複雑・ファジー小説

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ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
日時: 2015/02/18 00:42
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。


一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。 

しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。

そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる

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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。

更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。

・更新履歴

 11/3 3部21話追加
 11/7 3部22話追加
 11/14 3部23話追加
 11/22 3部24話追加
 12/3 3部25話追加
 12/10 3部26話追加
 12/17 3部27話追加
 12/20 3部28話追加
 12/26 3部29話追加
 12/30 3部30話追加
 12/31 人物詳細2追加
 1/4  3部31話追加
 1/7  3部32話追加
 1/10 3部33話追加
 1/14 3部34話追加
 1/18 3部35話追加
 1/23 3部36話追加
 1/25 人物詳細3追加
 1/31 3部37話追加
 2/4 3部38話追加
 2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止


・本編

 第1部
 人物紹介
 キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5

 第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
 第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
 第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14

 第2部 
 人物紹介
 リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16

 第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
 第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
 第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
 第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34

 第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
 人物データ1>>36
 人物データ2>>46

 第0話>>37
 第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
 第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
 第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
 第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
 第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
 第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
 第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
 第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78

 人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
 人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
 人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76

・筆休め・気分転換
 番外編

 白騎士編 
 >>79 >>80

 2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35

 軌跡
 7/18 参照400突破
 10/14 参照600突破
 12/7 参照700突破
 1/28 参照800突破

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.56 )
日時: 2014/10/15 23:15
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第18話

街を一通り走って公園の広場に着いたカグヤはいつもの日課で役所の広場に来ていた。普段はここで座禅が日課だったものの今日は腕立てをしていた。そんな中で来たのはカグヤに魔術の

「あら?今日は筋トレ?」
「あっ…フィオ姉…魔術に集中し過ぎて全体的に筋力が落ちてしまっていたのよ…」
「魔術の取得には仕方ないけど…でもカグヤちゃんの場合はいいのかな」

カグヤの様子を見てから簡単な確認を終わらせてフィオナは早々にその場から離れて行った。

「ちょっと!何もないわけ!?」
「私も暇じゃありませんから。それに今日はリンクくんもいないから私が働かないといけませんから」
「リンクさんが?珍しいわね」
「今頃バードくんは苦労してそう。多分私よりきついわよ?」

一人笑みを浮かべてから手を振っていくフィオナをカグヤは見送りどんな修行何だろうと気になりながら修行を繰り返していった。

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森の中でバードは大の字に転がったまま疲労からか呼吸を乱していた。数メートル離れた場所では倒された大木に座り本を読むリンクの姿があった。

「そろそろ休憩は終わりですよ」
「えっ?ちょ…ちょっと…ま…まだ…」
「そういって敵は待ちませんよ」

バードの言葉に答えながら本を閉じレイピアを抜いたリンクは倒れたままのバードに飛び込み、それに対してすぐにバードは体を反転して迫ってきたレイピアを避けた。かわされたレイピアは地面に突き刺さりその衝撃で地面に亀裂が入った。

「ちょ…今の俺がかわさなかったら串刺しですよ!?」
「当たり前ですよ。そうなるように攻撃しましたから」
「リンクさん…もしかして俺でストレス解消していませんか?」
「そんなことありませんよ」

レイピアを引き抜いたリンクは軽くレイピアを振り構え直した。それに対してバードも剣を構え直してリンクに向き合った。

「ここまでは普通の攻撃しか使いませんでしたが貴方がここからは克服すべき攻撃パターンで戦いましょう」
「克服する必要がある攻撃?」

バードの言葉に答えることなくリンクはレイピアを鞘に納めるとカチャリという音と共にレイピアを構え直した。

「これなら当たっても問題ないでしょう。痛い思いをしたくなかったら集中してください」

リンクの言葉に無言で頷いたバードは攻撃に備えようと身構えた。
次の瞬間リンクはバードに飛び込んでレイピアによる突きを放った。ただしその剣速は今までバードが受けて来たものを遥かに超える速度で一撃目をガードしようとした瞬間にはレイピアが命中し、体が一撃目をガードしようと遅れて体が動いた時には二撃目が命中しまったくガード出来ずにバードはその場で片膝を付いて崩れた。

「こ…これは…」
「君が克服すべき攻撃です。貴方はこういった高速の攻撃が極端に苦手ですから」

リンクからの説明を聞いていながらも今のバードの頭に入って来なかった。
バードが受けた攻撃は今までに受けたことがないものだった。早さは当然ながら一撃一撃も重く普段見るリンクからは想像できないものだった。

「なんで…こんなに強いのに…」
「私のことはいいでしょう?それよりも…聞いていなかったようなのでもう一度始めましょう。最終的にはこれくらいは受け切ってもらいます」

バードが立ちあがるとリンクは再びレイピアを構え直した。

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銃声が辺りに響きそれと共に台の上に配置されていた鉄板が倒れた。続け様に横に並んでいるまとも倒れて行った。

「ずいぶん正確さが増してきたし早撃ちもできて来たな」

的を元に戻しながら俺はシンが撃った的を元に戻していた。
正直あの年齢でここまで銃を使いこなせる奴は初めてだった。それほどにここまでの旅が過酷だったのかと考えてしまった。

「しかし…お前はここに来る前は何をしていたんだ?銃の扱いにかなり慣れているよな」
「父から習いました。元々僕の家族は狩人でした…。でもある魔物に僕の家族は殺されました…」
「そうだったか…それでそれだけ銃やナイフが使い慣れていたのか」

