複雑・ファジー小説
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- ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
- 日時: 2015/02/18 00:42
- 名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)
魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。
一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。
しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。
そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる
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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。
更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。
・更新履歴
11/3 3部21話追加
11/7 3部22話追加
11/14 3部23話追加
11/22 3部24話追加
12/3 3部25話追加
12/10 3部26話追加
12/17 3部27話追加
12/20 3部28話追加
12/26 3部29話追加
12/30 3部30話追加
12/31 人物詳細2追加
1/4 3部31話追加
1/7 3部32話追加
1/10 3部33話追加
1/14 3部34話追加
1/18 3部35話追加
1/23 3部36話追加
1/25 人物詳細3追加
1/31 3部37話追加
2/4 3部38話追加
2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止
・本編
第1部
人物紹介
キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5
第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14
第2部
人物紹介
リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16
第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34
第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
人物データ1>>36
人物データ2>>46
第0話>>37
第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78
人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76
・筆休め・気分転換
番外編
白騎士編
>>79 >>80
2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35
軌跡
7/18 参照400突破
10/14 参照600突破
12/7 参照700突破
1/28 参照800突破
- Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(6/23 本編追加) ( No.31 )
- 日時: 2014/06/28 14:06
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第15話
「記憶の練成?」
リーネは唐突に告げられた言葉にきょとんとしてフランに視線を向けた。
「ああ…君のお父さんはそういった練成をした記録も残っている」
フランは地下室の資料の中から見つけた一冊の本をテーブルの上に広げていた。
すでに街から記憶を失われて3日経過しており、4人はリーネの家でひとまず生活しながら街の人間の記憶を戻すために動いていた。そんな中で見つかったのがこの本だった。
バードは真っ先に目に着いた聞きなれない素材に首を傾げた。
「この記憶の欠片っていうのは何だよ?こんなもの見たことも聞いたこともないぞ?」
「これについては僕がフィオナさんに聞いてきました。記憶がなくなっても…あの講義は長かったです…」
普段以上に静かなシンに一同が状況を察して、同情の眼差しを向けそんな中でキルだけがぐっすりと眠り始めた。
「それで…その…何か分かったか?」
「記憶の欠片は以前フランさんがお話した禁呪を使用した場合に手に入る鉱石です。その鉱石に記憶が詰まっていて、もしその術の解除を行う方法があるとしたら少なくても必要なものであることは間違えないそうです。」
