複雑・ファジー小説
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- 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲
- 日時: 2013/06/04 05:36
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: woIwgEBx)
- 参照: http://ameblo.jp/10039552/
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第9章開始!
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目次
最新章へ! >>97-105
本日更新分! >>105
キャラ紹介製作>>37 (4/4更新
(31ページから行間に改行入れてみました。まだ読みにくければご指摘ください)
序章 当ページ下部
キャラクター紹介 >>37
キャラクター紹介:姫沙希社 >>76
第1章 ノア >>01-04
第2章 影ニキヲツケロ >>05-10
第3章 雷光は穿つ >>11-17
第4章 強敵 >>20-24
第5章 触らぬ神も祟る者 >>25-36
第6章 姫沙希社 >>38-51
第7章 ささやかな試み >>52-75
第8章 平穏の中に >>77-96
第9章 魔族再来 >>97-105
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ごあいさつ。
どうもはじめまして、たろす@と申します。
とりあえず覗くだけ覗いて頂ければ幸いと思います。
基本的には王道ファンタジーですが、いかんせんスプラッターな描写が多数ありますのでそこだけ先にお断りさせて頂きたいと思います。
えー、もうひとつ。
誤字脱字には一応気を付けてるんですが発見したら一報いただけるととてもうれしいです;;
それでは、長い長いレクイエムの序曲が始まります。
---------------
序章:今宵も仄かな闇の中から。
部屋は暗かった。
それは明かりがどうのこうのと言う事でも、時刻がどうのこうのと言う事でもない。
勿論の事春の夜更けという事実が無関係とは言わないが、何か超自然的な質量をもった闇がそこにはある様な気にさせる。
まるでこの世の最後の輝きだとでも言いたげに、小さなライトスタンドの僅かな明かりが広い室内を異様に寂しく、哀しく照らしている。
光量を抑えてあるのか、やはり人工の光では照らしきれない闇がるのか、隅の方は闇に覆われていてよくわからないのだが、それでも一目でわかることがある。
その部屋は余程の豪邸か高級ホテルの一室であろうということだ。
ライトスタンドの置かれた机は小さいが豪奢な装飾が施された黒檀。
その机の上にあるパソコンは今春発売の最新型であった。
毎日時間をかけて洗ってあるか、使い捨てにしているのであろう、汚れどころか皺一つ見当たらないシーツのかけられたベッドはキングサイズである。
そんなベッドの上に打ち捨てられているのは読みかけどころか、買ったはいいが開いてすらいないと思われる雑誌や小説だ。
そのほかにも壁に掛けられた巨大な液晶テレビ。
同じぐらい巨大なソファー。
そしてその向かいに置かれているのは大理石のコレクションテーブル。
壁際には個人の部屋に置くにはあまりにも大きな冷蔵庫があり、肩を並べるように絵物語を模した装飾の施された食器棚が置かれている。
中に入っているのはグラスばかりだ。
上段にはワイングラス、中段にはウィスキーグラス。
どれ一つとっても数十年、数百年の重みを感じる匠の技が作りだした逸品であることが容易にうかがえる。
そして下段には名だたる銘酒が所狭しと並べられている。
向かいの壁に置かれているのは叶わぬ恋の物語を一面に描いた置時計だ。
動いてはいないが、コレクターならばそれこそ財産の全てを投げ出してでも手に入れたい逸品であろう。
しかし、全ては幻だ。
なぜならば、その部屋の主はそんな豪奢な備品に全く興味を示していないのだから。
分厚いカーテンが覆う窓際に、それだけは後ほど運び込まれたことが伺える小さな椅子とテーブルが置かれていた。
椅子とテーブルはアルミ製の安ものであったが、贅を尽くした部屋の備品にも勝る輝きがあった。
その椅子に腰かけているのは部屋の主なのだが、その姿を一目見ればこの部屋に何の興味もわかなくなるであろう。
それほどまでに主は美しかった。
