複雑・ファジー小説
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- 【完結】必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
- 日時: 2014/02/19 21:39
- 名前: 琴 ◆ExGQrDul2E (ID: RnkmdEze)
こんにちは。 または、初めまして。琴と申します。
(※琴は、名前を紗倉 悠里に変えました)
今回は、「些細な嘘から始まった」に続きましてこの小説を書くことになりました。友達が構想を練り、私が執筆するという形式は些細な嘘から始まったと同じです。どうぞ、よろしくお願いします。
私は、更新は遅いです。亀さんです((
それから、少し流血表現(?)も入ります。
それに、稚拙すぎるレベルの文章です。
それでも良いという方は、ご閲覧ください。
アドバイスや感想をくださると、はげみになります!
かなり長編になるので、暇潰しに読んでくださるのでも構いません。
<目次>
罪と輪廻シリーズ第二弾!
「必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話」
>>1 ご挨拶
>>2 登場人物紹介
>>3 プロローグ
【本編】
第一章<真>
第一話 >>4-6
第二話 >>7-9
第三話 >>10-13
第四話 >>14-17
第五話 >>18 >>22-23
第六話 >>24-27 >>30-33
第七話 >>36-38
第八話 >>39-41 >>46-48
第九話 >>49-52 >>57
第二章<犠牲>
第十話 >>58-61 >>63
第十一話 >>65-66 >>69
第十二話 >>73-74
第十三話 >>75-77
第十四話 >>78-79 >>82
第十五話 >>83-86
第十六話 >>87-89
第十七話 >>90-92
第十八話 >>93-94
>>95 エピローグ
>> あとがき
●記念日●
9/22
参照100越え
9/22
参照200越え
10/5
参照300越え
10/13
参照400越え
10/25
参照500越え
11/4
参照600越え
11/17
参照700越え
11/23
参照800越え
11/24
完結!!
2/1
参照1000越え
●お客様●
武士倉 様
エンヴィ様
杏 様
友桃 様
美玉 様
【罪と輪廻シリーズの解説 (友人の説より)】
「些細な嘘から始まった」から始まる四つの小説のこと。
一弾は「些細な嘘から始まった」 (シリアスダーク)。
二弾は「必要のなかった少年と世間に忘れられた少女」。
三弾、四弾はいまのところ推敲中。
特徴の一つは、色を関係付けていること。キャラクターの名前や物の名前のモチーフなどは色が関係している。 一弾では「青」、二弾では「赤」がモチーフとされている。ほかにも、色を関係付けてあるところがたくさんある。
もう一つの特徴は、物語となる中心の道具。 今は、「ボタン」と「スマートフォン」がでてきている。
どれもあまりに突飛な想像で作られた上、未来的な物語であるために、元となる時代は2050年とという想像し難い年代となっている。
※罪と輪廻シリーズ、またはそれに含まれる全ての物語はフィクションです。 現実の人物、施設とは全く関係ありません。
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.86 )
- 日時: 2013/11/20 23:49
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: fExWvc7P)
また、前みたいになりたいなぁ。
戻りたいなぁ。
「へぇ。 度胸あるじゃないの。 ありがとね、雪」
お母さんが笑った。そして、私に近寄る。
私は逃げなかった。後ずさりもしない。でも、うつむいて、お母さんの笑顔だけは見ないようにしていた。もしみてしまったら、決意がゆらぎそうだったから。
(真人たちのところに行けるんだもん!)
逃げる理由なんてない。殺してくれて、結構。
「本当に、ありがとう」
ふと、お母さんの声が曇った。
私は、その声に気づいて頭をあげた。彼女は……泣いていた。
「ありがとう」
お母さんは、そういって私を抱きしめた。
暖かい。私は純粋にそう思った。
——泣いていた。あのお母さんが。
涙を流していた。目の周りを少し赤くして。でも、少し微笑みながら。
なんで、泣いたの?私なんて、必要なかったんじゃないの?