フランからの問いかけにシンは恐らく聞いてきたと思われる話を簡潔に説明していき、リーネは残された素材に視線を向けた。
「他の素材は…フェンリルの爪、竜の牙…あっ…」
「なんか変な素材でもあったのか?」
リーネの言葉が途切れたことにバードは言い淀んだと思われる素材に視線を向けた。
「魔石?これって…リーネの杖にあるあの石か?」
「そうなる。しかしお前達も探したなら分かるだろ?魔石は恐らく何者かに掘り出されている」
「じゃあリーネの杖の魔石は本当に偶然見つかったもの?」
街の人間の記憶を取り戻すために素材自体が必要なことが分かったが、最後には自分の杖がなくなることが分かったリーネにはショックな話だった。
この杖がただの杖でなく親からの形見であり、仲間たちと協力して作り出した杖だったことがリーネを迷わせた。
「だから…お前は諦めるのか…?」
不意に聞こえた声に一同は驚いて部屋の入口に視線を向けた。
そこにいたのは行方不明だったサクヤをおぶったかつていなくなった青年の姿だった。
「お前は誰だ?」
「サクヤさんをさらった人ですか?」
「待て…ここでは暴れない方がいい…」
見慣れない青年に身構えるシンとバードをフランは制止させ、青年は部屋に設置されたソファーにサクヤを下ろした。
「キ…ル…?キルなの!?」
「今はKだ…」
リーネの声に一同は驚いたように視線を青年に向けた。
噂でしか聞いていなかったこともあり一同があまりに突然のことで動けずにいる中、テーブルの上に小さな鉱石と背負っていた荷物から人間の手と殆ど変らない牙を置いた。
「竜の牙と記憶の欠片だ…俺の知っている限りで素材も集めて来た」
「いいのか?この街の記憶を消したのは君の関係する組織なんだろ?」
「だとしたら何だ?」
フランの言葉に青年は表情を変えることなく答え、すぐにシンとバードは身構えた。
「どうしてこの街の人の記憶を消したんだ?」
「俺が一時的にこの街にいたからだろ。だから消されたんだろ。しかしよく俺のことが分かったな?」
「僕の元々暮らしていた街は消されているんだ…銀髪の悪魔と呼ばれている奴に…。そしてようやく分かったのが、そいつがいるのはある組織で君のようにアルファベットがコードネームになっていることだ」
「よく調べているな。その話は後でしてやるよ。今は記憶だろ?」
フランからン言葉にはリーネでさえも知らない話であった。
青年は視線をリーネに向けてから歩み寄り見下ろした。
その瞳は何かを見透かすようにさえ感じられた。
「お前はどうしたいんだ?この街がこのままでいいのか?」
「わ…私は…」
「俺が知る限りだと記憶の復活は一週間までだ。早く決めておけよ?期限までは俺もこの街にいるからな」
リーネの返事を待つことなく青年は用事が済んだ様子で部屋を出て行った。
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キルのおかげで素材が集める事が出来た私は街の広場で一人夜空を眺めていた。みんなは疲れて眠ってしまい私は今日あったことがずっと頭の中でぐるぐると回り続けて眠れず一人で噴水広場に一人来ていた。
あの後、お師匠様…フランは過去の自分にあった出来事を話してくれた。
元々フランは以前、遺跡として発見したフルスシュタット同様に錬金術師によって栄えていた街の出身だった。
街の名前はエールデブルグ。3人の錬金術師の一人アーク・ティエリアが統治した街で現代までに残っていた唯一の古代都市。
たくさんの錬金術師達がいて現在まで発展を続けていた街だったけど数年前に突然現れた銀髪の男によって一夜にして壊滅させられてしまった。その中の唯一の生き残りがフランだった。
そしてその銀髪の男はキルがいたという組織の人間。
「うう…いろいろ起こり過ぎて訳が分からなくなってきた!」
ぐるぐると頭の中で繰り返される出来事に私は声を出すことですっきりさせようとした。
「相変わらず変な奴だな…」
「キル?」
ベンチの隣に生えた木の上から聞こえたのはキルの声で、視線を上に向けると木の枝に座って木に寄りかかった姿が確認できた。
「どうしてこんなところにいるの?」
「残念ながら無一文でな。サクヤや素材の回収で手がいっぱいだったんだよ」
「…ねえキル…どうして…どうして帰って来たの?今まで暮らしていた場所を抜けだして…どうして?」
「さあな…」
「えっ?」
キルは私には視線を向けずそっけなく答えた。なんだかバカにされている気分でむくれてベンチに座った。
こんなに腹正しいのは、もしかしたら私だから話してくれないみたいで納得がいかなかったのが一番の理由かもしれない
「分からないんだよ…」
「えっ?」
「今までは組織でやっていたことが正しいと思った…これが当たり前の日常だと思っていた…。だがそれが違っていたことをお前らが教えてくれた」
「私達が?」
「お前達との日常は楽しかった…。一時的でも人らしい生活が出来た」
