20 07:13
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
参照: 七章が終わったら記念短編でもとかなんとか。



七章16話



エビナが再び口を開く前に、累がため息をついた。

「八城、いかに危険を感じたとはいえ民間人に対してアレはやりすぎだ。後で報告書を提出するように。」

エンドウが「まったくだ」とこぼすと、通信機からは相変わらずの声で了解の声が聞こえてきた。
全員が苦笑いを浮かべる。
こんな時、八城蓮と言う男は場を和やかにする。

「えー、んん。ここでですがね。彼女の音声解析をしていてわかったことがあります。
皆さんも気付いたかもしれませんが、所々二重に聞こえますよね。これが鍵です。この二重になっている部分。
最初に聞こえた"なにもの"や最後の"終り"と言った部分。ここでは彼女の通常の意識が僅かに出てきている可能性があります。」

エビナがちらりとアンザイを見た。
ここからはアンザイ医師の報告である。

「ここからは私が。彼女に対しては催眠も告白も効果を表しませんでした。
そこからわかることは私の催眠以上に強力な催眠によって彼女の能力を隠そうとした意図が感じられます。
そして、彼女もそれを望んでいるようです。基本的には彼女の能力が知られそうになった時と、身の危険を感じた時に発動するのでしょう。
今回の場合は乃亜くんの強力な魔力に身の危険を感じたために発動したと思われます。」

ここでアンザイの声は途切れた。
と言うよりも、現状わかっていることはそれだけなのだ。
それを無言で理解してか、累が全員を見渡し、口を開く。

「八城、きみの報告は?一応きみは当事者だ、後で報告書は提出してもらうが、何かないかな?」

どこか反論を許さぬ声が響くと、しばしの沈黙が流れた。
報告書の提出で済むことを口頭陳述するのが面倒なのであろう。
ため息混じりの声が聞こえるまで、いくらか間があった。

「そうですね。強力な風水術の類かと思われます。重ねて彼女は"神眼(しんがん)"を持っている可能性があります。
風水と神眼、共に持ち合わせぬ限り、通常の魔力を媒体とせずにこれだけの攻撃を行える理由はないと思います。
あくまでも未確認な空想上の存在とは言え、神眼が実在する可能性も考えねばならないのではないでしょか?
現状、彼女があの力を使いこなせる可能性はかなり低い。先手を取って対策を考えませんか?また公共事業に出費がかさみますよ。」

八城の言う神眼、それは空想上に存在する左右非対称の瞳を持った者である。
その力は神にも近いとかなんとか。
未だに姫沙希社のデータバンクにもその存在を確認したという事例はない。
神眼について累が一通り説明をしたところで乃亜の声が聞こえた。

「奴についてははわかった。問題は今後の方針だ。」

彼にしてはまともな発言であろう。
苦笑交じりに累が頷くと、手元の画面に文字列が浮かんだ。

「乃亜と気沼くんは省いて構わん。睦月さんと工藤要は特例だ、液晶に映った注意事項をしっかりと確認してくれ。特別区画を除いては自由な立ち入りを許可しよう。」

累の声に合わせて画面がスクロールする。
別に難しいことはない。
小学生の遠足並の注意事項であった。

「数日の滞在許可を出せ。ある程度態勢が直ったら家に移る。」

抑揚のない声で言ったのはもちろん乃亜なのだが、これが父親に対する口のきき方か。
いつの間にか印刷された注意事項の確認をしていた累でさえ顔を上げた。

「それは構わんが、きみや気沼くんとは違うんだ。彼女たちには家族が居る。何日も不在には出来まい。」

累は温かな、しかし咎めるような声で言った。
乃亜とは違って気遣いが出来る男だ。
全員の目が瞳に集まる。
こういった場合は他人が議論するよりも当事者が決める方がいい。