こうしてシンの話を聞くとこの街には何かしらのつらい過去を持っている奴が多い気がした。そういう意味ではこの街には何か引き寄せる力でもあるように感じた。

「キル。早く配置してください。次が始められません」
「ん?ああ…悪い…」

シンの言葉で自分の動きが止まっていたことに気付いた。俺はすぐに的を並べ直し始めると立てた的が倒れた。もちろん銃弾で倒れた訳じゃなかった。地面の底から響いてくる地鳴りによるものだった。

「何だ?」
「地震でしょうか?」
「サクヤ!一先ず家に避難していてくれ」
「分かった。二人は?」
「俺らは…」

サクヤからの問いかけに対して辺りを見て大きな被害が見られないことを確認した。その間には出かける準備にとコートと帽子を装備し、カグヤが置いて行ったローラーブレードといつも身に付けたポンチョを持った。

「行きましょうか。多分カグヤもあっちにいますし」
「そうだな…というわけだサクヤ。役所を見てくるから留守番を頼む」
「分かったわ。じゃあ私は御飯を作っているね?」

家に戻っていくサクヤを確認してから待たせてしまっていたシンと共に役所に向かい移動をした。街自体は幸い破損は見られなかったものの慣れない地震だったことから建物から殆どの人々が出てきていた。



役所にまで到着すると別で行動していたバードやリンクが役所に戻って来ていた。カグヤもトレーニングを中断していた。

「二人とも遅いわよ」
「すみません。街を確認しながら来ましたから」

文句を言うカグヤに対してシンは特に動じる様子もなく持ってきた装備をカグヤに渡した。自分の装備を身につけるカグヤを他所に俺はこういった時に一番頼りになる人物を探した。

「フィオナはどこかに行ったのか?」
「フィオナさんは今レクス所長に被害状況を報告に行きました」
「そうか…原因は分かったのか?」
「それが何も言わずに戻っていきましたから」

リンクの話が終わったころにカグヤは着替えを完了させており一人で素振りを始め、バードはシンといつものように何か話をしているようだった。

「あら?しっかり集まっていたみたいね」

フィオナの言葉に一同は視線が向けられた。そんな様子にフィオナは満足げに頷くと本を開き呪文を唱え始めそれと共に本が光始めると頭の中に映像が浮かび上がった。それはいつも行き慣れた森と山だった。

「みんなの頭に映ったかな?原因はこの山みたい」
「こんな山があったんだな…」
「ああ…キルは知らないよな長々と噴火はしていないが火山なんだ」
「火山?」
「噴火してもここまでは一応被害が届きませんが念のためにとフィオナさんが時々確認しているんです」

バードの説明にシンが補足してくれて何となく映像の場所のことについては理解できた。流れから考えるとこの火山が先の地震の原因であると考えられた。

「それで!ここの調査の必要があるの。場合によっては沈める必要もあるし」
「沈める?そんなことできるのか?」
「うーん…多分直接行けばなんとかなるかなぁ…」

実際にフィオナの魔術を見たことがある訳ではない俺はどうやって沈めるつもりでいるのか分からず首を傾げ、他のメンバーは特に心配をしている様子もなく出発の準備をしているようだった。

「とりあえず…リンクくんは役所でお留守番。それで…今回の護衛はシンちゃん、バードくんにキル。カグヤちゃんも来てくれると助かるわね」
「いつも思うけどフィオ姉って護衛いる?一人で問題なくない?」
「少しでも私も楽に進みたいの。それに今回は魔物がいるみたいだからね」

フィオナの話から俺達3人はどうやら拒否権がないようでシンとバードは出かける準備を始めていた。
カグヤにおいては魔物と聞いてやる気を出したようだった。

「仕方ないな。まあ…このメンバーなら問題ないだろ」

全員がやる気を出した状態で俺一人だけ行かないわけにいかない。それに火山に影響を与えかねない魔物自体にも興味がないわけではなかった。

「じゃあみんなのトレーニングの成果を試す意味でもちょうどいいでしょ?」
「もしかして…それで俺らを選んだのか?」
「さあ?どうでしょうね?」

正直こいつは何を考えているのか俺には分からないが何故か頼りになるような雰囲気がこいつにはあるような気がした。そのことが原因か危険度が未知な任務なのにも関わらず安心して挑むことができそうだった。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.57 )
日時: 2014/10/23 21:00
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第19話

街から数キロ離れた森の中で5人は火山に入る前の準備にと入山口の広場で昼食を食べていた。早々に済ませたキルは今のうちにと銃弾と銃の調整、バードとフィオナはすでに一人分は食べ終えているにも関わらず食事を続け、シンとカグヤはフィオナから聞いていた火口内のマップを確認していた。

「というか…火山の奥まで行くなんて本気で言っているわけ?」
「もちろん。場合によっては火山を抑えないといけませんから」

簡単に説明していくフィオナの言葉にやや疑問を感じながらキルは銃を納めて立ち上がった。食事を終えたフィオナは本を開いてリラックスしておりバードにおいては昼寝をしている始末だった。

————やる気あるのかこいつら…

これから何があるか分からない状況なのにも関わらず普段と変わらない他のメンバーに関心を通り超えて呆れてしまったキルは大きくため息を漏らした。そんな様子のキルに気付いたのかフィオナは笑みを浮かべたまま立ち上がった。

「さて…キルも待ちくたびれたみたいだから行きましょう」
「いや…そんなことないぞ」
「いいの!どうせ私は準備できたし!」

ただ本を読んでいるだけにしか見えなかったキルに取っては準備の意味が理解できなかったが本人が出来たと言うので問題ないと判断した。
フィオナの言葉でカグヤは運動の準備にと屈伸を始めシンはやはり眠ったままのバードを蹴って起こした。