長く艶やかな輝きを放つ黒髪と閉じられた切れ長の目元を覆う睫毛の哀愁。
すっきりと伸びた鼻梁の線、憂いを湛えた薄い唇。
肌は透き通る程白く、キメ細やかであった。
仄かな明かりに染まったその姿は、まさに神に愛された天上の細工師による至極の作品の様でさえある。
ふと、切れ長の目が開かれた。
大きな黒目には大きな意志を感じ取れる。
中性的な顔立ちではあるが男だ。
彼の名は姫沙希乃亜(きさき のあ)。
ゆっくりと彼は立ち上がり、分厚いカーテンを開けた。
夜更けにも輝く夜の街並みの明かりが、彼の目にはどう映るのか。
しばらく眺めた後、彼はまた窓辺の椅子に腰かけた。
今宵も誰ぞ彼を訪ねてくる者があるだろう。
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- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(八章開始! ( No.82 )
- 日時: 2012/05/20 14:40
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: dvUrJGSo)
- 参照: つかの間の平穏の中で、何を見つけるか。
八章:4話
「八城くん、データバンクから神眼について出せるだけ出してちょうだい。」
医療フロアの最南端、隔離室の待合室からアンザイの声が聞こえた。
もっとも、それは彼の耳にだからこそである。
基本的には非常に高度な防音施設である為人間の耳では隣室の声などはまず聞こえない。
「社内のデータバンクにそれらしい記述はありません。一般のネット回線に、」
そこで八城は言葉を切った。
彼もその部屋が高度な防音室であることを思い出したのだ。
ため息と共に隣室で内線電話の鳴る音が聞こえる。
アンザイが内線を取った音が聞こえると、彼は再び口を開いた。
「防音を忘れていました、衛星通信でかけているのでそのまま繋いでおいてください。会社のデータバンクにそれらしい記述はありません。
一般のネット回線に繋ぎますか?正確さの欠けた情報にはなりますけど、多分かなりの数の情報がとれますよ。」
いつもながら緊張感の事ではあるが、アンザイはその緊張感の欠けた八城の声に満足した。
男と言うのは女に対してなぜか執着する。
興味がなくとも、それがステータスになるとでも言いたげに寄ってくるものなのだ。
しかし、この八城という男にはそれがない。
アンザイの経験上、それは極めて珍しいことであった。
八城の前では気が休まる半面、もう少し人間らしい本能的な情報を組み込んでやればいいのにと同情してしまう。
「ごめんなさい、一方通行じゃ困るものね。一応通信妨害と周波変更は2分おきにやってちょうだい。
一般回線の件だけど、お願いするわ。大丈夫だとは思うけどスパイウェアには気をつけて。」
言い終えると、アンザイは内線電話を手元のデスクに置いた。
彼女の居る待合室には待合用の三人掛けシートが二つと彼女の腰掛けている事務用のデスクが一つあるきりであった。
デスクの後ろに隔離室へと続く連絡通路があり、完全密閉の隔離室が都合一二部屋ある。
連絡路には試作的な物質ではあるが、無色無臭の消毒気体を散布するスプリンクラーがいくつも設置されている。
本来、この隔離施設は新種の病原菌やその感染者を隔離しておくための施設なのだ。
そんな、どこか堅苦しい悲痛な場所で、アンザイは白衣を落とした。
主任名札が床に落ちる固い音が聞こえる。
ため息に近い深呼吸をしてヒールを脱ぐ。
無機質な床の伝える冷たさ、体がこわばる瞬間の何とも言えぬ幸福感。
一応お勤めなので白衣の下はあまり飾り気のない衣類なのだが、上下ともに脱ぎ捨てたい衝動に駆られながら、アンザイはもう一度深呼吸をする。
リラックスしなくては。
昨晩、会社からの連絡で起床してから気が休まらなくて仕方がない。
累からの指示は単純で、繁華街で起きた問題の事後処理を頼まれただけであった。
乃亜一行以外では殆ど唯一の生存者である少女の様態チェックと記憶改変。
長くても一時間で終わるはずの仕事が、非常な大事になってしまった。
患者の様態は正常、記憶の改変に取りかかるところで異常が生じた。
今までかなりの数の生体に催眠をかけてきたが、失敗したのはこれが二度目であった。
そして戦闘内容の異常さ。
協議中の映像で始めて知ったが、あれだけの戦闘を無傷でやり過ごすなど不可能である。
それも戦闘経験など皆無な少女が。
現在持ち得る情報を整理しながらアンザイは五分丈のシャツを脱ぎ捨てた。
