複雑・ファジー小説
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- ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
- 日時: 2015/02/18 00:42
- 名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)
魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。
一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。
しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。
そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる
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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。
更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。
・更新履歴
11/3 3部21話追加
11/7 3部22話追加
11/14 3部23話追加
11/22 3部24話追加
12/3 3部25話追加
12/10 3部26話追加
12/17 3部27話追加
12/20 3部28話追加
12/26 3部29話追加
12/30 3部30話追加
12/31 人物詳細2追加
1/4 3部31話追加
1/7 3部32話追加
1/10 3部33話追加
1/14 3部34話追加
1/18 3部35話追加
1/23 3部36話追加
1/25 人物詳細3追加
1/31 3部37話追加
2/4 3部38話追加
2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止
・本編
第1部
人物紹介
キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5
第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14
第2部
人物紹介
リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16
第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34
第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
人物データ1>>36
人物データ2>>46
第0話>>37
第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78
人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76
・筆休め・気分転換
番外編
白騎士編
>>79 >>80
2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35
軌跡
7/18 参照400突破
10/14 参照600突破
12/7 参照700突破
1/28 参照800突破
- Re: ある暗殺者と錬金術師の物語(9/18 本編追加) ( No.51 )
- 日時: 2014/09/18 12:23
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第13話
ジンと別れて一週間。キルは相変わらず食欲旺盛!
ここに来るまでに食料は補給したけどその殆どはキルが一人で食べてしまった。
そのおかげで最近は簡単な料理くらいは作れるようになりました。
今日は探していた鉱石の街に到着する予定でお昼にお魚を焼いています。
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「あっ…焼けたみたい」
たき火で焼かれている魚に視線を向け、最近の日課である日記を書く手を止めてから魚をすぐ横にいるキルにあげた。魚を食べる様子を見た
「もうすぐ到着するんだ…」
ジンに聞いた情報を確かめるために中間に位置する街で情報を集めた私はその街で手に入った地図を見て現在地と照らし合わせた。ここまでの移動速度と距離を考えると到着は真夜中になってしまう。
「うーん…今日は無理しないで歩いて明日に到着するようにすればいいかな」
魚を食べているキルに話しかける私は自分の分の魚を手にとって食事を始めた。
今私が向かっている街は鉱石の加工技術で栄えた国で、話だけ聞くと今までで一番発展した国と思えた。
周辺では様々な原石が取れて国の中ではその原石を加工してそれらを収入源にしていることから人々の暮らしも豊かな国という話だった。
「はず…なんだけどなぁ…」
もうすぐ国に到着するという場所で私が見たのは鉱山で働かされている幼い子供からお年寄りまでの様々な年齢の人々だった。
大人の男性はつるはしを持って鉱山に入っていき中からは原石を掘り出していると思われる音、子供や女性は数人がかりで何かの機械を操作してトロッコを動かしているようで、残ったお年寄り達は運ばれている原石を仕分けしているようだった。