キルの表情は柔らかくかつて一緒に暮らしていた時のようだった。
「じゃあ…何で急にいなくなったの?」
「俺がここに残れば組織の奴らが必ずこの街を狙う。そうなればお前の仲間の街のようになるのは明らかだ」
キルの話を聞いてようやく分かったことがあった。キルはこの街を守るために自分から別れを告げたのだと。
「だが今回この街の対して大規模な記憶の消去が行われた」
「何で…今になって記憶の消去を行ったの?」
「それは分からないが恐らく俺がここにいたことが分かったからというのが有力だな」
ここまでのキルの話を聞く限りだとこの組織は凄く危険なことが分かった。
街を一人で破壊できるような人間が何人もいて都合が悪かったりすると記憶の消去が行われる。
こういった話がよく分からない私でも余程の規模がある組織であることが分かった。
「そ…そんな場所に逆らって…キルは大丈夫なの?」
「無理だろうな。遠くないうちに俺を殺すために刺客は送られるだろうな。だが後悔はしてないぞ?」
「どうして?」
「ここが好きだからな…。俺を変えてくれた場所、そしてそんな奴らがいる街だから…他に理由がいるか?」
キルの言葉は素直にうれしかった。キルがいなくなったのが私達や街のことを考えてのことであること、そして今度は自分の命を掛けて街を救うために動いてくれたこと。
そしてキルの話は私に一つの決意をさせてくれた。
「私…決めたよ?みんなの記憶を元に戻したい」
「そうか…」
キルがここまでしてくれたのに私が答えないわけにはいかない。
そして私が目指す錬金術師になるためにもこれくらいはやり遂げられないといけない。
「ねえキル…お願いがあるの…」
「何だ?」
「私ね…もうひとつ決めたことがあるの。これは私の完全なわがままだから嫌なら断っていいから」
「ずいぶん勿体ぶるな…一体何の話だ?」
「私がお願いしたいのは2つ。ちゃんと聞いてほしいの」
私はキルに視線を向けてから今心に決めたことをキルに伝えた。
さすがに驚いた様子だったけど了承してくれた。
多分、私がキルに話したのは僅かに迷いがあったからだと思う。
だけどキルは後押しをしてくれた。それが私にとって本当にうれしかった。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.32 )
- 日時: 2014/07/02 16:35
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第16話
朝日が街を照らしている中、リーネは記憶の練成を行うために家の庭に素材を並べ始めていき、シンは素材となるフェンリルの爪としてキルの爪の一部を斬り取り竜の牙、フェンリルの杖、記憶の欠片を並べた。
「これで素材は全部のようだな」
「だが俺にはこれが何で街の記憶になるのか分からないんだが…」
フランは集まった素材を確認していき、バードはここから皆の記憶が元に戻ることに疑問を感じていた。
「確かに記憶の概念はしっかりと定義はされていませんね…」
「正確にはこの記憶の欠片を加工する。そうすることでこの記憶の欠片にある記憶が元に戻るんだ」
「つまりその加工に必要なものが爪と牙に魔石ってわけか」
フランの説明を聞いていきバードとシンは肝心な術者であるリーネに視線を向けた。
リーネは普段と変わらない様子で資料に書いてある手順の確認を行っていた。
3人にとってはそれが逆に不思議でならなかった。昨日までの時点では杖を失うことや街の運命を任せられたことで不安そうにしていたがそんな様子が今日になって消えていた。
「これで大丈夫かな…」
「もういいのか?この術は僕ではできない…それほど大きい術だぞ?」
「大丈夫!それにお父さんやお母さんも付いているから」
リーネはフランに笑顔を向け杖と本を見せた。
リーネに取っては一人で行う術じゃなかった。
父と母と一緒に行う大きな錬金術。
そもそも彼女にとってはここまでの術はすべて父や母と共に行っていたものだった。
父から与えられた術の基礎
母から与えられた杖
「いいのか?魔石がなくなると杖は恐らく術に耐えきれなくて砕けるぞ?」
「いいの…これは私が…お父さんやお母さんの手から離れるための…そのための錬金術だから…」
フランからの言葉にリーネは全く迷っている様子もなく杖を構えた。
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「じゃあ…始めるよ?」
私の声に皆は無言で頷いた。もしかしたらキルもどこかで見ているのかな…
杖をゆっくりと地面に置いてある素材に触れさせてから私はお父さんの資料にあった内容を思い出していた。
記憶の欠片の加工にはその中にある記憶の理解が必要だと書いてあった。
だからお父さんは他の街の記憶を戻す時は何カ月もかけて街のことを調べ上げ続けた上で記憶の練成を行うと書いてあった。
