複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
日時: 2015/02/18 00:42
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。


一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。 

しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。

そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる

-----------------------------------------------

初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。

更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。

・更新履歴

 11/3 3部21話追加
 11/7 3部22話追加
 11/14 3部23話追加
 11/22 3部24話追加
 12/3 3部25話追加
 12/10 3部26話追加
 12/17 3部27話追加
 12/20 3部28話追加
 12/26 3部29話追加
 12/30 3部30話追加
 12/31 人物詳細2追加
 1/4  3部31話追加
 1/7  3部32話追加
 1/10 3部33話追加
 1/14 3部34話追加
 1/18 3部35話追加
 1/23 3部36話追加
 1/25 人物詳細3追加
 1/31 3部37話追加
 2/4 3部38話追加
 2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止


・本編

 第1部
 人物紹介
 キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5

 第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
 第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
 第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14

 第2部 
 人物紹介
 リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16

 第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
 第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
 第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
 第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34

 第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
 人物データ1>>36
 人物データ2>>46

 第0話>>37
 第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
 第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
 第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
 第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
 第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
 第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
 第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
 第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78

 人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
 人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
 人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76

・筆休め・気分転換
 番外編

 白騎士編 
 >>79 >>80

 2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35

 軌跡
 7/18 参照400突破
 10/14 参照600突破
 12/7 参照700突破
 1/28 参照800突破

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.36 )
日時: 2014/09/05 14:26
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

人物データ

名前:キル(K)
年齢:21歳
性別:男
身長:186
体重:79

性格
一年前に比べ大分人慣れし初対面の相手にもそれなりに話せる、が敬語は苦手なタイプ。慣れている相手に対しては遠慮などもなく何だかんだ言って世渡り上手。
容姿
赤い瞳に黒髪で短髪。黒のジャケットに丈が長くない青の革ジャン、首に水色のマフラー、濃い紫のズボンを装備。腰には銃を納めるホルスターを下げている。

武器・能力
・銃(リボルバー式で通常より大きく重量もある黒の銃)
高速撃ちに対応した専用の特注品。様々な銃弾を放てるように耐久度も高くなっている。
・体術 
特に型があるというわけではなく常人以上の身体能力によりその状況に応じて体術を繰り出せる。
・特化した視力
 視力が特化して高くスコープなしの視力の他ちょっとした動作や変化も見逃さない。

名前:リーネ・アニミス
年齢:18歳
性別:女
身長:160センチ
体重:53kg
性格:明るく元気な性格でどんな相手にも恐れず話し掛けるある意味怖いもの知らず。恐ろしく鈍感な天然で年齢の割に見た目だけでなく考え方も幼い。ただし錬金術や自分の夢についてはしっかりと考えを持ち、以前より芯も強くなった
容姿
茶髪で肩まで延ばし赤い瞳の色白。薄い水色を主にしたフリル付きの上着に半ズボンに黒のソックスを履き、茶色の羽付きチロリアン帽子を装備。蒼い毛並みのウルフを連れており名前は「キル」。

武器・能力
・錬金術
 物質を使い別の物に作り替える能力。一般的には大きく体力を使い回数が制限されるが特に回数制限もなく練成が可能。指輪の力により水と金属類は自由自在に操れる。
・身体能力
 一般人としては高く早さにおいてはKとさほど変わらず動体視力も高い。ただし撃たれ弱く体力も言うほど高くはない



名前:シン・エトワル
年齢:15
性別:女
身長:151
体重:42kg

性格:基本的にクールで下手な同年代よりも大人びている。何でも率なくこなすことから頼りになる半面で人の生死について非常に敏感で人間として脆い部分もある。死を目前にした場合過剰に弱気になり動けなくなる弱点もある。
容姿:茶髪のショートカットで緑色の瞳。中世的な顔立ち。首にはゴーグルを下げ一緒に赤いマフラーを巻き、灰色のズボンに緑色のジャケット。腰には銃を2つ下げ、後ろには折り畳み式のスナイパーライフルを装備。外に出る時などはフード付きの帽子と灰色のコートを装備。
武器
・拳銃
 威力を重視したリボルバー式のマグナムと命中精度を重視した自動式拳銃。
・スナイパーライフル
 カグヤからもらったもので組み上げたり2発毎に弾込めが必要だが持ち運びやすく威力と命中精度は高い。
・ナイフ
 サバイバル用のナイフで近距離用の武器として使用



名前:バード・ウィンゲル
年齢:21歳
性別:男
身長:176
体重:68kg

性格:面倒見がよく責任感は強いもののどこか抜けている。調子がいい部分もあり人辺り自体は悪くない。リーネ、シンのことを妹のように大切にしており過保護な部分もある。いじられ役でありシンだけでなく最近はキルにも雑な扱いをされている。
容姿:赤の短髪に青い瞳を持つ。黒い鎧と腕にはグレーの手甲、腰には帯剣と銃を下げている。背中には身の丈ほどの大剣を装備。

武器
・大剣
 しっかりとした切れ味があり刀身は黒く、見た目は斬馬刀に近い作りの剣。重量はかなり高く威力はあるものの速度はどうしても落ちる。
・帯剣
 一般的な剣で大概の戦闘はこっちで行う。大剣と違い威力は落ちるが小回りが利く。
・拳銃
 牽制用の命中精度や使いやすさを重視した銃。連射性もある程度高い自動式拳銃。