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山登り自体はさほど体力を消費することもなく進行できた俺たちは加工への入口である暗い洞窟へと足を踏み入れた。最も暗かったのは最初だけで数刻歩き続けると赤い灯りが熱気と共に見え始めた。

「おいおい…これはさすがにやばいぞ…」
「溶岩…ここまでしっかりは初めて見ました…」

洞窟を抜けて目には行ったのは巨大な筒抜けな空間と山に沿って螺旋状にできた通路。ただしその通路から足を踏み外せば下に見える溶岩にそのまま落ちてしまう。

「それにしてもこの道…誰かが作ったのか?ここまでしっかりと下に続く道が自然にできないだろ?」
「ああ…これはフランくんにお願いしたの」

鬼か…。と考えたのは恐らく俺だけじゃなくてここにいる全員だろう。

「さて…ここからは生身だと大変だから…術を掛けておくね」
「術ですか?」

シンが俺達の疑問を問いかけてくれると答えながらフィオナは本を開き、術を唱え始めるとそれにより俺達とフィオナに薄く青い光が掛けられた。その瞬間それまで暑かった感覚が消えて普段と変わらない環境になったようだった。

「これで完了!」
「へえ…あんなに暑かったのに…これなら普段と変わらずに動けそうね」
「環境適用のための術だからね。ただ溶岩に落ちたら当たり前だけどアウトだから気を付けてね」

カグヤに対して追加するように説明をしていくと早速とフィオナは螺旋の道を下りて行った。
螺旋の通路の一番下まで視線を向けて行ったものの最下層にある広場まで魔物らしい姿は見当たらなかった。

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「特に何もいませんでしたね…」
「フィオナがミスなんて珍しい話だな」
「バードさんはいつもですからね…」

シンとバードが話している間フィオナは特に何か言うわけでもなく数メートル下を流れている溶岩に視線を向けて歩き回っていた。キルも同じようにフィオナとほぼ対角線になるように歩きながら確認していた。

「うーん…おかしいなあ…明らかに何かいた筈なんだけどなあ…その割に以前より活発な気がするし…」
「でも何もいないしどうするの?」

カグヤの問いかけにため息をしてから中央に集まるメンバーの元に歩き始めた時だった。溶岩から赤く巨大な尻尾がフィオナを横薙ぎに跳ね飛ばした。

「フィオナさん!」

咄嗟のことでシンの声が聞こえるまで何が起きたか分からずそのまま溶岩に落ちていくフィオナを見ていることしかメンバーにはできなかった。

「こいつか!」

キルはすぐに魔物の存在を察知して今まで通って来た通路に視線を向けると炎の鬣を持つ赤い4つ足の魔物が何体もこちらに向かってきていること、そして溶岩の中から数メートルはある赤いドラゴンが姿を現した。

「フィオ姉!」
「おい!フィオナ!」

今にも溶岩に向かって走り出そうとしているカグヤとバードに対したシンは無言で両手を出して二人の進行を制止させた。

「駄目です…このまま近づいたら二人も落とされてしまいます…」
「おい!だからって放っておくのかよ!」
「このまま行ったら僕らまで魔物の餌です。助けるなら…安全を確保してからです…」

拳を振るわせるシンの様子に気付いたバードは一度深呼吸をしてから大剣と帯剣を引き抜いた。その横ではカグヤがすでに魔物と戦おうと準備運動をしているようだった。

————俺が言うまでもなかったか…

3人の様子を見たキルは小さく笑い銃を引き抜き、視線を魔物達に向けて行った。

「あの四足は12…それとドラゴン…俺の見立てだとあいつらがB、このドラゴンはAの下級と言ったあたりだな」

すでに視線を目的の魔物達に視線を向けているメンバー達の様子に安心してからキルは魔物達で一番手強そうなドラゴンに視線を向けた。赤いうろこに覆われ口からは呼吸するごとに噴き出した小さな炎、特徴を見ていく限り直接的な攻撃は危険だと考えられた。

「さて…こいつはどうするかな…」
「とりあえず私がやる方がいいでしょうね」

キルの呟きと共にドラゴンの頭上に蒼い魔法陣が浮かび上がると辺りの熱気さえも忘れそうな冷気と共にいくつもの氷の槍がドラゴンや当たりの魔物に向けて降り注いだ。

「な…なんだよこれ…」
「これは…魔法…ですか?」
「こんな場所で氷の魔法って…うそでしょ…」

突然の魔法に驚いたのは3人や魔物だけでなくキルもだった。ただしそれは魔法いついてのことではなかった。

「確かに一撃目はもらうとは聞いていたが溶岩に落ちるとは聞いてなかったぞ?」

キルの言葉に驚く3人に答えるように溶岩から出て来たのはフィオナだった。まるで水の中から出るように陸地に上がってきたフィオナの体は白い光に覆われており片手に持った本を閉じるとその光も消えた。