あちこちには作業員がボロボロな衣服を着ているのに対して立派な軍服を着ている人々も交じっていた。
一先ず私は一番近くにいた軍服を着た男の人に声を掛けることにした。
「あの…すみません…」
「おや?もしかして旅の人ですか?」
私の問いかけに気付き、一瞬キルの存在に驚いたように見えたけど男の人はすぐに対応をしてくれた。周りの人達も私の存在に気付いたのかそれぞれ視線を私に向けて来たけど作業員と思われる人たちはすぐに作業を再開したようだった。
「えっと…みんなは…この先の国の人ですか?」
「ええ。ここでは国で加工するための原石を掘り出しています」
「原石を?ここではどんな石が取れるんですか?」
「見てみますか?」
そう一言を言うと区分けの終わった石の中から白くこれまで見たことがない原石を手に取り差し出してきた。
私は差し出されたその原石を手に取り見回した。
「これは…もしかして…」
この原石は私の記憶の中に微かに残っていたものだった。
この原石だけはお父さんが残してくれた本の中に写真付きで書いてあって実際に見たのは初めてだった。
————本には確か加工の仕方も表示されていて…
頭の中で覚えていた練成術をそのまま無意識に発動すると原石は白銀に輝く小さな金属に変わった。
「これが…ミスリル…?」
「そんな…国の学者達も加工出来ずにいるのに…」
錬金術でできたミスリルに男の人は驚いて掌サイズのミスリルを手に取り、私と鉱石を交互に見た。
この人の話からミスリルはまだ実用化していないことが分かった。ジンの情報が確かならまとまったミスリルを手に入れるのは難しいことが分かった。
私が今後のことを考えていると男の人は耳元に何か機械のようなものを当てて誰かと話をしているようだった。時間にしてほんの数分後男の人は機械を耳から離した。
「あの…貴女の名前は?」
「えっ?私はリーネ。それとこの子はキルだよ」
「ではリーネさん。よかったらこの国に移住しませんか?歓迎しますよ?」
「ふえ?移住?えっと…私は…そういうの考えていないから…」
突然の申し出に私は驚いてしまい、どう断るべきかと困ってしまい結局そのまま答えてしまった。
「なら…鉱石の加工場に立ち寄ってください!その加工技術を伝えてほしいんです!」
「えっと…じゃあ…私も用事があるから…一週間の間だけなら…」
「分かりました!では早速国に向かいましょう!私が案内します!」
そう言うと男の人は道の先にある広場にあった…確か本に書いてった車という乗り物を指さした。
とりあえずここからは移動が楽そうかな。
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「疲れた…」
リーネは用意された最上級のホテルのベッドの上に倒れ込んだ。同様にキルもベッドの横に座り込んで眠り始めた。
リーネは国に到着するとすでに入国の審査が完了していて、国の中を見る暇もなく原石の加工の現場に連れて行かれてミスリルの加工をした方法を散々説明することになった。
もちろんそう言った説明が苦手なリーネの話を理解できるものがいる訳もなくまったく加工方法が分からないまま一日目が終了した。
滞在期間中は国で一番のホテルを提供され、食事も無料とリーネが旅を始めてからどころか人生で一番贅沢な一週間を迎えられそうだった。
「でも…このままだと新しい杖…作れそうにないかなあ…」
リーネがこの国に来た理由は今後の旅を考えて自分だけの杖を手に入れることだった。
元々杖の入手は早い段階で考えていたもののどの金属を試しても一度の練成で折れてしまう使い捨てなものしかできず、以前の母親の杖のようなものを作り出せずにいた。
そして今回、ジンの話から今まで試したことがない材質の杖を作成できると考えていたもののその暇はしばらくなさそうだった。
「そう考えると今から行くしかないよね…」
横になっていたリーネは欠伸をしながらも体を起こすと早速と部屋を出た。その横には眠っていたと思われたキルも付いてきていた。
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「これだけ大きい国だからもしかしてと思ったけど…凄い…図書館…」
まずは情報を集めようと思った私は国の中にあった中で一番大きい図書館へと行った。といっても本のバリエーションが豊富すぎて実際に必要そうな本は一部だけだった。その中で私が見つけたのは読み飛ばそうと思っていたエンシェントウエポンの項目だった。
「この杖…お母さんの杖?」
そこに書かれていたのはあの杖の作り方だった。杖の部分はミスリル、先端部分に施された宝石は水晶竜の角が使われていた。そしてもう一つ必要なものがこの本には表記されていた。
「オレイカルコス?」
表記されていたものは幻の金属の名前だった。確かオリハルコンという場合もあったかな…。でもこれはおとぎ話の世界だけのお話で普通の人が見たら子供だましな設計図だった。
でも私には完全な子供だましなものと考えることが出来なかった。だってその中にあった杖を私はこの手にとって使っていたから…。
「この本が本当なら…あの杖…半分も力を出せていなかったんだ…」
この本から私は新しい目的となる3つの物を確認することが出来た。
絶滅したと言われている水晶竜の捜索、そしておとぎ話の世界にしか存在しない金属。
「そんなの手に入らないよ…」
思わずため息を漏らしてしまった私にキルは小さく吠えた。ジッと見つめるキルの視線にそれに答えるように私は笑いかけた。
「そうだね…こんなことで諦めちゃだめだよね?ここはたくさん本があるから…もっと探してみよう!」