名前:カグヤ・ティタニア
年齢:18歳
性別:女
身長:163
体重:54kg

性格:強気な性格で毒舌家。世話焼き気味でおせっかいな部分もある。お姉ちゃんっ子だったせいか姉にはいろいろ敵わない。銃が好きで本気で語らせると姉が止めない限り数時間にも及ぶ。

容姿:黒髪で腰まで伸びる長髪をポニーテールにしている。瞳は蒼色で若干眉が釣り上がった目つき。黒い肩出しの上着と短パン、上に肌を晒さないようにとポンチョを羽織って愛用のローラーブレードを履いている。黒ぶちの眼鏡を掛けている。

武器・能力
・サブマシンガン
 黒い銃身で連射性を重視したもの。主に牽制に使う場合が多い。
・格闘術
 体の魔力を活性化させて本来以上の威力の体術を繰り出す。ただし魔力消費が高いため長期戦には向かない。
・ローラーブレード
 カグヤが自作したもので魔力を纏わせることで高速の移動の他ローラー部分を武器にできる。
・メガネ
 カグヤの発明品の一つ。普段はただのメガネだが狙撃のためのスコープ代わりになったり暗視ゴーグルに等様々な機能が備わっている。



名前:サクヤ・ティタニア
年齢:20歳
性別:女
身長:166
体重:58

性格:心優しくやんわりとしていながら芯は強い。責任感も強く何事にも一生懸命。 拘るものには徹底的に拘り一度決めれば譲らない。本人は真面目ではあるが抜けている部分もあり周囲が予想しないような発言や行動も多い。 一途な部分もありキルに対する気持ちは変わっていない。

容姿:黒髪で腰まで伸びるストレートの長髪。白い肌で瞳は蒼色のぱっちりとした目つき。上下一対の白のワンピースを愛用、スタイルはグラマー。

武器・能力
特になし



名前:フラン・リーゼル
年齢:21歳
性別:男
身長:170
体重:62kg

性格:落ち着いた性格で冷静沈着だが面倒事などに巻き込まれやすい。大勢の前、地位が高い人、初対面または会って間もない女性の前になると緊張してしまいうまく話せなくなる。最近になりようやくカグヤに慣れたがサクヤは未だに慣れていない。
容姿:金髪の短髪で瞳の色はグリーンの色白。服装は白が主の軍服、ズボンを履き、両手には白い手袋を付けている。腰には折り畳み式の槍を下げている。

武器・能力
・錬金術
 発動に時間が掛るものの基本的にはどんな練成も可能。ただし練成の規模や使用回数に応じて大きく体力を消費するため多用はできない。
・槍術
 指輪をリーネに渡したことで自在な金属変化はできなくなったものの基本的な型は変わらず、また魔力を込めることで威力の強化も可能。



名前:フィオナ・セレスティナ
年齢:19歳
性別:女
身長:165
体重:59kg

性格:誰に対しても面倒見がよく上司などに対しても特に対応が変わらない。無類の動物好きで特に犬がお気に入り。責任感が強くその有能性から秘書に任命された。
容姿:ストレートの桃色の長髪に特徴的な黄色の瞳、青と赤を主にした軍服と膝丈のスカート。片手には分厚い本を持ち大人びた風貌。本格的な戦闘の際は黒の三角帽子とマントを装備。

武器・能力
・魔術
 地水火風の属性の魔術を率なく使用できる。魔力も高くそれなりに長期戦も可能。
・魔術書 
 本人が言うに様々な知識が書かれた万能書。魔力のブースターにもなり自分の魔術の威力を引き上げることが出来る。


名前:ジン・ヴァンド
年齢:17
性別:男
身長:172
体重:67

性格:前向きなポジティブ思考で何かあってもいいほうに考える傾向がある。何事も楽しんで行い端から見れば気が抜けている用にしか見えない。しかし自分のペースを乱さないという面もあるためある意味一番冷静でもある。

容姿:肩に掛る程の長さの銀髪。瞳はライトグリーン。腰までの長さの水色のコートを羽織中には黒のジャケットを身につけ下は茶色のズボンを履き腰には刀を装備。

武器・能力
・倭刀
 出身地で作られた業物。鞘自体も通常以上の耐久力から刀と鞘を使った二刀流も可能。
・身体能力
 幼少時代からの訓練もあり常人を超える能力を習得し特に移動や居合いの速さは並みの動体視力では見切ることはできない

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.37 )
日時: 2014/07/18 14:57
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第0話

ボロボロになり焼き焦げた家が並ぶ村。人が生活している様子はまったくなく、村の外れにはいくつもの木とロープで十字架を作った簡易的なお墓が並んでいた。

ここに戻ったのは何度目だろう———

銀髪の少年は片手に愛刀を握り一つ一つのお墓に丁寧にお参りして考えた。
この墓参りは少年の一年に一度の欠かすことが出来ないイベントだった。

———おい…N…も…い……だ……?ここ……に…て……———

少年があの日のことで覚えているのはこの時の微かに聞こえたこの声だけだった。

「N…お前は…何か知っているのか…?」

ジンは刀を腰に掛け再び墓を見回してからその村から離れて行った。

------------------------------------------------

長いだけで陰気な廊下…————

うす暗く長い廊下を白騎士と名乗った少女はそんなことを考えながら歩いていた。

「大体…何でいきなり戻って来させるのよ」

一人愚痴っているようだが実際は彼女の中にいる青年が頭の中に直接話しかけている。

(いい加減戻れという通達だからな…仕方ない…)
「ぶー」

少女は頬を膨らませて目的の部屋に到着した。
中は暗く殺風景で彼女にとってはさらに退屈させるようなものだった。
そんな部屋の中にいたのは黒いローブに身を包み片手には杖を持った人物一人だった。