如何に高度電子ロックのかかった部屋とは言え、八城ならばその僅かな音さえ聞き取るだろう。
しかしそんなことはどうでもよかった。
八分丈のスキニーを脱ぎ捨てようかと思った時、内線電話から声が聞こえた。
「アンザイ医師、コーヒーでも淹れましょうか?」
相変わらず緊張感の欠けた声は、どこか困ったような響きを含んでいた。
彼なりに心配しているのだろう。
しかし、何がどうした?と聞く前にコーヒーでもとはなかなかいいセンスをしていると思った。
「本当なら今日は非番なんだけどね、休日出勤でも飲酒はまずいかしら?」
苦笑する声が聞こえる。
彼はこう言うだろう、呑みすぎないように。
「呑みすぎないように。私ならそうします。」
案の定だ。
アンザイも苦笑した。
彼が生きていて、生身の体を保って居たら彼と結婚したかもしれない。
彼が人間だったなら、それこそユーモアのセンスがあり気遣いの出来る素晴らしい人間だろう。
彼女はいつも八城蓮に惹かれる。
きっと物珍しいからだろう。
彼女はそう割り切ることにしていた。
なんせ彼は生きていない。
動いているだけなのだから。
「冗談よ、コーヒーもらおうかしら。内鍵開けておくわ。」
アンザイは自分がとてもリラックスしていることに気付いた。
今まで張りつめて固くなっていた全身の神経が柔軟に動くことがうれしかった。
「すぐにできますので、不都合がなければシャツだけでも着ておいてくれると嬉しいのですが。」
またも彼女は苦笑した。
女として、自分の顔にも体にも不満はない。
人並み以上は維持しているつもりだ。
正直な話、そんな自分がストリップしていると知りながら彼が特に何の興味も抱かないのは不思議なことであった。
誘っている訳ではないのだが、女としては多少がっかりである。
「そうね、そうします。」
しかし、そう言った自分の声に何ら落ち込みがないことに彼女は気付いた。
何せ彼は動いているだけなのだ。
彼女が服を着終えると、控えめなノックと共に八城がやってきた。
手にはブリキのカップがふたつ。
「お待たせしました。砂糖は二つで良かったですか?」
そう言いながら湯気の立つカップをデスクに置いく手つきは、全く不安が無い。
砂糖は二つ、ミルクはなしが彼女のパターン。
それを正確に知り抜いている自信に支えられた柔らかくも圧倒的仕草。
ここで言う砂糖とは角砂糖の事であり、姫沙希累は資源ごみが少なくて済むと言う割と安易な発想から、
社内ではスティックシュガーではなく角砂糖を使う事を好んだ。
そして彼女のコーヒーに何が入っているかなど知っているのは多分彼女と彼ぐらいのものだろう。
誰も他人のコーヒーになど興味を持たない。
それでも、彼はなぜか知っていた。
知りたくなくてもわかってしまうのだろう。
彼の耳と目は時に自身でも気付かぬうちに膨大な無用の情報を集めてしまうのであろう。
「ありがとう。」
短く言うと、彼はいつもの愛想笑いで頷いた。
彼の目には筋肉、神経の僅かな動きさえ正確に捉えられているのであろう。
そして耳には呼吸や心拍、もしかしたら血流の音まで聞こえているかもしれない。
「一般回線を洗った結果、536万件のヒット、内裏取りないし信憑性の確認が出来た情報が11件。どうします?プリントしますか?」
自分の考えを知ってか知らずか、八城の声が聞こえてきた。
まだ湯気の立つカップに視線を落したまま、アンザイは小さく頷いく。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(八章、1話更新! ( No.83 )
- 日時: 2012/05/29 11:26
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: dvUrJGSo)
- 参照: つかの間の平穏の中で、何を見つけるか。
八章:5話
裸足で投げ出した足をブラブラとやりながら、アンザイは彼のカップに目を移した。
動力の100パーセントを体内で生産できる彼が何か生体を摂取する必要はない。
にも拘らず彼がふたつカップを用意した意味が彼女にはわからなかった。
単純に二つ分コーヒーが出来てしまったのかも知れない。
少なくとも彼が自身の為に用意した訳ではないことだけは確かであった。
そんなことを考えている隣で、彼はいつの間にかプリンターとプリント用紙の束を抱えていた。
「どこから持ってきたの?」
アンザイの正直な問いに、彼は相変わらず笑顔で答えた。
「社内に居る時の標準装備です。戦闘だけが私の取り柄じゃありませんよ。」
彼は一体どれだけの質量の装備をしているのだろうか?