顔を上げるだけで目に入る何冊あるか分からない程の量の本に私は自然と笑みが浮かんでしまった。
せっかくの部屋だけどここで徹夜になりそうかな…。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.52 )
- 日時: 2014/09/23 17:37
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第14話
「わあ…もう朝になっているよ…」
本を読み続けていた私の視線に窓から漏れた日光が入った。途中から寝ていたキルも朝日に反応し欠伸をしながら目を覚ました。
「キルも起きた?徹夜したのに…結局大きな手掛かりはなかったなあ…」
おとぎ話の中の金属は考えないようにして、私はかつて存在していた水晶竜について調べていた。
以前街で調べた時は水晶の体を持つ一本角のドラゴンですでに絶滅しているという情報まで。
今回調べた情報で新たに分かったのは竜そのものも高い知識を持っていたこと。その竜たちが滅びたのは武器の作成のために当時の人々によって狩りつくされたのが原因で最後に確認されたドラゴンも姿を消したことから完全に絶滅したと考えられた。
「一晩で分かったのはここまでか…でも…なんだか…嫌な話…」
一度ため息をしてから手に持っていた本を閉じて本棚に戻した。
そう言えば今からまたミスリル加工のために行かないといけないんだ…。
「ご飯や宿を提供してもらったんだから仕方ないよね」
キルに視線を向けた私はこれからの予定を考えて徹夜を後悔したまま図書館を後にした。
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数時間に及ぶ講義を終えた私は疲労困憊な状態で部屋に向かっていた。当然ミスリルの加工がうまくいくということはなくお昼過ぎになって疲れの限界から強制的に終了してきた。
「旅人さん!いませんか?」
ようやく到着した自分の部屋の近くにまでやってくるとドアを叩く音と声が耳に届いてきた。
「誰かいるの?」
「あっ!えっと…旅人さんですか?」
部屋の前にいたのは男の子だった。年齢は多分シンちゃんよりも下みたいだから10歳前後かもう少し上くらいだった。服装は緑のフード付きのジャケットを着て白のズボンを履いていた。被っているフードから見えたのは赤い髪と蒼い瞳だった。
「そうだけど…あなたは?」
「僕はピーター。この国では本当は奴隷の階級だけど隠れてここまで来ました」
「奴隷?えっと…一先ず立ち話もなんだし入って」
一先ずと私は扉を開けてから彼を部屋に招き入れてから一先ずとソファーに座らせた。
「ピーターくんは紅茶でいい?」
「えっと…大丈夫です」
見慣れない相手にやや警戒している様子のキルの頭を撫でてから二人分の紅茶をテーブルに置いた。
「それで…いろいろ聞きたいことはあるけど…まずは君が隠れてわざわざここまで来た理由を聞いていい?」
「はい…えっと…僕…どうしても旅人さんに伝えないといけないことがあるんです!」
「えっと…リーネでいいよ?それとこの子はキルね?」
何故か緊張している様子のピーターくんに私は一先ず緊張を解す意味で簡単に自己紹介を済ませた私は紅茶を一口口にしてから改めて視線を正面に向けた。
「それで伝えたいことって何?」
「あっ…はい!今は無理だと思うから今夜中にこの街から出てください!この国はリーネさんみたいに優秀な人にとっては危険なんです」
「危険?どういうこと?」
ピーターくんのいう危険の意味が私には分からずにいた。この国に来てまだ2日目だけどそんな危険な雰囲気は見えなかった。国の外であるあの採掘場を除いて…。
「この国には基本的には旅人さんは入れないんです」
「そうなの?でも私は入れたよ?」
「それは旅人さんがミスリルの加工が出来るからだよ?あの原石の加工は今この国で一番の難問なんだ」
彼の話が本当だとしたらここまでの待遇やミスリルの加工に関してあそこまで執拗に聞いてきたり方法を指南してほしいと言われたことが理解できた。
「でもそれが何で危険なの?」
「リーネさんの場合多分何かしらの理由を付けてこの国から出られなくしてミスリルの加工をずっとさせるつもりだよ?それで逆らえば何かしらの手で無理矢理従わせると思うんだ」
「もしかして…ピーターくんもそうなの?」
ピーターくんの話は具体的すぎて何となく体験談なのではないかと考えられた。そしてここまで考えればピーターくんにもこの国にとって有益な力があるんだと予想できた。
「僕…魔道士なんです。それでその力が採掘に役立つからって…」
「でも…だからって…何で奴隷なの?」
「この国では労働力となった人間についてはみんな奴隷なんだよ…。だから外で働いている皆も元々は旅人だったんだ…」
ピーターくんの話が本当だったら外にいた恐らく50人はいたと思われる人たちがみんな元は私のような旅人だったということになる。
「でも…それで何でみんなは逆らったりしないの?」
「この国には召喚師がいるんだよ?それでその人が呼ぶ魔物がすごく強いから逃げだせないんだよ」
「召喚師?」
ピーター君の話を聞いて真っ先に思い浮かんだのはかつて白騎士と名乗った人。もしかしたらあの人たちが関わっているかもしれない。
「その召喚師ってどんな人?女の人?」
「男だよ。白髪で白い変な仮面を付けているんだ。今は軍の偉い人だよ」
「軍?もしかして採掘場にいた制服を着た人たち?」
「そうだよ。みんな武器も持っているし…」