「いきなりの呼び出しなんて聞いてないわよ?いったい何の用よ」
「来たか…もうすぐもう一人が来るぜ?少し待っていろよ」

少女はこの人物があまり好きではなかった。実力は高いものの人格については好感が持てない人物だった。
ただ少女に取ってこの場所に戻ってくる楽しみが一つだけあった。

「遅れてごめん…まだ…調子戻ってないから…」
「R!久しぶり!」

少女は先と違って満面の笑みを浮かべてRに抱きついて頬擦りし始めた。当然のようにRは無表情のまま顔を押して自分から引き離させ、すぐに少女の体が光と共に青年に変わった。

「久しぶりL…相変わらずもう一人のLはうるさい…」
「ああ…まさかお前がいると思わなかったからな。それで…J。俺らを呼び出したのはなぜだ?」
「お前がいつまで経っても素体を連れて来ない間に面倒なことがあって呼んだんだ」

Jと呼ばれる男は青年に対して話していくと、薄暗くて存在が分からなかった壁をいっぱいにRとキルの戦闘画面が映し出された。

「K?それにR?模擬戦というわけではないか…」
「Kが裏切った…」

Rからの言葉にここまで表情を殆ど変えることがなかった青年の表情に僅かばかりの驚きの表情が見えた。

「そういうことだ…Kの実力は俺やLとほぼ互角。そんな奴を手放すことは組織としても痛手だが野放しにするわけにもいかない」
「このことをIや首領…Zは知っているのか?」
「Iとは連絡不能…今回の収集はZの命令…Kとその周りの関わった人間の殺害が任務…」

JとRの説明を聞いてからLはターゲットとなる候補の人物達を確認していき見知った人物に目が止まった。

「リーネ…シン…バード…フラン…カグヤ…」
「何だ?知っているのか?」
「リーネは素体の候補だ…他の奴はその取り巻き達だ」

青年は自分が知っている情報だけを伝えていき、Rは表情を変えずJは一人笑みを浮かべていた。

------------------------------------------------

「ずいぶん印象が変わったな?似合っているぞ」
「少なくてもバードさんが選んだものよりは似合っていますね…」

今の状況を説明するためには少し時間を遡る必要がある。
サクヤやカグヤに役所の手伝いをするならとイメージチェンジを命じられたことが発端だった。

衣服にまったく興味がなかった俺はどういった衣服を用意すればいいか分からずバードやフランに相談した。
そうして最初にフランが選んだのは白いタキシードとかいう服で当然却下した。
同様にバードが用意したのはいろいろな装飾や飾りがついて動きにくくやはり却下した。
それで呼ばれたのが今後役所に出入りするのにふさわしい格好にとフィオナとかいう秘書とシンまで現れて散々着せ替えられた。着せ替えは数時間に及び公務を理由にフランは帰ったが確実に逃げたな…。

結果的にできたのは前の黒のジャケットに丈が長くない青の革ジャン、首に水色のマフラー、濃い紫のズボンで落ち着いた。問題があるとしたらこのマフラー以外は結局俺が選んだことだった…

「うーん…でもいろいろ地味じゃないかなあ…」
「いや…もうこれでいい…キリがない…」

フィオナの言う言葉をすぐに却下してから露骨に残念がるフィオナを納めるシンを見て思う。
俺はここで働かない方がいいのではないかと…

買い物を済ませてから夕方ということもあり帰路に着くために繁華街を歩いていた。そんな中で頭に浮かんだのは旅に出たあいつのことだった。

「そういえばリーネが出てから一週間か…」
「ずいぶん時間が経ちましたね…」

俺の思考はバードが代弁してくれた。リーネが錬金術の修行の旅に出てから変わったこと。
真っ先に感じたのは静かになった。特にカグヤやサクヤはそれを感じているようで日々が物足りないように見えた。
次に聞いたことだが役所の物資調達が大変になったらしい。リーネがいる間は物資を練成等していたが、いざいなくなると以前のように危険区域に行かざるを得なくなり忙しくなったとバード達が言っていた。

「まあ次に帰ってきたら今まで以上に楽させてもらいましょ!」
「それが本音か…」
「そういえばフィオナさん…今日は所長の秘書業はないんですか?」
「大丈夫。今日は会議ということでリンク君が面倒を見てくれるから!」

フィオナの言葉に呆れた顔をするバードとシンの表情から無理矢理押しつけられたのだろうとリンクという人物に同情した。

「それで明日から早速俺は働くのか?」
「そう!本当に助かりました!忙しいですよ〜」

冗談のような口調ながらも多分こいつは本気で言っているんだろう…

フィオナと別れてから俺とバード、シンは最近の日課になった夕食会に向う。と言ってもその会場はティタニア姉妹の家だ。

「あら?皆いらっしゃい!あら?早速着替えたの?」
「まあ…せっかくだしな…」

出迎えたサクヤは真っ先に俺に視線を向けて着替えた俺の格好の感想を告げると居間から顔を出したカグヤの姿が目に入った。

「あら?結構イメチェンしたじゃない?」
「正直…俺一人で行けばよかったがな…」

正直な意見が頭に浮かび苦笑いをし、その言葉に不満そうなバードとシンを他所に家の中に入っていき居間に並んでいたのはクリームシチューだった。

「おっ!うまそうじゃねーか」
「クリームシチューは手間が掛るので嬉しいですね…」
「誰かさんの大好物らしいからね〜」

バードやシンに対してカグヤはちらりと俺に視線を向けて話し、サクヤは器にシチューを分け始めた。その中でも俺の分だけ一回り量が多かったのは見間違えではない。

------------------------------------------------

森の中で静かな湖でリーネはたき火をしていた。
たき火の横には串に刺さった魚が4匹焼かれていた。横には青い毛並みのウルフが食事である魚が焼けるのを待っているようだった。