私自身街のすべてを理解していると思いあがったことは考えていない…。だけど…ずっと過ごしてきた街だから、少なくても今この世にいるどの錬金術師よりも知っているから…。
「だから!皆の記憶を元に戻して!」
杖を地面に突き刺すと同時に、杖にはまった魔石は大きく光を放ち光に包まれた素材は一つになりそのまま辺りは光りに包まれた。
光が徐々に収まっていくと徐々に視界がはっきりしてきた。辺りは普段と変わらない様子で何がどう変わったのか分からなかった。
「こ…これは…成功しましたか?」
「このままだと分からねえ…」
バードさんとシンちゃんの声が聞こえ、私は急に訪れた脱力感にその場に座り込んでしまった。
不意に辺りから音が消えた。
辺りはゆっくりと時間が経過していた気がした。
杖は私が初めて見つけたように黒くなっている。
そのまま杖は少しずつひびが入り始めた。まるで別れを惜しんでしまっているかのように…
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リーネの杖はリーネが座りこんだとほぼ同時に砕けてパラパラと砂に変わってしまった。
リーネは俯いたまま砕け散った杖を見つめていた。
「リーネ…大丈夫ですか?」
「うん…」
「シン…バード…街の様子を確認してきてもらっていいか?」
フランの言葉にシンとバードは無言で頷き、キルも二人を追うようにその場を離れて行った。
「頑張ったな…」
フランの一言にリーネは全く反応を見せなかった。
母の形見を犠牲にして街の記憶を取り戻したリーネの気持ちはフランには想像できなかった。
「…が…だから…かな」
「ん?」
「私が…未熟だから…どちらかしか守れなかったのかな…」
「分からない…」
俯いたままのリーネにフランは一言だけ言葉を残した。
今のリーネを慰めるための言葉が思いつかなかったからだった。
「僕も君の師にはなったが未熟だ…。だがそもそも錬金術は対価と引き換えにそれに見合ったものを手に入れる術だ…。何もしないで対価を得ることはできないものだ」
「対価…じゃあ…これが対価…?」
「ああ…そして君だから街の記憶を取り戻せたんだろ?」
フランの言葉にリーネは涙を流したまま顔を上げた。
「あら?リーネ!あんた!御飯に来ないで何していたの!?お姉ちゃんもいないし」
「カグヤちゃん…?」
隣の家から聞こえた声に二人は視線を向けると玄関から呼びかけているカグヤだった。
「何しているの?朝からずいぶん賑やかみたいね」
「か…カグヤちゃん!」
カグヤの姿を確認するとリーネはすぐに立ち上がって掛けより、人目も気にせずにカグヤに抱きついて泣き始めた。
「ちょっ…ちょっとリーネ!?な…何なのいったい!?」
突然のリーネの行動にカグヤは慌てた様子で手をバタつかせその様子にフランは笑みを浮かべて見守っていた。
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「どうやら街は元に戻ったみたいだな…」
リーネの家の屋根の上で周りに見えないようにして腰を下ろしリーネの行う錬金術の様子を見ていた。
青年には魔法の素養もなければリーネのような何かしらの術の才能がある訳でもなかった。
それだけに彼にとってリーネの発動させた術には驚いた。
最初に見た術はウルフを助けるために使ったもの。あの時点でリーネの才能には驚いていたもののここまでの成長を見せるとは考えていなかった。
「キル?」
青年の足元で聞こえた声に視線を下に向けると二階の窓が開いており、そこには目を覚ましたサクヤの姿があった。
「サクヤか…目を覚ましたのか?」
「キル?ここにいたのね?」
青年に気付いたサクヤは窓から屋根の上に上がっていき青年の隣に座った。
「なんか用か…?」
隣に座るサクヤに青年は視線を合わせることなく小さく声を発した。
青年にとっては正直気まずい状況だった。
勝手に街を離れたこともあったものの自分の組織がサクヤをさらい、さらに街の人間の記憶を奪ったということが気まずさを一層高めた。
「キルはまたいなくなるの?」
「この街にいれば危険なのは明らかだからな…」
「でも…私は…ううん…皆は貴方にここにいてもらいたいと思っているわよ?」
「俺がどうするかどうかはあいつ次第だ…」
サクヤの言葉に対する答えは下にいるリーネを見てのものだった。
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街の様子を確認してきたバードとシン、キルはカグヤの家に戻ってくると事の経緯を簡潔にカグヤに説明した。
「なんか信じられない話ね…というかキルの奴はどこよ!」
「ここだ…」
「勝手に一人で何しているのよ!」
青年はサクヤと共にリーネの家から出てきて、同時にカグヤは永年に向かって飛び込み拳を振るった。
しかしその拳は青年の顔に当たる前にキルの腕により受け止められた。
「ずいぶん強くなったみたいだな」
「あんたを殴るために鍛えたのよ…」
「もう…カグヤちゃんはキルに会えてうれしいんだよね?」
「ちょっ!やめてお姉ちゃん!」