勿論試作型の圧縮器が使用されていることは知っている。
そのために生体皮膚を彼女が考案したのだ。
用紙の束を持った手で器用にプリンターの回線を自分の頸部に接続する。
アンザイ自身は彼の設計図を見たことはないが、きっと電子脳の配置上、頸部が一番外部との接続に向いていたのだろう。
「すぐにプリントアウトされますので、少々お待ちくださいね。」
彼の言葉通り、10秒とかからずに11枚の資料がプリントアウトされた。
その資料をアンザイに手渡すと、彼は自分のカップから一口だけコーヒーを啜った。
砂糖もミルクも入っていないと思われる黒い液体が、彼の体内でどうなるのかアンザイは少し興味がわいた。
自分も砂糖二本のコーヒーを流し込むと、足元の白衣に手を伸ばす。
「これですか?」
あと少しで届かないことが彼には分っていたのか、彼は小さな箱と灰皿を片手に訊いた。
もう片方の手では器用にプリンターの回線を抜くところであった。
「そう、気が利くわね。」
煙草と灰皿を受け取ってアンザイは感心した。
毎度のことではあるが、彼は一体幾つのことを同時にやっているのだろうか。
500万件の情報解析をしながらコーヒーを入れ、工藤要を監視する。
そのうちから有力な情報を11件だけに絞り込み、プリントアウトしながら彼女に煙草と灰皿を渡す。
きっとそのほかにもたくさんのことをやっているのだろう。
「八城くん。工藤要、どう思う?」
アンザイは極力八城のことを考えないで済む質問をした。
実際に戦闘をした彼の意見が訊きたいのもあった。
あの鬼気迫る声。
如何に不死身であろうと、神経系がある以上人間で言う痛覚神経の様なものがあるのであろう。
そんな彼に向けられた一本の凶器を、彼はどんな思いで迎えたのか。
「そうですね、どうと聞かれると答えにくいのですが、殺意は本物でした。そしてそれに抗う様子がなかった。つまりは本人の意思でしょう。
私の個人的な意見としては、このままここに置いておくのは腹に毒を飲むっとでも言いましょうか。あまりいい案ではないでしょうね。」
マグカップを口にしたまま彼は答えた。
彼の声が極めて生体に近い合成音であることは知っている。
それでも、やはり感情の色があるのに発声不可能な状態で声を出されるのは落ち着かない。
「如何に通常装備とはいえあれだけの攻撃なら大抵の兵器を破壊可能です。戦艦でも出てこない限りですがね。それでも彼女は無傷、私ひとりでは危なかったですよ。」
デスクに戻ってきたカップには、さして変化がなかった。
勿論内容量の話だ。
しかし、そんなことよりもアンザイはこの男が自身に危険が迫ったと感じたことに驚いた。
不死身の男に危機感を持たせるなど、乃亜でさえ不可能ではないかと思われる。
「やっぱり、危険因子として報告すべきかしら?」
アンザイは急速に不安になった。
彼女は彼の武装強化の一件をまだ知らない。
「それはアンザイ医師にお任せましす。それでは、私は彼女の監視に戻りますよ。」
そう言うと、八城は自分のカップの中身を飲み干した。
いつの間にかプリンターも用紙も片づけられた部屋に、アンザイだけが取り残された。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(八章、1話更新! ( No.84 )
- 日時: 2012/06/13 16:15
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: dvUrJGSo)
- 参照: つかの間の平穏の中で、何を見つけるか。
八章:6話
「開いているよ。」
目の前の扉を挟んで、こちらに向かってくる者に対して彼は静かに言った。
一切の停滞なく、そして躊躇なく目の前の扉が開いた。
地上20階、最上階にある社長室で彼、姫沙希累は訪問者の意図を考えた。
「仮想実験に付き合え。」
累の思案は無駄だったようだ。
開け放たれた戸口で黒い影が言った。
そんな不躾な訪問者にも、累は穏やかに破顔した。
「その前に掛けなさい。」
穏やかな声ではあるのだが、それは抵抗を許さぬ声であった。
自らの書斎机の前に置かれたパイプイスへ促す。