話を聞いた私は何となく今のこの国の状況やどうするべきなのかを考えていた。そんな様子に気付いたキルは私にじっと視線を向けて来た。
「うん…分かっている…私達が関わったらだめなんだよね…。みんなのためにも…」
「ただ…この国は予定より早く出ようとすると捕まっちゃうから隠れて出ないとだめだよ」
ピーターくんは話し終えると立ちあがって窓に近づいて外に視線を向けた。私はそれに続くように歩み寄ると賑わう街と国境となる塀、その向こうに見える採掘場が私の目に飛び込んできた。
「国の中にあの採掘場に繋がっている隠し通路があるんだ」
「じゃあピーター君はそこを通ってここまで来たの?」
「うん。だからそこに案内するために僕は来たんだよ」
「じゃあ早く出発した方がいいよね?」
出発は夜がいいのが明らかだったけどそれまでにピーターくんが作業から離れてしまうと見つかってしまう可能性があった。そのことからあまりのんびりするわけにいかなかった。
「リーネさんはもう大丈夫?」
「じゃあ行こうか。一応危険な場所も通るから慎重に行こうね」
特に荷物がない私はキルと共にピーターくんについて行った。
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ピーターが案内する通路は街にある下水道が入口だった。鼻の効くキルはそのにおいが耐えられないのか一刻も早く出ようとやや早足気味だった。
「そろそろです。ここから採掘所の洞窟に繋がっています」
ピーターが示したのは通路の途中にある何の変哲もない壁だった。その一部を手で押すとそれがスイッチだったのか壁は横にスライドして扉のように空いた。その中はすぐに採掘場の中と思われる洞窟が見えた。
「ここが採掘場なんだ?」
「そうだよ。ここからは一本道だからすぐに出られるよ」
ピーターの言葉にリーネは出口に向かおうとした時キルが洞窟の奥に視線を向けた。
「キル?この奥に何かあるの?」
「あっ…この奥はやめた方がいいよ?魔物がいるらしいよ」
「魔物?でもどうして奥から出てこないの?」
「よくは分からないけど封印しているみたいだよ?」
ピーターの話を聞いてリーネは何かに呼ばれるような感覚を感じて奥に向かって歩いて行った。
「リーネさん?」
「ごめんねピーターくん…この奥にいる魔物は…多分…」
リーネは言葉を言いかけたところで走り出した。それに続くようにキルも走り出しその後をピーターも追いかけた。
洞窟の奥には4本の柱が四方に配置されておりその中央にいたのは蒼い半透明な体を持った小さなドラゴンだった。
「えっ…あれは…水晶竜…の子供?」
ドラゴンに歩み寄るとそれぞれの柱が光うっすらとガラス張りのような壁が姿を現して進行を邪魔した。同時に中にいるドラゴンも光り苦しむように鳴き声を上げた。
「これ…障壁?」
「リン!」
キルと共に現れたピーターは竜に向かって呼びかけた。ピーターは最初からここにいた物の正体が分かっていたようだった。
「リン?この子のこと?」
「うん…リンは今この国に捕まっているんだ…」
柱の光が収まると中にいたドラゴンは倒れ込みそのまま眠りについた。隣で泣き崩れるピーターに視線を向けたところでキルは急に入口の方に向かい吠えた。
「誰!」
「いいペットを連れているようだな。それもいただこうか?」
入口に立っていたのは白髪の短髪に蒼の軍服を着た男だった。年齢は30はいっていそうで片手にだけ黒いグローブを付けていた。その特徴からこの男がピーターの言う男だとリーネは悟った。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.53 )
- 日時: 2014/09/29 13:12
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第15話
「あなたがこの子にこんなことをしたの?」
「そうだ。そして君やそのペットもこの国に取り込まれるんだ」
リーネは視線を男に向けて視線を向け、それに気付くと男はグローブをはめた右手で指を動かして行くと蒼く光る見たことがない文字が浮かび、それと共に地面に魔法陣が浮かび上がった。
「召喚魔法…やっぱりあなたが…」
「すでに聞いていたようだな。俺はエルク。この国の軍の人間だ」
エルクの言葉と共に地面の魔法陣がさらに強く光りだすと半透明な体を持ち、頭には長い角を一本生えた巨大なドラゴンだった。
「水晶竜?何でこんなところに…」
「これは数年前に手に入った俺のコレクションだ」
エルクの言葉はリーネにとって不快でしかなかった。
「コレクション…あなたは…召喚師じゃないの?」
「召喚獣は友達とか仲間だとかお決まりなことを言い出すのか?」
笑みを浮かべてリーネの思いを見透かすように話していくエルクは片手を前に出すと広い空間をドラゴンが羽ばたき空を飛び始めた。体が光り始めその光が角に集中し始めた。
「あの角…ピーターくん!」
子竜に視線を向けたままのピーターは竜の動きにまったく気づいている様子もなく、次の瞬間光っている角からいくつもの稲妻を発し始め、それとともにキルはピーターを背中に乗せて稲妻を避けていきリーネも攻撃を避けて行った。
「なかなかいい動きだな。とても魔道士とは思えないな」
「魔道士?」
「ミスリルの加工…あれは魔術だろ?」
ドラゴンの攻撃が収まった時リーネはエルクの言葉に疑問を感じた。
————もしかして…錬金術を知らない?
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「キル!ピーターくんを連れて離れて!」