「フィオナさん…大丈夫なんですか?」
「大丈夫。これでも冷気の魔法は一番得意だからね」

シンの心配さえも不要に感じるほどにフィオナの体は無傷ですぐにドラゴンに視線を戻した。

「というか説明してよね!聞いていたって何よ!」
「それは魔物退治を終わらせてからにしろよ」

カグヤの疑問に対してキルは一時的に制止を促し魔物に集中させた。魔法に怯んでいた魔物達も態勢を立て直すとそれぞれが飛びかかってきた。

「とりあえず一人4匹の割合だったよな!」

その一言と共に飛びかかってきた魔物達をバードは大剣で一度に5体の魔物を吹き飛ばした。吹き飛ばされた魔物達は溶岩に落とされていった。

「バードさん…力加減また間違えましたか?これはリンクさんに報告ですね…」
「ちょっと待てよ!せっかく助けてやったのに!」
「助けなんていりませんよ…」

言葉を発したままシンはマグナムを一体一体の頭部に銃弾を放ち倒れて行った。当然のようにその銃弾はカグヤの分の魔物にも命中していきすべての魔物を撃退してしまった。

「ちょっと!何で私の分も倒してしまったのよ!」
「すみません…ひさしぶりの実戦でしたので…」

特に反省をする様子もなくシンは銃に弾を込めていった。怒るだけ無駄と考えたカグヤはため息をしたまま視線をドラゴンに向けるとキルは何もしている様子はなくフィオナがドラゴンと対峙していた。

「ちょっとキル!あんた何しているのよ!」
「フィオナが一人でやるっていうからな。面白いものが見られるかもな」
「おもしろいものって何よ」

キルの言葉に魔物を撃退し終えた二人も駆け寄ってくるとその様子を遠目で見ていたフィオナは笑みを浮かべて本を開いた。

「じゃあいい機会だし…本気を出そうかな」

楽しげな口調でドラゴンに視線を向けるとフィオナの足元に魔法陣が浮かび上がり、ドラゴンは一歩ずつ後ずさりし大きな怒号上げて威嚇を始めた。

「元気がいいみたいだけど…眠っていてもらうね」

その言葉と共にフィオナの頭上に大きな氷が一か所に集まり大きな塊になった。その大きさはフィオナ本人の数倍の大きさになっていた。

「さあ…久しぶりの運動だよ…テオ」

フィオナお呼びかけと共に氷は砕け散りその中から出て来たのは氷の体を持つ目の前にいるドラゴンとほぼ同じ大きさのドラゴンだった。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.58 )
日時: 2014/12/03 15:37
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

第20話

「ただものじゃないとは考えていたが…召喚師だったか…」
「あら?私はあまり驚かないキルがただものじゃないと考えちゃっているかなあ」

キルの言葉を聞いたフィオナは視線を目の前の赤いドラゴンに向けた。
テオと呼ばれていた氷のドラゴンはそれまで暑かった空気を一気に極寒へと変え火山の中にいるという空気を感じることが出来なかった。

「ちょっと…何でこんな場所に呼んだはずなのに…あの氷のドラゴン…元気すぎない?」
「テオはただの召喚獣じゃないからね。とりあえず…。テオ!」

フィオナにしてはめずらしく声をあげた指示に対してテオと呼ばれるドラゴンは青く光るブレスを吐き、それに対抗するように赤いドラゴンも炎のブレスを吐きその温度差で爆発が起こった。

「うわ!こんな場所で派手にやりすぎだろ!」
「あんた…少しはシンを見習いなさいよ…」

爆風で大げさに騒ぐバードに呆れるカグヤが見せるように指さした。バードの目に入ったのは帽子に付けたゴーグルで砂埃を防ぎながら片手には銃を持ちいつでも次の行動がとれるようにしている姿だった。

「今はいいぞ。決着は着いたみたいだからな」
「いえ…どんな時も次の行動がとれるようにしないといけませんから…」

態度を変える様子がないシンに言葉を掛けたキルも笑みを浮かべ視線を上げると砂埃と共に次の瞬間に見えたのは氷の竜が溶岩に向けてブレスを放つ姿、そして倒れた赤いドラゴンを調べるフィオナの姿だった。

「溶岩は抑えたね。じゃあこの子も帰さないと…」

ドラゴンのことを調べ終えた様子のフィオナはドラゴンに向けて手を触れさせ反対の手で本を開くとドラゴンは光りと共に姿を消した。

「あのドラゴンも…召喚獣だったんですか?」
「多分…最も契約もされていないから使い捨てのつもりだったのかもね」

シンからの問いかけに答えたフィオナは上空を飛ぶ氷のドラゴンに視線を向けた。その様子に気付いたのかドラゴンはフィオナの横に下りて来た。

「しかし…こいつがいると…寒くないか…」
「何言っているのよ。おかげで噴火も抑えられたじゃないの」

火山なのにも関わらず体を震わせるバードとカグヤを見たフィオナは黙って笑みを浮かべ視線をドラゴンに向けた。数秒ほど視線を合わせてからフィオナの足元に魔法陣が現れ、それと共に氷のドラゴンは光りに包まれ姿を消した。それにより周りの温度は上昇し始めたがメンバーにとってはちょうどいいくらいの温度だった。

「フィオナさん…あなたは召喚師だったんですか?」
「うーん…正確には違うかな。本業は魔導士。テオは私の先生から譲り受けた召喚獣だよ」
「とりあえず話は後だ。いったん出るぞ」

シンに簡単に説明をしていくフィオナはいつもと変わらない調子でいつもの講義が始まり兼ねないことから話を中断させたキルは全員の状況を確認した。
結局戦闘をしていないカグヤとキルは全くの疲労もなくバード、シンも戦闘時間がそうでもなかったことから怪我も疲労も見えなかった。