普段は壁際に立てかけられている品だ、彼は乃亜の訪問を予期していたのかもしれない。
「影の影響はどうかな?」
累の問いかけに珍しく乃亜のため息が聞こえた。
「昨夜も言ったはずだ。問題ない。」
昨日の再現の様に、会話が終わる。
これが親子であろうか。
しかし、普段ならばここで空気が悪くなるのだが今日は累がクスクスと笑い出した。
「血圧が低いぞ、呼吸も浅い。断片的に魔力が溢れている。おそらく工藤要を暴走させた原因だろう、影の傷を塞がなければ。」
乃亜が応える前に、累の手から何かが飛んだ。
乃亜でさえ見切れないほどの超高速で飛来した何かは、乃亜の右肩で止まった。
「貴様!」
乃亜が立ちあがろうとするも、その行為は成就されなかった。
「最新の即効性鎮静麻酔だ。きみ程度の抵抗力を持った相手を想定して制作された品だ。こらこら足がもつれるぞ。
どうせきみの事だ、クラマくんにもアンザイ主任にも治療などさせないだろう。内戦中以来だからな、少々荒いかもしれん。」
累の言葉に乃亜の表情が引きつった。
こんな顔は恐らく誰も見たことがないだろう。
「まさかお前が治療だと!やめろ!」
そんな焦る乃亜が面白いのか、累はクスクスと笑いながら書斎机の引き出しを探り始めた。
「彼女の魔力はどの性質だ?影に練り込む魔力で影響は変わる、つまり対処の仕方が違う。」
「氷の魔力だ、右肩をやられた。寒気はしないが体の芯が冷え切っている感覚、魔力の漏れは昨夜に比べればマシになった方だ。」
彼女とは瞳の事であろう、またも抵抗を許さぬ累の声に、乃亜がさも嫌そうにそっぽを向いた。
そっぽを向きながらも症状を語り始めたのは諦め故か。
さも満足そうな笑顔の累は二本の小瓶を持って乃亜の前に立った。
「失礼するよ。」
そう言って乃亜の右肩を指でなでる。
指の動きに沿って乃亜のコートは裂けた。
「何故市販品を使うんだ?姫沙希社の耐火防護繊維の何が気に入らない?
備えあれば何とやらだ、きみの魔力障壁には及ばないがアレはなかなかの耐久力があるよ。」
あっさりと裂けたコートを見て、累がさも奇妙なものでも見るような目つきをした。
そうこう言っているうちに傷口が露出しする。
黒く縁取られた傷口からは黒い何かが溢れていた。
「きみじゃなければとうに生きてはいない。しかし、視認できるほどの魔力が流れだしながらよく魔族と闘えたものだ。我が子ながら感心するよ。」
傷口から流れる何かを指で掬うと、それはすぐに霧散した。
その黒いものこそ、乃亜の体内に渦巻く闇の魔力そのものなのだ。
体内のエネルギーが絶えず流れだしながら乃亜は昨夜の連戦を切り抜けたのか。
「少々痛むぞ。」
言った時には累の指は傷口に突き刺されていた。
ぴくりと右頬を引きつらせたものの乃亜はそれ以上の反応を示さなかった。
しかし見よ、傷口から今度は紅い魔力が溢れているではないか。
数秒間、流れ続けた魔力はゆっくりと退いて行った。
「どうだ?」
ゆっくりと指を引き抜きながら累が訊いた。
訊きながら手にした小瓶の蓋を開ける。
瓶には抗生剤と止血剤のラベルが貼られていた。
「影にやられた傷の対処法は相手の魔力を相殺するほかない。炎の魔力を医療的に使うのは難しいが、今回は成功だよ。」
特に何も言わない乃亜ではあったのだが、累は手際よく小瓶を机に戻した。
累なればこそではあるが、乃亜の症状が驚異的な速度で回復していったのを感じ取れたのであろう。
「おい、直せ。」
ふと気付いたかのように乃亜が声を上げた。
鋭い視線は裂けたコートへ向けられていた。
しばしの沈黙が流れた。
累の顔に苦笑の表情が浮かぶ。
「姫沙希社の生地では不満かな?新しいものはすぐに用意できるが、ソレを直すためには手作業で縫合するほかない。」
乃亜の顔が不機嫌そのものの表情を作った。
どうやら気に入っているらしい。
「わかったわかった、誰かに直させよう。それで、仮想実験だったかな?」
苦笑が絶えない累が、またも乃亜の目の前に立った。
相変わらず麻酔の効いた乃亜の口に何かをねじ込む。
「こらこら、しっかり飲み込みなさい。飲まないと暫く麻酔が残るぞ。」
今までの不機嫌など比にならないほどの不機嫌顔の乃亜に、累は相変わらず温かい声で釘を刺した。
数秒の間を置いて乃亜の喉が動いた。