「一人でドラゴンと戦うつもりか」
エルクは水晶竜に対して何か指示を与えているようだった。以前も水晶竜について調べたことがあったけど対魔道士においては無敵のドラゴンだと言われていた。
「リーネさん!僕も!」
「ここで魔法は使っちゃダメ!」
ピーターくんの声に気付きすぐに視線を向けるとすでに魔力を集中させているようだった。それに反応するように水晶竜の角が光り始めると同時にピーターくんに集中していた魔力が拡散して竜の角に吸い取られていく様子が見えた。
「やっぱり…魔力を奪われている…」
すぐに倒れそうになったピーターくんの手を取り転倒しないように体を支えた。キルの背中にピーターくんを寝かせたまま視線を水晶竜に向けた。ピーターくんの魔力を奪ったことで竜の角の光はさらに輝きを増していった。
「この国に逆らったんだ。そのガキはもう用済みだ!やれ!」
「キル!お願い!」
エルクの言葉に従うように竜は再び角から稲妻を辺りに放った。それとほぼ同時にキルの体が青く光り私の前に半透明の障壁を作り出し稲妻を防御してくれた。
「なるほど…主に忠実に従うフェンリルか…ますます手にいれたくなった」
「キルはものじゃないよ!」
「それはどうかな?」
エルクの腕が光ると小さな魔法陣が浮かび上がった。その魔法陣は見覚えのあるものだった。召喚師が使う契約の魔法陣。ただしそれはお互いに認め合って同意が得られた時にだけ効果が表れる術でもあった。
「キルと契約なんてできないよ」
「だからこうするんだ」
エルクの言葉と共に魔法陣は黒くなり魔法陣に描かれていた形や文字の内容が変わった。その魔法陣がキルに向けられるとキルの頭部に魔法陣が浮かび上がった。
「キル!?」
「抵抗するか…どうやら飼い主がいると術が効かないようだな」
キルの輝いていた毛並みが消えるとその場に蹲り、そのまま動きが鈍ったのが分かった。その様子から私の頭に一つの禁呪が浮かび上がった。
「強制…契約…?」
「よく分かったな。この術は魔物を強制的に召喚獣にする術だ。まあフェンリルには効果が薄いようだ。」
術が効いたわけではないと分かり安心はしたけどあの様子だと戦闘は無理なようで、その場にしゃがみ込んでしまった。
「では少し痛めつけるとするか」
エルクの指示と共に水晶竜の角が光り始めたのを確認する中、私は対処を考えていた。
文献から水晶竜はブレスのような攻撃はなく角に集中した魔力を使い戦うのが種だと言うことは分かっていた。そして最大の武器は高い防御力だった。そして弱点は力の供給源である角だと伝えられていた。
ただそのためにはあの稲妻をすべて防いで角に触れる必要があった。そしてその方法が今の私には思いつくことが出来なかった。
「やっぱり…これしかないよね…」
瞳を竜に向けると角から撃たれた稲妻が眼前に迫るのが見えて私に直撃した。
正直言うと痛みはなかった。
意識が飛びそうになって体から力が抜けていく感覚だった。
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「リーネさん!」
ピーターの呼びかけにも答えることなく稲妻をまともに受けたリーネはその場に膝をつきその場に崩れ落ちた。
「まともに受けたんだ…ここまでだな…」
「そんなこと…ないよ…」
「なんだと!?あの稲妻を受けてなぜ生きていられる」
エルクの言葉に対してリーネはゆっくりと体を起こした。当然立ち上がれるわけがないと考えていたエルクとピーターは驚きの声を上げた。
「流石に…全部は流しきれなかったかな…感電なんて初めてだよ…でも…もう効かないよ」
「どんな手を使ったかは分からないが次はどうだ!」
すぐさまエルクはドラゴンに指示を出す様子に気づくとリーネの指輪の一つが微かに光った。
「エルクさんだっけ?雷は知っている?」
「急に何を言い出すんだ!」
リーネからの言葉に対してエルクは無視するように竜に指示を与えると当然のようにその角から稲妻がリーネに向けられて放たれた。
それと共にリーネが片手を前に出すと稲妻はリーネから全く違う方向に曲がりまったく見当違いな位置に着弾した。
「何!?攻撃が逸れた!?」
攻撃が思わぬ形で外れたことに動揺している間にリーネは地面に手を当てると再び指輪が光り地面がそのまま柱のように伸びていくと水晶竜に飛びついた。
「ごめんね…このままじゃあなたにもよくないから…」
その言葉と共に角に手を触れさせるとその角は容易に折れた。
力の源を破壊したことで力を失ったドラゴンはそのまま地面に落ちて行った。
「お前何者だ…魔術はこいつが魔力を吸収して使えないはずだ!」
「魔術なんて使っていないよ…理に手を加えただけ…」
「理?」
「雷は地面に向かって進む時、通りやすい経路で進むの。そしてそれは水分を含んだ湿った空気のことだよ。だから最初は捌ききれなくてその分が当たったけどもう私には当たらないよ」
リーネは手に持った角に視線を向けるとピーターに歩み寄りその角を手渡した。
「ごめんピーターくん。これ預かってもらっていていい?」
「う…うん…リーネさん…あなたは…」
「私は錬金術師。私のお父さんの言葉を借りると世界の理を力にする術師かな?」
水晶竜の角を預けたリーネはピーターの頭を撫で笑顔で笑いかけた。そのまま視線を障壁の中に閉じ込められた小さな水晶竜に向けた。
「待っていてね?あの子も助けてあげるから…」
「リーネさん…お願いします…」
視線を下げたピーターの瞳に一瞬見えた大粒の涙をリーネは見逃さなかった。
ゆっくりと立ち上がったリーネは視線をエルクに向けた。その瞳は普段とは違い鋭いものだった。