自分の渾身の一撃を何事もなかったように止めた青年にカグヤはおもしろくなさそうにして言葉を投げた。
その様子を見て笑うサクヤに対しカグヤは慌てて制止させた
「ねえ…皆…聞いてほしいことがあるの…」
突然のリーネの言葉に対しこのようなことがあったばかりとあり全員がリーネに視線を向けた。
「私…この街を出て…旅に出ようと思うの…」
リーネから告げられたあまりに唐突で突然のリーネの申し出に全員が驚いた。
ただその中で青年だけは驚く様子も見せず、密かに笑みを浮かべていた。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.33 )
- 日時: 2014/07/08 10:59
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第17話
「旅!?あんたが?一人で!?」
「一人じゃないよ。このキルと一緒だよ」
リーネはウルフの頭を撫でて答えた。すでにリーネは決めていたことのようだった。
「本気なのか?」
「うん…ずっと考えていたけど…昨日…決めたの」
フランも予想していなかったことだったことから表情には驚きの表情が見えた。
バードも同じような表情を浮かべている中、シンにおいては特に表情を変えることなくリーネに歩み寄った。
「何で急に旅に出ることにしたんですか?」
「錬金術の修行だよ。世界には私の知らないことがたくさんあることが分かったから…私はそれを知りたいの」
リーネの言葉に対してシンは表情を緩めて納得したのかそれ以上何かを言うことはなかった。
「私は反対よ!あんたが旅なんて無理に決まっているでしょ!」
リーネの言葉にただ一人反対したのはカグヤだった。
幼いころからリーネを見て来たカグヤに取って一人での旅立ちというのがどうしても納得できなかった。
「そんなことないよ!私はもう錬金術師だよ!」
「何が錬金術師よ!大体あんたは今杖だってないじゃない!」
咄嗟に出てしまった言葉だった。言ってはいけなかった言葉であることも分かっていた。
それでも今のカグヤにはそのことを考える余裕がなかった。
カグヤの言葉に耐えられなくなったリーネは涙を瞳いっぱいに溜めこんでその場を走って行き、カグヤもまた反対方向に走り去ってしまった。
「おいリーネ!カグヤ!…どうするんだよ…」
「一応追った方がいいでしょう…。僕はカグヤを追います」
「なら俺も…」
「いえ…僕だけでいいです…」
バードの申し出をすぐに断ったシンはそのまま一人でカグヤを追い掛けてその場を離れた。
「リーネは僕が追う」
フランもまた一言だけを残してそのままリーネの走って行った方向に視線を向けて走って行った。
「余った俺達はどうするんだ?」
「俺が昨日リーネに聞いた話をする…」
「キル?貴方は何か聞いていたの?」
「俺は昨日話を聞いていたからな」
青年の言葉にサクヤとバードは視線を向けた。
リーネの旅立ちの宣言に対して青年が驚いていなかったのは予め話を聞いていたからだった。
「ひとまずここで話すより中に入りましょう?」
「そうだな。こいつも腹減ったみたいだしな」
サクヤの言葉にキルとバードはサクヤの家に向かい青年もサクヤと共に家に戻って行った。
-------------------------------------------------------------
いつの間にか私は街の外にまで来ていた。
昔よく皆と遊びに来た草原で大きな木の木陰に腰を下ろして大木に寄り掛った。
リーネの奴があんなことを言い出すなんて想像できなかった。
少し前までは仕事だってまともにできなかったし一人では何もできなかったあのリーネが…
「無理に決まっているじゃない…」
「そんなことありませんよ」
不意に私の耳に届いたのはシンの声だった。
シンは相変わらず無表情で正直何を考えているか分からない。
「シン?何の用よ…」
「迎えに来ました」
「必要ないわよ。一人でいたいのよ」
正直今は家に帰りたくなかった。帰るとリーネの旅立ちを認めてしまうような気がしたから…。
「貴女は逃げるんですね?リーネは逃げませんでしたよ?」
「っ!?私は別に…」
「リーネはもう一人前ですよ…。もう僕やバードさんがいなくても平気です」
シンの言葉に私は素直に驚いた。
こいつがリーネを認めているということはもちろん、明らかに危険な旅に賛成しているということが意外だった。
「意外ね…あんたがリーネを認めていると思わなかったわ」
「そういう貴女は認めていないんですね…いや…認めたくないんですか?」
「どういう意味よ…」
シンの言う意味が理解できなかった。
認めたくない?ただ私はあいつが一人で旅に出るということが無理だと言いたいだけで…
「貴女はリーネを理解していないんですね…意外でした…」
「なっ!」
殆ど無意識にシンの胸座を掴んだ。
リーネとは何年も一緒だった…それだけにこいつに言われた言葉が許せなかった
理解していない?私が?