「えーっと、一応親に連絡は入れてみます。今日のことを話せば家に居るより安全だって言ってくれると思います。」

対する瞳は相変わらずおずおずとではあるが、今までよりもしっかりと意見を述べた。
仮想空間での一件で、人間としても成長したようだ。

「それならば我が社も協力しよう。そうだな、アンザイ主任、彼女に同行してご家族に説明を。
関係書類と就業内容については別途書面で手配しよう。」

当たり障りない程度に今回の件を報告し保護するとの旨であろう。
アンザイが頷くと、累は瞳に向き直った。

「学校までは送迎しよう。なにも構わず生活してくれたまえ。最低限の生活必需品は揃っているはずだ。」

それだけ言うと累は温かな笑顔を瞳に向けた。


Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(参照300だなんて・・・ ( No.75 )
日時: 2012/04/27 00:34
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: dvUrJGSo)
参照: 異端の能力者たちを、何が待ち受けるのか・・・。



七章:17話


誰もが微笑み返したくなるような笑顔であった。
一人を除いては。

「工藤要はどうする?」

言うまでもなく乃亜だ。
累は相変わらずの笑顔で実子と向き合った。
しかし、累が口を開く前にエンドウが声を上げた。

「蓮を監視につけて拘留しませんか?いつ暴走するかもわからない、帰すにしても監視につけるべきです。」

その声にクラマも頷いた。
戦闘後の後遺症はないとはいえ、彼としても今後のことが心配なのだろう。

「エビナ主任、被害のあった繁華街には彼女の事務所があったはずだ。現状は?」

累の声にエビナが持っていたメモリースティックをちらちらと振った。
累に放ると、累はそれを手元の機械に差し込んだ。

「衛星からの情報とメディアの情報です。まずはメディアの情報から。」

エビナの声で画面に映像が映った。早朝のニュース番組のようだ。
全壊した繁華街の大通りと、目撃者の証言が流れる。
容疑者不明、死者22名、重傷者8名。
政府と公安の関係者によると旧政府のゲリラではないかとの見通しだそうだ。
そんな内容の報道を見て、気沼がさも憎々しげな顔をした。

「何が旧政府のゲリラだよ。そんな連中が繁華街なんか狙うかっての。」

気沼の声に累が苦笑する。
咎めるに咎められないのだ。
なにせ報道連中の報道はいつも適当だ。
事実確認よりも内容の面白さ、大きさが彼らにとっては重要なのだ。
そして政府の発表はいつでも出鱈目だ。
なんせ彼らには報道連中程の情報収集能力もないのだから。

「えー、概ねこんなもんなんですがね。衛星の情報とデータバンクの情報です。
死者は22名に加えて現場を封鎖していた姫沙希社の社員が6名。それと一匹。
未確認の情報ではありますが、旧政府の戦闘生物兵器ではありませんね。八城さんの視覚情報を解析した結果から、それらの類に必ず見られる脳手術の跡が見られませんでした。
被害の規模ですが、繁華街の通りは全壊です。四方400メートルは完全に。彼女の事務所の件ですが、」

そこで声が止まった。
通信機から奇妙な咳払いが聞こえたのだ。
累が怪訝な顔をするが、エビナには伝わったようだ。
何を隠そう彼女の事務所が入ったビルを倒壊させたのは八城なのだ。
八城の意図ではないにしろ、それが累に知られればもう一枚報告書を書くはめになる。

「んん。彼女の事務所ですがそれも全壊。事務所自体は本社ではなく支部なのですが、
死亡者リストに彼女のマネージャーの名前がありました。
重ねて報告しておきますが、彼女の安否が結構騒がれていますよ。どうしますか?」

八城に気を使ってか、当たり障りなく報告された内容に累はしばし沈黙した。

「事務所の警備会社の情報を書き変えておこう。我が社の警備担当だったことにして、
それがすんだら我が社の死亡者リストを報道メディアに公開しよう。
彼女は我が社が保護しているとしてな。それまでに彼女は何とかしよう、アンザイ主任、任せていいかな?」