「フィオナは平気なのか?」
「私?うーん…溶岩に入った時に少し魔力を消費したけど…問題はないかな」

ドラゴンの攻撃、溶岩に落ちたのにも拘らずフィオナは特に怪我をしている様子もなく疲れている様子もなかった。

「というか溶岩に落ちて何でそんなにピンピンしているんだよ?」
「魔法よ。具体的に言うと冷気の盾を全身に纏ったの。これで大抵のことは耐えられるの」
「そんな溶岩にも耐えられるような冷気を体に纏って大丈夫なのかよ?」
「平気だよ。自分の魔法で怪我しないようにするのは魔法使いが最初に学ぶことなんだよ」

バードへの説明が終わった辺りを見計らってキルは再び魔物が出てくる前にとこの場からの撤退を促した。もっともこの後にフィオナの講義が待っていると予測できたことからキルの足取りは他のメンバーに比べて重かった。

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「うーん…どこから話をした方がいいかな…」

役所に戻るとさっそくと話し合いが開催された。
部屋は如何にもお偉いさん達が使うような長い机、立派な椅子が設けられた部屋だった。今回は珍しくリンクもいたがその理由はバードの修行の成果の確認で恐らく明日からの修行が大変になるのは明らかだった。そして参加した理由はもう一つあった。

「バードの修行の一件はここまでですね…それともう一人…入ってきていいですよ」

リンクの言葉と共に開いた扉から入ってきた人物に俺はもちろんカグヤも驚いた様子だった。見覚えのある銀髪に腰に吊るした刀を持った少年、その姿は他人と間違えることなどできなかった。

「あんた!ジン!?何でここにいるのよ!」
「ひさしぶり!報告したいことがあってこの街に帰って来たんだ!」

久しぶりに見たジンは以前に見た時よりも大人びているように見えた。その様子を確認してからリンクはフィオナに軽く頭を下げてから部屋を出ていった。

「妹は見つかったのか?」
「まあな。それと俺の村のこともな…」

椅子に座りながらジンは何かを含むような口調を話していった。

「とりあえず話し合いの席のメンバーは揃ったことだから一つずつ話していきましょうか」
「とりあえず…フィオナ…お前が何者か…という話からだな」
「そうだね…どこから話せばいいかな…みんなは魔法学校を知っている?」
「噂くらいだな…」

仕事の関係で耳に入った情報の中にそういった話があったと思った。他のメンバーは知らないのか首を横に振ることで知らないことを伝えた。

「魔導士ならともかく一般には知られていないかな…」
「それはやはり魔法を学ぶ学校と認識していいですか?」
「そう。初級、中級が出来れば普通の魔導士。そして上級が最上級魔導士として扱われるの。上級を卒業しようとするとその頃にはお爺さんが普通だけどね」
「それをフィオナさんは卒業したわけですね」
「確か16歳で卒業したかなあ…」

最後の言葉には流石に全員が絶句した。自分達が考えていた以上に大物な人物であったことが一番大きかった。しかしそれ以上に驚く内容が続いた。

「でも最年少卒業者は14歳だよ」
「14歳!?もうそれは人間じゃないよな!」
「あんたは何でそんなに楽しそうなのよ…」

ジンの話ぶりにカグヤは呆れたようにしてため息をしフィオナも小さく口元を緩めた。

「ちなみに私とその子ともう一人がその代の首席卒業者だよ。相当異例な話だったみたい」
「そうだろうなあ…年によっては卒業者がいないくらいなんだろ?」
「バードさんには永遠に無縁な話になりそうですね」

バードやシンの様子に笑っている一同の中でフィオナはここで初めて表情を曇らせた。

「ここからが本番ね。テオはこの時に卒業祝いとして私に与えられた子なの。元々私はテオとその2人と一緒に競いお互いを高め合ったの」
「ライバルだったってことかぁ。そう言うのはいいよな」
「そうですね…張り合う相手がいるかいないかではやはり違います」

相変わらず表情を曇らせたままのフィオナの様子や話を聞いていき嫌な予感が俺の中で芽生えた。その経歴に思い当たる人物がいたからだ。

「その二人の名前はレミ、リオン。二人は私と違って完全な魔道士タイプじゃなかったの。レミは双剣、リオンは大剣の使い手でもあったわ」
「ちょっと待ってよ!それって…」
「あなた達の会った白騎士でまず間違えないよ。報告の特徴も一致するしね。私とリオンはそうでもないけどレミは召喚師としても優秀だったからいろいろ呼び出せたの」

カグヤの言葉はこの場の何人かの代弁でもあった。大方予測が付いていた俺にとってはそういった経歴があったことの方が驚いてしまった。

「そいつらだったら俺も会ったぞ?リーネが白騎士って呼んでいたから間違えないぞ」

ジンの言葉でその場にいた全員が黙り込んでしまった。正直俺も驚いてしまったのもある。

「あんた!リーネに会ったの!?」
「ああ…結構前に…。まさかあんなに強くなっていると思わなかったな」
「そんなことはどうでもいいわよ!元気そうだったか聞きたいの!」
「く…苦しい…」

襟を掴みぐいぐいと締め上げるカグヤにジンは机を叩いて助けを求め、シンが宥めることでその場が収め改まり、ジンがここに到着するまでの過程を話した。ジンが立ち寄った村に偶然いたリーネとそこでの戦い、その後見つかった妹の話。そして滅ぼされてしまった自分の村の話を…。

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「この刀が俺の村に伝わった宝だ…。多分俺の村が狙われたのはこいつが原因だが詳細は分からない」
「詳細は俺が話す…」