多分今私は凄い顔でこいつを睨んでいるんだろう…それなのにこいつはまったく表情は変わることはなくそれどころか視線は私にジッと向けたままだった。
「私がリーネを理解してないってどういうことよ!」
「言葉のままです…。貴女が見ているのは過去のリーネです…。今のリーネは僕達と殆ど変りません」
「…先に帰っていて…後から戻るわ…」
シンを離してから私はその場に座り込んだ。
シンも分かった言いたいことを言ったからか一度私を見てから立ち去って行った。
「過去のか…成長していないのは私ってことか…遠まわしに言ってくれるわね…」
-----------------------------------
「リーネ…こんなところにいたのか?」
「おし…フラン…」
咄嗟に呼ばれて私は振り向いた。
無我夢中で走ってきたのは前に私が魔物と出くわし…そして初めてキルと出会った場所だった。
「ここは確か前に言っていた場所か?」
「うん…私が初めて錬金術を使った場所だよ。」
ここでキルと出会って、そして初めて錬金術を使った私にとってはすべてが始まった場所。
ここで錬金術を使ってからフランがお師匠様になって…役所の錬金術師になって…皆といろいろな場所を冒険して…そして…街の皆を今…助けて…。あれから私はどれくらい変われたのかな…。
「フランは…私が一人で旅立つの…心配?」
私の言葉にフランは言葉を言い淀んだ様子だった。
違うか…そんな気がしただけ…本当は涙で歪んでフランの顔がよく見えていなかった。
「そうだな…正直、今の君だけでは無理だろうな…」
「そう…なんだ…」
フランからの言葉は正直ショックだった。
やっと認めてもらえた。そう思っていたのに…
「僕のテストを乗り越えた君ならと思った…」
「えっ?」
「あの時の君なら旅に出てもいかなる困難も乗り越えられると思っていた」
「でもあれはお母さんの杖があったから…」
分かっていた。私はあの杖に頼っていた。カグヤちゃんの言うとおり杖がなかったら何もできない。
旅なんてやっぱり無理だよね。
「それは違うな…」
フランの声に私は思わず顔を上げた。
「君は僕との戦いのときにも杖を一度失っただろ?」
「あっ…」
「杖に頼り切って勝ったなら僕は卒業させたりしない…。あの杖は君を一人前にするための手助けをしただけだ」
フランの言葉で私はあの杖が手にできた理由が分かった気がした。
あれは未熟だった私を助けるためのお守り…。そしてその役目が終わったから私の手からなくなったんだ…。
「リーネ…右手を出してくれ…」
「手を?こう?」
フランの突然の申し出に私はおもむろに手を差し出すとそのまま片手で私の手を掴んだ。
反対の手にはいつもフランが付けていた緑色の宝石が施されていた指輪で私の人差し指にあるアクアマリンの指輪の隣に嵌めた。
「これは…?」
「僕の街に祭られていたものだ。君のアクアマリン同様に大地の錬金術師と言われた者が残したものだ」
「でも…これは…」
「僕はこの指輪を与えるべき人間を探していた。そしてそれが君だと思っている」
フランの言葉が私には素直に嬉しかった。そして涙が自分で止めることが出来なかった。
「フラン…」
「杖はないかもしれない…なら今度は自分で作り出してみろ」
気が付いた時、私はフランの胸に顔を埋めていた。フランは黙ってそっと抱きしめてくれてそのまま私は泣きじゃくった。
今感じている悲しみと喜びが入り混じる涙を全部流し切るために…。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.34 )
- 日時: 2014/07/11 23:11
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
第18話
6畳程の広さの部屋の中にベッド、テーブルに食器棚、流し、浴室と生活に必要なものがそろった部屋の中にバードはいた。青年から前日にリーネが旅に出ると聞いたことをサクヤと一緒に聞いた後、一人自室にしている部屋のベッドに横になっていた。
リーネの旅立ちをバード自身は反対しなかった。
リーネ自身が決めてやり遂げようとしていることだというなら、自分は後押しするのが役目だと思っている
「とはいえ…心配するなという方が無理だな…」
全く心配ないと言えば嘘になる。しかしそれでもバードはリーネを応援してあげるつもりだ。
そんな彼にとっては解決する必要がある問題があった。
それはカグヤ同様にリーネを過剰に心配している人物がもう一人いるということ。