私は分からない。なんで泣いたのか。
でも、このお母さんは確かに暖かかった。
その時だった。
チクリ。
何かが首に刺さった。
冷たく鋭い感触で、その正体に私は気づいた。それは、……針だった。
針が抜かれる。そして、お母さんは私から離れた。
「……」
彼女は黙ったまま、私に針を見せた。表情は、少し微笑んでいた。
私の血がついた針は、赤黒く光っている。
ぼおーっと針をみているうちに、どんどん、視界がぼやけていく。そのうち、お母さんの顔も良く見えなくなった。ぼやけちゃって、お母さんが泣いてるのか笑ってるのか分からない。
そして、膝の感覚がなくなって、私はその場に崩れ落ちた。床が目の前に見える。埃一つ見えなくて、綺麗に掃除されてるように見える、ぼやけててよく分からないけど。
その瞬間に、私の目の前は真っ黒になった。
こんな光景をみたことがある。確か、なにかのゲームだったと思うんだ。
敵に倒されちゃった時に、ゲームプレイヤーは倒れる。そして、画面が真っ黒になるんだ。
そのあと、画面に表示されるんだよ。
「【ゲームオーバー】」
冷たいカフェには、私だけが残された。
【第十五話 END】
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.87 )
- 日時: 2013/11/21 20:59
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: mb1uU3CQ)
【第十六話】<そうしたらね>(梅子 視点)
(あぁ、だめだわ、私って)
……ついに、私は約束を破った。
雪は、私に殺されてしまった。可哀想に、私に殺されてしまった。
焦って、殺しちゃうなんて、私って本当にダメ。ダメダメ。
そんなことを思いながら、店から出ると、スマートフォンを操作して、歩さんに電話をする。
「あ、歩さん? 今、あのカフェに居るんだけど、迎えに来てくれる?」
いつも通りに。動揺しているのを悟られないように。
『おお、そうか。 わかった、すぐに行くよ』
歩さんの声が聞こえた。
私は、いつも聞いてる声を聞いて、安心した。
「ん、お願い」
そういって、私は電話を切る。そのまま、スマートフォンをポケットに入れた。
そして、五分くらい待った頃だ。
黒い車が目の前に止まった。これは、間違いなく歩さんの車だ。もう、何十年も見続けているから分かる。
「迎えに来たぞ!」
歩さんは、とても明るい声と笑顔で迎えてくれた。
「ありがとう、歩さん」
車に乗り込むと、ふぅ、と安心してため息をついた。そして、窓からカフェを眺めた。
ちょうど、外から雪は見えなくなっていた。我ながら、良い所で殺したものだ。
まぁ、全く嬉しくないけどね。
雪を殺したこと、本当はすっごく後悔してる。
それは、自分でも分かっていた。でも、そんなことは、言えない、言ってられない。
「なんで……殺したんだろう」
私は、小さくつぶやいた。
それは、歩さんにも聞こえていたらしい。
「ん?」
運転席の歩さんが私の方を見た。私は、慌てて適当に話を繕っておいた。
歩さんは、私の本当のことを知らない。
まさか、この容姿のままの私が生き続けるなんて思っていないだろう。
だって、夜人と雪を巻き込んで、私の誕生パーティーを開いたのも、彼なのだから。
絶対、私は普通の人間なのだと、歩さんは信じてる。
それに、彼は、時雨さんのことも知らない。
彼には知らせずに、私は時雨さんと会ってる。
これ、もしかしたら世間には、浮気って見られるのかな?
あはは、それは面白いわ。私が浮気だなんて、面白い。
今までと同じ、狂った思考。のはずなのに、今度はなんでか笑えない。微笑もうとしてもできない。
笑おうとしたら、床に倒れた雪の姿が脳裏に浮かぶ。そしたら、笑えなくなる。 それどころか、涙がでそうになってくる。
それって、おかしいよね。私は狂ってるんだから、娘の為に泣くわけがないし。
「どこにおくっていこうか?」
私がぼーっとしていると、歩さんが聞いてきた。
「そうね。 私の家までお願い」
「りょーかい!」
朗らかで純粋に彼の目に、雪のあの姿はどう映るのかな。
夜人がいなくなった時のことも、まだ私は彼に話していない。「友達の家に泊まりに行くんだって。 しかも、一ヶ月」なんて、あり得ないような言い訳をしたら、彼は単純だから……純粋だから、「おう、そうか! あいつもそんな友達ができてよかったなぁ」と笑いながら言った。