「待っていてね?もうすぐ焼けるはずだからね」

リーネは焼けて来た様子の魚を見てから立ち上がり手頃な大きさの石を手に取り、同時に光りだした石は徐々に形を整えていき一枚の皿に姿を変えた。

「うん!今日はいい出来だよキル!」

この一週間金属の練成を繰り返してきたリーネだったがまともな形として出来上がったのは今回が初めてだった。
その前は形が歪んだ形やできてもすぐに崩れてしまうようなものだった。そういった意味では一番最初の魔石の練成がうまくいったのは偶然と言ってもよかった。

「よし!焼けたよ」

魚が焼けて先ほどの皿に魚を乗せていき、キルのために串から魚を外して上げ、頭から丸ごと食べるキルを見てから自分も一口口にしてその瞬間感じた魚の味とそれに混じった苦みに表情を歪めた。

「うう…やっぱりちゃんと捌かないとだめかな…」

ガツガツと魚を食べていくキルを見てリーネは笑みを浮かべてから夜空に視線を向けた。

みんな…私…ちゃんとやっているからね…————

リーネはきっとみんなが見ていると思う星空に視線を向けたまま頭の中で呟いた。今この場にいない大切な人たちに向けて伝えるつもりで…

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.38 )
日時: 2014/07/20 13:42
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第1話
ここは街の役所の前。
キルは入館するための手続きの書類を門の前の警備係に提出し、しばらくすると意外にもその許可証を持ってきたのは秘書のフィオナだった。

「ようこそキル君!これで君の入館許可もできましたよ!」
「あ…ああ…しかし…あんたが直接持ってきてくれるなんてな…」

キルに許可証手渡したフィオナは何故か上機嫌でキルにはこの笑顔が逆に怖かった。

「せっかく手に入った労働力だもの。たっぷり働いてもらいますよ〜」
「お手柔らかに頼む…」
「とりあえず仕事場に案内しますね〜。と言っても元はリーネちゃんの席だけど」

フィオナの口ぶりからかなりの仕事があるのだろうと半ば覚悟を決め、案内されたのは一つの部屋だった。
中は机が3つと会議に使うと思われる白板、本棚には様々な種類の資料等が用意されていた。

「おっ!労働力の登場か?」
「もう少し言い方があると思いますが…」

声のした方に視線を向けると両手に何冊も本を重ねて持ったバードと手ぶらのシンがいた。

「仕事のことはもうこの二人に伝えてあるから聞いておいてね?じゃああとはよろしく!」
「分かった。わざわざ悪かったな」

フィオナはキルを二人に預けるとすぐに手に持った書物をパラパラと開いて中身を確認していき、次の仕事があるのか走っていった。

「フィオナさんも大変ですね…」
「とりあえずキル。早速面倒な仕事が入っているから聞いてくれ」
「出社一日目から大変そうだな…」

キルはため息を漏らしながら部屋の中に入り他の二人も続くように中に入った。

--------------------------------------------

「風の村?」
「今君が持っている2つの指輪アクアマリン、エメラルド…そして最後の一つがその村にあるらしい。見ておくだけで君の力になるはずだ」
「うん。じゃあ最初はそこに行ってみるよ」



リーネは街での最後の夜にフランから聞いた村に向かっていた。体力があまりない彼女は細かい休憩を取ったり、キルに跨って一気に移動してきたことから休憩の回数の割にはほぼ予定通りの期間で到着した。

「ようやく見えて来たね?まだお昼だから今日はゆっくりできるね?」

キルに笑いかけながらリーネは話していき目の前に見える村に向かった。

村は国と違い検問等がなく発展途上な場合が多いことが特徴で、魔物なども侵入してくることがよくあることから国から来た人間にとっては馴染めないことが多い。事実こういった場所に住んでいるのは国に入れないものや追い出された者もおり、何も知らずに村に入ると実は盗賊の隠れ家だったということも珍しくなかった。

当然リーネもこういったことは修行の際に聞いていたことからすぐには入らずに村の確認から始めた。
リーネは荷物の中から持ってきた双眼鏡を使って村の様子を確認した。
村の中はしっかりと道が舗装されており、家の作りはしっかりと手入れが行き届いていた。村の人間を確認すると子供から大人まで様々な年齢の人間がいることを確認できた。

「最後に…えっと…あった!」

リーネが最後に確認したのは国が安全だと保証する看板だった。これは近くにある国が定期的に村を確認し安全かどうかを見てから発行される表示で一定期間ごとに更新の必要があることから村の安全性を確認できる最大の目安になる。