キルの言葉にその場にいた全員の視線が集まった。

「キル…お前が関わっていたのか?」
「その任務には俺も参加していた…そうじゃないかと思っていたが今の話でハッキリした…」
「話してくれていいかな?キルが知っていること」
「ああ…特に弁明をするつもりもない…あったことをすべて話す…」

そんな状況でもフィオナは笑みを浮かべたままだった。一度ため息をしてからキルはその時にあったことを話し始めた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.59 )
日時: 2014/11/03 16:16
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第21話
俺が組織に入ったのはいつか分からなかった。物心ついた時には組織の中で暗殺術や銃器の扱い、大人達に混じっての訓練を行っていた。元々の素質があったのか特に意識もしないうちに実力は高くなって仕事もこなすようになり、組織内ですら一部を除いた人間に恐れられるようになった頃だった。

「村の殲滅?」
「そうだ。あの村の人間は危険な人種でな。必ずこの組織の危険分子になる。お前には俺とNと共にその村の殲滅に参加してもらう」

当時の俺にとってはごく当り前ないつものことと考えていたことからJから言われた任務に何の疑問も感じることなく参加した。

任務と言う名の一方的な殲滅…正しくは虐殺が行われたのはそれから3日後のことだった。
Nは任務と言うことからか人物を問わずに無表情で斬り伏せていった。そんな横でJは笑いながら村人たちを焼き払い続けていた。正直こんな中で任務に集中できるほど俺も人間が出来ていなかった。

「これでいいな。K、N。残党の殲滅は任せるぞ。面白い素体が手に入ったからな」
「分かった…じゃあ残りは僕とKがやっておくよ」

辺りは燃えてきつい臭いが漂っていた。無抵抗な人間に対して平気でここまでできるJとNには正直感嘆してしまった。もちろん褒めているわけではない。

「結構しぶといんだね…」

Nの言葉からまた一人誰かが殺されたことが理解できた。もうこの村は全滅だろうと考えた時俺の目に虫の息だが生きていた子供が目に付いた。そして俺のJやNに対しての反発心からその子供の元まで移動して話をしながら一発の銃弾を放った。

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「銃弾?じゃあキルはその子供を撃ったんですか?」
「ああ…ただし撃ったのはただの銃弾じゃないけどな」

キルの話を聞いていたシンはキルから出た言葉に疑問を感じて問いかけると懐から一発の銃弾を取りだした。その銃弾は銀色に輝いており見たことがない銃弾にその場の全員の視線が集まった。

「それ…銀弾シルバーバレッド?私も初めて見たよ…」
「知っている奴がいるとは思わなかったな」

それが何かを理解できた反応を見せるフィオナをに視線を向けたキルは笑みを浮かべてから銃弾をしまった。

「この銃弾は俺が持っている最後の一発だ。作れるのは特別な錬金術師だけと言われる代物だ」
「そんな銃弾をジンに撃つことでどうなるのよ?」
「効果は回復と力の覚醒の2つだ。最も撃たれてからしばらく眠りにつく上に後者に関しては殆ど症例がないらしいがな」

キルの話を聞いてからジンは以前にあった戦いを思い出した。それは骨の体を持つドラゴンとの戦いの際に自分に起きた体の変化。

————あの力が…もしかして…村が狙われた理由…

ジンが頭の中で考えてから視線をキルに向けた。キルの表情は無表情ではあるがやや暗くなっているように見えた。そんな様子にジンは黙っていられなくなり立ち上がった。

「キル。一つだけ頼んでいいか?」
「何だ?」
「組み手の相手になってくれないか?」
「いいぞ。ここの広場を使うか…。空いているだろ?」
「えっと…広場は…空いているね。問題ないよ」

ジンの言葉にキルは特に拒否をする様子もなく役所にある広場の空き状況をフィオナに確認した。すぐにフィオナは施設の空き状況を確認していくと問題がないことを伝えた。

「じゃあすぐに始められそうだな。最後に会ったのが1年以上前だったな」
「あの時よりも強くなっているから覚悟しろよ?」

広場に向かいながらジンは祭りに行く前のように楽しげでキルも以前のように表情が緩んだ様子になっており以前から2人を知るカグヤは無意識のまま笑みを浮かべていた。

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「ルールはどうする?」
「キル相手じゃハンデはやれないから…先に一撃を入れた方が勝ちでどうだ?」
「場合によってはすぐに終わるルールだな」
「ああ…俺の勝ちでな」

ルールを確認する二人は広場に着くと10メートル程の距離に立ち、キルは銃を抜いて銃弾を入れ直し始めた。一方でジンは腰に掛けていた刀を手に持ち居合の構えのままキルに視線を向けた。そんな様子を残りのメンバーは観戦することになった。

「前に会った時も気になったがその刀…普通の刀じゃやないだろ?」
「これは俺の村というよりは俺の家に伝わっていた刀だ。結構な業物って聞いているな」
「さっきの話だが一つだけ抜けているところがあった。お前の村が襲われた理由はその刀もある」

キルの言葉にジンは自分が持っている刀に視線を向けた。同時に以前やLと会った時に聞いた話を思い出していた。

———あの時もLは俺の刀を見ていた…何で…

刀を見たままのジンを前にキルは銃弾を込め終わりジンの様子を見ていた。小さくため息を漏らしてからキルは視線を刀からジンに向けた。

「俺の効く限りだとその刀は所謂妖刀って奴だ。持ち主に大きな力を与える代わりにその刀がその持ち主を操る危険な刀だった…」
「だった?どういうことだよ?」
「そういうのは俺よりも専門家の方が詳しいだろ?」