頭の中でゴチャゴチャと今後のことを思考している中、それを中断させるようにドアのノックオンが部屋の中に響いた。
(過保護な奴の二人目が来たな…)
横になったまま大凡に予測していた相手の姿を確認するためにバードは扉を開けた。
扉の前にいたのはシンだった。彼女の部屋はちょうどその隣でこの部屋を訪れるのは珍しいことではなかった。
「シン?戻ってきたか…カグヤはどうだった?」
「問題はないと思います。多分明日までには戻ってくるでしょう」
「そうか…」
バードの悩みの種は表では賛成しているが、本音では恐らくカグヤに負けずリーネの旅立ちを反対しているとみてよかった。
「カグヤにはあのように言いましたが…」
「心配か?」
「分かりません…リーネは強くなりました…でもいなくなると…辛いです…」
シンの心からの言葉を聞いた気がしたバードの表情は緩み、部屋の中に戻ると棚からやかんを手に取りお湯を沸かし始めた。
「仕方ない。お兄さんが話くらい聞いてやるよ」
「…お兄さんって柄ですか…」
「おいおい…お前らからしたらお兄さんじゃないかもしれないがそんな年寄りなつもりはないぞ?」
「そうですね…ではお兄さんに愚痴るとしましょう…」
シンの愚痴はいつも数時間掛ることをバードは知っていた。そのことから必然的にバードは徹夜を覚悟することになった。
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「キル?今夜は泊って行って?部屋とかないでしょ?」
リーネが旅に出たいと言い出した経緯について話し終わり帰って行ったバードを見送り、眠りこんだクロと何故か俺と同じ名前を付けられたウルフを見てからサクヤは唐突に言った。
「いや…それだとカグヤに怒られるから今日はその辺で寝させてもらう」
「でも…」
「心配するなよ…今回は約束をさせられたからな…」
「約束?」
先にリーネの旅立ちについては話をしたが一部、リーネとの約束については話していなかった。
「ああ…「私がいない間、皆が寂しくないようにここにいろ!」だってよ」
「リーネちゃんらしいわね。じゃあキルはこれからもここにもいるのね?」
「まあな。それにまたこの街が狙われるとまずいからな…」
リーネとの約束は2つあったが今は一つだけ話せば十分だと思った。
実際、サクヤの表情は再会してから一番の笑顔が浮かんでいた。
————2つ目の約束!サクヤお姉ちゃんを幸せにしてね?————
この約束はまだ伝えなくていいよな…。
一人でリーネの言葉を思い出しながら見送るサクヤに簡単に手を振ってからサクヤの家を後にした。
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「これで準備完了だね?」
準備と言っても何日か分の食料と着替えを鞄に詰めただけで他の必要なものは旅先で練成とかしていく。
こうすることで荷物を極力減らすことが出来た。
キルの分の食料は首に荷物として掛けてあげ家にしっかりと鍵を掛けてから一度自分の家を見上げた。
ここまであったいろいろなことを思い出しながら…
「この家ともしばらくお別れだね…」
キルの頭を一度撫でてからしっかり家に向かってしっかりと頭を下げた。
ここまでの18年の感謝を込めて…
街の出口まで歩いて行くとシンちゃん、サクヤお姉ちゃん、フランが待っていた。
「もう出発するの?」
「うん。決めた時に実行しないと決心が揺らいじゃうから」
別れを惜しんでいる様子のサクヤお姉ちゃんに笑顔で答えた。
私の顔を見て笑いかけたサクヤお姉ちゃんはそのまま私を抱きしめた。
「私達…待っているね?リーネちゃんが帰ってくるの…」
「うん…絶対帰ってくるからね?」
体を離したサクヤお姉ちゃんはキルに今度は別れを告げ始めていた。
それに入れ替わるようにシンちゃんは私に右手を差し出した。
「約束してください…必ず戻って来て…こうして…握手をしてください…」
「うん…私は大丈夫だよ?今より凄くなって帰ってくるからね?」
「それとバードさんからの伝言です。今より大人になって帰ってこいだそうです」
「バードさんらしいね」
「本当ですね?」
しっかりと手を握り握手をしてから笑いあった。
そういえばシンちゃんとここまで笑いあったのは初めてだったかもしれない。
「お師匠様!」
「なんだいきなり?もうその呼び方やめたんだろ?」
「だから今が本当に最後だよ!1年間ありがとうございました!」
私はこれまでのすべての感謝を込めて頭を下げた。その頭に手が乗せられた感覚を感じた。