「表示されていた期間も大丈夫だから問題ないね?行こうキル!」

すべての確認を完了させたリーネはキルを連れて村に向かい歩き始めた。

-----------------------------------------

「はい…どうぞ。ゆっくり旅の疲れを取ってください」
「ありがとうございます!」

村の入り口で歓迎された私はキルを連れながら村に入るとおとなしいウルフが珍しいせいか子供達がキルの周りに集り始めた。

「わあ〜すご〜い」
「ウルフだ!」

子供たちの声を聞きながら撫でられたりするキルを見て笑いかけ、その間に私は宿になる場所を確認していった。

「ごめんね?ちょっと最初に宿屋に行くからまたあとでね?」

子供達に囲まれて動けないキルを見てから子供達に話していき、そのまま案内されるがままに宿屋に向かうと一先ず2泊分の料金を支払ってから指定された部屋に向かった。
部屋の広さは大体5畳程でベッドと机、角部屋だから窓は二か所、そしてしっかりと浴室までついていた。間取りも設備も文句がない最高の部屋だった。

「いい部屋だねキル?ふかふかのベッドなんて久しぶりだね!」

私は部屋の確保が出来ると、早速とこの街に来た目的のために出かけた。

目的の場所は街で有名な場所で、街の人に聞いてみたらすぐにたどり着けた。
案内された場所は洞窟になっていて中に入ると薄暗い道の奥で光を放つものが目に入ってきた。

「あれは…」

私はゆっくりと歩み寄った。キルもその光に釣られたようですぐに私に着いてきた。

「これが…オパール?」

光の正体は透明の宝石が施された指輪で祭壇の中心で淡く光り続けていた。それに反応するように私の手の二つの指輪も光を放ち始めた。

「これは驚いた…貴女は錬金術師だったようだね」

背後から聞こえて来た声に振り向くとそこにいたのは腰が曲がって、私よりやや背が低いように見える杖を付いたお爺さんだった。

「えっと…あなたは?」
「驚かせてしまったようだね…わしはこの村の村長じゃよ」
「村長さん?えっと…」

急に話しかけて来た村長さんの意図が分からず私は言葉に詰まってしまった。キルも私の横っで警戒するように小さな唸り声を上げていた。

「警戒しなくて結構ですよ。わしはこの指輪を狙って来た輩でないかどうかを確認に来た」
「わ…私はそんなこと」
「分かっていますよ。狙っていたのなら村人に聞き回ったりしないでしょう。みんなに怪しまれますからね。でもその指輪を見て分かりました。貴女は大丈夫だと」

村長の話を聞いた後に視線を入口に向けると何人かの村人が入口の道を塞いでいたことから状況を理解した。
つまり泥棒と間違えられそうになっていたということだった。

「指輪?村長さんはこの指輪のこと知っているの?」
「知っていますよ。お嬢さん。この村には図書館と言ったら大げさになりますが書物を保管した場所があるが見ていくかい?」
「えっ?いいんですか?」
「失礼したお詫びじゃよ。遠慮しなくていい」
「じゃあ…お願いしようかな」

村長さんの言う書物庫は興味があった。この村にいたという錬金術師のこと、そして私の知らない錬金術の知識を知りたかった。

「ここが…書庫?」

案内された建物は他の建物に比べて古い作りで中にはいくつもの本棚と見たことがない書物がいくつも並んでいた。

「わあ…これは…しばらくこの村に滞在かな…この量だと…4日くらいかな…」

書庫にある本棚とそこにある本をパラパラと本を捲っていき、ここの本をすべて読み終えるのに掛る時間を計算した。

「休息を考えると滞在は1週間といったあたりになるかな…。キル!宿屋に戻って延長の手続きだよ!」

すぐに今後の予定を頭に纏めた私はキルに声を掛けてすぐに宿屋に向かって走り出した。

--------------------------------------

うす暗い部屋の中には4人の人物がいた。一人はLと呼ばれるかつては白騎士と名乗った少女は椅子に背を寄り掛らせて退屈そうに話を聞いていた。他はR、J、Nの3人がウインドウを眺めて話を聞いていた。

「というわけだ…一人だから今回はUに行ってもらうつもりだ」
「U?…誰だっけ?」

Jの説明にLは興味がなさそうながらも欠伸交じりに問いかけた。Jは小さなため息を漏らした。元々二人はあまり仲がいいものではなく無表情なRはともかくNはため息を漏らした。

「新人だよ。彼は戦闘能力がそれなりに高いからね」
「ふーん…でもあんたより弱いんでしょ?」
「そこまでだったらKの空きはもう埋まっている…」

Nの説明にLが返答すると言葉を詰まらせてしまった。

「仮にも私と渡り合えた娘よ?甘く見過ぎよ」

普段他人を評価しないLの言葉にRとNはもちろんJも驚いた。すぐにJはNに対して視線を向けるとNは部屋を出て行った。

「さて…どこまで強くなっているかお手並み拝見ね」

クスクスとLは一人で笑みを浮かべてからNに続くように立ち上がり部屋を出て行った。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.39 )
日時: 2014/07/24 19:04
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第2話

私が村に滞在してから3日の時間が経過した。
その3日間は書庫に朝から晩まで籠っている状況で、退屈なキルは横で朝から晩まで眠っているという状況。
本棚2つ分にある約50冊の本は読破してしたと思う。ただすでに読んでいたり知っている部分は読み飛ばしたりはした。
ここの書物の中身で真っ先に目に着いたのは過去にいたという風の錬金術師についての記述。そして空気や大気に関する記述。そしてそれらが他に与える影響について等、いくら読んでも終わりが見えないほど中身の内容自体は濃かった。