ジンの言葉に対してキルは視線を離れた位置にいるフィオナに向けた。その話の流れからフィオナはジンについて理解した様子で彼女にしては珍しく慌てた様子で手に持っていた本をすぐに開き始めた。

「そんな…まさかジンくんって…デスペラー?」
「なんですかそれ?」
「主に解呪が得意とする人たち。魔法の解除もできるらしいけどもうそんな術者はいないと思っていたよ…」

フィオナの話を聞いていき他のメンバーも視線をジンに向けたがそのジンも知らなかったようで自分が握っている刀に視線を向けていた。

「ジンというよりはその親族がそうだったんだろうな。それでその刀も妖刀でありながら暴走しないでいるのかもな」
「つまり…この刀が危険じゃなくなったから狙われたのか?」
「詳しくは分からないが恐らくな…だからこそお前の力を見ておく必要があるんだ。そんな刀と力を持ったお前のな…」

話が終わったとばかりに銃を構えたキルに対してジンは刀を握りしめてそのまま瞳を閉じた。

「この力はみんながくれたものでもあるんだよな…だったら…みんなのために…そして俺自身のために使わないとな!」

瞳を開いたジンは楽しそうな表情のまま刀を再び構え直した。先ほどよりも自然体で一件変わっていないようにも見えるその構えだったが先とは違うところをキルは見抜いていた。

「さっきのままならすぐに終わったが…今は難しそうだ」
「悪いけど本気で行くから怪我するなよ?」

刀が光始める様子に気付いた他のメンバーもすでに組み手というレベルではないことが分かり数歩その場から下がった。

「おいおい…これ…組み手なんだよな?」
「もう忘れているんじゃない?いざという時はフィオ姉が止めるわよ」
「あはは…止められるかな…」

フィオナの苦笑いを見てただ事ではないことが3人には理解できシンに至ってはその戦いを見逃さないようにと視線を向かいあうジンとキルに向けていた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.60 )
日時: 2014/11/07 16:17
名前: 鮭 (ID: BOBXw5Wb)

第22話

「じゃあ行くぞキル!」

その言葉と共に飛び込んで来たジンは刀を鞘に納めたまま居合いに来るのかと思うと柄から手を離しそのまま鞘で逆手のまま横薙ぎをしてくる動きが見えた。相変わらず身動きが分かりにくい攻撃に咄嗟に銃で鞘を受け止めるとジンはすぐに反対の手で柄を握り刀を抜き、青く輝いた刀身が俺に向かってくる感覚を感じるとすぐに地面を蹴り距離を取った。

「あの咄嗟の抜き打ちでもしっかり峰打ちなんだな?」
「そう言いながらしっかり俺の二段構えを避けているだろ」

再び刀を鞘に納めるジンの動きを確認するとすぐに銃を構え2発の弾丸を放った。狙いは右足と左肩。同時に防ぐのが困難な位置のはずだったがジンは右足を引き、左肩を狙った銃弾を鞘に納めた刀を振り上げて弾くことで2つの銃弾を防いだ。

「銃弾を見切るくらいの動体視力はあるようだな」
「まあ半分は勘でもあるけどな。じゃあそろそろ本気で動くからな?」

ジンが地面を数回蹴る様子を確認した時動きが変わった。緩急を付けながら不規則にステップしながら近づいてくるその姿は常人には逆にスローモーションに見えていそうだ。

「おもしろい動きだ…前に見た時よりも…面倒そうだ」

言葉と共に銃を構えた俺は不規則な動きをするジンに対して銃弾を放った。その瞬間ジンの動きが変わった。不規則に動いていたのが一転して俺が見失いそうになるほどの速度で飛び込みそれと共に居合抜きの動作までの動きが見えた。

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————もらった!

銃弾を避けて完全に意表を突いたと確信したジンが次の瞬間に見たのは自分の眼前に向けられていた銃口だった。咄嗟に刀を止めてバックステップで距離を取るジンには照準がずれることなく銃口が向けられておりそのまま2発の銃弾が放たれるのが見えた。

「おわ!!あぶねえ…」

放たれた銃弾を刀で撃ち落としていきながらバランスを崩し転んだジンはすぐにキルに視線を向けると銃弾を込めながら走ってくる キルの姿が見えた。

「くっ…!」

そのままの勢いで放たれた蹴りを鞘で受け止めるも予想以上の威力にそのまま吹き飛んだ。そんな中でもシンはキルからの次の攻撃に警戒を緩めずにすぐに立ち上がった。

「あぶねえ…スナイパーの蹴りじゃねえぞ…」
「専門家には勝てないがそれなりに前衛もできるつもりだからな」

すでに銃弾を込め終わっているにも関わらず追撃をして来ないキルにジンは笑みを浮かべて鞘い納めたままの刀を引き抜き鞘も刀のように握り構えた。

「なあキル…俺はまだ強くなれると思うか?」
「そうだな…まだお前自身は俺の銃弾の効果が表れていないみたいだしな」
「じゃあ今の俺を全部ぶつけてやるよ」

地面を蹴り飛びかかってきたジンの動きをキルは見逃さないように見つめた。振り下ろされてくる鞘、その一撃を避けるか受け止めるかで軌道を変えるつもりであろう刀の動きを…。

「悪いが…ここまでだな…」

振り下ろされてきた鞘を後ろに下がって避けたキルはそのまま銃弾をジンに向けた。当然その動作が見えていたジンはこの後に撃たれるだろうと考えていた銃弾を避けようと頭で考えていた。

————ここを避ければ勝てる!