「いつもはこういうことは言わないけど…許せないよ…召喚獣…みんな解放してもらうよ」
「召喚獣を倒したくらいで調子に乗るなよ…術者が召喚獣よりも弱いわけがないだろう?」
「関係ないよ…あなたは絶対にしてはいけないことをしているんだよ…許すわけにはいかないよ」
リーネの言葉に構う様子もなくエルクは服の中に隠していたチェーンを手に握った。それに対してリーネも身構えた。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.54 )
- 日時: 2014/10/04 16:51
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第16話
リーネは目の前にいる敵であるエルクを見据えた。手に握られたエルクのチェーンが何をしてくるか分からないことから動きの一つ一つを見逃さないようにするために。
「行くぞ」
エルクがチェーンを振り下ろすとチェーンの長さが変わり伸び、向かって来たそれを黙って横に避けたリーネはそのまま手を伸ばしチェーンを掴んだ時、違和感に気付いた。
「ただの鎖じゃない?」
「そのとおりだ」
リーネの言葉と共にチェーンは意思を持つようにり根の体に巻きつきリーネの両手の動きを封じた。
「このチェーンには俺の魔力が通っていて自由自在に動いて身動きを封じる」
「そうだね…触ったら分かったよ…」
「ずいぶん落ち着いているな…だが…このチェーンは対象の魔力を吸収する。」
「それは…私でも悪趣味だと思うよ…」
リーネの言葉と共にチェーンは黒い黒く光り始めた。そんな中でリーネは動じることもなくただエルクを見据えていた。そんなリーネを見るエルクの表情は少しずつ青褪めて行った。
「なっ…何で…」
「もう終わり?」
リーネの静かな言葉と共にリーネに巻きついていたチェーンは砕け散り、衣服に付いた金属の粉塵を幌ってからエルクにゆっくりと歩み寄った。
「お前何者だ!魔力がまったく吸いとれない人間はいないはずだ!」
「無理だよ…私には吸い取るものがないから…」
「魔道士とか関係ない!生き物は魔力で構成されている!魔力がないなんて化け物だろ!」
「じゃあ化け物でもいいよ…」
その一言と共にエルクに飛び込んだリーネは手を伸ばしエルクの腹部に触れた瞬間、急激な衝撃が発生しそのままエルクは吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
「みんなに掛けた術を解いて…」
「そうは行くか…こうなったら他の召喚で…」
「そこまでだ…」
エルクの一言と共にその頭上に魔法陣が出るとそこからいくつもの鎖がエルクの手足に巻きついて身動きを封じた。
「何だこれは!?召喚か?」
「お前の使うそれとは別だがな…」
リーネが入口になる方向に視線を向けるとそこに立っていたのはリーネが知っている人物だった。
「白騎士…L…?」
「まさかお前がここにいるとはな…おかげであいつが出たがっている状態だ…」
普段見るLとは違って今回は男の姿だったLは話していきながら身動きを封じたエルクに歩み寄った。
「リーネさん…あの人は?」
「私の敵だよ…隙なんかないと思うけど…その時は逃げるよ?」
ピーターに簡単に説明をしていくとリーネはエルクの前に立ち止まり背中に納めた大剣をゆっくりと引き抜くLの姿を確認した。
「まさか…ピーターくん!見ないで!」
Lの次の行動を理解したリーネはすぐにピーターの前に移動して視界を遮り、同じく察したエルクの表情は恐怖に引き攣りその場から逃げだそうと暴れ始めた。
「無駄なことはやめておけ…せめて苦しまずに送ってやる」
その一言と共に振り上げた大剣がエルクに向けて振り下ろされた。
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Lから視線を切る訳にいかなかった私には大剣によって肩から斜めに切断されていったエルクの姿がしっかりと目に焼き付けられた。
「ここまでだな…ファントム…喰っていいぞ…」
Lの一言共にエルクだったものに影が覆われていき影が覆い尽くした瞬間エルクの姿が跡形もなく消え去った。エルクがいなくなったことでキルに掛っていた魔法陣は消え去り起き上がった。
「さて…ここまででいいな…」
「どうして…何もそこまでしなくてよかったでしょ?」
「甘いな…敵は確実に仕留めるお前も本来ならこうなっていたが…いいだろう…」
Lの様子をうかがっていた私は標的を狙う視線が後ろにいるピーターくんに向けられていることが分かった。
「あなたの目的は何?もう標的は倒したんじゃないの?」
「いや…まだ終わっていない…」
「どういうこと…?」
Lの言葉とここまでの行動、そこから導かれた答えはあまり考えたくなかった。
「分からないか?俺の今回の標的はこの国その物だ…」
「国そのもの?な…なんで?」
「この国は禁呪という踏み入れてはいけない領域にまで入ってしまった。そしてそれを知りながら何もしなかった国民達…。それを消すために俺はここに来た」
Lの言葉に私はゆっくりとピーターくんと共に距離を取った。不安そうな様子を見せるピーターくんにキルは寄り添っていき警戒した。
「リーネさん…」
「大丈夫…絶対に守るから…」
「この世には絶対はない…」
一言と共にLの前に現れた新しい魔法陣は黒く禍々しいという言葉はこういう時に使うものなんだと考えてしなうほどに嫌な雰囲気を出していた。
「お前はこの世にあるもの…万物を司るものを使った攻撃が効かない…」