見る見るうちに麻酔の効果が薄れて行く。
「麻酔だと?神経麻痺剤の間違いだ。」
昨夜以上の不機嫌顔のまま、乃亜が吐き捨てた。
右肩に刺さったままの麻痺剤は本来麻酔銃で撃ちだす小型の注射器である。
対象に命中した衝撃で安全装置が外れ充填してあるガスが薬剤を注入する仕組みだ。
そんなものを素手で扱った累にも驚きなのだが、深々と刺さった注射器を問答無用で引き抜く乃亜の姿こそ恐るべし。
そんな乃亜から注射器を受け取った累はいつの間にか工業エリアの制服であるツナギに着替えていた。
「仮想実験に付き合うならばスーツよりこちらがいいだろう?」
乃亜の怪訝な視線が気になったのか、累が苦笑気味に言った。
そんな父に特に反応も示さず、乃亜は社長室を後にした。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(ご無沙汰してます、一話更新です。 ( No.85 )
- 日時: 2012/06/15 16:43
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: dvUrJGSo)
- 参照: つかの間の平穏の中で、何を見つけるか。
八章:7話
二人の訪問者の要望に、実験フロアの事務室に緊張が走った。
「特別区画にしますか?」
前回の仮想実験に同行したイシカワが訊いた。
「そろそろお昼だし、そんなに隠すことでもないんじゃないかい?」
応えた声はどこか陽気であった。
別に何が面白いわけでもない。
それが彼なのだ。
「主任には聞いてませんよ、社長に聞いてるんです。」
「まあまあ、イシカワくんもそうきつく言ってやるな。ツツミくんの言葉も一理ある、社員に余計な詮索をさせるのは好ましくない。」
イシカワがきっぱりと言い放つと彼は残念そうな顔をする。
累の温かな声にほれみろと言わんばかりにイシカワを指さしたのが彼、実験部主任のツツミだ。
どことなくフラフラとした動きにやたらと指を動かす癖、地毛かどうかはわからないが爆発したようなアフロヘアがまるでピエロの様な男であった。
「社長がいいって言うならそうしましょう。」
イシカワの声に累が苦笑した。
しかし、彼に言わせるとこの実験フロアの上下関係の軽薄さがこの実験部のいいところであるらしい。
「では、僕が仮想実験室に行こうか。イシカワくんは平常通り頼むよ。」
ツツミが無駄に指を動かしながら言った。
どこか苛立たしい仕草なのだが、誰ひとり文句を言わずに頷いた。
流石に主任。
見た目は似非ピエロでもその権力は実験フロア随一なのだ。
彼の決定から数分後、三人は仮想実験室に居た。
「聞いていなかったが、何の仮想実験をしたいんだ?」
累の声にツツミが苦笑した。
それを知らずに累は乃亜に付き合うと言ったのか。
「魔術的なことで一つ気になってな。すぐにわかる。」
ツツミの苦笑が深くなった。
この親子はどこか緊張感と言うか、危機感が足りない。
未知なるものへ微塵も恐怖を感じていない節がある。
「仮想空間を開始してくれ。市街地、魔力濃度通常で頼む。」
累の声で世界が変わった。
昨日とは違い、累の指示通りの市街地であった。
魔力濃度も外界と変わりない。
昨日は瞳に魔力の扱いを覚えさせるためにかなり高濃度の魔力が充満していたのだ。
「さて、何の実験なのかな?」
累が穏やかな声のまま乃亜と向き合った。
声こそ穏やかだがその全身からは見えざる闘志の様なものが感じられる。
彼は内戦終結の英雄。
言ってしまえば乃亜以上の戦闘経験を持ち、乃亜以上の死線をくぐり抜けてきたのだ。
そんな父に対して、乃亜は無言で魔力を覚醒させた。
黒い文様が浮き出し、物理的な質量さえ伴って魔力が放出される。
「お前には言うまでもない事だが、これが魔力覚醒だ。」
相変わらず抑揚のない乃亜の声に、累は無言でうなずいた。
魔力、魔術の基本的な概念を確立させたのは他ならぬ姫沙希累なのだ。
いまさら言うまでもない。
そして乃亜や気沼が学び、八城のアクセスする知識や情報さえも彼の集め、彼の考案した知識なのだ。
「俺は学んだ。お前と姫沙希社から魔力と魔族について、そして魔術を。」
乃亜の魔力が更に濃度を増す。
そして奔った。