多分、事実を言ったら、彼は普通ではいられないだろうね。
だって、夜人が生まれた時、一番喜んでたのは彼だった。病院中に響くような声で、涙まじりに叫びながら喜んでたよね。
ま、そんなの、私からみたら滑稽な劇くらいの価値しかないけど。
「おい、着いたぞ」
歩さんの声が聞こえた。
かなり、早く着いたみたい。
私は、なにも疑わずに車から出た。それが、間違いだって気づいたのは、車から降りたあと。私は、外の光景をみて固まった。 この状況を一言で表すなら、〈時すでに遅し〉って感じかなぁ。
「梅子さん、お疲れ様です」
聞き慣れた声がする。敬語で、優しい声。
私が、今日、“一番”会うはずがないと考えていた人物が、今、私の目の前にいた。
「……なんで、いるのかしら?」
——そう。彼は、時雨さんだった。
「おやおや。 俺がここに存在することに、意味が必要ですか?」
彼は、質問に質問で返しながら、面白そうにカッカッと笑った。
「……そういうことじゃないわ」
適当に彼の冗談に返事を返しながら、私は、後ろをゆっくり振り返った。そこに最愛の人物がいないことを願って。
でも、……居た。そこには、歩さんがちゃんと存在していた。
現実って酷いよね。私のことも、逃してクレナイ。
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.88 )
- 日時: 2013/11/21 21:41
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: kXLxxwrM)
「どうしたんですか、梅子さんらしくない。 いつもなら笑っているのに。 もしかして、なにか"やっちゃった"とか?」
時雨さんの言葉が、私に刺さる。また、脳裏に雪が浮かぶ。私は、それを慌てて振り払う。
そして、時雨の方を振り返った。
「そ、そんなわけないじゃないっ」
その時、私は完全に動揺していた。感心しちゃうくらいに、完全動揺。笑っちゃうよね、私は動揺するなんて。
「はは、面白いです。 能無し豚は爪を出す、って言いますけど、貴方の今の状態はまさにそれ。 そうですね、貴方がなにをしたのか、俺が当てて見ましょうか。 雪さんを——」
「雪を殺した」
時雨さんの声を遮った。
誰かの声が。
これって、私の声?違うよね。ってことはさ……、
「歩さん……!?」
——私と時雨さんの声じゃないなら、残りはあと一人しかいなかった。
私は、もう動揺した状態から戻れないかもしれない。
[歩さん、なんで知ってるの?]
その思いが、私の心を支配した。
ぶわぁぁっ、と頭からいろんな考えが抜けていく。考えが抜けた頭は、文字通り「真っ白」になった。
「そうそう。 歩さん、見事ですね、正解です」
時雨さんは、楽しそうに笑いながら、拍手をした。拍手の音が、響き渡る。
ここは、私の家の前だった。確かに、私の家の前。だけど、違う。時雨さんがいるから。
時雨さんがいる所は、すでに普通の場所ではない。そこは、「最狂」だ。少なくとも、私は、そう思ってる。
そして、それは私の家の前も例外じゃなかった。彼がいたせいで、家の前は冷たい雰囲気が漂っている。
今すぐにでも、逃げたい。
この冷たい空間から逃げたい。
能無し豚でも、能無い鷹でもなにになってもいいから、逃げたい。
「ってことはですね、梅子さん。 貴方、契約を破ったことになるんですよ」
コツ……、コツ。時雨さんの足音が響く。彼が、こちらに歩いてくる。
私も、それに合わせて後ずさり。
「約束なんてものより、契約は重いんですよ」
そして、次の瞬間。 私のほおを激痛が襲った。
もう、痛いなんて感覚じゃない。痛感が壊れてる、そう思っちゃうくらい。脳が、痛がるのを拒否してる。
私は、こんな暴力を受けたことが今まで一度もなかった。
口から、じんわりと生暖かい感触が広がる。……血だ。真紅にちょっと黒が混じってるような、綺麗な赤。
血が口の端を伝う。
やだよね、こんなの。 もう、大怪我だよ。あーあ、メイクとか全壊だよね。
いつもならそんなことを考えてるだろうけど、今の私は、そんな精神状態じゃない。もう、精神なんてボロっボロ。木っ端微塵になってる。
「あ、少し手加減できてませんでしたか? そういえば、前にもこんなこと、ありましたねぇ」
時雨さんの顔が、間近に見えた。
怖い!
やめてよ!
助けてよ、歩さん!