記述によるとその錬金術師は他にも魔術や占い等もできたらしく、村でありながら国と殆ど変らないほどの発展もしていたみたいだけど、時間と共にその時の技術は忘れられてしまって今のこの村のようになったということだった。
そしてここまで読んできたのは空気や風を錬金術にどう応用できるかが具体的に記述されていて、早速と手の上で記述されている手順で術を使ってみた。
媒体は空気で手の上でこの空気が流れていくイメージで術を発動すると手の上で、竜巻と言ったら大げさな小さく柔らかな風を生み出せた。

「できた…これで…大体7割くらいは読んだかな…」

本を読み終えてから風を消して、今読んだ本を戻して隣で眠っているキルに寄り掛り体を休めた。当然のようにキルは自分に掛った体重に気づき目を覚ました。

「ごめんキル…ちょっとだけ休憩するから何かあったら呼んでね?」

慣れないことをしたせいか大きな疲労を感じて、私はキルに指示を送ると、大きな欠伸をして本棚に寄り掛り瞳を閉じた。

--------------------------------------------

「ひひ…あれがターゲットのいる村か…」

白髪に黒いローブを身に付けた男はスコープを使いようやく見えて来た村を確認していた。
見た目からは若く見えるものの正確な年齢は分からない見た目で垂れ目ながら品のない笑みを浮かべた。

「まだこんなところにいたのかい?」
「Nか…何の用だ?」

男は背後からの声に睨むような形で振り向くと見つかったのはNだった。

「U…君の初仕事だから様子を見に来た。JやLがしっかり働くか見に行けと言われたからね」
「言われなくても簡単だ。少し痛めつけてから捕まえればいいんだろ?」

Uにとっては任務以前に戦いや殺戮が出来ればいいという考えで、その凶悪性と戦闘能力の高さからスカウトされてきた。そんなUにとっては今回の任務は正直退屈なものと感じていた。

「じゃあNはそこで見ていろよ?さっくりと終わらせてくるからよ」

Uの言葉に答えようとしたNを他所にすぐにその場からUの姿は見えなくなった。

「気が早いな…まあ…いいとするか…」

---------------------------------------------------------------------

「なに!?」

眠っていた私の耳に響いたのは大きな爆発音だった。キルもすぐに気付いて扉を開けた。続いて私も外に出た時に見えたのは言葉にできない程の惨状だった。

「魔物?でも…何もいない…」

家は壊され、何かと戦ったのか街にいた男の人たちは血を流して何人も倒れて子供の泣き声も聞こえた。それどころか男の人や建物が突然何かの爪を受けて鮮血と共に倒れて行った。

「大丈夫ですか!?」

すぐに今倒れた男の人の元に駆け寄ったがすでに息絶えた状態だった。その瞬間今度は後ろから女の人の悲鳴が聞こえすぐに視線を向けたけど背中に同じく爪の痕が残っていた。

「な…何なの…?キル!!」

今出せる精一杯の声を出して私はキルに呼びかけた。同時にキルの毛並みは淡い青い光を放ち始め同時に一点を見据えて同時に飛びかかって行くと何かを跳ね飛ばし建物に衝撃を受けた。

「何?」

建物の中に飛んで行った何かをキルは唸り声をあげて警戒しているようだった。

「驚かすなよ。夢中になっていたから気付かなかっただろ?」

建物から現れたのは黒のローブに白髪、そして両手には3本のクロウが装備されていた。そしてその爪には当然のように血が滲んでいた。

「誰?何でこんなことを…」
「ひひ…俺はUだ…フェンリルを連れている女…リーネだな…」

キルのことを知っている?
それに私のことを?

「任務に従ってお前を連れに来た。少し痛みつけてからな!」

同時に飛び込んできた男が右手のクロウを振り下ろしてくるのが見えた。
咄嗟に横に体を捻り攻撃を交し同時にキルが横から男に突進をして距離を取った。

「ありがとうキル…何で私を狙うの?それに村をここまでする必要がないよ!」

突然襲って来たUと名乗った男の意図がまったく分からない私はジッと相手を見据えた。

「必要?何言っているんだよ。お前に関わった時点でこの村は皆殺しなんだよ!」
「えっ…何…?」

この人の言っている意味が分からなかった。
何でこの街を襲った?私がここに来たから?

-----------------------------------------------------------------------

Uの言葉にリーネは言葉を失って茫然としてしまっていた。
それを確認してすぐにUはリーネに飛びかかったが同時にキルはその間に入り爪を体で受け止めてから体を反転させて後ろ足で蹴りリーネから距離を引き離した。

「ちっ…さすがフェンリルだな。ずいぶん丈夫じゃねえか。面白くなってきたな」
「おもしろい?こんなに村を壊して…こんなに村の人を傷つけているんだよ!」
「だから楽しいんだろ?今そのウルフも切り刻んでやる」

Uの言う言葉にリーネはゆっくり顔を上げた。同時に感じた言葉に表しようがない恐怖にUは一歩後ずさりした。

「キル…ここはいいよ。逃げ遅れた。村のみんなを助けてきて…」

リーネの言葉にキルはすぐにその場を離れて行った。

「は…はは…いいのかよ?お前一人で俺を倒すつもりかよ?」
「そうだよ…」

リーネの小さな声ながらもしっかりと言い切ったその言葉に対して、すぐに飛び込んで爪を振り下ろした。その振り下ろされた右の爪をリーネは後ろに下がって避け、続いた左からの横殴りの爪をすぐにしゃがんで避けてから街の入口に向かって走った。