二人の距離は3メートル。
1秒とかからずに打ちだされた高速の右手を、累は半歩ほど肩を下げて回避する。
全く無駄のない動きであった。
「手合わせしたいだけなのか?」
相変わらず穏やかな表情の累に対して、乃亜の顔に悩むような表情が浮かんだ。
その表情のまま身を捻ると、乃亜の右足は空を裂く様な速度で振り抜かれた。
それが打ち合ったと感じた瞬間、乃亜の体は5メートルも後方に吹き飛ばされた。
乃亜の魔術障壁と同じ要領で累の全身から一瞬にして多量の魔力が放出されたのだ。
魔術的な魔力の変換ではなく、ただ単純に魔力を放出する。
それだけである程度の距離ならば全方位をカバーできるうえに、今の様に隣接された場合距離を取ることもできる。
コツさえつかめば魔術的な防御障壁よりも素早く展開できるが、半面多量の魔力を瞬時に消費する為、連発するには向いていない。
吹き飛ばされた乃亜が着地するのを待たずに、今度は累が乃亜の元へと奔った。
乃亜と同速かそれ以上か。
乃亜さえも回避しえない勢いで繰り出された右足は、しっかりと乃亜の脾腹に決まった。
それでも僅かに飛ばされただけでしっかりと着地した乃亜はやはり流石と言うほかない。
「お前のデータバンクに載っていなかった事がある。」
着地した乃亜が、累の動きを待たずに言った。
魔力濃度がさらに上がり、髪と瞳が変色する。
累が驚きの表情を作った。
「これが魔族の血か?恐らく違うだろう。お前は魔族についてどこまで知っている?情報の出所はこの際どこでもいい。これは何だ?
先日の睦月瞳誘拐の実行犯。魔族と名乗った男と邂逅するまで、俺自身こんな変化は知らなかった。
俺の魔力が特殊なのは知っている。だが、この現象は何だ?」
沈黙が降りた。
それは累がこの乃亜の変化について知っている何よりの証拠であった。
お互い無言のまま時が流れた。
それが一瞬であったか、数時間であったか。
「そうだな。魔族の血ではない。きみには知る権利があり知る必要があるのだが、今はその時ではない。」
いつになく真剣な顔、声音であった。
普段の温かみなど欠片も感じ取れない。
しかしそれは乃亜の様な冷厳な無関心や拒絶ではなく、圧倒的な意思に支えられた宣言の様な声であった。
乃亜の魔力が和らいだ。
「八城の言った通りだな。」
声と共に魔力覚醒が解除される。
累の顔も、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
仮想空間も解除され、仕切りの扉へと向かう乃亜の足がふと止まった。
「母親と関係があるのか?」
その声はどこか悲しみを帯びていた。
表情もまた、哀しげであり美しくあった。
そして、またも沈黙が下りた。
しかし今度は一瞬、累が乃亜を追い抜きながら声をかけた。
「確かにきみの母親は魔族だった。しかし、それについても今はその時ではない。いや、それについてきみはいずれ自ら知ることになるだろう。」
その声は乃亜以上に悲しみに彩られていた。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲(久々にちょっと戦った← ( No.86 )
- 日時: 2012/06/26 17:36
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: dvUrJGSo)
- 参照: つかの間の平穏の中で、何を見つけるか。
八章:8話
暖色を基調にした部屋の中で、彼女は何度目かの寝返りをうった。
ベッドを運び込む時間がなかったので現在彼女が寝ているのはアンザイのベッドだ。
アンザイの華の様な香りするベッドは彼女をすぐに夢の世界に誘ったが、数時間ごとに現実へと戻された。
疲労はだいぶ回復したが、緊張は相変わらず残っている。
頭まで被った布団の中は生温かく、どこか胎内を思わせる。
その感覚が彼女は好きだった。
体内に渦巻く氷の魔力のせいかもしれないと彼女は思った。
彼女の体が意識を超越して本能的に温かみを求めているのかもしれない。
どこか現実離れした刺激的な一夜が明けても、そんな現実離れした思考をしてしまうのが、彼女の緊張の証明であった。