またしても累の声は反論を許さぬ声音であった。
しかし、声を荒げている訳ではない。単純に彼から何とも言えぬ威圧感が放出されているのだ。
しかし、彼の直属の部下、それも主任クラスのエリート達がそんなことに動じるはずもなく、アンザイは快く承諾した。

「ふう。本日の協議は以上で良いと思うのだが、アンザイ主任には工藤要の主治医を命じる。
その間の医療部主任はクラマくんに任せるよ。そして、息子とその友人方。
きみ達には滞在許可と設備の使用許可を出す。気沼くんはいつもどおり生活してくれたまえ。
睦月さんはアンザイ主任と相部屋で構わないかな?
個室も用意できるが落ち着かないだろう?設備を使用したければ私か主任クラス、
もしくは乃亜か気沼くんにでも一声かけてくれ。勿論八城でも構わない。
工藤要についてはさっきの通りだ。アンザイ主任を主治医、エンドウ主任の意見を採用して監視、
護衛として八城をつける。以上、全会一致で構わないかな?」

累の声が高らかに響くと、全員が頷いた。
満足げに頷く累が瞳に注意書きの書面を渡すと、ひとりひとりが持ち場へと戻った。



七章完結。

Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(七章完結! ( No.76 )
日時: 2012/05/10 23:41
名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: dvUrJGSo)
参照: 異端の能力者たちを、何が待ち受けるのか・・・。


キャラクター紹介:2
姫沙希社の人々。(随時更新)

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姫沙希 累

きさき るい。
姫沙希社の社長にして名門姫沙希家の第二七代当主。
実子乃亜を始め、多くの優秀な人材を集め、信頼も厚い。
長らく続いた内戦を終結させた英雄であり、戦後行き場を失った兵士を集め、姫沙希社を立ち上げる。
姫沙希社は当初、公共事業や町の復興に全力を挙げており、姫沙希累はその先頭に立った仁徳の復興労働者。
反面、姫沙希社の本業は先の大戦が繰り返されないような強力な抑止力となる兵器開発と言う一面も持つ。
しかし、内戦終結の英雄や、兵器会社の社長と言うレッテルとは裏腹にその性格は温厚で広い心の持ち主。
乃亜だけでなく、戦後のいざこざで孤児になった気沼や戦後行き場を失った社員全員を家族の様に思っている。

エンドウ。
姫沙希社整備部の主任。
内戦中から工兵として駆け回っていただけにその技術は姫沙希社随一。
内戦中から度々累とは親交があり、その信頼は固い。
姫沙希社内では鬼のエンドウと呼ばれるスパルタ主任。
気沼とオギノには「とっつぁん」の愛称で呼ばれているおっさん。

オギノ
姫沙希社整備部所属の青年。
不良面だが気さくな男。
年が近いからか乃亜や気沼の私用によく使われている。
最近のもっぱらの仕事はドライバー。

エビナ
姫沙希社情報解析部主任。
元々は内戦中に電波妨害などの電子工作に携わっていた工兵。
あらゆる情報解析に精通し、工藤要の能力解析に尽力する。

アンザイ
姫沙希社医療部主任。
妖艶な美女で、多くの医療技術を会得している。
しかし、彼女の最も得意とするところは科学的な医療ではなく、
催眠療法であり、肩書き上の医師免許には精神科医とされている。
工藤要の主治医となる。

クラマ
姫沙希社医療部の副主任。
内戦中に若くして医療を会得し、衛生兵をしていた。
主に外部医療に精通し、魔力の医療応用などを累と共に開発する。
冷静で落ち着きのある好青年だが、内向的という訳ではなく行動力も備えている。

イシカワ
姫沙希社実験部所属。
内戦中から時間と空間についてを研究してきた賢人。
仮想実験装置の扱いは姫沙希社内でも屈指で、故に魔力自体も強力なものと推測される。
上下関係をあまり重きに考えていない。

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5/10更新


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