「逃がすかよ!」

Uは懐から人一人包みこめそうな白い布地を取り出し、それを頭から被るとそのまま姿が消えてしまった。
リーネもその様子に気づくと指に嵌められた指輪が青く光り、人差し指を立てて手を横に振ると、光と共に自分とUの間に薄い氷の壁を出現させた。

「それで壁のつもりか!」

同時に壁は破壊された。その瞬間砕かれて飛び散りひんやりとした空気も気にすることなく、目の前に見えたリーネに斬りかかろうとした瞬間姿が消えた。

「何!?」

Uが驚いて動きを止めた瞬間右手を掴まれる感覚に気付いた。

「そんなに濡れていたら…隠れられないよ?」

Uが指輪の光に気付いた時、すでに体はその体は氷ついていて身動きを取ることが出来ずにいた。

「お前…何を…」
「最初の氷の壁だよ。砕かれてから作られた氷はすぐに元の空気に戻るけど、その前に霧状の冷たい層になったの…。そしてあなたが付かったそのマントみたいに光の屈折を利用したの…」
「まさか…蜃気楼を起こしたと言うのかよ…」

リーネはUから姿を消すために使っていたマントを奪いそばに投げ捨てた。いつの間にか右手のクロウはへし折られていることに気付いたUは自分と相手の力の差に言葉を失った。

「覚えたばかりだったけどね…後は霧で濡れたあなたを凍らせたんだよ」

リーネが説明を終わらせた時、村人の非難を完了させたキルが戻ってきた。すぐにでも噛みつこうとするように見えたキルを片手で制止させた。

「やっぱり見に来てよかったよ」

声と共にUの後ろから現れたのはNだった。
突然姿を現した青年の姿にリーネは先と同じ姿を消すマントの可能性を考えたがそういったものを持っているようには見えなかった。

「あなたは…?」
「僕はN。部下が迷惑を掛けたね」

Nのその言葉と共にリーネとキルはすぐに後ろに下がった。その瞬間地面に大きな亀裂が入った。同時にNの前にいたUも横に切り裂かれていた。

Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(本編第2話追加) ( No.40 )
日時: 2014/07/28 23:37
名前: 鮭 (ID: bcCpS5uI)

第3話

Nと言う人が現れた瞬間だった。彼が腰に下げた刀を握る姿に気づいてほぼ無意識に後ろに下がった。
そしてその数秒後に私の目の前に映ったのは横に切り裂かれた跡が付いた地面、二つに分かれたさっきまでUだったものだった。

「うっ…何で…あなたの仲間じゃないの?」

見慣れないものに動揺してしまった私は口元に手を当てた。その瞬間Nと名乗った青年の背後から一瞬炎を体に纏わせた鳥の姿が見えた。

「鳥?」

私の呟きに対してNは一瞬驚いたような表情を浮かべた。ほぼ同時に炎に包まれたUは跡形もなく消えてしまった。

「驚いたよ…よく見えたね…Lが手こずる訳だ」
「L?それも…あなた達の仲間?」

実力がまったく分からない相手に私はさらに一歩距離を取った。

「答えるつもりはないよ。今彼を処分したのは予想以上に使えないと思ったことと村でこんなに暴れた制裁だよ」

口調は優しい雰囲気を出しているけど、だけどこの人は危険だとすぐに分かった。
だけど今の言葉で私の考えの甘さが分かった。
危険どころじゃない…関わった時点で死を覚悟する必要があった。それほどの命の危機に今、直面している…。

「さて…次はこの村の番だね…」
「何で?この村の人はもう関係ないよ!」
「僕達に関わったものはみんな消えてもらうからね…」

彼の言葉から次に何をしようとしているか分かった。

-----------------------------------------------------------------

ゆっくりと剣を抜いていくNに対してリーネはすぐに耳を両手で塞いだ。

「キル!お願い!」

リーネの言葉と共にキルは大きなおたけびを上げた。その声は耳を塞いでいるリーネでもはっきりと聞こえるもので、その大音量なおたけびに一瞬怯んだNを見てからすぐに地面に手を当て、それと共にNの周りからいくつもの棍が地面から伸びた。

「まだ甘いね…」

伸びて直撃しようとするいくつもの棍をNはすべて切り裂いた。一瞬それにリーネが目を見開き動きが鈍った。
その一瞬でNの剣閃が自分の首に向かってくるのがリーネには見えた。

「わっ!」

咄嗟にリーネはしゃがんで剣閃を避けた。Nにすぐに視線を向けてすぐに二撃目の動きを察知して、後ろに下がって追撃を回避した。

「攻撃はともかく回避能力は高いようだね…。でも攻撃が駄目だね。ちゃんと先端は棍じゃなくて槍にしないと」
「槍だと怪我をするよ」
「甘いよ?そんな考えである限り僕は倒せないよ?」

Nが刀をゆっくりと構え直した時、刃に太陽の光が反射してリーネの視界が揺らいだ。
次に視界がはっきりした時、リーネの視界に映ったのはほぼ目の前に映るNの顔で、殆ど時間を置くことなく右手に痛みを感じた。咄嗟にキルはNに飛びかかるも次の瞬間には