「彼女は、丸菜学園の制服を着てましたっけ? 黒い長い髪で、静かそうな子でしたよ。 最後、俺のナイフを取ろうとした時には流石に驚きましたねぇ」
そして、彼は私を蹴った。鳩尾に、彼の足が直撃して、もう痛みで立てない。座ったまま、私は、涙目で時雨さんを見ていた。
涙が、止まらない。
痛くて、辛くて。
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.89 )
- 日時: 2013/11/22 21:21
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: Uj9lR0Ik)
「でも、梅子さん。 貴方は、彼女よりもランクが低いですよ。 比べものにならないくらいに、です」
時雨さんは、にこにこと微笑みながらそう私に話した。
『私の方がランクが低い』——その言葉が私の心に突き刺さる。ぐさっと、直接。
「……ぉぁ、ぅ"ぐっ」
喋ろうと思ったら、——口答えしようと思ったら——、また蹴られる。
もう体は打撲傷だらけ。なによ、これ。なんでこんな目に合わなきゃいけないの?私、そんなことをされる理由なんて、あるの?
「ははは、貴方はとても可哀想です。 でも、雪さんの方が、もっと可哀想なんですよ。 私が、貴方に教えて差し上げましょうか?」
時雨さんの笑顔が艶やかに光る。
彼は、私に質問したけど、私に回答権なんてない。
私は、殺されるんだ。
雪を殺したから、私は仕返しされるんだ。
「自業自得」。
正に、それだよね。自業自得じゃん。
なんで私、そんなことが分からなかったのかな。
そんなことを考えている間に、時雨さんの指が私の首を絡みつく。そして、時雨さんの手の血管が浮かび上がった。
「ぅ"……ぐぁ」
私の口から、女とは思えない汚い声が出た。
苦しい、息ができない。嫌だ、助けてよっ!
抵抗しようとしても、体に力が入らない。
私は、目をつぶった。
——現実から逃げる為に。
ある日、私は歩さんに呼ばれた。私の家の近くの、御花畑に。
そこには、歩さんが居た。にっこりと優しく微笑んで、彼は、私の前に立っていた。
私は、彼に抱きついた。彼は、それを迎えてくれる。そして、私に言う。
「梅子、好きだよ。 結婚してください」
彼は、今まで私が見たことの無い赤い顔をして、結婚指輪の入った箱を私に差し出した。
かぁぁぁ。私の顔が、真っ赤になっていくのがわかる。きっと、耳まで真っ赤っかだよね。
恥ずかしいけど、すごく嬉しかった。
「……うん。 ありがとう」
私は、満面の笑みでそう言った。
あたり一面の綺麗な花と、幸せに、私達は包まれる。花は、桃色や紫色、紅色のコスモスだったから、あれは秋のことだった。
でも、今。その幸せは崩れ落ちていく。
コスモスは、萎れて、もう花の形ではなくなっていた。
今の私を例えるならば、その枯れたコスモスかな。
あの時の歩さん、とっても笑顔で優しくて。私の自慢の夫だった。女として、歩さんが純粋に好きだった。
だけど、それは崩れる。私の抱いていた幸せな幻想は剥がれ落ちて、心の中には、むき出しになった“現実”だけが残った。
違う。
私は、そんなものが欲しいんじゃない。
私は、幸せが欲しかったの。
歩さんと結婚して、夜人と雪……二人の子宝に恵まれて、あの時はとっても幸せだった。
幸せを求めて、幸せに貪欲になってた私。
今、私の本当の姿を、“ワタシ”は知った。
私は、歩さんが好きなんじゃなくて、夜人が好きなんじゃなくて、雪が好きなんじゃなくて、私が好きだったのは——。
そして、その瞬間、私の思考回路は停止した。体に力が入らない。呼吸ができない、しゃべることもできない。
意識が朦朧とする。
「さようなら」
さようなら。
私の人生は、そこで終わったみたい。
私が好きだったのは——一体、なんだろう。
もう、今はわからない。
でも、あの時の“ワタシ”は、純粋だった。……ような気もする。
【第十六話 END】
- Re: 必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話 ( No.90 )
- 日時: 2013/11/23 12:37
- 名前: 凰 ◆ExGQrDul2E (ID: SrUKMM4y)
【第十七話】 <上っ面の契約を>(時雨 視点)
——ああ、俺は何をやっているんだろう。
なんで、梅子さんを殺してしまったんだろう。
こんなことをしても、なにも特にならないことはもう知っているのに。こんなことをしても、光が戻ってこないことは知っているのに。
——光、光、光! なんで、梅子さんに殺されたんだよ!