もぞもぞと掛け布団を剥ぐと、ベッド脇のライトスタンドだけが灯されていた。
眠りに落ちる前はアンザイがソファでノートパソコンをいじっていたのだが、彼女の姿は見当たらなかった。
彼女、睦月瞳はベッドから這い出ると、スタンドの置かれているサイドテーブルから置時計を取り上げた。
時刻は午前11時。
議事堂での協議が終わったのが明け方なので、よく眠った方だ。
大きく伸びをしてベッドから降りると、急激に空腹感に襲われた。
よくよく考えれば瞳は帰宅途中に攫われたのだ、夕食と朝食を欠かした訳なので空腹なのも無理はない。
どうしたものかと考えていると、ノックの音が聞こえた。
応えると気沼の声がした。
「起こしちゃったかな?」
ドアを開けると、普段と何ら変わらない気沼が立っていた。
どれだけの修羅場をくぐり抜ければ、彼らの様な余裕を得られるのだろうと瞳は考えた。
そんな彼女の考えに気付いたのか、気沼は苦笑気味に背後から何かを瞳の前に持ってきた。
「着替え、下に行ったらクリーニングから上がってたから。」
綺麗に袋に入れられた制服が、彼女をほっとさせた。
昨夜借りてそのままのワンピースで出歩くのは流石に恥ずかしかったのだ。
社内にあるのかクリーニングに出したのかは不明だが、クリーニングタグまで奇麗に付けられた制服は何故だかひどく遠くなってしまった日常を取り戻してくれる。
「ありがとうございます。」
制服を受け取ると、会話がなくなった。
数秒の沈黙が下りたのだが、気沼の方が耐えきれなくなったように口を開く。
「あー、お昼は済ませた?まだなら食堂行かないかな?姫沙希社は社員食も一流だよ。」
気沼の声に瞳の顔が輝いた。
この男はいつもタイミングがいい。
願ったり叶ったり。
「着替えてからでもいいですか?」
「ゆっくりでいいよ。」
瞳の問いかけに頷くと、凄まじい勢いで扉が閉まった。
その声が聞こえものか否か。
数分後には二人でエレベーターに乗り込んでいた。
迷子になるのが心配なのか、気沼にしてはしっかりと各フロアの説明などをしつつ乗り込んだエレベーター。
単に会話がなくなるのが嫌だったのかもしれない。
そうして、瞳はふと昨夜から気になっていた疑問を思い出した。
「昨日社長さんが言ってた、特別区画って言うのはどこなんですか?
累の用意した注意事項の書面には特別区画への立ち入りを禁じる記述があったのだが、特別区画の場所が明記されていなかったのだ。
そもそも昨夜見た整備部の様子を見る限り、特別区画というのが何を指しているのかさえ分からない。
「あー、特別区画は日によって変わるんだ。フロアごとに大事なプロジェクトがあると、そのフロアの一部のブロックが特別区画って言われて、そのフロアのそのブロックの所属しか立ち入れなくなるんだ。
今日は特別区画はなかったはずだけど、特別区画がある日はエレベーター脇の掲示板に紙張ってるはずだから、毎日確認して。」
気沼が応えるとすぐに、エレベーターが開いた。
10階にある社員食堂に到着したのだ。
4台のエレベーターが並ぶ廊下の数メートル先に巨大な扉が見える。
その扉を気沼が押し開けると、奥には見たこともないほど巨大な食堂が現れた。
「凄いっしょ?ここが食堂、収容人数は600人だったかな。その食堂を20人のクルーで運営してるんだからびっくりだよ。」
呆気にとられている瞳の背中を押しながら、気沼が言った。
その声には紛れもない尊敬の響きがこもっている。
それは戦闘時とはまた違った、仕事の技量に対しての純粋な尊敬であった。
ワンフロア丸々一階を占領する社員食堂を20人のクルー、もちろん交代勤務であろうからほとんど数人で運営する能力には気沼でなくとも尊敬の念が湧くだろうが。
瞳が見上げると、どこか思い出に浸る様な表情であった気沼だがすぐに破顔する。
そのまま彼は手近な椅子へ瞳を促した。
「何食べたい?」
座るとすぐに気沼が訊いた。
巨大な長テーブルにはメニューがなかった。
「なにがあるんですか?」
「なんでも。」
瞳の率直な疑問に、気沼が笑った。
どこか自慢げなその表情は、とても子供っぽかった。
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