「あ!ぐう…」
「峰打ちだから安心していいよ」

リーネは自分の右腕がしっかりと繋がったままであることを確認した。赤い痣になった腕を抑えながら術を使おうとするも同時に着きつけられた刀で術を止めた。

「いい判断だね?今度は腕を斬るつもりだったからね」
「…私を連れて行ったら…ここの村の人は助かるの?」
「無理だね。ここの人たちを消してから君を連れていくのも簡単だからね」

Nの言葉にリーネは大きな怒りを覚え、それに反応するようにキルも再びNに飛びかかった。
その行動にNは刀をキルに向けた。その瞬間リーネの緑の指輪が光り地面からいくつもの槍が飛び出してNに向かって延びた。

「いまさらそんなもの…効かないよ!」

Nは何本も伸びる槍をすべて切り落とし、飛び込んできたキルをそのついでのように叩き落した。

「こっちが本命だよ!」

Nが槍やキルに視線を向けている間にもう一つの青い指輪が光り、空気中の水を集めたことでできた水柱をNの頭上から降らせた。

「ぐっ…こんな術を…」

水圧に押し負けそうになり片膝を付いた。その時リーネは先に見た火の鳥が見え、次の瞬間には水柱は蒸発した。

「今の火の鳥…」
「よく見えたね…今のは僕の使う奥義の一つだよ」

Nの言葉からその奥義という物がまだいくつかあることが予測でき、リーネとキルは再び身構えた。

「なんだぁ?この村…廃墟なのか?」

不意に聞こえた緊張感のない声にリーネは驚き振り向き、そこにいたのは以前に出会ったことがあった少年の姿だった。

--------------------------------------

「えっ?ジン?」

村の入り口に殆ど無警戒で立っていたのは以前に街を訪れたジン。
久しぶりに見たジンは腰までの長さの水色のコートを羽織り、中には黒のジャケットを身につけ下は茶色のズボンを履き腰には刀を下げて本当に以前見たままの姿のままだ。

「余所見をしていていいのかい?」

不意に聞こえたNの声に私は背筋に寒気がした。次に視線をNに戻した時キルは横殴りに吹き飛ばされていた。
私とNとの距離は大凡2歩分くらい。

終わった…———

頭の中でそんなことが過った時に聞こえたのは金属同士がぶつかったキーンという音だった。

「いきなり何しているんだよ?女に刀を向けるなんてどう考えても悪者だぞ?」
「驚いたよ…あの距離からの高速移動…君は何かを持っているね?」

突然目の前で私とNの前に割って入ったばかりか、Nの横斬りをジンは鞘から刀を僅かに引き抜いて刀を受け止めていた。
ジンは同時に片足でNの足を払うように蹴りあげようとするとNは後ろに下がり距離を取ってから刀をお互い鞘に納めた 

「ジン?どうしてこんなところに?」
「ん?…食料が尽きて村みたいなの見つけたから来てみたら、あんたとこいつが対峙していたからついな…」

私は今の話を聞いて気になったことがあった。
村をよく見ないできた…よくここまで旅ができたなあ…。しかもあんた…完全に私を忘れている?
呆れながらも相変わらずな様子のジンに私は危険な状況なのにも関わらず笑ってしまった。

「それで…こいつがこの村をこんなふうにしたのか?」
「えっと…この人の…組織が私を狙って…それで…」

私の話を聞くとジンはすぐに刀を鞘に納めたまま構え、Nも同じように刀を納めたまま構えた。
私はその間にキルの元に駆け寄ったキルは多少の切り傷があったものの少しずつ回復していった。

「ということは…こいつは倒した方がいい訳か」
「大きく出たね…」

何を合図にしたのか二人はほぼ同時に飛び出し鞘から刀を引き抜いた。そのまま互いの刀はぶつかり合い火花が散ったのが見えた。

「居合の速さは互角みたいだね」
「そうだな…」

二人は互角と言っているけどジンにはさっきまでの余裕を見せていた表情が見えず、一方のNは全く動じている様子が見えなかった。

このまま加勢してもすでに動きを読まれてしまっている私は足手まといになる…。

「おい!早く逃げろよ!お前が狙われているんだろ!?」

ジンの一言で走り出そうとした時、私の頭の中であるものが浮かんだ。

「風の指輪…あれがあれば…。キル!ジンのサポートをお願い!」

私の一言でジンは私の次の行動が予測できたのかすぐに何回も斬撃を繰り返して私からNを引き離し、キルもそれに続くように飛び込んで行った。
私の意図に気付いたのかNは私に刀を振ろうとしたところでジンの蹴りでNの接近を防いでいた。


私はその横を全速力で走り村の中に再び入って行った。
指輪が捧げられている洞窟まで来ると指輪は昨日見た時よりも大きく光っていた。

「風の指輪が…光っている?」

私は飾られている指輪に手を触れさせると私の周りに風が纏ったような感覚、それと共に頭の中に一つの映像が映った。
見えたのは茶髪の女性、そして黒髪男の姿が見えた。二人の見た目は私より年上のようだった。女性は杖を持ち一目で錬金術師だと分かった。男は黒いマントにその中には金色の装飾のあるペンダントと黒いシャツとズボンを身に着けていた。
二人は何かを言い合っているように見えた。しかし男が片手をかざした瞬間女性は苦しむような動作をして…

「あっ…何…今の…」

突然頭に流れてきた映像は女性が倒れたところで中断された。
この指輪の持ち主の記憶が途切れたから?
あの男の人は誰?いったい何をしたの?

淡く光った指輪を握りしめたけど私の疑問に答えてくれることはなかった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。