「…それがどうしたの…?」
「だからこの世にない攻撃を使おう」
その言葉に次の攻撃が予測できなかった私は身構えた。次の瞬間に見えたのは黒い稲妻だった。咄嗟に今まで同様に攻撃を逸らそうとしたけどそれは逸れることなく直撃した。
「う…あ…あ…」
「魔界の雷だ。特性はこの世のものとは全く違う…これでしばらくは動けないだろ…」
先に受けたものとは全く違う衝撃に声も出ず全身から力が抜けていく感覚に襲われた。指先一つ動かせず木が付いた時には地面に倒れている自分に気付いた。体は動かないけど何とか頭だけでも上げようとすると視界に入ったのはLに飛び込んでいくキルと私に駆け寄ってくるピーターくんの姿だった。
ピーターくんは何かを私に向かって話しているようだった。でもその声は聞こえず徐々に意識は薄れて行った。
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リーネは頬に感じた温かい感触に目を覚ました。全身に走る痛みに表情を歪めて立ち上がると辺りを見回した。そこにはすでにLの姿はなかった。真っ先に目に着いたのは息絶えた水晶竜、そして障壁がなくなり壁に寄りかかった主人に抱かれた子供の水晶竜だった。
「ピーター…くん…?」
呼吸を乱したまま動こうとしないピーターにリーネは歩み寄って状況に気付いた。胸は赤く染まり大量の流血がすでに手遅れであることをリーネに教えた。
「リ…ネ…さん…?ご…めん…」
「ピーターくん!…ごめんね…守るって言ったのに…」
「ううん…守って…くれたよ…最後に…リンと話せたから…」
ピーターは震える手を小さな水晶竜に伸ばすと頭を撫でて話していった。
「リーネさん…リンで…練成をしてほしいんだ…」
「リンで?」
「水晶竜は死んでから数分は特別な金属になるらしいんだ…だから…」
「…分かった。待っていてね?最高の練成を見せてあげるからね?」
リーネは先に預けていた水晶竜の角、辺りにたくさんあるミスリル、そして水晶竜の亡骸をピーターの前に並べた。
「じゃあ行くよ?錬金術師リーネの一世一代の練成だからね!」
本当は体がぼろぼろで立っているのも辛い状態だった。そんな中でもリーネはピーターに笑顔を向けてから錬金術を発動させた。光に包まれてできたものは銀色に輝き先端は翼を象った装飾と蒼く輝く宝玉が施された杖だった。
「綺麗な杖…」
「リンのおかげだよ…君達のおかげでこの杖はできたんだよ?」
「うん…リーネさん…ありがとう…」
ピーターの表情は安らかなものだった。ピーターのためにも笑おうとしたリーネの頬を涙が伝って行った時、ピーターの瞳は閉じられた。
————何一つ守ることが出来なかった…
自分の無力感から拳を振るわせたリーネはピーターの前で崩れ落ち、涙と共に言葉にならない声が辺りに響いた。
- ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.55 )
- 日時: 2014/10/09 17:22
- 名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)
第17話
国の外に出ると街の中は破壊の限りを尽くした後で私の見た街並みは完全な廃墟となっていた。そしてその中には私やキル以外に生きているものはいなかった。それどころか…
「誰ひとりいない…」
廃墟の中にはそこに住んでいたと思われていた住人達の亡骸は一切見つからなかった。その理由はすぐに理解できた。
「あの召喚獣…だね…」
思いだしたのはLの動きを止めてその亡骸を飲み込んだ召喚獣。そして私に攻撃した召喚獣も恐らく同じものだと思う。
いつの間にか俯いてしまっていた私をキルは服を引っ張って進行を促した。
立ち止まってしまってはいけないと私に言い聞かせてくれている。
そう私に考えさせるほど今の私はキルを頼もしく感じさせ次にしなければならないことを私に示してくれた。
「そうだね…私達の街もこんなふうにしないためにも…帰らないとね…」
街に来て数日しか経っていない私に命をくれたあの水晶竜…そして私を助けようとしてくれたピーターくん…。Lはこの国自体の存在を否定したけど必ずしも全部が悪いというわけじゃない…どんなものでも必ず違う一面があると思う。その証がこの杖だから…。
「帰るよキル。一度みんなに中間報告だよ」
キルに視線を向けた私は笑顔を浮かべながらもそうやって誤魔化していたんだと思う。不安に押しつぶされそうな私の心に対して…。
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「酷いよ…せっかくリーネちゃんと再会できたのに貴方だけ話すなんて…」
Lは中にいるもう一人の青年に向けて話しかけていた。むっとした様子を見せたまま暗い廊下を歩き続けると一つの部屋に入り椅子に座り込んだ。
「ずいぶん早く来たな」
「ちょっと仕事が早く終わったの。誰そいつ?」
「初めてだったか…こいつがIだ」
Iは黒のローブで体を覆ったまま特に何かを話すわけでもなく黙って席に着いた。無表情のままのIに対して珍しく反応を示さないLはJに視線を向けた。
「それで?Kの後任は決まったの?」
「ああ…もう間もなくその予定の後任が到着するぞ」
Jの言葉と共にドアが開くと入ってきたのはR、G、Nの3人だった。その様子を見たJは定位置になっている席にいつものことのように座った。
「後任はRだ。総合力を考えるとこいつが一番の適任だからな」
「ふーん…Rなら私は文句ないかな…I。貴女は?」