「そう思うならしっかりと修行して帰って来るんだな」
「はい!」
皆に挨拶を済ませてから荷物を持つと一度辺りを見回した。
やっぱり…会えないかな-————
頭の中ではカグヤちゃんと喧嘩したままの状態だということだけがどうしても残ってしまっていた。
「じゃあ…皆!行ってきます!」
頭の中で一部だけ残ってしまった後悔に小さくため息をしてから振り払うように笑顔で手を振ってからキルと共に街の外に向かって走った。
僅かでもある躊躇を振り払うように…
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皆との別れを済ませたリーネは走ってきた道を振り返った。
街は小さくなり目を凝らさないと見えないほどになっていた。それでも今いる道は任務などでよく訪れていた道だった。
「こんなに走ったのに…まだここなんだ…世界は広いね?」
呼吸を乱したリーネに対して息をまったく乱していないキルに小さく笑いかけた。
ほぼ同時に聞き慣れたローラーの音が聞こえ振り向いた先にいたのは今一番会いたかった存在だった。
「カグヤちゃん?」
「私に挨拶なしで行くつもり?」
「だって…カグヤちゃん…見送りに来なかったから…」
「うっ…うるさいわね!じゃなくて…その…昨日は…ごめんなさい」
カグヤの謝罪の意味が一瞬理解できずリーネはきょとんとし、それを察してかため息を漏らしたカグヤはリーネの手を掴んで視線を合わせた。
「頑張りなさい…あんたならきっと最高の錬金術になれるわ」
「カグヤちゃん…」
「分かったら行きなさい!そして今より凄くなって帰ってきなさい!」
カグヤの言葉に満面の笑顔を向けたリーネにはもう迷いはなかった。
手を離すとリーネはすぐに走ってから一度振り向いた。
「じゃあいってきまーす!」
リーネは大きく手を何度も振ってからキルに跨りそのまま走り去って行った。
「行かせてよかったのか?」
道端の木の陰から顔を出した青年はカグヤに声を掛けた。
「あんた…いつからいたの?いいのよ…私がいくら反対しても行くでしょ?だったらせめて後押ししてあげたのよ」
「相変わらず素直じゃない奴だな」
青年は微笑を浮かべてからリーネに視線を向けるともう彼にしか恐らく確認できない位置にまで移動していた。そのリーネが視線を向けたことに気付いた。その口は何かを言うように動いていた
「あいつ…」
「どうしたのよ?」
「約束を忘れるなだそうだ。どうやら思った以上に安心していいようだな」
カグヤは青年の言葉の意味が分からず首を傾げた。
青年は錬金術師として世界に旅立ったリーネを見えなくなるまで見送った。
- ある暗殺者と錬金術師の物語(あとがきの様なもの) ( No.35 )
- 日時: 2014/07/11 17:06
- 名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)
ここまでお付き合いしていただきありがとうございます。第2部まで完結ということで少し作者の独り言を残そうと思います。果たしてこんなあとがきを見てくださる方がどれ程いるかは分かりませんが書いていこうと思います。
今回初めての執筆に挑戦しましたが後から誤字を見つけたり文章が変になったりとその辺りは成長がない作者ですね…。書き終えて時間が経ってからあの場面をああ書けばというのも多々ありまだまだ勉強不足だと痛感しました。3部ではそういったことがないよう努力しないといけませんね。
なんだか卑屈な話ですね…
3部についてですがここではいろいろと伏せていたことが判明してきます。
リーネの父親の死の真相
白騎士の正体
キルの組織にいる人物達について
ジン君のその後
と上げたら大変なことになりそうなのでここまでにしますが大変量が増えますので長編までは行かなくてもなかなかの量になると思います。…すでに伏せていてもバレバレな気はしますがそこは目を瞑ってください。
また3部はキャラの死も含んでいますのでご注意を。誰がどうなるかは当然秘密ですが…。
今後はこういった今まで書きたくて仕方なかった部分や外せない場面をじっくりと執筆していこうと思います。
唐突ですが3部の準備がまだ掛りそうですので感想や指摘などがあれば嬉しいです。
作者のモチベーションもさらにアップしますから。
ではここまで読んでくださりありがとうございました。
また続けてご愛読していただければ幸いです。
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