あの時みたいに、暴れろよ! 「葵、葵!」って叫んだ時みたいにあばれろよ!どうして、死んだんだよ……。——
そんなことばかり考えていた俺は、もう罪の意識なんてなくて。【目の前の女を殺そう】と、ただそれだけを考えてた。
目の前の女は、俺の息子を殺した。
いや、今は俺の息子じゃない。女の娘だ。しかし、彼女はかつての俺の息子なのだ。複雑で良くわからないって? お前も、100年も200年も生きてみろ。そしてら、それが分かるさ。
雪は、光。光は、雪。そんな事実があって、俺と梅子は、それに忠実に生きてきた。
——『光の生まれ変わりである雪を、悲しませたり、殺したりしてはいけない』
これが、俺と梅子の契約。だが、梅子はそれを破った。
悲しませたのなら、俺が厳重に注意して、終わっていただろう。
だが、彼女は罪を犯した。
雪を、俺の大切な“光”を、殺したのだ。
しかも、雪の感情を涙で誘導して、毒を塗った針で殺したのだ。あの綺麗な柔肌に、針を刺したのだ。
あの綺麗な肌だから、刺した時の感触は、さぞ気持ち良かっただろうね。
でも、俺はすっごく気持ちが悪いよ。そんなこと、考えたこともない。
雪を殺した人間なんて、死ねばいい。
——あぁ、俺は何をやっているのだろう。
彼女を殺して、俺は徐々に冷静になっていく。
そして、俺は驚いた。
今更だけど、「梅子さんは殺されてしまった」のだ。
だが、それはあり得ないはずなのだ。
だって、あのゲームが有る限り、俺と彼女は不老不死なのだから。しかし、事実、彼女は死んでいる。
あの強さで首を絞めて、"普通なら"生きているはずはないから、演技で死んだふりをしている、なんてことはないだろう。
じゃあなんで、彼女は死んだ?
サァ。頭から血の気が引いていく。嫌な予感がした。
「さ、時雨。 楽しかったかい? 最愛の人を憎しんで殺す悲劇は」
笑いの含んだ声で、“傍観者”の彼は聞いた。
「はい、とても面白いですね」
俺も、笑う。
彼は、いつも“傍観者”だった。
誰の味方でもなくて、誰の敵でもない。
ただ、他人の悲劇を見て、笑うだけ。
それが、彼だった。
でも、誰一人彼の存在を否定しなかった。まぁ、肯定もしなかったけど。
彼の黒髪はとても綺麗。医者だけが着ることを許されるその白衣も、とても似合っていた。すらりとした体型に、申し分ない整った顔立ち。
彼は、俗にいう「イケメン」だった。
彼に好きなやつはいない。ただ、興味を持ったやつにだけは過剰な愛情を注ぐ。
彼は、矛盾している。だけど、“傍観者”だから、許される。
好きじゃないけど、興味を持ったから愛情を注ぐ。
ただ、それだけ。
彼は、興味を持ったものに愛情を注ぐ為だけに生まれた。
きっと、そういっても過言はないだろう。
「へぇ、良かったね。 面白いのはとても良いこと。 そんなこと、僕はどうでもいいけどね」
彼は、本当にどうでもよさそうだ。俺のしゃべりながらも、自分の前髪をいじっていた。
そして、無表情で、下の方を見ている。
彼に見下ろされているのは、彼が興味を示していた“梅子さん”だった。
彼と、梅子さんはとても仲が良かった。
結婚するって決まった時は、俺は心から祝福した。……多分。
「そうですか。 ちなみに、なんで彼女は死んだのかわかりますか?」
俺は、首を傾げて聞いた。
「そりゃ、首を絞めたから、じゃないかい?」
彼は、笑いながら俺に視線を向けた。
狂った俺でもゾッとする、その笑顔を、彼は俺に向けた。
「そ、そうですか」
「当たり前だし。 それくらい、俺にでも分かるよ」
笑いながら、彼は踵を返した。
「あのさー、僕をバカにするのも大概にした方がいいよ」
そして、彼は手を振りながら、車に乗ってどこかに行ってしまった。颯爽と。
バカにする?
バカにしているのは、おまえじゃないか。俺をバカにして、騙して。
昔からそうだろう、お前は。
あぁ、もう、嫌になる。
なんで俺がこんなことをしなきゃならないんだ。
もう、疲れたよ。動く気力もない。
「はぁぁ」
大きくため息をつく。
梅子さんは、そこに横たわったまま。
これ、どうしたら良いんだろう。
死体の処理の仕方なんて知らない。
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