IはLの問いかけに特に答えることなく緩い頷きだけをして答え、そのことに対して特にRは気にする様子もなく部屋の壁に寄りかかった。
「それで?このメンバーでKの街を襲撃するの?正直過剰すぎない?街が跡形もなくなるわよ?」
「俺の記憶消去を解除できる可能性がある街だ。それぐらいしないと意味がないからな…」
「ふーん…Jも案外評価しているんだ」
「あわよくばZも動くそうだ」
Jの最後の言葉はLや周りの人物は当然、無表情だったIも驚きの表情を浮かべた。
「Z…動くの?」
「さすがのIも気になるか?それほど組織としては緊急な事態と判断したんだろ?組織の中核だったK、そして俺の術を解除できる存在。この2つがある時点であの街はそれだけの価値がある場所だ」
Iの問いかけにJが説明をしていくと全員が納得をしたのかその後の話を黙って聞いて行った。
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「ようやく腕が動くようになったわね」
「しかし骨折しておいて治るの早すぎだろ…」
庭で空を切るような拳を何度も振るう様子を見るバードは呆れたようにその様子を見ていた。戦闘というわけでなかったせいかいつものような鎧は装備せずに軽装な状態でバードは地面に座りこんでいた。
ほんのほぼ一カ月近く前に腕の骨を砕かれたカグヤはフランの治療により通常の何倍もの速度で完治に成功した。ただしここまで完治が早いのは本人の治癒能力の高さも影響しているとも言える。
「でも正直大変だったのよ?私には永遠とも感じれる程の座禅よ?」
「まあ同情はするけどそこでしっかり休んだから早めに完治したんだろ?」
バードとカグヤが話をしている中でシンはコートと帽子を取った状態で庭に入っていった。
「ずいぶん完治したみたいですね。もう大丈夫なんですか?」
「ええ。むしろ体を動かしていなかったせいで訛って仕方なかったわよ。というわけで…ちょうどいいから相手をしてよ!」
「まあ…いいですけど…いきなり動いて平気なんですか?」
「問題ないわよ!」
シンの言葉に答えるように拳を振るうとすぐに一歩下がって拳をかわしたシンは腰にかけていた訓練用のナイフを抜いて逆手に持ったまま斬りかかり、それに反応して同じく一歩下がったカグヤはそのまま続けて攻撃をしようと一歩を踏み込もうとした時に足にうまく力が入らずにその場に倒れ込んだ。
「おいおい…大丈夫かよ!?」
バードの問いかけに対して倒れたまま黙り込んだカグヤに二人がかりでその様子を確認していると突然起き上がったカグヤに驚いた。
「…め…な…い」
「カグヤ?大丈夫ですか?」
「こんな訛った体が私のわけがない!走ってくるわ!」
大きく決意の言葉を響かせるとそのままカグヤは庭を出て街中へと走っていった。
「余程悔しかったんだろうな…」
「約1ヵ月の殆どを座禅で過ごしていましたからね…衰えない方が変ですよ…」
カグヤと入れ替わるように家から出て来たのはキルとサクヤだった。カグヤが見当たらないことでサクヤは辺りを見回していた。
「あら?カグヤちゃんは?」
「訛った体を鍛え直すために走っていったぞ」
「バードさん…もう少し言い方はないんですか?」
バードの言葉に訂正を求めるシンの様子にサクヤとキルは笑みを浮かべ、クロを抱いたサクヤは普段カグヤが使っていた作業用の椅子に座り、キルはいつものことのように訓練場に向かった。
「さて…カグヤはしばらく個人トレーニングとして…こっちはこっちで始めるか」
「と言っても俺はもういいんだろ?」
「バードは元々能力があったみたいだからな。シンについては基本的な能力を上げるしかないな」
得意げに話していくバードにムッとしたシンはその場で準備運動を始めて行った。右手には先に用意した訓練用のナイフ、反対の手にはリボルバーのマグナムを手にしていた。
「それでもバードさんには負けているつもりはありませんけどね」
「まあ…総合的にはシンの方が上かもな…」
「おい!何だよ二人とも!分かったよ!俺も走ってくるからな!」
二人係で実力不足と言われたバードは脱いでいた鎧を着込み準備を済ませるとそのまま走っていった。バードに対してはキルはできる限りのアドバイスはしたものの分野外な話は概ね別の人間に任せていた。
「さて…俺達も始めるか…俺が教えられるのはこいつだけだからな…」
「分かっています。今日もよろしくお願いします」
銃を抜くキルを見るとシンも銃弾を込めて修行の準備を始めた。
鎧を着込んだバードは待合の予定だった街の外の森の中に来ていた。街中での修行になるとバードの場合周りに被害が及ぶ場合があるからと選んだ場所でもあった。
「お待たせしてしまいましたね」
「いや…リンクさんはフィオナさんや所長のカバーで忙しいですからね」
長髪の金髪にメガネを掛けたリンクは片手にレイピアを持って歩いてきた。経理の仕事が忙しいことからこういった普通の時間に会うのは難しいもののバードのために時間を取ってくれたのだった。そして礼儀などにうるさいことから流石のバードも彼の前では敬語になってしまっていた。
「それでもなかなか付き合ってあげられなくてすみませんね」
「いえ…むしろ付き合ってくれて助かりますよ」
リンクが鞘から抜いたのは曲がりやすい殺傷能力がないレイピアでそれに対してバードは帯剣を抜いて構えた。
「いつでも始められますよリンクさん」
「じゃあ始めましょうか」
お互いに武器を構えたまま話していくとそのまま修行という名の模擬戦を始めた。
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