一瞬の油断だった。ジンが次の瞬間見たのは一瞬で放たれる4発の弾丸だった。2発と予測していたジンはすぐに刀で3発の銃弾を刀で斬り落とせたが1発の銃弾だけ見失ってしまった。

————外した!?

ジンがそう考えたのとほぼ同時に背中に衝撃を感じた。まったくの無警戒な位置からの衝撃にそのまま重力に任せるように前のめりに倒れた。

「実弾じゃないから平気かと思ったが…大丈夫か?」
「いてて…なんとか…平気だ…」

ゆっくりと体を起こしそのまま地面に座りこむとそれまで観戦していたメンバーも集まってきた。

「あんた…なんかめちゃくちゃ強くなっていない?追いついたつもりがまた離されたわよ…」
「まあカグヤには負けていられないからな」
「何よそれ!」

露骨におもしろくなさそうに話すカグヤに対して背中を摩りながら笑うジンの姿はよりカグヤの逆鱗を刺激したらしく、遠慮なく蹴り放つとそれをなんなく避けたジンはそのままカグヤから距離を取った。

「キル…最後の銃弾はなんですか?何か特殊な弾丸ですか?」
「そんなものじゃない。ただの兆弾だ」

呑気な二人に対してシンはキルの最後の一撃について確認していた。シンの言葉に答えたキルは役所の壁と役所の周りを囲んでいる壁を指さしていき弾丸の反射角度を説明していた。

「どうしたんだフィオナ?一人でニコニコして?」
「そう言うバードくんも笑っているよ?」
「ああ…なんかこのメンバーなら誰が来ても大丈夫な気がしてな」
「そうだね。私もそう思っていたの。やれることは全部やったからね」

いつの間にか夕暮れになっていた空を見上げてフィオナはすべてが終わった後のことを考えていた。当然無事に終わるようなものではないことは分かっていた。それでも充実したこの時間をこれからも送りたい。それが彼女の願いだった。

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————おい…いい加減起きろ。

頭の中に大きく響く…だけど不快に感じない声が聞こえた。瞳を開けば目に付いたのはなんの飾りつけもないうす暗くて部屋が目に付く。ベッドから体を起こすと次に見えるのは机といつも身につけている白銀の軽装な鎧と双剣。いつものことのようにシャワーを浴びて着替えを済ませてから装備を身に付けた頃には起きてから1時間は経過していた。

「準備は完了。行くよリオン」
————ああ…今日の会議はレミでいいのか?

頭に聞こえて来た声に対して私は特に答えることもなく扉を開いた。この部屋から出た時、私はレミからLになる。それが私とリオンが選んだ道だから…。


既定の部屋に到着して中に入ると黒いローブに身を包んだIが壁際に立っていた。この間聞いた声と背丈から女の子なのは間違えないと思うけどRやリーネちゃんみたいに可愛いとは思わない。椅子にはNが座っていてその後ろには壁に寄りかかる形でGが立っていた。NはともかくこのGは正直不気味。Jが突然連れて来た奴だから詳細もよく分からない。

「何?Jはまだ来ていないわけ?」
「そろそろ来るよ。時間にはうるさいからね」

椅子に座りながら悪態を付いているとNが答えた。最も今この部屋にいてまともな会話が出来るのはこいつくらいだけど。

「遅くなった…Jはまだ来ていないんだ…」
「あっ!R!会いたかったよ!」

笑顔で手を振るも相変わらずRは特に表情も変える訳でもなくただ頷いてドアの近くの壁に寄りかかった。Rは普段はクールだけどライバル視しているKに対しては感情を表に出すことがあるからここにいる人たちで一番好感が持てる。正直他の連中は裏で何を考えているか分からない。

「遅くなった。全員そろっているな」
「遅い…何して…って…誰それ?」

ようやく来たJにここぞと文句を言おうとしているとJに続いて入ってきた人物が目に付いた。茶髪で長髪。黒いマントで体を覆っていて年齢的にも幼そうに見えた。背丈もRより少し大きいくらいだから10代半ばくらいと推定できた。

「もしかしてまた新人?この間みたいな不作じゃないわよね?」
「おいL!」
「いいよ。彼女は…いや…君とI以外は僕を知らないからね」

落ち着いた口調の彼はゆっくりとした足取りでいつもはJが座る位置に向かっていった。すれ違い様にIも無言で小さなお辞儀をした。

「さて…ここにいる何人かは初めましてだね…僕はZ。この組織のトップだよ」
「あんたがZ!?」

他のメンバーも同様に驚いているようだったけど私がその言葉を代弁する形になってしまった。IやJの態度の違いはこれが原因だったんだと思いながらも私には信じられるものではなかった。

「みんなが信じないのは仕方ないね。でも事実だから仕方ないよね」

まったく覇気も感じなければ強さも感じない。今斬りかかれば簡単に仕留められそうな気がするくらいだった。

「やってみるかい?L…」
「えっ?」

にこやかに私に視線を向けて来た彼に私は寒気を感じた。そうしてようやく彼に対する違和感の正体に気付いた。Jのように見ただけで強い感じるわけでもなければRのようにさっきを感じるわけでもない。何も感じられないんだ…。

「えっと…あの…」
「気にしなくていいよ。みんなも同じみたいだったからね」

彼は弱い人とは違った。力の根源がまったくないんだ…。言葉さえも失いかけた私はそのまま黙って席に着くことしかできなかった。

「さあ…始めようか?今から始めるお祭りの話し合いを…」

とても任務のための会議を行うとは思えない口調でZは席に座り会議は始まったのだった。


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